特許第6714610号(P6714610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特許6714610アルツハイマー型認知症の治療および/または診断のための特定のA−ベータ種に結合するペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6714610
(24)【登録日】2020年6月9日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】アルツハイマー型認知症の治療および/または診断のための特定のA−ベータ種に結合するペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 9/00 20060101AFI20200615BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20200615BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20200615BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20200615BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   C07K9/00ZNA
   C12N15/11 Z
   A61K38/10
   A61P25/28
   G01N33/68
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-549267(P2017-549267)
(86)(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公表番号】特表2018-512411(P2018-512411A)
(43)【公表日】2018年5月17日
(86)【国際出願番号】DE2016000089
(87)【国際公開番号】WO2016150415
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】102015003676.9
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルボルト・ディーター
(72)【発明者】
【氏名】クッチェ・ジャニーヌ
(72)【発明者】
【氏名】クライン・アントーニア・ニコル
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/150126(WO,A1)
【文献】 特表2012−509295(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/041115(WO,A1)
【文献】 国際公開第02/081505(WO,A1)
【文献】 特表2004−513873(JP,A)
【文献】 特表2004−532896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 9/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および配列番号11からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、特異的にアミロイド−ベータ種に結合するペプチド。
【請求項2】
医薬において使用するための、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
アルツハイマー病の処置のための、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
アルツハイマー病の診断のための、請求項1〜3のいずれか1つに記載のペプチド。
【請求項5】
本質的にD−アミノ酸からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載のペプチド。
【請求項6】
A−ベータ−フィブリルの形成の阻害のための、請求項1〜5のいずれか1つに記載のペプチド。
【請求項7】
凝集したアミロイド−ベータ種に結合するための、請求項1〜6のいずれか1つに記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを含むキット。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを含む組成物。
【請求項10】
アミロイド−ベータ−モノマー、アミロイド−ベータ−フィブリルおよび/またはアミロイド−ベータ−オリゴマーの特異的同定、定量的および/または定性的測定のためのプローブとして使用するための、請求項9に記載の組成物
【請求項11】
アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又はアミロイド−ベータ−ペプチド凝集体の形成を阻害するための、請求項9に記載の組成物
【請求項12】
毒性のアミロイド−ベータ−オリゴマーおよび/または凝集体を無毒化するための、請求項9に記載の組成物
【請求項13】
アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又は凝集体が、請求項1〜7のいずれか1つに記載のペプチドと、無定形で非毒性の凝集体を形成することを特徴とする、請求項12に記載の組成物
【請求項14】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および配列番号11からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む組成物であって、前記ペプチドのA−ベータ−モノマーへの特異的結合のための組成物
【請求項15】
アルツハイマー病の治療薬としての、およびアルツハイマー病の予防のための、請求項9に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー型認知症の治療および/または診断のための特定のA−ベータ種に結合するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー型認知症(AD)の原因療法のために認可された医薬はいまだに存在しない。典型的には、AD患者の脳では、死後に、プラークにいわゆるベータ−アミロイド−ペプチド(Aβ)の堆積物が見られる。従って、ずっと以前より、種々の形態のA−ベータ(Aβとも呼ばれる)、例えばフィブリルが、アルツハイマー型認知症の発生と進行の原因であるとされてきた。
【0003】
数年来、特に、小さな自由拡散性のAβ−オリゴマーが、アルツハイマー型認知症の発生と進行の主要な原因因子と考えられている。
【0004】
Aβ−モノマーは、我々の体内で常に発生しており、おそらくそれ自体では毒性でない。
【0005】
Aβ−モノマーは、最終的に形成速度および分解速度により体内で生じるそれらの濃度に依存して、偶発的に、従って加齢に伴い自然発生的に一緒に堆積してAβ−オリゴマーを生じる可能性が益々大きくなるか推測されている。一度生じたAβーオリゴマーはその後、プリオンと類似のメカニズムにより増加して最終的には疾患をもたらし得る。
【0006】
これを考慮すると、毒性のAβ−オリゴマーを完全に根絶させること、および/またはそのプリオンと類似の増加を阻止することを、原因療法の目標とすべきである。
【0007】
ただし、アルツハイマー型認知症の治療のために原因的に作用する医薬は存在しない。従来技術で使用される医薬は最善の場合、いくつかの症状を緩和できるが、疾患の進行を遅らせることはできず、ましてや止めることもできない。
【0008】
動物におけるアルツハイマー型認知症の予防(絶対に治療ではない)において幾つかの成功を達成できる一連の物質が存在する。
【0009】
予防と治療との間の重要な相違点は、以下が考えられる:最初のAβ−オリゴマーの形成を妨げるためには、場合によっては、わずかに親和性であり効果的なAβ−リガンドですでに十分である。多くのAβ−モノマーからのAβ−オリゴマーの形成は、非常に高い次数の反応なので、それらは高度にAβ−モノマー濃度に依存する。従って、活性なAβ−モノマー濃度の小さな低下も、最初のAβ−オリゴマーの形成を阻止できる。これが、予防の場合の状況である。しかしながら、既にAβ−オリゴマーが生じていると、これらはプリオンと同様に増加し得、これは高い次数の反応ではなく、従ってもはやAβ−モノマー濃度にはほとんど依存しない。これが、治療の場合の状況である。従って、Aβ−オリゴマーが既に生じている場合、Aβ−オリゴマーに対してできる限り高い親和性を有する物質によってこれに対処することが治療の目標でなければならない。適切な解離定数は、そのために、pMの範囲またはさらにより低い範囲になければならない。
【0010】
