(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6714732
(24)【登録日】2020年6月9日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】機械加工用ロボット及び機械加工方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-558856(P2018-558856)
(86)(22)【出願日】2017年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2017039460
(87)【国際公開番号】WO2018123251
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2019年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-256318(P2016-256318)
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】中畑 達雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】理塀 敦
(72)【発明者】
【氏名】西脇 康人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 政雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 佐一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 康
【審査官】
武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−155738(JP,A)
【文献】
特開2002−370116(JP,A)
【文献】
特開平07−132471(JP,A)
【文献】
特開2013−043232(JP,A)
【文献】
特開2013−244564(JP,A)
【文献】
特開平10−011125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を回転させながら保持し、前記工具を少なくとも2次元方向に移動させることが可能な、前記工具の回転機構を取付けたアームを備えたロボットの制御システムであって、
前記アームに取付けられた倣いガイドと機械加工物側に設置される倣い型とを接触させながら前記アームを移動させることによる前記工具を用いた前記機械加工物の外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を測定する力センサにより測定された前記力を取得する負荷取得部と、
前記負荷取得部により取得された前記力と、前記外形倣い加工用の前記アームの制御情報とに基づいて、前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成し、生成した前記制御信号を前記アームに出力することによって前記外形倣い加工が実施されるように前記アームを自動制御する制御信号生成部と、
を有し、
前記制御信号生成部は、前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工が前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施されるように前記アームを自動制御するロボットの制御システム。
【請求項2】
前記制御信号生成部は、前記工具の進行方向における力に基づいて前記工具の進行速度が所定の制御値となるように前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成するように構成される請求項1記載のロボットの制御システム。
【請求項3】
前記制御信号生成部は、前記アームに前記工具の進行方向から負荷される力と前記工具の進行速度の制御値とを関連付けたテーブル又は関数に基づいて、前記力センサを用いて取得された前記工具の進行方向における力に対応する前記工具の進行速度の制御値を決定し、前記工具の進行速度が、決定した前記工具の進行速度の制御値となるように前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成するように構成される請求項1又は2記載のロボットの制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のロボットの制御システムと、
前記アームと、
前記力センサと、
を備える機械加工用ロボット。
【請求項5】
工具を回転させながら保持し、前記工具を少なくとも2次元方向に移動させることが可能な、前記工具の回転機構を取付けたアームを備えたロボットの制御方法であって、
前記アームの移動による前記工具を用いた機械加工物の外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を測定する力センサにより測定された前記力を取得するステップと、
取得された前記力と、前記外形倣い加工用の前記アームの制御情報とに基づいて、前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成し、生成した前記制御信号を前記アームに出力することによって前記外形倣い加工が実施されるように前記アームを自動制御するステップと、
を有し、
前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工が前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施されるように前記アームを自動制御するロボットの制御方法。
【請求項6】
工具を回転させながら保持し、前記工具を少なくとも2次元方向に移動させることが可能な、前記工具の回転機構を取付けたアームを備えたロボットの制御プログラムであって、
前記ロボットの制御システムに、
前記アームの移動による前記工具を用いた機械加工物の外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を測定する力センサにより測定された前記力を取得するステップと、
取得された前記力と、前記外形倣い加工用の前記アームの制御情報とに基づいて、前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成し、生成した前記制御信号を前記アームに出力することによって前記外形倣い加工が実施されるように前記アームを自動制御するステップであって、前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工が前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施されるように前記アームを自動制御するステップと、
を実行させるロボットの制御プログラム。
【請求項7】
少なくとも2次元方向に移動させることが可能なアームを備えたロボットの前記アームに工具、前記工具を回転させる回転機構及び機械加工物側に設置される倣い型と接触させるための倣いガイドを取付けて、前記倣いガイドと前記倣い型とを接触させながら前記アームを移動させることによって前記工具を用いた前記機械加工物の外形倣い加工を行い、前記外形倣い加工によって製品又は半製品を製造するステップと、
前記外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を力センサで測定するステップと、
前記力センサで測定された前記力に基づいて前記アームの移動速度を自動調整するステップと、
を有し、
前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工を前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施する機械加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、機械加工用ロボット、機械加工方法、ロボットの制御システム、ロボットの制御方法及びロボットの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材や金属で構成される機械加工物(ワーク)の外形トリム加工を行う方法として、ワーク側に治具として倣い型を設置する一方、フライス盤やルータ加工装置等の工作機械にエンドミルやルータビットと呼ばれる切削工具とともに倣い型と接触させるためのガイドを取付けて倣い加工を行う方法が知られている。
【0003】
