特許第6716596号(P6716596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716596
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】エコール産生能の測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20200622BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20200622BHJP
【FI】
   C12Q1/6876 ZZNA
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-547903(P2017-547903)
(86)(22)【出願日】2016年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2016082128
(87)【国際公開番号】WO2017073753
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-212768(P2015-212768)
(32)【優先日】2015年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩和
(72)【発明者】
【氏名】森山 薫
(72)【発明者】
【氏名】野本 康二
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−169507(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/131660(WO,A1)
【文献】 特開2012−98034(JP,A)
【文献】 特表2013−521479(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/033304(WO,A1)
【文献】 特開2002−306175(JP,A)
【文献】 特表2013−500047(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0240275(US,A1)
【文献】 DECROOS, Karel, et al.,Arch. Microbiol.,2005年,Vol.183,p.45-55
【文献】 MARUO, Toshinari, et al.,Int. J. Systematic and Evolutionary Microbiology,2008年,Vol.58,p.1221-1227
【文献】 JIN Jong-Sik, et al.,Int. J. Systematic and Evolutionary Microbiology,2010年,Vol.60,p.1721-1724
【文献】 Schroder, C. et al.,Appl. Environ. Microbiol.,2013年,Vol. 79,p. 3494-3502
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68−1/6897
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)〜c)の3種のプライマーセットを用いて被験者の腸内細菌に由来するTHD−エコール変換酵素遺伝子を検出することを特徴とする、被験者のエコール産生能の測定方法。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
【請求項2】
被験者由来の糞便を用いてTHD−エコール変換酵素遺伝子を検出する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
【請求項4】
配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
【請求項5】
配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
【請求項6】
以下のa)〜c)の3種のプライマーセット。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
【請求項7】
以下のa)〜c)の3種のプライマーセットを含む、被験者のエコール産生能を測定するためのキット。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者のエコール産生能を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆食品に多く含まれるイソフラボンは、不定愁訴等の更年期障害の改善や骨粗鬆症の予防、高脂血症や動脈硬化の予防、乳がんや前立腺がんの予防等に効果がある機能性成分として知られている。近年の研究により、イソフラボンの一つであるダイゼイン(Daidzein)は、体内の腸内細菌によってエストロゲン作用や抗酸化作用がより強力なエコール(Equol)に代謝されることが明らかになり(図1参照)、エコールは体内で上記の作用を奏する主要な有効成分の一つとして注目されている。
【0003】
