(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6714612
(24)【登録日】2020年6月9日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】光学透視ディスプレイ素子及びかかる素子を利用する装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20200615BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B27/02 Z
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-552896(P2017-552896)
(86)(22)【出願日】2016年4月8日
(65)【公表番号】特表2018-513414(P2018-513414A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】FI2016050229
(87)【国際公開番号】WO2016162606
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2017年11月8日
(31)【優先権主張番号】20155254
(32)【優先日】2015年4月8日
(33)【優先権主張国】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516265414
【氏名又は名称】ディスぺリックス オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジューソ オルコネン
(72)【発明者】
【氏名】アンティ スンナリ
【審査官】
吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/044912(WO,A1)
【文献】
国際公開第2005/093493(WO,A1)
【文献】
米国特許第08233204(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0218481(US,A1)
【文献】
特開2006−350129(JP,A)
【文献】
特開2009−186794(JP,A)
【文献】
特開2008−058777(JP,A)
【文献】
特開2007−219106(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/091204(WO,A1)
【文献】
特表2015−534117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18、5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に存在する2つの面を含む透明な基板と、
光を前記基板に取り込む光取り込み構造と、
前記透明な基板上に配置された、取り込まれた光を前記透明な基板の外へ取り出す光取り出し回折格子構造と、
を備える光学ディスプレイ素子であり、
前記光学ディスプレイ素子の光取り出し効率を向上させるために、前記光取り出し回折格子構造が、前記基板の両側に存在する前記面の少なくとも1つの上で互いに重なる少なくとも2つの複層回折格子を備え、
各複層回折格子は、異なる屈折率を有する少なくとも2つの材料領域の繰り返し周期を含む層を少なくとも2層備え、
前記光取り出し回折格子構造が、前記基板の少なくとも一方側で、回折格子層の数が光導体の後端部に向かって増加する、部分的に重なり合った階段状の様式で、互いに重なる複層回折格子を備える、光学ディスプレイ素子。
【請求項2】
2つの複層回折格子の間に、均一で透明な界面層が存在し、前記界面層は前記基板と同じ材料からなる、請求項1に記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項3】
前記光取り込み構造が光取り込み回折格子を備える、請求項1又は2に記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項4】
前記光取り出し回折格子構造が、金属酸化物の少なくとも1つの層を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項5】
金属酸化物の前記層が、ガラス又はプラスチックのパターン層上に配置された、請求項4に記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項6】
前記パターン層が、リッジ及び溝の周期的回折パターンを含み、金属酸化物の前記層が前記パターン層上にメッキされる、請求項5に記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項7】
金属酸化物の層を、前記複層回折格子のそれぞれの中又は上に含む、請求項4〜6のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項8】
前記複層回折格子のそれぞれの層が相互作用して、前記層のいずれか単独と比較してゼロ次以外の回折オーダーへの回折を低減させる、請求項1〜7のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項9】
前記複層回折格子のそれぞれが、
周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を更に含む第1透明回折格子層と、
前記第1透明回折格子層の上に配置され、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を更に含む第2透明回折格子層と、
を備え、
前記第1透明回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に前記第2透明回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並ぶとともに、前記第1透明回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に前記第2透明回折格子層のより高い屈折率を有する領域と並ぶ、請求項1〜8のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項10】
前記第1透明回折格子層又は前記第2透明回折格子層の少なくとも一方が、互い違いの前記領域の一部を形成する金属酸化物の層を含む、請求項9に記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項11】
