(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋反応工程の2段階目以降における少なくとも一つの段階で、前記前駆体を加熱することにより、前記前駆体内部で架橋反応を起こさせる請求項1または2記載の積層フィルム。
前記架橋反応工程の2段階目以降における少なくとも一つの段階で、前記前駆体の、前記樹脂フィルムに対する粘着ピール強度をさらに向上させる請求項1から4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
前記樹脂フィルムが、長尺状の樹脂フィルムであり、前記長尺状の樹脂フィルム上に、前記前駆層および前記空隙層を連続的に形成した請求項1から12のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定および制限されない。本発明の積層フィルムは、前述のとおり、ロール状の積層フィルム(本発明の積層フィルムロール)であっても良い。本発明の積層フィルムロールは、例えば、その一部を切り出して、本発明の積層フィルムとして用いても良い。以下において「本発明の積層フィルム」という場合は、特に断らない限り、本発明の積層フィルムロールをも含むものとする。同様に、以下において「本発明の積層フィルムの製造方法」という場合は、特に断らない限り、本発明の積層フィルムロールの製造方法をも含むものとする。
【0016】
本発明の積層フィルムの製造方法において、前記架橋促進剤は、例えば、酸性物質または塩基性物質を含んでいても良い。この場合、例えば、前記前駆体形成工程では前記酸性物質または塩基性物質を発生させず、前記架橋反応工程において、光照射または加熱により前記酸性物質または塩基性物質を発生させる。
【0017】
本発明の積層フィルムの製造方法では、例えば、前記架橋反応工程の2段階目以降における少なくとも一つの段階で、前記前駆体を加熱することにより、前記前駆体内部で架橋反応を起こさせる。なお、本発明において、前記架橋反応工程は、前述のとおり多段階であり、具体的には、2段階でも良いし、3段階以上でも良い。
【0018】
前記架橋反応工程の2段階目以降における少なくとも一つの段階では、例えば、前記前駆体の強度をさらに向上させても良い。また、前記架橋反応工程の2段階目以降における少なくとも一つの段階では、例えば、前記前駆体の、前記樹脂フィルムに対する粘着ピール強度をさらに向上させても良い。
【0019】
本発明の積層フィルムの製造方法は、前述のとおり、前記前駆体が、光または熱により塩基性物質を発生する物質を含み、前記前駆体形成工程において、光照射または加熱により前記塩基性物質を発生させる。
【0020】
本発明の積層フィルムの製造方法において、前記空隙層は、例えば、微細な空隙構造を形成する一種類または複数種類の構成単位同士が直接的または間接的に化学的に結合している部分を含んでいても良い。また、例えば、前記空隙層において、構成単位同士が接触していても化学的に結合していない部分が存在していても良い。また、本発明において、構成単位同士が「間接的に結合している」とは、構成単位量以下の少量のバインダー成分を仲介して構成単位同士が結合していることを指す。構成単位同士が「直接的に結合している」とは、構成単位同士が、バインダー成分等を介さずに直接結合していることを指す。前記構成単位同士の結合は、例えば、触媒作用を介した結合でも良い。前記構成単位同士の結合は、例えば、水素結合もしくは共有結合を含んでいても良い。本発明において、前記空隙層を形成する前記構成単位は、例えば、粒子状、繊維状、平板状の少なくとも一つの形状を有する構造からなっていても良い。前記粒子状および平板状の構成単位は、例えば、無機物からなっていても良い。また、前記粒子状構成単位の構成元素は、例えば、Si、Mg、Al、Ti、ZnおよびZrからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含んでいても良い。粒子状を形成する構造体(構成単位)は、実粒子でも中空粒子でもよく、具体的にはシリコーン粒子や微細孔を有するシリコーン粒子、シリカ中空ナノ粒子やシリカ中空ナノバルーン等が挙げられる。繊維状の構成単位は、例えば、直径がナノサイズのナノファイバーであり、具体的にはセルロースナノファイバーやアルミナナノファイバー等が挙げられる。平板状の構成単位は、例えば、ナノクレイが挙げられ、具体的にはナノサイズのベントナイト(例えばクニピアF[商品名])等が挙げられる。前記繊維状の構成単位は、特に限定されないが、例えば、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、アルミナナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、ポリマーナノファイバー、ガラスナノファイバー、およびシリカナノファイバーからなる群から選択される少なくとも一つの繊維状物質であっても良い。また、前記構成単位は、例えば、微細孔粒子であっても良い。例えば、前記空隙層は、微細孔粒子同士が化学的に結合している多孔体であり、前記空隙層形成工程において、例えば、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させても良い。なお、本発明において、「粒子」(例えば、前記微細孔粒子等)の形状は、特に限定されず、例えば、球状でも良いが、他の形状でも良い。また、本発明において、前記微細孔粒子は、例えば、前述のとおり、ゾルゲル数珠状粒子、ナノ粒子(中空ナノシリカ・ナノバルーン粒子)、ナノ繊維等であっても良い。本発明の積層フィルムの製造方法において、前記微細孔粒子が、例えば、ケイ素化合物の微細孔粒子であり、前記多孔体が、シリコーン多孔体である。前記ケイ素化合物の微細孔粒子が、例えば、ゲル状シリカ化合物の粉砕体を含む。また、前記空隙層の別形態として、ナノファイバー等の繊維状物質からなり、前記繊維状物質が絡まり合い空隙を含む形で層を成している空隙層がある。このような空隙層の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記微細孔粒子同士が化学的に結合している多孔体の空隙層と同様である。さらに他にも、前述のとおり、中空ナノ粒子やナノクレイを用いた空隙層、中空ナノバルーンやフッ化マグネシウムを用いて形成した空隙層も含まれる。また、それらの空隙層は単一の構成物質からなる空隙層であってもよいし、また複数の構成物質からなる空隙層であってもよい。空隙層の形態も単一の前記形態であってもよいし、複数の前記形態からなる空隙層であってもよい。以下においては、主に、前記微細孔粒子同士が化学的に結合している多孔体の空隙層について説明する。
【0021】
本発明の積層フィルムの製造方法においては、例えば、前記微細孔粒子が、ケイ素化合物の微細孔粒子であり、前記多孔体が、シリコーン多孔体である。
【0022】
本発明の積層フィルムの製造方法においては、例えば、前記ケイ素化合物の微細孔粒子が、ゲル状シリカ化合物の粉砕体を含む。
【0023】
本発明の積層フィルムの製造方法においては、例えば、前記多孔体の多孔質構造が、孔構造が連続した連泡構造体である。
【0024】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記微細孔粒子を含む含有液を作製する含有液作製工程、前記樹脂フィルム上に前記含有液を塗工する塗工工程、および、塗工した前記塗工液を乾燥させる乾燥工程をさらに含み、前記架橋反応工程において、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる。
【0025】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記架橋反応工程において、前記微細孔粒子同士を触媒の作用により化学的に結合させる。例えば、前記架橋反応工程において、光照射または加熱により発生させる前記架橋反応促進剤が前記触媒であり、前記架橋反応促進剤の作用により前記微細孔粒子同士を化学的に結合させても良い。
【0026】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記架橋反応工程において、光照射により、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる。
【0027】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記架橋反応工程において、加熱により、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる。
【0028】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記空隙層の屈折率が、前記前駆体の屈折率に0.1を加えた数値以下である。
【0029】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記空隙層を、屈折率が1.25以下となるように形成する。
【0030】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記空隙層を、空隙率が40体積%以上となるように形成する。
【0031】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記空隙層を、厚みが0.01〜100μmとなるように形成する。
【0032】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記空隙層を、ヘイズ値が5%未満となるように形成する。
【0033】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記樹脂フィルムに対する前記空隙層の粘着ピール強度が1N/25mm以上となるように前記空隙層を形成する。
【0034】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記樹脂フィルムが、長尺状の樹脂フィルムであり、前記樹脂フィルム上に、前記前駆体および前記空隙層を連続的に形成する。また、本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前記のようにして製造した積層フィルムロール(本発明の積層フィルムロール)の一部を切り出して本発明の積層フィルムとしても良い。
【0035】
本発明の積層フィルムロールは、その製造方法は特に限定されないが、例えば、前記本発明の積層フィルムロールの製造方法により製造される積層フィルムロールである。また、本発明の積層フィルムは、その製造方法は特に限定されないが、例えば、前記本発明の積層フィルムの製造方法により製造される積層フィルムである。
【0036】
以下、本発明について、さらに具体的に説明する。
