特許第6716618号(P6716618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716618
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】音波合成装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/32 20060101AFI20200622BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20200622BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20200622BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20200622BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   H04R1/32 310Z
   A61B5/11 100
   A61B5/113
   H04R1/40 310
   H04R1/02 101G
   H04R1/32 330
   H04R1/40 330
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-32156(P2018-32156)
(22)【出願日】2018年2月26日
(65)【公開番号】特開2019-149622(P2019-149622A)
(43)【公開日】2019年9月5日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108085
【氏名又は名称】セコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】今村 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】福士 和義
【審査官】 鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−147546(JP,A)
【文献】 特開2009−060198(JP,A)
【文献】 特開2000−308852(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0084624(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0172795(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00−1/40
A61B 5/11
A61B 5/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通する大径の基端開口部と小径の先端開口部を有し前記基端開口部に設けられるスピーカーから音波が導入される複数の指数ホーンと、
前記各指数ホーンの前記先端開口部に連通する共通の出力開口部と、
を有することを特徴とする音波合成装置。
【請求項2】
前記各指数ホーンの前記先端開口部と前記出力開口部を連通する複数の音導管を有することを特徴とする請求項1に記載の音波合成装置。
【請求項3】
複数のスピーカーと、
連通する大径の基端開口部と小径の先端開口部を有し前記各スピーカーが基端開口部に取り付けられた複数の指数ホーンと、
前記各指数ホーンの前記先端開口部に連通する共通の出力開口部と、
を有することを特徴とする音波合成装置。
【請求項4】
前記各指数ホーンの前記先端開口部と前記出力開口部を連通する複数の音導管を有することを特徴とする請求項3に記載の音波合成装置。
【請求項5】
前記指数ホーンの先端開口部、前記音導管の内壁及び前記出力開口部の軸線に直交する切断面の形状がそれぞれ円形であり、
前記先端開口部、前記内壁及び前記出力開口部の各周囲長が、それぞれ前記スピーカーが発する音波の波長より短く、かつ互いに等しいことを特徴とする請求項4に記載の音波合成装置。
【請求項6】
前記複数のスピーカーは、共通の配置平面内に配置されていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一つに記載の音波合成装置。
【請求項7】
前記配置平面と、前記配置平面に平行であって前記出力開口部を含む出力平面との距離が、形状基準値よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載の音波合成装置。
