特許第6716632号(P6716632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6716632パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む被験物質を検出するための組成物及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6716632
(24)【登録日】2020年6月12日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む被験物質を検出するための組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20200622BHJP
   B82Y 15/00 20110101ALI20200622BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20200622BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200622BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   G01N33/543 541Z
   B82Y15/00
   B82Y40/00
   B22F1/00 K
   B22F1/02 A
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-111014(P2018-111014)
(22)【出願日】2018年6月11日
(65)【公開番号】特開2019-215176(P2019-215176A)
(43)【公開日】2019年12月19日
【審査請求日】2019年6月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重明
(72)【発明者】
【氏名】光延 愛美
(72)【発明者】
【氏名】松山 卓央
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 薫
(72)【発明者】
【氏名】溝口 大剛
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/154989(WO,A1)
【文献】 特開2017−095744(JP,A)
【文献】 特開2018−053361(JP,A)
【文献】 Nangia Y. et al.,Palladium@gold bimetalic nanostructures as peroxidase mimic for development of sensitive fluoroimmunoassay,Analytica Chimica Acta,2012年11月 2日,Vol.751,pp.140-145
【文献】 Zheng, Z. et al.,Plasmon-Enhanced Formic Acid Dehydrogenation Using Anisotropic Pd-Au Nanorods Studied at the Single-Particle Level,Journal of the American Chemical Society,米国,2014年12月26日,Vol.137,pp.948-957
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む、被験物質を検出するための組成物であって、
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のアスペクト比が、1.0より大きく、
前記組成物中の第四級アンモニウムカチオンの濃度が、0〜1mMであり、
前記第四級アンモニウムカチオンが、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表され、
前記被験物質が、消光度測定、吸光度測定、粒度分布測定、粒子径測定、ラマン散乱光測定、凝集又は沈殿形成の観察、イムノクロマトグラフィー、電気泳動、及び、フローサイトメトリーから成る群から選択される手段によって検出されること特徴とする、組成物。
【請求項2】
パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含み、それを黒色の呈色剤として使用して被験物質を検出するための組成物であって、
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のアスペクト比が、1.0より大きく、
前記組成物中の第四級アンモニウムカチオンの濃度が、0〜1mMであり、
前記第四級アンモニウムカチオンが、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表されることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む、被験物質を検出するための組成物であって、
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のアスペクト比が、1.0より大きく、
前記組成物中の第四級アンモニウムカチオンの濃度が、0〜1mMであり、
前記第四級アンモニウムカチオンが、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表されることを特徴とする、組成物
【請求項4】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のパラジウム被覆前の最大吸収波長が、600nmより大きい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子上のパラジウム被覆の厚さが、1〜30nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を、550nmにおける消光度が1.0になるような懸濁液の形態にした場合に、CIE1976(L*,a*,b*)色空間における前記懸濁液のL*値が0〜60であり、a*値が−20〜+20であり、b*値が−20〜+20である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のパラジウム被覆前の形状が、多面体状、立方体状、双錘状、棒状、又は板状である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記第四級アンモニウムカチオンが、デシルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン、及び、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムカチオンから成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子が、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持している、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記被験物質と前記特異的結合物質の組み合わせが、抗原とそれに結合する抗体、抗体とそれに結合する抗原、糖鎖又は複合糖質とそれに結合するレクチン、レクチンとそれに結合する糖鎖又は複合糖質、ホルモン又はサイトカインとそれに結合する受容体、受容体とそれに結合するホルモン又はサイトカイン、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー、酵素とそれに結合する基質、基質とそれに結合する酵素、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、IgGとプロテインA又はプロテインG、プロテインA又はプロテインGとIgG、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)とホスファチジルセリン(PS)、PSとTim4、及び、第1の核酸とそれに結合する第2の核酸から成る群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
被験物質を検出するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物の凍結乾燥物。
【請求項12】
請求項9若しくは10に記載の組成物又はその凍結乾燥物を使用して、前記被験物質を検出する方法であって、
前記組成物、又は、前記凍結乾燥物の再懸濁液を、前記被験物質と混合して、前記被験物質と前記特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子との複合体を形成する工程、及び、
