(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザ加工手段と、機械加工手段とを、共に備える複合加工装置を、前記請求項1に記載の前記第1工程、前記第2工程、及び前記第3工程からなる方法を行う複合加工装置として機能させる、複合加工プログラムを備え、実行する、
請求項1に記載の複合加工方法。
前記レーザ光の吸収率を高めた表面形状とは、該表面形状に対する前記レーザ光の入射角におけるP波成分の吸収率が、垂直入射時におけるP波成分及びS波成分の合計の吸収率以上となるように構成した表面形状である請求項1又は2に記載の複合加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、まず本発明の実施形態の概略を説明する。本発明の実施形態は、機械加工及びレーザ加工の双方を行う複合加工に関するものである。
本実施形態では、レーザ加工を行うに先立って、ワーク上のレーザ加工の対象とする領域(以下、「レーザ加工対象領域」と呼ぶ。)に対して、レーザ光の吸収率が適切となるように機械加工を行う。そして、この機械加工を行った後に、レーザ加工対象領域に対してレーザを照射することにより、レーザ加工を行う。
【0027】
これにより、ワークに対して適切な熱量を吸収させることができ、想定通りにワークを加熱することができる。すなわち、[発明が解決しようとする課題]で述べた、「レーザ加工を行うに先立って、ワークの吸収率を簡便に調整することが可能な、複合加工方法及び複合加工プログラムを提供する」という課題を解決することができる。
また、本実施形態では、必要に応じて、レーザ加工後に再度機械加工を行うことにより、ワークを所望の形状とするようなこともできる。
以上が本発明の実施形態の概略である。
【0028】
次に、本発明の実施形態として、第1の実施形態〜第10の実施形態について説明をする。ここで、これら各実施形態における処理を実現するための複合加工装置100の構成は、各実施形態において共通している。そこで、まず複合加工装置100の構成について説明をしてから、各実施形態それぞれについて詳細に説明をする。
【0029】
<各実施形態に共通する複合加工装置100の構成>
図1の機能ブロック図を参照して、複合加工装置100の構成について説明を行う。
図1を参照すると、複合加工装置100は、CPU111、ROM112、RAM113、CMOSメモリ114、複数のインタフェース(インタフェース115、インタフェース118、インタフェース119)、PLC116、I/Oユニット117、データ通信バス120、複数の軸制御回路(軸制御回路130〜134)、複数のサーボアンプ(サーボアンプ140〜144)、複数のサーボモータ(サーボモータ150〜154)、スピンドル制御回路160、スピンドルアンプ161、スピンドルモータ162、パルスエンコーダ163、表示器/MDIユニット170、操作盤171、外部機器172、レーザ制御部180、及びレーザ加工部181を備える。
【0030】
CPU111は複合加工装置100を全体的に制御するプロセッサである。CPU111は、ROM112に格納されたシステムプログラムを、バス120を介して読み出し、該システムプログラムに従って複合加工装置100全体を制御する。
RAM113には一時的な計算データや表示データ及び表示器/MDIユニット170を介してオペレータが入力した各種データが格納される。
【0031】
CMOSメモリ114は図示しないバッテリでバックアップされ、複合加工装置100の電源がオフされても記憶状態が保持される不揮発性メモリとして構成される。CMOSメモリ114中には、インタフェース115を介して読み込まれた加工プログラムや表示器/MDIユニット170を介して入力された加工プログラム等が記憶される。本実施形態では、CPU111が、かかる加工プログラムに基づいてレーザ加工部190を制御したり、ワークの移動や工具の駆動のために各軸に対応するモータを制御したりすることにより、後述の各工程におけるレーザ加工や機械加工を実行することが可能となる。
【0032】
ROM112には、加工プログラムの作成及び編集のために必要とされる編集モードの処理や自動運転のための処理を実施するための各種システムプログラムがあらかじめ書き込まれている。
【0033】
本実施形態における制御を実行するための加工プログラム等の各種加工プログラムは、インタフェース115や表示器/MDIユニット170を介して入力し、CMOSメモリ114に格納することができる。
