特許第6715056号(P6715056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6715056
(24)【登録日】2020年6月10日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布および衛生材料
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/007 20120101AFI20200622BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20200622BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20200622BHJP
   C08K 5/20 20060101ALN20200622BHJP
   C08L 23/12 20060101ALN20200622BHJP
   C08L 23/06 20060101ALN20200622BHJP
   A61F 13/15 20060101ALN20200622BHJP
【FI】
   D04H3/007
   D01F6/46 D
   D01F6/46 B
   A61L15/24 200
   !C08K5/20
   !C08L23/12
   !C08L23/06
   !A61F13/15 354
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-69403(P2016-69403)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179658(P2017-179658A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】梶山 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】松原 暁雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−073967(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/108238(JP,A1)
【文献】 特開2009−062672(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050965(WO,A1)
【文献】 特公昭48−028386(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
A61L 15/24
D01F 6/46
A61F 13/15
C08K 5/20
C08L 23/06
C08L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)融点140℃以上のプロピレン単独重合体70.0質量%以上99.0質量%以下と、
(II)ポリエチレン1.0質量%以上10.0質量%以下と、を含み、
下記(III)に示す重合体の含有量が10質量%以上20質量%以下である組成物で構成されるスパンボンド不織布であり、
前記スパンボンド不織布のMD5%強度を不織布の目付で割った値が0.2N/25mm/(g/m)以上であり、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が70N/(g/m)以下であるスパンボンド不織布。
ただし、前記各重合体の含有量(質量%)は、スパンボンド不織布を構成する組成物全量に対する含有量を表す。
(III)下記(a)〜(f)を満たす融点120℃未満のプロピレン単独重合体
(a)[mmmm]=20モル%〜60モル%
(b)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(c)[rmrm]>2.5モル%
(d)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(e)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(f)分子量分布(Mw/Mn)<4
(a)〜(d)中、[mmmm]はメソペンタッド分率であり、[rrrr]はラセミペンタッド分率であり、[rmrm]はラセミメソラセミメソペンタッド分率であり、[mm]、[rr]および[mr]はそれぞれトリアッド分率である。
【請求項2】
前記ポリエチレンの密度が、0.941g/cm〜0.970g/cmの範囲にある請求項1に記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
前記組成物が、炭素数15以上22以下の脂肪酸アミドを、前記組成物全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下含む請求項1または請求項2に記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
目付が30g/m以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布を含む衛生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンボンド不織布および衛生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不織布は通気性および柔軟性に優れることから各種用途に幅広く用いられている。そのため、不織布には、その用途に応じた各種の特性が求められるとともに、その特性の向上が要求されている。
【0003】
例えば、紙おむつ、生理用ナプキン等の吸収性物品、衛生マスク、医療用ガーゼ、湿布材の基布等に用いられる不織布は、耐水性があり、且つ透湿性に優れることが要求される。さらに、肌に直接触れる部材としては高い柔軟性が求められており、それを実現するために延伸加工などの2次加工を施すことがある。このため、前記部材に用いられる不織布としては、優れた延伸加工適性を得るために伸長性が求められる。
【0004】
不織布に伸長性を付与する方法の一つとして、スパンボンド不織布の原料として熱可塑性エラストマーを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、熱可塑性エラストマーの含有量が多くなると、表面がべたついて不織布の柔軟性、感触が低下するという問題がある。
【0005】
また、衛生材料に好適な、伸長性、伸縮性、触感の良好なスパンボンド不織布として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに、エチレンビスオレイン酸アミドおよび/または架橋有機微粒子を含有させ、硬度を75〜85の範囲とする熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いてなるスパンボンド不織布が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平7−503502号公報
