特許第6716441号(P6716441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許67164413つのビーム経路のための切り換えシステムを備えるX線光学アセンブリ、及び関連するX線回折装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716441
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】3つのビーム経路のための切り換えシステムを備えるX線光学アセンブリ、及び関連するX線回折装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20008 20180101AFI20200622BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20200622BHJP
【FI】
   G01N23/20008
   G01N23/207
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-241302(P2016-241302)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2017-151082(P2017-151082A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】10 2015 226 101.8
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513307690
【氏名又は名称】ブルーカー アーイクスエス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Bruker AXS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】フランク ハンス ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】カイ ウーヴェ メッテンドルフ
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−096180(JP,A)
【文献】 特開平04−315099(JP,A)
【文献】 特開2004−117343(JP,A)
【文献】 特表2002−530671(JP,A)
【文献】 特開平09−222401(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0287178(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101403713(CN,A)
【文献】 特開2003−194744(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0135059(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層ミラー(7)と、X線ビームのためのビーム経路(15;16;17)が選択可能である切り換えシステム(13)とを備えた、X線回折装置(1)のためのX線光学アセンブリ(3)において、
前記切り換えシステム(13)は、切り換え可能なアパーチャシステム(10)を有し、
前記X線光学アセンブリ(3)はさらに、モノクロメータ(9)を含み、
前記X線ビームのための3つのビーム経路(15;16;17)が、前記切り換えシステム(13)を使用して選択可能であり、
前記切り換えシステム(13)の第1の位置にある第1のビーム経路(15)は、前記多層ミラー(7)を通り越し、前記モノクロメータ(9)を通り越し、
前記切り換えシステム(13)の第2の位置にある第2のビーム経路(16)は、前記多層ミラー(7)を含み、前記モノクロメータ(9)を通り越し、
前記切り換えシステム(13)の第3の位置にある第3のビーム経路(17)は、前記多層ミラー(7)を含み、前記モノクロメータ(9)を含み、
前記切り換えシステム(13)は、前記多層ミラー(7)に対して可動であるキャリッジ(8)を有し、
前記切り換え可能なアパーチャシステム(10)及び前記モノクロメータ(9)は、前記キャリッジ(8)上に配置され、
前記キャリッジ(8)を移動させることによって、
−前記第1のビーム経路(15)又は前記第2のビーム経路(16)を選択するために、前記切り換え可能なアパーチャシステム(10)が前記X線ビームに選択的に配置されるか、又は、
−前記第3のビーム経路(17)を選択するために、前記モノクロメータ(9)が前記X線ビームに選択的に配置される
ことを特徴とするX線光学アセンブリ(3)。
【請求項2】
前記切り換え可能なアパーチャシステム(10)は、回転可能なアパーチャ(10a)、又は前記キャリッジ(8)上で可動であるアパーチャを備えることを特徴とする請求項1記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項3】
前記キャリッジ(8)は、前記X線光学アセンブリ(3)の基体(40)上の2つの端部ストッパ(100,101)の間で、ガイド(42)を介して可動であることを特徴とする請求項1又は2記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項4】
ガイドボルト(52)が前記キャリッジ(8)上又は前記キャリッジ(8)内でガイドされ、前記キャリッジ(8)の移動方向(VRS)に平行に、スライド方向(SRF)に沿って前記キャリッジ(8)に対して可動であり、
前記スライド方向(SRF)において、前記ガイドボルト(52)の両側の前記キャリッジ(8)上又は前記キャリッジ(8)内に接触要素(53,54)が形成され、前記スライド方向(SRF)に平行に前記キャリッジ(8)上又は前記キャリッジ(8)内で可動であり、それぞれの第1のばね要素(55,56)を介して前記キャリッジ(8)上に支持される
ことを特徴とする請求項3記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項5】
前記X線光学アセンブリ(3)の前記基体(40)上に、前記基体(40)上をガイドされるスピンドルナット(50)が載置される駆動スピンドル(43)が設けられ、前記ガイドボルト(52)は、前記スピンドルナット(50)に連結されることを特徴とする請求項4記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項6】
前記モノクロメータ(9)は、少なくとも2つの自由度で回転可能な関節ジョイント(79)を介して支持された調整ユニット(46)に留め付けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項7】
前記回転可能な関節ジョイント(79)はボールジョイント(79a)として設計されることを特徴とする請求項6記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項8】
前記調整ユニット(46)は、保持要素(69)及び調整要素(73)を含み、前記保持要素(69)は、ボール部(71)と、前記ボール部(71)から前記モノクロメータ(9)への第1の接続部(70)と、前記ボール部(71)から前記調整要素(73)への第2の接続部(72)とを有することを特徴とする請求項7記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項9】
前記調整ユニット(46)にボール部(71)が設けられ、前記ボール部(71)は、2つのジョイントソケット要素(74,75)の間に位置し、
前記ジョイントソケット要素(74,75)は、1つ又は複数の第2のばね要素(76)によって互いにプレテンションされている
ことを特徴とする請求項7又は8記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項10】
