(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。但し、発明の範囲は図示例に限定されない。以下の説明においては、本発明の実施の形態における紙管を使用したロール状シートとして、紙管にシートとしてのトイレットペーパーを捲回してなるロール状トイレットペーパーを例示して説明することとする。
<トイレットペーパー>
ロール状トイレットペーパー10は、例えば、
図1に示されるように、略中空円筒形状をなす紙管30と、一定幅に形成されて紙管30を芯として捲回されたトイレットペーパー20と、を備えて構成される。ロール状トイレットペーパー10は、ペーパーホルダーに取り付けて、トイレットペーパー20を引き出して使用するのが一般的である。
【0011】
ロール状トイレットペーパー10の大きさは特に限定されないが、直径90〜120mm、幅100〜120mm、紙管径35〜50mmのものが一般的であり、本実施形態においても好適である。
【0012】
トイレットペーパー20を構成する原紙は、原料パルプを主原料とする薄葉紙用抄紙原料により製造できる。その原料パルプは、特に限定されるものではなく、トイレットペーパー20の具体的な用途に応じて適宜原料パルプを選択し、また配合して使用することができる。
【0013】
トイレットペーパー20のプライ数及び坪量は、その用途によって適宜調整することができるが、プライ数が1プライから3プライ、全体での紙厚90〜270μm、1プライの坪量は10〜30g/m
2の範囲内にあるものを使用するのが望ましい。坪量が10g/m
2以上であると、使用に耐えうる十分な強度を適正に確保することができる。坪量が30g/m
2以下であると紙全体が硬くならず、ゴワ付き感が生じることなく肌触りが良くなる。なお、坪量の測定方法としては、例えばJIS P8124:2011に準じた方法等が挙げられる。
<紙管>
紙管30は、例えば、
図2に示されるように、紙管30の内周面に面した内側原紙層31と、紙管30の外周面に面した外側原紙層32との2つの原紙層から形成される。
【0014】
内側原紙層31と外側原紙層32は、例えば、紙管原紙が螺旋状に巻かれたスパイラル紙管、平巻き紙管として形成される。内側原紙層31及び外側原紙層32を構成する紙管原紙は、強度維持の観点から、米坪130〜200g/m
2、剛度300〜600の原紙を用いることが好ましい。なお、剛度の測定方法としては、例えばJIS P8143:2009に準じた方法等が挙げられる。
【0015】
内側原紙層31と外側原紙層32は、必要に応じて接着剤等を用いて互いに接着されている。
【0016】
内側原紙層31と外側原紙層32とを接着剤を用いて固定する場合、その接着方法は任意であり、既知の紙管糊(例えば、CMC、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール)の他、ホットメルト、ラテックス等を用いて接着することができる。
【0017】
本実施形態の紙管30の内側原紙層31と外側原紙層32の少なくとも一方には、ポリフェノールとグリセリンが含浸されている。
【0018】
ポリフェノールは、紙管30に消臭性能を付与するために使用した消臭剤である。消臭剤としてのポリフェノールには、植物から抽出されたタンニン、カテキンなどを用いることができる。
【0019】
原紙層におけるポリフェノールの含浸量は0.01g/m
2以上とすることができる。ポリフェノールの含浸量が上記の値であれば、紙管30に好適な消臭性能を付与することができる。
【0020】
また、原紙層におけるポリフェノールの含浸量は0.1g/m
2以下とすることができる。原紙層におけるポリフェノールの含浸量を0.1g/m
2よりも増やしても、その消臭性能が格段に向上することがなかったため、本実施形態では、コスト等を考慮して、ポリフェノールの含浸量の上限値を0.1g/m
2とすることができる。
【0021】
グリセリンは、ポリフェノールの安定化剤(酸化防止剤)であり、紙管30に含浸されたポリフェノールの消臭性能を維持するために使用している。
【0022】
原紙層におけるグリセリンの含浸量は1.0g/m
2以下とすることができる。ポリオール(多価アルコール)であるグリセリンは、セルロースの結合を阻害する性状を有しているため、原紙層への含浸量が多くなるほど紙管30の強度が低下してしまうという問題がある。そこで発明者らが鋭意研究を行った結果、例えば、紙管原紙(原紙層)の米坪が130〜200g/m
2である場合、グリセリンの含浸量を1.0g/m
2以下にすれば、ロール状トイレットペーパー10の紙管30としての強度が得られることを見出した。
【0023】
一方、原紙層におけるグリセリンの含浸量は0.3g/m
