(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近の車両では、シートベルト装置に加えて、エアバッグ装置が設けられている。
しかも、上述した既存のプリテンション機構では、衝突前または衝突時からストラップを巻き取るプリテンション動作を開始し、そのままの状態で衝突する。
このため、乗員の身体についてのストラップが当接する部位、たとえば胸部には、姿勢を正すためのプリテンション動作による圧迫圧力に加えて、展開したエアバッグが当接することによる圧迫荷重が作用する可能性がある。しかも、その後に衝突すると、衝突による衝撃荷重も作用することになる。これら三種類の力がそのまま加算されて当接部位に作用する可能性が高い。
【0005】
このように車両の乗員保護装置では、乗員の身体についてのストラップが当接する部位に対して作用する力を削減することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、車両のシートに着座した乗員の身体の前に掛け渡されるストラップと、前記ストラップを巻き取るプリテンショナと、衝突前にまたは衝突の際に前記プリテンショナにより前記ストラップの巻き取りを開始する制御部と、前記車両において前記乗員の周囲でエアバッグを展開するエアバッグ装置と、
前記エアバッグの展開状態を検出する展開センサと、を有し、前記制御部は、前記ストラップの巻き取りを開始した後
に前記エアバッグが展開される場合、
前記展開センサにより検出される前記エアバッグの展開状態に基づいて、前記エアバッグと前記ストラップとが重なって乗員に当たる可能性がある場合に、前記ストラップの巻き取りを一時的に止める又は緩める。
【0009】
好適には、前記制御部は、前記エアバッグの少なくとも一部が膨らんでいない展開初期において、前記ストラップの巻き取りを一時的に止める又は緩める、とよい。
【0010】
好適には、前記制御部は、前記エアバッグの全体が膨らみ始めた後の展開中期において、再度、前記ストラップの巻き取りを再開する、とよい。
【0011】
好適には、前記制御部は、前記エアバッグの全体が所望の形状に膨らんだ後の展開後期において、再度、前記ストラップの巻き取りを一時的に止める又は緩める、とよい。
【0012】
好適には、前記乗員の状態を検出する乗員状態センサ、を有し、前記制御部は、前記展開センサにより検出された前記エアバッグの展開状態および前記乗員状態センサにより検出された乗員の状態に応じて、前記ストラップの巻き取りを制御する、とよい。
【0013】
好適には、前記乗員状態センサとして、前記ストラップに作用する張力を検出するベルト張力センサと、前記ストラップの巻取量を検出するベルト巻取センサと、を有し、前記制御部は、前記ベルト張力センサの検出値と前記ベルト巻取センサの検出値との相関に基づいて、前記プリテンショナによる前記ストラップの巻き取りを制御し、前記エアバッグの展開状態に応じて、前記ストラップの巻き取り制御での目標範囲または目標値を変更する、とよい。
【0014】
好適には、前記制御部は、前記エアバッグの展開初期において、ベルト張力の目標範囲の上限値または目標値を下げる、とよい。
【0015】
好適には、前記制御部は、前記エアバッグの展開後期において、ベルト張力の目標範囲の上限値または目標値を下げる、とよい。
【0016】
好適には、前記車両の走行状況を検出する走行状況センサ、を有し、前記制御部は、前記走行状況センサの検出に基づいて衝突前に前記車両の衝突を予測して、前記プリテンショナによる前記ストラップの巻き取りを開始し、前記プリテンショナによる前記ストラップの巻き取り制御中に前記エアバッグが展開された場合、前記プリテンショナによる前記ストラップの巻き取りを止める又は一時的に緩める、とよい。
【0017】
好適には、前記車両の衝突または衝突による前記身体の移動を検出する衝撃センサ、を有し、前記制御部は、前記衝撃センサによる衝突または移動の検出タイミングを基準として、前記プリテンショナによる前記ストラップの巻き取りを止める又は一時的に緩める、とよい。
【0018】
好適には、前記制御部は、前記ストラップの巻き取りを一時的に緩める制御において、前記シートに対する前記身体の拘束状態を解除するように前記ストラップを送り出す、とよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、衝突前にまたは衝突の際に、プリテンショナによるストラップの巻き取りを開始する。プリテンション動作により乗員の身体を正して支えることができる。