一方、ロボットのアームで工具を保持して面取り、バリ取り、研磨或いは研削等の加工を行う手法が提案されている(例えば特許文献1乃至5参照)。特に、多関節ロボットのアームに力センサを設けてワークからの反力を検出し、ワークに対して一定力を加えながら、面取り、バリ取り、研磨或いは研削等の加工を行う手法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−370116号公報
【特許文献2】特開2012−139789号公報
【特許文献3】特開2014−40001号公報
【特許文献4】特開2011−216050号公報
【特許文献5】特開2010−253613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロボットによる位置決め精度は、0.01mmから0.001mmのピッチで工具の位置決めを行うことが可能な工作機械の位置決め精度と比べると、桁違いに低い。これは、マシニングセンタやフライス盤等の工作機械の主軸に比べてロボットのアームの剛性が低いことに起因している。
【0006】
このため、ロボットによる加工は、面取り、バリ取り、研磨或いは研削等の加工精度が緩やかな加工又はワークからの反力が比較的小さい加工に限られ、公差が±0.1mmから±1.0mm程度の加工精度が要求されるエンドミルを用いたワークの外形トリム加工やポケット加工等の切削加工を行う場合には、ロボットに比べて大規模で高価な工作機械に依存せざるを得ない状況となっている。
【0007】
また、ワークの外形をトリムするために、マシニングセンタやフライス盤等の大規模な工作機械を導入できない場合には、倣いガイド付きのハンドルータを用いた作業者の手作業による倣い加工が行われている。具体的には、ワークに倣い型が取付けられ、ルータビットを保持したハンドルータの倣いガイドを押し当てながら作業者の手作業によってワークの切断加工が行われる。
【0008】
作業者の手作業による場合、ワークの板厚変化、ワークの形状及び工具の摩耗状態等の加工条件に応じてルータビットの移動速度を加減することが必要となる。このため、加工品質を確保するためには、技能を習得した熟練作業者でなければ、ワークの倣い加工を行うことができないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、ロボットを用いてワークの外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、ポケット加工或いは穿孔等のワークからの反力が大きな切削機械加工を高精度に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係るロボットの制御システムは、工具を回転させながら保持し、前記工具を少なくとも2次元方向に移動させることが可能な、前記工具の回転機構を取付けたアームを備えたロボットの制御システムであって、負荷取得部及び制御信号生成部を有する。負荷取得部は、前記アームに取付けられた倣いガイドと機械加工物側に設置される倣い型とを接触させながら前記アームを移動させることによる前記工具を用いた前記機械加工物の外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を測定する力センサにより測定された前記力を取得する。制御信号生成部は、前記負荷取得部により取得された前記力と、前記外形倣い加工用の前記アームの制御情報とに基づいて、前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成し、生成した前記制御信号を前記アームに出力することによって前記外形倣い加工が実施されるように前記アームを自動制御する。
また、前記制御信号生成部は、前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工が前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施されるように前記アームを自動制御する。
【0011】
また、本発明の実施形態に係る機械加工用ロボットは、前記ロボットの制御システム、前記アーム及び前記力センサを備えるものである。
【0012】
また、本発明の実施形態に係るロボットの制御方法は、工具を回転させながら保持し、前記工具を少なくとも2次元方向に移動させることが可能な、前記工具の回転機構を取付けたアームを備えたロボットの制御方法であって、前記アームの移動による前記工具を用いた機械加工物の外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を測定する力センサにより測定された前記力を取得するステップと、取得された前記力と、前記外形倣い加工用の前記アームの制御情報とに基づいて、前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成し、生成した前記制御信号を前記アームに出力することによって前記外形倣い加工が実施されるように前記アームを自動制御するステップとを有
し、前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工が前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施されるように前記アームを自動制御するものである。
【0013】
また、本発明の実施形態に係るロボットの制御プログラムは、工具を回転させながら保持し、前記工具を少なくとも2次元方向に移動させることが可能な、前記工具の回転機構を取付けたアームを備えたロボットの制御プログラムであって、前記ロボットの制御システムに、前記アームの移動による前記工具を用いた機械加工物の外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を測定する力センサにより測定された前記力を取得するステップと、取得された前記力と、前記外形倣い加工用の前記アームの制御情報とに基づいて、前記外形倣い加工用の前記アームの制御信号を生成し、生成した前記制御信号を前記アームに出力することによって前記外形倣い加工が実施されるように前記アームを自動制御するステップ
であって、前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工が前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施されるように前記アームを自動制御するステップとを実行させるものである。
【0014】
また、本発明の実施形態に係る機械加工方法は、少なくとも2次元方向に移動させることが可能なアームを備えたロボットの前記アームに工具、前記工具を回転させる回転機構及び機械加工物側に設置される倣い型と接触させるための倣いガイドを取付けて、前記倣いガイドと前記倣い型とを接触させながら前記アームを移動させることによって前記工具を用いた前記機械加工物の外形倣い加工を行い、前記外形倣い加工によって製品又は半製品を製造するステップと、前記外形倣い加工中において少なくとも前記工具から前記アームに負荷される力を力センサで測定するステップと、前記力センサで測定された前記力に基づいて前記アームの移動速度を自動調整するステップとを有
し、前記工具としてエンドミルを用いた、±0.1mmから±1.0mmの公差が要求される前記機械加工物の切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工及びフランジ内面の仕上げ加工の少なくとも1つの切削加工であって面取り、バリ取り、研磨及び研削のいずれでもない前記切削加工を前記外形倣い加工の少なくとも1つとして実施するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る機械加工用ロボットの構成図。
【
図2】
図1に示す機械加工用ロボットに工具を取り付けて機械加工物の外形倣い加工を行う機械加工方法を説明する図。
【
図3】
図1に示す機械加工用ロボットに備えられる制御システムの機能ブロック図。
【
図4】
図2に示す機械加工用ロボットを用いた外形倣い加工中において工具の進行方向が変化する場合に工具の進行方向の反力及び工具径方向の反力を求める方法を説明する図。
【
図5】
図2に示す機械加工用ロボットを用いた外形倣い加工中において工具の進行方向が変化しない場合であっても、力センサの向きが変化する場合の例を示す図。
【
図6】
図1に示す機械加工用ロボットにおけるアームの制御方法を説明するグラフ。
【0016】
本発明の実施形態に係る機械加工用ロボット、機械加工方法、ロボットの制御システム、ロボットの制御方法及びロボットの制御プログラムについて添付図面を参照して説明する。
【0017】