【請求項8】
前記配置平面と、前記配置平面に平行であって前記出力開口部を含む出力平面との距離が、形状基準値よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の音波合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスピーカーから出力される超音波等の音波を合成して放出できる音波合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭における居室、寝室等を監視空間とし、そこに存在する人等の検出対象物の存在や、検出対象物の動作の計測を行う技術分野においては、超音波を監視空間内に送信し、その受信波の時間変化を参照する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、ベッドに横たわる人の呼吸に伴う胸郭の動きを検出すべく、ベッドの真上にセンサーユニット(マイクとスピーカーを含む)を設置して鉛直下向きに超音波を送信し、受信波から動きを検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−193020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような超音波センサを用いて、部屋全体を検知範囲とするためには、超音波を部屋の隅々まで、かつムラが無いように伝搬させる必要がある。ところが超音波は、一般的に指向性が強く、スピーカーの正面付近では十分なパワーが得られるが、正面からずれると急速にパワーが減衰してしまうことが知られている。特許文献1の例では、ベッドを検知範囲としているため特に問題とはならないが、部屋全体を検知範囲とする場合には、天井に数多くのスピーカーを互いに離して万遍なく並べて設置する必要があり、例えば8畳の部屋では100個以上が必要となるため工事が大がかりとなって利用者にとっては受容性(受け入れ易さ)が低い。スピーカーを一箇所にまとめようと、スピーカーを半球面状の基台上に並べて部屋内の各部に向ける構造を採用することも考えられるが、その場合でも超音波の指向性が強いことに変わりは無く、パワーのムラが発生してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、以上説明した従来の技術における課題を解決することを目的としており、小型で合成時のパワーの減衰が少なく、方向に依らず均一に、複数のスピーカーからの音波を合成して放出できる音波合成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音波合成装置は、連通する大径の基端開口部と小径の先端開口部を有し前記基端開口部に設けられるスピーカーから音波が導入される複数の指数ホーンと、前記各指数ホーンの前記先端開口部に連通する共通の出力開口部と、を有することを特徴としている。
【0008】
本発明の音波合成装置は、さらに、上記各指数ホーンの前記先端開口部と前記出力開口部を連通する複数の音導管を有することを特徴としている。
【0009】
本発明の音波合成装置は、複数のスピーカーと、連通する大径の基端開口部と小径の先端開口部を有し前記各スピーカーが基端開口部に取り付けられた複数の指数ホーンと、前記各指数ホーンの前記先端開口部に連通する共通の出力開口部とを有することを特徴としている。
【0010】
本発明の音波合成装置は、さらに、上記各指数ホーンの前記先端開口部と前記出力開口部を連通する複数の音導管を有することを特徴としている。
【0011】
本発明の音波合成装置は、さらに、上記指数ホーンの先端開口部、前記音導管の内壁及び前記出力開口部の軸線に直交する切断面の形状がそれぞれ円形であり、前記先端開口部、前記内壁及び前記出力開口部の各周囲長が、それぞれ前記スピーカーが発する音波の波長より短く、かつ互いに等しいことを特徴としている。
【0012】
本発明の音波合成装置は、前記各音波合成装置において、前記複数のスピーカーが、共通の配置平面内に配置されていることを特徴としている。
【0013】
本発明の音波合成装置は、前記音波合成装置において、前記配置平面と、前記配置平面に平行であって前記出力開口部を含む出力平面との距離が、形状基準値よりも小さいことを特徴としている。
【0014】
