特許第6713908号(P6713908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713908
(24)【登録日】2020年6月8日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】耐震補強フレーム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
   E04H9/02 321C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-212227(P2016-212227)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-71191(P2018-71191A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸自
(72)【発明者】
【氏名】戸川 厚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】李 鵬
(72)【発明者】
【氏名】五十田 博
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−106516(JP,A)
【文献】 特開2009−299325(JP,A)
【文献】 特開2000−234454(JP,A)
【文献】 特開平10−121772(JP,A)
【文献】 特開2015−117535(JP,A)
【文献】 特開平09−256738(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0047854(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦材と、
前記縦材の上及び下にそれぞれ配置される横材と、
前記縦材の両端の小口と、各々の前記横材の側部との間に介在されて、前記縦材と前記横材とを連結する連結部材と、
を有し、
前記連結部材は、互いに間隔を空けて対面し、前記縦材の小口または前記横材の側部に固定される一対のフランジ部と、
前記一対のフランジ部間を繋ぐウェブ部と、
を有し、
前記縦材及び前記横材より降伏耐力が小さく、前記縦材にはボルトが螺合されて接合されていることを特徴とする耐震補強フレーム。
【請求項2】
請求項1に記載の耐震補強フレームであって
記ウェブ部は、当該ウェブ部の面外方向に貫通する空隙を形成する空隙形成部を有していることを特徴とする耐震補強フレーム。
【請求項3】
請求項2に記載の耐震補強フレームであって、
前記空隙形成部は、前記ウェブ部の面内において傾斜する傾斜部または前記一対のフランジ間を繋ぐ中央部が前記横材の長手方向に突出すべく湾曲する湾曲部により形成されていることを特徴とする耐震補強フレーム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の耐震補強フレームであって、
前記空隙形成部は、前記ウェブ部の面内方向の幅が、前記面外方向の幅より狭い部位を有していることを特徴とする耐震補強フレーム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の耐震補強フレームであって、
建物の躯体に当該建物の外側から取り付けられることを特徴とする耐震補強フレーム。
【請求項6】
請求項5に記載の耐震補強フレームであって、
前記建物の躯体は、当該建物の基礎又は梁であり、
前記横材が固定されていることを特徴とする耐震補強フレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
耐震補強構造として、たとえば、木造構造物等の建物の外周部分と対向し窓等の開口部を囲むように、アルミニウム合金を素材とする補強ラーメンを配設して建物に固定する耐震補強構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この補強ラーメンは、一対の補強柱と、該一対の補強柱の上部間に架設した補強梁とが接合金物を用いて完全に一体化されている。
【0003】
また、柱の柱頭部に支承部材を介して梁を架設し、梁端部の外側に水平ブラケット部と該水平ブラケット部と柱頭部をつなぐ鉛直支持部とからなるブラケット部を設け、水平ブラケット部の形状および材質を柱および梁の降伏に先行してせん断降伏するように設定した門型フレーム構造も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−90191号公報
