特許第6718311号(P6718311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6718311
(24)【登録日】2020年6月16日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】洗剤用重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20200629BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20200629BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20200629BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   C08F2/38
   C11D3/37
   C08F220/06
   C08F220/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-109528(P2016-109528)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-214496(P2017-214496A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 大昂
(72)【発明者】
【氏名】的埜 旭隼
(72)【発明者】
【氏名】池内 義貴
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−231263(JP,A)
【文献】 特開2007−231262(JP,A)
【文献】 特開2007−231261(JP,A)
【文献】 特開2007−231260(JP,A)
【文献】 特開2012−207068(JP,A)
【文献】 特開2012−207067(JP,A)
【文献】 特表2008−534694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 2/60
C08F 6/00−246/00
C11D 3/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗剤用途に使用される重合体を製造する方法であって、
該製造方法は、亜硫酸水素ナトリウムの存在下で(メタ)アクリル酸と、下記式(1)で表される(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を原料として95℃以下の温度で重合反応を行う工程を含むことを特徴とする洗剤用重合体の製造方法。
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。nは、1〜70の数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)におけるnは、3〜40の数であることを特徴とする請求項1に記載の洗剤用重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合工程は、単量体成分に含まれる全単量体に対して、1〜12g/molの割合で亜硫酸水素ナトリウムを用いて行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗剤用重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程は、重合促進剤を用いて行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗剤用重合体の製造方法。
【請求項5】
洗剤組成物を製造する方法であって、
該製造方法は、亜硫酸水素ナトリウムの存在下で(メタ)アクリル酸と、下記式(1)で表される(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を原料として95℃以下の温度で重合反応を行う工程と、
該重合反応工程で得られた重合体と界面活性剤とを混合する工程とを含むことを特徴とする洗剤組成物の製造方法。
【化2】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。nは、1〜70の数を表す。)
【請求項6】
前記式(1)におけるnは、3〜40の数であることを特徴とする請求項5に記載の洗剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗剤用重合体の製造方法に関する。より詳しくは、洗剤ビルダーとして好適に用いることができる洗剤用重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料類等に用いられる洗剤には、洗剤の洗浄効果を向上させることを目的として、ゼオライト、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の洗剤ビルダー(洗剤助剤)を配合することが行われている。また近年では、上記の各種洗剤ビルダーに加えて、各種(メタ)アクリル酸系共重合体が洗剤ビルダーとして洗剤組成物に配合されている。(メタ)アクリル酸系共重合体を洗剤ビルダーとして用いる技術として、アクリル酸、メタクリル酸等を原料とする共重合体を含む食器洗浄用洗剤が開示されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−525128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、(メタ)アクリル酸系共重合体は洗剤ビルダーとして使用されているが、洗剤用途に用いられる重合体には、色調に優れることも求められる。特許文献1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体は、色調の点で充分とはいえず、改善する余地があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、色調に優れ、洗剤ビルダーとして好適に用いることができる(メタ)アクリル酸系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、色調に優れ、洗剤ビルダーとして好適に用いることができる(メタ)アクリル酸系重合体について種々検討したところ、亜硫酸水素ナトリウムの存在下で(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を原料として重合体を製造する際に、重合反応の温度を95℃以下とすることで色調に優れた重合体を製造することが可能となることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、洗剤用途に使用される重合体を製造する方法であって、上記製造方法は、亜硫酸水素ナトリウムの存在下で(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を原料として95℃以下の温度で重合反応を行う工程を含むことを特徴とする洗剤用重合体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
