(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
[蓄電デバイス用セパレータ捲回体]
本実施の形態では、巻き芯に蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)が捲回される。セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」ともいう)、及び微多孔膜の少なくとも一方の表面の少なくとも一部を被覆している熱可塑性ポリマー被膜層を有する。本実施の形態では、熱可塑性ポリマー被膜層は、無機フィラー又は有機フィラー(以下、単に「フィラー」ともいう)を含まない。
【0014】
熱可塑性ポリマー被膜層に含まれない無機フィラーの具体例は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等である。
【0015】
熱可塑性ポリマー被膜層に含まれない有機フィラーの具体例は、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール等の耐熱性高分子微粒子等である。
【0016】
本実施の形態では、巻き芯に蓄電デバイス用セパレータが捲回された捲回体からセパレータを5mm/秒の速度で巻き戻した際の巻き戻し力が、10mN/10mm以上かつ750mN/10mm以下である。このような構成を採用することで、初期不良率が良好な蓄電デバイス、及び曲げ耐性に優れるラミネート型蓄電デバイスを提供し得る。
【0017】
ここで、「捲回体」とは、巻き芯上に、一様の幅の微多孔膜が所定の長さ分だけ捲回されたものを言う。巻長及び幅は特に制限されるものではないが、通常、巻長は50m〜10000m、幅は数mm〜1000mm程度である。微多孔膜がリチウムイオン二次電池用セパレータとして用いられる場合には、通常、巻長は500m〜5000m、幅は20mm〜500mm程度である。
【0018】
ここで、「巻き芯」(以下「コア」ともいう)とは、微多孔膜の巻き取りに用いられる紙管、ABS樹脂又はフェノール樹脂製の円筒状の巻き芯等のように、外形が円柱形状である芯を言う。このような巻き芯の外径は、微多孔膜の捲回後の巻き締まりを緩和する観点から、好ましくは5インチ以上(すなわち、127mm以上)であり、より好ましくは6インチ以上、さらに好ましくは8インチ以上、特に好ましくは9インチ以上である。巻き芯の外径の上限値については、制限はないが、ハンドリングの観点からは、巻き芯の外径は、20インチ以下が好ましく、より好ましくは15インチ以下(すなわち、381mm以下)である。なお、本実施の形態では、1インチは、25.4mmに換算可能である。
【0019】
巻き芯の幅(長さ)は、通常数mm〜1000mm程度であるが、本発明は幅が広いほど効果を奏するため、好ましくは10mm以上1000mm以下、更に好ましくは50mm以上1000mm以下、特に好ましくは100mm以上1000mm以下である。これは、幅の広いものほど、巻き芯の品質による影響を受け易いからである。
【0020】
ここで、「巻き戻し力」は、ある一定の速度で、上記で説明された捲回体からセパレータを巻き戻すのに必要な力であり、数値が小さいほど巻き戻しが軽い、つまりテープを繰り出し易いことを示す。巻き戻し力の単位は、mN/10mmであり、10mm幅に換算して用いる。本実施の形態において、巻き戻し力は、好ましくは750mN/10mm以下、より好ましくは500mN/10mm以下である。
【0021】
巻き戻し力が、750mN/10mm以下であると、セパレータ捲回体から巻き戻されたセパレータを用いて形成された蓄電デバイスは、初期不良率に優れる。ここで、初期不良率とは、本実施の形態に係るセパレータを用いて作製した蓄電デバイスの初期充放電効率を評価し、その初期充放電効率が85%以下である場合を不良とし、作製した蓄電デバイスの総数の内、不良である電池の割合を指す。この不良率は、40%未満が好ましく、20%未満がさらに好ましい。
【0022】
ここで、セパレータ捲回体の巻き戻し力が小さいほど、それから作製される蓄電デバイスの初期不良率が良好であるメカニズムについては明らかではないが、巻き戻し力が大きいと、蓄電デバイスの捲回時にセパレータが引っ張られるため、延伸し、幅方向長さが短くなった状態で捲回されることが影響していると考えられる。上述の通り、近年は、セパレータが薄膜化しているため、この傾向がより顕著になってきていると考えられる。
【0023】
なお、巻き戻し力を、上記で説明した範囲に調整するための方法は、セパレータ接着層である熱可塑性ポリマー被膜層と相関していると考えられる。特に熱可塑性ポリマー被膜層の、材料、形状等が、この方法と相関していると考えられる。
熱可塑性ポリマー被膜層の材料としては、ジエン系ポリマー、アクリル系ポリマー又はフッ素系ポリマーが好ましいと考えられる。
また、微多孔膜上に、熱可塑性ポリマーを塗工した後、後述する走査型電子顕微鏡(SEMとも言う)を用いた観察法にて観察した際、熱可塑性ポリマーの形状が粒状であり、粒状熱可塑性ポリマーの平均粒子径が、500nm以上3000nm未満であることが好ましく、1000nm以上2000nm未満であることがより好ましいと考えられる。ここで、「粒状」とは、SEMの測定にて、個々の熱可塑性ポリマーが輪郭を持った状態のことを指し、細長形状であっても、球状であっても、多角形状等であってもよい。
【0024】
本実施の形態に係るセパレータは、微多孔膜と、微多孔膜の少なくとも一方の表面の少なくとも一部を被覆する熱可塑性ポリマー被覆層と、を有する。
【0025】
ポリオレフィン微多孔膜の平均厚み(以下「膜厚」ともいう)は、好ましくは11μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは6μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の平均厚みが11μm以下であると、そのセパレータを用いて一定厚さのラミネート型蓄電デバイスを作製した場合、ラミネート型蓄電デバイスの折り曲げ耐性が、平均厚み11μm超のポリオレフィン微多孔膜を用いた場合に比較して優れる。折り曲げ耐性が優れるメカニズムについては明らかではないが、ポリオレフィン微多孔膜が補強材としての役割をしているためと推定される。
ポリオレフィン微多孔膜の平均厚みの下限値は、ラミネート型蓄電デバイスの曲げ耐性の観点から、1μm以上、1.5μm以上、又は2μm以上であることが好ましい。
【0026】
[熱可塑性ポリマー被覆層]
本実施の形態では、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の表面の少なくとも一部を被覆する熱可塑性ポリマー被覆層は、フィラーを含まないが、熱可塑性ポリマーを含む。
【0027】
本実施の形態で使用される熱可塑性ポリマーは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、α−ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーとこれらを含むコポリマー;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンをモノマー単位として含むジエン系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。また、熱可塑性ポリマーを合成する際に使用するモノマーとして、ヒドロキシル基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミド基又はシアノ基を有するモノマーを用いることもできる。
【0028】
これらの熱可塑性ポリマーのうち、電極活物質との結着性及び強度又は柔軟性に優れることから、ジエン系ポリマー、アクリル系ポリマー又はフッ素系ポリマーが好ましい。
これらの中でも、セパレータと電極の密着性及び、ラミネート型電池曲げ応力両立の観点から、アクリル系ポリマーが好ましい。
【0029】
(ジエン系ポリマー)
