(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属皮膜の密着強度を高めるには、粉末の噴射速度を高速化すれば良いことが知られている。一般に、粉末の噴射速度を高速化するためには、粉末と共に噴射するガスの温度及び圧力を高くすることが行われている。しかし、ガスの温度を高くし過ぎると、粉末が過度に加熱されて酸化し易くなるため、酸化した粉末が堆積することにより金属皮膜の品質が低下してしまうという問題が生じる。
【0006】
また、比較的低融点の金属を材料とする場合には、ガスの温度を高くし過ぎると粉末が過度に柔らかくなり、或いは粉末が溶融してしまい、粉末がノズル内を通過する間にノズルの内壁に付着してノズルが閉塞し易くなってしまう。そのため、この場合には、ガス温度を上げることにより粉末の噴射速度を高くすることができない。
【0007】
さらには、ガスの温度を高くし過ぎると、粉末を衝突させる基材の方も高温になって軟化し、粉末が衝突した部分が損耗してしまうおそれがある。例えば、粉末の融点が高いからといってガスの温度を高くして粉末の噴射速度を高速化しようとすると、高温に加熱された粉末が基材に衝突することになり、基材の損耗を招いてしまう。特に、粉末の融点に対して基材の融点が低い場合には、このような現象が生じる可能性がある。そのため、基材が軟化する温度以上にガス温度を上げて噴射速度を高めることもできない。
【0008】
これらの理由から、密着強度が高い、高品質な金属皮膜を形成するためには、粉末の噴射速度を高速化しつつも、粉末の過度な加熱を抑制することが望ましい。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コールドスプレー法において、材料の粉末の噴射速度を高速化しつつも、粉末の過度な加熱を抑制することができる成膜方法及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る成膜方法は、材料の粉末を基材の表面に固相状態のまま吹き付けて堆積させることにより皮膜を形成する成膜方法であって、ノズルの内部に形成され、基端部から先端部に向かって縮径してから拡径する貫通路の径が最小の位置と、前記ノズルに導入される前記材料の粉末がガスと混合される混合位置との間の距離を、前記材料の粉末の種類に応じて調節する混合距離調節工程と、前記材料の粉末及び前記ガスを前記混合位置において混合して前記ノズルに導入し、前記最小の位置に向けて加速させ、前記材料の粉末及び前記ガスを前記ノズルの前記先端部から噴射する噴射工程と、前記先端部から噴射された前記材料の粉末及び前記ガスを前記基材に吹き付ける吹き付け工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記成膜方法において、前記混合距離調節工程は、前記材料の粉末の融点が低いほど前記距離を短くする、ことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る成膜装置は、材料の粉末を基材の表面に固相状態のまま吹き付けて堆積させることにより皮膜を形成する成膜装置であって、前記材料の粉末をガスと混合する混合室と、基端部において前記混合室と連通し、該基端部から先端部に向かって縮径してから拡径する貫通路が内部に設けられ、前記混合室において混合された前記材料の粉末及び前記ガスを前記先端部から噴射するノズルと、前記混合室に前記材料の粉末を供給する粉末供給管と、前記混合室に前記ガスを供給するガス供給管と、を備え、前記貫通路の径が最小の位置と、前記材料の粉末及び前記ガスが互いに混合される混合位置との間の距離が調節可能である、ことを特徴とする。
【0013】
上記成膜装置において、前記粉末供給管は、前記材料の粉末が噴出される先端を前記混合室の後端側から前記ノズル側に向けて突出させるように設けられ、前記粉末供給管の前記先端の突出量が変更可能である、ことを特徴とする。
【0014】
