特許第6716622号(P6716622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716622
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】豆類加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20160101AFI20200622BHJP
【FI】
   A23L11/00 A
   A23L11/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-50904(P2018-50904)
(22)【出願日】2018年3月19日
(65)【公開番号】特開2019-162052(P2019-162052A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2018年8月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小室 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 達美
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 渉
【審査官】 坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−295313(JP,A)
【文献】 特開昭58−071859(JP,A)
【文献】 大村 芳正、武知 博憲,日本食品工業学会誌,1990年,Vol.37, No.4,p.278-280
【文献】 oyatsukko,簡単おいしい!煎り大豆の作り方,クックパッド,2013年 2月28日,p.1-2,[検索日2019.06.13],インターネット〈URL:https://cookpad.com/recipe/2136797〉
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(a):生豆の豆類を、直ちに50℃以上65℃未満の温水に5〜20分間、温水浸漬処理する工程、
工程(c):30℃以下で水浸漬処理する工程、
工程(b):加熱処理する工程、を順に且つ連続して含み
(但し、生豆を前記温水浸漬処理する工程と、前記加熱処理する工程との間に磨砕処理する工程を含むことを除く。)
前記加熱処理が、焙煎処理、または、工程(c)で水浸漬処理された豆類を容器に充填密封した後、加熱殺菌処理することを特徴とする、豆類加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆等の豆類を用いた水煮、蒸し豆、煮豆、煎り豆などの豆類加工食品の風味向上を目的とする製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆類は栄養価の高い食品素材であり、たんぱく質、必須アミノ酸を豊富に含み、ビタミンB群、カルシウムなどのミネラル類も多く含んでいる。さらに豆類には、食物繊維、サポニン、ポリフェノール等の機能性成分が多く含まれており、これらの成分が及ぼす健康効果が明らかにされている。
【0003】
一方、豆類に含まれるサポニンやポリフェノール等は有用な機能性成分である反面、味覚に関しては、渋みや苦味、えぐみなどの不快味成分の原因物質であることも知られており、従来から煮豆を製造する場合には、豆を一晩水浸漬した後、水浸漬後の豆を水煮することにより、これらの不快味成分を除去している。
【0004】
例えば、レトルトパウチ入りの大豆水煮を製造する場合には、一晩水浸漬した大豆を沸騰水中に入れて、20分〜60分程度の水煮処理を行うことで不快味成分を取り除き、水煮処理された大豆をレトルトパウチに充填密封した後、レトルト殺菌処理をして製造している。そのため水煮処理を経て製造された豆類加工食品は、不快味成分が十分に取り除かれているものの、同時に大豆に含まれる糖質やアミノ酸等の好ましい呈味成分も流出してしまい、豆類が本来有する甘味や旨味等の美味しさを味わうことができないという問題があった。
【0005】
従来、豆類の不快味成分を低減する手段については、豆乳および豆腐の製造における大豆の不快味成分を低減させる方法として、大豆の水戻し条件について検討されている。非特許文献1、2では、大豆の水戻し方法を60℃で2時間浸漬することにより、大豆の膨潤時間を短縮すると同時に不快味および不快臭を低減できることが記載されている。また、特許文献1では、脱皮大豆を40〜50℃の温水に1〜3時間浸漬処理することにより、青豆臭や喉頭刺激臭が少ない風味の優れた豆乳を得ることができることが記載されている。しかしながら、上記方法についても、大豆の不快味や青豆臭を低減することができるが、好ましい呈味成分については流出を抑制することができず、双方の課題を両立させることは困難であった。
