特許第6717712号(P6717712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717712
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】機能性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/00 20060101AFI20200622BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20200622BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20200622BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200622BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20200622BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20200622BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20200622BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20200622BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20200622BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20200622BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20200622BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   B32B37/00
   B05D5/00 Z
   B32B27/32
   B32B27/00 L
   C09D201/00
   C09D7/40
   C09J7/20
   C09J201/00
   C09K3/00 R
   C08J7/043CER
   C08J7/04CEZ
   B05D7/00 K
   B05D7/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-170073(P2016-170073)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-34442(P2018-34442A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】池上 大輔
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−211068(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/056499(WO,A1)
【文献】 特開2013−040272(JP,A)
【文献】 特開2014−124795(JP,A)
【文献】 特開2013−087239(JP,A)
【文献】 特開2000−119608(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0078462(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 37/00
B05D 5/00
B05D 7/00
B32B 27/00
B32B 27/32
C08J 7/04
C08J 7/043
C09D 7/40
C09D 201/00
C09J 7/20
C09J 201/00
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材を含み、
前記ポリエチレン樹脂は、密度が0.930g/cm以上0.940g/cm以下である、機能性フィルム(但し、基材と、当該基材の少なくとも一方の表面に設けられた粘着剤層と、を備え、バイオマス度は20%以上であり、当該基材におけるポリ乳酸の含有割合は20重量%未満である、粘着シートを除く)の製造方法であって、
前記ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層の表面に、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを含む、機能性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記剥離剤層形成用塗布液は、前記剥離剤層形成用塗布液の調製から塗布が行われるまでの間において、温度が40℃以上である、請求項1に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記剥離剤層形成用塗布液は、前記剥離剤層形成用塗布液の調製から塗布が行われるまでの間において、温度が50℃以上であり、かつ、前記剥離剤層形成用塗布液の塗布開始時点から乾燥が完了するまでの間において、塗工膜の温度が50℃を下回ることはない、請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記剥離剤層形成用塗布液に含まれる溶剤は、前記芳香族系溶剤のみであるか、または前記芳香族系溶剤と、ケトン系溶剤との混合溶剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族系溶剤は、トルエンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記基材の、前記剥離剤層を形成する面とは反対側の面に、粘着剤層を形成することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記剥離剤層、前記基材および前記粘着剤層を含む積層体を、前記粘着剤層が、ロールの径方向に前記剥離剤層と直接接するよう巻き取ることをさらに含む、請求項に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項8】
アクリル系粘着剤より前記粘着剤層を形成することを含む、請求項6または7に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記アクリル系粘着剤は、アクリル系ポリマーと、エポキシ系架橋剤とを含む、請求項8に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記機能性フィルムは、立体形状として使用される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の機能性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性フィルムは、所望の目的に応じた機能を有するフィルムであり、基材や各種機能性層が有する特性の作用によって当該機能を発揮する。機能性フィルムとしては、樹脂フィルムを基材としたフィルムが広く使用されている。これらの中でも、柔軟性、弾力性、透明性および耐水性等に優れ、かつ安価で量産性の高い、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を基材に含む機能性フィルムは、高機能化および適用範囲拡大への期待が特に高まっている。
【0003】
ここで、機能性フィルムの一例としては、粘着フィルムが挙げられる。粘着フィルムは、塗膜を保護し、また被着体を傷から保護すること等を目的とする各種保護フィルムとして用いられうる。ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む粘着フィルムの一例としては、ブレーキディスクアンチラストフィルムが挙げられる。ブレーキディスクアンチラストフィルムは、自動車のブレーキディスクの防錆を目的として、さらには、ホイール表面の保護を目的として、タイヤホイールに貼付されるフィルムである。自動車のブレーキディスクは、外部から雨水が浸入することによって、酸化され、黒錆が付着する。このような黒錆は、自動車内の静粛性、居住性を損なう原因に繋がる。このため、ブレーキディスクアンチラストフィルムが必要とされる。
【0004】
かような粘着フィルムの製造方法として、特許文献1には、剥離ライナーのシリコーン系剥離剤層の表面にトルエン溶液であるアクリル系樹脂製粘着剤を用いて塗布法で粘着剤層を形成した後、0.928g/cmであるポリエチレン樹脂フィルム基材と前記粘着剤層とを貼合する方法が具体例として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/111663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された粘着フィルムと同様のまたは類似の用途に用いられる粘着フィルムをより高い生産効率で製造する方法としては、剥離ライナーを使用せずに、ポリエチレン樹脂フィルム基材の表面上に直接、剥離剤層および粘着剤層を形成することが考えられる。かような粘着フィルムの製造方法一例としては、たとえば、粘着剤層、基材および剥離剤層がこの順に積層されるよう、基材の一方の表面に粘着剤層を、他方の表面に剥離剤層を、それぞれ直接形成する方法が挙げられる。
【0007】