現在、最も多様な性質および方法で、例えばγ−セクレターゼモジュレーター、Aβ−結合性リガンド等により、Aβーモノマーの濃度を減少させるいくつかの物質が存在する。これは、動物実験において(ここでは、動物はたいていの場合、その疾患が十分に発症する前に処置される)成功裏に予防的効果を発揮するためには十分なようである。
【0011】
ヒトの臨床試験(第II相および第III相)において、この場合には、明確にアルツハイマー型認知症と診断された人のみが処置されてよいが、これまでこれらの物質は全て成果を収められなかった。おそらく、ここでは、すなわち発病の開始前であっても、益々増加する量のAβーオリゴマーの発生を阻止するためには、Aβ−モノマー濃度の少しのまたはある程度の減少ではもはや十分ではないからである。
【0012】
さらに、これまでにアルツハイマー型認知症が症状の発症前に確実に診断された可能性はない。アルツハイマー型認知症は、現在主に、既に認知症症状を患っているヒトの神経心理学検査により、認識される。さらに、他の疾患(精神的外傷)は、異なる検査方法により除外することができる。
【0013】
しかしながら、Aβ−オリゴマー及び時間的にそれに続くプラークは、症状が生じる20年前まで遡って患者の脳内に生じており、不可逆的な損傷を引き起こすことが知られている。患者の静脈内に注射され、脳血液関門の通過後にAβ−オリゴマーおよびプラークに結合する分子プローブは、像形成法を用いて可視可能にし、従ってADのより早い診断を可能にする。
【0014】
EP1379546B1(特許文献1)から、「D3」という名称を有するD−エナンチオマーペプチドが知られている。このペプチドは、モノマー状Aβ(1−42)を結合により安定化し、それが毒性のAβ凝集体に変換されるのを阻害する計画の下に、主にモノマー状のAβ(1−42)に対する鏡像ファージディスプレイ選択により同定された。現在分かっていることによると、好ましくは、D3は、特に毒性のAβオリゴマーをアミロイド非生成性でThT陰性の非毒性の無定形凝集体に変化させる。動物モデルにおいて、飲料水を用いたD3の経口投与によってさえ、処置されたトランスジェニックADマウスが明らかにより少ないプラークを含み、有意に改善された認知能力を有することが達成されている。
【0015】
刊行物WO2014/041115A2(特許文献2)から、D3から誘導された別のペプチドが公知である。
【0016】
不利なことに、現存のAβ−オリゴマー結合性物質は、Aβ−オリゴマーの増加を阻止するために十分な親和性を有しない。
【0017】
不利なことに、特にAβ−オリゴマーに高い親和性で結合してこれを可視可能にするin−vivoイメージング法用のプローブは存在しない。病歴におけるAβ−オリゴマーはとても重要かつ早期の役割を果たすので、これは非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】EP1379546B1
【特許文献2】WO2014/041115A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、以下のためのペプチドを提供することである:
A)毒性のアミロイド−β(Aβ)−オリゴマーもしくは凝集体の形成の防止、またはそれらの無毒化による、アルツハイマー病の原因療法。
B)in vivoイメージングのためのプローブとしてのD−ペプチドの使用によるアルツハイマー型認知症の診断。
【0020】
課題はさらに、新規ペプチド、好ましくはD−エナンチオマーのD−ペプチドD3の誘導体であって、D3と比較してより有効な特性を有する誘導体、を提供することである。上記特性には、特に、Aβ種に対する結合親和性および結合特異性、Aβフィブリル形成の阻害、Aβ細胞毒性の阻害、Aβオリゴマー、フィブリルおよび他の凝集体の除去または無毒化、Aβアミロイド−フィブリル、−プロトフィブリルもしくは−オリゴマーの非毒性、非アミロイド生成性種への変換が含まれる。
【0021】
以下、「A−ベータ」、「アミロイド−ベータ」、「アミロイド−β」または「Aβ」という語句は互いに同義に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の課題は、請求項1によるペプチド、主請求項によるキットおよび組成物、ならびに従属請求項に従う方法および使用によって解決される。そのための有利な態様は、それぞれここで参照する特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1a】A−ベータ−モノマー、A−ベータ−オリゴマーおよびA−ベータ−フィブリルにおける本発明のペプチドの結合シグナル。
図1b】本発明のペプチドの結合特異性。
図2】本発明のペプチドによるアミロイド−ベータ−オリゴマーの減少。
図3a】本発明のペプチドのTHTアッセイ、
図3b】飽和点におけるアミロイド−ベータを基準としてTHT蛍光を用いて評価されたTHTアッセイ
図4a】A−ベータ共インキュベーションなしでのSH−SY5細胞のMTTアッセイ。
図4b】A−ベータ共インキュベーションありでのSH−SY5細胞のMTTアッセイ。
【0024】
本発明の説明
この課題は、アルツハイマー型認知症の治療のための特異的にアミロイド−ベータ種に結合するペプチドにより解決される。その際、多くの場合に選択性とも称される特異性は、本発明によるリガンドまたは本発明によるペプチドが、基本的に異なるAβ種、例えばAβモノマーまたはAβオリゴマーまたはAβフィブリルと結合できることを意味する。各結合ペア(例えばリガンドとAβモノマーおよびリガンドとAβオリゴマーおよびリガンドとAβフィブリル)は、1:1結合モデルの仮定の下に、解離定数(K)または結合定数(K=1/K)がそれぞれ割り当てられる。K値が大きいほど、それぞれの結合の親和性は大きい。
【0025】
競合物質と比べたデコイへのリガンドの特異性は、Aβモノマーへの親和性と、AβオリゴマーまたはAβフィブリルへの親和性との可能な限り大きな比(Quotienten)により表される。
【0026】
したがって、本発明により特異性を調べるために、リガンドの、Aβモノマーに対するK値と、Aβオリゴマー(またはAβフィブリル)に対するK値との比が用いられる。その比が大きいほど特異性は大きい。
【0027】
本発明の意味において、種BへのリガンドのK値に対する種AへのリガンドのK値の比が少なくとも1よりも大きい、好ましくは1.2または1.5よりも大きい、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、とりわけ10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、とりわけ100よりも大きい場合の相対的特異性が挙げられ、その際、種Aおよび種Bとして、異なるモノマー、オリゴマーおよびフィブリルを採用することができる。
【0028】
その際、特異性または選択性を、種の1つとのリガンドの結合強度から明らかになる親和性と取り違えてはならない。異なるリガンドが同じ標的分子を競合するとき、特異性または選択性が小さいほど大きな結合親和性を有する可能性がある。本発明によると、モノマーまたはオリゴマーまたはフィブリルのような種に特に特異的に結合する、まさにそうしたリガンドを検出するべきである。生体分子は、治療剤および治療薬として適合するべきである。この方法により得られたリガンドまたはペプチドは、所望の特性を有し、本発明の課題を解決する。
【0029】
特に、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および配列番号11のアミノ酸配列および/またはホモログ、断片および部分を含有するリガンドとしての下記ペプチドが、本発明の課題を解決する。
【0030】
この課題はまた、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10または配列番号11のアミノ酸配列および/またはそれらのホモログ、断片および部分を含有するポリマーにより解決される。
【0031】
上記配列の1つを含有するペプチドは、アミロイド−β−モノマーに特異的に結合する。
【0032】
A−ベータ−モノマーに対する特異的な結合はさらに、リガンド−オリゴマーの結合シグナルに対するリガンド−モノマーの結合シグナルの比および/またはリガンド−フィブリルの結合シグナルに対するリガンド−モノマーの結合シグナルの比が、1、例えば1.8より大きく、例えば100までの値を取ることができることを意味し、ここで各中間値、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、特に10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、特に100を取ることができる。
【0033】