【特許文献2】特開2012−122192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記補強ラーメンがより大きな地震に耐え得るためには、より高い剛性が求められるため、肉厚の部材等を使用せざるを得ないため製造する際のコストが高騰する。また、より剛性が高い補強ラーメンは終局耐力も高いため、補強ラーメン取付け部の強度が不足している、或いは経年により強度が低下していると、大地震等により大きな水平力が作用したときに荷重が集中し、補強ラーメンの取付け部付近の基礎、梁等の周辺部材において、より大きな損傷が生じる恐れがあるという課題がある。
【0006】
また、上記門型フレーム構造に備えられ、形状および材質を柱および梁の降伏に先行してせん断降伏するように設定されている水平ブラケット部は、柱及び梁との間に他の部材が介在されている、或いは、複数の部材に設けられた貫通孔にボルトを通してナットで固定している。このため、大地震等により門型フレームが水平力を受けると、ボルトが貫通している孔とボルトとの隙間において、接合されている部材同士に滑りが生じる可能性がある。地震動による水平力が入力された初期段階で滑りが生じた場合には、小さな荷重でも門型フレームの変形が進むので建築物の変形も進み、中小規模の地震であっても建築物の被害が大きくなる、或いは大地震の場合に耐えられないという課題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、初期剛性を確保しつつも終局耐力を抑え、フレーム取付け部周辺の部材への損傷を抑制することのできる耐震補強フレームを提供し、建築物全体の耐震性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために本発明の耐震補強フレームは、縦材と、前記縦材の上及び下にそれぞれ配置される横材と、前記縦材の両端の小口と、各々の前記横材の側部との間に介在されて、前記縦材と前記横材とを連結する連結部材と、を有し、前記連結部材は、互いに間隔を空けて対面し、前記縦材の小口または前記横材の側部に固定される一対のフランジ部と、前記一対のフランジ部間を繋ぐウェブ部と、を有し、前記縦材及び前記横材より降伏耐力が小さく、前記縦材にはボルトが螺合されて接合されていることを特徴とする耐震補強フレームである。
【0008】
このような耐震補強フレームによれば、連結部材は、縦材にはボルトが螺合されているので少なくとも縦材と連結部材とは、ボルトナットにより固定されている場合より、地震等による水平力が耐震補強フレームに作用したときに、接合部にて生じる滑りを小さく抑えることが可能である。このため、耐震補強フレームは小さな変形量から高い剛性を発揮することが可能であり、中小規模の地震時は建物の変形を抑え、被害を小さくすることが可能である。
【0009】
また、このとき、縦材と横材とを連結する連結部材は、縦材及び横材より降伏耐力が小さい為、連結部材を降伏させることで耐震補強フレームの終局耐力を抑え、フレーム取付け部周辺の部材への損傷を抑制することが可能である。
【0010】
かかる耐震補強フレームであって、前記ウェブ部は、当該ウェブ部の面外方向に貫通する空隙を形成する空隙形成部を有していることが望ましい。
【0011】
このような耐震補強フレームによれば、連結部材において縦材の小口または横材の側部に固定される一対のフランジ部を繋ぐウェブ部が、ウェブ部の面外方向に貫通する空隙を有しているので、ウェブ部は他の部位より耐力が低い。このため、大地震等による大きな水平力が耐震補強フレームに作用したときに、ウェブ部を降伏、塑性変形させて、入力される水平力のエネルギーを効率良く吸収することが可能である。
【0012】
かかる耐震補強フレームであって、請求項2に記載の耐震補強フレームであって、
前記空隙形成部は、前記ウェブ部の面内において傾斜する傾斜部または前記一対のフランジ間を繋ぐ中央部が前記横材の長手方向に突出すべく湾曲する湾曲部により形成されていることが望ましい。
【0013】
このような耐震補強フレームによれば、連結部材が有する空隙形成部は、ウェブ部の面内において傾斜する傾斜部または一対のフランジ間を繋ぐ中央部が横材の長手方向に突出すべく湾曲する湾曲部により形成されているので、耐震補強フレームに水平力が作用した際に、傾斜部や湾曲部により空隙形成部がウェブ部の面内にて変形するように誘引することが可能である。
【0014】
かかる耐震補強フレームであって、前記空隙形成部は、前記ウェブ部の面内方向の幅が、前記面外方向の幅より狭い部位を有していることが望ましい。