上記成膜装置において、前記粉末供給管は、前記材料の粉末が噴出される先端を前記混合室の後端側から前記ノズル側に向けて突出させるように設けられ、前記混合室を構成可能な、高さが異なる複数の筒状部材を備え、前記複数の筒状部材のうちのいずれか1つを前記ノズルの前記基端部と連結することにより、前記混合室が構成される、ことを特徴とする。
【0015】
上記成膜装置において、前記混合室は、前記ノズルの前記基端部と連結された筒状部材であって、側面の長手方向に沿って複数の粉末供給口が設けられた筒状部材によって構成され、前記複数の粉末供給口のいずれかに前記粉末供給管を接続することにより、前記距離が変更される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、材料の粉末をガスと混合する混合位置と、該粉末をガスと共に噴射するノズルの先端部との間の距離を、材料の粉末の種類に応じて調節するので、材料の粉末がガスと接して過度に加熱される前に、粉末をノズルから噴射することができる。従って、材料の粉末の噴射速度を高速化しつつも過度な加熱を抑制することができ、該粉末の酸化を抑制して、密着強度の高い、高品質な金属皮膜を形成することが可能となる。また、粉末に対する過度な加熱による粉末の軟化や溶融を抑えることができるので、粉末がノズルの内壁に付着してノズルが閉塞するのを抑制することも可能となる。さらに、粉末の過度な加熱に起因する基材の軟化を抑えることもできるので、粉末が吹き付けられた際の基材の損耗を抑制することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る成膜装置1は、コールドスプレー法による成膜装置であり、高圧ガス(圧縮ガス)を加熱するガス加熱器2と、成膜材料の粉末を収容してスプレーガン4に供給する粉末供給装置3と、加熱された高圧ガスを粉末と混合してノズル5に導入するスプレーガン4と、ガス加熱器2及び粉末供給装置3に対する高圧ガスの供給量をそれぞれ調節するバルブ6及び7と、ガス加熱器2からスプレーガン4にガスを供給するガス供給管8とを備える。スプレーガン4は、高圧ガスと共に粉末を噴射するノズル5と、当該スプレーガン4に粉末を供給する粉末供給管12を含んでいる。
【0020】
高圧ガスとしては、安価な空気や、ヘリウム、窒素等の不活性ガスが使用される。ガス加熱器2に供給された高圧ガスは、材料の粉末の融点よりも低い範囲の温度に加熱された後、ガス供給管8を介してスプレーガン4に導入される。高圧ガスの加熱温度は、好ましくは150〜900℃である。
【0021】
一方、粉末供給装置3に供給された高圧ガスは、粉末供給装置3内の粉末を、粉末供給管12を介してスプレーガン4に所定の吐出量となるように供給する。
【0022】
ガス加熱器2からスプレーガン4に供給された高圧ガスは、スプレーガン4において、粉末供給装置3から供給された粉末及び高圧ガスと混合され、ノズル5を通過することにより超音速流となって噴射される。具体的には、高圧ガスが150〜900℃の空気又は窒素の場合、スロート部5bにおける流速は約310〜600m/sとなる。また、高圧ガスが150〜900℃のヘリウムの場合、スロート部5bにおける流速は約870〜1630m/sとなる。一方、ノズル5の出口付近におけるガスの流速は、末広部5cの形状に応じて変化する。詳細には、末広部5cの出口側の断面積と、スロート部5bの断面積との比率(出口側の断面積/スロート部の断面積)が大きいほど、出口付近における流速は速くなる。
【0023】
この際の高圧ガスの圧力は、0.3〜5MPa程度とすることが好ましい。高圧ガスの圧力をこの程度に調整することにより、基材100に対する皮膜101の密着強度の向上を図ることができるからである。より好ましくは、3〜5MPa程度の圧力で処理すると良い。
【0024】
