特許第6717986号(P6717986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6717986ロックアップクラッチの制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6717986
(24)【登録日】2020年6月15日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】ロックアップクラッチの制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20200629BHJP
【FI】
   F16H61/14 601J
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-565594(P2018-565594)
(86)(22)【出願日】2018年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2018003149
(87)【国際公開番号】WO2018143249
(87)【国際公開日】20180809
【審査請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-15836(P2017-15836)
(32)【優先日】2017年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 岳大
(72)【発明者】
【氏名】野田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】古口 幸司
(72)【発明者】
【氏名】石山 雄一
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−86356(JP,A)
【文献】 特開2011−169389(JP,A)
【文献】 特開2001−221341(JP,A)
【文献】 特開2014−219030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと自動変速機との間に設けられたトルクコンバータのロックアップクラッチの締結状態を制御し、コースト走行時に第1スリップ量となるように前記ロックアップクラッチの締結圧をフィードバック制御してスリップロックアップ制御を行う制御部と、
前記ロックアップクラッチのスリップ量が前記第1スリップ量よりも大きな第2スリップ量以上の状態が継続したときは、異常と判定する異常判定部と、
前記異常判定部により異常と判定されたときは、前記ロックアップクラッチを解放する解放制御部と、
前記スリップロックアップ制御中であるコースト走行中に、前記自動変速機に対し運転者によるダウンシフト操作がなされ、変速比がダウンシフトするときに、前記制御部により前記ロックアップクラッチの締結圧を所定圧上昇させるとともに、前記異常判定部による判定を禁止する禁止部と、
を備えたロックアップクラッチの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のロックアップクラッチの制御装置において、
前記制御部が前記ロックアップクラッチの締結圧を上昇させるときの上昇分は、ロー側に変速したときの前記ロックアップクラッチの入力側イナーシャトルク分である、ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項4】
請求項1または3に記載のロックアップクラッチの制御装置において、
前記禁止部は、前記制御部により前記ロックアップクラッチの締結圧を上昇させてから所定時間経過後、前記異常判定部による判定の禁止を解除する、ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項5】
コースト走行時に、エンジンと自動変速機との間に設けられたトルクコンバータのロックアップクラッチを、第1スリップ量となるように前記ロックアップクラッチの締結圧をフィードバック制御することでスリップロックアップ制御し、
前記ロックアップクラッチのスリップ量が前記第1スリップ量よりも大きな第2スリップ量以上の状態が継続したときに異常と判定して前記ロックアップクラッチを解放し、
コースト走行中に運転者のダウンシフト操作により前記自動変速機の変速比がダウンシフトするときに、前記ロックアップクラッチの締結圧を所定圧上昇させるとともに、前記異常判定を禁止する、
ロックアップクラッチの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータに備えられたロックアップクラッチの締結状態を制御するロックアップクラッチの制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロックアップクラッチのスリップ量をフィードバック制御する際、スリップ量が一定以上となる状態が一定時間以上継続したときは、ロックアップクラッチを解放する技術が開示されている。
【0003】