金属酸化物の前記層が10〜150ナノメートルの厚さを有する、請求項10に記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項12】
前記光取り出し回折格子構造が、1マイクロメートル未満の寸法の格子を有する構成物を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項13】
前記光取り出し回折格子構造が、互いに重なる1マイクロメートル未満の寸法の格子を有する層からなり、前記層は、周期的に互い違いにした領域として配置される少なくとも2つの光学的に異なる材料を含む、請求項1〜12のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の光学ディスプレイ素子と、
前記光学ディスプレイ素子に表示される画像を、前記光取り出し回折格子構造に向けることができる画像プロジェクタと、
を備える透視ディスプレイ装置。
【請求項15】
スマートグラス又は拡張現実グラスの、ヘッドアップディスプレイ(HUD)又はニアアイディスプレイ(NED)である、請求項14に記載の透視ディスプレイ装置。
【請求項16】
個人用ウエアラブルディスプレイ装置である、請求項14又は15に記載の透視ディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に関するものである。特に、本発明は例えば、ヘッドアップディスプレイ(HUDs)、ニアアイディスプレイ(NEDs)、ヘッドマウンドディスプレイ(HMDs)及びいわゆる拡張現実ガラス製品又はスマートガラスで用いることができる透視ディスプレイ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透視ディスプレイは、3つの基本部品である、画像プロジェクタと、プロジェクタを制御する演算ユニットと、プロジェクタからの画像を透視ディスプレイに映し、ディスプレイのユーザに、通常の視点からの変更を要求することなく、ディスプレイ後方の景色及び投影画像の両方を見せるように構成される光コンバイナとを備える。回折格子に基づく透視ディスプレイの解決策では、画像は光取込回折格子から導波路へ取り込まれる。画像は導波路から光取り出し回折格子によって取り出されてユーザの目に達する。この一般原則によって動作する装置のいくつかの例が、特許文献1−6で紹介されている。回折格子はホログラフィック光学素子(HOEs)と呼ばれることもある。
【0003】
いくつかの解決策では、2つ以上の回折格子を用いて異なる波長を回折し、当該回折格子はいわゆる多重回折格子として役立つ。例えば、特許文献7は、カラーのヘッドアップディスプレイ装置用の回折コンバイナを開示する。この装置は、第1の波長を持ち第1の光学回折格子にある入射方向で入射する光を、回折方向に回折するために構成される第1の光学回折格子と、第2の波長を持ち第2の光学回折格子に当該入射方向で入射する光を、同じ方向に回折するために構成される第2の光学回折格子とを備える。第1の光学回折格子及び第2の光学回折格子は、コンバイナの対向する第1及び第2の面に浮き彫りとして形成される。
【0004】
いくつかの解決策では、様々な方向性を有する複数の回折格子が存在する。例えば特許文献8は、基板と基板上に形成されるディスプレイパターンとを備える、ディスプレイ素子を開示しており、ディスプレイパターンは、第1の回折格子構造と、第2の回折格子構造とを有する。第1の回折格子構造の回折格子線の方向が、第2の回折格子構造の回折格子線の方向と異なり、これにより、画像中にレインボー状効果が生じることを防止しようとしている。
【0005】
特許文献9には、レインボー効果を防止する、より効率的な解決策が開示されている。この解決策は、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を含む第1の回折格子層及び第2の回折格子層を用いて、回折格子からゼロ次以外の透過オーダーに回折される光の量を低減することに基づいている。このことを達成するために、より高い屈折率を有する第1の回折格子層の領域が、少なくとも部分的に、より低い屈折率を有する第2の回折格子層の領域と並ぶとともに、より低い屈折率を有する第1の回折格子層の領域が、少なくとも部分的に、より高い屈折率を有する第2の回折格子層の領域と並ぶ。その結果、透過光の回折が減少する。この解決策は、波長ごとに単一の回折格子を用いる解決策と比較して、光取り出し回折格子の効率がより低くなる。
【0006】
光取り出し効率のほかに、透過ディスプレイにおける他の重要な要素は、光取り出し回折格子の透明性である。特にヘッドマウントディスプレイ(HMDs)等のウエアラブルディスプレイでは、回折格子は目に近く、透明性が低いとディスプレイ後方の景色の明るさが減少する。特許文献9は、光取り出し効率を高めるために、光取り出し回折格子構造で薄い金属層を利用する解決策を開示する。しかしながら、この金属層は、回折格子の透明性を減少させる。透明性が低下すると、ユーザーエクスペリエンスに大きな影響を与え、例えばユーザが細かい作業時及び車の運転時に装置を使用することを制限し又は妨げる。また目を暗い領域が覆うと、装置の消費者の顔付きの魅力が減少する。
【0007】
また様々な目的で設計された複数の他の種類の回折格子が存在する。例えば、特許文献10は、光取り込み回折格子及び光取り出し回折格子を備える装置を開示する。光取り込み回折格子から光取り出し回折格子に回折光要素を結合するような角度で、光取り込み回折格子及び光取り出し回折格子に対して横方向に配置される、中間回折格子も存在する。
【0008】
非特許文献1では、頭部装着型視覚表示装置用の非対称射出瞳拡大素子の構想を開示する。特許文献11は、観察表示装置の射出瞳を拡大する複数の回折素子を使用する非対称射出瞳拡大とともに積層されたEPE基板を用いて、射出瞳拡大素子(EPE)において視野が広く一様に照射する関連機器及び方法を表す。当該解決策は、高い視野角(FOV)及び照射の一様性を目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2006/064301号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/52002号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2009/077802号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/077803号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2011/110728号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2009/0245730号明細書