しかも、ストラップの巻き取りを開始した後、エアバッグの展開状態に応じてストラップの巻き取りを一時的に止める又は緩める。よって、乗員についてのストラップの当接部位に、プリテンション動作による圧迫圧力が作用していても、それをリセットして削減できる。ストラップの当接部位に対して、プリテンションによる圧迫圧力と、展開したエアバッグによる圧迫荷重とがそのまま加算されて作用し難くなる。しかも、その後に衝突による衝撃荷重が作用したとしても、これら三種類の力がそのまま加算されて当接部位に作用し難くなる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の説明図である。自動車1は、車両の一例である。
図1には、この他にも自動車1の前を走行する他の自動車1が図示されている。
【0023】
図1の自動車1は、前室2、乗員室3、および後室4からなる車体を有する。前室2には、エンジン、電気モータ等の動力ユニットが配置される。後室4には、ラッゲージスペースが設けられる。乗員室3には、乗車した乗員が着座するシート5が設けられる。また、乗員室3において運転者用のシート5の前には、アクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドルなどの操作部材が設けられる。自動車1は、運転者の操作に基づいて走行、停止、右左折する。
【0024】
図2は、
図1の車体に設けられる車両の乗員保護装置の一例の説明図である。
図2には、三点式のシートベルト装置10と、エアバッグ装置35と、が図示されている。
【0025】
シートベルト装置10は、ストラップ11、アンカ12、タングプレート13、バックル14、リトラクタ装置15、ホルダ16、を有する。
ストラップ11は、シート5に着座した乗員の身体の前に掛け渡されるベルトである。
アンカ12は、ストラップ11の先端を、シート5の座面の外側位置で固定する。
タングプレート13には、ストラップ11が通される。
バックル14は、シート5の座面の内側位置に固定される。タングプレート13は、バックル14に対して取外し可能に取り付けられる。
リトラクタ装置15は、ストラップ11を巻き取るリール17と、リール17を任意のトルクで正逆回転駆動するモータ18と、リール17を瞬時に巻取方向へ回転させる図示外のガス発生装置と、を有する。モータ18およびガス発生装置は、衝突前からストラップ11を巻き取るプリテンショナとして機能し得る。
リトラクタ装置15は、たとえばBピラー下部といった、シート5の外下方の位置に設けられる。
ホルダ16は、たとえばBピラー上部といった、シート5の外上方の位置に設けられる。ホルダ16には、ストラップ11が通される。
そして、シート5に着座した乗員は、たとえばタングプレート13を引いてリトラクタ装置15からストラップ11を引き出し、タングプレート13をバックル14に取り付ける。これにより、ストラップ11は、ホルダ16からバックル14へ向かって延び、さらにバックル14からアンカ12へ向かって延び、シート5に着座した乗員の腰部および胸部の前に掛け渡される。
【0026】
エアバッグ装置35は、エアバッグ本体36、エアバッグ37、インフレータ38、を有する。
エアバッグ本体36は、エアバッグ37およびインフレータ38を収容する。
エアバッグ37は、袋体を有する。また、エアバッグ37には、ガスの吹出弁が設けられる。
インフレータ38は、エアバッグ37内に高圧ガスを吹き出す。
図2のエアバッグ装置35のエアバッグ本体36は、たとえばハンドルまたはダッシュボードに設けられる。インフレータ38から高圧ガスが注入されたエアバックは、ハンドルまたはダッシュボードから後向きに展開する。これにより、車両においてシート5に着座した乗員の前でエアバッグ37が展開する。
【0027】
図3は、一般的な乗員保護装置による乗員保護動作の一例の説明図である。
衝突前は、
図3(A)に示すように、シートベルト装置10のストラップ11が、シート5に着座した乗員の前に掛け渡されている。この時点で、ストラップ11は、緩んでいてよく、乗員の身体をシート5に押し付けるように拘束していなくてよい。
次に、たとえば衝突が予想されると、
