【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。なお、実施例中、面ファスナーの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)により、また耐裂性に関しては、耳部を長手方向に引裂いた強力により測定した。
実施例1
面ファスナーの基布を構成する経糸および緯糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸およびフック状係合素子用モノフィラメント糸として次の糸を用意した。
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
【0051】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:110dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:12%
・なお、この緯糸は、上記芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーを芯鞘型の複合紡糸口金より溶融紡出し、続いて
図5に示すように温度25℃の冷却風を0.5m/分の速度で紡出糸条に横から吹き付けて糸条を55℃に冷却(鞘成分のガラス転移点以下の温度)した後、巻き取ることなく、口金下1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径5mm、出口径10mmのチューブヒーター(内温170℃)内に通して同ヒーター内で延伸し、該ヒーターから出てきた糸条に給油し、そして2個のローラを介して4500m/分の引取速度で巻き取る方法により製造したもの(株式会社クラレ製クラベラCR910)である。
【0052】
[ループ状係合素子用マルチフィラメント]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265dtexで7本
[フック状係合素子用モノフィラメント]
・ポリエチレンテレフタレート繊維(融点:260℃)
・繊度:390dtex(直径:0.19mm)
【0053】
[ループ面ファスナーの製造]
上記経糸、緯糸は2本をひきそろえ、およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸22本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントを、経糸を跨ぐことなく経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのちループを形成するように基布上にループを形成した。
【0054】
上記条件にて織成されたループ面ファスナー用テープを、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ、経糸、ループ係合素子用マルチフィラメント、さらには緯糸の芯成分が熱溶融しない温度である200℃で熱処理を施した。その結果、緯糸は収縮し、基布を緯糸方向に11%収縮させるとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。そして、得られた織物を冷却させた。得られたループ面ファスナーのループ状係合素子密度は44個/cm
2であり、さらにループ状係合素子の基布面からの高さは2.4mmであった。
【0055】
[フック面ファスナーの製造]
上記ループ面ファスナーの製造方法において、係合素子用糸を上記のモノフィラメント糸に変更し、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのちに経糸3本を跨ぐようにし、跨いだ箇所でループを形成するように基布上にループを形成した。
【0056】
このようにして織成されたフック面ファスナー用テープに上記ループ面ファスナーの製造方法と同様に熱処理を施した。緯糸は収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、基布は緯糸方向に9%収縮した。そして、得られた織物を冷却させたのち、フック状係合素子用ループの片脚部を切断してフック状係合素子を形成した。得られたフック面ファスナーのフック状係合素子密度は42個/cm
2であり、さらにフック状係合素子の基布面からの高さは1.8mmであった。
【0057】
以上の方法で製造されたフック面ファスナーとループ面ファスナーは、極めて柔軟であり、それぞれの柔軟度は、ハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、36.1mm、47.7mmであった。これら面ファスナーを10回、洗濯・乾燥を繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は複数の糸に別れているが、係合素子を構成する糸を十分に把持して全く外れることなく強固に接合していることが判明した。
【0058】
これら面ファスナーを作業服の袖口に縫製によりボタン代わりに取り付けた。その結果、面ファスナーが袖口に取り付けられていることにより、着用者が袖口を触っても、面ファスナーが取り付けられていることが認識されないほど、取り付けられている個所の柔軟性が他の場所と殆ど変らなった。しかも、このような作業服を、10回洗濯・乾燥を繰り返した結果、面ファスナーはより柔軟となり、袖口を構成している生地と一体化して、面ファスナーの存在が生地の風合いを損なうことも殆ど生じなかった。
【0059】
さらに、緯糸に熱融着性繊維が用いられていることから、緯糸が切断されて、面ファスナーが裂け易いことが懸念されたが、実際は、耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は2.3〜2.8kgであり、極めて優れていた。そして、係合・剥離を3000回繰り返したが、縫製の際のミシン目から面ファスナーが裂けるようなことも全くなく、耐久性に優れていた。