【0006】
また、特許文献2では、本願出願人により、豆類加工食品の製法において水煮工程を省き、水煮工程に替えて昇圧工程、蒸煮工程または降圧工程の少なくとも一つの工程において豆類を水洗浄処理することにより、豆類独特の風味や味の呈味成分を損なわせない製法が提案されている。しかしながら、上記方法により大量生産する場合には大型の加圧蒸煮釜が複数必要になり、設備投資コスト面で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−139354号公報
【特許文献2】特開平10−295313号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本食品工業学会誌 第35巻 第12号 p866−874(1988)
【非特許文献2】日本食品工業学会誌 第38巻 第9号 p770−775(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、豆類が有する渋みや苦味、えぐみなどの不快味成分を減少させ、且つ、豆類が有する甘味や旨味等の好ましい呈味成分が保持された豆類加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、生豆の豆類を短時間で温水浸漬処理することによって、好ましい呈味成分が保持され、且つ、不快味成分が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明からなるものである。
[1]工程(a):生豆の豆類を、直ちに50℃以上65℃未満の温水に5〜20分間、温水浸漬処理する工程、
工程(c):30℃以下で水浸漬処理する工程、
工程(b):加熱処理する工程、を順に且つ連続して含み
(但し、生豆を前記温水浸漬処理する工程と、前記加熱処理する工程との間に磨砕処理する工程を含むことを除く。)
前記加熱処理が、焙煎処理、または、工程(c)で水浸漬処理された豆類を容器に充填密封した後、加熱殺菌処理することを特徴とする、豆類加工食品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、豆類が有する不快味成分が減少され、且つ、豆類が有する好ましい呈味成分が保持された風味良好な豆類加工食品が得られる。
【0013】
また、煮豆や水煮豆等の製造方法においては、従来製法では、通常は水煮処理によって豆類の不快味成分の除去および豆類に含まれるでん粉のα化ならびに種皮やタンパク質の軟化を同時に行うところ、本発明においては、不快味成分の除去は短時間の温水浸漬処理で行い、でん粉のα化ならびに種皮等の軟化はレトルト殺菌処理等の最終工程の加熱処理で調整するため、水煮工程を省略することができる。そのため、温水浸漬処理は水煮処理と比べて処理水を加温するために必要な熱エネルギーコストを大幅に削減し、製造時間の短縮化も図ることができる。
【0014】
さらに、本発明においては、低温で短時間の温水浸漬処理よって、豆類からの糖類等の溶出が減少するため、浸漬処理水に含まれる有機物も少なくなり、工場で製造する際の排水処理負荷を低減することができる。本発明による製造方法は、豆類加工食品の風味の向上を図るだけでなく、製造コスト面および環境面からも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0016】
本発明においては、乾燥した生豆を原料に用いる。原料の生豆は、脱皮処理されていてもよいが、収穫後に加熱等の加工処理されたもの、例えば加熱により熱変性や酵素失活したもの、圧編、破砕および粉砕等で組織破壊されたものは除かれる。加熱変性したもの、組織破壊されたものは、浸漬処理時に糖質などの好ましい呈味成分を保持できないため使用できない。
【0017】
本発明における原料としては、豆類であれば特に限定されない。例えば、豆類は、脂質とたんぱく質を主体とするグループと、炭水化物を主体とするグループの二つのグループに大別することができ、本発明においては、いずれのグループの豆類であっても適応することができる。前述グループの豆類は、大豆および落花生であり、大豆系の豆類であれば黄大豆、黒大豆、青大豆、赤大豆、茶豆、鞍掛け豆でもよい。後述グループの豆類は、インゲン系の豆類であり、金時豆、白金時豆、虎豆、うずら豆、白花豆、紫花豆、ひよこ豆、えんどう豆、空豆、小豆、ささげ豆、レンズ豆でもよい。
【0018】
〔工程(a)〕
