(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対し、アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼと部分グリセリドリパーゼとを、それぞれ担体に固定化した固定化リパーゼとして同時に作用させて2.5〜50時間加水分解し、高度不飽和脂肪酸を含有する脂肪酸を得る工程、を含む高度不飽和脂肪酸の製造方法。
部分グリセリドリパーゼがペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)由来の部分グリセリドリパーゼである請求項1記載の高度不飽和脂肪酸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の高度不飽和脂肪酸の製造方法は、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対し、アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼと部分グリセリドリパーゼとを同時に作用させて加水分解し、高度不飽和脂肪酸を含有する脂肪酸を得る工程、を含む。
【0010】
本発明において、高度不飽和脂肪酸(PUFA)とは、二重結合を3個以上有する炭素数20以上の脂肪酸を意味する。具体的には、エイコサペンタエン酸(C20:5、EPA)、ドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)、アラキドン酸(C20:4、AA)等が挙げられ、ω3系高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸が好ましい。
【0011】
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂とは、少なくとも1つ以上の高度不飽和脂肪酸がグリセリンにエステル結合で付加しているグリセリドであり、トリグリセリド、モノグリセリド、ジグリセリド又はこれら2種以上の混合物である。尚、構成脂肪酸として高度不飽和脂肪酸が結合していないグリセリドが含まれていてもよい。
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂としては、一般的には、魚油、藻油等の微生物油が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。魚油とは、水産動物油脂であり、例えば、イワシ、ニシン、サンマ、サバ、カツオ、マグロ、クジラ、イカ、たら肝臓等の原料から採取することができる。また、藻油は、緑藻綱、珪藻綱等に属する藻類から採取することができる。これらは、酵素反応前に、不純物を除くために、適宜、液−液分液、濾過、遠心分離等公知の分離手段や精製手段を行なうのが好ましい。
また、油脂を構成する脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の比率を高めた所謂高度不飽和脂肪酸濃縮油を用いてもよい。構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の比率を高める方法としては、従来公知の方法、例えば、リパーゼを用いて高度不飽和脂肪酸以外の脂肪酸を優先的に遊離・除去する方法や溶剤分別法等が挙げられ、いずれの方法も使用できる。
また、市販されている高度不飽和脂肪酸含有油脂、高度不飽和脂肪酸濃縮油を用いてもよい。
【0012】
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂中、油脂を構成する全脂肪酸に対するDHAの含有量は、グリセリド中のDHA濃度を高くできる点から、10〜75質量%であることが好ましく、更に15〜65質量%、更に20〜55質量%であることが好ましい。なお、本明細書における脂肪酸量は遊離脂肪酸換算量である。
【0013】
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂は、ジグリセリドを0.1〜75質量%、更に0.5〜65質量%、更に1〜60質量%含有する油脂であるのが、DHAを濃縮しやすくする点から好ましい。
また、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂中、トリグリセリドの含有量は、25〜99.8質量%、更に35〜99.5質量%、更に40〜99質量%であるのが、同様の点から好ましい。
また、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂中、モノグリセリドの含有量は、0.01〜10質量%、更に0.1〜7質量%、更に0.5〜5質量%であるのが、同様の点から好ましい。
また、遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、油脂の工業的生産性、劣化抑制の点から、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂中に0.01〜10質量%が好ましく、更に0.02〜5質量%が好ましい。
【0014】
本発明で用いられる1,3−位を優先的に分解するリパーゼは、アルカリゲネス(Alcaligenes)属を起源とするリパーゼで、トリグリセリドのsn−1位とsn−3位に特異性を示す。
アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼの市販品としては、例えば、リパーゼQLM(名糖産業(株)製)がある。
【0015】
アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼは、当該リパーゼを担体に固定化した固定化リパーゼを用いることが、リパーゼ活性を有効利用できる点、コストの点から好ましい。リパーゼを固定化する固定化担体、固定化方法については後述する部分グリセリドリパーゼと共通である。
【0016】
本発明で用いられる部分グリセリドリパーゼは、モノグリセリド及びジグリセリドを加水分解するが、トリグリセリドを加水分解し難いリパーゼである。したがって、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に部分グリセリドリパーゼを作用させることで、主に油脂中の部分グリセリドが分解される。
部分グリセリドリパーゼとしては、ラット小腸、ブタ脂肪組織等の動物臓器由来のモノグリセリドリパーゼ又はジグリセリドリパーゼ;バチルス・スピーシーズ(Bacillus sp.)H−257由来モノグリセリドリパーゼ(J.Biochem.,127,419−425,2000)、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)LP7315由来モノグリセリドリパーゼ(Journal of Bioscience and Bioengineering,91(1),27−32,2001)、ペニシリウム・サイロピウム由来リパーゼ(J.Biochem,87(1),205−211,1980)、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)U−150由来リパーゼ(J.Fermentation and Bioengineering,72(3),162−167,1991)等が挙げられる。なかでも、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)由来の部分グリセリドリパーゼが好ましい。
市販品としては、例えば「モノグリセライドリパーゼ(MGLPII)」(旭化成社)、「リパーゼG「アマノ」50」(天野エンザイム社)等がある。
【0017】
部分グリセリドリパーゼは、当該リパーゼを担体に固定化した固定化部分グリセリドリパーゼを用いることがリパーゼ活性を有効利用できる点から好ましい。
固定化担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられる。なかでも、保水力が高い点からイオン交換樹脂が好ましい。また、イオン交換樹脂の中でも、大きな表面積を有することにより酵素の吸着量を高くできるという点から、多孔質であることが好ましい。
【0018】
固定化担体として用いる樹脂の粒子径は50〜2000μmが好ましく、更に100〜1000μmが好ましい。細孔径は10〜150nmが好ましく、更に10〜100nmが好ましい。材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられ、更にフェノールホルムアルデヒド系樹脂(例えば、Rohm and Haas社製Duolite A−568)がリパーゼ吸着性向上の点から好ましい。
このとき、用いるリパーゼ量は、担体質量に対して10〜300質量%、更に30〜200質量%、更に50〜150質量%が工業的生産性の点から好ましい。固定化の際、リパーゼを溶液状態にするが、緩衝剤を用いてpH3〜7に調整して用いることが好ましい。固定化時の温度は0〜60℃、更に3〜40℃が好ましい。
【0019】
固定化リパーゼの活性を高めるために、リパーゼの固定化前に予め脂溶性脂肪酸又はその誘導体を担体に吸着させる処理を施しても良い。処理を施す方法としては、例えば、クロロホルム、ヘキサン、エタノール等の有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散、溶解させた後、水に分散させた担体に加える方法が挙げられる。
使用する脂溶性脂肪酸としては、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していても良い脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、リシノール酸等が挙げられる。またその誘導体としては、これらの脂肪酸と一価又は多価アルコールとのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加した誘導体が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体は、2種以上を併用しても良い。
【0020】
アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼは、Dole法により測定した力価が100U/g以上、更に1,000〜1,000,000U/g、更に10,000〜500,000U/gの範囲であることが好ましい。