【0060】
比較例1
上記実施例1のフック面ファスナーおよびループ面ファスナーの製造方法において、緯糸として用いるポリエステル系芯鞘型マルチフィラメント糸として、以下のポリエステルマルチフィラメント糸(ユニチカ株式会社製ポリエステル芯鞘型マルチフィラメント糸99T24−S6V0)を用いる以外は、同様にして、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーを製造した。
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:99dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:13%
・製造方法:SDY方式
なお、緯糸は実施例1と同様に2本をひきそろえて使用した。
【0061】
得られたフック面ファスナーおよびループ面ファスナーのそれぞれの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、34.6mm、36.8mmであり、特にループ面ファスナーは実施例1のものより柔軟性の点で劣るものであった。これら面ファスナーを実施例1と同様に、洗濯・乾燥を10回繰り返して面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は一本の糸に融着したままであった。
【0062】
これら比較例のフック面ファスナーとループ面ファスナーを上記実施例1と同様に、作業服の袖口に使用した。得られた作業服は、一応柔軟なものであったが、実施例Iのものと比べると固く、着用者30名のうち、23名が実施例1のものの方が柔軟であり、衣服に適していると答えた。さらに、この面ファスナーの耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は1.5〜2.1kgであり、実施例1のものより劣るものであった。
【0063】
比較例2
上記実施例1において、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーの製造方法に緯糸として用いるポリエステル系芯鞘型マルチフィラメント糸を、以下のポリエステルマルチフィラメント糸(ユニチカ株式会社製ポリエステル芯鞘型マルチフィラメント糸197T48−S610)に変更する以外は、同様にして、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーを製造した。
【0064】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:197dtexで48本
・200℃での乾熱収縮率:13%
・製造方法:UDY−FOY方式
なお、トータルデシテックスが197dtexであるため、1本のみを用いた
【0065】
得られたフック面ファスナーおよびループ面ファスナーのそれぞれの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、35.5mm、35.0mmであり、上記比較例1と同様に、実施例1のものより柔軟性で劣るものであった。これら面ファスナーを実施例1と同様に、洗濯・乾燥を10回繰り返し、その後の面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は1本の糸に接着したままであることが分かった。
これらフック面ファスナーとループ面ファスナーを上記実施例1と同様に、作業服の袖口に使用した。得られた作業服は、比較例1と同様に一応柔軟なものであったが、実施例1のものと比べると固いものであった。さらに、この面ファスナーの耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は2.0〜2.1kgであり、実施例1のものより劣るものであった。
【0066】
比較例3
上記実施例1において、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーの製造方法において、緯糸として用いるポリエステル系芯鞘型マルチフィラメント糸を、以下のポリエステルマルチフィラメント糸(株式会社クラレ製のポリエステル芯鞘型マルチフィラメント糸)に変更する以外は、同様にして、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーを製造した。
【0067】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:110dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:9%
・製造方法:DSY方式(巻取速度:5500m/分)
【0068】
得られたフック面ファスナーおよびループ面ファスナーのそれぞれの柔軟度はハートループ法(JIS−L−1096 D法)によって剛軟度を測定したところ、34.8mm、35.3mmであり、上記比較例1と同様に、実施例1のものより柔軟性で劣るものであった。さらに、この面ファスナーの耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は1.7〜2.0kgであり、実施例1のものより劣るものであった。さらに、これら面ファスナーを実施例1と同様に、洗濯・乾燥を10回繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は1本に接着した状態であることが分かった。
【0069】
実施例2
