特許第6717448号(P6717448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717448
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】面ファスナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20200622BHJP
【FI】
   A44B18/00
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-126541(P2016-126541)
(22)【出願日】2016年6月27日
(65)【公開番号】特開2018-240(P2018-240A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】開高 敬義
【審査官】 住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−062600(JP,A)
【文献】 特開2004−019007(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/049940(WO,A1)
【文献】 特開2009−005911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B18/00
D01F8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸、緯糸および係合素子用糸からなる基布の表面に、該係合素子用糸からなるフック状係合素子および/またはループ状係合素子が存在しており、経糸、緯糸および係合素子用糸がともにポリエステル系の糸で、緯糸が芯鞘型の熱融着性繊維を含み、さらに係合素子の根元が緯糸により融着固定されている面ファスナーの製造方法において、該緯糸として、繊維形成性ポリエステルを紡糸口金より溶融紡出し、紡出糸条を鞘成分のガラス転移点以下の温度に一旦冷却して、巻き取ることなくかつ非接触のままで、140℃〜鞘成分同士が膠着しない温度を有する非接触型加熱装置内を走行させて延伸熱処理したのち3000m/分以上の引取速度で巻き取る方法により製造されたマルチフィラメント糸を用いることを特徴とする面ファスナーの製造方法。
【請求項2】
係合素子がマルチフィラメントからなるループ状係合素子とモノフィラメントからなるフック状係合素子であり、ループ状係合素子とフック状係合素子の両者が基布表面に混在している請求項1に記載の面ファスナーの製造方法。
【請求項3】
係合素子がマルチフィラメントからなるループ状係合素子とモノフィラメントからなるフック状係合素子であり、ループ状係合素子が基布の表面に、そしてフック状係合素子が基布の裏面に存在している請求項1に記載の面ファスナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性に優れた面ファスナーに関する。特に、面ファスナーの基布の緯糸として特殊なポリエステル系繊維を使用することにより柔軟性に極めて優れており、さらに耐引き裂き性に優れていることから衣類の留め具としての用途に優れている面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類の前部や袖口を固定する手段として、ボタンと共に、フック状係合素子を有する面ファスナーとループ状係合素子を有する面ファスナーの組み合わせやフック状係合素子とループ状係合素子が混在している面ファスナー同士の組み合わせ等が広く用いられている。
【0003】
これら用途に使用される面ファスナーが剛直なものである場合には、衣類の風合いを損ねたり、手触りが悪化したりすることから、衣料用に使用される面ファスナーには特に柔軟性が要求されることとなる。さらには、衣料は長期に亘り使用されることから、衣料用に使用される面ファスナーは、使用中に面ファスナーが裂けたりすることがないことが要求される。
【0004】
面ファスナーは、大別すると、経糸、緯糸および係合素子用糸からなる織物基布の表面に、同係合素子用糸からなるフック状係合素子および/またはループ状係合素子を多数存在させた織物製面ファスナーと、樹脂からなる基板の表面に同樹脂からなるフック状係合素子を存在させた成形面ファスナーの2種類に分けられるが、衣類等には、繰り返しの係合・剥離を行っても係合力が殆ど低下しないこと、さらに縫製により衣類に取り付けてもミシン穴から裂け難いこと、さらに柔軟性に優れること等の理由により織物製の面ファスナーが一般的に広く使用されている。
【0005】
従来から、このような織物製面ファスナーには、基布に織り込んだ係合素子用糸が係合剥離の際に基布から引き抜かれることを防止するために、基布の裏面に、ウレタン系やアクリル系の接着剤樹脂(バックコート樹脂)を塗布して、係合素子用糸を基布に固定したものが一般的であるが、このようなバックコート樹脂を基布裏面に塗布した織物製面ファスナーは、塗布したバックコート樹脂により基布が固定されていることから剛直であるという欠点を有している。
【0006】
このようなバックコート樹脂を使用しない織物製面ファスナーとしては、経糸、緯糸および係合素子用糸がともにポリエステル系の糸で、緯糸が芯鞘型の熱融着性繊維を含み、さらに係合素子の根元が緯糸により融着固定されている面ファスナーが提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2(特許請求の範囲)参照)。
これらの参考文献に記載されている面ファスナーは、従来のバックコート樹脂を裏面に塗布した面ファスナーと比べて、バックコート樹脂が塗布されていないことから柔軟性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/122817号(特許請求の範囲)