ここで、コースト走行中に自動変速機がロー側に変速し、タービン回転数が上昇することで、正常にも関わらずロックアップクラッチのスリップ量が増大する場合がある。しかしながら、特許文献1の技術にあっては、異常と判断してロックアップクラッチを解放してしまう。そうすると、エンジンを自立回転させるために燃料噴射を再開する必要があり、燃費が悪化するという問題があった。
本発明の目的は、燃費の悪化を回避可能なロックアップクラッチの制御装置を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭62−7430号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明のロックアップクラッチの制御装置では、エンジンと自動変速機との間に設けられたトルクコンバータのロックアップクラッチの締結状態を制御し、前記ロックアップクラッチのスリップ量が所定以上の状態が継続したときは、異常と判定し、ロックアップクラッチを解放するにあたり、コースト走行時に自動変速機がロー側に変速した場合には、異常判定を禁止することとした。
【0006】
よって、異常判定によるロックアップクラッチの解放を回避することができ、エンジン回転数をアイドル回転数より高めに維持することで、燃料噴射を伴うエンジン自立運転区間を抑制でき、燃費の悪化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例のロックアップクラッチの制御装置が適用された車両のシステム図である。
図2】実施例のスリップロックアップ制御中におけるスイッチダウンシフト時制御処理を表すフローチャートである。
図3】実施例のスリップロックアップ制御中におけるスイッチダウンシフト時制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、実施例のロックアップクラッチの制御装置が適用された車両のシステム図である。内燃機関であるエンジン1から出力された回転は、自動変速機2に入力される。自動変速機2に入力された回転は、ロックアップクラッチ20を備えたトルクコンバータ21及びクラッチ22を介してベルト式無段変速機構23に入力される。
【0009】
トルクコンバータ21は、エンジン出力軸に接続されたコンバータカバー210と、コンバータカバー210に取り付けられたポンプインペラ211と、ポンプインペラ211と対向する位置に配置されたタービンランナ212と、を有する。タービンランナ212は、クラッチ22のエンジン側回転要素と接続されたタービンシャフト213と一体に回転する。
【0010】
ロックアップクラッチ20は、コンバータカバー210のエンジン側内壁に設けられた摩擦材203と、タービンシャフト213のエンジン側端部において軸方向にスライド可能なクラッチプレート201と、クラッチプレート201の外周において摩擦材203と対向する位置に配置されたプレート側摩擦材202と、を有する。クラッチプレート201は、摩擦材203側のリリース室PRと、タービンランナ212側のコンバータ室PAと、を隔成する。リリース室PRとコンバータ室PAとの差圧を、以下ロックアップ差圧PLUと記載する。リリース室PRにリリース圧が供給されると、ロックアップ差圧PLUが減少し、クラッチプレート201が解放側に移動する。一方、リリース室PRへのリリース圧の供給を低下させ、コンバータ室PAにコンバータ圧を供給すると、ロックアップ差圧PLUが増大し、クラッチプレート201が締結側に移動する。これにより、摩擦材203とプレート側摩擦材202とが接触し、コンバータカバー210とタービンシャフト213との相対回転を規制する。
【0011】
クラッチ22は、複数のクラッチプレートが交互に重ね合わされた湿式多板クラッチであり、図外のコントロールバルブから供給される制御油圧に基づいて伝達トルク容量が制御される。尚、実施例の場合、図外の前後進切替機構において前進を達成する締結要素及び後退を達成する締結要素がそれぞれクラッチ22に対応するが、前後進切替機構とは別に発進専用のクラッチを備えていてもよく特に限定しない。ベルト式無段変速機構23で変速された回転は、ファイナルギヤ3を介して駆動輪10に伝達される。エンジン1は、吸入空気量を調整するスロットルバルブ1aと、燃料噴射装置1bと、を有する。
【0012】
運転者が操作するシフトレバー5は、操作によりシフトレンジ5aのレンジ位置を切り替える。シフトレンジ5aは、パーキングレンジと、後退するリバースレンジと、ニュートラルレンジと、前進するドライブレンジと、を有し、シフトレバー5の操作位置に応じたレンジ位置信号を出力する。また、ドライブレンジの左側には、ステップ的に変速比を変更するマニュアルレンジ5bを有する。実施例のマニュアルレンジ5bは、一方に+スイッチを、他方に−スイッチを有し、運転者がシフトレバー5を+スイッチ側に操作した際には、スイッチアップシフト信号を出力し、ステップ的にアップシフトを行う。一方、運転者がシフトレバー5を−スイッチ側に操作した際には、スイッチダウンシフト信号を出力し、ステップ的にダウンシフトを行う。
【0013】
