(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717905
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】パーキングロック装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/34 20060101AFI20200629BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20200629BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20200629BHJP
F16H 61/28 20060101ALI20200629BHJP
F16H 59/08 20060101ALI20200629BHJP
F16H 59/66 20060101ALI20200629BHJP
F16H 61/22 20060101ALI20200629BHJP
F16H 63/48 20060101ALI20200629BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20200629BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20200629BHJP
B60T 13/16 20060101ALI20200629BHJP
B60T 15/36 20060101ALI20200629BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20200629BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20200629BHJP
【FI】
F16H63/34
B60W10/00 120
F16H61/28
F16H59/08
F16H59/66
F16H61/22
F16H63/48
F16H63/50
B60T1/06 G
B60T13/16
B60T15/36 Z
B60W10/06
B60W10/10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-177119(P2018-177119)
(22)【出願日】2018年9月21日
(65)【公開番号】特開2020-46040(P2020-46040A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2019年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】嵩 聖矢
【審査官】
山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/119515(WO,A1)
【文献】
特開平10−184881(JP,A)
【文献】
特開2009−008153(JP,A)
【文献】
特開平04−290667(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/012104(WO,A1)
【文献】
特開2011−185379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/34
B60T 1/06
B60T 13/16
B60T 15/36
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/10
B60W 10/18
F16H 59/08
F16H 59/66
F16H 61/22
F16H 61/28
F16H 63/48
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングギヤ及びパーキングポールを有し、該パーキングポールがパーキングギヤに噛み込むことにより該パーキングギヤをロックして自動変速機をパーキング状態にするパーキング機構と、
オイルポンプにより昇圧された油圧の供給が停止されたときに、前記パーキングギヤをロックし、油圧が供給されたときに、該油圧による押力により前記パーキングポールを駆動して前記パーキングギヤのロックを解除するロック状態切替手段と、
前記自動変速機のシフトレンジを選択する操作を受け付けるセレクト手段と、
路面の勾配を検出する勾配検出手段と、
パーキングレンジが選択された場合に前記ロック状態切替手段に対する油圧の供給を停止し、パーキングレンジ以外のシフトレンジが選択された場合に前記ロック状態切替手段に対して油圧を供給する切替制御手段と、
パーキングレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上である場合に、前記オイルポンプを駆動するエンジンのアイドリング回転数を、路面の勾配が所定値未満である場合のアイドリング回転数よりも上昇させる回転数制御手段と、を備えることを特徴とするパーキングロック装置。
【請求項2】
車両の制動操作を検出する制動操作検出手段を備え、