図3(B)に示すように、リトラクタ装置15のプリテンショナが作動し、ストラップ11を巻き取る。これにより、乗員の身体は、シート5に押し付けるように拘束され得る。また、リトラクタ装置15は、所定以下のトルクでは繰り出されないようにストラップ11を保持する。
このように、衝突前のプリテンション動作により、シート5に着座した乗員の背面は、衝突前または衝突時からシート5のバックレストに押し当てられる。衝突により乗員が前へ移動する際に乗員の姿勢を正すことができる。衝突時の衝撃荷重がストラップ11により適切に拘束された状態の乗員に作用し易くなり、衝突時の乗員の保護性能を得ることが期待できる。
次に、
図3(C)に示すように実際に車体がたとえば
図1の他の自動車1に追突すると、エアバッグ装置35は、
図3(D)に示すように、エアバッグ37を前から後へ展開する。
これにより、シート5に着座した乗員の身体は、相対的にシート5から前へ移動しようとするが、これを展開したエアバッグ37により支えることができる。
【0028】
しかしながら、これら既存のプリテンション機構では、衝突前または衝突時からストラップ11を巻き取るプリテンション動作を開始し、そのままの状態で衝突する。このため、乗員の身体についてのストラップ11が当接する部位、たとえば胸部には、姿勢を正すためのプリテンション動作による圧迫圧力に加えて、展開したエアバッグ37が当接することによる圧迫荷重が作用する可能性がある。しかも、その後に衝突すると、衝突による衝撃荷重も作用することになる。これら三種類の力がそのまま加算されて当接部位に作用する可能性が高い。
そこで、本実施形態では、乗員の身体についてのストラップ11が当接する部位に対して作用する力を削減し、乗員保護性能を高める。
【0029】
図4は、
図2の乗員保護装置の制御系のブロック図である。
【0030】
図4の制御系は、撮像デバイス21、車両加速度センサ22、車両速度センサ23、ブレーキ操作センサ24、車両角速度センサ25、ベルト張力センサ26、ベルト巻取量センサ27、着座センサ28、展開センサ31、タイマ29、およびこれらが接続された制御部30、を有する。また、
図4には、制御部30に接続された制御対象であるシートベルト装置10とエアバッグ装置35とが併せて図示されている。
【0031】
撮像デバイス21は、たとえば一対の撮像素子であり、
図1に示すように乗員室3のルーフに前向きに設けられ、車両の前方の周辺状況を撮像により観測する。制御部30は、撮像された画像から、車両の周辺状況として、たとえば車両前方の他の自動車1などの障害物を特定し、該障害物の衝突の可能性を判断し得る。これにより、衝突前の車両の走行状況を検出し得る。
【0032】
車両加速度センサ22は、車体に固定して設けられ、車両の走行状況として加減速による車両の加速度を検出する。これにより、衝突前の車両の姿勢変化を検出し得る。また、衝突時には大きな減速が生じることから、車両の衝突を検出し得る。
【0033】
車両速度センサ23は、車体に固定して設けられ、車両の走行状況として車両の速度を検出する。
【0034】
ブレーキ操作センサ24は、乗員室3内に設けられ、乗員によるブレーキペダルの踏み込み操作を検出する。
【0035】
車両角速度センサ25は、車体の前部または後部に固定して設けられ、車両の走行状況として車両のたとえば上下方向の角速度を検出する。
【0036】
ベルト張力センサ26は、たとえばリトラクタ装置15に設けられ、ストラップ11に作用する張力を検出する。これより、減速時の相対的に前へ移動する乗員の身体の動き、または、その身体の動きによりストラップ11に作用する張力を検出し得る。これにより、乗員の状態を検出し得る。
【0037】
ベルト巻取量センサ27は、たとえばリトラクタ装置15に設けられ、ストラップ11の巻取量を検出する。これにより、乗員の状態を検出し得る。
【0038】
着座センサ28は、たとえばシート5の座面に設けられ、乗員のシート5への着座の有無、着座圧、着座位置、を検出する。衝突時には乗員の身体は、前へ移動しようとする。これにより、乗員の状態を検出し得る。
【0039】
展開センサ31は、たとえばエアバッグ本体36に設けられ、エアバッグ37の展開状態を検出する。エアバッグ37の展開状態としては、たとえばエアバッグ37の少なくとも一部が膨らんでいない展開初期、エアバッグ37の全体が膨らみ始めた後の展開中期、エアバッグ37の全体が所望の形状に膨らんだ後の展開後期などがある。展開センサ31は、たとえばエアバッグ37内の圧力変化に基づいて、これらの展開状態を判別してよい。
