特許第6717767号(P6717767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6717767-駆動力制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717767
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月1日
(54)【発明の名称】駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20200622BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20200622BHJP
   F16H 59/24 20060101ALI20200622BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20200622BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20200622BHJP
【FI】
   F02D9/02 341E
   F02D29/00 F
   F02D29/00 G
   F16H59/24
   F16H61/02
   F16H63/50
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-36709(P2017-36709)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-141425(P2018-141425A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳士
【審査官】 平井 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−98728(JP,A)
【文献】 特開2010−19154(JP,A)
【文献】 特開2006−77623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00−11/10
F02D 29/00−29/06
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインクラッチ及びドッグ式トランスミッションを順に介してエンジンの駆動力を駆動輪に伝達する鞍乗型車両に搭載され、前記メインクラッチの接続又は遮断を検出するクラッチ状態検出部と、前記ドッグ式トランスミッションの変速操作を検出する変速操作検出部と、前記エンジンのスロットル開度を変化させるモータを駆動するモータ駆動部と、前記ドッグ式トランスミッションのドッグ同士が減速時の係合状態でありかつ前記クラッチ状態検出部が前記メインクラッチの接続を検出している状態において前記変速操作検出部が前記ドッグ式トランスミッションの前記変速操作を検出した場合には、前記ドッグ式トランスミッションのドッグ同士の係合を解除し又は弱めて前記ドッグ式トランスミッションの変速が可能となるように、前記モータ駆動部を制御することによって前記スロットル開度に一時的な変化を生じさせて前記駆動力を一時的に変化させる制御部と、を備える駆動力制御装置であって、
前記ドッグ式トランスミッションの変速段を検出する変速段検出部を更に備え、
前記ドッグ同士の前記係合が解除可能な前記エンジンの運転状態を示すノーロードラインが予め設定されており、
前記スロットル開度の前記一時的な変化は、前記スロットル開度を前記ノーロードラインに対応した開度から所定開度ほど増加した増加開度に所定時間だけ保持する制御を含み、
前記制御部は、前記変速段検出部によって検出された前記変速段が切り換わるのに応じて、前記スロットル開度を、前記増加開度から前記スロットル開度の前記一時的な変化が有る状態から無い状態へと収束する方向へ所定速度で変化させるように、前記モータ駆動部を制御し、
かつ、前記制御部は、前記変速操作がシフトアップ操作のときは、前記変速操作がシフトダウン操作のときと比べて、前記所定開度が小さく、前記所定時間が長く、及び前記所定速度が小さくなるように、前記モータ駆動部を制御することを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
記変速操作がシフトアップ操作のときの前記エンジンの吸気量及び前記スロットル開度を前記ノーロードラインに対応した開度に維持したときの前記エンジンの吸気量間の差と、前記変速操作がシフトダウン操作のときの前記エンジンの吸気量及び前記スロットル開度を前記ノーロードラインに対応した前記開度に維持した場合との前記エンジンの吸気量間の差と、が等しくなるように、前記所定開度、前記所定時間、及び前記所定速度の少なくとも1つが設定されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関し、特に、メインクラッチ及びドッグ式トランスミッションを順に介してエンジンの駆動力を駆動輪に伝達する鞍乗型車両に搭載される駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の中には、ドッグ式トランスミッションを備えるものがある。かかるドッグ式トランスミッションでは、運転者が、メインクラッチを操作することなく、ドッグ式トランスミッションのドッグ同士(ドッグ歯同士)が当接してエンジンと駆動輪との一方が他方を駆動している状態で、変速を行うことができる。かかる構成によれば、運転者が、メインクラッチの操作を省略して、迅速に変速を行うことが可能となる。