【0034】
インタフェース115は、複合加工装置100とデータサーバ等の外部機器172との接続を可能とするものである。外部機器172側からは加工プログラムや各種パラメータ等が読み込まれる。また、複合加工装置100内で編集した加工プログラムは、外部機器172を介して外部記憶手段に記憶させることができる。
【0035】
PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)116は、複合加工装置100に内蔵されたシーケンスプログラムで工作機械の補助装置(例えば、工具交換用のロボットハンドといったアクチュエータ)にI/Oユニット117を介して信号を出力し制御する。また、工作機械の本体に配備された操作盤の各種スイッチ等の信号を受け、必要な信号処理をした後、CPU111に渡す。
【0036】
表示器/MDIユニット170はディスプレイやキーボード等を備えた手動データ入力装置であり、インタフェース118は表示器/MDIユニット170のキーボードからの指令やデータを受けてCPU111に渡す。インタフェース119は手動パルス発生器等を備えた操作盤171に接続されている。
各軸の軸制御回路130〜134はCPU111からの各軸の移動指令量を受けて、各軸の指令をサーボアンプ140〜144に出力する。
【0037】
サーボアンプ140〜144はこの指令を受けて、各軸のサーボモータ150〜154を駆動する。各軸のサーボモータ150〜154は位置・速度検出器を内蔵し、この位置・速度検出器からの位置・速度フィードバック信号を軸制御回路130〜134にフィードバックし、位置・速度のフィードバック制御を行う。なお、ブロック図では、位置・速度のフィードバックについては省略している。
【0038】
スピンドル制御回路160は、機械加工を行うための工具が取り付けられた主軸への主軸回転指令を受け、スピンドルアンプ161にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ161はこのスピンドル速度信号を受けて、スピンドルモータ162を指令された回転速度で回転させ、主軸に取り付けられた工具を駆動する。
【0039】
スピンドルモータ162には歯車あるいはベルト等でパルスエンコーダ163が結合され、パルスエンコーダ163が主軸の回転に同期して帰還パルスを出力し、その帰還パルスはバス120を経由してCPU111によって読み取られる。CPU111は、帰還パルスに基づいて工作機械への主軸回転指令を制御する。
【0040】
レーザ制御部180は、CPU111から、加工プログラムに基づいた、レーザ加工のためのレーザ出力指令を受ける。ここで、レーザ出力指令には、例えば、所定の出力のレーザ光を照射するためのピークパワー、周波数及びデューティ比等の指示が含まれる。レーザ制御部180は、このレーザ出力指令に基づいた制御信号をレーザ加工部190に出力する。
【0041】
レーザ加工部190は、レーザ光を発振して出射するレーザ発振器や、レーザ発振器から出射されたレーザ光を光学系で集光してワークに対して照射する加工ヘッドやノズルを備える部分である。レーザ加工部190は、レーザ制御部180からの制御信号に基づいて、所定の出力のレーザ光をワークに対して照射する。
【0042】
なお、モータに接続された各軸によるワークや工具の一般的な移動の方法や、主軸に取り付けられる工具を用いた一般的な機械加工の方法や、レーザ加工部190を用いた一般的なレーザ加工の方法については当業者にとってよく知られている。そこで、これらの点についての詳細な説明及び図示は省略する。
【0043】
また、上述した複合加工装置100の構成例はあくまで一例である。例えば、本実施形態は、工具による機械加工として、ネジ切りを含む旋削、ミリング、歯切りナール(ローレット)加工を含む転写、転造、プレス、スピニング、及びサンドブラスト等の多様な機械加工を採用することができる。更に、本実施形態は、レーザによるレーザ加工として、炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)、YAGレーザ、ファイバーレーザ、及びダイオードレーザ等の多様なレーザを利用したレーザ加工を採用することができる。これらの多様な加工を実現するために、上述した複合加工装置100を任意に変形するようにしてもよい。
