特許第6714258号(P6714258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6714258
(24)【登録日】2020年6月9日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】光パラメトリック発振器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/39 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
   G02F1/39
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-94053(P2016-94053)
(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公開番号】特開2017-203816(P2017-203816A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502441857
【氏名又は名称】株式会社エーティーエー
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(72)【発明者】
【氏名】戸井田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀典
(72)【発明者】
【氏名】池田 満
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−231365(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0200912(US,A1)
【文献】 特開2007−052288(JP,A)
【文献】 特開平07−199249(JP,A)
【文献】 特開平02−214180(JP,A)
【文献】 特開2004−219967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−7/00
H01S 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パラメトリック増幅の励起光が第2高調波光であり、第2高調波光を閉じ込める光閉じ込め器内に第2高調波光発生の波長変換素子を有する光閉じ込め器を備え、前記光閉じ込め器内に前記第2高調波を励起光とする光パラメトリック増幅光を発生させる光パラメトリック増幅非線形素子と光パラメトリック増幅光を発振させる光共振器又は前記光共振器の一部とを備え、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが前記光パラメトリック増幅非線形素子を共有することを特徴とする光パラメトリック発振器
【請求項2】
前記光パラメトリック増幅非線形光学素子の角度位相整合により光パラメトリック発振波長を変化させても光パラトリック発振光の出射位置が不変であることを特徴とする請求項1記載の光パラメトリック発振器。
【請求項3】
前記光閉じ込め器での前記光パラメトリック増幅の励起光の光学的光路長と前記光パラメトリック増幅光の発振光の光学的光路長を一致させることを特徴とする請求項1記載の光パラメトリック発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パラメトリック発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーは、高出力化(高効率化)、発振波長の高帯域化、固体化の方向で発展してきた。発振波長の高帯域化では波長可変化が強く望まれ、色素レーザーなどが実用化されてきた。一方で、レーザーの実用性の観点からはレーザー構成の固体化が切望され、波長可変光源として非線形光学素子(光パラメトリック結晶)を用いた光パラメトリック光源が開発された。
【0003】
該光パラメトリック光源は、2次の非線形定数をもつ光パラメトリック結晶に角周波数2ω 0 の強い入射光を加えると、2ω 0 = ω 1 +ω 2 の条件を満たす角周波数ω 1 、ω 2 の2光波を光共振器によるフィードバック増幅作用下で増幅発振させるものである。光パラメトリック発振は任意の角周波数で起こすことができ、波長可変コヒーレント光源として有用である。発振波長の選択は光パラメトリック結晶の温度や角度による位相整合条件の制御によって行う。
【0004】
光パラメトリック発振器では2次の非線形作用を誘起するためピーク出力の大きいn秒Q-SWレーザーやp秒あるいはf秒のモードロックレーザーが励起レーザーとして用いられる。
【0005】
