(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁層とこの絶縁層の少なくとも片方の面に接合された金属板とを備えた絶縁回路基板と、前記絶縁層の他方の面側に配設されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接合体の製造方法によって、前記第1部材としての前記絶縁回路基板と、前記第2部材としての前記ヒートシンクと、を接合することを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第一の実施形態である絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板10、及び、本発明の第一の実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法によって製造されたヒートシンク付き絶縁回路基板30、並びに、この絶縁回路基板10及びヒートシンク付き絶縁回路基板30を用いたパワーモジュール1を示す。
【0022】
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付き絶縁回路基板30と、このヒートシンク付き絶縁回路基板30の一方側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
【0023】
はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
そして、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板30は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に接合されたヒートシンク31とを備えている。
【0024】
絶縁回路基板10は、
図1に示すように、絶縁層となるセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。
【0025】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0026】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に、アルミニウムやアルミニウム合金、銅や銅合金等の導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。この回路層12の厚さt1は、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されている。本実施形態においては、回路層12は、純度99.00質量%以上99.50質量%未満のアルミニウム(以下、2Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板22がセラミックス基板11の一方の面に接合されることにより形成されており、このアルミニウム板22の厚さt1が0.6mmとされている。
【0027】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に、アルミニウムやアルミニウム合金、銅や銅合金等の金属板が接合されることにより形成されている。この金属層13の厚さt2は、0.6mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が純度99.99質量%以上のアルミニウム(以下、4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板23がセラミックス基板11の他方の面に接合されることにより形成されており、このアルミニウム板23の厚さt2が1.6mmとされている。
【0028】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好な銅又は銅合金で構成されており、本実施形態においては、無酸素銅で構成されている。このヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
そして、本実施形態においては、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク31とが、固相拡散接合によって接合されている。
【0029】
次に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法、及び、ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法について、
図2から
図4を用いて説明する。
まず、
図3で示すように、セラミックス基板11の一方の面に金属板22を接合して回路層12を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面に金属板23を接合して金属層13を形成する(金属板接合工程S01)。
本実施形態では、金属板22,23として、純度99質量%以上のアルミニウム(2N−Al)からなるアルミニウム板22,23を用いている。
【0030】
この金属板接合工程S01においては、まず、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、Al−Si系のろう材26を介在させ、回路層12となる金属板22を積層し、セラミックス基板11の他方の面に、Al−Si系のろう材27を介在させ、金属層13となる金属板23を積層する。ここで、Al−Si系のろう材26,27においては、Si濃度が1質量%以上12質量%以下の範囲内のものを用いることが好ましい。また、Al−Si系のろう材26,27の厚さは5μm以上15μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
このとき、金属板22の接合面、金属板23の接合面、及びセラミックス基板11の接合面に、仮止め材40が配設されており、金属板22、ろう材26、セラミックス基板11、ろう材27、金属板23が位置決めされて仮止めされている。
ここで、仮止め材40に用いられる樹脂としてエチルセルロース、メチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂、スチレン樹脂、エステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マイレン樹脂、フマル酸樹脂等が挙げられる。また、溶剤として、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、α−テルピネオール、トルエン、テキサノール、トリエチルシトレート等が混練されていてもよい。
【0032】