部分グリセリドリパーゼはLV乳化法により測定した脂肪消化力が100U/g以上、更に1,000〜1,000,000U/g、更に10,000〜500,000U/gの範囲であることが好ましい。
【0021】
アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼと部分グリセリドリパーゼの使用量(乾燥質量)は、リパーゼの活性を考慮して適宜決定することができるが、アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼは、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対して、0.01〜20質量%、更に0.02〜10質量%、更に0.05〜5質量%使用するのが工業的生産性の点から好ましい。固定化リパーゼの場合は、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対して、0.1〜35質量%、更に1〜25質量%、更に3〜15質量%使用するのが工業的生産性の点から好ましい。
また、部分グリセリドリパーゼは、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対して、0.01〜20質量%、更に0.02〜10質量%、更に0.05〜5質量%使用するのが工業的生産性の点から好ましい。固定化部分グリセリドリパーゼの場合は、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対して、0.1〜35質量%、更に1〜25質量%、更に3〜15質量%使用するのが工業的生産性の点から好ましい。
【0022】
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に前記リパーゼを作用させるには、当該油脂とリパーゼとを接触させればよく、接触手段としては、浸漬、攪拌、該固定化酵素を充填したカラムにポンプ等で通液すること等が挙げられる。攪拌する場合には、反応槽径によって異なるが、固定化リパーゼが沈降せず、破砕を抑制し、効率的に加水分解反応を進行させる点から、10〜1000r/minが好ましく、更には20〜700r/min、更には30〜500r/minが好ましい。
【0023】
本発明において、油脂の加水分解は、回分式、連続式、又は半連続式で行うことができる。油脂と水の装置内への供給は、並流式、向流式どちらでもよい。加水分解反応装置に供給される油脂及び水は、必要により予め脱気又は脱酸素した油脂及び水を用いてもよい。
【0024】
油脂の加水分解反応は、得られる加水分解油中の脂肪酸濃度によって管理し、所定の脂肪酸濃度に到達した時点で終了することができる。なお、本発明における「遊離脂肪酸濃度」は、後述の〔分析方法〕(iii)に記載した方法に従って求めた値をいう。
本発明において、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂の加水分解反応は、DHA濃度・収率を高くできる点から、遊離脂肪酸濃度が82〜99質量%、更に86〜98質量%、更に91〜97質量%となるまで行うことが好ましい。
【0025】
加水分解反応において、反応系内の水分量は、工業的な生産性の観点から、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂に対して、5〜500質量%、更に10〜300質量%、更に20〜200質量%とすることが好ましい。
【0026】
加水分解の反応温度は、リパーゼの特性によって決定することができるが、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から、0〜80℃、更に10〜70℃、更に20〜60℃が好ましい。
【0027】
また、反応時間は、工業的な生産性の点から、1〜200時間が好ましく、更に2〜100時間、更に2.5〜50時間が好ましい。本発明の方法では、前記2種のリパーゼを同時に使用することにより短時間で効率的に加水分解することができる。
【0028】
加水分解反応は、空気との接触が出来るだけ回避されるように、窒素等の不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0029】
加水分解反応により得られる加水分解油には、高度不飽和脂肪酸を含む遊離した脂肪酸の他に、未反応の油脂、すなわちトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドが含まれる。したがって、加水分解反応物から、リパーゼ、グリセリン等を含む水層を除去した後、例えば、クロマトグラフィー、分子蒸留、液液分配、結晶分別、脱酸法等の分別手段、好ましくは蒸留により高度不飽和脂肪酸を含有する遊離脂肪酸画分を分取するのが好ましい。蒸留条件は特に制限されない。次いで、更に吸着剤処理、ろ過等を行うこともできる。
【0030】
以上の処理により得られる脂肪酸は、高度不飽和脂肪酸の含有量が高いものである。脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸のDHA含有量は、10〜75質量%が好ましく、更に20〜65質量%、更に30〜55質量%、更に45〜55質量%が品質の点から好ましい。
【0031】