【特許文献2】特開第2015−71854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の不織布は、繊維のベタツキによる感触の低下が抑制されており、伸長性も良好ではあるが、低荷重時に不織布が変形しやすいために、おむつなどの形状への加工時及び延伸加工時における不織布の幅落ちが大きく、また経時変化も大きく、幅落ち及び経時変化の抑制の点でなお改良の余地がある。
【0008】
本発明の課題は、伸長性、柔軟性に優れ、加工時における不織布の幅落ちと、保存時の経時変化と、が抑制され、2次加工適性に優れたスパンボンド不織布およびスパンボンド不織布を用いた衛生材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> (I)融点140℃以上のプロピレン単独重合体70.0質量%以上99.0質量%以下と、(II)ポリエチレン1.0質量%以上10.0質量%以下と、を含み、下記(III)に示す重合体の含有量が0質量%以上20質量%以下である組成物で構成されるスパンボンド不織布であり、前記スパンボンド不織布のMD5%強度を不織布の目付で割った値が0.2N/25mm/(g/m)以上であり、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が70N/(g/m)であるスパンボンド不織布。
ただし、前記各重合体の含有量(質量%)は、スパンボンド不織布を構成する組成物全量に対する含有量を表す。
(III)下記(a)〜(f)を満たす融点120℃未満のプロピレン単独重合体
(a)[mmmm]=20モル%〜60モル%
(b)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(c)[rmrm]>2.5モル%
(d)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(e)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(f)分子量分布(Mw/Mn)<4
(a)〜(d)中、[mmmm]はメソペンタッド分率であり、[rrrr]はラセミペンタッド分率であり、[rmrm]はラセミメソラセミメソペンタッド分率であり、[mm]、[rr]および[mr]はそれぞれトリアッド分率である。
【0010】
<2>前記ポリエチレンの密度が、0.941g/cm〜0.970g/cmの範囲にある<1>に記載のスパンボンド不織布。
【0011】
<3>前記組成物が、炭素数15以上22以下の脂肪酸アミドを、前記組成物の全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下含む<1>または<2>に記載のスパンボンド不織布。
【0012】
<4> 目付が30g/m以下である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のスパンボンド不織布。
【0013】
<5> 開放式スパンボンド法により製造される<1>〜<4>のいずれか1つに記載のスパンボンド不織布。
【0014】
<6> <1>〜<5>のいずれか1つに記載のスパンボンド不織布を含む衛生材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、伸長性、柔軟性に優れ、加工時における不織布の幅落ちが小さく、経時変化が小さい、2次加工適性に優れたスパンボンド不織布およびスパンボンド不織布を用いた衛生材料を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ギア延伸装置の概略図である。
図2】溶融紡糸された長繊維が大気中で冷却されながら延伸されることで製造される開放式スパンボンド法の概略図である。
図3】密閉式スパンボンド法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0018】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本明細書において、MD(Machine Direction)方向とは、不織布製造時の流れ方向を指し、CD(Cross Direction)方向とは、MD方向に垂直で、主面に平行な方向を指す。
【0019】
<スパンボンド不織布>
本発明のスパンボンド不織布は、(I)融点140℃以上のプロピレン単独重合体の含有量が組成物の全量に対して70.0質量%以上99.0質量%以下の範囲であり、(II)ポリエチレンの含有量が組成物の全量に対して1質量%以上10質量%以下の範囲であり、下記(III)に示す重合体〔以下、重合体(III)と称することがある〕の含有量が組成物の全量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲である組成物で構成されるスパンボンド不織布である。
前記スパンボンド不織布は、スパンボンド不織布のMD5%強度を不織布の目付で割った値が0.2N/25mm/(g/m)以上であり、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が70N/(g/m)以下である。
(III)下記(a)〜(f)を満たす融点120℃未満のプロピレン単独重合体
(a)[mmmm]=20モル%〜60モル%
(b)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
(c)[rmrm]>2.5モル%
(d)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
(e)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
(f)分子量分布(Mw/Mn)<4
(a)〜(d)中、[mmmm]はメソペンタッド分率であり、[rrrr]はラセミペンタッド分率であり、[rmrm]はラセミメソラセミメソペンタッド分率であり、[mm]、[rr]および[mr]はそれぞれトリアッド分率である。
【0020】
本発明のスパンボンド不織布は、比較的融点の高いプロピレン単独重合体と、ポリエチレンに加え、さらに、比較的低融点であり特定のメソペンタッド分率、ラセミペンタッド分率であるプロピレン単独重合体を不織布の原料となる組成物の全量に対し、0質量%以上20質量%以下の量で含有する。このため、当該組成物の物性に起因して、得られたスパンボンド不織布は、伸長性、柔軟性に優れ、延伸加工などの2次加工適性に優れる。
なお、本発明において「スパンボンド不織布の2次加工適性に優れる」とは、スパンボンド不織布に柔軟性を付与するためにギア延伸加工した際における穴あき発生量が少ないことを意味する。
【0021】
本発明のスパンボンド不織布を構成する組成物に上記各成分が含まれることは、公知の方法により適宜確認することができる。
なお、(III)に示す重合体における融点120℃未満のプロピレン単独重合体の、メソペンタッド分率[mmmm]、ラセミペンタッド分率[rrrr]及びラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]、トリアッド分率[mm]、[rr]及び[mr]は、以下に詳述するように、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠して算出することができる。
【0022】
