(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
可搬型ガス警報器においては、例えば、可燃性のガスや蒸気を含む爆発性雰囲気の存在により、引火、爆発が発生し得る環境で使用されるため、可搬型ガス警報器それ自体が着火源とならない構成、いわゆる防爆仕様の規格を満足する構成であることが必要とされている。また、例えばマンホール内などの水が溜まっている場所などのガス測定対象空間の空気の状態を計測するために使用される場合もあることから、大気中の水滴などを含む水等がハウジングの内部に進入することを防止するために、可搬型ガス警報器においては、防水構造が採られていることが望ましい。
【0003】
このような要請に対して、例えば特許文献1には、防爆構造を有する可搬型ガス警報器において、樹脂材料よりなるケーシングの表面に、例えば帯電防止性樹脂材料(制電性樹脂材料)よりなるプロテクトカバーが一体に装着された構成とされることが記載されている。
また、ケーシングの正面側領域に、警報用ブザーが設けられたメイン基板が配設される内部空間と連通口を介して連通するよう区画された共鳴空間が形成され、通音性を有する防水フィルタが連通口を覆うよう設けられた構成とされることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、例えばプロテクトカバーを構成する帯電防止性樹脂材料がケーシングを構成する樹脂材料と一体成形されていると、可搬型ガス警報器の使用に伴って、可搬型ガス警報器の表面が劣化する、具体的には、プロテクトカバーがケーシングから剥がれてしまう、という問題があった。
【0006】
一方、警報用ブザーを備えた可搬型ガス警報器においては、大きなブザー音が発せられることが望まれている。しかしながら、可搬型ガス警報器においては、構造上の制約があることから、可搬型ガス警報器の構造自体によってブザー音の音圧を向上させるのは、限界があるのが実情である。可搬型ガス警報器の構造上の制約としては、例えば、ブザー音放音用開口が防水フィルタ等により塞がれてしまうこと、可搬型のものであるという性質上、ガス警報器自体を大型化させることが好ましくないこと、防爆仕様の規格を満足するために、出力の高い警報用ブザーを用いることができないことなどが挙げられる。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、所定の防爆構造を有し、十分な大きさの音圧レベルの警報音を発することのできる可搬型ガス警報器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の可搬型ガス警報器は、樹脂材料よりなるハウジングを備えており、
正面における中央領域に表示部を有するとともに当該表示部の上方領域において正面方向に開口する警報音放音用孔が形成されたガス警報器本体と、当該ガス警報器本体を受容して当該ガス警報器本体の樹脂表面部分に密着状態で着脱自在に装着された、制電性材料よりなるプロテクトカバーとにより構成されており、
前記プロテクトカバーにおける前記ガス警報器本体の警報音放音用孔を覆う部分には、
当該ガス警報器本体の表面との間に共鳴空間を画成する膨出部が形成され、当該共鳴空間には、当該ガス警報器本体の警報音放音用孔から発せられた警報音が当該ガス警報器本体の表面に沿って発せられるよう下方に開口する放音用開口が形成されており、
前記プロテクトカバーにおける膨出部には、正面方向に開口する警報音調整用孔が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の可搬型ガス警報器においては、
前記警報音調整用孔は、正面視において前記ガス警報器本体の警報音放音用孔と重ならない位置に形成された構成とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可搬型ガス警報器によれば、基本的には、制電性材料よりなるプロテクトカバーがガス警報器本体のケーシングにおける樹脂表面部分に密着状態で装着されているので、静電気対策が十分で信頼性の高い防爆性を有するものとして構成することができる。しかも、ガス警報器本体に形成された警報音放音用孔を覆うプロテクトカバーの膨出部とガス警報器本体の表面とによって画成される共鳴空間の作用によって、十分な大きさの音圧レベルの警報音を発することができる。また、ガス警報器本体自体に共鳴空間を形成する必要がないので、ガス警報器本体の設計の自由度が向上すると共に、可搬型ガス警報器本体が大型化することを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の可搬型ガス警報器の一構成例を示す正面図である。
図2は、
図1に示す可搬型ガス警報器の右側面図である。
図3は、
図1に示す可搬型ガス警報器の構成を、プロテクトカバーを取り外した状態で示す斜視図である。以下、本明細書においては、便宜上、
図1における上下方向を「上下方向」と定義するが、使用形態等を限定するものではない。
この可搬型ガス警報器は、ガス警報器本体10と、ガス警報器本体10に着脱可能に装着されたプロテクトカバー30とにより構成されている。
