特許第6717539号(P6717539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717539
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】セレン汚染土壌の不溶化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20200622BHJP
【FI】
   B09C1/08ZAB
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-98936(P2016-98936)
(22)【出願日】2016年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-205697(P2017-205697A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−116952(JP,A)
【文献】 特開2006−205152(JP,A)
【文献】 特開2008−076253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
B09C1/00−10
C09K3/00/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンによって汚染された土壌の不溶化処理方法であって、セレンによって汚染された土壌に含まれる4価セレンと6価セレンの分別定量を行い、該分別定量によって定量した6価セレンの土壌溶出量試験による溶出量が0.012〜0.044mg/Lの土壌に含まれる6価セレンを還元処理するために必要な鉄粉を含む処理剤を、土壌1m当たり鉄粉の添加量が5〜70kgとなるように、セレンによって汚染された土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことを特徴とするセレン汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項2】
前記処理剤が、酸化鉄を含むことを特徴とする請求項1に記載のセレン汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項3】
前記処理剤を添加したセレンによって汚染された土壌に、酸化マグネシウムを後添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のセレン汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項4】
前記処理剤を、pH7を超えるアルカリ性側領域の土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のセレン汚染土壌の不溶化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価セレンによって汚染された土壌の不溶化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)は、ヒトにおける微量必須元素であり、酵素やタンパク質の一部を構成し、抗酸化反応(酸化物質により細胞が障害を受けるのを防ぐ反応)において重要な役割を担うミネラルである。
セレンは、通常食物から摂取しており、日本では通常食事で不足することはないとされるが、一方、摂取しすぎると健康上のリスクを伴うことから、水質汚濁、地下水の水質汚濁及び土壌の汚染に係る環境基準の指定項目となっている。
また、土壌汚染対策法においても、第二種特定有害物質に指定されている。
【0003】
セレンは自然界に広く存在し、存在量は地殻では0.05mg/kg、土壌中では0.47mg/kgとされる。
セレン鉱物として産することはまれであり、同じ16族元素の硫黄と化学的性質が似ているため、硫化鉱物中にセレン化物として含まれるほか、硫黄や硫化鉱物中で硫黄と置換して存在している。
鉱物中のセレンは風化過程において酸化され、酸性土壌中では鉄酸化物等と結合した亜セレン酸塩(4価セレン)として、アルカリ性土壌ではさらに酸化されて溶解性の高いセレン酸塩(6価セレン)として存在する。
そして、亜セレン酸塩やセレン酸塩は、他の重金属と比べても溶解度が高く、土壌から溶出しやすいという特徴を持つ。