本発明の洗剤用重合体の製造方法は、亜硫酸水素ナトリウムの存在下で(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を用いた重合反応を95℃以下で行うことを特徴とする。上述した特許文献1の実施例において製造され、洗剤の成分として使用されているように、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を重合して得られる共重合体は、洗剤ビルダーとして使用される重合体である。
従来技術では特許文献1の実施例のように、この重合反応を100℃以上の温度で行っているところ、重合反応の温度を従来よりも低くすることで、色調に優れた洗剤用重合体の製造が可能となる。また、充分に重合反応を進行させるため、重合反応の温度は、60℃以上であることが好ましい。
重合反応の温度は、より好ましくは、65〜93℃であり、更に好ましくは、70〜90℃であり、特に好ましくは、75〜85℃である。
【0009】
上記重合工程は、重合反応の少なくとも一部が95℃以下で行われればよいが、重合工程の時間全体に対して、95℃以下で重合反応が行われる時間が70%以上であることが好ましい。より好ましくは、80%以上であり、更に好ましくは、90%以上である。
また、重合反応の温度は、一定であってもよく、重合工程の中で変化してもよい。
【0010】
上記重合工程では、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を用いる。
単量体成分が含む(メタ)アクリル酸としては、酸の形態のものを用いてもよく、塩の形態のものを用いてもよい。すなわち、単量体成分が含む(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸(塩)とも記載することができる。塩の形態である場合の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の一価金属塩;カルシウム、マグネシウム等の二価金属塩;アンモニウム塩;およびエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン塩が挙げられる。
【0011】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートや、下記式(1)で表される(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、「(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート」とは、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及び/又はアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを意味する。
上記置換基としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン基、アミン基等が挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。nは、1〜70の数を表す。)
上記式(1)におけるRとしては、炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜3のアルキレン基であり、更に好ましくは、炭素数2〜3のアルキレン基、最も好ましくは、炭素数2のアルキレン基、すなわち、エチレン基である。
上記式(1)におけるRの炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり、最も好ましくは、炭素数1〜2のアルキル基である。
上記式(1)におけるnは、1〜50であることが好ましい。より好ましくは、3〜40であり、更に好ましくは、5〜30である。
【0014】
上記式(1)で表される(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの具体例としては、(メトキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリエチレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリプロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリエチレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリプロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、および(エトキシ)ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
上記重合工程に用いる単量体成分は、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む限り、その他の単量体を含んでいてもよい。
その他の単量体としては、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の炭素数4〜10の不飽和カルボン酸又はその塩;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミドなどの炭素数2〜10の不飽和アミド;スチレン等の炭素数8〜15の芳香族ビニル;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アリルオキシプロパンスルホン酸ナトリウム、イソプレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ブテンスルホン酸等の炭素数2〜20の不飽和スルホン酸又はその塩;3−(メタ)アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の水酸基含有不飽和単量体にエチレンオキサイドを6〜200モル付加させた化合物(3−アリルオキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパン等)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
不飽和カルボン酸や不飽和スルホン酸の塩としては、上述した(メタ)アクリル酸の塩と同様の塩が挙げられる。
【0016】
上記重合工程に用いる(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸の割合は、単量体成分に含まれる全単量体100質量%に対して、20〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは、25〜70質量%であり、更に好ましくは、30〜60質量%である。