本発明のスパンボンド不織布に含まれるポリエチレンは、密度が0.941g/cm〜0.970g/cmの範囲にあることが、得られるスパンボンド不織布の伸長性、柔軟性をより向上させる観点から好ましい。さらに、高密度ポリエチレンを含有することでスパンボンド不織布の強度がより向上することも期待できる。
ポリエチレンの前記組成物の全量に対する含有量は、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
ポリエチレンの含有量が上記範囲において、得られるスパンボンド不織布の伸長性がより向上する。
【0023】
本発明のスパンボンド不織布を構成する組成物は、炭素数15以上19以下の脂肪酸アミドを含有することが好ましい。組成物が脂肪酸アミドを含有することで、組成物により形成されるスパンボンド不織布の繊維表面に脂肪酸アミドが吸着し、繊維表面が改質される。その結果、不織布の伸長性、柔軟性がより向上する。脂肪酸アミドは前記組成物の全量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲で含むことが好ましい。
【0024】
本発明のスパンボンド不織布を構成する組成物における融点140℃以上のプロピレン単独重合体の含有量は、前記組成物の全量に対して70.0質量%以上99.0質量%以下であることが好ましい。
融点140℃以上のプロピレン単独重合体を含有量が前記範囲において、不織布の強度物性が良好な範囲に維持され、低目付で柔軟な不織布を得ることが可能となる。
【0025】
本発明のスパンボンド不織布は、以下に詳述する組成物を用いて、例えば特公昭48−28386公報に開示されている開放式スパンボンド法により製造することができる。
【0026】
本発明のスパンボンド不織布の目付は特に制限されない。
本発明の不織布は、柔軟性と強度とを両立するという観点からは、通常、目付が30g/m以下であることが好ましく、28g/m以下であることがより好ましく、25g/m以下であることがさらに好ましく、20g/m〜5g/mの範囲であることが特に好ましい。
本発明のスパンボンド不織布を後述する衛生材料等に適用する場合、スパンボンド不織布の目付は、19g/m〜5g/mの範囲にあることが好ましい。
スパンボンド不織布を構成する繊維は、通常、繊維径が50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは20μm以下である。
繊維径は小さいほど不織布の柔軟性に優れるが、ハンドリング性、製造適性及び得られた不織布の毛羽立ち発生抑制の観点からは、繊維径は10μm以上であることが好ましい。
【0027】
〔スパンボンド不織布の物性〕
以下に、本発明のスパンボンド不織布の好ましい物性を挙げる。
【0028】
(50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値)
本発明のスパンボンド不織布の物性の一つとして50%延伸時の応力積分値の積算値が小さいことが挙げられる。JIS L 1906(6.12.1 A法)に準拠して引張試験を行い、引張試験開始状態から50%延伸された状態までの応力積分値の積算値を不織布の単位面積あたりの重量である目付で割った値が70N/(g/m)以下であることが、後述するギア延伸加工後の穴あき発生量を少なくできるために好ましい。
一方で、後述するMD5%強度を不織布の目付けで割った値が低い場合と同様に、スパンボンド不織布の加工時における幅落ちを小さくするために、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付けで割った値は40N/(g/m)以上であることが好ましい。この値は50N/(g/m)〜70N/(g/m)の範囲がより好ましく、50N/(g/m)〜60N/(g/m)の範囲がさらに好ましい。
スパンボンド不織布の50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付けで割った値は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0029】
(2次加工適性)
本発明のスパンボンド不織布の2次加工適性を示す指標としてギア延伸加工後の穴あき個数を用いる。ギア延伸加工時の穴あき個数が少ないほど、2次加工適性に優れることを示す。
ギア加工にて50%延伸後の穴あき個数は8個/cm以下であることが好ましく、6個/cm以下であることがより好ましい。ギア延伸加工後の穴あき発生量が8個/cm以下であると、スパンボンド不織布の触感がより良好となり、またスパンボンド不織布と他部材を貼り付ける際に用いるホットメルト接着剤が穴を通過することによる製造ラインの汚染が低減され好ましい。
ギア延伸加工後の穴あき発生量は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0030】
(経時変化)
製造時の安定性を高めるためには、不織布の経時変化が抑制されていることが好ましい。不織布の経時変化はスパンボンド不織布を常温で長期間保管後にギア延伸加工時後の穴あき量を測定し、保管(経時)前後での増加率により評価できる。経時変化としては、穴あき量の増加率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(MD5%強度を不織布の目付で割った値)
本発明のスパンボンド不織布の好ましい物性の一つとして、MD5%強度を不織布の目付で割った値が挙げられる。MD5%強度を不織布の目付で割った値は、不織布製造時の流れ方向(MD)について、JIS L 1906(6.12.1 A法)に準拠して引張試験を行い、引張試験開始状態から5%延伸された状態のときの引張荷重であるMD5%強度を、不織布の単位面積あたりの重量である目付で割った値を指す。
本発明のスパンボンド不織布は、MD5%強度を不織布の単位面積あたりの重量である目付で割った値が0.2N/25mm/(g/m)以上であることが好ましく、0.25N/25mm/(g/m)以上であることがさらに好ましい。MD5%強度を目付で割った値が0.2N/25mm/(g/m)以上であると、スパンボンド不織布を製造ライン上でハンドリングする際の幅落ちが小さく好ましい。スパンボンド不織布のMD5%強度を不織布の目付けで割った値は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0032】
(最大伸度)
本発明のスパンボンド不織布の物性の一つとして、良好な2次加工適性と、ハンドリング時の幅落ちが小さいことを同時に満たす優れた最大伸度が得られることが挙げられる。JIS L 1906(6.12.1 A法)に準拠した引張試験において、良好な2次加工適性を得るために最大伸度は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。一方でスパンボンド不織布を製造ライン上でハンドリングする際の幅落ちを小さくするために最大伸度は150%以下であることが好ましく、100%以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明のスパンボンド不織布は、以下に詳述する組成物の1種又は2種以上を用い、かつ公知のスパンボンド不織布製造装置により製造することができる。
【0034】
〔組成物〕
