(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(メタ)アクリル系樹脂及び/又はウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂(以下、両者をまとめて「アクリル系樹脂類」と記す)と防腐剤とを水性媒体中に分散してなる、防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液であって、
上記アクリル系樹脂類100重量部あたり、
(A)分子中に水酸基とフェニル核とを有する第1防腐剤0.5〜15重量部と、
(B)炭素原子数1〜5の脂肪族アルコール類からなる第2防腐剤1〜35重量部と、
をそれぞれ含有し、
水に対する(B)成分の濃度が0.5〜6.25重量%であることを特徴とする防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液。
前記(A)成分である第1防腐剤が、パラオキシ安息香酸エステル(但し、エステル基の炭化水素残基が炭素数1〜4のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。)、及び/又は、フェノキシエタノールである請求項1又は2に記載の防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液。
前記(B)成分である第2防腐剤が、エタノール、炭素数2〜4のアルキレングリコール、及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂は、塗料、接着剤等、種々の用途に利用されている。また、このような(メタ)アクリル系樹脂をウレタン樹脂と複合化したウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂は、ウレタン樹脂の有する基材への密着性、耐摩耗性、耐寒性等の長所を活かしつつ、(メタ)アクリル系樹脂と複合することで、ウレタン樹脂の耐候性や耐溶剤性の欠点を補うことができるため、このような複合樹脂について、様々な改良が行われている。
このウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂は、上記の優れた特性を活かして化粧料、自動車内外装、人工皮革、等の用途や、アンカーコート剤等のコーティング剤用途に広く用いられている。
【0003】
これらの(メタ)アクリル系樹脂やウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂(以下、両者を合わせて「アクリル系樹脂類」と記す)は、主に水性分散液として製造・流通されるため、場合によってはその過程で分散液中にカビや菌類が発生・繁殖する可能性がある。こうしたことが起きると、分散液が使用できなくなったり、仮に使用できたとしても形成される被膜の汚染や人体への影響が発生したりすることなどが懸念される。
そのため、このようなカビ・菌類等の繁殖による問題の発生を予防するため、当該水性分散液に防腐剤を添加することがある。
【0004】
このような防腐剤を添加する場合、特に化粧料用途等、人体に接触する用途においては、防腐剤としても人体に対する高い安全性が必要とされている。
このような防腐剤として、グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、パラオキシ安息香酸エステルを用いることが特許文献1に例示されている。
これらの防腐剤は、非水性であるため樹脂に吸着しやすく、これらの非水性防腐剤が吸着した樹脂は、当該防腐剤の性質によっては水性分散液の安定性が低下して凝集したり、ブツやダマが生じたりするおそれがある。
【0005】
一方、前記のように水性分散液中のカビや菌類の繁殖を防止するためには、上述の非水性防腐剤に代えて、エタノールやグリセリン等の親水性(水溶性)防腐剤を用いることも効果的であると考えられる。
しかし、この場合は防腐剤が水性分散液中に希釈されて、樹脂近傍の存在量が相対的に低下するため、十分な防腐効果を発揮しにくくなり、結果的に防腐剤の使用量を多くしないと所望の効果が得られない場合がある。
しかしながら、防腐剤の使用量が多くなると、結果的に水性分散液の安定性が低下してブツやダマが生じやすくなるおそれがある。
【0006】
毛髪用や皮膚用の化粧料として、(メタ)アクリル系樹脂やウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂を用いることでセット力や保持力が向上することが特許文献1に記載されている。