【0037】
[1.積層フィルムおよびその製造方法]
本発明の積層フィルムの製造方法は、前述のとおり、樹脂フィルム上に、空隙層の前駆体である空隙構造を形成する前駆体形成工程、および、前記前駆体形成工程後に、前記前駆体内部で架橋反応を起こさせる架橋反応工程、を含む。また、本発明の積層フィルムは、前述のとおり、前記本発明の積層フィルムの製造方法により製造される積層フィルムである。本発明の積層フィルムは、例えば、長尺状の積層フィルムロール(本発明の積層フィルムロール)であっても良い。
【0038】
[1−1.積層フィルム]
本発明の積層フィルムにおいて、前記樹脂フィルムは、特に制限されず、前記樹脂の種類は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、トリアセテート(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の、透明性に優れた熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0039】
本発明の積層フィルムロールまたは積層フィルムにおける前記空隙層(以下「本発明の空隙層」という。)は、例えば、前記樹脂フィルム上に、直接積層されてもよいし、他の層を介して積層されてもよい。
【0040】
本発明の積層フィルムは、例えば、前記空隙層と前記樹脂フィルムとを含み、前記樹脂フィルム上に前記空隙層が積層され、前記特性を有することを特徴とする低屈折材ということもできる。
【0041】
本発明の空隙層は、例えば、膜強度を示すベンコット(登録商標)による耐擦傷性試験の残存率が、60〜100%である。このような膜強度を有すれば、例えば、製造時の巻き取りや使用時等における物理的衝撃にも強い。前記耐擦傷性は、その下限が、例えば、60%以上、80%以上、90%以上であり、その上限が、例えば、100%以下、99%以下、98%以下であり、その範囲が、例えば、60〜100%、80〜99%、90〜98%である。
【0042】
前記耐擦傷性は、例えば、以下のような方法により測定することもできる。
【0043】
(耐擦傷性の評価)
(1) 本発明の積層フィルムを、直径15mmの円状にサンプリングし、空隙層に対し、ベンコット(登録商標)による摺動試験(耐擦傷性試験)を行う。摺動条件は、重り100g、10往復とする。
(2) 前記(1)の耐擦傷性試験を終えた前記空隙層に対し、目視で耐擦傷性を評価する。耐擦傷性試験後の傷の本数が0〜9本なら○、10本〜29本なら△、30本以上なら×と評価する。
【0044】
本発明の空隙層において、膜密度は、特に制限されず、その下限が、例えば、1g/cm
3以上、10g/cm
3以上、15g/cm
3以上であり、その上限が、例えば、50g/cm
3以下、40g/cm
3以下、30g/cm
3以下、2.1g/cm
3以下であり、その範囲が、例えば、5〜50g/cm
3、10〜40g/cm
3、15〜30g/cm
3、1〜2.1g/cm
3である。また、本発明の空隙層において、前記膜密度に基づく空孔率は、その下限が、例えば、50%以上、70%以上、85%以上であり、その上限が、例えば、98%以下、95%以下であり、その範囲が、例えば、50〜98%、70〜95%、85〜95%である。
【0045】
前記膜密度は、例えば、以下のような方法により測定でき、前記空孔率は、例えば、前記膜密度に基づいて、以下のようにして算出できる。
【0046】
(膜密度、空孔率の評価)
基材(アクリルフィルム)上に空隙層(本発明の空隙層)を形成した後、この積層体における前記空隙層について、X線回折装置(RIGAKU社製:RINT−2000)を用いて全反射領域のX線反射率を測定する。そして、Intensityと2θのフィッティグを行った後に、前記積層体(空隙層・基材)の全反射臨界角から膜密度(g/cm
3)を算出し、さらに、空孔率(P%)を、以下の式より算出する。
空孔率(P%)=45.48×膜密度(g/cm
3)+100(%)
【0047】
本発明の空隙層は、例えば、孔構造を有している。前記孔の空隙サイズは、空隙(孔)の長軸の直径および短軸の直径のうち、前記長軸の直径を指すものとする。空孔サイズは、特に限定されないが、例えば、2nm〜500nmである。前記空隙サイズは、その下限が、例えば、2nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上であり、その上限が、例えば、500nm以下、200nm以下、100nm以下であり、その範囲が、例えば、2nm〜500nm、5nm〜500nm、10nm〜200nm、20nm〜100nmである。空隙サイズは、空隙構造を用いる用途に応じて、好ましい空隙サイズが決まるため、例えば、目的に応じて、所望の空隙サイズに調整する必要がある。空隙サイズは、例えば、以下の方法により評価できる。
【0048】
(空隙サイズの評価)
本発明において、前記空隙サイズは、BET試験法により定量化できる。具体的には、比表面積測定装置(マイクロメリティック社製:ASAP2020)のキャピラリに、サンプル(本発明の空隙層)を0.1g投入した後、室温で24時間、減圧乾燥を行って、空隙構造内の気体を脱気する。そして、前記サンプルに窒素ガスを吸着させることで吸着等温線を描き、細孔分布を求める。これによって、空隙サイズが評価できる。
【0049】
本発明の空隙層は、例えば、前述のように孔構造(多孔質構造)を有していてもよく、例えば、前記孔構造が連続した連泡構造体であってもよい。前記連泡構造体とは、例えば、前記シリコーン多孔体において、三次元的に、孔構造が連なっていることを意味し、前記孔構造の内部空隙が連続している状態ともいえる。多孔質体が連泡構造を有する場合、これにより、バルク体中に占める空孔率を高めることが可能であるが、中空シリカのような独泡粒子を使用する場合は、連泡構造を形成できない。これに対して、本発明の空隙層は、例えば、シリカゾル粒子(ゾルを形成するゲル状ケイ素化合物の粉砕物)を使用する場合、前記粒子が三次元の樹状構造を有するために、塗工膜(前記ゲル状ケイ素化合物の粉砕物を含むゾルの塗工膜)中で、前記樹状粒子が沈降・堆積することで、容易に連泡構造を形成することが可能である。また、本発明の空隙層は、より好ましくは、連泡構造が複数の細孔分布を有するモノリス構造を形成することが好ましい。前記モノリス構造は、例えば、ナノサイズの微細な空隙が存在する構造と、同ナノ空隙が集合した連泡構造として存在する階層構造を指す。前記モノリス構造を形成する場合、例えば、微細な空隙で膜強度を付与しつつ、粗大な連泡空隙で高い空孔率を付与し、膜強度と高空孔率とを両立することができる。それらのモノリス構造を形成するには、例えば、まず、前記シリカゾル粒子に粉砕する前段階のゲル(ゲル状ケイ素化合物)において、生成する空隙構造の細孔分布を制御することが好ましい。また、例えば、前記ゲル状ケイ素化合物を粉砕する際、粉砕後のシリカゾル粒子の粒度分布を所望のサイズに制御することで、前記モノリス構造を形成させることができる。
【0050】
本発明の空隙層において、透明性を示すヘイズは、特に制限されず、その上限は、例えば、5%未満、または3%未満である。また、その下限は、例えば、0.1%以上、0.2%以上であり、その範囲が、例えば、0.1%以上5%未満、0.2%以上3%未満、である。
【0051】
前記ヘイズは、例えば、以下のような方法により測定できる。
【0052】
(ヘイズの評価)
空隙層(本発明の空隙層)を50mm×50mmのサイズにカットし、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製:HM−150)にセットしてヘイズを測定する。ヘイズ値については、以下の式より算出を行う。
ヘイズ(%)=[拡散透過率(%)/全光線透過率(%)]×100(%)
【0053】
前記屈折率は、一般に、真空中の光の波面の伝達速度と、媒質内の伝播速度との比を、その媒質の屈折率という。本発明の空隙層の屈折率は、その上限が、例えば、1.25以下、1.20以下、1.15以下であり、その下限が、例えば、1.05以上、1.06以上、1.07以上であり、その範囲が、例えば、1.05以上〜1.25以下、1.06以上〜1.20以下、1.07以上〜1.15以下である。
【0054】
本発明において、前記屈折率は、特に断らない限り、波長550nmにおいて測定した屈折率をいう。また、屈折率の測定方法は、特に限定されず、例えば、下記の方法により測定できる。
【0055】
(屈折率の評価)
アクリルフィルムに空隙層(本発明の空隙層)を形成した後に、50mm×50mmのサイズにカットし、これを粘着層でガラス板(厚み:3mm)の表面に貼合する。前記ガラス板の裏面中央部(直径20mm程度)を黒マジックで塗りつぶして、前記ガラス板の裏面で反射しないサンプルを調製する。エリプソメーター(J.A.Woollam Japan社製:VASE)に前記サンプルをセットし、500nmの波長、入射角50〜80度の条件で、屈折率を測定し、その平均値を屈折率とする。
【0056】
本発明の空隙層が、例えば、前記樹脂フィルム上に形成されている場合、前記樹脂フィルムとの密着性を示す粘着ピール強度は、特に制限されず、その下限が、例えば、1N/25mm以上、2N/25mm以上、3N/25mm以上であり、その上限が、例えば、30N/25mm以下、20N/25mm以下、10N/25mm以下であり、その範囲が、例えば、1〜30N/25mm、2〜20N/25mm、3〜10N/25mmである。
【0057】
前記粘着ピール強度の測定方法は、特に限定されず、例えば、下記の方法により測定できる。
【0058】
(粘着ピール強度の評価)
本発明の積層フィルムを、50mm×140mmの短冊状にサンプリングを行い、前記サンプルをステンレス板に両面テープで固定する。PETフィルム(T100:三菱樹脂フィルム社製)にアクリル粘着層(厚み20μm)を貼合し、25mm×100mmにカットした粘着テープ片を、前記本発明の積層フィルムの空隙層に貼合し、前記PETフィルムとのラミネートを行う。次に、前記サンプルを、オートグラフ引っ張り試験機(島津製作所社製:AG−Xplus)にチャック間距離が100mmになるようにチャッキングした後に、0.3m/minの引張速度で引っ張り試験を行う。50mmピール試験を行った平均試験力を、粘着ピール強度とする。
【0059】
本発明の空隙層の厚みは、特に制限されず、その下限が、例えば、0.01μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、0.3μm以上であり、その上限が、例えば、1000μm以下、100μm以下、80μm以下、50μm以下、10μm以下であり、その範囲が、例えば、0.01〜1000μmである。
【0060】