相互に対向する2つのガイド部(82,83)を有するガイド装置(84)が設けられ、前記ガイド部(82,83)間で前記調整ユニット(46)が接触した状態でガイドされ、これにより前記調整ユニット(46)は、前記ボールジョイント(79a)の中点(M)を通ってガイド面(FEB)に対して垂直に延びる第1の軸線(y)を中心として、前記ガイド部(82,83)に平行な前記ガイド面(FEB)に平行に旋回可能であり、
さらに、前記調整ユニット(46)は、前記ボールジョイント(79a)の前記中点(M)を通って前記第1の軸線(y)に対して垂直に延びる第2の軸線(x)を中心に回転可能であり、
前記調整ユニット(46)は、前記ボールジョイント(79a)の前記中点(M)から前記第2の軸線(x)の方向に関して離れて前記ガイド部(82,83)に当接し、これにより、前記ボールジョイント(79a)の前記中点(M)を通って前記第1の軸線(y)に対して垂直且つ前記第2の軸線(x)に対して垂直に延びる第3の軸線(z)を中心とする前記調整ユニット(46)の旋回がブロックされる
ことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項11】
前記ガイド装置(84)は、前記第2の軸線(x)の周りを回転可能であるように設計され、前記調整ユニット(46)は、前記第3の軸線(z)の方向に関して前記ボールジョイント(79a)の前記中点(M)から離れて前記ガイド部(82,83)に当接し、これにより前記調整ユニット(46)が前記第2の軸線(x)の周りを回転すると、前記ガイド装置(84)も回転することを特徴とする請求項10記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項12】
前記ガイド装置(84)は回転可能に固定された設計を有し、
前記調整ユニット(46)は円筒の外側表面部を有する前記ガイド部(82,83)に当接し、前記円筒の外側表面部の共通円筒軸(ZA)は前記ボールジョイント(79a)の前記中点(M)を通って延び、これにより、前記調整ユニット(46)が前記第2の軸線(x)の周りを回転すると、前記調整ユニット(46)は、前記ガイド装置(84)に対して、前記共通円筒軸(ZA)の周りを回転することを特徴とする請求項10記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項13】
前記調整ユニット(46)を第1の軸線(y)の周りに旋回させる第1の調整機構(91)と、前記調整ユニット(46)を第2の軸線(x)の周りに回転させる第2の調整機構(92)とをさらに備えた、請求項6乃至12のいずれか1項に記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項14】
前記調整ユニット(46)は、前記第2の軸線(x)に対して実質的に横方向に突出する調整レバー(73a)を有し、前記調整レバー(73a)には前記第1及び前記第2の調整機構(91,92)が係合し、
前記調整レバー(73a)は、前記第1の調整機構(91)を介して前記第2の軸線(x)に略平行な方向にたわみ可能であり、
前記調整レバー(73a)は、前記第1の軸線(y)に略平行な方向に前記第2の調整機構(92)を介してたわみ可能である
ことを特徴とする、請求項13に記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項15】
前記第1の調整機構(91)及び前記第2の調整機構(92)は、それぞれ、各第3のばね要素(95;96)の力で、変位可能な調整ストッパ(93;97)に対して前記調整ユニット(46)を押す
ことを特徴とする請求項13又は14記載のX線光学アセンブリ(3)。
【請求項16】
−X線源(2)と、
−サンプルのための位置(4)と、
−前記サンプルの前記位置(4)を中心に円弧(6)上で可動であるX線検出器(5)と、
−X線ビームのためのビーム経路(15;16;17)が選択可能な調整システム(14)と
を含む、X線回折装置(1)において、
前記X線回折装置(1)はさらに、請求項1乃至15のいずれか1項に記載のX線光学アセンブリ(3)を含み、
前記X線回折装置(1)の前記調整システム(14)は、少なくとも前記X線光学アセンブリ(3)の前記切り換えシステム(13)を含み、
−前記切り換えシステム(13)が前記第1の位置にある、前記調整システム(14)の第1の調整における前記第1のビーム経路(15)と、
−前記切り換えシステム(13)が前記第2の位置にある、前記調整システム(14)の第2の調整における追加的な前記第2のビーム経路(16)と、
−前記切り換えシステム(13)が前記第3の位置にある、前記調整システム(14)の第3の調整における追加的な前記第3のビーム経路(17)と
が、いずれの場合にも、前記X線ビームを前記X線源(2)から前記サンプルの前記位置(4)に向ける
ことを特徴とするX線回折装置(1)。
【請求項17】
前記調整システム(14)はさらに、一次側に、少なくとも前記X線源(2)と前記X線光学アセンブリ(3)とが配置されたキャリッジ(12)を含み、前記キャリッジ(12)は少なくとも第1の位置と第2の位置との間で移動可能及び/又は旋回可能である
ことを特徴とする請求項16記載のX線回折装置(1)。
【請求項18】
前記モノクロメータ(9)は、前記X線光学アセンブリ(3)の出力側の前記第2のビーム経路(16)及び前記第3のビーム経路(17)が前記X線光学アセンブリ(3)に対して同じ方法で延在するように設計され、
前記調整システム(14)は、前記X線光学アセンブリ(3)の前記切り換えシステム(13)のみを含む
ことを特徴とする請求項16記載のX線回折装置(1)。
【請求項19】
ブラッグ・ブレンターノ形状の前記第1のビーム経路(15)は、前記サンプルの前記位置(4)での反射後に、前記X線ビームを前記円弧(6)上に集束させ、
前記第2のビーム経路(16)及び前記第3のビーム経路(17)が、それぞれ平行ビーム形状の場合には、前記X線ビームを前記サンプルの前記位置(4)に向ける
ことを特徴とする、請求項16乃至18のいずれか1項に記載のX線回折装置(1)。
【請求項20】
ブラッグ・ブレンターノ形状の前記第1のビーム経路(15)は、前記サンプルの前記位置(4)での反射後に、前記X線ビームを前記円弧(6)上に集束させ、
平行ビーム形状の前記第2のビーム経路(16)は、前記X線ビームを前記サンプルの前記位置(4)に向け、
前記第3のビーム経路(17)は、前記サンプルの前記位置(4)を通って、前記円弧(6)上に前記X線ビームを集束させる、
ことを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1項に記載のX線回折装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ミラー、特に、ゲーベルミラーと、X線ビームのビーム経路が選択可能な切り換えシステムとを含む、X線回折装置のためのX線光学アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなX線光学アセンブリは、例えば、特許文献1から公知である。
【0003】
X線回折(XRD)は、特に結晶材料を評価することができる、機器分析の効果的な方法である。分析タスクに応じて、さまざまな測定形状が使用される。例えば、X線ビームがサンプル上で反射した後に検出器(又は検出器アパーチャ)に集束されるブラッグ・ブレンターノ(Bragg−Brentano)形状は、粉末回折に頻繁に使用される。平行ビーム形状では、X線ビームは、例えばテクスチャ測定のためにサンプル上に平行に向けられる。さまざまな測定形状のために、異なるX線光学要素がビーム経路に必要とされる。
【0004】
実際には、同じX線回折装置が異なる測定形状で交代に使用されることが多い。したがって、測定形状を切り換えるために必要な修正及び調整手段を最小にすることが望ましい。
【0005】
特許文献1では、変位可能な又は回転可能なアパーチャシステムによって、一次ビーム側のビーム経路に1つのX線ミラーを備えた反射形状と、一次ビーム側のビーム経路に2つのX線ミラーを備えた透過形状との間で切り換えが行われるX線光学系設計が開示されている。このようにして、修正及び調整操作が最小化されるか、又は不要となる。