図8は代表的なn秒Q-SWレーザー励起の光パラメトリック発振器を示す。基本波レーザーKLは、ω 0 (例えば1064nm)を発振し、これを非線形光学結晶SHG(例えば、リチウムトリボレート、以下、「LBO」と言う)で2ω 0 (基本レーザーの第二高調波、例えば、532nm)に波長変換し、全反射ミラーM1を経由して、光共振器内の光パラメトリック増幅非線形素子、例えば光パラメトリック結晶KTP(カリウムチタンリン酸塩、以下、「KTP」と言う)に入射される。光パラメトリック結晶KTPに入射された光は、出力ミラーM2で反射され、再び光共振器内の光パラメトリック結晶KTPと全反射ミラーM1で900〜1200nm光波が反射され、2ω 0 光(例えば、532nm)が再び非線形光学結晶SHGに戻る。
【0006】
全反射ミラーM1及び出力ミラーM2は、S1面が532nmに対するAR(Anti-Reflection)特性を、S2面が900〜1200nmに対しTR(Total Reflection)かつ532nmに対しAR特性となっている。出力ミラーM2のS3面は900〜1200nmに対しAR特性を、S4面は900〜1200nmに対し70%PR(Partial Reflection)特性を有している。2ω 0 光(例えば、532nm)の励起光で光パラメトリック結晶内KTPに誘起されたω 1 とω 2 は光パラメトリック結晶KTP内で増幅され、励起光のパルス幅(〜10ns程度)内で全反射ミラーM1及び出力ミラーM2からなる光共振器(OPO cavity)内を多数回往復するうちに発振閾値以上に達し、ω 1 とω 2 の光が発振する。
【0007】
発振波長の選択は2ω 0 光(例えば、532nm)の進行方向と光パラメトリック結晶KTPの光軸方向の角度(角度位相整合)を制御することで行う。この場合2ω 0 光(例えば、532nm)の入射方向と光パラメトリック結晶KTPの入射面との角度が90°からずれるに従い、図9に示すように光パラメトリック発振光のω 1 、ω 2 の出射位置がずれることになる。波長可変に伴い光パラメトリック発振光の出射位置がずれるのは、その都度光学調整が必要となり不都合が多い。
【0008】
この点を改善したものとして図10に示す光パラメトリック発振器が公知である。これは非線形光学結晶SHGで発生した2ω 0 光(例えば、532nm)を、ダイクロイックミラーDMを経由して光パラメトリック結晶KTPに入射すると共に、図8とは、全反射ミラーM1及び出力ミラーM2の位置を変えて、ダイクロイックミラーDMを経由して出力ミラーM2に出力することにより、出力ミラーM2を2ω 0 光(例えば、532nm)の光路からずらしたものである。ここで、ダイクロイックミラーDMのS1面が532nmに対するAR特性を、S2面が900〜1200nmに対するTR特性かつ532nmに対しAR特性を有している。全反射ミラーM1のS3面は532nm 及び900〜1200nmに対するTR特性を有している。また、出力ミラーM2のS5面は900〜1200nmに対しAR特性を、S6面は900〜1200nmに対し70%PR特性を有している。このようにして、2ω 0 光(例えば、532nm)の励起光を光パラメトリック結晶KTPに戻すこと(ダブルパス励起)で、光パラメトリック結晶KTPの角度変化に伴う発振光の位置ずれを補償している。しかしながら、このタイプの光パラメトリック発振でもダブルパス励起にとどまり、一般に励起光パワーに対する光パラメトリック発振光への変換効率が低く、この変換効率の向上が課題である。
【0009】
p秒あるいはf秒モードロックレーザーを励起レーザーとした場合は、パルス幅が極短なため、1パルス幅内で光パラメトリック結晶KTP内を多数回往復させることは出来ない。このため、モードロックレーザー光を励起光とする場合は、図11に示すように光パラメトリック発振器をZ型に構成して共振器長を長くし、ω 1 とω 2 が共振器内を1往復する時間とモードロックレーザーの繰返し発振周期とを等しくすることで、励起レーザーパルスごとに光パラメトリック増幅が蓄積するようにする。ダイクロイックミラーDMの構成は図10と同一であるが、全反射ミラーM1を光軸がZ型になるように2つ配置して、そのS3面を900〜1200nmに対するTR特性とし、出力ミラーM2を900〜1200nmの励起光の光路長を変化させる移動ステージMV1上に配置してその光共振長を調節するようにしたものである。S5面及びS6面の光学特性は、図10と同一である。光共振器内に蓄積された光パラメトリック増幅光は発振閾値を超えると、以降は励起レーザーパルスと同期して光パラメトリック発振が起こる。この様子は図12に示す通りである。(a)に示す通りモードロックレーザーの発振周波数は通常80MHz程度であり、発振周期は12.5nsとなる。(b)このため、OP01に達する共振長は5×10-9 (s)×3×108 (m/s) = 3.75より、約2m弱程度は必要となり経時安定性の確保や小型化への支障となる。またn秒Q-SWレーザーの光パラメトリック発振器との共通化も困難である。
