(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
まず、病院500内に構築される医療支援システム1の概要について説明する。
図1には、医療支援システム1の概念図を示している。
【0013】
医療支援システム1は、自律飛行可能な無人航空機100と、無人航空機100へ送信指令を送信する情報端末装置200と、無人航空機100および情報端末装置200との間でデータの送受信を行う管理サーバ300と、を有している。
【0014】
無人航空機100は、空中を飛行して、所望の目的場所へ移動する飛行装置である。無人航空機100は、CPUによる演算処理機能と、図示省略する基地局等を介して情報端末装置200や管理サーバ300との間で無線通信を行う機能と、を有している。
【0015】
無人航空機100は、情報端末装置200を通じて医療従事者A1が指定する医療支援作業の入力を受け付ける。無人航空機100は、医療支援作業の入力を受け付けると、他者(例えば、他の医療従事者)B1と協働して医療業務に関連した各種作業を実施したり、他者(例えば、入院患者)B1に医療サービスを提供したりする。なお、無人航空機100が実行する医療支援作業の詳細については後述する。
【0016】
情報端末装置200は、医療従事者A1に携帯される端末装置である。情報端末装置200は、例えば、CPUによる演算処理機能を有する携帯型端末装置(スマートフォンや、通話機能を有さない携帯型の通信機等)で構成することができる。
【0017】
情報端末装置200は、図示省略する基地局等を介して無人航空機100および管理サーバ300との間で無線通信を行う機能と、無人航空機100による医療支援作業の実行に際して起動されるアプリケーションを実行する機能と、静止画および/または動画を撮像する撮像機能と、自機の位置を検出するGPS機能と、を搭載している。
【0018】
無人航空機100の通信方式および情報端末装置200の通信方式としては、例えば、CDMA方式、FDMA方式、TDMA方式、W−CDMAの他、PHS(Personal Handyphone System)方式等が挙げられる。また、無人航空機100および情報端末装置200には、無線インターフェースとして、無線LANの規格に準じたIPパケットによる通信方式に対応した機能を備えさせることも可能である。
【0019】
管理サーバ300は、システム全体を管理するサーバ装置であり、無人航空機100の管理、無人航空機100を利用するユーザーの情報管理、データ収集管理などを行う。
【0020】
管理サーバ300は、無線通信ネットワークを介して無人航空機100および情報端末装置200と接続している。管理サーバ300は、Webサーバとしての機能を含んでおり、WWW(World Wide Web)等の公知のシステムにより、HTMLデータ、画像データ、音声データ、音楽データなどの送受信と、各データの蓄積を行う。これらの各データは、情報端末装置200上で実行されるアプリケーションを通じた要求に応じて管理サーバ300から無人航空機100へ配信することができる。
【0021】
無人航空機100と管理サーバ300との間のデータの送受信、および情報端末装置200と管理サーバ300との間のデータの送受信は、所定の中継装置(モデム、ターミナルアダプタ、ゲートウェイ装置等)を介してネットワーク接続される通信ネットワークを通じて行ってもよい。この通信ネットワークとして、例えば、管理サーバ300の設置場所として選択される病院内に構築される分散型の通信ネットワークを利用することが可能である。分散型の通信ネットワークは、例えば、通信プロトコルTCP/IPを用いて種々の通信回線(電話回線、ISDN回線、ADSL回線、光回線などの公衆回線、専用回線等)を相互に接続して構築することができる。
【0022】
次に、
図2を参照して、無人航空機100の各部の構成について説明する。
図2(A)には無人航空機100の斜視図を示しており、
図2(B)には無人航空機100の正面図を示している。
【0023】
図2(A)および
図2(B)に示すように、無人航空機100は、本体部110と、本体部110に付設された上部筐体120と、を有している。
【0024】
本体部110は、画像を表示可能な表示部111と、音声や音楽を含む音を出力可能なスピーカー113と、表示部111の表示内容の切り替えやスピーカー113の音量等を調整する際に操作される各種の操作ボタン115と、搬送対象となる物品等を保持するための荷受部117と、静止画や動画を撮像可能な撮像部119と、を有している。
【0025】
表示部111は、液晶ディスプレイで構成することができる。ただし、表示部111は静電容量方式のタッチパネル等により構成することも可能である。スピーカー113は、例えば、音声や音楽の出力に用いられる公知の音響スピーカーにより構成することができる。撮像部119は、例えば、静止画や動画の撮像に用いられる公知のデジタルスチルカメラやビデオカメラにより構成することができる。