前記複合体を検出する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記複合体の形成を、消光度測定、吸光度測定、粒度分布測定、粒子径測定、ラマン散乱光測定、凝集又は沈殿形成の観察、イムノクロマトグラフィー、電気泳動、及び、フローサイトメトリーから成る群から選択される手段によって検出する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物中のパラジウム被覆異方性金ナノ粒子に、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持させて、請求項9又は10に記載の組成物を調製する工程、及び/又は、前記凍結乾燥物を再懸濁する工程をさらに含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物又は請求項11に記載の凍結乾燥物を含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子又は被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む、被験物質を検出するための組成物、及び、それらを利用した被験物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィー法は、被験物質を検出する技術としてインフルエンザの迅速診断キットや妊娠検査薬などに用いられている。イムノクロマトグラフィー法に用いるイムノクロマト試験紙としては、白色のメンブレン(ニトロセルロース製)を使用することが多いので、検出ラインの色としては、白色とのコントラスト差が大きい黒色が識別しやすく好適であると考えられる。
【0003】
従来、イムノクロマトグラフィー法の検出ラインの呈色剤として、金属ナノ粒子が使用されている。例えば、特許文献1又は2には、金ナノプレート又は金ナノロッドのような異方性金ナノ粒子が、可視光から近赤外光の領域に最大吸収波長を有するため、マルチカラー解析に適用できる旨が記載されている。また、特許文献3には、第四級アンモニウムカチオン並びに/又は金及び/若しくは銀のハロゲン化物が表面から除去された金ナノ粒子が記載されている。しかしながら、特許文献1〜3に記載の異方性金ナノ粒子は黒色を呈するものではないし、当該異方性金ナノ粒子を他の金属で被覆することも記載されていない。
【0004】
一方、非特許文献1には、触媒として使用されるパラジウムの光学的応答を改善するために、パラジウムのシェルのコアとして金ナノロッドを用いることが記載されているが、パラジウム被覆金ナノロッドの表面増強ラマン散乱は、パラジウムのシェルが厚くなると減少する旨も記載されている。そして、非特許文献1には、パラジウム被覆金ナノロッドを被験物質の検出のために使用することは記載されていないし、パラジウム被覆金ナノロッドを黒色の呈色剤として使用することも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/154989号
【特許文献2】特開2017−95744号公報
【特許文献3】特開2018−53361号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Langmuir(2009),Vol.25,pp.1162−1168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、異方性金ナノ粒子をパラジウムで被覆すると、特定の波長でシャープな最大吸収を示すという異方性金ナノ粒子の光学特性が失われ、ブロードな吸収スペクトルを示すようになるという性質に着目し、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を黒色の呈色剤として応用することを思い至った。しかしながら、このパラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面には、イムノクロマトグラフィー法などにおいて被験物質を検出するために必要な抗体などを固定化することができなかった。そこで、本発明は、被験物質を検出するために適したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外なことに、パラジウム被覆前の異方性金ナノ粒子の合成に必須の界面活性剤(第四級アンモニウムカチオン)が、抗体などの被験物質に対する特異的結合物質のパラジウム被覆異方性金ナノ粒子への担持を妨げていること、及び、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む組成物中の第四級アンモニウムカチオンの濃度を低減することで、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む組成物が被験物質を検出するために適したものとなることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す被験物質を検出するための組成物、被験物質を検出するための凍結乾燥物、被験物質を検出する方法、及び被験物質を検出するためのキットを提供するものである。
〔1〕パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む、被験物質を検出するための組成物であって、
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のアスペクト比が、1.0より大きく、
前記組成物中の第四級アンモニウムカチオンの濃度が、0〜1mMであり、
前記第四級アンモニウムカチオンが、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表されることを特徴とする、組成物。
〔2〕前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のパラジウム被覆前の最大吸収波長が、600nmより大きい、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子上のパラジウム被覆の厚さが、1〜30nmである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を、550nmにおける消光度が1.0になるような懸濁液の形態にした場合に、CIE1976(L*,a*,b*)色空間における前記懸濁液のL*値が0〜60であり、a*値が−20〜+20であり、b*値が−20〜+20である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のパラジウム被覆前の形状が、多面体状、立方体状、双錘状、棒状、又は板状である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕前記第四級アンモニウムカチオンが、デシルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン、及び、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムカチオンから成る群から選択される、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔7〕前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子が、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持している、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔8〕前記被験物質と前記特異的結合物質の組み合わせが、抗原とそれに結合する抗体、抗体とそれに結合する抗原、糖鎖又は複合糖質とそれに結合するレクチン、レクチンとそれに結合する糖鎖又は複合糖質、ホルモン又はサイトカインとそれに結合する受容体、受容体とそれに結合するホルモン又はサイトカイン、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー、酵素とそれに結合する基質、基質とそれに結合する酵素、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、IgGとプロテインA又はプロテインG、プロテインA又はプロテインGとIgG、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)とホスファチジルセリン(PS)、PSとTim4、及び、第1の核酸とそれに結合する第2の核酸から成る群から選択される、前記〔7〕に記載の組成物。
〔9〕被験物質を検出するための、前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の組成物の凍結乾燥物。
〔10〕前記〔7〕若しくは〔8〕に記載の組成物又はその凍結乾燥物を使用して、前記被験物質を検出する方法であって、
前記組成物、又は、前記凍結乾燥物の再懸濁液を、前記被験物質と混合して、前記被験物質と前記特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子との複合体を形成する工程、及び、
前記複合体を検出する工程を含むことを特徴とする、方法。
〔11〕前記複合体の形成を、消光度測定、吸光度測定、粒度分布測定、粒子径測定、ラマン散乱光測定、色調変化の観察、凝集又は沈殿形成の観察、イムノクロマトグラフィー、電気泳動、及び、フローサイトメトリーから成る群から選択される手段によって検出する、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の組成物中のパラジウム被覆異方性金ナノ粒子に、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持させて、前記〔7〕又は〔8〕に記載の組成物を調製する工程、及び/又は、前記凍結乾燥物を再懸濁する工程をさらに含む、前記〔10〕又は〔11〕に記載の方法。