本発明の音波合成装置は、前記音波合成装置において、前記配置平面と、前記配置平面に平行であって前記出力開口部を含む出力平面との距離が、形状基準値よりも大きいことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の音波合成装置によれば、各指数ホーンの各基端開口部に設けられるスピーカーから導入される音波を合成してホイヘンスの原理により一つの出力開口部から空間の全体に対して方向に依らず均一な音波を放出できる。このため、装置を小型化しつつ出力パワーと無指向性を確保できる。
【0016】
本発明の音波合成装置によれば、さらに各指数ホーンの先端開口部と出力開口部をそれぞれ音導管で連通させる構造とすることで、隣接する指数ホーンの配置に余裕ができるため、例えば音波源としてスピーカーを使用する場合には、隣接して設けるスピーカーの配置に余裕ができ、音導管を採用しない場合にくらべて、より大きいスピーカーを採用することができる。
【0017】
本発明の音波合成装置によれば、複数のスピーカーから出力された音波を合成してホイヘンスの原理により一つの出力開口部から空間の全体に対して方向に依らず均一な音波を放出できる。このため、装置を小型化しつつ出力パワーと無指向性を確保できる。
【0018】
本発明の音波合成装置によれば、さらに各指数ホーンの先端開口部と出力開口部をそれぞれ音導管で連通させる構造としたため、隣接するスピーカーの配置に余裕ができ、音導管を採用しない場合にくらべて、より大きいスピーカーを採用することができる。
【0019】
本発明の音波合成装置によれば、さらに指数ホーンの先端開口部、音導管の内壁及び出力開口部を何れも円形にして連続させたため、これら各部の接続部分には段差が生じず、音波の乱反射による性能劣化を防ぐことができる。また、前記各部の各周囲長をスピーカーが発する音波の波長より短くし、かつ互いに等しくしたため、出力開口部から放射される音波の無指向性を確実に得ることができる。
【0020】
本発明の音波合成装置によれば、前記各音波合成装置の効果に加え、複数のスピーカーを共通の配置平面内に配置するものとしたため、例えば、出力開口部を中心とした周状の配置で複数のスピーカーを並べることにより、審美性に優れ、コンパクトな外形状の装置とすることができる。
【0021】
本発明の音波合成装置によれば、前記音波合成装置の効果に加え、配置平面と出力開口部を含む出力平面との距離を、所定の形状基準値よりも小さく設定したため、音波合成装置を圧迫感のない薄い円盤形状とすることができる。このような形状の音波合成装置は、例えば部屋の天井に取り付けた場合、通常の火災報知機を想起させるため、利用者にとっては違和感が少ないため無理なく受容することができる。
【0022】
本発明の音波合成装置によれば、前記音波合成装置の効果に加え、配置平面と出力開口部を含む出力平面との距離を、所定の形状基準値よりも大きく設定したため、音波合成装置を全体として縦長の筒形状とすることができる。このような形状の音波合成装置は、設置場所や当該音波合成装置の用途等によっては、利用者にとって違和感が少なく無理なく受容することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】分図(a)は、第1実施形態の音波合成装置を出力開口部の側から見た斜視図、分図(b)は、同音波合成装置の正面図、分図(c)は、同音波合成装置の底面図、分図(d)は、分図(b)のA−A切断線における断面図である。
図2】第1実施形態の音波合成装置が有する指数ホーンの形状例と、説明の便宜のため同形状例における各部及び寸法を示す符号を付した模式図である。
図3】第1実施形態の音波合成装置で使用しているスピーカーを単独で用いた場合に放出される音波の指向性パターンを示す図である。
図4】第1実施形態の音波合成装置を用いた場合に放出される音波の指向性パターンを示す図である。
図5】第1実施形態の音波合成装置を用いた生体検知装置の構造図である。
図6】第2実施形態の音波合成装置の模式的な構造図である。
図7】第3実施形態の音波合成装置の模式的な構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1実施形態に係る音波合成装置100とその応用例を図1図5を参照して説明する。この音波合成装置100は、超音波を発生する複数個のスピーカー5を備えており、これらスピーカー5から送信される超音波を合成して単一の出力開口部1から送信することができる。
【0025】
図1(a)〜(d)は、音波合成装置100の外観及び構造を示す図である。図1では、複数のスピーカー5が各スピーカー取り付け孔2に取り付けられるとともに、各スピーカー5から送信される超音波を導く経路が内部に形成された基体10の外観と、その経路の内部構造を主として示している。スピーカー5は説明上必要な場合にのみ図示し、それ以外では省略している。またスピーカー5を制御するための各種回路類等も図示を省略している。