【0026】
また、本体部110には、図示省略する駆動部150と、検出部160と、位置情報取得部170と、送受信部190と、を設けている(
図3(A)を参照)。
【0027】
駆動部150は、上部筐体120に設けられた各回転翼121a、121b、121c、121dに回転駆動力を付与するための装置であり、例えば、電気モータ、駆動アクチュエータ、各種のギヤ群などにより構成することができる。
【0028】
検出部160は、無人航空機100の高度、速度、移動方向、障害物との間の距離等の各種情報を取得するために設けられている。検出部160は、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ、磁気センサ、障害物を検知するレーダーセンサ等を適宜組み合わせて構成することができる。
【0029】
位置情報取得部170は、無人航空機100の現在位置を取得するモジュールである。位置情報取得部170には、例えば、GPS機能や、無線基地局からの信号強度などの情報から現在位置を割り出す機能が備えられる。
【0030】
無人航空機100は、位置情報取得部170が取得した情報に基づいて、飛行中に所定の施設内に近付いた際、その旨を報知する機能や、そのような施設に近付くルートでの飛行を不能にしたり、迂回するルートを経由して飛行を行うようにルート選定を行ったりする「施設回避機能」を有している。報知する方法としては、例えば、表示部111やスピーカー113等を通じて行うアラーム報知を採用することができる。また、飛行を不能にする動作制御や迂回するルートの選定は、制御部130が実行する医療支援動作プログラム内の動作処理の一つとして予め組み込むことができる。なお、上記の施設としては、日本国内の場合、例えば、日本国首相の官邸、中央省庁、原子力発電所などの重要施設が挙げられる。無人航空機100は、例えば、上記の施設の周囲の所定範囲(例えば、300m〜1000m以内の範囲、特に300mの範囲など)に侵入した場合、施設回避機能を実行するように構成できる。
【0031】
送受信部190は、無線通信ネットワークを介したデータの無線通信を行う。また、送受信部190は、医療従事者A1が指定する医療支援作業の入力を受け付ける受付部としての機能を有している。送受信部190は、例えば、Wifi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等の無線通信機能も備えたモジュールにより構成することが可能である。ただし、通信方式は上記の無線通信方式に限定されることはなく、例えば、その他の非接触式の近距離式無線通信や有線通信を採用してもよい。
【0032】
上部筐体120には、当該上部筐体120の四隅に配置された4つの回転翼121a、121b、121c、121dを設けている。無人航空機100は、各回転翼121a、121b、121c、121dを回転駆動して揚力を発生させることにより、垂直方向への移動、水平方向への移動、空中に一定時間留まるホバリング等を実施する。
【0033】
無人航空機100は、後述するように、医療支援作業を実行していない待機状態においては病院500内の待機室R1内で待機する(
図6を参照)。例えば、待機室R1内に無人航空機100が着陸可能な充電台を設置することが可能である。待機室R1に充電台を設置することにより、無人航空機100を待機させている間に充電台に着陸させて、有線方式や無線方式による充電を行わせることが可能になる。
【0034】
無人航空機100の各部の構成(構成部材のレイアウト、寸法、色、外観デザイン等)や、無人航空機100の各部の構成材料等は、無人航空機100による医療支援作業が実行可能な限りにおいて特に限定されない。例えば、無人航空機100は、各回転翼121a、121b、121c、121dの周囲に枠材を設置して他の部材との接触を防止するように構成したり、荷受部117に物品を把持可能なアームを設けたり、本体部110の正面だけではなく側面等にも表示部111やスピーカー113等を配置したりしてもよい。
【0035】
次に、
図3(A)を参照して、無人航空機100の内部構造について説明する。
図3(A)には、無人航空機100の内部構造を概略的に示すブロック図を示している。
【0036】
図3(A)に示すように、無人航空機100は、当該無人航空機100の動作を統括的に制御する制御部130を有している。制御部130は、演算処理を行うCPUと、医療支援動作プログラムを格納したROMと、各種データを記憶するためのRAM(記憶部に相当する)と、画像データや音データを格納したEEPROMと、を有している。
【0037】
制御部130は、ROMに格納された医療支援動作プログラムを実行することにより、表示部111およびスピーカー113の出力内容を制御する出力制御部131と、駆動部150を制御する駆動制御部132と、撮像部119を制御する撮像制御部133として機能する。
【0038】