【特許文献7】国際公開第2011/113662号パンフレット
【特許文献8】米国特許第4,856,869号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2014/044912号明細書
【特許文献10】国際公開第2006/132614号パンフレット
【特許文献11】米国特許出願公開第2010/296163号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Saarikko P., Diffractive exit-pupil expander with a large field of view, Photonics in Multimedia II (2008), Volume 7001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
均一な光取り出し回折格子を有する光導体に基づく回折ディスプレイ素子において、取り出す光の明るさは、光導体の後端部に向かって減少する。この課題に対する未遂の解決策には、光導体の後端部に向かって増加する光取り出し効率をもたらそうとすることが含まれる。しかしながら、深さが変化する回折格子の輪郭を作製することは、挑戦的であり高価となる。
【0012】
概括すれば、利用可能な従来技術において、様々な波長に対する装置の応答を改善するとともに画像内のレインボー状効果の発生を妨げるために回折格子を互いに重ねる解決策が存在する。しかしながら、これらの文献のいずれも、所望される、表示される画像に関して均一かつ高い明るさでホワイトバランス補正すること、及び/又は経過した光の透明性を高めること、及び/又はレインボー効果又は画像品質の他の種類の低下等の副作用を小さくすることを提供していない。
【0013】
このように、改善された透視ディスプレイが求められている。
【0014】
本発明の目的は、ディスプレイに表示される画像に対する光取り出し効率を向上させた透視光学ディスプレイ素子、すなわちコンバイナ素子を提供することである。更なる目的は、この利点と、副作用がより小さくし画像の品質を高くすることを組み合わせることである。
【0015】
この発明の更なる目的は、光取り出し効率が空間的に変わる複層回折格子構造を提供することである。この構造の利点は、一様の格子形状を有する回折格子を互いに重ねて積層することによってこの構造を作製できることである。ある層から他の層までで回折格子区域の寸法及び位置が変わる。
【0016】
また光取り出し回折格子を有するディスプレイ素子は一般に、全視野にわたってホワイトバランス補正が小さい。この発明の1つの目的は、表示される画像のホワイトバランスを高めた複層回折格子構造を提供することである。回折格子構造は、光取り出し部の全体と、ホワイトバランスが低い観察地点の視野において損なった色の光取り出し効率を高める付加的な回折格子層とを覆う基部回折格子層からなる。
【0017】
本発明の付加的な目的は、透視透過性が向上した又は既知の回折格子に基づく解決策と少なくとも同じレベルの透過性を有する、光取り出し回折格子を備える、透視ディスプレイ素子を提供することである。
【0018】
特定の目的は、スマートガラス等の個人用ウエアラブルディスプレイ装置及び/又は車両等に統合されたヘッドアップディスプレイ(HUDs)等のディスプレイに適した、ディスプレイ素子を提供することである。
【0019】
更に他の目的は、例えばナノインプリント技術で好都合に製造することができる、光取り出し回折格子構造を有するディスプレイ素子を提供することである。
【0020】
1つ以上の上述した効果を有する素子を含むディスプレイ装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、基板に取り込まれる光に対する、基板の光取り出し効率を向上させるために、複数の光取り出し回折格子を互いに重ねた基板を提供することに基づく。それぞれの光取り出し回折格子は複層構造であり、当該複層構造は例えば、不要な回折作用(例えば素子を通過した光、すなわち透過光の回折)を最小化し、及び/又は素子の全体的な透過性を向上させるのに役立つことができる。特に、複層回折格子は、透過光を実質的に回折しないようになっており、すなわち、複数の層が、非ゼロ次以外の回折オーダーへの回折を最小化するように相互作用する。基板上又は基板内に配置された光取り込み回折格子を用いて、又は例えばプリズムを用いて、基板へ光を取り込むことができる。
【0022】
したがって、本光学ディスプレイ素子は、両側に存在する2つの面を含む透明な基板と、光のパターンを基板に取り込む光取り込み構造と、透明な基板上に配置された、取り込まれた光を透明な基板から外へ取り出す光取り出し回折格子構造とを備え、それによって、ディスプレイ素子の取り込まれた光のパターンによって定められる画像を表示する。光取り出し回折構造は、基板の両側の面の少なくとも1つの上で互いに重なる少なくとも2つの複層回折格子を備える。さらに他方の面に1つ以上の単層回折格子又はより好ましくは複層回折格子を設けることができる。
【0023】
本光学ディスプレイ装置は、上述した種類の素子と、ディスプレイ素子に表示される画像を、光取り込み構造に向けることができる、画像プロジェクタとを備える。
【0024】
より具体的には、本発明は、独立請求項に記載されたことを特徴とする。
【0025】
本発明は、顕著な利点をもたらす。まず、複層回折格子はそれぞれ光を取り出し、光取り出し効率が向上することによって全体的な光学性能が向上する。このことは、複層回折格子を基本的な回折ユニットとして使用することで可能になる。好適な実施形態では、複数の層が、非ゼロ次回折オーダーへの回折を、当該層のいずれか単独と比較して低減するように協同するように、複層回折格子は構成される。かかる複層回折格子は、特許文献9で説明される。発明者は、従来の回折格子とは異なり、不要な副作用無しに、そして驚くほど高く効率を増加させる効果を持ちながら、かかる回折格子を互いに積層することができることを発見した。すなわち、複層回折格子のそれぞれは、基板から装置のユーザの目に向かって光を結合するのに寄与する。従来の光取り出し回折格子は、当該回折格子が透過光を回折するという事実のために、互いに重ねて使用することができない。透過光の回折は、取り出された画像の画像品質を容認できないほど低下させるレインボー効果及びゴースト像を生み出す。本発明は、互いに重ねた、画像品質に大きな影響を与えることがない回折格子を用いる。