【0006】
特許文献2から、多層ミラー上での反射を伴わない集束形状での測定、及び多層ミラー上での反射を伴う平行形状での測定のためのX線回折装置が知られており、これによりビーム経路の1つを、多層ミラーの背後にある回転可能なスリット円盤を用いて選択することができる。さらに、ビーム経路間を移動することができる発散スリットが設けられている。
【0007】
既知のX線回折装置により、例えばブラッグ・ブレンターノ形状及び平行ビーム形状のような2つのビーム経路間の切り換えが可能になる。多くの分析タスクではこれで十分であるが、場合によっては、既知の切り換え可能なX線光学装置を用いては利用できない高分解能のX線回折情報が必要である。
【0008】
特許文献3には、X線を平行化するための放物面の多層ミラーと、特に二結晶モノクロメータを用いて平行化された放射線をモノクロ化するための装置とを有するX線分析用の装置が記載されている。多層ミラーを、180°回転させることができ、その結果、X線ビームは、多層ミラー及びモノクロメータを介して検査対象物上に、あるいは多層ミラーから直接対象物上に導かれる。モノクロ化されたX線ビームを用いて高分解能のX線回折測定が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102009047672号明細書
【特許文献2】米国特許第6807251号明細書
【特許文献3】米国特許第6359964号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の目的
本発明の目的は、簡単な方法でさまざまな測定形状に対してさらに普遍的に使用され得るX線光学アセンブリ及びX線回折装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な説明
本目的は、冒頭で言及したタイプのX線光学アセンブリによって実現され、
このX線光学アセンブリはまた、モノクロメータ、特にチャンネルカット結晶を含み、
X線ビームのための3つのビーム経路が、切り換えシステムを使用して選択可能であり、
切り換えシステムの第1の位置にある第1のビーム経路は、多層ミラーを通り越し、モノクロメータを通り越し、
切り換えシステムの第2の位置にある第2のビーム経路は、多層ミラーを含み、モノクロメータを通り越し、
切り換えシステムの第3の位置にある第3のビーム経路は、多層ミラーを含み、モノクロメータを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるX線光学アセンブリの使用により、3つのビーム経路の間で切り換えを行うことができ、これにより、特定の分析タスクを、適切なビーム形状又は適切なX線光学装置で処理することができる。切り換えシステムの3つの位置のすべてはX線光学アセンブリが設置されているX線回折装置の更なる調整システムユニットによって任意に補助されており、放射X線ビームは共通サンプル位置に向けられる。1つのビーム経路が選択されると、残りのビーム経路はブロック(閉塞)される。
【0013】
切り換えの後、原則として、X線光学アセンブリに対する更なる修正手段が必要でなく、また、調整動作も好ましくは不要であるか最小化される。したがって、異なる測定形状間の迅速な切り換えを実行することができる。第1のビーム経路では、例えば、粉末回折のためのブラッグ・ブレンターノ形状において、特に高いレベルの強度を使用することができる。第2のビーム経路では、多層ミラーを用いて成形されたX線ビームを、例えば応力及びテクスチャ測定のための平行ビーム形状において、又は表面近くのサンプル材料の目的の特性を決定するための斜入射においても、利用することができる。第3のビーム経路では、多層ミラーによって成形されモノクロ化されたX線ビームを、例えば半導体ウェハのような実質的に完全な結晶における欠陥解析のための、高分解能のX線回折測定に利用することができる。
【0014】
X線光学アセンブリは、通常、全体としてX線回折装置に設置され得る単一のX線光学部品(モジュール)に結合される。切り換えは、通常、モータによって自動的に行われるが、手動で実行することもできる。
【0015】
発明の好ましい実施形態
キャリッジ機構の実施形態
好ましい一実施形態では、
切り換えシステムが、多層ミラーに対して可動であり且つ切り換え可能なアパーチャシステムを有するキャリッジを有し、
切り換え可能なアパーチャシステム及びモノクロメータは、キャリッジ上に配置され、
キャリッジを移動させることによって、
−第1のビーム経路又は第2のビーム経路を選択するために切り換え可能なアパーチャシステムがX線ビームに選択的に配置されるか、又は、
−第3のビーム経路を選択するために、モノクロメータがX線ビームに選択的に配置される。
【0016】
X線ビーム内に位置する(又はその上にある)構成要素の切り換えを、可動キャリッジを使用して、簡単な方法で、コンパクトな空間内で行うことができる。この実施形態では、設計がコンパクトであるため、X線光学アセンブリがサンプルの近くに配置され得るので、特に、ブラッグ・ブレンターノ形状の第1のビーム経路において、サンプルでの特に高い強度が実現される。ブラッグ・ブレンターノ型のビーム経路を可能にするために、モノクロメータ(例えば、チャンネルカット結晶)は(例えば上方に)変位され、X線光学装置の前に付加的な構成要素として搭載されない(すなわち、切り換え可能なアパーチャシステムと直列に存在しない)。キャリッジは一般にモータ駆動され、キャリッジの移動方向(VRS)は、通常、ビームの伝搬方向に対して垂直に延びている。アパーチャシステム及びモノクロメータはビーム経路内に、通常は多層ミラーの後ろに配置される。また、切り換え可能なアパーチャシステムは、通常、モータ駆動される。切り換え可能なアパーチャシステムはまた、特にコンパクトである回転可能なアパーチャを含むこともできる。あるいは、切り換え可能なアパーチャシステムは、例えば、キャリッジ上で可動であるアパーチャを含むこともできる。
【0017】
この実施形態の好ましい一改良形態では、キャリッジは、X線光学アセンブリの基体上の2つの端部ストッパの間、特に変位可能な設計を有する2つの端部ストッパの間で、ガイドを介して可動である。端部ストッパは、切り換え可能なアパーチャシステムとモノクロメータの迅速且つ正確な位置決めを容易にする。切り換え可能なアパーチャシステム及びモノクロメータの、キャリッジの移動方向(VRS)に対する位置を、変位可能な端部ストッパで調整することができる。多層ミラーは、基体に留め付けられる。
【0018】
これに関して、一改良形態では、ガイドボルトがキャリッジ上又はキャリッジ内でガイドされ、キャリッジの移動方向(VRS)に平行に、スライド方向(SRF)に沿ってキャリッジに対して可動であり、スライド方向(SRF)において、ガイドボルトの両側のキャリッジ上又はキャリッジ内に接触要素が形成され、スライド方向(SRF)に平行にキャリッジ上又はキャリッジ内で可動であり、それぞれの第1のばね要素を介してキャリッジ上に支持される。ガイドボルトにより、キャリッジを、それぞれの接触要素及びそれぞれの第1のばね要素を介して、特定の端部ストッパに十分に力を加えながら接触させて穏やかに押圧することができ、したがって、ガイドボルトが端部ストッパに対して厳密に位置決めされなくても、キャリッジを正確に位置決めすることができる。特に、端部ストッパの位置は変化し得るが、このときキャリッジには、端部ストッパに対する正確な接触のために、依然として確実に十分な力が加えられている。キャリッジが端部ストッパに到達した後、ガイドボルトは、第1のばね要素の力に抗して、かなり遠ざかって、その可能な移動経路(最大ばねストローク)の通常約半分以上を端部ストッパ上に対して移動することになる。キャリッジに対する接触要素のそれぞれの移動経路は、ガイドボルトの中央位置から始まって、少なくとも3.0mmであることが好ましい。ガイドボルトの移動経路がロックストッパによって画定されるロックワッシャとして接触要素を設計することができ;これに対応して、ガイドボルトが中央位置から移動すると、1つの接触要素のみが少なくとも一時的にガイドボルトに当接する。これにより、一方の端部ストッパに向かう動きが、対向して配置された端部ストッパの第1のばね要素によって補助されることを防ぐことができる。
