【実施例】
【0042】
次に、実施例を挙げて本開示の潜熱蓄熱材をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
[−20℃における過冷却安定性の評価方法]
実施例または比較例に係る潜熱蓄熱材(組成物)を、恒温器(装置名:小型超低音恒温器 ミニサブゼロ、形式:MC-812、エスペック株式会社製)に入れ、75℃で4時間保持した後、45℃/hの速度で30℃まで降温した。その後、30℃で1時間保持した後50℃/hの速度で−20℃まで降温し、−20℃で12時間保持した。各組成につき6回前記の操作を行い、−20℃下で12時間保持した後に過冷却状態を維持していた回数を全測定回数(6回)で除し100を掛けた値を−20℃での過冷却維持確率と定義する。過冷却状態の維持は、−20℃下で12時間保持した後に、結晶核が発生したか否かを、結晶化に伴う凝固熱をサンプル容器側面に貼り付けた熱電対で検知することで判断し、核が発生していない場合(回数)を、過冷却状態を維持したと評価した。
【0044】
[比較例A1]
酢酸ナトリウムと水からなる酢酸ナトリウム水溶液の過冷却安定性を検討した。
ガラス製サンプル瓶に、酢酸ナトリウムの濃度が55wt%となるように、和光純薬工業株式会社製の酢酸ナトリウム三水和物(特級)および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとした。得られた組成物について、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例A2]
比較例A1と同様の方法で酢酸ナトリウム三水和物および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに酸化チタン(TiO
2)を1.1×10
-1wt%添加し、75℃で加熱し潜熱蓄熱材(潜熱蓄熱材中のチタン元素の濃度:1.0×10
2ppm)とした。前記した過冷却安定性の評価方法で、評価したすべての回数において、結晶化が起こり、過冷却安定性を評価できなかった。
【0046】
[比較例A3]
比較例A1と同様の方法で酢酸ナトリウム三水和物および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに酸化アルミニウム(Al
2O
3)を4.8wt%添加し、75℃で加熱し、潜熱蓄熱材とした(潜熱蓄熱材中のアルミニウム元素の濃度:3.5×10
3ppm)。前記した過冷却安定性の評価方法で、評価したすべての回数において、結晶化が起こり、過冷却安定性を評価できなかった。
【0047】
[比較例A4]
比較例A1と同様の方法で酢酸ナトリウム三水和物および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに酸化鉄(II)(Fe
2O
3)を6.5×10
-3wt%添加し、75℃で加熱し、潜熱蓄熱材とした(潜熱蓄熱材中の鉄元素の濃度:6.0ppm)。前記した過冷却安定性の評価方法で、評価したすべての回数において、結晶化が起こり、過冷却安定性を評価できなかった。
【0048】
[比較例A5]
比較例A1と同様の方法で酢酸ナトリウム三水和物および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに二酸化ケイ素(SiO
2)を4.5×10
-2wt%添加し、75℃で加熱し、潜熱蓄熱材とした(潜熱蓄熱材中のSi元素の濃度:3.0×10ppm)。前記した過冷却安定性の評価方法で、評価したすべての回数において、結晶化が起こり、過冷却安定性を評価できなかった。
【0049】
以下、実施例として過冷却安定化剤の種類や組成比の異なる潜熱蓄熱材を作製し、銀元素または銅元素、水および酢酸ナトリウムの組成(重量パーセント濃度)と、潜熱蓄熱材の過冷却安定性との関係を検討した。
【0050】
[実施例B1]
酢酸ナトリウムを主成分とする酢酸ナトリウム溶液に、硝酸銀(I)を添加することによる過冷却安定性への影響を検討した。具体的には、下記のとおりに行った。
ガラス製サンプル瓶に、酢酸ナトリウムの濃度が55wt%となるように、和光純薬工業株式会社製の酢酸ナトリウム三水和物(特級)および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに硝酸銀を1wt%添加し、75℃で加熱した後、孔径0.45μmのフィルター(型式:25AI、商品番号:5040−28522、ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて、不溶成分を除去し、得られた組成物をさらに、酢酸ナトリウム55wt%溶液で3倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例B2]
実施例B1の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で10倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例B3]
実施例B2の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で10倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例B4]
実施例B3の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で10倍に希釈し、蓄熱材組成物とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例B5]
実施例B4の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で100倍に希釈し、蓄熱材組成物とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果をグラフにしたものを
図1に示す。
【0057】
[比較例C1]
次に、酢酸ナトリウムを主成分とする酢酸ナトリウム溶液に、酸化銀(I)を添加することによる過冷却安定性への影響を検討した。具体的には、下記のとおりに行った。
ガラス製サンプル瓶に、酢酸ナトリウムの濃度が55wt%となるように、和光純薬工業株式会社製の酢酸ナトリウム三水和物(特級)および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに酸化銀(I)を30wt%添加し、75℃で加熱することで潜熱蓄熱材を得た。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
[実施例C2]
酸化銀(I)の添加量を10wt%とした点以外は、実施例C1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
[実施例C3]
酸化銀(I)の添加量を5wt%とした点以外は、実施例C1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
[実施例C4]
酸化銀(I)の添加量を1wt%とした点以外は、実施例C1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
[実施例C5]
酸化銀(I)の添加量を0.7wt%とした点以外は、実施例C1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
[実施例C6]
酸化銀(I)の添加量を0.3wt%とした点以外は、実施例C1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0063】
[実施例C7]