また、仮止め材40としてポリエチレングリコール(PEG)を用いることもできる。ポリエチレングリコール(PEG)は平均重量分子量によって、溶融温度が異なるため、室温(25℃)において固体のPEGを用いる場合には、仮止めする際に、加温し溶融させてから各部材を積層し、位置決め紙、冷却して固化させて仮止めするとよい。
さらに、仮止め材40として、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸を用いることができる。このような飽和脂肪酸は、通常、室温(25℃)において固体であるため、室温(25℃)において固体のPEGを用いる場合と同様に用いるとよい。
【0033】
次いで、金属板22、ろう材26、セラミックス基板11、ろう材27、金属板23の積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、金属板22とセラミックス基板11とを接合して回路層12を形成し、金属板23とセラミックス基板11とを接合して金属層13を形成する。
この金属板接合工程S01における接合条件は、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内、加熱温度は560℃以上655℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上45分以下の範囲内に設定されている。
【0034】
そして、この金属板接合工程S01では、上述の積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において、仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2を、加熱温度における加圧荷重P1よりも低く設定している。すなわち、セラミックス基板11と金属板22,23に配設した仮止め材40の有機物の分解温度T
Dを基準として加圧荷重P2を規定しているのである。ここで、仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dは、TG−DTAを用いて、不活性ガス(Ar)雰囲気下で10℃/分の昇温速度で加熱し、有機物の重量減少率が95%以上となった時点の温度とした。
なお、上述のように、昇温過程、加熱温度、降温過程において加圧荷重を制御するために、本実施形態においては、ホットプレス装置を用いて積層体を加圧している。
【0035】
本実施形態では、上述の積層体の加熱温度における加圧荷重P1を0.8MPa以上3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
そして、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
また、加熱温度における加圧荷重P1と昇温過程において、少なくとも仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2との比P1/P2が1.1以上35.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0036】
なお、加圧荷重P1の下限は0.8MPa以上(8kgf/cm
2以上)とすることが好ましく、1.2MPa以上(12kgf/cm
2以上)とすることがさらに好ましい。一方、加圧荷重P1の上限は3.5MPa以下(35kgf/cm
2以下)とすることが好ましく、2.8MPa以下(28kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。
【0037】
また、加熱温度の下限は560℃以上とすることが好ましく、610℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は655℃以下とすることが好ましく、650℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は10分以上とすることが好ましく、15分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は45分以下とすることが好ましく、30分以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0039】
次に、
図4に示すように、この絶縁回路基板10の金属層13の他方側(
図4において下側)にヒートシンク31を積層する。絶縁回路基板10とヒートシンク31とが積層されたヒートシンク積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウムと銅との共晶温度未満の加熱温度で保持することにより、金属層13とヒートシンク31を固相拡散接合する(ヒートシンク接合工程S02)。
【0040】
このとき、金属層13の接合面、及び、ヒートシンク31の接合面に、仮止め材40が配設されており、金属層13とヒートシンク31とが位置決めされて仮止めされている。
このヒートシンク接合工程S02において使用される仮止め材40は、上述した金属板接合工程S01において使用される仮止め材40を適用することができる。
【0041】
次いで、絶縁回路基板10とヒートシンク31とが積層されたヒートシンク積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、金属層13とヒートシンク31を固相拡散接合する。
このヒートシンク接合工程S02における接合条件は、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内、加熱温度は440℃以上548℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が30分以上150分以下の範囲内に設定されている。
【0042】
そして、このヒートシンク接合工程S02では、上述のヒートシンク積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において、仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P12を、加熱温度における加圧荷重P11よりも低く設定している。すなわち、金属層13とヒートシンク31に配設した仮止め材40の有機物の分解温度T
Dを基準として加圧荷重P12を規定しているのである。
なお、上述のように、昇温過程、加熱温度、降温過程において加圧荷重を制御するために、本実施形態においては、ホットプレス装置を用いてヒートシンク積層体を加圧している。
【0043】
本実施形態では、上述のヒートシンク積層体の加熱温度における加圧荷重P11を0.8MPa以上3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