【0019】
好ましくは、基体上をガイドされるスピンドルナットが載置される駆動スピンドルが、X線光学アセンブリの基体上に設けられており、ガイドボルトは、特にガイドボルトから横方向に突出するキャリヤを介してスピンドルナットに連結されている。スピンドル機構は、簡単で、堅牢で、安価である。ガイドボルトと第1のばね要素を介して力が伝達されるので、それほど正確ではないスピンドル機構でもキャリッジを正確に位置決めするのに十分である。
【0020】
調整ユニットの実施形態
好適な一実施形態では、モノクロメータは、少なくとも2つの自由度で回転可能な関節ジョイントを介して支持された調整ユニットに留め付けられる。モノクロメータの回転位置を、回転可能な関節ジョイントを介して(多層ミラー又はそこから放射するX線ビームに対して)調整することができる。関節ジョイント又は回転軸(複数可)は、例えば2cm以下の距離で、モノクロメータ又はX線ビームの近くに位置することが好ましい。関節ジョイントは、通常、モノクロメータ及び切り換え可能なアパーチャシステムを担持するX線光学アセンブリの可動キャリッジ上に支持される。調整ユニットは、通常、関節ジョイントが設けられた保持要素と、モノクロメータを調整するための調整要素、特に、保持要素から横方向に突出する調整レバーとを含む。回転可能な関節ジョイントは、厳密に2つの自由度を有する(もともと有するか、又はさらなる自由度をブロックすることによる)のが好ましく、これによってより容易な調整を可能にする。ただし、調整オプションの制限を可能な限り少なくするために、3つの自由度すべてに関する回転自在性を提供することもできる。
【0021】
回転可能な関節ジョイントがボールジョイントとして設計されるこの実施形態の一改良形態が特に好ましい。ボールジョイントは非常に正確で耐久性のある設定を可能にする。ボールジョイントは原則として3つの自由度で回転可能である。必要に応じて、調整を簡略化するために、1つの自由度が適切なガイドによってブロックされてもよい。
【0022】
この改良形態の好ましいさらなる一発展形態では、調整ユニットは、保持要素及び調整要素を含み、保持要素は、ボール部と、ボール部からモノクロメータへの第1の接続部と、ボール部から調整要素への第2の接続部とを有する。保持要素は、通常、実質的に線形の設計を有し、ボール部は略中間に位置し、接続部(「スピンドル」)は対向するように配置される。このさらなる発展形態により、調整の際の力の好適な適用、及びコンパクトな設計が可能になる。
【0023】
また、調整ユニットにボール部が設けられ、ボール部は、2つのジョイントソケット要素の間に位置し、特に、ジョイントソケット要素は、穿孔されたプラスチック円盤として設計され、ジョイントソケット要素は、1つ又は複数の第2のばね要素、特に皿ばねによって互いにプレテンションされている調整ユニットが提供される改良形態が好ましい。この設計によって、簡単な方法で、調整ユニットを実質的に遊びなく保持することが可能になる。
【0024】
以下の一改良形態が特に好ましい
相互に対向する2つのガイド部を有するガイド装置が設けられ、ガイド部間で調整ユニットが接触した状態でガイドされ、これにより調整ユニットは、ボールジョイントの中点を通ってガイド面に対して垂直に延びる第1の軸線(y)を中心として、ガイド部に平行なガイド面に平行に旋回可能であり、
さらに、調整ユニットは、ボールジョイントの中点を通って第1の軸線(y)に対して垂直に延びる第2の軸線(x)を中心に回転可能であり、
調整ユニットは、ボールジョイントの中点から第2の軸線(x)の方向に関して離れてガイド部に当接し、これにより、ボールジョイントの中点を通って第1の軸線(y)に対して垂直且つ第2の軸線(x)に対して垂直に延びる第3の軸線(z)を中心とする調整ユニットの旋回がブロックされる。
【0025】
この改良形態では、調整を簡略化するために調整ユニットの回転を2つの軸線(x,y)に制限することができる。ガイド部は、通常、ガイド面として設計されるが、ガイドエッジとして設計されてもよい。ガイド部は、遊びを低減するために、通常、調整ユニット上にわずかに弾性的にプレテンションされている。ガイド装置は、通常、可動キャリッジ上に設けられる。第1、第2、及び第3の軸線(x,y,z)は、互いに垂直に向けられている。
【0026】
ガイド装置は、好適には、第2の軸線(x)の周りを回転可能であるように設計され、調整ユニットは、第3の軸線(z)の方向に関してボールジョイントの中点から離れてガイド部に当接しているので、調整ユニットが第2の軸線(x)の周りを回転すると、ガイド装置、特にロックスリーブを備えて設計されたガイド装置も回転する。この実施形態では、第1の軸線(y)の位置はモノクロメータに対して固定されている。これにより、特に簡単で直感的な調整が可能になる。さらに、回転角度が大きい場合、この設計では、必要に応じて、非線形性を避けることができる。ガイド装置は、通常、可動キャリッジ上に回転可能に支持されている。
【0027】
あるいは、ガイド装置が回転可能に固定された設計を有し、調整ユニットが円筒の外側表面部を有するガイド部に当接し、ここで、円筒の外側表面部の共通円筒軸はボールジョイントの中点を通って延び、これにより、調整ユニットが第2の軸線(x)の周りを回転すると、調整ユニットは、ガイド装置に対して、特に調整ユニットを円筒状領域内にガイドするガイド装置に対して、共通円筒軸の周りを回転するように提供され得る。この設計は特に簡単である。円筒の外側表面部は、通常、調整ユニットの円筒状領域の、対向して配置された側部によって形成される。x軸の方向に延びるガイド部の場合、円筒の外側表面部は、軸線方向に非常に短い設計を有することも可能であり;円筒軸は、円の共通面に垂直な共通円弧断面の中点を通る軸線に対応する。
【0028】
上記実施形態の好適な一改良形態では、調整ユニットを第1の軸線(y)の周りに旋回させる第1の調整機構と、調整ユニットを第2の軸線(x)の周りに回転させる第2の調整機構が示される。調整機構を介して2つの軸線(x,y)に対する調整ユニットの回転位置の正確な設定を行うことができ;第1及び第2の軸線(x,y)に関しては、前述の改良形態も参照されたい。
【0029】
この改良形態の好適なさらなる一発展形態では、調整ユニットは、第2の軸線(x)に対して実質的に横方向に突出する調整レバーを有し、この調整レバーに第1及び第2の調整機構が係合し、調整レバーは、第1の調整機構を介して第2の軸線(x)に略平行な方向にたわみ可能であり、調整レバーは、第1の軸線(y)に略平行な方向に第2の調整機構を介してたわみ可能である。この調整レバーを用いて、モノクロメータの簡単で正確なタイプの調整が可能である。調整レバーの代わりに、例えば調整ホイールを使用することができる。
【0030】
別の改良形態では、第1の調整機構及び第2の調整機構は、それぞれ、各第3のばね要素、特に引っ張りばねの力で、変位可能な調整ストッパ、特にねじスピンドル又は調整スクリュに対して調整ユニットを押す。このようにして、遊びの少ないモノクロメータの位置決めが可能である。
【0031】
本発明によるX線回折装置
また、本発明の範囲は、X線回折装置を包含し、
−X線源と、
−サンプルのための位置であるサンプル用位置と、
−サンプルの位置を中心に円弧上で可動であるX線検出器と、
−X線ビームためのビーム経路が選択可能な調整システムと
を含む、X線回折装置において、
X線回折装置はまた、本発明による上述のX線光学アセンブリを含み、
X線回折装置の調整システムは、少なくともX線光学アセンブリの切り換えシステムを含み、
−切り換えシステムが第1の位置にある、調整システムの第1の調整における第1のビーム経路と、
−切り換えシステムが第2の位置にある、調整システムの第2の調整における追加的な第2のビーム経路と、
−切り換えシステムが第3の位置にある、調整システムの第3の調整における追加的な第3のビーム経路と
が、いずれの場合にも、X線ビームをX線源からサンプルの位置に向ける
ことを特徴とする。
【0032】