更に特許文献2においては、人体施用組成物として、化粧品、医薬品、医薬部外品、食品等が例示され、特定の防腐剤をミツロウや流動パラフィン等に配合して、これらの用途に適用することが記載されており、その際、親水性防腐剤と非水性防腐剤を併用することが提案されている。
また、これらの防腐剤を含む組成物に「カルボキシビニルポリマー」が助剤的に配合されることも記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明の防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液は、アクリル系樹脂類、すなわち、(メタ)アクリル系樹脂及び/又はウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂(以下「U/A複合樹脂」と略記することがある)に、所定の2種類の防腐剤(第1防腐剤と第2防腐剤)を含有させた水性分散液である。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」は、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0014】
[(メタ)アクリル系樹脂]
本発明に用いることができる(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の単独重合体又はこれを主成分とする共重合体である。
【0015】
このような(メタ)アクリル酸エステル系単量体の例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸3,3,5−トリメチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル等が例示される。
【0016】
これらの中でもアルキル基の炭素数が1〜24の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、特にアルキル基の炭素数が1〜8のものが好ましい。
これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0017】
この(メタ)アクリル酸エステル系単量体には、必要に応じて、本発明の目的・効果を阻害しない範囲で、(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外の他の単量体、例えば、酸基含有重合性単量体、エステル基含有ビニル単量体、スチレン誘導体、ビニルエーテル系単量体等を併用してもよい。
【0018】
前記酸基含有重合性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等があげられ、中でもアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
このような酸基含有重合性単量体を用いることにより、重合安定性や水性分散剤の安定性が向上する。これらの酸基含有重合性単量体は、全単量体中の0.5〜10重量%用いるのが一般的であり、1〜5重量%が好ましい。
【0019】
前記エステル基含有ビニル単量体の例としては、酢酸ビニル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等が例示される。
また、前記スチレン誘導体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。さらに、前記ビニルエーテル系単量体の具体例としては、ビニルメチルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が例示される。
このような(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びその他の重合性単量体を乳化重合することによって、本発明に使用する(メタ)アクリル系樹脂及びその水性分散液を製造することができる。
【0020】
[U/A複合樹脂]
本発明に用いることができるU/A複合樹脂は、ポリウレタン(以下(X)成分と記すことがある)と(メタ)アクリル系樹脂(以下(Y)成分と記すことがある)とが複合された樹脂である。
【0021】
<ポリウレタン((X)成分)>
前記U/A複合樹脂を構成するポリウレタン((X)成分)は、その構成単位としてポリオール単位と、多価イソシアネート単位とを有する。
【0022】
(ポリオール単位)
