特許第6715265号(P6715265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6715265
(24)【登録日】2020年6月10日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】膜内外pH勾配ベシクルを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20200622BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20200622BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20200622BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20200622BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20200622BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20200622BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20200622BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20200622BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20200622BHJP
   A61L 2/07 20060101ALI20200622BHJP
   B01J 13/12 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   A61K9/127
   A61K47/24
   A61K47/28
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61K47/18
   A61K47/04
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61P39/02
   A61K31/685
   A61K31/785
   A61K47/60
   A61K31/575
   C08J5/00CFG
   C08K5/521
   C08K5/05
   C08L71/00 Y
   A61L2/07
   B01J13/12
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-557435(P2017-557435)
(86)(22)【出願日】2016年5月3日
(65)【公表番号】特表2018-519370(P2018-519370A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】EP2016059912
(87)【国際公開番号】WO2016177741
(87)【国際公開日】20161110
【審査請求日】2018年12月3日
(31)【優先権主張番号】15166247.5
(32)【優先日】2015年5月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】318003777
【氏名又は名称】フェルザンティス アーゲー
【氏名又は名称原語表記】VERSANTIS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ルロワ・ジャン−クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】フォルスター・ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】アゴストーニ,ヴァレンティナ
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−506240(JP,A)
【文献】 ACSNANO, 2010, Vol.4, No.12, pp.7552-7558,Supplementary information pp.1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/127
A61K 31/575
A61K 31/685
A61K 31/785
A61K 47/02
A61K 47/04
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/24
A61K 47/26
A61K 47/28
A61K 47/60
A61L 2/07
A61P 39/02
B01J 13/12
C08J 5/00
C08K 5/05
C08K 5/521
C08L 71/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程で構成される膜内外pH勾配ベシクルを製造する方法:
a)200mOsm/l以下の浸透圧を有する水性媒体において、両親媒性脂質および両親媒性ブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1つのマトリックス物質から作られたベシクルを調製する工程、
b)前記ベシクルを、前記工程a)の水性媒体の浸透圧より少なくとも200mOsm/l高い浸透圧を有するアルカリ性または酸性のバッファーと混合し、前記ベシクルに浸透圧ショックを適用して、バッファーが充てんされたベシクルを得る工程、