(機械加工用ロボット及びロボットの制御システムの構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係る機械加工用ロボットの構成図であり、
図2は
図1に示す機械加工用ロボットに工具を取り付けて機械加工物の外形倣い加工を行う機械加工方法を説明する図である。
【0018】
機械加工用ロボット1は、ロボット2及びロボット2の制御システム3で構成される。ロボット2は、複数のジョイントでリンクを連結した片持ち構造のアーム4を有する。アーム4の先端には取付治具5が設けられる。取付治具5には、送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び工具Tが取付けられる。
【0019】
アーム4は、取付治具5に取付けられた送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び工具Tを、少なくとも2次元方向に移動させることが可能な構造を有する。例えば、3つのリンクを回転軸が平行な2つのジョイントで連結して平面上に配置すれば、取付治具5に取付けられた送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び工具Tを3つのリンクが配置された平面上において2次元方向に移動させることが可能なアーム4を構成することができる。
【0020】
但し、典型的なロボット2は、
図1に例示されるように取付治具5に取付けられた送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び工具Tを3次元方向に移動させることが可能なアーム4を備えている。
図1に示す例では、アーム4が、複数のリンクを複数の回転機構で連結した構造を有している。このため、取付治具5に取付けられた送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び工具Tを、3次元方向に平行移動させることができるのみならず、回転移動によって所望の方向に傾斜させることができる。
【0021】
送り機構6は、工具Tに工具軸AX方向における送りを付与する装置である。回転機構7は、工具Tを保持して回転させる装置である。従って、送り機構6は、工具Tを保持して回転させる回転機構7に工具軸AX方向における送りを付与することによって、工具Tに間接的に工具軸AX方向における送り動作を付与するように構成される。送り機構6及び回転機構7としては、いずれも汎用の空気圧式、油圧式又は電気式等の装置を用いることができる。
図1に示す例では、送り機構6及び回転機構7の双方が空気圧式の装置となっている。このため、回転機構7を内蔵した送り機構6が、圧縮空気供給タンクと接続されている。もちろん、送り機構6及び回転機構7の一方又は双方を電気式の装置とすることもできる。その場合には、送り機構6及び回転機構7の一方又は双方に備えられるモータが電源と接続される。
【0022】
このように、ロボット2は、工具Tを回転機構7で回転させながら保持し、回転機構7で間接的に保持された工具Tを2次元方向又は3次元方向に移動させることが可能なアーム4を備えている。従って、アーム4の2次元的な駆動又は3次元的な駆動によって工具Tを用いたワーク(機械加工物)Wの機械加工を行うことができる。
【0023】
回転機構7で保持される工具Tとしては、面取りカッターやバリ取り工具のみならず、エンドミル、ドリル及びリーマ等の様々な回転式の機械加工工具が挙げられる。従って、回転式の工具Tを取付けた機械加工用ロボット1によって、ワークWの所望の切削加工を行うことができる。具体例として、板状又はブロック状のワークWの切断加工、外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、フランジで囲まれた凹部を形成するポケット加工、フランジ内面の粗加工、フランジ内面の仕上げ加工、穿孔、面取り加工及びバリ取り加工など、多種多様な切削加工を行うことができる。
【0024】
また、ワークWの材質としては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材や金属の他、切削加工の対象となる材質であれば、任意の材質を切削加工の対象とすることができる。
【0025】
倣いガイド8は、ワークW側に設置される倣い型J1と接触するためにアーム4側に取付けられるアーム4側における倣い加工用の治具である。倣いガイド8には、倣い型J1と工具径方向Dに接触することによって工具径方向Dにおける工具Tの位置決めを行うためのガイドのみならず、倣い型J1と工具軸AX方向に接触することによって工具軸AX方向における工具Tの位置決めを行うためのガイドを設けることができる。
【0026】
図1及び
図2に示す例では、工具Tを通すための貫通孔を設けた円板状の部材8Aの一方の面に同軸状に円筒状の部分8Bを形成した倣いガイド8が、回転機構7を内蔵した送り機構6のケーシング6Aに固定されている。円板状の部材8Aは、倣い型J1と工具軸AX方向に接触することによって工具軸AX方向における工具Tの位置決めを行うためのガイドとして機能する。一方、円筒状の部分8Bは、倣い型J1と工具径方向Dに接触することによって工具径方向Dにおける工具Tの位置決めを行うためのガイドとして機能する。そして、倣いガイド8の中心軸上に形成される貫通孔からワークW側に工具Tを突出させることができるように構成されている。
【0027】
尚、倣いガイド8をベアリング等の回転機構を介して回転自在にアーム4側に取付けるようにしてもよい。但し、ワークWがCFRPである場合には、カーボンの粉塵がベアリングの隙間に詰まる恐れがある。そこで、倣いガイド8をベアリング等の回転機構を介さずにアーム4側に固定することによって、倣いガイド8の構成を簡易にしつつ、回転機構への複合材の粉塵の混入を防止することができる。或いは、内部への粉塵の混入を防止する構造を有するシールドベアリングで倣いガイド8を回転自在にアーム4側に取付けるようにしてもよい。
【0028】
また、倣いガイド8の形状及びアーム4への取付け位置は、ワークW自体の形状及び位置並びにワークW側に設置される倣い型J1の形状及び位置に応じて自由に決定することができる。
【0029】
倣い型J1は、ワークW側に設置される倣い加工用の治具である。具体的には、倣い型J1は、倣いガイド8と工具径方向Dに接触する面と、工具軸AX方向に接触する面を有する。このため、倣い型J1を倣いガイド8と2つの接触面で接触させることによって、工具径方向D及び工具軸AX方向の双方における工具Tの位置決めを行うことができる。そして、アーム4側の倣いガイド8と、ワークW側に設置される倣い型J1とを接触させながらアーム4を移動させることにより、工具Tを用いたワークWの外形倣い加工を行うことができる。
【0030】
図2に示す例では、航空機部品の1つであるI型ストリンガ(縦通材)がワークWとなっている。I型ストリンガは横断面がI字型のストリンガである。すなわち、I型ストリンガは、ウェブの両側に2枚のフランジを形成した構造を有している。そして、
図2は、横断面がI字型である素材のフランジ部分を切断することによってI型ストリンガを製造する例を示している。
【0031】
このため、工作テーブルJ2上に固定された板状の治具J3にワークWの下方となる一方のフランジが載置されている。更に、ワークWの上方となる他方のフランジの上に、板状の倣い型J1が載置されている。倣い型J1の形状は、機械加工後におけるワークWの形状に対して、倣いガイド8の倣い型J1との接触面と、工具Tの切削面との間の距離分だけオフセットさせた形状となっている。すなわち、機械加工後におけるフランジの端面の位置に対して倣いガイド8の構造に応じた一定の距離だけオフセットさせた端面が、倣い型J1に形成されている。
【0032】
具体例として、直径が10mmの工具Tで外形加工を行う場合であれば、倣いガイド8の円筒状の部分8Bの直径を14mmから15mmとすることができる。その場合には、倣いガイド8の円筒状の部分8Bの側面と、工具Tの切削面との間の距離は2mmから2.5mmとなる。このため、倣い型J1の端面と、機械加工後におけるワークWの形状との間におけるオフセット量は、2mmから2.5mmとなる。
【0033】
また、フランジの板厚方向に力が作用するとフランジの先端が歪む恐れがある。そこで、
図2に例示されるように、下方のフランジと上方のフランジとの間にジャッキJ4を配置して補強することが望ましい。
【0034】
そして、アーム4側に取付けられた段付き円筒状の倣いガイド8と、ワークW側に設置される板状の倣い型J1とを接触させながらアーム4を移動させることにより、エンドミルやルータビット等の工具TでワークWの板状の部分を切断する外形トリム倣い加工を行うことができる。
【0035】
