(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717047
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】並列インバータ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/493 20070101AFI20200622BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20200622BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 F
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-99246(P2016-99246)
(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公開番号】特開2017-208916(P2017-208916A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】小野 夢樹
【審査官】
麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−183600(JP,A)
【文献】
特開2006−014483(JP,A)
【文献】
特開2015−231264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM制御されるインバータを有するパワーユニットを複数並列接続した並列インバータ装置であって、パワーユニット群制御器から各パワーユニットに対して所定のキャリアを生成するための同一のキャリア同期信号とキャリア傾き信号を送信し、各パワーユニットで受信したキャリア同期信号とキャリア傾き信号に基づいてインバータのキャリア信号を生成する方法において、
前記各パワーユニットにPLL回路を有するキャリア補正部を設け、前記パワーユニット群制御器からの同期信号周期Tの期間でキャリア傾きが一定のパターンで繰り返す傾き信号値を各パワーユニットのPLL回路に送信し、PLL回路において同期信号周期Tとしたとき、T= Tc0×N= Tc1×(N+ΔN)の演算を行って補正分ΔNを求め、補正分ΔNに基づいて、キャリア傾き信号を補正して所定のインバータのキャリア信号とすることを特徴とした並列インバータ装置の制御方法。
ただし、Tc0はパワーユニット群制御器でのクロックパルス周期、Nはパルス数、Tc1はパワーユニットのクロックパルス周期。
【請求項2】
前記パワーユニット群制御器が送信する所定の傾き値を有する前記キャリア傾き信号の送信時に、同期信号周期T内で現在時刻tnのキャリア同期信号送信時に、次回時刻tn+1時のキャリア傾き信号値も送信することを特徴とした請求項1記載の並列インバータ装置の制御方法。
【請求項3】
前記同期信号周期Tの期間でキャリア波形を時間的に複数に分割し、
前記同期信号周期Tの区分毎に前記一定のパターンで繰り返すキャリア傾き信号値を区分毎に割り当て、
パワーユニット群制御器から各パワーユニットへ、第1のキャリア波形生成時にキャリア波形の第2の区分用キャリア傾き信号値Bを送信し、第2のキャリア波形生成時にキャリア波形の第3の区分用キャリア傾き信号値Cを送信し、これを前記同期信号周期Tの期間で複数のキャリア波形の振幅区分毎に繰返して送信することを特徴とした請求項1又は2記載の並列インバータ装置の制御方法。
【請求項4】
前記パワーユニットにおいて、前記パワーユニット群制御器からのキャリア同期信号と当該パワーユニット内で使用されるクロックパルス周期によるキャリアに差異が生じたとき、前記補正分ΔNのクロックパルスをカウントしてカウント数に対応する時間補正を行い、次いで補正分ΔNに対応するキャリア傾き信号の補正を行うことを特徴とした請求項1乃至3の何れか1項に記載の並列インバータ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列インバータ装置の制御方法に係わり、特に並列インバータ装置のキャリア同期制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PWM制御されるインバータを有するパワーユニットを複数並列接続して運転する並列インバータ装置においては、各パワーユニットの三角波キャリア信号の位相を同期させる必要があり、同期方法としては特許文献1等が公知になっている。
