特許第6713861号(P6713861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ 株式会社UACJの特許一覧

特許6713861アルミニウム合金クラッド材及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金クラッド材を用いた熱交換器
<>
  • 特許6713861-アルミニウム合金クラッド材及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金クラッド材を用いた熱交換器 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713861
(24)【登録日】2020年6月8日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金クラッド材及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金クラッド材を用いた熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20200615BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20200615BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20200615BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20200615BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20200615BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20200615BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   C22C21/00 E
   C22C21/00 D
   C22C21/00 K
   B23K35/22 310E
   B23K35/28 310B
   C22F1/04 Z
   F28F21/08 B
   !C22F1/00 614
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】20
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-132727(P2016-132727)
(22)【出願日】2016年7月4日
(65)【公開番号】特開2017-20108(P2017-20108A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2019年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-137331(P2015-137331)
(32)【優先日】2015年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】浅野太一
(72)【発明者】
【氏名】原田真樹
(72)【発明者】
【氏名】手島聖英
(72)【発明者】
【氏名】安藤誠
(72)【発明者】
【氏名】成田渉
(72)【発明者】
【氏名】山下尚希
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−188616(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137649(WO,A1)
【文献】 特開2013−133517(JP,A)
【文献】 特開2014−55326(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/080433(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
B23K 35/00 − 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の心材と、前記心材の一方又は両方の面にクラッドされた第一ろう材とを備えるアルミニウム合金クラッド材において、前記心材が、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第一ろう材が、Si:2.5〜7.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Mn:0.3〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱前において前記第一ろう材における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm以上であり、ろう付加熱後において前記第一ろう材における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【請求項2】
前記第一ろう材が、Cu:0.05〜0.60mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項1に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項3】
前記第一ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項4】
前記心材が、Mg:0.05〜0.50mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、前記心材用及び第一ろう材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材の鋳塊を所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程と、心材鋳塊の一方又は両方の面に熱間圧延により所定厚さとした第一ろう材をクラッドしてクラッド材とするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含み、前記第一ろう材の熱間圧延工程が加熱段階と保持段階と熱間圧延段階とを含み、加熱段階において、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/h以下であり、保持段階における保持温度が450℃以上560℃以下であり保持時間が1時間以上であり、熱間圧延段階中において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法。
【請求項6】
アルミニウム合金の心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた第一ろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた第二ろう材とを備えるアルミニウム合金クラッド材において、前記心材が、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第一ろう材が、Si:2.5〜7.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Mn:0.3〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第二ろう材が、Si:2.5〜13.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱前において前記第一ろう材における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm以上であり、ろう付加熱後において前記第一ろう材における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【請求項7】
前記第一ろう材が、Cu:0.05〜0.60mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%、V:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項6に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項8】
前記第一ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項6又は7に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項9】
前記心材が、Mg:0.05〜0.50mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項6〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項10】
前記第二ろう材が、Mn:0.05〜2.00mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項6〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項11】
前記第二ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項6〜10のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、前記心材用、第一ろう材用及び第二ろう材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材及び第二ろう材の鋳塊をそれぞれ所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程と、心材鋳塊の一方の面に熱間圧延により所定厚さとした第一ろう材を、他方の面に熱間圧延により所定厚さとした第二ろう材をそれぞれクラッドしてクラッド材とするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含み、前記第一ろう材の熱間圧延工程が加熱段階と保持段階と熱間圧延段階とを含み、加熱段階において、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/h以下であり、保持段階における保持温度が450℃以上560℃以下であり保持時間が1時間以上であり、熱間圧延段階において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法。
【請求項13】
