【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の検討と実験を行った結果、次の(a)〜(f)に示す知見を得た。
【0017】
(a) 金属管をスピニング加工する際に、加工条件によっては管表面にスパイラル状の線状痕が発生する場合がある。このスパイラル状の線状痕は、テーパー管を加工するときだけでなく、テーパーのない直管を加工するときにも、発生する。したがって、このスパイラル状の線状痕を改良して、管表面に意匠性や景観性に優れる横縞の立体模様を形成することができれば、管表面に横縞の立体模様を直接に形成することができることに思い至った。この横縞は管の一部をミクロ視野で捉えたときの立体模様であるから、この金属管に近接したときに、その管表面において意匠性や景観性を感得することができる。
【0018】
(b) この横縞の立体模様は、テーパーのない直管だけでなく、テーパー管にも形成することができる。テーパー管に加工するときは、素管として直管を採用しても良いし、素管としてテーパー管を採用しても良い。テーパー管にこの横縞の立体模様を付与すると、マクロ視野での管全体の形状に基づいて管自体に意匠性や景観性が付与されるだけでなく、ミクロ視野での管表面の横縞模様に基づく意匠性や景観性を付与することもできる。
【0019】
特に、スピニング加工により、単なる横縞模様を付与するものではなく、らせん状の模様(スパイラル模様)を付与することで、管表面に、高い意匠性や景観性を与えることが可能になる。
【0020】
(c) スピニング加工によってテーパー管を形成する際には、素管の外周に2個又は3個の駆動ロールからなる成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させて得られる合成移動により、素管に連続縮径加工を施すことでなされる。
【0021】
これに対して、スピニング加工によって、テーパーのない直管を加工する際には、成形ローラーを管半径方向に進退移動させる連続縮径加工を施す必要はない。よって、素管の外周に2個又は3個の駆動ロールからなる成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させるパス工程を経る加工を施せばよい。
【0022】
(d) スピニング加工の際に発生するスパイラル状の線状痕は、金属表面に模様が形成されても、不鮮明でその凹凸形状が認識できないことが多く、管表面に立体模様を直接に形成することができるとは言えない。したがって、スピニング加工の際にスパイラル状の線状痕が発生するだけでは、ミクロ視野での管表面の立体模様に基づく意匠性や景観性に優れる金属管を得ることができるとは言えない。
【0023】
(e) これに対して、テーパーのない直管とテーパー管とを問わず、スピニング加工の際に金属管表面に発生するスパイラル幅の異なるスパイラル模様を少なくとも2種有するものを形成できれば、金属表面に凹凸が明確で複雑なスパイラル模様となる。このとき、管表面に形成されるミクロ視野での立体模様は、意匠性や景観性に優れている金属管を得ることができる。スピニング加工後のミクロ視野での管表面の模様を精査した結果、成形ローラーの加工条件のうち、成形パス工程数、加工ピッチ、引張速度、パイプ回転数及び絞り量を、従来のスピニング加工条件とは大きく異ならせることによって、金属表面に凹凸が明確で複雑なスパイラル模様を形成することができることが分かった。
【0024】
後述する実験結果から、金属表面に凹凸が明確で複雑なスパイラル模様を形成することができる加工条件は、次の(i)〜(v)に示すとおりである。
【0025】
(i) 成形パス工程数:2回以上(従来のスピニング加工:1回)
成形パス工程数とは、所定の形状を得るために必要な絞り成形の回数を意味する。後述するとおり、管表面に明確な凹凸を残存させるためには加工ピッチを大きくする必要があるところ、成形パス工程数を2回以上とすることによって、加工負荷を軽減するのがよい。
【0026】
(ii) 加工ピッチ:7mm以上(従来のスピニング加工:2〜3mm)
加工ピッチとは、一組の成形ローラーあたりの移動量を意味する。すなわち、成形ローラーが2個の駆動ロールからなるときは一組の成形ローラーの1/2回転当たりの移動量を意味し、そして、成形ローラーが3個の駆動ロールからなるときは一組の成形ローラーの1/3回転当たりの移動量を意味する。スピニング加工の最終の2パス工程において、加工ピッチが小さいと加工後の管表面は平坦に仕上がる(
図2)が、加工ピッチが大きいと管表面に明確な凹凸が残存する(
図3)。
【0027】