【0044】
例えば、上述した構成例では、軸制御回路30〜34の5つの軸制御回路と、サーボモータ50〜54の5つのサーボモータが示されている。しかし、これに限定されることなく、任意の個数の軸制御回路及びサーボモータを備えるようにしてもよい。また、複合加工装置100は、単一の装置で実現するようにしてもよいが、例えば、数値制御装置と工作機械とを組合せて実現するようにしてもよい。
【0045】
次に、各実施形態のそれぞれについて詳細に説明をする。なお、前提として、以下の各実施形態では、レーザ光20によるレーザ加工により、金属材料(例えば、炭素鋼であるS45C)であるワーク10に対して焼入れを行う場面を想定して説明をする。
【0046】
この場合に、レーザ光20は、例えば、炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)、YAGレーザ、ファイバーレーザ、及びダイオードレーザ等の高出力レーザである。また、レーザ光20の出力は、例えば10W〜20kWである。更に、レーザ光20の波長は、例えば紫外光から赤外光に分類される波長である。
【0047】
ただし、これらの前提は各実施形態を説明するための一例に過ぎず、各実施形態の適用範囲を限定するものではない。例えば、ワーク10として金属材料以外を用いるようにしてもよい。
【0048】
<第1の実施形態>
次に、第1の実施形態について説明する。
図2に、複合加工装置100による、ワーク10に対する機械加工及びレーザ加工について図示をする。また、
図3のフローチャートに本実施形態における各工程を図示する。以下に説明する各工程は、上述した複合加工装置100により行われるものとする。
【0049】
まず、
図2の「(a)「処理前(素材)」に示すように、各工程における処理前のワーク10は、円柱形状をしている。そして、ワーク10は、円柱形状の側面の長手方向に延びる軸を回転軸(図中では、回転軸を一点鎖線で示す)として回転するように、複合加工装置100の何れかの軸に配置される。なお以下の処理は、ワーク10を回転させながら行われるが、その回転速度は、例えば1000rpmであるとする。
【0050】
次に、この状態で複合加工装置100は、レーザ加工を行う前に、ワーク10上のレーザ加工対象領域11に対して、レーザ光の吸収率が適切となるように機械加工を行う。すなわち、第1工程としてレーザ照射前処理を行う(
図3のステップS1)。
【0051】
ここで、本実施形態における第1工程での機械加工の考え方について
図4及び
図5を参照して説明をする。
まず、
図4に示すようにワーク10の表面に対して垂直にレーザ光20が入射する角度を入射角0(deg)とした場合に、
図5に示すように、レーザ光20の吸収率は、垂直入射(入射角=0(deg))で小さくなり、入射角が大きくなると(例えば、60(deg)超となると)で大きくなる傾向がある。
【0052】
そこで、本実施形態は、この点を考慮して第1工程での機械加工を行う。例えば、レーザ光20の吸収率を高めたい場合には、レーザ加工対象領域へのレーザ光の入射角が大きくなるように、表面形状を機械加工する。一方で、レーザ光20の吸収率を低めたい場合には、レーザ加工対象領域へのレーザ光の入射角が小さくなるように、表面形状を機械加工する。
【0053】
機械加工の具体的な方法として、ワーク10の表面に対して、ネジ切りを含む旋削、ミリング、歯切りナール(ローレット)加工を含む転写転造、プレス、スピニング、サンドブラストなどの機械加工を行う。
【0054】
本実施形態では、レーザ光20の吸収率を高めるために、レーザ加工対象領域へのレーザ光20の入射角が大きくなるように、表面形状を機械加工する。そのために、旋削加工を行い、ワーク10の表面のレーザ加工対象領域11以外の領域については、最終的に所望する形状とする。例えば、ワーク10の直径が最終的に所望する直径となるようにする。また、
図2の「(b)第1工程(レーザ照射前)」に示すようにレーザ加工対象領域11に頂点及び谷底に平坦部を有するV溝を反復して設ける。このV溝は、例えば回転軸に対して並行に0.5mmのピッチで設ける。また、V溝の頂点の平坦部の高さは、例えば、最終的に所望する直径から0.5mmの高さとする。
【0055】
この状態で複合加工装置ワーク100は、レーザ加工対象領域11に対してレーザ加工を行う。具体的には、レーザ加工対象領域11に対してレーザ光20を照射することにより、レーザ加工対象領域11を加熱する。すなわち、第2工程としてレーザ照射処理を行う(