前記回転数制御手段は、パーキングレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上である場合であって、制動操作がされたときに、前記オイルポンプを駆動するエンジンのアイドリング回転数を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のパーキングロック装置。
【請求項3】
前記回転数制御手段は、路面の勾配が大きくなるほど、アイドリング回転数の上昇量を大きくすることを特徴とする請求項1又は2に記載のパーキングロック装置。
【請求項4】
前記ロック状態切替手段は、軸方向に移動可能に設けられたピストンと、前記ピストンの一方の端部側に設けられた油室と、前記ピストンの他方の端部側に配設されたスプリングと、を有し、前記油室に供給される油圧による押力と、前記スプリングの付勢力とのバランスにより、前記ピストンが軸方向に移動することによって、前記パーキングギヤのロック状態を切り替えることを特徴とする請求項3に記載のパーキングロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングロック装置に関し、特に、油圧式のシフトバイワイヤ機構が採用された自動変速機のパーキングロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動変速機では、P(パーキング)レンジが選択されたときには、自動変速機の出力軸に嵌合されたパーキングギヤがロックされるパーキングロック機構を備えている。また、近年、運転者が選択したシフトレンジをスイッチ等によって検出し、その検出結果に基づいて、例えば油圧式のアクチュエータを駆動することにより、自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤ(SBW)機構を備えた自動変速機が実用化されている。
【0003】
ここで、特許文献1には、ピストンロッドの移動によってパーキングロック状態とパーキングロック解除状態とを切り替える油圧アクチュエータを備えるパーキング装置が開示されている。より詳細には、特許文献1に記載のパーキング装置では、上記油圧アクチュエータが、ピストンロッドと、ピストンロッドに固定されたピストンと、ピストンロッド及びピストンをパーキングロック側に付勢するリターンスプリングとを有している。このパーキング装置では、油圧アクチュエータに対し、リターンスプリングの付勢力に抗する油圧を供給して、ピストンロッド及びピストンをパーキングロック解除側に移動することにより、パーキングロックを解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−168888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、坂路(登降坂路)でパーキングロックを解除しようとした場合、噛み合ったパーキングギヤとパーキングポールとの歯面には路面の勾配や車両の重量に応じた荷重がかかるため、ピストンロッド及びピストンをロック解除側に移動させるためにより大きな推力(油圧)が必要となる。一方、通常、オイルポンプの吐出量(油圧)は、オイルポンプを駆動するエンジンの回転数に依存し、アイドリング回転数では吐出量が少なくなる(油圧が低くなる)。よって、エンジンがアイドリング状態のときに、坂路(登降坂路)でパーキングロックを確実に解除するためには、油圧を受けるピストンの受圧面積(受圧径)をより大きくする必要があり、パーキングロック機構が大型化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、パーキングロック機構を大型化することなく、坂路(登降坂路)におけるパーキングロック解除性能を確保することが可能なパーキングロック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るパーキングロック装置は、パーキングギヤ及びパーキングポールを有し、該パーキングポールがパーキングギヤに噛み込むことにより該パーキングギヤをロックして自動変速機をパーキング状態にするパーキング機構と、オイルポンプにより昇圧された油圧の供給が停止されたときに、パーキングギヤをロックし、油圧が供給されたときに、該油圧による押力によりパーキングポールを駆動してパーキングギヤのロックを解除するロック状態切替手段と、自動変速機のシフトレンジを選択する操作を受け付けるセレクト手段と、路面の勾配を検出する勾配検出手段と、パーキングレンジが選択された場合にロック状態切替手段に対する油圧の供給を停止し、パーキングレンジ以外のシフトレンジが選択された場合にロック状態切替手段に対して油圧を供給する切替制御手段と、パーキングレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上である場合に、オイルポンプを駆動するエンジンのエンジン回転数を上昇させる回転数制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るパーキングロック装置によれば、パーキングレンジが選択された場合にロック状態切替手段に対する油圧の供給が停止され、パーキングレンジ以外のシフトレンジが選択された場合にロック状態切替手段に対して油圧が供給される。