【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、織られた部分を備える靴アッパーに関し、織られた部分は、複数のたて糸と、複数のよこ糸と、少なくとも1本の縫い糸とを備え、縫い糸は、それを実質的によこ方向に沿って横方向に変位させ、かつおさの少なくとも1つの開いたおさ間隙の内外に縫い糸を移動させることにより、織り工程中に、布地の中に一体化されて織り込まれる。
【0012】
織られた部分は、タンまたはバンプなど、アッパーに対する構成要素だけとすることができるが、あるいは、実質的にアッパー全体を構成することもできる。この靴アッパーは、一般に、軽量であり、耐久性を有することができる。アッパーは、例えば、伸張、耐久性、サポート、触覚などに関する望ましい性能要件を有するように作ることができる。特定領域の特性は、アッパーの重量を大幅に増加させることなく、織り工程中に、少なくとも1本の糸を局所的に組み込むことによって作ることができる。
【0013】
縫い糸の変位は、よこ糸に対して実質的に平行な方向であり、それは、よこ糸と縫い糸の間の2つの後続する交絡点が、互いに斜めに生ずるように行われる。縫い糸は、たて糸とは分離され、個々に、または針孔よりグループとして制御される。縫い糸フィーダは、織りサイクルの間に横方向に移動することができる。針を送るアクションは、「非直交的」なものであり、それは、縫い糸が、方向を変えることができる、すなわち、たて方向およびよこ方向に対して作る角度を変えることができることを意味する。針を送ることは、電子的に、または機械的なカムもしくはドビーシステムにより制御される。変位機構は、通常最高で10cmである、靴アッパーの少なくとも半分の幅をカバーするように、十分な横方向変位を提供する。縫い糸は織る間に追加されるので、縫い糸が手動もしくは機械により第2ステップで組み込まれる2ステップ工程と比較して、工程は、複雑さが低減される。従来の織りでは、おさ(reed)は上部が閉じられており、糸は、垂直方向または水平方向運動により、自由におさから離れることができない。本発明の場合、開いたおさが必要であり、おさは上部に開口部を有し、縫い糸はおさから出て、おさの中の別の横方向位置において再度入ることができる。
【0014】
靴アッパーのいくつかの領域において、縫い糸は、直線的に、たて方向に延びることが可能である。
【0015】
2ステップ工程と比較して、縫い糸は、より正確に、再現可能な方法で構成することができる。縫い糸を組み込むために針を必要としないので、刺繍工程を含む第2ステップにおいて、針により損傷を受けるおそれもあるたて糸またはよこ糸への損傷の危険はまたほとんどなくなる。
【0016】
本発明は、開発段階において、アッパーの完全なデジタル設計およびカスタマイゼーションを可能にし、この早期の作成段階で、機械的な特性、設計、サイズ、および適合性を決定できるようにする。
【0017】
従来の織り技法において、複雑なパターンを組み込むことは、織られた布地の裏に捨て糸を生じ、したがって、布地の平均的な面積重量が増加することになる。この理由は、従来の技法を用いる場合、局所化されたパターンは、見えると思われる位置においては、織物の上に糸を移動させ、また見えないと思われる位置においては、織物全体の長さもしくは幅にわたって、前記糸を織物の裏に隠すことによって作成され得るに過ぎないからである。本発明は、見えないと思われる布地部分における生地の背後に糸を隠す必要なく、縫い糸により局所的なパターンを生地に組み込めるようにするので、布地の裏の捨て糸を阻止する。その結果、織られた布地の平均的な面積重量を低減することができ、それにより、靴アッパーの性能を向上させる。本発明を用いると、布地の面積重量は、従来の方法を用いるよりも、局所的に(縫い糸を含む領域の面積重量は、縫い糸のない領域よりも高い可能性がある)、より限定的に変えるように操作することもでき、したがって、他の部分はより軽量に維持しながら、布地のいくつかの部分に補強領域を作ることできることに留意されたい。
【0018】
縫い糸は、たて糸および/またはよこ糸の引張係数よりも大きな引張係数を有することができる。たて糸および/よこ糸に対して弾性材料を、また縫い糸に対して低弾性の材料を使用することにより、アッパーは、良好かつ快適な適合性を有することができるが、なお、低弾性の縫い糸が存在するため、増加させたサポートが必要な領域において、必要なレベルのサポートを提供する。
【0019】
縫い糸は、溶融可能な構成要素を含むことができる。縫い糸は、通常、40°と200℃の間の溶融温度の低温溶融のものだけで被覆される、またはそれを含むことができる。溶融可能な構成要素を溶かすことにより、例えば、さらなる処理中に、または靴が使い古されたとき、ほつれるのを阻止するために、構造を恒久的に、局所的に固定することが可能である。特に、溶融可能な構成要素を含む糸を使用することにより、縫い糸により導入されるさらなる剛性が、縫い糸に沿ってだけではなく、全体領域にわたって広がることを可能にする。溶融可能な構成要素を溶かすステップは、例えば、ステントフレームのヒートセット加工を用いた2D形態で、または3D形態で、あるいはアッパーが靴型上に配置されたときに行うことができる。これは、靴アッパーが、その型に特有の形状、またはラスティング幾何形状を取得するという利点を有する。