2以上とすることができる。発明者らは、グリセリンの含浸量を0.3g/m
2以上とすることにより、紙管30に含浸させたポリフェノールの安定化を図ることが可能であることを見出した。
【0024】
つまり、原紙層におけるグリセリンの含浸量が0.3g/m
2以上であれば、ポリフェノールの酸化防止効果を有し、原紙層におけるグリセリンの含浸量が1.0g/m
2以下であれば、紙管30が強度低下しないので、この範囲でグリセリンを使用することが好ましい。
【0025】
また、内側原紙層31と外側原紙層32のうち、ポリフェノールとグリセリンが含浸されている原紙層に、さらにプロパンジオールを含浸させてもよい。プロパンジオールは、グリセリンと同様、ポリフェノールの安定化剤(酸化防止剤)として使用する。
【0026】
原紙層におけるプロパンジオールの含浸量は、1.0g/m
2以下とすることができる。ポリオール(多価アルコール)であるプロパンジオールもグリセリンと同様に、セルロースの結合を阻害する性状を有している。
【0027】
例えば、紙管原紙(原紙層)の米坪が130〜200g/m
2である場合に、上記グリセリンとプロパンジオールを併用する際、プロパンジオールの含浸量を1.0g/m
2以下にすれば、ロール状トイレットペーパー10の紙管30としての強度を維持することが可能であることを発明者らが見出した。
【0028】
ただし、プロパンジオールの含浸量の上限は、グリセリンの含有量によっても適宜設定することができ、例えば原紙層におけるグリセリンとプロパンジオールとの合計含有量は、2.0g/m
2以下とすることができる。
【0029】
原紙層におけるプロパンジオールの含浸量の下限は特に限定されないが、例えば0.1g/m
2以上とすることにより、プロパンジオールを加えることの効果を得ることができる。
【0030】
次に、本実施形態に係る紙管の実施例サンプル、比較例サンプル、及び参照例サンプルを作製し、その性能評価を行った結果を示す。
【0031】
本実施形態では、米坪が160g/m
2の原紙に対し、ポリフェノールとグリセリン(あるいはプロパンジオール)を含む塗工液をグラビア印刷の手法で塗布し、内側原紙層31とする紙管原紙を作製した。また、塗工液を塗布しない米坪160g/m
2の原紙を外側原紙層32用の紙管原紙とした。ここで用いたポリフェノールは、白井松新薬株式会社製のカテキン60Gである。
【0032】
なお、内側原紙層31におけるポリフェノールとグリセリン(あるいはプロパンジオール)の含浸量が、下記の表1に示す値になるように、塗工液におけるポリフェノールとグリセリン(あるいはプロパンジオール)の濃度を調整した。この塗工液の溶媒は水であり、いずれの塗工液にもイソプロピルアルコールが5%含まれるようにした。このイソプロピルアルコールは、紙への含浸性を高める目的で配合している。
【0033】
そして、塗工液の塗布後に乾燥した内側原紙層31用の紙管原紙と、外側原紙層32用の紙管原紙とをポリビニルアルコールを主成分とする接着剤で接着し、内側原紙層31用の紙管原紙を内側にして内径41mmとなるように螺旋状に巻いた紙管を形成し、その紙管を114mmにカットしてなる紙管30を作製した。
(紙管強度)
図3に示すように、水平な試験台上に紙管30を横向きに載置し、その紙管30の長さ方向の中央の上面に、紙管30において螺旋状にオーバーラップしている接着部分が位置するように紙管30をセットする。
【0034】
紙管30の長さ方向の中央の上面にある紙管30の接着部分にプッシュプルゲージGの先端部Gtを合わせてゼロ点調整をした後、そのプッシュプルゲージGを紙管30に対し垂直方向下方へ押下し、紙管径の半分となる20.5mm押し下げたときにかかった力を紙管強度として読み取った。
【0035】
評価結果を表1に示す。
(消臭効果)
容量が10Lの密閉容器に尿臭を模擬したアンモニアを150ppmの濃度で発生させ、その容器内に紙管30を1本投入してから30分後にアンモニアの濃度を検知管法にて測定した。アンモニアの濃度検知には、ガステック社製の検知器(GV−100S)および検知管(3Lおよび3La)を用いた。
【0036】
なお、50℃RH90%の環境に調整した恒温槽内に紙管30を4日間放置した劣化後のサンプルについても、同様の消臭効果試験を行った。
【0038】
【表1】
表1に示した結果から明らかなように、内側原紙層31にポリフェノールに加えて、グリセリンを含有させることにより、消臭効果が向上することがわかる。例えば、ポリフェノールの含浸量が比較例と同じ0.05g/m
2である実施例4〜6、10〜12及び14では、
グリセリンを含まない比較例に比べて消臭効果が向上している。
【0039】