【0026】
なお、コンバイナ素子の光取り出し効率を増加させることで、光源ユニットが要求する電力が大きく減少する。ウエアラブル技術において、このことはバッテリーの有効期間に直接関連する。
【0027】
光取り出し回折格子の複層回折格子の1つ以上において、金属酸化物を回折格子層の材料として使用した場合に、著しい利点が得られる。二酸化チタンTiO
2等の金属酸化物は、透過光に対する回折格子構造において、100%近くの高透過性を依然として維持しながら、高い屈折率を有するとともに回折に大きく寄与する。例えば、10−150ナノメートルの薄層で十分である。完全に金属製の層は、厚さ10ナノメートルものでさえ透過性を大きく減少させる。
【0028】
互いに積層される複数の回折格子が存在する場合に、回折格子の透明性の改善は重要な効果である。回折格子の透明性が改善しなければ、環境光が積層を通過する際に、積層を通過して届く環境光の強度が許容しがたいほど低下するであろう。本発明では、例えば2−6個又は更に多くの回折格子が存在し得る。強度の損失を最小化することは、少なくとも要求が厳しい応用(ウエアラブル装置等)において重要である。しかしながら、特殊な応用において、ある程度の透明性の損失を許容することができ、従って例えば金属層の使用は完全には除外されない。
【0029】
透明性を改善することによって、本素子を、例えば要求の厳しい産業用途において及び人間が駆動する車両において、ディスプレイ素子として使用することができる。高い透明を有する光取り出し回折格子は他人の目に見えにくくなり、ディスプレイを通常の眼鏡のレンズに潜在的に似せることができるため、ウエアラブルエレクトロニクス用途において、消費者が潜在的に受け入れやすくなるという顕著な効果も存在する。
【0030】
本光学素子を、ヘッドマウントディスプレイ(HMDs)、ヘッドアップディスプレイ(HUDs)及びニアアイディスプレイ(NEDs)のディスプレイ素子として利用することができ、本明細書の用語「透視ディスプレイ」はこれらディスプレイのすべてを含む。特に、本光学素子を、航空産業ディスプレイ装置、自動車産業ディスプレイ装置、ゲームディスプレイ装置、拡張現実ディスプレイ装置、スマート個人用アイウェア装置(スマートガラス)、ガイデッドサージェリーディスプレイ装置又は誘導アセンブリディスプレイ装置の部品として使用することができる。
【0031】
従属請求項は、本発明において選択された実施形態に向けたものである。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、光取り出し回折格子構造が、基板の一方側のみではなく基板の両側の面のそれぞれの上で、互いに重なる少なくとも2つの複層回折格子を備える。
【0033】
一般的に、少なくとも2つの複層回折格子は本質的に類似しており、同じ波長に対する光取り出し回折構造の光取り出し効率を高める。また、かかる構造は、同じ製造工程を繰り返して複数の同一回折格子を作ることで、容易に製造される。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、複層回折格子を互いに直接重ねて配置する。あるいは、2つの複層回折格子の間に、一様の(すなわち格子状ではない)透明な界面層が存在し得る。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、光取り出し回折格子構造が、基板の一方側で、回折格子層の数が光導体の後端部に向かって増加する、部分的に重なり合った階段状の様式で、互いに重なる複層回折格子を備える。かかる複層回折格子を、基板の両側に設けることもできる。さらに、本発明の光取り出し回折構造は、ホワイトバランスが減少した領域を含んで、画像のホワイトバランスを向上させる複層回折格子を付加的に含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、光取り込み構造は、単色及び複色両方のディスプレイ用途に適した、光取り込み回折格子を含む。あるいは、光取り込み構造は、特に単色ディスプレイ用途に適した、プリズムを含むことができる。
【0037】
光取り込み回折格子を基板上で光取り出し回折格子構造に対して横方向に配置して、回折された光は基板の導波特性の利点を得て回折格子構造間を進むことができる。一般的な解決策では例えば中間に進路変更回折格子を使用しないが、中間の進路変更回折格子を除外するものではない。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、光取り出し回折格子の、観察者の目から見て外側に反射層が存在して、ユーザの目から初めに離れる取り出された光を反射して観察者の目に返す。このことで、装置の光取り出し効率が向上する。反射層は、環境光が通って目に到達できるように設計される。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、光取り出し回折格子構造が、屈折率がいくらか小さい材料に加えて、金属酸化物、特に金属二酸化物の少なくとも1つの層を含む。これらの材料は一緒に、1つ以上好ましくはすべての複層回折格子の少なくとも1つのサブレイヤにおいて周期的回折格子を形成する。一般的な実施形態において、金属二酸化物の層を、ガラス又はプラスチックのパターン層上に、低屈折率材料として配置する。パターン層は一般に、リッジ及び溝の周期的回折パターンを含み、金属二酸化物の層が薄膜堆積技術を用いてパターン層上にメッキされる。回折格子構造の光取り出し効率は一般に、導波路の後端部に向かって増加し、ディスプレイのアイボックスの画像の明るさを均一にする。
【0040】
いくつかの実施形態によれば、複層回折格子のそれぞれの層が、層のいずれか単独と比較して、ゼロ次以外の回折オーダーへの回折を低減させるように相互作用する。これにより、画像品質をできる限り高く維持でき、レインボー効果等の副作用をできる限り低く維持できる。この条件が満たされる特定の実施形態によれば、複層回折格子のそれぞれが、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を更に含む第1透明回折格子層と、第1透明回折格子層の上に配置され、また周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を更に含む第2透明回折格子層と、を備え、第1透明回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に第2透明回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並ぶとともに、第1透明回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に第2透明回折格子層のより高い屈折率を有する領域と並ぶ。上述したように、この特定の実施形態と組み合わせて、金属酸化物を回折格子の材料として使用することは特に有益である。
