(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の荷受台昇降装置90の荷受台93の場合、一枚の鋼板931に対して3本の横スチフナ932a、932b、932cと2本の縦スチフナ933a、933bとが溶接された構成となっている。これらのスチフナは、略コ字状断面で横方向(図中の左右方向)又は縦方向(図中の上下方向)を長手方向として鋼板931に溶接されており、この鋼板931の耐荷重の向上に寄与している。
【0005】
こうした溶接領域が大きい(溶接箇所M1、M2、M3、・・・が多い)ほど、鋼板931の耐荷重も大きくなるが、溶接特有の事情から未だ改善の余地がある。
【0006】
高温による溶接は、その温度が冷めるとともに溶接箇所に歪みが生じる特性がある。そのため、歪みが生じる方向とは反対側に逆の歪み力を所定量で予め付加する手法が採られている。しかしながら、溶接領域を大きくする等を行うと、歪み量も増加するため、逆の歪み力を付加する操作が複雑化し、付加する時間も増加し、製造コストの増加を招いてしまう。また、溶接領域を単に大きくするだけでなく、局所的な範囲における溶接量が増加しても同様に製造コストの増加を招いてしまう。
本発明は、上記の問題を鑑みてなされており、所望の強度を備えつつも製造コストの増加を抑制できる荷受台昇降装置の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、車両の荷台と地面との間で荷受台が昇降される荷受台昇降装置の製造方法について以下の手段を採る。
【0008】
前記荷受台において荷物が載置される荷物載置面部の反対側となる面部に、略コ字状断面部を有するとともに一方向を長手方向とするスチフナを溶接する溶接工程と、前記荷物載置面部を冷却媒体で冷却する冷却工程を有するようにする。
これらの工程を有することで、溶接の影響を抑制でき、製造工数の低減につながる。なお、冷却工程の開始及び終了のタイミングは適宜手設定可能である。
【0009】
次に、前記溶接工程は、一の鋼板に対して、前記スチフナを溶接するスチフナ溶接工程を有し、前記冷却工程は、前記一の鋼板における前記荷物載置面部に対して冷気を送出する冷気送出工程を有することもできる。
【0010】
さらに、前記スチフナ溶接工程において、前記スチフナのうちの前記長手方向に沿ったスチフナ端部を前記一の鋼板に連続して溶接する構成とすることもできる。この場合、溶接箇所の増加に対して冷却効果が大きく寄与し、上述した製造工数の低減面で顕著な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気体や液体などの冷却媒体を用いて荷物載置面部を積極的に冷却することで、その裏面側で溶接されるスチフナの溶接部の早期冷却を可能とする。したがって、溶接範囲の拡大や溶接量の増加を行っても、逆歪み力の付加時間が増加することの抑制等が可能となり、製造コストの抑制につながる。さらには、溶接範囲の拡大や溶接量の増加も可能となるので、耐久性能の高い荷受台を備えた荷受台昇降装置を実現することにも役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る荷受台昇降装置の製造方法について、図面を用いて説明する。なお、本発明は各実施形態の内容に限定するものではなく、他の内容も適用可能である。
【0014】
図1(a)は、本実施形態に係る荷受台昇降装置100を備えた車両Tの後部側面の模式図を示しており、図面左側が車両Tの前方側、図面右側が車両Tの後方側となっている。荷受台昇降装置100は、車両後部に立設された左右一対のポスト1と、各ポスト1内に挿入されて昇降自在なスライダ2と、スライダ2の下端部に回動可能に支持された荷受台3とを備えている。荷受台3は、図示された水平姿勢で地面と荷台Bの間を昇降作動(矢印A1)され、荷物の積みおろしが終了して車両走行状態とする際には水平姿勢から起立姿勢に姿勢変更(矢印A2)される。
【0015】