〔13〕前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の組成物又は前記〔9〕に記載の凍結乾燥物を含む、前記〔10〕〜〔12〕のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従って、アスペクト比が1.0より大きいパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を調製し、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表される第四級アンモニウムカチオンの濃度が1mM以下であるように組成物を調製すれば、白色とのコントラスト差の大きい黒色又はそれに近い色を呈し、かつ、抗体などの被験物質に対する特異的結合物質を容易に担持することのできるパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む組成物を提供することができる。したがって、イムノクロマトグラフィー法などにおいてパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を黒色の呈色剤として使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】懸濁液Aの光学特性を示す。
図2】懸濁液A中の金ナノロッドの透過走査電子顕微鏡(STEM)観察写真を示す。
図3】懸濁液B〜Eの光学特性を示す。
図4】懸濁液B中のパラジウム被覆金ナノロッドのSTEM観察写真を示す。
図5】懸濁液C中のパラジウム被覆金ナノロッドのSTEM観察写真を示す。
図6】懸濁液D中のパラジウム被覆金ナノロッドのSTEM観察写真を示す。
図7】懸濁液E中のパラジウム被覆金ナノロッドのSTEM観察写真を示す。
図8】懸濁液F〜Iの光学特性を示す。
図9】懸濁液Mの光学特性を示す。
図10】懸濁液M中の金ナノロッドのSTEM観察写真を示す。
図11】懸濁液Nの光学特性を示す。
図12】懸濁液N中のパラジウム被覆金ナノロッドのSTEM観察写真を示す。
図13】懸濁液Oの光学特性を示す。
図14】イムノクロマト試験の手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の被験物質を検出するための組成物は、アスペクト比が1.0より大きいパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含み、前記組成物中の第四級アンモニウムカチオンの濃度が0〜1mMであることを特徴としている。
【0012】
本明細書に記載の「異方性金ナノ粒子」とは、金から製造された形状異方性の粒子であって、ナノメートル(nm)オーダーの大きさを持つ粒子のことをいう。パラジウム被覆前の前記異方性金ナノ粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、多面体状、立方体状、双錘状、棒状(ロッド状)、又は板状(プレート状)であってもよい。また、パラジウム被覆前の前記異方性金ナノ粒子の最大吸収波長は、特に限定されないが、例えば約600nmより大きくてもよく、好ましくは約700nm以上、さらに好ましくは約800nm以上である。
【0013】
本発明の組成物に含まれる異方性金ナノ粒子の表面はパラジウムで被覆されており、このような異方性金ナノ粒子を、本明細書では特に「パラジウム被覆異方性金ナノ粒子」ということもある。前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の最大長径は、例えば、約1〜約500nmであってもよく、好ましくは約5〜約200nm以下であり、さらに好ましくは約10nm〜約100nmである。異方性金ナノ粒子の大きさは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察、又は透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行って計測してもよく、最大長径に関しては動的光散乱式粒度分布測定装置(DLS)で測定してもよい。異方性金ナノ粒子の最大長径を、SEM観察写真、STEM観察写真、又はTEM観察写真から計測する場合には、任意の異方性金ナノ粒子100個の最大長径を計測した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって最大長径を算出してもよい。
【0014】
粒子の最大長径対最大長径に直交する幅の比(最大長径/最大長径に直交する幅;例えば、棒状粒子の場合は長軸/短軸、板状粒子の場合は平面最大長/厚さ)で定義される指数をアスペクト比といい、これは粒子の形状を表すために用いることができる。前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のアスペクト比は、1.00より大きい。
【0015】
前記パラジウムの被覆の厚さは、特に限定されないが、例えば、約1〜約30nmであってもよく、好ましくは約2〜約20nm、さらに好ましくは約3〜約15nmである。前記パラジウムの被覆の厚さは、当技術分野で通常使用される方法によって特に制限されることなく測定することができ、例えば、SEM観察、STEM観察、又はTEM観察により、パラジウム被覆前後の異方性金ナノ粒子の大きさを測定し、その大きさの差からパラジウムの被覆の厚さを算出してもよい。具体的には、パラジウム被覆前の異方性金ナノ粒子の最大長径及び最大長径に直交する幅の長さがそれぞれX0[nm]及びY0[nm]であり、パラジウム被覆後の異方性金ナノ粒子の最大長径及び最大長径に直交する幅の長さがそれぞれX1[nm]及びY1[nm]である場合、最大長方向の被覆の厚さPX[nm]は、
X=(X1−X0)/2
であり、最大長径に直交する方向の被覆の厚さPY[nm]は、
Y=(Y1−Y0)/2
であるので、粒子全体の被覆の厚さの平均値(平均膜厚)Pave[nm]は、
ave=(PX・Y0+PY・X0)/(X0+Y0
と計算することができる。また、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF−STEM)を用いて異方性金ナノ粒子表面のパラジウムの厚みを測定し、その平均値を算出してもよい。具体的には、HAADF−STEM像から任意に選択した粒子の任意の部位10点においてパラジウムの厚みを測定し、粒子10個分の合計100点のデータについて、上下10%を除いた80点の平均値を、パラジウムの厚みの平均とすれば良い。また、EDS(エネルギー分散型X線分光器)と透過電子顕微鏡(TEM)を併用してパラジウム被覆異方性金ナノ粒子の元素マッピングを行い、これによって得られたEDS像より、パラジウムの厚さを測定してもよい。更に、粒子径既知の異方性金ナノ粒子を使用し、パラジウム被覆した場合は、パラジウム被覆前後の粒子径の増大分をパラジウムの厚さとして測定しても良い。
【0016】
異方性金ナノ粒子をパラジウムで被覆すると、特定の波長で最大吸収を示す吸光スペクトルで示されるような異方性金ナノ粒子の特徴的な光学特性が失われ、その代わりに、その最大吸収を示していた波長付近から短波長側に向けて、広く吸光特性を示すようになる。そうすると、本発明の組成物に含まれるパラジウム被覆異方性金ナノ粒子は、幅広い波長領域の光を吸収することができるため、白色とのコントラスト差の大きい黒色又はそれに近い色を呈し得る。例えば、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を、550nmにおける消光度が1.0になるような懸濁液の形態にした場合に、CIE1976(L*,a*,b*)色空間における前記懸濁液のL*値は約0〜約60であり、a*値は約−20〜約+20であり、b*値は約−20〜約+20であってもよく、好ましくは、L*値は約0〜約50であり、a*値は約−15〜約+15であり、b*値は約−15〜約+15、さらに好ましくは、L*値は約0〜約40であり、a*値は約−10〜約+10であり、b*値は約−10〜約+10である。L*値、a*値、及びb*値の値がこのような範囲であると、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の呈する色はより黒々としたものとなり、白色とのコントラスト差が特に大きくなるので、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子が、白色の背景においてより視認しやすいものとなる。前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の懸濁液のL*値、a*値、及びb*値は、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子のパラジウム被覆前の形状を調節してその最大吸収波長を調節すること、及び/又は、前記パラジウム被覆の厚さを調節することなどによって、適宜設定することができる。前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の懸濁液のL*値、a*値、及びb*値は、当技術分野で通常使用される方法によって特に制限されることなく測定することができ、例えば、紫外可視分光光度計(例えば、紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PC、株式会社島津製作所)により測定してもよい。また、イムノクロマト試験紙上でCIE1976(L*,a*,b*)色空間を測定する場合は、展開操作後のイムノクロマト試験紙をスキャニング(装置名:Cano Scan LiDE500F、製造元:キヤノン株式会社)し、検出ライン(捕獲抗体の固定化部分)や検出ライン以外の部分を画像解析ソフト(例えばAdobe社製PhotoShopなど)を用いて測定してもよい。