c)中和性溶液を加えることにより、バッファーが充てんされたベシクルを含んでいる、前記水性媒体およびアルカリ性または酸性バッファーの混合物を希釈し、アルカリ性または酸性バッファーと異なるpHを有する懸濁液バッファーに懸濁された、膜内外pH勾配ベシクルを得る工程、とを備える方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記工程a)で調製されたベシクルが殺菌され、前記工程b)を実行する前に殺菌されたベシクルが得られる、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記ベシクルは、前記工程b)を実行する前に第1の期間蓄えられる、方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、前記工程b)は、マトリックス物質の相転移温度未満の温度で実行される、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であって、前記工程b)は35℃以下で実行される、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法であって、アルカリ性または酸性バッファーの浸透圧は少なくとも250mOsm/lである、方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、水性媒体、および前記工程b)の終わりにバッファーで充填されたベシクルが懸濁されるアルカリ性または酸性バッファーの混合物は、少なくとも200mOsm/lの浸透圧を有する、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって、前記中和性溶液は250mOsm/l〜550mOsm/lの間の浸透圧を有する、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法であって、前記中和性溶液は、グリセリン、キシリトール、トリス、グルコース、マグネシウム塩、水酸化ナトリウム、ナトリウム塩類およびカルシウム塩からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を含む、方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法であって、膜内外pH勾配ベシクルを含んでいる懸濁液バッファーのpH値は、5.5〜8.5の範囲にある、方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法であって、前記水性媒体は、水、有機塩の水溶液、無機塩類の水溶液、有機物質の水溶液およびその組み合わせからなる群から選ばれる、方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法であって、前記マトリックス物質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホス
ホエタノール−アミン−N−[メトキシ(PEG)−2000]、コレステロール、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよびその組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1種である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前提部分による膜内外pH勾配ベシクル(小胞)を製造する方法に関し、請求項13の前提部分による膜内外pH勾配ベシクルに関し、および、請求項14の前提部分によるそのような膜内外pH勾配ベシクルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ベシクル(例えばリポソーム)の遠隔ローディング・キャパシティー(例えば膜内外pH勾配リポソーム)を利用した、静脈内投与(非特許文献1:Forster et al. Sci Transl Med 2014; 6: 258ra141)または腹腔内投与(非特許文献2:Forster at al. Biomaterials 2012; 33:3578-3585)は、医薬品過用の治療や内因性の代謝産物(例えば高アンモニア血)による中毒症状の治療のための興味あるアプローチとして最近評されている。これらのリポソームは内部区画を有する。内部区画は酸性またはアルカリ性バッファーを含む。また、内部区画により、イオン化状態中の有毒化合物の隔離を可能にする。この隔離は、内部区画と外部環境との間のpH勾配の存在によって行われる。
【0003】
先行技術によると、膜内外pH勾配リポソームは、一般に以下の方法で、調製される。まず、酸性またはアルカリ性媒体中で水和され、次いで滴定され(非特許文献3:Nichols and Deamer Biochimica et Biophysica Acta 1976; 455:269-271)、ゲルろ過により媒体交換(非特許文献4:Mayer et al. Biochimica et Biophysica Acta 1985; 816:294-302)、または透析(非特許文献5:Forster at al. Biomaterials 2012; 33:3578-3585)される。そして、そのリポソームは薬剤を封入する(encapsulate)ために速やかに使用される。
【0004】
先行技術によれば、これらのベシクルの滅菌は、封入された化合物を含んでいる最終処方物に対して行なわれる。しかしながら、生物的解毒剤のように、膜内外pH勾配が長期間維持されなければならない場合、および/またリポソームが高温下で殺菌される場合、このアプローチは適切ではない。確かに、経時的に、膜内外pH勾配は、リポソーム膜を横切る化学種の拡散および/または、脂質二分子膜(主としてリン脂質)の脂質成分の分解により減少する。さらに、滅菌処理法が熱により行われる場合(例えばオートクレーブ)、リポソーム構成成分(主としてリン脂質)の化学分解はアルカリまたは酸性下で加速しうる。
【0005】
スティーヴンズおよびリーによって記載されるこの問題への解決策(非特許文献6:Stevens and Lee Anticancer Res. 2003;23:439-442)によると、殺菌したフリーズドライのリポソームを準備し、その後、それを酸性またはアルカリ性媒体に懸濁し、続いて膜内外pH勾配を生成するために中和する。このアプローチは凍結乾燥工程を含んでいる。この工程は、一般に無菌状態の下でのリポソームの調製を意味するが、この方法は、高価であり、制御するのが困難になりうる方法、特に大量に冷凍乾燥する場合にそれが顕著である。したがって、このアプローチは産業的観点から理想的ではない。さらに、生物的解毒(例えば腹膜透析)の適用の場合のように、大量の脂質が使用される場合、複製可能な方法で凍結乾燥されたリポソームを高速で再懸濁することは問題になりうる。
【0006】
特許文献1(米国5,393,530)はリポソームベシクルをリモートローディングする方法を記載している。その結果、膜透過での充填は、低い浸透圧(浸透圧濃度)のリポソーム溶液を封入される物質と混合することにより達成される。その後、その混合物は、膜不安定化を達成し、かつベシクルの内相に物質を組み入れるためにリポソームベシクルを構築する脂質の膜脂質遷移温度(Tc)よりも高い温度で加熱される。
