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特許6716223レーダシステム、および信号処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716223
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】レーダシステム、および信号処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/46 20060101AFI20200622BHJP
【FI】
   G01S13/46
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-177821(P2015-177821)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-53721(P2017-53721A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東海林 慶一
【審査官】 安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−075846(JP,A)
【文献】 特許第2651054(JP,B2)
【文献】 特開2012−255667(JP,A)
【文献】 特開2003−227870(JP,A)
【文献】 米国特許第05410314(US,A)
【文献】 特開平05−066268(JP,A)
【文献】 東海林 慶一 他2名,マルチスタティックレーダによる標定処理精度に関する検討 The Localization Accuracy for the Multistatic Radar,電子情報通信学会2015年通信ソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 2015 IEICE COMMUNICATIONS SOCIETY CONFERENCE,日本,一般財団法人 電子情報通信学会,2015年 8月25日,B-2-19,p.177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42,
G01S 13/00−13/95,
CSDB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測角方向が異なり、検出対象を検出する領域の少なくとも一部が重複するように設定され、送信局から送信された電波が検出対象において反射されて、前記反射された電波の周波数成分を含む受信信号を受信する複数の受信局と、
前記複数の受信局のそれぞれに対して設けられ、複数の異なる補正量の傾向に基づいて、前記送信局が送信した電波の周波数と、前記受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する補正部と、
前記複数の受信局のそれぞれに対して設けられた補正部により補正された前記受信信号の周波数成分のうち、各補正部のそれぞれにおいて基準を満たす前記受信信号の周波数成分に基づいて、移動する前記検出対象の位置を推定する推定部と、
を備えるレーダシステム。
【請求項2】
前記推定部は、
前記基準を満たす前記受信信号の周波数成分に基づいて、前記受信局に対する相対移動速度が異なる前記検出対象から前記複数の受信局に含まれる各受信局までの距離を推定し、推定結果に基づいて、前記検出対象の位置を推定する、
請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記補正部は、
前記ドップラ遷移を打ち消すように調整された復調係数を生成する復調係数生成部と、
前記復調係数に基づいて前記受信信号の周波数成分を変換するとともに、前記復調係数に従ったパルス圧縮処理を実施する変換部と、
を備える
請求項1または請求項2記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記複数の受信局は、第1の受信局と第2の受信局とを備え、
少なくとも前記検出対象に対する前記第1の受信局の測角方向と前記第2の受信局の測角方向とは異なり、
前記推定部は、
前記第1の受信局によって受信され、前記第1の受信局の第1の補正部により補正された前記基準を満たす第1の受信信号の周波数成分に基づいて、前記検出対象から前記第1の受信局までの第1距離を推定し、
前記第2の受信局によって受信され、前記第2の受信局の第2の補正部により補正された前記基準を満たす第2の受信信号の周波数成分に基づいて、前記検出対象から前記第2の受信局までの第2距離を推定し、
前記推定結果に基づいて、前記検出対象の位置を推定する、
請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記複数の受信局は、第1の受信局と第2の受信局とを備え、
少なくとも前記検出対象の前記第1の受信局に対する相対移動速度と前記検出対象の前記第2の受信局に対する相対移動速度とは異なり、
前記推定部は、
前記第1の受信局によって受信され、前記第1の受信局の第1の補正部により補正された前記基準を満たす第1の受信信号の周波数成分に基づいて、前記検出対象から前記第1の受信局までの第1距離を推定し、
前記第2の受信局によって受信され、前記第2の受信局の第2の補正部により補正された前記基準を満たす第2の受信信号の周波数成分に基づいて、前記検出対象から前記第2の受信局までの第2距離を推定し、
前記推定結果に基づいて、前記検出対象の位置を推定する、
請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項6】
前記複数の受信局は、更に第3の受信局を備え、
前記推定部は、
前記第3の受信局によって受信され、前記第3の受信局の第3の補正部により補正された前記基準を満たす第3の受信信号の周波数成分に基づいて、前記検出対象から前記第3の受信局までの第3距離を推定し、
少なくとも前記第1距離、前記第2距離、および前記第3距離に基づいて、前記検出対象の位置を推定する、
請求項4又は請求項5記載のレーダシステム。
【請求項7】
前記基準を満たす信号は、受信信号の信号強度に関する基準であり、
前記推定部は、
各補正部のそれぞれにおいて受信信号の信号強度に関する基準を満たす前記受信信号を選択する選択する選択部と、
前記補正部ごとに前記選択された信号をインコヒーレント積分する積分処理部と、を更に備え、
前記推定部は、前記インコヒーレント積分された後の信号から前記検出対象の位置を推定する、
求項4から請求項6の何れか1項に記載のレーダシステム。
【請求項8】
測角方向が異なり、検出対象を検出する領域の少なくとも一部が重複するように設定され、送信局から送信された電波が検出対象において反射されて、前記反射された電波の周波数成分を含む受信信号を受信する複数の受信局のそれぞれに対して設けられ、複数の異なる補正量の傾向に基づいて、前記送信局が送信した電波の周波数と、前記受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する補正部と、
前記複数の受信局のそれぞれに対して設けられた補正部により補正された前記受信信号の周波数成分のうち、各補正部のそれぞれにおいて基準を満たす前記受信信号の周波数成分に基づいて、移動する前記検出対象の位置を推定する推定部と