アルミニウム合金の心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた第一ろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材とを備えるアルミニウム合金クラッド材において、前記心材が、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第一ろう材が、Si:2.5〜7.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Mn:0.3〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材が、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱前において前記第一ろう材における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm以上であり、ろう付加熱後において前記第一ろう材における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【請求項14】
前記第一ろう材が、Cu:0.05〜0.60mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%、V:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項13に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項15】
前記第一ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項13又は14に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項16】
前記心材が、Mg:0.05〜0.50mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項13〜15のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項17】
前記犠牲陽極材が、Ni:0.05〜2.00mass%、Mn:0.05〜2.00mass%、Mg:0.05〜3.00mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなる、請求項13〜16のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、前記心材用、第一ろう材用及び犠牲陽極材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材及び犠牲陽極材の鋳塊をそれぞれ所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程と、心材鋳塊の一方の面に熱間圧延により所定厚さとした第一ろう材を、他方の面に熱間圧延により所定厚さとした犠牲陽極材をそれぞれクラッドしてクラッド材とするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含み、前記第一ろう材の熱間圧延工程が加熱段階と保持段階と熱間圧延段階とを含み、加熱段階において、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/h以下であり、保持段階における保持温度が450℃以上560℃以下であり保持時間が1時間以上であり、熱間圧延段階において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材を少なくとも流路形成部品に用いた熱交換器であって、前記第一ろう材面の少なくとも一方の面が、塩化物イオン濃度1200ppm以下の溶液に晒されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項20】
請求項6〜11及び13〜17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材を少なくとも流路形成部品に用いた熱交換器であって、前記第一ろう材面が、塩化物イオン濃度1200ppm以下の溶液に晒されていることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータなどの熱交換器における冷媒や高温圧縮空気の通路構成材として好適に使用される高耐食性のアルミニウム合金クラッド材及びその製造方法に関する。更に本発明は、前記高耐食性のアルミニウム合金クラッド材を用いた流路形成部品を備える自動車用などの熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量かつ高熱伝導性を備えており、適切な処理により高耐食性が実現できるため、自動車用などの熱交換器、例えば、ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ、ヒータ、インタークーラ、オイルクーラなどに用いられている。自動車用熱交換器のチューブ材としては、3003合金などのAl−Mn系合金を芯材として、その一方の面に、Al−Si系合金のろう材や、Al−Zn系合金の犠牲陽極材をクラッドした2層クラッド材、更に他方の面にAl−Si系合金のろう材をクラッドした3層クラッド材などが使用されている。熱交換器は、通常、このようなクラッド材とコルゲート成形したフィン材を組み合わせ、600℃程度の高温でろう付することによって接合される。
【0003】
例えばオイルクーラにおいては、エンジンオイルと冷却水とを熱交換させ、エンジンオイルを冷却する、水冷式を採用するのが一般的である。近年では、インタークーラにも水冷式を採用するタイプのものが見られる。この冷却水には、本来は防錆剤を添加したLLCを用いるが、発展途上国などにおいては水道水や井戸水を使用する場合がある。水道水や井戸水には塩化物イオンが含まれている場合があるため、アルミニウムの酸化被膜を破壊して孔食を発生させ、冷却水の流路に腐食貫通を発生させるおそれがある。
【0004】
この対策としては、Al−Zn系合金の犠牲陽極材をクラッドすることにより犠牲防食効果を付与し、腐食の進行を横広がりにすることで孔食による腐食貫通を防ぐのが一般的である。しかしながら、水道水や井戸水に含まれる塩化物イオンは通常1200ppm程度以下の低濃度であるため、冷却水が室温近くの低温であるときは孔食が発生し易く、高温であるときにはアルミニウムの酸化被膜が厚く形成されるため、孔食が発生し難くなるが、室温で発生した孔食内と孔食外との間に水酸化アルミニウムなどの腐食生成物が形成され、孔食内部が閉塞されることにより、孔食内部で局部的なアルカリ化が進行しやすくなる。閉塞された孔食内部が強アルカリ性になると腐食速度が大きい全面腐食となり犠牲陽極効果が十分に機能しなくなるため、横広がりにならない深い腐食貫通が発生してしまう。
【0005】
また、熱交換器において冷却水の流路を形成する手段として、図1に示すように、クラッド材を成形して冷却水の流路となるプレート1を、コルゲートフィン2を介して積層する方法がある。この方法は、積層の段数を変更するだけで熱交換器のサイズを変えられるため、設計の自由度が高いという利点がある。しかしながら、プレート同士を接合するためには、ろう付時にプレートの材料自身からろうが供給される必要がある。
【0006】
以上のことを踏まえると、水冷式の熱交換器に、積層タイプを適用する場合には、流路形成部品に用いられる材料の流路内面側には、ろう付時にろうを供給し、なおかつ孔食に対して犠牲防食機能を有し、しかも局部的な強アルカリ化による腐食の発生を防止するといった、複数の機能を兼ね備えた層をクラッドすることが必要となる。
【0007】
ろう付時にろうを供給して、なおかつ孔食に対して犠牲防食機能を付与するための技術については、特許文献1と2に記載されている。これらの特許文献においては、クラッド層にZnと低濃度のSiを含有させることにより、ろう付時に液相のろうを形成して接合を可能にすると共に、当該クラッド層の一部を固相のまま残存させ、高い犠牲防食機能を持たせる方法が提案されている。また、この技術においては、クラッド層の溶融によりろう付け後に生じる凝固組織が初晶と共晶の2相となる。そして、共晶の電位が初晶に比べて卑となることに起因して共晶部の優先腐食が生じ、犠牲陽極材として作用すべき初晶部の早期脱落が発生して耐食性が低下するという問題と、その解決手段も開示されている。しかしながら、これらの特許文献においては、局部的な強アルカリ化による腐食の発生という課題は認識されておらず、それを防止するための手段については何等記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−255013号公報
【特許文献2】WO2011/034102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、アルミニウム合金クラッド材を例えば熱交換器の流路形成部品用材として用いる際に、ろう付加熱時にろうを供給し、ろう付加熱後には犠牲防食機能を有し、しかも局部的なアルカリ化による腐食を防止するアルミニウム合金クラッド材を提供することは、従来の技術では困難であった。
【0010】
本発明は、斯かる問題点を解消するべく完成されたものであって、アルミニウム合金クラッド材において、ろう付加熱時にろうを供給し、ろう付加熱後には犠牲防食機能を有し、しかも局部的なアルカリ化による腐食を防止する高耐食性アルミニウム合金クラッド材、ならびに、これを用いた自動車用などの熱交換器の流路形成部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題について鋭意研究を重ねた結果、それぞれが特定の合金組成及び金属組織を有する心材、ろう材(第一、第二)、犠牲陽極材を用意し、心材の一方又は両方の面に第一ろう材をクラッドしたクラッド材、ならびに、心材の一方の面に第一ろう材を他方の面に犠牲陽極材又は第二ろう材をクラッドしたクラッド材によって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明は請求項1では、アルミニウム合金の心材と、前記心材の一方又は両方の面にクラッドされた第一ろう材とを備えるアルミニウム合金クラッド材において、前記心材が、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第一ろう材が、Si:2.5〜7.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Mn:0.3〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱前において前記第一ろう材における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm以上であり、ろう付加熱後において前記第一ろう材における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材とした。
【0013】
本発明は請求項2では請求項1において、前記第一ろう材が、Cu:0.05〜0.60mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0014】