【0007】
バートランドら(非特許文献7:ACS nano 2010; 4: 7552-7558)は、酸性のバッファーが第1工程でリポソームに封入される、膜内外pH勾配リポソームを形成する方法を記載している。第2工程では、リポソームの周囲の外部バッファーが交換され、形成されたリポソームの内相と外相の間で膜内外pH勾配が確立される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国5,393,530
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Forster et al. Sci Transl Med 2014; 6: 258ra141
【非特許文献2】Forster at al. Biomaterials 2012; 33:3578-3585
【非特許文献3】Nichols and Deamer Biochimica et Biophysica Acta 1976; 455:269-271
【非特許文献4】Mayer et al. Biochimica et Biophysica Acta 1985; 816:294-302
【非特許文献5】Forster at al. Biomaterials 2012; 33:3578-3585
【非特許文献6】Stevens and Lee Anticancer Res. 2003;23:439-442
【非特許文献7】ACS nano 2010; 4: 7552-7558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、先行技術で記載されたことがない、単純な方式で安定した膜内外pH勾配ベシクルを作ることができる製造方法を提供することを目的とする。特に、前記製造方法は、工業的応用が可能であるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1の特徴を有する膜内外pH勾配ベシクルを調製する方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記方法は、下記に説明される工程で構成される。第1工程(または工程a)では、少なくとも1つのマトリックス物質から作られたベシクルは、200mOsm/l以下の浸透圧を有する水性媒体中に準備されている。一実施態様では、水性媒体の浸透圧は150mOsm/l以下、特に100mOsm/l以下、特に75mOsm/l以下、特に50mOsm/l以下、特に25mOsm/l以下、特に10mOsm/l以下、特に5mOsm/l以下、特に1mOsm/l以下である。一実施態様では、浸透圧は1mOsm/l〜200mOsm/lの範囲にある。あるいは前述の浸透圧のうちのいずれかから構築された範囲(10mOsm/l〜150mOsm/lなど)にある。
【0013】
第2工程(または工程b)では、前記ベシクルは、工程a)の水性媒体の浸透圧より少なくとも200mOsm/l高い浸透圧を有するアルカリ性または酸性バッファーと混合され、前記ベシクルに浸透圧ショック(osmotic shock)を加え、バッファー充填ベシクルが得られる。一実施態様では、アルカリ性または酸性バッファーの浸透圧は、工程aの水性媒体の浸透圧より少なくとも220mOsm/l高い、特に少なくとも250mOsm/l高い、特に少なくとも300mOsm/l高い、特に少なくとも350mOsm/l高い、特に少なくとも400mOsm/l高い、特に少なくとも450mOsm/l高い、特に少なくとも500mOsm/l高い、特に少なくとも550mOsm/l高い浸透圧である。一実施態様では、アルカリ性または酸性バッファーの浸透圧は、工程a)の水性媒体の浸透圧より200mOsm/l〜550mOsm/l高い範囲にあるか、あるいは前述の浸透圧のうちのいずれかから構築された範囲(220mOsm/l〜500mOsm/lなど)にある。
【0014】
したがって、アルカリ性または酸性バッファーは、第1工程の中で使用した水性媒体に対して超浸透のバッファーである。それにより、浸透圧ショックは、ベシクルに即座で適用される。この浸透圧ショックによって、ベシクル内に、酸性またはアルカリ性バッファーが組み込まれる。したがって、浸透圧ショックによりベシクルは短期間不安定化し、ベシクルにバッファーを導入することが可能となる。バッファーが充てんされたベシクルが得られる。一実施態様では、超浸透圧バッファーは、さらに電解質を含んでもよく、この電解質は、浸透圧を調整するか、または生理機能をもたらすために使用される。
【0015】
浸透圧ショックを達成する観点から、十分な量のアルカリ性または酸性バッファーが水性媒体中に懸濁されたベシクルに加えられる点が注意する必要がある。水性媒体の浸透圧、および酸性またはアルカリ性バッファーの浸透圧の違いに応じて適宜設定されるが、十分な量とは、第1工程の中で使用される水性媒体の体積の少なくとも0.1倍、特に少なくとも0.3倍、特に少なくとも0.5倍、特に少なくとも0.8倍、特に少なくとも1.5倍、特に少なくとも2倍、特に少なくとも2.5倍、特に少なくとも3倍および特に少なくとも5倍に相当する体積であってもよい。一実施態様では、アルカリ性または酸性バッファーは、水性媒体のボリュームと等しいボリュームで加えてもよい。一実施態様では、加えられるアルカリ性または酸性バッファーのボリュームは、水性のベシクルの懸濁液(aqueous vesical suspension)の0.1倍〜5倍の体積であるか、あるいは前述の値から構築できる他のいかなる範囲(0.3倍〜3倍など)であってもよい。
【0016】
一実施態様では、超浸透バッファーのpH値は、pH1〜pH6.9、特にpH1.5〜pH6.5、特にpH2.0〜pH6.0、特にpH2.5〜pH5.5、特にpH3.0〜pH5.0、特にpH3.5〜pH4.5、特にpH3.0〜pH3.5の範囲であってもよい。
【0017】
一実施態様では、超浸透バッファーのpH値はpH7.1〜pH14、特にpH7.5〜pH13.5、特にpH8.0〜pH13.0、特にpH8.5〜pH12.5、特にpH9.0〜pH12.0、特にpH9.5〜pH11.5、特にpH10.0〜pH11.0、特にpH10.5〜pH11.0の範囲にあってもよい。
【0018】