を備える信号処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の実施形態は、レーダシステム、および信号処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダシステムにおいて、送信時にレーダ波に対して変調処理を施し、受信時に復調処理を行うことでレンジング処理の分解能向上を図るパルスレーダが知られている。ただし、検出対象が移動する場合、変調されたレーダ波は、検出対象の相対速度に対応するドップラ遷移の影響を受ける。ドップラ遷移の影響を受けたレーダ波を受信レーダが復調処理をした際に、復調後の信号にドップラ遷移の影響が表れて、レンジング処理により得られた位置と実際の検出対象の位置との間に誤差が生じる。
また、送信波の反射信号を複数の受信レーダでそれぞれ受信するマルチスタティックレーダが知られている。マルチスタティックレーダにおける各受信レーダは、同一の検出対象において反射されたレーダ波であっても、検出対象の相対速度が互いに異なることにより、ドップラ遷移の影響度合いが異なるレーダ波をそれぞれ受信する。そのため、各受信レーダにおいて共通の復調処理を実施した場合、レンジング処理により得られた検出対象の位置と実際の検出対象の位置との間に、受信レーダごとに互いに異なる誤差が生じることにより、検出対象までの距離を所望の検出精度で得ることは容易ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M. I. Skolnik, “Radar Handbook,” Third edition, pp. 23.1-23.13, McGraw-Hill, New York,
【非特許文献2】N. J. Wills, “Bistatic Radar,” Second edition, Silver Spring, MD: Technology Service Corp., 1995. Corrected and republished by Raleigh, NC: SciTech Publishing, Inc., 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、検出対象までの距離の検出精度を高めることができるレーダシステム、および信号処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のレーダシステムは、複数の受信局と、補正部と、推定部とを持つ。複数の受信局は、測角方向が異なり、検出対象を検出する領域の少なくとも一部が重複するように設定され、送信局から送信された電波が検出対象において反射されて、前記反射された電波の周波数成分を含む受信信号を受信する。補正部は、前記複数の受信局のそれぞれに対して設けられ、複数の異なる補正量の傾向に基づいて、前記送信局が送信した電波の周波数と、前記受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する。推定部は、前記複数の受信局のそれぞれに対して設けられた補正部により補正された前記受信信号の周波数成分のうち、各補正部のそれぞれにおいて基準を満たす前記受信信号の周波数成分に基づいて、移動する前記検出対象からの位置を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態に係るレーダシステム1の概略を示す図。
図2】実施形態において採用し得るマルチスタティックレーダを例示した図。
図3】実施形態において採用し得るマルチスタティックレーダを例示した他の図。
図4】レーダシステム1の構成図。
図5】レーダシステム1の検出性能として所要SNR(Signal-to-Noise Ratio)に対する検知確率の推移を示す図。
図6】レーダシステムの検出性能として受信レーダの局数に対する所要SNRの推移を示す図。
図7】複数の受信レーダが配置された領域を検出対象30が移動する状況を模式化した図。
図8】レーダシステム1により実行される処理の流れを示すシーケンス図。
図9】RX20における処理を模式化して示す図。
図10】比較例のレーダシステムにおける誤差要因をモデル化して示す図。
図11】測距成分の誤差について示す図。
図12】検討の条件として定めたパラメータ諸元について示す図。
図13】レーダシステムのマルチスタティックアングルによる推定誤差の推移を示す図。
図14】第2の実施形態に係るレーダシステム1Aの構成図。
図15】レーダシステム1Aにより実行される処理の流れを示すシーケンス図。
図16】第3の実施形態に係る信号処理システム60の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のレーダシステムを、図面を参照して説明する。以下、前述の構成と同じ構成には同じ符号を附す。
【0008】
(第1の実施形態)
(レーダシステムの概要)
図1は、第1の実施形態に係るレーダシステム1の概略を示す図である。レーダシステム1は、例えば、送信レーダ(以下、「TX」という。)10と、N局の受信レーダ(以下、「RX」という)20−1、20−2、…、20−Nと、演算処理部50とを含む。以下、いずれの受信レーダであるかを区別しないときは、単にRX20という。レーダシステム1は、TX10により送信された電波が検出対象30によって反射された反射波を、TX10とは異なる位置に配置された複数のRX20で受信することで、検出対象30の位置を特定するマルチスタティックレーダである。この場合、Nは、例えば3以上の整数である。なお、レーダシステム1は、RX20を2つ備えるバイスタティックレーダであってもよい。
【0009】
RX20のそれぞれは、互いに距離が隔てて配置される。RX20同士の距離は、RX20のそれぞれからの検出対象30に対する測角方向が互いに異なる程度に決定される。また、少なくとも複数のRX20のそれぞれは、TX10に対する距離が隔てて配置される。TX10とRX20との距離は、上記の複数のRX20のそれぞれからの検出対象30に対する測角方向が、TX10からの検出対象30の方向と異なる程度に決定される。
【0010】
TX10は、例えば、変調された信号を送信波として出力する。TX10が送信した送信波は、検出対象30において反射され、その反射波がN個のRX20によりそれぞれ受信される。
【0011】
(マルチスタティックレーダの方式)
図2図3とを参照して、実施形態におけるマルチスタティックレーダの方式について説明する。図2図3は、実施形態において採用し得るマルチスタティックレーダを例示した図である。マルチスタティックレーダは、検出対象を検出する処理の違いにより、次の2つの方式に大別される。
【0012】
図2に示す第1の方式は、各受信レーダ(例えばRX20)で検出対象30の検出処理は行わず、得られたRawデータのレベルの情報を中央装置(例えば演算処理部50)に伝送し、中央装置側で検出対象30の検出の有無を判定する方式である。このような方式を適用したものは、Centralized型と呼ばれている。
【0013】
図3に示す第2の方式は、各受信レーダ(例えば後述のRX20A)で検出対象30の検出処理を行い、検出結果であるPlotレベルの情報を中央装置(例えば後述の演算処理部50A)に伝送し、中央装置が各受信レーダの検出結果を基にして改めて総合的な検出判定行う方式である。このような方式を適用したものは、Decentralized型と呼ばれている。
【0014】
第1の実施形態のレーダシステム1は、上記の第1の方式のCentralized型に分類される。RX20は、それぞれ受信した反射波に基づいた信号処理を行った後のデータを演算処理部50に提供する。演算処理部50は、RX20のそれぞれから提供されたデータを解析して、検出対象30を検出するとともに、検出対象30の位置を推定する。
【0015】
(レーダシステムの構成)
図4を参照して、本実施形態におけるレーダシステム1の構成について説明する。同図は、本実施形態におけるレーダシステム1の構成図である。
レーダシステム1(信号処理システム)は、例えば、複数のRX20と、演算処理部50とを備える。レーダシステム1は、さらに、TX10を備えていてもよい。
