特許第6713881号(P6713881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713881
(24)【登録日】2020年6月8日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 31/00 20060101AFI20200615BHJP
   B21D 22/14 20060101ALI20200615BHJP
   B21C 37/18 20060101ALI20200615BHJP
   B21D 51/10 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   B21D31/00 B
   B21D22/14 Z
   B21C37/18 B
   B21D51/10
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-171739(P2016-171739)
(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公開番号】特開2018-34199(P2018-34199A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】田添 昂
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 忠路
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−292433(JP,A)
【文献】 特開昭62−227520(JP,A)
【文献】 特開2002−205124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 31/00 − 31/02
B21C 37/06 ー 37/30
B21D 22/14 − 22/16
B21D 51/10
B21D 53/84
B21D 53/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管の外周に成形ローラーを配置し、この成形ローラーの外周面形状は、成形ローラーの回転中心軸線から外周面までの距離が円周方向の各部において一定の形状であり、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させるパス工程を経ることにより、素管の表面をスピニング加工する金属管の製造方法であって、パス工程を2回以上経るとともに、その最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチをいずれも7mm以上とすることによって、表面に立体模様を形成することを特徴とする金属管の製造方法。
【請求項2】
成形ローラーによる最終の2パス工程において、1パス当たりの絞り量を異にすることを特徴とする、請求項1に記載の金属管の製造方法。
【請求項3】
成形ローラーによる最終の2パス工程において、2パス目の絞り量が1パス目の絞り量よりも小さいことを特徴とする、請求項2に記載の金属管の製造方法。
【請求項4】
成形ローラーの加工ピッチを10mm以上とすることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の金属管の製造方法。
【請求項5】
成形ローラーの前段及び/又は後段に押さえローラーを設けることを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の金属管の製造方法。
【請求項6】
素管の表面に連続縮径加工を施すことによって素管に長さ方向のテーパーを付与することを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の金属管の製造方法。
【請求項7】
素管がテーパー管であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載の金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管をスピニング加工することで、表面に立体模様を形成する金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管等の金属管は、照明柱等の建築物や機械装置の一部材として屋内外で広く使用されている。照明柱等の建築物などでは、管の長さ方向の全部又は一部において外径が連続的に変化するテーパー金属管を用いることによって、意匠性や景観性を向上させることがなされてきている。
【0003】
テーパー金属管の形状としては、(1)長さ方向に連続的に外径が狭くなるシンプルテーパータイプと、(2)テクスチャーのように、金属管の途中にテーパー極大径及び/又はテーパー極小径を有するマルチテーパータイプがある。(1)のシンプルテーパータイプは、照明柱、信号柱、標識柱などに用いられている。(2)のマルチテーパータイプは、ボラード(車止め)などに用いられている。
【0004】