【0041】
制御部30は、これらセンサの検出信号に基づいて、シートベルト装置10およびエアバッグ装置35による乗員保護動作を制御する。制御部30は、たとえば、衝突予想に基づいてプリテンショナによりストラップ11を巻き取る衝突前制御を実施し、衝突検出に基づいて衝突時制御を実施する。
【0042】
図5は、
図4の制御部30による乗員保護制御のフローチャートである。制御部30は、
図5の処理を繰り返し実行して、プリテンショナによるストラップ11の巻き取りを制御する。
図6および
図7は、
図5の制御による乗員保護動作の一例の説明図である。
図6(A)から
図6(C)さらに
図7(A)から
図7(C)へ向かう順番で時間が流れる。そして、
図6(C)のタイミングで、自動車1は他の自動車1に衝突する。
【0043】
図5に示すように、制御部30は、周期的に、衝突を予測する(ステップST1)。制御部30は、回避が容易ではない衝突の可能性を判断してもよい。
たとえば、制御部30は、撮像デバイス21により撮像された車両前方の画像から、車両前方の他の自動車1などの障害物を特定する。また、障害物が特定された場合、衝突の可能性を判断する。衝突の可能性がある場合、衝突までの時間を予測する。たとえば車幅方向に並んだ一対の撮像素子の画像の間では、近くにある障害物の見え方が異なる。よって、この一対の画像中での障害物の違いに基づいて、近くにある障害物を特定することができる。また、一対の撮像素子の配置と、一対の画像中の障害物の撮像位置とから、三角法により障害物の方向および距離を演算し得る。この距離と車両速度センサ23による車速とから、車両が障害物に到達して衝突するまでの時間を演算し得る。また、制御部30は、さらに時間的に前後する複数組の障害物の方向および距離の情報から、障害物の移動方向および距離を予測し、その予測結果に基づいて障害物との衝突を予測してもよい。
この他にもたとえば、制御部30は、車両加速度センサ22により検出される衝突回避のための急激な車両の減速や、ブレーキ操作センサ24により検出される衝突回避のための急激な減速操作に基づいて、衝突の可能性を判断してもよい。
【0044】
そして、衝突の可能性を予想した場合、制御部30は、衝突前にプリテンショナによるストラップ11の巻き取りを開始する(ステップST2)。この場合、制御部30は、モータ18を巻取り方向へ駆動させればよい。これにより、衝突前に、乗員の身体の前に掛け渡されたストラップ11の巻き取りが開始される。乗員の身体は、ストラップ11により拘束されて、シート5に押し付けられる。乗員の身体は、シート5に背部が触れた正しい姿勢に矯正される。たとえば
図6(A)のようにシート5から前へ離れている乗員の上体は、
図6(B)のように、ストラップ11により拘束されることにより衝突前にシート5に押し付けられる。
逆に、衝突の可能性が予想されない場合、制御部30は、
図5の処理を終了する。
【0045】
プリテンショナによるストラップ11の巻き取りを開始した後、制御部30は、衝突を検出する(ステップST3)。具体的にはたとえば、車両加速度センサ22またはベルト張力センサ26といった衝撃センサの検出を監視する。制御部30は、車両加速度センサ22が衝突時の高い加速度を検出した場合、またはベルト張力センサ26が衝突時の高い張力を検出した場合、衝突したと判断する。
【0046】
そして、
図6(C)のように衝突を検出すると、制御部30は、エアバック装置のインフレータ38を点火し、それにより発生した高圧ガスによりエアバッグ37を前から後へ展開する。これにより、エアバッグ37の展開が開始される(ステップST4)。
なお、エアバッグ37には、展開を開始してから展開後期となるまでに時間がかかるものがある。この場合、制御部30は、タイマ29により計測される衝突予想タイミングからの経過時間により、エアバック装置のインフレータ38を点火してもよい。
エアバッグ37は、展開を開始した展開初期においてはその一部が膨らむ。この際、エアバッグ37は、薄い板状のまま、
図7(A)に示すように前から後へ延びるように展開する。
前から後への展開が終わった展開中期では、エアバッグ37は、
図7(B)に示すように、全体的に膨らみ始める。
そして、エアバッグ37は、その全体が略所望の形状に膨らむ。その後、エアバッグ37の内圧が高くなる。これにより、エアバッグ37は、
図7(C)に示すように、衝突時に相対的に前へ移動しようとする乗員を前から支えることができる。
