特許第6714925号(P6714925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6714925
(24)【登録日】2020年6月10日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】リブレット構造及び物体
(51)【国際特許分類】
   F15D 1/12 20060101AFI20200622BHJP
   B64C 21/10 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   F15D1/12
   B64C21/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-41018(P2016-41018)
(22)【出願日】2016年3月3日
(65)【公開番号】特開2017-155882(P2017-155882A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】岡林 希依
(72)【発明者】
【氏名】越岡 康弘
(72)【発明者】
【氏名】西沢 啓
(72)【発明者】
【氏名】栗田 充
(72)【発明者】
【氏名】飯島 秀俊
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−522644(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0025025(US,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第02899945(FR,A1)
【文献】 国際公開第2009/000703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15D 1/12
B64C 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波状リブレットを有し、
前記複数の波状リブレットのそれぞれは、稜線と流体の流れ方向とがなす角度が大きいほど低い高さとされた
リブレット構造。
【請求項2】
請求項1に記載のリブレット構造であって
前記複数の波状リブレットのそれぞれの稜線は、第1の波長の正弦波状であり、
前記複数の波状リブレットのそれぞれおの高さは、前記流体の流れ方向に前記第1の波長の半波長の第2の波長の正弦波状に高低する
リブレット構造。
【請求項3】
請求項2に記載のリブレット構造であって、
前記第2の波長の振幅aは、前記波状リブレットの基準高さをhとしたとき、
0<a≦0.2h
であるリブレット構造。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のリブレット構造を表面に有する物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れる表面を有する物体及びそのような物体に適用されるリブレット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の表面やパイプライン壁面等にリブレットパターンを設けることで、これらの表面を流れる気体や液体の乱流摩擦抵抗が低減することが知られている。
【0003】
リブレットパターンは、典型的には、流体が流れる表面を有する物体の表面に断面三角形状で流体の流れ方向に延びる微細なリブレットを所定の間隔をもって多数配置して構成される。
【0004】
リブレットの開発当初は、その稜線は流体の流れ方向(長さ方向)に対して直線状であったが、近年では正弦波状のものが提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。このような正弦波状のリブレットは、直線状のリブレットより更に抵抗が低減すると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2009/000703 A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Peet et al., "Turbulent Drag Reduction Using Sinusoidal Riblets with Tiangular Cross−Section", Proc. Of the 38th AIAA Fluid Dynamics Conference and Exhibit, No. AIAA−2008−3745, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
正弦波状のリブレットは、正弦波状となった稜線の振幅を大きくとれば表面を流れる流体の乱流摩擦抵抗をより大きく低減する効果が得られる。しかしながら、そのように稜線の振幅を大きくすると、リブレットに対する流体の圧力抵抗が大きくなる。つまり、流体の乱流摩擦抵抗と流体の圧力抵抗とは、正弦波状のリブレットの振幅の大きさに対してトレードオフの関係になる。従って、正弦波状のリブレットにおいて、リブレットに対する流体の全抵抗、つまり乱流摩擦抵抗と圧力抵抗とを加算した抵抗をある程度以上は低減できないという問題がある。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、乱流摩擦抵抗と圧力抵抗とを加算した抵抗をより低減することができる波状リブレットを有するリブレット構造及び物体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るリブレット構造は、稜線と流体の流れ方向とがなす角度が大きいほど低い高さとされた複数の波状リブレットを有する。
【0010】
ここで、各前記波状リブレットの稜線は、第1の波長の正弦波状であり、各前記波状リブレットの高さは、前記流体の流れ方向に前記第1の波長の半波長の第2の波長の正弦波状に高低することが好ましい形態である。
また、前記第2の波長の振幅aは、前記波状リブレットの基準高さをhとしたとき、0<a≦0.2hであることがより好ましい形態である。
本発明の別形態に係る物体は、稜線が波状で、高さが流体の流れ方向に対して周期的に変化する波状リブレットパターンを表面に有するものである。
【0011】
本発明では、典型的には、波状リブレットにおいて、圧力抵抗が高くなる原因となる位相(リブレットの稜線と流体の流れ方向のなす角度が大きくなる位相)でリブレットの山の高さを低くして圧力抵抗の発生を緩和することで、従来の直線状や波状よりも乱流摩擦抵抗と圧力抵抗とを加算した抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乱流摩擦抵抗と圧力抵抗とを加算した抵抗をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る物体の斜視図である。