A−ベータ−オリゴマーに対する特異的な結合は、リガンド−モノマーへの結合シグナルに対するリガンド−オリゴマーからの結合シグナルの比、またはリガンド−フィブリルへの結合シグナルに対するリガンド−モノマーからの結合シグナルの比が、1、例えば1.2より大きく、例えば100までの値を取ることができることを意味し、ここで各中間値、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、特に10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、特に100を取ることができる。
【0034】
科学的なプラクティスにおいて慣用される奇数の数値の丸めにより、上記数値がもたらされる。
【0035】
出発点として、例えばペプチドマイクロアレイ実験により得られたペプチドが使用される。これらは公知のペプチド「D3」から誘導することができる。
【0036】
従って、本発明の意味においてアミロイド−ベータ−モノマーに特異的にまたはアミロイド−ベータ−オリゴマーに特異的に結合するペプチドの同定およびペプチドの結合特異性の決定のために、以下のように行うことができる。表面上に固定化された種々のペプチド、例えばD3の誘導体、を有するペプチドマイクロアレイを、各々の場合において、蛍光色素でラベルされた異なるA−ベータの種(例えば、モノマー、オリゴマーおよびフィブリル)とインキュベートする。コントロールとして、1つのペプチドマイクロアレイは、蛍光色素とだけインキュベートする。結果の再現性を保証するために、ペプチドマイクロアレイのインキュベーションは、種あたり少なくとも3回行うことができる。蛍光標識されたA−ベータと固定化ペプチドとの結合を、蛍光色素を介して検出する。ペプチドへA−ベータが多く結合するほど、蛍光シグナルが高くなる。複数回測定した蛍光シグナルを正規化し、該シグナルをコントロールから差し引いた。これにより、蛍光標識されたA−ベータの結合が色素を介して起こることを防ぐ。さらに、ペプチドへのA−ベータ種の結合シグナルを平均する。結合特異性の決定のために、他の種に対する、ペプチドが特異的に結合すべきである種の比を用いる。
【0037】
例:ペプチドXのA−ベータ−モノマーへの結合特異性=モノマーへのペプチドXの結合シグナル/オリゴマー(またはフィブリル)へのペプチドXの結合シグナル。類似の方法により、特異的にA−ベータ−オリゴマーに結合するペプチドを検出する。
【0038】
本発明のペプチドの断片および部分は、本発明のペプチドと類似または同一の作用を示す。
【0039】
本発明の一変形では、最大で500μM、好ましくは250、100、50μM、特に好ましくは25、10、6μM、特に4、2、1μMまたはμM未満のKで、A−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルに結合するようなペプチドが検出され、使用される。
【0040】
本発明の一変形において、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11のペプチドおよびそれらのホモログ、断片および部分は、本質的に、好ましくは少なくとも60%、75%、80%、特に好ましくは85%、90%、95%、特に96%、97%、98%、99%、100%、D−アミノ酸から構成される。
【0041】
本発明の意味において、ポリマーは、少なくとも2、または3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上の、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11からなる群から選択されるモノマーまたはモノマー単位ならびにそれらのホモログ、断片または部分から形成され、それらは既にA−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルを結合する。
【0042】
本発明において、上記ポリマーは、同一のモノマー単位から構成されるか、または2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個の種々の異なる上記モノマーの組み合わせから、いわゆるコンビネーション−ポリマー(Kombinations−Polymere)として構成される。該モノマーは、部分的に同一であることもできる。コンビネーションポリマーにおける同一モノマーの数は、自由に選択可能である。
【0043】
1つの代替において、上記のコンビネーションポリマーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11ならびにそれらのホモログおよびそれらの断片または部分からなる群から選択される少なくとも1つのモノマーと、少なくとも1つの、A−ベータ−モノマーにまたはA−ベータ−オリゴマーもしくはA−ベータ−フィブリルに結合するペプチドであって、さらなるモノマーとして、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11ならびにそれらのホモログおよびそれらの断片または部分からなる群から選択されるモノマーとは区別されるペプチドとを含む。
【0044】
ポリマーは、例えば、化学合成またはペプチド合成により製造することができる。
【0045】
本発明の1つの実施態様において、上記モノマーは互いに共有結合で連結されている。本発明の別の実施態様において、上記モノマーは、非共有結合で互いに結合されている。
【0046】
モノマー単位の共有結合での結合または連結は、本発明の意味において、ペプチドがヘッドtoヘッド、テイルtoテイル又はヘッドtoテイルで、その間にリンカーもしくはリンカー基を使用せずに、直鎖状に相互に連結される場合に存在する。
【0047】
上記モノマーが、ビオチンとストレプトアビジン、特にストレプトアビジン−テトラマー、を介して互いに連結している場合、本発明の意味において、共有結合は存在しない。
【0048】
本発明の1つの変形において、上記モノマーは、特に上記のように、直線状に互いに連結されることができる。別の一変形において、上記モノマーは、互いに分岐状に連結して本発明のポリマーとなる。
【0049】
分岐状ポリマーの場合、本発明においてそれはデンドリマーであることができ、そこではモノマーは、共有結合により、または共有結合によらずに、互いに連結されている。
【0050】
あるいは、上記モノマーはまた、プラットフォーム分子(例えばPEGまたは糖のような)を用いて連結することができ、それにより分岐状ポリマーが形成する。
【0051】
あるいはこれらの選択肢の組み合わせも可能である。
【0052】
A−ベータ−モノマーまたはAベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルにそこで結合する、本発明のペプチドから本発明に従って合成されたポリマーは、A−ベータ−モノマーへのそれらの選択性および親和性に関して、個々のペプチドと比較して、有利には相乗効果を示す。すなわち:本発明のポリマーは、これらのベースとなる個々のペプチドよりも優れている。本発明の意味における相乗効果は、A−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルに関して、個々のペプチド単位と比較して、より高い選択性もしくは特異性および/または親和性(特にA−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルへの結合に関するK値の)を示す効果である。
【0053】
本発明のさらなる特に有利な態様において、上記ポリマーおよび特にダイマーは、動物モデル試験(in vitroまたはin vivo)において、有利には、個々のペプチド単位よりも有効である。
【0054】
本発明の1つの変形において、A−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルに、最大で500μM、好ましくは250、100、50μM、特に好ましくは25、10、1μMの解離定数(K値)で、特に好ましくは最大で500nM、250、100、50、特に好ましくは25、10、1nM、500pM、100、50、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pM〜pM未満の解離定数(K値)で、結合するようなペプチドまたはポリマーが使用される(それぞれの中間値が採用され得る)。
【0055】
本発明の1つの実施態様において、親和性は、解離定数(K値)によって定義される。その際、本発明のペプチドの解離定数(K値)は、本発明の1つの実施態様において、低下する。より高い結合親和性ならびに毒性のアミロイドβオリゴマーの分解および/または当該オリゴマー形成の阻止のより高い有効性は、これに関連する。しかしながら、これは特に、専らA−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーの高親和性部位でのより低いK値に関するわけではない。
【0056】
断片および部分は、有利には、本発明のペプチドと類似または同一の作用を示す。
【0057】
以下、モノマーおよびポリマーを本発明のペプチドと呼ぶ。