【0013】
[ガス警報器本体]
ガス警報器本体10は、警報用ブザーによる警報報知機構を備えた本体ユニット11と、この本体ユニット11に対して着脱自在に装着される備えた電源ユニット18とにより構成されている。
【0014】
本体ユニット11は、正面における中央領域に表示部12を有すると共に表示部12の下方領域に操作部13を有する。また、本体ユニット11の正面における表示部12の上方領域およびこれに続く上面の正面側領域、並びに、本体ユニット11の両側面の正面側領域に、警報用発光部14を有する。
【0015】
本体ユニット11は、
図4および
図5に示すように、樹脂材料よりなるハウジング20を備えている。ハウジング20の内部には、一方向(上下方向)に長尺な平板状のメイン回路基板25がハウジング20の正面および背面に沿って延びるよう配設されている。メイン回路基板25の正面側には、LCDよりなるパネル状表示機構26が長さ方向における中央部に設けられていると共に、例えば圧電ブザーよりなる警報用ブザー27が上端縁部の幅方向における一方の側壁側に変位した位置に設けられている。また、メイン回路基板25の背面側には、例えばモータ駆動によるダイヤフラムポンプを具えたポンプユニットが配置されていると共に、互いに検知対象ガスの種類または検知レベルの異なる複数のガスセンサが配置されている。
【0016】
ハウジング20の正面には、警報音放音用開口部21が形成されている。警報音放音用開口部21は、警報用ブザー27と対向した位置に形成された複数の長円形放音孔21aと、これらの長円形放音孔21aに対して幅方向に離間した位置に形成された一の円形放音孔21bとにより構成されている。
図4および
図5における40は、警報用開口部21を覆うよう設けられた通気性を有する防水フィルタである。
【0017】
この可搬型ガス警報器においては、例えば4つの既定のガスセンサが標準装備されていると共に、例えば2つの追加のガスセンサが他の追加のガスセンサと交換可能に装着されており、最大で6種の検知対象ガスの濃度を検知可能に構成されている。
既定ガスセンサとしては、例えば、接触燃焼式ガスセンサよりなる、メタンガスや炭化水素ガスなどの可燃性ガスを%LELの測定レンジで検知するための可燃性ガス検知用ガスセンサ、ガルバニ電池式ガスセンサよりなる酸素ガス検知用ガスセンサ、定電位電解式ガスセンサよりなる硫化水素ガス検知用ガスセンサ、定電位電解式ガスセンサよりなる一酸化炭素ガス検知用ガスセンサを例示することができる。
また、追加ガスセンサとしては、例えば、光イオン化式センサよりなる揮発性有機化合物(VOC)検知用ガスセンサ、赤外線式センサよりなる二酸化炭素ガス検知用ガスセンサ、赤外線式センサよりなる、炭化水素ガスを%LELの測定レンジまたはvol%の測定レンジで検知するための炭化水素ガス検知用ガスセンサ、定電位電解式ガスセンサよりなる二酸化硫黄検知用ガスセンサ、定電位電解式ガスセンサよりなる二酸化窒素ガス検知用ガスセンサ、定電位電解式ガスセンサよりなるシアン化水素ガス検知用ガスセンサなどを例示することができる。
【0018】
電源ユニット18としては、例えばリチウムイオン電池を備えたリチウムイオン電池電源ユニット、乾電池を備えた乾電池電源ユニットを用いることができ、本体ユニット11に対して、リチウムイオン電池電源ユニットおよび乾電池電源ユニットのいずれか一方の選択された電源ユニットが他方の電源ユニットと交換可能に装着される。
【0019】
[プロテクトカバー]
プロテクトカバー30は、可撓性を有する制電性樹脂材料により構成されている。制電性樹脂材料としては、例えばスチレン+エステル系エラストマーなどを例示することができる。
【0020】
このプロテクトカバー30は、拡開されてガス警報器本体10が通過することのできる状態となるガス警報器本体挿入用開口部31を背面に有すると共に、上端部および下端部の各々に、ガス警報器本体10の上端側部分および下端側部分がそれぞれ受容される空間部を形成する受容支持部32を有する。
ガス警報器本体挿入用開口部31は、自然の状態においては、開口の大きさ(開口面積)がガス警報器本体10の投影面積の大きさより小さい状態とされている。
また、各々独立した表示部露出用開口部33および操作部露出用開口部34が正面に形成されていると共に、各々独立した複数の警報用発光部露出用開口部35が、上端面およびこれに続く正面領域並びに正面領域に続く両側面のそれぞれに形成されている。
【0021】
ガス警報器本体10に対する装着時に拡開されたプロテクトカバー30の形状は、プロテクトカバー30それ自体の弾性によって復元され、これにより、ガス警報器本体10をガス警報器本体10の樹脂表面部分に密着状態で保持する。また、プロテクトカバー30が装着された状態においては、
図1に示すように、ガス警報器本体10における表示部12および操作部13並びに複数の警報用発光部14の各々は、プロテクトカバー30における表示部露出用開口部33、操作部露出用開口部34並びに警報用発光部露出用開口部35を介して外部に露出された状態とされる。