すなわち、倣いガイド8の円筒状の部分8Bの曲面を板状の倣い型J1の端面に接触させながらアーム4を移動させることによって、工具Tの進行方向F及び工具軸AXの双方に垂直な工具径方向Dにおける工具Tの正確な位置決めを行いながら、ワークWの倣い加工を行うことができる。他方、倣いガイド8の円板状の部材8Aの平面を板状の倣い型J1の上面に接触させながらアーム4を移動させることによって、工具軸AX方向における工具Tの正確な位置決めを行いながら、ワークWの倣い加工を行うことができる。換言すれば、倣いガイド8の構造を、段付き円筒状とすることによって、外形倣い加工用の倣い型J1の構造を、単純な板状構造とすることができる。
【0036】
もちろん、
図2に示す例に限らず、所望の構造を有する部品に対する倣い加工が可能である。例えば、航空機部品であれば、I型、T型或いはハット型等の様々な横断面形状を有するストリンガの他、スパー(桁)、リブ(小骨)、パネル(外板)或いはこれらの組立品を倣い加工の対象となるワークWとすることができる。例えば、パネルの外形トリム加工、フランジの端面のトリム加工、フランジの内面加工、フランジの外面加工等の外形倣い加工を行うことができる。また、航空機部品に限らず、自動車部品や鉄道車両部品など、所望の製品又は半製品を製造するために、機械加工用ロボット1による外形倣い加工を行うことができる。
【0037】
このため、倣い型J1の形状及び位置についてもワークWの形状及び位置並びにアーム4側に取付けられる倣いガイド8の形状及び位置に応じて自由に決定することができる。
【0038】
また、アーム4には、アーム4に負荷される力を検出するための力センサ9が設けられる。力センサ9は、少なくとも工具Tからアーム4に負荷される力を検出するためのセンサである。すなわち、工具Tの側面に形成される切れ刃でワークWの外形加工を行う場合であれば、ワークWからは工具Tの進行方向F及び工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dを主成分とする反力が工具Tに作用する。また、溝加工のように工具Tの底刃でも切削加工を行う場合や、面取りカッターや逆面取りカッターによる加工のように、切削面が工具軸AX方向に平行でない場合には、工具Tの進行方向F及び工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dのみならず、工具軸AX方向の成分も有する加工反力がワークWから工具Tに作用する。
【0039】
加えて、倣い型J1から倣いガイド8には、工具軸AX方向及び工具径方向Dを主成分とする反力が作用する。その結果、アーム4には、ワークW及び倣い型J1からの反力として、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向を成分とする3次元的な反力が、工具T、回転機構7及び送り機構6を通じて間接的に負荷されることになる。
【0040】
そこで、互いに直交する3軸方向の力を検出することが可能な力センサ9を、アーム4の先端における取付治具5に取付けることができる。
図1に示す例では、段付円盤状の力センサ9を介してアーム4に取付治具5が取付けられている。これにより、倣いガイド8とワークW側に設置される倣い型J1とを接触させながらアーム4を移動させることによる工具Tを用いたワークWの外形倣い加工中において、工具Tからアーム4に負荷される力を力センサ9で検出することが可能となる。加えて、ワークWの外形倣い加工中において、倣い型J1からアーム4に負荷される力についても力センサ9で検出することが可能となる。
【0041】
尚、
図1に示す例では、力センサ9の接続面に工具軸AXが垂直となるように、工具Tを回転させる回転機構7を内蔵した送り機構6のケーシング6Aが取り付けられているが、
図2に示す例では、力センサ9の接続面に工具軸AXが平行となるように、工具Tを回転させる回転機構7を内蔵した送り機構6のケーシング6Aが取付治具5に取り付けられている。このように、工具T、回転機構7及び送り機構6をアーム4に取付ける向きは、ワークW、倣いガイド8及び倣い型J1の各構造に応じて自由に決定することができる。
【0042】
力センサ9により力を検出することが可能な3軸方向と、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向を一致させるか、或いは関連付けると、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向における反力の各成分を力センサ9で検出することが可能となる。具体例として、
図2に示すように力センサ9により互いに直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向における力を検出することができる場合であれば、工具Tの進行方向FがX軸方向に、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向DがY軸方向に、工具軸AX方向がZ軸方向に、それぞれ平行となるように工具Tをアーム4に取付けることができる。
【0043】
力センサ9により検出された力は、制御システム3に出力される。そして、制御システム3は、力センサ9により検出された力に基づいて、アーム4を制御できるように構成されている。
【0044】
図3は
図1に示す機械加工用ロボット1に備えられる制御システム3の機能ブロック図である。
【0045】
制御システム3は、入力装置10及び表示装置11を接続したコンピュータ12を用いて構成することができる。コンピュータ12のCPU(central processing unit)等の演算装置は、ロボット2の制御プログラムを読込んで実行することにより、負荷取得部13、制御信号生成部14、制御情報保存部15及び警告情報生成部16として機能する。
【0046】
制御システム3は、更に、アーム制御部17及び工具制御部18を有する。アーム制御部17は、コンピュータ12の機能としてもよい。すなわち、アーム制御部17を構成するための制御プログラムを読み込ませる処理回路類と、負荷取得部13、制御信号生成部14、制御情報保存部15及び警告情報生成部16として機能する処理回路類を共通にしてもよい。
【0047】
負荷取得部13は、力センサ9で検出された力を取得して制御信号生成部14及び警告情報生成部16に通知する機能を有する。具体的には、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を成分として含む力が負荷取得部13において力センサ9から取得され、取得された3方向の成分を有する力が制御信号生成部14及び警告情報生成部16に通知される。
【0048】
制御信号生成部14は、制御情報保存部15に制御情報として保存された機械加工制御プログラムに基づいて、アーム4、送り機構6及び回転機構7を制御する機能を有する。
【0049】
回転式の工具Tを保持させた機械加工用ロボット1でワークWの切削加工を行うためには、アーム4の制御の他、送り機構6及び回転機構7の制御を行うことが必要である。そこで、アーム4の制御プログラム、送り機構6の制御プログラム及び回転機構7の制御プログラムで構成される機械加工制御プログラムを作成し、作成した機械加工制御プログラムを制御情報保存部15に機械加工用ロボット1の制御情報として保存することができる。
【0050】
そして、制御信号生成部14には、制御情報保存部15に保存された機械加工制御プログラムを参照し、参照した機械加工制御プログラムに従って、アーム4、送り機構6及び回転機構7の各制御信号を生成する機能と、生成したアーム4の制御信号をアーム制御部17を通じてアーム4の駆動部に出力する一方、生成した送り機構6及び回転機構7の制御信号を工具制御部18を通じて送り機構6及び回転機構7にそれぞれ出力する機能が備えられる。
【0051】
特に、制御信号生成部14は、負荷取得部13から通知された力と、外形倣い加工用のアーム4の制御プログラムとに基づいて、外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成し、生成した制御信号をアーム4に出力することによって外形倣い加工が実施されるようにアーム4を自動制御する機能を有している。
【0052】
外形倣い加工用のアーム4の制御プログラムは、倣いガイド8が倣い型J1に接触しながら移動するようにアーム4の軌道及び移動速度を教示するプログラムである。すなわち、外形倣い加工用の制御プログラムは、教示位置及び教示速度を指定することによって、アーム4の移動方向及び移動速度を教示するためのプログラムである。従って、外形倣い加工用の制御プログラムは、倣い型J1の形状情報に基づいて作成される。
【0053】