このような耐震補強フレームによれば、連結部材の空隙形成部は、ウェブ部の面内方向の幅が面外方向の幅より狭い部位を有しているので、一対のフランジ部の間隔が狭まるように空隙形成部が変形する。すなわち、空隙形成部は、ウェブ部の面外方向には座屈し難いので、作用する水平力のエネルギーを一層効率良く吸収することが可能である。
【0015】
かかる耐震補強フレームであって、建物の躯体に当該建物の外側から取り付けられることが望ましい。
このような耐震補強フレームによれば、例えば既存建築物の外壁一部を切欠き、取付けることができるので、建築物の内部空間の利用を妨げず容易に耐震補強することが可能である。
【0016】
かかる耐震補強フレームであって、前記建物の躯体は、当該建物の基礎又は梁であり、前記横材が固定されていることが望ましい。
このような耐震補強フレームによれば、横材が基礎又は梁に固定されているので、建物の階床間で層間変形が生じた場合に既存柱と既存横架材の接合状況あるいは土台と基礎の接合状況によらず地震力を適切に基礎または下階の横架材へ伝達させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、初期剛性を確保しつつも終局耐力を抑え、フレーム取付け部周辺部材への損傷を抑制することのできる耐震補強フレームを提供し、建築物全体の耐震性を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る耐震補強フレームが既存建物に取り付けられた状態を示す正面図である。
図2】本実施形態に係る耐震補強フレームが既存建物に取り付けられた状態を示す縦断面図である。
図3図1におけるA−A断面図である。
図4図4(a)は、連結部材を示す正面図であり、図4(b)は、図4(a)のB矢視図であり、図4(c)は、図4(a)のC矢視図であり、図4(d)は、図4(a)のD矢視図である。
図5】連結部材の第1変形例を示す正面図である。
図6】連結部材の第2変形例を示す正面図である。
図7図7(a)、図7(b)は、縦材を1本とした耐震補強フレームの変形例を示す図であり、図7(c)は、縦材を3本とした耐震補強フレームの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る耐震補強フレームについて図面を参照して説明する。
本実施形態の耐震補強フレーム1は、例えば図1図2に示すような既存建物2の窓などの開口21が設けられている位置に合わせて外側から躯体に取り付けられている。本実施形態の場合には、既存建物2の躯体をなす基礎2aと上階をなす2階の床を支持する梁2bとに取り付けられている。
【0020】
以下の説明においては、既存建物2に取り付けられている状態の耐震補強フレーム1を、既存建物2に向かって見たときに、上下となる方向を上下方向、左右となる方向を左右方向、奥行き方向を見込み方向として示す。耐震補強フレーム1の各部位であっても、また、耐震補強フレーム1を構成する各部材については単体の状態であっても、既存建物2に取り付けられた状態にて上下方向、左右方向、見込み方向となる方向にて方向を特定して説明する。
【0021】
耐震補強フレーム1は、左右方向において互いに間隔を空けて上下方向に沿って配置されるアルミニウム製の2本の縦材3と、2本の縦材3の上側又は下側にそれぞれ配置されて左右方向において2本の縦材3の両端側に設けられるアルミニウム製の2本の横材4、5と、各々の縦材3と上下の横材4、5との間に介在されて2本の縦材3と上下の横材4、5とを連結する連結部材6と、を有しており、下の横材(以下、下横材という)4が固定金具7を介して既存建物2の基礎2aに固定され、上の横材(以下、上横材という)5は、既存建物2側に延出された延出端部5aが梁2bに固定されている。
【0022】
2本の縦材3は、同一形状をなす押出成形部材であり、図3に示すように、水平断面形状がほぼ長方形状をなしている。各縦材3の断面形状がなす長方形は、見込み方向の長さと左右方向の長さとの比が、ほぼ1:3をなす長方形である。
【0023】
縦材3は、断面形状において長方形の長辺側となり見込み方向に間隔を空けて対向する一対の縦材見込対向壁部3aと、長方形状の短辺側となり左右方向に間隔を空けて対向し一対の縦材見込対向壁部3a間を見込み方向につなぐ、一対の縦材左右対向壁部3bとが縦材3の外周部をなしている。
【0024】
