特許第6716621号(P6716621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716621
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】物体判定装置及びセンサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/10 20060101AFI20200622BHJP
   G01S 15/88 20060101ALI20200622BHJP
   G01S 7/527 20060101ALI20200622BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   G01S15/10
   G01S15/88
   G01S7/527
   A61B5/113
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-41018(P2018-41018)
(22)【出願日】2018年3月7日
(65)【公開番号】特開2019-158365(P2019-158365A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108085
【氏名又は名称】セコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】橋本 憲太朗
【審査官】 東 治企
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−007518(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/033436(WO,A1)
【文献】 特開平01−237483(JP,A)
【文献】 特開平08−194058(JP,A)
【文献】 特開2012−117964(JP,A)
【文献】 特開2004−239729(JP,A)
【文献】 特開2016−193020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−7/64
G01S 13/00−17/95
A61B 5/00−5/22
A61B 8/00−8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に向けて送信波を間欠的に送波する送波部と、
前記物体において反射した反射波を受波する受波部と、
前記反射波に基づく反射波データのそれぞれから前記物体からの反射に対応する部分波形データを抽出する部分データ抽出部と、
一の前記送信波に対する反射波から3以上の前記部分波形データが抽出されると、該部分波形データ同士の位相特性の差を3以上の前記部分波形データの組み合わせについて求め、それぞれの組み合わせに関する前記差の時間変化が検出対象となる変位に基づいて設定された閾値以上と当該閾値未満に分かれたときに、前記時間変化が前記閾値未満の前記差を有する前記部分波形データを静止物体に対応すると判定する物体判定部と、
を有することを特徴とする物体判定装置。
【請求項2】
前記物体判定部は、
前記位相特性からさらに群遅延を求め、前記差を前記部分波形データ同士の群遅延の差とすることを特徴とした請求項1に記載の物体判定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物体判定装置を有し、対象物体の前記変位を検出するセンサ装置であって、
前記センサ装置は、
前記物体判定装置の前記物体判定部が静止物体に対応すると判定した前記部分波形データの位相特性について一の前記送信波に対する当該部分波形データの位相特性と他の前記送信波に対する当該部分波形データの位相特性との差から当該他の前記送信波に対する前記反射波データの周波数特性を補正する補正部と、
複数の前記補正後の前記反射波データそれぞれの周波数特性から補正反射波データを求め、複数の前記補正反射波データの時間変化に基づき前記対象物体の変位情報を算出する変位情報算出部と、
前記変位情報を外部装置に出力する出力部と
を有することを特徴とするセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置の設置環境から伝わる微小な振動の影響を排除するために観察空間内に存在する静止していると仮定できる物体を判別する物体判定装置及び該装置を備えたセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、その音響特性を利用して反射物体の検出や状態判定に適していることが知られている。
【0003】
下記特許文献1には、超音波を出力してから反射波を受波するまでの時間から反射体の微小な変動を捉えて、例えば人体の呼吸などによる微動を検出する超音波センサについて開示されている。この超音波センサは、超音波としてパルス変調波(例えば8[kHz]帯域幅の変調波)を利用し、反射波の波形の時間変動から胸郭の動きを具体的な距離の変化として検出することで微動の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−193020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に開示されるような微動センシング技術においては、壁や天井などから伝わる振動によりセンサユニット自体が振動し、その精度が劣化することがある。
【0006】