【0058】
本発明のペプチドは、本発明の1つの実施態様において、遊離のC−末端に酸性アミド基を備える。本発明のペプチド、例えば配列番号1〜11のペプチドは、その場合に、12番目における遊離のC末端でアミド化されている。それのダイマーは、24番目における遊離のC末端でアミド化等がされている。
【0059】
本発明のペプチド、特に配列番号1〜11のペプチドは、本発明のさらなる態様において、遊離のC末端で遊離のN末端と相互に共有結合しており、従ってその場合環状化されて存在している。また閉環により、有利には、カルボキシル基が遊離C末端にもはや存在しないということがもたらされる。
【0060】
本発明のペプチドは、有利には、例えば、最初のアミノ酸と最後のアミノ酸との共有結合、例えば縮合反応による共有結合により、直鎖状分子の環化が起こるアミノ酸配列を有する。もちろん、環化の別の可能性、例えば別のアミノ酸を相互に連絡させることによる可能性も存在する。単なる例示としては、2番目のアミノ酸と最後のアミノ酸との連結が挙げられる。いずれの可能な他の連結も同様に考慮され得る。
【0061】
ペプチドの最初と最後のアミノ酸が互いに連結される場合、有利には、ペプチド鎖(アミノ酸配列)に開放端が存在しなくなる。
【0062】
この処置によりさらに、直鎖状のアミノ酸配列を有する全てのペプチドが、環化後に同種のもはや区別できないアミノ酸の順序を生じ、この意味において同一となる。
【0063】
例:公知のペプチドD3の直鎖状のアミノ酸配列は、rprtrlhthrnrである。適切なN末端アミノ基とC末端カルボキシル基の間のアミド結合により連結した対応の環化ペプチド「cD3」は、環化ペプチドprtrlhthrnrr、rtrlhthrnrrp、trlhthrnrrpr、rlhthrnrrprt、lhthrnrrprtr、hthrnrrprtrl、thrnrrprtrlh、hrnrrprtrlht、rnrrprtrlhth、nrrprtrlhthrまたはrrprtrlhthrnからもはや区別されない。cD3はさらに、これらの配列それぞれから誘導することもできる。
【0064】
本発明によって請求される、より高い親和性、特異性および有効性の効果は、さらにまた、環化または他の方法で改変された本発明のペプチドを誘導できる結合性ペプチド、好ましくはそれどころか各直鎖状結合性ペプチドに対しても生じる。
【0065】
環化ペプチドの製造は、その他の点については従来技術であり、例えばDE102005049537A1に記載されるような方法に従って行うことができる。
【0066】
有利には、ペプチドの最初および最後のアミノ酸を介した環化により、細胞、動物またはヒトにおいて多くの場合に、例えばアミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼによるペプチド分解活性に関しての弱点である、ペプチド鎖の「開いている」末端がもはや存在しなくなる。
【0067】
例えば配列番号1によるANK6のような本発明による環化ペプチドを用いると、有利には、これらの本発明の環化ペプチドまたはポリマーが、状況によっては副次効果として容易に分解されなくなるということもさらに生じるが、この効果は決定的ではない。ちんみに、示されたように、この効果も、直鎖状ペプチドの対応する両端が相互に連結されるヘッドtoテイル−環化またはテイルtoヘッド環化の場合だけに当てはまる。
【0068】
本発明の一変形において、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11のアミノ酸配列を有するペプチド、および/または少なくとも50%の同一性を有するそれらのホモログが対象である。
【0069】
本発明の意味において、「ホモログ配列」または「ホモログ」は、あるアミノ酸配列が、上記のモノマーのアミノ酸配列と、少なくとも50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99の同一性を有することを意味する。語句「同一性」の代わりに、本明細書では、「相同の」または「相同性」 が同義で使用される。2つの核酸配列またはポリペプチド配列の間の同一性は、Smith,T.F. und Waterman,M.S(Adv.Appl.Math.2:482−489(1981)のアルゴリズムをベースとするBESTFITプログラムを使用する比較により、アミノ酸に関しては、以下のパラメーター:ギャップ作成ペナルティー:8およびギャップ伸長ペナルティー:2;そして核酸に関しては以下のパラメーター:ギャップ作成ペナルティー:50およびギャップ伸長ペナルティー:3、を用いて算出する。好ましくは、2つの核酸配列またはポリペプチド配列の間の同一性は、Needleman,S.B. und Wunsch,C.D.(J.Mol.Biol.48:443−453)のアルゴリズムをベースとするGAPプログラムを用いた比較により、アミノ酸に関しては、以下のパラメーター:ギャップ作成ペナルティー:8およびギャップ伸長ペナルティー:2;そして核酸に関しては以下のパラメーター:ギャップ作成ペナルティー:50およびギャップ伸長ペナルティー:3を用いて算出されるような、それぞれの全体の配列長に関する核酸配列/ポリペプチド配列の同一性によって定義される。
【0070】
本発明の意味において、2つのアミノ酸配列は、これらが同一のアミノ酸配列を有する場合に同一である。
【0071】
ホモログとは、一変形において、上述のモノマーの相応するレトロインバース(retro−inverse)配列と理解されるべきである。「レトロインバース配列」という語句は、本発明では、エナンチオマーの形態のアミノ酸から構成され(inverse:α−C原子のキラリティーが反転している)、さらに元のアミノ酸配列に対する配列の順序が逆転した(retro=逆向き)アミノ酸配列を表す。
【0072】
更なる一変形において、本発明のペプチドは、アミロイドβ−ペプチドの部分に結合する。
【0073】
更なる一変形において、本発明のペプチドは、上記の配列とは、最大3個のアミノ酸が異なる配列を有する。
【0074】
さらに、ペプチドとして、上述の配列を含む配列も使用される。
【0075】
更なる一変形において、ペプチドは、上述の配列の断片を有するか、又は上述の配列に対して相同な配列を有する。
【0076】
本発明において、医薬において使用するための、好ましくはアルツハイマー病の治療または診断のためのペプチドが対象となる。
【0077】
本発明の1つの実施態様において、上記ペプチドは本質的にD−アミノ酸からなる。
【0078】
本発明の意味において、「本質的にD−アミノ酸から」という語句は、本発明において使用されるべきモノマーは、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、好ましくは75%、80%、特に好ましくは85%、90%、95%、特に96%、97%、98%、99%、100%が、D−アミノ酸から構成されることを意味する。
【0079】
本発明の1つの実施態様において、本発明のペプチドは、D−エナンチオマーのD−ペプチドD3の誘導体である。本発明の意味における誘導体は、D3から誘導されたペプチド配列であり、これは以下の3つの方法により得られる:
a)D3におけるアミノ酸構成要素の順序および/または数の変更。ここでは、D3配列に存在しているアミノ酸だけが使用される。
b)D3配列の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個のアミノ酸の欠失。
c)1、2、3、4、5または6個のアミノ酸の、他のアミノ酸、好ましくはD−エナンチオマーとの交換。
【0080】
更なる一変形においては、アミロイド−ベータ−ペプチドのフィブリル形成の阻害のための本発明のペプチドが対象である。本発明のペプチドおよび/またはポリマーは、それらが例えばA−ベータ−モノマーに結合し、そうして毒性でない化合物に変換することで、A−ベータ−オリゴマー又はそこから形成されるポリマー並びにフィブリルを無毒化する。従って、本発明の対象はまた、A−ベータ−オリゴマーおよびそこから形成されるポリマー又はフィブリルの無毒化のための方法である。
【0081】
1つの実施態様において、本発明の対象はまた、更なる物質と連結している本発明のペプチドである。
【0082】
連結とは、本発明の意味において、化学結合、例えばRoempp Chemie Lexikon,第9版,第1巻,650頁〜,Georg Thieme Verlag Stuttgartに定義されている化学結合であり、好ましくは主原子価結合、特に共有結合である。
【0083】
1つの一変形において、上記物質は、薬事法(§2又は§4(19)、2012年9月現在)に定義されている医薬品又は作用物質である。代替的に、作用物質は、薬学的に作用物質として使用される、治療的に活性な物質である。好ましくは、炎症抑制剤が使用される。
【0084】
さらなる1つの変法において、上記物質は、ペプチドの作用を強化する化合物である。
【0085】