ここで、ポリエチレン樹脂フィルム基材表面に機能性層を形成する方法としては、生産効率の観点から塗布法を用いることが特に好ましい。ここで、機能性層が剥離剤層である場合は、塗布法で形成される剥離剤層は、特許文献1に記載のようなシリコーン系剥離剤を用いて形成されることが一般的である。シリコーン系剥離剤を用いた剥離剤層は、通常、剥離剤層形成用塗布液の塗布後に、塗工層を150℃以上の高温で硬化処理することで形成される。しかしながら、ポリエチレン樹脂フィルム基材を用いる場合は剥離剤層の硬化処理時の加熱によって基材の変形または劣化が生じることから、シリコーン系剥離剤の使用は適さない。また、シリコーン系剥離剤によって製造装置内部の汚染が進むと、その後の各機能性層の形成おいて、不純物として存在するシリコーン系剥離剤は基材表面で各機能性層形成用塗布液をはじく場合がある。このとき、シリコーン系剥離剤の使用は、機能性フィルムの故障頻度を増加させることもありうる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来実現が困難であった、塗布法によってポリエチレン樹脂を含有する層の表面に剥離剤層を形成することを含む、高い均一性を有する立体形状追従性に優れた機能性フィルムの製造を実現しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材を含み、
前記ポリエチレン樹脂は、密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下である、機能性フィルムの製造方法であって、
前記ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層の表面に、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを含む、機能性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗布法によってポリエチレン樹脂を含有する層の表面に剥離剤層を形成することを含む、高い均一性を有する立体形状追従性に優れた機能性フィルムの製造を実現しうる手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法によって製造されうる機能性フィルムの一例である、粘着フィルムの断面模式図である。
図2】本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法によって製造されうる機能性フィルムの他の一例である、剥離ライナーの断面模式図である。
図3】(A)は、本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法によって製造されうる機能性フィルムのその他の一例である、ロール状の粘着フィルムの斜視模式図である。また、(B)は、当該ロール状の粘着フィルムを形成する粘着フィルムの、B位置における拡大概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため、機能性フィルムの剥離剤層の形成方法として、シリコーン系剥離剤以外の種々の剥離剤と、溶剤とを含有する、剥離剤層形成用塗布液を用いた塗布法の検討を行った。そして、本発明者は、検討の結果、長鎖アルキル系剥離剤を用いることで、硬化反応を必要とせず、良好な剥離性を有する剥離剤層を低温で形成することができることを見出した。また、本発明者は、長鎖アルキル系剥離剤を用いて剥離剤層を形成する際には、その後の機能性層形成時の故障頻度の増加が極めて良好に抑制されることを見出した。
【0014】
本発明者の検討では、一般的に溶剤への溶解性が低い長鎖アルキル系剥離剤の塗布に使用可能な汎用溶剤であって、かつ剥離剤層形成用塗布液の溶媒として使用できるものとして、芳香族系溶剤が適することを見出した。しかしながら、本発明者は、ポリエチレン樹脂は芳香族系溶剤に対して大きく膨潤することから、ポリエチレン樹脂を含有する層の表面に層を形成する場合、芳香族系溶剤を使用した塗布法では高い均一性を有する機能性フィルムを製造することが困難となる場合があることも確認した。
【0015】
ここで、本発明者は、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を用いて機能性フィルムを製造することを目的として検討を進めた。その結果、本発明者は、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層において、ポリエチレン樹脂の密度を0.930g/cm以上とすることで、芳香族系溶剤に対する当該層の膨潤を顕著に抑制しうることを見出した。
【0016】
一方、本発明者は、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を用いた際に、密度が高くなるに従い、機能性フィルムを立体形状として使用する際に立体形状追従性が低くなることを見出した。ここで、立体形状として使用する機能性フィルムの例としては、ブレーキディスクアンチラストフィルム等の曲面を有する被着体や、段差を有する被着体に貼合される粘着フィルム等が挙げられる。これより、単にポリエチレン樹脂の密度を高くするのみでは、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層に、塗布法によって剥離剤層を形成することは可能となるものの、製造される機能性フィルムは立体形状追従性が低く、適用範囲が限定されてしまうとの問題が生じることとなる。本発明者は、かような問題を解決すべく、さらなる検討の結果、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層において、ポリエチレン樹脂の密度を0.950g/cm以下とすることで、機能性フィルムを立体形状として使用しうる程度の立体形状追従性を得ることができることを見出した。
【0017】
したがって、本発明は、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層に、塗布法によって剥離剤層を形成することを可能し、かつ立体形状で使用することができる機能性フィルムを製造しうる条件を見出すことで完成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明の一形態は、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材を含み、前記ポリエチレン樹脂は、密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下である、機能性フィルムの製造方法であって、前記ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層の表面に、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを含む、機能性フィルムの製造方法である。かような構成を有することで、塗布法によってポリエチレン樹脂を含有する層の表面に剥離剤層を形成することを含む製造方法によって、高い均一性を有する立体形状追従性に優れた機能性フィルムの製造を実現しうる。
【0019】
本発明者は、かかる構成により課題が解決されるメカニズムを、詳細は不明であるものの、以下のように推定している。ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層の密度は、層内のポリエチレン分子の一次構造、層内の存在状態またはポリエチレン分子の分子間相互作用等によって決定される。ここで、密度が0.930g/cm以上となる際には、これらが、芳香族系溶剤の層表面への付着、または層内部における拡散が極めて困難となる構造を有することとなる。その結果、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層は、芳香族系溶剤に対する膨潤が低減され、芳香族系溶剤を含む溶液の塗布が可能となる。また、密度が0.950g/cm以下となる際は、層に適度な柔軟性が付与され、層の形状を、立体形状を有する被着体に追従して変化させることが可能となる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0020】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタクリレート」を指し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸またはメタクリル酸」を指す。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性の測定等は、室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50RH%の条件で行う。
【0021】
<機能性フィルムの製造方法>
本発明の一形態に係る製造方法は、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材を用いるものであり、当該ポリエチレン樹脂を主成分として含有する層の表面に、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを含む。ここで、基材の少なくとも一方の最表層であるポリエチレン樹脂を主成分として含有する層に含まれるポリエチレン樹脂は、密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下である。