出力制御部131は、医療支援動作プログラムに基づいて、静止画や動画等の所定の画像を表示部111上に出力する制御と、音声や音楽等の音をスピーカー113により出力する制御を行う。表示部111上に出力する画像やスピーカー113により出力される音は、医療従事者A1が指定した医療支援作業の内容に応じたものが適宜出力される。
【0039】
駆動制御部132は、無人航空機100の位置情報に基づいて自機の移動制御を行う。駆動制御部132の制御対象には、無人航空機100の移動時の高度や速度、医療従事者A1の滞在場所から目的地に到着するまでの移動経路(医療支援作業を実行する医療現場へ向かう移動経路)が含まれる。なお、移動経路は、無人航空機100による医療支援作業が実行される前に、RAMにおいて予め記憶されており、医療支援動作プログラムを実行させることにより読み込まれる。駆動制御部132は、読み込んだ内容に基づいて無人航空機100の移動経路を教示する。
【0040】
RAMは、無人航空機100の利用用途に応じた複数の移動経路を記憶するこができる。例えば、移動経路には、「病院内の異なる場所を移動する移動経路」、「異なる薬局間を移動する移動経路」、および「病院もしくは薬局と在宅医療患者の滞在場所との間を移動する移動経路」のうちの少なくとも一つを含めることができる。無人航空機100が病院内のみで利用される場合、RAMには、上記の「病院内の異なる場所を移動する移動経路」のみを記憶させることができる。また、病院内外で無人航空機100を利用する場合、RAMには、上記の移動経路のうちの任意の複数のもの、また上記に例示した以外の移動経路等を記憶させることができる。
【0041】
撮像制御部133は、レンズ、シャッター、絞り、フォーカス、ズーム等といった撮像部119に備えられる各構成部材の制御を行う。撮像制御部133は、例えば、レンズ方向(レンズの向き)の変更や、レンズ方向を変更させずに、無人航空機100の姿勢を変更させて視野角を調整するといった制御を行う。
【0042】
医療支援動作プログラムに基づいて無人航空機100が実行する医療支援作業には、例えば、「医療従事者同士の情報伝達」、「医療従事者と当該医療従事者から医療サービスの提供を受ける被提供者との間での情報伝達」、「物品の搬送」、および「患者の動作補助」のうちの少なくとも一つを含めることができる。
【0043】
上記の「医療従事者同士の情報伝達」としては、例えば、医師から看護師への指示の伝達、看護士から医師への報告作業、医師同士の報告作業、薬剤師間で行われる調剤の鑑別業務、医師から薬剤師への指示の伝達等が挙げられる。
【0044】
また、上記の「医療従事者と当該医療従事者から医療サービスの提供を受ける被提供者との間での情報伝達」としては、例えば、医師による患者の診察、医師から患者への診察結果の報告、薬剤師による薬剤管理指導業務等が挙げられる。
【0045】
また、上記の「物品の搬送」としては、例えば、病院内の部屋間における医療用物品(医療器機、薬剤、カルテ、検査で取得した各種データを記憶したCD/DVD等の記憶媒体等)の搬送、薬剤師から患者への薬剤の搬送、薬局から在宅医療患者への薬剤の搬送等が挙げられる。
【0046】
また、上記の「患者の動作補助」としては、例えば、患者の歩行動作の補助、ベッドから患者が起き上がる動作の補助、ベッドに患者が座るまたは横たわる動作の補助、車椅子から患者が立ち上がる動作の補助、車椅子に患者が座る動作の補助等が挙げられる。
【0047】
なお、無人航空機100が実行する医療支援作業は、医療従事者A1が本来行うべき作業や業務に相当するものであればどのような内容のものであってもよく、具体的な作業内容が上記に例示したものに限定されることはない。また、医療従事者A1としては、例えば、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、介護士、医療事務員等を挙げることができるが、これらに限定されるものでなく、例えば、医療施設へ医療消耗品等の物資の供給を行うSPD(Speed Processing Distribution)業務を実行する作業員や、ボランティア職員等であってもよい。
【0048】
次に、
図3(B)を参照して、情報端末装置200の内部構造について説明する。
図3(B)には、情報端末装置200の内部構造を概略的に示すブロック図を示している。
【0049】
図3(B)に示すように、情報端末装置200は、当該情報端末装置200の動作を統括的に制御する制御部230と、出力インターフェース240と、入力インターフェース280と、送受信部290と、を有している。なお、
図3(B)中において撮像部等の一部の構成については図示を省略している。
【0050】
制御部230は、演算処理を行うCPUと、所定のアプリケーションを格納したROMと、各種データを記憶するためのRAMと、画像データや音データを格納したEEPROMと、を有している。
【0051】
出力インターフェース240は、例えば、画像等を表示可能な表示部および音声や音楽を含む音を出力可能なスピーカーにより構成することができる。表示部およびスピーカーは、例えば、無人航空機100に設けられるものと同様に構成することができる。