また、単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸エステルの割合は、単量体成分に含まれる全単量体100質量%に対して、20〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは、30〜75質量%であり、更に好ましくは、40〜70質量%である。
また(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分は、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む限り、その他の単量体を含んでもよい。その他の単量体の割合は、単量体成分に含まれる全単量体100質量%に対して、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20質量%以下であり、更に好ましくは、10質量%以下である。
【0017】
上記重合工程に用いる(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸の割合は、単量体成分に含まれる全単量体100モル%に対して、50〜99モル%であることが好ましい。より好ましくは、60〜98モル%であり、更に好ましくは、70〜97モル%である。
また、単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸エステルの割合は、単量体成分に含まれる全単量体100モル%に対して、1〜50モル%であることが好ましい。より好ましくは、2〜40モル%であり、更に好ましくは、3〜30モル%である。
また(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分は、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む限り、その他の単量体を含んでもよい。その他の単量体の割合は、単量体成分に含まれる全単量体100モル%に対して、30モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、20モル%以下であり、更に好ましくは、10モル%以下である。
【0018】
上記重合工程は、単量体成分に含まれる全単量体に対して、1〜12g/molの割合で亜硫酸水素ナトリウムを用いて行われることが好ましい。
本発明の洗剤用重合体の製造方法は、重合工程における重合温度を95℃以下であることで、重合体の分子量を制御するために連鎖移動剤として使用する亜硫酸水素ナトリウムの使用量を少なくしても重合体の分子量を制御することが可能である。重合工程において使用される亜硫酸水素ナトリウムの使用量を1〜12g/molの割合にすると、得られる重合体に含まれる亜硫酸水素ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウム由来の硫酸ナトリウムの含有量を少なくすることができ、洗剤用途の重合体として好適な範囲の分子量を有しつつ、色調により優れた重合体を得ることができる。亜硫酸水素ナトリウムの使用量は、より好ましくは、単量体成分に含まれる全単量体に対して、1.5〜10g/molであり、更に好ましくは、2〜8g/molである。
【0019】
上記重合工程は、亜硫酸水素ナトリウムに加え、それ以外の連鎖移動剤を用いて行ってもよい。それ以外の連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びそのナトリウム塩やカリウム塩;亜硫酸、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びそのナトリウム塩やカリウム塩等が挙げられる。
亜硫酸水素ナトリウム以外の連鎖移動剤を用いる場合、亜硫酸水素ナトリウムとそれ以外の連鎖移動剤の使用量の合計が単量体成分に含まれる全単量体に対して1〜12g/molとなることが好ましい。より好ましくは、1.5〜10g/molであり、更に好ましくは2〜8g/molとなることである。
【0020】
上記重合工程では、亜硫酸水素ナトリウムに加え、それ以外の連鎖移動剤を用いて行ってもよいが、亜リン酸、次亜リン酸及びそのナトリウム塩やカリウム塩等のリン原子含有化合物の使用量が単量体成分に含まれる全単量体に対して0.5g/mol以下であることが好ましい。リン原子含有化合物の使用量が0.5g/mol以下であることで、得られる硫黄含有重合体組成物に含まれるリン成分の含有量が充分に低くなり、環境への負荷が低く、洗剤用途により好適な組成物となる。リン原子含有化合物の使用量はより好ましくは、0〜0.3g/molである。最も好ましくは、0g/mol、すなわち、リン原子含有化合物を使用しないことである。
【0021】
上記重合工程は、重合開始剤を用いて行ってもよい。重合開始剤としては、通常用いられるものを使用することができ、具体的には、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノパレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物等の1種又は2種以上を用いることができる。
重合開始剤の使用量は、単量体成分に含まれる全単量体に対して1〜12g/molであることが好ましい。より好ましくは、2〜8g/molである。
【0022】
上記製造方法においては、重合開始剤等の使用量を低減する等の目的で反応促進剤(重合促進剤)を加えてもよい。反応促進剤としては、例えば、鉄、コバルト、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、金、鉛、白金、イリジウム、オスミウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の重金属イオンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。反応促進剤を用いる場合、溶液中で溶解してこれらの重金属イオンを生成する金属化合物を用いることが取り扱い性の点から好ましく、上記重金属イオンとして鉄を用いる場合、モール塩(Fe(NH(SO・6HO)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の重金属化合物等を用いることができる。中でも、モール塩を用いることは、本発明の洗剤用重合体の製造方法の好適な形態の1つである。
また、重金属イオンとしてマンガンを用いる場合、塩化マンガン等を好適に用いることができる。これらはいずれも水溶性の化合物であるため、水溶液の形態として用いることができ、取り扱い性に優れたものとなる。
反応促進剤の使用量は、反応液全量に対して1〜100ppmとなる量であることが好ましく、より好ましくは10〜70ppmとなる量である。
【0023】
上記重合工程は、溶媒を用いて行ってもよい。その場合の溶媒としては、水、アルコール、グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール類等の水性の溶媒の1種又は2種以上を用いることができる。中でも、水が好ましい。