【0022】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の一形態に係る製造方法によって製造されうる、機能性フィルムの具体例を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0023】
図1は、本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法によって製造されうる機能性フィルムの一例である、粘着フィルムの断面模式図である。図1の粘着フィルム10において、11は粘着剤層、12はポリエチレン樹脂を主成分として含有する単層フィルム(基材)、13は剥離剤層を表す。
【0024】
図2は、本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法によって製造されうる機能性フィルムの他の一例である、剥離ライナーの断面模式図である。図2の剥離ライナー20において、21はポリエチレン樹脂を主成分として含有する単層フィルム(基材)、22は剥離剤層を表す。
【0025】
本発明の詳細を以下に記載する。
【0026】
〔基材の準備〕
(基材)
基材は、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層
(以下、単にポリエチレン樹脂層とも称する)を含む。ここで、主成分とは、層の総質量に対して60質量%以上含まれることを指し、75質量%以上含まれることが好ましく、85質量%以上含まれることがより好ましく、95質量%以上含まれることがさらに好ましく、98質量%以上含まれることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい(上限100質量%)。
【0027】
基材は、1層のポリエチレン樹脂層のみからなる単層フィルムであってもよいし、2層以上のポリエチレン樹脂層からなる多層フィルムであってもよい。また、ポリエチレン樹脂層と、ポリエチレン樹脂層以外の層とを有する多層フィルムであってもよい。また、基材が多層フィルムであり、ポリエチレン樹脂層以外の層を含む場合は、ポリエチレン樹脂を含有する層であることが好ましい。
【0028】
これらの中でも、本発明によってより高い効果が得られるとの観点から、ポリエチレン樹脂層のみからなるフィルムであることが好ましい。ポリエチレン樹脂層のみからなるフィルムにおいて、ポリエチレン樹脂層の数は、特に限定されないが、フィルムの薄膜化や生産効率性を考慮して1層以上6層以下であることがより好ましく、1層以上4層以下であることがさらに好ましく、1層以上3層以下であることが特に好ましく、1層であることが最も好ましい。
【0029】
各層に含まれるポリエチレン樹脂は、それぞれ1種類のポリエチレン樹脂であってもよいし、複数のポリエチレン樹脂の混合物であってもよい。
【0030】
ポリエチレン樹脂としては、エチレン単独重合体;エチレンと、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等のα−オレフィンの少なくとも1種との共重合体樹脂(ここで、α−オレフィンは、モノマー中0モル%を超えて5モル%以下であることが好ましい);エチレンと、官能基に炭素、水素、および水素原子だけをもつ非オレフィン単量体との共重合体(ここで、非オレフィン単量体は、モノマー中0モル%を超えて5モル%以下であることが好ましい)が挙げられる。
【0031】
各層に用いられるポリエチレン樹脂は、分岐状低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、極低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)のいずれであってもよい。また、上記ポリエチレン樹脂の混合物であってもよい。
【0032】
低密度ポリエチレン樹脂とは、本明細書においては、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm未満のポリエチレン樹脂を表すものとする。ここで、低密度ポリエチレン樹脂は、いわゆる軟質ポリオレフィンに属する広義の低密度ポリエチレンを意味するものであって、高圧法低密度ポリエチレン(一般に密度が0.910g/cm以上0.930g/cm未満である。)のほかに、メタロセン触媒を使用して選択的にα−オレフィン、特に、炭素数が大であるハイアーα−オレフィンを共重合して得られるメタロセン低密度ポリエチレン(一般に密度が0.910〜0.928g/cmである。)などを好ましく使用することができる。メタロセン低密度ポリエチレンは、ハイアーα−オレフィン等に由来する長鎖分岐が、樹脂の結晶性を抑制するように作用することにより、高圧法低密度ポリエチレンに近似する低い密度を有し、成形性に優れることが知られており、長鎖分岐を有する点で、JIS K6899−1:2015で定められる線状低密度ポリエチレン(LLDPE、直鎖状低密度ポリエチレン、炭素数3〜8のα−オレフィン共単量体に由来する短鎖分岐を有する重合体)等のエチレン・α−オレフィン共重合体と区別される。また、中密度ポリエチレン樹脂とは、本明細書においては、密度が0.930g/cm以上0.942g/cm未満のポリエチレン樹脂を表すものとする。そして、高密度ポリエチレン樹脂とは、本明細書においては、密度が0.942g/cm以上のポリエチレン樹脂を表すものとする。
【0033】
本発明においては、ポリエチレン樹脂層に含まれるポリエチレン樹脂は、密度が0.930g/cm以上である。これより、ポリエチレン樹脂層に含まれるポリエチレン樹脂としては、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)または高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)であることが好ましい。また、ポリエチレン樹脂層に含まれるポリエチレン樹脂としては、本発明において規定する密度を満たす限りは、低密度ポリエチレン樹脂と、中密度ポリエチレン樹脂または高密度ポリエチレン樹脂の少なくとも一方との混合物であってもよく、中密度ポリエチレン樹脂と、高密度ポリエチレン樹脂との混合物であってもよい。
【0034】
ここで、基材の少なくとも一方の最表層であるポリエチレン樹脂層に含まれるポリエチレン樹脂の密度は、密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下である。また、製造される機能性フィルムに立体形状追従性を付与し、適用範囲拡大を可能としうるとの観点から、0.942g/cm未満であることが好ましく、0.940g/cm未満であることがより好ましく、0.935g/cm未満であることがさらに好ましい。
【0035】
本明細書におけるポリエチレン樹脂の密度は、JIS K6922−1:1997に準拠して測定された値である。なお、本明細書において、注目するポリエチレン樹脂層中に複数のポリエチレン樹脂を含む場合は、ポリエチレン樹脂の密度は、各ポリエチレン樹脂を当該ポリエチレン樹脂層中における混合比で混合した、ポリエチレン樹脂混合物の密度を測定することによって得ることができる。
【0036】
ポリエチレン樹脂の分子量としては、特に制限されないが、メルトマスフローレート(MFR)(JIS K7210−1:2014、試験温度190℃、公称荷重2.16kg)が、0.03〜40g/10分の間のものであって、押出し適性を有するものが好ましい。
【0037】
ポリエチレン樹脂としては、市販品を用いてもよく、たとえば、日本ポリエチレン株式会社製 ノバテック(登録商標)LL UF943、C6 SF941、HD HF313、HD HF111、HD HF560、住友化学株式会社製 スミカセン(登録商標) CE3506、東ソー株式会社製 ペトロセン(登録商標) 7300A、株式会社プライムポリマー製 ハイゼックス(登録商標)3300F、3600F、7000F、7700F、8000F、ネオゼックス(登録商標)3510F、ウルトゼックス(登録商標)3520L、4020L、4050、エボリュー(登録商標)SP4020、SP3530、SP4030、H SP4505、SP4005、SP3505等を用いることができる。また、これらの樹脂と混合して用いる市販品としては、たとえば、日本ポリエチレン株式会社製 ノバテック(登録商標)LL UF230等の低密度ポリエチレン樹脂等を用いることができる。ただし、本発明に用いることができる市販品はこれらに限定されない。
【0038】
各層は、ポリエチレン樹脂に加えて、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂などのポリエチレン樹脂以外のオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。層における、他の樹脂の含有量は、層中に含まれる樹脂の総質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい(下限0質量%)。
【0039】
各層は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。各層における紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収効果を考慮して適宜設定される。ポリエチレン樹脂層は、紫外線抑制効果および樹脂との相溶性の観点から、層の総質量に対して、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることが好ましい。ポリエチレン樹脂層中の紫外線吸収剤およびその含有質量(ppm)は、ラマン分光法によって検出することができる。
【0040】