体内でのダイゼインからエコールへの産生は全てのヒトで一律に行われるのではなく、その産生能には個人差があり、30〜50%のヒトがエコール産生能を有することが報告されている。そこで、エコール産生能を有する腸内細菌(エコール産生菌)の探索が精力的に行われており、エコール産生菌として、バクテロイデス・オバタス、ストレプトコッカス・インターメディアス、ストレプトコッカス・コンステラータス、ラクトコッカス・ガルビエ、Slackia spp.TM−30株、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス TM−1株、ビフィドバクテリウム・ブレーベ JCM 1273、プロプリオノバクテリア・フレウンデレッキ、ビフィドバクテリウム・ラクチス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトコッカス・ラクチス、エンテロコッカス・フェシウム、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・サリバリウス、SNU−Julong732、gram positive bacterium do03、Slackia sp.YIT 11861(FERM BP−11231)(特許文献1)が報告されている。
【0004】
前述の通りエコールは様々な作用を有し、乳癌や前立腺癌などの性ホルモン依存性疾患の予防効果が期待されることから、エコール産生能を有しているか否かを測定することは重要である。
被験者がエコール産生能を有しているか否かを測定する方法として、現状では、エコール産生菌によってダイゼインから代謝されたエコールを、血液中又は尿中より検出・測定する方法が行われている。しかしながら、この方法では、採血・検尿前の大豆摂取量の多寡により血液中又は尿中のダイゼイン量、ひいてはエコール量が変化するという問題があった。特に被験者が大豆を摂取しない場合は、血液中又は尿中からエコールが検出されないために、エコール産生菌を有しているにもかかわらず、誤ってエコール産生能を有していないと判断してしまう危険性があった。
【0005】
一方、エコール産生菌の存在の有無によりエコール産生能を有しているか否かを測定する方法が考えられるが、すべてのエコール産生菌の存在を正確に検出できる方法が確立されておらず、当該方法に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開第2010/098103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、被験者がエコール産生能を有しているか否かを測定する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討した結果、特定の3種のプライマーセットを用いて被験者の腸内細菌に由来するテトラヒドロダイゼイン(THD)−エコール変換酵素遺伝子を検出することにより、被験者がエコール産生能を有しているか否かを高感度で測定できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の1)〜7)に係るものである。
1)以下のa)〜c)の3種のプライマーセットを用いて被験者の腸内細菌に由来するTHD−エコール変換酵素遺伝子を検出することを特徴とする、被験者のエコール産生能の測定方法。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
2)被験者由来の糞便を用いてTHD−エコール変換酵素遺伝子を検出する、1)に記載の方法。
3)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
4)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
5)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
6)以下のa)〜c)の3種のプライマーセット。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
7)以下のa)〜c)の3種のプライマーセットを含む、被験者のエコール産生能を測定するためのキット。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、大豆等のダイゼイン含有食品の摂取の有無に関わらず、被験者がエコール産生菌を保有するか否か、すなわち被験者のエコール産生能を感度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ダイゼインの代謝によるエコール産生経路を示す図。
図2】各プライマーの定量性を示すグラフ(標準曲線)。左:A型遺伝子群検出用プライマー(SL-F2/SL-R2)、右:B型遺伝子群検出用プライマー(Eght-F2/Egkm-R1)
図3】各プライマーの定量性を示すグラフ(標準曲線)。左:C型遺伝子群−1検出用プライマー(Adht-F1/Adht-R1)、右:C型遺伝子群−2検出用プライマー(Adht-F1/Adkm-R1)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の被験者のエコール産生能の測定方法においては、以下のa)〜c)の3種のプライマーセットを用いて被験者の腸内細菌に由来するTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出される。ここで、当該検出には、定性的および定量的な検出を含み、定量的な検出にはTHD−エコール変換酵素遺伝子数(コピー数)の定量を含む。
a)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
b)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
c)配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア
【0013】
a)〜c)で示される3種のプライマーセットは、何れもダイゼイン代謝において、シス/トランス−テトラヒドロダイゼイン(THD)からエコールへの変換反応(図1参照)に係るエコール変換酵素E3(以下、「THD−エコール変換酵素」と称する)をコードする遺伝子(以下、「THD−エコール変換酵素遺伝子」と称する)を増幅するためのプライマーペアである。
【0014】
THD−エコール変換酵素はいくつかのホモログが存在し、従ってTHD−エコール変換酵素遺伝子もいくつかの異なる配列が存在する。本発明者らは、THD−エコール変換酵素遺伝子が、その塩基配列の相同性の違いから3つのタイプ(遺伝子群。後述のA型遺伝子群、B型遺伝子群、C型遺伝子群を指す)に分類できることを見出した。なお、同じ遺伝子群内での塩基配列の相同性は95〜99%程度であり、異なる遺伝子群間での塩基配列の相同性は70〜80%程度である。さらに、本発明者らは、それぞれのタイプについてプライマーセットを作成した。
【0015】
a)で示されるプライマーセットは、Slackia sp.YIT 11861株、Slackia isoflavoniconvertens HE8株、及びSlackia sp. MC6株等が産生するTHD−エコール変換酵素遺伝子群(「A型遺伝子群」と称する)を増幅可能なプライマーペアであり、具体的には、配列番号1に示される塩基配列(5'- CCCGCGCATTTGTGGAGAACT -3'(SL-F2))からなるオリゴヌクレオチドである第1のプライマーと、配列番号2に示される塩基配列(5'- CGTTCCGATATCGCCGAGGTTT-3'(SL-R2))からなるオリゴヌクレオチドである第2のプライマーからなる。
【0016】
b)で示されるプライマーセットは、Slackia equolifaciens DZE株、Lactococcus garvieae 20-92株、及びEggerthella sp. YY 7918株等が産生するTHD−エコール変換酵素遺伝子群(「B型遺伝子群」と称する)を増幅可能なプライマーペアであり、具体的には、配列番号3に示される塩基配列(5'- CGCTGCCTTCGAGTCCTCTA -3'(Eght-F2))からなるオリゴヌクレオチドである第1のプライマーと、配列番号4に示される塩基配列(5'- GGTGGAGGTGAAGATGTCG -3'(Egkm-R1))からなるオリゴヌクレオチドである第2のプライマーからなる。
【0017】
c)で示されるプライマーペアは、Adlercreutzia equolifaciens DSM 19450T株、及びAsaccarobactor celtus DO-03株等が産生するTHD−エコール変換酵素遺伝子群(「C型遺伝子群」と称する)を増幅可能なプライマーペアであり、具体的には、配列番号5に示される塩基配列(5'- CGTTCGATACTGAGTACGACCTG -3'(Adht-F1))からなるオリゴヌクレオチドである第1のプライマーと、配列番号6に示される塩基配列(5’- ATCCTTGAG GAAATCGATGGTA -3’(Adht-R1))若しくは配列番号7に示される塩基配列(5'- AGTTTGCGCGATAGTGGCTGTA -3'(Adkm-R1))からなるオリゴヌクレオチドである第2のプライマーからなる。
【0018】
上記において、第1のプライマーは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)等の核酸増幅反応においてフォワードプライマーとして使用でき、第2のプライマーは、核酸増幅反応において第1のプライマーと組み合わせるリバースプライマーとして使用できる。
【0019】
また、本発明のプライマーセットには、A型遺伝子群を増幅可能な、配列番号1及び配列番号2に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア、B型遺伝子群を増幅可能な、配列番号3及び配列番号4に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア、C型遺伝子群を増幅可能な、配列番号5及び配列番号6若しくは7に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペアが包含される。
【0020】
本発明において、配列番号1〜7に示される塩基配列や当該塩基配列に対応する相補的配列は、1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列、又は配列番号1〜7の塩基配列や当該塩基配列に対応する相補的配列に対して90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、配列番号1〜7に示される塩基配列又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドと其々プライマーとして同等の機能を有するオリゴヌクレオチドは、配列番号1〜7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同等に扱われる。
【0021】
本発明のオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。
【0022】
斯かるa)〜c)の3種のプライマーセットを用いたTHD−エコール変換酵素遺伝子の検出は、被験者由来の検体より抽出したDNAを鋳型とし、上記のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行う工程と、核酸増幅反応により得られた増幅産物を検出する工程を行うことによりなされる。