【0017】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子は、市販の金ナノ粒子、又は、金ナノ粒子の分野で通常採用されている公知の方法で製造した金ナノ粒子を、常法によりパラジウムで被覆して製造することができる(要すれば特許文献1〜3及び非特許文献1などを参照)。
【0018】
本発明の組成物は、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子が分散媒中に懸濁した懸濁液の形態であり得る。前記分散媒としては、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を分散できるものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、前記分散媒は、水、水性緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液など)、アルコール類(エタノール、メタノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、及びテトラヒドロフランなどを1種類又はそれ以上含んでもよく、好ましくは、生化学実験において好適である水又は水性緩衝液を含む。また、前記分散媒は、後述の本発明の組成物に含まれ得る任意成分を含んでいてもよい。前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の懸濁液は、静置状態で前記分散媒中に分散しているものであってもよく、静置状態では沈降しているが振盪や超音波処理によって前記分散媒中に分散するものであってもよい。
【0019】
本発明の組成物においては、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表される第四級アンモニウムカチオンの濃度が、前記分散媒中で0〜1mM、好ましくは0〜0.01mMであり、さらに好ましくは、0〜0.0001mMであり、特に好ましくは、前記第四級アンモニウムカチオンは、前記分散媒中には含まれない(すなわち、その濃度は0mMである)。前記第四級アンモニウムカチオンは、異方性金ナノ粒子を作製するために必要な化合物であるが、これは、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と後述する被験物質に対する特異的結合物質との結合性を低下させ得るものである。このため、前記分散媒中の前記第四級アンモニウムカチオンの濃度、特に前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と被験物質に対する特異的結合物質とを結合する際の前記第四級アンモニウムカチオンの濃度は、低い方が好ましい。前記第四級アンモニウムカチオンの4種のRの組み合わせは、例えば、炭素数1〜9(好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3)の直鎖又は分枝鎖アルキル基(Ra)と炭素数10〜20(好ましくは12〜18、さらに好ましくは14〜17)の直鎖又は分枝鎖アルキル基(Rb)との組み合わせであってもよく、好ましくは2種のRaと2種のRbとの組み合わせ、さらに好ましくは3種のRaと1種のRbとの組み合わせである。このような第四級アンモニウムカチオンは、例えば、デシルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオン、又は、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムカチオンであってもよい。前記第四級アンモニウムカチオンの対イオンとしては、このカチオンの対イオンとして通常採用されているものを特に制限なく用いることができ、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、又は、ヨウ化物イオンを採用してもよい。
【0020】
前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の懸濁液の分散媒中の第四級アンモニウムカチオンの濃度は、遠心分離法、透析、サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー)、及び/又は限外ろ過(例えば、タンジェンシャルフロー・フィルトレーションによる限外ろ過)などにより、当該分散媒を第四級アンモニウムカチオンを含まない分散媒と置換することによって減少させることができる。例えば、遠心分離法により第四級アンモニウムカチオン濃度を低減する場合、具体的には、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の懸濁液を遠心分離して上澄み液を除去し、得られた沈殿物の質量を測定した後、除去した上澄み液と同量の分散媒(第四級アンモニウムカチオンを含まないもの)で当該沈殿物を再度懸濁する。例えば、沈殿物の質量が1gであり、再懸濁に使用した分散媒の質量が99gであると、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む懸濁液の分散媒中の第四級アンモニウムカチオンの濃度は、100倍に希釈される。
【0021】
前記分散媒中の前記第四級アンモニウムカチオンの濃度は、当技術分野で通常使用される方法によって特に制限されることなく測定及び/又は計算することができる(要すれば特許文献1などを参照)。例えば、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を作製するときの第四級アンモニウムカチオンの使用量から、当該第四級アンモニウムカチオンの濃度を算出し、さらにその後の遠心分離などによる分散媒置換工程における希釈倍率をかけることで、結果として得られる懸濁液の分散媒中の前記第四級アンモニウムカチオンの濃度を計算してもよい。また、前記分散媒中の前記第四級アンモニウムカチオンを、核磁気共鳴分光法(NMR)、質量分析(MS)、又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などによって直接測定して、その濃度を計算してもよい。
【0022】
前記第四級アンモニウムカチオンは、臭化金又は臭化銀などの金又は銀のハロゲン化物を介して前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面に結合している場合もある。このような第四級アンモニウムカチオンは、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面を、金及び/若しくは銀のハロゲン化物とキレートを形成する化合物並びに/又はジメチルスルホキシドによって処理することによって、当該パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面上から除去することができる(要すれば特許文献3を参照)。前記化合物は、特に限定されないが、例えば、チオシアン酸、チオ硫酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び乳酸、並びにこれらの塩などであってもよく、前記塩は、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩などであってもよい。前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面に結合している前記第四級アンモニウムカチオン、並びに、金及び/若しくは銀のハロゲン化物の量は、当技術分野で通常使用される方法によって特に制限されることなく測定することができ、例えば、飛行時間型質量分析計(TOF−MS)などによって測定することができる(要すれば特許文献3などを参照)。
【0023】
本発明の組成物は、水溶性高分子を任意に含んでもよく、含まなくてもよい。本明細書に記載の「水溶性高分子」とは、分子量が500以上、好ましくは500〜1,000,000、さらに好ましくは500〜100,000の水溶性物質のことをいう。本明細書に記載の「水溶性」とは、常温常圧下で高分子が水に0.001質量%以上溶解することをいう。前記水溶性高分子としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸又はそのナトリウム塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアリルアミン、デキストラン、ポリメタクリルアミド、ポリビニルフェノール、ポリ安息香酸ビニル、リン脂質ポリマー、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、又は、ビス(p−スルホナトフェニル)フェニルホスフィンを使用してもよく、これらは、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と化学結合する官能基である水酸基、メルカプト基、ジスルフィド基、アミノ基、カルボキシル基などで修飾されていてもよい。好ましくは、前記水溶性高分子は、ポリスチレンスルホン酸又はそのナトリウム塩、PVP、又は、チオール末端ポリエチレングリコールである。これらの水溶性高分子を含有している、塗料やインクなどに用いられる市販の分散剤を、本発明の組成物に配合する水溶性高分子として使用してもよい。