紫外線吸収剤の具体例としては、ハイドロキノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中でも、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いることが好ましい。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、および2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンがより好ましい。また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−5,6−ジクロルベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−フェニルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールがより好ましい。これらの紫外線吸収剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、基材を構成する各層には、光安定剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤などを適宜含有させることができる。
【0042】
光安定剤としてはビス(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系光安定剤、有機ニッケル等のクエンチャー等を使用できる。これらの光安定剤は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0043】
酸化防止剤としては、たとえば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、ラクトン系加工熱安定剤、イオウ系耐熱安定剤など公知の酸化防止剤を適宜使用することができる。これらの酸化防止剤は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0044】
アンチブロッキング剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、チタニア、マイカ、タルク等が挙げられる。これらのアンチブロッキング剤は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0045】
基材の厚さは、特に限定されるものではないが、機械的強度、透明性の確保などの点から、20〜200μmであることが好ましく、30〜100μmであることがより好ましい。また、基材を構成する各層の厚さは、5〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0046】
(基材の製造方法)
基材の成形方法としては、公知の方法が適用でき、特に制限されないが、たとえば、Tダイ法あるいはインフレーション法などにより溶融温度180〜250℃で押出した後、冷却ロールや空冷などにより冷却して巻き取る方法等が挙げられる。
【0047】
基材が多層フィルムである場合は、各層を積層する方法としては、たとえば、フィードブロック法やマルチマニホールドダイ法などによる共押出し法、加熱や接着剤などによるラミネート法等が挙げられる。
【0048】
また、フィルム延伸を行って基材を得てもよい。延伸方法としては、1軸延伸、2軸延伸等、種々の延伸方法が適用できるが、たとえば、周速の異なるロール群による縦方向1軸延伸方法、テンターオーブンによる横方向1軸延伸方法、これらの組合せによる2軸延伸方法、インフレーションのチューブラー延伸方法等が挙げられる。延伸後は、アニーリング処理してもよい。
【0049】
〔塗布法による剥離剤層の形成〕
本発明の一形態に係る製造方法は、ポリエチレン樹脂層の表面に、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを含む。
【0050】
(剥離剤層形成用塗布液)
本明細書において、剥離剤層形成用塗布液とは、芳香族系溶剤を溶媒として含有し、さらに長鎖アルキル系剥離剤を溶質として含有する溶液である。
【0051】
1.芳香族系溶剤
芳香族系溶剤としては、置換または非置換の芳香環式化合物であっても、置換または非置換の芳香族複素環式化合物であってもよい。置換または非置換の芳香環式化合物としては、特に制限されないが、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、アニリン等が挙げられる。また、置換または非置換の芳香族複素環式化合物としては、特に制限されないが、たとえば、ピリジン等が挙げられる。これらの中でも、芳香族系溶剤は、炭素原子および水素原子のみから構成される芳香族炭化水素類であることが好ましい。さらに、芳香族系溶剤は、長鎖アルキル系剥離剤をより良好に溶解・塗布しうるとの観点、および後述する乾燥性の観点から、トルエンが最も好ましい。これより、本発明の好ましい一形態は、芳香族系溶剤は、トルエンである方法である。
【0052】
芳香族系溶剤は、常圧における融点が20℃以下であるものが好ましい。常圧における融点が20℃以下であると、剥離剤層形成用塗布液の塗布を常圧環境下において常温以上で行うことができる。同様の観点から、10℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。
【0053】
芳香族系溶剤は、常圧における沸点が40℃以上であることが好ましい。剥離剤層形成用塗布液は、剥離剤層形成材料の溶解性向上の観点から、加熱された状態で塗布に用いられることが好ましい。ここで、常圧における沸点が40℃以上であると、上記の向上効果を得るために剥離剤層形成用塗布液を加熱した際に、溶剤の意図しない揮発をより抑止することができる。同様の観点から、芳香族系溶剤の常圧における沸点は、45℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。
【0054】
また、芳香族系溶剤は、熱によるポリエチレン樹脂層を変形または劣化をより小さくするとの観点から、100℃以下の温度で乾燥することができるものであることが好ましい。同様の観点から、芳香族系溶剤は、90℃以下の温度で乾燥することができるものであることがより好ましく、80℃以上90℃以下の温度で乾燥することができるものであることがさらに好ましい。ここで「乾燥することができる」とは、乾燥時にフィルムに温風を当てた状態や、または塗布時に溶剤の蒸気を排気等した状態において乾燥することができることであってもよい。これらの場合は芳香族系溶剤の常圧による沸点以下の温度であっても乾燥が可能となる。なお、80℃以上90℃以下の温度で乾燥することができる芳香族系有機溶剤としては、たとえばトルエン等が挙げられる。
【0055】
剥離剤層形成用塗布液中の総質量に対する、溶媒の含有量は、90質量%以上であることが好ましい。溶媒の含有量が90質量%以上である場合は、長鎖アルキル系剥離剤をより良好に溶解することができ、より均一性が高く、より欠陥が少ない層を形成することができるからである。同様の観点から、溶媒の含有量は、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。また、剥離剤層形成用塗布液中の総質量に対する、溶媒の含有量は、99.9質量%以下であることが好ましい。溶媒の含有量が99.9質量%以下である場合は、剥離剤層形成時に、十分な膜厚を有し、乾燥がより容易であり、より均一性が高く、より欠陥が少ない層を形成することができるからである。同様の観点から、溶媒の含有量は、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
ここで、剥離剤層形成用塗布液中に含まれる溶媒は、芳香族系溶剤単体であっても、芳香族系溶剤と1種または2種以上の他の溶剤との混合溶剤であってもよい。他の溶剤としては、特に制限されないが、たとえば、水;ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン樹脂層の膨潤がより小さく、長鎖アルキル系剥離剤の混合溶剤に対する溶解性が良好であるとの観点から、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤またはアルコール系溶剤であることが好ましく、ケトン系溶剤であることがより好ましく、メチルエチルケトン(MEK)であることがさらに好ましい。
【0057】
剥離剤層形成用塗布液中に含まれる溶媒の含有量に対する、芳香族系溶剤の含有量は、長鎖アルキル系剥離剤の溶媒に対する溶解性の観点から、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい(上限100質量%)。また、芳香族系溶剤に対するポリエチレン樹脂層の膨潤を顕著により抑制するとの観点から、剥離剤層形成用塗布液中に含まれる溶媒の含有量に対する、芳香族系溶剤の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
2.長鎖アルキル系剥離剤
本発明に係る製造方法は、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含む、剥離剤層形成用塗布液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを含む。
【0059】