【0016】
[TX]
TX10は、例えば、所定の規則に従って変調した変調波をパルス波(電波)にして、アンテナ11から送出する。変調波の変調方式は、周波数変調であってもよく、予め定められた符号則に従ったパルス変調であってもよい。なお、変調方式の規則は、各RX20と共有される。
【0017】
上記のパルス波は、独立したパルスとして送出されてもよく、或いは、所定の期間に断続的に複数送出され、予め定められた送出タイミングに従って繰り返されてもよい。以下の説明では、所定の期間に断続的に複数送出されるパルス波の場合を例示して説明する。
【0018】
[RX]
RX20は、TX10から送信された変調波(電波)が検出対象30において反射されて、反射された電波をアンテナ21によって受信する。RX20は、アンテナ21によって受信した電波から受信信号(信号RS1)を取り出し、TX10が送信した変調波(電波)の周波数と、信号RS1に含まれる変調波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、信号RS1の周波数成分を補正する。
【0019】
RX20は、例えば、信号変換部22と、復調処理部23と、パルス積分処理部26と、通信部27とを備える。なお、図4ではRX20を代表してRX20−1の構成についてのみ記載し、その他のRXの構成については省略している。
信号変換部22は、信号RS1に対して周波数変換とアナログ・ディジタル変換とを実施し、信号RS1に含まれる所望の信号成分を含む信号RS2をディジタル信号として出力する。信号変換部22は、さらに、ディジタル信号に対して所定の重み係数を乗じることにより、所望の受信ビームを形成してもよい。
【0020】
復調処理部23(補正部)は、信号変換部22によって変換された信号RS2の復調処理を実施する。復調処理部23は、検出対象30の移動にともなって検出対象30における反射波に生じるドップラ遷移であって、TX10が送信した変調波の周波数と、信号RS1に含まれる変調波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、信号RS1の周波数成分を補正する。
【0021】
復調処理部23は、例えば、復調係数生成部24と変換部25とを備える。
復調係数生成部24は、例えば、復調処理の系統数と同じ個数の復調係数を生成する。復調処理の系統とは、上記のドップラ遷移を打ち消すことについて複数の結果を得るために、予め周波数成分の補正量の傾向を変えて用意した構成のことである。復調係数生成部24は、ドップラ遷移を打ち消すように調整された復調係数を、復調処理の系統に対応させて生成する。
変換部25は、復調係数生成部24によって生成された復調係数に基づいて、信号RS2の周波数成分を系統ごとに変換する。
変換部25は、復調処理を実施する際に、復調係数生成部24によって生成された復調係数に基づいてパルス圧縮処理を実施する。上記のように、ドップラ遷移を打ち消すように調整された復調係数に基づいて復調処理を実施することにより、ドップラ遷移の影響を低減した復調処理を実施する。
【0022】
なお、復調処理部23は、複数の系統に分けて、信号変換部22によって変換された信号RS2の復調処理を実施する。それぞれの系統に対応させて、復調係数生成部24と変換部25とを組にして複数設けておき系統ごとの処理を並列処理してもよく、1対の復調係数生成部24と変換部25とを系統ごとに時分割処理をしてもよい。
【0023】
パルス積分処理部26は、復調係数に基づいて復調された後の信号RS3を、復調処理の系統ごとにパルス積分する。
【0024】
通信部27は、パルス積分処理部26によるパルス積分の結果(信号RS4)を演算処理部50宛に通知する。
【0025】
RX20−2からRX20−Nは、例えば、RX20−1と同様の構成を備える。それらの説明はRX20−1の説明を参照する。
【0026】
演算処理部50は、RX20のそれぞれから通知されたパルス積分の結果(信号RS4)に基づいて、検出対象30の位置を推定する。演算処理部50は、例えば、通信部51と、選択部52と、インコヒーレント積分処理部53と、閾値判定処理部54と、推定処理部55と、出力処理部56とを備える。
通信部51は、RX20からのデータを受信する。
選択部52は、複数のRX20によってそれぞれ受信され、復調処理部23によりそれぞれ補正された後の信号RS4のうちから、受信信号の信号強度に基づいて受信信号をRX20ごとに選択し、選択された結果を信号RS5とする。
インコヒーレント積分処理部53(積分処理部)は、RX20ごとに選択された結果の信号RS5に対してインコヒーレント積分処理を実施して、インコヒーレント積分処理の結果を信号RS6とする。
閾値判定処理部54は、予め定められた閾値を判定条件にして、信号RS6の判定を実施する。当該判定により、検出対象30として判定し得る確率が比較的高いものを検出対象30の候補として判定する。
推定処理部55は、インコヒーレント積分処理部53による演算処理(積分処理)された後の信号RS6に基づいて、判定処理により選択された検出対象30の位置を推定する。
出力処理部56は、推定された検出対象30の位置を出力する。
【0027】
(レーダシステムにおける推定処理について)
以下、レーダシステム1の推定処理について説明する。
【0028】
「レーダシステム1における推定処理の原理」
上記のとおりレーダシステム1は、1局の送信レーダ(TX10)と複数の受信レーダ(RX20)を含み、TX10とRX20とを異なる位置に設けたCentralized型のマルチスタティックレーダである。
【0029】
本実施形態のレーダシステム1では、RX20の測角性能に影響されない方法で位置の推定処理を実施する。本実施形態の位置の推定処理では、RX20で受信される直接波の受信時刻t1と、当該RX20で反射波が受信された時刻をt2とし、受信時刻の時間差ΔTrtを利用する。推定処理に用いるRX20の局数を複数とし、例えば3局以上にする。以下の説明では、RX20の局数を3局とした場合の推定処理について説明する。各RX20と検出対象30までの距離を式(1)として定式化する。
【0030】
【数1】
【0031】
式(1)において、RX20−1(第1の受信局)と検出対象30の距離をRR1で示し、RX20−2(第2の受信局)と検出対象30の距離をRR2で示し、RX20−3(第3の受信局)と検出対象30の距離をRR3で示す。また、(x,y,z)がRX20−1の位置、(x,y,z)がRX20−2の位置、(x,y,z)がRX20−3の位置をそれぞれ示し、(x,y,z)が検出対象30の位置を示す。cは、伝搬速度を示す。
上記の式(1)の連立方程式を解くことで、検出対象30の位置(x,y,z)が求まる。上記の式(1)が非線形連立方程式であり、RX20による測距誤差の影響により、同連立方程式を解けない場合がある。そのような場合には、ニュートン法などの反復による逐次計算法を適用して解を求めてもよい。
この方法では、求めるべき未知数を、初期値(0)と修正値(Δ)の和を用いて、式(2)のように仮定する。
【0032】
【数2】
【0033】
次に、上記の式(2)の修正値(Δ)の項を式(3)のように線形化して、ΔRとする。
【0034】
【数3】
【0035】
上記の式(3)において、iは、各RX20を識別する識別情報であり、1以上の整数とする。ここで、ΔRは、「擬似距離R」と「初期値から算出される推定距離」との差分として、次の式(4)のように表される。
【0036】
【数4】
【0037】
上記の式(4)の偏微分項は、次の式(5)になる。
【0038】
【数5】
【0039】
上記の式(5)を上から順にα、β、γとおくと、ΔRは、次の式(6)のように表すことができる。
【0040】
【数6】