高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂からの高度不飽和脂肪酸の収率は、84〜99.9質量%、更に87〜99質量%、更に91〜98質量%であることが製造効率の点から好ましい。
【実施例】
【0032】
〔原料油脂〕
原料油脂として、表1に示す高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂(DDオイル DHA-46、日本水産(株)製)を用いた。
【0033】
〔分析方法〕
(i)構成脂肪酸組成の測定
日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)(2.4.1.2−1996)」に従って測定した。
トリヘンイコサノイン(和光純薬工業製)を内部標準として、試料から脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルをガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、構成脂肪酸の分析を行った。
【0034】
(ii)グリセリド組成の測定
「グリセリド組成」は、ガラス製サンプル瓶に、サンプル10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓した後、70℃で15分間加熱した。これに蒸留水1.0mL、ヘキサン2.0mLを加えて、混合後、ヘキサン層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、グリセリド組成の分析を行った。
【0035】
(iii)遊離脂肪酸濃度の算出
遊離脂肪酸濃度は、加水分解油の酸価及び脂肪酸組成を測定し、油脂製品の知識((株) 幸書房)に従って、次の式(1)で求めた。
遊離脂肪酸濃度(質量%)=x×y/56.1/10 (1)
(x=酸価[mg-KOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)
【0036】
(iv)酸価の測定
日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「酸価(2.3.1−1996)」に従って測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
〔固定化リパーゼQLM〕
まず、アニオン交換樹脂Duolite A−568(Rohm&Haas社製)100gに対して0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1000mLを加え、1時間攪拌し、アルカリ洗浄した。その後、固定化担体を1000mLの蒸留水で1時間洗浄し、500mMのリン緩衝液(pH7)1000mLで2時間pHの平衡化を行った。続いて、50mMのリン緩衝液(pH7)1000mLで2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。終了後、エタノール500mLでエタノール置換を30分間行った。濾過した後、大豆脂肪酸から飽和脂肪酸を除いた低融点脂肪酸を100g含むエタノール500mLを加え、30分間吸着操作を行った。その後、担体を回収した後、50mMのリン緩衝液(pH7)500mLで4回洗浄し、エタノールを除去し、濾過して担体を回収した。
次いで、回収した担体と、市販のアルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼ(リパーゼQLM,名糖産業製、力価103000U/g)100gを50mMの酢酸緩衝液(pH7)1800mLに溶解させた酵素溶液1900mLとを2時間接触させ、固定化を行った。1,3位を優先的に分解するリパーゼは担体質量に対して100質量%用いた。回収した固定化酵素を、50mMの酢酸緩衝液(pH7)500mLで洗浄し、吸着しなかった酵素や蛋白を除去した。以上の操作はいずれも常圧20℃で行った。その後、菜種油400gを加え、40℃、2時間攪拌した後、濾過して菜種油と分離し、固定化酵素とした。
こうして得られた固定化リパーゼQLMを、使用前に実際に反応を行う基質である原料油脂で洗浄した。
【0039】
〔固定化リパーゼAYの製造方法〕
リパーゼQLMを、キャンディダ(Candida)属由来のリパーゼAY「アマノ」30−SD(天野エンザイム製、脂肪消化力37900U/g)に変えた以外は、固定化リパーゼQLMと同じ製造法で固定化リパーゼAYを得た。
【0040】
〔固定化リパーゼGの製造方法〕
リパーゼQLMを、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)由来のリパーゼG「アマノ」50(天野エンザイム製、脂肪消化力54300U/g)に、リン酸緩衝液(pH7)を酢酸緩衝液(pH5)に変更した以外は、固定化リパーゼQLMと同じ製造法で固定化リパーゼGを得た。
【0041】
〔蒸留方法〕
加水分解反応により得られた加水分解油をワイプトフィルム蒸発装置(2−03型:神鋼環境ソリューション製)により、遊離脂肪酸(FFA)及びモノグリセリド(MG)から成る留分とトリグリセリド(TG)及びジグリセリド(DG)から成る残渣に分画した。蒸留条件は、温度230℃、圧力2Pa以下、油供給流量100mL/hrで処理した。
【0042】
〔実施例1〕