各縦材見込対向壁部3aには、左右方向における両端部側と、両端部の間であって左右方向に間隔を空けた2箇所との各々計4箇所に、縦材3の長手方向に沿ってボルト8が螺合されるボルト螺合部3cが設けられている。各ボルト螺合部3cは、縦材3の内側に突出させて設けられており、各縦材見込対向壁部3aにおいて左右方向の中央側に設けられた2つのボルト螺合部3cは、見込み方向に対向するボルト螺合部3c間に設けられたリブ3dによりそれぞれ見込み方向につながっている。このため、縦材3の内部には、左の縦材左右対向壁部3bと左のリブ3dとの間、2つのリブ3dの間、右のリブ3dと右の縦材左右対向壁部3bとの間にそれぞれ上下方向に貫通し、水平断面がほぼ矩形状をなす3つの中空部3eが形成されている。ボルト螺合部3cは、水平断面が矩形状をなす3つの中空部3eの各々四隅に設けられている。
【0025】
図2に示すように、下横材4は、押出成形部材であり、見込み方向に沿う面にて切断した縦断面形状がほぼ長方形状をなし、内部には左右方向に貫通する中空部4aが形成されている。下横材4の断面形状がなす長方形は、見込み方向の長さと上下方向の長さとの比が、ほぼ1:2をなす長方形である。
【0026】
図1に示すように、下横材4は、左右に間隔を空けて配置される左右の縦材3よりも左右両側に突出する長さを有している。下横材4の側部としての上面部4bには左右方向における両端部側にそれぞれ、連結部材6を固定するボルト8が貫通される貫通孔(不図示)が設けられている。また、下横材4の下面部4cには左右方向における両端部側にそれぞれ、基礎2aに取り付けられた固定金具7に下横材4を固定するボルト8が貫通される貫通孔(不図示)が設けられている。下横材4の各小口は平板状の端部プレート9が取り付けられて塞がれる。
【0027】
図2に示すように、上横材5は、押出成形部材であり、見込み方向に沿う面にて切断した縦断面形状がほぼ長方形状をなし内部に左右方向に貫通する中空部5bが形成された上横材本体部5cと、上横材本体部5cの上面部5dが延出された延出端部5aと、を有している。上横材本体部5cの断面形状がなす長方形は、見込み方向の長さと上下方向の長さとの比が、ほぼ1:2をなす長方形である。
【0028】
上横材5も下横材4と同様に、左右に間隔を空けて配置される左右の縦材3よりも左右両側に突出する長さを有している。上横材5の側部としての下面部5eには、左右方向における両端部側にそれぞれ、連結部材6を固定するボルト8が貫通される貫通孔(不図示)が設けられている。また、上横材5の各小口も平板状の端部プレート9が取り付けられて塞がれる。
【0029】
図4に示すように、連結部材6は、縦材3及び横材4、5より降伏耐力が小さく構成されている。連結部材6は、上下方向に間隔を空けて配置されてフランジ部6aをなす平板状の2枚のフランジ板61と、2枚のフランジ板61の間を繋ぐウェブ部6bをなすウェブ部材62とが溶接されて形成されている。2枚のフランジ板61は、縦材3の水平断面の長方形より僅かに大きな長方形状をなしている。ウェブ部材62は、見込み方向に貫通する空隙Sが設けられることにより肉抜きされた板状の部材である。またウェブ部材62の材質は一般鋼だけでなく低降伏点鋼等から降伏点、引張強さの適切な材料を選択することで耐震補強フレーム1の耐震性能を最適化することが可能である。
【0030】
ウェブ部材62は、フランジ板61より厚い部材により形成されている。連結部材6の一方のフランジ部6aは、鉛直に配置された縦材3の水平な小口3fに当接され、他方のフランジ部6aは、水平に配置されて縦断面が矩形状をなす下横材4の水平面をなす上面部4b及び上横材5の水平面をなす下面部5eに当接される。そして、上下に配置された一対のフランジ部6aを繋ぐウェブ部6bには、ウェブ部6bの面内方向に沿って鉛直に配置されている。
【0031】
本実施形態の連結部材6のウェブ部材62は、2枚のフランジ板61より僅かに短い長方形状の板材から形成され、上下のフランジ板61の間に傾斜する傾斜部62aが交差して正面視X字状の部位(空隙形成部に相当する)が2つ連なった形状に肉抜きされている。
また、ウェブ部材62の左右の端部は各々、上下方向の中央部が左右方向の中央側に入り込むように傾斜部62aが形成されている。ウェブ部材62は、長手方向が2枚のフランジ板61の長手方向に沿わされて上下のフランジ板61の、見込み方向における中央に配置され、ウェブ部材62の上下の端部を一周囲むように上下のフランジ板61にそれぞれ溶接されている。
【0032】
2枚のフランジ板61には、溶接されたウェブ部材62に対して見込み方向の両側にそれぞれ、左右方向に間隔を空けて、ボルト8が貫通される4つの貫通孔61aが設けられている。各フランジ板61に設けられた8つの貫通孔61aの配置は、縦材3に設けられた8つのボルト螺合部3c、下横材4及び上横材5にそれぞれ設けられた8つの貫通孔の配置と一致している。