前記ポリオール単位とは、1分子中に2つ以上のヒドロキシル基を有する有機化合物、具体的にはポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール等に由来する構成単位が挙げられる。
【0023】
ポリエーテルポリオール由来の構成単位(以下「ポリエーテルポリオール単位」と記す。)としては、炭素数2〜4のポリアルキレングリコール由来の構成単位を主成分とする、数平均分子量が、通常400以上、4000以下、好ましくは600以上、2500以下のものが好ましく用いられる。
【0024】
中でもポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール等のポリアルキレングリコール由来の構成単位を主成分とするポリエーテルポリオール単位は、柔軟な質感を付与できる点で特に好ましい。
また、前記ポリエーテルポリオール単位にカルボキシル基が含まれると、自己乳化力が発現したり、水分散液の安定性が向上したりすることが期待できるので好ましい。
【0025】
前記ポリエーテルポリオール単位にカルボキシル基を導入する方法としては、ポリオール単位の一部として、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基含有多価ヒドロキシ化合物を使用する方法が挙げられる。
また、上記のポリエステルポリオールは、ポリオール単位とジカルボン酸単位とからなる、両末端にヒドロキシル基を有する化合物である。
【0026】
前記ポリオール単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールに由来する単位の他、前記ポリエーテルポリオールの項で説明したポリオール単位と同様のものも用いることができる。
前記ジカルボン酸単位としては、特に限定されないが、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸のジカルボン酸由来の構成単位(以下、まとめて「フタル酸系単位」と称する場合がある。)を用いることが好ましい。このようなフタル酸系単位を有するポリエステルポリオールを用いることにより、得られるポリウレタンやウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂の耐油性を向上できる。
【0027】
なお、前記ポリオール単位としては、1種類のポリオール単位を用いてもよいが、分子量が相異なるポリオール単位及び/又はその構成単位が相異なるポリオール単位である、2種以上のポリオール単位を用いてもよい。このような2種もしくはそれ以上のポリオール単位を用いると、柔軟な質感を維持しつつ、ポリマーの機械的強度(伸び、破断強度)を高くすることが期待できる。
これらのポリオール単位を複数種併用する場合、そのポリオール単位の炭素数の平均値は2〜4が好ましい。平均値をこの範囲内とすることにより、柔軟な質感を付与することができる。
【0028】
上記U/A複合樹脂に用いる場合のポリオール単位の数平均分子量、複数のポリオール単位を用いる場合は、その分子量の平均値は、400以上が好ましく、500以上がより好ましく、600以上が特に好ましい。数平均分子量が小さすぎると、柔軟性が低下する傾向となる。一方、その上限は、4000がよく、3000が好ましく、2500がより好ましい。数平均分子量が大きすぎると、自己乳化力が低下したり、ポリオール単位の種類によっては、過度に柔軟になったりする場合がある。
【0029】
(多価イソシアネート単位)
前記多価イソシアネート単位とは、1分子中に少なくとも2つのイソシアネート基を有する有機化合物をいい、脂肪族、脂環式、芳香族等の多価イソシアネート化合物を用いることができる。このような多価イソシアネート化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。これらの内で、脂肪族又は脂環式のイソシアネートは経時的な黄変が少ない点で好適である。
【0030】
(ポリオール単位と多価イソシアネート単位との使用割合)
前記のポリオール単位と多価イソシアネート単位との使用割合は、当量比で、ポリオール単位:多価イソシアネート単位=1:1.2〜2がよく、1:1.5〜1.9が好ましい。ポリオール単位が多すぎると、最終的に得られる塗膜が過度に柔らかくなったり、強度が不足したりして、化粧料としたときのセット力が不十分となることがある。一方、ポリオール単位が少なすぎると、上記とは反対に、塗膜の剛性が高くなりすぎて、脆くなったり、化粧料としたときに、ゴワつき感が出たりすることがある。
【0031】