一実施態様では、超浸透バッファーは、錯化剤あるいはキレート剤などの付加的な化学薬品を含むことができる。
【0019】
第3工程では、バッファーが充てんされたベシクルを含んでいる、水性媒体およびアルカリ性または酸性バッファーの混合物は、中和性水溶液を加えることにより希釈される。アルカリ性または酸性バッファーと中和溶液との混合物により、懸濁液バッファー(suspension buffer)が形成される。したがって、希釈の後、懸濁液バッファー中に懸濁した、膜内外pH勾配ベシクルが得られる。その結果、懸濁液バッファーのpHは、バッファーが充てんされたベシクルに含まれるアルカリ性または酸性バッファーのpHとは異なる。一実施態様におけるpHの差は、少なくとも1pH単位、特に少なくとも1.5pH単位、特に少なくとも2pH単位、特に少なくとも2.5pH単位、特に少なくとも3pH単位、特に少なくとも3.5pH単位、特に少なくとも4pH単位、特に少なくとも4.5のpH単位、特に少なくとも5pH単位、特に少なくとも5.5pH単位、特に少なくとも6pH単位、特に少なくとも6.5pH単位、特に少なくとも7pH単位である。
【0020】
一実施態様では、中和性溶液のpH値は、pH7.1〜pH14、特にpH7.5〜pH13.5、特にpH8.0〜pH13.0、特にpH8.5〜pH12.5、特にpH9.0〜pH12.0、特にpH9.5〜pH11.5、特にpH10.0〜pH11.0、特にpH10.5〜pH11.0の範囲にあってもよい。
【0021】
一実施態様では、中和性溶液のpH値は、pH1〜pH6.9、特にpH1.5〜pH6.5、特にpH2.0〜pH6.0、特にpH2.5〜pH5.5、特にpH3.0〜pH5.0、特にpH3.5〜pH4.5、特にpH3.0〜pH3.5の範囲にあってもよい。
【0022】
懸濁液バッファーと、アルカリ性または酸性のバッファーとのpHが異なるため、ベシクルの内相と周囲(外相)の懸濁液バッファーとの間で膜内外pH勾配が達成される。
【0023】
一実施態様では、第1工程で調製されたベシクルが殺菌され、その結果、殺菌されたベシクルまたは殺菌されたベシクルを含む液体(liquid solution)が得られる。その後、これらの殺菌されたベシクルを使用して、上に説明された製造方法の第2工程が行なわれる。この第2工程では、一実施態様の中で、殺菌されたアルカリ性または酸性バッファーが使用される。そうすることにより、完全に無菌のバッファー充填ベシクルまたはバッファーが充てんされたベシクルを含む完全無菌液を調製することができる。滅菌は、例えば濾過滅菌またはオートクレーブにより実行される。
【0024】
別の実施態様では、ベシクルは第1の期間に保管され、次いで、ベシクル(またはベシクル含有液)をアルカリ性または酸性のバッファーと混合する工程が行なわれる。第1調製工程の後にベシクルが殺菌される場合、その後、殺菌されたベシクル懸濁液では、分解が全くまたはほとんど生じないので、このような保管は、適宜適した方式で遂行することができる。第1の期間は、1日、2〜3日、1週間、または数週間、1か月どころか数か月であってもよい。水性媒体に含まれる、殺菌されたベシクルは、安定した存在であることに注目するべきである。殺菌されたベシクル懸濁液は、後の段階やベシクルを使用する段階のような特定の酸性またはアルカリ性バッファーをまだ含んでいないので、ベシクルのベシクル分解または漏出によるバッファー・ロスを心配しなくてもよい。これはさらに一実施態様において、ベシクルが電解質分子を少ない量で含む場合もあてはまる。なぜならその場合、ベシクル内の浸透圧が1mOsm/l〜200mOsm/lの間にあるためである。さらに、ベシクルが貯蔵中に水性媒体に維持されるので、ベシクルの凍結乾燥の場合に発生するような不利益が生じない。
【0025】
アルカリ性または酸性バッファーの導入は、強い浸透圧ショックによって達成されるので、温度を上げてベシクル不安定化を行う必要はない。特に、ベシクルを調製するために使用されたマトリックス物質の遷移温度を超える温度にベシクルを加熱することは必要ではない。脂質がマトリックス物質として使用される場合、膜脂質相転移温度を上まわる温度でベシクルにバッファーを組み入れる工程を行なう必要はないことは、むしろ驚くべきことである。
【0026】
したがって、一実施態様では、本発明の方法の第2工程は、マトリックス物質の相転移温度未満である温度で行なわれる。脂質がマトリックス物質として使用される場合、そのような相転移温度は膜脂質遷移温度になりえる。
【0027】
一実施態様では、方法の第2工程は35℃以下、特に30℃以下、特に25℃以下、特に20℃以下、特に15℃以下、特に10℃以下の温度で行なわれる。例えば、第2工程を行なうための適した温度範囲は15〜35℃である。さらに、所望で、前述の温度を使用するさらなる温度範囲(例えば10〜30℃など)を構築することができる。別の実施態様では、生産方法全体が、前述の温度または温度範囲(滅菌処理法、特にすなわちオートクレーブ法を除外するいくつかの実施態様において)で実行される。
【0028】
一実施態様では、中和性溶液は250mOsm/l〜550mOsm/l、特に270〜520mOsm/lの、特に290〜500mOsm/lの、特に300〜480mOsm/lの、特に320〜450mOsm/lの、特に330〜420mOsm/lの、特に350〜400mOsm/lの間の浸透圧を有する。
【0029】
一実施態様では、中和性溶液は、バッファーを含むベシクル(つまりバッファーを含むベシクル溶液)を含んでいる混合物の浸透圧より、200mOsm/l未満で高いまたは低い浸透圧、特に、150mOsm/l未満で高いまたは低い浸透圧、特に、100mOsm/l未満で高いまたは低い浸透圧、特に、50mOsm/l未満で高いまたは低い浸透圧、特に、20mOsm/l未満で高いまたは低い浸透圧、特に、10mOsm/l未満で高いまたは低い浸透圧を有する。一実施態様では、中和性溶液と、バッファーを含むベシクルを含んでいる混合物との間の浸透圧の差は、1mOsm/l〜200mOsm/l、特に10mOsm/l〜150mOsm/lの間、特に20mOsm/l〜100mOsm/lの間、特に30mOsm/l〜80mOsm/lの間、特に40mOsm/l〜60mOsm/lの間にある。
【0030】