本発明の空隙層は、例えば、前述のようにゲル状化合物の粉砕物を含み、前記粉砕物同士が化学的に結合している。本発明の空隙層において、前記粉砕物同士の化学的な結合(化学結合)の形態は、特に制限されず、前記化学結合の具体例は、例えば、架橋結合等が挙げられる。なお、前記粉砕物同士を化学的に結合させる方法は、本発明の製造方法において、詳細を述べる。
【0061】
前記ゲル状化合物のゲル形態は、特に制限されない。「ゲル」とは、一般に、溶質が、相互作用のために独立した運動性を失って集合した構造をもち、固化した状態をいう。また、ゲルの中でも、一般に、ウェットゲルは、分散媒を含み、分散媒中で溶質が一様な構造をとるものをいい、キセロゲルは、溶媒が除去されて、溶質が、空隙を持つ網目構造をとるものをいう。本発明において、前記ゲル状化合物は、例えば、ウェットゲルでもよいし、キセロゲルでもよい。
【0062】
前記ゲル状化合物は、例えば、モノマー化合物をゲル化したゲル化物が挙げられる。具体的に、前記ゲル状ケイ素化合物は、例えば、前記モノマーのケイ素化合物が互いに結合したゲル化物、具体例として、前記モノマーのケイ素化合物が互いに水素結合または分子間力結合したゲル化物が挙げられる。前記結合は、例えば、脱水縮合による結合が挙げられる。前記ゲル化の方法は、本発明の製造方法において後述する。
【0063】
本発明の空隙層において、前記粉砕物の粒度バラツキを示す体積平均粒子径は、特に制限されず、その下限が、例えば、0.10μm以上、0.20μm以上、0.40μm以上であり、その上限が、例えば、2.00μm以下、1.50μm以下、1.00μm以下であり、その範囲が、例えば、0.10μm〜2.00μm、0.20μm〜1.50μm、0.40μm〜1.00μmである。前記粒度分布は、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法等の粒度分布評価装置、および走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡等により測定することができる。
【0064】
また、前記粉砕物の粒度バラツキを示す粒度分布は、特に制限されず、例えば、粒径0.4μm〜1μmの粒子が、50〜99.9重量%、80〜99.8重量%、90〜99.7重量%であり、または、粒径1μm〜2μmの粒子が、0.1〜50重量%、0.2〜20重量%、0.3〜10重量%である。前記粒度分布は、例えば、粒度分布評価装置または電子顕微鏡により測定することができる。
【0065】
本発明の空隙層において、前記ゲル状化合物の種類は、特に制限されない。前記ゲル状化合物としては、例えば、ゲル状ケイ素化合物が例示できる。以下に、ゲル状化合物がゲル状ケイ素化合物である場合を例として説明するが、本発明は、これには制限されない。
【0066】
前記架橋結合は、例えば、シロキサン結合である。シロキサン結合は、例えば、以下に示す、T2の結合、T3の結合、T4の結合が例示できる。本発明の空隙層がシロキサン結合を有する場合、例えば、いずれか一種の結合を有してもよいし、いずれか二種の結合を有してもよいし、三種全ての結合を有してもよい。前記シロキサン結合のうち、T2およびT3の比率が多いほど、可撓性に富み、ゲル本来の特性を期待できるが、膜強度が脆弱になる。一方で、前記シロキサン結合のうちT4比率が多いと、膜強度が発現しやすいが、空隙サイズが小さくなり、可撓性が脆くなる。このため、例えば、用途に応じて、T2、T3、T4比率を変えることが好ましい。
【0068】
本発明の空隙層が前記シロキサン結合を有する場合、T2、T3およびT4の割合は、例えば、T2を「1」として相対的に表した場合、T2:T3:T4=1:[1〜100]:[0〜50]、1:[1〜80]:[1〜40]、1:[5〜60]:[1〜30]である。
【0069】
また、本発明の空隙層は、例えば、含まれるケイ素原子がシロキサン結合していることが好ましい。具体例として、前記空隙層に含まれる全ケイ素原子のうち、未結合のケイ素原子(つまり、残留シラノール)の割合は、例えば、50%未満、30%以下、15%以下である。
【0070】
前記ゲル状化合物が、前記ゲル状ケイ素化合物の場合、前記モノマーのケイ素化合物は、特に制限されない。前記モノマーのケイ素化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。前記ゲル化ケイ素化合物が、前述のように、モノマーのケイ素化合物が互いに水素結合または分子間力結合したゲル化物の場合、式(1)のモノマー間は、例えば、それぞれの水酸基を介して水素結合できる。
【0072】
前記式(1)中、例えば、Xは、2、3または4であり、R
1は、直鎖もしくは分枝アルキル基、である。前記R
1の炭素数は、例えば、1〜6、1〜4、1〜2である。前記直鎖アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、前記分枝アルキル基は、例えば、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。前記Xは、例えば、3または4である。
【0073】
前記式(1)で表されるケイ素化合物の具体例としては、例えば、Xが3である下記式(1’)に示す化合物が挙げられる。下記式(1’)において、R
1は、前記式(1)と同様であり、例えば、メチル基である。R
1がメチル基の場合、前記ケイ素化合物は、トリス(ヒドロキシ)メチルシランである。前記Xが3の場合、前記ケイ素化合物は、例えば、3つの官能基を有する3官能シランである。
【0075】
また、前記式(1)で表されるケイ素化合物の具体例としては、例えば、Xが4である化合物が挙げられる。この場合、前記ケイ素化合物は、例えば、4つの官能基を有する4官能シランである。
【0076】
前記モノマーのケイ素化合物は、例えば、ケイ素化合物前駆体の加水分解物でもよい。前記ケイ素化合物前駆体としては、例えば、加水分解により前記ケイ素化合物を生成できるものであればよく、具体例として、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0078】
前記式(2)中、例えば、Xは、2、3または4であり、
R
1およびR
2は、それぞれ、直鎖もしくは分枝アルキル基であり、
R
1およびR
2は、同一でも異なっていても良く、
R
1は、Xが2の場合、互いに同一でも異なっていても良く、
R
2は、互いに同一でも異なっていても良い。
【0079】
前記XおよびR
1は、例えば、前記式(1)におけるXおよびR
1と同じである。また、前記R
2は、例えば、式(1)におけるR
1の例示が援用できる。
【0080】
前記式(2)で表されるケイ素化合物前駆体の具体例としては、例えば、Xが3である下記式(2’)に示す化合物が挙げられる。下記式(2’)において、R
1およびR
2は、それぞれ、前記式(2)と同様である。R
1およびR
2がメチル基の場合、前記ケイ素化合物前駆体は、トリメトキシ(メチル)シラン(以下、「MTMS」ともいう)である。
【0082】
前記モノマーのケイ素化合物は、例えば、低屈折率性に優れる点から、前記3官能シランが好ましい。また、前記モノマーのケイ素化合物は、例えば、強度(例えば、耐擦傷性)に優れる点から、前記4官能シランが好ましい。また、前記ゲル状ケイ素化合物の原料となる前記モノマーのケイ素化合物は、例えば、一種類のみを使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。具体例として、前記モノマーのケイ素化合物として、例えば、前記3官能シランのみを含んでもよいし、前記4官能シランのみを含んでもよいし、前記3官能シランと前記4官能シランの両方を含んでもよいし、さらに、その他のケイ素化合物を含んでもよい。前記モノマーのケイ素化合物として、二種類以上のケイ素化合物を使用する場合、その比率は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0083】
本発明の積層フィルムにおいて、前記空隙層は、例えば、前記微細な空隙構造を形成する一種類または複数種類の構成単位同士を化学的に結合させるための触媒を含んでいても良い。前記触媒の含有率は、特に限定されないが、前記構成単位の重量に対し、例えば、0.01〜20重量%、0.05〜10重量%、または0.1〜5重量%である。
【0084】
また、本発明の積層フィルムにおいて、前記空隙層は、例えば、さらに、前記微細な空隙構造を形成する一種類または複数種類の構成単位同士を間接的に結合させるための架橋補助剤を含んでいても良い。前記架橋補助剤の含有率は、特に限定されないが、例えば、前記構成単位の重量に対して0.01〜20重量%、0.05〜15重量%、または0.1〜10重量%である。
【0085】
本発明の空隙層の形態は、特に制限されないが、フィルム形状が通常である。
【0086】
本発明の空隙層は、例えば、ロール体である。また、本発明の空隙層は、例えば、前述のように、さらに樹脂フィルムを含み、長尺な前記樹脂フィルム上に、前記空隙層が形成されてもよい。この場合、本発明の積層フィルムには別の長尺フィルムが積層されていてもよく、前記樹脂フィルムと前記空隙層とを含む本発明の積層フィルムに、別の長尺樹脂フィルム(例えば、合紙、離型フィルム、表面保護フィルム等)を積層した後、ロール体に巻かれた形態であってもよい。
【0087】
本発明の積層フィルムの製造方法は、特に制限されないが、例えば、以下に示す本発明の製造方法により製造することができる。
【0088】
[1−2.積層フィルムの製造方法]
本発明の積層フィルムの製造方法は、前述のとおり、樹脂フィルム上に、空隙層の前駆体である空隙構造を形成する前駆体形成工程、および、前記前駆体形成工程後に、前記前駆体内部で架橋反応を起こさせる架橋反応工程、を含む。
【0089】
本発明の積層フィルムの製造方法においては、例えば、前述のとおり、前記空隙層は、微細孔粒子同士が化学的に結合している多孔体であり、前記前駆体形成工程において、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる。本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前述のとおり、前記微細孔粒子を含む含有液を作製する含有液作製工程、および、前記含有液を乾燥させる乾燥工程をさらに含み、前記前駆体形成工程において、前記乾燥体中の前記微細孔粒子同士を化学的に結合させて前記多孔体の前駆体を形成する。前記微細孔粒子を含む含有液(以下、「微細孔粒子含有液」または単に「含有液」という場合がある。)は、特に限定されないが、例えば、前記微細孔粒子を含む懸濁液である。なお、以下において、主に、前記微細孔粒子が、ゲル状化合物の粉砕物であり、前記空隙層がゲル状化合物の粉砕物を含む多孔体(好ましくはシリコーン多孔体)である場合について説明する。ただし、本発明は、前記微細孔粒子が、ゲル状化合物の粉砕物以外である場合も、同様に実施することができる。