<(メタ)アクリル系樹脂((Y)成分)>
前記U/A複合樹脂を構成する(メタ)アクリル系樹脂((Y)成分)は、前記の(メタ)アクリル系樹脂と同様の単量体を構成単位とすることができる。
【0032】
<ウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂(U/A複合樹脂)>
(U/A複合樹脂の製造)
この発明に用いることができるU/A複合樹脂は、通常、水性媒体中で水性分散液として製造される。具体的には、ウレタンの原料となるポリオール成分と多価イソシアネート成分との混合液をジブチル錫ジラウレート等のウレタン重合触媒の存在下、水性媒体中で予備的に反応させて調製したウレタンプレポリマーと、前記の(メタ)アクリル酸エステル系単量体とを乳化分散させて、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる。このとき、ウレタンプレポリマーの鎖伸長が同時に生起し、U/A複合樹脂の水性分散液を得ることができる。
【0033】
(ウレタン成分と(メタ)アクリル系樹脂成分との割合)
U/A複合樹脂におけるウレタン成分((X)成分)と(メタ)アクリル系樹脂成分((Y)成分)との比率は、純分重量比で(X)/(Y)=80/20〜30/70がよく、70/30〜35/65が好ましい。(Y)成分はほぼ100%が重合体になるので、仕込時における(X)成分と(Y)成分との混合割合は、そのまま(X)成分と(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体との混合割合となる。(X)成分が80重量%を超えると、整髪料として使用した際の熱戻り性(セット性を含む)が悪くなることがある。一方、20重量%未満の場合は、合成時に乳化不足となり、水分散時にゲル化を起こしたり、不均一な水分散体となったりすることがある。
【0034】
(ウレタン成分((X)成分)と(メタ)アクリル系樹脂成分((Y)成分)との混合液の濃度)
前記の(X)成分と(Y)成分との混合液の濃度は、特に限定されるものではないが、最終的に得られる水性分散液中の不揮発成分量を20重量%以上とすることが好ましく、30重量%以上がより好ましい。20重量%未満では、乾燥に時間を要する場合がある。一方で、その上限は70重量%以下とすることが好ましく、60重量%以下がより好ましい。70重量%を超えると、水性分散液の調製が難しくなったり、分散安定性が低下したりすることがある。
【0035】
(重合工程)
前記のようにして得られた乳化分散液中の、(Y)成分を重合させて、U/A複合樹脂の水性分散液を得る(以下、この工程を「重合工程」と称する)。この(Y)成分の重合反応は、用いる(Y)成分に応じた一般的な重合方法で行うことができ、例えば、前記混合液にラジカル重合開始剤を添加して行うことができる。
【0036】
((X)成分の鎖伸長反応)
(X)成分((X)成分の中和物を含む)の鎖伸長反応は、前記の乳化分散液の調製時と(Y)成分の重合工程の間、又は前記重合工程の後のいずれかで(X)成分の少なくとも一部を鎖伸長させる。この鎖伸長は複数回に分割して実施してもよい。
鎖伸長を行うことにより、(X)成分の分子量を好ましい範囲に調整することができる。
なお、(X)成分の鎖伸長反応は、乳化液中においても、分散媒である水によっても徐々に生起するので、重合工程中も鎖伸長反応が一部起こることがある。しかし、水による鎖伸長は、通常反応速度が遅いので、より効果的かつ確実に鎖伸長を行うためには、前記した水以外の鎖伸長剤を用いて積極的に鎖伸長反応を行うのがよい。これにより、より速やかに鎖伸長されたポリウレタンが得られ、柔軟でかつ弾力のある皮膜を得ることができる。なお、上記の通り、鎖伸長反応は(Y)成分を重合させる前に行っても、重合後に行ってもよい。
【0037】
前記の水以外の鎖伸長剤としては、イソシアネート基と反応可能な活性水素を複数個有する化合物等が挙げられる。このイソシアネート基と反応可能な活性水素を複数個有する化合物としては、炭素数1〜8のポリオール、ポリアミン化合物等が挙げられる。前記ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。また、ポリアミン化合物の例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン類を挙げることができる。
【0038】
(U/A複合樹脂の物性)