【0020】
通常の2D靴アッパーの境界の外側の織られた部分に、溶融糸を組み込むことも可能である。したがって、その2Dアッパーを型に合わせて3D形態にするとき、これらの過剰な溶融糸は、靴型の周囲の靴アッパーを閉じるために使用することもできる。
【0021】
縫い糸は、靴の中足部領域に位置することができる。通常、中足部領域は、例えば、ランニングまたはフットボールを競技するためになど、サポートレベルを増加させる必要がある。したがって、アッパーの中足部領域に位置する縫い糸は、アッパーに多くの重量を加えることなく、必要レベルのサポートを容易に行うことができる。
【0022】
縫い糸は、少なくとも1つの紐通し孔から2cm以内に位置することができる。紐通し孔の周囲の領域は、靴の通常の日々の使用において、多くの摩耗および引き裂きを受ける。したがって、紐通し孔の周囲のエリアに、少なくとも1本の縫い糸を組み込むことにより、大幅にアッパーの重量を増加させることなく、必要に応じてこのエリアに局所的なサポートを追加することが可能である。
【0023】
縫い糸は、ヒールカウンタの周囲に位置することができる。ヒールカウンタの周囲の領域は、靴の通常の日々の使用において、さらなるサポートを必要とする。したがって、ヒールカウンタの周囲のエリアに少なくとも1本の縫い糸を組み込むことにより、大幅にアッパーの重量を増加させることなく、必要に応じてこのエリアに局所的にサポートを追加することが可能である。
【0024】
縫い糸は、靴アッパーのソール領域に位置することができる。ミッドソールおよびアッパーを含む靴が形成されたとき、靴アッパーのソール領域は、ミッドソールとアッパーの間の境界面にある。アッパーのソール領域に少なくとも1本の縫い糸を組み込むことは、このエリアにおける安定性を高め、かつアッパーが、ミッドソールからはずれる、またはこの点で裂ける危険を低減するように機能する。
【0025】
特に、溶融可能な構成要素の使用を組み合わせると、溶融可能な構成要素は、ミッドソールとアッパーの間に強力な接合の形成を容易にするなど、部分的に、または完全に溶けることができる。例えば、ミッドソールは、熱可塑性のポリウレタンを含むフットボールプレートとすることができ、また縫い糸における溶融可能な構成要素も、熱可塑性のポリウレタンを含むことができる。したがって、何らかのさらなる接着材を使用せずに、ミッドソールとアッパーの間に、特に強力な接合が形成されることになる。ミッドソールとアッパーを接続することは、例えば、赤外線によって接触させることなく熱エネルギーを提供することにより、第1の接続面の少なくとも一部を活性化させて、ミッドソールおよびアッパーの接続面を接合することにより、アッパーにミッドソールを接続することを含むことができる。この工程は、赤外線溶接と呼ばれることがある。
【0026】
織られた部分は、少なくとも第1および第2の縫い糸を含むことができ、第2の縫い糸は、第1の縫い糸に対して、実質的に平行に組み込まれる。第1または第2の縫い糸、または第1および第2の縫い糸の両方は、本明細書で述べる「少なくとも1本の縫い糸」の特性を有することができる。この文脈における実質的に平行であるとは、製作の不完全さを許容するための+/−10度以内の平行を意味する。多くの場合、単一の縫い糸を含むことでは十分ではない可能性がある。第1の縫い糸に実質的に平行な第2の縫い糸を組み込むことにより、第1の縫い糸を組み込む効果が第2の縫い糸によって高められ、したがって、高い剛性を達成することができる。
【0027】
少なくとも1本の縫い糸は、少なくとも2つの異なる交絡点の間で、たて糸またはよこ糸と、30°〜60°の間の角度を構成することができる。従来の織られた布地は、たて(0°)方向またはよこ(90°)方向に沿って最も安定している。織られた材料は、たて方向に対して実質的に+/−45°に沿った「片寄った方向」に沿って不安定であることが多い。たて方向に対して30°〜60°の間の角度で縫い糸が追加された場合、この角度範囲における機械的な特性は、縫い糸の特性を反映する。したがって、例えば、強度のある縫い糸を使用することにより、機械的な応力または力が、たて方向に対して、約30°〜60°の間の角度にある場合、歪みを低減するサポートを追加することが可能である。縫い糸により「ロック」され、かつ特定の方向または領域において、ほんのわずかな弾性を有するだけである織られた部分を作ることも可能である。さらに、このような角度で縫い糸を構成することにより、縫い糸が靴アッパーの自然な輪郭に従い、アッパーの適合性および美的側面を向上させることが可能である。
【0028】
前記2つの交絡点は、アッパーの中足部領域に位置することができる。本明細書で開示されるように、縫い糸が、たて糸またはよこ糸と30°〜60°の間の角度を構成するとき、この方向における変形に対して、さらなるサポートを行うことが可能である。アッパーの中足部領域は、身体活動中に、高い頻度で、ある範囲の方向に大きな応力および力を受けることがある。したがって、特に布地のしばしば最も弱い方向に沿って、アッパーの中足部領域に追加のサポートを提供することが好ましい場合が多い。
【0029】