このような成膜装置1において、基材100をスプレーガン4に向けて配置すると共に、材料(金属又は合金)の粉末を粉末供給装置3に投入し、ガス加熱器2及び粉末供給装置3への高圧ガスの供給を開始する。それにより、スプレーガン4に供給された粉末が、この高圧ガスの超音速流の中に投入されて加速され、ノズル5から噴射される。この粉末が、固相状態のまま基材100に高速で衝突して堆積することにより、皮膜101が形成される。
【0025】
図2及び
図3は、
図1に示すスプレーガン4の内部を拡大して示す断面図である。
図2に示すように、スプレーガン4は、ノズル5の基端部と連結されたガス粉末混合室10と、ガス粉末混合室10に導入する高圧ガスが充填されるガス室11と、ガス粉末混合室10に粉末を供給する粉末供給管12と、ガス粉末混合室10とガス室11との境界に設けられた粉末供給管支持部13と、ガス室11内に設けられた温度センサ14及び圧力センサ15を備える。粉末供給管支持部13には、ガス粉末混合室10とガス室11とを連通する少なくとも1つのガス通過口13aが設けられている。
【0026】
ノズル5は、基端部においてガス粉末混合室10と連通する貫通路5dが内部に設けられ、基端部から先端部に向かって貫通路5dが縮径する先細部5aと、貫通路5dの径が最小の部分であるスロート部5bと、スロート部5bから先端部に向かって貫通路5dが拡径する末広部5cとからなる、所謂ラバルノズルである。
【0027】
ガス粉末混合室10は、両端が開口した筒状部材によって形成され、ガス室11から供給される高圧ガスと粉末供給管12から供給される粉末とが混合される混合室である。詳細には、粉末供給管12の先端部において、この粉末供給管12の先端から噴出した粉末が、ガス室11からガス通過口13aを通って導入された高圧ガスと混合される。以下、粉末供給管12からの粉末の出射口である先端面12aの位置を、混合位置という。高圧ガスと混合された粉末は、この高圧ガスの圧力によりノズル5に導入され、先細部5aを通過することにより加速させられる。
【0028】
ガス室11には、ガス加熱器2からガス供給管8を介して、加熱された高圧ガスが導入される。ガス室11内の圧力は通常、0.3〜5MPa程度に維持されている。このガス室11内とガス粉末混合室10内との圧力差により、高圧ガスがガス粉末混合室10に導入される。
【0029】
粉末供給管12は、ガス室11を貫通し、ガス粉末混合室10及びノズル5の長手方向に沿って、先端をノズル5側に突出させるように配置されている。粉末供給管12の突出長は変更可能である。例えば、
図2は、粉末供給管12の突出長を抑制し、粉末供給管12の先端面12aがガス粉末混合室10の基端部付近に留まるように配置した場合を示し、
図3は、粉末供給管12をノズル5の先細部5a内まで突出させた場合を示している。このように、粉末供給管12の突出長を変更することにより、先端面12aの位置即ち混合位置と、スロート部5bの位置との間の距離を調節することができる。以下、混合位置とスロート位置との間の距離を、混合距離という。
図2においては混合距離をX1とし、
図3においては混合距離をX2(X2<X1)としている。
【0030】
なお、粉末供給管12の突出長を伸ばした場合(
図3参照)、粉末供給管12の先端部の位置を安定させるため、粉末供給管支持部13をガス粉末混合室10の内部に設けても良い。或いは、粉末供給管支持部13とは別に、粉末供給管12の先端部を支持する部材をガス粉末混合室10内に設けても良い。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る成膜方法について説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る成膜方法を示すフローチャートである。なお、成膜を開始する前に、皮膜101を形成する基材100をノズル5の噴射方向の所定位置に配置しておくと共に、粉末供給装置3に皮膜101の材料の粉末を投入しておく。
【0032】
まず、工程S1において、材料の粉末の種類に応じて、混合距離を調節する。本実施の形態においては、ガス室11からの粉末供給管12の突出長を変更することにより混合距離を調節する。