【0090】
本発明の製造方法によれば、例えば、優れた低屈折率を示す空隙層が形成される。その理由は、例えば、以下のように推測されるが、本発明は、この推測には制限されない。
【0091】
本発明の製造方法で使用する前記粉砕物は、前記ゲル状ケイ素化合物を粉砕したものであるため、前記粉砕前のゲル状ケイ素化合物の三次元構造が、三次元基本構造に分散された状態となっている。そして、本発明の製造方法では、前記ゲル状ケイ素化合物の粉砕物を前記基材上に塗工することで、前記三次元基本構造に基づく多孔性構造の前駆体が形成される。つまり、本発明の製造方法によれば、前記ゲル状ケイ素化合物の三次元構造とは異なる、前記三次元基本構造の前記粉砕物から形成された新たな多孔構造が形成される。このため、最終的に得られる前記空隙層は、例えば、空気層と同程度に機能する低屈折率を奏することができる。また、本発明の製造方法においては、さらに、前記粉砕物同士を化学的に結合させるため、前記新たな三次元構造が固定化される。このため、最終的に得られる前記空隙層は、空隙を有する構造であるが、十分な強度と可撓性とを維持できる。このように、本発明の製造方法により得られる空隙層は、例えば、前記空気層の代替品として、低屈折性という機能の面において、また、強度と可撓性においても、有用である。また、前記空気層の場合、例えば、部材と部材とを、両者の間にスペーサー等を介することで間隙を設けて積層することにより、前記部材間に空気層を形成する必要があった。しかし、本発明の製造方法により得られる空隙層は、例えば、目的の部位に配置するのみで、前記空気層と同程度に機能する低屈折性を発揮させることができる。したがって、前述のように、前記空気層を形成するよりも、容易且つ簡便に、前記空気層と同程度に機能する低屈折性を、例えば、光学部材に付与することができる。
【0092】
さらに、本発明は、前記空隙層の前駆体である空隙構造を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体形成工程後に、前記前駆体内部で架橋反応を起こさせる架橋反応工程とを別工程として行う。さらに、前記架橋反応工程を多段階で行う。前記架橋反応工程を多段階で行うことにより、例えば、前記架橋反応工程を1段階で行うよりも、前記前駆体の強度をさらに向上させ、高空隙率と強度が両立した本発明の空隙層を得ることができる。このメカニズムは不明であるが、例えば、以下のように推測される。すなわち、前述のとおり、空隙層の形成と同時に触媒等により膜強度を向上させると、触媒反応の進行により、膜強度は向上するが空隙率が低下する問題があった。これは、例えば、触媒による微細孔粒子同士の架橋反応の進行により、前記微細孔粒子同士の架橋(化学的な結合)の数が増加することにより、結合は強固になるが空隙層全体が凝縮し空隙率が低下するためと考えられる。これに対し、前記前駆体形成工程と前記架橋反応工程とを別工程として行い、かつ、前記架橋反応工程を多段階で行うことにより、例えば、前記前駆体全体の形態をあまり変化させずに(例えば、全体の凝縮をあまり起こさずに)架橋(化学的な結合)の数を増加させることができると考えられる。ただし、これらは、推測可能なメカニズムの一例であり、本発明を限定しない。
【0093】
前記前駆体形成工程においては、例えば、一定の形状を有する粒子を積層させ、前記空隙層の前駆体を形成するが、この時の前記前駆体の強度は非常に弱い。その後、例えば、光もしくは熱活性触媒反応により、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させうることが可能な架橋反応促進剤(例えば、光塩基発生剤から発生した強塩基触媒等)を発生させる(架橋反応工程の1段階目)。効率よく短時間で反応を進めるためにさらに加熱エージング(架橋反応工程の2段階目)を行なうことにより、前記微細孔粒子同士の化学的な結合(架橋反応)がさらに進み強度が向上すると考えられる。具体例として、前記微細孔粒子が、ケイ素化合物の微細孔粒子(例えばゲル状シリカ化合物の粉砕体)であって、前記前駆体中に残留シラノール基(OH基)が存在する場合、前記残留シラノール基同士が架橋反応により化学的に結合すると考えられる。ただし、この説明も例示であり、本発明を限定しない。
【0094】
本発明の積層フィルムの製造方法は、特に記載しない限り、前記本発明の空隙層および積層フィルムの説明を援用できる。
【0095】
本発明の積層フィルムの製造方法において、前記ゲル状化合物およびその粉砕物、前記モノマー化合物および前記モノマー化合物の前駆体は、前記本発明の空隙層および積層フィルムにおける説明を援用できる。
【0096】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、以下のようにして行うことができるが、これには限定されない。
【0097】
本発明の積層フィルムの製造方法は、例えば、前述のように、前記微細孔粒子を含む含有液を作製する含有液作製工程を有する。前記微細孔粒子がゲル状化合物の粉砕物である場合は、前記粉砕物は、例えば、前記ゲル状化合物を粉砕して得られる。前記ゲル状化合物の粉砕によって、前述のように、前記ゲル状化合物の三次元構造が破壊され、三次元基本構造に分散される。
【0098】
以下に、前記モノマー化合物のゲル化による前記ゲル状化合物の生成、前記ゲル状化合物の粉砕による粉砕物の調製について、例を挙げて説明するが、本発明は、以下の例示には制限されない。
【0099】
前記モノマー化合物のゲル化は、例えば、前記モノマー化合物を、互いに水素結合させることまたは分子間力結合させることで行うことができる。
【0100】
前記モノマー化合物は、例えば、前記本発明の空隙層において述べた前記式(1)で表されるケイ素化合物が挙げられる。
【0102】
前記式(1)のケイ素化合物は、水酸基を有するため、前記式(1)のモノマー間は、例えば、それぞれの水酸基を介して、水素結合または分子間力結合が可能である。
【0103】
また、前記ケイ素化合物は、前述のように、前記ケイ素化合物前駆体の加水分解物でもよく、例えば、前記本発明の空隙層において述べた前記式(2)で表されるケイ素化合物前駆体を、加水分解して生成してもよい。
【0105】
前記モノマー化合物前駆体の加水分解の方法は、特に制限されず、例えば、触媒存在下での化学反応により行うことができる。前記触媒としては、例えば、シュウ酸、酢酸等の酸等が挙げられる。前記加水分解反応は、例えば、シュウ酸の水溶液を、前記ケイ素化合物とジメチルスルホキシドとの混合液(例えば懸濁液)に、室温環境下でゆっくり滴下混合させた後に、そのまま30分程度撹拌することで行うことができる。前記ケイ素化合物前駆体を加水分解する際は、例えば、前記ケイ素化合物前駆体のアルコキシ基を完全に加水分解することで、その後のゲル化・熟成・空隙構造形成後の加熱・固定化を、さらに効率良く発現することができる。
【0106】
前記モノマー化合物のゲル化は、例えば、前記モノマー間の脱水縮合反応により行うことができる。前記脱水縮合反応は、例えば、触媒存在下で行うことが好ましく、前記触媒としては、例えば、塩酸、シュウ酸、硫酸等の酸触媒、およびアンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の塩基触媒(塩基性触媒)等の、脱水縮合触媒が挙げられる。前記脱水縮合触媒は、塩基触媒が特に好ましい。前記脱水縮合反応において、前記モノマー化合物に対する前記触媒の添加量は、特に制限されず、前記モノマー化合物1モルに対して、触媒は、例えば、0.1〜10モル、0.05〜7モル、0.1〜5モルである。
【0107】
前記モノマー化合物のゲル化は、例えば、溶媒中で行うことが好ましい。前記溶媒における前記モノマー化合物の割合は、特に制限されない。前記溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、γ−ブチルラクトン(GBL)、アセトニトリル(MeCN)、エチレングリコールエチルエーテル(EGEE)等が挙げられる。前記溶媒は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記ゲル化に使用する溶媒を、以下、「ゲル化用溶媒」ともいう。
【0108】
前記ゲル化の条件は、特に制限されない。前記モノマー化合物を含む前記溶媒に対する処理温度は、例えば、20〜30℃、22〜28℃、24〜26℃であり、処理時間は、例えば、1〜60分、5〜40分、10〜30分である。前記脱水縮合反応を行う場合、その処理条件は、特に制限されず、これらの例示を援用できる。前記ゲル化を行うことで、例えば、シロキサン結合が成長し、シリカ一次粒子が形成され、さらに反応が進行することで、前記一次粒子同士が、数珠状に連なり三次元構造のゲルが生成される。
【0109】
前記ゲル化により得られた前記ゲル状化合物は、ゲル化反応の後、熟成処理を施すことが好ましい。前記熟成処理により、例えば、ゲル化で得られた三次元構造を有するゲルの一次粒子をさらに成長させることで、粒子自体のサイズを大きくすることが可能であり、結果的には、粒子同士が接触しているネック部分の接触状態を、点接触から面接触に増やすことができる。上記のような熟成処理を行ったゲルは、例えば、ゲル自体の強度が増加し、結果的には、粉砕を行った後の三次元基本構造の強度を向上できる。これにより、例えば、前記粉砕物を塗工した後の乾燥工程において、前記三次元基本構造が堆積した空隙構造の細孔サイズが、乾燥過程の溶媒揮発に伴って収縮することを抑制できる。
【0110】
前記熟成処理は、例えば、所定の温度で所定の時間、前記ゲル状化合物をインキュベートすることにより行える。前記所定の温度は、特に制限されず、その下限が、例えば、30℃以上、35℃以上、40℃以上であり、その上限が、例えば、80℃以下、75℃以下、70℃以下であり、その範囲が、例えば、30〜80℃、35〜75℃、40〜70℃である。前記所定の時間は、特に制限されず、その下限が、例えば、5時間以上、10時間以上、15時間以上であり、その上限が、例えば、50時間以下、40時間以下、30時間以下であり、その範囲が、例えば、5〜50時間、10〜40時間、15〜30時間である。なお、熟成の最適な条件については、例えば、前記のシリカ一次粒子サイズの増大、およびネック部分の接触面積の増大が得られる条件が主目的である。さらには、使用している溶媒の沸点を考慮することが好ましく、例えば、熟成温度が高すぎると、溶媒が過剰に揮発してしまい、塗工液(ゲル液)濃度の濃縮により三次元空隙構造の細孔が閉口する等の不具合が生じる可能性がある。一方で、例えば、熟成温度が低すぎる場合は、前記の熟成による効果が十分に得られないばかりでなく、量産プロセスの経時での温度バラツキが増大することとなり、品質に劣る製品ができる可能性がある。
【0111】