【0010】
広い範囲での波長可変コヒーレント光源としての光パラメトリック発振器は、その利点は多いものの、励起レーザーごとに専用の光パラメトリック発振器が必要であり、また効率の悪さ、経時安定性の悪さ等の実用面からいまだ課題が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光パラメトリック発振器の課題である高効率化、経時安定性、波長変化に対する光出射位置の安定性を確保すると共に、n秒、p秒、f秒のいずれの励起レーザーにも対応可能な光パラメトリック発振器の実現である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
光パラメトリック増幅の励起光を閉じ込める光閉じ込め器と、光パラメトリック増幅光を発振させる光共振器と、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子を共有することを特徴とする光パラメトリック発振器によって達成される。また、光パラメトリック増幅用非線形結晶の角度位相整合により光パラメトリック発振波長を変化させても光パラトリック発振光の出射位置が不変であることを特徴とする上記記載の光パラメトリック発振器により達成される。また、光閉じ込め器での光パラメトリック増幅の励起光の光学的光路長と光パラメトリック発振光の光学的光路長を一致させる上記記載の光パラメトリック発振器により達成される。
【発明の効果】
【0013】
光パラメトリック発振器の高効率化は、励起光2ω 0 を閉じ込めて光パラメトリック増幅用非線形結晶を多数回通過することで、励起光2ω 0 からω 1 とω 2 へのエネルギー変換の作用長を確保することで実現する。経時安定性は光パラメトリック発振器の共振器長を短くすることで確保するとともに、光閉じ込め器での光パラメトリック励起光の光学的光路長と光パラメトリック発振光の光学的光路長を一致させることで、n秒、p秒、f秒のいずれの励起レーザーに対応可能な光パラトリック発振器を実現する。さらに光パラメトリック発振器からの光取り出しが光パラメトリック結晶を実質往復した光とすることで、波長変化に対して発振光出射位置の不変化を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1を示す構成図(実施例1)。
図2】本発明の実施例2を示す構成図(実施例2)。
図3】本発明の実施例3を示す構成図(実施例3)。
図4】本発明の実施例4を示す構成図(実施例4)。
図5】本発明の実施例5を示す構成図(実施例5)。
図6】本発明の実施例6を示す構成図(実施例6)。
図7】本発明の動作を説明する説明図。
図8】従来の代表的なn秒Q-SWレーザー励起の光パラメトリック発振器を示す構成図。
図9】従来の動作を説明する説明図。
図10】従来の光パラメトリック発振器を示す構成図。
図11】p秒あるいはf秒モードロックレーザーを励起レーザーとした場合の光パラメトリック発振器を示す構成図。
図12図11の動作を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光パラメトリック発振器を添付図面の記載に沿って具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1を図1示す。Nd:YAG Q-SWレーザーからの基本波KL 波長ω 0 (1064nm)を、ダイクロイックミラーDMを経由して、非線形光学結晶SHG(例えば、リチウムトリポレート、以下、「LBO」と言う)で2ω 0 (基本レーザーKLの第二高調波、例えば、532nm)に波長変換し、全反射ミラーM1を経由して、光パラメトリック増幅非線形素子、例えば光パラメトリック結晶KTP(例えば、カリウムチタンリン酸塩、以下、「KTP」と言う)を励起する。光パラメトリック結晶KTPは全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成された光共振器(OPO cavity)内にある。また非線形光学結晶SHGは、ダイクロイックミラーDMと出力ミラーM2で構成される532 nm光閉じ込め器(cavity)内に配置される。
【0017】