【0033】
混合距離は、融点などの材料そのものの特性、材料の粉末の径、高圧ガスの温度及び圧力等に応じて決定する。具体例として、材料の融点が低いほど加熱により軟化し易いので、混合距離を短くすると良い。また、材料が酸化し易いほど、混合距離を短くすると良い。また、材料の粉末の径が小さいほど、体積に対する表面積の比率が大きくなり、加熱され易くなるので、混合距離を短くすると良い。さらに、高圧ガスの温度を高くするほど、混合距離を短くすると良い。
【0034】
続く工程S2において、バルブ6及び7を開き、ガス加熱器2を介してガス室11への高圧ガスの供給を開始すると共に、粉末供給装置3への高圧ガスの供給を開始する。
【0035】
続く工程S3において、材料の粉末を高圧ガスと混合してノズル5に導入し、加速して噴射する。詳細には、粉末供給装置3からガス粉末混合室10への材料の粉末の供給を開始する。それにより、ガス粉末混合室10の混合位置において材料の粉末が高圧ガスと混合される。材料の粉末は、高圧ガスの流れと共にノズル5に導入され、先細部5aからスロート部5bに向かって加速される。そして、高圧ガスは、スロート部5bにおいて音速に達し、末広部5cにおいてさらに超音速になり、材料の粉末を加速しながらノズル5の先端から噴射される。
【0036】
続く工程S4において、ノズル5の先端から噴射された材料の粉末を基材に吹き付けて堆積させる。この工程S4を、基材上の所望の領域に所望の時間継続することで、所望の厚さの皮膜を得ることができる。
【0037】
次に、
図2及び
図3に示すスプレーガン4における混合距離について詳しく説明する。本実施の形態においては、粉末供給管12のガス室11からの突出量を調節させることにより、材料の粉末が高圧ガスと混合されてからスロート部5bを通過するまでの混合距離Xを変化させている。その理由は次のとおりである。
【0038】
コールドスプレー法においては、材料の粉末を固相状態のまま基材に衝突させて堆積させることにより皮膜を形成する。この衝突の際に、粉末と基材との間で塑性変形が生じてアンカー効果が得られると共に、互いの酸化皮膜が破壊されて新生面同士による金属結合が生じる。そのため、材料の粉末は、高速に加速して基材に吹き付けることが好ましい。
【0039】
材料の粉末を高速に加速するためには、通常、材料の粉末と一緒に噴射される高圧ガスの圧力を高めると共に加熱する。一方で、密着強度が高く緻密な皮膜を形成するためには、材料の粉末の酸化を防ぐ必要がある。また、過度な加熱によって、粉末がノズル内壁に付着したり、粉末が溶融したりするのを防ぐ必要もある。そのためには、材料の粉末が過度に加熱されることは好ましくない。
【0040】
そこで、本実施の形態においては、スプレーガン4において混合距離を可変とすることにより、材料の粉末が加熱された高圧ガスと接触する時間を調整可能な構造としている。つまり、材料の粉末の種類や高圧ガスの温度等の条件に応じて混合距離を変化させることにより、材料の粉末が高圧ガスと接する時間を調整している。それにより、材料の粉末の過度な加熱を抑制することができるので、高圧ガスをより高温化して、材料の粉末を高速に加速することが可能となる。
【0041】
図5は、ノズル5の先端から噴射される粉末の温度(実線)及び速度(破線)と混合距離との関係を示すグラフである。このグラフは、材料の粉末をアルミニウム(融点約660℃、熱伝導率237W/m・K)とし、混合距離を24mm〜157m範囲で変化させた場合の粉末の温度及び速度をシミュレーションにより取得したものである。なお、混合距離157mmは、
図2に示すスプレーガン4における最大値である。
【0042】
図5に示すように、混合距離24mm〜157mmの範囲では、混合距離を変化させても粉末の速度はほとんど変化しない。これに対し、アルミニウムの場合、混合距離が約120mm以下の範囲では、混合距離を短くするほど粉末の温度上昇が抑制されることがわかる。