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記第一ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0015】
本発明は請求項4では請求項1〜3のいずれか一項において、前記心材が、Mg:0.05〜0.50mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0016】
本発明は請求項5において、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、前記心材用及び第一ろう材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材の鋳塊を所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程と、心材鋳塊の一方又は両方の面に熱間圧延により所定厚さとした第一ろう材をクラッドしてクラッド材とするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含み、前記第一ろう材の熱間圧延工程が加熱段階と保持段階と熱間圧延段階とを含み、加熱段階において、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/h以下であり、保持段階における保持温度が450℃以上560℃以下であり保持時間が1時間以上であり、熱間圧延段階中において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法とした。
【0017】
本発明は請求項6では、アルミニウム合金の心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた第一ろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた第二ろう材とを備えるアルミニウム合金クラッド材において、前記心材が、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第一ろう材が、Si:2.5〜7.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Mn:0.3〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第二ろう材が、Si:2.5〜13.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱前において前記第一ろう材における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm以上であり、ろう付加熱後において前記第一ろう材における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材とした。
【0018】
本発明は請求項7では請求項6において、前記第一ろう材が、Cu:0.05〜0.60mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%、V:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0019】
本発明は請求項8では請求項6又は7において、前記第一ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0020】
本発明は請求項9では請求項6〜8のいずれか一項において、前記心材が、Mg:0.05〜0.50mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0021】
本発明は請求項10では請求項6〜9のいずれか一項において、前記第二ろう材が、Mn:0.05〜2.00mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0022】
本発明は請求項11では請求項6〜10のいずれか一項において、前記第二ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0023】
本発明は請求項12において、請求項6〜11のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、前記心材用、第一ろう材用及び第二ろう材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材及び第二ろう材の鋳塊をそれぞれ所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程と、心材鋳塊の一方の面に熱間圧延により所定厚さとした第一ろう材を、他方の面に熱間圧延により所定厚さとした第二ろう材をそれぞれクラッドしてクラッド材とするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含み、前記第一ろう材の熱間圧延工程が加熱段階と保持段階と熱間圧延段階とを含み、加熱段階において、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/h以下であり、保持段階における保持温度が450℃以上560℃以下であり保持時間が1時間以上であり、熱間圧延段階において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法とした。
【0024】
本発明は請求項13では、アルミニウム合金の心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた第一ろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材とを備えるアルミニウム合金クラッド材において、前記心材が、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第一ろう材が、Si:2.5〜7.0mass%、Fe:0.05〜1.20mass%、Zn:0.5〜8.0mass%、Mn:0.3〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材が、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.50mass%、Fe:0.05〜2.00mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱前において前記第一ろう材における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm以上であり、ろう付加熱後において前記第一ろう材における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材とした。
【0025】
本発明は請求項14では請求項13において、前記第一ろう材が、Cu:0.05〜0.60mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%、V:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0026】
本発明は請求項15では請求項13又は14において、前記第一ろう材が、Na:0.001〜0.050mass%及びSr:0.001〜0.050mass%から選択される1種又は2種を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0027】
本発明は請求項16では請求項13〜15のいずれか一項において、前記心材が、Mg:0.05〜0.50mass%、Cu:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0028】
本発明は請求項17では請求項13〜16のいずれか一項において、前記犠牲陽極材が、Ni:0.05〜2.00mass%、Mn:0.05〜2.00mass%、Mg:0.05〜3.00mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有するアルミニウム合金からなるものとした。
【0029】
本発明は請求項18において、前記心材用、第一ろう材用及び犠牲陽極材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材及び犠牲陽極材の鋳塊をそれぞれ所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程と、心材鋳塊の一方の面に熱間圧延により所定厚さとした第一ろう材を、他方の面に熱間圧延により所定厚さとした犠牲陽極材をそれぞれクラッドしてクラッド材とするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含み、前記第一ろう材の熱間圧延工程が加熱段階と保持段階と熱間圧延段階とを含み、加熱段階において、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/h以下であり、保持段階における保持温度が450℃以上560℃以下であり保持時間が1時間以上であり、熱間圧延段階において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分以上であることを請求項13〜17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材の製造方法であって、特徴とするアルミニウム合金クラッド材の製造方法とした。
【0030】
本発明は請求項19において、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材を少なくとも流路形成部品に用いた熱交換器であって、前記第一ろう材面の少なくとも一方の面が、塩化物イオン濃度1200ppm以下の溶液に晒されていることを特徴とする熱交換器とした。
【0031】
本発明は請求項20において、請求項6〜11及び13〜17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金クラッド材を少なくとも流路形成部品に用いた熱交換器であって、前記第一ろう材面が、塩化物イオン濃度1200ppm以下の溶液に晒されていることを特徴とする熱交換器とした。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ろう付加熱時にろうを供給し、ろう付加熱後には犠牲防食機能を有し、しかも局部的なアルカリ化による腐食を防止するアルミニウム合金クラッド材、ならびに、これを用いた自動車用などの熱交換器の流路形成部品が提供される。このクラッド材は、耐エロージョン性などろう付性にも優れ、更に軽量性や良好な熱伝導性の観点から、自動車用などの熱交換器の流路形成部品材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】クラッド材を成形した冷却水の流路となるプレートを、コルゲートフィンを介して積層した熱交換器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る高耐食性アルミニウム合金クラッド材及びその製造方法の好適な実施態様について、詳細に説明する。