前記2つの交絡点は、少なくとも1つの紐通し孔から2cm以内に位置することができる。紐通し孔の周囲の領域は、身体活動中に、ある範囲の方向に大きな応力および力を受けることが多い。したがって、たて糸またはよこ糸と30°〜60°の間の角度で縫い糸を組み込むことにより、紐通し孔の周囲領域に対してさらなるサポートを行うことが好ましい。
【0030】
靴アッパーは、補強領域をさらに備えることができ、補強領域は、a.第1の方向に沿った少なくとも1本の縫い糸、b.縫い糸は、次いで、第1の方向に対して少なくとも30度の角度にある第2の方向へと変化すること、c.縫い糸は、次いで、第2の方向に対して少なくとも30度の角度にある第3の方向へと変化すること、およびd.縫い糸は、次いで、第1の方向に対して30度未満の角度にある第4の方向へと変化することを含む。言い換えると、補強領域は、第1の方向に沿って開始し、糸がおおよそ第1の方向に戻る前に、ジグザグの経路に従う少なくとも1本の縫い糸を備える。有利な効果は、さらなる強度が必要な特定の領域が、異なるタイプの糸を組み込む必要なく補強できることである。このタイプの補強領域は、従来の織物では可能ではない。
【0031】
少なくとも1本の縫い糸は、紐糸(lacing yarn)とすることができ、紐糸は、織られた部分の縁部を越えて延び、かつ織られた部分内で動けるように構成される。紐糸は、紐および/またはリボンとすることができる。
【0032】
紐糸として構成された縫い糸を組み込む利点は、アッパーの製作速度を大幅に増加できることであり、一方、従来の靴製作において、アッパーに紐を付けるステップは、なお手動であり、したがって、時間および費用がかかる。紐糸である縫い糸を組み込むことの別の利点は、はるかに精巧かつ効果的な紐締めシステムを開発できることである。
【0033】
例えば、紐糸が、たて糸とよこ糸と織り合わさる比較的少数の点を有することによって、紐糸を、織られた部分内で動けるように構成することができる。紐糸は、裂けるのを阻止するために、高テナシティ(high tenacity)のポリエステルまたはナイロンなど、より強度のある材料から選択することができる。紐糸は、例えば、シート中で紐糸を織り合わせることにより、織られた部分の縁部を越えて延びるように提供することができ、織られた部分は、後にそこから裁断されるが、紐糸は、シートにおける織られた部分の縁部を越えて延びる。
【0034】
紐糸は、紐通し孔と同様の機能を有するリップストップ領域で方向を変えることができる。リップストップ領域は、当技術分野で知られた任意の方法を用いて形成することができ、また高テナシティのポリエステルまたはナイロンなど、引き裂き耐性のある糸を含むことができる。このように、紐糸は、これらの領域でアッパーが裂ける危険がなく、アッパーの適合性を調整するために使用することができ、紐糸により加えられるアッパーに対する引っ張り力は、最大になるはずである。
【0035】
1本だけの紐糸に代えて、2本以上の紐糸とすることもできる。この方法では、2本以上の紐糸を接続できるので、紐締めシステムの設計がより容易になる。
【0036】
少なくとも1本の紐糸は、溶融可能な構成要素を含むことができる。溶融可能な構成要素は、熱によって活性化することができ、したがって、紐糸は、紐糸の望ましい端点で、たて糸およびよこ糸にしっかりと固定することができる。代替的に、またはさらに、2本の紐糸を、選択された接続点において溶融可能な構成要素を活性化することにより、互いにしっかりと固定することができる。
【0037】
少なくとも1本の縫い糸、および/または1本のよこ糸、および/または1本のたて糸は、溶剤中で溶解可能であり得る。このように、織られた部分に、間隙、すなわち向上させた通気性および柔軟性を提供するエリアを生成することが可能になる。たて糸およびよこ糸は、互いに滑ってどの間隙も閉じることになるので、従来の織物においては、これらの間隙を生成することは実行できない。ここで、溶解可能な糸は、織り中に非溶解性の糸から離れた空間を維持する。織られた後、溶解可能な糸は溶解し、間隙が生成される。この工程は、間隙の安定性を向上させるために、例えば、選択された溶融糸を溶かすことにより、溶解可能な糸を溶解させる前に、織られた部分を固定することを含むことができる。溶解可能な糸は、アッパーを型で作る前に溶かすことができるが、あるいはアッパーを型で作った後に溶かすこともできる。溶解可能な糸を溶解させることは、靴の販売前に、または販売後に実施できる。すなわち、溶解可能な糸を溶解させるかどうかの判断を顧客に委ねることも可能である。
【0038】
溶解可能な糸を溶かすことは、溶剤中の溶解可能な糸の溶解性を高めるために、70°〜100°の温度で行うことができる。
【0039】
溶剤は水とすることができる。水は大規模に使用する場合であっても、非毒性であり、かつ安全である。水で溶解可能な糸は、ポリ(ビニルアルコール)を含むことができ、それは、非毒性であり、水中で高い溶解性を有する利点がある。
【0040】
しかし、溶解可能な糸と溶剤の多くの組合せも適している。溶解可能な糸が、溶剤中で溶けやすいことが重要であるに過ぎない。溶剤は、溶解可能な糸の材料に応じて、イオン液体または有機溶剤とすることができる。例えば、代替的に、溶解可能な糸は、ポリカプロラクトンを含むことができ、それに対する適切な溶剤は、クロロフォルム、またはジクロロメタン、あるいはその両方の混合物となる。代替的に、溶解可能な糸は、ナイロンから作ることができ、それに対する適切な溶剤は酢酸になるはずである。