ただし、グリセリンの含有量が0.1g/m
2の実施例14では、劣化後の消臭効果が21ppmとなっており、比較例と比べると改善されてはいるものの、他の実施例に比べると消臭効果が低い。ここで、消臭効果は、検知したアンモニア濃度が初期濃度の10%以下、即ち15ppm以下となる程度とすることが好ましい。この観点からは、グリセリンの含有量は0.3g/m
2以上とすることがより好ましい。
【0040】
また、ポリフェノールの含有量が0.005g/m
2の実施例13では、劣化後の消臭効果(18ppm)が劣化前(17ppm)とほぼ同様であり、比較例と比べるとポリフェノールの消臭性能を維持できていると考えられる。つまり、グリセリンの効果により、ポリフェノールの酸化・劣化が抑えられていると考えられる。しかし、上述したように、アンモニア濃度は15ppm以下となる程度とすることが好ましい。一方、ポリフェノールの含有量が0.01g/m
2の実施例1〜3では、劣化前及び劣化後のいずれもアンモニア濃度が15ppm以下となっている。よって、アンモニア濃度が15ppm以下となる程度とするためには、ポリフェノールの含有量は0.01g/m
2以上とすることがより好ましい。
【0041】
以上のように、内側原紙層31におけるポリフェノールの含浸量が0.01g/m
2以上であって、内側原紙層31におけるグリセリンの含浸量が0.3g/m
2以上であれば(実施例1〜9)、紙管30がより好適な消臭性能を有することがわかる。
【0042】
また、グリセリンに加えて、プロパンジオールも加えることにより、消臭効果を向上させることができる。例えば、ポリフェノールの含有量が0.05g/m
2、グリセリンの含有量が
0.8g/m
2の場合、プロパンジオールを加えた実施例10〜11では、プロパンジオールを含まない実施例5に比べて消臭効果が向上していることがわかる。
【0043】
次に、紙管強度について検討した。評価結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
紙管強度が2.0[kgf]未満の場合、強度不足である可能性がある。紙管強度が2.0[kgf]未満では、ロール状トイレットペーパー10の製造工程における“ログソー”での裁断時に変形してしまう不具合が生じる可能性がある。よって、この観点からは、紙管強度が2.0[kgf]以上であることが好ましい。
【0045】
表2に示した参照例1及び2では、グリセリンの含浸量が1.0g/m
2を超えており、紙管強度が2.0[kgf]未満である。よって、紙管強度の観点からは、グリセリンの含浸量が1.0g/m
2以下であることが好ましい。
【0046】
また、グリセリンに加えてプロパンジオールも使用する場合、参照例
3ではプロパンジオールの含浸量が1.0g/m
2を超えており、紙管強度が2.0[kgf]未満である。よって、紙管強度の観点からは、プロパンジオールの含浸量が1.0g/m
2以下であることが好ましい。ただし、プロパンジオールの含浸量の上限は、グリセリンの含有量によっても適宜設定することができ、例えば原紙層におけるグリセリンとプロパンジオールとの合計含有量は、2.0g/m
2以下とすることができる。
【0047】
以上のように、本実施形態の紙管30であれば、アンモニア臭に対する消臭効果を長期間維持できる。
【0048】
つまり、本実施形態の紙管30を使用したロール状トイレットペーパー10であれば、トイレ内でペーパーホルダーに取り付けて使用することで、トイレ空間の消臭を行い、悪臭緩和することができる。
【0049】
なお、以上の実施の形態においては、内側原紙層31と外側原紙層32とで構成される紙管30において、内側原紙層31にポリフェノールとグリセリン(あるいはプロパンジオール)を含浸した紙管30を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、外側原紙層32にポリフェノールとグリセリン(あるいはプロパンジオール)を含浸してもよく、また、内側原紙層31と外側原紙層32の両方にポリフェノールとグリセリン(あるいはプロパンジオール)を含浸するようにしてもよい。
【0050】
また、以上の実施の形態においては、ポリフェノールの安定化剤としてグリセリンとプロパンジオールを例示して用いたが、ポリフェノールの安定化剤として、他のポリオール等の脂肪酸を用いるようにしてもよい。
【0051】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0053】
本国際出願は2015年9月14日に出願された日本国特許出願2015−180376号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。