左右一対のポスト1の間には、クロスメンバ4が架設されており、その上面が荷台Bの床面と略面一状態となっている。このクロスメンバ4の内方には図示しないが油圧シリンダが設けられており、この油圧シリンダのロッド先端には、同じく図示はしていないがポスト1内まで張設されて一端がスライダに接続されたワイヤWの他端が接続されている。この油圧シリンダやワイヤによる構成及び荷受台3の昇降機構は既知のとおりである(例えば、特開2015−166236号公報)。
【0016】
本実施形態の荷受台3は、
図1(b)のとおり、デッキ板部31と、3本の横スチフナ32a、32b、32cと、2本の縦スチフナ33a、33bとを含んでなる。
【0017】
デッキ板部31は、一枚の鋼板からなり、一方の主面(図面の奥側)が、荷受台昇降装置100を使用する際に荷物を載置するための荷物載置面部となっている。また、荷物載置面部の裏側となる他方の主面(他方の手前側)には、上記鋼板の補強材となる横スチフナ32a、32b、32c及び縦スチフナ33a、33bが溶接されている。
【0018】
横スチフナ32a、32b、32cは、図示のとおり、左右方向を長手方向として並設されており、縦スチフナ33a、33bは、上下方向を長手方向としてデッキ板部31の左右端部にそれぞれ設けられている。いずれのスチフナも略コ字状の断面部を有するように鋼材が折り曲げ加工されてなり、長手方向に沿って端部が連続的に隙間なく溶接されている。したがって、例えば真ん中の横スチフナ32bには、便宜上、拡大図に斜線を付しているとおり、左右方向を長手方向とする2列の溶接痕Mu、Mdが上下に設けられている。このように溶接されることで、例えばスポット的、具体的には同じ列上であっても離間して溶接箇所が設けられた場合(
図6(b)参照)と比較して、本実施形態に係る荷受台3の耐久性能は向上される。
次に、上述の溶接がなされた荷受台3の製造方法について説明する。
【0019】
図2は、主に荷受台3を製造する工程を説明するフロー図である。本実施形態では、デッキ板部31を構成する鋼板に縞板加工する縞板加工工程S1と、デッキ板部31に固定する各スチフナ32a、32b、32c、33a、33bを準備するスチフナ準備工程S2と、上記工程S1、S2を経て上記鋼板を所定箇所に位置させる鋼板配置工程S3と、その後に並行して実施する冷気送出工程S4、逆歪み付加工程S5、及びスチフナ溶接工程S6と、デッキ板部31を静置する静置工程S7と、各スチフナ32a、32b、32c、33a、33bが溶着されたデッキ板部31に対して電着塗装と行う電着塗装工程S8と、当該工程S8を経て製造された荷受台3をスライダ2等に対して組み立てる組立工程S9とを行う。
【0020】
縞板加工工程S1では、一枚の鋼板をデッキ板部31とするために、荷物載置面部側となる一方の主面に縞板加工を行う(例えばプレス加工)。なお、縞板加工工程S1では、縞板加工を直接施すのではなく、予め縞板加工が施されたものを準備するものであっても良い。
【0021】
スチフナ準備工程S2では、上記の横スチフナ32a、32b、32c及び縦スチフナ33a、33bにするために、一方向を長手方向とする矩形状の鋼板を折り曲げ加工するスチフナ折曲工程S21と、この折り曲げ加工された横スチフナ32a、32b、32c及び縦スチフナ33a、33bをデッキ板部31の所定の位置に載置し、載置された当該スチフナ32a、32b、32c、33a、33bの数か所を溶接してデッキ板部31に対する仮付けS22を実行する。
【0022】
縞板加工工程S1とスチフナ準備工程S2を完了すると、後述する冷却工程S4及び溶着工程S5を行うために、鋼板配置工程S3を行う。当該工程S3では、縞板加工がなされた荷物載置面側が対向する状態でデッキ板部31を台座部CTに固定する。当該台座部CTには、上記荷物載置面に対してマイナス10℃程度の冷気を送り出すことのできる冷却装置が設けられている。
【0023】
冷気送出工程S4では、並行して行うスチフナ溶接工程S6で生じるデッキ板部31の温度上昇箇所を早期冷却し、溶接による影響を抑制するための冷却作業を行う。
【0024】
逆歪み付加工程S5では、並行して行うスチフナ溶接工程S6で縞板加工された一方の主面の裏面となる他方の主面に対する溶接作業で生じるデッキ板部31の歪みを抑制するために、予めその歪みを想定した上で当該歪みとは反対方向の歪みをデッキ板部31に付加する作業を行う。なお、この付加作業は、デッキ板部31の大きさや種類に合わせて適宜所定の大きさ及び方向に実施する。