例えば、倣い型J1によって直線的な機械加工を行う場合であれば、倣い型J1の倣いガイド8との接触面の空間位置に基づいてアーム4の空間位置及び移動方向を教示する外形倣い加工用の制御プログラムを作成することができる。また、倣い型J1によって曲線的又は工具軸AX方向の変化を伴う加工を行う場合であれば、倣い型J1の倣いガイド8との接触面の2次元的又は3次元的な形状情報に基づいて、アーム4の空間位置及び移動方向を教示する外形倣い加工用の制御プログラムを作成することができる。
【0054】
作成された外形倣い加工用のアーム4の制御プログラムは、制御情報保存部15に保存して、ワークWの外形倣い加工を行う際に制御信号生成部14が参照できるようにすることができる。但し、上述したように、制御信号生成部14は、ワークWの外形倣い加工を行う場合には、外形倣い加工用のアーム4の制御プログラムのみならず、力センサ9から負荷取得部13を通じて取得した力にも基づいて、アーム4の制御信号を生成するように構成されている。
【0055】
制御信号生成部14では、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を成分として含む力を、力センサ9から負荷取得部13を通じて取得することができる。
図2に例示されるように、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向が、力センサ9により力を検出することが可能なX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向と一致している場合には、力センサ9から負荷取得部13を通じて取得された直交3成分を含む力に基づいて直接、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を求めることができる。
【0056】
また、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向と、力センサ9により力を検出することが可能なX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向が、既知の角度で変化せずに傾斜又は回転しているような場合には、座標変換処理によって工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を求めることができる。
【0057】
更に、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向と、力センサ9により力を測定することが可能なX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向との幾何学的な位置関係が、倣い加工中において変化する場合であっても、倣い型J1及び加工後におけるワークWの少なくとも一方の形状情報に基づいて、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向を特定することができる。このため、座標変換処理によって工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を求めることができる。
【0058】
図4は、
図2に示す機械加工用ロボット1を用いた外形倣い加工中において工具Tの進行方向Fが変化する場合に工具Tの進行方向Fの反力及び工具径方向Dの反力を求める方法を説明する図である。
【0059】
図4に示すようにR面取りが施されたコーナーを有する外形のトリム加工を倣い型J1を用いた倣い加工によって行う場合には、工具Tの進行方向Fが加工後におけるワークWの外形及び倣い型J1の接線方向に変化することになる。この場合、倣いガイド8に工具径方向Dに作用する反力の向きは、ワークWの切削面、すなわち加工後におけるワークWの表面及び倣い型J1の表面に垂直な法線方向となる。
【0060】
従って、力センサ9の向きを変化させず工具軸AX方向をZ軸方向として外形トリム加工を行うと、力センサ9により力を検出することが可能なX軸方向及びY軸方向と、工具Tの進行方向F及び倣いガイド8が反力を受ける工具径方向Dとの相対的な関係が変化することになる。
【0061】
このような場合には、倣い型J1又は加工後におけるワークWの2次元形状に基づいて、加工後におけるワークWの表面又は倣い型J1の表面に垂直な方向を、工具T及び倣いガイド8がワークW及び倣い型J1からそれぞれ反力を受ける工具径方向Dとして特定することができる。或いは、アーム4の制御プログラムから特定される工具Tの教示位置に基づいてワークWの表面及び倣い型J1の表面に垂直な方向を、工具T及び倣いガイド8がワークW及び倣い型J1からそれぞれ反力を受ける工具径方向Dとして特定するようにしてもよい。そして、特定した工具径方向Dにおける反力を、X軸方向及びY軸方向における力の各検出値に基づいてベクトル計算として算出することができる。
【0062】
図5は、
図2に示す機械加工用ロボット1を用いた外形倣い加工中において工具Tの進行方向Fが変化しない場合であっても、力センサ9の向きが変化する場合の例を示す図である。
【0063】
外形倣い加工中において工具Tの進行方向Fが変化しない場合であっても、アーム4の駆動軸の位置によっては
図5に示すように力センサ9の向きが変化する。すなわち、アーム4の駆動軸の制約から力センサ9を工具Tの進行方向Fに平行移動できない場合には、工具Tの進行方向Fが直線的で変化しない場合であっても、力センサ9の向きが変化することになる。このような場合においても、倣い型J1の形状、加工後におけるワークWの形状或いは工具Tの教示位置に基づいてワークWの表面及び倣い型J1の表面に垂直な方向を、工具T及び倣いガイド8がワークW及び倣い型J1からそれぞれ反力を受ける工具径方向Dとして特定することができる。そうすると、特定した工具径方向Dにおける反力を、X軸方向及びY軸方向における力の各検出値に基づいてベクトル計算として算出することができる。
【0064】
尚、力センサ9によりベクトルの3成分として検出された力の時間変化に基づいて、工具Tの進行方向F、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向を検出するようにしてもよい。その場合には、倣い型J1及びワークWの形状情報を用いずに、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を求めることができる。
【0065】
制御信号生成部14には、上述したような方法で、力センサ9により検出された力に基づいて、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を求める機能が備えられる。そして、制御信号生成部14では、アーム4に負荷される力の方向に応じたアーム4の制御を行うことができる。
【0066】
例えば、ワークWの切削加工中において工具Tの進行方向Fへの送り速度が速くなる程、切削抵抗が増加し、ワークWから工具Tへの反力が増大する。また、工具Tの進行方向Fへの送り速度が一定であっても、板状のワークWの厚さが変化したり、ワークWの削り代が大きくなれば、ワークWから工具Tへの反力が増大する。更に、工具Tが摩耗し、切れ味が劣化した場合においても、ワークWから工具Tへの反力が増大する。
【0067】
ワークWから工具Tに負荷される反力が過剰となると、工具Tにびびり振動等の振動が発生する。工具Tに振動が生じると、倣いガイド8及び倣い型J1を用いた外形倣い加工を行ったとしても、加工面の表面粗さが粗くなり、加工後のワークWとして得られる製品又は半製品の品質劣化に繋がる。従って、製品又は半製品の要求品質を確保するためには、工具Tに過剰な反力が負荷されないようにすることが重要である。工具Tに負荷される反力を減少させるためには、工具Tの進行方向Fにおける送り速度を減少させればよい。
【0068】
しかしながら、工具Tの進行方向Fにおける送り速度を減少させ過ぎると、ワークWの加工時間の増加、すなわち加工能率の低下に繋がる。従って、ワークWの加工能率を向上させる観点からは、工具Tに負荷される反力が過剰とならない範囲で、工具Tの進行方向Fにおける送り速度を増加させることが好ましい。
【0069】
つまり、ワークWの加工品質の確保及び加工能率の向上を両立させようとする場合、ワークWの加工条件によって工具Tの進行方向Fにおける理想的な送り速度が変化することになる。これに対して、アーム4の制御プログラムにおいて加工条件に応じて教示速度を変えようとすると、加工条件を定義するための多数のパラメータの設定を伴う非常に複雑で非現実的な処理が必要となる。
【0070】