また、パーキングレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上である場合に、オイルポンプを駆動するエンジンのエンジン回転数が上昇される。そのため、エンジン回転数の上昇により、オイルポンプの回転数が上昇し、オイルポンプの吐出量(油圧)が増大する。よって、パーキングロック機構を大型化することなく(受圧面積を増大することなく)パーキングロックを解除する際の推力(押力)を増大することができる。その結果、パーキングロック機構を大型化することなく、坂路(登降坂路)におけるパーキングロック解除性能を確保することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係るパーキングロック装置は、車両の制動操作を検出する制動操作検出手段を備え、上記回転数制御手段が、パーキングレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上であり、かつ、制動操作がされている場合に、オイルポンプを駆動するエンジンのエンジン回転数を上昇させることが好ましい。
【0010】
この場合、パーキングレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上であり、かつ、制動操作がされている場合に、オイルポンプを駆動するエンジンのエンジン回転数が上昇される。そのため、制動操作が行われ、パーキングロックを解除することが予想される場合にエンジン回転数が上昇される。よって、通常、パーキングロック中は操作する必要がなく、パーキングロックを解除する際に必要な制動操作をエンジン回転数上昇の条件とすることで、エンジン回転数の上昇による実燃費の悪化や振動・騒音の発生を最小限にすることが可能となる。
【0011】
本発明に係るパーキングロック装置では、回転数制御手段が、路面の勾配が大きくなるほど、エンジン回転数の上昇量を大きくすることが好ましい。
【0012】
ところで、路面の勾配が大きくなるほど、パーキングロックを解除する際に要求される推力(必要油圧)も大きくなる。この場合、路面の勾配が大きくなるほど、エンジン回転数の上昇量が大きくされる。そのため、路面の勾配が大きくなるほど、オイルポンプの回転数が上昇され、オイルポンプの吐出量(油圧)が増大される。すなわち、油圧による推力が増大される。よって、路面の勾配の大きさに応じて、油圧の大きさを調節でき、適切な油圧を発生させることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るパーキングロック装置では、ロック状態切替手段が、軸方向に移動可能に設けられたピストンと、ピストンの一方の端部側に設けられた油室と、ピストンの他方の端部側に配設されたスプリングとを有し、油室に供給される油圧による押力と、スプリングの付勢力とのバランスにより、ピストンが軸方向に移動することによって、パーキングギヤのロック状態が切り替えられることが好ましい。このようにすれば、確実に、油圧の押力により、パーキングギヤのロック状態を切り替えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パーキングロック機構を大型化することなく、坂路(登降坂路)におけるパーキングロック解除性能を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るパーキングロック装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るパーキングロック装置によるパーキングロック処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】目標アイドリング回転数マップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
まず、
図1を用いて、実施形態に係るパーキングロック装置1の構成について説明する。
図1は、パーキングロック装置1の構成を示すブロック図である。
【0018】
パーキングロック装置1が適用される自動変速機10は、例えば、ロックアップクラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ、及び、変速ギヤ列とコントロールバルブ(油圧機構)を含むトランスミッション部を有して構成され、コントロールバルブにより自動変速可能に構成された有段自動変速機や無段変速機(CVT)などである。なお、本実施形態では、CVTを採用した。自動変速機10は、エンジン70の出力軸に接続され、該エンジン70からの駆動力を変換して出力する(なお、
図1では自動変速機10とエンジン70とを模式的に分離して示した)。
【0019】
自動変速機10は、シフトバイワイヤ・コントロールユニット(以下「SBW−CU」という)40によって駆動が制御され、該SBW−CU40からの制御信号(駆動信号)に応じて油圧を制御して、自動変速機10のシフトレンジを切り替える油圧式のシフトバイワイヤ・アクチュエータ(以下「SBWアクチュエータ」という)11を備えている。
【0020】