図3のステップS2)。
【0056】
ここで、予めレーザ光20の吸収率が適切となるように機械加工を行っていることから、レーザ光20は、効率よくワーク10に吸収されることとなる。つまり、効率よくレーザ加工を行うことが可能となる。本例では、各V溝の頂点及び谷底は平坦部であるのでレーザ光20が垂直入射することになり、レーザ光20の多くは反射される。これに対して各V溝のそれ以外の部分は、レーザ光20が斜めに入射することになるので、レーザ光20は効率よく吸収されて、強く加熱される。なお、以下の各図も含めて加熱された部分は、斜線のハッチングで表す。
【0057】
そして、加熱で加えられた熱は、各V溝の谷底よりレーザ加工対象領域11内部に対して伝導する。ここで、レーザ照射を止めると、加熱部分の熱が急速に周囲の低温部分に伝導して、加熱された部分が急冷される。もしくは、油冷や水冷で急冷する。これにより、レーザ加工対象領域11の内部の所定の深さまで焼入れを行うことができる。
【0058】
なお、
図2の「(c)第2工程(レーザ照射)」に示すように、レーザ光20をワーク10の軸心からズラして、ワーク10の側面に照射することにより、入射角を調整することで、レーザ光20は、より効率よくワーク10に吸収されるようにしている。
【0059】
次に、複合加工装置ワーク100は、機械加工による仕上げをすることにより、所望の熱処理に加えて、所望の仕上げ形状・表面を得る。すなわち、第3工程として仕上げ処理を行う(
図3のステップS3)。例えば、
図2の「(d)第3工程(仕上げ)」に示すように、レーザ加工対象領域11に対して旋削加工を行い、レーザ加工対象領域11に設けられたV溝を除去して、レーザ加工対象領域11の直径を最終的に所望する直径とする。
【0060】
ここで、上述したように、レーザ加工対象領域11の内部の所定の深さまで焼入れを行うことができていることから、このように表面を仕上げると、部分的に熱処理された部品を完成させることができる。なお、第1工程では、V溝を設けるのみにし、レーザ加工対象領域11以外の領域については機械加工を行わないようにしてもよい。そして、第3工程にて、レーザ加工対象領域11とレーザ加工対象領域11以外の領域の双方を最終的に所望する直径とするようにしてもよい。
【0061】
以上説明した、本実施形態では、レーザ加工対象領域11に対して、第1工程の機械加工を行ってレーザ光20の吸収率を高めた後に、第2工程としてレーザ加工を行うことから、ワーク10を効率よく加熱することが可能となる、という効果を奏する。また、更にその後に、第3工程を行うことにより、所望の熱処理に加えて、所望の仕上げ形状・表面を得ることが可能となる。
【0062】
<第2の実施形態>
次に、
図6を参照して第2の実施形態について説明をする。なお、第2の実施形態以降の各実施形態の説明では、第1の実施形態と重複する内容について説明を省略し、第1の実施形態と相違する点について詳細に説明をする。
【0063】
第1の実施形態では、第1工程としてレーザ光20吸収率を上げる機械加工を施した。これに対して本実施形態では、第1工程として吸収率を下げる機械加工を施す。
【0064】
その理由は、ワーク10の表面性状(表面粗さ)によっては、第1工程として吸収率を下げる機械加工を施すことが好ましいからである。例えば、ワーク10の素材が鋳肌、鍛造、黒皮という場合には、ワーク10の表面に微細な凹凸が存在する。
図6の「(a)「処理前(素材)」にこのような、表面に微細な凹凸が存在するワーク10を図示する。
【0065】
このような状態で、そのままワーク10に対してレーザ光20を照射すると、平坦な表面よりも吸収率は高くなるが、全体として不均一な加熱となるので好ましくない。
【0066】
そこで、本実施形態では、
図6の「(b)第1工程(レーザ照射前)」として図示するように、第1工程による機械加工として、レーザ加工対象領域11に対して研磨加工等を行うことにより、レーザ加工対象領域11を平坦な金属素地とする。
【0067】
そして、この第1工程を経た後に、第2工程として、レーザ加工対象領域11に対してレーザ光20を照射することにより、均一な加熱を行うことが可能となる。これにより、本実施形態では、
図6の「(c)第2工程(レーザ照射)」に示すように、レーザ加工対象領域11全体に対して均一に熱処理を行うことができる、という効果を奏する。