図5は特許文献1に記載されたキャリア信号生成の基本構成を示したものである。1(1a,1b,1c)はパワーユニットで、各パワーユニットは直流回路の正負極間に並列に接続され、直流を交流に変換して負荷に対しU,V,W相の交流を出力する。
【0003】
2は三角波キャリア波形を生成するパワーユニット群制御器で、図示省略されているが、パワーユニット1a,1b,1cのキャリア基準となるキャリア生成回路と、各パワーユニット1a,1b,1cに対してキャリア傾き信号θsを送信する送信回路、およびキャリア同期信号Csを送信する送信回路を有している。また、パワーユニット1a,1b,1cに対してキャリア同期信号Csを同時刻に、一斉に送信する機能を有している。各パワーユニットでは、パワーユニット群制御器2からのキャリア傾き信号θsとキャリア同期信号Csを受信し、各信号に対応してそれぞれが内部でキャリア波形Cwを生成する。
【0004】
特許文献1では、パワーユニット群制御器2が送信したキャリア傾き信号θsに基づいて各パワーユニットでそれぞれキャリア信号を生成し、各パワーユニット内で生成されるキャリア周期を略同一にすることが記載され、これにより各パワーユニット間での横流を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−183600
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、各パワーユニット内でクロックパルスをベースに傾き信号θsからキャリア波形Cwを生成しているが、各パワーユニット内でのクロックパルスの周期は微小ではあるが異なる。例えば
、パワーユニット群制御器2のクロックパルス幅が1μsで、パワーユニット1a,1b,1cのクロックパルス幅がそれぞれ1.01μs,1.00μs,0.99μsである場合、各パワーユニットで再生するキャリア波形には時間的な波形のずれが生じる。
【0007】
図6はキャリアの傾斜を調整しつつ振幅を一定とするための説明図である。キャリア振幅を一定にするため傾き信号θsの傾きが小さいときには、各パワーユニット内でクロック毎のキャリア生成回路カウンタの加算・減算量を小さくし、傾きが大きいときには、クロック毎のキャリア生成回路カウンタの加算・減算量を大きくすることでキャリアの傾斜を調整しつつ振幅を一定にしている。
【0008】
ここで、パワーユニット群制御器2のクロックパルス周期をTc0とすると、同期信号周期TはTc0×N(所定のパルス数)となる。i〜iv区間の繰返し波形をキャリア波形(振幅を0〜1)とする。また、この区間の始まりでキャリア同期信号Csも受信し、区間i〜ivでの傾き信号θsの値(1クロックパルスに対するキャリア振幅の増加領)をΔθ
1〜4とする。
【0009】
図6において、キャリア同期信号Csを受け取った iの区間(1回当たりの加算量が小さい区間)の始まりでクロックパルスの周期毎にΔθ1加算して振幅1になったときiiの区間に入り、クロックパルスの周期毎にΔθ
2減算して振幅0になったときiiiの区間に入る。1回当たりの加算量の大きい区間である
iiiではΔθ
3を加算し、区間ivではΔθ
4を減算して振幅0になったとき1回の繰返し分が生成できる。この時のパワーユニット群制御器2の区間i〜ivの周期時間はTc×Nである。各パワーユニット内でのクロックパルスの周期もTcであれば同一の波形が生成される。
【0010】
しかし、各パワーユニット内でのクロックパルスの周期は微小ではあるが異なることから、各パワーユニットで再生するキャリア波形Cwは時間的に波形のずれが生じ、場合によってはキャリア位相が跳躍してインバータ出力に差異が生じて不要な横流が発生する可能性がある。
【0011】
本発明が目的とするところは、各パワーユニットで再生するキャリア波形の補正を行う並列インバータ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、PWM制御されるインバータを有するパワーユニットを複数並列接続した並列インバータ装置であって、パワーユニット群制御器から各パワーユニットに対して所定のキャリアを生成するための同一のキャリア同期信号とキャリア傾き信号を送信し、各パワーユニットで受信したキャリア同期信号とキャリア傾き信号に基づいてインバータのキャリア信号を生成する方法において、