【0041】
たて糸および/またはよこ糸は、少なくとも0.1%の体積含有率のエラステインを含むことができる。たて糸および/またはよこ糸は、0.1%と30%の間の体積含有率を含むことが好ましく、たて糸および/またはよこ糸が、0.5%と20%の間の体積含有率を含むことがより好ましい。かなりの体積含有率のエラステインを組み込むことにより、アッパーは、着用者の足によく適合し、またアッパーは、着用するのに軽量かつ快適なものとなり得る。特に、たて糸およびよこ糸により形成される基布は、固有量の延びおよび弾性を有しており、少なくとも一方向において最高で20%の歪みで変形し、かつ復元する。当業者であれば、この値は、通常、約4%以上の歪みで不可逆的損傷を受ける従来の織られた、または編まれた布地に対する値よりも大幅に高いことが認識されよう。しかし、たて糸およびよこ糸により形成される基布が固有の弾性を有しないこともあり得る。
【0042】
織られた部分の、たて糸およびよこ糸を含むが縫い糸を除く基布は、1平方メートル当たり15〜700グラムの質量を、より好ましくは、1平方メートル当たり50と350グラムの間の質量を有することができる。軽量の布地は、アッパーの性能および着用の快適さを向上させる。たて糸およびよこ糸を含むが縫い糸を除く、織られた部分の単位面積当たりの質量(面積重量としても知られている)は、縫い糸を含まない布地の一部分を切り取り、前記部分の重さを量り、かつ切り取られた部分の面積で、測定された重量(または質量)を正規化することによって測定することができる。当然であるが、類似の手順により、縫い糸も含む布地の部分の面積重量を測定することができる。
【0043】
少なくとも1本の縫い糸は、少なくとも3GPaの引張係数を有することができる。少なくとも3GPaの引張係数を有する縫い糸は、着用する快適さを悪化させることになる、着用者の足を締め付け過ぎることなく、身体活動中にさらなるサポートが必要なエリアに好ましいレベルのサポートを行うことを容易にする。
【0044】
少なくとも1本の縫い糸は、高テナシティのポリエステルを含むことができる。高テナシティのポリエステルは、軽量かつ耐久性のある材料であり、さらなるサポートを必要とするアッパーの領域に特に適した低弾性を有する。
【0045】
少なくとも1本の縫い糸は、ポリアミド材料を含むことができる。ポリアミド材料は、特に軽量でかつ耐久性があり、さらなるサポートを必要とするアッパーの領域に適した低弾性を有する。
【0046】
縫い糸は、カーボンファイバを含むことができる。カーボンファイバ材料は、特に軽量でかつ耐久性があり、さらなるサポートを必要とするアッパーの領域に適した低弾性を有する。
【0047】
縫い糸は、冷却または加温などの特有の利点を提供することができ、それらは、例えば、安全のために導電性にすることができ、それらはアッパーにオーセチック特性を提供することができる。
【0048】
よこ方向に沿って、cm当たり少なくとも1つの縫い糸端部の密度で、複数の縫い糸を組み込むことができる。靴アッパーの特性を局所的に操作するためには、縫い糸の密度が高い必要のないことが分かる。好ましくは、この密度は、よこ方向沿ってcm当たり少なくとも1つの縫い糸端部である。より好ましくは、この密度は、よこ方向に沿って、cm当たり少なくとも2つの縫い糸端部である。この密度においては、延ばされた織られた部分の剛性は、20%から30%の歪みにおいて大幅に増加する。縫い糸は、大きな幅にわたって大きな数で、または狭い幅にわたって少ない数で一体化され得る。
【0049】
織りは、少なくとも2つのステッチ軸(stitching axes)を含むことができる。ステッチ軸は、縫い糸の横方向変位を容易にする変位手段の物理的方向により与えられる。単一軸構成の場合、縫い糸の変位は、よこ糸に対して実質的に平行な方向であることが好ましい。しかし、ステッチ軸は、よこ方向またはたて方向に平行にすることができる、あるいはよこ方向またはたて方向に対して非平行にすることもできる。第2のステッチ軸は、第1のステッチ軸に平行とすることができるが、あるいは第1のステッチ軸に対して非平行とすることもできる。第2のステッチ軸を用いることは、織られた部分に、より複雑なステッチパターンを組み込むことを可能にし、それは、織られた部分の特性を操作できる程度を向上させる。
【0050】
本発明は、靴アッパーのための織られた部分を製作する方法にさらに関しており、方法は、複数のたて糸および複数のよこ糸を提供するステップと、複数のよこ糸および複数のたて糸を織り合わせるステップと、たて糸に対して実質的に平行に配置された、少なくとも1本の縫い糸を提供するステップと、織り工程中に、実質的によこ方向に沿って縫い糸を横方向に変位させ、かつおさにおける少なくとも1つの開いたおさ間隙の内外に縫い糸を移動させることにより、縫い糸を同時に織り合わせるステップとを含む。
【0051】
この靴アッパーは、概して軽量かつ耐久性を有することができる。アッパーは、例えば、伸張、耐久性、サポート、触覚などに関する望ましい性能要件を有するように作ることができる。特定領域の特性は、アッパーの重量を大幅に増加させることなく、織り工程中に、少なくとも1本の縫い糸を局所的に組み込むことによって作ることができる。