表1に示す高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂(以下、原料油脂と記する)に対して、酵素加水分解反応を行った。酵素は、リパーゼQLM(QLM、名糖産業製、力価103000U/g)及びリパーゼG「アマノ」50(G、天野エンザイム製、脂肪消化力54300U/g)の粉体を併用した。仕込み条件は、200mLの4つ口フラスコに原料油脂30g、水30g、酵素量は各0.3gを仕込んだ。加水分解反応条件は、常圧、温度40℃、撹拌速度300r/min、反応時間48hrとした。
反応終了後、加水分解油の酸価及びグリセリド組成を分析した。その後、上述した蒸留方法により分離した(DG+TG)画分(=残渣)および(FFA+MG)画分(=留分)中のDHA濃度を、ガスクロマトグラフィーにより分析した。ここで、本系においては、加水分解油中のMG濃度はいずれも6質量%以下となった。従って、蒸留操作により得た留分は全て遊離脂肪酸とみなした。留分のDHA収率(%)は式(2)より求めた。
【0043】
留分のDHA収率(%)={留分のDHA濃度×留分重量}/{[留分のDHA濃度×留分重量]+[残渣のDHA濃度×残渣重量]}・・・・(2)
【0044】
表2に示す結果より、遊離脂肪酸濃度は89.3質量%に達し、原料油脂からの加水分解が進行した。また、留分のDHA濃度は、原料油脂中のDHA濃度45.6%に対して、45.2質量%を示した。その際のDHA収率は、90.1%となった。
【0045】
〔実施例2〕
酵素は、固定化リパーゼQLMと固定化リパーゼGを併用した。仕込み条件は、原料油脂200gに対して水200g、固定化酵素量は各20gとした。加水分解反応条件は、常圧、温度40℃、撹拌速度300r/min、反応時間48hrとした。
反応終了後、加水分解油の酸価及びグリセリド組成を定量した。その後、蒸留により分離した各画分中のDHA濃度をガスクロマトグラフィーにより定量した。
その結果、遊離脂肪酸濃度は94.5質量%に達し、QLM単用時に比べ加水分解が進行したことが明らかになった。また、留分のDHA濃度は、47.3質量%を示し、原料油脂中のDHA濃度よりも高くなり、DHAが選択的に分解された。その際のDHA収率は、96.8%となり、DHAをほぼ遊離できることが示された。
【0046】
〔比較例1〕
酵素は、リパーゼQLM(名糖産業製)の粉体を使用した。仕込み条件は、原料油脂30gに対して水30g、酵素量は0.3gとした。加水分解反応条件は、常圧、温度40℃、撹拌速度300rpm、反応時間48hrとした。
反応終了後、酸価及びグリセリド組成を定量した。その後、カラムにより分離した各画分中のDHA濃度をガスクロマトグラフィーにより定量した。遊離脂肪酸濃度は76.51質量%であった。留分のDHA濃度は、42.7質量%を示した。その際のDHA収率は、76.4%となった。
【0047】
〔比較例2〕
酵素は、固定化リパーゼQLMを使用した。仕込み条件は、原料油脂200gに対して水200g、酵素量は20gとした。加水分解反応条件は、常圧、温度40℃、撹拌速度300r/min、反応時間48hrとした。
反応終了後、加水分解油の酸価及びグリセリド組成を定量した。その後、蒸留により分離した各画分中のDHA濃度をガスクロマトグラフィーにより定量した。遊離脂肪酸濃度は73.8質量%となった。また、留分のDHA濃度は、44.5質量%を示した。その際のDHA収率は、75.9%となった。
【0048】
〔比較例3〕
酵素は、固定化リパーゼAYを使用した。仕込み条件は、原料油脂200gに対して水200g、酵素量は20gとした。加水分解反応条件は、常圧、温度40℃、撹拌速度300r/min、反応時間48hrとした。
反応終了後、加水分解油の酸価及びグリセリド組成を定量した。その後、カラムにより分離した各画分中のDHA濃度をガスクロマトグラフィーにより定量した。遊離脂肪酸濃度は45.8質量%となり、加水分解はリパーゼQLMに比べて進行しなかった。留分のDHA濃度については、28.0質量%と比較的低い値を示した。その際のDHA収率は、31.1%となった。
【0049】
〔比較例4〕
酵素は、固定化リパーゼAY及び固定化リパーゼGを併用した。仕込み条件は、原料油脂200gに対して水200g、各酵素量は20gとした。加水分解反応条件は、常圧、温度40℃、撹拌速度300r/pm、反応時間48hrとした。
反応終了後、加水分解油の酸価及びグリセリド組成を定量した。その後、カラムにより分離した各画分中のDHA濃度をガスクロマトグラフィーにより定量した。遊離脂肪酸濃度は81.1質量%に達した。また、留分のDHA濃度は、43.0質量%を示した。その際のDHA収率は、83.4%となった。
【0050】
実施例及び比較例の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2より明らかなように、アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来の1,3位を優先的に分解するリパーゼと部分グリセリドリパーゼとを同時に作用させた実施例1は、遊離脂肪酸濃度が高く、短時間で収率良くDHAを得ることができた。更に、実施例2に示す通り、上記のリパーゼを固定化することにより、遊離脂肪酸濃度を向上させ、DHAを高収率で得ることができた。