【0068】
なお、この場合に、「(d)第3工程(仕上げ)」を更に行うようにしてもよいし、ワーク10の表面のレーザ加工対象領域11以外の領域が黒皮等のままでよいのであれば、「(d)第3工程(仕上げ)」を省略するようにしてもよい。
【0069】
<第3の実施形態>
次に、
図7を参照して第3の実施形態について説明をする。本実施形態では、レーザ光20をワーク10に照射した場合の反射光について考慮する。
【0070】
入射光であるレーザ光20a(入射光線)が、垂直入射した場合や入射角が小さい場合には、反射光であるレーザ光20b(反射光線)が、レーザ光20を出射したレーザ発振器のアパーチャ内を通過して、レーザ発振器に戻ってしまう。そして、レーザ光20が戻ってきてしまうと、レーザ発振器が壊れるおそれがある。
【0071】
そこで、本実施形態ではこのような事態の発生を防止する。具体的には、
図7の「(b)第1工程(レーザ照射前)」として図示するように、第1工程による機械加工により、レーザ加工対象領域11の表面に山型形状を反復して設ける。
【0072】
これにより、
図7の「(c)第2工程(レーザ照射)」として示すように、この山型形状における、入射光であるレーザ光20a(入射光線)の半角で表した入射角が、半角で表した集光角以上となる。このようにすれば、反射光(反射光線)がレーザ発振器に戻らない。
【0073】
また、第1の実施形態でも説明をしたが、
図7の「(c)第2工程(レーザ照射)」に示すように、レーザ光20をワーク10の軸心からズラして、ワーク10の側面に照射している。これによっても、入射光であるレーザ光20a(入射光線)の半角で表した入射角が、半角で表した集光角以上となるので、反射光であるレーザ光20b(反射光線)がレーザ発振器に戻らない。
【0074】
以上説明した本実施形態では、入射光であるレーザ光20a(入射光線)の半角で表した入射角が、半角で表した集光角以上となるようにするので、反射光であるレーザ光20b(反射光線)がレーザ発振器に戻ることを防止できる、という効果を奏する。また、このようにした場合に、反射光であるレーザ光20b(反射光線)は、アパーチャの外部で、周囲に吸収されるため、特に問題は生じない。
【0075】
<第4の実施形態>
次に、
図8を参照して第4の実施形態について説明をする。本実施形態では、第1工程での機械加工において、レーザ光20による加熱に顕著な効果を現すようにする。
【0076】
本実施形態では、ランダム偏光または円偏光のレーザ光20を材料に照射して加熱するとき、入射角0(deg)でのS波・P波成分合計でのレーザ光20吸収率(
図8の吸収率xの2倍に相当)よりも、P波成分だけでの吸収率が大きくなる(
図8の吸収率yに相当)ようにする。つまり、
図8の例では、入射角がa(deg)以上となるようにする。入射角a(deg)においては、図示するように、吸収率yは、吸収率xの2倍の吸収率となる。
【0077】
このように、第1工程での機械加工において、ワーク10の表面形状を、入射角a(deg)以上となるようにすることにより、レーザ光20による加熱が顕著に効率的になる。また、ワーク10の表面形状を、P波成分での吸収率が最も大きくなる入射角b(deg)となるようにすると、より顕著な効果を奏することが可能となる。本実施形態は、例えば、P波のみが含まれS波が含まれないようなレーザ光20を利用する場合に特に好適である。
【0078】
<第5の実施形態>
次に、
図9を参照して第5の実施形態について説明をする。本実施形態では、
図9の「(a)「処理前(素材)」に示すように、P偏光面に対して水平なレーザ加工対象領域11の表面形状に対して、第1工程における機械加工を行うことにより、
図9の「(b)第1工程(レーザ照射前)」として示すようにV溝を、例えば0.3mmピッチと細かく形成する。なお、図中では、0.3mmピッチとしているが、より細かく形成してもよい。例えば0.05mm〜3mmの範囲で任意のピッチとしてもよい。ここで、V溝は、ねじ切りなどで製作が容易にできるという利点がある。
【0079】
次に、
図9の「(C−1)第2工程(レーザ照射)」として図示するように、第2工程としてレーザ光20を照射する。この点、V溝のそれぞれの傾斜面に対する、レーザ光20の入射角が大きくなる。そのため、V溝のそれぞれの傾斜面は効率よくレーザ光20を吸収して加熱される。
【0080】
