(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
図1は実施例1の自動変速機を表す概略システム図である。エンジン1のエンジン出力軸1aには、クラッチ2を介して自動変速機3が接続されている。自動変速機3は、クラッチ2の自動変速機側に接続された第1シャフト301と、第1シャフト301と平行に配置された第2シャフト302と、を有する。第1シャフト301上には、第1シャフト301に対して相対回転可能に支持された1速ドライブギヤ311と、2速ドライブギヤ321と、3速ドライブギヤ331と、4速ドライブギヤ341と、を有する。第2シャフト302上には、第2シャフト302に固定され、第2シャフト302と一体に回転する1速ドリブンギヤ312と、2速ドリブンギヤ322と、3速ドリブンギヤ332と、4速ドリブンギヤ342と、を有する。各ドリブンギヤは、各ドライブギヤと常時噛み合っている。
【0009】
変速機コントローラ3aは、図外の各種センサやシフト信号に基づいて後述する変速マップから所望の変速段を決定し、シフトアクチュエータ30にシフトアクチュエータ駆動信号を出力する。シフトアクチュエータ30は、第1シフトフォーク31及び第2シフトフォーク32を軸方向に移動可能に構成されている。このシフトアクチュエータ30は、外周に各シフトフォーク31,32と係合する変速溝30bを有するシフトドラム30aをモータ30cで位置制御する。第1シフトフォーク31及び第2シフトフォーク32には、軸方向の所定位置に付勢可能な位置決め機構31b及び32bを有する。この位置決め機構31b及び32bは、各シフトフォーク31,32がシフトアクチュエータ30により位置決めされた後、後述するトルク作用方向に伴うドグの噛合い位置の変化に応じて軸方向への若干の移動を許容すると共に、複数の位置において各シフトフォーク31,32に所定の軸方向位置の保持力を付与する。詳細については後述する。
【0010】
1速ドライブギヤ311と3速ドライブギヤ331とは隣接して配置されている。2速ドライブギヤ321と4速ドライブギヤ341とは隣接して配置されている。第1ドライブギヤ311の第3ドライブギヤ331と対向する側面には、軸方向に延在された第1ドグ311aを有する。同様に、第3ドライブギヤ331の第1ドライブギヤ311と対向する側面には第3ドグ331aを有する。第2ドライブギヤ321の第4ドライブギヤ341と対向する側面には、軸方向に延在された第2ドグ321aを有する。同様に、第4ドライブギヤ341の第2ドライブギヤ321と対向する側面には第4ドグ341aを有する。
【0011】
1速ドライブギヤ311と3速ドライブギヤ331との間、及び2速ドライブギヤ321と4速ドライブギヤ341との間には、第1及び第2ドグクラッチ機構DG1,DG2を有する。第1ドグクラッチ機構DG1は、第1シャフト301上に固定設置された第1クラッチリングカム400と、第1クラッチリングカム400の外周に設置され、第1シフトフォーク31に対して相対回転可能に噛み合う第1クラッチリング33を有する。第1クラッチリングカム400の外周には、外周面に形成されたV字溝401を有する。このV字溝401は、第1シャフト301の正回転方向側に向かって傾斜する1速側下方傾斜面401aと、1速側下方傾斜面401aと対向する1速側上方傾斜面401eと、を有する。
【0012】
同様に、第1シャフト301の負回転方向側に向かって傾斜する3速側下方傾斜面401cと、3速側下方傾斜面401cと対向する3速側上方傾斜面401gと、を有する。1速側上方傾斜面401eと3速側上方傾斜面401gとの間となるV字溝の先端上方側は、いずれのギヤとも噛み合わない状態の中立位置401fであり、噛合い解除後は、位置決め機構31bにより後述するガイド用第1突起33bがV字溝の先端である中立位置401fに保持される(
図4参照)。また、1速側下方傾斜面401aと軸方向との交差角θ1と、1速側上方傾斜面401eと軸方向との交差角θ2は、θ1>θ2の関係を有する。この関係は、V字溝401及び501の全ての傾斜面において同様の関係を有する(