【0026】
まず、音波合成装置100の構造の大略を説明する。
図1(a)〜(d)に示すように、この音波合成装置100は、略円錐台形の基体10を有している。基体10の素材は、スピーカー5から必要なパワーで音波を送信する際、その振動の影響を受けない等、剛体とみなせるものであることが好ましい。例えばアルミで実現することができる。また、他にABSなどの硬い樹脂素材でも良い。
【0027】
基体10の周面には、等間隔で12個の取り付け孔2が形成されており、この中にはそれぞれ超音波スピーカー5(以下、単にスピーカー5と呼ぶ。)が取り付けられている。り付け孔2の内径はスピーカー5の音波放射面の外径に適合しており、スピーカー5の音波放射面は、取り付け孔2の奥側(基体10の内方)の開口部にはめ込まれて固定されている。
【0028】
基体10の底面の中央には1つの出力開口部1が形成されている。各取り付け孔2の奥側の開口には、指数ホーン4の大径部である基端開口部8が接続されている。各指数ホーン4の小径部である先端開口部7は、同一内径かつ同一長さである直円筒状の音導管(ダクト)3を介して出力開口部に接続されている。このように、音導管3と指数ホーン4は、各スピーカー5に共通の同一構造である。
【0029】
本実施形態では、指数ホーン4の先端開口部7、音導管3の内壁及び出力開口部1は、各々の軸線に直交する切断面の形状がそれぞれ円形である。また、指数ホーン4の先端開口部7、音導管3の内壁及び出力開口部1の各周囲長は、それぞれ音波の波長より短く、かつ互いに等しくなっている。周囲長について、「音波の波長より短」いとしたのは、無指向性を確保するためであり、また「等し」いとしたのは、等しくないと各部の接続部分で段差が出来てしまい、乱反射が起きて性能劣化につながるからである。
【0030】
なお、本実施形態では、複数のスピーカー5を併用するにあたり、パワー低下を招かず、音を集中させるために、長さが同一の音導管3を使用している。しかしながら、長さが同一の音導管3を使用することは必ずしも必要条件ではなく、複数の音導管3の長さが異なる構成とすることも可能である。そのような場合には、複数のスピーカー5からの音波を合成して出力開口部1から空間の全体に方向に依らず均一な音波を送信するために、音導管3の長さを音波の波長の整数倍とする等、音導管3の長さと波長に合わせて出力音波の位相を精密に制御する必要がある。従って、本実施形態のように、各音導管3の長さが揃っていれば、そのような精密な制御が不用になるという利点が得られる。
【0031】
次に、音波合成装置100の構造の詳細を説明する。
図1(b)に示すように、基体10の外形は、底面の直径2Rに対する高さHの寸法比が5割未満とされた相対的に平坦な略円錐台形である。この実施形態では、寸法比が3割程度の薄い円盤形となっている。
【0032】
図1(a)〜(c)に示すように、取り付け孔2は円柱形であって、基体10の側周面に等間隔で配置されている。従って図1(c)に示すように、隣接する取り付け孔2と取り付け孔2の周方向の角度間隔は30度となっている。
【0033】
図1(d)に示すように、取り付け孔2は、基体10の下面の中心(出力開口部1に相当する位置)に向けて水平面に対して傾斜角度αで傾斜して形成されている。基体10を相対的に薄型の略円錐台形、すなわち平坦形状とするには、傾斜角度αを形状基準値としての45度よりも小さく設定することが好ましい。この実施形態では、図1の各分図から理解されるように、傾斜角度α=15度程度とし、スピーカー5の大きさと出力開口部1との関係を考慮して各スピーカー5を等間隔で周状に並べ、音波合成装置100全体をなるべく薄い円盤状にしている。
【0034】
このように全体を出来るだけ薄い円盤形状又は平坦形状とすれば、見栄えも良く、例えば天井に取り付けた場合、通常の火災報知機を想起する形状となるため、利用者にとっては違和感が少なく受容性が高まると考えられる。なお、後述する第2実施形態のように、第1実施形態のような平坦な円盤状とは異なる縦長の筒状にする方が良いとの要求がある場合には、傾斜角度αを形状基準値としての45度よりも大きく設定すればよい。
【0035】