ジエン系ポリマーは、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役の二重結合を2つ有する共役ジエンを重合して成るモノマー単位を含むポリマーである。共役ジエンモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。これらは単独で重合しても共重合してもよい。
【0030】
ジエン系ポリマー中の共役ジエンを重合して成るモノマー単位の割合は、特に限定されないが、例えば、全ジエン系ポリマー中40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0031】
上記ジエン系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の共役ジエンのホモポリマー及び共役ジエンと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。共重合可能なモノマーは、特に限定されないが、例えば、後述の(メタ)アクリレートモノマー、又は下記のモノマー(以下、「その他のモノマー」ともいう。)を挙げることができる。
【0032】
「その他のモノマー」としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル化合物;β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基含有化合物;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアミド系モノマー等が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
(アクリル系ポリマー)
アクリル系ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは(メタ)アクリレートモノマーを重合して成るモノマー単位を含むポリマーである。
【0034】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸又はメタクリル酸」を示し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を示す。
【0035】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート;アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリレートモノマーを重合して成るモノマー単位の割合は、特に限定されないが、全アクリル系ポリマーの質量を基準として、例えば40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリレートモノマーのホモポリマー、これと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。
【0037】
共重合可能なモノマーとしては、上記ジエン系ポリマーの項目で列挙した「その他のモノマー」が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
(フッ素系ポリマー)
フッ素系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデンのホモポリマー、これと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。フッ素系ポリマーは、電気化学的安定性の観点から好ましい。
【0039】
フッ化ビニリデンを重合して成るモノマー単位の割合は、特に限定されないが、フッ素系ポリマーを形成する全モノマーの質量を基準として、例えば、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0040】
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアクリル酸、パーフルオロメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のフルオロアルキルエステル等のフッ素含有エチレン性不飽和化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル等のフッ素非含有エチレン性不飽和化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のフッ素非含有ジエン化合物等を挙げることができる。
【0041】
フッ素系ポリマーのうち、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー等が好ましい。特に好ましいフッ素系ポリマーは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーであり、そのモノマー組成は、通常、フッ化ビニリデン30〜90質量%、テトラフルオロエチレン9〜50質量%及びヘキサフルオロプロピレン1〜20質量%である。これらのフッ素樹脂粒子は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
また、上記熱可塑性ポリマーを合成する際に使用するモノマーとして、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、アミド基、又はシアノ基を有するモノマーを用いることもできる。
【0043】
ヒドロキシ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、ペンテンオール等のビニル系モノマーを挙げることができる。
【0044】
カルボキシル基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のエチレン性二重結合を有する不飽和カルボン酸、ペンテン酸等のビニル系モノマーを挙げることができる。
【0045】
アミノ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸2−アミノエチル等を挙げることができる。
【0046】
スルホン酸基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリススルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0047】
アミド基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
【0048】
シアノ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリレート等を挙げることができる。
【0049】
本実施の形態で用いる熱可塑性ポリマーは、ポリマーを単独で又は2種類以上混合して使用してもよいが、ポリマーを2種類以上含むことが好ましい。
【0050】
本実施の形態で用いる熱可塑性ポリマーは、100℃未満のガラス転移温度を有し、このガラス転移温度は、セパレータと電極の密着性の観点から、100℃未満がより好ましく、60℃未満がさらに好ましく、20℃未満が特に好ましい。ここで、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。なお、本明細書では、ガラス転移温度をTgと表現する場合もある。
具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点により決定される。より詳細には、実施例に記載の方法を参照することができる。
【0051】
ここで、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化形状又は階段状変化とピークとが組み合わさった形状として観測される。
【0052】
「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでのベースラインから離れ新たなベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、ピーク及び階段状変化の組み合わさった形状も含む。