【0024】
本発明の組成物に含まれる水溶性高分子の種類は、その組成物の用途に応じて選択することができる。例えば、生体実験や細胞実験に使用する場合、生体適合性が良好なポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールなどを用いてもよい。本発明の組成物が水溶性高分子を含む場合には、その組成物中に溶解又は分散している水溶性高分子の濃度は、例えば100μM以下であってもよく、好ましくは50μM以下、さらに好ましくは10μM以下である。あるいは、前記水溶性高分子の濃度は、例えば1質量%以下であってもよく、好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。本発明の組成物に水溶性高分子を配合すると、前記組成物中において前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の分散安定性が向上する。特定の理論に拘束されるものではないが、水溶性高分子の濃度が100μM以下又は1質量%以下であると、その濃度が100μM又は1質量%を超える場合と比較して、例えば、前記被験物質に対する特異的結合物質が前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子に良好に担持されるか、又は、被験物質に対する特異的結合物質を担持した前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子が被験物質と安定した複合体を形成するため、結果としてその被験物質の検出感度を高めることができる。
【0025】
水溶性高分子の濃度の測定方法として、核磁気共鳴分光法(NMR)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC))、示唆熱・熱重量測定(TG−DTA)などが挙げられる。NMRの場合、本発明の組成物を乾燥させ、得られた固形分を重溶媒で溶解(分散)させて測定する。重溶媒には既知濃度の内部標準物質(例えば、マレイン酸)を予め添加し、得られたスペクトル中の水溶性高分子由来のシグナルの積分値と内部標準物質由来のシグナルの積分値を比較することで水溶性高分子の濃度を算出することができる。また、GPCの場合、初めに複数の既知濃度の水溶性高分子水溶液を分析し、得られたチャート中の水溶性高分子由来のピーク面積より検量線を作成する。次に、本発明の組成物を測定し、得られたチャート中の水溶性高分子由来のピーク面積より水溶性高分子の濃度を算出することができる。さらに、TG−DTAの場合、本発明の組成物の乾燥固形分を測定した際の、重量変化から水溶性高分子量を算出することができる。
【0026】
本発明の被験物質を検出するための組成物は、クエン酸ナトリウムを任意に含んでもよく、含まなくてもよい。クエン酸ナトリウムが含まれていると、前記組成物中の前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の分散性が向上する。前記組成物がクエン酸ナトリウムを含む場合には、その組成物中のクエン酸ナトリウムの濃度は、例えば50mM以下であってもよく、好ましくは25mM以下、さらに好ましくは13mM以下である。クエン酸ナトリウムの濃度が50mM以下であると、前記組成物中の前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子は凝集しにくい。
【0027】
本発明の組成物は、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子へ悪影響を与えない限り任意の成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を製造する際に用いた試薬(例えば、水素化ホウ素ナトリウムやアスコルビン酸)や分散剤(例えば、分子量が500より小さいポリエチレングリコール)などがあげられる。
【0028】
本発明の組成物は、被験物質に対する特異的結合物質、すなわち検出試薬を標識するために用いることができる。換言すると、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子は、被験物質に対する特異的結合物質を担持することができる。本明細書に記載の「担持」とは、共有結合若しくは非共有結合又は直接的若しくは間接的な結合などの様式にかかわらず、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と被験物質に対する特異的結合物質とが結合して複合体を形成していることを意味している。担持の方法としては、通常の担持方法を特に制限なく用いることができ、物理吸着、化学吸着(表面への共有結合)、化学結合(共有結合、配位結合、イオン結合又は金属結合)等を利用して、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と被験物質に対する特異的結合物質とを直接的に結合させる方法や、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面に前述の水溶性高分子の一部を結合させて、その水溶性高分子の末端又は主鎖若しくは側鎖に、直接的又は間接的に被験物質に対する特異的結合物質を結合させる方法を採用することができる。例えば、被験物質に対する特異的結合物質が抗体である場合には、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と抗体の溶液とを混合し、振盪し、遠心分離することで、抗体を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子(標識された検出試薬)を沈殿物として得ることができる。また、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子と抗体とを静電吸着により担持させる場合、マイナス電荷を有するポリスチレンスルホン酸で前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子表面を被覆すると、前記抗体の担持効率が向上し得る。なお、前記被験物質に対する特異的結合物質は、前記水溶性高分子と同様に、懸濁液である本発明の組成物中での前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の分散安定性を向上し得るので、特に前記被験物質に対する特異的結合物質を担持するパラジウム被覆異方性金ナノ粒子の分散剤としても好適である。
【0029】
前記被験物質に対する特異的結合物質としては、検出の対象である被験物質を、該被験物質との複合体形成により検出できるものであって、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を標識として利用することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。被験物質と被験物質に対する特異的結合物質との組み合わせの具体例としては、抗原とそれに結合する抗体、抗体とそれに結合する抗原、糖鎖又は複合糖質とそれに結合するレクチン、レクチンとそれに結合する糖鎖又は複合糖質、ホルモン又はサイトカインとそれに結合する受容体、受容体とそれに結合するホルモン又はサイトカイン、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー、酵素とそれに結合する基質、基質とそれに結合する酵素、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、IgGとプロテインA又はプロテインG、プロテインA又はプロテインGとIgG、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)とホスファチジルセリン(PS)、PSとTim4、あるいは、第1の核酸とそれに結合する(ハイブリダイズする)第2の核酸等があげられる。前記第2の核酸は、前記第1の核酸と相補的な配列を含む核酸であってもよい。
【0030】