各パワーユニットにPLL回路を有するキャリア補正部を設け、前記パワーユニット群制御器からの同期信号周期Tの期間でキャリア傾きが一定のパターンで繰り返す傾き信号値を各パワーユニットのPLL回路に送信し、PLL回路において同期信号周期Tとしたとき、T= Tc0×N= Tc1×(N+ΔN)の演算を行って補正分ΔNを求め、補正分ΔNに基づいて、キャリア傾き信号を補正して所定のインバータのキャリア信号とする。
ただし、Tc0はパワーユニット群制御器でのクロックパルス周期、Nはパルス数、Tc1はパワーユニットのクロックパルス周期
。
また、本発明は、前記パワーユニット群制御器が送信する所定の傾き値を有する前記キャリア傾き信号の送信時に、同期信号周期T内で現在時刻tnのキャリア同期信号送信時に、
次回時刻tn
+1時のキャリア傾き信号値も送信する。
【0013】
また、本発明では、同期信号周期Tの期間でキャリア波形を時間的に複数に分割し、前記同期信号周期Tの区分毎に前記一定のパターンで繰り返すキャリア傾き信号値を割り当て、
パワーユニット群制御器から各パワーユニットへ、第1のキャリア波形の生成時にキャリア波形の第2の区分用キャリア傾き信号値Bを送信し、第2のキャリア波形の生成時にキャリア波形の第3の区分用キャリア傾き信号値Cを送信し、これを前記同期信号周期Tの期間で複数のキャリア波形の振幅区分毎に繰返して送信する。
【0014】
更に、本発明は、パワーユニットにおいて、前記パワーユニット群制御器からのキャリア同期信号と当該パワーユニット内で使用されるクロックパルス周期によるキャリアに差異が生じたとき、前記補正分ΔNのクロックパルスをカウントしてカウント数に対応する時間補正を行い、次いで補正分ΔNに対応するキャリア傾き信号の補正を行う。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、各パワーユニットにおいて、パワーユニット群制御器からのキャリア同期信号と当該パワーユニット内で使用されるクロックパルス周期によるキャリアの差異を常時監視し、差異(補正分)ΔNが発生したとき直ちにキャリア傾きが補正される。これにより、キャリア位相の跳躍が防止され、また、補正による中心キャリア周波数はインバータ装置の運転中に変更される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の構成図を示したもので、
図5と同一部分、若しくは相当する部分に同一符号を付してその説明を省略する。すなわち、本発明はパワーユニット1a,1b,1cにそれぞれキャリア補正部10を設けたものである。キャリア補正部10は、パワーユニット群制御器2からのキャリア傾き信号θsを入力してキャリア波形を生成するキャリア生成回路11と、パワーユニット群制御器2からの同期信号Csを入力してPLL制御するPLL回路12を有している。キャリア補正部10では、PLL回路12で同期信号を補正すると共に、得られた補正値ΔNをキャリア生成回路11に入力し、補正値ΔNに基づいてキャリアの傾きも補正して補正されたキャリア波形Cwを出力する。
【0018】
図2は、パワーユニット1a,1b,1cの各キャリア補正部10でキャリア波形を補正するときの傾き信号の送信状態を示したものである。なお、
図2ではパワーユニット群制御器2とパワーユニット1でのクロックパルス周期が同一として示している。ここでは、キャリアの傾き値を一定サイクルでパターン化して同期信号周期Tの期間で繰り返して使用し、且つキャリア変調の仕方をA→B→C→Dのように一定のパターンに従って行う。これにより、傾きA〜D間の周期Tを一定とし、キャリアはこの周期Tの繰返しとしている。
【0019】
キャリア傾き信号θsの値A〜Dは一義的に決めるものではなく、電磁音などの騒音から適宜決定される。例えば、傾き比率としてA=1、B=-0.9、C=1.1、D=-1.2として設定する。パワーユニット1では、パワーユニット群制御器2から送信されるキャリア同期信号Csを時刻t1で受信するが、これと同時に区間iiで使用する傾き信号のBも受信する。以後同様に、時刻t2では区間iiiで使用するCを受信し、時刻t3では区間ivで使用するDを受信する。また、時刻t4では、次の周期Tの区間iに使用するAを受信する。
【0020】
キャリア波形はゼロから所定の振幅値の間で、パワーユニット群制御器2からのキャリア傾き信号θsに基づいて上昇・下降をする。なお、
図2においてキャリア波形の頂点と同期信号が一致しているのは、パワーユニット群制御器2でのクロックパルス周期Tc0とパワーユニット1のクロックパルス周期Tc1が同一であることに基づくもので、クロックパルスの周期が異なると、