【0053】
「変曲点」とは、階段状変化部分のDSC曲線のこう配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。
【0054】
「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線がベースラインから離れてから再度ベースラインに戻るまでの部分を示す。
【0055】
「ベースライン」とは、試験片に転移及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
【0056】
熱可塑性ポリマーが粒状であるとき、粒状熱可塑性ポリマーのガラス転移温度のうち少なくとも一つが、示差走査熱量測定法により測定されたときに、20℃未満の領域に存在することが好ましい。
【0057】
20℃未満の領域に存在するガラス転移温度は、熱可塑性ポリマーと微多孔膜との密着性を高めつつ、ハンドリング性を良好に保つ点から、−30℃以上15℃以下の領域にのみ存在することが好ましい。
【0058】
本実施の形態では、用いる熱可塑性ポリマーのガラス転移温度として、20℃未満の領域に存在していてもよく、20℃以上の領域に存在していてもよい。これにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性に優れるという効果を奏する。また、電池作製時の加圧により発現する電極とセパレータ間の密着性を高めることができる。
【0059】
本実施の形態では、熱可塑性ポリマ
ーが、20℃未満の領域と、20℃以上の領域に2つのガラス転移温度を有していてもよいが、これは、2種類以上の熱可塑性ポリマーをブレンドする方法、又はコアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーを使用する方法によって達成できる。コアシェル構造とは、中心部分に属するポリマーと、外殻部分に属するポリマーが異なる組成から成る、二重構造の形態をしたポリマーである。
【0060】
特に、ポリマーブレンド又はコアシェル構造は、ガラス転移温度の高いポリマーと低いポリマーを組み合せることにより、熱可塑性ポリマー全体のガラス転移温度を制御できる。また、熱可塑性ポリマー全体に複数の機能を付与できる。例えば、ブレンドの場合は、特にガラス転移温度を20℃以上の領域に持つポリマーと、ガラス転移温度を20℃未満の領域に持つポリマーを2種類以上ブレンドすることで、耐ベタツキ性とポリオレフィン微多孔膜への塗れ性を両立することができる。コアシェル構造の場合は、外殻ポリマーを変えることによりポリオレフィン微多孔膜等のような他の材料に対する接着性又は相溶性の調整ができ、中心部分に属するポリマーを調整することで、例えば熱プレス後の電極への接着性を高めたポリマーに調整することができる。また、粘性の高いポリマーと弾性の高いポリマーとを組み合わせて粘弾性の制御をすることもできる。
【0061】
本実施の形態において、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度、すなわちTgは、例えば、熱可塑性ポリマーを製造するのに用いるモノマー成分及び各モノマーの投入比を変更することにより適宜調整できる。すなわち、熱可塑性ポリマーの製造に用いられる各モノマーについて一般に示されているそのホモポリマーのTg(例えば、「ポリマーハンドブック」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION)に記載)とモノマーの配合割合から概略推定することができる。例えば約100℃のTgのポリマーを与えるスチレン、メチルメタクリレ−ト、及びアクリルニトリル等のモノマーを高比率で配合したコポリマーは高いTgのものが得られ、例えば約−80℃のTgのポリマーを与えるブタジエン、約−50℃のTgのポリマーを与えるn−ブチルアクリレ−ト及び2−エチルヘキシルアクリレ−ト等のモノマーを高い比率で配合したコポリマーは低いTgのものが得られる。
【0062】
また、ポリマーのTgはFOXの式(下記式(1))より概算することができる。なお、本願の熱可塑性ポリマーのガラス転移点としては、上記DSCを用いた方法により測定したものを採用する。
1/Tg=W
1/Tg
1+W
2/Tg
2+‥‥+W
i/Tg
i+‥‥W
n/Tg
n (1)
(式(1)中において、Tg(K)は、コポリマーのTg、Tg
i(K)は、各モノマーiのホモポリマーのTg、W
iは、各モノマーの質量分率を各々示す。)
【0063】
本実施の形態における熱可塑性ポリマーの構造は、少なくとも一部が粒状となっている粒状熱可塑性ポリマーであることが好ましい。
【0064】
粒状熱可塑性ポリマーの作製法としては、初めに熱可塑性ポリマーを合成し、それを種(シード)として、さらにモノマー、開始剤等を投入することにより、合成する。それにより、熱可塑性ポリマーの形状を粒状にすることができ、さらに熱可塑性ポリマーの粒径を大きくすることができる。
【0065】
このような粒状熱可塑性ポリマーを用いることにより、セパレータと電極との接着性及びセパレータのハンドリング性により優れる傾向にある。
ここで、粒状熱可塑性ポリマーの面積は、後記の実施例に記載の通り、セパレータの最表面のSEMによる観察(倍率30000倍)によって測定される。
【0066】
粒状熱可塑性ポリマーの平均粒子径は、500nm以上3000nm未満が好ましく、1000nm以上2000nm未満がより好ましい。500nm以上であることは、粒状熱可塑性ポリマーを接着層に有するセパレータを用いた電池の初期不良率の観点から好ましく、3000nm未満であることは、セパレータと電極の密着性の観点から好ましい。また、上記の範囲にすることで、溶液中での分散性が良好となり、塗工時における溶液の濃度・粘度等の調整が容易になり、均一な充填層の形成が容易となるため、好ましい。
【0067】
本実施の形態における熱可塑性ポリマーは、サイクル特性等の電池特性の点から、電解液に対する膨潤性を有することが好ましい。乾燥させた熱可塑性ポリマー(あるいは熱可塑性ポリマー分散液)に電解液を3時間浸透させ、洗浄した後の熱可塑性ポリマー(A)の重量をW
a、Aを150℃のオーブン中に1時間静置した後の重量をW
bとするとき、以下の式により電解液を算出することができる。膨潤度は、5倍以下が好ましく、4.5倍以下がより好ましく、4倍以下がさらに好ましい。また、膨潤度は、1倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。
熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度(倍)=(W
a−W
b)÷W
b
【0068】
本実施の形態における熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度は、例えば、重合するモノマー成分及び各モノマーの投入比を変更することにより調整することができる。
【0069】
本実施の形態において、熱可塑性ポリマーのゲル分率は、特に限定されないが、電解液中への溶解の抑制又は電池内部での熱可塑性ポリマーの強度維持の観点から、80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。ここで、ゲル分率は、後記の実施例に記載のとおり、トルエン不溶分の測定により求められる。
ゲル分率は、重合するモノマー成分及び各モノマーの投入比、重合条件を変更することにより調整することができる。
【0070】
本実施の形態における熱可塑性ポリマーの含有量は、特に限定されないが、ポリオレフィン微多孔膜での接着力を向上させる一方で、ポリオレフィン微多孔膜の孔を目詰まらせることによるサイクル特性(透過性)の低下を抑制する観点から0.05g/m
2以上1.0g/m
2以下が好ましい。より好ましくは0.07g/m
2以上0.8g/m
2以下、さらに好ましくは0.1g/m
2以上0.7g/m
2以下である。
熱可塑性ポリマーの含有量は、塗工する液のポリマー濃度又はポリマー溶液の塗布量を変更することにより調整することができる。
【0071】