【0035】
1.アルミニウム合金クラッド材を構成する層
本発明のアルミニウム合金クラッド材は、ろう付性と犠牲防食性の両方を兼ね備えた第一ろう材の合金成分と金属組織を適切に制御することにより、ろう付性と共に優れた耐食性を有する。この第一ろう材は、心材の一方の面にクラッドして二層クラッド材としてもよく、或いは、心材の両方の面にクラッドして三層クラッド材としてもよい。
また、上記二層クラッド材において、第一ろう材がクラッドされていない心材の他方の面に、通常のAl−Si系合金ろう材である第二ろう材をクラッドした三層クラッド材としてもよく、これに替えて、Al−Zn系合金犠牲陽極材をクラッドした三層クラッド材としてもよい。
以下において、これら第一ろう材、心材、第二ろう材及び犠牲陽極材の成分について説明する
【0036】
2.第一ろう材
第一ろう材には、Si:2.5〜7.0mass%(以下、単に「%」と記す)、Fe:0.05〜1.20%、Zn:0.5〜8.0%、Mn:0.3〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0037】
また、第一ろう材は、Cu:0.05〜0.60%、Ti:0.05〜0.30%、Zr:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%及びV:0.05〜0.30%から選択される1種又は2種以上を第一の選択的添加元素として更に含有してもよい。更に、第一ろう材は、Na:0.001〜0.050%及びSr:0.001〜0.050%から選択される1種又は2種を第二の選択的添加元素として含有してもよい。なお、上記必須元素及び第一、二の選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。以下に、各成分について説明する。
【0038】
Si
Siを添加することによりろう材の融点が低下して液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。一般的なろう材用合金は、例えば4045合金であれば上限11%程度までを許容するが、これを低く抑えることにより、ろう付時にある程度の割合を固相のまま残存させ、優れた犠牲防食機能を付与することができる。Si含有量は2.5〜7.0である。2.5%未満では、生じる液相が僅かでありろう付機能が得難くなる。一方、7.0%を超えると、例えばフィンなどの相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材の溶融が発生してしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜6.0%である。
【0039】
Fe
FeはAl−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し易いために、ろう付に有効となるSi量を低下させ、ろう付性の低下を招く。Fe含有量は、0.05〜1.20%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高を招く。一方、1.20%を超えると、ろう付に有効となるSi量を低下させてろう付が不十分となる。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0040】
Zn
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲防食効果により耐食性を向上させることができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲防食効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、1.0〜6.0%である。
【0041】
Mn
Mnは、Al−Mn系、Al−Fe−Mn系及びAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物(以下、単に「Al−Mn系金属間化合物」と記す)を形成し、腐食時のカソード反応を活性化させることにより腐食電位を貴にし、孔食を発生し易くすることができる。既に述べたように、腐食形態が孔食であれば、局部的なアルカリ化による腐食は発生しない。すなわち、Mnは、局部的なアルカリ化を防止し、耐食性を向上させる効果を有する。Mnの含有量は、0.3〜2.0%である。0.3%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mn含有量は、好ましくは0.4〜1.8%である。
【0042】
Cu
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させてもよい。Cu含有量は、0.05〜0.60%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.60%を超えると孔食電位が貴になり、Znによる犠牲防食効果を失わせてしまう。Cu含有量は、好ましくは0.10〜0.50%である。
【0043】
Ti
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0044】
Zr
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0045】
Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0046】

Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0047】
Na、Sr:
Na、Srは、第一ろう材中のSi粒子を微細化する効果を発揮する。Na、Srの含有量はそれぞれ、0.001〜0.050%である。それぞれの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、それぞれの含有量が0.050%を超える場合は、酸化被膜が厚くなり、ろう付性を低下させる。それぞれの好ましい含有量は、いずれも0.003〜0.020%である。
【0048】
これらCu、Ti、Zr、Cr、V、Na、Srは、第一ろう材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0049】
2.心材
心材には、Si:0.05〜1.50%、Fe:0.05〜2.00%、Mn:0.5〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0050】
また、心材は、Mg:0.05〜0.50%、Cu:0.05〜1.50%、Ti:0.05〜0.30%、Zr:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%及びV:0.05〜0.30%から選択される1種又は2種以上を選択的添加元素として更に含有してもよい。
【0051】
更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。
【0052】
本発明の心材に用いるアルミニウム合金は、JIS 3000系合金、例えばJIS 3003合金等のAl−Mn系合金が好適に用いられる。以下に、各成分について詳細に説明する。
【0053】
Si
Siは、Fe、Mnと共にAl−Fe―Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Si含有量は、0.05〜1.50%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。1.50%を超えると心材の融点が低下して溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.10〜1.20%である。
【0054】
Fe
Feは、Si、Mnと共にAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.00%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.00%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.10〜1.50%である。
【0055】
Mn
Mnは、Siと共にAl−Mn−Si系金属間化合物を、また、Si、Feと共にAl−Mn−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Mn含有量は、0.5〜2.0%である。0.5%未満では上記効果が不十分となり、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mnの好ましい含有量は、0.8〜1.8%である。
【0056】
Mg
Mgは、MgSiの析出により強度を向上させるので含有させてもよい。Mg含有量は、0.05〜0.50%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.50%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、好ましくは0.10〜0.40%である。
【0057】
Cu
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させてもよい。Cu含有量は、0.05〜1.50%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.50%を超えると鋳造時におけるアルミニウム合金の割れ発生の虞が高くなる。Cu含有量は、好ましくは0.30〜1.00%である。
【0058】
Ti
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が不十分となる。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0059】
Zr
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0060】
Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0061】

Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0062】
これらMg、Cu、Ti、Zr、Cr及びVは、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0063】
3.犠牲陽極材
犠牲陽極材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.50%、Fe:0.05〜2.00%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0064】