溶媒の使用量は、単量体成分に含まれる全単量体100質量%に対して、40〜300質量%であることが好ましい。より好ましくは、45〜250質量%である。溶媒の使用量が全単量体の総量100質量%に対して40質量%未満の場合には、得られる重合体の分子量が高くなりすぎるおそれがあり、300質量%を超える場合には、重合工程後に場合によっては溶媒除去が必要となるおそれがある。
【0024】
上記単量体成分、重合開始剤、連鎖移動剤、反応促進剤は、いずれも反応容器に一括添加してもよく、逐次添加してもよいが、得られる重合体の分子量分布を狭く(シャープに)することができることから、逐次添加することが好ましい。
【0025】
上記重合工程における重合反応の時間は、30〜420分であることが好ましい。より好ましくは、60〜360分である。
重合工程は、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれの条件で行ってもよく、反応系内の雰囲気は、空気雰囲気のままで行ってもよいし、不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0026】
本発明の洗剤用重合体の製造方法は、上記重合工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、熟成工程、中和工程等が挙げられる。
熟成工程を行う場合、熟成時間は、好ましくは1〜120分間、より好ましくは5〜90分間、更に好ましくは30〜60分間である。熟成時間が1分間未満の場合には、熟成が不十分なために単量体成分が残存することがあり、残存モノマーに起因する不純物によって性能低下等を招くおそれがある。熟成時間が120分間を超える場合には、重合体溶液の着色のおそれがある。
【0027】
中和工程を行う場合に用いられるアルカリ成分としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類;などが挙げられる。このようなアルカリ成分は、1種のみを用いても良いし、2種以上を用いても良い。また重合体の中和度は、好ましくは1モル%〜100モル%であり、より好ましくは30モル%〜99モル%であり、最も好ましくは50モル%〜95モル%である。
【0028】
本発明の洗剤用重合体の製造方法で製造される洗剤用重合体は、重量平均分子量が5000〜200000であることが好ましい。このような分子量であると、洗剤用途に好適なものとなる。洗剤用重合体の重量平均分子量は、より好ましくは、10000〜100000であり、更に好ましくは、20000〜80000であり、特に好ましくは、30000〜60000である。
洗剤用重合体の重量平均分子量は、GPCにより、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0029】
上述したとおり、本発明の洗剤用重合体の製造方法で重合体を製造した場合、得られる重合体は、亜硫酸水素ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムを含むものとなる。このため、本発明の洗剤用重合体の製造方法により、洗剤用重合体と硫黄含有化合物とを含む洗剤用重合体組成物が得られるということもできる。
この洗剤用重合体組成物中における硫黄含有化合物の含有割合は、硫酸ナトリウム換算で20000ppm以下であることが好ましい。このような割合であると、洗剤用重合体組成物が洗剤用途により好適なものとなる。硫黄含有化合物の含有割合は、より好ましくは、15000ppm以下であり、更に好ましくは、13000ppm以下であり、特に好ましくは、12000ppm以下である。
洗剤用重合体組成物中における硫黄含有化合物の含有割合は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
また本発明の洗剤用重合体の製造方法で製造される重合体は、構造中に含まれる硫黄原子の割合が400ppm以上であることが好ましい。
連鎖移動剤としてはたらく亜硫酸水素ナトリウムを用いて重合工程を行った場合、重合体の主鎖末端に硫黄原子を含む構造部位を有する重合体が得られる。このようにして得られた重合体の構造中に含まれる硫黄原子の割合が、400ppm以上であると、得られる重合体が色調に優れたものとなる。重合体の構造中に含まれる硫黄原子の割合は、より好ましくは、600ppm以上であり、更に好ましくは、800ppm以上である。
重合体の構造中に含まれる硫黄原子の割合は、4000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは、3000ppm以下であり、更に好ましくは、2000ppm以下である。
重合体の構造中に含まれる硫黄原子の割合は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0031】
本発明の洗剤用重合体の製造方法で製造される重合体は、洗剤用途に好適に用いることができるものであることから、この重合体と界面活性剤等の洗剤に含まれる他の成分とを混合することで、洗剤組成物を製造することができる。このような洗剤組成物の製造方法、すなわち、洗剤組成物を製造する方法であって、該製造方法は、亜硫酸水素ナトリウムの存在下で(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体成分を原料として95℃以下の温度で重合反応を行う工程と、該重合反応工程で得られた重合体と界面活性剤とを混合する工程とを含むことを特徴とする洗剤組成物の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0032】
上記洗剤組成物の製造方法は、本発明の洗剤用重合体の製造方法の重合工程と同様の重合工程で得られた重合体と界面活性剤とを混合する工程以外の他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、上述した本発明の洗剤用重合体の製造方法が含んでもよい他の工程の他、本発明の洗剤用重合体以外の洗剤ビルダー、酵素、pH調整剤、キレート剤等の洗剤組成物に含まれ得る界面活性剤以外の成分を混合する工程が挙げられる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の洗剤用重合体の製造方法は、上述の構成よりなり、色調に優れ、洗剤ビルダーとして好適に用いることができる(メタ)アクリル酸系重合体を製造することができる製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0035】
<重量平均分子量の測定条件>
下記条件にてGPC分析を行うことで測定した。
装置:東ソー社製HLC−8320GPC
検出器:RI
カラム:東ソー社製α−2500、α−m
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min.