本発明のスパンボンド不織布を構成する組成物は、既述のように、(I)融点140℃以上のプロピレン単独重合体(以下、「特定ポリプロピレン」と称することがある)を組成物の全量に対して70.0質量%以上99.0質量%以下、および(II)ポリエチレンを組成物の全量に対して1質量%以上10質量%以下の範囲で含み、下記(III)重合体の含有量が組成物の全量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲である。
【0035】
融点140℃以上のプロピレン単独重合体の含有量は、組成物の全量に対して70.0質量%〜99.0質量%の範囲であることが好ましく、87.5質量%〜97.5質量%の範囲であることがより好ましい。
ポリエチレンの含有量は、組成物の全量に対して1.0質量%〜10.0質量%であることが好ましく、2.0質量%〜8.0質量%であることがより好ましい。
【0036】
このような組成物からなるスパンボンド不織布は、伸長性、柔軟性に優れ、加工時における不織布の幅落ちが小さく、経時変化が小さく、2次加工適性に優れる。
【0037】
(融点140℃以上のプロピレン単独重合体)
融点140℃以上のプロピレン単独重合体は、プロピレンに由来する構成単位を含み、融点が140℃以上である。融点は150℃以上であることが好ましい。
【0038】
特定ポリプロピレンは、ポリプロピレンの名称で製造又は販売されている結晶性樹脂であって、融点(Tm)が140℃上の樹脂であれば使用することができる。市販品としては、例えば、融点が155℃以上、好ましくは157℃〜165℃の範囲にあるプロピレンの単独重合体が挙げられる。
【0039】
特定ポリプロピレンは、溶融紡糸し得る限り、メルトフローレート(MFR:ASTMD−1238、230℃、荷重2160g)は特に限定はされないが、通常、1g/10分〜1000g/10分、好ましくは5g/10分〜500g/10分、さらに好ましくは10g/10分〜100g/10分の範囲にある。
特定ポリプロピレンは、組成物に1種のみを用いてもよく、融点、分子量、結晶構造などが互いに異なる2種以上を用いてもよい。
組成物の全量に対する特定ポリプロピレンの好ましい含有量は、既述のとおりである。
【0040】
(ポリエチレン)
本発明に用いうるポリエチレンは、エチレンに由来する構成単位を含むポリエチレンであれば特に制限はなく、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン(所謂HDPE)などのエチレン単独重合体等が挙げられる。
なかでも、組成物に用いるポリエチレンとしては、密度が0.941g/cm〜0.970g/cmの範囲にある高密度ポリエチレンであることが、伸長性、柔軟性、及び破断強度をより向上させる観点から好ましい。
ポリエチレンは、組成物に1種のみを用いてもよく、融点、分子量、結晶構造などが互いに異なる2種以上を用いてもよい。
組成物の全量に対するポリエチレンの好ましい含有量は、既述のとおりである。
【0041】
((III)で示す重合体:下記(a)〜(f)の要件を満たすプロピレン単独重合体)
(III)で示す重合体〔重合体(III)〕は、下記(a)〜(f)の要件を満たす重合体である。
(a)[mmmm]=20〜60モル%:
重合体(III)のメソペンタッド分率[mmmm]が20モル%以上であると、べたつきの発生が抑制され、60モル%以下であると、結晶化度が高くなりすぎることがないので、弾性回復性が良好となる。このメソペンタッド分率[mmmm]は、好ましくは30〜50モル%であり、より好ましくは40〜50モル%である。
【0042】
メソペンタッド分率[mmmm]、後述するラセミペンタッド分率[rrrr]およびラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠し、13C−NMRスペクトルのメチル基のシグナルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのメソ分率、ラセミ分率、およびラセミメソラセミメソ分率である。メソペンタッド分率[mmmm]が大きくなると、立体規則性が高くなる。また、後述するトリアッド分率[mm]、[rr]および[mr]も上記方法により算出される。
【0043】
なお、13C−NMRスペクトルの測定は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置及び条件にて行うことができる。
【0044】
装置:日本電子(株)製JNM−EX400型13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/ml
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
【0045】
[計算式]
M=m/S×100
R=γ/S×100
S=Pββ+Pαβ+Pαγ
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
Pββ:19.8〜22.5ppm
Pαβ:18.0〜17.5ppm
Pαγ:17.5〜17.1ppm
γ:ラセミペンタッド連鎖:20.7〜20.3ppm
m:メソペンタッド連鎖:21.7〜22.5ppm
【0046】
(b)[rrrr]/(1−[mmmm])≦0.1
[rrrr]/[1−mmmm]の値は、上記のペンタッド単位の分率から求められ、重合体(III)におけるプロピレン由来の構成単位の規則性分布の均一さを示す指標である。この値が大きくなると、既存触媒系を用いて製造される従来のポリプロピレンのように高規則性ポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの混合物となり、べたつきの原因となる。
重合体(III)において、[rrrr]/(1−[mmmm])が0.1以下であると、得られる弾性不織布におけるべたつきが抑制される。このような観点から、[rrrr]/(1−[mmmm])は、好ましくは0.05以下であり、より好ましくは0.04以下である。
【0047】
(c)[rmrm]>2.5モル%
重合体(III)のラセミメソラセミメソ分率[rmrm]が2.5モル%を超える値であると、該重合体(III)のランダム性が増加し、弾性不織布の弾性回復性がさらに向上する。[rmrm]は、好ましくは2.6モル%以上であり、より好ましくは2.7モル%以上である。その上限は、通常10モル%程度である。
【0048】
(d)[mm]×[rr]/[mr]≦2.0
[mm]×[rr]/[mr]は、重合体(III)のランダム性の指標を示し、この値が2.0以下であると、弾性不織布は十分な弾性回復性が得られ、かつべたつきも抑制される。[mm]×[rr]/[mr]は、0.25に近いほどランダム性が高くなる。上記十分な弾性回復性を得る観点から、[mm]×[rr]/[mr]は、好ましくは0.25を超え1.8以下であり、より好ましくは0.5〜1.5である。
【0049】
(e)質量平均分子量(Mw)=10,000〜200,000
プロピレン単独重合体である重合体(III)において質量平均分子量が10,000以上であると、該重合体(III)の粘度が低すぎず適度のものとなるため、組成物により得られるスパンボンド不織布の製造時の糸切れが抑制される。また、質量平均分子量が200,000以下であると、該重合体(III)の粘度が高すぎず、紡糸性が向上する。この質量平均分子量は、好ましくは30,000〜150,000であり、より好ましくは50,000〜150,000である。重合体(III)の質量平均分子量の測定法については後述する。