例えば、車両のセンターコンソール等には、運転者によるシフト操作(自動変速機10のシフトレンジを選択するための操作)を受付けるシフトレバー21が設けられている。シフトレバー21には、シフトレバー21と連動して動くように接続され、該シフトレバー21の選択位置を検出して、選択位置に応じた選択情報を出力するシフトレンジスイッチ20が取り付けられている。シフトレンジスイッチ20は、SBW−CU40(後述するTCU50でもよい)に接続されており、検出されたシフトレバー21の選択位置(選択情報)が、SBW−CU40に読み込まれる。SBW−CU40は、選択情報に基づいて自動変速機10のシフトレンジを切り替える。なお、シフトレバー21では、例えば、4つのシフトレンジ、すなわち、駐車レンジ(パーキング(P)レンジ)、後進走行レンジ(リバース(R)レンジ)、中立レンジ(ニュートラル(N)レンジ)、及び、前進走行レンジ(ドライブ(D)レンジ)を選択的に切り換えることができる。シフトレバー21及びシフトスイッチ20は、特許請求の範囲に記載のセレクト手段として機能する。
【0021】
また、自動変速機10は、Pレンジが選択されたときに、車輪が回転しないよう自動変速機内部で回転をロックするパーキング機構110を備えている。パーキング機構110は、パーキングギヤ114及びパーキングポール113を有し、パーキングポール113がパーキングギヤ114に噛み込むことによりパーキングギヤ114をロックして自動変速機10をパーキング状態にする。
【0022】
より具体的には、SBW−CU40により駆動されるSBWアクチュエータ11を構成するパーキングピストン111の出力軸には、パーキングロッド112が軸方向に進退可能に接続されている。一方、自動変速機10の出力軸には、パーキングギヤ114がスプライン嵌合されている。また、該パーキングギヤ114と噛み合うことができるように、パーキングポール113が揺動可能に設けられている。
【0023】
Pレンジが選択された場合には、パーキングピストン111のピストン111aが図面右側に移動して、パーキングロッド112が軸方向に進出する。そして、該パーキングロッド112によってパーキングポール113が背面から押されて揺動し、パーキングギヤ114と噛み合う。これにより、自動変速機10の回転がロックされる。
【0024】
ここで、パーキングピストン111には、その一方の端部において、オイルが供給される油路90が接続されている。パーキングピストン111は、その内部に、ピストン(スプールバルブ)111aを軸方向に摺動自在に収容している。このピストン111aの他方の端部にはスプリング111cが配設されており、油圧による押力(油圧×受圧面積)と、スプリング111cのバネ力(付勢力)とのバランスに応じてピストン111aが軸方向に駆動される。その結果、パーキングロッド112、及び、パーキングポール113が駆動される。
【0025】
パーキングピストン111では、スプリング111cのバネ力が、油室111bの油圧による押力よりも大きい場合(すなわち、油圧の供給が停止された場合)に、パーキングポール113を揺動してパーキングギヤ114をロックするように、ピストン111aが図面右側に移動(摺動)する。よって、パーキングピストン111に対する油圧の供給が停止されたときには、パーキングポール113が駆動(揺動)されて、パーキングギヤ114がロック(すなわち、パーキング状態に)される。
【0026】
一方、パーキングピストン111では、スプリング111cのバネ力が、油室111bの油圧による押力未満の場合(すなわち、油圧が供給された場合)に、パーキングポール113を揺動してパーキングギヤ114のロックを解除するように、ピストン111aが図面左側に移動(摺動)する。よって、パーキングピストン111に対して油圧が供給されたときには、パーキングポール113の駆動(揺動)が停止されて、パーキングギヤ114のロックが解除(すなわち、非パーキング状態に)される。パーキングピストン111は、特許請求の範囲に記載のロック状態切替手段として機能する。
【0027】
ここで、油路90は、エンジン70によって駆動され、オイルを昇圧して吐出するオイルポンプ22と直接的又は間接的に接続されている。また、油路90には、油路90を開閉して、パーキングピストン111に対する油圧(オイル)の供給を実行又は停止するための電磁バルブ91が介装されている。電磁バルブ91はSBW−CU40に接続されており、電磁バルブ91の駆動はSBW−CU40によって制御される。すなわち、SBW−CU40は、電磁バルブ91の開閉を制御することにより、パーキングピストン111に対する油圧の供給を実行又は停止する。
【0028】
上述したように、SBW−CU40は、SBWアクチュエータ11と接続されている。また、SBW−CU40は、CAN100を介して、トランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)50、エンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)60、及び、ビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)80等と通信可能に接続されている。
【0029】