そこで、制御信号生成部14では、力センサ9により直接測定された、或いは力センサ9を用いて座標変換等の処理を伴って間接的に取得された工具Tの進行方向Fにおける力に基づいて、工具Tの進行速度が所定の制御値となるように外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成するようにすることができる。つまり、外形倣い加工において工具Tの進行方向Fにおける反力が過剰とならないように、工具Tの進行速度を自動調整することができる。
【0071】
工具Tの進行速度を自動調整する方法の具体例としては、工具Tの進行方向Fにおける反力が所定の範囲内となるように工具Tの進行速度を自動制御する方法が挙げられる。その場合には、制御信号生成部14が、力センサ9を用いて取得される工具Tの進行方向Fにおける力が一定又は所定の範囲内となるように工具Tの進行速度の制御値を決定し、工具Tの進行速度が、決定した工具Tの進行速度の制御値となるように外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成するようにすればよい。つまり、工具Tの進行方向Fにおける力を一定又は所定の範囲内とする工具Tの進行速度のフィードバック制御を行うようにすればよい。
【0072】
尚、実際に工具Tとしてダイヤモンド工具又は超硬工具を用いてCFRPで構成されるワークWの外形トリム加工試験を行った。その結果、工具Tとしてダイヤモンド工具を使用する場合にはダイヤモンド工具への反力が3kgf以上10kgf以下となるようにアーム4の移動速度を自動調整する一方、工具Tとして超硬工具を使用する場合には超硬工具への反力が3kgf以上5kgf以下となるようにアーム4の移動速度を自動調整すれば、工具Tに極端な振動が発生することなく、良好な切削面が得られることが確認された。従って、CFRPで構成されるワークWの外形トリム倣い加工を行う場合には、上述した条件でワークWの外形トリム加工を行うことによって複合材の製品又は半製品を製造することが好ましい。
【0073】
尚、超硬合金は、炭化タングステン粉末に炭化チタンや炭化タンタル等の添加物質を添加し、コバルトで焼結した材料である。一方、ダイヤモンド工具は、ダイヤモンドの単結晶を成型した工具又はダイヤモンド微粉にコバルト等の添加物質を添加して焼結した多結晶焼結体で構成される工具である。
【0074】
工具Tの進行速度を自動調整する方法の別の具体例としては、工具Tの進行速度を、工具Tの進行方向Fにおける力に応じて予め決定した速度に変化させる方法が挙げられる。
【0075】
図6は、
図1に示す機械加工用ロボット1におけるアーム4の制御方法を説明するグラフである。
【0076】
図6において横軸は工具Tの進行方向Fに負荷される力(kgf)の検出値を示し、縦軸は工具Tの進行速度の制御値を示す。
図6に示すように、アーム4に工具Tの進行方向Fから負荷される力と、工具Tの進行速度の制御値とを関連付けたテーブル又は関数を準備しておくことができる。作成したテーブル又は関数は、制御情報保存部15に保存しておくことができる。
【0077】
図6に示す例では、工具Tの進行方向Fにおける力が3.5kgf以下である場合には、ワークWからの反力が小さいため、工具Tの進行速度が、ユーザから制御プログラム内のパラメータとして与えられた教示速度となるように決定されている。一方、工具Tの進行方向Fにおける力が5.5kgf以上である場合には、ワークWからの反力が大きいため、工具Tの振動を抑制する観点から工具Tの進行速度が教示速度の50%となるように決定されている。また、工具Tの進行方向Fにおける力が3.5kgf以上5.5kgf以下である場合には、工具Tの進行速度が教示速度の100%から50%まで線形に変化するように決定されている。つまり、
図6に示す例では、工具Tの進行方向Fにおける力が閾値を超えた場合には、工具Tの進行速度が自動的に教示速度の50%まで徐々に減速するように工具Tの進行速度制御プログラムが作成されている。
【0078】
もちろん、
図6に示す例に限らず、切削試験等の結果に応じてアーム4に工具Tの進行方向Fから負荷される力と、工具Tの進行速度の制御値とを任意の関数等で関連付けることができる。例えば、工具Tの進行方向Fから負荷される力が増加するにつれて、ステップ状に工具Tの進行速度の制御値を減少させたり、或いは、工具Tの進行速度の制御値を曲線的に減少させることもできる。また、工具Tの進行方向Fから負荷される力と、工具Tの進行速度の制御値の数値同士を関連付けたテーブルを準備してもよい。
【0079】
このように、アーム4に工具Tの進行方向Fから負荷される力と工具Tの進行速度の制御値とを関連付けたテーブル又は関数を準備して制御情報保存部15に保存すると、制御信号生成部14では、制御情報保存部15に保存されたテーブル又は関数に基づいて、倣い加工中において力センサ9を用いて実際に取得された工具Tの進行方向Fにおける力に対応する工具Tの進行速度の制御値を決定することが可能となる。そして、制御信号生成部14では、工具Tの進行速度が、決定した工具Tの進行速度の制御値となるように外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成することができる。
【0080】
尚、アーム4に工具Tの進行方向Fから負荷される力が極端に大きい場合には、工具Tの進行速度を減速しても工具Tの振動が十分に抑制できない可能性がある。そこで、制御信号生成部14に、負荷取得部13により取得された工具Tの進行方向Fにおける力が閾値以上又は閾値を超えた場合には、アーム4の移動を停止させることによって外形倣い加工を中断させる機能を設けることができる。すなわち、負荷取得部13により取得された工具Tの進行方向Fにおける力が閾値以上又は閾値を超えた場合には、アーム4の移動を停止させる制御信号を生成してアーム制御部17に出力する機能を制御信号生成部14に設けることができる。
【0081】
もちろん、ワークWや倣い型J1のセットミスによる工具T及び倣いガイド8との干渉等を回避する観点から、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力が閾値以上又は閾値を超えた場合においても、アーム4の移動を停止させる制御を行うことができる。
【0082】
上述したように、制御信号生成部14では、工具Tの進行方向Fにおける反力のみならず、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの反力及び工具軸AX方向の反力も求めることができる。このため、制御信号生成部14では、工具Tの進行方向Fにおける反力に基づくアーム4のフィードバック制御のみならず、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの反力に基づくアーム4のフィードバック制御及び工具軸AX方向の反力に基づくアーム4のフィードバック制御を行うことができる。
【0083】
片持ち構造を有するアーム4の剛性は、工作機械の主軸の剛性と比べると極端に小さい。このため、制御プログラムのみに従ってアーム4を制御すると、加工反力や自重等によるアーム4の撓みによって、工具Tの実際の位置と、制御プログラムで指示された工具Tの教示位置との間には誤差が生じる。このようなアーム4の位置決め精度に由来する誤差は、公差が±0.1mmから±1.0mm程度の加工精度が要求されるワークWの加工においては無視できない誤差となる。特に外形倣い加工を行う場合において、制御プログラムのみに従ってアーム4を制御すると、倣いガイド8が倣い型J1に確実に接触しない恐れがある。
【0084】
そこで、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの反力に基づくアーム4の力制御及び工具軸AX方向の反力に基づくアーム4の力制御を行うことによって、倣い加工中において倣いガイド8を適切な力で倣い型J1に確実に押し付けることができる。
【0085】
具体的には、制御信号生成部14において、力センサ9を用いて取得される工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにおける力が一定又は所定の範囲内となるように工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにおける位置の制御値を決定することができる。すなわち、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにおける反力が一定又は所定の範囲内となるように、制御プログラムによる工具Tの教示位置を工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにオフセットさせる補正を行い、補正後の位置を、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにおける位置の制御値として設定することができる。そして、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにおける位置が、決定した工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dにおける位置の制御値となるように外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成してアーム制御部17に出力することができる。