図5参照)。
【0013】
また、第1クラッチリング33の1速ドライブギヤ311側に向かい合う端部には、1速側傾斜面401aと接続され、軸方向に平行な保持面401bを有する。同様に、第1クラッチリング33の3速ドライブギヤ331側に向かい合う端部には、3速側傾斜面401cと接続され、軸方向に平行な保持面401dを有する。尚、第2ドグクラッチ機構DG2にも、第1ドグクラッチ機構DG1と同様の、第2クラッチリング34、第2クラッチリングカム500、V字溝501、2速側傾斜面501a、4速側傾斜面501c、保持面501b,501dを有する。構成は第1ドグクラッチ機構DG1と同じであるため説明を省略する。
【0014】
第1クラッチリング33は、第1クラッチリングカム400の外周と相対移動可能な円筒状部材33eと、円筒状部材33eの軸方向中央から外径側に向かって拡径された第1スリーブ33aを有する。第1スリーブ33aは、シフトフォーク31に相対回転可能に保持されつつシフトフォーク31との間で軸力を相互に付与可能な円盤状部材である。第1クラッチリング33は、第1スリーブ33aから1速ドライブギヤ311と対向する側面の軸方向に延在された1速用第1クラッチリングドグ33cと、3速ギヤ331と対向する側面の軸方向に延在された3速用第1クラッチリングドグ33dと、円筒状部材33eの内周側に突出し、第1クラッチリングカム400のV字溝401内にガイドされるガイド用第1突起33bと、を有する。
【0015】
同様に、第2クラッチリング34は、第2クラッチリングカム500の外周と相対移動可能な円筒状部材34eと、円筒状部材34eの軸方向中央から外径側に向かって拡径された第2スリーブ34aを有する。第2スリーブ34aは、シフトフォーク32に相対回転可能に保持されつつシフトフォーク32と軸力を相互に付与可能な円盤状部材である。第2クラッチリング34は、第2スリーブ34aから2速ドライブギヤ321と対向する側面の軸方向に延在された2速用第2クラッチリングドグ34cと、4速ギヤ341と対向する側面の軸方向に延在された4速用第2クラッチリングドグ34dと、円筒状部材34eの内周側に突出し、第2クラッチリングカム500のV字溝501内にガイドされるガイド用第2突起34bと、を有する。
【0016】
次に、アップシフト作用を簡単に説明する。具体例として、1速走行状態で2速へのアップシフトを行う場合を説明する。
図2及び
図3は実施例1の自動変速機における1速から2速へのアップシフトにおける第1ドグクラッチ機構の作用を表す概略図、
図4及び
図5は実施例1の自動変速機における1速から2速へのアップシフトにおける第2ドグクラッチ機構の作用を表す概略図である。1速では、第1シフトフォーク31が
図1中の左側に移動した状態である。
図2(a)に示すように、第1クラッチリング33は、1速ドライブギヤ311にトルクが作用する前の状態では、ガイド用第1突起33bが保持面401bに位置し、コースティングトルクが作用しても軸方向に移動することはない。また、
図4に示すように、ガイド用第2突起34bは、第2クラッチリングカム500のV字溝501内の中立位置501fに位置し、第2クラッチリングカム500が回転すると、中立位置501fに当接したガイド用第2突起34bを介して第2クラッチリング34を連れまわしている状態である。
【0017】
図2(b)に示すように、第1クラッチリング33の1速用第1クラッチリングドグ33cの歯面であってドライビングトルク作用時に1速ドライブギヤ311の第1ドグ311aと係合する位置には、傾斜面33c1が形成されている。1速ドライブギヤ311から1速ドリブンギヤ312へドライビングトルクが作用すると、この傾斜面33c1に沿って第1クラッチリング33が噛み合い解除側に向けてリフトする。これにより、ガイド用第1突起33bは保持面401bから1速側上方傾斜面401eの位置に移動する。ただし、1速ドライブギヤ311の第1ドグ311aと1速用クラッチリングドグ33cとの噛み合いは継続しており、トルク伝達状態である。尚、この動作を行うにあたって、前述した位置決め機構31bが作動する。すなわち、リフトに伴い第1シフトフォーク31が軸方向に僅かに移動することを許容しつつ、リフト後の第1クラッチリング33の軸方向位置を安定的に保持している。