【0033】
耐震補強フレーム1は、上下の横材4、5の両端部側において2本の縦材3が連結部材6により連結されている。耐震補強フレーム1を組み立てる際には、縦材3に、連結部材6を介して上下の横材4、5を接合する。より具体的には、下横材4の両端部側に設けられたそれぞれ8つの貫通孔と連結部材6の下側のフランジ部6aに設けられた貫通孔61aとにボルト8を挿通し、下横材4内に挿入した固定プレート10にボルト8を螺合して下横材4と下側の連結部材6とを接合する。下側の連結部材6の上側のフランジ部6aを縦材3の下端部の小口3fに当接させてフランジ部6aの貫通孔61aから挿通させたボルト8を縦材3のボルト螺合部3cに螺合して縦材3と下側の連結部材6とを接合する。
【0034】
上横材5の両端部側に設けられたそれぞれ8つの貫通孔と上側の連結部材6の上側のフランジ部6aに設けられた貫通孔61aとにボルト8を挿通し、上横材5内に挿入した固定プレート10にボルト8を螺合して上横材5と上側の連結部材6とを接合する。上側の連結部材6の下側のフランジ部6aを縦材3の上端部の小口3fに当接させてフランジ部6aの貫通孔61aから挿通させたボルト8を縦材3のボルト螺合部3cに螺合して縦材3と上側の連結部材6とを接合する。この状態で、矩形状に枠組みされた耐震補強フレーム1をなしている。連結部材6は、意匠性向上させるために、縦材3と上下の横材4、5との間に介在された後に、外周部をカバー材により覆ってもよい。
【0035】
固定金具7は、耐震補強フレーム1の左右方向における両端部を支持すべく、左右方向に間隔を空けて基礎2aに取り付けられている。固定金具7は、基礎2aの外側の面に対面させて取り付けられる板状の基部7aと、基部7aと直交するように配置されて耐震補強フレーム1が載置される板状の載置部7bと、が溶接されて構成されている。載置部7bは、基礎2aに沿って鉛直に配置された基部7aの上下方向における中央に設けられ水平面を形成する。基部7aにおける、載置部7bより上側及び下側の部位には、各々基礎2aから突出させたアンカーボルト11が挿通されてナットにより固定される挿通孔(不図示)が設けられている。また、載置部7bの下面と基部7aの載置部7bより下側の面とを連結する下補強プレート71と、載置部7bの上面と基部7aの載置部7bより上側の面とを連結する上補強プレート72とが、それぞれ溶接されて高い剛性が備えられている。
【0036】
枠組みされた耐震補強フレーム1は、既存建物2の窓などの開口21が設けられている箇所の基礎2aにアンカーボルト11により、既存建物2の外側に張り出して取り付けられている固定金具7上に下横材4を載置する。このとき、固定金具7に設けられている貫通孔と下横材4の下面に設けられている貫通孔との位置を合わせて配置し、固定金具7の下からボルト8を貫通させ、下横材4内に挿入した新たな固定プレート10にボルト8を螺合して耐震補強フレーム1の下横材4を固定金具7に固定する。
【0037】
下横材4が固定金具7に固定された状態では、耐震補強フレーム1が建物2の開口21を囲むように配置されて既存建物2に沿って立てられている。そして、上横材5の延出端部5aが外壁を挟んで対向する梁2bにビス止めされる。
【0038】
このとき、雨戸やシャッター等外側に突出する形状の建具枠であった場合でも、耐震補強フレーム1は建物2から外側に張り出して取り付けられるため干渉せず設置することが可能である。
【0039】
耐震補強フレーム1は、2本の縦材3、上下の横材4、5、4つの連結部材6、及び固定金具7がいずれも剛結合されて高い剛性を備えている一方で、連結部材6は、ウェブ部6bが肉抜きされて、耐震補強フレーム1の他の部位より耐力が低く設定されている。
【0040】
既存建物2に沿って取り付けられた耐震補強フレーム1は、既存建物2の剛性をより高めるように作用する。このため、既存建物2単体の状態よりもより大きな水平力に耐えることが可能である。また、既存建物2は、固定されている耐震補強フレーム1により剛性が高められるとともに、耐震補強フレーム1が備える連結部材6によりエネルギーが吸収されて高い靱性を発揮するため、地震力により既存建物2単体では耐えられないような層間変形が生じた場合でも倒壊を免れることができる。
【0041】