ここで、各コントロールユニットについて説明する。まず、TCU50は、自動変速機10の変速制御を司る。TCU50には、自動変速機10に設けられた各種センサ等が接続されている。また、TCU50は、CAN100を通して、ECU60から送信されたエンジン回転数やアクセルペダル開度等の情報、及びSBW−CUから送信された自動変速機10のシフトレンジ等の情報を受信する。
【0030】
TCU50は、取得したエンジン回転数、アクセルペダル開度、車速、及び、シフトレンジ等の各種情報に基づいて、コントロールバルブ15を構成するソレノイドバルブを駆動し、自動変速機10の変速制御等を行う。ここで、コントロールバルブ15は、自動変速機10を変速させるための油圧をコントロールする。より具体的には、コントロールバルブ15は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いて油路を開閉することで、オイルポンプ22で発生した油圧を、例えば、ドライブプーリやドリブンプーリ等に供給する。なお、TCU50は、自動変速機10の各種情報を、CAN100を介して、SBW−CU40に送信する。
【0031】
ECU60は、各種センサから入力される検出信号に基づいて、エンジン回転数、吸入空気量、混合気の空燃比、アクセルペダル開度等の各種情報を取得し、取得した各種情報に基づいて、インジェクタ(燃料噴射量)、点火プラグ(点火時期)、及び、電子制御式スロットルバルブ62(吸入空気量)などの各種アクチュエータ等を制御することによりエンジン70を総合的に制御する。ここで、ECU60には、エンジン70のクランクシャフトの回転位置を検出するクランク角センサ61が接続されており、ECU60では、該クランク角センサ61の出力からエンジン回転数が求められる。ECU60は、取得したエンジン回転数等の情報を、CAN100を介して、SBW−CU40に送信する。
また、ECU60は、CAN100を介して、SBW−CU40から、後述するエンジン回転数上昇要求(目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量)を受信する。ECU60は、要求に応じて、電子制御式スロットルバルブ62の開度を調節するとともに、燃料噴射量や点火時期などを調節して、エンジン回転数(アイドリング回転数)を上昇させる。
【0032】
VDCU80には、ブレーキアクチュエータ83のマスタシリンダ圧力を検出するブレーキ油圧センサ81(特許請求の範囲に記載の制動操作検出手段に相当)、及び、路面の勾配を検出するGセンサ82(特許請求の範囲に記載の勾配検出手段に相当)等が接続されている。VDCU80は、ブレーキペダルの操作量に応じてブレーキアクチュエータ83を駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車速センサ、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン70のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。
【0033】
なお、Gセンサ82は、例えば、静電容量式などの、停車状態で車両の傾き(すなわち、路面の勾配)を検出できるセンサが好適に用いられる。ただし、Gセンサ82に代えて、例えば、加速度センサを用いて検出した車両の前後加速度に0点学習値が加算された補正後加速度センサ値と、車速の微分値との差に基づいて、路面勾配を検出するようにしてもよい。また、エンジン70の出力トルクから求められる駆動力と、車速の微分値から求められる車両の加速度と、予め設定されている車両重量とに基づいて、路面勾配を推定してもよい。VDCU80は、取得したブレーキング情報(制動操作情報)、路面の勾配情報、車速情報等を、CAN100を介して、SBW−CU40に送信する。
【0034】
SBW−CU40は、シフトレンジスイッチ20により検出されたシフトレンジ、ECU60から受信したエンジン回転数、VDCU80から受信した制動操作情報や路面の勾配情報、及び、TCU50から受信した各種入力情報等に基づいて、制御信号を生成して出力し、SBWアクチュエータ11を駆動することにより自動変速機10のシフトレンジを切り替える。ここで、SBW−CU40は、パーキングロック機構110を大型化することなく、坂路(登降坂路)におけるパーキングロック解除性能を確保する機能を有している。
【0035】
そのため、SBW−CU40は、切替制御部41、及び、回転数制御部42を機能的に備えている。SBW−CU40は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、電磁バルブ91を駆動するドライバ回路等を含む入出力I/F等を有して構成されている。SBW−CU40では、EEPROMなどに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、切替制御部41、及び、回転数制御部42の機能が実現される。
【0036】