本実施の形態における熱可塑性ポリマー被覆層の平均厚みは、片面で1.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.5μm以下である。熱可塑性ポリマーの平均厚みが1.5μm以下であることにより、熱可塑性ポリマーによる透過性低下及び熱可塑性ポリマー同士又は熱可塑性ポリマーとポリオレフィン微多孔膜の貼り付きを効果的に抑制する観点から好ましい。
【0072】
熱可塑性ポリマーの平均厚みは、塗工する液のポリマー濃度又はポリマー溶液の塗布量及び塗工方法、塗工条件を変更することにより調整することができる。
【0073】
熱可塑性ポリマー被覆層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、セパレータの断面を観察することにより測定することができる。
【0074】
本実施の形態のセパレータは、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面の少なくとも一部に、熱可塑性ポリマーを有する。熱可塑性ポリマー被覆層によって被覆されるポリオレフィン微多孔膜の面積割合(%)は、ポリオレフィン微多孔膜の全面積100%に対して、95%以下が好ましく、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは45%以下、よりさらに好ましくは40%以下である。また、面積割合(%)は、5%以上が好ましい。面積割合が95%以下であることにより、熱可塑性ポリマーによるポリオレフィン微多孔膜の孔の閉塞をより抑制し、透過性を一層向上できる傾向にある。また、面積割合が5%以上であることにより、接着性がより向上する傾向にある。ここで、面積割合は、後記の実施例記載の方法により算出される。
【0075】
面積割合は、塗工する液のポリマー濃度又はポリマー溶液の塗布量及び塗工方法、塗工条件を変更することにより調整することができる。
【0076】
[ポリオレフィン微多孔膜]
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンを含有するポリオレフィン樹脂組成物から構成される多孔膜が挙げられ、ポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜であることが好ましい。本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されないが、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能等の点から、多孔膜を構成する全成分の質量分率の50%以上100%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物から成る多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂が占める割合は60%以上100%以下がより好ましく、70%以上100%以下であることが更に好ましい。
【0077】
ポリオレフィン樹脂は、特に限定されないが、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモポリマー及びコポリマー、多段ポリマー等を使用することができる。また、これらのホモポリマー及びコポリマー、多段ポリマーから成る群から選ばれるポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。
【0078】
ポリオレフィン樹脂の代表例としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
【0079】
本実施の形態では、蓄電デバイス用セパレータを形成するための材料として、低融点であり、かつ高強度であることから、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。
【0080】
また、多孔膜の耐熱性向上、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物から成る多孔膜を用いることがより好ましい。
【0081】
ここで、ポリプロピレンの立体構造に限定はなく、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン及びアタクティックポリプロピレンのいずれでもよい。
【0082】
ポリオレフィン樹脂組成物中の総ポリオレフィンに対するポリプロピレンの割合は、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは4〜10質量%である。
【0083】
この場合、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂に限定はなく、例えば、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のオレフィン炭化水素のホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレンランダムコポリマー等が挙げられる。
【0084】
孔が熱溶融により閉塞するシャットダウン特性の点から、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレンを用いることが好ましい。これらの中でも、強度の観点から、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm
3以上であるポリエチレンを使用することがより好ましい。
【0085】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、特に限定されないが、3万以上1200万以下であることが好ましく、より好ましくは5万以上200万未満、さらに好ましくは10万以上100万未満である。粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、ポリマー同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。さらに、粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。なお、例えば、粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で使用する代わりに、粘度平均分子量200万のポリオレフィンと粘度平均分子量27万のポリオレフィンの混合物であって、その粘度平均分子量が100万未満の混合物を用いてもよい。
【0086】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、任意の添加剤を含有することができる。このような添加剤は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン以外のポリマー;無機粒子;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。
【0087】
これらの添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0088】
(ポリオレフィン微多孔膜の物性)
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は、特に限定されないが、好ましくは200g/20μm以上、より好ましくは300g/20μm以上であり、好ましくは2000g/20μm以下、より好ましくは1000g/20μm以下である。突刺強度が200g/20μm以上であることは、電池捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制する観点から好ましい。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制する観点からも好ましい。一方、2000g/20μm以下とすることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減できる観点から好ましい。ここで、突刺強度は、後記の実施例の記載の方法により測定される。