被験物質が抗原である場合には、該抗原に対する特異的結合物質は抗体であってもよい。前記抗体は、前記抗原に対して特異的に結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体又はそれらの断片であってもよく、該断片は、F(ab)フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab’)2フラグメント又はF(v)フラグメントであってもよい。被験物質としての抗原は、コンカナバリンA(ConA)、麦芽アグルチニン及びリシンなどのレクチンであってもよく、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス及びB型肝炎ウイルス、ジカウイルス、デングウイルスなどのウイルス又はそれらが有する物質(例えば、B型肝炎ウイルス抗原(HBs抗原)又はインフルエンザウイルスのヘマグルチニン)であってもよく、アスペルギルス・フラバス、クラミジア、梅毒トレポネーマ、溶連菌、炭疽菌、黄色ブドウ球菌、赤痢菌、大腸菌、サルモネラ菌、ネズミチフス菌、パラチフス菌、緑膿菌及び腸炎ビブリオ菌などの病原性微生物又はそれらが有する物質(例えば、アスペルギルス・フラバスのアフラトキシン(B1、B2、G1、G2又はM1など)、腸管出血性大腸菌のベロ毒素又は溶連菌のストレプトリジンO)であってもよく、免疫グロブリンG(IgG)、リウマチ因子及びC反応性タンパク質(CRP)などの血中タンパク質であってもよく、ムチンなどの糖タンパク質であってもよく、インスリン、下垂体ホルモン(例えば、成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロラクチン、又はメラニン細胞刺激ホルモン(MSH))、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺ホルモン(例えば、ジヨードサイロニン又はトリヨードサイロニン)、絨毛性ゴナドトロピン、カルシウム代謝調節ホルモン(例えば、カルシトニン又はパラトルモン)、膵ホルモン、消化管ホルモン、血管作動性腸管ペプチド、卵胞ホルモン(例えば、エストロン)、天然又は合成黄体ホルモン(例えば、プロゲステロン)、男性ホルモン(例えば、テストステロン)、及び副腎皮質ホルモン(例えば、コルチゾール)などのホルモンであってもよく、セロトニン、ウロキナーゼ、フェリチン、サブスタンP、プロスタグランジン及びコレステロールなどのその他生体内物質であってもよく、前立腺性酸性フォスファターゼ(PAP)、前立腺特異抗原(PSA)、アルカリ性フォスファターゼ、トランスアミナーゼ、トリプシン、ペプシノーゲン、α−フェトプロテイン(AFP)及び癌胎児性抗原(CEA)などの腫瘍マーカーであってもよく、血液型抗原などの糖鎖抗原であってもよく、ヘモグロビン及びトランスフェリンなどの便潜血の検出に用いられるマーカーであってもよく、血液凝固・線溶系において活性型第XIII因子作用によりクロスリンクを受けた安定化フィブリンがプラスミンによって分解されたフィブリン分解産物の一種であるDダイマーであってもよい。そして、被験物質である抗原がホルモン又はサイトカインなどの生体内物質である場合には、該生体内物質に対する特異的結合物質は、抗体だけでなく受容体であってもよく、被験物質である抗原が糖鎖又は糖鎖を有する複合糖質である場合には、該糖鎖又は糖鎖を有する複合糖質に対する特異的結合物質は、抗体だけでなくレクチンであってもよい。また、被験物質としての抗原は、ペニシリン及びカドミウムなどのハプテンであってもよい。
【0031】
被験物質が抗体である場合には、該抗体に対する特異的結合物質は抗原であってもよい。前記抗原は、前記抗体に対して特異的に結合する抗原全体又はその断片であってもよく、それらを他の担体と結合した融合物質であってもよい。被験物質としての抗体は、抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体又は抗リン脂質抗体などの自己抗体であってもよく、抗クラミジア抗体、抗HIV抗体又は抗HCV抗体などの外来抗原に対する抗体であってもよい。
【0032】
被験物質が糖鎖である場合には、該糖鎖に対する特異的結合物質はレクチンであってもよい。前記レクチンは、前記糖鎖に特異的に結合するガレクチン、C型レクチン、マメ科レクチン又はそれらの断片であってもよい。被験物質としての糖鎖は、単糖又は多糖であってもよく、それらがタンパク質又は脂質に結合した複合糖質であってもよい。例えば、被験物質がマンノースを含む糖鎖である場合には、該糖鎖に対する特異的結合物質としてマメ科レクチンのコンカナバリンA(ConA)を使用することができる。
【0033】
被験物質がレクチンである場合には、該レクチンに対する特異的結合物質は糖鎖であってもよい。前記糖鎖は、前記レクチンに特異的に結合する単糖、多糖、複合糖質又はそれらが他の担体と結合した融合物質であってもよい。被験物質としてのレクチンは、ガレクチン、C型レクチン又はマメ科レクチンであってもよい。例えば、被験物質がマメ科レクチンのコンカナバリンA(ConA)である場合には、該レクチンに対する特異的結合物質としてマンノースを含む糖鎖を使用することができる。
【0034】
被験物質と被験物質に対する特異的結合物質との組み合わせが、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマーである場合には、核酸アプタマーは、例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、D群赤痢菌・ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、溶連菌(Streptococcus hemolyticus)、パラチフス(Salmonella paratyphi A)、ブドウ球菌エンテロトキシンB(Staphylococcal enterotoxin B)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)等の細菌、ムチン1等の上皮の細胞表面に表れる腫瘍マーカー、若しくはβ−ガラクトシダーゼやトロンビン等の酵素等と結合するDNAアプタマー、又は、ヒト免疫不全ウイルスのTatタンパク質やRevタンパク質と結合するRNAアプタマーであってもよく、ペプチドアプタマーは、例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)の腫瘍性タンパク質HPV16 E6と結合するペプチドアプタマーであってもよい。
【0035】
被験物質がビタミン類である場合には、該ビタミン類に対する特異的結合物質は、ビタミンDと結合するトランスカルシフェリン及びビタミンB12と結合するトランスコバラミンなどのビタミン結合タンパク質であってもよい。被験物質が抗生物質である場合には、該抗生物質に対する特異的結合物質は、ペニシリンに結合するPBP1及びPBP2などのペニシリン結合タンパクであってもよい。
被験物質又は被験物質に結合する物質としての核酸は、例えば、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、又は、それらの増幅物であってもよい。
【0036】
ある態様では、本発明は、被験物質を検出するための凍結乾燥物に関しており、前記凍結乾燥物は、前記被験物質を検出するための組成物の凍結乾燥物である。本発明の凍結乾燥物は、当技術分野で通常使用される方法によって特に制限されることなく、前記被験物質を検出するための組成物から作製することができる。本発明の凍結乾燥物は、前記被験物質を検出する物質を運搬又は保管するのに好適な形態である。本発明の凍結乾燥物は、被験物質を検出するときに、分散媒に再懸濁して使用することができる。本発明の凍結乾燥物の分散媒としては、前記被験物質を検出するための組成物に使用され得る前述の分散媒を、特に制限されることなく使用することができる。
【0037】
ある態様では、本発明は、被験物質を検出する方法にも関する。前記被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子は、対応する被験物質に結合して、それを検出することができる。本発明の被験物質を検出する方法は、本発明の組成物、又は、本発明の凍結乾燥物の再懸濁液を、被験物質と混合して、前記被験物質と前記被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子との複合体を形成する工程、及び、その複合体を検出する工程を含む。本発明の被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子は、本発明の被験物質を検出する方法を実施する直前に調製してもよい。換言すれば、本発明の被験物質を検出する方法は、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子に、被験物質に対する特異的結合物質を担持させる工程をさらに含んでもよい。また、本発明の被験物質を検出する方法は、本発明の凍結乾燥物を再懸濁する工程をさらに含んでもよい。
【0038】
前記複合体は、被験物質の検出の分野で通常用いられる手段又は凝集物若しくは沈殿物を検出するのに通常用いられる手段を、特に制限なく利用することによって検出することができる。例えば、前記複合体の形成を、消光度測定、吸光度測定、粒度分布測定、粒子径測定、ラマン散乱光測定、色調変化の観察、凝集又は沈殿形成の観察、イムノクロマトグラフィー法、電気泳動、及び、フローサイトメトリーから成る群から選択される手段によって検出してもよい。
【0039】