前記熟成処理は、例えば、前記ゲル化処理と同じ溶媒を使用でき、具体的には、前記ゲル処理後の反応物(つまり、前記ゲル状化合物を含む前記溶媒)に対して、そのまま施すことが好ましい。ゲル化後の熟成処理を終えた前記ゲル(前記ゲル状化合物、例えば、前記ゲル状ケイ素化合物)に含まれる残留シラノール基のモル数は、例えば、添加した原材料(例えば、前記モノマー化合物前駆体)のアルコキシ基のモル数を100とした場合の残留シラノール基の割合であり、その下限が、例えば、1%以上、3%以上、5%以上であり、その上限が、例えば、50%以下、40%以下、30%以下であり、その範囲が、例えば、1〜50%、3〜40%、5〜30%である。ゲルの硬度を上げる目的では、例えば、残留シラノール基のモル数が低いほど好ましい。シラノール基のモル数が高すぎると、例えば、シリコーン多孔体の前駆体が架橋されるまでに、空隙構造を保持できなくなる可能性がある。一方で、シラノール基のモル数が低すぎると、例えば、前記微細孔粒子含有液(例えば懸濁液)を作製する工程および/またはその後の工程において、ゲル状化合物の粉砕物を架橋できなくなり、十分な膜強度を付与できなくなる可能性がある。なお、上記はシラノール基の例であるが、例えば、モノマーのケイ素化合物を各種反応性官能基で修飾した場合は、各々の官能基に対しても同様の現象を適用できるものとする。
【0112】
前記モノマー化合物を前記ゲル化用溶媒中でゲル化した後、得られたゲル状化合物を粉砕する。前記粉砕は、例えば、前記ゲル化用溶媒中のゲル状化合物に対して、そのまま粉砕処理を施してもよいし、前記ゲル化用溶媒を他の溶媒に置換してから、前記他の溶媒中のゲル状化合物に対して、粉砕処理を施してもよい。また、例えば、ゲル化反応に用いた触媒および用いた溶媒が、熟成工程後も残存することで、液の経時ゲル化(ポットライフ)、乾燥工程時の乾燥効率低下を発生させる場合は、他の溶媒に置換することが好ましい。前記他の溶媒を、以下、「粉砕用溶媒」ともいう。
【0113】
前記粉砕用溶媒は、特に制限されず、例えば、有機溶媒が使用できる。前記有機溶媒は、例えば、沸点130℃以下、沸点100℃以下、沸点85℃以下の溶媒が挙げられる。具体例としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルセロソルブ、アセトン、ジメチルホムアミド(DMF)等が挙げられる。前記粉砕用溶媒は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上の併用でもよい。
【0114】
前記ゲル化用溶媒と前記粉砕用溶媒との組合せは、特に制限されず、例えば、DMSOとIPAとの組合せ、DMSOとエタノール、DMSOとメタノール、DMSOとブタノールの組合せ等が挙げられる。このように、前記ゲル化用溶媒を前記粉砕用溶媒に置換することで、例えば、後述する塗膜形成において、より均一な塗工膜を形成することができる。
【0115】
前記ゲル状化合物の粉砕方法は、特に制限されず、例えば、超音波ホモジナイザー、高速回転ホモジナイザー、その他のキャビテーション現象を用いる粉砕装置もしくは高圧で液同士を斜向衝突させる粉砕装置等により行うことができる。ボールミル等のメディア粉砕を行う装置は、例えば、粉砕時にゲルの空隙構造を物理的に破壊するのに対し、ホモジナイザー等の本発明に好ましいキャビテーション方式粉砕装置は、例えば、メディアレス方式のため、ゲル三次元構造にすでに内包されている比較的弱い結合のシリカ粒子接合面を、高速のせん断力で剥離する。これにより、得られるゾル三次元構造は、例えば、一定範囲の粒度分布をもつ空隙構造を保持することができ、塗工・乾燥時の堆積による空隙構造を再形成できる。前記粉砕の条件は、特に制限されず、例えば、瞬間的に高速の流れを与えることで、溶媒を揮発させることなくゲルを粉砕することができることが好ましい。例えば、前述のような粒度バラツキ(例えば、体積平均粒子径または粒度分布)の粉砕物となるように粉砕することが好ましい。仮に粉砕時間・強度等の仕事量が不足した場合は、例えば、粗粒が残ることとなり緻密な細孔を形成できないばかりか外観欠点も増加し高い品質を得ることができない可能性がある。一方で、仕事量が過多な場合は、例えば、所望の粒度分布よりも微細なゾル粒子となり、塗工・乾燥後に堆積した空隙サイズが微細となり、所望の空孔率に満たない可能性がある。
【0116】
以上のようにして、前記微細孔粒子(ゲル状化合物の粉砕物)を含む液(例えば懸濁液)を作製することができる。さらに、前記微細孔粒子を含む液を作製した後に、または作製工程中に、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒を加えることにより、前記微細孔粒子および前記触媒を含む含有液を作製することができる。前記触媒の添加量は、特に限定されないが、前記微細孔粒子(ゲル状化合物の粉砕物)の重量に対し、例えば、0.01〜20重量%、0.05〜10重量%、または0.1〜5重量%である。前記触媒は、例えば、前記微細孔粒子同士の架橋結合を促進する触媒(架橋反応促進剤)であっても良い。前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる化学反応としては、シリカゾル分子に含まれる残留シラノール基の脱水縮合反応を利用することが好ましい。シラノール基の水酸基同士の反応を前記触媒で促進することで、短時間で空隙構造を硬化させる連続成膜が可能である。前記触媒としては、例えば、光活性触媒および熱活性触媒が挙げられる。前記光活性触媒によれば、例えば、前記前駆体形成工程において、加熱によらずに前記微細孔粒子同士を化学的に結合(例えば架橋結合)させることができる。これによれば、例えば、前記前駆体形成工程において、前記前駆体全体の収縮が起こりにくいため、より高い空隙率を維持できる。また、前記触媒に加え、またはこれに代えて、触媒を発生する物質(触媒発生剤)を用いても良い。例えば、前記触媒が架橋反応促進剤であり、前記触媒発生剤が、前記架橋反応促進剤を発生する物質でも良い。例えば、前記光活性触媒に加え、またはこれに代えて、光により触媒を発生する物質(光触媒発生剤)を用いても良いし、前記熱活性触媒に加え、またはこれに代えて、熱により触媒を発生する物質(熱触媒発生剤)を用いても良い。前記光触媒発生剤としては、特に限定されないが、例えば、光塩基発生剤(光照射により塩基性触媒を発生する物質)、光酸発生剤(光照射により酸性触媒を発生する物質)等が挙げられ、光塩基発生剤が好ましい。前記光塩基発生剤としては、例えば、9−アントリルメチル N,N−ジエチルカルバメート(9-anthrylmethyl N,N-diethylcarbamate、商品名WPBG−018)、(E)−1−[3−(2−ヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]ピペリジン((E)-1-[3-(2-hydroxyphenyl)-2-propenoyl]piperidine、商品名WPBG−027)、1−(アントラキノン−2−イル)エチル イミダゾールカルボキシレート(1-(anthraquinon-2-yl)ethyl imidazolecarboxylate、商品名WPBG−140)、2−ニトロフェニルメチル 4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−カルボキシラート(商品名WPBG−165)、1,2−ジイソプロピル−3−〔ビス(ジメチルアミノ)メチレン〕グアニジウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート(商品名WPBG−266)、1,2−ジシクロヘキシル−4,4,5,5−テトラメチルビグアニジウム n−ブチルトリフェニルボラート(商品名WPBG−300)、および2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(東京化成工業株式会社)、4-ピペリジンメタノールを含む化合物(商品名HDPD-PB100:ヘレウス社製)等が挙げられる。なお、前記「WPBG」を含む商品名は、いずれも和光純薬工業株式会社の商品名である。前記光酸発生剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩(商品名SP-170:ADEKA社)、トリアリールスルホニウム塩(商品名CPI101A:サンアプロ社)、芳香族ヨードニウム塩(商品名Irgacure250:チバ・ジャパン社)等が挙げられる。また、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒は、前記光活性触媒および前記光触媒発生剤に限定されず、例えば、熱活性触媒または尿素のような熱触媒発生剤でも良い。前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の塩基触媒、塩酸、酢酸、シュウ酸等の酸触媒等が挙げられる。これらの中で、塩基触媒が好ましい。前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒もしくは触媒発生剤は、例えば、前記粉砕物(微細孔粒子)を含むゾル粒子液(例えば懸濁液)に、塗工直前に添加して使用する、または前記触媒もしくは触媒発生剤を溶媒に混合した混合液として使用することができる。前記混合液は、例えば、前記ゾル粒子液に直接添加して溶解した塗工液、前記触媒もしくは触媒発生剤を溶媒に溶解した溶液、または、前記触媒もしくは触媒発生剤を溶媒に分散した分散液でもよい。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液等が挙げられる。
【0117】
また、例えば、前記微細孔粒子が、3官能以下の飽和結合官能基を少なくとも含むケイ素化合物から得られたゲル状ケイ素化合物の粉砕物である場合、前記微細孔粒子を含む液を作製した後に、または作製工程中に、さらに、前記微細孔粒子同士を間接的に結合させるための架橋補助剤を添加してもよい。この架橋補助剤が、粒子同士の間に入り込み、粒子と架橋補助剤が各々相互作用もしくは結合することで、距離的に多少離れた粒子同士も結合させることが可能であり、効率よく強度を上げることが可能となる。前記架橋補助剤としては、多架橋シランモノマーが好ましい。前記多架橋シランモノマーは、具体的には、例えば、2以上3以下のアルコキシシリル基を有し、アルコキシシリル基間の鎖長が炭素数1以上10以下であっても良く、炭素以外の元素も含んでもよい。前記架橋補助剤としては、例えば、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,3-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,3-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ブタン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)-N-ブチル-N-プロピル-エタン-1,2-ジアミン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス-(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらの中でも、特に、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタンもしくは1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンが好ましい。この架橋補助剤の添加量としては、特に限定されないが、例えば、前記ケイ素化合物の微細孔粒子の重量に対して0.01〜20重量%、0.05〜15重量%、または0.1〜10重量%である。
