(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6715981
(24)【登録日】2020年6月11日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】炭酸ガス治療具
(51)【国際特許分類】
A61H 33/14 20060101AFI20200622BHJP
【FI】
A61H33/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-49488(P2019-49488)
(22)【出願日】2019年3月18日
(65)【公開番号】特開2019-166318(P2019-166318A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2018-53964(P2018-53964)
(32)【優先日】2018年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505425878
【氏名又は名称】中村 正一
(73)【特許権者】
【識別番号】592248835
【氏名又は名称】日本エー・シー・ピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 善章
(72)【発明者】
【氏名】中村 正一
【審査官】
小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−249025(JP,A)
【文献】
特開2014−189538(JP,A)
【文献】
特開2015−202467(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/147273(WO,A1)
【文献】
特表2009−519747(JP,A)
【文献】
特開2007−190398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に皮膚から炭酸ガスを吸収させる炭酸ガス治療具であって、
中央部に収容部が設けられて周縁には前記皮膚に貼り付く接着部を有するカバーと、
前記カバーを前記接着部で前記皮膚に貼り付けたとき、前記皮膚との間に空間部が形成されるように前記収容部に収容されるパッドと、
を備え、
前記パッドは、鉄粉の酸化作用で発熱するシート状の発熱体と、細孔に炭酸ガスを含む多孔性金属錯体で構成される炭酸ガス保持体と、を有して、前記カバーを前記接着部で皮膚に貼り付けたとき、前記発熱体によって加熱しながら前記炭酸ガス保持体から前記空間部に炭酸ガスを放出するようにしたことを特徴とする炭酸ガス治療具。
【請求項2】
生体に皮膚から炭酸ガスを吸収させる炭酸ガス治療具であって、
中央部に収容部が設けられて周縁には前記皮膚に貼り付く接着部を有するカバーと、
前記カバーを前記接着部で前記皮膚に貼り付けたとき、前記皮膚との間に空間部が形成されるように前記収容部に収容されるパッドと、
前記パッドに設けられて鉄を素材にして細孔に炭酸ガスを含む多孔性金属錯体で構成されて、酸化反応への反応助剤を含有する炭酸ガス保持体と、
を備え、
前記パッドは、前記カバーを前記接着部で皮膚に貼り付けたとき、前記多孔性金属錯体が前記酸化反応により加熱しながら前記空間部に炭酸ガスを放出するようにしたことを特徴とする炭酸ガス治療具。
【請求項3】
使用前の状態においては、前記パッドが前記収容部に収容された状態で前記カバーを密閉するよう前記接着部で密着する剥離フィルムを備える請求項1又は2に記載の炭酸ガス治療具。
【請求項4】
前記収容部に前記炭酸ガス保持体を収容し前記剥離フィルムで密閉された前記カバーは、外装袋内に気密状に封入されて密封保存される請求項3に記載の炭酸ガス治療具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスを生体の皮膚及び粘膜に直接接触させる炭酸ガス治療具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭酸ガス(二酸化炭素:CO
2)は生体の皮膚及び粘膜に触れさせることにより生体の皮下や粘膜下に浸透し、浸透部位の血管を拡張させて血液循環を改善する作用があることが知られている。そしてこの血管拡張作用と血行促進作用等により、血圧降下、代謝の改善、疼痛物質や老廃物の排除促進等、様々な生理的効果を発揮する。また、血行促進作用により、皮膚や粘膜の正常化、抗炎症、抗菌作用も有している。このため、近年、炭酸ガスは医療目的のほか、健康増進、美容促進といった点からも広く注目を集めている。