【特許文献2】国際公開第2007/074791号(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、より高度に柔軟であり、衣類用として高度な柔軟性が要求される用途分野に適した織物製の面ファスナーを提供することを目的としている。さらに本発明は、緯糸として熱融着性芯鞘型繊維を用いているにもかかわらず、上記の参考文献に記載されている方法により得られる面ファスナーよりも、一層裂け難いことから縫製等により衣類等に取り付けても一層耐久性に優れている織製面ファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、経糸、緯糸および係合素子用糸からなる基布の表面に、該係合素子用糸からなるフック状係合素子および/またはループ状係合素子が存在しており、経糸、緯糸および係合素子用糸がともにポリエステル系の糸で、緯糸が芯鞘型の熱融着性繊維を含み、さらに係合素子の根元が緯糸により融着固定されている面ファスナーの製造方法において、該緯糸として、繊維形成性ポリエステルを紡糸口金より溶融紡出し、紡出糸条を鞘成分のガラス転移点以下の温度に一旦冷却して巻き取ることなく、引き続いて加熱帯域内を走行させて延伸熱処理したのち3000m/分以上の引取速度で巻き取る方法により製造されたマルチフィラメント糸を用いることを特徴とする面ファスナーの製造方法である。
【0010】
そして好ましくは、係合素子がマルチフィラメントからなるループ状係合素子とモノフィラメントからなるフック状係合素子であり、ループ状係合素子とフック状係合素子の両者が基布表面に混在している上記面ファスナーの製造方法である。
また本発明は、係合素子がマルチフィラメントからなるループ状係合素子とモノフィラメントからなるフック状係合素子であり、ループ状係合素子が基布の表面に、そしてフック状係合素子が基布の裏面に存在している上記の面ファスナーの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の特徴とするところは、緯糸として、繊維形成性ポリエステルを紡糸口金より溶融紡出し、紡出糸条を鞘成分のガラス転移点以下の温度に一旦冷却して巻き取ることなく引き続いて加熱帯域内を走行させて延伸熱処理したのち3000m/分以上の引取速度で巻き取る方法により製造されたポリエステル系の芯鞘型断面を有する熱融着性フィラメントからなるマルチフィラメント糸を用いることにある。
【0012】
一般に、緯糸として、芯鞘型の熱融着性フィラメントからなるマルチフィラメント糸を使用すると、熱融着させると該マルチフィラメント糸の鞘成分同士が融着してマルチフィラメントを構成するフィラメント同士が膠着を生じてマルチフィラメント糸は剛直な1本の糸となり、このような糸は容易には別れないが、本発明方法で使用するようなマルチフィラメント糸は熱融着させた場合、一応は鞘成分同士が融着して膠着により1本の糸となるが、力を加えると容易に剥がれて複数の糸となり、柔軟性が得られる。さらに、容易に剥がれて複数の糸に別れることから、面ファスナーに力が掛かっても力が分散され、面ファスナーが裂け難く、耐久性に優れることとなる。
従って、縫製用途、サポーター等において、柔らかさ、縫製部の破れ難さに優れる。さらに、衣服に本発明の面ファスナーを縫製した場合には、面ファスナーが洗濯の水流や日常の着衣に伴う応力により、緯糸を構成するマルチフィラメントの鞘同士が剥がれることにより衣服の生地と面ファスナーの馴染み性、密着性、追随性に優れ、面ファスナーの違和感が減少する。
【0013】
本発明方法で用いるようなマルチフィラメント糸が、なぜ融着しても簡単に剥離して複数の糸に別れ易いのかということに関しては必ずしも原因は明確ではないが、上記したような特殊な方法で製造されたマルチフィラメント糸の結晶サイズや分子配向等が影響しているものと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明方法により得られる面ファスナーのうちのフック面ファスナーの一例の断面の模式図である。
図2】本発明方法により得られる面ファスナーのうちのループ面ファスナーの一例の断面の模式図である。
図3】本発明方法により得られる面ファスナーのうちのフック・ループ混在型面ファスナーの一例の断面の模式図である。
図4】本発明方法により得られる面ファスナーのうちの片面フック反対面ループの面ファスナーの一例の断面の模式図である。
図5】本発明の製造方法に用いるマルチフィラメント糸の製造装置を模式的に示した図である。
図6】従来の一般的なマルチフィラメント糸の製造装置の一例を模式的に示した図である。
図7】従来の一般的なマルチフィラメント糸の製造装置の他の一例を模式的に示した図である。
図8】従来の一般的なマルチフィラメント糸の製造装置の他の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明方法で、緯糸として使用するポリエステル系マルチフィラメント糸は、上記したように、繊維形成性ポリエステルを紡糸口金より溶融紡出し、紡出糸条を鞘成分のガラス転移点以下の温度に一旦冷却し、巻き取ることなく引き続いて加熱帯域内を走行させて延伸熱処理したのち3000m/分以上の引取速度で引き取り、巻き取る方法により製造されたマルチフィラメント糸である。
【0016】
従来からポリエステル系マルチフィラメント糸の製造方法としては、図6に示すように、繊維形成性ポリエステルを紡糸口金より溶融紡出し、一組のローラ(6および7)を介して、一旦未延伸糸(UDY)を巻取機(8)に巻き取り、巻き取られた未延伸糸(UDY)を速度の異なる一対のローラ(11と12)間で延伸させて延伸されたマルチフィラメント糸(FOY)を得る方法が一般的である。
【0017】
また、図7に示すように紡糸口金(5)より紡出された未延伸糸を巻き取ることなく、引き続き加熱ローラ(14と15)間で延伸する、すなわち紡糸工程と延伸工程を直結した一工程で延伸してマルチフィラメント糸を製造する方法(SDY)や、図8に示すように、一対のローラ(6と7)間で延伸させるのではなく紡出された糸条を冷却させるまでの間で延伸して直接5000m/分以上の高速で巻き取りマルチフィラメントを製造する方法(DSY)等がある。