【0050】
(f)分子量分布(Mw/Mn)<4
重合体(III)において、分子量分布(Mw/Mn)が4未満であると、得られるスパンボンド不織布におけるべたつきの発生が抑制される。この分子量分布は、好ましくは3以下である。
上記質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)法により、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算の質量平均分子量であり、上記分子量分布(Mw/Mn)は、同様にして測定した数平均分子量(Mn)及び上記質量平均分子量(Mw)より算出した値である。
【0051】
[GPC測定装置]
カラム :TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C
[測定条件]
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0ml/分
試料濃度 :2.2mg/ml
注入量 :160μl
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0052】
重合体(III)は、さらに以下の(g)の要件を満たすことが好ましい。
(g)示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される融点(Tm−D)が0℃〜120℃である。
【0053】
重合体(III)の融点(Tm−D)が0℃以上であると、組成物により形成されるスパンボンド不織布のべたつきの発生が抑制され、120℃以下であると、十分な弾性回復性が得られる。このような観点から、融点(Tm−D)は、より好ましくは0℃〜100℃であり、更に好ましくは30℃〜100℃である。
【0054】
なお、上記融点(Tm−D)は、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC−7)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして求めることができる。
【0055】
重合体(III)は、例えば、国際公開第2003/087172号公報に記載されているような、いわゆるメタロセン触媒と呼ばれる均一系の触媒を用いて合成することができる。
【0056】
(添加剤)
組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、任意成分として、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等の種々公知の添加剤を含んでもよい。
【0057】
(1.脂肪酸アミド)
組成物には、炭素数15以上22以下の脂肪酸アミドを含有することが好ましい。組成物が脂肪酸アミドを含有することで、組成物により形成されるスパンボンド不織布の繊維表面に脂肪酸アミドが吸着し、繊維表面が改質されて柔軟性、感触、耐ブロッキング性等がより向上し、エンボス工程等で使用する装置内の各種回転機器等の部材への不織布繊維の付着がより効果的に抑制されると考えられる。
炭素数15以上22以下の脂肪酸アミドとしては、脂肪酸モノアミド化合物、脂肪酸ジアミド化合物、飽和脂肪酸モノアミド化合物、不飽和脂肪酸ジアミド化合物が挙げられる。
なお、本明細書における脂肪酸アミドの炭素数とは、分子中に含まれる炭素数を意味し、アミドを構成する−CONHにおける炭素も炭素数に含まれる。脂肪酸アミドの炭素数は、より好ましくは18以上22以下である。
組成物に使用しうる脂肪酸アミドとしては、具体的には、パルミチン酸アミド(炭素数16)、ステアリン酸アミド(炭素数18)、オレイン酸アミド(炭素数18)、エルカ酸アミド(炭素数22)などが挙げられる。
脂肪酸アミドは、組成物に1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
脂肪酸アミドの組成物の全量に対する含有量としては、効果の観点から、総量として0.1質量%〜5.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0058】
本発明のスパンボンド不織布は、既述の組成物の1種又は2種以上を用い、公知のスパンボンド法により製造することができる。
【0059】
既述の組成物を用いてスパンボンド不織布を製造する際の一般的な方法として、組成物を、押出機を用い溶融し、溶融した組成物を、複数の紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機を用いて溶融紡糸し、紡糸により形成された長繊維を必要に応じて冷却し延伸させた後、スパンボンド不織布成形機の捕集面上に堆積させ、エンボスロールで加熱加圧処理する方法が挙げられる。
冷却と延伸の方法は、例えば、特公昭48−28386号公報に開示された溶融紡糸された長繊維が大気中で冷却されながら延伸されることで製造される開放式スパンボンド法と、例えば、特許第3442896号公報に開示された密閉式スパンボンド法が広く知られている。
【0060】
図2は、不織布の原料である組成物を用いて、溶融紡糸された長繊維が大気中で冷却されながら延伸されることで製造される開放式スパンボンド法の概略図である。
本願におけるスパンボンド不織布は、経時変化が少なく、かつ得られた不織布の幅落ちが少ない点より、好ましくは開放式スパンボンド法により製造される。
開放式スパンボンド不織布成形機(押出機)1を用いる開放式スパンボンド法は、紡糸口金2を備えた押出機1の紡糸口金2から溶融した組成物が大気中に吐出されて長繊維3が形成され、長繊維3は大気中で、例えば、冷却風4により冷却されながらエアーサッカーで延伸される延伸工程、次いで捕捉装置6に堆積した不織布を一定の目付となるように調整しながら搬送する工程、シートとしての強度を発現するためにエンボス加工する工程(図示せず)を含むことができる。捕捉装置6には、図2に示す如き吸引装置7が設けられていてもよい。長繊維3は、捕捉装置6に到達して、スパンボンド不織布8が形成される。
【0061】
図3は、密閉式スパンボンド法の概略図である。密閉式スパンボンド法では、紡糸口金11から吐出された組成物は、密閉式スパンボンド成形装置の喉部12を通り、密閉された冷却室13にて冷却され、長繊維18が形成され、捕捉装置20に到達しスパンボンド不織布21が形成される。冷却室13には、ルーパ14を備えたブロワー15から、冷却風が冷却室13内に供給される。冷却風の冷却室13への供給量は、ブロワー15、ブロワー15へ送る冷却風を調整する切換弁19及びダンパー16の開閉により調整される。
【0062】
組成物の溶融温度は、紡糸に使用される組成物の軟化温度あるいは融解温度以上で且つ熱分解温度未満であれば特に限定はされず、用いる組成物の物性等により適宜決定すればよい。紡糸口金の温度は、用いる組成物に依存するが、前記組成物は、含有量が多いプロピレン含有重合体の物性を考慮すれば、180℃〜240℃であることが好ましく、190℃〜230℃がより好ましく、200℃〜225℃の温度に設定することがさらに好ましい。