また、亜セレン酸イオンやセレン酸イオンは比較的安定であるため、酸化還元電位やpHが変化しても、形態が直ちに変わることはなく、その変化はゆっくりと進行する。加えて、セレン酸イオン(6価セレン)は、亜セレン酸イオン(4価セレン)に比べて土壌に吸着されにくく、どのような環境条件下においても安定であるため、環境中で広く拡散しやすいとされている。
そして、4価セレンは平面的な構造をしており種々の化合物との反応が進行しやすいとされるのに対して、6価セレンは正四面体構造の安定な構造であるため反応性が悪く、処理が困難とされている。
また、6価セレンから4価セレンへの還元処理は、塩酸酸性(強酸性)下での加熱(煮沸)処理が必要とされているほか、水処理の分野では、6価セレンを含む排水に塩酸等の酸を加え、酸性領域や中性領域で造粒鉄や鉄粉を充填したカラムに通水して還元処理する方法が提案されているが、いずれも、自然環境下では困難な処理条件であるといえる。
このような理由から、特に、6価セレンであるセレン酸塩を含む土壌の不溶化処理は、一般的に難しいと考えられていた。
【0004】
なお、本件発明者らが先に提案した、所定の品質に調製した酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする材料による汚染土壌の不溶化処理方法(特許文献1参照。)においても、過去にセレンの不溶化処理に関して検討を行っており、ヒ素及びセレンを含むトンネル掘削土(ズリ)に対する検討では、不溶化処理後1年経過後まで溶出挙動を観察し、酸化マグネシウムによる不溶化効果が安定的に維持されていたことを確認している。
しかしながら、この検討時には、セレンに関する化学形態別分析は実施しておらず、不溶化処理の対象としたセレンが4価セレン(亜セレン酸)なのか6価セレン(セレン酸)なのかは特定できていない。
【0005】
ところで、実際のセレンによって汚染された土壌から溶出してくるセレンを化学形態別に分析した例は数少ないが、自然由来のセレンについて、掘削ずりからのセレン溶出量を調査した事例では、溶出液中には4価セレンと6価セレンとが共存しており、その存在比率(モル比)は、4価セレン:6価セレンが概ね1:2〜1:1〜3:1と産出地域によって大きく異なることが判っている。
したがって、セレンの不溶化処理を検討、評価するに当たっては、まず、4価セレンと6価セレンの存在比率を化学形態分析により把握することが重要であると考えられるが、従来、このような知見に基づくセレンによって汚染された土壌の処理方法は存在せず、特に、6価セレンによって汚染された土壌を効率よく、確実に不溶化処理できる方法は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4109017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来のセレンによって汚染された土壌の処理、特に、6価セレンによって汚染された土壌の不溶化処理に関する問題点に鑑み、6価セレンによって汚染された土壌を、効率よく、確実に不溶化処理できるセレン汚染土壌の不溶化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法は、セレンによって汚染された土壌の不溶化処理方法であって、セレンによって汚染された土壌に含まれる4価セレンと6価セレンの分別定量を行い、該分別定量によって定量した6価セレンの土壌溶出量試験による溶出量が0.012〜0.044mg/Lの土壌に含まれる6価セレンを還元処理するために必要な鉄粉を含む処理剤を、土壌1m当たり鉄粉の添加量が5〜70kgとなるように、セレンによって汚染された土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことを特徴とする。
ここで、「土壌溶出量試験」とは、土壌溶出量試験(平成15年環境省告示第18号)をいう。
【0009】
この場合において、前記処理剤に、酸化鉄を含むものを用いることができる。
【0010】
また、前記処理剤を添加したセレンによって汚染された土壌に、酸化マグネシウムを後添加することができる。
【0011】