代替において、そのような化合物は、アミノピラゾール及び/又はアミノピラゾール誘導体である。アミノピラゾール誘導体は、本発明の意味において、3−アミノピラゾール−5−カルボン酸又は3−ニトロピラゾール−5−カルボン酸並びに、複素環のCH−基が−CR−又は−N−又は−O−又は−S−により交換された全ての誘導体、並びにそれらから誘導される全てのペプチド性のダイマー、トライマー又はテトラマー、好ましくはアミノピラゾール−トライマーである。
【0086】
更なる代替においては、ペプチドの溶解性及び/又は脳血液関門の通過を改善する化合物を対象とする。
【0087】
代替において、上記ペプチドは、本発明によれば、上述の変法、実施態様及び/又は代替物の少なくとも2以上の特徴のいずれの任意の組み合わせも有する。
【0088】
本発明の枠内においてさらに、アミド化および/または環化されたペプチドが、遊離のC末端、すなわちC末端のカルボキシル基が修飾されておらず、従って負の電荷を有する直鎖状の結合性ペプチドと比較して、より高い親和性でAベータ−モノマーに結合することが認められた。すなわち、遊離のC末端、すなわちC末端カルボキシル基が修飾されておらず、従って負の電荷を有する直鎖状ペプチドにおけるよりも、修飾されたペプチドにおけるK値は低い。
【0089】
従って、本発明のさらなる好ましい実施態様において、C末端に負の電荷を持たない本発明の修飾されたペプチドの結合の親和性は、C末端に負の電荷を有するがその他の点は同一のアミノ酸配列を有する直鎖状ペプチドと比較して、約1%、2、3、4、5、6、7、8、9、特に10%、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、特に100%、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、特に200%、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291、292、293、294、295、296、297、298、299、特に300%、301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、311、312、313、314、315、316、317、318、319、320、321、322、323、324、325、326、327、328、329、330、331、332、333、334、335、336、337、338、339、340、341、342、343、344、345、346、347、348、349、350、351、352、353、354、355、356、357、358、359、360、361、362、363、364、365、366、367、368、369、370、371、372、373、374、375、376、377、378、379、380、381、382、383、384、385、386、387、388、389、390、391、392、393、394、395、396、397、398、399、特に400%、401、402、403、404、405、406、407、408、409、410、411、412、413、414、415、416、417、418、419、420、421、422、423、424、425、426、427、428、429、430、431、432、433、434、435、436、437、438、439、440、441、442、443、444、445、446、447、448、449、450、451、452、453、454、455、456、457、458、459、460、461、462、463、464、465、466、467、468、469、470、471、472、473、474、475、476、477、478、479、480、481、482、483、484、485、486、487、488、489、490、491、492、493、494、495、496、497、498、499、有利にはそれどころか500%、501、502、503、504、505、506、507、508、509、510、511、512、513、514、515、516、517、518、519、520、521、522、523、524、525、526、527、528、529、530、531、532、533、534、535、536、537、538、539、540、541、542、543、544、545、546、547、548、549、550、551、552、553、554、555、556、557、558、559、560、561、562、563、564、565、566、567、568、569、570、571、572、573、574、575、576、577、578、579、580、581、582、583、584、585、586、587、588、589、590、591、592、593、594、595、596、597、598、599、特に有利には600%、601、602、603、604、605、606、607、608、609、610、611、612、613、614、615、616、617、618、619、620、621、622、623、624、625、626、627、628、629、630、631、632、633、634、635、636、637、638、639、640、641、642、643、644、645、646、647、648、649、650、651、652、653、654、655、656、657、658、659、660、661、662、663、664、665、666、667、668、669、670、671、672、673、674、675、676、677、678、679、680、681、682、683、684、685、686、687、688、689、690、691、692、693、694、695、696、697、698、699、特に有利には700%、701、702、703、704、705、706、707、708、709、710、711、712、713、714、715、716、717、718、719、720、721、722、723、724、725、726、727、728、729、730、731、732、733、734、735、736、737、738、739、740、741、742、743、744、745、746、747、748、749、750、751、752、753、754、755、756、757、758、759、760、761、762、763、764、765、766、767、768、769、770、771、772、773、774、775、776、777、778、779、780、781、782、783、784、785、786、787、788、789、790、791、792、793、794、795、796、797、798、799、同様に特に有利には800%、801、802、803、804、805、806、807、808、809、810、811、812、813、814、815、816、817、818、819、820、821、822、823、824、825、826、827、828、829、830、831、832、833、834、835、836、837、838、839、840、841、842、843、844、845、846、847、848、849、850、851、852、853、854、855、856、857、858、859、860、861、862、863、864、865、866、867、868、869、870、871、872、873、874、875、876、877、878、879、880、881、882、883、884、885、886、887、888、889、890、891、892、893、894、895、896、897、898、899、同様に特に有利には900%、901、902、903、904、905、906、907、908、909、910、911、912、913、914、915、916、917、918、919、920、921、922、923、924、925、926、927、928、929、930、931、932、933、934、935、936、937、938、939、940、941、942、943、944、945、946、947、948、949、950、951、952、953、954、955、956、957、958、959、960、961、962、963、964、965、966、967、968、969、970、971、972、973、974、975、976、977、978、979、980、981、982、983、984、985、986、987、988、989、990、991、992、993、994、995、996、997、998、999、またはそれどころか約1000%、またはそれどころか約10000%、またはそれどころか最大で約100000%もしくは1000000%高められており、ここでそれぞれの中間値を取ることもできる。これは特に、AーベーターモノマーまたはA−ベーターオリゴマーの高親和性部位への高められた親和性に関する。
【0090】