一実施態様では、超浸透のバッファーの浸透圧は250mOsm/l以上、特に300mOsm/l以上、特に350mOsm/l以上、特に400mOsm/l以上、特に450mOsm/l以上、特に500mOsm/l以上、特に550mOsm/l以上、特に600mOsm/l以上、特に700mOsm/l以上、特に800mOsm/l以上、特に900mOsm/l以上、特に1000mOsm/l以上、特に1100mOsm/l以上、特に1200mOsm/l以上、特に1300mOsm/l以上、特に1400mOsm/l以上、特に1500mOsm/l以上、特に1600mOsm/l以上、特に1700mOsm/l以上、特に1800mOsm/l以上、特に1900mOsm/l以上、特に2000mOsm/l以上である。一実施態様では、浸透圧は250mOsm/l〜2000mOsm/lの範囲にある。あるいは前述の浸透圧から構築された範囲(300mOsm/l〜1400mOsm/lなど)にある。
【0031】
一実施態様では、水性媒体、およびアルカリ性または酸性のバッファー(バッファー充填ベシクルが懸濁されたバッファー)の混合物は、工程b)の終わりにおいて、少なくとも200mOsm/lの、特に少なくとも220mOsm/lの、特に少なくとも250mOsm/lの、特に少なくとも300mOsm/lの、特に少なくとも350mOsm/lの、特に少なくとも400mOsm/lの、特に少なくとも450mOsm/lの、特に少なくとも500mOsm/lの、特に少なくとも550mOsm/lの浸透圧を有する。一実施態様では、浸透圧は200mOsm/l〜550mOsm/lの範囲にある。あるいは前述の浸透圧から構築された範囲(220mOsm/l〜500mOsm/lなど)にある。
【0032】
一実施態様では、中和性溶液は、バッファー充填ベシクルを破裂させない組成を有し、これらのベシクルが不安定になるのを抑制する。中和性溶液は中和性化合物(弱塩基または弱い酸のようなアルカリ性または酸性物質)を含んいてもよいし、さらに、浸透圧を調節し、および/または生理的機能を提供できる化学薬品を含んでいてもよい。グリセリンおよびトリス((ヒドロキシメチル)アミノメタン)(TRIS:トリス)を中和性溶液に添加すると、特に興味深いことに、カルシウム塩をより高い濃度で混和できることが見出された。カルシウム塩は、弱酸(例えばクエン酸)の抗凝固効果を打ち消すために調製工程で加えることができる。これは特に、ベシクルが、生体内の適用の中で使用されることになっている点から重要である。水酸化ナトリウム、ナトリウム塩類(NaClなど)、マグネシウム塩、乳酸塩、グリセリン、イコデキストリン、グルコース、ソルビトール、フルクトース、アミノ酸またはキシリトールも、中和性溶液の成分として使用することができる。
【0033】
一実施態様では、膜内外pH勾配ベシクルを含んでいる懸濁液バッファーのpH値は、5.5〜8.5の、特に6.0〜8.0の、特に6.5〜7.7の、特に6.8〜7.5の、特に7.0〜7.4の範囲にある。したがって、懸濁液バッファーは生理的なpH値を有していてもよい。
【0034】
一実施態様では、水性媒体は酸でも塩基でもなく、約7のpH値(例えば6.0〜7.5の範囲)、特に6.1〜7.4の、特に6.2〜7.3の、特に6.3〜7.2の、特に6.4〜7.1の、特に6.5〜7.3の、特に6.6〜7.3の、特に6.7〜7.3の、特に6.8〜7.3の、特に6.9〜7.1の、特に6.95〜7.01の、特に7.0のpH値を有している。したがって、水性媒体は、また、中性の水性媒体として呼ぶことができる。
【0035】
一実施態様では、水性媒体は、水、有機塩の水溶液、無機塩の水溶液、有機物質の水溶液およびその組み合わせからなる群から選ばれる。
【0036】
一実施態様では、水性媒体は約pH7の有機塩の水溶液、約pH7の無機塩の水溶液、約pH7の有機物質の水溶液、水、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0037】
水は、例えば、蒸留水、脱イオン水、超純水または他の種類の純水であってもよい。有機塩、無機塩または他の有機化合物(有機物質)を使用する場合、これらの塩類または化合物は、水性媒体(一実施態様では低濃度)に存在し、水性媒体と超浸透のバッファーの間の浸透圧の差を維持して、ベシクル内部の区画の中へ、酸性またはアルカリ性の超浸透バッファーの拡散を引き起こすのに十分に大きな差によって、浸透圧ショックを引き起こす。
【0038】
水性媒体は、水に類似する媒体(特にpHに関して)であるが、塩類または化合物(例えば、中性の範囲でpH値をバッファーするための化合物)を低濃度で含んでいてもよい媒体である。一実施態様では、水性媒体の浸透圧は、0mOsm/l〜49mOsm/l、特に5mOsm/l〜45mOsm/lの間、特に10mOsm/l〜40mOsm/lの間、特に15mOsm/l〜35mOsm/lの間、特に20mOsm/l〜30mOsm/lの間、特に25mOsm/l〜28mOsm/lの間の範囲にある。
【0039】
一実施態様では、マトリックス物質は、両親媒性脂質および両親媒性ブロック共重合体からなる群から選ばれる。両親媒性脂質が使用される場合、リポソームはベシクルとして形成される。適したリポソームは、多層ベシクル(MLV)、小さな一枚膜ベシクル(SUV)および大きな一枚膜ベシクル(LUV)である。
【0040】
両親媒性ブロック共重合体が使用される場合、ポリマーソーム(polymersome)がベシクルとして形成される。適した両親媒性のブロック共重合体は線形のジブロックまたはトリブロック共重合体である。ブロック共重合体は、1つの疎水性ブロック、および1つまたは2つの他の親水性のブロックを有することができる。さらに、櫛形コポリマーも使用可能であり、そのような櫛形コポリマーのバックボーンブロックは親水性であり、くし枝部は疎水性であってもよい。さらに、樹状突起のデンドリマーブロック共重合体も使用可能であり、これらのコポリマーのデンドリマー部分は親水性であってもよい。すべての場合に、親水性のブロックはポリ(エチレングリコール)(PEG/PEO)またはポリ(2−エチルオキサゾリン)から作ることができる。さらに、すべての場合に、疎水性ブロックはポリ(ジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ラクチド)(PLA)またはポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)から作ることができる。
【0041】