【0023】
THD−エコール変換酵素遺伝子を検出するための被験者由来の検体は、被験者の腸内細菌が含まれる検体、例えば、糞便や腸管内容物等が挙げられるが、採取容易性の点から糞便を用いるのが好ましい。
【0024】
糞便からのDNAの抽出は、従来のゲノムDNAの調製の場合と同様の手法により行うことができるが、例えば、被験者由来の検体の全部又は一部から、必要に応じて、抽出・分離・精製方法により前処理を行ったのち、適宜公知の方法により取得することができる。すなわち、ろ過、遠心分離、クロマトグラフィー等の公知の方法による前処理を行ったのち、例えば、「ガラスビーズ等の存在下で撹拌する物理的破砕法」、「CTAB法」、「フェノールクロロホルム法(PC法)」、「磁気ビーズ法」、「シリカカラム法」等の汎用法、あるいはこれらを組み合わせた手法を用いた抽出により得ることができる。PCRによる高い検出感度を得るためには、高濃度なDNAを取得することが望ましく、一方で、被験者由来の検体、例えば、糞便からの核酸抽出液中にはPCRを阻害する物質が混在するため、これら阻害物質を可能な限り除去した高純度なDNAを取得することが望ましい。この目的のため、特に、高濃度かつ高純度のDNAが抽出できるFastDNA SPIN Kit for Feces (MP Biomedicals)を用いることが好ましい。
【0025】
核酸増幅法としては、特に限定されないが、PCR法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。例えば、PCR法、LAMP(Loop-mediated isothermal AMPlification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等を挙げることができる。
【0026】
また、核酸増幅反応後の増幅産物の検出には、増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、得られたDNAを電気泳動することでバンドの有無からTHD−エコール変換酵素遺伝子を特異的に検出することができる。また、吸光度を測定することでもTHD−エコール変換酵素遺伝子を特異的に検出することができる。さらに、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質等の標識体を作用させ、この標識体を検出することもできる。標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ−カウンター等により計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダー等を用いて検出することができる。
【0027】
本発明においては、核酸増幅法として、PCRの増幅量をリアルタイムでモニターし解析するリアルタイムPCRを用いるのが迅速性と定量性の点から好ましい。また、リアルタイムPCRとしては、当技術分野で通常用いられる方法、例えばTaqManプローブ法、インターカレーター法及びサイクリングプローブ法等を採用することができる。
【0028】
PCRの条件は、特に限定されず、PCR装置毎に最適条件を定めればよいが、例えば、以下の条件が挙げられる。
1)2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性:通常93〜95℃程度で、通常10秒間〜5分間程度加熱する。
2)アニーリング:通常50〜60℃程度で、通常10秒間〜1分間程度加熱する。
3)DNA伸長反応:通常70〜74℃程度で、通常30秒間〜5分間程度加熱する。
ここで、アニーリングとDNA伸長反応は分けずに同時に行うことも可能である。
上記1)〜3)の反応を、通常30〜50サイクル程度行うことにより、目的のTHD−エコール変換酵素遺伝子を検出可能な程度に増幅することができる。
このようなPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。また、リアルタイムPCRは、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCR専用の装置、例えば、ABI PRISM 7900HT sequence detection system (Applied Biosystems)を用いて行うことができる。
【0029】
また、DNA量の測定は、まず、濃度既知の標準DNA溶液を段階希釈したものをPCRに供試し、この初発のDNA量を横軸に、それを鋳型としたPCRの増幅産物量が一定量に到達するときのサイクル数(threshold cycle;CT値)を縦軸にプロットし、標準曲線を作成する。未知濃度の試料についても、同じ条件下で反応を行い、CT値を求め、この値と標準曲線から、試料中の目的のDNA量を求めることにより行うことができる。
【0030】
本発明のa)〜c)の3種のプライマーセットは、被験者のエコール産生能をより簡便に測定するためにキット化することもできる。本発明のキットは、当該a)〜c)の3種のプライマーセットを含むものであればよいが、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、反応の陽性コントロールとなるPCR増幅領域を含むDNA溶液、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、実施方法を記載した説明書などを含んでいてもよい。なお、キット中に含まれていてもよい試薬は溶液でも凍結乾燥物でもよい。
【0031】