本発明によるX線回折装置を使用することにより、特にモータによって、自動化された方法で、3つの測定形状の間での切り換えを迅速に行うことができる。ビーム経路の変更は、切り換えシステムの切り換えによって行うことができ、必要であれば、調整システムの別のユニットを切り換える/調整することによって補足される。追加の修正は必要ではなく;同様に、さらなる調整が、通常は必要とされないか、又は最小化される。
【0033】
本発明によるX線回折装置の一実施形態が好ましく、この実施形態では、調整システムがさらに、一次側に、少なくともX線源とX線光学アセンブリとが配置されたキャリッジを含み、キャリッジは少なくとも第1の位置と第2の位置との間で移動可能及び/又は旋回可能である。特に、ここで、一次側のキャリッジの第2の位置と第1の位置との間の位置差が、第2のビーム経路に対して第3のビーム経路内でモノクロメータによるX線ビーム変化を補償する。同様に、第2のビーム経路すなわち第2の調整では、第1の位置が使用され、第3のビーム経路すなわち第3の調整では、第2の位置が使用される。第1のビーム経路すなわち第1の調整では、通常、第1の位置が使用される。この設計によって、X線光学アセンブリの出力側の第2のビーム経路に対して第3のビーム経路内のX線ビームを変化させるモノクロメータの使用、特に、(単一の)チャンネルカット結晶の使用が可能になり、また、したがって、非常にコンパクトな設計(X線源とサンプルとの間の距離が小さい)が可能になる。モノクロメータによる一般的なX線ビーム変化は、X線源及びX線光学アセンブリの、対向して向けられた共通の平行移動によって補償されるX線ビームの平行オフセットである。
【0034】
好適な代替の一実施形態では、モノクロメータは、X線光学アセンブリの出力側の第2のビーム経路及び第3のビーム経路がX線光学アセンブリに対して同じ方法で延在するように設計され、特に、モノクロメータは、Bartels装置に2つのチャンネルカット結晶を連続的に含み、調整システムは、X線光学アセンブリの切り換えシステムのみを含む。この設計は、一次側のキャリッジが不要であるため、スイッチオーバに関して特に簡単である。ただし、この実施形態のモノクロメータは、特に正確な方法で製造されなければならない。
【0035】
好ましい一実施形態では、ブラッグ・ブレンターノ形状の第1のビーム経路は、サンプルの位置での反射後に、X線ビームを円弧上に集束させ、第2のビーム経路及び第3のビーム経路は、それぞれ平行ビーム形状の場合には、X線ビームをサンプルの位置に向ける。特に多層ミラーとしてのゲーベルミラーとモノクロメータとしてのチャンネルカット結晶を用いると、この設計は特に簡単である。
【0036】
代替的な一実施形態では、ブラッグ・ブレンターノ形状の第1のビーム経路は、サンプルの位置での反射後に、X線ビームを円弧上に集束させ、平行ビーム形状の第2のビーム経路は、X線ビームをサンプルの位置に向け、第3のビーム経路は、サンプルの位置を通って、円弧上にX線ビームを集束させ、特にモノクロメータはヨハンソン型モノクロメータを含む。この設計では、第3のビーム経路内に透過形状を利用することができる。
【0037】
本発明のさらなる利点は、説明及び図面から分かる。加えて、上述の特徴及び以下においてより詳細に説明する特徴は、それぞれの場合において、個々に又は集合的に任意の組み合わせで本発明に従って使用され得る。図示され説明された実施形態は網羅的なリストとして解釈されるべきではなく、むしろ本発明を説明する本質的に例示的なものである。
【0038】
発明の詳細な説明及び図面
本発明は、図面に示され、以下のように、例示的な実施形態を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】ブラッグ・ブレンターノ(Bragg−Brentano)形状の第1のビーム経路のためのX線光学アセンブリの第1の切り換え位置にある、本発明によるX線回折装置の一実施形態の概略図である。
図2】平行ビーム形状の第2のビーム経路のためのX線光学アセンブリの第2の切り換え位置にある、図1のX線回折装置を示す図である。
図3a】平行ビーム形状の第3のビーム経路のためのX線光学アセンブリの第3の切り換え位置にある、図1のX線回折装置を示す図であり、一次側のキャリッジが変位した位置にある。
図3b】平行ビーム形状の第3のビーム経路のためのX線光学アセンブリの第3の切り換え位置にある、図1と同様のX線回折装置を示す図であり、ダブルチャンネルカット結晶を有する。
図4a】本発明によるX線光学アセンブリの一実施形態の概略斜視図であり、基体上に可動キャリッジを備え、その基体は前景に表れる。
図4b図4aのX線光学アセンブリの概略斜視図であり、キャリッジは前景に表れる。
図4c】ビーム経路の高さ位置での、図4aのX線光学アセンブリの概略断面図である。
図5】駆動スピンドルの高さ位置での、図4aのX線光学アセンブリの概略断面図である。
図6】キャリッジ上の図4aのX線光学アセンブリの概略側面図である。
図7】回転可能なロックスリーブを有し、調整機構を含む、図4aのX線光学アセンブリの調整ユニットの概略的な長手方向断面図である。
図8図7の調整ユニットの概略上面図である。
図9図7の面Bに沿った、図7の調整ユニットの概略的な階段状の断面図である。
図10a図4aのX線光学アセンブリの、中央位置にあるクランプ機構を示す概略的な断面図である。
図10b】右側の端部ストッパに到達し、中間位置にある図10aのクランプ機構を示す図である。
図10c】右側の端部ストッパにおいて、支え位置にある図10aのクランプ機構を、示す図である。
図11】固定ロックワッシャを備えた調整機構を含む、本発明によるX線光学アセンブリのための別の調整ユニットの長手方向断面図である。
図12図11の調整ユニットの概略上面図である。
図13図11の面Bに沿った、図11の調整ユニットの概略的な階段状の断面図である。
図14a】ジョイントピンを備えた、本発明によるX線光学アセンブリのための別の調整ユニットの概略的な長手方向断面図である。
図14b図14aの調整ユニットの概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の概要
本発明は、3つの異なる測定形状においてX線回折測定を行うことができるX線光学アセンブリ及びそのようなアセンブリを有するX線回折装置を提供する。測定形状間の切り換えは、好ましくは自動化された方法で行われるので、光学装置の再調整を必要とする可能性がある測定機器における(手動)介入は必要ではない。本発明の範囲内では、一般に光学装置の中間調整を必要とせずに、さまざまなモードを使用して同じサンプルを測定することができる。
【0041】
測定形状又は測定応用は、好ましくは、一般に(例えば、任意にリートベルト(Rietveld)解析と組み合わせて、粉末解析のために)電動アパーチャを用いた、ブラッグ・ブレンターノ(Bragg−Brentano)応用、(例えば、応力やテクスチャの測定のための)平行化型ゲーベルミラーを用いた応用、及びモノクロメータと組み合わせたゲーベルミラーを使用した、高分解能XRDの分野での応用を含む。
【0042】
アセンブリは、コンパクトで省スペースな設計であり得るため、ブラッグ・ブレンターノ応用であっても、管の焦点が、検査されるサンプルから非常に離れているわけではない。ブラッグ・ブレンターノ測定形状では、管の焦点とサンプルとの間の距離が好ましく短いことが応用に好適である。
【0043】
この目的のために、モノクロメータが、旋盤ボールを有するスピンドルに留め付けられることが好ましい。ボールは、皿ばねによってホルダ内において2つのプラスチック円盤(ジョイントソケット)の間で支えられている。このボールジョイントでは、必要な自由度はすべて共通の回転点を有するため、設置スペースが節約される。スピンドルはプレテンションによって遊びなしに支持される。対応する力の適用により、3つの軸の周りの回転又は傾斜のみが可能である。3つの自由度のうちの2つは、通常、ねじスピンドルと引っ張りばねを利用して調整レバーの軸受によって固定される。使用されていない第3の自由度は、ロックスリーブを介してブロックされる。ねじスピンドルを回転させることによって、モノクロメータを、2つの軸(x及びy)の周りに回転させて、X線ビームに対して所望の位置にすることができる。