本発明の方法においては、まず、生豆の豆類を温水浸漬処理する。該温水浸漬処理は、豆類に含まれる好ましい呈味成分の溶出を抑えつつ、不快味成分を温水中に溶出させて除去することを目的とする。
【0019】
該温水浸漬処理の条件は、50〜70℃に加温した温水に5〜20分間浸漬することが好ましく、より好ましくは50〜65℃で10〜20分間浸漬することが好ましく、さらに好ましくは50〜55℃で10分間浸漬することが好ましい。
【0020】
なお、該温水浸漬処理において、処理温度が50℃未満である場合には、豆類に含まれるイソフラボノイドやサポニン等の不快味成分の溶出効率が悪く、不快味成分が除去することができない。また、処理時間が5分未満である場合にも、不快味成分の除去が不十分となり好ましくない。
【0021】
一方、該温水浸漬処理が50℃以上であって処理時間が20分間を超える場合には、不快味成分だけでなく、糖質などの好ましい呈味成分も溶出されてしまうため好ましくない。
【0022】
また、該温水浸漬処理は複数回行ってもよい。該温水浸漬処理を複数回行うことにより、豆類に含まれる不快味成分の溶出が促進され、不快味成分の除去が効率的に行われるため、特に不快味成分を多く含む原料豆を用いる場合には、該温水浸漬処理を複数回行うことが好ましい。例えば、該温水浸漬処理は、55℃で5分の温水浸漬処理を2〜4回、積算で20分間行ってもよい。
【0023】
なお、該温水浸漬処理の積算時間が20分間を超える場合には、呈味成分の溶出を抑制できないため、目的の風味良好な豆類加工食品が得らない。
【0024】
一方、不快味成分の含量が少ない原料豆を用いる場合には、該温水浸漬処理を複数回行う必要はなく、好ましい呈味成分の流出を抑えるために、該温水浸漬処理の回数は1回で行うことが好ましい。
【0025】
該温水浸漬処理においては、生豆と温水量の比率は特に限定されず、豆類が温水中に浸かっていればよく、好ましくは生豆の豆類1重量部に対して温水量は1重量部以上、より好ましくは温水量は5重量部以上、さらに好ましくは温水量は10重量部以上とすることが好ましい。温水量が少ない場合には不快味成分の溶出が効率的に行われないため、温水量は多い方が不快味成分が効率的に溶出されるため好ましい。
【0026】
また、該温水浸漬処理に用いる温水中には、不快味成分を効率的に除去するために、アルコールおよび片栗粉などの澱粉を添加してもよい。
【0027】
また、該温水浸漬処理の方法は、生豆の豆類が至適温度の温水中に常時浸かった状態が維持できればその方法は特に限定されず、バッチ槽内での静水下または流水下での静置浸漬または撹拌浸漬でもよく、流水移送管内での流動浸漬でもよい。
【0028】
〔工程(b)〕
上記工程(a)により、該温水浸漬処理された豆類を、加熱処理する。該温水浸漬処理された豆類は、そのままでは食することができず、保存性がないため、該加熱処理によってでん粉をα化し、保存性を付与し食せる状態に加工することを目的とする。該加熱処理によって、不快味成分が抑制された水分含量の低い豆類加工食品を得ることができる。
【0029】
該加熱処理の方法は、焙煎処理または焼成処理を用いることができるが特に限定されず、その加熱条件についても、目的とする豆類加工食品に適した温度および時間で行えばよく、特に限定されない。
【0030】
該加熱処理により得られる水分含量の低い豆類加工食品には、煎り豆、煎り豆茶、打ち豆等が挙げられる。例えば、煎り豆、煎り豆茶を目的とする場合には、該温水浸漬処理された豆を150〜180℃で10〜30分間焙煎処理すればよく、打ち豆を目的とする場合には、該温水浸漬処理された豆を押圧扁平した後、焙煎処理または焼成処理して乾燥させればよい。
【0031】
〔工程(a)、工程(c)、工程(b)を順に含む方法〕
上記工程(a)により、該温水浸漬処理された豆類を、水浸漬処理(工程(c))する。該水浸漬処理は、豆類を後工程で加熱処理したときにでん粉をα化および種皮、タンパク質を軟化しやすくするために豆類に水分を十分に吸収、膨潤させて、且つ、豆類に含まれる糖質等の好ましい呈味成分の流出を抑制させることを目的とする。
【0032】
〔工程(c)〕
該水浸漬処理は、水温0〜30℃で5〜48時間、好ましくは水温5〜25℃で6〜36時間、より好ましくは水温10〜20℃で10〜24時間、水浸漬処理することが好ましい。
【0033】
該水浸漬処理においては、水温が30℃を超えるような場合には、豆類に含まれるショ糖などの好ましい呈味成分の浸漬水中への溶出が始まり、また、微生物が増殖し腐敗しやすくなり、発芽も促進される条件となるため、本発明が目的とする豆類加工食品が得られず好ましくない。
【0034】