斯くして、本発明の方法によれば、被験者の腸内細菌に由来するTHD−エコール変換酵素遺伝子を網羅的に検出することができ、これにより、被験者がエコール産生者であるか否かを高い確率で測定することができる。
【実施例】
【0032】
実施例1 ヒト由来エコール産生菌のTHD−エコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーの設計
ダイゼインの代謝によるエコール産生経路を図1に示した。エコール産生菌の検出が可能なプライマーとして、3タイプのエコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーをタイプごとに作成した。
【0033】
(1)材料
(a)使用菌株
株式会社ヤクルト本社中央研究所にて保存していた、表1に示す菌株を使用した。各菌株の初発菌数は、1×105cells程度となるように調整した。
各菌株の培養条件を表1に示した。培養条件A及びBの詳細は以下の通りである。
条件A:1% Glucoseを添加した変法GAM寒天培地 (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。その後、寒天培地上のコロニーを変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて回収した。
条件B:0.5% Glucose, 0.1% Cellobiose, 0.1% Maltoseおよび0.1% Starchを添加した変法GAMブイヨン(Nissui)を用いて、37 ℃、48時間、嫌気条件下で培養した。
条件C:Willkins-Chalgren Anaerobe brothを用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
これらの菌液について、DAPI法(J. Microbiol. Methods 37, 215-221)により菌数測定を行い、この菌数に基づき109cells/mlとなるように調製した。これを各菌株の純培養菌液とした。
【0034】
【表1】
【0035】
(2)方法
プライマーの作成に先だち、表2に示したエコール産生菌が有するTHD−エコール変換酵素遺伝子情報を基にClustal Xソフトウェアにて分子系統解析を行ったところ、3種のタイプが存在することを見出した。そこで、それぞれのTHD−エコール変換酵素遺伝子をA型遺伝子群、B型遺伝子群、C型遺伝子群として分類した(各菌株がいずれのタイプのTHD−エコール変換酵素遺伝子を有するかを表2に示した)。なお、表1のエコール産生菌のうち、MC6株は本発明者らが新たに単離・同定した菌である。
表2に示したエコール産生菌8株の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列について、タイプごとにClustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行い、得られた特異的な配列をもとに各タイプの遺伝子を標的としたプライマーを設計した。
なお、表2に示した8株の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列をタイプごとではなく一括でClustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行うことでプライマーの設計を試みたが、遺伝子配列の相同性が高い特異的な配列を見出すことができず、プライマーを作成することはできなかった。よって、プライマーの作成には、3種のタイプが存在することを見出すことが重要であったことが判明した。
【0036】
【表2】
【0037】
(3)結果
設計したプライマーの配列を表3に示す。なお、C型遺伝子群を標的としたプライマーのうち、C型遺伝子群−1は、表2中の菌番号4および5の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列について、Clustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行い、得られた特異的な配列をもとに設計したものであり、C型遺伝子群−2は、表2中の菌番号4〜6の有するTHD−エコール変換酵素遺伝子の配列について、Clustal Xソフトウェアを用いてアライメントを行い、得られた特異的な配列をもとに設計したものである。
【0038】
【表3】
【0039】
試験例1 THD−エコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーの特異性
(1)材料
(a)使用菌株
表1に記載した菌株に加え、株式会社ヤクルト本社中央研究所にて保存していた表4に示す菌株を使用した。各菌株の初発菌数は、1×105cells程度となるように調整した。
各菌株の培養条件を表4に示した。培養条件A〜Fの詳細は以下の通りである。
条件A:1% Glucoseを添加した変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件B:0.5% Glucoseを添加した変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件C:変法GAM ブイヨン(Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件D:1.5% Na-Lactateを添加した変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。