このような意匠性や景観性に優れるテーパー金属管は、スピニング加工により製造する方法が知られている。すなわち、素管の外周に2個又は3個の成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させて得られる合成移動により、素管に連続縮径加工を施すことで、テーパー金属管を連続的に製造するものである。
【0005】
特許文献1には、素管の外周に3個の駆動ロールからなる成形ローラーを配置してなるスピニング加工機が開示されている。図1は、スピニング加工機の一例(側面図)である。
【0006】
このスピニング加工機は、素管P(外径R)の外周に管円周方向に等間隔をおき、かつ素管Pの中心軸Lに対して傾斜させて配置した3個の駆動ロールからなる成形ローラー1と、この成形ローラー1の前段に設置された加熱装置2と、成形ローラー1の前段及び後段に設置され、素管Pを管円周方向に回転可能にする非駆動ロールからなるサポートローラー3と、素管Pの端部を把持する把持機構(図示せず)を介して素管Pを水平方向に移動させる引張台車4を備えている。さらに、この例では成形ローラー1とサポートローラー3の間に、駆動ロールからなる押さえローラー(押さえローラーともいう。)5が設置されている。
【0007】
ここで、成形ローラー1を構成する駆動ロールは、外径Dのディスク型ロールであり、モータ(図示せず)に接続されて駆動される。成形ローラーを構成する駆動ロールの回転中心軸線Lは、素管Pの回転中心軸線Lに指向すると共に、中心軸線Lに対して傾斜角αで管移動方向とは反対側に傾斜しており、これが、成形ローラーを構成する駆動ロールの取付角度αとなる。この傾斜によって、素管Pを回転できるとともに、その肩部で絞り加工を行うことができる。なお、成形ローラー1によって素管Pを回転する代わりに、成形ローラーの前段に配置されたサポートローラー3の一部を駆動ロールとすることによって、素管Pを回転してもよい。したがって、必ずしも成形ローラー1によって素管Pの回転がなされるとは限らない。ここでは、押さえローラー5は、成形ローラーによって管表面にスパイラル状の線状痕が形成される場合に備えて設置されていて、スパイラル状の線状痕が目立つ場合には押さえローラー5を回転駆動させることによってスパイラル状の線状痕を消去することができる。したがって、押さえローラー5はスピニング加工機において、必ずしも設置されるとは限らない。
【0008】
上述したテーパー金属管は管全体の形状をマクロ視野で着目して意匠性や景観性を向上させたものである。これに対して、次に示すように、管の一部の表面形状をミクロ視野で着目して、金属管の意匠性や景観性を向上させることが提案されている。意匠性や景観性を向上させることができるミクロ視野での管の表面形状としては、凹凸模様や縦縞が知られている。
【0009】
特許文献2には、鋼管表面に下地処理を行った上で、ポリマーセメントモルタルを吹きつけることによって内層に凹凸形状を形成した後、外層表面に化粧塗膜を形成することで鋼管表面に木目調の意匠性を付与した化粧材被覆鋼管ポールが開示されている。ここで開示されている鋼管は、ポリマーセメントモルタルの凹凸形状と、化粧塗膜の色調やテクスチャーが相俟って意匠性と景観性が向上したものになっている。
【0010】
また、特許文献3には、ステンレスや鉄系の鋼管の外表面にピッチが2.5〜5.0mmで波高さが0.6〜0.9mmのシャープな縦縞の凹凸部を備えた金属管を冷間引き抜き加工法で安定して成形加工する金属管の製造方法が開示されている。ここで開示される金属管は、金属管表面に直接的に意匠を付与したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−111756号公報
【特許文献2】実開昭63−117862号公報
【特許文献3】特開平7−314031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示されたテーパー金属管は管自体に意匠性や景観性を付与するものである。あくまで、管全体の形状をマクロ視野で捉えるものであるから、テーパー金属管に近接すると、その意匠性や景観性を感得できなくなる。
【0013】
特許文献2に開示された化粧材被覆鋼管ポールは、鋼管表面にポリマーセメントモルタルを吹きつけることによって形成される管の立体模様に基づいて、ミクロ視野での管表面に意匠性や景観性が付与される。しかしながら、ポリマーセメントモルタルと化粧塗膜ともに劣化しやすく、そのため短期間で立体模様が不鮮明となり、意匠性が低下する問題がある。さらに鋼管表面に、下地処理、ポリマーセメントモルタルの形成処理、化粧塗膜処理など工程を要し、意匠鋼管を製造する際に歩留まりが低いという問題がある。
【0014】
特許文献3に開示された金属管は、管軸方向に冷間引き抜き加工をすることで縦縞の凹凸部が管表面に直接に形成されるものであって、その管の立体模様に基づいて、ミクロ視野での管表面に意匠性や景観性が付与される。しかしながら、管軸方向の冷間引き抜き加工によって形成されるものであるから、金属管の表面に付与することができる立体模様は縦縞に限られる。横縞の立体模様を金属管の表面に備えることはできない。
【0015】