ここでダイクロイックミラーDMのS1面は1064 nmに対するAR特性を有する。またS2面は1064nmに対しAR特性かつ532 nmに対する TR特性を有する。全反射ミラーM1のS3面は532 nmに対するAR 特性を持ち、S4 面は900〜1200 nmに対するTR特性、532 nmに対するAR 特性を有する。出力ミラーM2のS5面は900〜1200nmに対し70%PR特性かつ532nmに対しTR特性を有している。S6面は900〜1200nmに対しAR特性を有している。従って、ダイクロイックミラーDM及び出力ミラーM2で構成される空間が532 nmに対する閉じ込め空間(cavity)を形成する。光パラメトリック結晶KTPは全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成された光共振器(OPO cavity)内にある。即ち、本発明の光パラメトリック発振器は、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子(KTP)を共有することを特徴とする。
【0018】
非線形光学結晶SHGで波長変換された2ω 0 光(例えば、532nm)は全反射ミラーM1を透過し光パラメトリック結晶KTPに入射する。KTP結晶内で2ω 0 光(532nm)は位相整合条件を満たすω 1 とω 2 (2ω 0 = ω 1 +ω 2 )の光を誘起するとともに2ω 0 光(532nm)がKTP結晶内を伝搬しながらω 1 とω 2 が増幅される。2ω 0 光(532nm)は出力ミラーM2で全反射され再びKTP結晶内を伝搬する。さらに全反射ミラーM1を透過した2ω 0 光(532nm)はダイクロイックミラーDMのS2面で再度反射され、全反射ミラーM1を経由してKTP結晶へ戻る。この過程は、ダイクロイックミラーDMのS2面と出力ミラーM2のS5面がいずれも2ω 0 光(532nm)に対し全反射特性を有しているため、ダイクロイックミラーDMと出力ミラーM2内のSHGで発生した2ω 0 光(532nm)はダイクロイックミラーDMと出力ミラーM2間に閉じ込められる。したがって2ω 0 光(532nm)にKTP結晶を通過する度にω 1 とω 2 への光増幅が生じる。全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成される光共振器(OPO cavity)内のω 1 とω 2 は光増幅を繰返し、発振閾値を超えると出力ミラーM2から光エネルギーが取り出される(発振する)。
【0019】
一般にn秒Q-SWレーザーのパルス幅は略略10 ns程度である。光パラメトリック発振器の共振器長L(全反射ミラーM1と出力ミラーM2の光学的距離)をL=15cm、2ω 0 (532nm)の閉じ込め器の長さl(ダイクロイックミラーDMと出力ミラーM2の光学的距離)をl=30cmとすると、2ω 0 光(532nm)がKTP結晶を透過する10nsの間に、KTP結晶で誘起されたω 1 光とω 2 光は光共振器(全反射ミラーM1及び出力ミラーM2で形成される空間)内を10往復する(10×10-9×3×1010 cm/2×15cm=10)。また2ω 0 光(532nm)がKTP結晶に入射してから1ns後には2ω 0 光(532nm)が光閉じ込め器内を一周して再びKTP結晶に入射しさらにω 1 とω 2 光を増幅・発振を増強することとなる。このように発生した2ω 0 光(532nm)を多数回用いてω 1 とω 2 への波長変換が行われる。この過程はQ-SWの繰返しパルス毎に行われる。これによって変換効率の向上が実現される。
【0020】
図1に示した実施例1では波長を変化させるのにKTP結晶を回転させる。すると図9において既に説明したように、ω 1 とω 2 の出射位置がずれる。波長を変えた際に光パラメトリック発振光の出射位置がずれることは、計測系の再調整が必要となり、実用面からは避けたい。
【実施例2】
【0021】
波長可変に伴うKTP結晶の角度変化があっても光パラメトリック発振光の出射位置が不変の実施例を図2から図4に示す。図2の実施例2は図1に示した実施例1のKTP結晶を2つにし、KTP1とKTP2を同期対称回転するようにした構成である。他の構成は、実施例1と同じである。KTP1の回転に伴い発生する光路軸ずれを、対称回転するKTP2により元に戻すことができる。これによりKTPを回転しω 1 とω 2 を変化させても、ω 1 とω 2 の出射位置は変わらない。本実施例の光パラメトリック発振器は、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子(KTP)を共有することを特徴とする。
【実施例3】
【0022】