エンジンコントロールユニット10(以下、ECUと記載する。)は、エンジン1のスロットルバルブ1aや燃料噴射装置1bに制御信号を出力し、エンジン1の運転状態(エンジン回転数NeやエンジントルクTe)を制御する。アイドルスイッチ1cは、アクセルペダル開度APOが所定値未満のときにECUに対してオン信号を出力し、それ以外のときはオフ信号を出力する。ECUは、アイドルスイッチ1cからオン信号を受信すると、アクセルペダル開度APOに関わらずエンジン回転数Neをアイドル回転数に維持するアイドル制御を実施する。また、ECUは、フューエルカット制御部を有し、エンジン回転数Neがアイドル回転数以上で、かつ、アクセルペダル開度APOが足離し状態を表す所定値未満のときは、燃料噴射装置1bからの燃料噴射を停止するフューエルカット制御(以下、FCと記載する。)を実施し、燃費を改善する。また、FC中にエンジン回転数Neがアイドル回転数を下回ると、燃料噴射を再開し、スタータモータ等を用いることなくエンジン1が自立運転可能な状態を維持する。
【0014】
変速機コントロールユニット11(以下、CVTCUと記載する。)は、シフトレンジ5aから送信されたレンジ位置信号及びマニュアルレンジ5bから送信されたスイッチシフト信号を受信し、クラッチ22の断接状態や、ベルト式無段変速機構23の変速比を制御する。CVTCUには、車速とアクセルペダル開度に基づいてエンジン1の最適燃費を確保するように変速比を無段階に設定する変速マップを有する。この変速マップは、シフトレバー5がマニュアルレンジ5bに移動したときに設定される複数の固定変速比線を有する。ある固定変速比線が選択されている状態において、スイッチアップシフト信号が入力されると、現在の固定変速比線からハイ側の固定変速比線に向けて変速比がアップシフトし、スイッチダウンシフト信号が入力されると、現在の固定変速比線からロー側の固定変速比線に向けて変速比がダウンシフトする。これにより、有段式自動変速機のように変速比を制御し、運転者の意図に応じた走行を実現する。ECUとCVTCUとは、相互の情報を送受信可能なCAN通信線15で接続されている。
【0015】
(ロックアップクラッチ制御処理)
ここで、ロックアップクラッチ20の制御について説明する。通常、車両の発進時等、大きなトルクが必要とされる場面では、ロックアップクラッチ20は解放され、トルクコンバータ21のトルク増幅作用を機能させる。ただし、車速が所定車速以上となると、燃費の改善を目的としてロックアップ差圧PLUを発生させてロックアップクラッチ20を締結(以下、ロックアップ状態と記載する。)し、エンジン1から出力されたトルクをそのままベルト式無段変速機構23に伝達する。また、ロックアップ状態で車速が低下すると、駆動輪4の回転数低下によってエンジン回転数Neがアイドル回転数を下回り、エンジンストールを招くおそれがある。そこで、低車速領域では、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差が予め設定された第1スリップ量となるようにフィードバック制御をしながらスリップロックアップ制御を行う。これにより、ロックアップクラッチ20の締結状態がスリップするギリギリの締結状態となるように制御し、クラッチプレート201を即座に移動可能な状態とする。
【0016】
ここで、マニュアルレンジ5bが選択され、ある固定変速比でコースト走行しており、スリップロックアップ制御を行っている場面を想定する。このとき、運転者がシフトレバー5を操作し、−スイッチがオンとなると、現在の固定変速比よりロー側の固定変速比に向けてダウンシフトを開始する。すると、タービンシャフト213の回転数が一気に増大するため、クラッチプレート201の回転数がコンバータカバー210の回転数(エンジン回転数Neと同じ)よりも高くなる。そうすると、現在のロックアップ差圧PLUではエンジン側のイナーシャトルク分が不足し、エンジン回転数Neを引き上げることができず、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転が所定差回転数よりも大きくなる。
【0017】
CVTCUは、ロックアップクラッチ20のスリップロックアップ制御を実施しているときに、差回転が第1スリップ量より大きな第2スリップ量となる状態が継続すると、異常と判定する異常判定部と、異常判定部により異常と判定したときは、フィードバック制御を中止し、ロックアップクラッチ20を解放する解放制御部を有する。これは、過度のスリップ状態の継続は、摩擦材203やプレート側摩擦材202の耐久性が低下している場合が想定されるからである。
【0018】
しかしながら、ロックアップクラッチ20を解放すると、エンジン回転数Neが低下しやすく、フューエルカット制御を中止して燃料噴射を再開するタイミングが早くなり、燃費の悪化を招く。よって、ロックアップクラッチ20の締結によりエンジン回転数Neを高く維持することが望ましい。また、単にスイッチダウンシフトに伴う差回転の上昇であれば、摩擦材等の耐久性低下が原因ではなく、エンジン回転数Neよりもタービン回転数Ntのほうが高い状態であれば、遠心油圧の反転に伴う締結ショックを招くこともない。そこで、実施例では、コースト走行中のスリップロックアップ制御中にスイッチダウンシフトが行われたときは、異常判定部による異常判定を禁止することとし、ロックアップ差圧PLUにエンジン側のイナーシャトルク分を加算することで、スリップロックアップ制御を継続し、燃費の改善を図ることとした。