本発明に用いることができるU/A複合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば180000以上が好ましく、200000以上がより好ましい。重量平均分子量(Mw)が小さすぎると、顔料分散性に劣る場合がある。一方、重量平均分子量(Mw)の上限は、1000000が好ましく、800000がより好ましい。重量平均分子量(Mw)が大きすぎると、化粧料として毛髪に塗布した時の柔らかさに劣る場合がある。このような重量平均分子量(Mw)の範囲とすることで、特に良好な耐油性(シリコーンオイルとの混合液からのキャスト成膜性)を得ることができる。
【0039】
また、このU/A複合樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。Mw/Mnが小さすぎると、柔軟性とセット力のバランスが悪化することがある。一方、Mw/Mnの上限は、70が好ましく、60がより好ましい。Mw/Mnが大きすぎると、低分子量側又は高分子量側のいずれか又は両方の重合体により、形成される膜の風合いが損なわれる場合がある。
【0040】
本発明に用いるU/A複合樹脂の最低造膜温度(MFT)は、JIS K 6828−2に基づいた方法で測定したとき、−20℃以上がよく、−10℃以上が好ましく、−5℃以上がより好ましい。−20℃より低いと、形成される皮膜が柔らかくなりすぎて、セット性や熱戻り性が不十分となる場合がある。
一方、MFTの上限は、60℃がよく、50℃が好ましく、40℃がより好ましく、30℃であればさらによい。60℃より高いと、皮膜の柔軟性が不十分となりやすく、また、生活環境下では造膜しにくくなって、化粧品用途等には不向きなことがある。
【0041】
(ゲル分)
本発明に用いるU/A複合樹脂のゲル分は、50重量%以上がよく、60重量%以上が好ましい。50重量%より少ないと、硬さが不足し、配合安定性や分散安定性に劣る傾向がある。一方、ゲル分の上限は、99重量%がよく、95重量%が好ましい。99重量%より多いと、硬くなりすぎたり、化粧品用途では使用時にゴワつきを生じたりする場合がある。このようなゲル分とすることで、前述の耐油性(キャスト成膜性)がより向上する。この特性はU/A複合樹脂の重量平均分子量(Mw)を前記のような範囲とすることで、特に効果的に得ることができる。
【0042】
[防腐剤]
本発明の防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液には、所定の2種類の防腐剤(第1防腐剤と第2防腐剤)が含有される。
(第1防腐剤((A)成分))
この第1防腐剤((A)成分)は、分子中に水酸基とフェニル核とを有する防腐剤であり、非水性の防腐剤である。この(A)成分の具体例としては、フェノキシメタノール、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸エステル等があげられる。このパラオキシ安息香酸エステルとしては、エステル基の炭化水素残基が炭素数1〜4のアルキル基及びベンジル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、具体例としては、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等があげられる。
【0043】
(第2防腐剤((B)成分))
この第2防腐剤((B)成分)は、炭素原子数1〜5の脂肪族アルコール類からなる防腐剤であり、水親和性を有する防腐剤である。この(B)成分の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等のモノアルコール類、炭素数2〜4のアルキレングリコール、グリセリン等があげられる。この炭素数2〜4のアルキレングリコールの具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール等があげられる。
【0044】
((A)成分と(B)成分の使用量)
前記(A)成分の使用割合は、アクリル系樹脂類100重量部当たり、15重量部以下であり、10重量部以下が好ましい。15重量部より多いと、水性分散液の安定性が低下し、ブツが発生しやすくなる。
一方、(A)成分の使用割合の下限は、0.5重量部であり、1重量部が好ましい。0.5重量部より少ないと、防腐効果が不十分になることがある。
【0045】
また、前記(B)成分の使用割合は、アクリル系樹脂類100重量部当たり、35重量部以下であり、15重量部以下が好ましい。35重量部より多いと水性分散液の貯蔵安定性が低下する傾向となる。一方、(B)成分の使用割合の下限は、1重量部であり、3重量部が好ましい。1重量部より少ないと、防腐効果が不十分になる。