本明細書において、長鎖アルキル系剥離剤に含まれるアルキル基の炭素数としては、特に制限されないが、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、長鎖アルキル系剥離剤に含まれるアルキル基の炭素数としては、特に制限されないが、44以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、22以下であることがさらに好ましく、20以下であることがよりさらに好ましく、16以下であることが特に好ましく、12以下であることが最も好ましい。
【0060】
長鎖アルキル系剥離剤としては、特に制限されず、低分子化合物やオリゴマー化合物であっても、高分子化合物であってもよい。
【0061】
長鎖アルキル系剥離剤の一例としては、長鎖アルキル系高分子を含む剥離剤が挙げられる。長鎖アルキル系高分子は、特に制限されないが、たとえば、任意の適切な加熱溶媒中で、反応性基を有する高分子と、当該反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物とを反応させて得ることができる。反応時には、必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒としては、特に制限されないが、たとえば、スズ化合物や三級アミン等が挙げられる。
【0062】
反応性基としては、特に制限されないが、たとえば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、無水マレイン酸基等が挙げられる。反応性基を有する高分子としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンアミン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの中でも、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールであることが好ましく、エチレン−ビニルアルコール共重合体であることが特に好ましい。なお、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体とは、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分けん化物も含む概念であり、上記ポリビニルアルコールとは、ポリ酢酸ビニルの部分けん化物も含む概念であるとする。長鎖アルキル系高分子を含む剥離剤としては、上記具体例として挙げられた反応基を有する高分子等の主鎖に、長鎖アルキル基が側鎖状に反応基を介して導入したものを好ましく使用することができる。反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物が有するアルキル基としては、特に制限されないが、たとえば、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基等が挙げられる。反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物としては、特に制限されないが、たとえば、オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ラウリルイソシアネートまたはステアリルイソシアネート等のイソシアネート系化合物、酸クロライド系化合物、アミン系化合物またはアルコール系化合物等が挙げられる。これらの中でも、イソシアネート系化合物であることが好ましく、ステアリルイソシアネートであることが特に好ましい。
【0063】
すなわち、長鎖アルキル系剥離剤としては、反応性基を有する高分子であるエチレン−ビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールと、反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物であるオクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ラウリルイソシアネートまたはステアリルイソシアネート等のイソシアネート系化合物との反応生成物であることが好ましく、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ステアリルイソシアネートとの反応生成物であることが特に好ましい。
【0064】
また、長鎖アルキル系高分子の他の一例としては、長鎖アルキル基含有モノマーを単重合または共重合させて得ることができる、単重合体または共重合体が挙げられる。単重合体または共重合体は、エチレン性不飽和モノマー共重合体であることが好ましい。これより、長鎖アルキル基含有モノマーおよび必要に応じて用いられる長鎖アルキル基含有モノマー以外の他モノマーは、エチレン性不飽和モノマーであることが好ましい。長鎖アルキル基含有モノマーとしては、特に制限されないが、たとえば、長鎖アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、他のモノマーとしては、特に制限されないが、(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。
【0065】
長鎖アルキル系剥離剤が高分子化合物である場合、高分子化合物の重量平均分子量は、特に制限されないが、より優れた剥離性を得るとの観点から、1万〜100万であることが好ましく、2万〜100万であることがより好ましい。
【0066】
また、長鎖アルキル系剥離剤の他の例としては、脂肪酸アミド系剥離剤、ビス脂肪酸アミド系剥離剤、N置換尿素系剥離剤等が挙げられる。
【0067】
脂肪酸アミド系剥離剤としては、特に制限されないが、たとえば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリン酸オレイン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0068】
ビス脂肪酸アミド系剥離剤としては、特に制限されないが、たとえば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−メチレンビスオクタデカンアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタール酸アミド等が挙げられる。
【0069】
N置換尿素系剥離剤としては、特に制限されないが、たとえば、N−ブチル−N’−ステアリル尿素、N−フェニル−N’−ステアリル尿素、N−ステアリル−N’−ステアリル尿素等が挙げられる。
【0070】
長鎖アルキル系剥離剤は、常温常圧環境下で固体であるものが好ましく、常温常圧環境下で結晶性を有するものがより好ましい。
【0071】
長鎖アルキル系剥離剤としては、市販品を用いてもよく、たとえば、常温常圧環境下で固体であり、結晶性を有する長鎖アルキル系剥離剤である、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 ピーロイル(登録商標)1010S等を用いることができる。ただし、本発明に用いることができる市販品はこれらに限定されない。
【0072】
これらの長鎖アルキル系剥離剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0073】
長鎖アルキル系剥離剤としては、芳香族系溶剤以外の溶剤に対して溶解性が低い材料を溶質として用いて塗布法により剥離剤層を形成しうるとの観点、および塗布法において均一な層形成を可能としうるとの観点から、高分子化合物であることが好ましい。
【0074】
剥離剤層形成用塗布液中の総質量に対する、長鎖アルキル系剥離剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。長鎖アルキル系剥離剤の含有量が0.1質量%以上である場合は、十分な膜厚を有し、乾燥がより容易であり、より均一性が高く、より欠陥が少ない剥離剤層を形成することができる。同様の観点から、長鎖アルキル系剥離剤の含有量は、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、剥離剤層形成用塗布液中の総質量に対する、長鎖アルキル系剥離剤の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。長鎖アルキル系剥離剤の含有量が10質量%以下である場合は、長鎖アルキル系剥離剤をより良好に溶解することができ、より均一性が高く、より欠陥の少ない剥離剤層を形成することができる。同様の観点から、長鎖アルキル系剥離剤の含有量は、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
剥離剤層形成用塗布液は、溶剤および長鎖アルキル系剥離剤のみから構成されていてもよいが、剥離剤層としての機能を損なわない限り、他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、たとえば、公知の樹脂や、公知の添加剤等が挙げられる。
【0076】
(塗布方法)
塗布方法は特に限定されず、たとえばロールコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアコーターなどの公知の塗布装置を用いて、ポリエチレン樹脂層の表面に塗布することで得ることができる。
【0077】