【0019】
図2は、実施例のスリップロックアップ制御中におけるスイッチダウンシフト時制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、アイドルスイッチ1cがオンか否かを判断し、オンのときはステップS2に進み、それ以外の場合はステップS9に進む。コースト走行条件の成立を確認するためである。
ステップS2では、フューエルカット中か否かを判断し、フューエルカット中のときはフューエルカットに伴うトルク変動が生じないと判断してステップS3へ進み、それ以外の場合はステップS9に進む。
ステップS3では、スイッチダウンシフトフラグFSWDがオンか否かを判断し、オンのときはスイッチダウンシフトによるダウンシフトが生じると判断してステップS4に進み、それ以外の場合はステップS9に進む。
【0020】
ステップS4では、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差の絶対値であるスリップ量が所定スリップ量N1以下か否かを判断し、N1以下のときはステップS5に進み、それ以外の場合はステップS9に進む。すなわち、スリップ量がN1以上のときにロックアップ差圧PLUに所定圧を加算すると、ロックアップクラッチ20が急激に締結して締結ショックを招く恐れがあるからである。
ステップS5では、ロックアップ差圧PLUが所定圧P1以上か否かを判断し、P1以上のときはステップS6に進み、それ以外の場合はステップS9に進む。すなわち、ロックアップ差圧PLUが例えば負の値の場合、クラッチプレート201が解放側に移動している可能性があり、その場合にロックアップ差圧PLUに所定圧を加算すると、ロックアップクラッチ20が急激に締結して締結ショックを招く恐れがあるからである。
ステップS6では、ロックアップ差圧PLUにエンジン側のイナーシャトルク分に相当する所定圧ΔPを加算する。これにより、エンジン回転数Neをタービン回転数Ntの上昇に伴って引き上げることができる。
【0021】
ステップS7では、異常判定部による異常判定を禁止する。よって、仮にスリップ量が増大しても、ロックアップクラッチ20を解放することがなく、継続してロックアップ差圧PLUのフィードバック制御を行うことができる。
ステップS8では、スイッチダウンシフトフラグFSWDがオンとなってからのギヤ比の変化量ΔGRが所定変化量ΔGR1以上か否かを判断し、ΔGRがΔGR1以上変化した場合にはステップS11に進み、それ以外はステップS10に進む。
ステップS9では、ロックアップ差圧PLUにΔPを加算中か否かを判断し、加算中の場合はステップS11に進み、それ以外は本制御フローを終了してステップS1から繰り返す。
【0022】
ステップS10では、ロックアップ差圧PLUにΔPを加算してから所定時間が経過したか否かを判断し、所定時間が経過していなければ、本制御フローを終了してステップS1から繰り返す。すなわち、ロックアップ差圧PLUにΔPを加算してから所定時間が経過しても、スリップ量が低下していない場合には、スイッチダウンシフトに伴うスリップ量の増大ではなく、他の原因によってスリップ量が増大していると考えられる。また、スリップ量が大きい状態でフィードバック制御を継続すると、ロックアップ差圧PLUがどんどん大きな値に設定され、ロックアップクラッチ20が締結したときに締結ショックを招くおそれがある。よって、所定時間経過後は、ステップS11→S12へと進み、異常判定の禁止を解除し、ロックアップクラッチ20を解放することで、再締結に伴うショック等を回避する。
【0023】
ステップS11では、ステップS1からS5のいずれかの条件が不成立、もしくはスイッチダウンシフトによるダウンシフトが十分に進行したと判断し、加算したΔPを徐々に0に向けて減少させる。このとき、急激にΔPを減少させると、一気にロックアップ差圧PLUが減少することでトルク変動をもたらす恐れがあるため、変化率リミッタ等を設定し、徐々に減少させる。
ステップS12では、ステップS7で禁止した異常判定を解除し、異常判定部による異常判定を許可することで、通常のロックアップ制御に移行する。
【0024】
図3は、実施例のスリップロックアップ制御中におけるスイッチダウンシフト時制御処理を表すタイムチャートである。図中のPLU及び回転数の欄に記載された点線は、スイッチダウンシフト時制御を行わなかった場合の比較例を表す。このタイムチャートの最初の時点では、アクセルペダルが踏まれた加速状態であり、この状態からアクセルペダルを離し、コースト走行状態に移行するときを表す。
時刻t1において、アクセルペダル開度APOが所定値未満となり、アイドルスイッチ1cがオンとなる。その後、エンジン回転数Neは、ロックアップクラッチ20を介して駆動輪4からのトルクでアイドル回転数以上を維持しており、FC制御によって燃料噴射が停止する。