【0052】
縫い糸の変位は、よこ糸に対して実質的に平行な方向であり、それは、よこ糸と縫い糸の間の2つの後続する交絡点が、互いに斜めに生ずるように行われる。縫い糸は、たて糸とは分離され、個々に、または針孔よりグループとして制御される。縫い糸フィーダは、織りサイクルの間に横方向に移動することができる。針を送るアクションは、「非直交的」なものであり、それは、縫い糸が、方向を変えることができる、すなわち、たて方向およびよこ方向に対して作る角度を変えることができることを意味する。針を送ることは、電子的に、または機械的なカムもしくはドビーシステムにより制御される。変位機構は、通常最高で10cmである、靴アッパーの少なくとも半分の幅をカバーするように、十分な横方向変位を提供する。縫い糸は織る間に追加されるので、縫い糸が手動もしくは機械により第2のステップで組み込まれる2ステップ工程と比較して、工程は複雑さが低減される。従来の織りでは、おさは上部が閉じられており、糸は、垂直方向または水平方向運動により、自由におさから離れることができない。本発明の場合、開いたおさが必要であり、おさは上部に開口部を有し、縫い糸はおさから出て、おさの中の別の横方向位置において再度入ることができる。
【0053】
靴アッパーのいくつかの領域において、縫い糸は、直線的に、たて方向に延びることが可能である。
【0054】
2ステップの工程と比較して、縫い糸は、より正確に、再現できる方法で構成することができる。縫い糸を組み込むためには針は必要ではないので、刺繍工程を含む第2ステップにおいて、針により損傷を受けるおそれもあるたて糸またはよこ糸への損傷の危険はまたほとんどなくなる。
【0055】
本発明は、開発段階において、アッパーの完全なデジタル設計およびカスタマイゼーションを可能にし、この早期の作成段階で、機械的特性、設計、サイズ、および適合性を決定できるようにする。
【0056】
従来の織り技法において複雑なパターンを組み込むことは、織られた布地の裏に捨て糸を生じ、したがって、布地の平均面積重量が増加する結果となる。この理由は、従来の技法を用いる場合、局所化されたパターンは、見えると思われる位置においては、織物の上に糸を移動させ、かつ見えないと思われる位置においては、織物全体の長さまたは幅にわたって、前記糸を織物の裏に隠すことによって作成され得るに過ぎないからである。本方法は、縫い糸は、見えるとは思われない布地の部分における生地の裏に糸を隠すことを必要とせず、局所的なパターンを生地の中に組み込めるようにするので、布地の裏における捨て糸を阻止する。結果として、織られた布地の平均的な面積重量を低減することができ、それにより、靴アッパーの性能を向上させる。本方法を用いると、布地の面積重量はまた、従来の方法を用いるよりも、局所的に(縫い糸を含む領域の面積重量は、縫い糸のない領域よりも高くなる可能性がある)より限定的に変えるように操作することでき、したがって、例えば、他の部分をより軽量に維持しながら、補強領域を、布地のいくつかの部分に作ることができることに留意されたい。
【0057】
本方法のさらなる利点は、縫い糸を、ほつれないように、織られたシートの縁部にひだを付けるために使用できることである。織られたシートの一部は、織られた後に、従来の裁断またはレーザ裁断により手動で、または自動的に裁断されて、織られた部分を形成する。靴は、次いで、型合わせおよび仕上げ工程を介して形成される。靴アッパーを製作するために、例えば、レノタイプの織られた布地など、織られた材料を用いることにおける主なハードルの1つは、取扱い中に材料がほつれることである。この方法は、取扱い中のほつれを阻止するために、溶融糸など、糊または接着剤を必要とすることなく、開放された織り構造を可能にする。
【0058】
おさは、おさ間隙の少なくとも2つのグループを含むことができ、その場合、第1のグループのおさ間隙は、挿入傾斜面により少なくとも部分的に覆われ、第2のグループのおさ間隙は、挿入傾斜面によって覆われない。開いたおさを使用することの1つの問題は、縫い糸が、おさ間隙の中への挿入中に、おさ間隙の上部で動けなくなるおそれのあることである。これは、縫い糸を意図するおさ間隙の中へとガイドし、かつ隣のおさ間隙を妨げる挿入傾斜面を用いることによって阻止することができる。
【0059】
縫い糸は、溶融可能な構成要素を含むことができる。縫い糸は、通常、40°と200℃の間の溶融温度の低温溶融のものだけで被覆される、またはそれを含むことができる。溶融可能な構成要素を溶かすことにより、例えば、さらなる処理中に、または靴が使い古されたとき、ほつれるのを阻止するために、構造を恒久的に、局所的に固定することが可能である。特に、溶融可能な構成要素を含む糸を使用することにより、縫い糸により導入されるさらなる剛性が、縫い糸に沿ってだけではなく、全体領域にわたって広がることを可能にする。溶融可能な構成要素を溶かすステップは、例えば、ステントフレームのヒートセット加工を用いた2D形態で、または3D形態で、あるいはアッパーが靴型上で構成されるときに行うことができる。これは、靴アッパーが、その型に特有の形状、またはラスティング幾何形状を取得するという利点を有する。
【0060】