条件E:0.5% Glucose, 0.1% Cellobiose, 0.1% Maltoseおよび0.1% Starchを添加した変法GAMブイヨン(Nissui)を用いて、37 ℃、48時間、嫌気条件下で培養した。
条件F:1% Glucoseを添加した変法GAM寒天培地 (Nissui)を用いて、37℃、24時間、嫌気条件下で培養した。その後、寒天培地上のコロニーを変法GAM ブイヨン (Nissui)を用いて回収した。
これらの菌液について、DAPI法により菌数測定を行い、この菌数に基づき109cells/mLとなるように調製した。これを各菌株の純培養菌液とした。
【0040】
【表4】
【0041】
(2)方法
特異性検討は、表1および表4に示した腸内最優勢菌(No. 10〜21)、Coriobacteriaceaeに属する細菌(No. 22〜37)およびヒト由来エコール産生菌(No. 1〜7)を対象とした。
各菌株の純培養菌液から公知の方法(Appl. Environ. Microbiol. 70:167-73)にてDNAを抽出した後、定量的PCRを行うことでプライマーの特異性を検討した。
【0042】
定量的PCRに用いる標準曲線の作製方法を以下に示す。A型遺伝子群を標的としたプライマーの標準曲線を作製するために菌株としてSlackia sp. YIT 11861を使用した。同様に、B型遺伝子群を標的としたプライマーについてはSlackia equolifaciens DZE 、C型遺伝子群−1および−2を標的としたプライマーについてはAdlercreutzia equolifaciens DSM19450Tを使用した。各菌株の純培養菌液から抽出したDNAを鋳型とし、表3に示したプライマーを用いてPCRを行った。これらの増幅産物をPCR Product Purification Kit (Roche)を用いて精製し、このDNAについてLife Science UV/Vis Spectrophotometer DU730 (BECKMAN COULTER)を用いて吸光度(A. 280 nm)を測定し、その値から重量を算出した。DNA重量と増幅産物の1モルあたりの分子量からコピー数を計算した。コピー数が2 × 108 copy numbers /mLとなるように、精製DNAをTE buffer (pH 8.0)で希釈した。
【0043】
コピー数が2 × 108 copy numbers /mLのDNA溶液を原液として、TE buffer (pH 8.0)にて10倍段階希釈を行った。そのうち、1反応あたりコピー数が100〜105 copy numbersとなるように5 μLの希釈DNAを定量的PCRに供した。定量的PCRの条件を以下に示す。定量的PCRには、Ampdiret plus (SHIMADZU)を用いた。反応液組成は、Ampdirect plus 10 μL、300倍希釈したSYBR Green 1 (LONZA) 0.08μL、ROX Reference Dye (Invitrogen) 0.4 μL、50 μM Primer 1および2 各0.08 μL、rTaq (TaKaRa Bio.) 0.08 μL、Taq start antibody (Clontech) 0.1 μL、上述の希釈DNA溶液 5 μLとし、最後にNFWで液量を20 μLとした。PCRは、94 ℃5分、94 ℃20秒、60 ℃20秒、72 ℃50秒を45サイクルで行った。定量的PCR で得られたCT値を縦軸に、対応する1反応あたりのコピー数を横軸にプロットし標準曲線を作成した。
【0044】
表1および表4に示した各菌株の純培養菌液から抽出したDNAをPCR一反応あたり106 copy numbers供試した。各菌株の純培養菌液から抽出したDNAを鋳型として得られたCT値を標準曲線に代入し、コピー数が105 copy numbers以上のものを陽性 (+)、101 copy numbers以下のものを陰性 (-)、101 - 105 copy numbersのものを(±)と判定した。
【0045】
(3)結果
特異性の結果を表5に示す。C型遺伝子群−1検出用プライマーでは、C型遺伝子を有する菌番号6のDNAに対する増幅は確認されなかったが、それ以外のプライマーでは、標的のタイプのエコール産生菌のDNAに対して増幅が確認された。また、設計したいずれのプライマーにおいても、腸内最優勢菌(No. 10〜21)、Coriobacteriaceaeに属する細菌(No. 22〜37)及び標的のタイプ以外のエコール産生菌のDNAに対する増幅は確認されなかった。よって、各プライマーとも高い特異性を有するが、C型遺伝子群検出用プライマーとしては、C型遺伝子群−1検出用プライマーと比較して、C型遺伝子群−2検出用プライマーがより特異性が高く、好ましいことが判明した。
【0046】
【表5】
【0047】
試験例2 THD−エコール変換酵素遺伝子を標的としたプライマーの定量性
(1)方法
定量的PCRに用いる標準曲線は、試験例1で作成したものと同等に作成して使用した。また、定量的PCRの条件も試験例1に記載した方法と同様に行い、各プライマーの標準曲線を作成した。
【0048】
(2)結果
いずれのプライマーにおいても、PCR一反応当たり100 〜105 copy numbersの範囲で直線性の高い標準曲線が得られた(図2)。これは、糞便1gあたりに換算すると、103 copy numbersまで検出可能であると推定された。
【0049】
実施例2 糞便からのTHD−エコール変換酵素遺伝子の検出−1
(1)方法
(a)糞便からのエコール変換酵素遺伝子の検出