【0018】
しかしながら、これら従来方法で得られたポリエステル系マルチフィラメント糸の場合には、得られた芯鞘型熱融着性マルチフィラメント糸は、鞘成分同士が融着して1本の糸になった後は、力を加えても剥離し難く、複数の糸に別れ難い。それに対して、本発明方法で使用する芯鞘型の熱融着性ポリエステル系マルチフィラメント糸は、鞘成分同士が一旦融着しても、力を加えることにより容易に剥離が生じて、複数の糸に別れる。
【0019】
このように本発明方法で用いられる芯鞘型の熱融着性ポリエステル系マルチフィラメント糸は、図5に示すように、まず紡糸口金(5)より溶融吐出された芯鞘型ポリエステル系糸条に冷却風等を当てて、鞘成分のガラス転移点以下の温度に冷却した後、巻き取ることなく引き続き非接触型加熱装置(13)中に導入されて延伸され、3000m/分以上の巻取速度で巻き取られる。
【0020】
紡糸口金出口(5)から加熱装置(13)入口までの距離は、0.5〜3mの範囲が好ましく、加熱装置(13)の長さは糸条の延伸性を考慮して1.0〜2.0mの範囲が好ましい。加熱装置(13)の温度は繊維物性を考慮して120℃以上、特に140℃〜鞘成分同士が膠着しない温度、例えば鞘成分の軟化温度よりも10℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。加熱装置(13)の具体例としては非接触型のヒーター、例えばパイプヒーターが好ましい。
【0021】
このように加熱装置内で延伸された糸条にはガイドオイリング方式等の油剤付与装置(10)により油剤が付与された後、引き続き、2個対のローラ(6と7)で引き取られ、そして巻取装置(8)で巻き取られる。引取速度としては、物性等の点で3000m/分以上が用いられ、好ましくは3500m/分以上で6000m/分以下である。このような製造方法により製造されたポリエステル系芯鞘型の熱融着性マルチフィラメント糸は、例えば(株)クラレからクラベラCR910の商品名で販売されている。
【0022】
このような方法により製造された芯鞘型熱融着性ポリエステル系マルチフィラメント糸の緯糸としての太さとしては、12〜72本のフィラメントからなるトータルデシテックスが75〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に18〜60本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜250デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。もちろんマルチフィラメント糸1本では上記範囲以下の場合には、上記範囲となるように複数本を引きそろえて使用してもよい。
【0023】
そして、緯糸は、鞘成分を熱融着成分とする芯鞘型断面の熱融着性のマルチフィラメント糸である。緯糸が熱融着性であることにより、係合素子用糸を基布に強固に固定することが可能となり、従来の面ファスナーのように係合素子用糸が基布から引き抜かれることを防ぐためにポリウレタン系やアクリル系のバックコート樹脂を面ファスナー基布裏面に塗布する必要もなくなる。
【0024】
緯糸に代えて経糸に熱融着性マルチフィラメント糸を用いることにより係合素子用糸を基布に固定することも考えられるが、係合素子用糸は経糸に平行に基布に打ち込まれることから、経糸は係合素子用糸と交差する箇所が緯糸に比べてはるかに少なく、したがって熱融着性マルチフィラメント糸を経糸にのみ用いた場合には係合素子用糸が基布に強固に固定され難い。
また経糸が熱融着性マルチフィラメント糸である場合には、面ファスナーを連続生産する上で、走行する基布に掛かる張力を一定に保つことが難しく、一定品質の面ファスナーを安定に連続生産することが困難となり易い。
【0025】
上記した芯鞘型の熱融着性マルチフィラメント糸としては、鞘成分を溶融させてフック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸の根元を基布に強固に固定できるポリエステル系の樹脂からなるものが用いられ、芯成分は面ファスナーを熱処理する条件下では溶融しないが鞘成分は溶融する芯鞘型の断面を有するポリエステル系マルチフィラメント糸が挙げられる。
【0026】
具体的には、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、イソフタル酸やアジピン酸等で代表される共重合成分を多量に共重合、例えば20〜30モル%共重合することにより融点又は軟化点を大きく低下させた共重合ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型ポリエステル系マルチフィラメント糸が代表例として挙げられる。
【0027】
鞘成分の融点または軟化点としては150〜200℃であり、かつ経糸や芯成分やフック状係合素子用モノフィラメント糸あるいはループ状係合素子用マルチフィラメント糸の融点より20〜120℃低いのが好ましい。芯鞘型熱融着性繊維の断面形状としては、同心芯鞘であっても、偏心芯鞘であっても、あるいは1芯芯鞘であっても、多芯芯鞘であってもよい。好ましくは、1芯芯鞘の同心芯鞘である。
【0028】
さらには、緯糸を構成する繊維中に占める芯鞘型熱融着性繊維の割合は、特に緯糸の全てが実質的に芯鞘型の熱融着性マルチフィラメント糸で形成されている場合、つまり緯糸が芯鞘型の熱融着性のフィラメントからなるマルチフィラメント糸である場合には、フック状係合素子用糸およびループ状係合素子用糸が強固に基布に固定されることとなるため好ましい。
【0029】
緯糸を構成する繊維が芯鞘断面形状ではなく、繊維断面の全てが熱融着性のポリマーで形成されている場合には、溶けて再度固まった熱融着性ポリマーは脆く割れやすくなり、縫製した場合等は縫糸部分から基布が裂け易くなる。したがって、熱融着性繊維は、熱融着されない樹脂を芯成分として含んでいることが必要である。そして、芯成分と鞘成分の重量比率は20:80〜80:20の範囲、特に30:70〜70:30の範囲が好ましい。