【0003】
ところが、エンジンと駆動輪との一方が他方を駆動している状態では、ドッグ式トランスミッションのドッグ同士の接触面に大きな押圧力が作用している。このため、運転者が変速のためにドッグ同士を引き離そうとしても、接触面に押圧力に比例した大きな静止摩擦力が作用しているために、運転者の操作によりドッグ同士を引き離すことが困難となる傾向がある。
【0004】
かかる状況下で、特許文献1は、駆動力制御装置1に関し、制御部4が、クラッチ状態検出部2がメインクラッチの接続を検出している状態において変速操作検出部3がドッグ式トランスミッションの変速操作を検出した場合には、スロットル開度をノーロードラインに対して偏位した所定開度に一旦変化させた後に、スロットル開度をノーロードラインに対応したスロットル開度へ向けて変化させる構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−98729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成は、ドッグ式トランスミッションの変速操作が検出されたときに、ドッグ式トランスミッションのドッグ同士が係合状態にある場合にその係合状態を解除して変速を可能としながら、変速が完了するまでの間に運転者の意に反して鞍乗型車両が加速又は減速することを抑制しつつ、運転者が変速操作を開始してから実際にエンジンの駆動力が十分に変化するまでのタイムラグを短縮することができるものであるが、メインクラッチの接続状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作がなされた際に、ドッグ同士の係合が解除された状態を実現するための作動力の大きさのパラメータとなる、ノーロードラインに対応する開度に対する実際のスロットル開度の偏位量を考慮していないため、かかる場合に適切な作動力でドッグ同士の係合が解除された状態を実現して、迅速かつ円滑に変速を実行する観点からは更なる改善の余地がある。
【0007】
また、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成では、車両の加減速の状態やドッグ式トランスミッションの変速の方向によっては、変速完了後にエンジンの駆動力が急増して、トルクショックが大きくなる傾向が考えられて、この点でも改善の余地がある。このような傾向は、車両が自動二輪車等の軽量な鞍乗型車両である場合に、より顕著となるものでもある。
【0008】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、メインクラッチの接続を検出している状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作を検出した際に、ドッグ式トランスミッションの変速を迅速かつ円滑に実行することが可能であって、変速完了後にエンジンの駆動を再開した際にトルクショックが発生することを抑制可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するべく、本発明は、メインクラッチ及びドッグ式トランスミッションを順に介してエンジンの駆動力を駆動輪に伝達する鞍乗型車両に搭載され、前記メインクラッチの接続又は遮断を検出するクラッチ状態検出部と、前記ドッグ式トランスミッションの変速操作を検出する変速操作検出部と、前記エンジンのスロットル開度を変化させるモータを駆動するモータ駆動部と、前記ドッグ式トランスミッションのドッグ同士が減速時の係合状態でありかつ前記クラッチ状態検出部が前記メインクラッチの接続を検出している状態において前記変速操作検出部が前記ドッグ式トランスミッションの前記変速操作を検出した場合には、前記ドッグ式トランスミッションのドッグ同士の係合を解除し又は弱めて前記ドッグ式トランスミッションの変速が可能となるように、前記モータ駆動部を制御することによって前記スロットル開度に一時的な変化を生じさせて前記駆動力を一時的に変化させる制御部と、を備える駆動力制御装置であって、前記ドッグ式トランスミッションの変速段を検出する変速段検出部を更に備え、前記ドッグ同士の前記係合が解除可能な前記エンジンの運転状態を示すノーロードラインが予め設定されており、前記スロットル開度の前記一時的な変化は、前記スロットル開度を前記ノーロードラインに対応した開度から所定開度ほど増加した増加開度に所定時間だけ保持する制御を含み、前記制御部は、前記変速段検出部によって検出された前記変速段が切り換わるのに応じて、前記スロットル開度を、前記増加開度から前記スロットル開度の前記一時的な変化が有る状態から無い状態へと収束する方向へ所定速度で変化させるように、前記モータ駆動部を制御し、かつ、前記制御部は、前記変速操作がシフトアップ操作のときは、前記変速操作がシフトダウン操作のときと比べて、前記所定開度が小さく、前記所定時間が長く、及び前記所定速度が小さくなるように、前記モータ駆動部を制御することを第1の局面とする。