切替制御部41は、選択されたシフトレンジに基づいて、パーキングピストン111に対する油圧の供給を制御(すなわち、パーキングピストン111に対して油圧を供給するか否かを制御)する。より具体的には、切替制御部41は、Pレンジ以外のシフトレンジが選択された場合(選択情報が出力された場合)に、電磁バルブ91を開弁して、パーキングピストン111に油圧を供給する。一方、切替制御部41は、Pレンジが選択された場合(選択情報が出力された場合)に、電磁バルブ91を閉弁して、パーキングピストン111に対する油圧の供給を停止する。すなわち、切替制御部41は、特許請求の範囲に記載の切替制御手段として機能する。
【0037】
回転数制御部42は、シフトレンジ、路面の勾配、制動操作状態に基づいて、エンジン回転数(アイドリング回転数)を制御する。すなわち、回転数制御部42は、特許請求の範囲に記載の回転数制御手段として機能する。より具体的には、回転数制御部42は、Pレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上であり、かつ、制動操作がされている(例えばブレーキペダルが踏み込まれている)場合に、オイルポンプ22を駆動するエンジン70のエンジン回転数(アイドリング回転数)を上昇させるように、ECU60に対してエンジン回転数上昇要求(目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量)を送信することにより、エンジン回転数(アイドリング回転数)の上昇要求(アップ要求)を行う。なお、回転数制御部42は、Pレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上である場合に、エンジン70のエンジン回転数(アイドリング回転数)を上昇させるように要求してもよい。
【0038】
その際に、回転数制御部42は、路面の勾配が大きくなるほど、エンジン回転数の上昇量が大きくなるように(すなわち、アイドリング回転数が高くなるように)要求値(目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量)を設定する。より具体的には、SBW−CU40のEEPROM等には、予め、路面勾配(°)と目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量(rpm)との関係を定めたマップ(目標アイドリング回転数マップ)が記憶されており、SBW−CU40は、取得した路面勾配に基づいて、目標アイドリング回転数マップを検索して、目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量を取得する。
【0039】
ここで、目標アイドリング回転数マップの一例を
図3に示す。
図3において、横軸(行)は路面勾配(°)である。目標アイドリング回転数マップでは、
図3に示されるように、路面勾配が大きくなるほど、目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量(rpm)が大きく(又は高く)なるように設定されている。
【0040】
SBW−CU40は、取得したエンジン回転数上昇要求(目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量)を、CAN100を介して、ECU60に対して送信する。なお、上述したように、目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量(エンジン回転数上昇要求)を受信したECU60は、受信した目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量にしたがって、エンジン回転数(アイドリング回転数)を上昇させる。
【0041】
次に、
図2を参照しつつ、パーキングロック装置1の動作について説明する。
図2は、パーキングロック装置1によるパーキングロック処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主としてSBW−CU40において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0042】
ステップS100では、自動変速機10のシフトレンジとして、Pレンジが選択されているか否かについての判断が行われる。ここで、Pレンジが選択されている場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、Pレンジが選択されていないとき(すなわち、Pレンジ以外のシフトレンジが選択されているとき)には、本処理から一旦抜ける。
【0043】
ステップS102では、路面の勾配が所定値以上であるか否か(すなわち、登降坂路(坂道)であるか否か)についての判断が行われる。ここで、路面の勾配が所定値以上である場合には、ステップS104に処理が移行する。一方、路面の勾配が所定値未満のときには、本処理から一旦抜ける。
【0044】
ステップS104では、制動操作(ブレーキ操作)が行われているか否かについての判断が行われる。ここで、制動操作が行われている場合には、ステップS106に処理が移行する。一方、制動操作が行われていないときには、本処理から一旦抜ける。
【0045】