なお、上記突刺強度は、延伸倍率、延伸温度を調整する等により調節可能である。
【0089】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上であり、好ましくは90%以下、好ましくは80%以下である。気孔率を20%以上とすることは、セパレータの透過性を確保する観点から好ましい。一方、90%以下とすることは、突刺強さを確保する観点から好ましい。ここで、気孔率は後記の実施例の記載の方法により測定される。
なお、気孔率は、延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0090】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10sec/100cc以上、より好ましくは50sec/100cc以上であり、好ましくは1000sec/100cc以下、より好ましくは500sec/100cc以下である。透気度を10sec/100cc以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、1000sec/100cc以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。ここで、透気度は後記の実施例の記載の方法により測定される。
なお、上記透気度は、延伸温度、延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0091】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、好ましくは0.15μm以下、より好ましくは0.1μm以下であり、下限として好ましくは0.01μm以上である。平均孔径を0.15μm以下とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。平均孔径は、ポリオレフィン微多孔膜を製造する際の延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0092】
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜の耐熱性の指標であるショート温度は、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。ショート温度を140℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
【0093】
(ポリオレフィン微多孔膜の製造方法)
本実施の形態におけるポリオレフィン微多孔膜を製造する方法は、特に限定されず、公知の製造方法を採用することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法等が挙げられる。
【0094】
以下、多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。
【0095】
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練することである。このようにすることにより、可塑剤の分散性を高め、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練合物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる。
【0096】
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。これらの中で、流動パラフィンは、ポリエチレン又はポリプロピレンとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難いので、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0097】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが不足し難く、成形性が向上する傾向にある。一方、質量分率が30質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合物を高倍率で延伸してもポリオレフィン鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し強度も増加しやすい。
【0098】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この際、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むと、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するためより好ましい。Tダイよりシート状に押出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることがさらに好ましい。ダイリップ間隔が400μm以上であると、メヤニ等が低減され、膜品位へ影響する欠点(例えば、スジ等)が少なく、その後の延伸工程において膜破断等を防ぐことができる傾向にある。一方、ダイリップ間隔が3000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる傾向にある。
【0099】
このようにして得たシート状成形体を延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができ、突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
【0100】
なお、ここで、同時二軸延伸とは、MD方向(微多孔膜の機械方向)の延伸とTD方向(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD方向又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0101】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることがさらに好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることがさらに好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔膜に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が100倍以下であると延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0102】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延は特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍より大きいと、面配向が増加し最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にあるため好ましい。
【0103】
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して多孔膜とする。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔膜中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0104】
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0105】
多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、多孔膜形成後に熱固定又は熱緩和等の熱処理を行うこともできる。また、多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0106】
