【実施例】
【0032】
実施例1 ヒト由来エコール産生菌のTHD−エコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーの設計
ダイゼインの代謝によるエコール産生経路を
図1に示した。エコール産生菌の検出が可能なプライマーとして、3タイプのエコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーをタイプごとに作成した。
【0033】
(1)材料
(a)使用菌株
株式会社ヤクルト本社中央研究所にて保存していた、表1に示す菌株を使用した。各菌株の初発菌数は、1×10
5cells程度となるように調整した。
各菌株の培養条件を表1に示した。培養条件A及びBの詳細は以下の通りである。
条件A:1% Glucoseを添加した変法GAM寒天培地 (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。その後、寒天培地上のコロニーを変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて回収した。
条件B:0.5% Glucose, 0.1% Cellobiose, 0.1% Maltoseおよび0.1% Starchを添加した変法GAMブイヨン(Nissui)を用いて、37 ℃、48時間、嫌気条件下で培養した。
条件C:Willkins-Chalgren Anaerobe brothを用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
これらの菌液について、DAPI法(J. Microbiol. Methods 37, 215-221)により菌数測定を行い、この菌数に基づき10
9cells/mlとなるように調製した。これを各菌株の純培養菌液とした。
【0034】
【表1】
【0035】
(2)方法
プライマーの作成に先だち、表2に示したエコール産生菌が有するTHD−エコール変換酵素遺伝子情報を基にClustal Xソフトウェアにて分子系統解析を行ったところ、3種のタイプが存在することを見出した。そこで、それぞれのTHD−エコール変換酵素遺伝子をA型遺伝子群、B型遺伝子群、C型遺伝子群として分類した(各菌株がいずれのタイプのTHD−エコール変換酵素遺伝子を有するかを表2に示した)。なお、表1のエコール産生菌のうち、MC6株は本発明者らが新たに単離・同定した菌である。
表2に示したエコール産生菌8株の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列について、タイプごとにClustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行い、得られた特異的な配列をもとに各タイプの遺伝子を標的としたプライマーを設計した。
なお、表2に示した8株の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列をタイプごとではなく一括でClustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行うことでプライマーの設計を試みたが、遺伝子配列の相同性が高い特異的な配列を見出すことができず、プライマーを作成することはできなかった。よって、プライマーの作成には、3種のタイプが存在することを見出すことが重要であったことが判明した。
【0036】
【表2】
【0037】
(3)結果
設計したプライマーの配列を表3に示す。なお、C型遺伝子群を標的としたプライマーのうち、C型遺伝子群−1は、表2中の菌番号4および5の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列について、Clustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行い、得られた特異的な配列をもとに設計したものであり、C型遺伝子群−2は、表2中の菌番号4〜6の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列について、Clustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行い、得られた特異的な配列をもとに設計したものである。
【0038】
【表3】
【0039】
試験例1 THD−エコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーの特異性
(1)材料
(a)使用菌株
表1に記載した菌株に加え、株式会社ヤクルト本社中央研究所にて保存していた表4に示す菌株を使用した。各菌株の初発菌数は、1×10
5cells程度となるように調整した。
各菌株の培養条件を表4に示した。培養条件A〜Fの詳細は以下の通りである。
条件A:1% Glucoseを添加した変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件B:0.5% Glucoseを添加した変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件C:変法GAM ブイヨン(Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件D:1.5% Na-Lactateを添加した変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件E:0.5% Glucose, 0.1% Cellobiose, 0.1% Maltoseおよび0.1% Starchを添加した変法GAMブイヨン(Nissui)を用いて、37 ℃、48時間、嫌気条件下で培養した。
