(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記送信部は、前記車両と衝突するまでの時間が予め設定されている時間閾値以内の範囲に、前記折り返し検出部により前記距離の誤算出の発生が検出された前記移動物以外の前記移動物が存在する場合に、前記2種類の連続波の周波数差を低減することを中止するように構成されている、請求項1又は2に記載の車載レーダ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2周波CW方式レーダでは、2つの周波数差信号の位相差から距離を算出するため、位相差2πに対応する距離が曖昧さなく測定できる最大距離となる。当該レーダから物標までの距離が最大距離を超えると、位相差が折返して実際よりも近い距離が算出される。周波数差を小さくすることで、最大距離は大きくなるものの、距離分解能が低下するため、周波数差をむやみに小さくすることは難しい。
【0005】
このような2周波CW方式レーダを車両に搭載して、車両に接近する移動物を検出し、車両と移動物が衝突しそうな場合に警報を出力することが考えられる。しかしながら、位相差の折り返しが発生すると、実際よりも近い距離に移動物が検出され、誤った警報を出力するおそれがある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、位相差の折り返しによる距離の誤算出の発生を検出することが可能な車載レーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、車両(50)に搭載された車載レーダ装置(20)であって、送信部(21)と、受信部(22)と、解析部(23)と、抽出部(24)と、速度算出部(25)と、距離算出部(26)と、折り返し検出部(27)と、を備える。送信部は、周波数の異なる2種類の連続波を交互に送信する。受信部は、送信部から送信された連続波が物標で反射されてなる反射波を受信し、受信した反射波と連続波との周波数差信号を生成する。解析部は、受信部により生成された周波数差信号の周波数スペクトルを算出する。抽出部は、解析部により算出された周波数スペクトルの周波数ピークを求めて移動物を抽出する。速度算出部は、周波数スペクトルの周波数ピークから抽出された移動物の車両に対する相対速度を算出する。距離算出部は、2種類の連続波に対応した2種類の周波数差信号の位相差から、車両から移動物までの距離を算出する。折り返し検出部は、位相差が2π以上となる位相差折り返しによる距離の誤算出の発生を検出する。
【0008】
そして、予め距離に応じた周波数ピークの強度閾値が設定されており、折り返し検出部は、周波数ピークの反射強度が、距離算出部により算出された距離における強度閾値よりも小さく、且つ、解析部により算出された周波数スペクトルにおいて、周波数ピークを含み、予め設定されたノイズ閾値を超える反射強度が連続する周波数幅が、予め設定された幅閾値よりも小さい場合に、距離の誤算出の発生を検出する。
【0009】
本開示によれば、生成された周波数差信号の周波数スペクトルから移動物が抽出される。そして、周波数スペクトルの周波数ピークから抽出された移動物の相対速度が算出されるとともに、2種類の連続波に対応した2種類の周波数差信号の位相差から、車両から移動物までの距離が算出される。
【0010】
ここで、位相差の折り返しが生じるような比較的遠方に歩行者が存在した場合、歩行者からの反射波の反射強度は非常に弱くなり、ノイズと混同してしまって抽出されない。つまり、位相差の折り返しが生じるのは、比較的遠方に存在する車両が移動物として抽出された場合に限られる。よって、まず、抽出された移動物が歩行者か車両かを判定すれば、折り返しが生じていないか、折り返しが生じている可能性があるかがわかる。歩行者は手を振って歩くため、歩行者の体の反射箇所によって速度がばらつく。よって、移動物が歩行者の場合は、周波数スペクトルの周波数ピーク近傍の幅が比較的広くなる。これに対して、車両はボディの速度が主となり、速度のばらつきが小さい。よって、移動物が車両の場合は、周波数スペクトルの周波数ピーク近傍の幅が比較的狭くなる。つまり、周波数スペクトルの周波数ピーク近傍の周波数幅から、移動物が歩行者か車両かを判定することができる。
【0011】
さらに、移動物が車両であった場合には、算出された距離に存在する車両か、算出された距離よりも遠方に存在する車両かを判定すれば、折り返しが生じていないか、折り返しが生じているかがわかる。算出された距離よりも遠方に車両が存在する場合、算出された距離に車両が存在する場合と比べて、検出された反射強度は小さくなる。よって、周波数ピークの反射強度から、算出された距離に存在する車両か、算出された距離よりも遠方に存在する車両か判定できる。したがって、周波数ピークの反射強度及び周波数ピーク近傍の周波数幅を用いることで、位相差の折り返しによる距離の誤算出の発生を精度良く検出することができる。