〔多孔層〕
本実施の形態では、蓄電デバイス用セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー被覆層に加えて、無機フィラー又は有機フィラーと樹脂製バインダを含む多孔層を備えていてもよい。多孔層の位置は、ポリオレフィン微多孔膜表面の少なくとも一部、熱可塑性ポリマー被覆層表面の少なくとも一部、及び/又はポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー被覆層との間が挙げられる。前記多孔層はポリオレフィン微多孔膜の片面であっても両面に備えていてもよい。
(無機フィラー)
多孔層に使用する無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
【0107】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0108】
上記の中でも、電気化学的安定性及び多層多孔膜の耐熱特性を向上させる観点から、アルミナ、水酸化酸化アルミニウム等の酸化アルミニウム化合物;又はカオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト等のイオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物が好ましい。前記酸化アルミニウム化合物としては、水酸化酸化アルミニウムが特に好ましい。イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物としては、安価で入手も容易なため、カオリン鉱物で主に構成されているカオリンがより好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。
【0109】
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の各種架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性高分子微粒子等が例示できる。また、これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
中でも、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、および架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミドから成る群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
【0110】
フィラーの平均粒径は、0.1μmを超えて4.0μm以下であることが好ましく、0.2μmを超えて3.5μm以下であることがより好ましく、0.4μmを超えて3.0μm以下であることが更に好ましい。フィラーの平均粒径を上記範囲に調整することは、多孔層の厚さが薄い場合(例えば、7μm以下)であっても、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。
【0111】
フィラーにおいて、0.2μmを超えて1.4μm以下の粒径を有する粒子がフィラー全体に占める割合としては、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、更に好ましくは5体積%以上であり、上限としては、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。
【0112】
フィラーにおいて、0.2μmを超えて1.0μm以下の粒径を有する粒子が無機フィラー全体に占める割合としては、好ましくは1体積%以上、より好ましくは2体積%以上であり、上限としては、好ましくは80体積%以下、より好ましくは70体積%以下である。
【0113】
また、フィラーにおいて、0.5μmを超えて2.0μm以下の粒径を有する粒子がフィラー全体に占める割合としては、好ましくは8体積%以上、より好ましくは10体積以上であり、上限としては、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。
【0114】
更に、フィラーにおいて、0.6μmを超えて1.4μm以下の粒径を有する粒子がフィラー全体に占める割合としては、好ましくは1体積%以上、より好ましくは3体積%以上であり、上限としては、好ましくは40体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。
【0115】
フィラーの粒度分布を上記範囲に調整することは、多孔層の厚さが薄い場合(例えば、7μm以下)であっても、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。なお、フィラーの粒径の割合を調整する方法としては、例えば、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、粒径を小さくする方法等を挙げることができる。
【0116】
フィラーの形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状等が挙げられ、上記形状を有するフィラーを複数種組み合わせて用いてもよい。多層多孔膜とした際に、後述の150℃熱収縮を10%以下に抑制することが可能であれば、フィラーの形状は、特に限定されないが、透過性向上の観点からは複数の面から成る多面体状、柱状、紡錘状が好ましい。
【0117】
フィラーが多孔層中に占める割合としては、フィラーの結着性、多層多孔膜の透過性及び耐熱性等の観点から適宜決定することができるが、50質量%以上100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
【0118】
(樹脂製バインダ)
樹脂製バインダの種類としては、特に限定されないが、本実施の形態において蓄電デバイス用セパレータをリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合には、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
【0119】
樹脂製バインダの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
【0120】
樹脂製バインダとしてポリビニルアルコールを使用する場合、そのケン化度は85%以上100%以下であることが好ましい。ケン化度が85%以上であると、多層多孔膜を電池用セパレータとして使用した際に、短絡する温度(ショート温度)が向上し、より良好な安全性能が得られる傾向にあるため好ましい。ケン化度は、より好ましくは90%以上100%以下、さらに好ましくは95%以上100%以下、特に好ましくは99%以上100%以下である。また、ポリビニルアルコールの重合度は、200以上5000以下であることが好ましく、より好ましくは300以上4000以下、さらに好ましくは500以上3500以下である。重合度が200以上であると、少量のポリビニルアルコールで焼成カオリン等の無機フィラーを多孔膜に強固に結着でき、多孔層の力学的強度を維持しながら多孔層形成による多層多孔膜の透気度増加を抑えることができる傾向にあるため好ましい。また、重合度が5000以下であると、塗布液を調製する際のゲル化等を防止できる傾向にあるため好ましい。
【0121】
樹脂製バインダとしては、樹脂製ラテックスバインダが好ましい。樹脂製ラテックスバインダを用いた場合、フィラーとバインダとを含む多孔層をポリオレフィン多孔膜の少なくとも片面に積層した場合は、樹脂製バインダの一部又は全てを溶媒に溶解させた後に、得られた溶液をポリオレフィン多孔膜の少なくとも片面に積層し、貧溶媒への浸漬又は乾燥による溶媒除去等により樹脂製バインダを多孔膜に結着させた場合と比較して、イオン透過性が低下し難く、高出力特性が得られ易い傾向にある。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い傾向にある。
【0122】