【0044】
本発明の範囲内では、非常に正確な切り換え機構が可能である。これは、測定中にX線光学装置が負荷変動を受ける可能性があり、これによって分析に影響を与えてはならないので、好適である。本発明では、特に、安定で正確な調整装置がモノクロメータに利用される。
【0045】
キャリッジ平行移動の終点位置で切り換えられるX線光学アセンブリの構成要素の高精度且つ再現可能な位置決めのために、所定の力でその終点位置にキャリッジを保持するクランプ機構が提案される。クランプ機構を使用することにより、キャリッジは、負荷変動にもかかわらず、常に十分な力でその2つの端部ストッパの1つに対して遊びなしに押されて、例えば±1.5mmの範囲内でストッパの変位を確実にすることができる。さらに、駆動が端部ストッパに対して「ハード」な衝撃を与えずに済むので、駆動機構のジャムを回避することができる。
【0046】
X線回折装置及びビーム経路
図1は、本発明によるX線回折装置1の一実施形態の概略図を示している。X線回折装置は、Cuアノードを有するX線管などのX線源2、(点線で囲まれた)X線光学アセンブリ3、測定されるサンプルのための位置4、及びX線検出器5を備えている。X線管2のソース焦点(又は任意で、それに対応する画像)及びX線検出器5(又は任意で、対応する検出器アパーチャ)が、サンプルの位置4の周りの円弧(測定円)6上に配置されている。X線源2及び/又はX線検出器5は、サンプルを測定するために、慣習的な方法で円弧6上を移動することができる。並びに/もしくは、サンプルをこの目的のために回転させることができる。
【0047】
X線光学アセンブリ3は、ここでは平行化型ゲーベルミラーとして設計された多層ミラー7と、多層ミラー7に対して可動であるキャリッジ8とを含む。ここではチャンネルカット結晶9aとして設計されたモノクロメータ9と、ここでは回転可能なアパーチャ10aを備えて設計された切り換え可能なアパーチャシステム10がキャリッジ8上に配置されている。さらに、補助アパーチャ11がキャリッジ8上に配置されている。
【0048】
回転可能なアパーチャ10aは、第1の回転位置(図1に示す)と第2の回転位置(後述の図2参照)との間で回転可能である。キャリッジ8は、第1の移動位置(図1に示す)と第2の移動位置(後述の図3a,3b参照)との間で移動方向VRSに可動である。図示された第1の移動位置では、アパーチャシステム10は、X線源2から放射されるX線光のビーム経路に配置されている。回転可能なアパーチャ10aの回転位置及びキャリッジ8の移動位置は、X線光学アセンブリ3のビーム経路を選択するためのX線光学アセンブリ3の切り換えシステム13の位置を画定する。
【0049】
図示された実施形態では、X線源2及びX線光学アセンブリ3は、一次側の共通キャリッジ12上にも配置され、この場合、一次側の共通キャリッジ12は、第1の位置(図1に示す)と第2の位置(後述の図3a参照)との間で移動方向VRPに可動である。一次側におけるキャリッジ12の位置及び切り換えシステム13の位置は、全体として、X線回折装置1のビーム経路を選択するためのX線回折装置1の調整システム14の調整を規定する。
【0050】
図1に示される状況では、調整システム14は、一次側にあるキャリッジ12が第1の位置にあり、切り換えシステム13が第1の位置にあるという、第1の調整にあり、キャリッジ8は、ここでは最上部にある、第1の移動位置にある。X線源2から放射される第1のビーム経路15のX線放射は、第1の回転位置にある回転可能なX線アパーチャ10aの中央ギャップを通過する。回転可能なアパーチャ10aを(わずかに)回転させることによってある程度にビーム幅を設定することができることに留意されたい。次いで、X線放射は、サンプルの位置4で反射され、これに対応して、X線検出器5又は円弧6(ブラッグ・ブレンターノ形状)に集束される。多層ミラー7で反射されたX線放射は、切り換え可能なアパーチャシステム10の一部によってブロックされる。
【0051】
図2に示される状況では、調整システム14は、一次側にあるキャリッジ12がまだ第1の位置にあるが、切り換えシステム13が第2の位置にあるという、第2の調整にあり、キャリッジ8は第1の移動位置にあり、ここでは最上部にある。X線源2から放射される第2のビーム経路16のX線放射は、多層ミラー7で反射されて平行化され、第2の回転位置における回転可能なアパーチャ10aを通り過ぎ、サンプルの位置4に到達する。この位置で、X線ビームは反射され、X線検出器5に到達する(モノクロメータを含まない平行ビーム形状)。X線源から直接アパーチャシステム10に到達するX線放射線は、アパーチャシステム10によってブロックされる。
【0052】
図3aに示す状況では、調整システム14は、一次側にあるキャリッジ12が、ここでは、移動方向VRPの第1の位置に対してわずかに下方にシフトされている第2の位置にあるという、第3の調整にある(点線のキャリッジの輪郭を参照)。さらに、X線光学アセンブリ3の切り換えシステム13は第3の位置にあり、この目的のために、キャリッジ8は、移動方向VRSで、ここではわずかに下方にシフトされた第2の移動位置におかれている。X線源2から放射される第3のビーム経路17のX線放射は、多層ミラー7で反射されて平行化され、モノクロメータ9に入射する。X線ビームは、モノクロメータの互いに向き合った平行な結晶面で2回反射された後、サンプルの位置4に当たる。この位置では、X線ビームは反射され、X線検出器5に到達する(モノクロメータを含む平行ビーム形状)。X線源2から直接放射されるX線放射は、ここでは、補助アパーチャ11によってブロックされる。
【0053】
一次側でのキャリッジ12のシフト18は、X線光学アセンブリ3の出力側で、モノクロメータを用いずに、仮想ビーム経路16a(第2のビーム経路と同様に細かい点線で示す)に対する第3のビーム経路17のオフセット19を補償し、これにより、第3のビーム経路17もサンプルの位置4に中央に到達する。
【0054】
図3bは、本発明によるX線回折装置1の別の実施形態を示しており、図1図2、及び図3aと同様に示されており、したがって、重要な相違点のみがより詳細に説明される。この実施形態では、X線回折装置1の調整システム14は、X線光学アセンブリ3の切り換えシステム13のみを含み、特に、一次側のキャリッジを必要としない。
【0055】
調整システム14の第3の調整、すなわち切り換えシステム13の第3の位置では、キャリッジ8は再び第2の移動位置にある。多層ミラー7で反射されて平行化された第3のビーム経路17のX線ビームはここでモノクロメータ9に到達し、モノクロメータ9は、連続的に配置された第1のチャンネルカット結晶9b及び第2のチャンネルカット結晶9cを含み(Bartels装置)、これにより、第1のチャンネルカット結晶9bによるX線ビームのオフセットが第2のチャンネルカット結晶9cによって厳密に相殺される。この目的のために、2つのチャンネルカット結晶9b,9cは互いに対して固定された向きにあり、両方ともキャリッジ8と共に移動し;一般に、2つのチャンネルカット結晶9b,9cは、キャリッジ8上で個別に調整可能である。したがって、第3のビーム経路17は、わずかなセグメントでのみ第2のビーム経路16(細かい点線で示す)とは異なり、特に、第2のビーム経路16及び第3のビーム経路17は、X線光学アセンブリ3の出力側で同様に延在する。
【0056】
X線光学アセンブリ
本発明によるX線光学アセンブリ3の一実施形態であって、図1図2図3aのX線回折装置に設置することができる実施形態が、図4aでは、前景に基体40を表した概略斜視図で示されており、図4bでは、前景にキャリッジ8を表した概略斜視図で示されている。
【0057】
多層ミラー7は、基体40に支持され;多層ミラー7の入力側には、第1のビーム経路用の1つのスリットと、第2及び第3のビーム経路用の別のスリットとを有するダブルスリットアパーチャ41も設けられている。基体40には、キャリッジ8が移動方向VRSに沿って可動であるガイド42が設けられている。また、基体40には、モータ44及びギヤ45を介して駆動される駆動スピンドル43が設けられている。駆動スピンドルはスピンドルナットを駆動し、スピンドルナットはキャリッジ8のガイドボルトに連結される(図4a,4bでは見えない;後述の図5参照)。