センサユニット自体の振動は目視確認できないほどの微細なもの(例えば振幅1[mm]未満、周期1[Hz]前後)であるが、何らかの固定手段を用いてもその振動抑制は不可避である。このような微細な振動は、反射体(対象物体)が生体・非生体に拘わらず、反射波の波形の時間変動として現れてしまい微動検出の誤差の原因となりかねない。つまり、センサユニット自体が振動の影響を受けてしまうと、対象物体の微動を捉えて正確に判断することは非常に困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、静止していることが仮定できる物体を別途手動設定して、その物体からの反射波成分を基準に反射波全体を時間方向に揃えて微動を検出することも考えられる。しかし、その設定には利用者の負担が大きく、室内の家具などのレイアウトが変更されると、その都度再設定しなければならず、より一層負担を強いられるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、人などの対象物体の微小な変位を検出する装置に壁や天井などから伝わる微細な振動の影響を排除するために要する物体であって、静止していると仮定できる物体を自動的に判別することができる物体判定装置及び該装置を備えたセンサ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る物体判定装置は、物体に向けて送信波を間欠的に送波する送波部と、
前記物体において反射した反射波を受波する受波部と、
前記反射波に基づく反射波データのそれぞれから前記物体からの反射に対応する部分波形データを抽出する部分データ抽出部と、
一の前記送信波に対する反射波から3以上の前記部分波形データが抽出されると、該部分波形データ同士の位相特性の差を3以上の前記部分波形データの組み合わせについて求め、それぞれの組み合わせに関する前記差の時間変化が検出対象となる変位に基づいて設定された閾値以上と当該閾値未満に分かれたときに、前記時間変化が前記閾値未満の前記差を有する前記部分波形データを静止物体に対応すると判定する物体判定部と、
を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る物体判定装置において、前記物体判定部は、
前記位相特性からさらに群遅延を求め、前記差を前記部分波形データ同士の群遅延の差とするようにしてもよい。
【0011】
また、本発明に係るセンサ装置は、上述した物体判定装置を有し、対象物体の前記変位を検出するセンサ装置であって、
前記センサ装置は、
前記物体判定装置の前記物体判定部が静止物体に対応すると判定した前記部分波形データの位相特性について一の前記送信波に対する当該部分波形データの位相特性と他の前記送信波に対する当該部分波形データの位相特性との差から当該他の前記送信波に対する前記反射波データの周波数特性を補正する補正部と、
複数の前記補正後の前記反射波データそれぞれの周波数特性から補正反射波データを求め、複数の前記補正反射波データの時間変化に基づき前記対象物体の変位情報を算出する変位情報算出部と、
前記変位情報を外部装置に出力する出力部と
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の物体判定装置によれば、対象物体の微小な変位を検出する装置に壁や天井などから伝わる振動の影響を排除するために要する物体であって、静止していると仮定できる物体を自動的に判定することができるため、利用者が静止物体を設定する手間を省くことができる。
【0013】
また、静止物体を判定する際に、部分波形データの位相特性をグラフ化すると実際には直線形状とならずに曲線形状となってしまうが、位相特性のグラフを最小2乗法により近似直線とする群遅延の差を用いることで、部分波形データ同士の時間変化の差を正確に求めることができる。よって、複数の物体の中から静止物体を確実に特定することができる。
【0014】
また、本発明のセンサ装置によれば、物体判定装置により判定された静止物体が受ける振動に基づきセンサ装置が設置される壁や天井などから伝わる振動によってセンサ装置自体が振動する影響を排除することができるため、必ずしも理想的な環境とはいえない場所であっても人体の呼吸に伴う胸郭の動きのような微小な変位を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)、(b)は本発明に係る変位判定システムの概要を示す概念図である。
図2】(a)はセンサユニットの機能ブロック図であり、(b)は復調波処理部の機能ブロック図である。
図3】送信波として送波される超音波(スイープ信号)の一例を示す波形図である。
図4】ある送波時刻を原点とした反射波を模式的に示した波形図である。
図5】異なる時刻で受波した反射波を復調した復調波を模式的に示した波形図である。
図6】初期設定部で実施される処理内容を示したフローチャートである。
図7】群遅延の概念を説明するための角周波数に対する位相特性のグラフである。
図8】受波した反射波の復調波データと波形補正部による位相成分補正後の復調波データを重ねた模式図である。
図9】センサユニットの一連の処理動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
なお、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。従って、添付した図面を用いて説明する実施の形態により、本発明が限定されず、この形態に基づいて当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれるものとする。
【0018】
また、本明細書において、添付する各図を参照した以下の説明において、方向乃至位置を示すために上、下、左、右の語を使用した場合、これはユーザが各図を図示の通りに見た場合の上、下、左、右に一致する。
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態として、本発明に係る物体判定装置及びセンサ装置を人物の状態を検知する生体検知技術に応用した実施形態について説明する。
【0020】
本発明に係る物体判定装置及びセンサ装置を応用した変位判定システム1について、図1〜9を適宜参照しながら説明する。
図1(a)、(b)は、変位判定システム1を模式的に示した図である。各図に示すように、変位測定システム1は、対象物体と、この対象物体の近傍に配置される参照物体とが存在する観察空間(部屋)内における上方(天井や壁面)に取り付けられるセンサユニット(請求項におけるセンサ装置に相当)10と、センサユニット10からの信号を無線又は有線で受信し、例えば胸郭付近の動きが無くなった場合には呼吸停止の可能性があるとして図示しない所定の通知先である警備会社などに通報する制御装置20とで構成される。