【0012】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
<1.構成>
まず、本実施形態に係るレーダ装置20の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1に示すように、レーダ装置20は、車両50の左前側方、右前側方、左後側方、及び右後側方の4箇所に搭載されている。具体的には、例えば、レーダ装置20は、車両50の前方バンパの左右両端及び後方バンパの左右両端に搭載されている。そして、レーダ装置20は、車両50の左前方、右前方、左後方、及び右後方の領域を検知エリアAdとする。
【0015】
レーダ装置20は、2周波CW方式のミリ波レーダである。
図2に示すように、レーダ装置20は、送信部21、受信部22、解析部23、抽出部24、速度算出部25、距離算出部26、折り返し検出部27、及び出力制御部28の機能を備える。
【0016】
送信部21は、複数のアンテナ素子で構成された送信アレーアンテナを含み、周波数の異なる2種類の連続波Tw1,Tw2を送信する。受信部22は、複数のアンテナ素子で構成された受信アレーアンテナを含み、連続波Tw1,Tw2が物標で反射されて返ってきた反射波Rw1、Rw2を受信する。
【0017】
解析部23、抽出部24、速度算出部25、及び距離算出部26は、反射波Rw1,Rw2に基づいて、移動物を抽出し、抽出した移動物の車両50に対する相対速度、車両50から移動物までの距離を算出する。折り返し検出部27は、距離Rの算出に用いた位相差の折り返しによる距離の誤算出の発生を検出する。なお、送信部21、受信部22、解析部23、抽出部24、速度算出部25、距離算出部26及び折り返し検出部27の各機能の詳細な処理については後述する。
【0018】
出力制御部28は、抽出された移動物が車両50に接近しており、移動物が、車両50と衝突するまでの時間が、予め設定されている時間閾値Tth以内の範囲に存在する場合に、警報装置40から警報を出力させる。また、出力制御部28は、折り返し検出部27により、距離Rの誤算出の発生が検出された場合に、距離Rが誤算出された移動物に対する警報の出力を中止する。これにより、実際には、車両50から比較的遠方に存在する移動物に対する誤警報の出力が抑制される。
【0019】
警報装置40は、ドアミラーや車室内に設けられたインジケータや、車室内のスピーカ、車室内のディスプレイなどである。警報装置40は、出力制御部28からの警報出力の指示に応じて、点滅したり、警告音や音声を出力したり、警告を表示したりする。
【0020】
<2.移動物検知処理>
次に、移動物を検知する処理手順について、
図3のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、各レーダ装置20が所定周期で繰り返し実行する。
【0021】
まず、ステップS10では、送信部21が、異なる周波数の2種類の連続波Tw1,Tw2を送信する。詳しくは、送信部21は、時分割で、2種類の連続波Tw1と連続波Tw2を交互に送信する。送信部21は、周波数f1の送信信号St1に従って、周波数f1の連続波Tw1を送信し、周波数f2の送信信号St2に従って周波数f2の連続波Tw2を送信する。なお、周波数f1と周波数f2との差分Δfは、周波数f1と周波数f2の中間周波数fcに比べて十分に小さい値となっている。
【0022】
続いて、ステップS20では、受信部22が、連続波Tw1,Tw2が物標で反射されて返ってきた反射波Rw1、Rw2を受信し、反射波Rw1,Rw2からそれぞれ受信信号Sr1,Sr2を取得する。
図4に示すように、反射波Rw1の周波数f11は、物標の相対速度に応じて、周波数f1からfd1分ドップラーシフトして、f11=f1+fd1となっている。同様に、反射波Rw2の周波数f22は、周波数f2からfd2分ドップラーシフトして、f22=f2+fd2となっている。
【0023】
続いて、ステップS30では、受信部22が、受信信号Sr1と送信信号St1を混合して、ビート信号B1を生成する。ビート信号B1は、受信信号Sr1の周波数f11と送信信号St1の周波数f1との差分fd1を周波数成分とする、周波数差信号である。同様に、受信部22は、受信信号Sr2と送信信号St2を混合して、差分fd2を周波数成分とする周波数差信号であるビート信号B2を生成する。ここで、周波数f1と周波数f2の差分Δfは、中間周波数fcと比べて十分に小さいため、同じ物標により生じた差分fd1と差分fd2とは等しいとみなすことができる。