【0030】
さらに、フック状係合素子用糸およびループ状係合素子用糸を共に強固に基布に固定するためには、緯糸として用いられた熱融着性マルチフィラメント糸が熱融着すると共に、繊維自身が収縮してフック状係合素子およびループ状係合素子の根元を両側から締め付けるのが好ましく、そのためには、緯糸として用いられる熱融着性マルチフィラメント糸は熱処理条件下で大きく熱収縮を生じる繊維が好ましい。具体的には、200℃での乾熱収縮率が8〜20%である繊維が好適に用いられ、特に同収縮率が10〜18%である繊維が好適である。
【0031】
本発明の面ファスナーの製造方法において、係合素子用糸は経糸に平行に基布に織り込まれる。そして係合素子用糸は基布の表面側で基布面から所々ループ状に突出し、熱処理によりループ形状が固定され、フック状係合素子の場合には、ループの片脚側が切られて、フック形状となる。ループ状係合素子の場合には、切られることなく、ループ形状を保ち、面ファスナーとして使用される。
【0032】
フック状係合素子はフック状係合素子用モノフィラメント糸から、またフック状係合素子の係合相手となるループ状係合素子はマルチフィラメント糸から形成される。
これらの糸は、熱や吸水・吸湿により波打ち(面ファスナーの基布面が不規則に上下して、水平な面とならない状態)を生じない点から、また優れた熱融着性の点から、さらに熱による優れた形状固定性の点で、いずれも、実質的にポリエステル系の樹脂から構成されていることが必要である。
【0033】
従来から、織物を基布とする面ファスナーに関しては、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系の繊維からなる糸が広く一般的に用いられているが、ポリアミド系繊維の糸を用いた場合には、吸水・吸湿や熱により基布の形状が変化し、場合によっては、吸湿や吸水、熱処理により基布が波打ったりして形態が損なわれるという現象が生じ、その結果、面ファスナーを取り付けた製品の品質や高級感が損なわれるという大きな問題点を有しており、また面ファスナーとして最も重要な係合力に関しても必ずしも高くないという問題点も有しており、さらに熱により融着させ難いという問題点も有している。
【0034】
このような理由により本発明方法では、経糸、緯糸および係合素子用糸を構成する繊維は、主としてポリエステル系樹脂からなる繊維が用いられる。ポリエステル系樹脂とは、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルまたはブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルであり、主としてテレフタル酸とエチレングリコールからの縮合反応またはテレフタル酸とブタンジオールからの縮合反応により得られるポリエステルである。より好ましくは、緯糸以外の経糸と係合素子用糸は、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーまたはポリブチレンテレフタレートホモポリマーから形成されている場合である。
【0035】
いずれにしても、経糸、緯糸の芯部分および係合素子用糸を構成する成分は後述する緯糸を構成する芯鞘型熱融着性繊維の鞘成分を融着させるための熱処理温度で、溶融しない融点を有するポリエチレンテレフタレート系ポリエステルやポリブチレンテレフタレート系ポリエステルが糸を構成する主成分であるのが好ましい。また、上記ポリエステル系繊維には、必要により、他の繊維が混綿や混繊、引き揃えられていてもよい。
【0036】
経糸としてはマルチフィラメント糸が好ましく、そして経糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、16〜96本のフィラメントからなるトータルデシテックスが75〜250デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に24〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0037】
フック状係合素子には、軽い力ではフック形状が伸展されない、いわゆるフック形状保持性と剛直性が求められ、そのために太い合成繊維製のモノフィラメント糸が用いられる。本発明では、このモノフィラメント糸として、特にフック形状保持性に優れたポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから形成され、かつ上記熱融着性繊維を熱融着させる際の温度では溶融しないポリエステルからなるモノフィラメント糸が用いられる。
【0038】
このようなポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるフック状係合素子用モノフィラメント糸の太さとしては、直径0.13〜0.40mmのものが好ましく、より好ましくは直径0.18〜0.35mmのものである。
【0039】
ループ状係合素子用糸も、フック状係合素子と同様にポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから構成され、かつ上記熱融着性繊維を熱融着させる際の温度では溶融しないポリエステルからなるマルチフィラメント糸が好ましい。ループ状係合素子用糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、5〜15本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に8〜12本のフィラメントからなるトータルデシテックスが160〜280デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0040】
以上述べた経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸から、まず面ファスナー用織物を織成する。