【0058】
チャンネルカット結晶9aとして設計されたモノクロメータ9は、調整ユニット46(大部分は見えない;後述の図7図8図9参照)を介してキャリッジ8に支持され、変位可能である。また、ここでは回転可能なアパーチャ10aを備えて設計された、変位可能なアパーチャシステム10が、キャリッジ8上に配置されている。回転可能なアパーチャ10aを、モータ47及びギヤ(図4a,4bでは見えない)を介して回転させることができる。
【0059】
また、X線光学アセンブリ3は、2つの細目ねじスピンドル48,49を有し、これを介して、キャリッジ8のための変位可能な端部ストッパが形成される(後述の図6参照)。
【0060】
図4cは、ビーム経路の高さ位置での図4a,4bのX線光学アセンブリ3の断面を示している。図示された基体40のガイド42におけるキャリッジ8の第2の移動位置において、X線ビーム(図示せず)は多層ミラー7で反射され(そして、平行化され)、その後、チャンネルカット結晶9aを介してサンプル位置(図示せず)にさらに伝播し得る。この場合、回転可能なアパーチャ10aは、ビーム経路から外れている。
【0061】
図5は、駆動スピンドル43の高さ位置での図4a、図4bのX線光学アセンブリ3の断面を示している。基体40上で回転可能に固定されてガイドされるスピンドルナット50が、駆動スピンドル43のねじ(詳細は図示せず)上に載置されるため、駆動スピンドル43が回転すると、スピンドルナット50は駆動スピンドル軸に沿って(図5の上から下へ)移動する。
【0062】
スピンドルナット50は、スピンドルナット50の凹部内に突出するキャリヤ51を介してガイドボルト52に連結されており、ガイドボルトは、キャリッジ8内の対応するボアホール57内をスライド方向SRFに沿ってキャリッジ8内で可動である。キャリヤ51は、ガイドボルト52に固定的に接続されており、ガイドボルト52から横方向に突出している。ガイドボルト52は、キャリッジ8内のボアホール57内を、接触要素53,54に対して移動することができ、接触要素53,54は、同様に、ボアホール57内をスライド方向SRFに可動である。接触要素53,54は、第1のばね要素55,56を介してキャリッジ8に支持されている(図10aから図10cのキャリッジ8のクランプ機構については以下に詳述する)。
【0063】
図6は、X線光学アセンブリ3の側面図において、細目ねじスピンドル48,49によって基体40及びキャリッジ8の変位可能な共通のストッパ(端部ストッパ)を示している。
【0064】
第1の細目ねじスピンドル(又は調整スクリュ)48は、基体40内に支持されており、その前端部48aが、キャリッジ8に形成されたストッパ要素60(クロスハッチで示す)に当接することによって、図6の下方へのキャリッジ8の移動経路を画定する。細目ねじスピンドル48をねじ込む又は取り出すことによって、基体40に対するキャリッジ8の第2の移動位置を画定、又は変更することができる(したがって、モノクロメータの位置を調整することができる)。示されたキャリッジ8の移動位置において、ストッパ要素60は、前端部48aにちょうど当接している。
【0065】
第2の細目ねじスピンドル(又は調整スクリュ)49は、キャリッジ8に支持されている。第2の細目ねじスピンドルの前端部49aは、基体40に形成されたストッパ要素61(クロスハッチで示す)に当接することによって、図6の上方へのキャリッジ8の移動経路を画定する。細目ねじスピンドル49をねじ込む又は取り出すことによって、基体40に対するキャリッジ8の第1の移動位置を画定、又は変更することができる(したがって、回転可能なアパーチャの位置を調整することができる)。示されたキャリッジ8の移動位置において、ストッパ要素61は、前端部49aから非常に離れたところにちょうど配置される。
【0066】
基体40内の細目ねじスピンドル48と、キャリッジ8内の細目ねじスピンドル49の軸受により、X線光学アセンブリ3の同じ側(ここでは底部)に両方の端部ストッパ用の細目ねじスピンドル48,49を配置することが可能であり、これにより調整が容易になる。
【0067】
図6はまた、図5の切断面Aを示している。
【0068】
図7は、モノクロメータ9が保持されている図4a、図4bの本発明によるX線光学アセンブリの調整ユニット46の概略的な長手方向断面を示している。調整ユニット46は、モノクロメータ9から調整ユニット46のボール部71への第1の接続部70を含み、これにより調整ユニットが支持されている。また、ボール部71から調整ユニット46の調整要素73の留め付けへつながる第2の接続部72が設けられ、接続部70,72は、互いに対向して配置され、共通構成要素軸上のボール部71の中点Mと同軸に延びている。接続部70,72及びボール部71は、まとめて保持要素69とも呼ばれる。調整要素73は、ここでは、横方向に突出した調整レバー73aとして設計されている。ボール部71、及び接続部70,72の大部分もまた、キャリッジ8のボアホール78内に延びている。
【0069】
ボール部71は、ここでは、斜めに形成され穿孔されたプラスチック円盤の形態の、互いに向き合う2つのジョイントソケット要素74,75の間に締め付けられている。下部ジョイントソケット要素75は、ボアホール78の下端でキャリッジ8に当接し、上部ジョイントソケット要素74は、第2のばね要素76、この場合、積み重ねられた複数の皿ばね76aによってボール部71に押し付けられ、これによりボール部71は実質的に遊びなしでジョイントソケット要素74,75の間に保持される。皿ばね76aは、ボアホール78内に圧入された不動の固定スリーブ77に支持されている。
【0070】
ボール部71とジョイントソケット要素74,75とによって形成された、関節ジョイント79、すなわちボールジョイント79aに起因して、原理的に、調整ユニット46の手段で、ボール部71の中点Mを通って延びる3つの直交軸x,y,z(3つの自由度)に対して、モノクロメータ9を回転又は旋回させることができる。ただし、図7に示す設計では、図8の上面図及び図9の階段状の断面図(図7の切断面B参照)から明らかなように、1つの自由度、すなわちz軸周りの回転がブロックされる。
【0071】
ここではロックスリーブ84aとして設計されたガイド装置84の互いに対向する平行なガイド部82,83が、調整レバー73aの互いに対向する平行な側面80,81に当接している。調整レバー73a又は調整ユニット46は、ガイド面FEBに平行に、すなわちガイド部82,83に沿ってy軸を中心に旋回することができ、y軸はガイド面FEBに対して垂直に延びている。
【0072】
次にロックスリーブ84aは、ロックスリーブがx軸の周りを回転可能であるようにキャリッジ8に支持されている。これに対応して、調整レバー73a又は調整ユニット46は、全体として、x軸を中心に旋回することができ、x軸はガイド面FEBと平行に延びている。x軸に隣接する(x軸から離れた)、z軸の方向に位置する側面80,81は、このようにしてガイド装置84を運ぶ。
【0073】
ただし、ガイド部82,83を備えたガイド装置84は、調整ユニット46の、z軸周りの旋回をブロックする。ガイド部82,83は、軸線から離れて(この場合、x軸の方向に)位置している。
【0074】
さらに、断面が円形の第2の接続部72は、z軸方向に細長く、第2の接続部72に両側で当接するロックスリーブ84aの長穴85を突き抜けることを特記する。調整ユニット46は、このようにして追加的にガイドされる。
【0075】
図7図8、及び図8を参照すると、第1の調整機構91及び第2の調整機構92も示されている。
【0076】
特に図7に明瞭に示されている第1の調整機構91は、ここでは引っ張りばね95aとして設計されている第3のばね要素95を有し、この第3のばね要素95は、延長スクリュ99を介して、キャリッジ8上の変位可能な調整ストッパ93、この場合、ねじスピンドル93aに対して調整レバー73aを引っ張る。調整レバー73aの下方の突出部分を、ねじスピンドル93aを変位させることによって、実質的にx軸に平行に移動させることができ、それによって調整ユニット46をy軸の周りに回転させる。ねじスピンドル93aの下端部94は、調整レバー73aの旋回時にねじスピンドル93aと調整レバー73aとの相互の滑りを容易にするために、ここでは球形の設計となっていることに留意されたい。