【0025】
そして、本実施形態のスチフナ溶接工程S6では、既知のロボートアームを利用する。また、デッキ板部31の一方の主面(荷物載置面)に対しては冷気を送出しつつ、他方の主面には、上述した溶接痕Mu、Md(
図1(b))等が形成されるように連続して隙間なく溶接し、デッキ板部31に対して各スチフナ32a、32b、32c、33a、33bが高い耐久性能を発揮できるようにしている。
【0026】
冷気送出工程S4は、スチフナ溶着工程S6が完了後の数分間だけ継続実施し、逆歪み付加工程S5はスチフナ溶着工程S6の完了とほぼ同じタイミングで完了する。なお、この完了のタイミングに関しては、デッキ板部31の鋼板や各スチフナ32a、32b、32c、33a、33bの鋼材の種類や大きさ(厚み)によって適宜設定変更可能である。
【0027】
その後、デッキ板部31の温度等が安定するまで静観する静置工程S5を実行し、さらにその表面を電着塗装する電着塗装工程S8に移行する。当該工程S8を経ることで、防錆処理された荷受台3が製造されるので、その後に、スライダ2等を連結する組立工程S9等を実行する。なお、静置工程S5に関しては、上記の冷却工程S3のように冷却部位を特定し、その特定箇所を含むように冷却媒体で冷却するのとは異なり、荷受台3全体を一定時間静置する工程を指している。
【0028】
上記各工程S1〜S9を行う製造方法では、荷物載置面側に積極的に冷気を送出する冷却作業(冷気送出工程S4)を行うことで、本実施形態のように連続して隙間なく溶接するスチフナ溶接工程S6を採用しても、広範囲で発生する温度上昇を早期に低下させることができ、その溶接による影響を抑制できるため、高品質の荷受台3を提供できる。また、早期に冷却することで、静置工程S7の時間も短縮できる。
【0029】
特に、冷気送出工程S4は、並行して行われるスチフナ溶接工程S6が荷物載置面とは反対側の面(他方の主面)に行うのに対して、その裏面となる荷物載置面(一方の主面)に行うので、スチフナ溶接工程S6の作業進捗を阻害することはない。さらには、スチフナ溶接工程S6を阻害することがないだけでなく、連続して隙間なく溶接するスチフナ溶接工程S6の影響を抑制するので、その高い相乗効果を生じる。
【0030】
なお、本実施形態では、冷気送出工程S4、逆歪み付加工程S5、及びスチフナ溶接工程S6を並行して実行するものとしたが、同種の効果を得ることができれば、これらが並行して実行しなくても構わない。例えば、スチフナ溶接工程S6の開始前に冷気送出工程S4を実行しても良い。ただし、溶接の影響を抑制するためにも、スチフナ溶接工程S6が完了後に冷気送出工程S4が完了すること、少なくともスチフナ溶接工程S6を同時に冷気送出工程S4が完了することが好ましい。
ここで、上述した冷気送出工程S4及びスチフナ溶接工程S6について、
図3を用いて具体的に説明する。
【0031】
図3(a)は、冷気送出工程S4において、台座部CTにデッキ板部31が固定された状態を示す要部斜視図を示している。なお、説明の便宜上、スチフナ溶接工程S6で溶接される横スチフナ32a、32bや縦スチフナ33aを一点鎖線で示している。
【0032】
本実施形態では、スチフナ溶接工程S6とは別に図示のように冷気送出工程S4を実行している。送出する冷却媒体は、デッキ板部31を台座部CTから離した状態を示す
図3(b)のように、台座部CTに設けられた複数個の連通孔CHから上向きに送出された冷気CVを指している。冷気CVの送出に関しては、例えばサンワ・エンタープライズ株式会社の超低温空気発生器などを用いて、複数の箇所に設けられた挿通孔CHを介して、デッキ板部31に対して広い範囲で冷気CVが送出された状態にする。この冷気CVが送出される冷気送出工程S4に関しては、少なくともスチフナ溶接工程S6を行っている間は継続して実行する。
【0033】
スチフナ溶接工程S6では、