【0046】
さらに、前記(A)成分と前記(B)成分の含有比率(重量比)は、(A)/(B)=2/1〜1/20の範囲にあることがよく、1/1〜1/15の範囲が好ましい。上記範囲を逸脱した場合は、水性分散液中で安定な分散状態を保つのが難しくなることがある。
【0047】
また、水に対する(B)成分の濃度は、0.5〜20重量%であることが好ましい。(B)成分の濃度が0.5重量%未満では、(B)成分による(A)成分の水中への可溶化、分散安定化の効果が不十分となることがある。一方、(B)成分の濃度が20重量%を越えて高くなると、(B)成分の水への溶解度を超えてしまう可能性があり、やはり分散状態が安定化できないことがある。
【0048】
[防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液の主な用途・用法]
本発明の防腐剤含有アクリル系樹脂水性分散液の用途としては特に限定されるものではなく、塗料やコーティング剤、人工皮革の材料等に使用できるが、中でもカビや菌類の発生抑制が重要な、人体に適用・接触する用途、例えば化粧品、医薬品、医薬部外品、食品包装材等に特に好適に使用できる。
【0049】
なお、本発明の防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液には、用途に応じて各種の樹脂、助剤類、界面活性剤、粘性付与剤、香料、有機系/無機系の紫外線吸収剤、生理活性成分、塩類、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤などの成分を、本発明の目的・効果を損なわない限り、適宜配合することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明するが、この発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
1.原材料
(1)アクリル系樹脂類関係
<ポリオール化合物>
・N4073…東ソー株式会社製:商品名 ニッポラン4073
・N4065…東ソー株式会社製:商品名 ニッポラン4065
・NPG…東京化成工業株式会社製:ネオペンチルグリコール
・PP2000…三洋化成工業株式会社製:商品名 サンニックスPP−2000
・PP1000…三洋化成工業株式会社製:商品名 サンニックスPP−1000
【0052】
<多価イソシアネート化合物>
・IPDI…デグサ・ジャパン(株)製:商品名 VESTANAT IPDI(イソホロンジイソシアネート)
<カルボキシル基含有多価ヒドロキシ化合物>
・DMPA…パーストープ(株)製:ジメチロールプロピオン酸(カルボン酸基含有ポリオール)
【0053】
<重合禁止剤>
・MEHQ…和光純薬工業(株)製:2−メトキシヒドロキノン
<重合性単量体>
・MMA…三菱レイヨン(株)製:メチルメタクリレート
・BA…三菱化学(株)製:n−ブチルアクリレート
【0054】
<ラジカル重合開始剤>
・tBPO…化薬アクゾ(株)製:ジ−tert−ブチルパーオキサイド
<還元剤>
・AsA…和光純薬工業(株)製:L−アスコルビン酸(試薬特級)
<塩基性化合物>
・KOH…和光純薬工業(株)製:水酸化カリウム(試薬)
・TEA…シェルケミカルズジャパン(株)製:TEA99(トリエタノールアミン)
【0055】
(2)防腐剤等
<第1防腐剤>
・フェノキシエタノール…和光純薬工業(株)製:2−フェノキシエタノール(試薬特級)(水への溶解度:2.6g/100g水(25℃))
・メチルパラベン…和光純薬工業(株)製:試薬(水への溶解度:0.025g/100g水(25℃))
・エチルパラベン…和光純薬工業(株)製:試薬(水への溶解度:0.0885g/100g水(25℃))
・プロピルパラベン…和光純薬工業(株)製:試薬(水への溶解度:0.05g/100g水(25℃))
【0056】
<第2防腐剤>
・エタノール…和光純薬工業(株)製:試薬(水への溶解性:水と任意の割合で混和)
・1,2−ペンタンジオール…和光純薬工業(株)製:試薬(水への溶解性:水と任意の割合で混和)
・1,3−ブタンジオール…和光純薬工業(株)製:試薬(水への溶解性:水と任意の割合で混和)
・グリセリン…和光純薬工業(株)製:試薬特級(水への溶解性:水と任意の割合で混和)
【0057】
2.試験方法
<配合安定性>
各実施例、比較例で得られた配合液100mlを200メッシュのろ布でろ過し、ろ過性とろ過残渣量を以下の基準で判定した。
○:ろ過性問題なし、ろ過残渣なし。
△:ろ過残渣が少し発生するが、ろ過性には影響なし。