これは、相応に低下したK値によって表される。アミロイドーベーターモノマーまたはアミロイド−ベータ−オリゴマーへの修飾された、特に環化されたペプチドの結合の親和性に関する尺度としてのK値は、遊離C末端に負の電荷を有する直鎖状の結合性ペプチドと比較して、約1%、2、3、4、5、6、7、8、9、特に10%、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、特に99.1、99.2、99.3、99.4、99.5%、99.6、99.7、99.8、99.9、最大99.99またはそれどころか99.999%低下しており、ここでそれぞれの中間値を取ることもできる。
【0091】
これらの低下したK値は、有利には特にA−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーの高親和性部位に関するが、これらに限定されるわけではない。
【0092】
従って、上記の修飾ペプチドは、診断の目的のためのプローブとして、遊離C末端に負の電荷を有する直鎖状の結合性ペプチドより効果的に使用することができ、特にまた同一のアミノ酸配列を有するそれらの直鎖状ペプチド対応物より有効に使用することができる。
【0093】
それらはまた、特に、治療剤としても、遊離C末端に負の電荷を有する直鎖状の結合性ペプチドよりも、特に同一のアミノ酸配列を有するそれらの直鎖状ペプチド対応物よりも効果的に使用することができる。
【0094】
本発明の枠内においてさらに、このような修飾ペプチドが、遊離C末端に負の電荷を有するペプチドと比較して、特に同一のアミノ酸配列を有するそれらのペプチド対応物と比較して、さらにまたより高い効果または効率で、特に毒性のアミロイド−ベータ−オリゴマーの形成を阻止し、またはその破壊および/または無毒化をもたらすことが認められた。この効果は特に、約1%、2、3、4、5、6、7、8、9、特に10%、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.9、特に有利にはそれどころか約100%高められる。
【0095】
本発明の特に好ましい実施形態において、in vitroおよび/またはin vivoにおいても、A−ベータ−モノマーまたはA−ベータ−オリゴマーまたはA−ベータ−フィブリルに対して増加した親和性の効果、ならびにそれに関連した同時のA−ベータ−オリゴマーの除去、無毒化(あるいは形成)の効果が生じる。
【0096】
本発明の対象はまた、凝集したA−ベータ−ペプチドに結合するための本発明のペプチドである。
【0097】
本発明のさらなる対象は、ペプチド合成、例えば当業者に公知の、低い分子量を有する任意の化合物(低分子量化合物)のための有機合成法、および/または突然変異誘発および組換え体製造による、本発明のペプチドを製造するための方法である。
【0098】
本発明はさらにまた、特にアルツハイマー病の治療および診断のための、本発明のペプチドを含む組成物に関する。
【0099】
本発明の対象は、さらに、特に毒性A−ベータ−オリゴマーの阻止のための、またはそこから形成したポリマーまたはフィブリルの破壊のための、本発明のペプチドを含む組成物である。
【0100】
本発明の「組成物」は、例えば、本発明のペプチドを専門知識に基づいて製造される処方物において含む、ワクチン、医薬(例えば、錠剤形態にある)、注入溶液、食品又は食品補助剤であることができる。
【0101】
本発明は、さらに、本発明のペプチドを含むキットにも関する。
【0102】
このようなキットにおいて、本発明のペプチドは、容器において、任意選択的に、緩衝液又は溶液と共に/緩衝液又は溶液の中に、包装されていてよい。キットの全ての成分は、同一の容器において又は相互に別個に包装されていてよい。さらに、キットは、その使用のための指示書を含んでよい。このようなキットは、例えば、本発明に従うものを、栓及び/又はセプタムを有する注入バイアルにおいて含んでよい。さらに、その中には、例えばディスポーザブルシリンジが含まれていてもよい。
【0103】
本発明の更なる対象は、アミロイド−ベータ−モノマー、アミロイド−ベータ−オリゴマー又はA−ベータ−フィブリルの同定、定性的および/または定量的測定のためのプローブとしての本発明のペプチドの使用である。
【0104】
本発明の対象はまた、アミロイド−ベータ−モノマーまたはアミロイド−ベータ−オリゴマーの同定、定性的および/または定量的測定のための、本発明のペプチドを含むプローブである。
【0105】
このようなプローブは、それを用いてアルツハイマー型認知症の早期診断が可能になるため、重大な意義をもつ。早期診断を用いて、疾病は既に、極めて早期の段階で対抗処置できる。
【0106】
このような分子プローブは、本発明のポリマー及び任意選択的に色素、蛍光色素、放射性同位体(PET他)、ガドリニウム(MRI)並びにプローブの像形成に適した代替的な物質を含み、かつ、例えば静脈内注射によって、患者に注射されてよい。脳血液関門の通過後に、プローブはA−ベータ−モノマー、A−ベータ−オリゴマー及び/又はプラークに結合することができる。そうしてマーキングされたA−ベータ−オリゴマー及び/又はプラークは、例えばSPECT、PET、CT、MRT、プロトン−MR−分光法等の像形成法を用いて、可視可能にすることができる。
【0107】
さらに、本発明は、アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又はアミロイド−ベータ−ペプチド−凝集体及び/又はアミロイド−ベータ−フィブリルの阻止のためのペプチドの使用にも関する。
【0108】
本発明のペプチドはまた、毒性アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又は凝集体の無毒化のために使用される。特にそれは、アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又は凝集体に結合し、そうして無定形の、非毒性の凝集体を形成するために、使用される。
【0109】
Aβ−オリゴマーが既に生じている場合、A−ベータ−モノマーに対してできる限り高い親和性を有する物質によってこれに対処することが治療の目標でなければならないことが認められた。事実上、A−ベータ−モノマーに対する親和性は全然十分に大きくないことがあり得、その場合に本発明のペプチドの適切な解離定数は、μM未満の範囲に、より良好にはさらにpMの範囲あるいはさらにより低い範囲にある。
【0110】
本発明の枠内において、A−ベータ−モノマーが、A−ベータ−オリゴマーの構成成分として、ヒトの体内で常に発生しており、恐らくそれ自体では毒性でないことが認められた。それどころか、モノマーは、ポジティブな機能を有する可能性さえある。A−ベータ−モノマーは、その濃度に依存して偶発的に一緒に堆積し得る。この濃度は、体内のそれらの形成速度及び分解速度に依存する。年齢が増加すると共に、体内でのA−ベータ−モノマーの濃度の上昇が起こり、そして前記モノマーが自然発生的に一緒に堆積してA−ベータ−オリゴマーを生じる可能性が益々大きくなる。そうして発生したA−ベータ−オリゴマーは、プリオンに類似して増加し、そして最終的にはアルツハイマー病−疾患を引き起こし得る。
【0111】
さらに、アルツハイマー型認知症の予防と治療又はましてや治癒との間の重要な相違点は、予防は場合によっては、最初のA−ベータ−オリゴマーの形成を妨げることによって既に達成できる、という事実にあると認められた。このためには、A−ベータ−オリゴマーに対して同時にわずかに親和性であり選択的(もしくは特異的)である、いくつかの、わずかな高親和性A−ベータ−モノマーリガンドで十分である。
【0112】
アルツハイマー型認知症の診断(プローブ)および治療に関するこの要求は、本発明のペプチドの提供により満たされる。本発明のペプチドは、診断および/または治療の目的で、A−ベータ−モノマーまたはA−ベータオリゴマーに、適切に低い解離定数で結合する。さらなる対象は、従って、本発明のペプチドのアルツハイマー病の治療薬としての使用である。
【0113】
本発明のペプチドの標的分子への特に強力な結合は、本発明のペプチドの標的分子への高い特異性および/または親和性によりもたらされる。従って、形成した複合体は、低い解離定数(K値)を有する。
【0114】
チオフラビンT試験により、本発明のペプチドが、A−ベータ−ペプチドのフィブリル形成を非常に効果的に抑制することを示すことができた。
【0115】
更なる対象は、本発明のペプチドの、血液、血液製剤および/または器官の処置(in vitro、ex vivo)のための方法における使用であって、上記血液、血液製剤および/または器官が、ヒトまたは動物の体から取り出されたものであり、A(アミロイド)−ベータ−オリゴマーが除去され、および/または無毒化されることを特徴とする使用である。
【0116】