【0041】
次の式(7)のようにΔR、A、Δxをおくことにより、上記の式(6)を式(8)と表すことができる。
【0042】
【数7】
【0043】
【数8】
【0044】
上記の式(8)をΔxについて整理して式(9)に示す。
【0045】
【数9】
【0046】
上記の式(9)において、Δxが十分に小さい値であれば、初期値と修正値とを加算した(x,y,z)を解にする。一方、Δxが十分に小さい値でなければ、(Δx,Δy,Δz)を(x,y,z)に代入して、Δxの計算を繰り返し実施する。
【0047】
次に、RX20が4局以上にする場合について、ΔRを次の式(10)のように定義する。
【0048】
【数10】
【0049】
上記の式(10)において、εは、各RX20における誤差を要素に含む行列(ベクトル)であり、RX20をN局とする場合、式(11)のように表すことができる。
【0050】
【数11】
【0051】
上記の式(11)において、「(・)」は、転置行列を示す。ここで、最適化処理の評価手法として、この各要素のεの2乗和を最小にするように解を決定する最小2乗法を適用する。式(10)を式(12)のように変形する。
【0052】
【数12】
【0053】
各要素のεの2乗和を式(13)に示し、同式を式(14)のように変換する。
【数13】
【0054】
【数14】
【0055】
上記のfが変数Δxで偏微分可能であり、fを最小にする変数Δxで極値をとるとすれば、次の式(15)と式(16)に示す結果が導かれる。
【0056】
【数15】
【0057】
【数16】
【0058】
上記の式(16)の両辺の転置をとり、(AB)=Bという変換則を用いて、更に、(AA)が対称行列であることから、上記の式(16)を式(17)のように変換できる。
【0059】
【数17】
【0060】
式(17)をΔxについて解くことで、式(18)に示す修正値を導出する。
【0061】
【数18】
【0062】
上記の式(18)により導出したΔxに基づいた推定処理を実施する。これにより、各RX20による測角性能の影響を受けることなく、TX10における送信パルスの送信時刻と検出対象30における反射信号の受信時刻の差分ΔTrt1からΔTrtNの観測値のみを用いて検出対象30の位置の推定が行える。上記の位置検出の方法によれば、推定誤差に影響する要因を各RX20が有する測距誤差の影響のみに抑え込むことが可能となる。
【0063】
図5図6とを参照して、レーダシステムの検出性能について説明する。
【0064】
(所要SNRに対する検出確率)
図5は、レーダシステムの検出性能として所要SNR(Signal-to-Noise Ratio)に対する検知確率の推移を示す図である。同図には、RX20の局数を2局から4局にした場合のレーダシステム1の検出性能を試算した結果を検知確率(Detection Probability)として示す。レーダシステム1の検出性能として、レーダシステム1における1局のRX20で得られる受信信号電力Sを、モノスタティックレーダの受信レーダにより得られる受信信号電力Sに基づいて規定する。
モノスタティックレーダの受信レーダにより得られる受信信号電力Sの値を、Pとする。Pは送信電力を示し、Gは送信時のアンテナの利得を示し、Gは受信時のアンテナの利得を示す。
上記のレーダシステム1における1局のRX20で得られる受信信号電力Sの値を、P(NxG)としたものである。なお、Nは、RX20の局数を示す。なお、同図に、比較例としてモノスタティックレーダの検出特性を示す。同図に示す結果から、レーダシステム1のRX20の局数を増やすことにより、検出性能が改善できることがわかる。
【0065】
(受信レーダの局数に対する所要SNRの推移)
図6は、レーダシステムの検出性能として受信レーダの局数に対する所要SNRの推移を示す図である。同図には、RX20の局数を1局から10局にした場合のレーダシステム1の検出性能を試算した結果を所要SNRとして示す。同図に示す結果から、レーダシステム1のRX20の局数を増やすことにより、ある検出性能に必要とされる1局のRX20の所要SNRを低減することが可能となることが確認でき、検出性能が改善できることがわかる。
【0066】
上記のとおり、マルチスタティックレーダとして構成したレーダシステム1は、RX20の局数を増やすことで、位置の推定性能と検出性能を向上させることができる。
【0067】
(分解性能)
レーダシステム1が、前述した推定性能や検出性能を得るためには、複数のRX20が検出対象30からの反射信号を示すデータ(Rawデータ)を、当該RX20から検出対象が存在する真の位置までの距離としてレンジング処理する必要がある。
レーダシステム1は、送信するレーダ波に対して変調処理を施し、受信した信号の復調処理を行うことでレンジング処理の分解能向上を図る。ただし、検出対象30が移動する場合、変調したレーダ波の反射波には、移動する検出対象30の相対速度に対応するドップラ遷移が生じる。ドップラ遷移の影響を加味せずに復調処理をした場合には、レンジング処理により得られた位置と実際の位置に誤差が生じてしまう。そこで、本実施形態のレーダシステム1は、ドップラ遷移の影響を低減するように復調処理を実施する。
【0068】
さらに、複数の受信レーダを持つマルチスタティックレーダでは、検出対象30に対する各受信レーダの視線角度が受信レーダごとにそれぞれ異なる。
例えば、図7を参照して各受信レーダにおけるドップラ遷移について説明する。同図は、複数の受信レーダが配置された領域を検出対象30が移動する状況を模式化した説明図である。同図には、RX20−1とRX20−2とRX20−3と、検出対象30が示されている。検出対象30は、RX20−1とRX20−2とRX20−3のそれぞれから検出可能な範囲にあるとする。
RX20−1と検出対象30とを結ぶ方向に軸LT1を定め、RX20−2と検出対象30とを結ぶ方向に軸LT2を定め、RX20−3と検出対象30とを結ぶ方向に軸LT3を定める。
検出対象30は、例えば、RX20−1とRX20−2とRX20−3とに対して相対速度Vで矢印の方向に移動する。相対速度Vの軸LT1と軸LT2と軸LT3の各方向の成分は、それぞれ相対速度VT1と相対速度VT2と相対速度VT3になる。図示するように、相対速度VT1と相対速度VT2と相対速度VT3は互いに異なる大きさになる。上記のとおり各RX20は、検出対象30に対する相対速度が異なることにより、異なるドップラ遷移を受けたレーダ波を受信する。
このように、マルチスタティックレーダにおいて推定性能と検出性能に影響を与える「誤差」の要因となるドップラ遷移は、RX20ごとに異なるものとなる。
【0069】
そこで、本実施形態のレーダシステム1では、以下に示す処理を実施することにより分解性能を向上させる。
【0070】
図8図9を参照して、レーダシステム1により実行される処理について説明する。図8は、レーダシステムにより実行される処理の流れを示すシーケンス図である。図9は、RX20における処理を模式化して示す図である。
【0071】
以下に示すステップS10からステップS23までの処理は、所定の周期で繰り返し実施されるが、図8には1回分を明示して、繰り返し実施される処理の記載を省略している。一方、図9においては、上記の繰り返しがZ回繰り返されるものとして示し、繰り返し実施される途中の回の記載を省略している。
【0072】
[TX10における処理]
(ステップS10):TX10は、予め定められた変調方式により変調したレーダ波(変調波)を送出する。TX10から送信されたレーダ波が検出対象30において反射される。
【0073】
[RX20における処理]
RX20のそれぞれは、以下に示すステップS21からステップS25の処理を実施する。代表してRX20−1の処理について説明する。
(ステップS21):RX20−1は、アンテナ21により反射波を受信する。