【0018】
次に、第2シフトフォーク32が
図1中の左側に移動し、2速用第2クラッチリングドグ34cと第2ドグ321aとが係合を開始すると、インターロック状態となり、1速用クラッチリングドグ33cと第1ドグ311aとの間にコースティングトルクが作用する。すると、
図3(c)に示すように、第1プロセスとして、ガイド用第1突起33bが1速側下方傾斜面401aに沿って移動する。このインターロック状態に伴うコースティングトルクによって軸方向に発生する力は、位置決め機構31bの保持力よりも十分に大きいため、第1シフトフォーク31の移動は速やかに行われる。
【0019】
そして、ガイド用第1突起33bが1速側下方傾斜面401aを移動し、1速ドライブギヤ11の第1ドグ311aの軸方向歯先と1速用クラッチリングドグ33cの軸方向歯先との軸方向位置が一致する所定位置を超えると、
図3(d)に示すように、ガイド用第1突起33bが1速側下方傾斜面401aに沿って移動し、1速用クラッチリングドグ33cを軸方向解除側に移動させる。これにより、第1クラッチリング33は噛合い解除側に移動し、1速ドライブギヤ11の第1ドグ311aと1速用クラッチリングドグ33cとの噛合いが完全に解除される。
【0020】
すなわち、1速時に2速ドライブギヤ321と2速用第2クラッチリングドグ34cとを係合し、この係合に伴って生じるインターロック状態に伴うコースティングトルクを利用して1速ドライブギヤ311と第1クラッチリング33との噛合いを解除する。よって、アップシフト時に常にトルク伝達状態を維持することができる。このようなシフト動作をシームレスシフトと言う。
【0021】
ここで、第2シフトフォーク32が
図1中の左側に移動し、2速用第2クラッチリングドグ34cと第2ドグ321aとが係合するまでの動作について説明する。第2シフトフォーク32の軸方向移動速度をVxとし、第2クラッチリング34の回転速度をVhとする。Vxは、モータ30cの回転速度により制御される。ここで、
図4に示すように、ガイド用第2突起34bが中立位置501fにある状態から、第2シフトフォーク32を
図4中の左側に移動させる状態を検討する。
【0022】
図5の点線で示すガイド用第2突起34bは、第2シフトフォーク32をゆっくりと移動(Vxが小さい状態)させた場合を表す。第2クラッチリング34はVhの速度で回転し、ガイド用第2突起34bのストローク速度Vxが遅いため、2速側上方傾斜面501eに沿って移動する。具体的には、arctan(Vh/Vx)>θ2の関係を満たすVxのとき、ガイド用第2突起34bは、2速側上方傾斜面501eに沿って移動する。ここで、1速走行中は、第2ドライブギヤ321の回転数が第2クラッチリング34の回転数よりも低いため、2速にアップシフトするには、第2ドライブギヤ321と第2クラッチリング34との相対回転数が低いほど、ドグ噛み合い時の打音を抑制できる。しかしながら、ガイド用第2突起34bが、2速側上方傾斜面501eから正回転方向側に力を受けつつ軸方向に移動すると、傾斜に沿って負回転方向に移動する分だけ第2クラッチリング34は減速するものの、十分に減速できず、第2ドグ321aと2速用第2クラッチリングドグ34cとが噛み合う際の打音を十分に抑制できない。
【0023】
そこで、実施例1では、第2シフトフォーク32の軸方向移動速度Vxを早め、2速側下方傾斜面501aとガイド用第2突起34bとを当接させてアップシフトすることとした。具体的には、arctan(Vh/Vx)<θ1(以下、下方当接条件と記載する。)の関係を満たすVxとする。これにより、