一実施態様では、マトリックス物質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノール−アミン−N−[メトキシ(PEG)−2000](DSPE−PEG)、コレステロール、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC)およびその組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つの両親媒性脂質である。
【0042】
一構成では、本発明は、前記方法によって得ることができる膜内外pH勾配ベシクルに関する。これらの膜内外pH勾配ベシクルは先行技術から公知であるベシクルと、安定性において異なる。これは上に概説された特定の製造工程に起因する構造の違いによる。したがって、上述した方法により作られたベシクルは、先行技術から知られていない。
【0043】
一構成では、in vitroまたはin vivo(人間または動物(特に哺乳動物、げっ歯動物)における、解毒剤としてのこれらの膜内外pH勾配ベシクルの使用がクレームされる。膜内外pH勾配ベシクルは過剰服用された薬剤、毒(またはそれらの代謝産物)、または中毒を生じ得る高濃度の内因性の代謝産物などの望まれない物質を抽出し拘束するために使用することができる。膜内外pH勾配ベシクルによって吸収できる物質の例は、アンモニアとプロピオン酸である。in vivoまたはin vitroにおいて、溶液からアンモニアとプロピオン酸を取り除くことにより、アンモニアおよび/またはプロピオン酸からの、そのような溶液の解毒につながる。
【0044】
ここに開示された実施態様はすべて、任意の所望の方法で組み合わせることができる。
記載された方法の実施態様は、記載していたベシクルおよび記載していた使用について適用されてもよく、またその逆であってもよい。
なお、本発明は、態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
次の工程で構成される膜内外pH勾配ベシクルを製造する方法:
a)200mOsm/l以下の浸透圧を有する水性媒体において、両親媒性脂質および両親媒性ブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1つのマトリックス物質から作られたベシクルを調製する工程、
b)前記ベシクルを、前記工程a)の水性媒体の浸透圧より少なくとも200mOsm/l高い浸透圧を有するアルカリ性または酸性のバッファーと混合し、前記ベシクルに浸透圧ショックを適用して、バッファーが充てんされたベシクルを得る工程、
c)中和性溶液を加えることにより、バッファーが充てんされたベシクルを含んでいる、前記水性媒体およびアルカリ性または酸性バッファーの混合物を希釈し、アルカリ性または酸性バッファーと異なるpHを有する懸濁液バッファーに懸濁された、膜内外pH勾配ベシクルを得る工程、とを備える方法。
〔態様2〕
態様1に記載の方法であって、前記工程a)で調製されたベシクルが殺菌され、前記工程b)を実行する前に殺菌されたベシクルが得られる、方法。
〔態様3〕
態様1または2に記載の方法であって、前記ベシクルは、前記工程b)を実行する前に第1の期間蓄えられる、方法。
〔態様4〕
態様1〜3のいずれか一態様に記載の方法であって、前記工程b)は、マトリックス物質の相転移温度未満の温度で実行される、方法。
〔態様5〕
態様1〜4のいずれか一態様に記載の方法であって、前記工程b)は35℃以下で実行される、方法。
〔態様6〕
態様1〜5のいずれか一態様に記載の方法であって、アルカリ性または酸性バッファーの浸透圧は少なくとも250mOsm/lである、方法。
〔態様7〕
態様1〜6のいずれか一態様に記載の方法であって、水性媒体、および前記工程b)の終わりにバッファーで充填されたベシクルが懸濁されるアルカリ性または酸性バッファーの混合物は、少なくとも200mOsm/lの浸透圧を有する、方法。
〔態様8〕
態様1〜7のいずれか一態様に記載の方法であって、前記中和性溶液は250mOsm/l〜550mOsm/lの間の浸透圧を有する、方法。
〔態様9〕
態様1〜8のいずれか一態様に記載の方法であって、前記中和性溶液は、グリセリン、キシリトール、トリス、グルコース、マグネシウム塩、水酸化ナトリウム、ナトリウム塩類およびカルシウム塩からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質で構成される、方法。
〔態様10〕
態様1〜9のいずれか一態様に記載の方法であって、膜内外pH勾配ベシクルを含んでいる懸濁液バッファーのpH値は、5.5〜8.5の範囲にある、方法。
〔態様11〕
態様1〜10のいずれか一態様に記載の方法であって、前記水性媒体は、水、有機塩の水溶液、無機塩類の水溶液、有機物質の水溶液およびその組み合わせからなる群から選ばれる、方法。
〔態様12〕
態様1〜11のいずれか一態様に記載の方法であって、前記マトリックス物質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノール−アミン−N−[メトキシ(PEG)−2000]、コレステロール、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよびその組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1種である、方法。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明のさらなる構成および詳細が、図および以下の実施例を使用して説明される。
図1図1は、リポソーム水性懸濁液の一実施態様のHPLC電荷エーロゾル検出器(CAD)でのトレースを示す、ここで前記懸濁液は、蒸気滅菌法の前(上パネル)であって、蒸気滅菌法の後(下パネル)である。
図2図2は、蒸気滅菌法前後における、リポソームの一実施態様の相対的な脂質濃度を示す。
【0046】
[実施例1]
(リポソームの処方)
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC、類脂質)、コレステロール(Sigma-Aldrich)および、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノール−アミン−N−[メトキシ(PEG)−2000](DSPE−PEG、類脂質)が、85:14:1(mol%)で含まれるリポソームが、フィルム水和方法によって調製された。1685mgのDPPC、146mgのコレステロールおよび75mgのDSPE−PEGが、10mLのジクロロメタン:メタノール(95:5)(v/v)に共溶解された。有機溶媒は、次いでロータリーエバポレーションによって除去された。また、脂質フィルムは減圧下一晩維持された。乾いたフィルムが、加熱してゆっくり45分間56℃で混合しつつ27mLの超純水(脂質濃度=100mM)と水和され、そして、密封したボトルの中で、最後に121℃で20分オートクレーブにより殺菌した。