【0022】
而して、このプロテクトカバー30における、ガス警報器本体10の正面に形成された警報音放音用開口部21を覆う部分には、ガス警報器本体10の警報音放音用開口部21から発せられた警報音をガス警報器本体10の表面に沿って発するための放音用開口39が開口する共鳴空間Sをガス警報器本体10の表面との間に画成する膨出部38が形成されている。
【0023】
この例における膨出部38の内面形状は、例えば曲面状であって、
図4に示すように、長手方向断面において、ガス警報器本体10の表面からの高さ(プロテクトカバー30の内面とガス警報器本体10の表面との離間距離の大きさ)がガス警報器本体10における警報音放音用開口部21の上方位置において最大となるよう正面方向に凸状に屈曲した形態を有する。また、幅方向断面においては、
図5に示すように、ガス警報器本体10の表面からの高さが幅中心位置において最大となるよう弧状に湾曲している。そして、膨出部38における正面壁の下端縁部は、ガス警報器本体10の表面より離間しており、これにより、下方に開口する放音用開口39が形成されている。
【0024】
膨出部38における正面壁には、正面視にてガス警報器本体10の警報音放音用開口部21と重ならない位置に正面方向に開口する警報音調整孔38aが形成されている。この例においては、
図6にも示すように、ガス警報器本体10の警報音放音用開口部21を構成する円形放音孔21bに対して上方に変位した位置に、開口形状が円形状の警報音調整孔38aが形成されている。ここに、警報音調整孔38aは、ガス警報器本体10における円形放音孔21bの孔径(開口径)より大きい孔径(開口径)とされている。
警報音調整孔38aが形成されていることにより、後述する実験例の結果に示されるように、警報音調整孔38aを有さない場合よりも警報音の音圧レベルを向上させることができる。
【0025】
この可搬型ガス警報器においては、環境雰囲気の空気がフィルタユニット16を介してポンプユニットにより吸引されて導入されると、複数のガスセンサの各々に順次に供給される。これにより、検知対象ガスの検知が行われ、検知されたガスの種類と濃度が表示部12に表示される。そして、いずれかの検知対象ガスの濃度が基準値を越えたことが検出されたときに、警報動作信号が発せられ、これにより、警報用ブザー27および警報用発光部14を構成する警報用発光素子(図示せず)が作動される。ガス警報器本体10から発せられる警報用ブザー27による警報音は、共鳴空間Sを介して、主として放音用開口39よりガス警報器本体10の正面に沿った方向に発せられる。
【0026】
而して、上記構成の可搬型ガス警報器によれば、基本的には、制電性材料よりなるプロテクトカバー30がガス警報器本体10のハウジング20における樹脂表面部分に密着状態で装着されているので、静電気対策が十分で信頼性の高い防爆性を有するものとして構成することができる。しかも、ガス警報器本体10に形成された警報音放音用開口部21を覆うプロテクトカバー30の膨出部38の内面とガス警報器本体10の表面とによって画成される共鳴空間Sの作用によって、十分な大きさの音圧レベルの警報音を発することができる。また、ガス警報器本体10自体に共鳴空間を形成する必要がないので、ガス警報器本体10の設計の自由度が向上すると共に、可搬型ガス警報器本体が大型化することを回避することができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、プロテクトカバーにおける膨出部は、ガス警報器本体に装着された状態において、プロテクトカバーの内面とガス警報器本体の表面との間に適正な共鳴空間を形成するよう構成されていれば、上記実施例に係る構成に限定されない。
【0028】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
<実験例1>
上記の構成例に従って、本発明に係る可搬型ガス警報器を作製した。
ガス警報器本体とプロテクトカバーによって形成される共鳴空間の容積が2700mm
3 、放音用開口の開口面積が100mm
2 、プロテクトカバーにおける警報音調整孔の孔径がφ4mmである。
この可搬型ガス警報器についてブザー音の音圧レベルを測定したところ、可搬型ガス警報器から発せられるブザー音の音圧レベルの最大値は99dBであり、ガス警報器本体自体(プロテクトカバーを装着していない状態)から発せられるブザー音の音圧レベルに対して13%程度大きいブザー音が発せられることが確認された。
【0029】
<参考実験例1>
実験例1において作製した可搬型ガス警報器において、プロテクトカバーが警報音調整孔を有さないものであることの他は、実験例1で作製したものと同一の構成を有する可搬型ガス警報器を作製した。
この可搬型ガス警報器についてブザー音の音圧レベルを測定したところ、ブザー音の音圧レベルの最大値は94dBであり、警報音調整孔を有する場合に比して音圧レベルは小さいものの、ガス警報器本体自体(プロテクトカバーを装着していない状態)から発せられるブザー音の音圧レベルに対して8%程度大きい、実用上十分な大きさの警報音が発せられることが確認された。