【0021】
本実施形態において、センサユニット10により変位を検出する対象物体は、ベッド11に仰向きに横臥した就寝中の人体12であり、検出対象となる微小な変位は呼吸に伴う胸郭の動きである。
また、参照物体とは、ベッド11の近傍に配置される家具や床であり、常時静止していることを条件としている。本実施形態では、その存在と位置(センサユニット10からの距離)が既知とする。
【0022】
なお、センサユニット10から机13及び床14までの距離は、キーボードやマウスを含んで構成される不図示の設定入力手段から入力されて、不図示の設定条件記憶部に記憶されている。又は、後述する初期設定部110cにより自動的に計測されて設定条件記憶部に記憶されてもよい。
【0023】
また、センサユニット10は、対象物体及び参照物体に送信波を送波して確実に受信波が受けられる位置に設置される。本実施形態では、センサユニット10が横たわる人のほぼ真上の天井に下向きに向けられている。センサユニット10は、天井や壁などの設置箇所から微小な振動を受けることが不可避であるが、本発明によりその振動の影響を排除できるものである。
【0024】
次に、図2を参照しながらセンサユニット10の構成について説明する。
センサユニット10の筐体外部には、送信波を送波する送波部として機能するスピーカー101と、スピーカー101から送波された送信波が対象物体及び参照物体にて反射した反射波を受信波として受波する受波部として機能するマイク102が設けられている。図2(a)に示すように、スピーカー101の送波部分とマイク102の受波部分は、それぞれ対象物体や参照物体に向いた状態でセンサユニット10の下方(設置面と対向する面)に配置されている。
【0025】
センサユニット10の内部構成としては、変調波記憶部103と、D/A変換部104と、スピーカーアンプ105と、マイクアンプ106と、A/D変換部107と、送受波制御部108と、受信波復調部109と、復調波処理部110と、復調波記憶部111と、出力部112とを備えている。また、特許請求の範囲に記載された「物体判定装置」は、本実施形態におけるスピーカー101、D/A変換部104及びスピーカーアンプ105で構成される「送波部」と、マイク102、マイクアンプ106及びA/D変換部107で構成される「受波部」と、後述する復調波処理部110の「部分データ抽出部110a」と、後述する復調波処理部110の「周波数解析部110b」と、後述する復調波処理部110の「初期設定部110c」とで構成される。
【0026】
変調波記憶部103は、超音波帯域におけるパルス性変調波やバースト波などのデジタル信号を記憶しており、例えば半導体メモリやハードディスクドライブなどから構成される。ここで、パルス性変調波とは、周波数を直線的に変化させた周波数変調波や、M系列などを使った位相変調波を指し、復調して物体の位置をパルス的に捉えることで高精度に距離を測ることができる。また、バースト波とは、単一の周波数(例えば40[kHz])の信号を非常に短い時間(1[ms]未満)で出力するもので、復調処理ではその包絡線検波を行い、そのピーク位置で距離を測ることができる。
【0027】
本実施形態の変調波記憶部103は、パルス性変調波であるスイープ信号のデジタルデータを予め記憶している。図3のグラフ30は、スイープ信号の波形を例示したものであり、グラフ31は、当該スイープ信号の時間の時間−周波数特性を例示したものである。スイープ信号は、振幅は一定ながらも周波数が時間的に変化する性質を有する信号であり、図3の例では周波数が時間経過と共に徐々に下降してゆく。このような信号を用いることで、単純なパルス信号を出力するよりも受信パワーが確保され、測距結果の分解能が向上することが知られている。例えば、周波数を32[kHz]から24[kHz]の幅で周波数を変化させることで、センサユニット10からの距離について約2cmの分解能とすることができる。
【0028】
以下、本実施形態では、可聴域外のスイープ信号を送信波として採用するのでスピーカー101から送波される送信波を「超音波」として表記する。
【0029】
D/A変換部104は、送受波制御部108の出力指示に従ったタイミングで変調波記憶部103からスイープ信号のデジタルデータを読み出して、読み出したデジタルデータをD/A変換する。
【0030】
スピーカーアンプ105は、D/A変換部104から出力したアナログデータを増幅してスピーカー101を駆動する。これにより、スピーカー101から対象物体及び参照物体に向けて超音波が送波される。送波された超音波は、対象物体及び参照物体にて反射し、この反射した反射波をマイク102で受波する。マイク102で受波した反射波は、電気信号(アナログ信号)に変換される。
【0031】
マイクアンプ106は、マイク102で変換されたアナログ信号を増幅する。
【0032】
A/D変換部107は、マイクアンプ106で増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換して送受波制御部108の出力指示に従って受信波復調部109に出力する。
【0033】
送受波制御部108は、超音波を送波するタイミングを制御する機能と、超音波と反射波との対応付けを行う機能を有する。
本実施形態において、超音波の送波タイミングは200[ms]毎である。また、本実施の形態において、人体12の呼吸などに伴う胸郭の動きの有無を判定するために必要な計測回数Lは15である。
なお、送波回数は、検出対象となる変位の種類に応じて適宜設定可能である。
【0034】
本実施形態では、図3に示すスイープ信号(符号30)の時間長を128[ms]とし、図1に示すセンサユニット10が人体12の直上2[m]程の位置に取り付けられているとする。
【0035】