本発明の課題は、金属管をスピニング加工によりらせん状の立体模様を管表面に直接に形成することで、管表面に意匠性や景観性を有する金属管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の検討と実験を行った結果、次の(a)〜(f)に示す知見を得た。
【0017】
(a) 金属管をスピニング加工する際に、加工条件によっては管表面にスパイラル状の線状痕が発生する場合がある。このスパイラル状の線状痕は、テーパー管を加工するときだけでなく、テーパーのない直管を加工するときにも、発生する。したがって、このスパイラル状の線状痕を改良して、管表面に意匠性や景観性に優れる横縞の立体模様を形成することができれば、管表面に横縞の立体模様を直接に形成することができることに思い至った。この横縞は管の一部をミクロ視野で捉えたときの立体模様であるから、この金属管に近接したときに、その管表面において意匠性や景観性を感得することができる。
【0018】
(b) この横縞の立体模様は、テーパーのない直管だけでなく、テーパー管にも形成することができる。テーパー管に加工するときは、素管として直管を採用しても良いし、素管としてテーパー管を採用しても良い。テーパー管にこの横縞の立体模様を付与すると、マクロ視野での管全体の形状に基づいて管自体に意匠性や景観性が付与されるだけでなく、ミクロ視野での管表面の横縞模様に基づく意匠性や景観性を付与することもできる。
【0019】
特に、スピニング加工により、単なる横縞模様を付与するものではなく、らせん状の模様(スパイラル模様)を付与することで、管表面に、高い意匠性や景観性を与えることが可能になる。
【0020】
(c) スピニング加工によってテーパー管を形成する際には、素管の外周に2個又は3個の駆動ロールからなる成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させて得られる合成移動により、素管に連続縮径加工を施すことでなされる。
【0021】
これに対して、スピニング加工によって、テーパーのない直管を加工する際には、成形ローラーを管半径方向に進退移動させる連続縮径加工を施す必要はない。よって、素管の外周に2個又は3個の駆動ロールからなる成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させるパス工程を経る加工を施せばよい。
【0022】
(d) スピニング加工の際に発生するスパイラル状の線状痕は、金属表面に模様が形成されても、不鮮明でその凹凸形状が認識できないことが多く、管表面に立体模様を直接に形成することができるとは言えない。したがって、スピニング加工の際にスパイラル状の線状痕が発生するだけでは、ミクロ視野での管表面の立体模様に基づく意匠性や景観性に優れる金属管を得ることができるとは言えない。
【0023】
(e) これに対して、テーパーのない直管とテーパー管とを問わず、スピニング加工の際に金属管表面に発生するスパイラル幅の異なるスパイラル模様を少なくとも2種有するものを形成できれば、金属表面に凹凸が明確で複雑なスパイラル模様となる。このとき、管表面に形成されるミクロ視野での立体模様は、意匠性や景観性に優れている金属管を得ることができる。スピニング加工後のミクロ視野での管表面の模様を精査した結果、成形ローラーの加工条件のうち、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度、パイプ回転数及び絞り量を、従来のスピニング加工条件とは大きく異ならせることによって、金属表面に凹凸が明確で複雑なスパイラル模様を形成することができることが分かった。
【0024】
後述する実験結果から、金属表面に凹凸が明確で複雑なスパイラル模様を形成することができる加工条件は、次の(i)〜(v)に示すとおりである。
【0025】
(i) 成形パス工程数:2回以上(従来のスピニング加工:1回)
成形パス工程数とは、所定の形状を得るために必要な絞り成形の回数を意味する。後述するとおり、管表面に明確な凹凸を残存させるためには加工ピッチを大きくする必要があるところ、成形パス工程数を2回以上とすることによって、加工負荷を軽減するのがよい。
【0026】
(ii) 加工ピッチ:7mm以上(従来のスピニング加工:2〜3mm)
加工ピッチとは、一組の成形ローラーあたりの移動量を意味する。すなわち、成形ローラーが2個の駆動ロールからなるときは一組の成形ローラーの1/2回転当たりの移動量を意味し、そして、成形ローラーが3個の駆動ロールからなるときは一組の成形ローラーの1/3回転当たりの移動量を意味する。スピニング加工の最終の2パス工程において、加工ピッチが小さいと加工後の管表面は平坦に仕上がる(図2)が、加工ピッチが大きいと管表面に明確な凹凸が残存する(図3)。
【0027】
スピニング加工の最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチをいずれも7mm以上とする加工条件を採用するのがよい。成形ローラーの加工ピッチの下限は、10mmとするのが好ましい。より好ましくは11mmであり、さらに好ましくは12mmである。成形ローラーの加工ピッチの上限は、30mmとするのが好ましい。より好ましくは23mmである。
【0028】
(iii) 引張速度:1980〜3000mm/min(従来のスピニング加工:2900〜3400mm/min)