【0063】
紡糸した長繊維を冷却する冷却風の温度は、組成物が固化する温度であれば特に限定はされない。一般的には、5℃〜50℃が好ましく、10℃〜40℃がより好ましく、15℃〜30℃の範囲であることがさらに好ましい。紡糸繊維をエアーにより延伸する場合のエアーの風速は、通常100〜10,000m/分、好ましくは500〜10,000m/分の範囲である。
【0064】
スパンボンド不織布の繊維は、一部を熱融着させてもよい。また、熱融着する前に、ニップロールを用いて、押し固めておいてもよい。
【0065】
〔不織布積層体〕
本発明のスパンボンド不織布は、単独で用いてもよい。また、目的に応じて本発明のスパンボンド不織布と他の層とを積層した不織布積層体とすることができる。不織布積層体は、スパンボンド不織布以外の他の層を1又は2以上有していてもよい。
【0066】
他の層として具体的には、編布、織布、本発明のスパンボンド不織布以外の不織布、フィルム等が挙げられる。本発明のスパンボンド不織布に他の層をさらに積層する(貼り合せる)方法は特に制限されず、熱エンボス加工、超音波融着等の熱融着法、ニードルパンチ、ウォータージェット等の機械的交絡法、ホットメルト接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤を用いる方法、押出しラミネート等の種々の方法を採り得る。
【0067】
本発明のスパンボンド不織布と積層して不織布積層体を形成しうる他の不織布としては、本発明のスパンボンド不織布以外のスパンボンド不織布、メルトブローン不織布、湿式不織布、乾式不織布、乾式パルプ不織布、フラッシュ紡糸不織布、開繊不織布等の、種々公知の不織布が挙げられる。これらの不織布は伸縮性不織布であっても、非伸縮性不織布であってもよい。ここで非伸縮性不織布とは、MD(不織布の流れ方向、縦方向)又はCD(不織布の流れ方向に直角の方向、横方向)に伸長後、戻り応力を発生させないものをいう。
【0068】
本発明のスパンボンド不織布と積層して不織布積層体を形成しうるフィルムとしては、不織布積層体が通気性を必要とする場合には、通気性フィルム、透湿性フィルムが好ましい。
通気性フィルムとしては、透湿性を有するポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーからなるフィルム、無機微粒子又は有機微粒子を含む熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸して多孔化してなる多孔フィルム等の、種々の公知の通気性フィルムが挙げられる。多孔フィルムに用いる熱可塑性樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、これらの組み合わせ等のポリオレフィンが好ましい。
また、不織布積層体が通気性を必要としない場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン等から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂のフィルムを用いることができる。
【0069】
不織布積層体の一部を熱融着する場合の熱融着方法としては、種々公知の方法、例えば、超音波等の手段を用いる方法、あるいはエンボスロールを用いる熱エンボス加工又はホットエアースルーを用いることがプレボンディングとして例示できる。なかでも、熱エンボス加工が、延伸する際に、長繊維が効率よく延伸されるので好ましい。
【0070】
熱エンボス加工により不織布積層体の一部を熱融着する場合は、通常、エンボス面積率が5%〜30%、好ましくは5%〜20%、非エンボス単位面積が0.5mm以上、好ましくは4mm〜40mmの範囲である。
非エンボス単位面積とは、四方をエンボス部で囲まれた最小単位の非エンボス部において、エンボスに内接する四角形の最大面積である。また刻印形状は、円、楕円、長円、正方、菱、長方、四角やそれら形状を基本とする連続した形が例示される。
【0071】
得られた不織布積層体を延伸することによって、伸縮性を有する伸縮性不織布積層体とすることができる。
延伸加工の方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。延伸加工の方法は、部分的に延伸する方法であってもよく、全体的に延伸する方法であってもよい。また、一軸延伸する方法であっても、二軸延伸する方法であってもよい。機械の流れ方向(MD)に延伸する方法としては、たとえば、2つ以上のニップロールに部分的に融着した混合繊維を通過させる方法が挙げられる。このとき、ニップロールの回転速度を、機械の流れ方向の順に速くすることによって部分的に融着した不織布積層体を延伸できる。また、ギア延伸装置を用いてギア延伸加工することもできる。
【0072】
延伸倍率は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であり、且つ、好ましくは200%以下、より好ましくは100%以下である。
【0073】
一軸延伸の場合には、機械の流れ方向(MD)の延伸倍率、又はこれに垂直であり不織布の主面に平行な方向(CD)のいずれかが上記延伸倍率を満たすことが好ましい。二軸延伸の場合には、機械の流れ方向(MD)とこれに垂直な方向(CD)のうち、少なくとも一方が上記延伸倍率を満たすことが好ましい。
【0074】
このような延伸倍率で延伸加工することにより、スパンボンド不織布における弾性を有する長繊維は延伸され、延伸性を有しない長繊維は、塑性変形して、上記延伸倍率に応じて伸長される。また、積層される他の層においても、同様に弾性を有する層は弾性変形し、弾性を有しない層は塑性変形する。
不織布積層体を形成する際に、弾性を有する層と有しない層とを積層して、延伸した後、応力が解放されると、弾性を有する層(層を構成する長繊維)は弾性回復し、弾性を有しない長繊維は、弾性回復せずに褶曲し、不織布積層体に嵩高感を発現させることができる。塑性変形した長繊維は細くなるので柔軟性及び触感が良くなるとともに、不織布積層体に伸び止り機能を付与することができる。
【0075】
<衛生材料>
本発明の衛生材料は、本発明のスパンボンド不織布を含む。
本発明のスパンボンド不織布は、伸長性、柔軟性に優れ、加工時における不織布の幅落ちが小さく、経時変化が小さく、2次加工適性に優れる。そのため、本発明のスパンボンド不織布は、衛生材料に好適に用いられる。
紙おむつ、生理用ナプキン、衛生マスク等の衛生材料の製造工程において、柔軟性を付与するためにギア延伸加工を施すことがある。本発明のスパンボンド不織布は、適度な伸長性を有するうえで延伸加工時の発生応力も少なく、ギア延伸加工後の穴あき発生量が少ない。そのため、ギア延伸加工後のスパンボンド不織布の触感がより良好となり、またスパンボンド不織布と他部材を貼り付ける際に用いるホットメルト接着剤が穴を通過することによる製造ラインの汚染も少なく好ましい。また、優れたMD5%強度を有するために、スパンボンド不織布を加工する際の幅落ちが小さく好ましい。したがって、既述の本発明のスパンボンド不織布を用いることで、柔軟な風合いを維持しながら、高い生産性で製造することができることも本発明の衛生材料における利点の一つである。
【0076】