また、犠牲陽極材は、Ni:0.05〜2.00%、Mn:0.05〜2.00%、Mg:0.05〜3.00%、Ti:0.05〜0.30%、Zr:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種又は2種以上を選択的添加元素として更に含有してもよい。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物として各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。以下に、各成分について説明する。
【0065】
Zn
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲防食効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲防食効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、1.0〜6.0%である。
【0066】
Si
Siは、Feと共にAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、Mnと共にAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。また、Siは犠牲陽極層の電位を貴にするため、犠牲防食効果を阻害して耐食性を低下させる。Siの含有量は、0.05〜1.50%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.50%を超えると犠牲陽極材の孔食電位が貴になって犠牲防食効果を失わせ、耐食性が低下する。Siの好ましい含有量は、0.10〜1.20%である。
【0067】
Fe
Feは、Siと共にAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、Mnと共にAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.00%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.00%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.10〜1.50%である。
【0068】
Ni
Niは、Al−Ni系、或いは、Feと共にAl−Fe−Ni系の金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物はアルミニウムのマトリックスより腐食電位が大きく貴であるため、腐食のカソードサイトとして作用する。そのため、これらの金属間化合物が犠牲陽極材に分散していると、腐食の起点が分散する。その結果、深さ方向への腐食が進行し難くなり、耐食性が向上するので含有させてもよい。Niの含有量は、0.05〜2.00%である。含有量が0.05%未満では上記効果が十分に得られない。一方、2.00%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Ni含有量は、好ましくは0.10〜1.50%である。
【0069】
Mn
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させてもよい。Mnの含有量は、0.05〜2.00%である。2.00%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、好ましくは0.05〜1.80%である。
【0070】
Mg:
Mgは、MgSiの析出により犠牲陽極材の強度を向上させるので、含有させてもよい。また、犠牲陽極材自身の強度を向上させるだけでなく、ろう付することにより犠牲陽極材から心材にMgが拡散して心材の強度も向上させる。これらの理由から、Mgを含有させてもよい。Mgの含有量は、0.05〜3.00%である。0.05%未満では上記効果が十分得られない。一方、3.00%を超えると熱間クラッド圧延工程において犠牲陽極材と心材との圧着が困難となる。Mgの好ましい含有量は、0.10〜2.00%である。なお、Mgはノコロックろう付におけるフラックスを劣化させてろう付性を阻害するため、犠牲陽極材が0.50%以上のMgを含有する場合はチューブ材同士の接合にはノコロックろう付を採用できない。この場合には、例えばチューブ材同士の接合には溶接などの手段を用いる必要がある。
【0071】
Ti
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.05〜0.20%である。
【0072】
Zr
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0073】
Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0074】

Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.05〜0.20%である。
【0075】
これらNi、Mn、Mg、Ti、Zr、Cr及びVは、犠牲陽極材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0076】
4.第二ろう材
前記第二ろう材には、Si:2.5〜13.0%、Fe:0.05〜1.20%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0077】
また、第二ろう材は、Mn:0.05〜2.00%、Cu:0.05〜1.50%、Ti:0.05〜0.30%、Zr:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%及びV:0.05〜0.30%から選択される1種又は2種以上を第一の選択的添加元素として更に含有してもよい。更に、第二ろう材は、Na:0.001〜0.050%及びSr:0.001〜0.050%から選択される1種又は2種を第二の選択的添加元素として含有してもよい。なお、上記必須元素及び第一、二の選択的添加元素の他に、不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。以下に、各成分について説明する。
【0078】
Si:
Siを添加することにより第二ろう材の融点が低下して液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。Si含有量は2.5〜13.0%である。2.5%未満では、生じる液相が僅かでありろう付機能が得難くなる。一方、13.0%を超えると、例えばこの第二ろう材をチューブ材に用いた場合に、フィンなどの相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材の溶融が発生してしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜12.0%である。
【0079】
Fe:
Feは、Al−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し易く、またMnを同時に含有している場合には、Al−Fe−Mn系やAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し易いために、ろう付に有効となるSi量を低下させてろう付性の低下を招く。Fe含有量は、0.05〜1.20%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高を招く。一方、1.20%を超えると、ろう付に有効となるSi量を低下させてろう付が不十分となる。Feの好ましい含有量は、0.10〜0.50%である。
【0080】
Mn:
Mnは、ろう材の強度と耐食性を向上させるので含有させてもよい。Mnの含有量は、0.05〜2.00%である。2.00%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、好ましくは0.05〜1.80%である。
【0081】
Cu:
Cuは、固溶強化により第二ろう材の強度を向上させるので含有させてもよい。Cu含有量は、0.05〜1.50%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.50%を超えると鋳造時におけるアルミニウム合金の割れ発生の虞が高くなる。Cu含有量は、好ましくは0.30〜1.00%である。
【0082】
Ti:
Tiは、固溶強化により第二ろう材の強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0083】
Zr:
Zrは、固溶強化により第二ろう材の強度を向上させると共に、Al−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0084】
Cr:
Crは、固溶強化により第二ろう材の強度を向上させると共に、Al−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付加熱後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0085】
V:
Vは、固溶強化により第二ろう材の強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.30%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.30%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.10〜0.20%である。
【0086】
Na、Sr:
Na、Srは、第二ろう材中のSi粒子を微細化する効果を発揮する。Na、Srの含有量はそれぞれ、0.001〜0.050%である。それぞれの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、それぞれの含有量が0.050%を超える場合は、酸化被膜が厚くなり、ろう付性を低下させる。それぞれの好ましい含有量は、いずれも0.003〜0.020%である。
これらMn、Cu、Ti、Zr、Cr、V、Na及びSrは、第二ろう材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0087】
5.第一ろう材の組織
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、第一ろう材のろう付加熱前における0.1μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度を1.0×10個/mm以上に、前記第一ろう材のろう付加熱後における2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度を300個/mm以上に限定する。これらの限定事項は、ろう付加熱後における第一ろう材側の面の耐食性向上を図るためのものである。なお、ここでの存在密度とは、第一ろう材層における任意断面を観察した際の単位面積当たり数密度を指す。以下にこの限定理由を説明する。