【0118】
つぎに、樹脂フィルム(以下「基材」という場合がある。)上に前記微細孔粒子を含む含有液(例えば懸濁液)を塗工する(塗工工程)。前記塗工は、例えば、後述する各種塗工方式を用いることができ、また、これらに限定されない。前記微細孔粒子(例えばゲル状シリカ化合物の粉砕物)を含む含有液を、前記樹脂フィルム上に直接塗工することにより、前記微細孔粒子および前記触媒を含む塗工膜を形成することができる。前記塗工膜は、例えば、塗工層ということもできる。前記塗工膜を形成することにより、例えば、前記三次元構造が破壊された前記粉砕物が沈降・堆積することによって、新たな三次元構造が構築される。なお、例えば、前記微細孔粒子を含む含有液が、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒を含まなくても良い。例えば、後述するように、前記塗工膜に、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒を吹き付けてから、または吹き付けながら前記前駆体形成工程を行っても良い。しかし、前記微細孔粒子を含む含有液が、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させる触媒を含み、前記塗工膜中に含まれる前記触媒の作用により、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させて前記多孔体の前駆体を形成しても良い。
【0119】
前記溶媒(以下、「塗工用溶媒」ともいう)は、特に制限されず、例えば、有機溶媒が使用できる。前記有機溶媒は、例えば、沸点150℃以下の溶媒が挙げられる。具体例としては、例えば、IPA、エタノール、メタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、ペンタノール等が挙げられ、また、前記粉砕用溶媒と同様のものが使用できる。本発明が、前記ゲル状化合物を粉砕する工程を含む場合、前記塗工膜の形成工程においては、例えば、前記ゲル状化合物の粉砕物を含む前記粉砕用溶媒を、そのまま使用してもよい。
【0120】
前記塗工工程においては、例えば、前記溶媒に分散させたゾル状の前記粉砕物(以下、「ゾル粒子液」ともいう)を、前記基材上に塗工することが好ましい。本発明のゾル粒子液は、例えば、基材上に塗工・乾燥した後に、前記化学架橋を行うことで、一定レベル以上の膜強度を有する空隙層を、連続成膜することが可能である。なお、本発明における「ゾル」とは、ゲルの三次元構造を粉砕することで、空隙構造の一部を保持したナノ三次元構造のシリカゾル粒子が溶媒中に分散して流動性を示す状態をいう。
【0121】
前記溶媒における前記粉砕物の濃度は、特に制限されず、例えば、0.3〜50%(v/v)、0.5〜30%(v/v)、1.0〜10%(v/v)である。前記粉砕物の濃度が高すぎると、例えば、前記ゾル粒子溶液の流動性が著しく低下し、塗工時の凝集物・塗工スジを発生させる可能性がある。一方で、前記粉砕物の濃度が低すぎると、例えば、前記ゾル粒子液の溶媒の乾燥に相当の時間がかかるだけでなく、乾燥直後の残留溶媒も高くなるために、空孔率が低下してしまう可能性がある。
【0122】
前記ゾルの物性は、特に制限されない。前記ゾルのせん断粘度は、例えば、10001/sのせん断速度において、例えば、粘度100cPa・s以下、粘度10cPa・s以下、粘度1cPa・s以下である。せん断粘度が高すぎると、例えば、塗工スジが発生し、グラビア塗工の転写率の低下等の不具合が見られる可能性がある。逆に、せん断粘度が低すぎる場合は、例えば、塗工時のウェット塗布(塗工)厚みを厚くすることができず、乾燥後に所望の厚みが得られない可能性がある。
【0123】
前記基材に対する前記粉砕物の塗工量は、特に制限されず、例えば、所望の前記シリコーン多孔体の厚み等に応じて、適宜設定できる。具体例として、厚み0.1〜1000μmの前記シリコーン多孔体を形成する場合、前記基材に対する前記粉砕物の塗工量は、前記基材の面積1m
2あたり、例えば、0.01〜60000μg、0.1〜5000μg、1〜50μgである。前記ゾル粒子液の好ましい塗工量は、例えば、液の濃度や塗工方式等と関係するため、一義的に定義することは難しいが、生産性を考慮すると、できるだけ薄層で塗工することが好ましい。塗工量(塗布量)が多すぎると、例えば、溶媒が揮発する前に乾燥炉で乾燥される可能性が高くなる。これにより、溶媒中でナノ粉砕ゾル粒子が沈降・堆積し、空隙構造を形成する前に、溶媒が乾燥することで、空隙の形成が阻害されて空孔率が大きく低下する可能性がある。一方で、塗工量が薄過ぎると、基材の凹凸・親疎水性のバラツキ等により塗工ハジキが発生するリスクが高くなる可能性がある。
【0124】
さらに、本発明の製造方法は、例えば、前述のように、前記樹脂フィルム上に、前記空隙層の前駆体である空隙構造を形成する前駆体形成工程を有する。前記前駆体形成工程は、特に限定されないが、例えば、前記微細孔粒子含有液を塗工して作製された前記塗工膜を乾燥させる乾燥工程により、前記前駆体(空隙構造)を形成しても良い。前記乾燥工程における乾燥処理によって、例えば、前記塗工膜中の前記溶媒(前記ゾル粒子液に含まれる溶媒)を除去するだけでなく、乾燥処理中に、ゾル粒子を沈降・堆積させ、空隙構造を形成させることを目的としている。前記乾燥処理の温度は、例えば、50〜250℃、60〜150℃、70〜130℃であり、前記乾燥処理の時間は、例えば、0.1〜30分、0.2〜10分、0.3〜3分である。乾燥処理温度、および時間については、例えば、連続生産性や高い空孔率の発現の関連では、より低く短いほうが好ましい。条件が厳しすぎると、例えば、基材が樹脂フィルムの場合、前記基材のガラス転移温度に近づくことで、前記基材が乾燥炉の中で伸展してしまい、塗工直後に、形成された空隙構造にクラック等の欠点が発生する可能性がある。一方で、条件が緩すぎる場合、例えば、乾燥炉を出たタイミングで残留溶媒を含むため、次工程でロールと擦れた際に、スクラッチ傷が入る等の外観上の不具合が発生する可能性がある。
【0125】
前記乾燥処理は、例えば、自然乾燥でもよいし、加熱乾燥でもよいし、減圧乾燥でもよい。前記乾燥方法は、特に制限されず、例えば、一般的な加熱手段が使用できる。前記加熱手段は、例えば、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター等が挙げられる。中でも、工業的に連続生産することを前提とした場合は、加熱乾燥を用いることが好ましい。また、使用される溶媒については、乾燥時の溶媒揮発に伴う収縮応力の発生、それによる空隙層(前記シリコーン多孔体)のクラック現象を抑える目的で、表面張力が低い溶媒が好ましい。前記溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)に代表される低級アルコール、ヘキサン、ペルフルオロヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記IPA等にペルフルオロ系界面活性剤もしくはシリコン系界面活性剤を少量添加し表面張力を低下させてもよい。
【0126】
さらに、本発明の積層フィルムの製造方法は、前述のとおり、前記前駆体形成工程後に、前記前駆体内部で架橋反応を起こさせる架橋反応工程を含み、前記架橋反応工程において、光照射または加熱により前記架橋反応促進剤を発生させ、かつ、前記架橋反応工程が多段階である。前記架橋反応工程の1段階目では、例えば、前記微細孔粒子同士を前記架橋反応促進剤(例えば、酸性物質または塩基性物質)の作用により化学的に結合させる。これにより、例えば、前記塗工膜(前駆体)における前記粉砕物の三次元構造が、固定化される。従来の焼結による固定化を行う場合は、例えば、200℃以上の高温処理を行うことで、シラノール基の脱水縮合、シロキサン結合の形成を誘発する。本発明においては、上記の脱水縮合反応を触媒する各種添加剤を反応させることで、例えば、前記基材(樹脂フィルム)にダメージを起こすことなく、100℃前後の比較的低い乾燥温度、および数分未満の短い処理時間で、連続的に空隙構造を形成、固定化することができる。
【0127】
前記化学的に結合させる方法は、特に制限されず、例えば、前記ゲル状ケイ素化合物の種類に応じて、適宜決定できる。具体例として、前記化学的な結合は、例えば、前記粉砕物同士の化学的な架橋結合により行うことができ、その他にも、例えば、酸化チタン等の無機粒子等を、前記粉砕物に添加した場合、前記無機粒子と前記粉砕物とを化学的に架橋結合させることも考えられる。また、酵素等の生体触媒を担持させる場合も、触媒活性点とは別の部位と前記粉砕物とを化学架橋結合させる場合もある。したがって、本発明は、例えば、前記ゾル粒子同士で形成する空隙層(シリコーン多孔体)だけでなく、有機無機ハイブリッド空隙層、ホストゲスト空隙層等の応用展開が考えられるが、これらに限定されない。
【0128】
前記触媒(架橋反応促進剤)存在下での化学反応は、本発明の製造方法におけるどの段階で行う(起こる)かは、特に限定されないが、例えば、前記多段階の架橋反応工程における少なくとも一つの段階で行う。例えば、本発明の積層フィルムの製造方法では、前述のとおり、前記乾燥工程が前記前駆体形成工程を兼ねていても良い。また、例えば、前記乾燥工程後に、前記多段階の架橋反応工程を行い、その少なくとも一つの段階で、前記微細孔粒子同士を前記触媒の作用により化学的に結合させても良い。例えば、前述のとおり、前記触媒(架橋反応促進剤)が光活性触媒であり、前記架橋反応工程において、光照射により、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させても良い。また、前記触媒が、熱活性触媒であり、前記架橋反応工程において、加熱により、前記微細孔粒子同士を化学的に結合させても良い。
【0129】