図1(b)及び(d)に示すように、各スピーカー5の後面の中心(取り付け孔2の表側の開口の中心に相当する位置)を通過する平面を仮想し、これをスピーカー5が配置されている平面であることから配置平面S1と称する。また、配置平面S1に平行であって出力開口部1を含む平面を出力平面S2と称する。そして、配置平面S1と出力平面S2との距離をL1と称する。図1(d)を参照して先に説明したように、傾斜角度αの形状基準値は45度であり、基体10が平坦であるための条件は、傾斜角度αが45度未満であることである。また、距離L1の形状基準値は1.0Rであり、基体10が平坦であるための条件は、距離L1が1.0R未満であることである。この実施形態では、傾斜角度α=15度程度であるから、距離L1は約0.268Rとなっている。
なお、底面の直径2Rに対する高さHの寸法比を形状の指標とした場合の形状基準値は5割とすることができ、この実施形態では寸法比は3割程度であるため形状基準値を下回っている。
【0036】
図1(a)に示す出力開口部1は、合成された超音波を検知範囲である部屋全体に送信するための開口である。本実施形態では、出力開口部1から送信される超音波が十分なパワーを保持しつつ無指向性も併せ持つように、指数ホーン4、音導管3及び出力開口部1は以下のように構成されている。
【0037】
まず出力開口部1は、超音波に無指向性を持たせるために、以下に説明する条件を満たすような形状とする。
一般に、円形のスピーカーから音波を発する際に、その音波を距離に応じて広がりを有さない平面波とするためには、以下の関係式を満たせばよいことが知られている。
【0038】
2πr≧c/fc =λ …(1)
但し、r:スピーカーの半径、c:音速、fc :周波数、λ:波長
【0039】
平面波は、距離に応じて広がらないため、強い指向性を有する。
そこで本実施形態では(1)式の条件を敢えて満たさないこととする。即ち、
2πr<c/fc =λ …(2)
【0040】
(2)式からわかるように、スピーカーの外周長が波長よりも短ければ、送信される音波は指向性を有さないことになる。これを本実施形態に即して説明すれば、超音波の波長よりも出力開口部1の外周長が短ければ指向性を有さないことになる。
【0041】
例えば、詳細は後述するが、用いる超音波の周波数を30[kHz]、音速を340[m/s]とすると、出力開口部1の半径rは約1.8[mm]となる。
【0042】
次に指数ホーン4について説明する。
指数ホーン4は、スピーカー5の音波放射面の直径と、出力開口部1の内径との差を解消するために設けられる。スピーカー5の音波放射面の外周形状と、音導管3の内周形状と、出力開口部1の内周形状が一致している場合には、スピーカー5の振動板の発生する平面波は出力開口部1まで平面波のまま到達する。しかし、本実施形態のように、スピーカー5の音波放射面と音導管3の形状が一致しない場合には、不一致の形状を連続させるために、この接合部分を適切な形状のホーンで構成する。ここで、ホーンの形状を適切に設計しないと、音波はホーン内を伝搬する間に反射や干渉によって減衰する。そこで、本実施形態では、ホーンを、最適なエクスポネンシャルカーブ曲面を持った指数ホーン4(エクスポネンシャルホーン)として設計することにより、減衰の影響を最小化することとした。指数ホーン4は、平面波を崩さずに伝搬できる形状として広く知られているホーンであり、次に図2を用いてその形状の決定方法を説明する。
【0043】
図2は、指数ホーン4の形状例と、その各部を示す符号を示した模式図である。
図2における符号7が音導管3(図1(d)参照)に接続される先端開口部7であり、符号8がスピーカー5の側の基端開口部8である。図2からわかるように、スピーカー5の側から見ると、指数ホーン4は先端開口部7に向かって先細りの形状となっている。また中心軸に直交する切断面で切断した横断面形状は円形である。
【0044】
先端開口部7の半径をr0 、面積をS0 (=πr0 2 )とし、スピーカー5の基端開口部8の半径をr1 、面積をS1 (=πr1 2 )とし、指数ホーン4の中心軸方向の長さをxとする。
図2からわかるように、中心軸を含む中心軸に平行な切断面で切断した縦断面において符号6で示す曲線が指数曲線(エクスポネンシャルカーブ)であり、以下の式に基づいて設計できる。
1 =S0 mx …(3)
ここで、
m=(4πfc )/c=4π/λ …(4)
(3)、(4)式から
x=(1/m)ln{(r0 /r1 2 }…(5)
となる。よって使用周波数fc 、先端開口部7の半径r0 、基端開口部8の半径r1 が決まると、指数ホーン4の長さxが決まる。例えば使用周波数fc を30[kHz]、先端開口部7の半径r0 を1.8[mm]、基端開口部8の半径r1 を8.1[mm]とすると、xは4.74[mm]となる。
【0045】