【0024】
続いて、ステップS40では、解析部23が、ステップS30において生成されたビート信号B1,B2をそれぞれ周波数解析して、周波数スペクトルSp1,Sp2を算出する。詳しくは、解析部23は、ビート信号B1,B2をサンプリングしてサンプリングデータを取得し、取得したサンプリングデータに対して複素FFT処理を実行し、周波数スペクトルSp1,Sp2を算出する。そして、解析部23は、周波数スペクトルSp1と周波数スペクトルSp2とを足し合わせて、周波数スペクトルSpaを算出する。
【0025】
続いて、ステップS50では、抽出部24が、解析部23により算出された周波数スペクトルSpaから、予め設定されているノイズ閾値Pfthを超え、且つ相対速度0以外のピーク値を探索する。そして、そのようなピーク値が存在する場合に、そのピーク値に対して移動物を抽出する。複数のピーク値が存在する場合には、それぞれのピーク値に対して移動物を抽出する。
【0026】
続いて、ステップS60では、抽出部24が、移動物が存在するか否か、すなわち、ステップS50で移動物を抽出したか否か判定する。ステップS60において、移動物が存在しないと判定した場合は、本処理を終了する。一方、ステップS60において、移動物が存在すると判定した場合は、ステップS70の処理へ進む。このとき、複数の移動物が存在する場合には、移動物ごとに、以下のステップS70〜S130の処理を行う。
【0027】
ステップS70では、速度算出部25が、周波数スペクトルSpaから、抽出された移動物の車両50に対する相対速度Vrを算出する。詳しくは、fd1≒fd2、f1≒f2であるから、相対速度Vrは次の式(1)で表される。cは光速を表す。
【0028】
【数1】
続いて、ステップS80では、距離算出部26が、ビート信号B1とビート信号B2の位相差Δθに基づいて、車両50から移動物までの距離Rαを算出する。
図5は、連続波Tw1,Tw2を送信して、他車両60に反射して返ってきた場合における、連続波Tw1,Tw2及び反射波Rw1,Rw2の位相θ1,θ2の変化を、円内の矢印で示す。電磁波の位相は、伝搬遅延時間に応じて変化するため、送信時から受信時までの間における位相θ1,θ2の変化量Δθ1,Δθ2は、車両50から他車両60までの距離Rαに応じた値になる。変化量Δθ1,Δθ2は、連続波Tw1,Tw2の各位相と、反射波Rw1,Rw2の各位相とのそれぞれの差分であり、ビート信号B1,B2の位相をφ1,φ2とすると、Δθ1=φ1、Δθ2=φ2となる。
【0029】
ここで、
図5に示すように、送信時の周波数f1,f2が異なることによって、位相の変化量Δθ1と変化量Δθ2とは異なる。すなわち、ビート信号B1,B2の位相φ1,φ2には、位相差Δφ=φ1−φ2が生じる。そして、位相差Δφと距離Rαとの間には、式(2)で表す関係が成立する。よって、位相差Δφを抽出して、距離Rαを算出する。
【0030】
【数2】
続いて、ステップS90〜S120では、折り返し検出部27が、位相差Δφの折り返しによる距離Rαの誤算出の発生を検出する。式(2)において、位相差Δφ=2πのときの距離Rαを距離Rmaxとすると、式(2)からは距離Rmax以上となる距離Rαは算出されない。すなわち、車両50から他車両60までの真の距離を距離Rtとすると、距離Rtが距離Rmax未満の場合には、距離Rαと距離Rtは等しくなる。しかしながら、距離Rtが距離Rmax以上の場合には、位相差Δφの折り返しが生じて、距離Rαは距離Rtよりも短くなる。つまり、実際よりも車両50に近い位置に他車両60が検知される。このとき、距離Rαを用いて警報の出力制御を行うと、誤った警報を出力してしまうことになる。よって、距離Rαの誤検出の発生を検出する。
【0031】
まず、ステップS90では、折り返し検出部27が、周波数スペクトルSpaにおいて、ステップS80で距離Rαを算出した移動物に対応する周波数ピークの近傍の周波数幅が、幅閾値Δfth未満か否か判定する。周波数ピークの近傍の周波数幅は、周波数スペクトルSpaにおいて、周波数ピークを含みノイズ閾値Pfthを超える反射強度が連続する周波数幅である。
【0032】
同じ距離に歩行者と他車両が存在する場合、歩行者からの反射波Rw1,Rw2の反射強度は、他車両から反射波Rw1,Rw2の反射強度に比べて弱くなる。歩行者が距離Rmax以上の遠方に存在する場合は、歩行者からの反射波Rw1,Rw2の反射強度は非常に弱くなりノイズと混同してしまうために、歩行者は移動物として抽出されない。つまり、位相差Δφの折り返しが生じるのは、距離Rmax以上の遠方に存在する他車両が移動物として抽出された場合だけである。よって、ステップS80では、移動物が歩行者か他車両かを判別する。
【0033】