図3の実施例3は、図1の実施例1に記載した全反射ミラーM1と出力ミラーM2の位置を入れ替え、励起の2ω 0 光(532nm)を再度KTP結晶へ戻す構成である。即ち、基本レーザーKL(1064nm)は、ダイクロイックミラーDM1を経由して第二高調波発生用の非線形光学結晶SHGに入射して2ω 0 光(532nm)を発生させる。2ω 0 光(532nm)は、ダイクロイックミラーDM2及び出力ミラーM2を経由して光パラメトリック結晶KTPに入射して、ω 1 とω 2 への波長変換が行われ、全反射ミラーM1に至る。即ち、図3は、ダイクロイックミラーDM2を配すると共に、図1に示す実施例1内の全反射ミラーM1及び出力ミラーM2の位置を変えたものである。
【0023】
ここで、ダイクロイックミラーDM1のS1面が1064nmに対するAR特性を、S2面が1064nmに対するAR特性かつ532nmに対するTR特性となっている。ダイクロイックミラーDM2のS3 面は532nmに対するAR特性を、S4面は532nmに対するAR特性及び900〜1200nmに対するTR特性を持つ。出力ミラーM2のS7面は532nmに対するAR特性を、S8面は900〜1200nmに対し70%PR特性及び532nmに対するAR特性を有している。全反射ミラーM1のS5面は532nm及び900〜1200nmに対しTR特性を有している。
【0024】
ダイクロイックミラーDM1及び全反射ミラーM1で構成される空間が532 nmに対する閉じ込め空間(cavity)を形成する。また、出力ミラーM2と全反射ミラーM1で形成される空間が光共振器(OPO cavity)を形成し、2ω 0 光(例えば、532nm)にKTP結晶を通過する度にω 1 とω 2 への光増幅が生じる。全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成される光共振器(OPO cavity)内のω 1 とω 2 は光増幅を繰返し、発振閾値を超えると出力ミラーM2から光エネルギーが取り出され、ダイクロイックミラーDM2を経由して出力される(発振する)。
【0025】
このようにして、2ω 0 光(例えば、532nm)の励起光を光パラメトリック結晶KTPに戻すこと(ダブルパス励起)で、光パラメトリック結晶の角度変化に伴う発振光の位置ずれを補償している。2ω 0 光(例えば、532nm)とω 1 およびω 2 を分離するため、SHG結晶と出力ミラーM2の間にダイクロイックミラーDM2を配置し、発振したω 1 とω 2 を取り出す。即ち、本実施例の光パラメトリック発振器は、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子(KTP)を共有すると共に、全反射ミラーM1で反射した2ω 0 光(例えば、532nm)を再度光パラメトリック結晶KTPに戻すこと(ダブルパス励起)を特徴とする。
【実施例4】
【0026】
さらに図4の実施例4は、図3の実施例3と同様、図1の実施例1と全反射ミラーM1と出力ミラーM2の位置を入れ替えると共に、出力ミラーM2を2ω 0 光(例えば、532nm)の光軸上から外し、ダイクロイックミラーDM1と全反射ミラーM1で2ω 0 光(例えば、532nm)閉じ込め空間(cavity)を形成すると共に、ダイクロイックミラーDM2と全反射ミラーM1及び出力ミラーM2でL型光共振器(OPO cavity)を構成したものである。図3及び図4に示す実施例3および実施例4はいずれもω 1 とω 2 がKTP結晶を往復した後に光共振器から光を取り出す構成のため、KTP結晶の回転に伴う光出射位置ずれは発生しない。
【0027】
実施例4のダイクロイックミラーDM1、ダイクロイックミラーDM2,全反射ミラーM1及び出力ミラーM2の構成は、出力ミラーM2のS7面が900〜1200nmに対しAR特性を有する点及びS8 面が単に900〜1200nmに対し70%PR特性を有する点を除いて、実施例3と同一である。
【0028】
実施例4のダイクロイックミラーDM1及び全反射ミラーM1で構成される空間が532 nmに対する閉じ込め空間(cavity)を形成する。また、全反射ミラーM1、ダイクロイックミラーDM2及び出力ミラーM2で形成されるL型空間(OPO cavity)が光共振器を形成し、2ω 0 光(例えば、532nm)がKTP結晶を通過する度にω 1 とω 2 への光増幅が生じる。全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成される光共振器内のω 1 とω 2 は光増幅を繰返し、発振閾値を超えると出力ミラーM2から光エネルギーが取り出される(発振する)。本実施例の光パラメトリック発振器も、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子(KTP)を共有すると共に、全反射ミラーM1で反射した2ω 0 光(例えば、532nm)を再度光パラメトリック結晶KTPに戻すこと(ダブルパス励起)を特徴とする。