【0025】
時刻t2において、運転者がシフトレバー5を操作し、スイッチダウンシフトを行うと、スイッチダウンシフトフラグFSWDがオンとなる。比較例の場合、タービン回転数Ntの上昇にエンジン回転数Neがついていけず、フィードバック制御を行ったとしてもスリップ量が第2スリップ量を超えてしまう。このとき、異常判定部による異常判定が禁止されていないため、異常と判定されてロックアップクラッチ20を解放してしまう。そうすると、エンジン回転数Neが早めに低下するため、燃料噴射を再開して自立回転させることとなり、FC制御を実施できる区間が減少することで燃費の悪化を招く。
これに対し、実施例では、ロックアップ差圧PLUにΔPを加算すると共に、異常判定部による異常判定も禁止される。これにより、タービン回転数Ntが上昇する際、エンジン回転数Neも同時に引き上げられるため、ロックアップクラッチ20が解放されることがない。また、仮に一時的にスリップ量が増大したとしても、異常判定が禁止されており、継続的にフィードバック制御が行われることでスリップロックアップ制御を継続することができる。よって、エンジン回転数Neを高めに維持することができ、FC制御を実施できる区間を確保することで燃費の悪化を回避できる。
【0026】
時刻t3において、スイッチダウンシフトフラグFSWDがオンとなってからのギヤ比の変化量ΔGRが所定変化量ΔGR1以上変化したため、ΔPを徐々に0に向けて低下させる。この段階では、エンジン回転数Neも十分に上昇しており、イナーシャトルクも不要となっているため、ロックアップクラッチ20のスリップ量が増大することもない。尚、ギヤ比がΔGR1だけ変化した後、スイッチダウンシフトが終了する。
時刻t4において、ΔPが0となると、異常判定部における異常判定の禁止を解除する。よって、それ以後は、通常のスリップロックアップ制御が継続される。
【0027】
以上説明したように、上記実施例にあっては下記の作用効果が得られる。
(1)エンジン1とベルト式無段変速機構23(自動変速機)との間に設けられたトルクコンバータ21のロックアップクラッチ20の締結状態を制御する制御部と、ロックアップクラッチ20のスリップ量が所定以上の状態が継続したときは、異常と判定する異常判定部と、異常判定部により異常と判定されたときは、ロックアップクラッチ20を解放する解放制御部と、コースト走行時において、ベルト式無段変速機構23がロー側に変速した場合には、異常判定部による判定を禁止するステップS1,S3,S7(禁止部)と、を備えた。
よって、異常判定によるロックアップクラッチ20の解放を回避することができ、エンジン回転数Neをアイドル回転数より高めに維持することで、燃料噴射を伴うエンジン自立運転区間を抑制でき、燃費の悪化を回避できる。更に、エンジンブレーキによる減速を得ようと、運転者がレンジ操作により、Lレンジ等を選択した場合にも、ロックアップクラッチ20の解放を回避することができるので、エンジンブレーキによる減速度の低下を抑制することができる。また、レンジ操作後に、運転者が加速を意図してアクセルペダルを踏み込んだ場合にもエンジンの空吹きを抑制することができる。
【0028】
(2)ステップS6(制御部)では、ステップS7により異常判定部による判定を禁止しているときは、ロックアップクラッチ20の締結油圧を上昇させる。
よって、タービン回転数Ntの上昇に伴いエンジン回転数Neを引き上げることができ、スリップ量の増大を抑制することで、摩擦材等の耐久性を向上できる。
【0029】
(3)ステップS6では、ロックアップクラッチ20の締結油圧を上昇させるときの上昇分であるΔPは、ロー側に変速したときのロックアップクラッチ20の入力側イナーシャトルク分である。
よって、タービン回転数Ntの上昇に伴いエンジン回転数Neを引き上げるときに、スリップ量の増大を回避することができ、摩擦材等の耐久性を更に向上できる。
(4)ステップS10では、ステップS6によりロックアップクラッチ20の締結油圧を上昇させてから所定時間経過後、異常判定部による判定の禁止を解除する。
よって、ロックアップ差圧PLUが過剰に高く設定された状態でロックアップクラッチ20が締結することにより生じる締結ショックを回避することができる。
【0030】
〔他の実施例〕
以上、本発明を一実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であっても良い。上記実施例では、変速機としてベルト式無段変速機構23を採用した例を示したが、他の形式の変速機であっても構わない。また、上記実施例ではベルト式無段変速機のマニュアルモードにおけるスイッチダウンシフトについて説明したが、エンジンブレーキや再加速のためにLレンジやSレンジ等に、運転者がレンジ操作を行いダウンシフトした場合でも、同様の制御を適用でき、有段式自動変速機のコースト走行時において、運転者がマニュアル操作によりダウンシフト要求を行った場合にも同様の制御が適用できる。また、上記実施例では、スリップロックアップ制御中を例に示したが、スリップロックアップ制御中に限らず、通常のロックアップ制御中であってもよい。
図1
図2
図3