そして、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P12を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
また、加熱温度における加圧荷重P11と昇温過程において、少なくとも仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P12との比P11/P12が1.1以上35.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0044】
なお、加圧荷重P11の下限は0.8MPa以上(8kgf/cm
2以上)とすることが好ましく、1.2MPa以上(12kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。一方、加圧荷重P11の上限は3.5MPa以下(35kgf/cm
2以下)とすることが好ましく、2.8MPa以下(28kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。
【0045】
また、加熱温度の下限は440℃以上とすることが好ましく、500℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は548℃以下とすることが好ましく、530℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は30分以上とすることが好ましく、60分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は150分以下とすることが好ましく、120分以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
以上のような工程によって、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板30が製造される。
次いで、回路層12の一方の面に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、加熱炉内においてはんだ接合する(半導体素子接合工程S03)。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0047】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、金属板接合工程S01では、積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2を、加熱温度における加圧荷重P1よりも低く設定しているので、仮止め材40の有機物が分解して分解ガスが発生する時点で金属板22,23とセラミックス基板11が強く押圧されておらず、金属板22,23とセラミックス基板11との接合界面から分解ガスを速やかに排出することができる。また、加熱温度における加圧荷重P1を高く設定することができる。以上のことから、金属板22,23とセラミックス基板11とを確実に接合することができ、接合信頼性に優れた絶縁回路基板10を製造することができる。
【0048】
さらに、本実施形態においては、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内と比較的低く設定されているので、仮止め材40が含有する有機物の分解ガスを接合界面から速やかに排出することができ、分解ガスの残存による接合不良の発生を確実に抑制することができる。
また、本実施形態においては、加熱温度における加圧荷重P1を0.8MPa以上3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定しているので、セラミックス基板11と金属板22、23とを強固に接合することができる。
【0049】
また、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法によれば、ヒートシンク接合工程S02では、上述のヒートシンク積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において、仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P12を、加熱温度における加圧荷重P11よりも低く設定しているので、仮止め材40の有機物が分解して分解ガスが発生する時点で金属層13とヒートシンク31とが強く押圧されておらず、金属層13とヒートシンク31との接合界面から分解ガスを速やかに排出することができる。また、加熱温度における加圧荷重P11を高く設定することができる。以上のことから、金属層13とヒートシンク31とを確実に接合することができ、接合信頼性に優れたヒートシンク付き絶縁回路基板30を製造することができる。
【0050】
さらに、本実施形態においては、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P12を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内と比較的低く設定されているので、仮止め材40が含有する有機物の分解ガスを接合界面から速やかに排出することができ、分解ガスの残存による接合不良の発生を確実に抑制することができる。
また、本実施形態においては、加熱温度における加圧荷重P11を0.8MPa以上 3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定しているので、金属層13とヒートシンク31とを強固に接合することができる。
【0051】
次に、本発明の第二の実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、
図5から
図7を参照して説明する。なお、第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
この絶縁回路基板110は、
図5に示すように、セラミックス基板11(絶縁層)と、このセラミックス基板11の一方の面(
図5において上面)に形成された回路層112と、セラミックス基板11の他方の面(
図5において下面)に形成された金属層113と、を備えている。
【0052】
金属層113は、
図7に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図5において下面)に金属板123が接合されることによって形成されている。本実施形態では、金属板123は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板とされている。