【0003】
生体の組織中で二酸化炭素は、赤血球内のヘモグロビンに結合して運ばれた酸素を放出させる働きがある。二酸化炭素濃度の高いところでは、赤血球はより多くの酸素を放出する。このように、赤血球による細胞への酸素の供給は、主に二酸化炭素がコントロールしている。つまり、二酸化炭素なしでは、ヘモグロビンは酸素が結合したままの状態となり、細胞は酸素を受け取ることができなくなってしまう。このように、二酸化炭素は、細胞の活動の結果出てくる老廃物のように思われがちだが、実は体の中で非常に重要な役割を果たしていることから、怪我、壊疽、凍傷などの治療にも二酸化炭素が用いられてきた。
【0004】
怪我、壊疽、凍傷などの治療などでは、患部を局所的に覆って炭酸ガスを経皮吸収させる方法が一般的に採用されている。そして、炭酸ガスを生体の比較的狭い局所において吸収させるための技術としては、これまでに以下のようなものが開示されている。
(1)密閉可能な簡易カバーを人体の局所に装着し、その簡易カバー内に炭酸ガスを導入して炭酸ガス浴を行う装置(例えば、特許文献1参照)。
(2)密閉可能な容器に人体の局所を挿入(あるいは、密閉可能な容器を人体の局所に装着)し、その容器内に炭酸ガスを導入して炭酸ガス浴を行う装置(例えば、特許文献2参照)。
(3)袋体や筒状体、一部開口を有する容器等からなる密閉包囲材を人体の局所に装着し、炭酸ガスの経皮吸収を助ける吸収補助材を封入して密閉包囲材内を密閉し、その密閉包囲材内に炭酸ガスを導入して炭酸ガス浴を行う装置(例えば、特許文献3参照)。
(4)二酸化炭素等の加圧ガスを送達導管から患者インターフェースへ流動させるために、中央オリフィスの環状表面に設けた加圧ガスを雰囲気へ放出するために、多孔性材でなる拡散部材を備える呼吸圧力治療のための通気アダプタ(例えば、特許文献4参照)。
(5)ガス貯留部から供給される炭酸ガスを多孔性のガス吐出部から分割された状態で吐出するようにした美容機器(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−171189号公報
【特許文献2】特開2007−252871号公報
【特許文献3】再公表特許WO2004/002393号公報
【特許文献4】特表2018−531124号公報
【特許文献5】特開2017−086213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の公知文献1乃至3に記載された従来の炭酸ガス浴のための装置は、炭酸ガスを封入する容器や袋体の中に外部から炭酸ガスを導入するために、炭酸ガスボンベ等の炭酸ガス供給装置を接続しなければならず器具が大型化し、患者の自由な行動の妨げとなって使い勝手の悪いものとなっている。しかも、装置を実用化するためには使用者の様々な体型に対応できるように、容器や袋体等にある程度の余裕を持たせるように、容器や袋体等の容積をある程度大きくすると炭酸ガスを大量に消費してしまうという問題があった。また、容器や袋体等は閉じられた空間を形成するために、小型のものでもそれ自体の容量が大きくなり多量の炭酸ガスが必要となる。
【0007】
また、上記の公知文献4及び公知文献5は、多孔性材を単に、流量・圧力の調整部材、気体の流路におけるフィルタ部材若しくは気体の拡散部材として利用するだけであって、大量の気体を含有したガス貯蔵体としての多孔性材から、気体を徐々に放出させてこれを利用するものではなかった。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて、炭酸ガス供給装置を接続する必要がなく且つ、小型化された炭酸ガス治療具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体に皮膚から炭酸ガスを吸収させる炭酸ガス治療具であって、
中央部に収容部が設けられて周縁には前記皮膚に貼り付く接着部を有するカバーと、
前記カバーを前記接着部で前記皮膚に貼り付けたとき、前記皮膚との間に空間部が形成されるように前記収容部に収容されるパッドと、