一方、水温が0℃に近い低温またはこれを下回るような場合には、豆類の水分吸収が遅くなり膨潤が不十分になり、水浸漬する時間も長くなり生産性が悪くなるため、該水浸漬処理条件は、豆類が水分吸収し速やかに膨潤が進み、且つ、微生物による腐敗が生じ難い温度である10〜20℃で行うことが好ましい。
【0035】
また、該水浸漬処理における豆類と浸漬水の比率は特に限定されず、豆類が十分に給水、膨潤できればよく、豆類を1とした場合は、浸漬水は2〜10倍量以上とすることが経済的理由から好ましい。
【0036】
また、生豆の豆類の水分吸水量の目安は、豆類の種類によって異なるが、生豆の豆類の重量を100%とした場合、おおよそ180〜240%程度であり、それぞれの豆類における最大吸水率を100%とした場合、各豆類の吸水率が90%以上、好ましくは95%以上となるように該水浸漬処理の温度と時間を調整する。なお、目的とする豆類加工食品が蒸し豆や煮豆である場合には、吸水率が90%より低い場合には、後工程の加熱処理または加圧加熱処理をした場合であっても、食した際に芯が残る場合があり、製品歩留りも低下するため好ましくない。
【0037】
また、該水浸漬処理に用いる浸漬水おいては、味付けを目的として、糖類や食塩等の調味料を添加してもよい。
【0038】
〔工程(b)〕
上記工程(c)により、該水浸漬処理された豆類を、加熱処理(工程(b))する。該水浸漬処理された豆類は、豆類に含まれるレクチンやリポキシゲナーゼ等の酵素が失活しておらず、そのままでは食することができないため、該加熱処理によって豆類に含まれる酵素を失活させることと同時に、でん粉のα化ならびに種皮等の軟化、調味調理、加熱殺菌を行い、該水浸漬処理された豆類を食せる状態に加工することを目的とする。
【0039】
該加熱処理の方法は、蒸煮処理、加圧加熱処理、焙煎処理、焼成処理、油調加熱処理、包装後の加熱処理のいずれでもよく、特に限定されないが、目的とする豆類加工食品に応じて適宜選択すればよい。また、その加熱条件についても、目的とする豆類加工食品に適した温度および時間で行えばよく、特に限定されない。
【0040】
例えば、該水浸漬処理された豆類を加水せずにそのまま加熱する場合には、蒸煮処理、加圧加熱処理、焙煎処理、焼成処理、油調加熱処理のいずれでもよく、これにより得られる豆類加工食品は、蒸煮処理を経て得られる蒸し豆、加圧加熱処理を経て得られる蒸し豆、焙煎処理を経て得られる煎り豆、焼成処理を経て得られる焼き豆、油調加熱処理を経て得られる揚げ豆などが挙げられる。
【0041】
また、該水浸漬処理された豆類を加水して加熱する場合には、該水浸漬処理された豆類と水または調味液とを容器に密封した後に該加熱処理をすることにより、該水浸漬処理された豆類に含まれる好ましい呈味成分の流出を防ぐことができる。これにより得られる豆類加工食品は、包装後の加熱処理を経て得られるパウチ入りの水煮豆や煮豆、加圧加熱処理を経て得られるレトルトパウチ入りの水煮豆や煮豆などが挙げられる。
【0042】
かくして、本発明の方法によって、豆類が有する不快味成分が除去され、好ましい呈味成分が保持されているため、本発明の方法により得られた豆類加工食品は、苦味や渋み等の不快味がなく、豆類が本来有する甘味や旨味を味わうことができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔工程(a)、工程(c)、工程(b)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例1〜9、比較例1〜4: 大豆水煮の検討
温水5L中に生豆の大豆1kgを浸漬し、温水浸漬処理をした。温水浸漬処理の温度および時間は、表3または表4に示す条件で行った。
次に、10℃の水3Lに、温水浸漬処理された大豆を、16時間または14時間、水浸漬処理を行い、水浸漬処理終了後の大豆重量(処理後歩留)を測定した。
次に、表3または表4に示す条件で、水浸漬処理された大豆と充填液とをレトルトパウチに充填し、真空包装した後、115℃30分間レトルト殺菌機で加熱殺菌処理して大豆水煮を得た。なお、使用した充填液は、加熱殺菌処理により過度の軟化を防ぐ目的で塩化カルシウム0.1重量%となるように調整したものを用いた。
次に、得られた大豆水煮の各サンプルを開封し、水切りした後、レトルト殺菌処理後の大豆について、大豆重量と大豆中のショ糖含有率(%)の測定および官能評価を行った。
また、比較例1(対象1、従来製法)として温水浸漬処理を経ずに水浸漬処理した後に100℃20分間水煮処理した大豆、比較例2(対象2)として温水浸漬処理を経ずに水浸漬処理した大豆について、上記同様に充填包装後、レトルト殺菌処理して大豆水煮を得て、同様に分析測定および官能評価を行った。なお、比較例1は、レトルト殺菌後の大豆重量が比較例2と近似するように表3に示す条件で調整した。