図3の破線で示す波形のように同期信号受信時刻と頂点の時刻に差が生じる。
【0021】
(1).キャリア補正部10でキャリアを一致させることについて
各パワーユニット1のキャリア補正部10にはPLL回路12を備え、受信した同期信号Csと同一位相となるよう安定した基準信号を生成し、各パワーユニット1の位相を一致させている。パワーユニット群制御器2の同期信号周期T= Tc0×Nより(ただし、Tc0はパワーユニット群制御器2のクロックパルス周期、Nはパルス数)、PLL回路12によりT= Tc0×N= Tc1×(N+ΔN)の演算を行って補正分のΔNを求める(ただし、Tc1はパワーユニット1のクロックパルス周期)。
【0022】
(2).キャリアにずれが生じたときの制御方法について
パワーユニット1a,1b,1cのうち、何れかのパワーユニットにおいて、パワーユニット群制御器2から受信するキャリア同期信号Csと、当該パワーユニット内で使用されるクロックパルス周期の差異によりキャリアにずれが生じたときには、下記の何れかの補正を行う。パワーユニット群制御器2が送信する同期信号周期T(= Tc0×N)に対し、パワーユニット1のPLL回路12により、T= Tc0×N= Tc1×(N+ΔN)からΔNを演算する。このことで、先々の同期信号がいつ来るかを推定することができる。
【0023】
図3において、キャリアの振幅を0〜1とし、時刻t1〜t11間で破線の波形が要求される例である。このパターンは“パワーユニット群制御器2のクロックパルス周期>パワーユニット1のクロックパルス周期”のときである。同期信号周期Tは、パワーユニット群制御器2のクロックパルスでNパルス、パワーユニット1のクロックパルスではN+ΔNパルスで同一時間となる。また、傾き値A〜Dでの各区間でのパルス数をそれぞれNA,NB,NC,NDとすると、
N= NA+NB+NC+ND+ΔNの関係がある。この例では、パワーユニットのクロックパルス数のカッコ内で記載したように、同期信号周期Tでのパルス数を、パワーユニット群制御器2のパルス数を220、パワーユニット1のパルス数を240としている。
【0024】
パワーユニット1では、常時N+ΔNは演算している。同期信号周期T1の時刻t5付近で同期信号Csがないことで、次の同期信号が来る時刻t11まで位相(頂点)のずれΔNをカウントする。演算開始は時刻t11から始まるが、時刻t5の時点ではどのように補正するかは不明であるため、同期信号周期T2では同期信号周期T1の傾き値A〜Dを用いて演算し、時刻t6から補正の傾きを生成して次の同期信号周期T3の時刻t6〜t13の間に補正する。これにより、時刻t13以降は安定な状態となる。
【0025】
時刻t5とt11の間はΔN(20パルス)の差であり、時刻t6から時刻t12の間は2ΔN(40パルス)の差が生じ、第1にこの時間的な補正をする。同期信号周期Tはi〜ivの4区分(区間)であることから、時刻t6から時刻t12の差2ΔNを4等分してこれを各区間に加算する。これによって、時刻t13で頂点を確保することができる。具体的には、傾き値A区間のパルス数をNA+(ΔN/2)とする。他の傾き値B〜Dも同様である。
【0026】
時間的な補正と共に、傾き信号θsを補正する。時刻t1〜t2の傾きは1/NAであるが、パルス数を増やして時間を延ばした分追加する。その追加した傾きは1÷{NA+(ΔN/2)}とする必要がある。他の区間も同様である。
時刻t1〜t5(t5〜t6も同じ)と時刻t6〜t13の様子を示したもの
が表1で、また、時刻t13以降を示したものが表2である。
【0029】
表2の状態でクロックパルス周期に変動がなければ、上記状態で安定に動作を継続する。なお、時刻t6〜t12の差2ΔNを上述では4等分としたが、各区間i〜ivのパルス数に比例分配した調整パルス数を設定してもよい。
【0030】
図4は、
図3とは逆にキャリア頂点が受信時刻より早い場合の例である。キャリア頂点が受信時刻より早い場合には、実線で示される波形が要求される。破線で示す波形は、クロックパルス周期が長いために要求通りの波形ができなかったもので、その際の演算方法としては、時間差tから減算すべきパルス数を減算して上記と同様に演算すればよい。
【符号の説明】
【0031】
1… パワーユニット
2… パワーユニット群制御器
10… キャリア補正部
11… キャリア生成回路
12… PLL回路
θs… キャリア傾き信号
Cs… キャリア同期信号
Cw… キャリア波形