図5の実線で示すガイド用第2突起34bは、2速側下方傾斜面501aに沿って移動する。このとき、ガイド用第2突起34bは、2速側下方傾斜面501aから正回転方向とは反対側に力を受けつつ軸方向に移動するため、第2クラッチリング34を効果的に減速することができ、第2ドグ321aと2速用第2クラッチリングドグ34cとが噛み合う際の打音を抑制できる。尚、θ1が大きいほど、下方当接条件を満たしやすくなるため、実施例1では、θ1>θ2とした。これにより、モータ30cに過度の回転速度を要求することなく、ガイド用第2突起34bを2速側下方傾斜面501aに当接できる。
【0024】
上記実施例1に基づく作用効果を説明する。
(1)第1シャフト301に(固定または)相対回転可能に支持された1速ドライブギヤ311(第1低速ギヤ)及び2速ドライブギヤ321(第1高速ギヤ)と、
第2シャフト302に固定(または相対回転可能に支持)され1速ドライブギヤ311と常時噛み合う1速ドリブンギヤ312(第2低速ギヤ)及び2速ドライブギヤ321と常時噛み合う2速ドリブンギヤ322(第2高速ギヤ)と、
軸方向噛合い側への移動により、第1ドグ311a(前記第1低速ギヤもしくは第2低速ギヤのいずれかである低速側相対回転体のドグ)と噛合う1速用第1クラッチリングドグ33c(低速クラッチリングドグ)を有し、第1ドグ311aから1速用第1クラッチリングドグ33cにトルクが作用すると、第1シャフト301に固定設置された第1クラッチリングカム400の外周に形成された軸方向と交差する溝であるV字溝401に沿って軸方向噛合い解除側に移動可能なガイド用第1突起33bを有する第1クラッチリング33(低速クラッチリング)と、
軸方向噛合い側への移動により、第2ドグ321a(前記第1低速ギヤもしくは第2高速ギヤのいずれかである高速側相対回転体のドグ)と噛合う2速用第2クラッチリングドグ34c(高速クラッチリングドグ)を有し、第2ドグ321aから2速用第2クラッチリングドグ34cにトルクが作用すると、第1シャフト301に固定設置された第2クラッチリングカム500の外周に形成された軸方向と交差する溝であるV字溝501に沿って軸方向噛合い解除側に移動可能なガイド用第2突起34bを有する第2クラッチリング34(高速クラッチリング)と、
軸方向噛合い側への移動により第1クラッチリング33及び第2クラッチリング34を軸方向噛合い方向に移動可能であって軸方向噛合い解除側への移動を許容する第1シフトフォーク31,第2シフトフォーク32及びシフトアクチュエータ30と、
を備え、
シフトアクチュエータ30は、第2クラッチリング34を軸方向かみ合い方向に移動してアップシフトを行うとき、ガイド用第2突起34bを、V字溝501の第2クラッチリング34の正回転方向側の面である2速側下方傾斜面501aと当接させる。
よって、シームレスシフトによるアップシフト時に、第2クラッチリング34を減速させることが可能となり、ドグの噛み合いに伴う打音を抑制することができる。
【0025】
(2)第2クラッチリングカム500の回転速度をVhとし、2速側下方傾斜面501aと軸方向との交差角をθ1とし、シフトアクチュエータ30により第2クラッチリング34を軸方向かみ合い方向に移動するときの移動速度をVxと定義したとき、
シフトアクチュエータ30は、アップシフトを行うとき、
arctan(Vh/Vx)<θ1
の関係を満たす。
θ1は、諸元で規定されており、Vhを回転数センサ等から読み込み、下方当接条件を満たすVxとなるようにモータ30cを制御する。これにより、第2ドグ321aと2速用第2クラッチリングドグ34cとの相対回転数を抑制でき、ドグの噛み合いに伴う打音を抑制できる。
【0026】
(3)V字溝501の第2クラッチリング34の正回転方向と反対側の面である2速側上方傾斜面501eと軸方向との交差角をθ2と定義したとき、θ1はθ2より大きい。
よって、モータ30cに過度の回転速度を要求することなく、ガイド用第2突起34bを2速側下方傾斜面501aに当接できる。
【0027】
(他の実施例)
以上、実施例1に基づいて説明したが、上記実施例に限らず、他の構成を備えた自動変速機に本発明を適用してもよい。具体的には、前進4速に限らず、更なる多段化した自動変速機にも適用できる。また、実施例1では、θ1>θ2としたが、θ1=θ2としてもよい。