一般に、歩行者は手を振って歩くが、胴体よりも前に出した手の速度は胴体の速度よりも速くなり、胴体よりも後に出した手の速度は胴体の速度よりも遅くなる。そのため、歩行者の速度は、歩行者の体の反射場所によってばらつき、周波数スペクトルの幅が比較的広くなる。一方、他車両はボディの速度が主となるため、ばらつきが小さく、周波数スペクトルの幅が比較的狭くなる。
【0034】
よって、ステップS90において、周波数幅が幅閾値Δfth以上の場合には、移動物は歩行者であると判定して、ステップS120へ進む。幅閾値Δfthは、予め設定されている値であり、車両速度のスペクトル幅よりも広く、歩行者の速度のスペクトル幅よりも狭くなる値である。一方、ステップS90において、周波数幅が幅閾値Δfth未満の場合には、移動物は他車両であると判定して、ステップS100へ進む。
【0035】
ステップS100では、折り返し検出部27が、Rt=Rαとなっていて、距離Rαに他車両が存在するか、Rt>Rαとなっていて、距離Rαよりも遠方に他車両が存在するかを判定する。式(3)にレーダ方程式を示す。Prは受信電力、Ptは送信電力、Gはアンテナ利得、λは波長、σはレーダ反射断面積、Lsはシステム損失である。式(3)に示すように、受信電力Prは、距離Rtが大きくなるほど小さくなる。つまり、Rαを同じ値とした場合、距離Rαよりも遠方に存在する他車両からの反射波Rw1,Rw2の反射強度は、距離Rαに存在する他車両からの反射波Rw1,Rw2の反射強度よりも小さくなる。
【0036】
【数3】
よって、ステップS100では、ステップS80で距離Rαを算出した移動物に対応する周波数ピークの反射強度と、予め設定されている強度閾値Pth(Rα)とを比較する。
図6に、強度閾値Pth(Rα)の一例を示す。強度閾値Pth(Rα)は、距離Rαが小さくなるほど小さな値に設定されている。また、強度閾値Pth(Rα)は、距離Rαに存在する他車両からの反射波Rw1,Rw2の反射強度よりも小さく、且つ、距離Rαに存在する歩行者からの反射波Rw1,Rw2の反射強度よりも大きくなる値に設定されている。
【0037】
ステップS100において、周波数ピークの反射強度が強度閾値Pth(Rα)以上の場合には、Rt=Rαになっていると判定して、ステップS120へ進む。一方、ステップS100において、周波数ピークの反射強度が強度閾値Pth(Rα)未満の場合には、Rt>Rαになっていると判定して、ステップS110へ進む。
【0038】
ステップS110では、位相差Δφの折り返しありと判定して、ステップS130へ進む。ステップS130では、折り返し検出部27が、折り返し判定信号を出力制御部28、及び送信部21へ出力し、ステップS140へ進む。
【0039】
また、ステップS120では、位相差Δφの折り返しなしと判定して、ステップS140へ進む。
ステップS140では、ステップS50で抽出した移動物の中で、まだ、速度及び距離を未算出で、折り返しが未判定の移動物が存在するか否か判定する。ステップS140において、折り返しが未判定の移動物が存在する場合は、ステップS70の処理へ戻る。一方、ステップS140において、折り返しが未判定の移動物が存在しない場合は、本処理を終了する。
【0040】
出力制御部28は、折り返し判定信号を受信した場合には、折り返し判定信号に対応する移動物に対する警報の出力を中止する。
また、送信部21は、折り返し判定信号を受信した場合には、次の処理周期で、周波数f1と周波数f2の差分Δfを低減して、連続波Tw1,Tw2を送信する。これにより、距離分解能は低下するものの、距離Rmaxが大きくなり、距離Rαの誤検出の発生が抑制される。さらに、送信部21は、距離Rαの誤算出の発生が検出された移動物以外の移動物が、車両50と衝突するまでの時間が時間閾値Tth以内の範囲に存在する場合に、差分Δfを低減することを中止する。これにより、車両の周辺に警戒すべき移動物が存在する場合には、比較的遠方の移動物の距離Rαを正しく算出するよりも、警戒すべき移動物の距離Rαの算出精度を低下させないことが優先される。
【0041】
また、速度算出部25は、ステップS70において、反射波Rw1,Rw2の到来方向、すなわち車両50に対する移動物の方位を周知の手法で推定してもよい。そして、速度算出部25は、推定した移動物の方位、移動物の相対速度Vr、及び車速センサ10から受信した自車速度を用いて、移動物の移動速度Vmを算出してもよい。
【0042】
さらに、折り返し検出部27は、ステップS90及びステップS100の条件に加えて、移動物の移動速度Vmが速度閾値Vthを超えていることを条件として、その移動物の距離Rの誤検出の発生を検出するようにしてもよい。速度閾値Vthは、一般的な歩行者の移動速度よりも大きく、一般道を走行中の車両の移動速度より小さい値に予め設定されている。これにより、移動物が車両と歩行者のいずれであるかより確実に判別される。