織物の織組織としては、フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸を経糸の一部とした平織が好ましく、これら係合素子用糸は、経糸と平行に存在しつつ、組織の途中で基布面から立ち上がり、フック面ファスナーの場合にはループを形成しつつ経糸を1〜3本飛び越えて経糸間にもぐり込むような織組織で、一方、ループ面ファスナーの場合には経糸を跨ぐことなく緯糸を跨ぐ個所でループを形成している織組織が、さらにフック・ループ混在面ファスナーの場合にはこれら両者をともに満足するような織組織が、フック状係合素子用ループの片足側部を効率的に切断でき、さらにフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いことから好ましい。
【0041】
そして、経糸の織密度としては、熱処理後の織密度で45〜90本/cmが、また緯糸の織密度としては、熱処理後の織密度で15〜30本/cmが好ましい。そして、緯糸の重量割合としては、面ファスナーを構成するフック状係合素子用糸あるいはループ状係合素子用糸と経糸および緯糸の合計重量に対して15〜40%が好ましい。
【0042】
またフック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、それぞれ、経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して3〜8本程度が好ましい。フック・ループ混在面ファスナーの場合には、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の合計で経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して3〜8本が好ましく、そしてフック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の本数比が33:67〜67:33の範囲が好ましい。
【0043】
このようにして得られた面ファスナー用織物に、次に熱処理して緯糸を構成する芯鞘型熱融着性マルチフィラメント糸の鞘成分を溶融させると同時に緯糸を収縮させて係合素子用のモノフィラメント糸やマルチフィラメント糸を基布に強固に固定させる。これにより、従来の面ファスナーで行われていたバックコート処理が不要となり、バックコート樹脂により面ファスナーの柔軟性を消失するという問題点や面ファスナーの通気性が損なわれるという問題点が生じることを防ぐことができる。さらに、この熱処理の際の熱によりフック状係合素子のループ形状が固定され、フック状係合素子の片足を切断してフック状係合素子とした後においても、フック形状を保ち、十分な係合強度が得られることとなる。
【0044】
熱処理の際の温度としては、熱融着性マルチフィラメント糸の鞘成分樹脂が溶融または軟化するが、それ以外の糸は溶融しない温度で、かつフック状係合素子用モノフィラメント糸が熱固定される温度である150〜230℃が一般的に用いられ、より好ましくは180〜220℃の範囲、さらに好ましくは185〜210℃の範囲である。
【0045】
次に、このように熱処理した面ファスナー用織物の表面から突出しているフック状係合素子用ループ脚部の片脚側部を切断してフック状係合素子とする。フック状係合素子用ループの片側部を切断するために用いられる切断装置としては、地経糸方向に走行するフック面ファスナー用布のフック状係合素子用ループの片脚を2本の固定刃の間を可動切断刃が往復運動することにより切断する構造となっている切断装置が好ましく、そのために、フック状係合素子用のループは、上記したように地経糸を跨ぐ場所で形成していると、ループの片足だけを容易に切断できることから好ましい。
【0046】
またフック状係合素子の高さとしては基布面から1.3〜3.0mmが、またループ状係合素子の高さとしては基布面から1.8〜3.5mmが、それぞれ係合力の点で、さらに係合素子の倒れにくさの点で好ましい。
【0047】
フック面ファスナーにおけるフック状係合素子の密度、ループ面ファスナーにおけるループ状係合素子の密度、フック・ループ混在面ファスナーにおけるフック状係合素子とループ状係合素子の合計素子密度としては、係合素子が存在している基布部分基準でかつ熱収縮後の広さ基準で、いずれも30〜80個/cmが好ましい。そして、フック・ループ混在面ファスナーにおいて、フック状係合素子の個数とループ状係合素子の個数の比率としては、40:60〜60:40の範囲が好ましい。
【0048】
本発明方法で得られる面ファスナーは、図1に示すように基布(1)の表面にフック状係合素子(2)を有しているフック面ファスナーであっても、また図2で示すようにループ状係合素子(3)を有しているループ面ファスナーであっても、あるいは図3で示すようにフック状係合素子(2)とループ状係合素子(3)の両方を基布(1)の表面に有しているフック・ループ混在面ファスナーであっても、さらには図4に示すように、基布(1)の表面と裏面のいずれか一方の面にループ状係合素子(3)を有し、他方の面にフック状係合素子(2)を有している両面面ファスナーであってもよい。
【0049】
本発明方法で得られる面ファスナーは、従来の一般的な面ファスナーが用いられている用途分野に用いることができるが、特に柔軟性と耐引裂性に優れ、縫製性に優れていることから風合と耐引裂性が求められる衣類に適している。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。なお、実施例中、面ファスナーの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)により、また耐裂性に関しては、耳部を長手方向に引裂いた強力により測定した。
実施例1
面ファスナーの基布を構成する経糸および緯糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸およびフック状係合素子用モノフィラメント糸として次の糸を用意した。