管表面に明確な凹凸を残存させるためには加工ピッチを大きくする必要があるので、引張速度を早くすることで加工負荷を軽減するのである。
【0029】
(iv) パイプ回転数:130〜180rpm(従来のスピニング加工:350〜500rpm)
管表面に明確な凹凸を残存させるためには加工ピッチを大きくする必要があるので、パイプ回転数を小さくすることで加工負荷を軽減するのである。
【0030】
(v) 絞り量:最終の2パス工程の合計絞り量(従来のスピニング加工:1パス工程の絞り量)
絞り量とは、所定の形状を得るための必要な絞り量を意味する。成形ローラーの最終の2パス工程における1パス当たりの絞り量は、金属管表面に形成されるスパイラル模様のスパイラル幅とスパイラル高さに影響する。絞り量が大きくなると、スパイラル幅が大きくなるとともにスパイラル深さが大きくなる。そして、絞り量が小さくなると、スパイラル幅が小さくなるとともにスパイラル深さが小さくなる。成形ローラーによる最終の2パス工程において、1パス当たりの絞り量を異にすると、スパイラル模様のスパイラル幅を顕著に異ならせることができるので、好ましい。また、2パス目の絞り量を1パス目の絞り量よりも小さくすると、スパイラル模様のスパイラル深さが大きくなるので、好ましい。なお、絞り量とはテーパー管をスピニング加工する際には、加工時の最大絞り量を意味する。直管をスピニング加工する際には絞り量を一定にすることができるが、テーパー管をスピニング加工する際に絞り量は一定にならないからである。
【0031】
(f) スピニング加工機に押さえローラーが設置されているときは、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に上書きする形で、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様が付与される場合がある。押さえローラーにより形成されるスパイラル模様は、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に比して、加工ピッチが大きく、スパイラル幅が小さい。
【0032】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、その要旨は下記の(1)〜(7)の金属管の製造方法にある。以下、(1)〜(7)にかかる発明を総称して本発明ということがある。
【0033】
(1) 素管の外周に成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させるパス工程を経ることにより、素管の表面をスピニング加工する金属管の製造方法であって、パス工程を2回以上経るとともに、その最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチをいずれも7mm以上とすることによって、表面に立体模様を形成することを特徴とする金属管の製造方法。
【0034】
(2) 成形ローラーによる最終の2パス工程において、1パス当たりの絞り量を異にすることを特徴とする、上記(1)の金属管の製造方法。
【0035】
(3) 成形ローラーによる最終の2パス工程において、2パス目の絞り量が1パス目の絞り量よりも小さいことを特徴とする、上記(2)の金属管の製造方法。
【0036】
(4) 成形ローラーの加工ピッチを10mm以上とすることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの金属管の製造方法。
【0037】
(5) 成形ローラーの前段及び/又は後段に押さえローラーを設けることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかの金属管の製造方法。
【0038】
(6) 素管の表面に連続縮径加工を施すことによって素管に長さ方向のテーパーを付与することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかの金属管の製造方法。
【0039】
(7) 素管がテーパー管であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかの金属管の製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る金属管の製造方法によれば、管表面にらせん状の立体模様を直接に形成することができるので、その立体模様に基づいて管表面に意匠性や景観性に優れる金属管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】スピニング加工によりテーパー管を製造する際に使用されるスピニング加工機の一例(側面図)を示す。
図2】加工ピッチが小さい場合の加工後の管表面を示す。
図3】加工ピッチが大きい場合の加工後の管表面を示す。
図4】R20mmの成形ローラーの断面図である。
図5】実験例2に係る試験No. B1〜B6の管形状(シンプルテーパータイプ)を示す。
図6】試験No.B1の加工後の管表面を示す。成形ローラーと押さえローラーにより形成されるスパイラル模様が現れている一例である。