回路層112は、
図5で示すように、セラミックス基板11の一方の面に配設されたアルミニウム層112Aと、このアルミニウム層112Aの一方側(
図5において上側)に積層された銅層112Bと、を有している。
【0053】
アルミニウム層112Aは、
図7に示すように、アルミニウム板122Aがセラミックス基板11の一方の面に接合されることにより形成されている。本実施形態においては、アルミニウム層112Aは、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板122Aがセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
銅層112Bは、アルミニウム層112Aの一方側(
図5において上側)に接合されることにより形成されている。本実施形態においては、銅層112Bは、
図7に示すように、無酸素銅の圧延板からなる銅板122Bがアルミニウム層112Aに固相拡散接合されることにより形成されている。
【0054】
次に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、
図6及び
図7を参照して説明する。
まず、
図7で示すように、セラミックス基板11の一方の面にアルミニウム板122Aを接合してアルミニウム層112Aを形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面に金属板(アルミニウム板)123を接合して金属層113を形成する(アルミニウム板接合工程S101)。
【0055】
このアルミニウム板接合工程S101においては、まず、
図7に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、Al−Si系のろう材26を介在させ、アルミニウム層122Aとなるアルミニウム板122Aを積層し、セラミックス基板11の他方の面に、Al−Si系のろう材27を介在させ、金属層13となる金属板(アルミニウム板)123を積層する。
【0056】
このとき、アルミニウム板122Aの接合面、金属板(アルミニウム板)123の接合面、及びセラミックス基板11の接合面に、仮止め材40が配設されており、アルミニウム板122A、ろう材26、セラミックス基板11、ろう材27、金属板(アルミニウム板)123が位置決めされて仮止めされている。
【0057】
次いで、アルミニウム板122A、ろう材26、セラミックス基板11、ろう材27、金属板(アルミニウム板)123の積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウム板122Aとセラミックス基板11とを接合してアルミニウム層112Aを形成し、金属板(アルミニウム板)123とセラミックス基板11とを接合して金属層113を形成する。
このアルミニウム板接合工程S101における接合条件は、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内、加熱温度は560℃以上655℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が10分以上150分以下の範囲内に設定されている。
【0058】
そして、このアルミニウム板接合工程S101では、上述の積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において、仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2を、加熱温度における加圧荷重P1よりも低く設定している。
なお、上述のように、昇温過程、加熱温度、降温過程において加圧荷重を制御するために、本実施形態においては、ホットプレス装置を用いて積層体を加圧している。
【0059】
本実施形態では、上述の積層体の加熱温度における加圧荷重P1を0.8MPa以上3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
そして、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
また、加熱温度における加圧荷重P1と昇温過程において、少なくとも仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2との比P1/P2が1.1以上35.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0060】
なお、加圧荷重P1の下限は0.8MPa以上(8kgf/cm
2以上)とすることが好ましく、1.2MPa以上(12kgf/cm
2以上)とすることがさらに好ましい。一方、加圧荷重P1の上限は3.5MPa以下(35kgf/cm
2以下)とすることが好ましく、2.8MPa以下(28kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。
【0061】
また、加熱温度の下限は440℃以上とすることが好ましく、500℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は548℃以下とすることが好ましく、530℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は30分以上とすることが好ましく、60分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は120分以下とすることが好ましい。
【0062】
次に、
図7で示すように、アルミニウム層112Aの一方側に銅板122Bを積層し、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウム層112Aと銅板122Bとを固相拡散接合し、アルミニウム層112Aと銅層112Bが積層された回路層112を形成する(銅板接合工程S102)。
この銅板接合工程S102における接合条件は、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内、加熱温度は440℃以上548℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が30分以上150分以下の範囲内に設定されている。
【0063】
そして、この銅板接合工程S102では、上述の積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において、仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P22を、加熱温度における加圧荷重P21よりも低く設定している。