本発明の好ましい一形態に係る製造方法は、芳香族系溶剤および長鎖アルキル系剥離剤を含有する剥離剤層形成用塗布液は、温度が40℃以上である方法である。塗布時の剥離剤層形成用塗布液が40℃以上であると、溶剤への溶解性が低い長鎖アルキル系剥離剤を用いた際にも均一な溶液状態を有することができ、その結果、かような剥離剤を用いた際にも均一な剥離剤層を形成することができる。同様の観点から、塗布が行われる際の剥離剤層形成用塗布液の温度は、45℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。なお、剥離剤層形成用塗布液は、溶液の調製から塗布が行われるまでの間において、上記温度で保温されることが好ましい。また、塗布時の剥離剤層形成用塗布液の温度は、熱によるポリエチレン樹脂層を変形または劣化をより小さくするとの観点、および乾燥性の観点から、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。
【0078】
剥離剤層は、塗布後、乾燥を行うことによって形成される。この際の塗布量としては、所望の膜厚を得ることができる条件を適宜設定することができる。
【0079】
乾燥温度は、乾燥を行うことができる温度であれば特に制限されないが、乾燥性の観点から、80℃以上であることが好ましい。また、乾燥温度は、熱によるポリエチレン樹脂層を変形または劣化をより小さくするとの観点から、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。
【0080】
また、乾燥時間は、特に制限されないが、10〜60秒の条件であることが好ましい。
【0081】
剥離剤層の厚みは、剥離性をより向上させ、かつより高い均一性を得るとの観点から、0.01〜20μmであることが好ましく、0.01〜10μmであることがより好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましい。
【0082】
〔粘着剤層の形成〕
本発明の好ましい一形態は、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材の、剥離剤層を形成する面とは反対側の面に、粘着剤層を形成することを含む製造方法である。
【0083】
(粘着剤組成物)
1.粘着剤
粘着剤層形成材料である粘着剤組成物は、粘着剤を必須に含む。粘着剤としては、特に限定されず、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、スチレン−ジエンブロック共重合体粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤などを用いることができる。上記粘着剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0084】
粘着剤としては、接着の信頼性の観点から、特にアクリル系粘着剤を好適に用いることができる。アクリル系粘着剤を構成するアクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単量体主成分とし、必要に応じて(メタ)アクリル酸アルキルエステルに共重合可能な単量体(共重合性単量体)を用いることにより形成される。
【0085】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに共重合可能なアクリル共重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのカルボキシル基含有単量体またはその無水物;ビニルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有単量体;スチレン、置換スチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリロニトリルなどのシアノ基含有単量体;エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのオレフィン類;酢酸ビニルなどのビニルエステル類;塩化ビニル;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、グリセリンジメタクリレートなどのヒドロキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリルイルモルホリンなどのアミノ基含有単量体;シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミドなどのイミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジルなどのエポキシ基含有単量体;2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基含有単量体;トリエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能基の共重合単量体(多官能基モノマー)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
アクリル系ポリマーの重量平均分子量は特に限定されるものではないが、10万〜100万であることが好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0088】
粘着剤は、アクリル系ポリマーの他、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤などが挙げられる。架橋剤の添加量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.001〜10質量部であることが好ましく、0.005〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0089】
2.添加剤
粘着剤組成物は、必要に応じて、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤、帯電防止剤、タッキファイヤー、濡れ剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤等の公知の添加剤を適宜添加することができる。
【0090】
3.溶媒
粘着剤層を塗布により形成する場合、粘着剤組成物は、必要に応じて、公知の溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0091】
(粘着剤層形成方法)
粘着剤層の形成方法は特に限定されないが、たとえば、
(i)粘着剤組成物を、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材上の、剥離剤層を形成した面とは反対側の面上に塗布する方法や、
(ii)粘着剤層を有する転写部材の粘着剤層面と、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材と、が接するように両者を貼り合わせることで、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材の、剥離剤層を形成する面とは反対側の面に粘着剤層を形成する方法、
等の方法を用いることができる。
【0092】
これらの中でも、生産性の観点から、前記(i)の方法であることが好ましい。この際、粘着剤層の形成は、前記剥離剤層の形成よりも前に設けられていてもよく、後ろに設けられていてもよいが、前記剥離剤層の形成よりも後ろに設けられることが好ましい。
【0093】
塗布方法は特に限定されず、たとえばロールコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアコーターなどの公知の塗布装置を用いて塗布することができる。
【0094】
粘着剤層は、塗布後、乾燥処理を行うことによって形成されうる。この際の塗布条件としては、特に限定されないが、乾燥後の粘着剤層の厚みが10〜100μmの範囲となるような条件で塗布を行うことが好ましい。ここで、粘着剤組成物の塗布量としては、特に制限されないが、固形分質量で、10〜100g/mとすることが好ましく、20〜60g/mとすることがより好ましい。また、この際の乾燥条件としては特に限定されず、一般的には、60〜150℃にて10〜60秒の条件で乾燥を行うことが好ましい。
【0095】
上記(i)の方法においては、粘着剤組成物を、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材上に塗布・乾燥して粘着剤層を形成した後、後述する機能性フィルムが有しうる剥離ライナーを貼り合わせることをさらに含んでいてもよい。
【0096】
また、上記(ii)の方法において、転写部材とは、転写する層を保持する部材であり、転写する層を一時的に保持し、後に剥離されてもよいし、転写部材は剥離されずに、後述する粘着フィルムが有しうる剥離ライナーとしてそのまま用いてもよい。
【0097】
〔機能性フィルムが有しうる剥離ライナー〕
本発明の一形態に係る製造方法によって製造される機能性フィルム、特に粘着フィルムは、剥離ライナーをさらに有していてもよい。剥離ライナーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルム;上質紙、グラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙などの紙が挙げられる。かような、剥離ライナーの厚みは、通常10〜400μm程度であることが好ましい。また、剥離ライナーの表面には、粘着剤層の剥離性を向上させるためのシリコーンなどから構成される剥離剤からなる層が設けられてもよい。かような層が設けられる場合の当該層の厚みは、0.01〜5μm程度であることが好ましい。ただし、本発明の一形態に係る製造方法によって製造される機能性フィルムは、剥離ライナーを有していないものも包含されうる。なお、上記説明した本発明の一形態に係る機能性フィルムが有しうる剥離ライナーとして、本発明の他の一形態に係る機能性フィルムである剥離ライナーが用いられてもよい。