【0043】
<3.折り返し判定動作>
次に、レーダ装置20による折り返し判定動作の例について、
図7〜
図9を参照して説明する。
図7は、車両50から距離Rmax以上離れた位置に他車両60が存在する場合の例である。この場合、
図7に示すように、周波数ピーク近傍の周波数幅は幅閾値Δfthよりも小さく、且つ、周波数ピークの反射強度は強度閾値Pth(Rα)よりも小さくなる。よって、この場合、位相差Δφの折り返しありと判定される。
【0044】
次に、
図8は、車両50から距離Rmaxよりも近い位置に他車両60が存在する場合の例である。この場合、
図8に示すように、周波数ピーク近傍の周波数幅は幅閾値Δfthよりも小さくなっているが、周波数ピークの反射強度は強度閾値Pth(Rα)よりも大きくなっている。よって、この場合、位相差Δφの折り返しなしと判定される。
【0045】
次に、
図9は、車両50から距離Rmaxよりも近い位置に歩行者70が存在する場合の例である。この場合、
図9に示すように、周波数ピークの反射強度は強度閾値Pth(Rα)よりも小さくなっているが、周波数ピーク近傍の周波数幅は幅閾値Δfthよりも大きくなっている。よって、この場合、位相差Δφの折り返しなしと判定される。
【0046】
<4.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)車両及び歩行者の移動速度のばらつき
の違い、及び距離Rαに存在する車両と距離Rαよりも遠方に存在する車両の反射強度の違いに着目して、周波数ピーク近傍の周波数幅及び周波数ピークの反射強度を折り返し判定に用いた。これにより、折り返しによる距離Rαの誤算出の発生を精度良く検出することができる。
【0047】
(2)移動物の移動速度Vmを算出し、折り返し判定の条件に移動速度Vmが歩行者ではありえない移動速度であることを加えることで、距離Rαの誤算出の発生をより精度良く検出することができる。
【0048】
(3)距離Rαの誤算出の発生が検出された場合には、2種類の連続波Tw1,Tw2の周波数差Δfが低減される。これにより、距離分解能は低下するものの、位相差Δφの折り返しなく測定できる最大距離Rmaxを大きくすることができる。ひいては、距離Rαの誤算出の発生を抑制することができる。
【0049】
(4)距離Rαの誤算出が発生している移動物は、車両50から比較的遠方に存在するため、直ちに警戒する必要はない。よって、車両50の周辺に、車両50と衝突するまでの時間が時間閾値Tth以内である移動物が存在する場合には、周波数差Δfの低減を中止して、距離分解能を低下させないことを優先する。これにより、車両50の周辺に存在する移動物の距離Rαを精度良く検出して、警戒することができる。
【0050】
(5)距離Rαの誤算出が発生している移動物は、車両50から比較的遠方に存在するため、直ちに警戒する必要はない。よって、距離Rαの誤算出の発生が検出された場合には、距離Rαが誤算出された移動物に対する警報の出力が中止される。これにより、誤った警報の出力を抑制することができる。
【0051】
(他の実施形態)
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0052】
(a)レーダ装置20は、
図1に破線で示すように補正部29の機能を備えていてもよい。そして、折り返し検出部27は、折り返しありと判定した場合に、折り返し判定信号を補正部29と送信部21へ出力するようにしてもよい。補正部29は、距離Rαの折り返し補正を行う。この場合、出力制御部28は、補正部29により補正された距離Rαを用いて、警報出力を制御すればよい。これにより、折り返しによる距離Rαの誤算出が発生した場合でも、正しい距離Rαを用いて、警報出力を制御することができる。
【0053】
(b)上記実施形態では、レーダ装置20が、車両50の4箇所に搭載されていたが、これに限定されるものではない。例えば、車両50の前中央と後中央の2箇所に搭載してもよいし、前方に3箇所、後方に3箇所の計6箇所に搭載してもよい。レーダ装置20は、検知したいエリアに応じて少なくとも1つ車両50に搭載すればよい。
【0054】
(c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0055】
(d)上述した車載レーダ装置の他、当該車載レーダ装置を構成要素とするシステム、当該車載レーダ装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、折り返し検出方法など、種々の形態で本発明を実現することもできる。