通常の2D靴アッパーの境界の外側の織られた部分に、溶融糸を組み込むことも可能である。したがって、その2Dアッパーを、型に合わせて3D形態にするとき、これらの過剰な溶融糸は、靴型の周囲の靴アッパーを閉じるために使用することもできる。
【0061】
縫い糸は、たて糸および/またはよこ糸の引張係数よりも大きな引張係数を有することができる。たて糸および/またはよこ糸に対して弾性材料を、また縫い糸に対してより低弾性の材料を用いることにより、アッパーは、良好かつ快適な適合性を有することができるが、より低弾性の縫い糸が存在することにより、サポートを増加させる必要のある領域で必要レベルのサポートをなお提供する。
【0062】
縫い糸は、靴の中足部領域に位置することができる。通常、中足部領域は、例えば、ランニングをする、またはフットボールを競技するために、増加させたレベルのサポートを必要とする。したがって、アッパーの中足部領域に位置する縫い糸は、アッパーに多くの重量を加えることなく、必要レベルのサポートを容易に行うことができる。
【0063】
縫い糸は、少なくとも1つの紐通し孔から2cm以内に位置することができる。紐通し孔の周囲の領域は、通常の靴の日々の使用において、多くの摩耗および引き裂きを受ける。したがって、紐通し孔の周囲のエリアに、少なくとも1本の縫い糸を組み込むことにより、大幅にアッパーの重量を増加させることなく、必要に応じてこのエリアに局所的なサポートを追加することが可能である。
【0064】
縫い糸は、ヒールカウンタの周囲に位置することができる。ヒールカウンタの周囲の領域は、靴の通常の日々の使用において、さらなるサポートを必要とする。したがって、ヒールカウンタの周囲のエリアに少なくとも1本の縫い糸を組み込むことにより、大幅にアッパーの重量を増加させることなく、必要に応じてこのエリアに局所的にサポートを追加することが可能である。
【0065】
縫い糸は、靴アッパーのソール領域に位置することができる。ミッドソールおよびアッパーを含む靴が形成されたとき、靴アッパーのソール領域は、ミッドソールとアッパーの間の境界面にある。アッパーのソール領域に少なくとも1本の縫い糸を組み込むことは、このエリアにおける安定性を高め、かつアッパーがミッドソールからはずれる、またはこの点で裂ける危険を低減するように機能する。
【0066】
特に、溶融可能な構成要素の使用を組み合わせると、溶融可能な構成要素は、ミッドソールとアッパーの間に強力な接合の形成を容易にするなど、部分的に、または完全に溶けることができる。例えば、ミッドソールは、熱可塑性のポリウレタンを含むフットボールプレート(football plate)とすることができ、また縫い糸における溶融可能な構成要素も、熱可塑性のポリウレタンを含むことができる。したがって、何らかのさらなる接着材を使用せずに、ミッドソールとアッパーの間に、特に強力な接合が形成されることになる。ミッドソールとアッパーを接続することは、例えば、接触させることなく、赤外線によって熱エネルギーを提供することにより第1の接続面の少なくとも一部を活性化させ、ミッドソールおよびアッパーの接続面を接合することにより、アッパーにミッドソールを接続することを含むことができる。この工程は、赤外線溶接と呼ばれることがある。
【0067】
本方法は、少なくとも第1および第2の縫い糸を提供することを含むことができ、第2の縫い糸は、第1の縫い糸に対して実質的に平行に織り合わされる。第1または第2の縫い糸、または第1と第2の縫い糸の両方は、本明細書で述べる「少なくとも1本の縫い糸」の特性を有することができる。この文脈における実質的に平行であるとは、製作の不完全さを許容するための+/−10度以内の平行を意味する。多くの場合、単一の縫い糸を含むことは、十分ではない可能性がある。第1の縫い糸に実質的に平行な第2の縫い糸を組み込むことにより、第1の縫い糸を組み込む効果が、第2の縫い糸によって高められ、したがって、高い剛性を達成することができる。
【0068】
少なくとも1本の縫い糸は、少なくとも2つの異なる交絡点の間で、たて糸またはよこ糸と、30°〜60°の間の角度を構成することができる。従来の織られた布地は、たて(0°)方向またはよこ(90°)方向に沿って最も安定している。織られた材料は、たて方向に対して実質的に+/−45°に沿った「片寄った方向」に沿って不安定であることが多い。たて方向に対して30°〜60°の間の角度で縫い糸が追加された場合、この角度範囲における機械的な特性は、縫い糸の特性を反映する。したがって、例えば、強度のある縫い糸を使用することにより、機械的な応力または力が、たて方向に対して、約30°〜60°の間の角度にある場合、歪みを低減するサポートを追加することが可能である。縫い糸により「ロック」され、かつ特定の方向または領域において、ほんのわずかな弾性を有するだけである織られた部分を作ることも可能である。さらに、このような角度で縫い糸を構成することにより、縫い糸が靴アッパーの自然な輪郭に従い、アッパーの適合性および美的側面を向上させることが可能である。
【0069】