この点、V溝のそれぞれ1つ1つに着目するのではなく、複数のV溝について巨視的に着目すると、複数のV溝が形成されている平面であるレーザ加工対象領域11全体の吸収率を見かけ上高くできることが分かる。従って、
図9の「(C−2)第2工程(レーザ照射)」として図示するように、レーザ光の照射により複数のV溝に加えられた熱は、各V溝よりレーザ加工対象領域11内部に対して伝播する。これにより、レーザ加工対象領域11の内部の所定の深さまで熱処理を行うことができる。
【0081】
以上説明した本実施形態によれば、細かなピッチでV溝を形成することにより、巨視的には平面であるレーザ加工対象領域11全体の吸収率を見かけ上高くできる、という効果を奏する。
【0082】
<第6の実施形態>
次に、
図10を参照して第6の実施形態について説明をする。本実施形態は、第3工程を経て最終的に所望する形状が、レーザ光20を吸収しにくい形状である場合に特に好適な実施形態である。
【0083】
本実施形態では、第1工程における機械加工によって、
図10の「(b)第1工程(レーザ照射前)」の<本実施形態による場合>として示すように、レーザ加工対象領域11に幅0.5mm、深さ0.8mmの溝の側面を85(deg)の角度で形成する。
【0084】
そして、第2工程においてレーザ光20をレーザ加工対象領域11に対して照射することにより、
図10の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態による場合>として示すように、溝の側面にレーザ光20を吸収させて、加熱を行う。これにより、所定の厚さの熱処理(この例では焼入れ)をすることができる。
【0085】
そして、第3工程における機械加工によって、
図10の「(d)第3工程(仕上げ)」の<本実施形態による場合>として示すように、側面を矩形状に仕上げ加工する。この場合であっても、所定の厚さの焼入れをすることができているので、仕上げた加工後の側面は焼入れがなされた状態となる。
なお、仮に本実施形態のようにしなかった場合について、
図10の<本実施形態によらない場合>を参照して説明をする。
【0086】
第1工程における機械加工によって、
図10の「(b)第1工程(レーザ照射前)」の<本実施形態によらない場合>として示すように、レーザ加工対象領域11に幅0.5mm、深さ0.8mmの溝の側面を90(deg)の角度で矩形状を形成したとする。
【0087】
そして、第2工程においてレーザ光20を照射したとする。この場合、
図10の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態によらない場合>として示すように、溝の側面には、レーザ光20がほとんど照射されないため、溝の側面はほとんど加熱されない。また、溝の谷底における平坦部については、レーザ光20が垂直入射されることとなるため、谷底おける平坦部も十分には加熱されない。
結果として溝を形成する矩形状全体において加熱がなされない、そのため、焼入れをすることができない。
【0088】
これに対して、上述したように、本実施形態によれば、側面において所定の厚さの焼入れをすることができているので、仕上げた加工後の側面は焼入れがされた状態となる。
つまり、本実施形態によれば、切り立った側面を熱処理できる、という効果を奏する。
【0089】
<第7の実施形態>
次に、
図11A及び
図11Bを参照して第7の実施形態について説明をする。本実施形態は、第1工程による機械加工を行った結果、レーザ加工対象領域11の一部が過度に加熱されることを防止する実施形態である。
【0090】
まず、
図11Aを参照して、レーザ加工対象領域11にV溝を反復して設けたが、平坦部は設けなかった場合について説明する。この場合、V溝の吸収率は向上する。更に、レーザ光20は反射を繰り返してV溝の谷底部まで到達する。そのため、
図11Aの「(c)第2工程(レーザ照射)」として示すように、反復しているV溝の稜線は両側面から加熱されて過度に高温となり、谷底部はレーザ光が集中して過度に加熱され易い。この場合、レーザ加工に用いるレーザ光20の種類や、ワーク10の材質等にもよるが、ワーク10の融点未満の加熱で焼入れを行うはずが、ワーク10の融点を超えてしまうようなこととなり、問題となる。
【0091】
そこで、
図11Bの「(c)第2工程(レーザ照射)」として示すように、反復しているV溝の頂点や谷底部に平坦部を設ける。すると、その平坦部の吸収率が低いので、