【0052】
入力インターフェース280は、画像を表示可能な表示部としての機能も備える静電容量方式のタッチパネルによって構成することができる。ただし、入力インターフェース280は、ユーザー操作を入力可能にする操作ボタンや音声入力が可能なマイクロフォン等により構成することも可能である。
【0053】
送受信部290は、無線通信ネットワークを介したデータの送受信や、無人航空機100への送信指令の送信を行う。送受信部290は、例えば、無人航空機100に設けられる無線モジュールと同様に構成することができる。
【0054】
制御部230は、医療支援アプリケーションを実行するアプリケーション実行部231としての機能を有している。医療支援アプリケーションは、例えば、一般的なOSやブラウザソフトなどで構成することができる。
【0055】
無人航空機100に医療支援作業を実行させる場合、医療従事者A1は、情報端末装置200を操作して、情報端末装置200上で医療支援アプリケーションを起動させる。医療従事者A1は、情報端末装置200を操作して、無人航空機100に実行させる医療支援作業を選択する。情報端末装置200は、無線通信ネットワークを通じて、無人航空機100へ医療従事者A1の選択結果を送信指令として送信する。無人航空機100は、送受信部(受付部)190を介して送信指令を受信して、作業内容を受け付ける。無人航空機100は、作業内容を受け付けた後、選択された作業内容に応じた医療支援作業を実行する。
【0056】
図4(A)および
図4(B)には、情報端末装置200の出力IF(表示部)240上に表示される選択画面を例示している。
【0057】
情報端末装置200上で医療支援アプリケーションを起動させると、
図4(A)に示す「移動先の選択画面」が表示される。移動先の選択画面には、例えば、病院500内の部屋名と部屋の滞在者名が表示される。医療従事者A1は、この選択画面上で、無人航空機100の移動先と対象者を確認し、希望する内容を選択する。選択は、入力IF(表示部上のタッチパネル機能)280を利用して行うことができる。
【0058】
医療支援アプリケーションでは、例えば、医療支援作業の対象者が存在しない部屋を非表示にしたり、一つの部屋内において複数の対象者が存在する場合はその対象者全員を表示したりしてもよい。
【0059】
医療支援アプリケーション上において移動先を選択すると、
図4(B)に示す「作業の選択画面」が表示される。医療従事者A1は、この選択画面上で、無人航空機100に実行させる作業内容を選択する。
【0060】
医療支援アプリケーションでは、例えば、移動先の選択画面で選択した対象者に対して提供できない作業内容を非表示にしたり、提供できない作業内容の入力を受け付けないように制限したりしてもよい。
【0061】
医療従事者A1が作業内容を選択すると、医療支援アプリケーションは、さらに別の医療支援作業を実行するか否かを確認するための確認画面を表示させる。医療従事者A1がさらに別の医療支援作業を実行する旨の入力を行うと、医療支援アプリケーションは、
図4(A)に示す「移動先の選択画面」を再度表示させて移動先の選択を受け付ける。また、別の医療支援作業を実行しない場合、医療支援アプリケーションは、その旨を受け付けた後、入力の受付を完了する。
【0062】
医療従事者A1が移動先を選択し、さらに作業内容を選択した場合、選択した順番に従って無人航空機100の医療支援作業が連続して実行される。
【0063】
移動先に関する情報の更新、滞在者(被支援者)に関する情報の更新、医療支援アプリケーションの更新等は、例えば、管理サーバ300を介して定期に、または不定期に実施することができる。また、例えば、対象者の滞在場所が変更した場合や、対象者に対して提供可能な医療支援作業が変更した場合は、その変更内容に応じて医療支援アプリケーションの各選択画面の表示内容を変更するように更新することができる。
【0064】
なお、
図4(A)および
図4(B)に示す選択画面や、アプリケーションの実行内容等は一例に過ぎず、適宜変更することが可能である。
【0065】
次に、本実施形態に係る無人航空機100が実行可能な作業内容について説明する。無人航空機100は、
図4(B)に示す4つの作業内容を実行可能に構成している。
【0066】
「調剤確認」は、薬剤師が行う調剤業務全体を通して発生する過誤を防ぐことを目的に行われる作業である。例えば、薬剤師が行う業務として鑑査がある。鑑査は、薬剤を調剤(調製)した薬剤師とは別の薬剤師により行われ、調剤内容等に過誤が無いかを判断する業務である。また、調剤した薬剤師の経験等が浅い場合、調剤内容に過誤が無いか別の薬剤師によるチェックが行われることもある。「調剤確認」には、薬剤師が行うべきこれらの確認作業が含まれる。調剤された薬剤を確認する場合、調剤した本人以外の別の薬剤師の関与が必要になるため、複数人の薬剤師を人員として確保しなければならない。調剤した薬剤師の周囲に別の薬剤師がいない場合や、繁忙期等の事情により別の薬剤師に時間的な余裕が無い場合などにおいても、無人航空機100を利用することにより、調剤確認を円滑かつ迅速に実施することが可能になる。