受信波復調部109は、A/D変換部107が出力したデジタル信号を復調して復調後のデジタルデータを反射波データとして出力する。スイープ信号が復調された反射波データにはパルス性の波形が現れる。
【0036】
図4には、反射波データ40が、模式的に示されている。反射波データ40中のピーク41は机13からの反射、ピーク42は人体12からの反射、ピーク43は床14からの反射に対応する成分である。
図4において、横軸は時間を表している。反射波データ40の原点は、後述する部分データ抽出部110aが、復調された反射波データに含まれており図示しない回り込み波のピークに一致させたものである。スピーカー101からマイク102へ回り込んで直接受波される回り込み波は、センサユニット10の振動による影響を受けないため、反射波データの原点は常に送信波の送信時刻から一定時間後となる。また、ピーク時間はほぼ超音波の往復時間を表し、往復時間が長いとセンサユニット10から超音波を反射させた物体までの距離が遠く、短いと距離が近いことを表している。なお、本実施形態において、反射波データの長さは128[ms]である。
【0037】
復調波処理部110は、受信波復調部109で復調された反射波データを補正処理してセンサユニット10自体の振動の影響を排除し、対象物体の微細な変位に関する変位情報を求めて出力部112に出力する。
復調波処理部110は、部分データ抽出部110aと、周波数解析部110bと、初期設定部110cと、波形補正部110dと、変位情報算出部110eとを備えている。
【0038】
ここで、センサユニット10が振動を受けたときの影響と、本発明による対策方法の概要について説明する。
図5は、センサユニット10が振動している間に受波した3回分の反射波の反射波データを模式的に示したものである。なお図5では、理解容易のために、実際の変動の様子を大幅に誇張して描画している。
【0039】
図5(b)は、センサユニット10が振動して人体12、机13及び床14に近づいた場合であり、そのピーク時刻は図中の一点鎖線で示す図5(a)の反射波データのピーク時刻よりも図中の矢印で示すように左側にずれて早く検出されていることがわかる。また、図5(c)は、センサユニット10が振動して人体12、机13及び床14から遠ざかった場合であり、そのピーク時刻は図中の一点鎖線で示す図5(a)の反射波データのピーク時刻よりも図中の矢印で示すように右側にずれて遅く検出されていることがわかる。
【0040】
センサユニット10が振動すると人体12の微動によるピーク時刻変化にセンサユニット10の振動によるピーク時刻変動が重畳されるため、ピーク時刻変化から単純に人体12の微動を判定できない。一方で、何れの時刻においても、机13若しくは床14は不動であるから、両者の反射に関するピーク時刻の変動は、センサユニット10の振動によるものと考えることができる。
【0041】
そこで本発明では、静止物体である机13又は床14を参照物体とし、この参照物体に関するピーク時刻を基準に対象物体である人体12に関するピーク時刻を補正して、擬似的にセンサユニット10が振動していない場合のピークの時刻変化が得られるようにしている。つまり、図5(a)〜(c)の反射波データを時間方向にずらして参照物体に関するピーク時刻を基準に揃えることを意味する。これにより、対象物体の僅かな変位であっても、正確に判定することができるようになる。
【0042】
部分データ抽出部110aは、受信波復調部109が出力した反射波データからピーク時刻を中心とする所定の時間幅のデータを抽出する(切り出す)手段である。そのため、部分データ抽出部110aは、電源投入後動作が安定する所定期間に切り出しのための時間窓を物体ごとに初期設定する。
すなわち、部分データ抽出部110aは、反射波データの中に超音波の送波時刻と各物体までの距離を基準にした探索区間を定め、その探索区間において振幅の値の絶対値を求め、当該値が所定の閾値以上の時間区間においてピーク時刻を探索してそのピーク時刻を中心とする所定の時間幅の時間窓を決定する。つまり、各物体に対して反射波データの原点から時間窓の始端までの時間と原点から時間窓の終端までの時間が決定される。時間窓の幅は、例えば10[ms]とすることができる。また上記閾値は、雑音成分を排除可能なように設定される。
そして、決定された時間窓は、以降に出力される反射波データに対する共通設定となる。以上のように部分データ抽出部110aは、出力される反射波データのそれぞれに、対応する各送信波の送信時点を基準とする時間において物体ごとに共通に定められた時間窓を適用して各物体からの反射に対応する波形データを抽出する。
【0043】
例えば図4に示す反射波データが出力された場合、部分データ抽出部110aは、机13、人体12、床14のそれぞれに対する時間窓を適用して、反射波データから各物体に係る部分波形データを切り出す。そして、切り出した時間以外は振幅0とする。
【0044】
周波数解析部110bは、受信波復調部109から入力された反射波データと、部分データ抽出部110aで切り出された各物体の部分波形データをフーリエ変換処理し、得られた周波数特性(位相特性や振幅特性)をそれぞれ復調波記憶部111に記憶させる。
【0045】
計測処理開始後、i回目の計測で得られた反射波データをh(n)(n=0,…,N−1)とし、h(n)から切り出された部分波形データg(n)のフーリエ変換処理の式は、下記数1のようになる。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、Nは、1回の計測で得られる反射波データの時間長(例えば128[ms])をサンプリング間隔(例えば8[kHz])で乗じた1回の計測に対するサンプリング点数であり、例えば1024(=128[ms]×8[kHz])となる。
【0048】
また、部分データ抽出部110aで切り出された一つの参照物体に対する部分波形データの周波数特性は、上記数1を書き換えた下記数2のφ(ω)で表される。
【0049】
【数2】
【0050】