樹脂製ラテックスバインダとしては、電気化学的安定性と結着性を向上させる観点から、脂肪族共役ジエン系単量体及び不飽和カルボン酸単量体、並びにこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られるものが好ましい。乳化重合の方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。単量体及びその他の成分の添加方法については特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れも採用することができ、また、一段重合、二段重合又は多段階重合等の何れも採用することができる。
【0123】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0124】
不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のモノ又はジカルボン酸(無水物)等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0125】
これらと共重合可能な他の単量体としては、特に限定されず、例えば、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特にメチルメタクリレートが好ましい。
【0126】
なお、これらの単量体に加えて様々な品質及び物性を改良するために、上記以外の単量体成分をさらに使用することもできる。
【0127】
樹脂製バインダの平均粒径は、50〜500nmであることが好ましく、より好ましくは60〜460nm、更に好ましくは80〜250nmである。樹脂製バインダの平均粒径が50nm以上である場合、無機フィラーとバインダとを含む多孔層をポリオレフィン多孔膜の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下し難く高出力特性が得られ易い。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い。樹脂製バインダの平均粒径が500nm以下である場合、良好な結着性を発現し、多層多孔膜とした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。
【0128】
樹脂製バインダの平均粒径は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pH等を調整することで制御することが可能である。
【0129】
多孔層の層厚は、耐熱性、絶縁性を向上させる観点から1μm以上であることが好ましく、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から50μm以下であることが好ましい。多孔層の層厚は、より好ましくは1.5μm以上20μm以下、さらに好ましくは2μm以上10μm以下、さらにより好ましくは3μm以上10μm以下、特に好ましくは3μm以上7μm以下である。
【0130】
多孔層の層密度は、0.5〜2.0g/cm
3であることが好ましく、0.7〜1.5cm
3であることがより好ましい。多孔層の層密度が0.5g/cm
3以上であると、高温での熱収縮率が良好となる傾向にあり、2.0g/cm
3以下であると、透気度が低下する傾向にある。
【0131】
多孔層の形成方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂製バインダとを含む塗布液を塗布して多孔層を形成する方法を挙げることができる。
【0132】
塗布液の溶媒としては、無機フィラー及び樹脂製バインダを均一かつ安定に分散できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0133】
塗布液には、分散安定化又は塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば多孔層内に残存してもよい。
【0134】
フィラーと樹脂製バインダとを塗布液の溶媒に分散させる方法については、塗布工程に必要な塗布液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
【0135】
塗布液を多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚又は塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
【0136】
さらに、塗布液の塗布に先立ち、多孔膜表面に表面処理を施すと、塗布液を塗布し易くなると共に、塗布後の無機フィラー含有多孔層と多孔膜表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0137】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。多孔膜及び多層多孔膜のMD方向の収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、巻取り張力等は適宜調整することが好ましい。
【0138】
[セパレータ]
本実施の形態では、セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面の少なくとも一部に熱可塑性ポリマーを有する。
【0139】
本実施の形態では、蓄電デバイス用セパレータの膜厚さは、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限として好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。膜厚さを2μm以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータの強度確保の観点から好適である。一方、100μm以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。
【0140】
本実施の形態における蓄電デバイス用セパレータの透気度は、好ましくは10sec/100cc以上、より好ましくは50sec/100cc以上であり、上限として好ましくは10000sec/100cc以下、さらに好ましくは1000sec/100cc以下である。透気度を10sec/100cc以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの自己放電を一層抑制する観点から好適である。一方、10000sec/100cc以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。蓄電デバイス用セパレータの透気度は、ポリオレフィン微多孔膜を製造する際の延伸温度、延伸倍率の変更、熱可塑性ポリマーの面積割合、存在形態等により調節可能である。
【0141】
蓄電デバイス用セパレータは、耐熱性の指標であるショート温度が、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。ショート温度を160℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
【0142】
(セパレータ及びその捲回体の製造方法)
ポリオレフィン微多孔膜上に熱可塑性ポリマーを形成する方法は、特に限定されず、例えば熱可塑性ポリマーを含有する塗布液をポリオレフィン微多孔膜に塗布する方法が挙げられる。
【0143】
熱可塑性ポリマーを含有する塗布液を多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚又は塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、スプレーコーター塗布法、インクジェット塗布等が挙げられる。これらのうち、熱可塑性ポリマーの塗工形状の自由度が高く、好ましい面積割合を容易に得られる点でグラビアコーター法又はスプレー塗布法が好ましい。
【0144】