また、前記処理剤を、pH7を超えるアルカリ性側領域の土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法によれば、セレンによって汚染された土壌に含まれる4価セレンと6価セレンの分別定量を行い、6価セレンを還元処理するために必要な鉄粉を含む処理剤の添加量を算出し、該算出した添加量の処理剤をセレンによって汚染された土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うようにすることによって、セレンによって汚染された土壌の不溶化処理、特に、従来困難とされてきた、6価セレンによって汚染された土壌を、効率よく、すなわち、不溶化処理に要する処理剤の量の過不足をなくして、確実に不溶化処理することができる。
【0013】
また、前記処理剤に、酸化鉄を含むものを用いることにより、経済的に処理剤を増量できる。
【0014】
また、前記処理剤を添加したセレンによって汚染された土壌に、酸化マグネシウムを後添加することにより、セレンによって汚染された土壌に含まれるヒ素等の他の汚染物質を、セレンによって汚染された土壌の不溶化処理に影響を及ぼすことなく、セレンの不溶化処理と併せて、不溶化処理することができる。
【0015】
また、前記処理剤を、pH7を超えるアルカリ性側領域の土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことにより、土壌の中和処理や酸性化処理が不要となり、環境に大きな負荷をかけることなく、セレンによって汚染された土壌の不溶化処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】水素化物発生ICP発光分光分析法によるセレン化学形態分析の前処理方法の前処理フローを示す説明図である。
図2】HPLC/ICP−MS法のクロマトグラムを示す。
図3】試料土の粒径加積曲線を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法の実施の形態を、その実施例に基づいて説明する。
【0018】
本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法は、セレンによって汚染された土壌の不溶化処理方法であって、セレンによって汚染された土壌に含まれる4価セレンと6価セレンの分別定量を行い、6価セレンを還元処理するために必要な鉄粉を含む処理剤(ここで、処理剤に、さらに、酸化鉄を含むものを用いることができる。)の添加量を算出し、該算出した添加量に基づく処理剤をセレンによって汚染された土壌に添加することにより、土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことを特徴としている。
【0019】
本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法では、まず、セレンによって汚染された土壌に含まれる4価セレンと6価セレンの分別定量を行うようにしている。
【0020】
1.水素化物発生ICP発光分光分析法によるセレン化学形態分析の前処理方法の検討
1.1 予備検討
セレンの化学形態別分析に関しては、HPLC/ICP−MS法といった高度な分析法によって行うこともできるが、ここでは、ICP発光分光分析法や原子吸光光度法による汎用の機器を用いて行うことができる手法を検討した。具体的には、共沈殿分離法、還元処理の有無により全セレンと4価セレンとを個別に測定し、その差から6価セレンを求める方法、4価セレンを抽出・除去して6価セレンのみを測定する方法を検討した。
予備検討を実施した結果やJIS K 0102 67.セレン(Se)に示された前処理方法との類似性、操作の簡便性等を勘案し、還元処理の有無及び4価セレンの抽出除去を利用した前処理方法を採用し、水素化物発生ICP発光分光分析法を用いた4価セレンと6価セレンの分別定量を行うこととした。
【0021】
1.2 前処理方法の検討
図1に示す前処理フローを作成した。
水素化物発生ICP発光分光分析法では、6価セレンは還元剤として塩酸を添加して加熱還元処理し、4価セレンとした上で測定するが、本フローでは、還元が進みすぎて0価のセレンとなることを防止するため、還元抑制効果のある硝酸を同時に添加して加熱還元処理している((1)T−Se)。
加熱処理を省略すると、6価セレンは4価に還元されないため、検液中の4価セレンのみを測定することができる((2)Se(IV))。
これらの差から6価セレン濃度が計算できる((3)Se(VI))。