【0047】
(安定性)
加えられた熱による分解を評価するために、リポソームはオートクレーブ中で蒸気滅菌にさらされた。酸または塩基で満たされたリポソームが、それぞれ酸性またはアルカリ性の加水分解の対象であることは公知である。本発明で得られたリポソームは、蒸気滅菌法により全く劣化しなかった。
【0048】
図1に示されるように、HPLC電荷エーロゾル検出器(CAD)によるリポソーム水性懸濁液のトレースは、蒸気滅菌法(図1の上パネル)の前、および蒸気滅菌法(図1の下パネル)の後と、オーバーラップする。
【0049】
これらの結果は、リポソームの相対的な脂質濃度の評価によって確認される。図2に示すように、相対的な脂質濃度は蒸気滅菌法の前の相対的な脂質濃度と比較して、蒸気滅菌法の後でも安定していた。もし加水分解物が観察されれば、脂質濃度は減少していただろう。
【0050】
(浸透圧ショック)
得られたリポソームは、クエン酸(クエン酸一水化物)290mM、クエン酸カルシウム(クエン酸カルシウムの三塩基性のテトラハイドレード)55mMおよびHCl80mMを含んでいる、27mLのクエン酸塩バッファー400mM(pH2、700mOsm/l)において、30分間インキュベートされた。インキュベーションは、室温でオービタルシェーカーで行なわれた。
【0051】
(グラディエントの生成)
膜内外pH勾配は、280mMのトリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、Panreac Applichemおよび50mMの塩化カルシウム(無水塩化カルシウム、Merck Millipore)を含む、106mLの中和溶液(pH=10.6、410mOsm/l)で外部酸性媒体を中和することにより行われた。得られたリポソーム処方物(16.9mM、pH7.4、312mOsm/l)は、in vitroでのアンモニア吸収研究に使用された。
【0052】
(in vitroのアンモニア吸収)
37℃で維持されたサイドバイサイド拡散セルズ(PermGear)はHEPES緩衝食塩水(20mM、300mOsm/l)中のアンモニア吸収をモニターするために使用された。リポソームは、ポリカーボネート膜(細孔径=100nm、Steriltech)によってデュアルチャンバシステムの1方の側に物理的に分離された。拡散セル内のリポソームおよびアンモニア濃度はそれぞれ4.2mMおよび1.5mMだった。分配された時間に、50μLのアリコートがリポソームなしの区画からサンプリングされ、そのアンモニア濃度が、酵素分析(アンモニアの酵素キット、Sigma Aldrich)によって評価された。アンモニアの吸収量は次の方程式(式1および式2)によって計量された
【0053】
[式1]
吸収=(mmolアンモニアの封入量)/(mmol脂質)
=(mmolアンモニア合計−mmolアンモニア遊離)(mmol脂質)
[式2]
吸収(%)=(吸収)/(最大吸収)x100
=(吸収)/[(mmolアンモニア合計)(mmol脂質])]x100
【0054】
5時間のインキュベーション後、式2でに計算されたアンモニア吸収量は82±5%だった。
【0055】
[実施例2]
(リポソームの処方)
DPPC、コレステロールおよびDSPE−PEGからなるリポソームが、実施例1に記載されたように調製され殺菌された。
【0056】
(浸透圧ショック)
得られたリポソームは、クエン酸490mM、クエン酸カルシウム55mM、塩化ナトリウム(FischerScientific)125mMおよびHCl135mMを含む、13.5mLのクエン酸塩バッファー600mM(pH2、1040mOsm/l)で30分インキュベートされた。インキュベーションは、室温でオービタルシェーカーで行なわれた。
【0057】
(グラディエントの生成)
膜内外pH勾配は、トリス160mM、塩化カルシウム35mMおよび塩化ナトリウム100mMからなる119.5mLの中和溶液(pH10.6、440mOsm/l)でリポソームを希釈することにより行われた。最終的なリポソーム処方物(16.9mM、pH7.5)は、in vitroのアンモニア吸収の研究に使用された。
【0058】
(in vitroのアンモニア吸収)
in vitroでのアンモニア吸収は、実施例1に記載するように、サイドバイサイド拡散セルズを用いて調査された。5時間のインキュベーション後、リポソーム内の平均アンモニア吸収は92±8%だった。
【0059】
[実施例3]
(リポソームの処方)
DPPC、コレステロールおよびDSPE−PEGからなるリポソームが、実施例1に記載されたように調製され殺菌された。
【0060】
(浸透圧ショック)
浸透圧ショックは実施例2に記載したリポソームのインキュベートにより行なわれた。
【0061】
(グラディエントの生成)
膜内外pH勾配は、水酸化ナトリウム155mM、グリセリン210mM、塩化カルシウム20mM、およびトリス20mMからなる、119.5mLの中和溶液(pH=12.7、480mOsm/l)でリポソームを希釈することにより生成された。得られたリポソームの処方物(16.9mM)はpH6、341mOsm/lだった。
【0062】
(in vitroのアンモニア吸収)
in vitroでのアンモニア吸収は、実施例1に記載するように、サイドバイサイド拡散セルズを用いて調査された。5時間のインキュベーション後、平均アンモニア吸収は96±3%だった。
【0063】
[実施例4]
(リポソームの処方)
1−パルミトイル−2−oleoyl−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC、類脂質)、コレステロールおよびDSPE−PEGを54:45:1(mol%)で含むリポソームが、フィルム水和方法によって調製された。1108mgのPOPC、469mgのコレステロールおよび75mgのDSPE−PEGが、10mLのジクロロメタン:メタノール(95:5)(v/v)に共溶解された。有機溶媒は、次いでロータリーエバポレーションによって除去された。また、脂質フィルムは減圧下一晩維持された。乾いたフィルムが、加熱してゆっくり30分間56℃で混合しつつ27mLの超純水(脂質濃度=100mM)と水和され、そして、密封したボトル中で、最後に121℃で20分オートクレーブにより殺菌した。