図4(a)の要部斜視図に示す矢印A3のように、デッキ板部31に逆歪み力が生じるように付加した状態で、当該デッキ板部31を固定している。ここで、「逆歪み力」とは、スチフナ溶接工程S6の際に、例えば横スチフナ32bの溶接部が冷めて収縮することで、デッキ板部31の左右方向中央部側が二点鎖線のようにZ方向に凸となるように撓むことの予防として付加応力を指す。この応力を付加する部材は図示しないが、台座部CTに適宜設けられた構成としている。
【0034】
上述のとおり、横スチフナ32a、32b、32cや縦スチフナ33a、33bをデッキ板部31に対して連続して隙間なく溶接した荷受台3は、高い耐久性能を有しつつ、その製造工程においてその製造コストを抑制することができる。具体的には、スチフナ溶接工程S6における荷受台3と台座部CTの模式断面図を示す
図4(b)のように、横スチフナ32a、32b、32cのデッキ板部31に対する溶接部となるスチフナ端部321a、322a、321b、322b、321c、322cの略鉛直下方となる位置またはその近傍位置に挿通孔CHがそれぞれ設けられている。そのため、溶接時に1000〜1200℃まで上昇する部位を早期に冷却することができ、溶接によって歪み(
図4(a)中の二点鎖線)等の影響を抑制でき、逆歪み付加工程S5における操作の簡易化等につながり、さらには静置工程S7の時間短縮にもつながる。その結果、荷受台昇降装置100の製造工数(製造コスト)を抑制できる。なお、挿通孔CHに関しては、図示するようなレイアウトに限定されず、さらには、複数の孔がX方向及びY方向に離散して設けられたものでなく、X方向又はY方向を長手方向とするスリットが設けられて、当該スリットを介して冷気が送出されるようにしても良い。
【0035】
特に、スチフナ溶接工程S6の作業を阻害することもない冷気送出工程S4は、他の工程と並行して実施できて汎用性も高く、全体の製造工数の低減につながっている。
【0036】
また、本実施形態では、デッキ板部31を平坦な台座部CTに近接配置(デッキ板部31の厚みと略同じ大きさの距離H1だけ離れた状態)しているので、送出した冷気CVを台座部の平坦面(XY平面)に沿って拡散(拡大図中のCV1、CV2)させ、デッキ板部31を広範囲にわたって温度低下の効果を得ることができる。また、荷物載置面側には、縞板加工によってその表面に滑り止め機能を有する突起部31a、31bを設けているので、台座部CTから突起部31a、31bまでの距離H2を省略して、台座部CTに突起部31a、31b(デッキ板部31)当接配置させた状態であっても、その突起部31a、31bの間を通過して同様に冷気CVを拡散させることができる。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る製造方法では、スチフナ32a、32b、32c、33a、33bの長手方向に沿って端部を連続的に隙間なく溶接した荷受台3に要する製造コストを抑制できるが、同程度の効果を得ることができれば、この実施形態には限定されない。冷気CVを上述のように拡散できるので、挿通孔CHの位置は図示した位置に限定されず、スチフナの端部321a、322a、321b、322b、321c、322cから離れた位置でも構わない。また、スチフナ溶接工程S6におけるスチフナの端部321a、322a、321b、322b、321c、322cの溶接に関しても、上述した長手方向に沿って離散してスポット的な位置に実行するものでも良い。離散した位置で溶接する場合でも、溶接量や溶接箇所数の増加で耐久性能を向上させることができる。つまり、上述したスチフナ溶接工程S6に限定されるものではなく、他の溶接工程を採用しても、荷受台3の耐久性能を向上させて、冷気送出工程S4の実行によってその製造工数の増加を抑制することができる。
【0038】
また、冷気送出工程S4で用いる冷却媒体に関しても、冷気だけでなく冷水などの液体を用いても良い。また、これらの送出に関しても、挿通孔CHを介したもの以外にも台座部CTの平坦面に沿って挿通管が設けられた構成を採用しても良い。つまり、図示した冷気送出工程S4だけでなく他の冷却工程を用いることも可能である。
【0039】
その他、荷受台昇降装置100に関しては、ポスト1に沿って鉛直方向に昇降するものを用いて説明したが、この種類以外でも、
図5に示すように平行リンクアーム201によって荷受台202が支持された構成のものにも適用可能である。