【0086】
つまり、倣い型J1及びワークWから倣いガイド8及び工具Tに負荷される工具径方向Dにおける反力が一定又は所定の範囲内となるようにアーム4をフィードバック制御することができる。これにより、倣い加工中において倣いガイド8を一定又は所定の範囲内となる適切な力で倣い型J1に工具径方向Dに確実に押し付けることができる。
【0087】
同様に、制御信号生成部14において、力センサ9を用いて取得される工具Tの工具軸AX方向における力が一定又は所定の範囲内となるように工具Tの工具軸AX方向における位置の制御値を決定することができる。すなわち、工具軸AX方向における反力が一定又は所定の範囲内となるように、制御プログラムによる工具Tの教示位置を工具軸AX方向にオフセットさせる補正を行い、補正後の位置を、工具Tの工具軸AX方向における位置の制御値として設定することができる。そして、工具Tの工具軸AX方向における位置が、決定した工具Tの工具軸AX方向における位置の制御値となるように外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成してアーム制御部17に出力することができる。
【0088】
つまり、倣い型J1から倣いガイド8に負荷される工具軸AX方向における反力が一定又は所定の範囲内となるようにアーム4をフィードバック制御することができる。これにより、倣い加工中において倣いガイド8を一定又は所定の範囲内となる適切な力で倣い型J1に工具軸AX方向に確実に押し付けることができる。
尚、工具径方向D及び工具軸AX方向の少なくとも一方について倣いガイド8を一定又は所定の範囲内となる適切な力で倣い型J1に押し付ける力制御を行う場合には、倣い型J1及びワークWに、付与される力によって変形しない程度の強度が必要である。また、倣い型J1及びワークWは、力制御によって力が付与されても、位置ずれが生じないように固定することが必要である。従って、力制御によって付与される力を、倣い型J1及びワークWの変形及び位置ずれが生じないような力に決定することが必要である。
【0089】
ところで、工具Tの工具軸AX方向における位置決めは、アーム4の移動に限らず、送り機構6の動作によっても行うことができる。そこで、制御信号生成部14では、力センサ9を用いて取得される工具Tの工具軸AX方向における反力に基づいて送り機構6を自動制御することができる。
【0090】
送り機構6の動作によって工具Tの工具軸AX方向における位置決めが行われる典型的な例としては、穿孔が挙げられる。これは、穿孔を行う場合には、送り機構6の直線的な動作によって工具Tの工具軸AX方向における位置決めを行う方が、補間処理を伴うアーム4の直線移動によって工具Tの工具軸AX方向における位置決めを行う場合に比べて遥かに精度が良いためである。
【0091】
そこで、制御信号生成部14では、工具TでワークWの穿孔を行う場合には、力センサ9を用いて取得される工具Tの工具軸AX方向における力が一定又は所定の範囲内となるように送り機構6の送り速度の制御値を決定し、決定した送り速度の制御値となるように穿孔用の送り機構6の制御信号を生成して送り機構6に出力することができる。これにより、工具TでワークWの穿孔を行う場合において、工具Tの工具軸AX方向における反力をできるだけ一定にして穿孔を行うことが可能となる。
【0092】
制御システム3のアーム制御部17は、制御信号生成部14で生成されたアーム4の制御信号を、アーム4の駆動部に出力することによってアーム4を制御する機能を有する。一方、工具制御部18は、制御信号生成部14で生成された送り機構6及び回転機構7の制御信号を、それぞれ送り機構6及び回転機構7に出力することによって送り機構6及び回転機構7を制御する機能を有する。
図1に例示されるように、送り機構6及び回転機構7の双方が空気圧式であれば、工具制御部18には、制御信号生成部14で生成された制御信号を、電気信号からエア信号に変換して送り機構6及び回転機構7にそれぞれ出力する機能が備えられる。
【0093】
警告情報生成部16は、負荷取得部13により取得された力に基づいて工具Tの進行方向Fにおける力を取得し、工具Tの進行方向Fにおける力が閾値以上又は閾値を超えた場合には、表示装置11に警告メッセージとして警告情報を出力させる機能を有する。尚、表示装置11の代わりに、或いは表示装置11に加えてランプやスピーカ等の出力装置に光、警告音又は音声によるメッセージとして警告情報を出力するようにしてもよい。
【0094】
すなわち、上述したようにアーム4に工具Tの進行方向Fから負荷される力が過剰な場合、工具Tが振動して加工品質が劣化する恐れがある。そこで、アーム4の停止に先だって、警告情報を出力させることができる。もちろん、ワークWや倣い型J1のセットミスによる工具T及び倣いガイド8との干渉等を回避する観点から、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力が閾値以上又は閾値を超えた場合においても、アーム4の停止に先だって、警告情報を出力させることができる。
【0095】
警告情報生成部16において警告情報を出力させるべきか否かを判定するための閾値は、制御信号生成部14においてアーム4を停止させるべきか否かを判定する閾値よりも低く設定することが適切である。すなわち、負荷取得部13により取得された力が第1の閾値以上又は第1の閾値を超えた場合には、警告情報生成部16が警告情報を出力し、負荷取得部13により取得された力が第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上又は第2の閾値を超えた場合には、制御信号生成部14がアーム4の移動を停止させる制御を行うようにすることができる。
【0096】
尚、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力のそれぞれについて閾値処理を行う場合には、第1の閾値及び第2の閾値が工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力のそれぞれについて設定されることになる。
【0097】
上述した制御システム3の機能を実現するための制御プログラムの全部又は一部は、情報記録媒体に記録してプログラムプロダクトとして流通させることができる。例えば、外形倣い加工中において力センサ9により検出された、アーム4に負荷される力を取得するステップと、取得された力と、外形倣い加工用のアーム4の制御情報とに基づいて、外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成し、生成した制御信号をアーム4に出力することによって外形倣い加工が実施されるようにアーム4を自動制御するステップを、制御システム3に実行させる制御プログラムを、プログラムプロダクトとして流通させることができる。そうすると、従来のロボットの制御システムに、ロボット2の制御プログラムを読込ませることによって、従来のロボットに外形倣い加工用の制御機能を付加することができる。このため、従来のロボットに送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び工具Tを取付けることによって、機械加工用ロボット1を構成することができる。
【0098】
(機械加工用ロボットによる機械加工方法及びロボットの制御システムによるロボットの制御方法)
【0099】
ロボット2を制御してワークWの外形倣い加工を行う場合には、ワークWがセットされる他、ワークW側の所定の位置に倣い型J1がセットされる。具体例として、
図2に示すように、工作テーブルJ2上に固定された板状の治具J3にワークWが固定され、ワークWの上に倣い型J1が固定される。他方、力センサ9を備えたアーム4に取付治具5を介して送り機構6、回転機構7、倣いガイド8及び回転式の工具Tが取付けられる。
【0100】
また、倣いガイド8が倣い型J1に接触しながら移動するようにアーム4の軌道を教示する制御プログラムがユーザによって作成される。作成されたアーム4の制御プログラムは、送り機構6の制御プログラム及び回転機構7の制御プログラムとともに機械加工制御プログラムとして入力装置10の操作によって制御情報保存部15に書込まれる。
【0101】