【0074】
(ステップS22):信号変換部22は、例えば、アンテナ21により受信した反射波に対して、IF変換、および、アナログ・ディジタル変換により、ディジタルデータへ変換する。
上記のディジタルデータは、検出対象30の相対速度に対応するドップラ遷移fを受けた信号として次の式(19)のように表される。
【0075】
x(t)= exp (+j (ω0d)t) ・・・(19)
【0076】
上記の式(19)において、角速度ωは、TX10のレーダ波の中心周波数fと次の式(20)に示す関係にある。
【0077】
ω=2πf ・・・(20)
【0078】
また、角速度ωは、ドップラ遷移周波数fと次の式(21)に示す関係にある。
【0079】
ω=2πf ・・・(21)
【0080】
(ステップS23):上記のディジタルデータに変換された信号RS2に対して、RX20は、以下に示す復調処理をL個の系統についてそれぞれ実施する。
復調処理部23は、TX10が送信したレーダ波の周波数と、RX20の受信信号に含まれる変調波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、受信信号の周波数成分を補正する復調処理を実施して、補正程度を異ならせた複数の補正結果を出力する。
【0081】
例えば、復調係数生成部24は、上記のドップラ遷移を打ち消すように調整された復調係数として、復調処理の系統数と同数のL個の復調係数を生成する。L個の復調係数は、目標相対速度により生じるドップラ遷移を打ち消すよう、ドップラ補正係数を含んだ係数とする。ドップラ補正の係数を次の式(21)に示す。
【0082】
d1(i)= exp (−j(ωd1)(T×(i−1)))
d2(i)= exp (−j(ωd2)(T×(i−1)))
・・・
dL(i)= exp (−j(ωdL)(T×(i−1))) ・・・(22)
【0083】
上記の式(22)において、Tは受信レーダにおけるサンプリング周期であり、iは1からPまで変化する変数であり、Pは復調係数の係数長である。また、検出対象30の移動により生じるドップラ遷移の範囲を予測して、予測した範囲から選択したドップラ遷移fdlに対応する角周波数をωdlで示す。角周波数をωdlは、次の式(23)に示す関係を有する。
【0084】
ωdl=2πfdl ・・・(23)
【0085】
なお、上記の式(22)において、lは1からLまでの整数である。
また、TX10によるパルス繰り返し周波数をfPRFとした場合、fdlを式(24)に示すように定義してもよい。
【0086】
dl=(fPRF/L)×(l−1)) ・・・(24)
【0087】
なお、上記の式(24)からもわかるように、1/fPRFを超えるパルスの遅延は検出することができない。
TX10から送出されたレーダ波に対応するパルス圧縮係数をHとすると、L個の復調係数は以下の式(25)により求まる。
【0088】
ωl=H×Wdl ・・・(25)
【0089】
上記の式(25)において、復調係数Hωlとパルス圧縮係数Hは、ともに行列であり、Wdlは、Wd1(i)からWdL(i)を要素とするベクトルとする。
変換部25は、上記の式(25)による復調係数Hωlを用いて、受信ディジタルデータを復調する。
【0090】
なお、適した補正量で周波数遷移の補正がなされた系統の信号レベルは、他の系統の信号レベルより大きくなる。
【0091】
上記のステップS10からステップS23までの処理は、TX10からパルス波が送出されるごとに一連の処理として実施される。TX10から複数のパルス波が送出される場合には、上記の一連の処理をパルス数に応じて繰り返す。
ここで図9を参照して、TX10からZ個のパルス波が送出された場合について説明する。
上記のとおり、TX10からZ個のパルス波の送出に応じて、ディジタルデータに変換された信号RS2−1、RS2−2、・・・、RS2−Zが、復調処理部23に供給される。上記の信号RS2−kの「k」は、順に送出されたパルス波の送出回数を示す。復調処理部23は、復調処理をL個の系統の復調処理をそれぞれ実施して、系統ごとに復調した結果を出力する。
例えば、第1回目のパルス波の送出に対応して、信号RS2−1が復調処理部23に供給され、復調処理部23は、復調処理をL個の系統の復調処理をそれぞれ実施して、第1の系統に信号RS3_1−1を、第2の系統に信号RS3_2−1を、第Lの系統に信号RS3_L−1を、系統ごと出力する。信号RS3_l−kの「k」は、順に送出されたパルス波の送出回数を示し、「l」は、系統を識別する識別情報の値を示す。
復調処理部23に供給される信号RS2−kは、パルス圧縮処理がなされる前の信号であり、復調処理部23の機能により復調処理されるとともにパルス圧縮処理がなされた信号RS3_l−kに変換される。図中の三角形は、受信信号に基づいて生成されたパルス信号の振幅の時系列的変化を示す。同図の場合、信号RS3_1−1と信号RS3_2−1と信号RS3_L−1のうちで、信号RS3_2−1の振幅が他の系統の信号より大きい。第1回目から第Z回目まで通してみても、第2の系統の信号RS3_2−kの振幅が他の系統の信号より大きい。上記のような傾向がみられる場合には、第2の系統の補正量が、検出対象30の移動により生じたドップラ遷移量に適した補正がなされたと判断できる。
【0092】
(ステップS24):ステップS10からステップS23までの処理を、TX10が送出したパルス数に応じた回数分繰り返した後、パルス積分処理部26は、復調処理の系統ごとに、信号RS3における所定数の受信パルスをパルス積分する。所定数の受信パルスとは、TX10が周期的に繰り返し送出したパルスの数に応じた数の受信パルスのことである。例えば、TX10が周期的に繰り返し送出したパルスの数に、パルス積分の対象にするパルスの数を一致させる。なお、パルス積分を実施することにより、単一パルスの信号を処理する場合に比べてSNRを改善することができる。
【0093】
(ステップS25):通信部27は、パルス積分処理部26によるパルス積分の結果(信号RS4)を演算処理部50宛に通知する。
【0094】
RX20−2からRX20−Nは、RX20−1と同様に、ステップS21からステップS25までの処理をそれぞれ実施する。
上記のステップS21からステップS25までの処理により、RX20のそれぞれから通知されたパルス積分の結果(信号RS4)には、何れかの系統のパルス積分の結果にドップラ遷移の影響を最も低減できた系統が含まれる。
【0095】
[演算処理部50における処理]
(ステップS51):演算処理部50において、通信部51は、RX20からそれぞれ通知されたデータをそれぞれ受信する。
【0096】
(ステップS52):選択部52は、RX20の復調処理部23によりそれぞれ補正された後の信号RS4のうちの何れかの受信信号を、受信信号の信号強度に基づいてRX20ごとに選択し、選択された結果を信号RS5とする。上記の選択処理では、信号レベルが最も大きくなった系統の補正量が適していると評価する評価基準に基づいて、適切な補正がなされた系統を信号レベルの大きさに基づいて選択し、その系統の信号を選択する。例えば、図9の場合では、第2の系統が適した補正処理を実施した例を示した。そのような場合には、選択部52は、第2の系統の信号を選択することになる。
【0097】
(ステップS53):インコヒーレント積分処理部53(積分処理部)は、ステップS52においてRX20ごとに選択された系統の信号RS5に対してのインコヒーレント積分処理を実施して、その結果を信号RS6とする。インコヒーレント積分では、位相成分を用いることなく信号強度に基づいた積分を実施する。例えば、インコヒーレント積分の対象単位は、レンジ方向に定めた所定の距離と、RX20の測角方向に定めた所定の角度とにより囲まれる領域を単位とする。複数のRX20の信号をインコヒーレント積分するに当たり、それぞれのRX20のインコヒーレント積分の結果を共通の座標系のセルにマッピングする。上記のインコヒーレント積分処理では、RX20ごとに選択された系統の信号RS5の信号強度を、全てのRX20についてインコヒーレント積分して、その結果を信号RS6にする。