【0041】
特に、光取り出し回折格子構造は、リッジ及び溝等のナノインプリント回折格子構成物を含む。特定の実施形態では、光取り出し構造が、互いに重なるナノインプリント層からなり、層は周期的に互い違いにした領域として配置される少なくとも2つの光学的に異なる材料を含む。代替的な実施形態では、光取り出し構造は、ナノインプリント構成物及び真空蒸着構成物又は原子層堆積構成物の組み合わせを含む。
【0042】
<定義>
用語「透明な」(例えば「透明な」材料層又はディスプレイ素子の領域)は、可視波長中点値450−650ナノメートルでの透過率が少なくとも20%、特に少なくとも50%である構造をいう。
【0043】
用語「回折」は、380−780ナノメートルの全可視波長域の少なくともある部分範囲で回折的であることを意味する。
【0044】
本明細書で説明する素子の「基板」は、2つの主要な機能を有する。第1に、基板は導波路になり、光取り込み構造によって取り込まれた光を、最終的な画像が網膜で形成されるユーザの目に向け直す光取り出し回折格子構造まで導く。基板は透明であるため、ユーザは、ディスプレイを通してディスプレイの後ろに存在する物体を見ることができる。第2に、基板は、基板上に生み出された回折格子を物理的に支持する。
【0045】
出願人は、基板の「両側の表面」という表現によって、光学的に両側の表面を意味し、すなわち、透過光がディスプレイ素子のユーザの目まで進む間に透過光(「透視光」)が通過する基板の境界を意味する。本明細書では簡略化のため平坦で厚さが一定の平板として基板を図示しているが、例えば、基板は湾曲した形状を有することもでき、基板の厚さを変えることもでき、基板を通過する光の方向を完全に変える1つ以上の内部鏡又はプリズムを有することさえもできる。
【0046】
用語「複層回折格子」は、少なくとも2層の周期的に繰り返す(周期的な)構造を含む回折格子を指す。当該周期に少なくとも2つの屈折率が相違する材料領域を含み、当該層は基板の平面に存在する。特に、当該用語は、付加的な1つ以上の層が、ゼロ次以外の透過オーダーに回折される光の量を、第1層のみの場合と比較して低減して、いわゆるレインボー効果を低減するような回折格子を指す。以下より詳細に説明するように、複層回折格子を形成する少なくとも2つの層は、光学的に相違する材料を含むことができ、又は例えば互いに半周期だけ位置を変えた点を除いて互いに類似とすることができる。一般に、複数の層は同じ周期を有する。本発明では、例えばナノインプリント又は積層技術によって、互いに重ね合わせて、素子の全体的な光取り出し効率を改善した、複数のかかる複層回折格子が存在する。用語「互いに重ね合わせる」は、複層回折格子が均一の界面層によって分離された、すなわち周期的構造が直接重ならず互いに離れた、通常の状況を含む。
【0047】
「ナノインプリント」は、寸法が1マイクロメートル未満の、特に横方向において周期が100ナノメートル未満の格子を有する(すなわち50ナノメートルよりも小さな幅の溝/リッジを有する)とともに構成物の高さが1−1200ナノメートルである、回折構成物(特に回折格子(すなわち1次元又は2次元格子))を、重合体、金属又は金属酸化物を含む構成物をもたらす印刷可能な材料を好ましくは用いて、生み出すことができるプリント技術を意味する。
【0048】
用語「個人用ウエアラブルディスプレイ装置」は特に、スマートガラス又は拡張現実ガラス等の、ヘッドマウントディスプレイ(HMDs)及びニアアイディスプレイ(NEDs)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1A】本光学ディスプレイ素子を使用する主要な目的を示す図である。
【
図1B】本発明の実施形態の光学素子構造の概略分解斜視図を表す。
【
図2A】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図2B】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図2C】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図2D】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図2E】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図2F】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図2G】本発明の様々な実施形態に従う構造の断面図を表す。
【
図3A】パターン材料層とパターン材料層上に設けられた薄膜メッキとを有する回折格子構造の断面図を表す。
【
図3B】
図3Aに従い、薄膜メッキが金属(銀)を含む、光取り出し回折格子の写真画像を表す。
【
図3C】
図3Aに従い、薄膜メッキが金属酸化物を含む、光取り出し回折格子の写真画像を表す。
【
図5】本発明の実施形態に従うディスプレイ素子の光取り込み領域の位置における概略断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に、添付の図面を参照して、本発明の特定の実施形態及び本発明の利点をより詳細に説明する。
【0051】
図1Aは、光取り込み回折格子1012と光取り出し回折格子1014とを備える光学的透視ディスプレイ素子1010を表す。光取り込み回折格子1012に向けたプロジェクタ1020も存在する。光取り込み回折格子1012は、入射光を、光が要素1010内を内部全反射によって光取り出し回折格子1014に向かって伝播するような角度に回折する。回折された光が光取り出し回折格子1014に到達するときに、当該光は、観察者1001の目に向かって回折される。観察者1001の目の網膜上で最終的な像パターンが形成される。観察者は、当該像パターンを見るのと同時に、素子1010を通して素子1010の後ろに存在する任意の物体1030を見る。
【0052】
図1Bは、一実施形態に従うディスプレイ素子をより詳細に表す。素子は、(大きな長方形で定められる)基板10を備える。基板10は、少なくとも可視光の数波長分にわたって光導体としての機能を果たすことができる、すなわち光を基板10内で横方向に伝導することができる材料で作られる。