前記2つの交絡点は、アッパーの中足部領域に位置することができる。本明細書で開示されるように、縫い糸が、たて糸またはよこ糸と30°〜60°の間の角度を構成するとき、この方向における変形に対して、さらなるサポートを行うことが可能である。アッパーの中足部領域は、身体活動中に、ある範囲の方向において大きな応力および力を受けることがよくある。したがって、特に布地のしばしば最も弱い方向に沿って、アッパーの中足部領域に、追加のサポートを提供するのが好ましいことが多い。
【0070】
前記2つの交絡点は、少なくとも1つの紐通し孔から2cm以内に位置することができる。紐通し孔の周囲の領域は、身体活動中に、ある範囲の方向に大きな応力および力を受けることが多い。したがって、たて糸またはよこ糸と30°〜60°の間の角度で、縫い糸を組み込むことにより、紐通し孔の周囲領域に対してさらなるサポートを行うことが好ましい。
【0071】
方法は、補強領域を形成するステップをさらに含むことができ、そのステップは、a.第1の方向に沿って少なくとも1本の縫い糸を縫うステップと、b.縫い糸の方向を、第1の方向に対して少なくとも30度の角度にある第2の方向へと変化させるステップと、c.縫い糸の方向を、第2の方向に対して少なくとも30度の角度にある第3の方向へと変化させるステップと、d.縫い糸の方向を、第1の方向に対して30度未満の角度にある第4の方向へと変化させるステップとを含む。言い換えると、補強領域は、第1の方向に沿って開始し、ほぼ第1の方向に戻る前に、ジグザグの経路に従う少なくとも1本の縫い糸を備える。有利な効果は、さらなる強度が必要な特定の領域が、異なるタイプの糸を組み込む必要なく、補強できることである。このタイプの補強領域は、従来の織りでは可能ではない。
【0072】
本方法は、少なくとも1本の縫い糸を紐糸として構成するステップをさらに含むことができ、それは、少なくとも1本の縫い糸を、織られた部分の縁部を越えて延ばすステップと、前記縫い糸を、織られた部分内で動けるように構成するステップを含む。紐糸は、紐および/またはリボンとすることができる。
【0073】
紐糸として構成された縫い糸を、織られた部分に組み込む利点は、アッパーの製作速度を大幅に増加できることであり、一方、従来の靴製作において、アッパーに紐を付けるステップはなお手動であり、したがって、時間および費用がかかる。紐糸である縫い糸を組み込むことの別の利点は、はるかに精巧かつ効果的な紐締めシステムを開発できることである。
【0074】
紐糸は、例えば、それがたて糸とよこ糸が織り合わさる比較的少数の点を有することによって、織られた部分内で動けるように構成することができる。紐糸は、裂けるのを阻止するために、高テナシティのポリエステルまたはナイロンなど、より強度のある材料から選択することができる。紐糸は、例えば、シート中に紐糸を織り合わせることにより、織られた部分の縁部を越えて延びるように提供することができ、織られた部分は、後にそこから裁断されるが、紐糸は、シートにおける織られた部分の縁部を越えて延びる。
【0075】
紐糸は、紐通し孔と同様の機能を有するリップストップ領域で方向を変えるように、織り合わせることができる。リップストップ領域は、当技術分野で知られた任意の方法を用いて形成することができ、また高テナシティのポリエステルまたはナイロンなど、引き裂き耐性のある糸を含むことができる。このように、紐糸は、これらの領域でアッパーが裂ける危険がなく、アッパーの適合性を調整するために使用することができ、紐糸により加えられるアッパーに対する引っ張り力は最大になるはずである。
【0076】
1本だけの紐糸に代えて、2本以上の紐糸とすることもできる。この方法では、2本以上の紐糸を接続できるので、紐締めシステムを設計するのがより容易になる。
【0077】
少なくとも1本の紐糸は、溶融可能な構成要素を含むことができ、また本方法は、溶融可能な構成要素を溶かすステップをさらに含み、したがって、紐糸は、紐糸の望ましい端点において、たて糸およびよこ糸にしっかりと取り付けることができる。代替的に、またはさらに、2本の紐糸を、選択された接続点において、溶融可能な構成要素を活性化させることにより、互いにしっかりと取り付けることができる。
【0078】
複数のたて糸およびよこ糸、ならびに少なくとも1本の縫い糸を提供することは、溶剤中で溶解可能な少なくとも1本の縫い糸、および/または1本のよこ糸、および/または1本のたて糸を提供すること、ならびに溶解可能なたて糸、よこ糸、および/または縫い糸を溶剤中で溶解させることを含むことができる。このように、織られた部分に、間隙、すなわち向上させた通気性および柔軟性を提供するエリアを生成することが可能になる。たて糸およびよこ糸は、互いに滑ってどの間隙も閉じることになるので、従来の織物ではこれらの間隙を生成することは実行できない。ここで、溶解可能な糸は、織り中に非溶解性の糸から離れた空間を維持する。織られた後、溶解可能な糸は溶解し、間隙が生成される。この工程は、間隙の安定性を向上させるために、例えば、選択された溶融糸を溶かすことにより、溶解可能な糸を溶解させる前に、織られた部分を固定することを含むことができる。溶解可能な糸は、アッパーを型で作る前に溶かすことができるが、あるいはアッパーを型で作った後に溶かすこともできる。溶解可能な糸を溶解させることは、靴の販売前に、または販売後に実施できる。すなわち、溶解可能な糸を溶解させるかどうかの判断を顧客に委ねることも可能である。
【0079】