【0098】
(ステップS54):閾値判定処理部54は、予め定められた閾値を判定条件にして、信号RS6を閾値判定する。当該判定により、当該閾値を超える信号強度の地点を検出対象30として判定し得る確率が比較的高いセルを検出対象30の候補として判定する。
【0099】
(ステップS55):推定処理部55は、インコヒーレント積分処理(積分処理)された後の信号RS6から選択されたセルの位置情報から、検出対象30の位置を推定する。
【0100】
(ステップS56):出力処理部56は、推定された検出対象30の位置を出力する。
【0101】
レーダシステム1は、上記の手順に従って、検出対象30の相対速度に対する適正な補正量により補正された後の信号を、補正後の信号強度から特定する。レーダシステム1は、補正後の信号強度が最大値を示した場合は、その補正量が適していると判定し、適した補正量で補正した信号に基づいて、検出対象30の相対速度によるドップラ遷移の影響を低減させたレンジング処理を実施する。
【0102】
(レーダシステムの処理による効果について)
レーダシステム1は、1局の送信レーダ(TX10)と複数の受信レーダ(RX20)を含み、TX10とRX20とを異なる位置に設けたマルチスタティックレーダである。
【0103】
比較例として、送信レーダと受信レーダとを異なる位置に設ける方式のレーダシステムの一種であるバイスタティックレーダを挙げて、レーダシステム1による効果を説明する。バイスタティックレーダは、送信レーダ1局と受信レーダ1局とを組にして構成され、マルチスタティックレーダに比べると受信レーダの局数が異なる。バイスタティックレーダに関する詳細は、Nicholas, J Willis, Bistatic Radar, Artech House 1991.を参照する。
【0104】
マルチスタティックレーダは、バイスタティックレーダと対比すると受信レーダの局数が異なるものであるが、バイスタティックレーダと同様の推定処理を適用しても十分な性能を得ることができない。
【0105】
ここで、バイスタティックレーダによる推定原理を、マルチスタティックレーダに適用した場合の問題について説明する。
前述の図1を参照して、受信レーダの局数をNとした場合、マルチスタティックレーダによる推定処理の座標系について説明する。
TX10とRX20のそれぞれの間の距離をベースラインと呼び、Lkで示す。但し、kは、RX20の識別情報を示し、例えば1以上N以下の整数である。
RX20−kと検出対象30との距離を、RRkで示す。RRkとして、例えば、RR1とRR2とRRNとが図示されている。
TX10と検出対象30までの距離をRTで示す。
RX20−kにおける検出対象30からの反射波が到来する方向を到来方向θRkで示す。到来方向θkとして、例えば、θR1とθR2とθRNとが図示されている。
RX20−kにおいて、ベースラインLkを基軸とし、検出対象30からの反射波の到来方向θRkまでの角度をαkで示す。例えば、RX20−1において、ベースラインL1を基軸とし、検出対象30からの反射波の到来方向θR1までの角度をα1で示す。
RX20で受信される直接波の時刻をt1、当該RX20で反射波が受信された時刻をt2とし、受信時刻の時間差ΔTrtを式(26)とおくことにより、当該受信時刻に対する推定距離RRkは、式(27)で計算される。
【0106】
ΔTrt=t2−t1 ・・・(26)
【0107】
【数19】
【0108】
なお、RX20でそれぞれ推定された複数の目標位置に対して複数点の重心を算出し、当該重心位置を統合推定位置として検出する方式を適用する。統合推定位置と、実際の目標位置との差分を推定誤差として評価する。
図10を参照して、比較例のレーダシステムにおける誤差要因について説明する。同図は、誤差要因をモデル化して示す説明図である。
上記の式(27)からもわかるように、各RX20の受信ビームには、観測時間から導かれる測距成分の誤差(±√(σ))と、角度成分の誤差(±√(σaz))と、高度成分の誤差(±√(σel))とが含まれる。上記の誤差が、検出対象30の位置の検出性能に影響する。
【0109】
一方、本実施形態のレーダシステム1の場合について、図11を参照して説明する。同図は、本実施形態のレーダシステムにおける測距成分の誤差について示す説明図である。同図に示すように、各RX20の距離成分の誤差(±√(σ))に制限される。
【0110】
マルチスタティックレーダに、バイスタティックレーダの推定原理に基づいた定式と同様の定式を当てはめた場合の推定精度は、送信レーダと受信レーダの配置によって異なるものとなる。そこで、送信レーダと受信レーダと検出対象との位置をモデル化し、当該モデルにおけるマルチスタティックレーダによる推定精度を定量的に評価する。上記のモデルでは、TX10から検出対象30までの距離(RT)と、検出対象30からRX20までの距離(RRk)とを一律に30kmとする。上記のモデルを、半径が30kmの円を用いて説明する。円の中心に検出対象30が配置され、円周上にTX10とRX20のそれぞれが配置される。検出対象30の位置からTX10の方向とRX20の方向とがなす角をバイスタティックアングルという。バイスタティックレーダにおけるバイスタティックアングルを、マルチスタティックレーダのマルチスタティックアングルとみなす。このモデルを用いて、マルチスタティックアングルに対する推定誤差推移を検討する。
【0111】
検討の条件として定めたパラメータ諸元を図12に示す。同図は、検討の条件として定めたパラメータ諸元について示す説明図である。同図に示す通り、パラメータ諸元として、例えば、送信電力「PT(dB)」と、送信アンテナ利得「GT(dB)」と、受信アンテナ利得「GT−10logN(dB)」と、SNR「(12.8−10logN)(dB)」と、3dBビーム幅「(1.5xN)(deg)」と、レンジ分解能「37.5(m)」とを含む。パラメータ諸元として、さらに、モノパルス係数について、「方位」、「迎角」、「距離」の各項目を含む。図示する数値は、一例を示すものであり、適宜変更してもよい。
【0112】
図13を参照して、レーダシステムのマルチスタティックアングルによる推定誤差の推移について説明する。同図は、レーダシステムのマルチスタティックアングルによる推定誤差の推移を示す説明図である。なお、検討に当たり、TX10の送信電力やRX20の受信アンテナ利得等のレーダリソースは各種形態で同一とした。
同図に本実施形態のレーダシステム1の場合の推定誤差をMSEで示す。また、同図に比較例として、バイスタティックレーダの場合の推定誤差をBEで示し、マルチスタティックレーダの場合の推定誤差をMBE(M)で示す。比較例として示すマルチスタティックレーダは、バイスタティックレーダと同様の推定原理を用いたものである。なお、「(M)」は、受信レーダの局数を示す。
【0113】
同図に示すように、バイスタティックレーダの推定誤差BEと、バイスタティックレーダの推定原理に基づくマルチスタティックレーダの推定誤差MBE2から推定誤差MBE4は、マルチスタティックアングル(バイスタティックアングルアングル)が大きくなるほど、また、マルチスタティックレーダの受信レータの局数が多くなるほど推定誤差が大きくなる。マルチスタティックレーダは、マルチスタティックアングルを有することが特徴である。ただし、上記の式(27)に示した定式を用いた場合に生じる上記の傾向は、マルチスタティックアングル(バイスタティックアングルアングル)を大きくするほど推定誤差が大きくなるということであり、望ましいものではない。このように、比較例として示したバイスタティックレーダと、バイスタティックレーダの推定原理に基づくマルチスタティックレーダの双方に満足な結果が得られない。