吸光度は、平行光線が物体中を透過するときの該物体の光吸収の強さをいうが(狭義の吸光度)、実測にあたっては、該物体の表面での反射又は散乱などによる光の損失も考慮する必要がある(広義の吸光度)。光の吸収、反射及び散乱などのあらゆる要因による光の損失の強度を意味する広義の吸光度を、本明細書では特に消光度という。被験物質とその被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子との複合体が形成すると、ある波長領域における消光度又は吸光度が減少する。消光度測定又は吸光度測定は、200〜2500nmの範囲の波長領域で行ってもよく、430〜2000nmの範囲のパラジウム被覆前の異方性金ナノ粒子の最大吸収波長において行ってもよい。消光度又は吸光度は、これらの測定のために通常用いられる紫外可視分光光度計(例えば、紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PC、株式会社島津製作所)などによって測定してもよい。
【0040】
被験物質とその被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子との複合体が形成すると、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子同士が前記被験物質を介して架橋され、単独のパラジウム被覆異方性金ナノ粒子よりも粒子径が大きくなる。このため、粒度分布測定又は粒子径測定により、被験物質とその被験物質に対する特異的結合物質を担持したパラジウム被覆異方性金ナノ粒子との複合体の形成を確認することができる。粒度分布測定又は粒子径測定は、これらの測定のために通常用いられる粒度分布計などによって測定しても良い。例えば、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ−2000ZS(大塚電子株式会社)、ナノ粒子解析システム NanoSight LM10(Malvern Panalytical社)、レーザ回折式粒子径分布測定装置 SALD−7500nano(株式会社島津製作所)などによって測定してもよい。
【0041】
イムノクロマトグラフィー法では、検出部位(ライン状)に前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子が集合する。このとき、前記パラジウム被覆異方性金ナノ粒子は、黒色又はそれに近い色を呈するため、前記複合体の形成を色として認識することができる。本試験の結果は目視判定又は輝度差解析によって定量的に解析することができる。例えば、目視判定では、イムノクロマト試験後の検出ラインの有無を目視によって確認し、検出ラインが確認可能な最低被験物質濃度を検出感度(検出限界)と判断することができる。また、輝度解析では、(1)被験物質を含む展開液を使用したイムノクロマト試験時のイムノクロマト担体上の検出ラインと検出ライン以外の部分(対照領域)との輝度差から、(2)被験物質を含まない展開液を使用したイムノクロマト試験時の検出ラインと検出ライン以外の部分(対照領域)との輝度差を引いた値の絶対値が、2(検出限界輝度差)以上である時の最低被験物質濃度を検出感度(検出限界)と判断することができる。また、近赤外域の光を吸収するパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を使用したイムノクロマト試験においては、試験後に近赤外光を検出部に照射し、そのときの吸光を測定することで検出を確認することもできる。
【0042】
ある態様では、本発明は、前記被験物質を検出するための組成物又は前記被験物質を検出するための凍結乾燥物を含む、前記被験物質を検出する方法に使用するためのキットに関する。本発明のキットは、被験物質の標準品、イムノクロマト試験紙、又は、使用方法を記載した取扱説明書などをさらに含んでもよい。
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
1.パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む被験物質を検出するための組成物の作製
パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む被験物質を検出するための組成物は、以下の3工程によって作製する。
(1)異方性金ナノ粒子を含む懸濁液の作製
(2)パラジウムによる異方性金ナノ粒子の被覆
(3)パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面処理
【0045】
(1)異方性金ナノ粒子を含む懸濁液の作製
本実施例では、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(臭化セチルトリメチルアンモニウム;CTAB)を使用した通常の合成方法により、最大吸収波長が894nmであり、長軸及び短軸の長さがそれぞれ45nm及び9nm(アスペクト比5.0)である棒状の異方性金ナノ粒子(金ナノロッド)を含む懸濁液Aを作製した。この懸濁液Aの最大吸収波長は、その20倍希釈懸濁液の光学特性を、紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PC(株式会社島津製作所製)を用いて、光路長:1cm及び測定波長:190−1300nmの条件下で測定することにより確認した(図1)。そして、前記懸濁液A中の異方性金ナノ粒子の大きさ及び形状は、超高分解能分析走査電子顕微鏡SU−70(株式会社日立製作所製)を用いて、透過走査電子顕微鏡(STEM)観察を行うことにより確認した(図2)。なお、特に記載がない場合、以下の懸濁液においても、それぞれ同様の方法で光学特性を測定し、STEM観察を行った。また、懸濁液Aの分散媒中のCTAB濃度は、約400mMと計算された。
【0046】
(2)パラジウムによる異方性金ナノ粒子の被覆
上記(1)で作製した懸濁液A100gを30℃下で撹拌し、10mMのH2PdCl4水溶液及び100mMのアスコルビン酸水溶液を任意の割合で添加して、被覆の厚さの異なるパラジウム被覆金ナノロッドを含む懸濁液B、C、D、及びEを作製した。これらの懸濁液の20倍希釈懸濁液の光学特性を図3に示す。いずれのパラジウム被覆異方性金ナノ粒子も、広い波長領域で吸光特性を有しており、黒色を呈していた。そして、懸濁液Bの濃度を550nmにおける消光度が1.0となるように調製した場合に、そのCIE1976(L*,a*,b*)色空間は、紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PC(株式会社島津製作所製)により、L*=34.0、a*=−0.9、b*=+3.0、と測定された。
【0047】
また、懸濁液B〜E中のパラジウム被覆異方性金ナノ粒子のSTEM観察を行った結果を、それぞれ図4〜7に示す。そして、STEM観察により測定した各パラジウム被覆異方性金ナノロッドの長軸及び短軸の長さを、後掲の表1に示す。さらに、懸濁液A中の金ナノロッドの長軸及び短軸の長さ(それぞれ45nm及び9nm)との比較に基づいて長軸方向の被覆の厚さPX[nm]及び短軸方向の被覆の厚さPY[nm]を計算し、粒子全体の被覆の厚さの平均値(平均膜厚)Pave[nm]を、次の計算式:
ave=(PX×9+PY×45)/(45+9)
に従って計算した。その結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0048】
(3)パラジウム被覆異方性金ナノ粒子の表面処理
上記(2)で作製した懸濁液Bを遠沈管に入れて遠心分離し、上清を除去した。そして、遠沈管底部のパラジウム被覆金ナノロッドにポリ(p−スチレンスルホン酸ナトリウム)(Na−PSS)水溶液を添加してパラジウム被覆金ナノロッドを再分散した。得られた懸濁液を再び遠心分離し、上清を除去した後、Na−PSS水溶液でパラジウム被覆金ナノロッドを再分散した。得られた懸濁液を再び遠心分離し、上清を除去した後、クエン酸のジメチルスルホキシド溶液でパラジウム被覆金ナノロッドを再分散した。得られた懸濁液を再び遠心分離し、上清を除去した後、クエン酸ナトリウム水溶液で再分散して、表面処理パラジウム被覆金ナノロッドを含む懸濁液Fを作製した。上記被覆工程及び表面処理工程で使用した溶媒の量及び遠心分離操作を考慮すると、懸濁液Fの分散媒中のCTAB濃度は、3.2×10-5mMと計算された。懸濁液C、D、及びEも同様に表面処理し、表面処理パラジウム被覆金ナノロッドを含む懸濁液G、H、及びIをそれぞれ作製した(分散媒中のCTAB濃度の計算値は、後掲の表3を参照)。これらの懸濁液の光学特性を図8に示す。また、金ナノロッドを含む懸濁液Aも同様の方法で表面処理し、表面処理金ナノロッドを含む懸濁液Jを作製した(分散媒中のCTAB濃度の計算値は、後掲の表3を参照)。
【0049】
(4)他の異方性金ナノ粒子を含む懸濁液の作製
上記(1)と同様にして、最大吸収波長が1250nmであり、長軸及び短軸の長さがそれぞれ71nm及び9nm(アスペクト比は7.9)である異方性金ナノ粒子(金ナノロッド)を含む懸濁液Mを作製した(図9及び10)。そして、上記(2)と同様にして、懸濁液Mの金ナノロッドをパラジウムで被覆し、パラジウム被覆金ナノロッドを含む懸濁液Nを作製した。この懸濁液の20倍希釈懸濁液の光学特性を図11に示し、STEM観察結果を図12に示す。懸濁液Nに含まれるパラジウム被覆異方性金ナノロッドの長軸及び短軸の長さ及びパラジウム被覆の平均膜厚は、上と同様の方法によりそれぞれ以下のように測定された。
懸濁液N 長軸:88nm、短軸:23nm(アスペクト比3.8)