図11Aのように、頂点や谷底部といった一部分が過度に加熱すること防止できる。そのため、全体として均一な加熱が実現できる、という効果を奏する。なお、
図11Bのようにする場合、反復しているV溝のピッチは、例えば1mmとする。また、V溝の頂点の平坦部の高さは、例えば0.5mmとする。
【0092】
<第8の実施形態>
次に、
図12A及び
図12Bを参照して第8の実施形態について説明をする。本実施形態は、第1工程における機械加工の方法について考慮した実施形態である。
【0093】
図12Aの「(b)第1工程(レーザ照射前)」として示すように、レーザ加工対象領域11に対してローレット加工を行うことにより、レーザ加工対象領域11の表面に凹または凸の錐体もしくは錐体台の形状を無数に形成する。これにより、レーザ光20の吸収率を高めることができる。
【0094】
ローレット加工は、例えば、V溝をクロスして彫り込むような切削を行うことにより実現できる。また、他にも例えば転造により実現することもできる。具体的には、ローレット加工のための型をワーク10に押し当てることにより、型の形状を刻印することによってワーク10を塑性変形させることによっても実現できる。
【0095】
また、
図12Bの「(b)第1工程(レーザ照射前)」として示すように、レーザ加工対象領域11に対して円錐状の窪みを設けることでもレーザ光20の吸収率を高めることができる。この場合も、切削や転造により、円錐状の窪みを設けるようにするとよい。
以上説明した本実施形態によれば、第1工程における機械加工を種々の方法で実現することができる、という効果を奏する。
【0096】
<第9の実施形態>
次に、
図13を参照して第9の実施形態について説明をする。上述した各実施形態では、第2工程でレーザ加工として、主に焼入れを例に取って説明をしていたが、本実施形態及び後述の第10の実施形態では、第2工程でレーザ加工として、溶接を例に取って説明する。
【0097】
まず、本実施形態による場合について説明をする。なお、
図13におけるワーク10の形状は上述した各実施形態で図示したものと同様の円柱形状であるが、
図13ではワーク10の断面図を図示する。
図13の「(A)処理前(素材)」の<本実施形態による場合>として示すように、2つの円柱形状のワーク10の端面を接触させる。
【0098】
そして、第1工程において機械加工を行うことにより、
図13の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態による場合>として示すように、2つの円柱形状のワーク10端部をレーザ加工対象領域11として、レーザ加工対象領域11に対して、レーザ光20の吸収率を高めるための形状を形成する。例えば、反復したV溝を形成する。
【0099】
そして、第2工程においてレーザ光20をレーザ加工対象領域11に対して照射する。この点、第1工程によりレーザ加工対象領域11の吸収率を高めていることから、
図13の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態による場合>として示すように、2つの円柱形状の端部は十分に加熱され、ワーク10の融点を超える。これにより、2つの円柱形状のワーク10の端部が溶融し、2つの円柱形状のワーク10は溶接される。
以上説明した本実施形態では、第1工程にて、レーザ加工対象領域11の吸収率を高めることから、効率よく溶接を行うことが可能となる。
【0100】
なお、この状態においても、溶接を行うという目的は達成できるが、必要に応じて更に第3工程を行うようにしてもよい。例えば、
図13の「(d)第3工程(仕上げ)」に示すように、レーザ加工対象領域11に対して旋削加工を行い、レーザ加工対象領域11に反復して設けられたV溝及び溶接時に膨らんだ部分を除去して、レーザ加工対象領域11の直径を最終的に所望する直径とするようにしてもよい。
なお、仮に本実施形態のようにしなかった場合について、
図13の<本実施形態によらない場合>を参照して説明をする。
【0101】
図13の「(A)処理前(素材)」の<本実施形態によらない場合>として示すように、2つの円柱形状のワーク10の端面を接触させる点は、本実施形態による場合と同様である。そして、本実施形態によらない場合には第1工程は行われない。
【0102】
その後、第2工程においてレーザ光20を照射したとする。この場合、