スピニング加工の最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチをいずれも7mm以上とする加工条件を採用するのがよい。成形ローラーの加工ピッチの下限は、10mmとするのが好ましい。より好ましくは11mmであり、さらに好ましくは12mmである。成形ローラーの加工ピッチの上限は、30mmとするのが好ましい。より好ましくは23mmである。
【0028】
(iii) 引張速度:1980〜3000mm/min(従来のスピニング加工:2900〜3400mm/min)
管表面に明確な凹凸を残存させるためには加工ピッチを大きくする必要があるので、引張速度を早くすることで加工負荷を軽減するのである。
【0029】
(iv) パイプ回転数:130〜180rpm(従来のスピニング加工:350〜500rpm)
管表面に明確な凹凸を残存させるためには加工ピッチを大きくする必要があるので、パイプ回転数を小さくすることで加工負荷を軽減するのである。
【0030】
(v) 絞り量:最終の2パス工程の合計絞り量(従来のスピニング加工:1パス工程の絞り量)
絞り量とは、所定の形状を得るための必要な絞り量を意味する。成形ローラーの最終の2パス工程における1パス当たりの絞り量は、金属管表面に形成されるスパイラル模様のスパイラル幅とスパイラル高さに影響する。絞り量が大きくなると、スパイラル幅が大きくなるとともにスパイラル深さが大きくなる。そして、絞り量が小さくなると、スパイラル幅が小さくなるとともにスパイラル深さが小さくなる。成形ローラーによる最終の2パス工程において、1パス当たりの絞り量を異にすると、スパイラル模様のスパイラル幅を顕著に異ならせることができるので、好ましい。また、2パス目の絞り量を1パス目の絞り量よりも小さくすると、スパイラル模様のスパイラル深さが大きくなるので、好ましい。なお、絞り量とはテーパー管をスピニング加工する際には、加工時の最大絞り量を意味する。直管をスピニング加工する際には絞り量を一定にすることができるが、テーパー管をスピニング加工する際に絞り量は一定にならないからである。
【0031】
(f) スピニング加工機に押さえローラーが設置されているときは、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に上書きする形で、押さえローラーにより形成されるスパイラル模様が付与される場合がある。押さえローラーにより形成されるスパイラル模様は、成形ローラーにより形成されるスパイラル模様に比して、加工ピッチが大きく、スパイラル幅が小さい。
【0032】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、その要旨は下記の(1)〜(7)の金属管の製造方法にある。以下、(1)〜(7)にかかる発明を総称して本発明ということがある。
【0033】
(1) 素管の外周に成形ローラーを配置し、回転する素管に対して成形ローラーを管半径方向に進退移動させると共に、成形ローラーと素管とを管軸方向に相対移動させるパス工程を経ることにより、素管の表面をスピニング加工する金属管の製造方法であって、パス工程を2回以上経るとともに、その最終の2パス工程において、成形ローラーの加工ピッチをいずれも7mm以上とすることによって、表面に立体模様を形成することを特徴とする金属管の製造方法。
【0034】
(2) 成形ローラーによる最終の2パス工程において、1パス当たりの絞り量を異にすることを特徴とする、上記(1)の金属管の製造方法。
【0035】
(3) 成形ローラーによる最終の2パス工程において、2パス目の絞り量が1パス目の絞り量よりも小さいことを特徴とする、上記(2)の金属管の製造方法。
【0036】
(4) 成形ローラーの加工ピッチを10mm以上とすることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの金属管の製造方法。
【0037】
(5) 成形ローラーの前段及び/又は後段に押さえローラーを設けることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかの金属管の製造方法。
【0038】
(6) 素管の表面に連続縮径加工を施すことによって素管に長さ方向のテーパーを付与することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかの金属管の製造方法。
【0039】
(7) 素管がテーパー管であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかの金属管の製造方法。