【実施例5】
【0029】
励起レーザーがp秒あるいはf秒のモードロックレーザーになると、パルス時間が極短なので1パルス時間内での光パラメトリック増幅と発振は困難である。しかし励起パルス2ω 0 光(532nm)を閉じ込めてパルス周期内で光パラメトリック結晶を複数回励起できれば光パラメトリック増幅と発振は可能となる。図5の実施例5は、2ω 0 光(532nm)の光閉じ込め器に光路長を制御する機構MV1を設けて、ダイクロイックミラーDM1と出力ミラーM2との間の空間に532 nmに対する閉じ込め空間(cavity)を形成する。また、全反射ミラーM1に光路長を制御する機構MV2を設けて、出力ミラーM2、ダイクロイックミラーDM2及び全反射ミラーM1からなるL型の空間に光共振器(OPO cavity)を形成し、2ω 0 光(例えば、532nm)がKTP結晶を通過する度にω 1 とω 2 への光増幅が生じる。全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成される光共振器(OPO cavity)内のω 1 とω 2 は光増幅を繰返し、発振閾値を超えると出力ミラーM2から光エネルギーが取り出される(発振する)。
【0030】
0 光(例えば、532nm)の光閉じ込め器往復時間と光パラメトリック発振のω 1 とω 2の光パラメトリック共振器往復時間を一致させ、2ω 0 光の1パルス内で2ω 0 光による光パラメトリック結晶の複数回励起を行うことで、光パラメトリック増幅と発振を実現する。
【0031】
ダイクロイックミラーDM1及び出力ミラーM2で構成される空間(cavity)が2ω 0 光(532nm)に対する光閉じ込め器を形成し、全反射ミラーM1、ダイクロイックミラーDM2及び出力ミラーM2で構成されるL型の空間(OPO cavity)が光パラメトリック共振器往復期間を形成する。
【0032】
ダイクロイックミラーDM1のS1面が1064nmに対するAR特性を、S2面が1064nmに対するAR特性かつ532nmに対するTR特性となっている。ダイクロイックミラーDM2のS3 面は532nmに対するAR特性を、S4面は900〜1200nmに対するTR特性及び532nmに対するAR特性を持つ。出力ミラーM2のS7面は900〜1200nmに対するAR特性を、S8面は900〜1200nmに対し70%PR特性及び532nmに対するTR特性を有している。全反射ミラーM1のS5面は900〜1200nmに対しTR特性を有している。
【0033】
従って、ダイクロイックミラーDM1及び出力ミラーM2で構成される空間が532 nmに対する閉じ込め空間(cavity)を形成する。また、全反射ミラーM1、ダイクロイックミラーDM2及び出力ミラーM2で形成されるL型の空間(OPO cavity)が光共振器を形成し、2ω 0 光(532nm)にKTP結晶を通過する度にω 1 とω 2 への光増幅が生じる。全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成される光共振器内のω 1 とω 2 は光増幅を繰返し、発振閾値を超えると出力ミラーM2から光エネルギーが取り出される(発振する)。即ち、本実施例の光パラメトリック発振器は、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子(KTP)を共有することを特徴とする。
【実施例6】
【0034】
図6に示す実施例6は、実質的に図5に示す実施例5と同一であるが、出力ミラーM2及び全反射ミラーM1を入れ替えた構造である。即ち、出力ミラーM2を移動ステージMV2に設けて2ω 0 光(例えば、532nm)の光軸上から外した構造である。また、全反射ミラーM1のS5面が、532 nm&900〜1200nmのTR特性を、出力ミラーM2のS8面が単に900〜1200nmに対し70%PR特性を有する。
【0035】
従って、ダイクロイックミラーDM1及び全反射ミラーM1で構成される空間が532 nmに対する閉じ込め空間(cavity)を形成する。また、全反射ミラーM1、ダイクロイックミラーDM2及び出力ミラーM2で形成されるL型の空間(OPO cavity)が光共振器を形成し、2ω 0 光(532nm)にKTP結晶を通過する度にω 1 とω 2 への光増幅が生じる。全反射ミラーM1と出力ミラーM2で構成される光共振器(OPO cavity)内のω 1 とω 2 は光増幅を繰返し、発振閾値を超えると出力ミラーM2から光エネルギーが取り出される(発振する)。本実施例の光パラメトリック発振器も、前記光閉じ込め器と前記光共振器とが光パラメトリック増幅非線形素子(KTP)を共有すると共に、全反射ミラーM1で反射した2ω 0 光(例えば、532nm)を再度光パラメトリック結晶KTPに戻すこと(ダブルパス励起)を特徴とする。