【0067】
「薬剤管理指導」は、入院患者の薬歴管理と入院患者への服薬指導を介して患者の薬物療法への認識を向上させる支援業務である。この業務は、通常、薬剤師が入院患者とフェイストゥフェイスで行う。このため、薬剤師は、入院患者が滞在する病棟等へ直接赴き、説明のための時間を費やさざるを得ない。例えば、薬剤師に時間的な余裕が無く、十分な時間を確保し難い場合、患者の下へ直接赴いて説明する時間を捻出することができないこともある。無人航空機100を利用することにより、場所的な制約による時間の浪費を抑えることができるため、薬剤師が薬剤管理指導に費やす時間を確保することが可能になる。
【0068】
無人航空機100は、「調剤確認」および「薬剤管理指導」を実行する際、表示部111に所定の表示画像111aを表示して(
図2(A)および
図2(B)を参照)、報告や説明を行う。この際、無人航空機100は、予め保存された画像(静止画および/または動画)を出力してもよいし、情報端末装置200の送受信部290を通じて医療従事者A1の画像や音声をリアルタイムに出力してもよい。
【0069】
「物品の搬送」は、薬剤、医療器具、カルテ等の物品410の搬送を補助する作業である(
図7を参照)。無人航空機100を利用して病院500内の異なる部屋間において物品410を搬送することにより、看護士等の作業負担を軽減することが可能になる。なお、搬送作業の具体例として、例えば、入院患者の持参薬を当該入院患者に届ける作業、服薬期限が近い薬剤を入院患者に届ける作業、患者から不要な薬剤を回収する作業などが挙げられる。
【0070】
なお、「物品の搬送」は、他の作業内容と重複して実行させることが可能であるため、例えば、前述した医療支援アプリケーション上において他の作業と重複して入力を受け付けるようにしてもよい。
【0071】
「患者の動作補助」は、例えば、点滴中の患者Cの歩行を補助する作業である(
図8を参照)。無人航空機100に点滴バッグ420を保持させつつ、患者Cの歩行に合わせて無人航空機100を移動させることにより、点滴スタンドなどを携帯させずに患者Cをトイレ540等へ案内することが可能になる。無人航空機100は、空中を浮遊して移動するため、階段510を昇り降りする際にも支障が出ず(
図7を参照)、患者Cのスムーズな歩行を補助することができる。また、無人航空機100を利用して、車椅子で移動せざるを得ない患者の移動を補助する場合、患者に点滴スタンドを携帯させる必要が無くなるため、車椅子でのスムーズな移動を実現することが可能になる。
【0072】
なお、「患者の動作補助」は、患者Cが行う動作の補助を目的とする作業であればよく、例えば、患者Cの歩行以外の動作を補助する作業であってもよい。歩行以外の動作としては、例えば、患者Cがベッド上に座るまたは横たわる動作、患者Cがベッドから立ち上がる動作、患者が車椅子から立ち上がる動作、車椅子に座る動作等が挙げられる。また、移動の補助や、その他の動作の補助が行われる際、患者Cは、無人航空機100から動作を行うための動力を直接提供されるようにしてもよいし、無人航空機100と接続される部材(紐、棒等)や、無人航空機100との間に介在する医療従事者等を介して間接的に動作を行うための動力を提供されるようにしてもよい。また、無人航空機100には、例えば、上記のような補助作業の内容(使用用途)に応じて、患者C等が把持可能な手すりを設けたり、図中に示す各回転翼121a、121b、121c、121dを格納するカバー材等を設けたりすることが可能である。
【0073】
無人航空機100に「物品の搬送」や「患者の動作補助」を実行させる際は、例えば、
図7および
図8に示すように、無人航空機100の荷受部117に所定の付属部品117aを取り付けて、物品410や点滴バッグ420を保持させることが可能である。付属部品117aとしては、例えば、荷受部117に着脱可能に構成された吊り輪状の部材などを用いることが可能である。
【0074】
病院500等の施設内で無人航空機100を利用する場合、無人航空機100には、施設内のルートや天井520までの高さに関するデータが入力される。制御部130は、入力されたデータに基づいて、
図7に示すように、天井520やその他の障害物(壁や置物)等との接触を避けるように無人航空機100の移動を制御する。また、例えば、無人航空機100に搭載される検出部160(
図3(A)を参照)により障害物の有無を検出しつつ、移動を行うようにして、障害物や患者Cとの接触を避けるように無人航空機100の移動を制御することも可能である。
【0075】
次に、
図5および
図6を参照して、無人航空機100による医療支援作業の実行例を説明する。
【0076】
図5には、医療支援作業を実施する際の手順例を示している。
【0077】