【0088】
第一ろう材は、ろう付時においてその一部を溶融させてろうを供給し接合を可能にすると共に、第一ろう材自体を優先的に腐食させることにより腐食を面状に進行させてチューブの穴空き腐食を防止する犠牲防食機能を発揮させる目的で心材にクラッドされる。しかしながら、既に述べたように、腐食形態が孔食でなくなると局所的なアルカリ化が発生し、犠牲防食機能が発揮されなくなって早期に腐食貫通が発生する。この点について本発明者らは鋭意研究の結果、ろう付け後の第一ろう材にAl−Mn系金属間化合物を適切なサイズ(円相当直径)と密度で分散させることにより、腐食時のカソード反応を活性化させて孔食を起こり易くし、局所的なアルカリ化による腐食貫通を防止できることを見出した。
【0089】
ろう付後において、2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物は、カソード反応活性化の効果を有し、2μm未満のものはその効果が不十分である。従って、本発明では、ろう付後において2μm未満の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物は対象外とした。また、ろう付後において、2μm以上の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物の存在密度が300個/mm以上であれば、十分なカソード反応活性化の効果を有し、300個/mm未満の場合はその効果が不十分である。ろう付け後のAl−Mn系金属間化合物の円相当直径は、好ましくは3μm以上であり、その存在密度は、好ましくは1000個/mm以上である。なお、耐食性の観点からは、ろう付け後のAl−Mn系金属間化合物の円相当直径の上限が限定されるものではないが、200μmを超える化合物が存在すると、組成加工性が低下し圧延中に割れる虞がある。従って、この円相当直径の上限は、200μmとするのが好ましい。また、耐食性の観点からは、Al−Mn系金属間化合物の存在密度の上限が限定されるものではないが、本発明の合金組成及び製造方法から5.0×10個/mmを超えて存在させることは困難である。従って、この存在密度の上限は5.0×10個/mmである。
【0090】
ろう付後において、以上述べたようなAl−Mn系金属間化合物の円相当直径と密度分布を得るためには、ろう付前のAl−Mn系金属間化合物の円相当直径と密度分布を制御する必要がある。ろう付前において円相当直径が0.1μm以上のAl−Mn系金属間化合物は、ろう付時にマトリクス中に溶解せず、ろう付後においては円相当直径2μm以上のAl−Mn系化合物を形成し得る。ろう付前に円相当直径が0.1μm未満のAl−Mn系金属間化合物は、ろう付時にマトリクス中に溶解するか、或いは、そのサイズが小さくなり、ろう付後において円相当直径2μm以上のAl−Mn系金属間化合物を形成することができない。従って、本発明では、ろう付前において0.1μm未満の円相当直径を有するAl−Mn系金属間化合物は対象外とした。
【0091】
ここで、ろう付前に存在するAl−Mn系金属間化合物の円相当直径は、好ましくは0.2μm以上である。また、ろう付前の円相当直径0.1μm以上のAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1×10個/mm以上であれば、ろう付後の円相当直径2μm以上のAl−Mn系金属間化合物の存在密度を300個/mm以上とすることができる。ろう付前の円相当直径0.1μm以上のAl−Mn系金属間化合物の存在密度が1.0×10個/mm未満であると、ろう付後の円相当直径2μm以上のAl−Mn系金属間化合物の存在密度を300個/mm以上とすることはできない。ろう付前の円相当直径0.1μm以上のAl−Mn系化合物の存在密度は、好ましくは3.0×10個/mm以上である。なお、耐食性の観点からは、ろう付け前のAl−Mn系金属間化合物の円相当径の上限が限定されるものではないが、200μmを超える化合物が存在すると、組成加工性が低下して圧延中に割れる虞がある。従って、この円相当径の上限は200μmとするのが好ましい。また、耐食性の観点からは、Al−Mn系化合物の存在密度の上限が限定されるものではないが、本発明の合金組成及び製造方法から5.0×10個/mmを超えて存在させることは困難である。従って、この存在密度の上限は5.0×10個/mmとする。
【0092】
6.アルミニウム合金クラッド材の製造方法
6−1.各製造工程
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材の製造方法は、心材用及び第一ろう材用のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造した第一ろう材の鋳塊を所定の厚さまで熱間圧延する工程と、心材鋳塊の一方の面又は両方の面に熱間圧延により所定の厚さとした第一ろう材をクラッドするクラッド工程と、クラッド材を熱間圧延する熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程とを含む。なお、心材の一方の面にのみ第一ろう材をクラッドする場合には、心材の他方の面には、所定厚さに熱間圧延した第二ろう材又は犠牲陽極材がクラッドされる。
【0093】
本発明のアルミニウム合金クラッド材は、第一ろう材の組織を制御することにより、優れた耐食性を実現している。本発明者らは鋭意研究の結果、製造工程中で組織制御に及ぼす影響が最も大きいのは、鋳造した第一ろう材の熱間圧延工程であることを見出した。以下では、この第一ろう材の熱間圧延工程の制御方法を説明する。
【0094】
6−2.第一ろう材の熱間圧延工程
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材の製造方法では、第一ろう材を鋳造した後に、所望のクラッド率を得るために所定の板厚まで第一ろう材の鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程に特徴を有する。この熱間圧延工程は、鋳塊を加熱する加熱段階と、これに続く保持段階と、加熱保持した鋳塊を圧延する熱間圧延段階を含む。そして、加熱段階においては、400℃到達時までの昇温速度を30℃/h以上に、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度を60℃/h以下に規定する。また、保持段階においては、保持温度を450℃以上560℃以下で保持時間を1時間以上に規定する。更に、熱間圧延段階においては、圧延材の温度が400℃以上である時間を5分以上に規定する。このように第一ろう材の熱間圧延工程の条件を規定することにより、本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、ろう付前及びろう付後において、本発明で規定するAl−Mn系金属間化合物の分布を得ることができ、ろう付後に優れた耐食性を発揮することができる。この理由を以下に説明する。
【0095】
第一ろう材の鋳造工程において、多量のMnが鋳塊のマトリクス中に固溶する。このようにマトリクス中に固溶した多量のMnは、熱間圧延工程における圧延段階の前の加熱段階において、Al−Mn系金属間化合物として多量に析出し、これらがろう付前のアルミニウム合金クラッド材における第一ろう材の組織をほぼ決定する。既に述べたように、ろう付後においてAl−Mn系金属間化合物を耐食性に有効なサイズで残存させるためには、ろう付前のAl−Mn系金属間化合物の円相当直径が0.1μm以上である必要がある。ここで、熱間圧延工程における圧延段階の前の加熱段階において、第一ろう材の鋳塊が400℃に到達するまでは比較的小さなAl−Mn系金属間化合物の析出物が生成し、400℃に達してからは比較的大きなAl−Mn系金属間化合物の析出物が生成する。
【0096】
熱間圧延工程における圧延段階の前の加熱段階における、400℃到達時までの昇温速度が30℃/h未満の場合は、比較的小さなAl−Mn系金属間化合物が析出物として多く生成してしまい、目的とするAl−Mn系金属間化合物の析出物分布を得ることができない。また、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が60℃/hを超える場合は、比較的大きなAl−Mn系金属間化合物の析出物の生成が少なく、目的とするAl−Mn系金属間化合物の析出物分布を得ることができない。更に、保持段階における保持温度が450℃未満の場合は、比較的大きなAl−Mn系金属間化合物の析出物の生成が少なく、目的とするAl−Mn系金属間化合物の析出物分布を得ることができない。また、保持時間が1時間未満の場合は、比較的大きなAl−Mn系金属間化合物の析出物の生成が少なく、目的とするAl−Mn系金属間化合物の析出物分布を得ることができない。
【0097】
上記400℃到達時までの昇温速度は、好ましくは40℃/h以上であり、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度は、好ましくは50℃/h以下である。また、保持段階における保持温度は、好ましくは460℃以上であり、保持時間は好ましくは2時間以上である。
【0098】
耐食性の観点からは、上記400℃到達時までの昇温速度の上限は特に限定されるものではないが、100℃/hを超えることは鋳塊の熱容量の点で困難である。従って、本発明ではこの昇温速度の上限を100℃/hとする。また、耐食性の観点からは、400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度の下限は特に限定されるものではないが、20℃/h未満とした場合、昇温に極めて長時間を要してしまい、経済性が著しく損なわれる。従って、本発明ではこの昇温速度の下限を20℃/hとする。保持段階における保持温度が560℃を超える場合は、第一ろう材に溶融が生じてしまい、クラッド材を製造できない虞がある。従って、この保持温度の上限は560℃とする。また、耐食性の観点からは、上記保持時間の上限は特に限定されるものではないが、20時間を超えると経済性が著しく損なわれる。従って、この保持時間の上限は20時間とするのが好ましい。
【0099】
また、熱間圧延段階に要する時間は、その前段階である加熱段階及び保持段階に比べると短いが、この熱間圧延段階中においては導入されるひずみにより金属間化合物の析出が促進される。従って、この熱間圧延段階においては、圧延時間は短時間であっても比較的大きなAl−Mn系金属間化合物の析出物が生成する。そして、熱間圧延段階中において第一ろう材の温度が400℃以上である時間が5分未満の場合は、比較的大きなAl−Mn系金属間化合物の析出物の生成が少なく、目的とするAl−Mn系金属間化合物の析出物の分布を得ることができない。
【0100】