式中の添え字iは計測インデックス、つまりは動作開始後の適当な時刻、例えば時間窓を決定した時刻を基準に送受波制御部108で超音波を送波後、反射波を受波したときのそれぞれの反射波について与えられる識別番号であり、以下、適宜最新時刻(現時刻)を表わす。また、位相項φ(ω)は、2πのジャンプが無いアンラップ処理が施されたものとするが、この位相項φ(ω)には、センサユニット10と参照物体として設定された床14との距離の情報が保持されている。
【0051】
また、周波数解析部110bは、反射波データに上記数1のフーリエ変換を施して得られた周波数特性H(ω)(位相特性、振幅特性)と、選定された参照物体に対応する部分波形データにフーリエ変換を施して得られた周波数特性φ(ω)(位相特性)を復調波記憶部111に記憶させる。
【0052】
初期設定部110cは、部分データ抽出部110aで切り出された各部分波形データのピークを比較して、何れのピークが参照物体である机13(又は床14)なのか、何れのピークが対象物体である人体12なのかを決定する。
【0053】
ここで、図6のフローチャートを参照しながら初期設定部110cで実施される処理内容について説明する。
まず、各時刻(前述した計測インデックスにも対応する時刻)で超音波を送受波し(ST1)、マイク102で受波した反射波を復調して復調後のデジタルデータを反射波データとして出力する(ST2)。
【0054】
次に、部分データ抽出部110aは、電源投入後、動作が安定した時刻において決定した所定の時間窓を用いて反射波データから各物体に対応する部分波形データを切り出し(ST3)、下記数3を用いて切り出した各物体の部分波形データにそれぞれフーリエ変換を施し、得られた結果を復調波記憶部111に記憶させる(ST4)。なお、フーリエ変換された各部分波形データは、時間窓で切り出した部分以外の振幅値を0とし、時間長は128[ms]となる。
【0055】
【数3】
【0056】
式中の添え字iは上記数2と同じである。また、添え字kは、添え字iで表される計測インデックスを有する復調波の中で、切り出されたピークの番号である。つまり、図4でいうと、ピーク41が0、ピーク42が1、ピーク43が2となる。
【0057】
次に、上記数3で得られた結果が、復調波記憶部111に所定時間数分だけ記憶されているか否かの判断を行う(ST5)。つまり、本実施形態では、15回の計測を行って判定しているため、ST5では15回の計測が行われているか否かの判断となる。
【0058】
このとき、所定時間数分だけ記憶されていない場合(ST5−No)は、再度S1に戻ってS1〜S4の処理を行う。
また、所定時間数分だけ記憶されている場合(ST5−Yes)は、次に、同じ計測インデックスiについて、順次2つのピークを選んで所定時間数分記憶した位相φi,k(ω)同士の差を総当たりで求め、復調記憶部111に記憶させる(ST6)。
【0059】
但し、ST6の処理における「位相の差」は、単にφi,k(ω)の減算ではなく、以下のように位相特性から距離情報が抽出可能な群遅延の考え方を導入する。
図7には、角周波数ωに対する位相特性φのグラフが示されている。反射波を復調して理想的なインパルスが得られる場合、位相特性のグラフ51は直線形状となるが、実際にはインパルスにはならず、図7のように位相特性のグラフは曲線形状となる。また、この位相特性51の傾きの逆符号(−Δφ/Δω)は、パルスの時間原点からの距離(時間原点からの時間幅)に対応することが知られている。そこで初期設定部110cは、ω(0〜π)の0付近、π付近の一定幅εωを除いたωの区間について最小2乗法により図中の点線で示す近似直線52を求め、傾きの逆符号である群遅延の値を求めている。なお、εωは適宜設計パラメータとしてπ/10などとする。
【0060】
また、以下の説明では、計測タイミングiについて、k番目のパルスに対する群遅延をτi,kと表す。本実施形態では、切り出される部分波形データが3つあるので、差の組み合わせはΔτi,0=τi,0−τi,1、Δτi,1=τi,1−τi,2、Δτi,2=τi,2−τi,0の3つとなる。よって、ST6による処理において、所定時間数分のΔτi,pを参照し、pを固定してiを変化させたときの時間変化を求めた場合、
p=0:Δτ−14,0、Δτ−13,0…Δτ−1,0、Δτ0,0
p=1:Δτ−14,1、Δτ−13,1…Δτ−1,1、Δτ0,1
p=2:Δτ−14,2、Δτ−13,2…Δτ−1,2、Δτ0,2
となる。
【0061】
また、初期設定部110cは、群遅延同士の差(Δτi,p)を復調波記憶部111に所定時間数分(15時点分)だけ記憶させるが、新たな計測インデックスについて群遅延の差を求めたら、最古の群遅延の差を削除するようにしている。そのため、復調波記憶部111には、常に最新のデータを含めて15時点分の群遅延同士の差が、p=0、p=1及びp=2のそれぞれについて記憶される。
【0062】
図6のフローチャートに戻り、ST6において同じ計測インデックスiについて、総当たりで群遅延τi,k同士の差Δτi,pを求めると、次に、求めたΔτi,p(p=0,1,2)の時間変化がそれぞれ所定の閾値未満か否かを判断する(ST7)。
【0063】
ST7の処理で使用される閾値は、検出対象である微小な変位に基づいて適宜設定される値である。そのため、例えば対象物体である人体12の呼吸に伴う胸郭の動きを検出対象とした場合、横たわる人体12の胸郭は鉛直方向(上下方向)に約1[cm]程度変位する。つまり、検出したい変位の標準的な量を基準として経験的に得られる値(例えば1[cm]の1/10にあたる1[mm]に相当する値)を設定すればよい。このように閾値を設定すれば、少なくとも人体12を含む組み合わせは、静止している机13と床14との組み合わせよりも時間変化が大きく閾値を確実に越える値となるため、人体12が含まれる組み合わせを容易に判別することができる。
【0064】