図7】試験No.B6の加工後の管表面を示す。
図8】試験No.B4の加工後の管表面を示す。成形ローラーと押さえローラーにより形成されるスパイラル模様が鮮明に現れている他の例である。ここで、点線の楕円で示した部分が、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様である。
図9】実験例3に係る試験No.C1〜C5の管形状(マルチテーパータイプ)の断面の模式図である。
図10】実験例3に係る試験No.D1の管形状(マルチテーパータイプ)の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、管表面にらせん状の立体模様を直接に形成することができる、本発明に係る金属管の製造方法を、金属管の種々の表面形状について、実験例に基づいて、具体的に説明する。
【0043】
(A)実験例1(金属管の形状:テーパーのない直管)
R20mmの駆動ロール(図4にその断面形状を示す。)3個からなる成形ローラーを備えるスピニング加工機を用いて、外径114.3mm、壁厚4.20mm、長さ9900mmの電縫鋼管(素管)を外径76mmの直管にスピニング加工した。このとき、その成形ローラーの加工条件のうち、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度、パイプ回転数及び絞り量を、種々に変動させて、スピニング加工後のミクロ視野での管表面の模様を精査した(試験No.A1〜A5)。その結果(美観、表面粗さ、総合評価)を表1に示す。試験No.A3〜A5については、形成されるスパイラル模様の凸部の幅とスパイラル模様のピッチ(凹部の幅)についても測定した。
【0044】
【表1】
【0045】
ここで、美観とは、管表面にスパイラル模様を目視で確認できる程度を示す。以下の4段階に区分けされる。なお、表2〜表4でも同じ区分けを用いている。
◎:凸形状の高さの異なるスパイラル模様を少なくとも2種有することが確認できる。
○:スパイラル模様を少なくとも2種有することが確認できる。
△:スパイラル模様を確認できる。
×:模様がないか、模様はあるがスパイラル模様の判別は困難である。
【0046】
ここで、表面粗さとは、管表面に指で触れた際に、表面の凹凸を認識できる程度を示す。以下の4段階に区分けされる。なお、表2〜表4でも同じ区分けを用いている。
◎:管表面の凹凸が明確である。
○:管表面の凹凸が認識できる。
×:管表面の凹凸がないか、ほとんど認識できない。
【0047】
上記の美観と表面粗さを踏まえての総合評価であり、以下の4段階に区分けされる。総合評価が◎又は○のとき、スパイラル幅の異なるスパイラル模様を少なくとも2種有するものであって、金属表面に凹凸の両形状を認識できる模様を形成されたものと判断する。なお、表2〜表4でも同じ区分けを用いている。
◎:管表面の凹凸が明確で、複雑な少なくとも2種のスパイラル模様を有する。
○:管表面の凹凸が認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有する。
△:管表面にシンプルなスパイラル模様だけを有する。
×:管表面に凹凸がない。
【0048】
表1の結果から、パス工程数が2回であり、その最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチを11〜20mmとする加工条件で製造された試験No.A1(本発明例)の金属管の表面の総合評価は◎(凹凸が明確で、複雑な少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)である。これに対して、パス工程数を1回とし、成形ローラーの加工ピッチを2〜3mmとする加工条件で製造された試験No.A2(比較例)の金属管の表面の総合評価は×(管表面に凹凸がない。)であり、スパイラル模様は全く形成されなかった。また、試験No.A3〜A5(比較例)の金属管の表面の総合評価は△(管表面にシンプルなスパイラル模様だけを有する。)であり、2種のスパイラル模様を形成することはできなかった。これは、成形ローラーの加工ピッチは23mmであるものの、パス工程数を1回とする加工条件で製造されたためである。なお、試験No.A1(本発明例)は成形ローラーだけでなく押さえローラーによってもスパイラル模様が形成されているが、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様は、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に上書きされるものであるから、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様とは明確に区別することができる。押さえローラーにより形成されるスパイラル模様については後述する実験例で詳説する。
【0049】