本実施形態の耐震補強フレーム1によれば、連結部材6と接合されるボルト8が、縦材3に螺合されているので少なくとも縦材3と連結部材6とは、ボルトナットにより固定されている場合より、地震等による水平力が耐震補強フレーム1に作用したときに、接合部にて生じる滑りを小さく抑えることが可能である。このため、耐震補強フレーム1に入力された水平力がより確実に連結部材6に伝達されるので、耐震補強フレーム1は小さな変形量から高い剛性を発生することが可能であり、縦材3及び横材4、5より耐力が小さな連結部材6をより確実に降伏、塑性変形させてエネルギーを吸収させることが可能である。
【0042】
また、このとき、縦材3と横材4、5とを連結する連結部材6は、縦材3及び横材4、5より降伏耐力が小さい為、連結部材6を降伏させることで耐震補強フレーム1の終局耐力を抑え、耐震補強フレーム1の取付け部周辺の部材への損傷を抑制することが可能である。
【0043】
また、連結部材6において縦材3の小口3fまたは横材4、5の側部に固定される一対のフランジ部6aを繋ぐウェブ部6bが、当該ウェブ部6bの面外方向に貫通する空隙Sを有しているので、ウェブ部6bは他の部位より耐力が低い。このため、地震等による水平力が耐震補強フレーム1に作用したときに、ウェブ部6bを降伏、塑性変形させて、入力される水平力のエネルギーを効率良く吸収することが可能である。
【0044】
また、連結部材6が有する空隙形成部としての傾斜部62aは、ウェブ部6bの面内において縦材3及び横材4、5と交差する方向に傾斜する傾斜部62aが交差して正面視X字状の部位が連なるようにされているので、耐震補強フレーム1に水平力が作用した際に、傾斜部62aがウェブ部6bの面内にて変形するように、たとえば、X字状をなす傾斜部62aの交点を中心として上下の傾斜部62aが重なるような変形を誘引することが可能である。
【0045】
また、耐震補強フレーム1は、下横材4が基礎2aに、また上横材5が梁2bにそれぞれ固定されているので、建物の階床間で層間変形が生じた場合に、既存柱と既存横架材の接合状況あるいは土台と基礎の接合状況によらず地震力を適切に基礎または下階の横架材へ伝達させることができる。
【0046】
また、耐震補強フレーム1は、補強する建物等に、その外側から取り付けることができるので、例えば既存建物2の外壁一部を切欠き、取付けることができるので、建物の内部空間の利用を妨げずに取り付けて容易に耐震補強することが可能である。
【0047】
上記実施形態においては、連結部材のウェブ部6bに、縦材3及び横材4、5と交差する方向に傾斜する傾斜部62aが交差して正面視X字状の部位が連なるような空隙形成部により空隙Sが設けられている例について説明したが、これに限るものではない。例えば、図5図6に示すように、空隙形成部として、上下のフランジ部6a間を繋ぎ、中央部が横材4、5の長手方向に突出すべく湾曲する複数の湾曲部63aが設けられていてもよい。この場合には、湾曲部63aが横材4、5の長手方向に適宜間隔を空けて複数設けられており、それら湾曲部63aの間が空隙Sをなすように形成されている。
【0048】
上下を繋ぐ湾曲部63aが、上下方向における中央部において、上下端部より横材4、5の長手方向に突出していると、上記傾斜部62aと同様に縦材3及び横材4、5を含むウェブ部6bの面内においてたわむような変形を誘引することが可能である。また、このとき、傾斜部62a及び湾曲部63aを各々、ウェブ部6bの面内方向の幅W1(図6参照)を、面外方向の幅W2(図4(d)参照)より狭く形成しておくと、ウェブ部6bの面内において、より変形しやすい連結部材6を提供することが可能である。
【0049】
上記実施形態においては、2本の縦材3、下横材4および上横材5を連結部材6により連結した耐震補強フレームを例に挙げて説明したが、縦材3の数は2本に限らず1本以上であれば構わない。例えば、図7(a)(b)に示すように縦材3を1本とする、或いは図7(c)のように、上記実施形態の耐震補強フレーム1が有する2本の縦材3の間に位置させて、新たな縦材を連結部材により下横材4と上横材5とにそれぞれ連結しても構わない。この場合であっても、耐震補強フレームを、縦材の小口と横材の側部との間に介在されて2本の縦材と横材とを連結部材により連結する構成としているので、容易に縦材を増やすことも可能である。
【0050】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1 耐震補強フレーム、2 既存建物、2a 基礎、2b 梁、3 縦材、
3f 小口、4 下横材(横材)4b 上面部、5 上横材(横材)、5e 下面部、
6 連結部材、6a フランジ部、6b ウェブ部、8 ボルト、62 ウェブ部、
62a 傾斜部、63 ウェブ部、63a 湾曲部、
S 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7