図1(c)に示すように、本実施形態では、出力開口部1から送信される超音波のパワーを高めるために、各スピーカー5とは反対側にある複数の音導管3の各先端を、出力開口部1に集中させるように配置している。そして、スピーカー5、指数ホーン4、音導管3の組は全部で12あり、これらを同一の配置平面S1内に並べている。しかしながら、この12という数は一例であり、音導管3を長くすれば物理的にスピーカー5が出力開口部1から離れ、スピーカー5どうしの間隔も離れるため、スピーカー5の数をもっと多くすることができる。当然その分音波合成装置100全体の大きさが大きくなるので、必要な送信パワーと受容性との関係を考慮して適宜数を調整する。
【0046】
各スピーカー5から送出した音波が、指数ホーン4、音導管3と伝搬して出力開口部1に到達した際に位相が揃っていれば、出力開口部1で合成されたときにパワーを最大に出来る。従って、複数の音導管3の長さが違っていたとしても、その長さの違いが使用する音の波長の整数倍であればパワーを最大に出来るが、スピーカー5から出力する音波の周波数を変化させてもパワーを最大に出来るよう、複数の音導管3の長さは一定に揃えておく方が好ましい。本実施形態では全て同じく30[mm]としている。
【0047】
本実施形態の音波合成装置100の効果について説明する。
図3は、本実施形態の音波合成装置100で使用しているスピーカー5を1個のみを用い、30[kHz]の超音波を送信したときに、1mの位置での指向特性(指向性パターン)を示す図である。この例では、スピーカー5の前方1mの位置では108dBの音圧が得られるが、指向性は狭く(指向性角度±30度)最大音圧は正面のみとなっている。
【0048】
図4は、本実施形態の音波合成装置100を用い、同じく30[kHz]の超音波を送信した時の指向特性を示している。出力開口部1から前方1mの位置における音圧は107dBである。本実施形態では、音圧自体は図3に示したスピーカー5が1つの場合と変わらないが、図4からわかるように、概ね指向性がなく(ほぼ無指向性)、最大音圧がいたるところで得られる。
【0049】
以上説明した第1実施形態に係る音波合成装置100の応用例を図5を参照して説明する。
図5は、第1実施形態の平坦型の音波合成装置100を、生体検知装置の音源に適用した場合の模式図を示す。図5中には、監視空間である部屋の中を歩く人の他に、ベッドに横たわる人が示されている。この生体検知装置は、音波合成装置100の出力開口部1から出力された音波の反射波を入力する入力部と、反射波を処理して監視空間における生体の存在と活動状況を判定する処理部と、生体が存在しているにも関わらず当該生体の活動が検出されなかった場合に外部に警報信号を出力する出力部とを備えている。
【0050】
天井に設置された音波合成装置100から送信された超音波は、監視対象としている所定領域内に超音波を無指向に、即ち理想的な点音源からの放射として幅広い領域に送信することができる。この超音波は、歩く人やベッドに横たわる人に反射し、マイク101で受信される。そして、受信波の時間変化を参照して、大きな動きが検知された場合には歩く人が存在するものと判定し、わずかに動く人が検知された場合には人がベッドに横たわり呼吸をしている状態であると判定する。そして、呼吸をしていると判定される状態が続いた後に、呼吸に伴う動きが検出されなくなった場合には、直ちに外部の警備センターなどに通報する。これらのデータ処理手法及び処理済みデータを用いた判断手法等については、特開2016−193020号に開示されている公知の方法を準えれば良いので、詳細は省略する。
【0051】
第1実施形態の音波合成装置100の応用例として、生体検知装置を説明したが、応用例はこれに限らない。例えば、音波合成装置100が送信する超音波に目的に応じた種々の情報をのせて発信するものとすれば、適切な受信端末を所持しており、超音波が方向に依らず均一に到達する所定領域内に存在する者であれば、だれでも確実に当該超音波を受信し、そこに含まれる情報を取得することができる。このように、第1実施形態の音波合成装置100は、情報発信装置(超音波送信機)として使用することもできる。
【0052】
なお、第1実施形態では、図1(c)に示すように、隣接する取り付け孔2及び音導管3の各中心軸の交差角度を30度に揃えて12個のスピーカー5を同一の配置平面S1内に密に配置していた。しかしながら、互いに平行な2以上の配置平面S1を設け、各配置平面S1内にそれぞれ任意個数(例えば6個ずつ)のスピーカーを配置してもよい。この場合、傾斜角度αは2種類となる。すなわち、配置平面S1及び傾斜角度αは必ずしも一つでなくてもよい。