大豆水煮の大豆に含まれるショ糖含有率(%)の測定は、水切りした大豆を粉砕処理した後、蒸留水に溶解し、除タンパク処理して得られた抽出物を、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製、機種Prominence UFLC、使用カラム Suger−D)を使用し測定した。
大豆水煮の官能評価は、五味識別検査において味覚優良者として選抜され訓練された嗜好性官能評価パネラー5名によって、不快味(渋み、エグ味、苦味)と好ましい風味(甘み、うま味)の有無と強弱について表1に基づき5段階評価した。各パネラーの評点の平均値を、表2の示す評価基準に従って総合評価した。結果を表3、表4に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
〔工程(a)、工程(c)、工程(b)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例10、比較例5: 蒸し大豆の検討
50℃の温水5L中に生豆の大豆1kgを10分間浸漬し、温水浸漬処理をした。
次に、10℃の水3Lに、温水浸漬処理された大豆を16時間、水浸漬処理を行い、水浸漬処理終了後の大豆重量(処理後歩留)を測定した。
次に、水浸漬処理された大豆100gをレトルトパウチに充填し、レトルトパウチ内の空気を窒素ガス置換して含気包装した後、115℃30分間レトルト殺菌機で加熱殺菌処理して蒸し大豆を得た。得られた蒸し大豆のサンプルについて、段落〔0044〕大豆水煮の検討と同様にして、大豆中の糖質含含有率(%)の測定および官能評価を行った。
また、比較対象として温水浸漬処理を経ずに水浸漬処理された大豆について、上記同様に充填包装後、加熱殺菌処理して蒸し大豆を得て、同様に分析測定および官能評価を行った。
結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
〔工程(a)、工程(c)、工程(b)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例11、比較例6: 煎り大豆の検討
50℃の温水5L中に生豆の大豆1kgを10分間浸漬し、温水浸漬処理をした。
次に、10℃の水3Lに、温水浸漬処理された大豆を6時間、水浸漬処理をした。
次に、水浸漬処理された大豆を、焙煎機を用いて165℃で20分間焙煎処理して煎り大豆を得て、得られた煎り大豆のサンプルについて、段落〔0044〕大豆水煮の検討と同様にして、官能評価を行った。
また、比較対象として温水浸漬処理を経ずに水浸漬処理された大豆について、上記同様に焙煎処理して煎り大豆を得て、同様に官能評価を行った。
結果を表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
〔工程(a)、工程(b)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例12: 煎り黒大豆の検討
50℃の温水5L中に生豆の黒大豆1kgを20分間浸漬し、温水浸漬処理をした。
次に、温水浸漬処理された黒大豆を焙煎機を用いて165℃で20分間焙煎処理して煎り黒大豆を得た。また、比較対象として10℃の水中に20分間浸漬した後、上記同様に焙煎処理して得られた煎り黒大豆を得た。得られたそれぞれの煎り黒大豆について官能評価をしたところ、温水浸漬処理をして得られた煎り黒大豆は、水浸漬処理したものと比べて、渋みが少なく官能的に優れていた。
また、得られたそれぞれの煎り黒大豆10gを95℃の湯1Lに入れ、5分間放置した後、煎り黒大豆を取り除き、黒豆茶を得た。得られたそれぞれの黒豆茶について官能評価をしたところ、温水浸漬処理を経て得られた黒豆茶は、水浸漬処理を経て得られたものと比べて、渋みが少なく官能的に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の方法によれば、豆類が有する不快味成分が減少され、且つ、豆類が有する好ましい呈味成分を多く含み、うま味が保持された風味良好な豆類加工食品が得られる。また、豆類から不快味成分を除去する工程が、従来沸騰水による水煮処理から温水浸漬処理となるために必要な熱エネルギーコストを大幅に削減し、製造時間の短縮化も図ることができる。さらに、本発明においては、短時間の温水浸漬処理よって、豆類からの糖類などの溶出が減少するため、浸漬処理水に含まれる有機物も少なくなり、工場で製造する際の排水処理負荷を低減することができる。本発明による製造方法は、豆類加工食品の風味の向上を図るだけでなく、製造コスト面および環境面からも優れている。