【0114】
一方、本実施形態のレーダシステム1の指定誤差MSEは、マルチスタティックアングルが大きくなるにしたがって減少する。このような傾向は、マルチスタティックレーダにとって適したものであり、指定誤差MSEは、マルチスタティックアングルが5度を超える領域で、比較例の推定誤差に対して充分に小さな値とる。TX10とRX20を分離して配置するマルチスタティックレーダでは、マルチスタティックアングルが5度以下になるようにTX10とRX20を配置することが必要とされる場合は極めて少ない。マルチスタティックアングルが5度以下の領域で、指定誤差MSEが比較例より大きな値を示すものの、上記のTX10とRX20の配置の条件をふまえれば、実際の構成で問題になることはない。
【0115】
以上に説明した、第1の実施形態によれば、レーダシステム1は、RX20と、復調処理部23(補正部)と、演算処理部50(推定部)とを持つ。RX20は、TX10から送信された電波が検出対象30において反射されて、前記反射された電波の周波数成分を含む受信信号を受信する。復調処理部23は、TX10が送信した電波の周波数と、前記受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する。演算処理部50は、移動する検出対象30から前記RX20までの距離を、復調処理部23により補正された前記受信信号の周波数成分に基づいて推定することによって、検出対象30までの距離の検出精度を高めることができる。
【0116】
(第1の実施形態の変形例)
以下、第1の実施形態の変形例について説明する。第1の実施形態の変形例において、パルスの遅延量が大きくなる比較的速い速度で移動する検出対象30を検出する構成について説明する。より具体的には、第1の実施形態の場合にドップラ遷移折り返しにより制限されていた範囲を、本変形例では検出対象範囲にする。以下、この点を中心に説明する。
【0117】
TX10が送出するパルスの送出周期より、ドップラ遷移による伝搬遅延が大きくなると、ドップラ遷移折り返しが発生する。そこで、復調処理部23における処理の系統数、すなわち、変調係数の個数を、ドップラ遷移折り返しを考慮した個数にすることで、移動速度の比較的速い検出対象30の検出が可能になる。
レーダシステム1では、復調係数の個数を、ドップラ遷移折り返しの折り返し数を想定し、想定する折り返し数をDとする拡張により、(LxD)個にする。具体的には、折り返し数をDにした場合、ドップラ補正係数は、式(29)によって示される条件のもとで式(28)として表すことができる。
【0118】
dl(i)= exp (−j(ωdl)(T×(i−1)))・・・(28)
【0119】
dl=(fPRF/L)×d(l−1)) ・・・(29)
【0120】
なお、上記の式(28)と式(29)において、TX10によるパルス繰り返し周波数をfPRFとした場合、dは1からDまでの整数であり、lは1から(L×D)までの整数である。
なお、レーダシステム1Aは、上記のように拡張したことにより、1/fPRFを超えるパルスの遅延も検出することができる。
上記の拡張により、復調処理部23から選択部52までの間で扱う系統数が増加するが、上記に示した以外の基本的な処理は、第1の実施形態と同様に実施することができる。
【0121】
以上に説明した、第1の実施形態の変形例によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏するものに加え、相対移動速度が比較的速く、第1の実施形態で検出可能な相対速度範囲を超える検出対象30についても検出対象にすることができる。この結果、第1の実施形態の変形例によれば、検出対象30の移動状況に応じて、より柔軟な処理を実現することができる。
【0122】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態において、Decentralized型のマルチスタティックレーダへの適用について説明する。以下、この点を中心に説明する。
本実施形態のレーダシステム1Aは、上記の図3に示した第2の方式のDecentralized型に分類される。
RX20Aは、それぞれ受信した反射波に基づいた信号処理を行った後に、検出対象30の検出を実施して、検出対象30の検出結果を示すデータをPlotデータとして演算処理部50に提供する。演算処理部50は、RX20Aのそれぞれから提供されたPlotデータを解析して、検出対象30の位置を推定する。
【0123】
(レーダシステムの構成)
図14は、第2の実施形態に係るレーダシステム1Aの構成図である。レーダシステム1Aは、例えば、複数のRX20Aと、演算処理部50Aとを備える。レーダシステム1Aは、さらに、TX10を備えていてもよい。
【0124】
[RX]
RX20Aは、TX10から送信された変調波(電波)が検出対象30において反射されて、反射された電波の周波数成分を含む受信信号をアンテナ21によって受信する。RX20Aは、アンテナ21によって受信した受信信号(信号RS1)に基づいて、TX10が送信した変調波の周波数と、信号RS1に含まれる変調波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、信号RS1の周波数成分を補正する。RX20Aは、例えば、信号変換部22と、復調処理部23と、パルス積分処理部26と、閾値判定処理部28と、通信部27Aとを備える。
【0125】
閾値判定処理部28は、予め定められた閾値を判定条件にして、パルス積分処理部26の演算処理の結果について判定する。当該判定により、検出対象30として判定し得る確率が比較的高いものが検出対象30の候補として判定される。閾値判定処理部28は、判定の結果を、Plotデータとして出力する。
【0126】
通信部27Aは、閾値判定処理部28による判定の結果(Plotデータ)を演算処理部50A宛に通知する。
【0127】
演算処理部50Aは、RX20Aのそれぞれから通知されたPlotデータに基づいて、検出対象30の位置を推定する。演算処理部50は、例えば、通信部51Aと、推定処理部55Aと、出力処理部56とを備える。
通信部51Aは、RX20Aからのデータを受信する。
推定処理部55Aは、RX20Aのそれぞれから通知されたPlotデータに基づいて、検出対象30の位置を推定する。
出力処理部56は、推定された検出対象30の位置を出力する。
【0128】
図15を参照して、レーダシステム1Aの処理について説明する。同図は、レーダシステム1Aの処理を示すシーケンス図である。
【0129】
同図に示すステップS10からステップS24までの処理は、前述の図8を参照し、レーダシステム1をレーダシステム1Aに、RX20をRX20Aに、演算処理部50を演算処理部50Aに読み替える。
【0130】
[RX20における処理]
(ステップS26):ステップS24の処理を終えた後、閾値判定処理部28は、予め定められた閾値を判定条件にして、パルス積分処理部26の演算処理の結果について判定する。閾値判定処理部28は、上記の判定において、検出対象30として判定し得る確率が比較的高いものを検出対象30の候補として判定し、判定の結果を、Plotデータとして出力する。
例えば、閾値判定処理部28は、パルス積分処理部26の演算処理の結果が示す信号の信号成分が最も大きな値を示す系統を選択する。閾値判定処理部28は、選択した系統の信号から、検出対象30として判定し得る確率が比較的高いものを検出対象30の候補として判定する。
【0131】