【0036】
図5に示す実施例5及び図6に示す実施例6のように光路長を変化させる移動機構MV1及びMV2を設けることにより、光閉じ込め器での光パラメトリック増幅の励起光の光学的光路長と光パラメトリック発振器の光学的光路長とを一致させることができる。
【0037】
図7により動作を説明する。図7の(a)はp秒モードロックレーザーの第二高調波2ω 0(例えば、532nm)のパルス列を示している。パルス幅10psのパルスが80MHzの繰返し(12.5ns間隔)でKTP結晶に入射する。図7の(b)は、(a)のP1が2ω 0 の閉じ込め器内を複数回往復する様子を示している。P1(n)はn回閉じ込め器内を往復したパルスである。ここでP1(n)は正確にはKTP結晶を往復する2つのパルスが極僅かの時間差で重なっているが、ここではP1(n)を1つとして図示している。P1(n)のパルス間の時間差2ω 0 光(例えば、532nm)は、閉じ込め器を一往復する時間であるから、いま閉じ込め器長の光学的距離lをl=30cmとすると、1nsとなる。モードロックレーザーからの次のパルスまでは12.5nsなので、次パルスまでにP1(12)までのパルスがKTP結晶内に入射することとなる。それぞれのP1(n)がKTP結晶に入射する度に光パラメトリック増幅が生じω 1 とω 2 が誘起される。発生したω 1 とω 2 はP1(n)ごとにその強度を増大し、閾値を超えたタイミングで光パラメトリック発振となる。図7の(c)はP1(n)によって生じる光パラメトリック増幅・発振の様子を示している。このように極短のp秒パルスを光閉じ込め器内で光パラメトリック結晶内を複数回往復させることで、光パラメトリック発振を実現できる。モードロックレーザーからの80MHzのパルスごとに、上記過程が繰り返されるため、光パラメトリック発振も励起レーザーパルスに同期して80MHzで発振する。
【0038】
光パラメトリック増幅の励起光を閉じ込める光閉じ込め器と光パラメトリック増幅光を発振させる光共振器とが光パラメトリック増幅非線形光学素子を共有することで、励起光を光パラメトリック増幅用非線形光学素子内を複数回往復させることができ、励起光2ω 0 (532nm)から光パラメトリック発振のω 1 とω 2 へのエネルギー変換が無駄なく高効率に行え、高効率な光パラメトリック発振器が得られる。
【0039】
実施例2から実施例4に示したように、光パラメトリック増幅非線形光学素子を実質往復した後に光パラメトリック発振器から光取り出しを行うことで、非線形光学素子の角度位相整合により光パラメトリック発振波長を変化させても光パラトリック発振光の出射位置が不変となる。これは光パラメトリック発振光を用いた計測において、波長変化ごとの光学調整を不要とする実用上極めて大きな効果をもたらす。
【0040】
実施例5および6に示したように、光閉じ込め器での光パラメトリック増幅の励起光の光学的光路長と光パラメトリック発振光の光学的光路長とを一致させることで、n秒、p秒、f秒のいずれの励起レーザーにも対応可能な光パラメトリック発振器が実現できる。さらに従来p秒、f秒用光パラメトリック発振器では励起レーザーの繰返し周期に対応した長い共振器長が必要であったが、実施例5、6では短い共振器長で構成でき、小型化や経時安定性が実現される。
【0041】
さらに実施例6では、光パラメトリック増幅非線形光学素子を往復した後に光パラメトリック発振器から光取り出しを行うことで、非線形光学素子の角度位相整合により光パラメトリック発振波長を変化させても光パラトリック発振光の出射位置が不変となる効果も実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上より、従来広い波長可変特性を有するものの、効率が悪く、大型で経時安定性に乏しく、励起レーザーごとに異なる構成を必要とした、極めて実用性の劣った光パラメトリック発振器に対し、本発明は高効率、小型、安定でn秒からf秒までどのような励起レーザーにも適用可能な実用性の高い光パラメトリック発振器を実現するものである。
【符号の説明】
【0043】
DM ダイクロイックミラー
SHG 非線形光学結晶
M1 全反射ミラー
KTP 光パラメトリック結晶
M2 出力ミラー
ω1 シグナル光
ω2 アイドラ光
MV 移動ステージ
図1
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図5
図6
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図12