【0010】
また、本発明は、第1の局面に加えて、前記変速操作がシフトアップ操作のときの前記エンジンの吸気量及び前記スロットル開度を前記ノーロードラインに対応した開度に維持したときの前記エンジンの吸気量間の差と、前記変速操作がシフトダウン操作のときの前記エンジンの吸気量及び前記スロットル開度を前記ノーロードラインに対応した前記開度に維持した場合との前記エンジンの吸気量間の差と、が等しくなるように、前記所定開度、前記所定時間、及び前記所定速度の少なくとも1つが設定されていることを第2の局面とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明の第1の局面にかかる駆動力制御装置によれば、制御部が、変速段検出部によって検出された変速段が切り換わるのに応じて、所定時間維持されたスロットル開度を、ドッグ同士の前記係合が解除可能な前記エンジンの運転状態を示すノーロードラインに対応した開度から所定開度ほど増加した増加開度からそのスロットル開度の一時的な変化が有る状態から無い状態へと収束する方向へ所定速度で変化させるように、モータ駆動部を制御し、かつ、制御部が、変速操作がシフトアップ操作のときは、変速操作がシフトダウン操作のときと比べて、所定開度が小さく、所定時間が長く、及び所定速度が小さくなるように、モータ駆動部を制御するものであるため、メインクラッチの接続を検出している状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作を検出した際に、ドッグ式トランスミッションの変速を迅速かつ円滑に実行することができると共に、変速完了後にエンジンの駆動を再開した際にトルクショックが発生することを抑制することができる。
【0012】
また、本発明の第2の局面にかかる駆動力制御装置によれば、変速操作がシフトアップ操作のときのエンジンの吸気量及びスロットル開度をノーロードラインに対応した開度に維持したときのエンジンの吸気量間の差と、変速操作がシフトダウン操作のときのエンジンの吸気量及びスロットル開度をノーロードラインに対応した開度に維持した場合とのエンジンの吸気量間の差と、が等しくなるように、所定開度、所定時間、及び所定速度の少なくとも1つが設定されているものであるため、変速操作がシフトアップ操作のときと、変速操作がシフトダウン操作のときと、で、各々の駆動力の変化量を等しくすることができて、運転者の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態における駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本実施形態における駆動力制御装置による駆動力制御処理を減速時に実行する際のシフトアップ操作に伴うスロットル開度の時間変化を主として示す図である。
図3図3は、本実施形態における駆動力制御装置による駆動力制御処理を減速時に実行する際のシフトダウン操作に伴うスロットル開度の時間変化を主として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における駆動力制御装置につき、詳細に説明する。
【0015】
〔駆動力制御装置の構成〕
まず、図1を参照して、本実施形態における駆動力制御装置の構成について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態における駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態における駆動力制御装置1は、ECU(Electronic Control Unit)等の電子制御装置によって構成され、いずれも図示を省略するメインクラッチ及びドッグ式トランスミッションを順に介してエンジンの駆動力を駆動輪に伝達する典型的には自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載されている。
【0018】
駆動力制御装置1は、クラッチ状態検出部2、変速操作検出部3、変速段検出部4、制御部5、モータ駆動回路6、点火栓駆動回路7、及び燃料噴射弁駆動回路8を備えている。なお、これらのクラッチ状態検出部2、変速操作検出部3、変速段検出部4、及び制御部5は各々機能ブロックとして示している。また、駆動力制御装置1は、図示を省略するメモリ等を備えており、メモリには、駆動力制御装置1に必要な制御プログラム及び制御データ等が格納されている。
【0019】
具体的には、クラッチ状態検出部2は、鞍乗型車両の運転者がメインクラッチを接続又は遮断する際のその操作に関する情報を坦持するクラッチスイッチ11からの入力信号に基づいて、メインクラッチの接続又は遮断を検出する。クラッチ状態検出部2は、このように検出したメインクラッチの断続操作に応じた電気信号を制御部5に入力する。
【0020】