ステップS106では、路面の勾配の大きさに応じて、目標アイドリング回転数(又は回転上昇量)が設定される。より具体的には、上述したように、例えば、路面の勾配の大きさを用いて、目標アイドリング回転数マップが検索されることにより、目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量が設定される。
【0046】
そして、ステップS108において、オイルポンプ22を駆動するエンジン70のエンジン回転数(アイドリング回転数)を上昇させるように、ECU60に対して、CAN100を介して、目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量が送信される。すなわち、エンジン回転数(アイドリング回転数)の上昇要求が行われる。なお、上述したように、目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量(エンジン回転数上昇要求)を受信したECU60は、受信した目標アイドリング回転数又は目標回転上昇量にしたがって、エンジン回転数(アイドリング回転数)を上昇させる。
【0047】
以上、説明したように、本実施形態によれば、Pレンジが選択された場合にパーキングピストン111に対する油圧の供給が停止され、Pレンジ以外のシフトレンジが選択された場合にパーキングピストン111に対して油圧が供給される。また、Pレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上である場合に、オイルポンプ22を駆動するエンジン70のエンジン回転数(アイドリング回転数)が上昇される。そのため、エンジン回転数の上昇により、オイルポンプ22の回転数が上昇し、オイルポンプ22の吐出量(油圧)が増大する。よって、パーキングロック機構110を大型化することなく(受圧面積を増大することなく)パーキングロックを解除するときの推力(押力)を増大することができる。その結果、パーキングロック機構110を大型化することなく、坂路(登降坂路)におけるパーキングロック解除性能を確保することが可能となる。
【0048】
特に、本実施形態によれば、Pレンジが選択されており、路面の勾配が所定値以上であり、かつ、制動操作がされている場合に、オイルポンプ22を駆動するエンジン70のエンジン回転数(アイドリング回転数)が上昇される。そのため、制動操作が行われ、パーキングロックを解除することが予想される場合にエンジン回転数が上昇される。よって、パーキングロックを解除する際に必要な制動操作(ブレーキ操作)をエンジン回転数上昇要求の条件とすることで、エンジン回転数の上昇による実燃費の悪化や振動・騒音の発生を最小限にすることが可能となる。
【0049】
また、本実施形態によれば、路面の勾配が大きくなるほど、エンジン回転数の上昇量が大きくされる(アイドリング回転数が高くされる)。そのため、路面の勾配が大きくなるほど、オイルポンプ22の回転数が上昇され、オイルポンプ22の吐出量(油圧)が増大される。すなわち、油圧による推力が増大される。よって、路面の勾配の大きさに応じて、油圧の大きさを調節でき、適切な油圧を発生させることが可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態によれば、パーキングピストン111が、ピストン111aの一方の端部側に設けられた油室111bと、ピストン111aの他方の端部側に配設されたスプリング111cとを有し、油室111bに供給される油圧による押力と、スプリング111cの付勢力とのバランスにより、ピストン111aが軸方向に移動することにより、パーキングギヤ114のロック状態が切り替えられるため、確実に、油圧の押力により、パーキングギヤ114のロック状態を切り替えることができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態のシステム構成は一例であり、本発明のシステム構成は上記実施形態には限られない。例えば、SBW−CU40とSBWアクチュエータ11を一体にしてもよい。また、SBW−CU40とTCU50とを一つのユニットとしてもよい。
【0052】
さらに、上記実施形態で示した制動操作条件判断(ステップS104)は省略してもよい。すなわち、ステップS102が肯定された場合には、ステップS106に処理を移行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 パーキングロック装置
10 自動変速機
11 シフトバイワイヤ・アクチュエータ
111 パーキングピストン
111a ピストン(スプールバルブ)
112 パーキングロッド
113 パーキングポール
114 パーキングギヤ
20 シフトレンジスイッチ
21 シフトレバー
22 オイルポンプ
40 シフトバイワイヤ・コントロールユニット(SBW−CU)
41 切替制御部
42 回転数制御部
50 トランスミッション・コントロールユニット(TCU)
60 エンジン・コントロールユニット(ECU)
61 クランク角センサ
62 電子制御式スロットルバルブ
70 エンジン
80 ビークルダイナミック・コントロールユニット(VDCU)
81 ブレーキ油圧センサ
82 Gセンサ(勾配センサ)
83 ブレーキアクチュエータ
100 CAN