を備え、前記パッドは、鉄粉の酸化作用で発熱するシート状の発熱体と、細孔に炭酸ガスを含む多孔性金属錯体で構成される炭酸ガス保持体と、を有して、前記カバーを前記接着部で皮膚に貼り付けたとき、前記発熱体によって加熱しながら前記炭酸ガス保持体から前記空間部に炭酸ガスを放出するようにしたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は、生体に皮膚から炭酸ガスを吸収させる炭酸ガス治療具であって、中央部に収容部が設けられて周縁には前記皮膚に貼り付く接着部を有するカバーと、前記カバーを前記接着部で前記皮膚に貼り付けたとき、前記皮膚との間に空間部が形成されるように前記収容部に収容されるパッドと、
前記パッドに設けられて鉄を素材にして細孔に炭酸ガスを含む多孔性金属錯体で構成されて、酸化反応への反応助剤を含有する炭酸ガス保持体と、を備え、前記パッドは、前記カバーを前記接着部で皮膚に貼り付けたとき、前記多孔性金属錯体が前記酸化反応により加熱しながら前記空間部に炭酸ガスを放出するようにしたことを特徴とする。
【0011】
この炭酸ガス治療具は、使用前の状態においては、前記パッドが前記収容部に収容された状態で前記カバーを密閉するよう前記接着部で密着する剥離フィルムを備えるとよい。
【0012】
さらに、前記収容部に前記炭酸ガス保持体を収容し前記
剥離フィルムで密閉された前記カバーは、外装袋内に気密状に封入されて密封保存するようにするとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に依れば、炭酸ガスを多孔質材料の多数の細孔で保持することで、外部に炭酸ガス発生器を備えることが無い。しかも、パッドを貼り付けることで炭酸ガスを皮膚に浸透させる構成のため、容器や袋体等の閉じた空間を形成する部材を必要としない。そして、本発明に係る炭酸ガス治療具は以下の種々の作用効果を奏するのである。
(1)ボンベ内の内圧が高くなく、ボンベを炭素繊維強化プラスチック等にできるので、軽量、持ち運び容易、安全(爆発/破裂の危険性がない)であり、安心して医療機関や家庭内で使用できる。
(2)収容されているガス又はガスミストのボンベからの噴出圧力が高くないので、圧力制御機構(レギョレータ等)の複雑な機構が必要ない。
(3)ボンベ内から噴出するガス又はガスミストの粒径が、そのままで、ナノサイズであり、ガスミスト等の細粒子化のための機構が必要ない。ナノサイズのガスやガスミストは、皮膚への浸透性が極めて優れている。
(4)ボンベ内にガスを高気圧で圧縮保存しそれを一気に大気圧環境下に吹き出す方式ではないことから、ガス又はガスミストの急激な冷却効果は生ぜず、体温で保存されたガス若しくはガスミストが、噴出後にその温度を大幅に低下させることがない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る炭酸ガス治療具1の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1におけるA−A線に沿った炭酸ガス治療具1の断面図である。炭酸ガス治療具1は、パッド2を通気性を有するフィルム部材で構成されるカバー3で覆って構成されている。
【0017】
パッド2は、それぞれ偏平状の炭酸ガス保持体4と、発熱体5とを接着層6を介して上下に重ねて構成されている。炭酸ガス保持体4は、
図3に示すように、多数の細孔を有する多孔質材料で構成されて、細孔に炭酸ガスを取り込んで保持する。多孔質材料には、金属錯体分子が集積することで、細孔構造が形成される構造体である多孔性金属錯体が好適である。ゼオライトや活性炭等の多孔質材料を用いることも可能であるが、これらの材料は細孔構造・比表面積を精密に制御して作製することは困難である。しかし、多孔性金属錯体を用いれば、分子設計に配位結合を精密に取り入れることで、細孔構造・比表面積・形態などを人為的に設計可能であるため、二酸化炭素等のガスの吸着量を向上させることができる。
【0018】
多孔性金属錯体は、多孔質成形体からなる金属繊維でできたウェブを非常に高い圧力を加えて金属繊維を塑性変形させて成形体を作製し、これを焼結することにより得ることができる。金属錯体の原となる金属繊維の材質は、例えば、銅、銅合金、チタン、チタン合金などが挙げられる。しかし、これらを構成する材料の種類については特に制限されるものではない。そして、どのような繊維径の金属繊維でも利用可能であるが、太い繊維径のものでは均一な変形が難しいために500μm以下が好ましく、10μmから150μmまでの間が最適な繊維径
である。
【0019】