実施例C4と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製を行い、その後、孔径0.45μmのフィルター(型式:25AI、商品番号:5040−28522、ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて、不溶成分を除去したものを本実施例の潜熱蓄熱材とした。得られた潜熱蓄熱材について、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表2に示す。
【0064】
[実施例C8]
実施例C7の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で4倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例C9]
実施例C7の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で7倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
このほか、酢酸ナトリウム濃度を53wt%、および57wt%として同様の実験を行った結果でも、酢酸ナトリウムと水のみからなる潜熱蓄熱材と比べて有意に過冷却維持確率が向上した。
【0067】
【表2】
【0068】
表2の結果をグラフにしたものを
図2に示す。
【0069】
[実施例D1]
次に、酢酸ナトリウムを主成分とする酢酸ナトリウム溶液に、塩化銅(II)を添加することによる過冷却安定性への影響を検討した。具体的には、下記のとおりに行った。
ガラス製サンプル瓶に、酢酸ナトリウムの濃度が55wt%となるように、和光純薬工業株式会社製の酢酸ナトリウム三水和物(特級)および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに塩化銅(II)を30wt%添加し、75℃で加熱することで潜熱蓄熱材を得た。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表3に示す。
【0070】
[実施例D2]
塩化銅(II)の添加量を10wt%とした点以外は、実施例D1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0071】
[実施例D3]
塩化銅(II)の添加量を5wt%とした点以外は、実施例D1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0072】
[実施例D4]
塩化銅(II)の添加量を3.5wt%とした点以外は、実施例D1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
[実施例D5]
塩化銅(II)の添加量を2wt%とした点以外は、実施例D1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0074】
[実施例D6]
塩化銅(II)の添加量を1wt%とした点以外は、実施例D1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0075】
[実施例D7]
塩化銅(II)の添加量を0.7wt%とした点以外は、実施例D1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0076】
[実施例D8]
実施例D6と同様の方法で、蓄熱材組成物の作製および加熱を行い、その後、孔径0.45μmのフィルター(型式:25AI、商品番号:5040−28522、ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて、不溶成分を除去し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
[実施例D9]
実施例D8の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で33倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表3に示す。
【0078】
[実施例D10]
実施例D9の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で100倍に希釈し潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表3に示す。
【0079】
[実施例D11]
実施例D10の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で100倍に希釈し、蓄熱材組成物とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3の結果をグラフにしたものを
図3に示す。
【0082】
[比較例E1]
次に、酢酸ナトリウムを主成分とする酢酸ナトリウム溶液に、酸化銅(II)を添加することによる過冷却安定性への影響を検討した。具体的には、下記のとおりに行った。
ガラス製サンプル瓶に、酢酸ナトリウムの濃度が55wt%となるように、和光純薬工業株式会社製の酢酸ナトリウム三水和物(特級)および純水からなる組成物を調製した。前記組成物では、酢酸ナトリウムと水との合計重量を6.6gとし、これに酸化銅(II)を30wt%添加し、75℃で加熱することで潜熱蓄熱材を得た。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表4に示す。
【0083】
[実施例E2]
酸化銅(II)の添加量を5wt%とした点以外は、実施例E1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0084】
[実施例E3]
酸化銅(II)の添加量を1wt%とした点以外は、実施例E1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0085】
[実施例E4]
酸化銅(II)の添加量を0.7wt%とした点以外は、実施例E1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0086】
[実施例E5]
酸化銅(II)の添加量を0.3wt%とした点以外は、実施例E1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0087】
[実施例E6]
酸化銅(II)の添加量を8.0×10
-2wt%とした点以外は、実施例E1と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製および過冷却安定性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0088】
[実施例E7]
実施例E4と同様の方法で、潜熱蓄熱材の作製を行い、その後、孔径0.45μmのフィルター(型式:25AI、商品番号:5040−28522、ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて、不溶成分を除去し、潜熱蓄熱材とした。得られた潜熱蓄熱材について、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表4に示す。
【0089】
[実施例E8]
実施例E7の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で4倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表4に示す。
【0090】
[実施例E9]
実施例E7の潜熱蓄熱材を酢酸ナトリウム55wt%溶液で7倍に希釈し、潜熱蓄熱材とした。このサンプルについて、前記した過冷却安定性の評価方法に従って評価を行った。結果を表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4の結果をグラフにしたものを
図4に示す。
【0093】
このほか、酢酸ナトリウム濃度を53wt%、および57wt%として同様の実験を行った結果でも、酢酸ナトリウムと水のみからなる潜熱蓄熱材と比べて有意に過冷却維持確率が向上した。