平均膜厚:7.2nm
続いて、上記(3)と同様にして懸濁液N中のパラジウム被覆金ナノロッドを表面処理して、表面処理パラジウム被覆金ナノロッドを含む懸濁液Oを作製した(分散媒中のCTAB濃度の計算値は、後掲の表3を参照)。この懸濁液Oの光学特性を図13に示す。
【0050】
(5)CIE1976(L*,a*,b*)色空間の測定
各種パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む懸濁液の550nmにおける消光度(懸濁液Jについては、その最大吸収波長における消光度)が1.0又は2.5になるように濃度を調整し、CIE1976(L*,a*,b*)色空間を、紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV−3100PC(株式会社島津製作所)により測定した。また、パラジウム被覆も表面処理もされていない市販の金コロイド粒子(BBI社製、粒子径40nmの赤色球状ナノ粒子)を含む懸濁液(Co)、及び、特許文献1に記載の方法で作製した金ナノプレート(最大長さ45nm、厚さ23nmの青色板状ナノ粒子)を含む懸濁液(NP)(分散媒中のCTAB濃度の計算値は、後掲の表3を参照)についても、その最大吸収波長における消光度が1.0になるように濃度を調整して、上と同様にCIE1976(L*,a*,b*)色空間を測定した。測定結果を以下の表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
パラジウム被覆金ナノ粒子(懸濁液B、F、G、H、I、及びO)は、いずれも黒色を呈しており、従来のパラジウム被覆のない金ナノロッド(懸濁液J)、金コロイド粒子(懸濁液Co)、及び金ナノプレート(懸濁液NP)とは明確に区別することのできる色調を有していた。特に、550nmにおける消光度が2.5になるように濃度を調製した懸濁液B、F、G、H、I、及びOは、黒さが際立っていた。
【0053】
2.イムノクロマト試験
上記第1項で作製した各種懸濁液を用いて、以下の手順によりイムノクロマト試験を行った。
(1)イムノクロマト試験に使用する展開液の作製(各懸濁液中の金ナノ粒子への特異的結合物質の担持:検出試薬の標識)
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に対する抗体を5mMのリン酸緩衝液で希釈して50μg/mLの抗体溶液を調製し、0.1mLの当該抗体溶液と1mLの懸濁液F〜I又はOとを混合して、得られた混合液を室温下で60分間静置した。ここへ80μMのポリエチレングリコール溶液(5mMのリン酸緩衝液中)を0.05mL添加して、得られた懸濁液を室温下で30分間静置した。次いで、0.5mMのウシ血清アルブミン溶液(5mMのリン酸緩衝液中)を0.100mL添加し、得られた懸濁液を室温下で60分間静置した。この懸濁液を遠心分離して前記抗体と各種金ナノロッドとの複合体を沈殿させ、上澄み液を除去した。その後、前記複合体に20mMのトリス塩酸緩衝液(8μMのポリエチレングリコール、0.25mMのBSA、及び150mMのNaCLを含む)を0.40mL添加して再分散し、550nmの消光度(Extinction)が1.0になるように濃度を調整して、展開液F〜I及びOを作製した。対照群として、上記第1項(2)に記載のパラジウム被覆金ナノロッドを含む懸濁液B又は上記第1項(3)に記載の表面処理金ナノロッドを含む懸濁液Jを使用して、展開液B及びJをそれぞれ作製した。また、別の対照群として、パラジウム被覆も表面処理もされていない市販の金コロイド粒子(BBI社製、粒子径40nmの赤色球状ナノ粒子)を含む懸濁液又は特許文献1に記載の方法で作製した金ナノプレート(最大長さ45nm、厚さ23nmの青色板状ナノ粒子)を含む懸濁液を使用して、上と同様の方法により展開液K及びLをそれぞれ作製した。
【0054】
使用した金ナノ粒子の懸濁液と作製された展開液との関係を、次の表3にまとめる。懸濁液及び展開液のそれぞれについて、F〜I及びOが本発明の実施例に相当し、B及びJ〜Kが比較例に相当する。
【表3】
【0055】
(2)イムノクロマト試験方法
図14に示す手順により、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を被験物質としたイムノクロマト試験を、抗hCG抗体(捕獲抗体)を直線状(図14の検出ライン)に固定化したイムノクロマト試験紙を用いて行った。捕獲抗体の固定には、0.5mg/mLの捕獲抗体溶液(5mMのリン酸緩衝生理食塩水中)を使用した。図14(a)で用いる第1展開液としては、各種の濃度でhCGを含む10mMのリン酸緩衝生理食塩水(0.25mMのBSAを含む)を使用した。第1展開液中のhCGの濃度は、2000mIU/mL、200mIU/mL、20mIU/mL、2mIU/mL、又は0mIU/mL(ブランク)だった。図14(c)で用いる第2展開液としては、上述の展開液B、F〜L、及びOを使用した。具体的な試験手順は次のとおりだった。
(i)イムノクロマト試験紙に、いずれかの第1展開液50μLを展開させた(図14(a))。第1展開液の展開により、hCGが試験紙の検出ライン上に固定化された捕獲抗体によって捕獲される(図14(b))。
(ii)第2展開液60μLを展開させた(図14(c))。第2展開液の展開により、試験紙の検出ライン上で捕獲されたhCGへ検出抗体(抗体を担持した金ナノ粒子)が結合する(図14(d))。
【0056】
(3)イムノクロマト試験の目視判定による評価
第2展開液展開後の検出ラインにおける金属ナノ粒子の着色を目視で確認することにより、hCGの有無を判定した。結果を次の表4に示す。
【表4】
++:検出ラインにおける濃い着色を確認できた。
+:検出ラインにおける着色を確認できた。
+/−:検出ラインにおける僅かな着色を確認できた。
−:検出ラインにおける着色を確認できなかった。
【0057】
(4)イムノクロマト試験の輝度解析による評価
第2展開液展開後のイムノクロマト試験紙をスキャニング(装置名:Cano Scan LiDE500F、製造元:キヤノン株式会社)し、検出ライン(捕獲抗体の固定化部分)の最低輝度と、検出ライン以外の部分(対照領域)の最低輝度とを画像解析ソフト(Image−J:アメリカ国立衛生研究所でWayne Rasbandが開発した画像処理ソフトウェア(http://imagej.nih.gov/ij/))を用いて数値化した。最低輝度は、検出ラインと対照領域における異なる5箇所の輝度をそれぞれ1回ずつ測定し、得られた数値の中央値を採用した。輝度差(検出ラインの最低輝度−対照領域の最低輝度)を計算し、結果を次の表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
(5)イムノクロマト試験のLab値測定による評価
第一展開液に濃度が2000mIU/mLのhCG溶液を展開して、第2展開液展開後のイムノクロマト試験紙をスキャニングし、検出ライン(捕獲抗体の固定化部分)のCIE1976(L*,a*,b*)色空間の値をAdobe Photoshopを用いて測定した。結果を次の表6に示す。
【表6】
*値:明度(0は黒色方向、100は白色方向)
*値:緑色からマゼンタの色度(負の値は緑色方向、正の値はマゼンタ方向)
*値:青色から黄色の色度(負の値は青色方向、正の値は黄色方向)
(a*値及びb*値が0のときは無彩色となる。)
【0060】
イムノクロマト試験において、抗体を担持していないパラジウム被覆金ナノロッドを含む第2展開液を使用しても検出ラインの着色は観察されず、輝度差も生じていなかったが(データは掲載せず)、懸濁液F〜J又はOに由来する抗体を担持した金ナノロッドを含む第2展開液又は市販の金コロイド粒子又は特許文献1に記載の金ナノプレートに由来する抗体を担持した金ナノ粒子を使用すると、目視で判定可能な明瞭なラインが観察され、顕著な輝度差も測定された。特に、前記パラジウム被覆金ナノロッドを使用した場合には、検出ラインが黒々と着色され、白色のイムノクロマト試験紙とのコントラスト差が大きく、視認しやすい検出ラインとなっていた。これに対して、懸濁液Bに由来する第2展開液を使用すると、検出ラインの着色は観察されず、輝度差も生じていなかった。これは、懸濁液Bの分散媒中のCTABやパラジウム被覆金ナノロッドの表面上に付着しているCTABが、パラジウム被覆金ナノロッド上への抗体の担持を阻害したからであると考えられる。
【0061】
以上より、アスペクト比が1.0より大きいパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を調製し、N+(R)4(各Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)で表される第四級アンモニウムカチオンの濃度が1mM以下であるように組成物を調製すれば、白色とのコントラスト差の大きい黒色又はそれに近い色を呈し、かつ、抗体などの被験物質に対する特異的結合物質を容易に担持することのできるパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む組成物を提供することができる。したがって、イムノクロマトグラフィー法などにおいてパラジウム被覆異方性金ナノ粒子を黒色の呈色剤として使用することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14