【0043】
次に、混合距離の下限値について説明する。
図6は、混合距離の下限値について説明するための断面図であり、
図2及び
図3に示すノズル5の先端部近傍を示す。
図6に示すように、粉末供給管12の外径をD
1、粉末供給管12の先端面12aの位置におけるノズル5の内径(貫通孔5dの径)をD
2、スロート部5bにおけるノズル5の内径をD
3とする。また、ノズル5の長手方向において、粉末供給管12の先端面12aを基準位置(x=0)とし、基準位置からノズル5の先端に向かう方向をx方向とする。
【0044】
この場合、基準位置(x=0)において高圧ガスが通過可能な断面の面積A
x=0は、次式(1)によって与えられる。
【数1】
【0045】
また、スロート部5bの断面積A
x=Xは、次式(2)によって与えられる。
【数2】
【0046】
図7は、ノズル5の中心軸上におけるガスの流速(理論値)を示すグラフである。
図7において、横軸は、中心軸上における基準位置(x=0)からの距離を示し、縦軸は、高圧ガスの流速(マッハ数)を示す。
【0047】
図7の実線は、高圧ガスが通過可能な断面の面積A
x=0が、スロート部5bの断面積A
x=Xよりも大きい場合(A
x=0>A
x=X)における高圧ガスの流速を示す。この場合、高圧ガスは、流速ゼロでノズル5の先細部5aに進入した後、徐々に加速され、断面積が最も狭小となるスロート部5bにおいて音速(マッハ1)に至る。その後、高圧ガスは末広部5cにおいてさらに加速され、超音速となってノズル5の先端から噴射される。
【0048】
一方、
図7の破線は、高圧ガスが通過可能な断面の面積A
x=0が、スロート部5bの断面積A
x=Xよりも小さい場合(A
x=0<A
x=X)、即ち、粉末供給管12の先端面12aがスロート部5bに接近した場合における高圧ガスの流速を示す。この場合、スロート部5bの手前の先細部5aにおいてガスの流速が音速を超え、衝撃波が発生してしまう。
【0049】
しかしながら、先細部5aは、亜音速の流れに適した設計がなされているため、超音速のガスが先細部5aを通過することにより、先細部5aの壁面において生じた斜め衝撃波の影響を受けてしまう。衝撃波は等エントロピー流れではないため、この壁面からの影響により、ガスの流れが持つエネルギーに損失が生じてしまう。その結果、
図7の破線に示すように、ガスが減速されてしまう。
【0050】
従って、ガスの流れを減速させないためには、高圧ガスが通過可能な断面の面積A
x=0が、スロート部5bの断面積A
x=Xよりも大きいという条件(A
x=0>A
x=X)が必要になる。この条件を満足するように、混合距離Xを定めれば良い。
【0051】
(変形例1)
図8は、本発明の実施の形態の変形例1に係る成膜装置の一部を示す断面図である。本変形例1に係る成膜装置は、
図2に示すスプレーガン4の代わりに、
図8に示すスプレーガン4Aを備える。スプレーガン4A以外の成膜装置の各部の構成は、上記実施の形態と同様である。
【0052】
図8に示すスプレーガン4Aは、
図2に示すスプレーガン4が備えるガス粉末混合室10の代わりに、ガス粉末混合室20を備える。ガス粉末混合室20以外のスプレーガン4Aの各部の構成は、上記実施の形態と同様である。
【0053】
本変形例1に係る成膜装置は、ガス粉末混合室20を構成可能な、高さが異なる複数の筒状部材を備えている。これらの筒状部材のうちのいずれか1つをガス室11及びノズル5の基端部に連結することにより、ガス粉末混合室20が構成される。ガス粉末混合部20として用いる筒状部材を、高さが異なる別の筒状部材に交換することで、粉末供給管12の先端面12aの位置である混合位置とスロート部5bの位置との間の混合距離Xを変化させることができる。
【0054】
(変形例2)
図9は、本発明の実施の形態の変形例2に係る成膜装置の一部を示す断面図である。本変形例2に係る成膜装置は、
図2に示すスプレーガン4の代わりに、