また、上記熱間圧延段階中において、第一ろう材の温度が400℃以上である時間は、好ましくは7分以上である。耐食性の観点からは、この時間の上限は特に限定されるものではないが、30分間を超えて400℃以上を保つことは、鋳塊の熱容量の観点で困難である。従って、本発明ではこの時間の上限を30分とする。なお、熱間圧延段階中において第一ろう材の温度が400℃未満の温度域においては、析出がほとんど起こらないため、その間に要する時間の制御を行う必要が無い。
【0101】
耐食性に大きな影響を及ぼす工程は、以上の通りである。以下には、第一ろう材の熱間圧延工程以外の工程における好ましい製造条件について説明する。
【0102】
6−3.鋳造工程、熱間圧延工程
第一ろう材、心材、第二ろう材及び犠牲陽極材の鋳造工程における条件に特に制限は無いが、通常は水冷式の半連続鋳造法が用いられる。また、第二ろう材及び犠牲陽極材をそれぞれ所定の厚さまで熱間圧延する熱間圧延工程は、加熱保持段階と熱間圧延段階を含むが、加熱保持段階における加熱条件は、通常400〜560℃で0.5〜10時間行うのが好ましく、420〜540℃で0.5〜8時間行うのがより好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れなどを生じる場合がある。一方、560℃より高温の場合には、加熱中に鋳塊が溶融する虞がある。また、0.5時間未満では、鋳塊の温度が均一とならない場合があり、10時間を超えると経済性を著しく損なう。
【0103】
6−4.均質化処理工程
心材を鋳造して得られる鋳塊を、熱間クラッド圧延工程の前に均質化処理工程に供しても良い。均質化処理工程は、通常は450〜620℃で1〜24時間行うのが好ましく、
480〜620℃で1〜20時間行うのがより好ましい。温度が450℃未満または時間が1時間未満では均質化効果が十分でない場合があり、620℃を超えると心材鋳塊の溶融を生じてしまう虞がある。また、時間が24時間を超えると、経済性を著しく損なう。
【0104】
6−5.熱間クラッド圧延工程
熱間クラッド圧延工程では、クラッド材はクラッド圧延段階前の加熱段階で加熱される。加熱温度は、通常は400〜560℃で0.5〜10時間行うのが好ましく、420〜540℃で0.5〜8時間行うのがより好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいためクラッド圧延時にコバ割れなどを生じる場合がある。560℃を超える場合には、加熱中に鋳塊が溶融してしまう虞がある。時間が0.5時間未満ではクラッド材の温度が均一とならない場合があり、10時間を超えると経済性を著しく損なう。熱間クラッド圧延工程は、圧下率70〜95%の粗圧延工程と、それに続く圧下率70〜95%の仕上圧延工程に分けてもよい。
【0105】
6−6.冷間圧延工程、焼鈍工程
焼鈍工程は、成形性向上などの目的で、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方において1回以上行われる。具体的には、(1)冷間圧延工程の途中において1回以上の中間焼鈍が実施され、(2)冷間圧延工程の後に最終焼鈍工程が1回実施され、或いは、(3)(1)及び(2)が実施されるものである。この焼鈍工程では、クラッド材を200〜560℃で1〜10時間保持するのが好ましい。温度が200℃未満、保持時間が1時間未満の場合は、上記効果が十分でない場合がある。温度が560℃を超えると、加熱中にクラッド材が溶融してしまう虞があり、保持時間が10時間を超えると経済性を著しく損なう。より好ましい焼鈍条件は、温度230〜500℃、保持時間1〜8時間である。なお、焼鈍工程の回数の上限は特に限定されるものではないが、工程数の増加によるコスト増加を回避するために、3回とするのが好ましい。
【0106】
7.クラッド率及び板厚
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材では、第一ろう材、第二ろう材、犠牲陽極材のクラッド率(片面)を各々3〜25%とするのが好ましい。これら各クラッド率が3%未満ではクラッドされる材料が薄過ぎるため、熱間クラッド圧延中において心材全体にわたって被覆することができない場合がある。これら各クラッド率が25%を超えると、熱間クラッド圧延時に反りが発生じ、クラッド材を製造できない場合がある。これら各クラッド率は、より好ましくは5〜20%である。
【0107】
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材の板厚は特に限定されるものではないが、例えば、後述の熱交換器の流路形成部品として用いられる場合、通常0.15〜0.6mmのものが用いられる。また、板厚を0.6〜3mm程度として、ヘッダプレートなどに用いることも可能である。
【0108】
8.熱交換器
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、流路形成部品、ヘッダープレート、フィン材などの熱交換器用部材として、特に流路形成部品として好適に用いられる。例えば、上記アルミニウム合金クラッド材に曲げ成形を施し、その両端部の重ね合せ部分をろう付け接合して、冷却水などの媒体を流すための流路形成部品が作製される。本発明に係る熱交換器は、例えば、上記の流路形成部品に、フィン材とヘッダープレートを組み合わせ、これらを一度にろう付加工した構造を有する。
【0109】
上記熱交換器は、両端部分をヘッダープレートに取り付けた流路形成部品の外面にフィン材を配置して組立てる。次いで、流路形成部品の両端重ね合せ部分、フィン材と流路形成部品の外面、流路形成部品の両端とヘッダープレートを1回のろう付け加熱によって同時に接合する。ろう付け方法としては、フラックス無しろう付法、ノコロックろう付法、真空ろう付法が用いられるが、ノコロックろう付法が好ましい。ろう付けは、通常590〜610℃の温度で2〜10分間、好ましくは590〜610℃の温度で2〜6分間の加熱によって行なわれる。ろう付されたものは、通常、20〜500℃/分の冷却速度で冷却される。
【0110】
9.腐食環境
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、熱交換器の少なくとも流路形成部品として用いられる。以下においては、熱交換器の流路形成部品として用いられる場合に、耐食面での優位性を最も発揮できる腐食環境について説明する。
【0111】
既に述べたように、熱交換器に流入する冷却水として水道水や井戸水が用いられる場合、それに含まれる塩化物イオンは通常1200ppm以下の低濃度である。そのため、高温になると腐食形態が孔食とは異なる形態となり、犠牲防食作用が発揮され難くなる。その結果、腐食部分には酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムなどの生成によって局所的なアルカリ化が発生して、激しい腐食が発生する場合がある。本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、このような現象を抑制することを技術課題として開発され、これを達成したものである。すなわち、腐食環境が塩化物イオン濃度1200ppm以下の場合に局所的なアルカリ化が発生し易く、このような場合に本発明の優位性が発揮される。腐食環境が塩化物イオン濃度で1200ppmを超える場合は、高温になっても腐食形態は孔食のままとなり、犠牲防食が作用し続ける。その結果、局所的なアルカリ化が起こり難く、本発明の優位性は十分に発揮されない。なお、塩化物イオン濃度が5ppm未満の場合は、そもそも腐食孔が発生しないため、本発明の優位性が特に発揮されるわけではない。本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、塩化物イオンが1200ppm以下の環境において耐食性に関する優位性を発揮可能とするが、本発明の優位性が発揮される腐食環境としては、塩化物イオン濃度として5〜1000ppmが好ましく、10〜800ppmがより好ましい。以上のように、本発明に係る熱交換器では、本発明に係るアルミニウム合金クラッド材が少なくとも流路形成部品に用いられている。そして、第一ろう材が心材の両面に用いられている場合には、これら第一ろう材面の少なくとも一方の面が、塩化物イオン濃度1200ppm以下の溶液に晒される状態で用いられる。また、第一ろう材が心材の一方の面に用いられている場合には、この第一ろう材の面が、塩化物イオン濃度1200ppm以下の溶液に晒される状態で用いられる。
【実施例】
【0112】
次に、本発明例と比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0113】
表1に示す合金組成を有する第一ろう材合金、表2に示す合金組成を有する心材合金、表3に示す合金組成を有する第二ろう材合金、表4に示す合金組成を有する犠牲陽極材合金をそれぞれDC鋳造により鋳造し、各々両面を面削して仕上げた。面削後の鋳塊厚さは、いずれも400mmとした。第一ろう材、第二ろう材及び犠牲陽極材については、最終板厚で所望の厚さとなるクラッド率を計算し、それに必要な合わせ時の厚さとなるよう、480℃で3時間の加熱段階に供した後に所定厚さまで熱間圧延段階に供した。第一ろう材の熱間圧延工程の条件を表5に示す。第二ろう材と犠牲陽極材については、いずれも表5のE1の条件にて熱間圧延を行った。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
これらの合金を用い、心材合金の一方の面に表1の第一ろう材を組み合わせ、心材の他方の面には何も組み合わせないか、或いは、表1の第一ろう材又は表3の第二ろう材又は表4の犠牲陽極材を組み合わせた。各試料における第一ろう材、心材、第二ろう材、犠牲陽極材の組み合わせを表6〜9に示す。第一ろう材、第二ろう材及び犠牲陽極材のクラッド率は、いずれも10%(片面)とした。これらの合わせ材を、熱間クラッド圧延工程にかけた。すなわち、加熱段階においてクラッド材を500℃にて3時間加熱保持した後に、クラッド圧延段階にかけて、3mm厚さの2層又は3層クラッド材を作製した。その後、表5の冷間圧延以降に示す、(1)冷間圧延→中間焼鈍→最終冷間圧延の順、(2)冷間圧延→最終焼鈍の順、(3)冷間圧延→中間焼鈍→最終冷間圧延→最終焼鈍の順のいずれかで、最終板厚0.4mmのクラッド材試料を作製した。中間焼鈍および最終焼鈍の条件は、いずれも370℃にて2時間とし、中間焼鈍後の最終冷間圧延での圧延率は、いずれも30%とした。工程の組み合わせを表5に示す。
【0120】
【表6】
【0121】
【表7】
【0122】
【表8】
【0123】
【表9】
【0124】
以上の製造工程において問題が発生せず、0.4mmの最終板厚まで圧延できた場合は製造性を「○」とし、鋳造時や圧延時に割れが生じて0.4mmの最終板厚まで圧延できなかったり、熱間クラッド圧延工程前の加熱段階や中間焼鈍工程で溶融が生じたり、熱間クラッド圧延段階での圧着不良が生じたりして、クラッド材を製造できなかった場合は製造性を「×」として表6〜9に示す。
【0125】
上記クラッド材試料を下記の各評価に供した結果を、表6〜9に示す。なお、表7〜9における製造性「×」のものについては試料を製造できなかったため、下記評価は行うことができなかった。
【0126】