【0064】
(浸透圧ショック)
浸透圧ショックは、リポソームに対し実施例2に記載したインキュベートによって行なわれた。
【0065】
(グラディエントの生成)
膜内外pH勾配は、水酸化ナトリウム150mM、グリセリン220mM、塩化カルシウム10mMおよびトリス20mMで作られた、119.5mLの中和溶液(pH=12.7、480mOsm/l)でリポソームを希釈することにより行われた。得られたリポソームの処方物(16.9mM)はpH7.4、350mOsm/lだった。
【0066】
(in vitroのアンモニア吸収)
in vitroでのアンモニア吸収は、実施例1に記載するように、サイドバイサイド拡散セルズを用いて調査された。5時間のインキュベーション後、アンモニア吸収は53.5±8.7%だった。
【0067】
[実施例5]
(リポソームの処方)
DPPC、コレステロールおよびDSPE−PEGからなるリポソームが、実施例1に記載されたように調製され殺菌された。
【0068】
(浸透圧ショック)
リポソームは、13.5mlの酢酸カルシウムバッファー(pH10、1050mOsm/l)を用いて、室温でオービタルシェーカの下で30分でインキュベートされた。前記バッファーは酢酸カルシウム(350mM)、水酸化ナトリウム(0.75mM)を含んでいた。
【0069】
(グラディエントの生成)
リポソームは、グリセリン230mM、塩化ナトリウム50mM、トリス20mMおよび酢酸20mMを含む33mlの溶液(pH=6.7、380mOsm/l)で希釈された。得られたリポソーム処方物(30mM、pH7、335mOsm/l)がプロピオン酸のin vitroでの吸収を調査するために使用された。
【0070】
(プロピオン酸のin vitroの吸収)
37℃で維持されたサイドバイサイド拡散セルズが用いられ、1%の[1−14C]プロピオン酸(50mCi/mmol、BIOTREND Chemikalien製)でラベルされたプロピオン酸溶液のin vitroでの吸収がモニターされた。リポソームは、ポリカーボネート膜(細孔径=100nm)によってデュアル・チャンバシステムの一方の側に物理的に分離された。HEPES緩衝食塩水(20mM、300mOsm/l)で希釈した後、拡散セルズ内のリポソーム濃度およびプロピオン酸濃度は、それぞれ4.2および1.5mMだった。割り付けられた時間間隔(6−30分、1−2−3−4−5h)で、50μLのアリコートがリポソームなしの区画からサンプリングされ、3mlのUltima Gold cocktail(Perking Elmer)と混合された。そして、各サンプル中の放射能活性(β崩壊)がシンチレーション計数(LS6500シンチレーション計数器、ベックマン)によって評価された。代謝産物濃度は減衰を検量線と比較することにより確定された。その線形性は31μΜから2mMの範囲内に確認された。プロピオン酸(PA)吸収の量は以下の式(式3および式4)によって計量された。
【0071】
[式3]
吸収=(mmolPAの封入量)/(mmol脂質)
=(mmolPA合計−mmolPA遊離)(mmol脂質)
[式4]
吸収(%)=(吸収)/(最大吸収)x100
=(吸収)/[(mmolPA合計)(mmol脂質])]x100
【0072】
5時間のインキュベーション後、式4で計算されたプロピオン酸の吸収は25±3%であった。
【0073】
[実施例6]
(リポソームの処方)
DPPC、コレステロールおよびDSPE−PEGからなるリポソームが調製され、上述(実施例1)したように殺菌された。
【0074】
(浸透圧ショック)
得られたリポソームは、クエン酸490mM、クエン酸カルシウム15mM、クエン酸ナトリウム(Sigma Aldrich)74mM、クエン酸マグネシウム(Applichem Panreac)6mM、塩化ナトリウム35mMおよびHCl178mMを含む13.5mLのクエン酸塩バッファー600mM(pH2、1050mOsm/l)とともに30分インキュベートされた。インキュベーションは、室温でオービタルシェーカーで行なわれた。
【0075】
(グラディエントの生成)
膜内外pH勾配は、水酸化ナトリウム43mM、キシリトール(ABCR Gmbh)260mM、塩化カルシウム1mM、トリス20mM、塩化ナトリウム15mMからなる、279.5mlの中和溶液(pH=12.6、360mOsm/l)でリポソームを希釈することにより行われた。得られたリポソーム処方物(8.4mM、pH6.4、350mOsm/l)は生体内のアンモニア吸収を調査するために使用された。
【0076】
(生体内のアンモニア吸収)
6体の成体オスのスピローグ・ドーリー・ラット(重さ約300g、Charles River Laboratories)を、5日かけて環境に順応させた。ラットは、食物と水をいつでも摂取でき、また、12hの明/暗サイクルに置かれた。実験の日に、新たに準備した透析溶液(16.7mM)を、あらかじめ37℃に暖め、イソフルラン麻酔(0.8mL/分酸素フロー中2.5%)の下におかれたラットの腹膜腔にゆっくり注入した(60mL/kg)。点滴注入は20ゲージ皮下注射針で行なわれた。割り付けられた時間において、ラットは簡単に麻酔をかけられ(前記と同様の条件の下で、イソフルラン吸入を使用)、約400μL透析物を、22ゲージ穿孔シリコーン・カテーテル(Venflon;Becton Dickinson)を備える無菌の腹腔穿刺により取り出された。アリコートは、直ちに液体窒素中で凍らせ、酵素分析(酵素のアンモニア分析、Sigma Aldrich)によって付加的なアンモニア含量を決定するため−80℃で維持された。分析を実行する前に、各サンプル(100μL)が3%のトリトン−X−100(50μL)で希釈され、超音波浴において5分間超音波で処理された。動物実験は、郡の獣医学当局(Kantonales Veterinaramt チューリッヒ)によって承認された手順とプロトコルに従って行なわれた。実験終了時に、動物を二酸化炭素窒息によって安楽死させ、続けて開胸術を行った。処理の4時間後に透析物サンプルで見つかった平均アンモニア濃度は、1.25±0.2mMだった。
図1
図2