表1において、試験No.A3〜A5(比較例)は、成形ローラーの加工ピッチは23mmであるもののパス工程数が1回であるために、金属管の表面の総合評価は△(管表面にシンプルなスパイラル模様だけを有する。)である。しかしながら、試験No.A3〜A5の加工条件は、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度及びパイプ回転数については同一である。ただし、互いに絞り量が異なっているところ、スパイラル模様は読み取れるので、絞り量の大小によるスパイラル模様の凸部の幅とピッチ(凹部の幅)への影響を読み取れる。この結果、絞り量が大きくなると、スパイラル模様の凸部の幅が小さくなるとともにピッチが大きくなるので、深い模様が形成され、一方、絞り量が小さくなると、スパイラル模様の凸部の幅が大きくなるとともにピッチが小さくなるので、浅い模様が形成されることが分かった。
【0050】
(B)実験例2(金属管の形状:シンプルテーパータイプのテーパー管)
R20mmの駆動ロール3個からなる成形ローラーを備えるスピニング加工機を用いて、外径114.3mm、壁厚4.20mm、長さ1150mmの電縫鋼管(素管)をスピニング加工し、テーパー部の長さが870mmであって、長さ方向に外径が114.3mmから76mmへと連続的に狭くなるシンプルテーパータイプのテーパー管(図5参照)を得た。このとき、その成形ローラーの加工条件のうち、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度、パイプ回転数及び絞り量を、種々に変動させて、スピニング加工後のミクロ視野での管表面の模様を、実験例1と同様に、精査した。その結果(美観、表面粗さ、総合評価)を表2に示す。なお、試験No.B1〜B5に関しては、成形ローラーだけでなく、成形ローラーの前段に設置されている押さえローラーも管表面に接するように加工し、試験番号No.B6に関しては、押さえローラーを管表面に接することなく、成形ローラーだけで加工した。
【0051】
【表2】
【0052】
表2の結果から、パス工程数が2回であり、成形ローラーの加工ピッチを7〜23mmとする加工条件で製造された試験No.B1〜B4及びNo.B6(いずれも本発明例)の金属管の表面の総合評価は◎(凹凸が明確で、複雑な少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)又は○(凹凸が少なくとも認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)であり、凹凸が少なくとも認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有していることが分かる。これに対して、パス工程数を1回とし、成形ローラーの加工ピッチを2〜3mmとする加工条件で製造された試験No.A2(比較例)の金属管の総合評価は×(管表面に凹凸がない。)であり、模様は全く形成されなかった。なお、パス工程数が複数回あり、その最終の2パス工程において、表2と同条件で実施しても、同様の結果となった。
【0053】
表2において、試験No.B1と試験No.B6(いずれも本発明例)の加工条件は、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度、パイプ回転数及び絞り量については同一である。ただし、両者は押さえローラーの有無の違いがあり、試験No.B1は成形ローラーだけでなく押さえローラーによってもスパイラル模様が形成されている(図6参照)が、試験No.B6は成形ローラーだけによってスパイラル模様が形成されている(図7参照)。これらの金属管の表面の総合評価は、それぞれ、試験No.B1は◎(凹凸が明確で、複雑な少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)であり、試験No.B6は○(凹凸が認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)である。これは、試験No.B1では、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様は、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に上書きされるので、その分、より複雑なスパイラル模様となる。これは、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様は、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様の凸部の幅、スパイラル模様のピッチ(凹部の幅)、凹凸の高さ(スパイラル深さ)などが顕著に異なるスパイラル模様となっている。具体的には、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様と比べて、凹凸の高さ(スパイラル深さ)が大きく、スパイラル模様のピッチ(凹部の幅)が顕著に狭い。
【0054】
押さえローラーにより形成されるスパイラル模様は、試験No.B4において、より鮮明に現れているので、図8に示す。ここで、点線の楕円で示した部分が、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様である。成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に上書きする形で付与されていることと、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に比して、加工ピッチが大きく、スパイラル幅が小さいことが読み取れる。