エアバッグ37が展開した後の展開後期では、エアバッグ37の弁からガスが漏れ始める。その後、エアバッグ37は、内圧が低下して縮んでゆく。
【0047】
また、
図6(C)のように衝突を検出すると、制御部30は、それまでのプリテンション動作により巻き取っていたストラップ11を、エアバッグ37の展開状態に応じて一時的に止める又は緩める制御を実施する。プリテンショナによるストラップ11の巻き取り制御中に、衝突または移動の検出タイミングを基準として、ストラップ11の巻き取りを止める又は一時的に緩める制御を実施する。
【0048】
制御部30は、まず、
図7(A)に示すエアバッグ37の展開初期では、ストラップ11の巻き取りを一時的に止める又は緩める(ステップST5)。ここで、制御部30は、シート5に対する身体の拘束状態を解除するようにストラップ11を送り出してよい。これにより、
図7(A)に示すように、プリテンション動作により変形している可能性がある乗員の上体に対して、薄い板状のままで硬いエアバッグ37が当たることが、起き難くなる。
次のエアバッグ37の展開中期では、制御部30は、再度、ストラップ11を巻き取る(ステップST6)。ここで、制御部30は、緩める前の巻取トルクでモータ18を駆動してよい。これにより、
図6(B)の矯正後に前へ移動した身体を、
図7(B)に示すようにシート5に適切に押し付けるように拘束することができる。エアバッグ37が支えることができるようになる前に、シート5に適切に押し付けることができる。
次のエアバッグ37の展開後期では、エアバッグ37が全体的に所望の形状に膨らんで且つその内圧が高くなっているので、制御部30は、再度、ストラップ11の巻き取りを止める又は一時的に緩める(ステップST7)。衝突により前へ移動しようとする身体を、高い内圧に展開したエアバッグ37により支えることができる。
なお、制御部30は、これら一連の制御を、たとえばタイマ29により計測される衝突時からの経過時間により制御してよい。または、エアバッグ37の展開開始タイミングからの経過時間により制御してよい。これにより、衝突時に展開が開始されるエアバッグ37の展開状態に対して好適に対応するタイミングで、ストラップ11のテンションを調整することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態では、衝突前にまたは衝突の際に、プリテンショナによるストラップ11の巻き取りを開始する。プリテンション動作により乗員の身体を正して支えることができる。
しかも、ストラップ11の巻き取りを開始した後、エアバッグ37の展開状態に応じてストラップ11の巻き取りを一時的に止める又は緩める。よって、乗員についてのストラップ11の当接部位に、プリテンション動作による圧迫圧力が作用していても、それをリセットして削減できる。ストラップ11の当接部位に対して、プリテンションによる圧迫圧力と、展開したエアバッグ37による圧迫荷重とがそのまま加算されて作用し難くなる。しかも、その後に衝突による衝撃荷重が作用したとしても、これら三種類の力がそのまま加算されて当接部位に作用し難くなる。
【0050】
特に、展開初期のエアバッグ37は、局所的にガスが侵入していない塊状であるため、この固いエアバッグ37が乗員へ局所的に当たる可能性がある。このタイミングまたはそれ以前においてプリテンションの際の圧迫圧力を開放することにより、相乗的な高い圧迫圧力が乗員に作用し難くできる。
また、エアバッグ37の全体が膨らみ始めた後の展開中期においては、再度、ストラップ11の巻き取りを再開するので、展開中期以降の展開後期を含む期間において前へ移動しようとする乗員をストラップ11によりシート5に押し付けるように十分に拘束することができる。そして、このタイミングでは、塊状のエアバッグ37がほぐれているので、展開初期のような固いエアバッグ37による圧迫圧力は生じ難くなっている。
また、エアバッグ37の全体が所望の形状に膨らんだ後の展開後期においては、再度、ストラップ11の巻き取りを一時的に止める又は緩める。このタイミングでは、エアバッグ37が所望の形状にフルに展開しているので、ストラップ11の巻き取りを緩めたとしても、前へ移動しようとする乗員を、エアバッグ37により支えることができる。緩めない場合には、その乗員の慣性を巻き取ったままのストラップ11で支えることになり、身体についてのストラップ11の当接部分に高い圧迫圧力が作用する可能性がある。