溶解可能な糸を溶かすことは、溶剤中における溶解可能な糸の溶解性を高めるために、70°〜100℃の温度で行うことができる。
【0080】
溶剤は水とすることができる。水は大規模であっても、使用するのに非毒性であり、かつ安全である。水で溶解可能な糸は、ポリ(ビニルアルコール)を含むことができ、それは、非毒性であり、水中で高い溶解性を有する利点がある。
【0081】
しかし、溶解可能な糸と溶剤の多くの組合せも適している。溶解可能な糸が、溶剤中で溶解可能であることが重要であるに過ぎない。溶剤は、溶解可能な糸の材料に応じて、イオン液体または有機溶剤とすることができる。例えば、代替的に、溶解可能な糸は、ポリカプロラクトンを含むことができ、それに対する適切な溶剤は、クロロフォルム、またはジクロロメタン、あるいはその両方の混合物となる。代替的に、溶解可能な糸は、ナイロンから作ることができ、それに対して適切な溶剤は酢酸になるはずである。
【0082】
たて糸および/またはよこ糸は、少なくとも0.1%の体積含有率のエラステインを含むことができる。たて糸および/またはよこ糸は、0.1%と30%の間の体積含有率を含むことが好ましく、たて糸および/またはよこ糸が、0.5%と20%の間の体積含有率を含むことがより好ましい。かなりの体積含有率のエラステインを組み込むことにより、アッパーは、着用者の足によく適合し、またアッパーは、着用するのに軽量かつ快適なものとなり得る。特に、たて糸およびよこ糸により形成される基布は、固有量の延びおよび弾性を有しており、少なくとも一方向において最高で20%の歪みで変形し、かつ復元する。当業者であれば、この値は、通常、約4%以上の歪みで不可逆的損傷を受ける従来の織られた、または編まれた布地に対する値よりも大幅に高いことが認識されよう。しかし、たて糸およびよこ糸により形成される基布が、固有の弾性を有しないこともあり得る。
【0083】
織られた部分の、たて糸およびよこ糸を含むが縫い糸を除く基布は、1平方メートル当たり15〜700グラムの質量を、より好ましくは、1平方メートル当たり50と350グラムの間の質量を有することができる。軽量の布地は、アッパーの性能および着用の快適さを向上させる。たて糸およびよこ糸を含むが縫い糸を除く、織られた部分の単位面積当たりの質量(面積重量としても知られている)は、縫い糸を含まない布地の一部分を切り取り、前記部分の重さを量り、かつ切り取られた部分の面積で、測定された重量(または質量)を正規化することによって測定することができる。当然であるが、類似の手順により、縫い糸も含む布地の部分の面積重量を測定することができる。
【0084】
少なくとも1本の縫い糸は、少なくとも3GPaの引張係数を有することができる。少なくとも3GPaの引張係数を有する縫い糸は、着用する快適さを悪化させることになる、着用者の足を締め付け過ぎることなく、身体活動中にさらなるサポートが必要なエリアに好ましいレベルのサポートを行うことを容易にする。
【0085】
少なくとも1本の縫い糸は、高テナシティのポリエステルを含むことができる。高テナシティのポリエステルは、軽量かつ耐久性のある材料であり、さらなるサポートを必要とするアッパーの領域に特に適した低弾性を有する。
【0086】
少なくとも1本の縫い糸は、ポリアミド材料を含むことができる。ポリアミド材料は、特に軽量でかつ耐久性であり、さらなるサポートを必要とするアッパーの領域に適した低弾性を有する。
【0087】
少なくとも1本の縫い糸は、カーボンファイバを含むことができる。カーボンファイバ材料は、特に軽量でかつ耐久性があり、さらなるサポートを必要とするアッパーの領域に適した低弾性を有する。
【0088】
縫い糸は、冷却または加温などの特有の利点を提供することができ、それらは、例えば、安全のために導電性にすることができ、それらはアッパーにオーセチック特性を提供することができる。
【0089】
よこ方向に沿って、cm当たり少なくとも1つの縫い糸端部の密度で、複数の縫い糸を組み込むことができる。靴アッパーの特性を局所的に操作するためには、縫い糸の密度が高い必要のないことが分かる。好ましくは、この密度は、よこ方向に沿ってcm当たり少なくとも1つの縫い糸端部である。より好ましくは、この密度は、よこ方向に沿って、cm当たり少なくとも2つの縫い糸端部である。この密度においては、延ばされた織られた部分の剛性は、20%から30%の歪みにおいて大幅に増加する。縫い糸は、大きな幅にわたって大きな数で、または狭い幅にわたって少ない数で一体化され得る。
【0090】
織りは、少なくとも2つのステッチ軸を含むことができる。ステッチ軸は、縫い糸の横方向変位を容易にする変位手段の物理的方向により与えられる。単一軸構成の場合、縫い糸の変位は、よこ糸に対して実質的に平行な方向であることが好ましい。しかし、ステッチ軸は、よこ方向またはたて方向に平行にすることができる、あるいはよこ方向またはたて方向に対して非平行にすることもできる。第2のステッチ軸は、第1のステッチ軸に平行とすることができるが、あるいは第1のステッチ軸に対して非平行とすることもできる。第2のステッチ軸を用いることは、織られた部分に、より複雑なステッチパターンを組み込むことを可能にし、それは、織られた部分の特性を操作できる程度に向上させる。
【0091】
本発明を、以下の添付図を参照してより詳細に述べるものとする。