衛生材料としては、紙おむつ、生理用ナプキン等の吸収性物品、包帯、医療用ガーゼ、タオル等の医療用衛生材用、衛生マスク等が挙げられる。本発明のスパンボンド不織布が含まれうる衛生材料はこれらに制限されず、伸長性、柔軟性を求められる各種の衛生材料用途のいずれにも好適に使用しうる。
衛生材料は、本発明のスパンボンド不織布を、本発明のスパンボンド不織布とその他の層とを含む不織布積層体として含んでいてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
【0078】
(1)目付〔g/m
スパンボンド不織布から300mm(MD)×250mm(CD)の試験片を10点採取した。なお、採取場所は任意の10箇所とした。次いで、採取した各試験片を、上皿電子天秤(研精工業社製)を用いて、それぞれ質量(g)を測定し、各試験片の質量の平均値を求めた。求めた平均値から1m当たりの質量(g)に換算し、小数点第2位を四捨五入して、不織布の目付〔g/m〕とした。
【0079】
(2)最大伸度
JIS L 1906(6.12.1 A法)に準拠して、JIS Z 8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で流れ方向(MD)に150mm、横方向(CD)に25mmの不織布試験片を5枚採取し、チャック間100mm、引張速度100mm/分の条件で引張り試験機(インストロン ジャパン カンパニイリミテッド製 インストロン5564型)を用いて引張試験を行い、5枚の試験片について引張荷重を測定し、それらの最大値における伸度を最大伸度とした。
【0080】
(3)MD5%強度を不織布の目付で割った値
スパンボンド不織布の流れ方向(MD)について(2)最大伸度と同手順で引張試験を行い、5枚の試験片についてチャック間が105mm(引張試験開始状態である100mmから5%延伸された状態)のときの引張荷重の平均値をMD5%強度とした。得られたMD5%強度を、既述の(1)に記載の方法で測定した不織布の単位面積あたりの重量である目付で割り、本発明におけるMD5%強度を不織布の目付で割った値とした。
【0081】
(4)50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値
JIS L 1906(6.12.1 A法)に準拠して、JIS Z 8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で流れ方向(MD)に60mm、横方向(CD)に50mmの不織布試験片を5枚採取し、チャック間10mm、引張速度500mm/分の条件で引張り試験機(インストロン ジャパン カンパニイリミテッド製 インストロン5564型)を用いて引張試験を行った。得られた引張試験のカーブで、変位(横軸)をチャック間10mm(引張試験開始時)〜15mm(50%延伸時)にて60領域に等分割し、各領域における引張荷重(縦軸)の平均値を算出した。各領域における変位(横軸)変動量と引張荷重(縦軸)で囲まれる面積(長方形)を各領域における応力積分値とし、60領域分の応力積分値を足すことで、50%延伸時の応力積分値の積算値を算出した。得られた50%延伸時の応力積分値の積算値を、既述の(1)に記載の方法で測定した不織布の目付で割り、本発明における50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値とした。
【0082】
(5)ギア延伸加工後の穴あき発生量〔個/cm
図1に示す態様のギア加工機のロール回転方向と、不織布のMD方向とが一致するように、ギア加工機のロール間に不織布を挿入し、CD方向(不織布の流れ方向に90°対向した向き)にギア延伸された不織布を得た。なお、ギア加工機に搭載されるギアロールは各々直径が200mm、ギアピッチが2.5mmであり、両ロールの噛み合い深さを2.6mmとなるように調整し、ライン速度は15mm/分とした。
上記のようにして得たギア延伸された不織布について16cmを目視検査して穴あき個数をカウントし、下記の式を用いることで延伸加工による穴あき個数を算出した。
延伸加工時の穴あき個数〔個/cm〕=穴あき個数の総数/検査面積
【0083】
(6)一か月保管前後のギア加工後の穴あき発生量増加率〔%〕
温度20±10℃、湿度65±30%の状態で不織布を保管し、その後、上記の(5)と同手順で延伸加工時の穴あき個数〔個/cm〕を評価することで、一か月保管後不織布を用いた延伸加工時の穴あき個数〔個/cm〕を算出した。
得られた値を、上記(5)の結果である保管前の穴あき発生量と対比して、1ヶ月保管後、即ち経時後の穴あき発生量の増加率〔%〕を算出した。
【0084】
[実施例1]
<開放式スパンボンド法不織布の製造>
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度0.91g/cm、融点160℃のプロピレン単独重合体(I)97.3質量%と、MFR(ASTM D1238に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgで測定)5g/10分、密度0.95g/cm、融点134℃の高密度ポリエチレン重合体(II)2.5質量%と、エルカ酸アミド0.2質量%の混合物を、150mmφの押出機を用い溶融し、樹脂温度とダイ温度がともに243℃の条件で、紡糸口金を有する図2に示す開放式スパンボンド法不織布成形機を用いて溶融紡糸し、フィラメント群を大気に開放させ、その後、吸引圧力5.3KPaのエアーサッカーに吸引させることで延伸させた後、捕集面上に堆積させ、エンボスロールで加熱加圧処理(エンボス面積率(熱圧着率)6.7%、エンボス温度149℃)して、総目付量が17.0g/mである実施例1の開放式スパンボンド法不織布を作製した。
既述の方法で物性値を測定したところ、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が65N/(g/m)であり、MD5%強度を不織布の目付で割った値が0.26N/25mm/(g/m)であり、いずれも本発明の規定する範囲内の物性を有していた。
【0085】
<ギア延伸加工後の穴あき発生量>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。実施例1の開放式スパンボンド法不織布はギア延伸加工後の穴あき個数が少なく、延伸加工適性に優れていた。
<一か月保管前後のギア加工後の穴あき発生量増加率>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。実施例1の開放式スパンボンド法不織布は、一か月保管後もギア延伸加工後の穴あき発生量に増加が見られず、延伸加工適性の経時安定性が優れている。
【0086】
[実施例2]
<開放式スパンボンド法不織布>
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度0.91g/cm、融点160℃のプロピレン単独重合体(I)87.3質量%と、重合体(III)として出光興産(株)製S901 10質量%と、MFR(ASTM D1238に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgで測定)5g/10分、密度0.95g/cm、融点134℃の高密度ポリエチレン重合体(II)2.5質量%と、エルカ酸アミド0.2質量%の混合物を用い、実施例1と同様の方法により、実施例2の開放式スパンボンド法不織布を得た。