健常成人25名に対して試験を行った。被験者は、1日目の夕食時に豆乳飲料(200mLあたりイソフラボン約40mg含有)を1本飲用し、2日目に糞便を提出した。集められた20mgの糞便より、公知の方法(Appl. Environ. Microbiol. 70:167-73)に従ってDNA抽出を行い、得られたDNAを100μLのTE bufferを用いて溶解した。
表3に示した3種のプライマーセットを用いて(C型遺伝子群については、C型遺伝子群−1を使用)、試験例1及び試験例2と同様の方法でPCRを行い、糞便中のエコール変換酵素遺伝子の検出、定量を行った。
(b)尿中エコール濃度の測定
健常成人25名の被験者は、1日目の夕食時に豆乳飲料(200mLあたりイソフラボン約40mg含有)を1本飲用し、2日目に一番尿を提出した。集められた尿を、4000 IU /mLのβ-glucuronidase (Sigma-Aldrich Japan)溶液と1:1 (v/v)で混合し、37℃、24時間、脱抱合反応を行った後、この反応液に4倍量のメタノールを添加した。この溶液をセントリカット超ミニ (W-MO, クラボウ)を用いてフィルター濾過したものを、LC/MS分析用の尿サンプルとした。
尿サンプルの測定には、液体クロマトグラフ質量分析 (LC/MS)を用いた。測定機器には質量検出器ZQ 4000、アライアンスHPLCシステム、フォトダイオードアレイ検出器 (日本ウォーターズ)を用いた。分離カラムにはCadenzaCD-C18 3 μL (内径:3.0 mm,長さ:75 mm, インタクト)を、移動相には0.1%ギ酸およびアセトニトリル混液を用いた。エコールの定量には、Waters Empower 2ソフトウエア (日本ウォーターズ)を用いた。
【0050】
(2)結果
25名中15名でA型〜C型の3種類のうちいずれかのタイプのTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出された(表6)。いずれかのTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出された15名は尿中エコール濃度よりエコール産生者であることが確認されており、これら3種のプライマーセットを用いることで被験者の糞便からTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出でき、かつ、エコール産生能を有しているかを測定することができることが判明した。
【0051】
【表6】
【0052】
実施例3 糞便からのエコール変換酵素遺伝子の検出−2
(1)方法
健常成人35名に対して試験を行った。表3に示した3種のプライマーセットを用いて(C型遺伝子群については、C型遺伝子群−1及び−2の両方を使用)、試験例1及び試験例2と同様の方法でPCRを行い、糞便中のエコール変換酵素遺伝子の検出、定量を行った。被験者は、1日目の夕食時に豆乳飲料(200mLあたりイソフラボン約40mg含有)を1本飲用し、2日目に1番尿及び糞便を提出した。それぞれ尿をエコール濃度の解析に、糞便をエコール変換酵素遺伝子数の検出及び定量に用いた。
尿サンプルの調製は試験例2と同様の方法で行った。
【0053】
尿中エコール濃度の測定は、試験例1及び試験例2と同様の方法で行った。
【0054】
(2)結果
表3に示したA型遺伝子群検出用プライマー、B型遺伝子群検出用プライマー、C型遺伝子群遺伝子検出用プライマー(C型遺伝子群−1及びC型遺伝子群−2)の各プライマーを用いて、健常成人35名の糞便DNAの解析を行った。35名中13名でA型〜C型の3種類のうちいずれかのタイプのTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出された(表7)。いずれかのエコール変換酵素遺伝子が検出された13名は尿中エコール濃度よりTHD−エコール産生者であることが確認されており、本試験からもこれら3種のプライマーセット(C型遺伝子群については、C型遺伝子群−1又は−2のいずれか)を用いることで被験者の糞便からTHD−エコール変換酵素遺伝子が検出でき、かつ、エコール産生能を有しているかを判定することができることが判明した。
【0055】
【表7】
【0056】
参考例 A型遺伝子群検出用プライマーの検証
(1)方法
実施例1のA型遺伝子群検出用プライマーについて、Slackia sp. YIT 11861及びSlackia isoflavoniconvertens HE8の2株が有するTHD-エコール変換酵素遺伝子の配列を基に(即ち、Slackia sp. MC6が有するTHD-エコール変換酵素遺伝子の配列を考慮せずに)、当該プライマー(表8、SL-F1及びSL-R1)を作成した。
作成したプライマー(SL-F1及びSL-R1)と表3記載のA型遺伝子群検出用プライマー(SL-F2及びSL-R2)を使用して、実施例2に記載した25名のヒト糞便について実施例2と同様の方法でPCRを行い、糞便からのTHD-エコール変換酵素遺伝子の検出行った。
【0057】
【表8】
【0058】
(2)結果
被験者No.3は尿中エコール濃度が高く、エコール産生能を有するが、SL-F1及びSL-R1のプライマーでは、被験者No.3の糞便中のTHD-エコール変換酵素遺伝子を検出することができなかった(表9)。被験者No.3は、本発明のA型遺伝子群検出用プライマー(SL-F2及びSL-R2)を用いることでのみTHD-エコール変換酵素遺伝子が検出されている(表6)ため、A型遺伝子群検出用プライマーとしては、SL-F2及びSL-R2を用いることが必要であると言える。
【0059】
【表9】
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]