図2図1に示した波状リブレットの高さの流体の流れ方向(x方向)の変化を説明するための図である。
図3図3は波状リブレットの基準高さの流れ方向(x方向)に垂直な断面図である。
図4】風洞試験で得られた各種リブレットの抵抗増加率の曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る物体の斜視図である。
図1に示すように、物体1は、表面2に波状リブレットパターン3を有する。
物体1は、例えば航空機やプラント、パイプライン等の流体が流れる表面を有するものである。
【0015】
表面2は航空機でいうと外側の表面である。また、物体1は、シート状の形態であって、それを航空機の所望の位置に張り付け等をするように構成しても良い。パイプラインでいうと、表面2は液体が流れる内側の壁部をいう。
波状リブレットパターン3は、稜線31が波状で、高さhが流体の流れ方向Dに対して周期的に変化する多数の波状リブレット30から構成される。
【0016】
ここで、稜線31は、典型的には頂角が30°程度の断面三角形状の頂点がなす線であるが、頂点が角により構成されず頂上が例えば平面や曲面であってもこれらも含まれ、例えばこれらの面がなす長い面を実質的に稜線とみなす。勿論、断面形状も三角形状以外の例えば四角形状などであっても良い。また、波状は、典型的には正弦波状であるが、正弦波状以外の曲面がある程度連続するようであればそれも含む意味である。本発明では、表面2のリブレットパターンのすべてが波状リブレットパターン3であっても良いが、表面2のリブレットパターンの一部の領域が波状リブレットパターン3であっても良い。
【0017】
図2図1に示した波状リブレット30の高さの流体の流れ方向(x方向)の変化を説明するための図である。図2(a)は物体1の表面2を上面(y方向)から見た図であり、図2(b)は物体1の表面2を横方向(z方向)から見た図である。図2(a)と図2(b)とではx方向の位相を一致させている。また、図3は波状リブレット30の基準高さの流れ方向(x方向)に垂直な断面図である。
図2及び図3に示すように、波状リブレット30は、稜線31と流体の流れ方向Dとがなす角度θが大きいほど低い高さhとされている。
【0018】
この実施形態に係る波状リブレット30の稜線31は波長λの正弦波状である(図2(a)参照)。従って、波状リブレット30の高さhは流体の流れ方向Dに上記正弦波の半波長の波長λ/2の正弦波状に高低(変化)する(図2(b)参照)。例えば、図2(a)の稜線31におけるx点では稜線31と流体の流れ方向Dとがなす角度θは0であるので、この位置に対応する波状リブレット30の高さhx1は最大となる(図2(b)のx点参照)。一方、図2(a)の稜線31におけるx点では稜線31と流体の流れ方向Dとがなす角度θは最大であるので、この位置に対応する波状リブレット30の高さhx2は最小となる(図2(b)のx点参照)。
ここで、波状リブレット30の稜線31の振幅Aは、典型的には
tan−1(2π・λ/A)=10°
を満たす値が好ましい形態である。
【0019】
また、図3に示すように、波状リブレットパターン3における波状リブレット30のピッチである波状リブレット30間隔をsとしたとき、波状リブレット30の基準高さhは、
h=s/2
を満たす値が好ましい形態である。
波状リブレット30の高さの変化に相当する波長の振幅aは、上記の基準高さhに対して、
0<a≦0.2h
を満たす値が好ましい形態である。
【0020】
s+=20に固定して検討を行った結果、振幅aが0.2h以下であれば、圧力抵抗が低減し、かつ、摩擦抵抗が低減することが確認できた。
次に、本発明の効果を確認するために行った試験結果を示す。
図4は風洞試験で得られた各種リブレットの抵抗増加率の曲線を示している。
ここでの抵抗増加率は、リブレットの山間隔(上記の間隔sに相当)の壁指標s+に対するものである。
【0021】
図4において、符号401は直線状リブレットの抵抗増加率、符号402は従来の波状リブレット(高さが一定の波状リブレット)の抵抗増加率、符号403は本発明に係る波状リブレットの抵抗増加率を示している。
【0022】
ここで、直線状リブレットのパラメータは、高さh=s/2(変動値)である。従来の波状リブレットのパラメータは、稜線の波長λ+=1131(固定値)、振幅A=0.03λ(固定値)、高さh=s/2(変動値)である。本発明に係る波状リブレットは、稜線の波長λ=1131(固定値)、振幅A=0.03λ(固定値)、基準高さh=s/2(変動値)、振幅a=0.1h(変動値)である。上記のλ,A,hは、従来の波状リブレットで最も抵抗低減効果の高い稜線の波長と振幅の組み合わせと考えられるものである。
抵抗増加率(図4のy軸)の定義は、
抵抗増加率={(リブレット面での全抵抗)−(滑面での全抵抗)}/(滑面での全抵抗)
である。滑面とはリブレットがない面である。
【0023】
計測した範囲(図4のx軸)のs+においては、直線状リブレットより従来の波状リブレット及び本発明に係る波状リブレットの方が、抵抗低減効果がより高いことがわかる。最も抵抗増加率が小さくなるのはs+=17〜18であり、この付近を設計点としてリブレット山間隔の実スケールを決定するのが通常である。図4から、設計点のs+=17〜18付近では従来の波状リブレットと本発明に係る波状リブレットではほとんど差はない。しかし、s+が設計点より大きくなるに従って、本発明に係る波状リブレットは従来の波状リブレットと比較すると抵抗低減効果が改善していくことがわかる。
【0024】
例えば航空機にリブレットを実装する際には、必ずしも設計点付近で飛行できるとは限らないため、設計点以外のs+の値に対するロバストネスは重要である。つまり、本発明によって、従来の波状リブレットよりも抵抗低減効果のロバストネスが改善されたといえる。
以上のとおり、本発明によって抵抗低減効果のロバストネスが改善されることが風洞試験によって確認された。
【0025】
例えば航空機において、抵抗低減率が約1%向上することは、燃料消費削減量にしておよそ3%に相当する。CO排出に換算すると、エアバスA320(150〜180席)では1機あたり年間およそ700トンの削減になり、地球温暖化対策に大きく貢献する。
本発明は様々な技術分野に適用することが可能である。
例えば本発明をプラント、パイプラインに適用することでの流体輸送効率等を改善することが可能である。
また、本発明を流体機械の分野に適用することで、摩擦抵抗を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 物体
2 表面
3 波状リブレットパターン
30 波状リブレット
31 稜線
D 流体の流れ方向
h 高さ
図1
図2
図3
図4