前記化学反応は、例えば、事前に前記ゾル粒子液(例えば懸濁液)に添加された前記触媒発生剤(架橋反応促進剤を発生する物質)を含む前記塗工膜に対し光照射もしくは加熱、または、前記塗工膜に、前記触媒発生剤(架橋反応促進剤を発生する物質)を吹き付けてから光照射もしくは加熱、または、前記触媒発生剤(架橋反応促進剤を発生する物質)を吹き付けながら光照射もしくは加熱することによって、行うことができる。前記光照射における積算光量は、特に限定されないが、@360nm換算で、例えば、200〜800mJ/cm
2、250〜600mJ/cm
2、または300〜400mJ/cm
2である。照射量が十分でなく触媒発生剤の光吸収による分解が進まず効果が不十分となることを防止する観点からは、200mJ/cm
2以上の積算光量が良い。また、空隙層下の基材にダメージがかかり熱ジワが発生することを防止する観点からは、800mJ/cm
2以下の積算光量が良い。前記加熱処理の条件は、特に制限されず、前記加熱温度は、例えば、50〜250℃、60〜150℃、70〜130℃であり、前記加熱時間は、例えば、0.1〜30分、0.2〜10分、0.3〜3分である。または、前述のとおり塗工された前記ゾル粒子液(例えば懸濁液)を乾燥する工程が、前記触媒存在下での化学反応を行う工程を兼ねていても良い。すなわち、塗工された前記ゾル粒子液(例えば懸濁液)を乾燥する工程において、前記触媒存在下での化学反応により、前記粉砕物(微細孔粒子)同士を化学的に結合させても良い。この場合において、前記乾燥工程後に前記塗工膜をさらに加熱することにより、前記粉砕物(微細孔粒子)同士をさらに強固に結合させても良い。さらに、前記触媒存在下での化学反応は、前記微細孔粒子含有液(例えば懸濁液)を作製する工程、および、前記微細孔粒子含有液を塗工する工程においても起こる場合があると推測される。しかしながら、この推測は、本発明を何ら限定しない。また、使用される溶媒については、例えば、乾燥時の溶媒揮発に伴う収縮応力の発生、それによる空隙層のクラック現象を抑える目的で、表面張力が低い溶媒が好ましい。例えば、イソプロピルアルコール(IPA)に代表される低級アルコール、ヘキサン、ペルフルオロヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
本発明では、前記架橋反応工程が多段階であることにより、例えば、前記架橋反応工程が1段階の場合よりも、前記空隙層の強度をさらに向上させることができる。以下、前記架橋反応工程の2段階目以降の工程を「エージング工程」という場合がある。前記エージング工程においては、例えば、前記前駆体を加熱することにより、前記前駆体内部で架橋反応をさらに促進させても良い。前記架橋反応工程において起こる現象およびメカニズムは不明であるが、例えば、前述のとおりである。例えば、前記エージング工程においては、例えば、加熱温度を低温にすることで、前記前駆体の収縮を抑制しながら架橋反応を起こさせることで強度を向上させ、高空隙率と強度の両立を達成できる。前記エージング工程における温度は、例えば40〜70℃、45〜65℃、50〜60℃である。前記エージング工程を行う時間は、例えば10〜30hr、13〜25hr、15〜20hrである。
【0131】
以上のようにして、本発明の積層フィルムの製造方法を行うことができる。本発明の製造方法により製造される積層フィルムは、強度に優れるため、例えば、ロール状の多孔体とすることができ、製造効率が良い、取り扱いやすい等の利点がある。
【0132】
このようにして得られる本発明の積層フィルム(空隙層)は、例えば、さらに、他のフィルム(層)と積層して、前記多孔質構造を含む積層構造体としてもよい。この場合、前記積層構造体において、各構成要素は、例えば、粘着剤または接着剤を介して積層させてもよい。
【0133】
前記各構成要素の積層は、例えば、効率的であることから、長尺フィルムを用いた連続処理(いわゆるRoll to Roll等)により積層を行ってもよく、基材が成形物・素子等の場合はバッチ処理を行ったものを積層してもよい。
【0134】
以下に、基材(樹脂フィルム)上に前記本発明の空隙層を形成する方法について、連続処理工程に関して、
図1〜3を用いて例をあげて説明する。
図2については、前記シリコーン多孔体を製膜した後に、保護フィルムを貼合して巻き取る工程を示しているが、別の機能性フィルムに積層を行う場合は、上記の手法を用いてもよいし、別の機能性フィルムを塗工、乾燥した後に、上記成膜を行った前記シリコーン多孔体を、巻き取り直前に貼り合せることも可能である。なお、図示した製膜方式はあくまで一例であり、これらに限定されない。
【0135】
なお、前記基材は、本発明の空隙層の説明において前述した樹脂フィルムでもよい。この場合、前記基材上への前記空隙層の形成により、本発明の空隙層が得られる。また、前記基材上で前記空隙層を形成した後、前記空隙層を、本発明の空隙層の説明において前述した樹脂フィルムに積層することによっても、本発明の空隙層が得られる。
【0136】
図1の断面図に、前記基材(樹脂フィルム)上に前記空隙層を形成する方法における工程の一例を、模式的に示す。
図1において、前記空隙層の形成方法は、基材(樹脂フィルム)10上に、前記ゲル状化合物の粉砕物のゾル粒子液20’’を塗工して塗工膜を形成する塗工工程(1)、ゾル粒子液20’’を乾燥させて、乾燥後の塗工膜(空隙層の前駆体)20’を形成する乾燥工程(2)、および、塗工膜20’に架橋処理をして、架橋処理された前駆体(空隙層)20を形成する架橋工程(3)、および、架橋処理された前駆体20の、基材10に対する粘着ピール強度を向上させて空隙層(強度が向上した空隙層)21を形成する強度向上工程(エージング工程)(4)を含む。このようにして、図示のとおり、基材10上に空隙層21を形成できる。この製造方法では、前記乾燥工程(2)が、本発明の積層フィルムの製造方法における前記「前駆体形成工程」に該当する。また、前記架橋工程(3)および前記強度向上工程(エージング工程)(4)において、前記前駆体内部で架橋反応が起こる。すなわち、前記架橋工程(3)および前記強度向上工程(エージング工程)(4)の2段階の工程が、本発明の積層フィルムの製造方法における前記「架橋反応工程」に該当する。さらに、前記空隙層の形成方法は、前記工程(1)〜(4)以外の工程を、適宜含んでいても良いし、含んでいなくても良い。
【0137】
前記塗工工程(1)において、ゾル粒子液20’’の塗工方法は特に限定されず、一般的な塗工方法を採用できる。前記塗工方法としては、例えば、スロットダイ法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法(マイクログラビアコート法)、ディップ法(ディップコート法)、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、リバースコート法等が挙げられる。これらの中で、生産性、塗膜の平滑性等の観点から、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、ロールコート法、マイクログラビアコート法等が好ましい。前記ゾル粒子液20’’の塗工量は、特に限定されず、例えば、空隙層20の厚みが適切になるように、適宜設定可能である。空隙層21の厚みは、特に限定されず、例えば、前述の通りである。
【0138】
前記乾燥工程(2)において、ゾル粒子液20’’を乾燥し(すなわち、ゾル粒子液20’’に含まれる分散媒を除去し)、乾燥後の塗工膜20’を形成する。乾燥処理の条件は、特に限定されず、前述の通りである。
【0139】
さらに、前記化学処理工程(3)において、塗工前に添加した前記触媒発生剤(触媒(架橋反応促進剤)を発生する物質、例えば、光触媒発生剤、または熱触媒発生剤)を含む塗工膜20’に対し、光照射または加熱し、塗工膜20’中の前記粉砕物同士を化学的に結合させて(例えば、架橋させて)、架橋処理された前駆体20を形成する。前記化学処理工程(3)における光照射または加熱条件は、特に限定されず、前述の通りである。
【0140】
さらに、架橋処理された前駆体20を、例えば加熱等することにより、前記強度向上工程(エージング工程)(4)を行い、空隙層21を形成する。前記強度向上工程(エージング工程)(4)における加熱条件は、特に限定されず、前述の通りである。
【0141】
つぎに、
図2に、スロットダイ法の塗工装置およびそれを用いた前記空隙層の形成方法の一例を模式的に示す。なお、
図2は、断面図であるが、見易さのため、ハッチを省略している。
【0142】
図示のとおり、この装置を用いた方法における各工程は、基材10を、ローラによって一方向に搬送しながら行う。搬送速度は、特に限定されず、例えば、1〜100m/分、3〜50m/分、5〜30m/分である。
【0143】
まず、送り出しローラ101から基材10を繰り出して搬送しながら、塗工ロール102において、基材10にゾル粒子液20’’を塗工する塗工工程(1)を行い、続いて、オーブンゾーン110内で乾燥工程(2)に移行する。
図2の塗工装置では、塗工工程(1)の後、乾燥工程(2)に先立ち、予備乾燥工程を行う。予備乾燥工程は、加熱をせずに、室温で行うことができる。乾燥工程(2)においては、加熱手段111を用いる。加熱手段111としては、前述のとおり、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター等を適宜用いることができる。また、例えば、乾燥工程(2)を複数の工程に分け、後の乾燥工程になるほど乾燥温度を高くしても良い。
【0144】
乾燥工程(2)の後に、化学処理ゾーン120内で化学処理工程(3)を行う。化学処理工程(3)においては、例えば、乾燥後の塗工膜(前駆体)20’が光触媒発生剤を含む場合、基材10の上下に配置したランプ(光照射手段)121で光照射する。または、例えば、乾燥後の塗工膜20’が熱触媒発生剤を含む場合、ランプ(光照射装置)121に代えて熱風器(加熱手段)を用い、基材10の上下に配置した熱風器121で基材10を加熱する。この架橋処理により、塗工膜20’中の前記粉砕物同士の化学的結合が起こり、前駆体20’が硬化・強化されて、架橋処理された前駆体20(以下、単に「前駆体」という場合がある。)となる。なお、本例では、乾燥工程(2)の後に化学処理工程(3)を行っているが、前述のとおり、本発明の製造方法のどの段階で前記粉砕物同士の化学的結合を起こさせるかは、特に限定されない。例えば、前述のように、乾燥工程(2)が化学処理工程(3)を兼ねていても良い。また、乾燥工程(2)において前記化学的結合が起こった場合でも、さらに化学処理工程(3)を行い、前記粉砕物同士の化学的結合を、さらに強固にしても良い。また、乾燥工程(2)よりも前の工程(例えば、予備乾燥工程、塗工工程(1)、塗工液(例えば懸濁液)を作製する工程等)において、前記粉砕物同士の化学的結合が起こっても良い。
【0145】