条件F:1% Glucoseを添加した変法GAM寒天培地 (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。その後、寒天培地上のコロニーを変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて回収した。
これらの菌液について、DAPI法により菌数測定を行い、この菌数に基づき10
9cells/mLとなるように調製した。これを各菌株の純培養菌液とした。
【0040】
【表4】
【0041】
(2)方法
特異性検討は、表1および表4に示した腸内最優勢菌(No. 10〜21)、Coriobacteriaceaeに属する細菌(No. 22〜37)およびヒト由来エコール産生菌(No. 1〜7)を対象とした。
各菌株の純培養菌液から公知の方法(Appl. Environ. Microbiol. 70:167-73)にてDNAを抽出した後、定量的PCRを行うことでプライマーの特異性を検討した。
【0042】
定量的PCRに用いる標準曲線の作製方法を以下に示す。A型遺伝子群を標的としたプライマーの標準曲線を作製するために菌株としてSlackia sp. YIT 11861を使用した。同様に、B型遺伝子群を標的としたプライマーについてはSlackia equolifaciens DZE 、C型遺伝子群−1および−2を標的としたプライマーについてはAdlercreutzia equolifaciens DSM19450
Tを使用した。各菌株の純培養菌液から抽出したDNAを鋳型とし、表3に示したプライマーを用いてPCRを行った。これらの増幅産物をPCR Product Purification Kit (Roche)を用いて精製し、このDNAについてLife Science UV/Vis Spectrophotometer DU730 (BECKMAN COULTER)を用いて吸光度(A. 280 nm)を測定し、その値から重量を算出した。DNA重量と増幅産物の1モルあたりの分子量からコピー数を計算した。コピー数が2 × 10
8 copy numbers /mLとなるように、精製DNAをTE buffer (pH 8.0)で希釈した。
【0043】
コピー数が2 × 10
8 copy numbers /mLのDNA溶液を原液として、TE buffer (pH 8.0)にて10倍段階希釈を行った。そのうち、1反応あたりコピー数が10
0〜10
5 copy numbersとなるように5 μLの希釈DNAを定量的PCRに供した。定量的PCRの条件を以下に示す。定量的PCRには、Ampdiret plus (SHIMADZU)を用いた。反応液組成は、Ampdirect plus 10 μL、300倍希釈したSYBR Green 1 (LONZA) 0.08μL、ROX Reference Dye (Invitrogen) 0.4 μL、50 μM Primer 1および2 各0.08 μL、rTaq (TaKaRa Bio.) 0.08 μL、Taq start antibody (Clontech) 0.1 μL、上述の希釈DNA溶液 5 μLとし、最後にNFWで液量を20 μLとした。PCRは、94 ℃5分、94 ℃20秒、60 ℃20秒、72 ℃50秒を45サイクルで行った。定量的PCR で得られたC
T値を縦軸に、対応する1反応あたりのコピー数を横軸にプロットし標準曲線を作成した。
【0044】
表1および表4に示した各菌株の純培養菌液から抽出したDNAをPCR一反応あたり10
6 copy numbers供試した。各菌株の純培養菌液から抽出したDNAを鋳型として得られたC
T値を標準曲線に代入し、コピー数が10
5 copy numbers以上のものを陽性 (+)、10
1 copy numbers以下のものを陰性 (-)、10
1 - 10
5 copy numbersのものを(±)と判定した。
【0045】
(3)結果
特異性の結果を表5に示す。C型遺伝子群−1検出用プライマーでは、C型遺伝子を有する菌番号6のDNAに対する増幅は確認されなかったが、それ以外のプライマーでは、標的のタイプのエコール産生菌のDNAに対して増幅が確認された。また、設計したいずれのプライマーにおいても、腸内最優勢菌(No. 10〜21)、Coriobacteriaceaeに属する細菌(No. 22〜37)及び標的のタイプ以外のエコール産生菌のDNAに対する増幅は確認されなかった。よって、各プライマーとも高い特異性を有するが、C型遺伝子群検出用プライマーとしては、C型遺伝子群−1検出用プライマーと比較して、C型遺伝子群−2検出用プライマーがより特異性が高く、好ましいことが判明した。
【0046】
【表5】
【0047】
試験例2 THD−エコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーの定量性
(1)方法
定量的PCRに用いる標準曲線は、試験例1で作成したものと同等に作成して使用した。また、定量的PCRの条件も試験例1に記載した方法と同様に行い、各プライマーの標準曲線を作成した。
【0048】
(2)結果
いずれのプライマーにおいても、PCR一反応当たり10
0 〜10
5 copy numbersの範囲で直線性の高い標準曲線が得られた(
図2)。これは、糞便1gあたりに換算すると、10
3 copy numbersまで検出可能であると推定された。
【0049】
実施例2 糞便からのTHD−エコール変換酵素遺伝子の検出−1
(1)方法
(a)糞便からのエコール変換酵素遺伝子の検出