【0051】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、乗員保護制御において第1実施形態と相違する。以下には、主に第1実施形態との相違点について説明し、第1実施形態と共通する構成および動作の説明は省略する。
【0052】
図8は、第2実施形態での乗員保護制御のフローチャートである。
【0053】
図8に示すように、制御部30は、周期的に、衝突を予測する(ステップST11)。制御部30は、回避が難しい衝突の可能性を判断する。
衝突の可能性を予想した場合、制御部30は、更に、展開センサ31により検出されたエアバッグ37の展開状態と、乗員状態センサにより検出された乗員の状態とを取得する(ステップST12)。
そして、制御部30は、ベルト張力センサ26の検出値とベルト巻取量センサ27の検出値との相関に基づいて、プリテンショナによるストラップ11の巻き取りを制御する。具体的には、エアバッグ37の展開状態に応じて、ストラップ11の巻き取り制御での目標範囲または目標値を変更しながら、ストラップ11の巻取を開始する(ステップST13)。
【0054】
図9は、ベルト張力と胸部変位に対応するベルト巻取量との対応関係の一例を示す特性図である。
横軸は、ベルト張力であり、乗員の胸部変位に対応するベルト巻取量である。
図9には、関係が良好な場合を示す実線と、良好でない場合を示す破線と、が図示されている。
乗員の胸部は、ストラップ11が巻き取られる程に、変形が大きくなる。よって、この良好な関係が維持されている場合には、
図9の実線の関係が成立する。
これに対し、たとえば、乗員の胸部が既に締め付けられてしまってそれ以上に変形し難くなっている場合、
図9の破線に示すように、ストラップ11の巻取量が増えないまま、ベルト張力が大きくなる。
【0055】
そして、ベルト張力が高い状態で、展開初期の塊状のエアバッグ37が乗員の胸部に当たると、その瞬間での乗員の胸部変位が大きくなる。
そこで、制御部30は、具体的にはエアバッグ37の展開初期において、ベルト張力の目標範囲の上限値または目標値を下げ、その目標範囲でストラップ11を巻取る。
その後、タイマ29により所定の経過時間が計測されると、制御部30は、ベルト張力の目標範囲の上限値または目標値を元に戻し、その目標範囲でストラップ11を巻取る。
これにより、展開初期の固いエアバッグ37が乗員の胸部に当たったとしても、乗員の胸部変位を抑えることができる。
【0056】
また、エアバックが展開した後の展開後期では、ストラップ11により乗員の身体を締め付けていなくとも、乗員が前へ移動することを防止できる。
そこで、制御部30は、具体的にはエアバッグ37の展開初期において、ベルト張力の目標範囲の上限値または目標値を下げ、その目標範囲でストラップ11を巻取る。
その後、タイマ29により所定の経過時間が計測されると、制御部30は、ベルト張力の目標範囲の上限値または目標値を元に戻し、その目標範囲でストラップ11を巻取る。
これにより、乗員を十分に支えることができる展開後期のエアバッグ37が展開している状態では、ストラップ11を緩めてエアバッグ37により乗員を支えて、乗員の胸部変位が長く続かないようにすることができる。
その後、展開した後のエアバッグ37は、弁からガスが漏れ、内圧が低下して縮んでゆく。
【0057】
図10は、エアバッグ37の展開状態に応じたストラップ11の巻取制御の一例を示すタイミングチャートである。
図10には、ベルト張力の制御特性線が実線で示されている。
図10の縦軸は、胸部に作用する力であり、横軸は、時間である。
そして、ストラップ11のプリテンションは、原点から開始されている。
また、
図10には、エアバッグ37の展開初期、展開中期、および展開後期を矢線で図示している。
その後、エアバッグ37の展開開始直後にはベルト張力が低下し、その後元に戻っている。これにより、
図10の破線に示すように、塊状のエアバッグ37が乗員に当たって、これにより乗員の胸部に力が作用したとしても、胸部に作用する総合力を低下させることができる。
また、エアバッグ37の展開後期には、再びベルト張力が低下している。この場合、既にエアバッグ37が完全に展開しているので、前へ移動しようとする乗員の上体は、エアバッグ37により支えることができる。
【0058】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。