一方、検液中に4価セレンが6価セレンと比較して非常に多く存在する場合、分析誤差を勘案すると、全セレン量と4価セレン量の差から求める微量の6価セレンは精度が問題となる。そこで、4価セレンが酸性溶液中でビスムチオールIIと反応してクロロホルムに抽出可能な錯体を形成する性質を利用し、4価セレンをクロロホルム相に抽出・除去して、水相に残った6価セレンのみを選択的に測定することができる((4)Se(VI))。
なお、硝酸添加・塩酸加熱還元処理((1)T−Se)は、JIS K 0102 67.3に示された前処理方法とは若干異なることから、JIS法による前処理も比較として実施した((5)T−Se)。
【0022】
1.3 分析結果
6価セレンを溶出する土壌として、まさ土にセレン酸ナトリウム(6価セレン)を添加・混合して3ヶ月以上経過した模擬汚染土壌及び中部地方のトンネル建設工事において採取した自然由来でセレンを含有・溶出する掘削土砂を使用した。
土壌溶出量試験(平成15年環境省告示第18号)に従って検液を作製し、図1に示すフローに従って前処理を行い、水素化物発生ICP発光分光分析法によりセレンを測定した。また、別途外注分析により、HPLC/ICP−MS法による4価セレンと6価セレンの分別定量も実施した。カラムは、ハミルトン社製PRP−X100(250mm×4.1mm I.D.)を、溶離液は10mM クエン酸アンモニウム緩衝液を使用した。
セレン溶出量の分析結果を表1に、HPLC/ICP−MS法のクロマトグラムの一部を図2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示すように、模擬汚染土壌の溶出液では、HPLC/ICP−MS法において4価セレンのピークは検出されず、6価セレンのみが検出された(0.040mg/L)。6価セレンは土壌中で安定して存在していることが確認できた。
図1に示すフローでセレンを測定した結果でも、4価セレン((2)Se(IV))は検出されず、6価セレン((4)Se(VI))はJIS法前処理による全セレン((5)T−Se)と同じ0.044mg/Lとなった。
硝酸添加・塩酸加熱還元処理による全セレン((1)T−Se)は0.048mg/LとJIS法前処理((5)T−Se)と比較してやや高い値となったが、分析誤差の範囲と考えられる。なお、HPLC/ICP−MS法との分析値の差は、土壌試料のバラツキ、試験機関間の誤差が原因と考えられる。
【0025】
自然由来でセレンを溶出するトンネル掘削土砂の溶出液では、HPLC/ICP−MS法において4価セレン及び6価セレンのピークがそれぞれ検出された(図2)。4価セレンは微量(0.002mg/L)で、ほとんどが6価セレン(0.012mg/L)であった。
図1に示すフローでセレンを測定した結果、硝酸添加・塩酸加熱還元処理による全セレン((1)T−Se)及びJIS法前処理による全セレン((5)T−Se)は0.012mg/L、4価セレン((2)Se(IV))は0.001mg/Lとなり、その差から6価セレン((3)Se(VI))は0.011mg/Lと計算された(なお、(4)Se(VI)は未実施。)。
【0026】
模擬汚染土壌及び実際の自然由来セレン含有掘削土砂を用いた検討の結果、HPLC/ICP−MS法及び図−1に示す前処理フローを用いた水素化物発生ICP発光分光分析法による4価セレン及び6価セレンの分別定量分析の結果がほぼ同程度の値となり、図1に示す前処理フローは十分に適用可能であることを確認した。
実用上は、硝酸添加・塩酸加熱還元処理((1)T−Se)及び加熱処理の省略((2)Se(IV))で全セレン及び4価セレンを測定し、その差から6価セレン((3)Se(VI))を計算すればよく、必要に応じて、ビスムチオールII Se(IV)抽出除去((4)Se(VI))及びJIS法前処理((5)T−Se)を実施し、測定値の妥当性を確認すればよいと考えられる。
【0027】
2.6価セレンの不溶化処理に関する検討
2.1 試料の調製
6価セレンの不溶化処理に関して、模擬汚染土壌及び実際の自然由来セレン含有掘削土砂(いずれも、前記1.の前処理方法の検討で一部使用)を用いた室内トリータビリティ試験を実施した。
【0028】
模擬汚染土壌は、9.5mm以下に調整したまさ土にセレン酸ナトリウム(6価セレン)を水溶液の状態で添加・混合して均質化を行い、ポリエチレン袋に充填して樹脂製ペール缶内に密閉した状態で3ヶ月以上養生させた。