本発明の意味において、結合親和性という語句は、タンパク質−リガンド相互作用における結合パートナー間の結合の強さのための尺度であり、A−ベータ−モノマーに対する結合特異性は、結合がA−ベータ−モノマーにのみ存在し、他のA−ベータ種には結合が存在しないかまたは弱い結合のみが存在することを表す。特異性の値として、A−ベータ−オリゴマーへの結合シグナルに対するA−ベータ−モノマーへの結合シグナルの比、またはA−ベータ−フィブリルへの結合シグナルに対するA−ベータ−モノマーへの結合シグナルの比、またはA−ベータ−オリゴマーに関する同等物が挙げられる。特異的結合とは、上記比が1より大きいことを意味する。
【0117】
これと同様に、A−ベータ−オリゴマーに対する結合親和性は、結合がA−ベータ−オリゴマーにのみ存在し、他のA−ベータ種には結合が存在しないかまたは弱い結合のみが存在することを表す。特異性の値として、A−ベータ−モノマーへの結合シグナルに対するA−ベータ−オリゴマーへの結合シグナルの比、またはA−ベータ−フィブリルへの結合シグナルに対するA−ベータ−オリゴマーへの結合シグナルの比、またはA−ベータ−モノマーに関する同等物が挙げられる。再度、特異的結合とは、上記比が1より大きいことを意味する。
【0118】
A−ベータ−オリゴマーが既に生じている場合、A−ベータ−オリゴマーを除去するために、A−ベータ−モノマーに対してできる限り高い親和性および特異性を有する物質によってこれに対処することが治療の目標でなければならない。これは本発明のペプチドを用いて成功する。
【0119】
既に公知のペプチドD3の最適化により、作用メカニズムは類似または同一のままであるべきだが、物質はより効果的な特性を有するべきである。当該特性は、特に、A−ベータ−モノマーまたは−オリゴマーに対する結合親和性および−特異性、A−ベータ−フィブリル形成の阻害、A−ベータ−細胞毒性の抑制、A−ベータ−オリゴマーの析出、A−ベータ−フィブリルの非毒性非アミロイド種への変換である。
【0120】
最適化は、元のD3ペプチドの4、5、6または7個のアミノ酸の置換、および欠失により達成された。
【0121】
ペプチドマイクロアレイを用いてD3を最適化した。そのために、第1段階において、12merのペプチドのそれぞれのアミノ酸を、19個の天然アミノ酸およびD−エナンチオマー形態の13個のさらなるアミノ酸で置換した。第2段階において、有望な置換を相互に組み合わせた。その際に、元のD3ペプチドの4、5、6または7個のアミノ酸を置換した。更に、1個のアミノ酸を欠失させた。ペプチドの結合はA−ベータ−の1つの種(モノマー、オリゴマーまたはフィブリル)に特異的に向けられるべきなので、マイクロアレイは異なる種で処理し、計算上、場合によりインキュベーション調製物中に存在する他の種の結合を排除した。
【0122】
A−ベータ−モノマーに対して特異的かつ高親和性で結合する11個のペプチドを検出した。これらは、配列番号1〜11による、ANK1〜7およびANK15〜18で表されるペプチドである。ここで、高親和性はD3よりも2倍〜10倍低いK値を有することを意味する。
D3(技術水準):rprtrIhthrnr
a)「ANK1」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrirlvyhinr
b)「ANK2」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrirl06yhinr
c)「ANK3」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrirl06yhwnr
d)「ANK4」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrirlvyhwnr
e)「ANK5」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrvrlvyhkkr
f)「ANK6」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrirlvtkkkr
g)「ANK7」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrvrl02thikr
h)「ANK15」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rprvrl06yhwnr
i)「ANK16」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkr07rlvtkrnr
j)「ANK17」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rkrirl06yhikr
k)「ANK18」(遊離のN末端、アミド化されたC末端):rpr07rlhtkkkr
ここで
02:4−フルオロ−フェニルアラニン(D)
06:フェニルグリシン(D)
07:D−ホモアルギニン
【0123】
全てのペプチドはまた、本発明において、二重ペプチド(Doppelpeptide)としておよび/または環化形態において利用される。それにより、ペプチドの効果をさらに増強することができる。
【0124】
ペプチドANK1〜7およびANK15〜18は、A−ベータ−モノマーへの結合により、アルツハイマー型認知症に対する医薬として使用することができる。オリゴマー特異的ペプチドは、A−ベータ−オリゴマーへのそれらの特異的な結合のために、さらに診断用プローブとして利用することができる。
【実施例】
【0125】
実施例
さらに、本発明を実施例および添付の図に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0126】
以下を示す:
図1:a)A−ベータ−モノマー、A−ベータ−オリゴマーおよびA−ベータ−フィブリルにおける本発明のペプチドの結合シグナル。b)本発明のペプチドの結合特異性。
【0127】
図2:本発明のペプチドによるアミロイド−ベータ−オリゴマーの減少。
【0128】
図3:a)本発明のペプチドのTHTアッセイ、b)飽和点におけるアミロイド−ベータを基準としてTHT蛍光を用いて評価されたTHTアッセイ
図4:a)A−ベータ共インキュベーションなしでのSH−SY5細胞のMTTアッセイ。b)A−ベータ共インキュベーションありでのSH−SY5細胞のMTTアッセイ。
【0129】
D3誘導体を用いるペプチドマイクロアレイのために、該誘導体をスライドグラス上にC末端を介して以下に示すように共有結合させた。
・第1世代:19の天然アミノ酸とのおよび13の非天然アミノ酸とのそれぞれ1個の置換を有するD3
・第2世代:A−ベータへのペプチドのより効果的な結合をもたらす置換を相互に組合わせた。
【0130】
−ペプチドマイクロアレイスライドの前処理
・3回エタノール(96%)に短時間浸し、続いてHOで洗浄(30分)
・短時間の乾燥、遠心分離
【0131】
−モノマーおよびオリゴマーの調製
・Johansson et al.2006(Johansson,A.−S.et al.Physiochemical characterization of the Alzheimer’s disease−related peptides Aβ1-42Arctic and Aβ1-42wt. FEBS Journal 273,2618−2630(2006))に従うサイズ排除クロマトグラフィー。
・オリゴマーを8〜9mlずつ、モノマーを16〜17mlずつ分画化した。
【0132】
−フィブリルの調製
・3日間にわたるA−ベータのインキュベーション、遠心分離、上清除去およびバッファーへの再懸濁(3x繰り返し)
【0133】
−ペプチドマイクロアレイの実施
・FITC−A−ベータモノマー、−オリゴマー、−フィブリルおよびFITCと室温で1時間インキュベーション。
・洗浄:TBS−T 3x 短時間(ただしTBS−Tバッファー交換)、Falcon中にて3x10分、3xHO、3x10分
・遠心分離による乾燥
【0134】
−蛍光標識されたA−ベータと固定化ペプチドとの結合を、Fuji Film製Microarray Reader FLA800を用いて蛍光色素により検出する。ペプチドへA−ベータが多く結合するほど、蛍光シグナルが高くなる。
・Carrier Set Mode:スライド
・Resolution:10μm
・Scan Mode:High Sensitivity (Slow): Scan pixel at 200 mm/s
・Laser: 473 nm
・Filter: 530 DF 20
・Photo−multiplier tube (PMT) HV (%): 100
・画像は.tifデータファイルとして保存
蛍光シグナルの評価は、Raytest製ソフトウェアAIDA Metrixを用いて行う:
【0135】
【表1】
【0136】
結果の再現性を保証するために、ペプチドマイクロアレイのインキュベーションは種あたり少なくとも3回行う。
【0137】
複数回測定した蛍光シグナルをメジアンに基づく正規化により正規化し、コントロールをシグナルから差し引いた。これにより、蛍光標識されたA−ベータの結合が色素を介して起こることを防いだ。