×:ろ過残渣が大量に発生し、ろ過性不良。
【0058】
<防腐効果>
総細菌数測定器具(サンアイバイオチェッカーTTC(三愛石油(株)製))に上記各実施例、比較例で得られた防腐剤含有ウレタン/アクリル複合樹脂水性分散液を浸し、30℃で48時間培養した後に、菌の発生状況を目視にて観察し、以下の基準で判定した。
○:菌の発生が確認される。
×:菌の発生が確認されない。
【0059】
<皮膜物性の評価>
各実施例、比較例で得られた防腐剤含有ウレタン/アクリル複合樹脂水性分散液(初期液)と、これを50℃の恒温室に1ヶ月保管した後の保管液とを用いて、皮膜物性の評価を行った。
(1)試験片の作成
ポリプロピレン製の板上に、乾燥皮膜の厚さが200μmになるように初期液及び保管液を塗布し、室温で24時間乾燥させることで皮膜を作成した。
【0060】
(2)試験方法
前記で得られた乾燥皮膜を0.5cm幅の短冊状に切り出し、オートコムC型万能試験機((株)ティーエスイー製)を用い、23℃、50%RHの恒温恒湿室中で、チャック間隔2cm、引張速度200mm/分の条件で、破断強度、破断伸度を測定した。
【0061】
3.実施例、比較例
(1)アクリル系樹脂類水性分散液
<製造例1>(U/A複合樹脂水性分散液A)
温度計、攪拌装置及び還流冷却管を備えた4口フラスコに、表1に記載のウレタン原料、アクリル原料、及び重合禁止剤を所定量ずつ加え、内温50℃にて混合した後、90℃に昇温した。この温度で5時間反応させて、イソシアネート基及びカルボキシル基を含有するカルボキシル基含有ウレタンプレポリマーが(メタ)アクリル系重合性単量体中に分散した反応液を得た。
続いて液温を50℃に保って表1に記載の中和剤(塩基性化合物)を所定量加え、前記カルボキシル基含有ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基の全部又は一部を中和し、次いで内温を50℃に保ちながら、表1に示す量の脱イオン水(転相水)を15分間かけて滴下し、上記反応液を転相し、乳白色で透明性のある分散液を得た。
次に、この分散液を50℃に保ったまま、表1に記載の重合開始剤及び還元剤を、表1に示す所定量添加して、(メタ)アクリル系重合性単量体の重合を開始した。重合による発熱が終了した後、更に70℃に昇温し、撹拌を続けたまま3時間保持して、ウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂を含むウレタン/(メタ)アクリル複合樹脂水性分散液を得た。
【0062】
<製造例2、3>(U/A複合樹脂水性分散液B及びC)
原材料の仕込量を表1に示す通り変更した以外は、上記U/A複合樹脂水性分散液Aと同様の方法で、U/A複合樹脂水性分散液B及びCをそれぞれ製造した。
【0063】
【表1】
【0064】
(2) 防腐剤含有アクリル系樹脂類水性分散液
<
比較例6>
製造例1で調整したU/A複合樹脂水性分散液A(固形分40%)250部(重量部を示す、以下同じ(固形分量として100部))を、ディスパーで撹拌しながら、第1防腐剤としてフェノキシエタノール3.33部、第2防腐剤としてエタノール33.33部の混合液を添加し、30分間撹拌した。
得られた分散液を固形分量が30%になるように脱イオン水を加えて調整し、防腐剤含有ウレタン/アクリル複合樹脂水性分散液を得た。
得られた防腐剤含有ウレタン/アクリル複合樹脂水性分散液について、前期の試験方法に従って、配合安定性、貯蔵安定性等を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
<実施例
1〜8、比較例1〜5>
U/A複合樹脂、第1/第2防腐剤の成分を、表2に示す通りそれぞれ変更し、
比較例6と同様にして防腐剤含有ウレタン/アクリル複合樹脂水性分散液を得、それぞれの分散液について、配合安定性等の評価を(特記箇所以外は)
比較例6と同様にして行った。評価結果を表2に併せて示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(3)結果の評価
表2に示される通り、第2防腐剤を含まない比較例1では分散液の安定性が劣り、ろ過性・残渣量が「×」となっている上に、防腐効果も不十分である。
また、第1防腐剤を含まない比較例2〜5では防腐効果が不十分であったり(比較例2、4)、成膜性が劣っていて膜の評価ができない(比較例4〜5)等の問題があった。
これらに対して、本願請求項1の要件を満たす実施例においては、分散液の安定性に優れ、しかも防腐効果が良好で、成膜性も問題ないレベルの分散液が得られており、本発明の効果は明らかである。