自然由来でセレンを含有・溶出する掘削土砂については、中部地方のトンネル建設工事において発生したもので、現場の土砂仮置き場で時期を変えて2回試料採取を行った。現場で5mmふるいを通過した状態まで試料を調整し、その後試験室に搬入した。試料は試験室内であらためて混合操作を行い均質化を行った。1回目に採取した試料はやや乾燥状態であったことから、2回目の試料については混合操作時に適宜加水して含水比調整を行った。調整後の試料はポリエチレン袋に充填して樹脂製ペール缶内に密閉した状態で保管した。
【0029】
2.2 土質性状の確認
試料土に対して、土粒子の密度試験(JIS A 1202)、含水比試験(JIS A 1203)及び粒度試験(JIS A 1204)を行った。また、突固めによる土の締固め試験(JIS A 1210)に準拠して、直径10cmモールドに2.5kgランマーで3層25回突き固めた状態の湿潤密度を測定した。その結果を、図3及び表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
2.3 原土壌の分析(セレン・ヒ素)
表2に示すように、試料土に対して、土壌含有量試験(底質調査方法及び平成15年環境省告示第19号)及び土壌溶出量試験(平成15年環境省告示第18号)を実施し、セレンの含有量及び溶出量を測定した。また、土壌溶出量試験では、溶出操作後の検液pHも測定した。なお、トンネル掘削土砂については、自然由来で含有する可能性のあるヒ素についても分析を実施した。また、セレン溶出量については、別途、HPLC/ICP−MS法による4価セレン及び6価セレンの分別定量分析を実施した(詳細は1.に記載。)。
セレン溶出量はそれぞれ基準(0.01mg/L)を超過していることを確認した。模擬汚染土壌はすべて6価セレン、トンネル掘削土砂も4価セレンが微量検出されたが、ほとんどが6価セレンであった。セレン含有量については、自然由来の汚染と判断する際の上限値の目安(2.0mg/kg)及び基準(150mg/kg)と比較して十分低い値であった。トンネル掘削土砂のヒ素の溶出量は基準(0.01mg/L)に適合していたが、いずれも0.006mg/Lと値としては検出されていたことから、複合汚染の場合を想定し、併せて不溶化効果を確認することとした。
【0032】
次に、6価セレンの不溶化処理に関して、模擬汚染土壌及び実際の自然由来セレン含有土砂を用いた室内トリータビリティ試験を実施した。
【0033】
2.4 不溶化処理剤
6価セレンを溶出する汚染土壌の不溶化処理に関しても、6価セレンを4価セレンや0価の金属セレンに還元することを基本方針とした処理が望ましいと考えた。そこで、入手が容易で還元効果が期待できる鉄粉(単独)及び鉄粉と酸化鉄からなる処理剤を不溶化処理剤として検討することとした。
試験に供した鉄粉及び酸化鉄には、汎用の微粒子状のものを用いることができ、本実施例においては、比表面積1m/g程度の鉄粉や同16m/g程度の酸化鉄(石原産業社製)を用いた。また、従前より適用を進めている酸化マグネシウム系材料(特許文献1参照。)(マグネシウム系固化材:宇部マテリアルズ社製「スーパーMAG」(商品名))についても検討に用いることとした。模擬汚染土壌に対しては、比較として、高炉セメントB種も使用した。
【0034】
2.5 配合試験
基本的に、試料土と不溶化処理剤をソイルミキサーで1分間混合して不溶化処理土とし、ポリエチレン袋に密封して20℃の恒温室内で養生した。所定材齢で不溶化処理土の一部を分取し、土壌溶出量試験(平成15年環境省告示第18号)及び検液pHの測定を行った。また、不溶化効果の安定性について評価するため、不溶化処理土の一部については、「重金属等不溶化処理土壌のpH変化に対する安定性の相対的評価方法」(土壌環境センター技術標準GEPC・TS−02−S1)に従い硫酸添加溶出試験及び消石灰添加溶出試験を実施した。
トンネル掘削土砂については、水に浸漬した状態でのセレン及びヒ素の溶出挙動を把握するため、無処理試料及び材齢28日の不溶化処理土を用いてタンクリーチング試験を実施した。溶媒に蒸留水を使用し、液固比(L/S=液体mL/試料重量g)は10とした。20℃の恒温室内で28日間浸漬させた後に採水し、分析に供した。採水後、残りの溶媒は廃棄し、新たに蒸留水を所定量加えて浸漬するサイクルを1〜3回繰り返した。
【0035】
2.6 配合試験結果
(1)模擬汚染土壌