なお、上述のように、昇温過程、加熱温度、降温過程において加圧荷重を制御するために、本実施形態においては、ホットプレス装置を用いて積層体を加圧している。
【0064】
本実施形態では、銅板接合工程S102では、加熱温度における加圧荷重P21を0.8MPa以上3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
そして、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P22を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
また、加熱温度における加圧荷重P21と昇温過程において少なくとも仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P22との比P21/P22が1.1以上35.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0065】
なお、加圧荷重P21の下限は0.8MPa以上(8kgf/cm
2以上)とすることが好ましく、1.2MPa以上(12kgf/cm
2以上)とすることがさらに好ましい。一方、加圧荷重P21の上限は3.5MPa以下(35kgf/cm
2以下)とすることが好ましく、2.8MPa以下(28kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。
【0066】
また、加熱温度の下限は440℃以上とすることが好ましく、500℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は548℃以下とすることが好ましく、530℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は60分以上とすることが好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は120分以下とすることが好ましい。
【0067】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板110が製造される。
【0068】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、アルミニウム板接合工程S101及び銅板接合工程S102では、積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2、P22を、加熱温度における加圧荷重P1、P21よりも低く設定しているので、仮止め材40の有機物が分解して分解ガスが発生する時点でセラミックス基板11とアルミニウム板122A、アルミニウム層112Aと銅板122Bとが強く押圧されておらず、これらの接合界面から分解ガスを速やかに排出することができる。また、加熱温度における加圧荷重P1、P21を高く設定することができる。以上のことから、セラミックス基板11とアルミニウム板122A、アルミニウム層112Aと銅板122Bとを確実に接合することができ、接合信頼性に優れた絶縁回路基板110を製造することができる。
【0069】
さらに、本実施形態においては、加熱温度までの昇温過程において仮止め材40が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D−10℃以上T
D+10℃の温度領域における加圧荷重P2、P22を0.1MPa以上0.7MPa以下(1kgf/cm
2以上7kgf/cm
2以下)の範囲内と比較的低く設定されているので、仮止め材40が含有する有機物の分解ガスを接合界面から速やかに排出することができ、分解ガスの残存による接合不良の発生を確実に抑制することができる。
また、本実施形態においては、加熱温度における加圧荷重P1、P21を0.8MPa以上3.5MPa以下(8kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定しているので、セラミックス基板11とアルミニウム板122A、アルミニウム層112Aと銅板122Bとを強固に接合することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0071】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
また、本実施形態では、絶縁層をセラミックス基板で構成したもので説明したが、これに限定されることはなく、絶縁層を樹脂等で構成したものであってもよい。
【0072】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板とアルミニウム板とをろう材を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、固相拡散接合によって接合してもよい。さらに、接合面にCu、Si等の添加元素を固着させ、これらの添加元素を拡散させることで溶融・凝固させる過渡液相接合法(TLP)によって接合してもよい。また、接合界面を半溶融状態として接合してもよい。
【0073】
また、本実施形態では、絶縁回路基板(金属層)とヒートシンクとを固相拡散接合によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ろう付け、TLP等の他の接合方法を適用してもよい。
さらに、本実施形態では、ヒートシンクを銅板の放熱板から成るものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム又はアルミニウム合金(例えばA3003合金、A6063合金等)板、あるいは、SiC等からなる炭素質の多孔質体に金属を含浸させた炭素質複合材料の板材で構成されていてもよいし、内部に冷却媒体が流通される流路を備えたものであってもよい。
なお、炭素質複合材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を含侵させたAlSiCを好適に用いることができる。この場合、含侵させるアルミニウムとしては、A6063合金や、ADC12等のダイキャスト用アルミニウム合金を用いるとよい。
【0074】
ここで、AlSiC等の炭素質複合材料からなるヒートシンクを用いる場合には、例えば、
図8に示すような構造のヒートシンク付き絶縁回路基板230を提供することができる。
図8に示す絶縁回路基板210は、セラミックス基板11の一方の面にアルミニウム板を接合して回路層212が形成されるとともに、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム板を接合して金属層213が形成されている。また、ヒートシンク231は、SiCの多孔質体に含浸されたアルミニウム材からなるスキン層231aを有している。そして、絶縁回路基板210とヒートシンク231との間に銅板250が介在し、絶縁回路基板210の金属層213と銅板250、銅板250とヒートシンク231のスキン層231aとがそれぞれ固相拡散接合されている。