医療従事者A1は、無人航空機100に医療支援作業を実行させるにあたり、情報端末装置200上で医療支援アプリケーションを起動させる(S11)。次に、医療従事者A1は、前述したように医療支援アプリケーション上で医療支援作業を選択する。選択結果は、情報端末装置200から無人航空機100へ送信指令として送信される。無人航空機100は、送信指令に基づいて作業内容の入力を受け付ける(S12)。作業内容の入力の受付が完了すると、無人航空機100は医療支援作業を実行する(S13)。医療支援作業を実行した後、無人航空機100は、医療従事者A1に対して実行結果のフィードバッグを行う(S14)。
【0078】
図6には、病院500内で無人航空機100を利用した例を示している。
【0079】
図6に示す例では、医療従事者A1は、「調剤確認」および「薬剤管理指導」を無人航空機100に実行させる。無人航空機100は、他の医療従事者B1との間で「調剤確認」を行った後、患者B2に対して「薬剤管理指導」を行う。なお、この例において、医療従事者A1は、調剤業務全体(処方箋受付、調剤、鑑査、投薬)を取りまとめる院内薬剤師であり、他の医療従事者B1は、医療従事者A1から鑑査業務を依頼された別の院内薬剤師である。また、患者B2は、医療従事者A1から薬剤管理指導を受ける入院患者である。
【0080】
無人航空機100は、医療支援作業を実施する前は、医療従事者A1が平時滞在する調剤室や外来化学療法室(ケモ室)等の待機室R1内で待機する。無人航空機100は、人の移動等を妨げることのない高さで浮遊して待機する。
【0081】
無人航空機100は、医療従事者A1が選択した作業内容を受け付けると、待機室R1を出て、移動経路P1に沿って移動し、他の医療従事者B1が滞在する部屋R2へ向かう。なお、図中に示す各移動経路P1、P2、P3は、「病院内の異なる場所を移動する移動経路」としてRAM(記憶部)において予め記憶されたものである。
【0082】
無人航空機100は、部屋R2に到着すると、表示部111を介して「調剤確認」を行う。無人航空機100は、作業を開始する前に、対象者および作業内容に誤りがないかを確認する。この確認は、例えば、表示部111に確認画面を出力したり、スピーカー113から確認音声を出力したりして行うことができる。無人航空機100は、対象者および作業内容に誤りがないことを確認できた後、作業を開始する。
【0083】
他の医療従事者B1は、調剤確認が終了した後、操作ボタン115を操作したり、表示部111をタッチパネル操作したりすることにより、作業が終了した旨を入力する。無人航空機100は、調剤確認が終了したのを確認すると、部屋R2を出て、移動経路P2に沿って移動し、患者B2が滞在する部屋R3へ向かう。
【0084】
無人航空機100は、部屋R3に到着すると、表示部111を介して「薬剤管理指導」を行う。なお、無人航空機100は、「調剤確認」を開始する前と同様に、対象者および作業内容に誤りがないことを確認する確認作業を実施する。
【0085】
被提供者B2は、薬剤管理指導が終了した後、操作ボタン115を操作したり、表示部111をタッチパネル操作したりすることにより、その旨を入力する。無人航空機100は、薬剤管理指導が終了したのを確認すると、部屋R3を出て、移動経路P3に沿って移動し、部屋R1へ帰還する。
【0086】
無人航空機100は、部屋R1へ帰還した後、医療従事者A1に対して、「調剤確認」および「薬剤管理指導」の実行結果をフィードバックする。フィードバックは、例えば、表示部111に作業を無事完了した旨を知らせる画像や、作業の一部が実行されなかった旨を知らせる画像等を表示して行うことができる。また、このフィードバック結果は、管理サーバ300に送信して保存することも可能である。
【0087】
無人航空機100は、医療支援作業の実施前後に、他の医療従事者B1や患者B2から医療従事者A1への要望やメッセージを受け付けることも可能である。無人航空機100によりこのような受け付け作業が行われた場合、医療従事者A1は、無人航空機100が待機室R1へ帰還した後に、要望やメッセージを確認することができる。また、無人航空機100は、各作業が完了する前に、例えば、医療従事者A1から作業を中断する旨の指令を受け付けるようにしてもよい。
【0088】
以下、本実施形態の作用について説明する。
【0089】
本実施形態に係る無人航空機100は、医療従事者A1から医療支援作業の入力を受け付ける送受信部(受付部)190と、送受信部190が受け付けた入力内容に基づいて医療支援作業の実行を制御する制御部130と、を有している。
【0090】
無人航空機100は、医療従事者A1が指定した処理内容に応じた医療支援作業を医療現場で実行する。無人航空機100は、この医療支援作業を実行することにより、医療従事者A1が実施すべき作業を補助または代替する。したがって、人手不足等に起因する医療サービスの質の低下を抑えることが可能になるとともに、医療現場における人件費の削減を図ることが可能になる。