健常成人25名に対して試験を行った。被験者は、1日目の夕食時に豆乳飲料(200mLあたりイソフラボン約40mg含有)を1本飲用し、2日目に糞便を提出した。集められた20mgの糞便より、公知の方法(Appl. Environ. Microbiol. 70:167-73)に従ってDNA抽出を行い、得られたDNAを100μLのTE bufferを用いて溶解した。
表3に示した3種のプライマーセットを用いて(C型遺伝子群については、C型遺伝子群−1を使用)、試験例1及び試験例2と同様の方法でPCRを行い、糞便中のエコール変換酵素遺伝子の検出、定量を行った。
(b)尿中エコール濃度の測定
健常成人25名の被験者は、1日目の夕食時に豆乳飲料(200mLあたりイソフラボン約40mg含有)を1本飲用し、2日目に一番尿を提出した。集められた尿を、4000 IU /mLのβ-glucuronidase (Sigma-Aldrich Japan)溶液と1:1 (v/v)で混合し、37℃、24時間、脱抱合反応を行った後、この反応液に4倍量のメタノールを添加した。この溶液をセントリカット超ミニ (W-MO, クラボウ)を用いてフィルター濾過したものを、LC/MS分析用の尿サンプルとした。
尿サンプルの測定には、液体クロマトグラフ質量分析 (LC/MS)を用いた。測定機器には質量検出器ZQ 4000、アライアンスHPLCシステム、フォトダイオードアレイ検出器 (日本ウォーターズ)を用いた。分離カラムにはCadenzaCD-C18 3 μL (内径:3.0 mm,長さ:75 mm, インタクト)を、移動相には0.1%ギ酸およびアセトニトリル混液を用いた。エコールの定量には、Waters Empower 2ソフトウエア (日本ウォーターズ)を用いた。
【0050】
(2)結果
25名中15名でA型〜C型の3種類のうちいずれかのタイプのTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出された(表6)。いずれかのTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出された15名は尿中エコール濃度よりエコール産生者であることが確認されており、これら3種のプライマーセットを用いることで被験者の糞便からTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出でき、かつ、エコール産生能を有しているかを測定することができることが判明した。
【0051】
【表6】
【0052】
実施例3 糞便からのエコール変換酵素遺伝子の検出−2
(1)方法
健常成人35名に対して試験を行った。表3に示した3種のプライマーセットを用いて(C型遺伝子群については、C型遺伝子群−1及び−2の両方を使用)、試験例1及び試験例2と同様の方法でPCRを行い、糞便中のエコール変換酵素遺伝子の検出、定量を行った。被験者は、1日目の夕食時に豆乳飲料(200mLあたりイソフラボン約40mg含有)を1本飲用し、2日目に1番尿及び糞便を提出した。それぞれ尿をエコール濃度の解析に、糞便をエコール変換酵素遺伝子数の検出及び定量に用いた。
尿サンプルの調製は試験例2と同様の方法で行った。
【0053】
尿中エコール濃度の測定は、試験例1及び試験例2と同様の方法で行った。
【0054】
(2)結果
表3に示したA型遺伝子群検出用プライマー、B型遺伝子群検出用プライマー、C型遺伝子群遺伝子検出用プライマー(C型遺伝子群−1及びC型遺伝子群−2)の各プライマーを用いて、健常成人35名の糞便DNAの解析を行った。35名中13名でA型〜C型の3種類のうちいずれかのタイプのTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出された(表7)。いずれかのエコール変換酵素遺伝子が検出された13名は尿中エコール濃度よりTHD−エコール産生者であることが確認されており、本試験からもこれら3種のプライマーセット(C型遺伝子群については、C型遺伝子群−1又は−2のいずれか)を用いることで被験者の糞便からTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出でき、かつ、エコール産生能を有しているかを判定することができることが判明した。
【0055】
【表7】
【0056】
参考例 A型遺伝子群検出用プライマーの検証
(1)方法
実施例1のA型遺伝子群検出用プライマーについて、Slackia sp. YIT 11861及びSlackia isoflavoniconvertens HE8の2株が有するTHD-エコール変換酵素遺伝子の配列を基に(即ち、Slackia sp. MC6が有するTHD-エコール変換酵素遺伝子の配列を考慮せずに)、当該プライマー(表8、SL-F1及びSL-R1)を作成した。
作成したプライマー(SL-F1及びSL-R1)と表3記載のA型遺伝子群検出用プライマー(SL-F2及びSL-R2)を使用して、実施例2に記載した25名のヒト糞便について実施例2と同様の方法でPCRを行い、糞便からのTHD-エコール変換酵素遺伝子の検出行った。
【0057】
【表8】
【0058】
(2)結果
被験者No.3は尿中エコール濃度が高く、エコール産生能を有するが、SL-F1及びSL-R1のプライマーでは、被験者No.3の糞便中のTHD-エコール変換酵素遺伝子を検出することができなかった(表9)。被験者No.3は、本発明のA型遺伝子群検出用プライマー(SL-F2及びSL-R2)を用いることでのみTHD-エコール変換酵素遺伝子が検出されている(表6)ため、A型遺伝子群検出用プライマーとしては、SL-F2及びSL-R2を用いることが必要であると言える。
【0059】
【表9】