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
【0051】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:110dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:12%
・なお、この緯糸は、上記芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーを芯鞘型の複合紡糸口金より溶融紡出し、続いて図5に示すように温度25℃の冷却風を0.5m/分の速度で紡出糸条に横から吹き付けて糸条を55℃に冷却(鞘成分のガラス転移点以下の温度)した後、巻き取ることなく、口金下1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径5mm、出口径10mmのチューブヒーター(内温170℃)内に通して同ヒーター内で延伸し、該ヒーターから出てきた糸条に給油し、そして2個のローラを介して4500m/分の引取速度で巻き取る方法により製造したもの(株式会社クラレ製クラベラCR910)である。
【0052】
[ループ状係合素子用マルチフィラメント]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265dtexで7本
[フック状係合素子用モノフィラメント]
・ポリエチレンテレフタレート繊維(融点:260℃)
・繊度:390dtex(直径:0.19mm)
【0053】
[ループ面ファスナーの製造]
上記経糸、緯糸は2本をひきそろえ、およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸22本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントを、経糸を跨ぐことなく経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのちループを形成するように基布上にループを形成した。
【0054】
上記条件にて織成されたループ面ファスナー用テープを、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ、経糸、ループ係合素子用マルチフィラメント、さらには緯糸の芯成分が熱溶融しない温度である200℃で熱処理を施した。その結果、緯糸は収縮し、基布を緯糸方向に11%収縮させるとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。そして、得られた織物を冷却させた。得られたループ面ファスナーのループ状係合素子密度は44個/cmであり、さらにループ状係合素子の基布面からの高さは2.4mmであった。
【0055】
[フック面ファスナーの製造]
上記ループ面ファスナーの製造方法において、係合素子用糸を上記のモノフィラメント糸に変更し、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのちに経糸3本を跨ぐようにし、跨いだ箇所でループを形成するように基布上にループを形成した。
【0056】
このようにして織成されたフック面ファスナー用テープに上記ループ面ファスナーの製造方法と同様に熱処理を施した。緯糸は収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、基布は緯糸方向に9%収縮した。そして、得られた織物を冷却させたのち、フック状係合素子用ループの片脚部を切断してフック状係合素子を形成した。得られたフック面ファスナーのフック状係合素子密度は42個/cmであり、さらにフック状係合素子の基布面からの高さは1.8mmであった。
【0057】
以上の方法で製造されたフック面ファスナーとループ面ファスナーは、極めて柔軟であり、それぞれの柔軟度は、ハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、36.1mm、47.7mmであった。これら面ファスナーを10回、洗濯・乾燥を繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は複数の糸に別れているが、係合素子を構成する糸を十分に把持して全く外れることなく強固に接合していることが判明した。
【0058】
これら面ファスナーを作業服の袖口に縫製によりボタン代わりに取り付けた。その結果、面ファスナーが袖口に取り付けられていることにより、着用者が袖口を触っても、面ファスナーが取り付けられていることが認識されないほど、取り付けられている個所の柔軟性が他の場所と殆ど変らなった。しかも、このような作業服を、10回洗濯・乾燥を繰り返した結果、面ファスナーはより柔軟となり、袖口を構成している生地と一体化して、面ファスナーの存在が生地の風合いを損なうことも殆ど生じなかった。
【0059】
さらに、緯糸に熱融着性繊維が用いられていることから、緯糸が切断されて、面ファスナーが裂け易いことが懸念されたが、実際は、耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は2.3〜2.8kgであり、極めて優れていた。そして、係合・剥離を3000回繰り返したが、縫製の際のミシン目から面ファスナーが裂けるようなことも全くなく、耐久性に優れていた。
【0060】
比較例1
上記実施例1のフック面ファスナーおよびループ面ファスナーの製造方法において、緯糸として用いるポリエステル系芯鞘型マルチフィラメント糸として、以下のポリエステルマルチフィラメント糸(ユニチカ株式会社製ポリエステル芯鞘型マルチフィラメント糸99T24−S6V0)を用いる以外は、同様にして、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーを製造した。