【0075】
また、本実施形態においては、アルミニウム板とセラミックス基板との接合と、絶縁回路基板とヒートシンクの接合を、別の工程で実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム板、セラミックス基板、ヒートシンクを積層して、これを積層方向に加圧して加熱し、これらの接合を同一の工程で実施してもよい。
【0076】
例えば、
図9に示すように、セラミックス基板11の一方の面にのみアルミニウム板を接合して回路層312が形成されるとともに、セラミックス基板11の他方の面側に金属層が形成されていない絶縁回路基板310を対象としてもよい。
また、
図10に示すように、回路層412及び金属層413の一方をアルミニウム板からなるものとし、回路層412及び金属層413の他方を他の金属等で構成した絶縁回路基板410を対象としてもよい。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0078】
(実施例1)
AlNからなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mmt)を準備し、このセラミックス基板の一方の面に表2記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の圧延材からなるアルミニウム板(37mm×37mm×0.4mmt)をろう材を介して積層し、セラミックス基板の他方の面に表2記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の圧延材からなるアルミニウム板(37mm×37mm×0.4mmt)をろう材を介して積層した。なお、ろう材として、Al−7.5質量%Si合金からなるろう材箔(厚さ12μm)を用いた。
このとき、セラミックス基板及びアルミニウム板の接合面に、表1及び表2に示す仮止め材を配置し、セラミックス基板、アルミニウム板、及びろう材箔の位置決めを行って仮止めした。
なお、仮止め材B〜Fを用いる場合には、仮止め材を加温し、溶融させて各部材を積層した後、冷却して凝固することによって仮止めした。
【0079】
この積層体を加圧装置(ホットプレス)を用いて積層方向に加圧して表2に示す加熱温度にまで加熱し、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合した。なお、真空度は6.0×10
−4Paとした。このとき、加熱温度までの昇温過程において仮止め材が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D+10℃までの加圧荷重P2、T
D+10℃より高温での保持及びその後の降温過程における加圧荷重P1を、表2に示す条件とした。
【0080】
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、アルミニウム板(回路層)とセラミックス基板との接合性について評価した。評価結果を表2に示す。
【0081】
(接合性の評価)
接合性は絶縁回路基板の回路層とセラミックス基板との接合部の超音波探傷像を、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて測定し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、即ち、絶縁回路基板の回路層の面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
接合率が90%以上を接合性「○」と評価した。
【0082】
(実施例2)
実施例1の本発明例1で得られた絶縁回路基板の金属層に無酸素銅からなるヒートシンク(50mm×60mm×5mmt)を積層した。
このとき、金属層とヒートシンクの接合面に、表1及び表3に示す仮止め材を配置し、金属層とヒートシンクの位置決めを行って仮止めした。
なお、ヒートシンクの材質としてAlSiC及びアルミニウム合金(A6063,A3003)を用いた場合、絶縁回路基板とヒートシンク(AlSiC、A6063,A3003)の間に銅板(37mm×37mm×0.2mmt)を介して積層し、金属層と銅板とヒートシンクの位置決めを行って仮止めした。
また、仮止め材B〜Fを用いる場合には、仮止め材を加温し、溶融させて各部材を積層した後、冷却して凝固することによって仮止めした。
【0083】
この積層体を加圧装置(ホットプレス)を用いて積層方向に加圧して表3に示す加熱温度にまで加熱し、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合した。なお、真空度は6.0×10
−4Paとした。このとき、加熱温度までの昇温過程において仮止め材が含有する有機物の分解温度T
Dに対してT
D+10℃までの加圧荷重P12、T
D+10℃より高温での保持及びその後の降温過程における加圧荷重P11を、表3に示す条件とした。
【0084】
上述のようにして得られたヒートシンク付き絶縁回路基板について、金属層とヒートシンクとの接合状況を、以下のように評価した。評価結果を表3に示す。
【0085】
(接合性の評価)
接合性はヒートシンク付絶縁回路基板の金属層とヒートシンクとの接合部(AlSiC及びアルミニウム合金を用いた場合は銅板(銅層)とヒートシンクの接合部)の超音波探傷像を、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて測定し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、即ち、ヒートシンク付絶縁回路基板の金属層の面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
接合率が90%以上を接合性「○」と評価した。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
昇温時(分解温度T
D+10℃まで)の加圧荷重P2が、保持・降温時の加圧荷重P1と同一とされ、加圧荷重が2.1MPaとされた比較例1、2及び比較例21、22においては、接合界面に有機物の残渣が残り、接合性が不十分であった。
これに対して、昇温時(分解温度T
D+10℃まで)の加圧荷重P2が、保持・降温時の加圧荷重P1よりも低く設定された本発明例においては、表1に示す複数種類の仮止め材を用いた場合でも、いずれも接合性に優れていた。接合界面に有機物の残渣が残らなかったためと推測される。