(ステップS27):通信部27Aは、閾値判定処理部28による判定の結果(Plotデータ)を演算処理部50A宛に通知する。
【0132】
RX20A−2からRX20A−Nは、RX20A−1と同様に、ステップS21からステップS27までの処理をそれぞれ実施する。
上記のステップS21からステップS27までの処理により、RX20Aのそれぞれから通知されたPlotデータには、ドップラ遷移の影響を最も低減できた系統のPlotデータ含まれる。
【0133】
[演算処理部50Aにおける処理]
(ステップS51A):演算処理部50Aにおいて、通信部51Aは、RX20Aからそれぞれ通知されたデータをそれぞれ受信する。
【0134】
(ステップS55A):推定処理部55Aは、RX20Aのそれぞれから通知されたPlotデータに基づいて、検出対象30の位置を推定する。
【0135】
(ステップS56):出力処理部56は、推定された検出対象30の位置を出力する。
【0136】
レーダシステム1Aは、上記の手順に従って、検出対象30の相対速度に対する適正な補正量により補正された後の信号を、補正後の信号強度から特定する。レーダシステム1Aは、補正後の信号強度が最大値を示した場合は、その補正量が適していると判定し、適した補正量で補正した信号に基づいて、検出対象30の相対速度によるドップラ遷移の影響を低減させたレンジング処理を実施する。
【0137】
以上に説明した、第2の実施形態によれば、レーダシステム1Aは、RX20Aと、復調処理部23(補正部)と、演算処理部50A(推定部)とを持つ。RX20Aは、TX10から送信された電波が検出対象30において反射されて、前記反射された電波の周波数成分を含む受信信号を受信する。復調処理部23は、TX10が送信した電波の周波数と、前記受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する。演算処理部50Aは、移動する検出対象30から前記RX20Aまでの距離を、復調処理部23により補正された前記受信信号の周波数成分に基づいて推定することによって、検出対象30までの距離の検出精度を高めることができる。
第2の実施形態によれば、上記の第1の実施形態と同様の効果を奏するものに加え、Decentralized型のマルチスタティックレーダにおいて、検出対象30までの距離の検出精度を高めることができることにより、検出対象30の移動状況に応じて、より柔軟な処理を実現することができる。
【0138】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態において、レーダシステム1Bへの適用を例示して、本実施形態の信号処理システムについて説明する。以下、この点を中心に説明する。
【0139】
(信号処理システムの構成)
図16は、第3の実施形態に係る信号処理システム60の構成図である。
同図に示された信号処理システム60は、例えばレーダシステム1Bの一部として構成される。このようなレーダシステム1Bは、上記の図1に示した第1の方式のCentralized型に分類される。
レーダシステム1Bは、例えば、複数のRX20Bと、信号処理システム60とを含む。レーダシステム1Bは、さらに、TX10を備えていてもよい。
【0140】
[RX]
RX20Bは、TX10から送信された変調波(電波)が検出対象30において反射されて、反射された電波を含む受信信号をアンテナ21によって受信する。RX20Bは、それぞれ受信した反射波に基づいた信号変換処理を行い、ディジタルデータを信号処理システム60に提供する。
【0141】
RX20B−1(RX20B)は、例えば、信号変換部22Bを備える。
信号変換部22Bは、アンテナ21によって受信した受信信号(信号RS1)に基づいて、信号RS1の周波数変換とアナログ・ディジタル変換とを実施する。信号変換部22は、信号RS1に含まれた所望の信号成分を含む信号RS2をディジタル信号として出力する。
【0142】
RX20B−2からRX20B−Nは、例えば、RX20B−1と同様の構成を備える。それらの説明はRX20B−1の説明を参照する。
【0143】
[信号処理システム]
信号処理システム60は、例えば、複数の補正部29と、演算処理部50とを備える。
補正部29は、RX20Bに対応させて設けられ、RX20Bにより生成されたディジタル信号を補正する。
補正部29−1(補正部29)は、例えば、復調処理部23と、パルス積分処理部26と、通信部27とを備える。
補正部29−1(補正部29)は、RX20B−1の信号変換部22Bにより生成されたディジタル信号に基づいて、TX10が送信した変調波(電波)の周波数と、信号RS1に含まれる変調波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、信号RS1の周波数成分を、復調処理部23により補正する。
補正部29−1は、パルス積分処理部26によるパルス積分の結果(信号RS4)を、通信部27を介して演算処理部50宛に通知する。
【0144】
補正部29−2から補正部29−Nは、例えば、補正部29−1と同様の構成を備える。それらの説明は補正部29−1の説明を参照する。
【0145】
演算処理部50は、RX20のそれぞれから通知されたパルス積分の結果(信号RS4)に基づいて、検出対象30の位置を推定する。
【0146】
以上のように構成された信号処理システム60は、第1の実施形態のレーダシステム1と同様の処理を実施する。
【0147】
以上に説明した、第3の実施形態によれば、信号処理システム60は、補正部29と、演算処理部50(推定部)とを持つ。補正部29は、TX10から送信された電波の周波数と、検出対象において反射されて受信局により受信された受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する。演算処理部50は、移動する検出対象30から前記RX20Bまでの距離を、補正部29により補正された前記受信信号の周波数成分に基づいて推定することによって、検出対象30までの距離の検出精度を高めることができる。
第3の実施形態によれば、上記の第1の実施形態と同様の効果を奏するものに加え、新御具処理システム60は、RX20Bの信号変換部22により生成されたディジタル信号に対する信号処理を実施することにより、検出対象30の移動状況に応じて、より柔軟な処理を実現することができる。
【0148】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、レーダシステムは、受信局と、補正部と、推定部とを持つ。受信局は、送信局から送信された電波が検出対象において反射されて、前記反射された電波の周波数成分を含む受信信号を受信する。補正部は、前記送信局が送信した電波の周波数と、前記受信信号に含まれる前記反射された電波の周波数との差として生じたドップラ遷移を打ち消す方向に、前記受信信号の周波数成分を補正する。推定部は、移動する前記検出対象から前記受信局までの距離を、前記補正部により補正された前記受信信号の周波数成分に基づいて推定することにより、検出対象までの距離の検出精度を高めることができる。
【0149】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0150】
1、1A…レーダシステム、10…送信レーダ(TX、送信局)、20、20A…受信レーダ(RX、受信局)、22…信号変換部、23…復調処理部(補正部)、26…パルス積分処理部、27…通信部、29…補正部、50、50A…演算処理部、51、51A…通信部、52…選択部、53…インコヒーレント積分処理部、54…閾値判定処理部、55、55A…推定処理部、56…出力処理部、60…信号処理システム
図1
図2
図3
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図16