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:99dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:13%
・製造方法:SDY方式
なお、緯糸は実施例1と同様に2本をひきそろえて使用した。
【0061】
得られたフック面ファスナーおよびループ面ファスナーのそれぞれの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、34.6mm、36.8mmであり、特にループ面ファスナーは実施例1のものより柔軟性の点で劣るものであった。これら面ファスナーを実施例1と同様に、洗濯・乾燥を10回繰り返して面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は一本の糸に融着したままであった。
【0062】
これら比較例のフック面ファスナーとループ面ファスナーを上記実施例1と同様に、作業服の袖口に使用した。得られた作業服は、一応柔軟なものであったが、実施例Iのものと比べると固く、着用者30名のうち、23名が実施例1のものの方が柔軟であり、衣服に適していると答えた。さらに、この面ファスナーの耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は1.5〜2.1kgであり、実施例1のものより劣るものであった。
【0063】
比較例2
上記実施例1において、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーの製造方法に緯糸として用いるポリエステル系芯鞘型マルチフィラメント糸を、以下のポリエステルマルチフィラメント糸(ユニチカ株式会社製ポリエステル芯鞘型マルチフィラメント糸197T48−S610)に変更する以外は、同様にして、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーを製造した。
【0064】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:197dtexで48本
・200℃での乾熱収縮率:13%
・製造方法:UDY−FOY方式
なお、トータルデシテックスが197dtexであるため、1本のみを用いた
【0065】
得られたフック面ファスナーおよびループ面ファスナーのそれぞれの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、35.5mm、35.0mmであり、上記比較例1と同様に、実施例1のものより柔軟性で劣るものであった。これら面ファスナーを実施例1と同様に、洗濯・乾燥を10回繰り返し、その後の面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は1本の糸に接着したままであることが分かった。
これらフック面ファスナーとループ面ファスナーを上記実施例1と同様に、作業服の袖口に使用した。得られた作業服は、比較例1と同様に一応柔軟なものであったが、実施例1のものと比べると固いものであった。さらに、この面ファスナーの耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は2.0〜2.1kgであり、実施例1のものより劣るものであった。
【0066】
比較例3
上記実施例1において、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーの製造方法において、緯糸として用いるポリエステル系芯鞘型マルチフィラメント糸を、以下のポリエステルマルチフィラメント糸(株式会社クラレ製のポリエステル芯鞘型マルチフィラメント糸)に変更する以外は、同様にして、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーを製造した。
【0067】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:110dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:9%
・製造方法:DSY方式(巻取速度:5500m/分)
【0068】
得られたフック面ファスナーおよびループ面ファスナーのそれぞれの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、34.8mm、35.3mmであり、上記比較例1と同様に、実施例1のものより柔軟性で劣るものであった。さらに、この面ファスナーの耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は1.7〜2.0kgであり、実施例1のものより劣るものであった。さらに、これら面ファスナーを実施例1と同様に、洗濯・乾燥を10回繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は1本に接着した状態であることが分かった。
【0069】
実施例2
実施例1と同一の経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、フック・ループ混在型面ファスナーを作製した。すなわち上記4種の糸を使用し、フック状係合素子を長手方向に2列設け、隣接してループ状係合素子を2列設けた配列を繰り返すよう、フック状係合素子用モノフィラメントとループ状係合素子用マルチフィラメントを並べた。また、表面を触った時にループ状係合素子が触れるよう、ループ状係合素子が外側の両端にあるように配列した。織組織は平織りで、織密度が経糸72本/cmで緯糸18本/cmで、経糸8本に2本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを、また経糸8本に2本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントをそれぞれ打ち込んだ。
【0070】