出光興産(株)製S901(商品名:表1には「S901」と記載)は、既述の(a)〜(f)を満たし、融点が120℃未満のプロピレン単独重合体である。
既述の方法で物性値を測定したところ、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が53N/(g/m)であり、MD5%強度を不織布の目付で割った値が0.26N/25mm/(g/m)であり、いずれも本発明の規定する範囲内の物性を有していた。
【0087】
<ギア延伸加工後の穴あき発生量>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。実施例2の開放式スパンボンド法不織布はギア延伸加工後の穴あき個数が少なく、延伸加工適性に優れていた。
<一か月保管前後のギア加工後の穴あき発生量増加率>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。実施例2の開放式スパンボンド法不織布は、一か月保管後もギア延伸加工後の穴あき発生量に増加が見られず、延伸加工適性の経時安定性が優れている。
【0088】
[比較例1]
<密閉式スパンボンド法不織布の製造>
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度0.91g/cm、融点160℃のプロピレン単独重合体(I)71.7質量%と、出光興産(株)製S901〔重合体(III)〕20質量%と、MFR(ASTM D1238に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgで測定)5g/10分、密度0.95g/cm、融点134℃の高密度ポリエチレン重合体(II)8質量%と、エルカ酸アミド0.3質量%の混合物を、75mmφの押出機を用い溶融し、孔数2557ホールの紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機(捕集面上の機械の流れ方向に垂直な方向の長さ:800mm)を用いて、樹脂温度とダイ温度がともに220℃、冷却風温度20℃、延伸エアー風速5233m/分の条件で図3に示される密閉式スパンボンド法により溶融紡糸を行い、捕集面上に堆積させ、エンボスロールで加熱加圧処理(エンボス面積率(熱圧着率)18%、エンボス温度95℃)して、総目付量が18.0g/mである比較例1のスパンボンド不織布を作製した。
既述の方法で物性値を測定したところ、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が39N/(g/m)であり、本発明の規定する範囲内であったが、MD5%強度を不織布の目付で割った値が0.17N/25mm/(g/m)であり、本発明の規定の範囲外であった。
【0089】
<ギア延伸加工後の穴あき発生量>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。比較例1の記密閉式スパンボンド不織布は延伸加工後の穴あき個数が少なく、延伸加工適性に優れていた。
<一か月保管前後のギア加工後の穴あき発生量増加率>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。比較例1の密閉式スパンボンド不織布は、保管前の穴あき発生量に対し、一か月保管後の延伸加工後の穴あき発生量に増加が見られ、延伸加工適性の経時安定性が低い。
【0090】
[比較例2]
<開放式スパンボンド法不織布の製造>
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度0.91g/cm、融点160℃のプロピレン単独重合体(I)99.8質量%とエルカ酸アミド0.2質量%の混合物を、エンボスロールで加熱加圧処理(エンボス面積率(熱圧着率)6.7%、エンボス温度169℃)をした以外は実施例1と同様の方法で、比較例2の開放式スパンボンド法不織布を得た。
既述の方法で物性値を測定したところ、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が99N/(g/m)であり、本発明の規定の範囲外であった。MD5%強度を不織布の目付で割った値は0.36N/25mm/(g/m)であり、本発明の規定の範囲内であった。
【0091】
<ギア延伸加工後の穴あき発生量>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が70N/(g/m)を超える比較例2の開放式スパンボンド法不織布はギア延伸加工後の穴あき発生量が多く、延伸加工適性が不十分である。
<一か月保管前後のギア加工後の穴あき発生量増加率>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。比較例2の開放式スパンボンド法不織布は、保管前の穴あき発生量と同様に、一か月保管後もギア延伸加工後の穴あき発生量が多い。
【0092】
[比較例3]
<開放式スパンボンド法不織布の製造>
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度0.91g/cm、融点160℃のプロピレン単独重合体(I)89.8質量%と、出光興産(株)製S901〔重合体(III)〕10質量%と、エルカ酸アミド0.2質量%の混合物を用いて、実施例1と同様の方法で、比較例3の開放式スパンボンド法不織布を得た。
既述の方法で物性値を測定したところ、50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が79N/(g/m)であり、本発明の規定の範囲外であった。MD5%強度を不織布の目付で割った値は0.35N/25mm/(g/m)であり、本発明の規定の範囲内であった。
【0093】
<ギア延伸加工後の穴あき発生量>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。50%延伸時の応力積分値の積算値を不織布の目付で割った値が70N/(g/m)を超える比較例3の開放式スパンボンド法不織布はギア延伸加工後の穴あき発生量が多く、延伸加工適性が不十分である。
<一か月保管前後のギア加工後の穴あき発生量増加率>
ギア延伸加工後の穴あき発生量を評価した結果を表1に示す。比較例3の開放式スパンボンド法不織布は、保管前の穴あき発生量と同様に、一か月保管後もギア延伸加工後の穴あき発生量が多い。
【0094】
【表1】
【0095】
上記表1に示すように、実施例1〜実施例2の開放式スパンボンド法不織布は、いずれも伸長性、柔軟性に優れ、加工時における不織布の幅落ち及び経時変化が抑制され、2次加工適性に優れる。これらの評価結果より、本発明のスパンボンド不織布は、伸長性、柔軟性、及び加工適性を必要とする衛生材料の用途に好適であることが分る。
【符号の説明】
【0096】
1・・・押出機
2・・・紡糸口金
3・・・長繊維
4・・・冷却風
6・・・捕捉装置
7・・・吸引装置
8・・・スパンボンド不織布
11・・・紡糸口金
12・・・喉部
13・・・冷却室
14・・・ルーパ
15・・・ブロワー
16・・・ダンパー
18・・・長繊維
19・・・切換弁
20・・・捕捉装置
21・・・スパンボンド不織布
図1
図2
図3