【0138】
ペプチドへのA−ベータ種の結合シグナルを平均した。
【0139】
結合特異性の決定のために、他の種に対する、ペプチドが特異的に結合すべきである種の比を用いる。
【0140】
例:ペプチドXのA−ベータ−モノマーへの結合特異性=モノマーへのペプチドXの結合シグナル/オリゴマーへのペプチドXの結合シグナル。
【0141】
本発明のペプチドANK1〜7およびANK15〜18は、A−ベータ−フィブリル化の阻害、A−ベータ−細胞毒性の阻害、A−ベータ−オリゴマーの除去、ならびにA−ベータ−フィブリルの非毒性非アミロイド種への変換をもたらす。その際、A−ベータ−モノマーへの結合親和性および特異性がもたらされる。
【0142】
ここで、結合親和性は、タンパク質−リガンド相互作用における結合パートナー間の結合の強さのための尺度であり、結合特異性は、結合がA−ベータ−モノマーにのみ存在し、他のA−ベータ種には結合が存在しないかまたは弱い結合のみが存在することを表す。ここでは、特異性の値として、A−ベータ−オリゴマーへの結合シグナルに対するA−ベータ−モノマーへの結合シグナルの比、またはA−ベータ−フィブリルへの結合シグナルに対するA−ベータ−モノマーに対する結合シグナルの比、またはA−ベータ−オリゴマーに関する同等物が挙げられる。特異的結合とは、上記比が1より大きいことを意味する。
【0143】
詳細には、以下のデータが決定された
【0144】
【表2】
【0145】
図1aは、D3と比較した、ANK1〜ANK7およびANK15〜18に関するA−ベータ−モノマー、−オリゴマーおよび−フィブリルへの結合シグナルを示す。上記ペプチドは、A−ベータ−オリゴマーおよびA−ベータ−フィブリルよりも、A−ベータ−モノマーにはるかに効率的に結合し、これは、結合シグナルの明確な差により認められる。明確な差は、A−ベータ−モノマーの結合シグナルとA−ベータ−オリゴマーおよび/またはA−ベータ−フィブリルの結合シグナルとの間の少なくとも1.5rfuの差を意味する。
【0146】
図1bは、ANK1〜7およびANK15〜18に関する結合特異性を示す。本発明の全てのペプチドにおいて、A−ベータ−モノマーに対する結合特異性が1より大きいことが明らかである。対照的に、D3は、1未満のA−ベータ−モノマーに対する結合特異性を有する。
【0147】
サンプル中のアミロイドペプチドおよび/またはタンパク質の定量的特性分析のためのQIAD法により、上記物質の特性を定量化することができた。プレインキュベートしたA−ベータを上記ペプチドと共インキュベートした。密度勾配遠心を用いて、種々のA−ベータ種を分離し、RP−HPLCにより、個々のフラクションにおけるAベータを定量化した。フラクション4〜6におけるA−ベータ−オリゴマーの除去を解析した。
【0148】
図2からわかるように、特にANK5、ANK6およびANK7が、D3よりも効果的にA−ベータ−オリゴマーを除去することが示される。一方では、モノマーへの特異的な結合は、オリゴマーの形成を妨げることができ、その際にA−ベータ−モノマーの濃度を減少させることなく、他方では、既に発生したA−ベータ−オリゴマーは、A−ベータ−モノマーを安定化する作用物質での処理により、ルシャトリエの原理に合致する種々の凝集体種の動的平衡から、除去され、それによってA−ベータ−オリゴマーのA−ベータ−モノマーへの分解が実現される。
【0149】
ThTアッセイでは、被験物質との共インキュベーション後のThT陽性A−ベータ−フィブリルの明確な減少が示される(図3aおよび3b)。これは、凝集が阻害されるか、または無定形の凝集体が形成されることを示す。
【0150】
治療的に適切な濃度において、SH−SY5Y細胞の(当業者に公知の)MTTアッセイにおいて、言うに値するほどの本発明のペプチドの毒性は確認されなかった(図4)。対照的に、A−ベータにより生じた毒性は、上記物質ANK4、ANK5、ANK6およびANK7により減少することを示すことができた。現在の常識に従うと、A−ベータ−オリゴマーは、毒性種である。上記ペプチドを用いるとA−ベータ−オリゴマーが除去されるので、A−ベータに誘発される毒性も減少する。
【0151】
詳細:
図2は、8:1のA−ベータとペプチドとの比において、ペプチドANK5、ANK6およびANK7がA−ベータ−オリゴマーをD3よりも大幅に効果的に減少させることを示す。他のペプチドは、この濃度では、D3と同等に効果的である。D3は、A−ベータ−オリゴマーを、50±10%除去し、ANK1は51±6%、ANK2は54±7%、ANK3は62±10%、ANK4は59±16%、ANK5は72±2%、ANK6は81±3%、ANK7は73±1%除去する。
【0152】
従って、本発明のペプチドは、D3と比較して、A−ベータ−オリゴマーの減少の1.6倍までの上昇を示す。
【0153】
図3は、ANK1〜7が明確にThT陽性A−ベータ−フィブリルの形成を減少させることを示す。ThT蛍光は、ペプチドANK1、ANK2およびANK3に関しては、全測定時間(48h)の間、最初の測定値のレベルに留まり、ペプチドANK4、ANK6およびANK7に関しては対照的にわずかな増加が認められ(48時間後に、AベータのThT蛍光の13〜21%に相当)、ANK5に関しては1029rfuに増加し、これは48時間後のA−ベータコントロールのThT蛍光の53%に相当する。
【0154】
図4aは、ANK4、ANK5、ANK6およびANK7が単独で細胞に対する毒性効果を有しないことを示す。図4bからわかるように、A−ベータと種々の濃度のANK4、ANK5、ANK6およびANK7との共インキュベーションにより、A−ベータ毒性の減少を達成できる。この減少は、D3を用いるよりも、物質ANK4およびANK6を用いた場合のほうがより効果的である。有意性は、D3を用いた場合の各濃度を基準とする(p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;n.s.有意性なし)
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11およびホモログ、断片および部分、ならびに配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11のポリマーおよびそれらのホモログ、断片および部分からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、特異的にアミロイド−ベータ種に結合するペプチド。
2.医薬において使用するための、上記1に記載のペプチド。
3.アルツハイマー病の処置のための、上記1または2に記載のペプチド。
4.アルツハイマー病の診断のための、上記1〜3のいずれか1つに記載のペプチド。
5.本質的にD−アミノ酸からなることを特徴とする、上記1〜4のいずれか1つに記載のペプチド。
6.A−ベータ−フィブリルの形成の阻害のための、上記1〜5のいずれか1つに記載のペプチド。
7.凝集したアミロイド−ベータ種に結合するための、上記1〜6のいずれか1つに記載のペプチド。
8.上記1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを含むキット。
9.上記1〜7のいずれか1つに記載のペプチドを含む組成物。
10.アミロイド−ベータ−モノマー、アミロイド−ベータ−フィブリルおよび/またはアミロイド−ベータ−オリゴマーの特異的同定、定量的および/または定性的測定のためのプローブとしての、上記1〜7のいずれか1つに記載のペプチドの使用。
11.アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又はアミロイド−ベータ−ペプチド凝集体の阻害のための、上記1〜7のいずれか1つに記載のペプチドの使用。
12.毒性のアミロイド−ベータ−オリゴマーおよび/または凝集体の無毒化のための、上記1〜7のいずれか1つに記載のペプチドの使用。
13.アミロイド−ベータ−オリゴマー及び/又は凝集体が、上記1〜8のいずれか1つに記載のペプチドと、無定形で非毒性の凝集体を形成することを特徴とする、上記12に記載の使用。
14.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11およびホモログ、断片および部分、ならびに配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および/または配列番号11のポリマーおよびそれらのホモログ、断片および部分からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列の、A−ベータ−モノマーへの特異的結合のための使用。
15.アルツハイマー病の治療薬としての、およびアルツハイマー病の予防のための、上記1〜7のいずれか1つに記載のペプチドの使用。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]