ST7の処理において、時間変化が閾値未満であると判定された場合(ST7−Yes)、これら部分波形データに該当する物体は共に時間変化が小さく動きが無いと判定し(ST8)、この結果を動き情報(組み合わせの中に動く物体が含まれているか否かの情報)として復調波記憶部111に記憶させる(ST10)。つまり、閾値との比較対象がp=2のときは、過去の14個のΔτ−14,2、Δτ−13,2…Δτ−1,2と最新のΔτ0,2との差が閾値未満となるため、何れの物体も静止しているもの、すなわち机13と床14の組み合わせであると判定される。
一方、時間変化が閾値以上であると判定された場合(ST7−No)、これら部分波形データに該当する物体のうちの何れか一方に動き(変位)のある物体が含まれると判定し(ST9)、この結果を動き情報として復調波記憶部111に記憶させる(ST10)。つまり、閾値との比較対象がp=0のときは、過去の14個のΔτ−14,0、Δτ−13,0…Δτ―1,0と最新のΔτ0,0との差のうち半数以上が閾値以上となるため、この組み合わせの中に人体12が含まれていると判定される。また、p=1でも同様である。
【0065】
上記ST10の処理が終わると、次に部分波形データの全ての組み合わせについて比較したか否かを判断する(ST11)。
このとき、全ての組み合わせについて比較していない場合は(ST11−No)、再度ST6に戻ってST6〜ST10までの処理を適宜行う。
一方、全ての組み合わせについて比較した場合は(ST11−Yes)、最終処理として、復調波記憶部111に記憶した動き情報に基づき、p=0、1、2の結果から静止物体を特定し、静止物体のうち、何れかの静止物体を波形補正部110dにおける補正処理の基準とする参照物体として選定する(ST12)。本実施形態において、ピーク41とピーク43に対応する物体は静止物体である机13、床14であり、ピーク42に対応する物体は移動物体である人体12と判定され、本実施形態では床14を参照物体として選定している。勿論、参照物体として机13を選定してもよい。
【0066】
なお、ステップST12において、何れのkに対応するΔτi,pの組が静止物体に対応するものかを判定する際に、上記のように時間変化が大きいΔτi,pの組と時間変化が小さなΔτi,pの組に分かれることを条件とする。これは超音波を反射した物体が全て静止物体の場合や、全て動物体であり動く方向が異なる場合には、判定が困難となり利用者に参照物体の手動設定を依頼すべく、その旨の表示が求められるからである。よって、観察空間内に存在する物体は、対象物体が1つ、参照物体となり得る静止物体が2つ以上の合計3つ以上存在するものとする。
【0067】
波形補正部110dは、周波数解析部110bでフーリエ変換処理された結果を用いて、反射波データを補正する。すなわち、反射波データについての周波数特性を、参照物体からの反射成分の周波数特性のうち位相特性で補正する。
【0068】
波形補正部110dは、復調波記憶部111に記憶される参照物体の部分波形データをフーリエ変換して得られた位相情報をφi−L+1(ω),…,φ(ω)、すなわちφi−14(ω),…,φ(ω)と、反射波データをフーリエ変換して得られた結果をHi−L+1(ω), … , H(ω)、すなわちHi−14(ω), … , H(ω)として、下記数4を用いて補正処理を行う。これにより、現在時刻を基準としてある過去の時刻についてどの程度の振動の影響があるかを判定することができる。
【0069】
【数4】
【0070】
そして、波形補正部110dは、上記数4で得られたXi,m(ω)を現時刻における補正後の反射波データとして復調波記憶部111に記憶させる。
【0071】
図8は、波形補正部110dによる補正前の反射波データと、補正後の反射波データを重ねた模式図である。図中において実線は補正後の反射波データ、点線は補正前の反射波データであり、各物体から反射した反射波の各受信時刻における波形の違いが把握できる状態となっている。波形補正部110dによる補正を行うことで、センサユニット10が受けた振動がキャンセルされ、ピーク61に示すように人体12の胸郭の動きを示す本来の波形を得ることができる。
【0072】
なお、参照物体は、初期設定部110cで選定されるが、これと同時に反射波データから対象物体を特定することも可能である。よって、波形補正部110dは、選定された参照物体の位相特性に基づき反射波データの位相特性を補正しているが、これに限定されることはなく、反射波データの中から少なくとも人体12に該当する部分波形データを時間窓で切り出し、この部分波形データの位相特性を、選定された参照物体の部分波形データの位相特性で補正するようにしてもよい。
【0073】
変位情報算出部110eは、復調波記憶部111に記憶されている補正後の反射波データを計測回数L(15時点分)だけ読み出し、変位情報を算出して出力部112に出力する。
【0074】
変位情報算出部110eは、読み出したXi,m(ω)を下記数5を用いて逆フーリエ変換処理し、その結果である補正反射波データをxi,m(n), m=0,…,14(=L−1)とする。ここで、nは反射波についての(離散的な)時間インデックスを表し、nが大きいほどセンサユニット10から遠い位置を表している。この結果は、参照物体に関する反射のピーク時刻を基準に時間方向にずらして揃えた結果になっている。
【0075】
【数5】
【0076】
また、変位情報算出部110eは、上記数5により求めた補正反射波データを用いて現時刻から過去所定数分の補正反射波データの時間変化から対象物体の変位情報(すなわち、人体12の胸郭の変位)を算出する。仮に人体12が完全静止しているとすると、L個の系列xi,m(n),m=0,…,14(=L−1)の中の人体12に対応したnの範囲N≦n≦Nは同じ値を持つことになる。
そこで、現フレームを含む直近L個の系列の変動度合いを評価することで人体12の呼吸による胸郭の動き判定を行うことができる。
【0077】
すなわち、下記数6を用いてxi,m(n)の直近の15(=L)個の平均応答系列を算出する。
【0078】
【数6】
【0079】
そして、平均応答系列y(n)と時間領域の信号xi,m(n)から下記数7若しくは数8を用いて変位情報E1,i(又はE2,i)を算出して出力部112に出力する。
【0080】
【数7】
【0081】
【数8】
【0082】