変速操作検出部3は、運転者がドッグ式トランスミッションの変速操作を行う際のその変速操作に関する情報を坦持する変速操作スイッチ12からの入力信号に基づいて、ドッグ式トランスミッションの変速操作を検出する。変速操作検出部3は、このように検出したドッグ式トランスミッションの変速操作の有無に応じた電気信号を制御部5に入力する。
【0021】
変速段検出部4は、ギヤポジションセンサ13が出力するドッグ式トランスミッションのシフトドラムの回転位置に対応してドッグ式トランスミッションで選択されている変速段(ギヤポジション)に応じた信号に基づいて、ドッグ式トランスミッションで選択されている変速段を検出する。変速段検出部4は、このように検出した変速段を示す電気信号を制御部5に入力する。
【0022】
制御部5は、クラッチスイッチ11、変速操作スイッチ12、ギヤポジションセンサ13、スロットルポジションセンサ15、アクセル開度センサ16、及びクランク角センサ17からの入力信号を用いて、点火栓駆動回路7及び燃料噴射弁駆動回路8を制御すると共に、エンジンのスロットルバルブの開度(スロットル開度)、つまり実際のスロットル開度である実スロットル開度を制御するようにモータ駆動回路6を制御する。制御部5は、このような制御のための各々の制御信号を、点火栓駆動回路7、燃料噴射弁駆動回路8及びモータ駆動回路6に入力する。スロットルポジションセンサ15は、エンジンのスロットル開度に応じた電気信号を入力する。アクセル開度センサ16は、鞍乗型車両のアクセルグリップ等のアクセル操作部材の操作量(アクセル開度)に応じた電気信号を入力する。また、クランク角センサ17は、エンジンのクランク角(クランク軸の回転角度)に応じた電気信号を入力する。
【0023】
ここで、制御部5は、変速段検出部4によって検出された変速段が切り換わるのに応じて、所定時間維持されたスロットル開度を所定開度からそのスロットル開度の一時的な変化が収束する方向へ所定速度で変化させるように、モータ駆動部6を制御し、かつ、変速操作検出部3によって検出された変速操作がシフトアップ操作のときは、変速操作検出部3によって検出されたがシフトダウン操作のときと比べて、所定開度が小さく、所定時間が長く、及び所定速度が小さくなるように、モータ駆動部6を制御する。
【0024】
モータ駆動回路6は、制御部5からの制御信号に従って、スロットルモータ14を駆動することによってスロットル開度を制御する。
【0025】
点火栓駆動回路7は、制御部5からの制御信号に従って、エンジンの点火栓18によるエンジンへの点火動作、つまり点火の開始、停止及び再開といった一連の点火動作を制御する。
【0026】
燃料噴射弁駆動回路8は、制御部5からの制御信号に従って、エンジンに燃料を噴射する燃料噴射弁19の、つまり燃料噴射の開始、停止及び再開といった一連の燃料噴射動作を制御する。
【0027】
以上のような構成を有する駆動力制御装置1は、以下に示す駆動力制御処理を実行することによって、メインクラッチの接続を検出している状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作を検出した際に、ドッグ式トランスミッションの変速を迅速かつ円滑に実行すると共に、変速完了後にエンジンの駆動を再開した際にトルクショックが発生することを抑制する。以下、更に図2及び図3をも参照して、駆動力制御処理を実行する際の駆動力制御装置1の動作について、詳細に説明する。
【0028】
〔駆動力制御処理〕
図2は、本実施形態における駆動力制御装置1による駆動力制御処理をエンジンの減速時に実行する際のシフトアップ操作に伴うスロットル開度の時間変化を主として示す図である。また、図3は、本実施形態における駆動力制御装置1による駆動力制御処理をエンジンの減速時に実行する際のシフトダウン操作に伴うスロットル開度の時間変化を主として示す図である。なお、図2及び図3中において、特性線L1及びL11は、運転者によるアクセル操作によって要求される要求スロットル開度(一例として、各々、一定値に維持されるものとして示し、ノーロードラインに対応するスロットル開度NLLよりも低い)、特性線L2及びL12は、目標スロットル開度、特性線L3及びL13は、ノーロードラインに対応するスロットル開度NLL、特性線L4及びL14は、スロットル開度がゼロであることを示す線、特性線L5及びL15は、運転者による変速操作に応じたシフト要求の有無を示す線、並びに特性線L6及びL16は、変速段(ギヤポジション)の変化(変速)を示す線を各々示している。また、特性線L2及びL12は、駆動力制御装置1の制御上では目標スロットル開度を示すものであるが、現実的には、目標スロットル開度に向けてフィードバック制御される実スロットル開度を示していると考えてもかまわない。
【0029】