更には、配置平面S1に余裕があるならば交差角度を揃えなくてもよい。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態に係る音波合成装置200を図6を参照して説明する。第1実施形態と同一の構成部分には、第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。先に説明した第1実施形態では、音波合成装置100の全体が平坦な円盤状になることを企図して、図1に示すようにスピーカー5や音導管3を単一の配置平面S1内に並べ、傾斜角度αや距離L1が形状基準値を下回ることを条件とした。これに対し、図6に示す第2実施形態は、音波合成装置200の全体を縦長の筒状にしたいとの要求に応えるものであって、傾斜角度αや距離L1が形状基準値を越えることを条件とするものである。なお、図6ではスピーカー5は図示を省略している。
【0054】
図6では、出力開口部1に集中するように同じ長さの音導管3を用いて指数ホーン4を並べている。図6では、指数ホーン4及び音導管3は2組のみであるが、物理的に並べることが出来るスペースがあるのであれば、3以上の指数ホーン4及び音導管3等を並べ、音波合成装置200の全体を縦長の筒状とすることができる。このようにスピーカー5側が拡がった縦長の筒形状は花束を連想させるため、設置場所や設置目的によっては、第1実施形態の円盤形状より適している場合も考えられる。
【0055】
音波合成装置200によれば、スピーカー5が並ぶ配置平面S1と、配置平面S1に平行であって出力開口部1を含む出力平面S2との距離L1が、形状基準値よりも大きい。具体的には、第1実施形態における基体10の出力平面S2の直径2Rが、第2実施形態における2つのスピーカー5,5の最大幅L3に相当するとした場合、距離L1の形状基準値は、0.5L3となるから、音波合成装置200を縦長の筒状とするための条件は、距離L1が形状基準値0.5L3以上となることである。第2実施形態において、第1実施形態の傾斜角度αを、音導管3の軸線と出力平面S2が交差する角度であるとした場合、傾斜角度αの形状基準値は45度であるから、音波合成装置200を縦長の筒状とするための条件は、傾斜角度αが45度以上となることである。
【0056】
次に、本発明の第3実施形態に係る音波合成装置300を図7を参照して説明する。
図7に示す第3実施形態は、第1実施形態で一つの指数ホーン4に設けていた1つのスピーカー5を、より小さな小型スピーカー5の集まりで構成したものである。この構造により各スピーカー5から指数ホーン4へ放射される音波の平面波性を高めることができる。
【0057】
図7に示すように、この音波合成装置300によれば、単一の指数ホーン4の基端開口部8に複数の同一のスピーカー5(図示例では12個)を密に配置し、指数ホーン4の先端開口部7を装置全体の出力開口部1としている。第3実施形態によれば、第1実施形態と異なり、スピーカー5とスピーカー5の間に隙間があるため、ここに音波が回り込んで干渉などが起きる可能性があるため、常に12個分の総和のパワーを得られるとは限らない。しかしながら、多少なりとも音波の減衰を許容できる条件下では、音導管3の省略や製造の容易性などによる製造コストの節減を考慮すれば、この形態を採用することで一定の効果を得ることができる。
さらにはスピーカーをそれぞれ同一にせず、大きいスピーカーの周りに小さいスピーカーを取り囲むように配置してもよい。
【0058】
なお、以上説明した各実施形態で使用する指数ホーン4において、指数曲線(エクスポネンシャルカーブ)を複数の直線で近似し、指数ホーン4の曲面を複数の円錐面で近似しても構わない。このようにすることで、指数ホーン4の製作加工が簡略化でき、製造コストを低減することができる。なお、このように指数曲面を円錐面で近似したホーンを使用した場合には、出力開口部1から出力される超音波の音圧は、指数ホーン4を使用した場合に比べて若干低下する場合も考えられる。しかしながら、使用目的又は応用例によっては、製造コスト低減の効果が得られることを考慮すれば、指数ホーン4の場合より若干低減した音圧でも十分であるという場合も考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1…出力開口部
2…取り付け孔
3…音導管
4…指数ホーン
5…スピーカー
6…指数曲線
7…先端開口部
8…基端開口部
10…基体
100,200,300…超音波合成装置
S1…配置平面
S2…出力平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7