【0091】
また、無人航空機100が実行する医療支援作業には、「医療従事者同士の情報伝達」が含まれている。このため、本来は医療従事者間で行われるべき作業を無人航空機100が補助または代替することにより、時間的な制約により断念せざるを得なかった医療サービスの提供を行うことが可能になる。
【0092】
また、無人航空機100が実行する医療支援作業には、「物品の搬送」が含まれている。医療従事者A1が指定する物品の搬送に無人航空機100を利用することにより、医師や看護師の作業負担を軽減させることができる。特に、病院500等の施設内で搬送作業を行う場合、歩行者等との接触に多くの注意を払わなければならないが、空中を移動可能な無人航空機100を利用することにより、歩行者等との接触を避けつつ、物品410を円滑に搬送することが可能になる。
【0093】
また、無人航空機100が実行する医療支援作業には、「患者の動作補助」が含まれている。このため、無人航空機100を利用することにより、医療従事者A1の作業負担を大幅に軽減させることが可能になる。
【0094】
また、無人航空機100が実行する「医療従事者同士の間の情報伝達」は、異なる薬剤師間で行われる調剤確認を含む。このため、繁忙期等の事情により調剤した薬剤師の周囲に別の薬剤師がいない場合や、調剤直後に時間的な余裕が無い場合などにおいても、別の薬剤師による調剤確認を実施することが可能になるため、質の高い医療サービスを提供することが可能になる。
【0095】
また、無人航空機100が実行する「医療従事者と医療サービスの提供を受ける被提供者との間での情報伝達」は、薬剤管理指導を含む。このため、薬剤師が他の業務で時間的な余裕が無い場合等においても、薬剤管理指導を実施することが可能になるため、質の高い医療サービスを提供することが可能になる。
【0096】
また、制御部130は、医療支援作業を実行する医療現場へ向かう移動経路を記憶するRAM(記憶部)を有している。上記移動経路は、病院500内の異なる場所を移動する移動経路を含んでいる。このため、無人航空機100が医療支援作業を実行する際は、予め設定された移動経路に沿って無人航空機100が自動的に移動する。無人航空機100は、移動の最中に障害物等との接触を避けつつ目的地(病院内の部屋等)までスムーズに移動することが可能になる。
【0097】
また、送受信部(受付部)190は、医療従事者A1により操作される情報端末装置200から送信される送信指令を受け付け可能に構成されている。制御部130は、送信指令に含まれる処理内容に応じて医療支援作業の実行を制御する。このため、医療従事者A1が情報端末装置200を操作する簡単な作業により、無人航空機100による各種動作の制御を行うことが可能になる。
【0098】
また、本実施形態に係る医療支援方法は、無人航空機100が備える送受信部(受付部)190を介して、医療従事者A1から処理内容を受け付ける受付ステップと、無人航空機100が備える制御部130により、処理内容に応じた医療支援作業の実行を制御する制御ステップと、を有している。
【0099】
上記の方法によれば、無人航空機100は、医療従事者A1が指定した処理内容に応じた医療支援作業を医療現場で実行する。無人航空機100は、この医療支援作業を実行することにより、医療従事者A1が実施すべき作業を補助または代替する。したがって、人手不足等に起因する医療サービスの質の低下を抑えることが可能になるとともに、医療現場における人件費の削減を図ることが可能になる。
【0100】
以下、変形例について説明する。変形例の説明においては既に説明した部材や構成と同一の機能を有するものについては説明を適宜省略する。また、装置構成や制御内容等において特に言及していない点については、前述した実施形態と同様に構成し得るものとする。
【0101】
<変形例1>
前述した実施形態では、無人航空機100を病院500内で利用した例を説明したが、無人航空機100の利用は病院500内のみに限定されるものではない。例えば、
図9に示すように、院外薬局600、700、在宅医療患者B3の住居800等において無人航空機100を利用することも可能である。
【0102】
図9に示す例では、無人航空機100は、薬局600で薬剤師A1が調剤した薬剤の「調剤確認」を別の薬局700に滞在する薬剤師A2との間で実施し、さらに薬局700から在宅医療患者B3へ薬剤を搬送したうえで、在宅医療患者B3に対して「薬剤管理指導」を実施する。
【0103】
この例のように、病院外において無人航空機100を利用し、各種の医療支援作業を実行させることにより、例えば、遠隔地の薬局等で発生し得る人手不足を補うことが可能になる。また、在宅医療患者B3が遠隔地に滞在するような場合においても、在宅医療患者B3に対して薬剤管理業務を実施することが可能になるため、より質の高い医療サービスを提供することができる。特に、薬剤師A1や薬剤師A2が在宅医療患者B3のかかりつけ薬剤師である場合、無人航空機100を利用することにより、在宅医療患者B3に対して一元的かつ継続的な服薬指導等を行うことが可能になるため、無人航空機100を利用するメリットが非常に大きくなる。