図9に示すスプレーガン4Bを備える。スプレーガン4B以外の成膜装置の各部の構成は、上記実施の形態と同様である。
【0055】
図9に示すスプレーガン4Bは、
図2に示すガス粉末混合室10、ガス室11、及び粉末供給管12の代わりに、ガス粉末混合室30、ガス室31、及び粉末供給管32を備える。ガス粉末混合室30、ガス室31、及び粉末供給管32以外のスプレーガン4Bの各部の構成は、上記実施の形態と同様である。
【0056】
ガス粉末混合室30は、筒状部材からなり、側面には長手方向に沿って複数の貫通孔33A、33B、33Cが形成されている。粉末供給管32は、これらの貫通孔33A、33B、33Cのいずれかに、変更可能に接続される。
図9は、粉末供給管32が、最もノズル5に近い貫通孔33Aに接続された場合を示している。粉末供給管32が接続されていない貫通孔33B、33Cには、高圧ガス及び粉末の漏出を防ぐため、密閉栓34が嵌め込まれる。粉末供給管32の先端部は、ガス粉末混合室30の中心軸近傍において噴射方向がノズル5の長手方向と平行になるように湾曲している。
【0057】
ガス室31には、ガス供給管8を介して高圧ガスのみが供給される。この高圧ガスは、ガス室31とガス粉末混合室30とを仕切る仕切り部材35に設けられた少なくとも1つのガス通過口35aを介して、ガス粉末混合室30に導入される。
【0058】
このようなスプレーガン4Bに対し、ガス室31に高圧ガスを供給すると共に、粉末供給管32に材料の粉末を供給すると、粉末供給管32が接続された貫通孔33Aの近傍において、材料の粉末が高圧ガスと混合される。つまり、この貫通孔33Aの中心軸とスロート部5bを含む面との間の距離が、混合距離Xとなる。このようなスプレーガン4Bにおいては、粉末供給管32を接続する貫通孔33A、33B、33Cを変更することで、混合距離を変化させることができる。
【実施例】
【0059】
上記実施の形態に係る成膜装置1において、銅の基材にアルミニウム皮膜を形成する実験を行った。
【0060】
(実験条件)
材料の粉末として、平均粒径が約30μmの略球形のアルミニウム粉末を用いた。また、高圧ガスとして、窒素ガスを450℃に加熱し、5MPaに加圧してガス室11に導入した。混合距離Xについては、粉末供給管12の位置をx方向に沿って調節して、24mm、54mm、157mmの3種類に設定した。
【0061】
(評価)
50mm×50mm×1.5mmの銅基材に500μmのアルミニウム皮膜を形成したテストピースを作製し、このテストピースからアルミニウム皮膜を剥離する際の剥離強度を測定した。
【0062】
図10は、剥離強度測定の際に行った簡易引張試験法を説明するための模式図である。
図10に示すように、銅基材41上にアルミニウム皮膜42を形成したテストピース40のアルミニウム皮膜42側に、接着剤44を用いてアルミピン43を固定する。そして、貫通孔46が設けられた固定台45上に、アルミピン43を貫通孔46に挿通させて載置し、アルミピン43を下方に引っ張り、銅基材41とアルミニウム皮膜42が剥離したときの引張力を剥離強度として評価した。
【0063】
(結果)
図11は、剥離強度の実測値を示すグラフである。なお、先に示した
図5を対比すると、混合距離157mmの場合、粉末の温度は450℃近傍まで上昇している。それに対し、混合距離54mmの場合、粉末の温度は150℃近傍に留まり、混合距離24mmの場合、粉末の温度は60℃近傍に留まっている。
図11に示すように、混合距離を短くすることで、剥離強度が格段に増加したことがわかる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態によれば、混合距離を変化させることで、ノズルから噴射させる材料の粉末及びガスの速度は高速に維持しつつ、材料の粉末の過度が加熱を防ぐことができる。それにより、材料の粉末の軟化や酸化を抑制することができるので、基材に堆積した皮膜の剥離強度を増加させ、緻密で高品質な皮膜を作製することが可能となる。