ここで、本実施形態における駆動力制御装置1による駆動力制御処理において、かかるノーロードラインは、エンジンの駆動力がエンジンのその抵抗力(機械的な摩擦力や潤滑油の粘弾性力等)と釣り合った状態のエンジンの運転状態を示し、典型的には、エンジン回転速度及びスロットル開度をパラメータとし、ドッグ式トランスミッションのドッグ同士の係合が解除可能なエンジンの運転状態を示す特性データから成って、予め設定されてメモリ内に記憶されている。詳しくは、ノーロードラインは、ドッグ式トランスミッションのドッグ同士の係合状態が減速時の係合状態と加速時の係合状態との間で切り換わるエンジンの運転状態の境界を規定するもので、ドッグ同士が互いに離間又は押圧せずに単に当接している状態、及びドッグ同士が切り離し可能な状態で互いを緩やかに押圧している状態におけるエンジン回転速度及びスロットル開度間の関係を規定するものである。つまり、ノーロードラインは、エンジン回転速度及びスロットル開度を各々の座標軸とする直交座標系において、単なる線のみならず、それを含んである程度の上下幅を有して延びる領域となる。また、図2及び図3の特性線L3及びL13に示すノーロードラインに対応するスロットル開度NLLは、このようなノーロードラインに対応する領域におけるスロットル開度の代表値を例示するものである。つまり、かかるノーロードラインに対応するスロットル開度NLLは、ドッグ同士が互いに離間又は押圧せずに単に当接している状態を実現するもののみならず、ドッグ同士が切り離し可能な状態で互いを緩やかに押圧している状態を実現するものをも含んでもよく、かかるノーロードラインに対応するスロットル開度NLLは、厳密にスロットル開度に合致するもののみならず、それから数度程度上下に偏位したものを含み得る。
【0030】
また、本実施形態における駆動力制御装置1による駆動力制御処理は、鞍乗型車両のイグニッションスイッチがオンされて駆動力制御装置1が起動されたタイミングで開始となり、鞍乗型車両が起動されて駆動力制御装置1が起動されている間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0031】
具体的には、図2に一例として示すように、本実施形態における駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトアップ時に実行する際には、まず、制御部5が、クラッチ状態検出部2及び変速操作検出部3から入力された電気信号に基づいて、クラッチ状態検出部2がメインクラッチの接続を検出している状態において、変速操作検出部3がドッグ式トランスミッションの変速操作を検出したと判別した時点(時刻t=t1)において、所定吸気量だけ増大した吸気量を実現するような目標スロットル開度を算出して、実スロットル開度がかかる目標スロットル開度に合致するような制御信号を、モータ駆動回路6に入力する。この際、このように所定吸気量だけ増大した吸気量を実現するには、実用上は、目標スロットル開度を所定開度に所定時間ほど保持すればよく、詳しくは、図2に示すように、かかる目標スロットル開度は、ノーロードラインに対応するスロットル開度NLLよりも所定開度D1ほど増大された開度となるように算出され、このように増大された目標スロットル開度は、所定時間P1の期間ほど維持されるものである。
【0032】
つまり、時刻t=t1においては、制御部5が、このように目標スロットル開度をノーロードラインに対応するスロットル開度NLLよりも増大された開度に設定してそのまま保持すると共に、タイマ(プログラムタイマ)の計時を開始する。
【0033】
次に、制御部5が、タイマの計時により、メインクラッチの接続が検出されている状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作が検出されたと判別した時点(時刻t=t1)から所定期間P1が経過したと判別した時点(時刻t=t2)で、目標スロットル開度をノーロードラインに対応する開度NLLに設定する。
【0034】
次に、制御部5が、変速段検出部4から入力された電気信号に基づいて変速操作検出時のドッグ式トランスミッションの変速段が低い変速段から高い変速段に移行された、つまり変速が完了したと判別した時点(時刻t=t3)で、目標スロットル開度をノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度(例えば、数度低い開度)に移行させて維持すると共に、タイマ(プログラムタイマ)の計時を開始する。ここで、ノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度に維持される目標スロットル開度は、時刻t=t3の時点において、制御部5により、ノーロードラインに対応する開度NLLに所定の係数(メモリに格納された1よりも小さい固定値)を乗算することで算出される。
【0035】
次に、制御部5が、タイマの計時により、変速が完了したと判別した時点(時刻t=t3)から所定期間が経過したと判別した時点(時刻t=t4)で、目標スロットル開度を、ノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度から要求スロットル開度へ向けて所定の減少速度(単位時間あたりの所定の減少量)で漸減させ始める。なお、タイマの計時完了までの期間(時刻t=t3から時刻t=t4までの期間)は、制御部5により、時刻t=t3の時点において、クランク角センサ17が入力するエンジンのクランク角に応じた電気信号に基づいて算出されたエンジン回転速度NEが高いほど、長くなるように設定されることが好ましい。