上記条件にて織成されたテープを190℃で熱処理を施した。緯糸は大きく収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、基布は緯糸方向に大きく収縮して、緯糸方向に11%収縮した。そして、得られた織物を冷却させたのち、フック状係合素子用ループの片脚部(ループ状係合素子から離れている方)を切断してフック状係合素子を形成した。
【0071】
得られたフック・ループ混在型面ファスナーのフック状係合素子密度は30個/ cm、ループ状係合素子密度は31個/cmであり、さらにフック状係合素子およびループ状係合素子の基布面からの高さはそれぞれ1.8mmおよび2.3mmであった。
【0072】
得られたフック・ループ混在型面ファスナーの係合素子面を手で触れたところ、極めて肌触りが優しく、さらに基布自体も極めて柔軟で、作業服の胸部の名札取り付け箇所に縫い付けたところ、面ファスナーの剛直なシートが一体化されているという印象のないもので、作業服の風合いを全く損なわないものであった。さらに、裏面にフック面ファスナーを貼り付けた名札ホールダーを重ね合せて係合剥離を繰り返したところ、縫製の際のミシン目から裂けたりすることが全くなかった。また、このフック・ループ混在型面ファスナーを洗濯・乾燥を10回繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は複数の糸に別れていることが分かった。
【0073】
実施例3
上記実施例1において、フック状係合素子用モノフィラメント糸として、以下の物に置き換える以外は同一の経糸、緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用い、これら4種の糸から、表面にフック状係合素子、裏面にループ状係合素子を有する両面ファスナーを製造した。
[フック状係合素子用モノフィラメント糸]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・繊度:410dtex(直径:0.20mm)
すなわち、上記の4種の糸を用いて、以下の条件で、フック状係合素子が存在する領域(A)、そして領域(A)に隣接する、裏面にループ状係合素子が存在する領域(B)を交互に有する両面係合タイプの面ファスナーを製造した。
【0074】
[フック状係合素子が存在する領域(A)]
経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメント糸を用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメント糸を経糸に平行に打ち込み、緯糸3本を浮沈したのちに経糸を3本を跨ぐようにし、跨いだ個所でループを形成するように基布上にループを形成した。この領域の幅は、経糸4本とフック状係合素子用モノフィラメント1本からなる狭さである。
【0075】
[ループ状係合素子が存在する領域(B)]
経糸、緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメント糸を経糸に平行に打ち込み、緯糸1本を浮沈したのちに経糸を1本を跨ぐようにし、跨いだ個所でループを形成するように基布上にループを形成した。この領域の幅は、経糸4本とループ状係合素子用マルチフィラメント1本からなる狭さである。
なお、フック状係合素子用モノフィラメント糸とループ状係合素子用マルチフィラメント糸は交わることなく、また接することもない。
【0076】
そして、上記(A)と(B)の領域は別々に織るのではなく、同時に織り上げて両面(表裏面)係合タイプの布製面ファスナー(図4参照)を製造した。具体的には、緯糸を(A)と(B)に共通に織り上げて(A)と(B)の領域が交互に存在するように、両面ファスナー用織物を作製した。
【0077】
このようにして織成された両面係合型面ファスナー用織物を緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、かつ経糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸、さらには緯糸の芯成分樹脂が熱溶融しない温度である190℃で熱処理した。その結果、緯糸は収縮すると共に、周囲に存在している糸を融着させた。基布は、緯糸方向に8%収縮した。そして、得られた織物を冷却させた後、フック状係合素子用ループの片脚部をバリカンでカットしてフック状係合素子とした。
得られた両面係合タイプの面ファスナーのフック状係合素子密度は30個/cm、ループ状係合素子密度は60個/cmで、フック状係合素子の高さは1.7mm、ループ状係合素子の高さは1.8mmであった。
【0078】
得られた片面フック片面ループの面ファスナーの係合素子が存在している表面および裏面を手で触れたところ、極めて肌触りが優しく、さらに基布自体も極めて柔軟で、結束テープとして電線の束の周りに極めて巻き付け易いものであった。
さらに、表面のフック状係合素子と裏面のループ状係合素子を係合させて剥離することを1000回繰り返したところ、緯糸が切断されて面ファスナーが裂けたりすることが全くなかった。そして、耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は2.0kgと極めて優れていた。
また、この両面係合タイプの面ファスナーを洗濯・乾燥を10回繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、基布を構成する緯糸は複数の糸に別れていることが分かった。
【符号の説明】
【0079】
1:基布
2:フック状係合素子
3:ループ状係合素子
5:紡糸口金
6:第1ローラ
7:第2ローラ
8:巻取装置
10:油剤付与装置
11:供給ローラ
12:引取ローラ
13:加熱板
14:第1加熱ローラ
15:第2加熱ローラ
16:UDY
17:FOY
18:SDY
19:DSY
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8