【0077】
特に図9に明瞭に示されている第2の調整機構92は、ここでは引っ張りばね96aとして設計されている第3のばね要素96を有し、この第3のばね要素96は、延長スクリュ99を介して、キャリッジ8上の変位可能な調整ストッパ97、この場合ねじスピンドル97aに対して調整レバー73aを引っ張る。調整レバー73aの下方の突出部分を、ねじスピンドル97aを変位させることによって、実質的にy軸に平行に移動させることができ、それによって調整ユニット46をx軸の周りに回転させる。ねじスピンドル97aの前端部98は、調整レバー73aの旋回時にねじスピンドル97aと調整レバー73aとの相互の滑りを容易にするために、ここでは球形の設計となっていることに留意されたい。
【0078】
調整要素46のためのガイド装置84の別の実施形態は、図11(長手方向断面図)、図12(上面図)、及び図13(階段状の断面図;図11の面B参照)に示されており、これは、図7図8、及び図9の図に大部分は対応しているので、ここでは重要な相違点のみを説明する。
【0079】
ガイド装置84は、ここでは、キャリッジ8内で長穴110を備えた、回転可能に固定されたロックワッシャ84bとして設計されている。長穴110は、z軸に平行な方向に延びている。長穴110の互いに対向する平行な長手方向側面は、両側で調整ユニット46の円筒状領域111に当接するガイド部82,83を形成する。円周方向の円筒状領域111(必要な円筒の外側表面部がこれに一体化されている)は製造が容易であるが、調整ユニット46が、2つの十分に大きな円筒の外側表面部を有するガイド部82,83に当接するのに十分であることに留意されたい。円筒状領域111は、ここでは第2の接続部72に形成されている。円筒状領域111の円筒軸ZAは、x軸に対して同軸状に延びている。
【0080】
調整ユニット46は、長穴111内において、ガイド面FEBに平行に、すなわち、ガイド部82,83に沿ってy軸の周りを旋回可能である。さらに、調整ユニット46は、x軸周りに、すなわち円筒軸ZAの周りを回転可能である。対照的に、z軸回りの旋回は、調整ユニット46がz軸から離れた位置(この場合、x方向)にあるガイド部82,83に当接しているために、ブロックされる。
【0081】
ここで再び調整レバーとして設計された調整要素73の作動を、図7図8、及び図9に示すように、調整機構91,92を介して同様の方法で行うことができる。
【0082】
図10aから図10cは、図4a,4bの本発明によるX線光学アセンブリのキャリッジ8を、端部ストッパ100,101の間で基体に対して移動方向VRSに沿って移動させることができるクランプ機構を示している。端部ストッパ100,101は、例えば、細目ねじスピンドル48,49を介して形成され、図10aから図10cに単に概略的に示されていることに留意されたい。
【0083】
図10aは、最初は中央位置にあるキャリッジ8を示している。ガイドボルト52は、キャリッジ8の移動方向VRSと平行に延びるスライド方向SRFに沿って、キャリッジ8のボアホール57内で変位可能である。さらに、キャリッジ8に固定された端部要素102,103とスライド方向SRFに可動である接触要素53,54との間にクランプされた第1のばね要素55,56も、ボアホール57内に配置されている。図示の中央位置では、接触要素53,54は軸線方向の両側からガイドボルト52を軽く押圧し;第1のばね要素55,56は、実質的に完全に緩んだ位置にある。ガイドボルト52は、図10aの下方に突出するキャリヤ51を含み、これにより、駆動スピンドル(図示せず;図5参照)からガイドボルト52に力が伝達されるか、又は、ガイドボルト52をスライド方向SRFに移動させることができる。
【0084】
ここで、ガイドボルト52が例えば駆動スピンドルによって右に移動されると、キャリッジ8は最初に単に移動方向VRSに沿って運ばれ、キャリッジ8への抵抗がない場合には、第1のばね要素55,56及び、キャリッジ8内のガイドボルト52の位置は、キャリッジ8が最終的にちょうど端部ストッパ101(中間位置;図10b参照)に到達するまで実質的に変化しないままである。
【0085】
キャリッジ8の、端部ストッパ101への、遊びのない正確な位置決めを実現するために、ガイドボルト52は、端部ストッパ101に到達した後に、さらに端部ストッパ101に向かって、短い距離を移動する;図10c(支え位置)のばねたわみEFを参照。ガイドボルト52がキャリッジ8のボアホール57内をスライド方向SRFに移動できるだけで、キャリッジ8は移動方向VRSに移動することはできない。ガイドボルト52は接触要素54を右に押し、右側の第1のばね要素56はその弾性力に抗して圧縮される。キャリッジ8は、第1のばね要素56の弾性力に応じて、端部要素103を介して端部ストッパ101に押し付けられる。弾性力(又は押圧力)は、第1のばね要素56のばね定数の関数であり、また、ばねたわみEFに略比例する。
【0086】
ばねたわみEFが、例えば駆動スピンドルの遊びのために厳密には再現可能でない場合、これは、キャリッジ8を端部ストッパ101に押し付ける押圧力をわずかだけ変化させ、端部ストッパ101に対するキャリッジ8の遊びのない接触は依然として維持される。(変位可能な端部ストッパの場合)端部ストッパ101の位置の微調整によるばねたわみEFのわずかな変化も、端部ストッパ101上のキャリッジの遊びのない保持に影響を与えない。
【0087】
図示された実施形態における接触要素53,54は、特に、ガイドボルト52に接する横ボルト104(「ロック要素」53,54)を使用して、長穴105によってキャリッジ8内の移動経路に画定されていることに留意されたい。接触要素53は、ばねたわみEFのごく一部(典型的には20%未満)がガイドボルト52によって横切られると、ガイドボルト側のロックストッパによりガイドボルト52と接触しなくなる。このようにして、ガイドボルト52が移動するときのばね要素55,56の影響の打ち消しあいが大幅に防がれる。
【0088】
ばねたわみEFは、一般に、長穴105のために利用可能なばねストロークFHの約半分であるような近似として(例えば、駆動スピンドルを制御することによって)選択又は計画されて、ばねたわみEFの(実際の)設定において好ましくは大きな公差を提供する。ばねストロークFH及びばねたわみEFは、好ましくは、端部位置(端部ストッパ100,101)のキャリッジ8が±1.5mmまで変位するが依然としてキャリッジ8への十分な押圧力で作用するように設計され;この目的のために、例えばばねストロークFHを少なくとも4.0mmとすることができ、ばねたわみEFを少なくとも2.0mmに選択することができる。
【0089】
図14a(長手方向断面図)及び図14b(上面図)は、下端部でモノクロメータ9を保持する調整ユニット46の関節ジョイント79の別の設計を示している。この関節ジョイント79において、保持要素141は、ジョイントピン143のボアホール142内に固定保持されている。ジョイントピン143は、球形の丸い端部144,145を有し、2つの円盤リング146,147の間で接触して保持(クランプ)され、2つの円盤リング146,147は、キャリッジ(図示せず)に留め付けられる。それらの、ジョイントピン143に面する側では、円盤リング146,147の各々は、円弧断面を有する円周切欠き148を有する。
【0090】
したがって、調整ユニット46は、保持要素141の軸線に沿って延びるx軸の周り、及びジョイントピン143の軸線に沿って延びるy軸の周りでも回転することができる。ただし、z軸(図の平面に垂直で、ジョイントピン143の中心ZEを通る)の周りの旋回はブロックされる。
【0091】
保持要素141の上端には、調整レバー(図示せず)などの調整要素を留め付けることができる。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図11
図12
図13
図14a
図14b