そして、制御情報保存部15に保存されたアーム4の制御プログラムに従って、制御信号生成部14が、工具Tを倣い型J1の端面から倣いガイド8の厚さ分だけオフセットさせた経路に沿って移動させるためのアーム4の初期の制御信号を生成する。生成されたアーム4の初期の制御信号は、アーム制御部17を通じてアーム4の駆動部に出力される。
【0102】
また、制御情報保存部15に保存された送り機構6の制御プログラム及び回転機構7の制御プログラムに従って、制御信号生成部14が、工具Tの先端が必要な位置まで送り出された状態で回転するように送り機構6及び回転機構7の制御信号を生成する。生成された送り機構6及び回転機構7の制御信号は、工具制御部18を通じて送り機構6及び回転機構7にそれぞれ出力される。
【0103】
このため、アーム4が移動し、工具Tが初期の教示位置に移動する。また、工具Tの先端が必要な位置まで送り出されて回転する。
【0104】
制御信号生成部14は、引き続き制御プログラムに従って工具Tを教示軌道に沿って移動させるためのアーム4の制御信号を生成する。生成されたアーム4の制御信号は、アーム制御部17を通じてアーム4の駆動部に出力される。このため、アーム4が移動し、倣いガイド8が倣い型J1に接触しながら工具Tが制御プログラムで教示された方向に進行する。これにより、回転する工具TによるワークWの外形倣い加工が開始される。
【0105】
工具Tが進行してワークWに接触すると、工具TにはワークWからの加工反力が負荷される。また、倣い型J1から倣いガイド8にも、押付力に対応する反力が負荷される。工具T及び倣いガイド8に負荷される反力は、アーム4に伝達される。その結果、工具T及び倣いガイド8からアーム4に力が負荷される。
【0106】
外形倣い加工中において工具Tからアーム4に負荷される力は、アーム4に取付けられた力センサ9により検出される。力センサ9により検出された力は、ロボット2の制御システム3に出力される。そうすると、負荷取得部13が力センサ9から出力された力の検出値を取得して制御信号生成部14に与える。
【0107】
制御信号生成部14は、力センサ9から出力された力の検出値を取得すると、取得した力の検出値に基づいて、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力を、それぞれ検出する。そして、制御信号生成部14は、工具Tの進行方向Fの力、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力に基づいて、アーム4を自動制御する。
【0108】
すなわち、制御信号生成部14は、外形倣い加工用のアーム4の制御プログラムのみならず、負荷取得部13から取得した力にも基づいて、外形倣い加工用のアーム4の制御信号を生成する。生成されたアーム4の制御信号は、アーム制御部17を通じてアーム4の駆動部に出力される。これにより、アーム4の力制御を伴う外形倣い加工が実施される。
【0109】
具体的には、工具Tの進行方向Fの力に基づいてアーム4及び工具Tの移動速度が自動調整される。例えば、工具Tの進行方向Fにおける反力が一定又は所定の範囲となるようにアーム4及び工具Tの移動速度がフィードバック制御される。或いは、工具Tの進行方向Fにおける反力が過剰な場合には、アーム4の制御プログラムにおいてパラメータとして指定された工具Tの教示速度よりも遅い速度となるように工具Tの進行速度が減速される。
【0110】
これにより、工具Tに過剰な反力が負荷されることを回避し、工具Tの振動による加工品質の劣化を防止することができる。逆に、工具Tの過剰な減速を回避することによって、加工能率を向上させることができる。
【0111】
更に、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力に基づいてアーム4及び工具Tの位置が自動調整される。すなわち、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向Dの力及び工具軸AX方向の力が一定又は所定の範囲となるようにアーム4及び工具Tの位置が微調整される。これにより、外形倣い加工中において、倣いガイド8から倣い型J1に常に適切な押付力を負荷することができる。その結果、より正確な寸法を有するワークWを加工することができる。例えば、公差が±0.1mmから±1.0mm程度の加工精度でワークWを加工することができる。
【0112】
そして、アーム4の力制御を伴う外形倣い加工が完了すると、加工後のワークWとして製品又は半製品を製造することができる。
【0113】
(効果)
以上のような機械加工用ロボット1及び機械加工方法は、ワークWに設置された倣い型J1と、ロボット2のアーム4側に取付けられた倣いガイド8とを接触させることによってワークWの外形倣い加工を行うようにし、かつ力センサ9で検出された加工反力に基づいてアーム4の移動を制御するようにしたものである。具体的には、工具Tの進行方向Fにおける反力が過剰とならないように、工具T及びアーム4の移動速度を制御する一方、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向における反力が一定又は所定の範囲内となるようにアーム4を制御するようにしたものである。また、ロボット2の制御システム3及び制御方法は、上述した外形倣い加工を行うためのロボット2のアーム4の制御を行うことができるようにしたものである。
【0114】
このため、機械加工用ロボット1、機械加工方法、ロボット2の制御システム3、ロボット2の制御方法及びロボット2の制御プログラムによれば、ロボット2を用いてワークWの外形トリム加工、外形粗加工、外形仕上げ加工、溝加工、ポケット加工或いは穿孔等のワークWからの反力が大きな重切削機械加工を高精度に行うことが可能となる。その結果、大規模な工作機械を設置することなく、ワークWの機械加工を自動化することができる。
【0115】
すなわち、ワークWに設置された倣い型J1と、ロボット2のアーム4側に取付けられた倣いガイド8とを接触させる倣い加工によって、工作機械に比べて位置決め精度が低いロボット2のアーム4に取付けられた工具Tであっても、高精度に位置決めすることができる。このため、公差が±0.1mmから±1.0mm程度の加工精度が要求されるワークWであっても、公差内でワークWの加工を仕上げることができる。特に、ワークWに倣い型J1を設置することによって、直線加工のみならず、曲線加工を行うことができる。このため、外形トリム加工等の所望の形状を形成するためのワークWの切削加工を行うことができる。
【0116】
加えて、工具Tの進行方向Fに垂直な工具径方向D及び工具軸AX方向における反力が一定又は所定の範囲内となるようにアーム4を制御することによって、倣いガイド8を常に適切な押付力で工具径方向D及び工具軸AX方向の双方に倣い型J1に接触させることができる。このため、外形トリム加工等の加工反力が大きい重切削加工であっても、工作機械の主軸の剛性に比べて剛性が低いロボット2のアーム4を用いて行うことが可能となる。すなわち、従来は、剛性が低いロボットアームでは困難であると考えられてきた、外形トリム加工等の反力が大きい外形倣い加工をロボット2のアーム4を用いて行うことが可能となる。
【0117】
しかも、工具Tの進行方向Fにおける反力が過剰とならないように、工具T及びアーム4の移動速度が自動調整されるため、工作機械の主軸の剛性に比べて剛性が低いロボット2のアーム4で保持された工具Tの振動を抑制することができる。その結果、工作機械と比較して極めて安価なロボット2を用いて工作機械並みの加工品質を得ることができる。
【0118】
また、ワークWの板厚が変化する場合や工具Tの摩耗等によってワークWからの反力が一定とならない場合であっても、ワークWからの反力に追従して工具T及びアーム4の移動速度を適切に自動調整することができる。このため、工具Tの過剰な減速の回避による加工効率の向上と、過剰な速度での工具Tの移動に伴う不具合の防止を両立させることができる。
【0119】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0120】
例えば、上述した実施形態では、ロボット2のアーム4に回転機構7を介して回転式の工具Tを取付けてワークWの機械加工を行う場合について説明したが、回転式でない工具をロボット2のアーム4に取付けてワークWの加工を行うこともできる。具体例として、バンドソーやワイヤソー等のソーをロボット2のアーム4に取付けて、ワークWの切断加工を行うこともできる。その場合においても、ワークW側に倣い型を設置する一方、アーム4に倣いガイドを取付ることによって、倣い加工を行うことができる。また、力センサ9で測定されたワークW及び倣い型からの反力に基づくアーム4の自動制御を行うこともできる。