模擬汚染土壌の不溶化処理土に関するセレン溶出量等の分析結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
模擬汚染土壌のセレン溶出量は0.044mg/Lであり、すべて6価セレンであった(表2)。検液pHは7.1と中性であった。
鉄粉5kg/m添加、鉄粉と酸化鉄の処理剤(1)(酸化鉄:鉄粉=2:1(重量比。以下同じ。))15kg/m、30kg/m添加、処理剤(2)(酸化鉄:鉄粉=5:1)30kg/m添加による不溶化処理の結果、6価セレンはpH中性領域で効果的に不溶化され、いずれの溶出量も0.002mg/L未満となった。材齢が進行しても不溶化効果は維持されており、6価セレンを4価セレン(若しくは0価セレン)に還元処理することが、6価セレンの不溶化処理にとって非常に重要であることが確認できた。
この模擬汚染土壌では、6価セレンの還元処理には、中性領域において、鉄粉を5kg/m程度添加すれば十分な効果が得られているが、実際の現場における土壌への添加及び十分な混合を勘案すると、添加量をもう少し増加させることが望ましいことが判った。
今回、鉄粉と酸化鉄の処理剤が鉄粉単独と同様の不溶化効果が得られていることから、処理剤に酸化鉄を適用することで、経済的に不溶化処理剤を増量できる可能性があることが示唆された。
なお、硫酸添加溶出試験及び消石灰添加溶出試験の結果、消石灰添加のアルカリ性領域においてセレン溶出量が増加する傾向が見られており、この点については留意する必要がある。
【0038】
酸化マグネシウム(MgO)及び高炉セメントB種を50kg/m添加したケースでは、セレン溶出量の低下は見られたが、基準適合までには至らなかった。MgOは4価セレンに対して吸着効果があることは実験的にも確認されているが、6価セレンに対しては吸着・不溶化効果がやや劣るものと考えられる。
【0039】
自然由来重金属にはセレン以外にもヒ素やふっ素等が含まれることが予想され、そのような複合汚染に対して鉄粉や処理剤単独での不溶化処理が難しい場合、不溶化効果の高いMgOを併用する場合も想定される。
そこで、処理剤(1)を15kg/m添加・混合した後に、MgOを30kg/m添加・混合した場合、MgOの添加時期が不溶化効果に与える影響について確認した。
その結果、処理剤(1)を添加・混合した直後にMgOを添加・混合すると、6価セレンの不溶化を阻害する傾向が確認されたが、処理剤(1)を添加・混合して1日後以降にMgOを添加・混合した場合、6価セレンの不溶化をそれほど阻害せず、基準適合まで不溶化処理が可能であること、材齢が進行しても不溶化効果は維持されること、硫酸添加溶出試験・消石灰添加溶出試験においても不溶化効果が安定して維持されることが確認された。
このように、MgOの添加時期に留意が必要であるが、上記の不溶化処理剤とMgOを併用した不溶化処理が可能であることを確認した。
【0040】
(2)自然由来でセレンを溶出するトンネル掘削土砂
トンネル掘削土砂(1)の不溶化処理土に関する溶出量分析結果を表4に、タンクリーチング試験結果を表5に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
トンネル掘削土砂(1)のセレン溶出量は0.012mg/Lと基準(0.01mg/L)をわずかに超過した程度であり、そのほとんどが6価セレンであった(表2)。検液pHは8.7とややアルカリ性を示した。
セレン溶出量、模擬汚染土壌における不溶化処理結果(表3)をふまえて不溶化処理剤の添加量を設定したが、いずれのケースでも不溶化効果が低く、材齢7日では基準に適合したが、MgO単独のケースを除き、材齢の進行により基準を超過する結果であった。
4価セレン(亜セレン酸)はややアルカリ性でも鉄酸化物等に吸着することを勘案すると、6価セレンはアルカリ性で安定して存在するため、4価セレン(若しくは0価セレン)に還元処理するために必要な鉄粉や酸化鉄との処理剤の添加量が不足したことが不溶化効果が低い原因と考えられた。なお、ヒ素はすべてのケースで0.002mg/L未満まで不溶化されていた。