ここで、ガス吸着作用を持つ多孔性金属錯体の第1の例としては、HOOC−R−COOHで表されるジカルボン酸から選択される少なくとも1種の化合物と、ルテニウムの金属塩及びハロゲンイオンからなるジカルボン酸ハロゲン化金属錯体であり、安価であるとともに体積当たりのガス吸着能が高く、繰り返し特性の良好なガスの貯蔵性能を有する構造体が知られている(例えば、特開2000−109493号公報)。
【0020】
また、その第2の例としては、[CuX]nで表され、銅イオンが4個のカルボキシル基と配位結合したユニットが上下に二つ配位したパドルホイール構造を有し、そのパドルホイールがイソフタル酸誘導体により連結されて六員環と三員環とから構成されるカゴメ構造を形成し、そのカゴメ構造が積層された結晶構造を有するものが知られている(例えば、特許第5646789号公報)。
【0021】
このような多孔性金属錯体を密閉空間に置き、高濃度且つ高圧力の二酸化炭素ガスを当該密閉空間に供給することにより、多孔性金属錯体内に大量の二酸化炭素ガスを含有及び蓄積させるのである。
【0022】
発熱体5は、
図4に示すように偏平状の袋8の中に鉄粉を主材として反応助剤を配合した発熱剤9を装入し袋
8の周側を封着8aして構成され、酸素(空気)の供給によって発熱反応することを利用した、いわゆる使い捨てカイロと知られているものである。
【0023】
この発熱体5が発生する熱エネルギーによって更には人体が発生する体温熱の作用によって、大量の二酸化炭素ガスが含有されている多孔性金属錯体から、二酸化炭素ガスが徐々に放出され、体内の皮下に吸収利用されることになるのである。
【0024】
カバー3は、パッド2が収まる収納部3aを有し、収納部の3aの周辺の部分には粘着剤を塗布することで、皮膚に貼り付けるための接着部3bを設けている。パッド2は発熱体5を収納部3aの天面に接着されてカバー3内に収められる。収納部3aの天面までの高さ寸法は、パッド2の厚みよりも大きく設定されており、カバー3を接着部3aで皮膚に貼り付けたとき、パッド2と皮膚との間には空間部7が形成される。この空間部7は皮膚の保湿のための隙間となる。
【0025】
カバー3は、接着部3bに剥離自在に粘着するポリエチレンフィルムなどの剥離フィルム10で収納部3aはシールされる。よって、パッド2は、消毒や滅菌処理された後、収納部3a内に収められて剥離フィルム10でシールされる。炭酸ガス治療具1は、カバー3が剥離フィルム10でシールされた状態で、
図1に示されているように、非通気性シートよりなる外装袋11内に気密状に封入し包装されて炭酸ガスが密封保存される。
【0026】
炭酸ガス治療具1の使用時に外装袋11を破って取り出したときに、発熱体5は、空気中の酸素がカバー3を通過して発熱剤9と反応し、発熱するようになっている。そして、剥離フィルム10をカバー3から剥がして、パッド2が患部と対向するように接着部3bで皮膚に貼り付けることで、炭酸ガス保持体4から放出される炭酸ガスが患部に経皮吸収されることになる。このとき、発熱体5から発生する温熱により患部の血管が拡がり血行が良くなることで、炭酸ガス保持体4から放出される炭酸ガスが赤血球内のヘモグロビンに結合して運ばれた酸素が患部に効果的に放出されて、治療効果が高まる。
【0027】
上記の実施形態では、パッド2を炭酸ガス保持体4と発熱体5とで構成したが、炭酸ガス保持体4のみを含むパッド2であってもよい。
【0028】
さらに、他の実施形態としては、炭酸ガス保持体4を、鉄を素材とする多孔性金属錯体とすると共に酸化反応への反応助剤を添加して構成することができる。このような構成のパッド2においては、炭酸ガス保持体4は、炭酸ガスの放出に加えて、自らが酸化して熱を発生することで温熱作用も有することになる。しかも、このとき酸化により細孔が劣化することで炭酸ガスが放出しやすくなり、短時間で炭酸ガスを効果的に患部に接触させることができる。この実施形態においては、炭酸ガス保持体4は自らも発熱するため、パッド2には、発熱体5を含ませなくてもよいが、発熱体5をさらに含ませることで、温熱効果が向上するのは言うまでもない。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、炭酸ガスを生体の皮膚及び粘膜に直接接触させて血液循環を改善させるための炭酸ガス治療具に関し、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0031】
1 炭酸ガス治療具
2 パッド
3 カバー
3b 接着部
4 炭酸ガス保持体
5 発熱体
7 空間部