復調波記憶部111は、復調波処理部110の処理に関わる情報を記憶する。例えば、周波数解析部110bで得られた反射波データや部分波形データの周波数特性、初期設定部110cの初期設定に関わる情報として群遅延同士の差や物体の動き情報、波形補正部110dで補正された反射波データを記憶する。
【0083】
出力部112は、変位情報算出部115eで算出された変位情報E1,i(又はE2,i)を制御装置20に出力する。
【0084】
制御装置20は、センサユニット10との間で有線又は無線通信可能に接続されている。制御装置20は、センサユニット10との間及び所定の通知先との間で各種情報を通信(有線、無線は問わず)する通信部21と、各時刻において得られた変位情報をセンサユニット10から受信しそれが予め設定された閾値(停止判定閾値)以下となることが所定時間継続しているか否かの判定を行う判定部22と、通信部21と判定部22を制御する制御部23とを備えている。
【0085】
本実施形態の変位判定システム1は、検出対象である人体12の胸郭の変位(動き)を観察しており、予め設定された閾値として人体12の呼吸が止まっていることが判定可能な停止判定閾値が設定されている。そのため、制御装置20は、判定部22により変位情報E1,i(又はE2,i)が停止判定閾値を下回った状態が所定時間継続していると判定した場合は、人体12の呼吸が止まった可能性があると判定し、通信部21を介して所定の通知先に通報する処理を行う。
【0086】
次に、図9を参照しながら上述した第1実施形態のセンサユニット10の処理動作について説明する。
ここでは、図1に示す観察空間内において、対象物体となる人体12がベッド11に横たわり、参照物体となり得る静止物体として机13及び床14が存在するものとし、本実施形態では参照物体として床14が選定されるとして説明する。
【0087】
まず、センサユニット10を用いて人体12の呼吸に伴う胸郭の動きを検出するにあたり、2つの初期設定を行う。1つ目の初期設定(ST21)は、初期設定部110cの構成で説明した処理(図6に示すフローチャート)に沿った処理を行うため、ここでは説明を省略する。
【0088】
次に、2つ目の初期設定(ST22)として、変調波記憶部108に記憶されている超音波をスピーカー101から送波し、マイク102で受波した反射波を復調して時間窓を決定する。この処理では、前述したST21の初期設定(図6に示すフローチャート)の過程で決定した時間窓をそのまま使用すればよい。また、部分データ抽出部110aの説明で述べた手順に則り、再度参照物体についての時間窓を決定してもよい。
【0089】
次に、観察空間内に存在する対象物体及び参照物体に向けて超音波を送波し、各物体から反射した反射波を受波する(ST23)。すなわち、送受波制御部108において、変調波記憶部103から送波する超音波のデジタルデータを読み出し、D/A変換器104でアナログデータに変換した後、スピーカーアンプ105を通じてスピーカー101から対象物体と参照物体に向けて送波する。また、各物体からの反射波をマイク102で受波し、マイクアンプ106でアナログ信号を増幅後、A/D変換器107でアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0090】
次に、デジタル信号に変換された反射波の復調処理を行う(ST24)。つまり、受信波復調部109において、A/D変換器107で変換されたデジタル信号を復調して反射波データを出力する。
【0091】
次に、周波数解析部110bは、上記数1を用いて受信波復調部109で復調された反射波データにフーリエ変換を施して周波数特性H(ω)を得る(ST25)。得られたH(ω)は、最新回の送波によるものとなるため、復調波記憶部111に記憶させると同時に、既に記憶されているHi−L(ω)(つまりL回前の送波によるもの)を削除して更新する(ST26)。
【0092】
また、ST25、26の処理と平行して、部分データ抽出部110aは、受信波復調部109で復調された反射波データから、ST22で設定された時間窓を用いて選定した参照物体に対応する部分波形データを切り出す。そして、周波数解析部110bにおいて、切り出した参照物体の反射波データについて上記数2に従いフーリエ変換を施して位相特性φ(ω)を得る(ST27)。得られたφ(ω)は、最新回の送波によるものとなるため、復調波記憶部111に記憶させると同時に、既に記憶されているφi−L(ω)(つまりL回前の送波によるもの)を削除して更新する(ST28)。
【0093】
下記ST29〜31の処理は、15(=L)回の送波による15フレーム分について繰り返すものであるが、処理量の削減を図るため、再利用可能な処理結果は都度復調波記憶部111に更新記憶させて後の時点に読み出すような構成となっている。以下では、必要に応じて再利用する処理として説明する。
【0094】
波形補正部110dは、復調波記憶部111に記憶されている反射波データの周波数特性H(ω)と、参照物体の部分波形データの位相情報φ(ω)を読み出す(ST29)。これらは最新フレームのものとなる。
【0095】
次に、波形補正部110dは、上記数4に従い、反射波データを位相成分について補正してXi,m(ω)を求め、復調波記憶部111に記憶させる(ST30)。最新フレームの場合にはm=0となるので、指数成分のカッコ内はゼロとなり、Xi,0(ω)=H(ω)となる。
【0096】
次に、変位情報算出部110eは、波形補正部110dで補正処理されたXi,m(ω)について上記数5を用いて逆フーリエ変換を施して時間領域の信号xi,m(n)に戻す(ST31)。過去フレームについては、既に記憶済みであるので、上述したように実際にはST29〜ST31をL回繰り返す必要は無い。
【0097】
次に、変位情報算出部110eは、ST29〜ST31の処理を経て得たxi,m(n)から現在時刻を含む直近L回分の平均応答系列y(n)を上記数6により算出し、得られた平均応答系列y(n)と時間領域の信号xi,m(n)から上記数7又は数8を用いて変位情報E1,i(又はE2,i)を求める(ST32)。