化学処理工程(3)の後に、架橋反応ゾーン(エージングゾーン)130内で強度向上工程(エージング工程)(4)を行い、空隙層の前駆体20の強度を(例えば、樹脂フィルム10に対する粘着ピール強度を)向上させて空隙層21を形成する。強度向上工程(エージング工程)(4)は、例えば、基材10の上下に配置した熱風器(加熱手段)131を用いて、前述のように前駆体20を加熱することにより行っても良い。加熱温度、時間等は、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。
【0146】
そして、強度向上工程(エージング工程)(4)の後、基材10上に空隙層21が形成された積層体を、巻き取りロール105により巻き取る。なお、
図2では、前記積層体の空隙層21を、ロール106から繰り出される保護シートで被覆して保護している。ここで、前記保護シートに代えて、長尺フィルムから形成された他の層を空隙層21上に積層させても良い。
【0147】
図3に、マイクログラビア法(マイクログラビアコート法)の塗工装置およびそれを用いた前記空隙層の形成方法の一例を模式的に示す。なお、同図は、断面図であるが、見易さのため、ハッチを省略している。
【0148】
図示のとおり、この装置を用いた方法における各工程は、
図2と同様、基材10を、ローラによって一方向に搬送しながら行う。搬送速度は、特に限定されず、例えば、1〜100m/分、3〜50m/分、5〜30m/分である。
【0149】
まず、送り出しローラ201から基材10を繰り出して搬送しながら、基材10にゾル粒子液20’’を塗工する塗工工程(1)を行う。ゾル粒子液20’’の塗工は、図示のとおり、液溜め202、ドクター(ドクターナイフ)203およびマイクログラビア204を用いて行う。具体的には、液溜め202に貯留されているゾル粒子液20’’を、マイクログラビア204表面に付着させ、さらに、ドクター203で所定の厚さに制御しながら、マイクログラビア204で基材10表面に塗工する。なお、マイクログラビア204は、例示であり、これに限定されるものではなく、他の任意の塗工手段を用いても良い。
【0150】
つぎに、乾燥工程(2)を行う。具体的には、図示のとおり、オーブンゾーン210中に、ゾル粒子液20’’が塗工された基材10を搬送し、オーブンゾーン210内の加熱手段211により加熱してゾル粒子液20’’を乾燥する。加熱手段211は、例えば、
図2と同様でも良い。また、例えば、オーブンゾーン210を複数の区分に分けることにより、乾燥工程(2)を複数の工程に分け、後の乾燥工程になるほど乾燥温度を高くしても良い。乾燥工程(2)の後に、化学処理ゾーン220内で、化学処理工程(3)を行う。化学処理工程(3)においては、例えば、乾燥後の塗工膜20’が光触媒発生剤を含む場合、基材10の上下に配置したランプ(光照射手段)221で光照射する。または、例えば、乾燥後の塗工膜20’が熱触媒発生剤を含む場合、ランプ(光照射装置)221に代えて熱風器(加熱手段)を用い、基材10の上下に配置した熱風器(加熱手段)221で、基材10を加熱する。この架橋処理により、塗工膜20’中の前記粉砕物同士の化学的結合が起こり、空隙層の前駆体20が形成される。
【0151】
化学処理工程(3)の後に、架橋反応ゾーン(エージングゾーン)230内で強度向上工程(エージング工程)(4)を行い、空隙層の前駆体20の樹脂フィルム10に対する粘着ピール強度を向上させて空隙層21を形成する。強度向上工程(エージング工程)(4)は、例えば、基材10の上下に配置した熱風器(加熱手段)231を用いて、前述のように前駆体20を加熱することにより行っても良い。加熱温度、時間等は、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。
【0152】
そして、強度向上工程(エージング工程)(4)の後、基材10上に空隙層21が形成された積層フィルムを、巻き取りロール241により巻き取る。その後に、前記積層フィルム上に、例えば、他の層を積層させてもよい。また、前記積層フィルムを巻き取りロール241により巻き取る前に、前記積層フィルムに、例えば、他の層を積層させてもよい。
【0153】
[2.光学部材]
本発明の光学部材は、前述のように、本発明の積層フィルムを含むことを特徴とする。本発明の光学部材は、本発明の積層フィルムを含むことが特徴であって、その他の構成は何ら制限されない。本発明の光学部材は、例えば、前記本発明の積層フィルムの他に、他の層をさらに含んでもよい。
【0154】
また、本発明の光学部材は、例えば、前記本発明の積層フィルムを低反射層として含む。本発明の光学部材は、例えば、前記本発明の積層フィルムの他に、他の層をさらに含んでもよい。本発明の光学部材は、例えば、ロール状である。
【実施例】
【0155】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0156】
(実施例1)
本実施例では、以下のようにして本発明の積層フィルム(積層フィルムロール)を製造した。
【0157】
(1)ケイ素化合物のゲル化
DMSO 2.2gに、ケイ素化合物の前駆体であるMTMSを0.95g溶解させた。前記混合液に、0.01mol/Lのシュウ酸水溶液を0.5g添加し、室温で30分、撹拌を行うことで、MTMSを加水分解して、トリス(ヒドロキシ)メチルシランを生成した。
【0158】
DMSO 5.5gに、28%濃度のアンモニア水0.38g、および純水0.2gを添加した後、さらに、前記加水分解処理した前記混合液を追添し、室温で15分撹拌することで、トリストリス(ヒドロキシ)メチルシランのゲル化を行い、ゲル状ケイ素化合物を得た。
【0159】
(2)熟成処理
前記ゲル化処理を行った混合液を、そのまま、40℃で20時間インキュベートして、熟成処理を行った。
【0160】
(3)粉砕処理および光塩基発生触媒添加
つぎに、前記熟成処理したゲル状ケイ素化合物を、スパチュラを用いて、数mm〜数cmサイズの顆粒状に砕いた。そこに、IPA 40gを添加し、軽く撹拌した後、室温で6時間静置して、ゲル中の溶媒および触媒をデカンテーションした。同様のデカンテーション処理を3回繰り返し、溶媒置換を完了した。そして、前記混合液中の前記ゲル状ケイ素化合物に対して、高圧メディアレス粉砕を行った。この粉砕処理は、ホモジナイザー(商品名 UH−50、エスエムテー社製)を使用し、5ccのスクリュー瓶に、ゲル1.18g、およびIPA 1.14gを秤量した後、50W、20kHzの条件で2分間の粉砕で行った。
【0161】
前記粉砕処理によって、前記混合液中の前記ゲル状ケイ素化合物を粉砕したことにより、前記混合液は、前記粉砕物のゾル粒子液となった。前記混合液に含まれる前記粉砕物の粒度バラツキを示す体積平均粒子径を、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(日機装社製、UPA−EX150型)にて確認したところ、0.50〜0.70であった。さらに、1.5重量%の光塩基発生剤(和光純薬工業株式会社:商品名WPBG266、光により触媒(架橋反応促進剤)を発生する物質)のIPA(イソプロピルアルコール)溶液を用意し、前記ゾル粒子液0.75gに対して0.031g添加し塗工液を調製した。なお、以上の(1)〜(3)の工程が、本発明の積層フィルムの製造方法において、前記微細孔粒子を含む含有液を作製する「含有液作製工程」に該当する。
【0162】
(4)塗工膜の形成およびシリコーン多孔体ロールの形成
そして、バーコート法により、前記塗工液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製基材(樹脂フィルム、100m長)の表面に塗布(塗工)して、塗工膜を形成した(塗工工程)。前記塗布は、前記基材の表面1mm
2あたり前記ゾル粒子液6μLとした。前記塗工膜を、温度100℃で1分処理して乾燥し、厚み1μmのシリコーン多孔体膜を形成した(乾燥工程)。乾燥後の前記多孔体膜にUV照射を行なった(前駆体形成工程)。前記UV照射は、350mJ/cm
2(@360nm)とした。さらに、前記前駆体に対し、60℃での加熱エージングを20hr行なって膜強度を有した低屈折率膜(空隙層)を得た。
【0163】
(比較例)
シリコーン多孔体膜形成後処理をUV処理のみとした(加熱エージングを行わなかった)こと以外は、実施例1と同様の操作を行ない、樹脂フィルム上に低屈折率膜(空隙層)が積層された積層フィルムロールを得た。
【0164】
(実施例2)
実施例1の前記「(3)粉砕処理および光塩基発生触媒添加」の工程において、光塩基発生触媒溶液添加後、さらに、5重量%のビス(トリメトキシシリル)エタンを前記ゾル液0.75gに対して0.018g加えて塗工液を調製した以外は、実施例1と同様の操作を行ない、樹脂フィルム上に低屈折率膜(空隙層)が積層された積層フィルムロールを製造した。
【0165】
(実施例3)
実施例1の前記「(3)粉砕処理および光塩基発生触媒添加」の工程において、光塩基発生触媒の添加量を、前記ゾル液0.75gに対して、0.054gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ない、樹脂フィルム上に低屈折率膜(空隙層)が積層された積層フィルムロールを製造した。
【0166】
(実施例4)
実施例2のビス(トリメトキシシリル)エタンを5重量%の1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(商品名KBM3066:信越化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行ない、樹脂フィルム上に低屈折率膜(空隙層)が積層された積層フィルムロールを製造した。
【0167】
これらの結果を、下記表1に示す。なお、屈折率、粘着ピール強度およびヘイズ、耐擦傷性は、前述の方法により測定した。耐擦傷性は、○、△または×で評価した。また、保存安定性は、室温で前記塗工液を1週間放置し、前記塗工液の変化の有無を目視で確認した結果である。
【0168】
【表1】
【0169】
前記表1に示すとおり、強度向上工程(エージング工程)を行った(すなわち、架橋反応工程が多段階であった)実施例1〜4は、強度向上工程(エージング工程)を行わなかった(すなわち、架橋反応工程が1段階であった)比較例と比較して粘着ピール強度および耐擦傷性が向上していた。さらに、実施例1〜4は、比較例と屈折率にほとんど差がなく、1.14〜1.17という極めて低い屈折率を維持していた。すなわち、実施例の積層フィルムによれば、高空隙率と膜強度の両立が可能であることが確認された。さらに、実施例1〜4の積層フィルムは、ヘイズ値も比較例と同じ0.4という極めて低い数値を維持していることから、比較例と同程度の透明性を維持していることが確認された。なお、実施例1〜4は、塗工液の保存安定性にも優れていることから、安定した品質の積層フィルムを効率よく製造できることも確認された。