検量線:ジーエルサイエンス(クラボウ社製) POLYACRYLIC ACID STANDARD
溶離液:0.1N酢酸ナトリウム/アセトニトリル=3/1(質量比)
【0036】
<重合体組成物の固形分測定方法>
130℃に加熱したオーブンで重合体組成物(重合体組成物1.0g+水1.0g)を1時間放置して乾燥処理した。乾燥前後の重量変化から、固形分(%)を算出した。
【0037】
<SO2−イオン濃度およびSO2−イオン濃度測定条件>
下記条件にてイオンクロマト分析を行うことで測定した。
装置:東ソー社製 IONCHROMATOGRAPH IC−2010
検出器:CM検出器
検出方法:電気伝導度検出器、4極電極法
イオン分析方式:サプレッサー法
カラム:Shodex IC SI−90 4E
ガードカラム:Shodex SI−90 G
カラム温度:25℃
溶離液:1mM NaCO+4mM NaHCO+5%アセトン
流速:1.2mL/min.
【0038】
<硫黄含有化合物の含有割合の算出方法>
硫黄含有化合物の含有割合は以下の計算より算出される。
【数1】
【0039】
<ICPによる重合体組成物中の硫黄量分析>
重合体組成物中の硫黄量を誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma,ICP)発光分光分析法によって定量した。
装置:SHIMADZU ICPE−9000
測定波長:182.625nm
【0040】
<重合体の構造中に含まれる硫黄原子の割合算出方法>
重合体の構造中に含まれる硫黄原子の割合は以下の計算より算出される。
【数2】
【0041】
<Lab表色系におけるL値、a値、b値の測定>
実施例・比較例で得られたサンプルについて、下記の条件にて色差測定を行い、Lab表色系におけるL値、a値、b値を求めた。
装置:日本電色工業株式会社製分光色差計「SE6000」
測定モード:透過率
測定波長:380nm−780nm(10nm間隔出力)
光源:ハロゲンランプ(12V、50W)
測定セルサイズ:55mm×40mm×25mm
【0042】
<実施例1>
還流冷却管、攪拌機を備えた容量500mLのガラス製セパラブルフラスコに純水80.0g、モール塩0.008gを仕込み、攪拌下85℃に昇温した後、80%アクリル酸(以下、80%AAと略す。)108.0g、100%メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(EO鎖の平均付加モル数9モル、以下100%PGM−9EOと略す)86.4g、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下、15%NaPSと略す。)21.1g、35%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと略す。)13.3g、純水10.0gをそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAが180分間、100%PGM−9EOが180分間、15%NaPSが210分間、35%SBSが180分間、そして純水が180分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。80%AA滴下終了までの間、温度は85℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、純水28.3g、ついで48%NaOH30.0gを加えて中和した。このようにして、共重合体水溶液(1)を得た。
【0043】
<実施例2>
還流冷却管、攪拌機を備えた容量500mLのガラス製セパラブルフラスコに純水80.0g、モール塩0.008gを仕込み、攪拌下85℃に昇温した後、80%AA108.0g、70%メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(EO鎖の平均付加モル数23モル、以下70%PGM−23EOと略す)123.4g、15%NaPS20.5g、35%SBS12.4g、純水10.0gをそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAが180分間、100%PGM−23EOが180分間、15%NaPSが210分間、35%SBSが180分間、そして純水が180分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。80%AA滴下終了までの間、温度は85℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH30.0gを加えて中和した。このようにして、共重合体水溶液(2)を得た。