【0098】
(粘着剤層)
粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、粘着性および薄膜化の観点から、10〜100μmの範囲が好ましい。
【0099】
粘着剤層の被着体への粘着力は、1〜10N/25mmが好ましく、2〜8N/25mmがより好ましく、2.5〜6N/25mmが特に好ましい。かような範囲の粘着力であれば、再剥離が可能となり、粘着剤の糊残りも低減される。なお、被着体への粘着力は、粘着フィルムの粘着剤層面をSUS板に貼付し、24時間後にJIS Z0237:2009に従い、引張試験機により、180°方向に試験速度300mm/分で測定する。より詳細には、被着体への粘着力は、以下の方法によって測定された値である;粘着フィルムを1日標準環境下(23℃50%RH)に静置し、必要に応じて設けられる剥離ライナー等を剥がして粘着剤層面を露出させ、SUS304鋼板に粘着剤層面を貼付する。この際、質量2kgのローラを1往復かける。1日標準環境下に静置後、JIS Z0237:2009にしたがい粘着力を測定する。具体的には、引張試験機により、180°方向に試験速度300mm/分でフィルムを引き剥がし、粘着力を測定する。数値は、フィルム幅25mm当たりの引き剥がし力に換算したもの(N/25mm)である。
【0100】
〔その他の機能性層の形成〕
本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法は、剥離剤層または粘着剤層以外の、その他の機能性層を形成することを含む方法であってもよい。ここで、その他の機能性層としては、特に制限されず、たとえば、ハードコート層、紫外線吸収層、防汚層、印字印刷層、易接着層、帯電防止層等の公知の層を挙げることができる。
【0101】
〔巻き取り〕
本発明の一形態に係る製造方法は、剥離剤層、粘着剤層および任意に形成されうる各種機能性層を基材に形成した後、得られた積層体(機能性フィルム)を巻き取ることをさらに有することが好ましい。これより、本発明の好ましい一形態に係る製造方法は、剥離剤層、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂を主成分として含有する層を含む基材および粘着剤層を含む積層体を、粘着剤層が、ロールの径方向に剥離剤層と直接接するよう巻き取ることをさらに含む方法である。かような製造方法としては、たとえば、ロールtoロール法を用いた製造方法が挙げられる。
【0102】
巻き取りにおいて、得られた積層体(機能性フィルム)はロール状に巻回される。巻き取り装置としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。巻回回数としては、特に制限されない。また、ロール状に巻回される際には、機能性フィルムは巻き芯を用いずに巻回されることでロール状の機能性フィルムを形成されていてもよい。
【0103】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の一形態に係る製造方法によって製造されうる、ロール状の機能性フィルムの具体例を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0104】
図3 (A)は、本発明の一形態に係る機能性フィルムの製造方法によって製造されうる機能性フィルムのその他の一例である、ロール状の粘着フィルムの斜視模式図である。ロール状の粘着フィルム30において、31は粘着フィルムを表す。また、図3 (B)は、当該ロール状の粘着フィルムを形成する粘着フィルムの、B位置における拡大概略断面図である。31は粘着フィルム、32は粘着剤層、33はポリエチレン樹脂を主成分として含有する単層フィルム(基材)、34は剥離剤層を表す。
【0105】
ロール状の粘着フィルム30は、最も内径側に位置する粘着フィルム31から巻回したロール状となっている。ここで、粘着フィルム31において、剥離剤層34および粘着剤層32は長手方向に沿って基材上に形成されている。また、粘着フィルム31においては、基材として、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する、単層フィルムを有する。ここで、当該ポリエチレン樹脂の密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下である。
【0106】
なお、基材として多層フィルムを用いる場合は、多層フィルムは、少なくとも一方の最表層としてポリエチレン樹脂層を含み、当該ポリエチレン樹脂の密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下となる。また、基材として多層フィルムを用いる場合は、密度が0.930g/cm以上0.950g/cm以下であるポリエチレン樹脂層の表面と、剥離剤層34と、が接する構成となる。
【0107】
ここで、粘着フィルム31における粘着剤層32は、ロールの径方向に内側に巻回されている粘着フィルム31が有する剥離剤層34と接して、粘着した状態となる。剥離剤層34は、この粘着剤層32との粘着を剥離しやすくすることを目的として設けられている。ここで、ロール状の粘着フィルム30から粘着フィルム31が繰り出されるときには、粘着剤層32が剥離剤層34から順次引き剥がされて剥離される。
【0108】
なお、巻き取りの後、ロール状の機能性フィルムについて、ロールの任意の箇所で切断を行い、シート状へ固定し、さらに任意の形状へと打ち抜くことで、目的とする機能性フィルムの積層体を形成してもよい。また、ロール状の機能性フィルムより機能性フィルムを送り出し、所定の大きさに裁断することにより、目的とする機能性フィルムを形成してもよい。
【0109】
<用途>
本発明の一形態に係る製造方法にて製造される機能性フィルムは、粘着フィルムまたは剥離ライナーであることが好ましく、粘着フィルムであることがより好ましい。かような粘着フィルムは、傷や塗膜を保護する各種保護シートとして好適に用いることができる。かような保護シートの中でも、本発明の一形態に係る製造方法にて製造される機能性フィルムは、耐候性が高く、また、立体形状追従性の高いポリエチレン樹脂を基材に用いていることから、ブレーキディスクアンチラストフィルムとして用いることがより好ましい。被着体としては、車両、航空機、船舶、ブルドーザ、ショベルカー、トラッククレーン、フォークリフト等の移動体のホイールが挙げられる。車両としては、ガソリンやバイオエタノール等を燃料とする自動車、二次電池や燃料電池を利用した電気自動車、ハイブリッド自動車等の四輪自動車(乗用車、トラック、バス等);二輪のバイク、自転車;鉄道車両(電車、ハイブリッド電車、機関車等)などが挙げられる。
【0110】
また、本発明の他の一形態に係る塗布方法は、その用途は特に制限されないが、上記粘着フィルムまたは剥離ライナーの形成用途に好ましく用いることができる。
【0111】
なお、本発明の用途はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0112】
(実施例1)
<基材、剥離剤層形成用塗布液および粘着剤組成物の準備>
〔基材の作製〕
第1のポリエチレン樹脂として、日本ポリエチレン株式会社製、商品名 ノバテック(登録商標)LL UF230(密度0.921g/cm、MFR 1.0g/10分)、第2のポリエチレン樹脂として、日本ポリエチレン株式会社製、商品名 ノバテック(登録商標)HD HF111K(密度0.945g/cm、MFR 0.05g/10分)を準備した。
【0113】
次いで、第1ポリエチレン樹脂62.5質量部と、第2のポリエチレン樹脂37.5質量部と混合したものを原料として、押出機内で、温度190℃で溶融混練し、インフレーション法により、ロール状の基材を成形した。基材の膜厚は51μmであった。ここで、基材を形成するポリエチレン樹脂混合物の密度は0.930g/cmであった。
【0114】
〔剥離剤層形成用塗布液(機能性層形成用塗布液)の調製〕
トルエン中に、市販の剥離剤であるライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 ピーロイル(登録商標)1010Sを、溶液の総質量に対して2質量%となるよう添加し、50℃に加温して攪拌することで溶解して、剥離剤層形成用塗布液を調製して、後述の剥離剤層の形成における塗布開始までの間、50℃の状態で保管した。
【0115】
〔粘着剤組成物の調製〕
還流器および攪拌機を備えたフラスコに、アクリル酸ブチル95質量部、アクリル酸5質量部、過酸化物系開始剤およびトルエン(溶剤)を混合し、窒素置換を行いながら加温し、重合を行って、アクリル系ポリマーを得た(重量平均分子量Mw=500,000)。
【0116】
上記アクリル系ポリマー固形分100質量部、およびエポキシ系架橋剤(商品名:TETRAD−X、三菱ガス化学社製)0.01質量部を混合して粘着剤組成物を得た。
【0117】
<剥離剤層の形成>
前記作製したロール状の基材を送り出し、搬送させながら、前記作製した基材の一方の表面に、50℃に保温した剥離剤層形成用塗布液をバーコーターにより塗布した後、80℃で1分間乾燥した後の乾燥膜厚が300nmとなるよう、剥離剤層を形成した。
【0118】
なお、非接触式温度計にて塗布開始時点から乾燥が完了するまでの塗工膜の温度を測定したところ、塗工膜の温度は50℃を下回ることはなかった。