(ろう付性の評価)
厚さ0.07mm、調質H14、合金成分は3003合金に1.0%のZnを添加したフィン材を用意し、これをコルゲート成形して熱交換器フィン材とした。このフィン材を上記クラッド材試料の第一ろう材面又は第二ろう材面に配置し、5%のフッ化物フラックス水溶液中に浸漬し、600℃で3分のろう付加熱に供して、ミニコア試料を作製した。このミニコア試料のフィン接合率が95%以上であり、かつ、クラッド材試料及びフィンに溶融が生じていない場合をろう付性が合格(○)とし、一方、(1)フィン接合率が95%未満の場合と、(2)クラッド材試料及びフィンの少なくともいずれかに溶融が生じた場合とにおいて、(1)及び(2)、或いは、(1)又は(2)をろう付性が不合格(×)とした。
【0127】
(ろう付加熱後における引張強さの測定)
600℃で3分の熱処理(ろう付加熱に相当)を施したクラッド材試料を、引張速度10mm/分、ゲージ長50mmの条件で、JIS Z2241に従って引張試験に供した。得られた応力−ひずみ曲線から引張強さを読み取った。その結果、引張強さが120MPa以上の場合を合格(○)とし、それ未満を不合格(×)とした。
【0128】
(金属間化合物の密度分布の測定)
ろう付相当加熱前におけるAl−Mn系金属間化合物については、各クラッド材試料の第一ろう材部分についてL−ST面から薄膜サンプルをFIBにて切り出し、この薄膜サンプルについて、走査型透過電子顕微鏡(STEM)にてエネルギー分散形X線分光器(EDS)によりMn元素分布のマッピングを行うことにより調べた。この際、電子分光装置(EELS)を用いて観察部の膜厚を測定し、膜厚が0.10〜0.15μmの箇所でのみSTEM観察を行って、各サンプルにつき10μm×10μmの視野を5視野ずつ観察し、それぞれの視野のMnのマッピングを画像解析することによって、0.1μm以上の円相当径を有するAl−Mn系金属間化合物の分布を求めた。
【0129】
ろう付相当の加熱処理を施したろう付相当加熱後におけるAl−Mn系金属間化合物については、第一ろう材部分についてL−LT面を研磨で面出しし、EPMAを用いてMn元素分布のマッピングを行うことにより調べた。各サンプルにつき500μm×500μmの視野を5視野ずつ観察し、それぞれの視野のMnのマッピングを画像解析することによって、2μm以上の円相当径を有するAl−Mn系金属間化合物の分布を求めた。なお、本発明におけるろう付相当加熱の条件とは、到達温度を600℃とし580℃以上の保持時間を5分とする。
【0130】
(腐食深さの測定による耐食性評価)
クラッド材試料に上記ろう付相当の加熱を施した後、50mm×50mmに切り出し、試験面の反対面を樹脂によってマスキングした。なお、いずれの試料においても第一ろう材面を試験面とし、また、犠牲陽極材がクラッドされている試料については犠牲陽極材面についても試験面とした。第二ろう材面を試験面とした試験は実施しなかった。試験面が第一ろう材の場合の試験溶液は、塩化物イオン濃度がそれぞれ3ppm(溶液A)、5ppm(溶液B)、1000ppm(溶液C)、1200ppm(溶液D)のNaCl水溶液(純水)を用いた。各試験サンプルをこれらの溶液に浸漬し、88℃の高温水中で8時間、次いで、室温放置16時間を1サイクルとするサイクル浸漬試験を3ヶ月間実施し、腐食貫通の生じなかったものを合格(○)とし、生じたものを不合格(×)とした。試験面が犠牲陽極材の場合は、ASTM−G85に基づいてSWAAT試験に供し、1000時間で腐食貫通の生じなかったものを合格(○)とし、腐食貫通の生じたものを不合格(×)とした。
【0131】
本発明例1〜20及び55〜59では、本発明で規定する条件を満たしており、製造性、ろう付性、ろう付後の引張強さ及び耐食性のいずれも合格であった。
【0132】
これに対して、比較例21では、第一ろう材のSi成分が少な過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0133】
比較例22では、第一ろう材のSi成分が多過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0134】
比較例23では、第一ろう材のFe成分が多過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0135】
比較例24では、第一ろう材のCu成分が多過ぎたため、溶液A、B及びCにおける耐食性が不合格であった。
【0136】
比較例25では、第一ろう材のMn成分が少な過ぎたため、ろう付加熱後に適切なAl−Mn系金属間化合物の分布を得られず、溶液A及びBにおける耐食性が不合格であった。
【0137】
比較例26では、第一ろう材のMn成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0138】
比較例27では、第一ろう材のTi、Zr、Cr及びV成分がそれぞれ多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0139】
比較例28では、第一ろう材のNa成分が多過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0140】
比較例29では、第一ろう材のSr成分が多過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0141】
比較例30では、第一ろう材のZn成分が少な過ぎたため、溶液A、B及びCにおける耐食性が不合格であった。
【0142】
比較例31では、第一ろう材のZn成分が多過ぎたため、溶液A、B及びCにおける耐食性が不合格であった。
【0143】
比較例32では、心材のSi成分が多過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0144】
比較例33では、心材のMg成分が多過ぎたため、ろう付性が不合格であった。
【0145】
比較例34では、心材のFe成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0146】
比較例35では、心材のTi、Zr、Cr及びV成分がそれぞれ多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0147】
比較例36では、心材のMn成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
【0148】
比較例37では、心材のCu成分が多過ぎたため、鋳造時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
【0149】
比較例38では、心材のMn成分が少な過ぎたため、ろう付後の引張強さが不合格であった。
【0150】
比較例39では、第二ろう材のSi成分が少な過ぎたため、第二ろう材のろう付性が不合格であった。
【0151】
比較例40では、第二ろう材のSi成分が多過ぎたため、第二ろう材のろう付性が不合格であった。
【0152】
比較例41では、第二ろう材のFe成分が多過ぎたため、第二ろう材のろう付性が不合格であった。
【0153】
比較例42では、第二ろう材のCu成分が多過ぎたため、鋳造時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0154】
比較例43では、第二ろう材のMn成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0155】
比較例44では、第二ろう材のTi、Zr、Cr及びV成分がそれぞれ多すぎたため、圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
【0156】
比較例45では、第二ろう材のNa成分が多過ぎたため、第二ろう材のろう付性が不合格であった。
【0157】
比較例46では、第二ろう材のSr成分が多過ぎたため、第二ろう材のろう付性が不合格であった。
【0158】
比較例47では、犠牲陽極材のSi成分が多過ぎたため、犠牲陽極材の耐食性が不合格であった。
【0159】
比較例48では、犠牲陽極材のFe成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0160】
比較例49では、犠牲陽極材のTi、Zr、Cr及びV成分がそれぞれ多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0161】
比較例50では、犠牲陽極材のZn成分が少な過ぎたため、犠牲陽極材の耐食性が不合格であった。
【0162】
比較例51では、犠牲陽極材のZn成分が多過ぎたため、犠牲陽極材の耐食性が不合格であった。
【0163】
比較例52では、犠牲陽極材のNi成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0164】
比較例53では、犠牲陽極材のMn成分が多過ぎたため、圧延時に割れが生じ、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0165】
比較例54では、犠牲陽極材のMg成分が多過ぎたため、クラッド熱延時に心材と犠牲陽極材が圧着されず、クラッド材を作製することができず製造性が不合格であった。
【0166】
比較例60では、第一ろう材の熱間圧延工程の加熱段階における400℃到達時までの昇温速度が遅過ぎたため、ろう付加熱後に適切なAl−Mn系化合物の分布を得られず、溶液A及びBにおける耐食性が不合格であった。
【0167】
比較例61では、第一ろう材の熱間圧延工程の加熱段階における400℃到達時から保持段階の保持温度到達時までの昇温速度が速過ぎたため、ろう付加熱後に適切なAl−Mn系金属間化合物の分布を得られず、溶液A及びBにおける耐食性が不合格であった。
【0168】
比較例62では、第一ろう材の熱間圧延工程の保持段階における保持温度が低過ぎたため、ろう付加熱後に適切なAl−Mn系金属間化合物の分布を得られず、溶液A及びBにおける耐食性が不合格であった。
【0169】
比較例63では、第一ろう材の熱間圧延工程の保持段階における保持時間が短過ぎたため、ろう付加熱後に適切なAl−Mn系金属間化合物の分布を得られず、溶液A及びBにおける耐食性が不合格であった。
【0170】
比較例64では、第一ろう材の熱間圧延中においてクラッド材の温度が400℃以上である時間が短過ぎたため、ろう付加熱後に適切なAl−Mn系金属間化合物の分布を得られず、溶液A及びBにおける耐食性が不合格であった。
【0171】
比較例65では、第一ろう材の熱間圧延工程における保持段階の加熱温度が高過ぎたため、第一ろう材が溶融してしまい、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、耐食性に優れ、フィン接合率、耐エロージョン性などのろう付性にも優れるので、特に自動車用熱交換器の流路形成部品として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0173】
1・・・プレート
2・・・コルゲートフィン
図1