図13の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態によらない場合>として示すように、レーザ加工対象領域11には吸収率を向上させるような機械加工は行われていないため、2つの円柱形状の端部は十分に加熱されず、ワーク10の融点は超えない、あるいは、融点を超えるのに時間を要する。
【0103】
これに対して、本実施形態では、上述したように、第1工程にて、レーザ加工対象領域11の吸収率を高めることから、効率よく溶接を行うことが可能となる、という効果を奏する。
【0104】
<第10の実施形態>
次に、
図14を参照して第10の実施形態について説明をする。本実施形態では、第2工程でレーザ加工として、溶接を例に取って説明する。ここで、第9の実施形態では、2つの円柱形状のワーク10の端部を溶接していたが、本実施形態では、2つの薄板形状のワーク10の端部を溶接する。
【0105】
まず、本実施形態による場合について説明をする。
図14の「(A)処理前(素材)」の<本実施形態による場合>として示すように、2つの薄板形状のワーク10の端面を接触させる。
そして、第1工程において機械加工を行うことにより、
図14の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態による場合>として示すように、2つの薄板形状のワーク10端部をレーザ加工対象領域11として、レーザ加工対象領域11に対して、レーザ光20の吸収率を高めるための形状を形成する。例えば、反復したV溝を形成する。この場合、例えばローレット加工のように金型を押しつけて形状を転写する機械加工を行うことにより反復したV溝を形成する。
【0106】
そして、第2工程においてレーザ光20をレーザ加工対象領域11に対して照射する。この点、第1工程によりレーザ加工対象領域11の吸収率を高めていることから、
図14の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態による場合>として示すように、2つの薄板形状の端部は十分に加熱され、ワーク10の融点を超える。これにより、2つの薄板形状のワーク10の端部が溶融し、2つの薄板形状のワーク10は溶接される。
以上説明した本実施形態では、第1工程にて、レーザ加工対象領域11の吸収率を高めることから、効率よく溶接を行うことが可能となる。
【0107】
なお、この状態においても、溶接を行うという目的は達成できるが、必要に応じて更に第3工程を行うようにしてもよい。例えば、
図14の「(d)第3工程(仕上げ)」に示すように、レーザ加工対象領域11に対してスパロールを利用した機械加工やプレス加工を行い、レーザ加工対象領域11を平面に仕上げるようにしてもよい。
【0108】
なお、仮に本実施形態のようにしなかった場合について、
図14の<本実施形態によらない場合>を参照して説明をする。
図14の「(A)処理前(素材)」の<本実施形態によらない場合>として示すように、2つの薄板形状のワーク10の端面を接触させる点は、本実施形態による場合と同様である。そして、本実施形態によらない場合には第1工程は行われない。
【0109】
その後、第2工程においてレーザ光20を照射したとする。この場合、
図14の「(c)第2工程(レーザ照射)」の<本実施形態によらない場合>として示すように、レーザ加工対象領域11には吸収率を向上させるような機械加工は行われていないため、2つの薄板形状の端部は十分に加熱されず、ワーク10の融点は超えない、あるいは、融点を超えるのに時間を要する。
【0110】
これに対して、本実施形態では、上述したように、第1工程にて、レーザ加工対象領域11の吸収率を高めることから、効率よく溶接を行うことが可能となる、という効果を奏する。
【0111】
なお、上記の複合加工装置は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。また、上記の複合加工装置により行なわれる複合加工方法も、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0112】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0113】
また、上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
例えば、本発明の要旨を逸脱しない範囲において各実施形態を組合せてよい。