タンクリーチング試験の結果、無処理(BLK)では最初の28日間の浸漬でセレンが溶出して濃度が上昇するが、その後の浸漬の繰り返しではセレン濃度が低下していく傾向が確認された。逆に、ヒ素は浸漬を繰り返すと溶出濃度が増加する傾向が見られた。不溶化処理土についても同様に、いずれのケースでもセレンは最初の28日間の浸漬での溶出濃度が高く、その後の浸漬では溶出濃度が低下した。ヒ素については、鉄粉及び処理剤のケースで検出され、材齢の進行により溶出濃度がやや増加する傾向であった。MgO単独、処理剤+MgOのケースではヒ素は検出されず、MgO添加によりヒ素は安定して不溶化されることを確認した。
【0044】
トンネル掘削土砂(2)の不溶化処理土の溶出量等分析及びタンクリーチング試験結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
トンネル掘削土砂(2)のセレン溶出量は0.024mg/Lと基準(0.01mg/L)を2.4倍超過し、そのほとんどが6価セレンであった(表2)。検液pHは8.3とややアルカリ性を示した。
トンネル掘削土砂(1)の不溶化処理結果(表4)や、追加で別途実施した予備検討の結果をふまえ、不溶化処理剤(還元剤)の添加量を大幅に増加させた。その結果、トンネル掘削土砂(2)に対しては、鉄粉を30kg/m以上添加することで、pH7を超えるアルカリ性側領域であっても6価セレンが4価セレン(若しくは0価セレン)に還元されること、材齢が進行しても不溶化効果は維持されること、鉄粉を70kg/m添加すると0.002mg/L未満まで不溶化できることを確認した。また、酸化鉄と鉄粉の処理剤(1)(酸化鉄:鉄粉=2:1)及び処理剤(3)(酸化鉄:鉄粉=1:2)の50kg/m添加ケースでも、鉄粉30kg/m、50kg/m添加と同様の不溶化効果が得られた。MgO単独30kg/m添加では基準に適合するまで不溶化できなかったが、鉄粉とMgOを併用したケース(30kg/m+30kg/m添加、50kg/m+30kg/m添加、MgOは3日後に添加)では、上記処理剤による処理と同程度の不溶化効果が得られることを確認した。ヒ素はすべてのケースで0.002mg/L未満まで不溶化されていた。
硫酸添加溶出試験及び消石灰添加溶出試験の結果、処理剤添加ケースでは消石灰添加のアルカリ性領域においてセレン、ヒ素溶出量が増加する傾向が見られ、この点については留意する必要がある。
タンクリーチング試験の結果、MgO単独ケースを除くケースで、最初の28日間の浸漬ではセレン溶出濃度は0.002mg/L未満若しくは0.002mg/Lと低い濃度を示しており、不溶化効果が十分に発揮されていることを確認した。ヒ素については、すべてのケースで0.002mg/L未満であった。
【0047】
以上のとおり、セレンの化学形態別分析(4価セレン及び6価セレンの分別定量分析)に関して、水素化物発生ICP発光分光分析法の適用を目的として検液の前処理方法を検証し、硝酸添加・塩酸加熱還元処理(全セレン)及び加熱処理の省略(4価セレン)等の前処理方法が十分に適用可能であることを確認した。
次に、6価セレンの不溶化処理に関して、模擬汚染土壌及び実際に自然由来セレン含有・溶出するトンネル掘削土砂を用いた室内トリータビリティ試験を実施し、6価セレンを4価セレン(若しくは0価セレン)に還元処理する鉄粉(単独)や鉄粉と酸化鉄からなる不溶化処理剤の適用性、ヒ素やふっ素等との複合汚染を想定して不溶化処理剤と酸化マグネシウム(MgO)を併用した不溶化処理について検証した。6価セレンはアルカリ性で安定に存在しており、セレン溶出量としては低濃度であっても、pH7を超えるアルカリ性側領域で不溶化(還元)処理するためには、鉄粉(単独)や鉄粉と酸化鉄からなる不溶化処理剤の添加量を大幅に増加させる必要があること、6価セレンを還元できればpH7を超えるアルカリ性側領域であっても不溶化効果が長期間維持する可能性があること、添加時期を適切に設定すればMgOを併用しても6価セレンの不溶化効果を阻害しないこと等を確認した。
【0048】
以上、本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、例えば、鉄粉(単独)や鉄粉と酸化鉄からなる不溶化処理剤に、塩化第二鉄(固体又は液体)等の助剤を併用する等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のセレン汚染土壌の不溶化処理方法は、セレンによって汚染された土壌の不溶化処理、特に、従来困難とされてきた、6価セレンによって汚染された土壌を、効率よく、確実に不溶化することができることから、セレン汚染土壌の不溶化処理の用途に好適に用いることができる。
図1
図2
図3