【0098】
そして、求めた変位情報E1,i(又はE2,i)を出力部112に出力する(ST33)。本実施形態では図1に示す制御装置20に出力する。ST33の処理が終了すると、図中Aに沿って再度ST23に戻って、次フレームの処理を行う。
【0099】
また、制御装置20は、センサユニット10から入力した変位情報に基づき、人体12の呼吸に伴う胸郭の動きが正常であるか否かの判定を行い、異常があった場合、つまり呼吸が停止していると判定した場合は、所定の通知先への警報出力を行う。
【0100】
[本発明の作用・効果]
以上説明したように、本実施形態に係る物体判定装置及びセンサ装置(センサユニット10)は、観察空間内に存在する3以上の物体の中から静止していると仮定できる物体を判定する機能を備えている。つまり、対象物体及び対象物体の近傍に静止した状態で配置された2つ以上の参照物体が存在する観察空間に設置されたセンサユニット10は、まずスピーカー101から対象物体及び参照物体に送信波である超音波を送波し、その反射波をマイク102で受波する。次に、受波した反射波を復調した反射波データから参照物体に対応する部分波形データを共通の時間窓で切り出して周波数解析して位相特性を所定時間数分だけ記憶させる。そして、記憶させた部分波形データ同士の位相特性の差(群遅延の差)を総当たり的に求め、時間変化が所定の閾値以上の組と閾値未満の組に分かれたときに、時間変化が閾値未満の組の部分波形データに対応する物体が静止した物体、すなわち変位判定システム1における参照物体として選定可能な物体であると判定する。
【0101】
これにより、センサユニット10が設置される壁や天井などから伝わる振動によってセンサユニット10自体が振動する影響を排除するために要する物体であって、観察空間内に存在する物体のうち静止していると仮定できる物体を自動的に判定することができる。そのため、変位判定システム1を導入するにあたり、利用者が観察空間内に存在する静止している物体を参照物体として設定する手間を省くことができる。
【0102】
また、参照物体を選定する際に、共通の時間窓で切り出した部分波形データの位相特性をグラフ化すると実際には直線形状とならずに曲線形状となってしまうため、位相特性のグラフを最小2乗法により近似直線とする群遅延の差を用いることで正確に静止物体を判定することができる。
【0103】
[その他の実施形態について]
ところで、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下に示すように使用環境などに応じて適宜変更して実施することもできる。
【0104】
図6に示すフロー図を用いて説明した初期設定部110cで実施される処理では、位相差を部分波形データについて総当りに全ての組み合わせについて求めてから、ステップST12にて時間変化が大きい位相差の組と時間変化が小さな位相差の組に分かれることを条件として静止物体を選定しているが、それに限られない。
反射波データに4以上のピークが含まれている場合、そのうちの3のピークについての部分波形データから求めた位相差の時間変化を所定の閾値と比較し、時間変化が大きい位相差の組と小さな位相差の組に分かれたら、静止物体の判定が可能な状態になったとしてステップST11の条件分岐においてステップST12に進み、時間変化が大きい位相差の組と小さな位相差の組に分かれなかったらステップST6に戻ることとしてもよい。
これにより反射波データに4以上のピークが含まれている場合に処理量軽減を図ることができる。
【0105】
また、上述した実施形態においては、波形補正部110dが計測回数Lと同数の反射波データを単位として補正する例を示したが、補正する単位は2以上でLとは異なる個数Mとすることもできる。
但し、M<Lとした場合、変位情報算出部110eはM個の反射波データを単位として変位情報を算出して反射波データL個分の変位情報を統合する。
またM>Lとした場合、変位情報算出部110eは共通の基準で補正されたM個の反射波データ中のL個を用いて変位情報を算出する。
【0106】
さらに、上述した実施形態では、公共施設(病院や介護施設など)や一般家庭に設置して呼吸停止を異常状態として検知する構成で説明したが、これに限定されない。他の応用例としては、例えばセンサユニット10を、無人の銀行ATMブース、駅構内や商業施設内に設置されるトイレなどに設置し、泥酔者などの不審者を検知する生体検知システムとして利用することもできる。
【0107】
例えば無人銀行ATMに採用した場合は、不審者が銀行ATMブースに入室してきて、そのまま床面(参照物体)に横たわって寝入ることを検出できる。このとき、不審者の呼吸が止まったことの他に、体を横たえて安静状態となったと判定されるとその旨外部に通報することもできる。また、入室後、活動状態を維持して、そのまま退出すると特に通報処理はしないようにすれば不要な警報出力を抑制することができる。
【0108】
また、上述した実施形態では、超音波センサを高所に取り付けて略直下に向けるものとしていたが、これに限られない。例えば壁にもたれて酔いつぶれる不審者を検出する場合には、超音波センサを斜め下向き、あるいは横向きにしても全く同様の判定手法でそのような不審者の検出ができる。
このように、本発明の範囲を超えない形態で実現が可能となる。
【符号の説明】
【0109】
1…変位判定システム
10…センサユニット
11…ベッド
12…人体
13…机
14…床
20…制御装置(21…通信部、22…判定部、23…制御部)
101…スピーカー
102…マイク
103…変調波記憶部
104…D/A変換部
105…スピーカーアンプ
106…マイクアンプ
107…A/D変換部
108…送受波制御部
109…受信波復調部
110…復調波処理部(110a…部分データ抽出部、110b…周波数解析部、110c…初期設定部、110d…波形補正部、110e…変位情報算出部)
111…復調波記憶部
112…出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9