図1Bに示すように、基板10を平面とすることができるが、基板10は他の任意の形状を(例えば湾曲した形状をも)とることができる。好ましくは、基板10は、光がその内部境界において内部全反射で反射されるように設計される。また基板10の1つ以上の境界に鏡又はプリズムを設けて、光が必要な長さだけ基板10内に留まることを確保することができる。
【0053】
基板は、例えばガラス又は重合体(ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、アセチルセルロース、ポリビニルピロリドン又はエチルセルロース等)を含むことができる。
【0054】
基板10は、基板の平面と平行な平面に存在する光取り込み回折格子12を備える光取り込み領域を含む。図示したように光取り込み回折格子12を基板10内に設けることができ、基板10の一方若しくは両方の表面に設けることができ、又はこれら両方/すべてに設けることができる。光取り込み回折格子12は基板10と光学的に接続され、回折格子12に向けられた光が基板10内へ回折され、更に(好ましくは内部全反射によって補助されて)基板10で導かれる。
【0055】
基板の光取り込み領域に対して他の横方向位置に、光取り出し領域が存在する。光取り出し領域は、複数の光取り出し回折格子14、16を、基板の一方の表面又は好ましくは両方の表面に備える。
図1Bに表すように、光取り出し回折格子12、16は、基板10のそれぞれの側に互いに重ねて位置付けられる。また基板10内に付加的な回折格子が存在し得る。以下より詳細に説明するように、光取り出し回折格子14、16のそれぞれは、複層の(特に2層の)内部構造を含む。
【0056】
光取り込み回折格子12から基板に取り込まれた光の入射角が、鏡又はプリズム無しでは内部全反射に急勾配過ぎる場合に、鏡又はプリズムを、基板10の長手方向境界19A、19Bに設けることができる。
【0057】
図2Aは、一実施形態に従う素子の構造を断面図で表す。素子は、基板20と、基板20内の光取り込み回折格子22と、基板20の第1表面上の3つの光取り出し回折格子24A、24B、24Cとを備える。矢印は、回折格子及び基板の境界における光学的相互作用が原因となって、光が、素子に当たり、素子内で伝播し、素子を出る様子を示す。
【0058】
図2Bは、第1表面上の回折格子24A、25B、24Bと位置合わせされた、2つの付加的な光取り出し回折格子26A、26Bを基板20の第2表面上に有する変形例を表す。付加的な回折格子26A、26Bは、光取り出し効率を更に加える。
【0059】
基板20の各表面上に重なる回折格子の数を、例えば2−10、特に2−5とすることができる。
【0060】
図2Cは、基板に埋め込まれた付加的回折格子25を有する実施形態を表す。また、かかる付加的回折格子25は、好ましくは複層構造を含み、素子の光取り出し効率を更に加えることができる。
【0061】
図2Dは、当該基板の一方側に、部分的に重なり合った階段状の様式で、互いに重なって存在する複層回折格子27A、27B及び27Cを含む光取り出し構造を有する実施形態を表す。回折格子層の数は、光導体の後端部に向かって増加する。回折格子層の重なり合う区域において、この重なりの結果、光取り出し効率が光導体の後端部に向かって増加する。
【0062】
図2Eは、
図2Dとその他の点では同じであるが、素子が、光導体の両側に、部分的に重なり合う光取り出し回折格子28A−B及び27A−Cを含む点で異なる。部分的に重なり合う回折格子層28A及び28Bは、光取り出し効率を更に高め、ディスプレイのアイボックスの画像の明るさの均一性を改善する。
【0063】
図2Fは、減少した明るさでスペクトル色成分の光取り出し効率を局所的に増加させて、全体的なホワイトバランスを高めた、付加的複層回折格子構造29A−Cを用いることで、画像のホワイトバランスを高めた実施形態を表す。回折格子29Aが全光取り出し領域を覆う一方、回折格子29B及び29Cはホワイトバランスが低下した観察地点の視野におけるスペクトル色成分の光取り出し効率を高める。固定された目の位置(30)に対して、観察地点の視野と光導体表面上の光取り出し回折区域との間に、はっきりしたマッピングが存在する。
【0064】
図2Gは、
図2Dに表す実施形態と2Fに表す実施形態とを組み合わせた実施形態を表す。回折格子積層体27A−Bは、光取り出し効率が光導体の後端部に向かって増加するように光を取り出す一方、回折格子積層体29B、29Cを用いて、表示される画像のホワイトバランスを高める。
【0065】
<金属酸化物を用いた透過性の改善>
図3Aは、周期d及び高さhの基礎回折格子構造を定めるために、第1材料30(例えばプラスチック又はガラス)に周期的に配置されたリッジ及び溝を含む複層回折格子を表す。リッジ及び溝の上部に、第1材料よりも屈折率が高い、第2材料31の薄層を設ける。第1材料30と屈折率が同じであり又は異なる、第3材料32を構造の上部に設けることができる。このことは、本発明内で使用できる複層回折格子の一例を構成する。
【0066】
図3Bは、第2材料31が銀であり当該銀層の厚さが10ナノメートルである場合の、
図3Aに従う構造の透過性を示す。図からわかるように、回折格子を含む区域34Aにおいて、区域34Aの周りの回折格子を含まない区域と比較して、透明性(測定した透明性は約55%である)の注目すべき損失が存在する。他の金属でも同様の性質が考えられる。
【0067】
図3Cは、第2材料31が金属酸化物(本事例では二酸化チタン)であり、他のパラメータは
図3Bの構造と同じである場合の、
図3Aに従う構造の透明性を示す。図からわかるように、透明性の注目すべき損失は存在しない(測定された透明性は100%に近い)。したがって、特に、互いに重なった複数の複層回折格子が存在し、1つずつの複層回折格子における損失をできる限り小さくすべきである本状況では、金属酸化物薄層は金属薄層よりも有益である。
【0068】
例えば真空技術(蒸着又はスパッタリング)、回転塗布、原子層堆積(ALD)又は下に置かれた回折格子に対する印刷を用いて、透明な金属酸化物層を形成することができる。層の厚さを例えば1−20ナノメートル、特に1−10ナノメートルとすることができる。
【0069】
<複層回折格子>
次に、例示的な複層回折格子の構造をより詳細に説明する。
【0070】