【0055】
(C)実験例3(金属管の形状:マルチテーパータイプのテーパー管)
R20mmの駆動ロール3個からなる成形ローラーを備えるスピニング加工機を用いて、外径114.3mm、壁厚4.20mm、長さ1150mmの電縫鋼管(素管)をスピニング加工し、テーパー部の長さが900mmであって、端部から中央部にかけて外径が114.3mmから76mmへと連続的に狭くなり、中央部を超えると外径が76mmから114.3mmへと連続的に広くなるマルチテーパータイプのテーパー管(図9参照)を得た。また、テーパー部の長さが900mmであって、端部から225mm長さまでは外径が114.3mmから76mmへと連続的に狭くなり、225mm長さを過ぎると中央部まで外径が76mmから114.3mmへと連続的に広くなり、450mm長さ(中央部)を過ぎると675mm長さまで外径が114.3mmから76mmへと連続的に狭くなり、675mm長さを超えると外径が76mmから114.3mmへと連続的に広くなるマルチテーパータイプのテーパー管(図10参照)を得た。このとき、その成形ローラーの加工条件のうち、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度、パイプ回転数及び絞り量を、種々に変動させて、スピニング加工後のミクロ視野での管表面の模様を、実験例1と同様に、精査した。その結果(美観、表面粗さ、総合評価)を表3及び表4に示す。なお、試験No.C1〜C4に関しては、成形ローラーだけでなく、成形ローラーの前段に設置されている押さえローラーも管表面に接するように加工し、試験番号No.C5に関しては、押さえローラーを管表面に接することなく、成形ローラーだけで加工した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
表3及び表4の結果から、パス工程数が2回であり、その最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチを11〜20mmとする加工条件で製造された試験No.C1〜C4及びNo.D1(いずれも本発明例)の金属管の表面の総合評価は◎(凹凸が明確で、複雑な少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)又は○(凹凸が認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)であり、凹凸が少なくとも認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有していることが分かる。これに対して、パス工程数を1回とし、成形ローラーの加工ピッチを2〜3mmとする加工条件で製造された試験No.C5(比較例)の金属管の総合評価は×(管表面に凹凸がない。)であり、模様は全く形成されなかった。なお、試験No.C1〜C4及びNo.D1に関しては、成形ローラーだけでなく、成形ローラーの前段に設置されている押さえローラーも管表面に接するように加工し、試験番号No.C5に関しては、押さえローラーを管表面に接することなく、成形ローラーだけで加工した。
【0059】
表3において、試験No.C1〜C4(いずれも本発明例)の加工条件は、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度及びパイプ回転数については同一である。そして、いずれも押さえローラーが接しており、成形ローラーだけでなく押さえローラーによってもスパイラル模様が形成されている。ただし、絞り量が異なっている。いずれも、成形ローラーによる最終の2パス工程において、1パス当たりの絞り量を異ならせているが、試験No.C1〜C3は2パス目の絞り量が1パス目の絞り量よりも小さいのに対して、試験No.C4は2パス目の絞り量が1パス目の絞り量よりも大きい。これらの金属管の表面の総合評価は、試験No.C1〜C3は◎(凹凸が明確で、複雑な少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)であり、試験No.C4は○(凹凸が認識でき、少なくとも2種のスパイラル模様を有している。)であるが、この違いは、1パス目と2パス目との絞り量の大小にあると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る金属管の製造方法によれば、管表面にらせん状の立体模様を直接に形成することができるので、管表面に意匠性や景観性を有する金属管を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 成形ローラー
2 加熱装置
3 サポートローラー
4 引張台車
5 押さえローラー
D 成形ローラーのロール外径
素管の回転中心軸線
成形ローラーのロール回転中心軸線
素管
素管の外径
α 成形ローラーのロール取付角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10