実施例1と同一の経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、フック・ループ混在型面ファスナーを作製した。すなわち上記4種の糸を使用し、フック状係合素子を長手方向に2列設け、隣接してループ状係合素子を2列設けた配列を繰り返すよう、フック状係合素子用モノフィラメントとループ状係合素子用マルチフィラメントを並べた。また、表面を触った時にループ状係合素子が触れるよう、ループ状係合素子が外側の両端にあるように配列した。織組織は平織りで、織密度が経糸72本/cmで緯糸18本/cmで、経糸8本に2本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを、また経糸8本に2本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントをそれぞれ打ち込んだ。
【0070】
上記条件にて織成されたテープを190℃で熱処理を施した。緯糸は大きく収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、基布は緯糸方向に大きく収縮して、緯糸方向に11%収縮した。そして、得られた織物を冷却させたのち、フック状係合素子用ループの片脚部(ループ状係合素子から離れている方)を切断してフック状係合素子を形成した。
【0071】
得られたフック・ループ混在型面ファスナーのフック状係合素子密度は30個/ cm
2、ループ状係合素子密度は31個/cm
2であり、さらにフック状係合素子およびループ状係合素子の基布面からの高さはそれぞれ1.8mmおよび2.3mmであった。
【0072】
得られたフック・ループ混在型面ファスナーの係合素子面を手で触れたところ、極めて肌触りが優しく、さらに基布自体も極めて柔軟で、作業服の胸部の名札取り付け箇所に縫い付けたところ、面ファスナーの剛直なシートが一体化されているという印象のないもので、作業服の風合いを全く損なわないものであった。さらに、裏面にフック面ファスナーを貼り付けた名札ホールダーを重ね合せて係合剥離を繰り返したところ、縫製の際のミシン目から裂けたりすることが全くなかった。また、このフック・ループ混在型面ファスナーを洗濯・乾燥を10回繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、フック面ファスナーおよびループ面ファスナーともに、基布を構成する緯糸は複数の糸に別れていることが分かった。
【0073】
実施例3
上記実施例1において、フック状係合素子用モノフィラメント糸として、以下の物に置き換える以外は同一の経糸、緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用い、これら4種の糸から、表面にフック状係合素子、裏面にループ状係合素子を有する両面ファスナーを製造した。
[フック状係合素子用モノフィラメント糸]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・繊度:410dtex(直径:0.20mm)
すなわち、上記の4種の糸を用いて、以下の条件で、フック状係合素子が存在する領域(A)、そして領域(A)に隣接する、裏面にループ状係合素子が存在する領域(B)を交互に有する両面係合タイプの面ファスナーを製造した。
【0074】
[フック状係合素子が存在する領域(A)]
経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメント糸を用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメント糸を経糸に平行に打ち込み、緯糸3本を浮沈したのちに経糸を3本を跨ぐようにし、跨いだ個所でループを形成するように基布上にループを形成した。この領域の幅は、経糸4本とフック状係合素子用モノフィラメント1本からなる狭さである。
【0075】
[ループ状係合素子が存在する領域(B)]
経糸、緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメント糸を経糸に平行に打ち込み、緯糸1本を浮沈したのちに経糸を1本を跨ぐようにし、跨いだ個所でループを形成するように基布上にループを形成した。この領域の幅は、経糸4本とループ状係合素子用マルチフィラメント1本からなる狭さである。
なお、フック状係合素子用モノフィラメント糸とループ状係合素子用マルチフィラメント糸は交わることなく、また接することもない。
【0076】
そして、上記(A)と(B)の領域は別々に織るのではなく、同時に織り上げて両面(表裏面)係合タイプの布製面ファスナー(
図4参照)を製造した。具体的には、緯糸を(A)と(B)に共通に織り上げて(A)と(B)の領域が交互に存在するように、両面ファスナー用織物を作製した。
【0077】
このようにして織成された両面係合型面ファスナー用織物を緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、かつ経糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸、さらには緯糸の芯成分樹脂が熱溶融しない温度である190℃で熱処理した。その結果、緯糸は収縮すると共に、周囲に存在している糸を融着させた。基布は、緯糸方向に8%収縮した。そして、得られた織物を冷却させた後、フック状係合素子用ループの片脚部をバリカンでカットしてフック状係合素子とした。
得られた両面係合タイプの面ファスナーのフック状係合素子密度は30個/cm
2、ループ状係合素子密度は60個/cm
2で、フック状係合素子の高さは1.7mm、ループ状係合素子の高さは1.8mmであった。
【0078】
得られた片面フック片面ループの面ファスナーの係合素子が存在している表面および裏面を手で触れたところ、極めて肌触りが優しく、さらに基布自体も極めて柔軟で、結束テープとして電線の束の周りに極めて巻き付け易いものであった。
さらに、表面のフック状係合素子と裏面のループ状係合素子を係合させて剥離することを1000回繰り返したところ、緯糸が切断されて面ファスナーが裂けたりすることが全くなかった。そして、耐裂性の測定方法として、耳部を長手方向に引裂いた強力は2.0kgと極めて優れていた。
また、この両面係合タイプの面ファスナーを洗濯・乾燥を10回繰り返し、面ファスナーの基布を顕微鏡で観察したところ、基布を構成する緯糸は複数の糸に別れていることが分かった。