【0036】
そして、制御部5が、目標スロットル開度を、ノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度から要求スロットル開度へ向けてそれに収束するように所定の減少速度で漸減して徐々に近づけ、目標スロットル開度を要求スロットル開度に円滑に移行させることになり、時刻t=t5において、目標スロットル開度が要求スロットル開度に到達する。
【0037】
また、図3に一例として示すように、本実施形態における駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトダウン時に実行する際には、まず、制御部5が、クラッチ状態検出部2及び変速操作検出部3から入力された電気信号に基づいて、クラッチ状態検出部2がメインクラッチの接続を検出している状態において、変速操作検出部3がドッグ式トランスミッションの変速操作を検出したと判別した時点(時刻t=t11)において、所定吸気量だけ増大した吸気量を実現するような目標スロットル開度を算出して、実スロットル開度がかかる目標スロットル開度に合致するような制御信号を、モータ駆動回路6に入力する。この際、このように所定吸気量だけ増大した吸気量を実現するには、実用上は、目標スロットル開度を所定開度に所定時間ほど保持すればよく、詳しくは、図3に示すように、かかる目標スロットル開度は、ノーロードラインに対応するスロットル開度NLLよりも所定開度D11ほど増大された開度となるように算出され、このように増大された目標スロットル開度は、所定時間P11の期間ほど維持されるものである。ここで、かかる減速時かつシフトダウン時における目標スロットル開度がノーロードラインに対応するスロットル開度NLLに対して増大される所定開度D11の大きさと、図2を参照して説明した駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトアップ時における目標スロットル開度がノーロードラインに対応するスロットル開度NLLに対して増大される所定開度D1と、を比較すると、後者は前者よりも小さく設定される共に、所定開度D11を維持する所定時間P11と、所定開度D1を維持する所定時間P1と、を比較すると、後者は前者よりも長く設定されている。これは、双方の場合において、ドッグ式トランスミッションの変速を迅速かつ円滑に行うことを考慮したためである。なお、かかる減速時かつシフトダウン時において所定吸気量だけ増大した吸気量は、図2を参照して説明した駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトアップ時に実行する際のものと同量に設定してもよいし必要に応じて異ならせてもよいが、これらを同量に設定することにより、変速時のエンジンの駆動力の変化を同等にすることができるため、運転者が受ける違和感を低減することができて好ましい。
【0038】
つまり、時刻t=t11においては、制御部5が、このように目標スロットル開度をノーロードラインに対応するスロットル開度NLLよりも増大された開度に設定してそのまま保持すると共に、タイマ(プログラムタイマ)の計時を開始する。
【0039】
次に、制御部5が、タイマの計時により、メインクラッチの接続が検出されている状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作が検出されたと判別した時点(時刻t=t11)から所定期間P11が経過したと判別した時点(時刻t=t12)で、目標スロットル開度をノーロードラインに対応する開度NLLに設定する。
【0040】
次に、制御部5が、変速段検出部4から入力された電気信号に基づいて変速操作検出時のドッグ式トランスミッションの変速段が高い変速段から低い変速段に移行された、つまり変速が完了したと判別した時点(時刻t=t13)で、目標スロットル開度をノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度(例えば、数度低い開度)に移行させて維持すると共に、タイマ(プログラムタイマ)の計時を開始する。ここで、ノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度に維持される目標スロットル開度は、時刻t=t13の時点において、制御部5により、ノーロードラインに対応する開度NLLに所定の係数(メモリに格納された1よりも小さい固定値)を乗算することで算出される。
【0041】