一実施形態によれば、複層回折格子は、第1透明回折格子層と、第1透明回折格子層上に位置する第2透明回折格子層とを含む。また、第1透明回折格子層は周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を更に含み、第2透明回折格子層も周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を含む。そして、第1回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に、第2回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並び、そして、第2回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に、第1回折格子層のより高い屈折率を有する領域と並ぶ。かかる構造では、第2回折格子層が、ゼロ次以外の透過オーダーに回折される光の量を低減し、これにより到来する光の回折を妨げる。好ましくは、第1回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、完全に、第2回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並び、そして、第1回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、完全に、第2回折格子層のより高い屈折率を有する領域と並ぶ。
【0071】
特に、第1回折格子層及び第2回折格子層の周期、層の厚さ及び屈折率を調整して、450−650ナノメートルの波長域に対する、透過オーダー特に1次透過オーダーの回折効率を、反射オーダー特に1次反射オーダーの回折効率よりも低くする。一実施形態では、450−650ナノメートルの波長域に対する、1次透過オーダーの回折効率が0.4%以下であり、1次反射オーダーの回折効率が少なくとも3%である。
【0072】
第1回折格子層及び第2回折格子層は、同じ回折格子周期を有する。また第1回折格子層及び第2回折格子層はそれぞれ、単一の回折格子周期で、異なる屈折率を有する2種類の領域を含む。
【0073】
一実施形態によれば、第1回折格子層及び第2回折格子層の厚さは等しい。また、第1回折格子層及び第2回折格子層の材料特性を相違させることができ、厚さを相違させることができる。
【0074】
一般に、第1回折格子層及び第2回折格子層は、1つ以上の同じ方向で周期的であり、すなわち第1回折格子層と第2回折格子層との間に角度はない。
【0075】
図4Aは、本発明に係る2層の回折格子の全体構造を示す。回折格子は、第1の回折格子層110と第2の回折格子層120とを備える。両回折格子層は、同じ回折格子周期(Λ)を持ち、バイナリである。第1の回折格子層は、相違する屈折率n
11及びn
12をそれぞれ有する材料領域110A及び110Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。同様に、第2の回折格子層は、相違する屈折率n
21及びn
22をそれぞれ有する材料領域120A及び120Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。2層の回折格子の第1の側面に屈折率n
1を有する第1の光学的に透過的な材料層100を設け、回折格子の第2の側面に屈折率n
2を有する第2の光学的に透過的な材料層130を設ける。回折格子の一方又は両方の側面上の、層100又は130は、空気層(又は真空層)、すなわち材料が中実でない層を備えることもできる。
【0076】
単純化され、より実用性が高い構造を
図4Bに示す。この構造は、
図4Aと同様に、第1の回折格子層210と第2の回折格子層220とを備える。さらに、第1の回折格子層は、相違する屈折率n
11及びn
1をそれぞれ有する材料領域210A及び210Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。同様に、第2の回折格子層は、相違する屈折率n
21及びn
2をそれぞれ有する材料領域220A及び220Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。
図4Aとの根本的な違いは、回折格子層210及び220の各側面上の、材料層200及び230がそれぞれ、回折格子領域210A及び220Aから途切れなく連続していることである。
【0077】
第1の回折格子層及び/又は第2の回折格子層の領域の少なくとも一部は、基板と同じ材料又は基板とほぼ同じ屈折率を有する材料を含むことができる。すなわち、例えば
図4Bの状況では、層200又は層230を基板(の一部)とすることができる。
【0078】
一実施形態によれば、第2の回折格子層の屈折率の少なくとも1つは、好ましくは2つとも、第1の回折格子層の屈折率と同じである。この例を
図4Cに示す。この構造は、
図4A及び4Bと同様に、第1の回折格子層310と第2の回折格子層320とを備える。これらの回折格子層は、(各層内で)相違する屈折率 n 及びn
1 並びにn 及びn
2 をそれぞれ有する材料領域310A及び310B並びに320A及び320Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。この実施形態でも、回折格子層310及び320の各側面上の、材料層300及び330がそれぞれ、回折格子領域310A及び320Aから途切れなく連続している。この構成では、回折格子層310及び320のそれぞれの領域310B及び320Bでの材料は同じであり、それ故に領域310B及び320Bは同じ屈折率n を有する。
【0079】
一実施形態によれば、第2の回折格子層は、第1の回折格子層に類似する内部構造を有するが、回折格子の周期方向で格子周期の半分だけ横方向に移動している。更に言うと、
図4Cの材料領域310A及び320Aを同じ材料から製造すること、すなわちn
1 = n
2とすることも除外されず、それによって、提案する構造を製造するために異なる2つの材料のみが必要となるだろう。同様のことを、本明細書に記載された他の構造に対して適用できる。同様に、
図4Aを再び参照して、一実施形態によれば、第1の回折格子層のn
11領域(n
12領域)は、第2の回折格子層のn
21領域(n
22領域)と同じ屈折率を有する。この実施形態は、回折格子層の厚さが等しい場合に、奇数次透過回折オーダーを最適に抑制する。n
11 ≠ n
21 又はn
12≠ n
22 の場合には、回折格子層の厚さを異なるものとすることで、最適に抑制することができる。
【0080】
第1の回折格子層及び第2の回折格子層を、均一な誘電体層で分離することもできる。かかる構造の例を、互い違いにした材料領域410B及び420Bが、回折格子に対して垂直な方向で互いに重なり合う、
図4Dに示す。したがって、実際の回折格子層410及び420の間に、屈折率n を有する材料からなる一体化した層が存在する。この実施形態でも、回折格子層410及び420の各側面上の、屈折率n
1及びn
2をそれぞれ有する、材料層400及び430がそれぞれ、回折格子領域410A及び420Aから途切れなく連続している。
【0081】