【0119】
<粘着剤層の形成>
剥離剤層の形成の後、前記作製した基材と剥離剤層との積層体を搬送させながら、当該積層体における、基材の剥離剤層を形成した面とは反対側の表面に、粘着剤組成物をロールコーターにより、塗布量が固形分質量で、20g/mとなるように塗布した後、90℃で1分乾燥させて乾燥膜厚20μmである粘着剤層を形成した。
【0120】
<巻き取り>
粘着剤層の形成の後、当該積層体を巻き取り装置にて、粘着剤層が、ロールの径方向に剥離剤層と直接接するよう巻回することで、ロール状の粘着フィルム(粘着フィルムロール)を製造した。
【0121】
(実施例2)
実施例1における基材の作製において、第1のポリエチレン樹脂を54.2質量部、第2のポリエチレン樹脂を45.8質量部とした以外は実施例1と同様にして、粘着フィルムロールを製造した。ここで、基材を形成するポリエチレン樹脂混合物の密度は0.932g/cmであった。
【0122】
(実施例3)
実施例1における基材の作製において、第1のポリエチレン樹脂を41.7質量部、第2のポリエチレン樹脂を58.3質量部とした以外は実施例1と同様にして、粘着フィルムロールを製造した。ここで、基材を形成するポリエチレン樹脂混合物の密度は0.935g/cmであった。
【0123】
参考例4)
実施例1における基材の作製において、第1のポリエチレン樹脂および第2のポリエチレン樹脂に代えて、ポリエチレン樹脂として、日本ポリエチレン株式会社製、商品名 ノバテック(登録商標)HD HF313(密度0.950g/cm、MFR 0.05g/10分)を準備した以外は実施例1と同様にして、粘着フィルムロールを製造した。
【0124】
(実施例5)
実施例1における剥離剤層形成用塗布液の調製において、トルエンに代えて、トルエン:メチルエチルケトン(MEK)=2:1(質量比)の混合溶剤を用いた以外は実施例1と同様にして、粘着フィルムロールを製造した。
【0125】
(比較例1)
実施例1における基材の作製において、第1のポリエチレン樹脂を83.3質量部、第2のポリエチレン樹脂を16.7質量部とした以外は実施例1と同様にして、ロール状の粘着フィルムの製造を試みた。ここで、基材を形成するポリエチレン樹脂混合物の密度は0.925g/cmであった。しかしながら、剥離剤層の形成における基材の変形が大きいことから、続く粘着剤層の形成へ向けた基材の搬送および基材が搬送された状態における粘着剤層の形成が困難であり、粘着フィルムを形成することができなかった。
【0126】
<評価>
(基材のトルエン塗工性評価1;50℃トルエン膨張率)
前記作製した基材を75cm×75cmのサイズに切り出した。次いで、基材の一方の表面に、直接、50℃に加熱したトルエンをバーコーターで塗布した。そして、塗布後の基材を75cm×75cmのサイズの一枚目のガラス板上に、当該一枚目のガラス板の2辺の位置と塗布後の基材の2辺の位置とが一致するよう設置した。次いで、塗布後の基材上に、75cm×75cmのサイズの2枚目のガラス板を、当該2枚目のガラス板の2辺の位置と、塗布後の基材および1枚目のガラス板の上記のように位置を合せた2辺の位置とが一致するよう設置し、塗布後の基材を前記一枚目のガラス板および前記二枚目のガラス板で挟み込んだ。その後、上記のように位置を合せた2枚のガラス板および塗布後の基材の2辺方向に対して、塗布後の基材のガラス板からはみ出た部分の長さを測定した。なお、測定は塗布後30秒以内に行った。この結果から、塗布後の基材の面積を算出し、下記式によって基材の膨張率を算出した。
【0127】
【数1】
【0128】
ここで、前記の粘着フィルムの製造との対応から、膨張率の評価基準を下記のように設定した。ここで、膨張率が0%以上6%未満であれば、膨潤によるフィルム変形は少なく、機能性付与のための塗布後の基材の搬送や、その後の層を高い均一性を有するよう形成することが可能となる。評価結果を表1に示す。
【0129】
◎:膨張率が0%以上5%未満である、
○:膨張率が5%以上5.5%未満である、
△:膨張率が5.5%以上6%未満である、
×:膨張率が6%以上である。
【0130】
(粘着フィルムの均一性)
前記製造した各ロール状の粘着フィルムを、ロールの一ヵ所で切断し、シート状へ固定して自動車のホイールに貼合しうる形状へと打ち抜くことで、自動車のブレーキディスク用保護シートであるブレーキディスクアンチラストフィルムの積層体を製造した。
【0131】
各フィルム積層体からブレーキディスクアンチラストフィルムを、当該フィルムの粘着剤層を下層フィルムの剥離剤層から剥離することで取り出し、75cm×75cmのサイズで10枚切り出して下記評価基準に従い均一性を評価した。ここで、取り出したブレーキディスクアンチラストフィルムは、ロール状の粘着フィルムにおいて最も内径側に存在していたフィルムを最下層とした場合に、最下層に位置していたもの以外のものとした。評価結果を表1に示す。
【0132】
○:切り出したフィルムの全面積において、粘着剤層は粘着性を有しており、かつ剥離剤層からの剥離が容易である。
【0133】
×:切り出したフィルムの面積の一部において、粘着剤層は粘着性を有さず、または剥離剤層からの粘着剤層の剥離が困難である。
【0134】
なお、比較例1に係るフィルムについては、前記粘着フィルムロールを製造においてはロール状の粘着フィルムを製造することができなかったため、シート状のフィルムを製造して同様に評価を行った。シート状のフィルムの製造では、まず、予めシート状に切り出した基材を用いて、実施例1と同様の膜厚となるよう剥離剤層を形成した。その後、得られた積層体の四辺を強固に固定して変形を抑制しながら、基材の剥離剤層を形成した面とは反対側の表面に、実施例1と同様の膜厚となるよう粘着剤層の形成を行った。
【0135】
(粘着フィルムの立体形状追従性評価)
前記製造した各ロール状の粘着フィルムを、ロールの一ヵ所で切断し、シート状へ固定して自動車のホイールに貼合しうる形状へと打ち抜くことで、自動車のブレーキディスク用保護シートであるブレーキディスクアンチラストフィルムの積層体を製造した。
【0136】
各フィルム積層体からブレーキディスクアンチラストフィルムを、当該フィルムの粘着剤層を下層フィルムの剥離剤層から剥離することで取り出し、ホイールに貼付した。そして、下記評価基準に従い立体形状追従性を評価した。なお、取り出したブレーキディスクアンチラストフィルムは、ロール状の粘着フィルムにおいて最も内径側に位置していたフィルムを最下層と表現した場合に、最下層に位置していたもの以外のものとした。
評価結果を表1に示す。
【0137】
◎:ホイール形状に極めて容易に追従できる、
○:ホイール形状に容易に追従できる、
△:ホイール形状に力を加えれば追従可能、
×:ホイール形状に追従できない。
【0138】
ここで、比較例1のフィルムは均一性が劣るため、ホイール形状に合わせて貼合することが難しく、正確な立体形状追従性の評価を行うことができなかった。
【0139】
【表1】
【0140】
以上の結果より、実施例1〜3および、ならびに参考例4に係る製造方法では、ポリエチレン樹脂を含有する層の表面上に、直接、芳香族系溶剤および剥離剤を含有する溶液を塗布することが可能であるあることが確認された。また、実施例1〜3および、ならびに参考例4に係る製造方法では、製造される機能性フィルムが優れた立体形状追従性を有することが確認された。
【0141】
ここで、一般的に、芳香族系溶剤の温度が高いほど、基材の膨潤の程度は大きくなる。これより、実施例1〜3および、ならびに参考例4に係る製造方法は、40℃以上の芳香族系溶剤および剥離剤を含有する溶液(剥離剤層形成用塗布液)を塗布する際にも基材の膨潤が良好に抑制されたことから、極めて好ましい効果を示すものであることが分かる。
【0142】
なお、上記では、より高い均一性を有する剥離剤層を形成するために、剥離剤層形成用塗布液を40℃以上で保温し、塗布開始時点から乾燥が完了するまでの剥離剤層形成用塗布液の温度は40℃以上となるよう温度管理を行った。しかしながら、長鎖アルキル系剥離剤が溶剤に溶解する温度であれば、基材の膨潤の程度がより小さい、剥離剤層形成用塗布液の温度が40℃未満である条件においても本発明を適用しうることは明らかである。これより、本発明は、剥離剤層形成用塗布液を40℃以上の温度で塗布することを必須とするものではない。
【0143】
また、実施例1〜3および5に係る製造方法は、剥離剤層形成用塗布液を塗布するポリエチレン樹脂を含有する層の密度が0.930g/cm以上0.942g/cm未満であると、より優れた立体形状追従性を有する粘着フィルムの製造が可能であることが確認された。ここで、立体形状追従性が良好であることは、本発明の粘着フィルムを、立体形状を有する被着体に貼合する用途、たとえば、ブレーキディスクアンチラストフィルム等として用いる際に要求されるフィルム特性である。したがって、本発明において、立体形状追従性が良好である粘着フィルムの製造は、より広い範囲で適用可能な粘着フィルムを供給することが期待できるため好ましい。さらに、実施例1、2および5の結果から、剥離剤層形成用塗布液を塗布するポリエチレン樹脂を含有する層の密度が0.930g/cm以上0.935g/cm未満であると、特に優れた立体形状追従性を有する粘着フィルムの製造が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0144】
10、31 粘着フィルム
11、32 粘着剤層
12、21、33 ポリエチレン樹脂を主成分として含有する単層フィルム(基材)
13、22、34 剥離剤層
20 剥離ライナー
30 ロール状の粘着フィルム。
図1
図2
図3