次に、制御部5が、タイマの計時により、変速が完了したと判別した時点(時刻t=t13)から所定期間が経過したと判別した時点(時刻t=t14)で、目標スロットル開度を、ノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度から要求スロットル開度へ向けて所定の減少速度(単位時間あたりの所定の減少量)で漸減させ始める。ここで、かかる減速時かつシフトダウン時における目標スロットル開度がノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度から要求スロットル開度へ向けて減少する所定の減少速度の大きさと、図2を参照して説明した駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトアップ時における目標スロットル開度がノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度から要求スロットル開度へ向けて減少する所定の減少速度の大きさと、を比較すると、後者は前者よりも小さく設定されている。これは、双方の場合において、変速完了後にエンジンの駆動を再開した際にトルクショックが発生することを抑制することを考慮したためである。なお、タイマの計時完了までの期間(時刻t=t13から時刻t=t14までの期間)は、制御部5により、時刻t=t13の時点において、クランク角センサ17が入力するエンジンのクランク角に応じた電気信号に基づいて算出されたエンジン回転速度NEが高いほど、長くなるように設定されることが好ましい。
【0042】
そして、制御部5が、目標スロットル開度を、ノーロードラインに対応する開度NLLよりも僅かに低い開度から要求スロットル開度へ向けてそれに収束するように所定の減少速度で漸減して徐々に近づけ、目標スロットル開度を要求スロットル開度に円滑に移行させることになり、時刻t=t15において、目標スロットル開度が要求スロットル開度に到達する。
【0043】
なお、本実施形態において、図2を参照して説明した駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトアップ時における目標スロットル開度に関する所定開度D1、所定時間(期間)P1及び変速完了後の所定の減少速度と、図3を参照して説明した駆動力制御装置1による駆動力制御処理を減速時かつシフトダウン時における目標スロットル開度に関する所定開度D11、所定時間(期間)P11及び変速完了後の所定の減少速度と、の間で対応する相対関係については、これらの全てが満足される例に限定されるものではなく、必要に応じて取捨選択してこれらの少なくとも1つが満足されるものであってもよい。
【0044】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における駆動力制御装置1では、制御部5が、変速段検出部4によって検出された変速段が切り換わるのに応じて、所定時間維持されたスロットル開度を所定開度からそのスロットル開度の一時的な変化が収束する方向へ所定速度で変化させるように、モータ駆動部6を制御すると共に、変速操作検出部3によって検出された変速操作がシフトアップ操作のときは、変速操作検出部3によって検出されたがシフトダウン操作のときと比べて、所定開度が小さく、所定時間が長く、及び所定速度が小さくなるように、モータ駆動部6を制御するものであるため、メインクラッチの接続を検出している状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作を検出した際に、ドッグ式トランスミッションの変速を迅速かつ円滑に実行することができると共に、変速完了後にエンジンの駆動を再開した際にトルクショックが発生することを抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態における駆動力制御装置1では、変速操作がシフトアップ操作のときのエンジンの吸気量及びスロットル開度をノーロードラインに対応した開度NLLに維持したときのエンジンの吸気量間の差と、変速操作がシフトダウン操作のときのエンジンの吸気量及びスロットル開度をノーロードラインに対応した開度NLLに維持した場合とのエンジンの吸気量間の差と、が等しくなるように、所定開度、所定時間、及び所定速度の少なくとも1つが設定されているものであるため、変速操作がシフトアップ操作のときと、変速操作がシフトダウン操作のときと、で、各々の駆動力の変化量を等しくすることができて、運転者の違和感を低減することができる。
【0046】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明は、メインクラッチの接続を検出している状態においてドッグ式トランスミッションの変速操作を検出した際に、ドッグ式トランスミッションの変速を迅速かつ円滑に実行することが可能であって、変速完了後にエンジンの駆動を再開した際にトルクショックが発生することを抑制可能な駆動力制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から車両等の駆動力制御装置に広く適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0048】
1…駆動力制御装置
2…クラッチ状態検出部
3…変速操作検出部
4…変速段検出部
5…制御部
6…モータ駆動回路
7…点火栓駆動回路
8…燃料噴射弁駆動回路
11…クラッチスイッチ
12…変速操作スイッチ
13…ギヤポジションセンサ
14…スロットルモータ
15…スロットルポジションセンサ
16…アクセル開度センサ
17…クランク角センサ
18…点火栓
19…燃料噴射弁
図1
図2
図3