【0044】
<実施例3>
還流冷却管、攪拌機を備えた容量500mLのガラス製セパラブルフラスコに純水90.0g、モール塩0.007gを仕込み、攪拌下85℃に昇温した後、80%AA63.0g、80%PGM−23EO147.0g、10%NaPS20.3g、35%SBS8.1g、純水10.0gをそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAが180分間、100%PGM−23EOが180分間、15%NaPSが210分間、35%SBSが180分間、そして純水が180分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。80%AA滴下終了までの間、温度は85℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、48%NaOH17.5gを加えて中和した。このようにして、共重合体水溶液(3)を得た。
【0045】
<実施例4>
還流冷却管、攪拌機を備えた容量500mLのガラス製セパラブルフラスコに純水72.0g、モール塩0.008gを仕込み、攪拌下80℃に昇温した後、50%AA72.0g、80%PGM−23EO105.0g、15%NaPS27.0g、35%SBS16.5g、純水10.0gをそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAが180分間、100%PGM−23EOが180分間、15%NaPSが210分間、35%SBSが180分間、そして純水が180分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。80%AA滴下終了までの間、温度は80℃を維持した。さらに同温度を80%AA滴下終了後30分間にわたって維持して熟成を行い、重合を完結し、共重合体水溶液(4)を得た。
【0046】
<比較例1>
特許5595263号実施例4に準じて、重合体を得た。
還流冷却管、攪拌機を備えた容量500mLのガラス製セパラブルフラスコに純水135.2g、亜リン酸2.2gを仕込み、攪拌下100℃に昇温した後、100%メタクリル酸(以下、100%MAAと略す。)10.8g、100%AA27.2g、100%PGM−23EO36.9g、10%NaPS40.4g、40%SBS10.2g、純水97.3gをそれぞれ別の滴下口より滴下した。それぞれの滴下時間は、100%MAAが180分間、100%AAが180分間、100%PGM−23EOが180分間、10%NaPSが210分間、40%SBSが180分間、そして純水が180分間とした。なお、滴下開始はすべて同時とした。100%MAA滴下終了までの間、温度は100℃を維持した。さらに同温度を100%MAA滴下終了後100分間にわたって維持して熟成を行い、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を放冷してから、50%NaOH42.0gを加えて中和した。このようにして、比較共重合体水溶液(1)を得た。
【0047】
<比較例2>
実施例2において、重合中の温度である85℃を100℃に変更した以外は、実施例2と同様の反応・操作を行い、比較共重合体水溶液(2)を得た。
【0048】
<比較例3>
実施例2において、重合中および熟成中の温度である85℃を100℃に変更し、15%NaPS20.5gを106.7g、35%SBS12.4gを45.7gに変更した以外は、実施例2と同様の反応・操作を行い、比較共重合体水溶液(3)を得た。
【0049】
実施例1〜4で得られた共重合体水溶液(1)〜(4)及び比較例1〜3で得られた比較共重合体水溶液(1)〜(3)について、上述した各種測定を行った結果を、共重合体の製造条件等とともに表1に示す。
表1の結果から、本発明の洗剤用重合体の製造方法で製造した共重合体水溶液(1)〜(4)は色調に優れる結果となった。一方、本発明の洗剤用重合体の製造方法に該当しない製造方法で製造された比較共重合体水溶液(1)、(3)は、色調に劣るものであり、比較共重合体水溶液(3)は白濁していた。比較例2の比較共重合体水溶液(2)は超高粘度化しており、色調の測定ができなかった。
【0050】
【表1】