図4Eは、さらに他の実施形態を表す。この実施形態では、リッジ510Aが設けられるとともに薄層540Bを有する基板500によって、所望の二重回折格子を形成する。薄層540Bは、金属又はより好ましくは金属酸化物からなり、各溝520Aの底部と、溝520A間に形成される各リッジ510A上とに設けられる。この構造の第2の側面上には、正反対に成形された層530及び520Aを設ける。この層構造は、
図3Aの層構造に対応する。
【0082】
開示されたすべての実施形態において、複層回折格子の間に非周期的界面層が存在することが好ましい。ここで界面層が一様であること、すなわち、界面層が、基板と同じ材料とすることができる単一の同質の材料から構成されることが好ましい。この界面層は、
図4A−4Eにそれぞれ示すように、非周期的層100、130;200、230;300、330;400、430;500、530から構成され得る。このように界面層は、当該界面層に隣接する、回折格子層の周期的な複数領域の1つと同じ材料から構成され得、したがって回折格子層から継ぎ目なく続くことができる。
【0083】
図5は、素子の完全な光取り出し構造の例を示す。素子は、基板50の両側に、互いに重なる複数の複層回折格子54A−C、56A−Cを含む。複層回折格子54A、54B;54B、54C;56A、56B;56B、56Cのそれぞれの組の間に、一様な中間界面層55A;55B;57A;57Bがそれぞれ存在する。さらに、最外の複層回折格子54C、56Cの外側に、外側界面層55C、57Cを設ける。ここで、複層回折格子のそれぞれは
図4Cに表されるが、複層回折格子は、例えば
図4A、4B、4D又は4Dのいずれかに表す、他の構造を有することができる。複層回折格子が互いに類似することが好ましいが必須ではない。
【0084】
いくつかの数値的な例をあげると、第1回折格子層及び第2回折格子層の周期を、100ナノメートル〜1000ナノメートル、特に300ナノメートル〜500ナノメートルとすることができ、第1回折格子層及び第2回折格子層の層厚を、1ナノメートル〜1000ナノメートル、特に10ナノメートル〜200ナノメートルとすることができる。2つの複層回折格子の間の界面層の厚さは一般に、2マイクロメートル〜10マイクロメートルである。
【0085】
第1回折格子層及び第2回折格子層のそれぞれのより低い屈折率は一般に、1.3〜1.8であり、第1回折格子層及び第2回折格子層のそれぞれのより高い反射率は、1.5〜3である。
【0086】
開示された複層回折格子を、例えば
a)屈折率n
1を有する、光学的に透明な底部基板を設け、
b)底部基板に一連の溝とリッジとを製造し、
c)溝に、屈折率n
11又はn を有する光学的に透明な材料の第1の領域を堆積して、第1の回折格子層を完成させ、
d)リッジ上に、屈折率n
21又はn を有する光学的に透明な材料の第2の領域を堆積し、
e)第2の領域同士の間に、そして任意に第2の領域の上にも均一な被覆層として、(n
1 と等しくすることができるが、等しくする必要は無い)屈折率n
2を有する光学的に透明な材料を堆積する、
ことによって製造することができる。
【0087】
この工程を適切に適用して、複数の複層回折格子を、直接重ねて、又は均一の界面層によって分離して重ねて、設けることができる。
【0088】
図4Cの構造の場合、製造工程(c)及び(d)を一度の堆積で行うことができる。すなわち、第1の回折格子の溝を屈折率n を有する材料で充填する際に、第2の回折格子層のリッジ領域を同時に形成する。
【0089】
機械彫刻、(熱)エンボス加工、レーザ(電子ビーム)製造、エッチング、又はナノインプリント等の材料堆積技術等の、任意の既知の微細加工技術を用いて、溝及びリッジを基板に設けることができる。
【0090】
好ましくは、回折格子層における、基板及び上部層とは屈折率が異なる材料領域の堆積を、グラビア印刷、リバースグラビア印刷、フレキソ印刷及びスクリーン印刷等の印刷方法、塗布方法、散布方法、又は、熱蒸着、スパッタリング及び原子層堆積等の周知の薄膜堆積方法を用いて行う。
【0091】
適切な、塗布方法、散布方法又は印刷方法によって、最上部層又は任意の非周期的界面層(存在する場合)を設けることができる。
【0092】
開示された本発明の実施形態は、本明細書で開示された特定の構造、行程のステップ又は材料に限定されるものではなく、当業者が認識できるこれらの均等物まで拡大できることを理解できる。また本明細書で採用される専門用語は特定の実施形態を説明するためにのみ使用されるものであり、限定することを意図するものではないことが理解されるはずである。
【0093】
本明細書の至る所で言及する「一実施形態」又は「実施形態」は、当該実施形態に関して説明される特定の構成、構造又は特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の至る場所に存在する句「一実施形態では」又は「実施形態では」は、必ずしもすべて同じ実施形態を指すわけではない。
【0094】
本明細書で使用される複数のリスト、構造要素、組成要素及び/又は材料は、便宜上共通に表され得る。しかしながら、これらのリストを、リストの各要素が別個かつ特有の構成要素として個々に識別されるように構成すべきである。したがって、かかるリストの個々の構成要素を、共通の群に表されたことのみに基づいて、それとは反対のことが指示されない限り、同じリストの他の任意の構成要素の事実上の均等物として構成すべきではない。さらに、本明細書における本発明の様々な実施形態及び例を、実施形態及び例の様々な構成要素に対する代替案と一緒に言及することができる。かかる実施形態、例及び代替案は、互いの事実上の均等物として構成されないが、本発明の別個かつ自主的な描写として構成できることが理解される。
【0095】
さらに、1つ以上の実施形態において、説明した構成、構造又は特徴を、任意の適切な方法で組み合わせることができる。説明において、多数の具体的な詳細(例えば長さ、幅、形状等の例)を説明して、本発明の実施形態を完全に理解できるようにする。しかしながら、当業者は、1つ以上の具体的な詳細がなくても、他の方法、構成要素、材料等とともに、本発明を実施できることを認識することができる。本発明の態様を不明瞭にしないように、他の例、周知の構造、材料又は動作を詳細には図示又は説明しない。
【0096】
前述の例は、本発明の原理の1つ以上の特定の応用例であり、当業者にとって形態、使用法及び実装の詳細における多数の変更を、発明的才能を行使することなく、また本発明の原理及び概念から離れることなく行うことができることは明らかである。したがって、以下明らかにする特許請求の範囲によって本発明を限定することを除いて、本発明を限定することは意図されていない。