【0104】
無人航空機100は、在宅医療患者B3に対する医療支援作業(薬剤の搬送、薬剤管理指導)を終えた後、薬剤師A1が滞在する薬局600に帰還して、在宅医療患者B3に対して実行した作業結果をフィードバックする。
【0105】
無人航空機100は、例えば、薬剤師A2に携帯される情報端末装置200Aや、在宅医療患者B3に携帯される情報端末装置200Bを介して医療支援作業の選択や中断を受け付けるようにしてもよい。
【0106】
薬局600から薬局700に向かう移動経路P4は、「異なる薬局間を移動する移動経路」として制御部130のRAM(記憶部)に記憶させることができる。また、薬局700から在宅医療患者B3の住居800に向かう移動経路P5、および在宅医療患者B3の住居800から薬局600に向かう移動経路P6は、「薬局と在宅医療患者の滞在場所との間を移動する移動経路」として制御部130のRAM(記憶部)に記憶させることができる。
【0107】
<変形例2>
図10には、病院500に滞在する医師A1により在宅医療患者B3を診察する作業に無人航空機100を利用した例を示している。
【0108】
無人航空機100を利用して在宅医療患者B3の診察を行うことにより、医師A1が在宅医療患者B3の住居800に直接訪問する必要がなくなるため、医師A1の移動に要する時間を減らすことができる。例えば、医師を含む医療従事者の数が不足している地方都市などでは、医師が在宅医療患者を直接訪問する時間を確保することができないことも多く、在宅医療患者に十分な医療サービスを提供することが困難な場合がある。本変形例のように、在宅医療患者B3の診察に無人航空機100を利用することにより、高齢化が進む地方都市における地域医療の質の向上を図ることが可能になる。
【0109】
特に、在宅医療患者B3が腹膜透析患者の場合、腹膜透析液が入った透析液バッグが重く、嵩張ることから、高齢の患者にとっては、持ち運びや廃棄が困難である。ただし、無人航空機100は、在宅医療患者B3に対する「物品(薬剤を含む)の搬送」を含むため、透析液バッグ及び廃棄バッグの搬送はとても有用である。
【0110】
無人航空機100を利用して「診察」を実行する場合、無人航空機100は、情報端末装置200の送受信部290を通じてリアルタイムで画像および音声を出力して、在宅医療患者B3とコミュニケーションを図るように動作する。
【0111】
無人航空機100は、在宅医療患者B3に対する診察を終えた後、医師A1が滞在する病院500に帰還する。
【0112】
無人航空機100は、例えば、在宅医療患者B3に携帯される情報端末装置200Bを介して医療支援作業の実行や中断を受け付けるようにしてもよい。
【0113】
病院500から在宅医療患者B3の住居800へ向かう移動経路P7および在宅医療患者B3の住居800から病院500へ向かう移動経路P8は、「病院と在宅医療患者の滞在場所との間を移動する移動経路」として制御部130のRAM(記憶部)に記憶させておくことができる。
【0114】
以上、実施形態および複数の変形例を通じて本発明に係る無人航空機および医療支援方法を説明したが、本発明は実施形態および変形例において説明した内容のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0115】
無人航空機が実行する医療支援作業は、当該無人航空機に実行可能なものであれば、特に限定されることはなく、例えば、病院内で行われる作業、病院内および病院外で行われる作業を組み合わせたもの、病院以外の他の施設などで行われる作業、これらの各作業を複合的に組み合わせたものであってもよい。
【0116】
また、一つの施設内で複数台の無人航空機を利用することも可能である。複数台の無人航空機を利用する場合においても、無人航空機を空中に浮遊させて待機させることにより、歩行者等の妨げになるのを防止できる。例えば、病院等の施設内であれば、複数台の無人航空機を廊下(通路)の天井付近に滞在させてもよいし、専用の待機室内にまとめて待機させてもよい。また、複数台の無人航空機を利用する場合、各無人航空機を一つの作業を実行する専用機として準備してもよいし、例えば、一人の対象者に対して複数の無人航空機により同時に複数の医療支援作業を実行させてもよい。
【0117】
また、無人航空機への送信信号の送信は、情報端末装置を利用して行わなくてもよい。例えば、無人航空機に設けられる入力IF(操作スイッチ、タッチスクリーン等)を介して直接指示を行うように構成したり、専用のコントローラを利用して送信指令の送信を行なったりしてもよい。また、無人航空機には、不揮発メモリーカード等の記憶媒体との間においてデータの送受信を可能にするデータ送受信部(スロット)等を設けることも可能である。また、管理サーバ等を含むネットワークを構築することなく、無人航空機を単独で利用して各種の医療支援作業を実行させるようにしてもよい。