ポリオレフィン微多孔膜に熱可塑性ポリマーを塗工する場合、塗布液が微多孔膜の内部にまで入り込んでしまうと、接着性樹脂が孔の表面及び内部を埋めてしまい透過性が低下してしまう。そのため、塗布液の媒体としては、熱可塑性ポリマーの貧溶媒が好ましい。塗布液の媒体として熱可塑性ポリマーの貧溶媒を用いた場合には、微多孔膜の内部に塗工液は入り込まず、接着性ポリマーは主に微多孔膜の表面上に存在するため、透過性の低下を抑制する観点から好ましい。このような媒体としては水が好ましい。また、水と併用可能な媒体は、特に限定されないが、エタノール、メタノール等を挙げることができる。
【0145】
さらに、塗布に先立ち、多孔膜表面に表面処理をすると、塗布液を塗布し易くなると共に、多孔層と接着性ポリマーとの接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0146】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、接着性ポリマーに対する貧溶媒に浸漬して接着性ポリマーを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0147】
蓄電デバイス用セパレータは、捲回時のハンドリング性及び蓄電デバイスのレート特性が優れ、さらには、熱可塑性ポリマーとポリオレフィン微多孔膜との接着性及び透過性にも優れる。そのため、蓄電デバイス用セパレータの用途としては、特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池等の電池又はコンデンサー、キャパシタ等の蓄電デバイス用セパレータ、物質の分離等に好適に使用できる。
【0148】
本実施の形態に係るセパレータ捲回体は、上記の方法で得られたセパレータを、必要に応じてスリットした後、所定の巻き芯へ巻き取ることにより、製造される。セパレータ捲回体から巻き戻されたセパレータを、後述される積層体又は電池の製造に使用することもできる。
【0149】
[積層体]
本実施の形態に係る積層体は、上記セパレータと電極とが積層したものである。本実施の形態のセパレータは、電極と接着することにより積層体として用いることができる。ここで、「接着」とは、セパレータと電極との上記加熱剥離強度が、好ましくは10gf/cm以上、より好ましくは15gf/cm以上、さらに好ましくは20gf/cm以上であることをいう。
【0150】
積層体は、捲回時のハンドリング性及び蓄電デバイスのレート特性が優れ、さらには、熱可塑性ポリマーとポリオレフィン微多孔膜との接着性及び透過性にも優れる。そのため、積層体の用途としては、特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池等の電池又はコンデンサー、キャパシタ等の蓄電デバイス等に好適に使用できる。
【0151】
本実施の形態の積層体に用いられる電極としては、後述の蓄電デバイスの項目に記載のものを用いることができる。
【0152】
本実施の形態のセパレータを用いて積層体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、本実施の形態のセパレータと電極とを重ね、必要に応じて加熱および/またはプレスして製造することができる。上記加熱および/またはプレスは電極とセパレータとを重ねる際に行うことができる。また、電極とセパレータとを重ねた後に円または扁平な渦巻き状に捲回して得られる捲回体に対して加熱および/またはプレスを行うことで製造することもできる。
【0153】
また、積層体は、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順に平板状に積層し、必要に応じて加熱および/またはプレスして製造することもできる。
【0154】
より具体的には、本実施の形態のセパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ね、必要に応じて加熱および/またはプレスして製造することができる。
【0155】
上記加熱温度としては、40〜120℃が好ましい。加熱時間は5秒〜30分が好ましい。上記プレス時の圧力としては、1〜30MPaが好ましい。プレス時間は5秒〜30分が好ましい。また、加熱とプレスの順序は、加熱をしてからプレスをしても、プレスをしてから加熱をしても、プレスと加熱を同時に行ってもよい。このなかでも、プレスと加熱を同時に行うことが好ましい。
【0156】
[電池]
本実施の形態のセパレータは、電池、コンデンサー、キャパシタ等におけるセパレータ、又は物質の分離に用いることができる。特に、非水電解液電池用セパレータとして用いた場合に、電極への密着性と優れた電池性能を付与することが可能である。
【0157】
以下、電池が非水電解液二次電池である場合についての好適な態様について説明する。
本実施の形態のセパレータを用いて非水電解液二次電池を製造する場合、正極、負極、非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。
正極材料は、特に限定されないが、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、スピネル型LiMnO
4、オリビン型LiFePO
4等のリチウム含有複合酸化物等が挙げられる。
【0158】
負極材料は、特に限定されないが、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種合金材料等が挙げられる。
【0159】
非水電解液は、特に限定されないが、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が、電解質としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6等のリチウム塩が挙げられる。
【0160】
本実施の形態のセパレータを用いて電池を製造する方法は、特に限定されないが、蓄電デバイスが二次電池の場合、例えば、本実施の形態のセパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ね、円または扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得、当該捲回体を電池缶内に収納し、更に電解液を注入することで製造することができる。この際、当該捲回体に対して加熱および/またはプレスを行うことで上述の積層体を形成してもよい。また、上記捲回体として上述の積層体を円または扁平な渦巻き状に捲回したものを用いて製造することもできる。また、電池は、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順に平板状に積層したもの、または上述の積層体を袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程と、場合によって加熱および/またはプレスを行う工程を経て製造することもできる。上記の加熱および/またはプレスを行う工程は、前記電解液を注入する工程の前および/または後に行うことができる。
【0161】
なお、上述した各種パラメータの測定値については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【実施例】
【0162】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明をするが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、及び比較例において使用された各種物性の測定方法又は評価方法は、以下の通りである。なお、特に記載のない限り、各種測定および評価は室温23℃、1気圧、及び相対湿度50%の条件下で行った。
【0163】
[測定方法]
<粘度平均分子量(以下、「Mv」ともいう。)>
ASRM−D4020に基づき、デカリン溶剤における135℃での極限粘度[η]を求め、ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=0.00068×Mv
0.67
また、ポリプロピレンのMvは次式より算出した。
[η]=1.10×
10−4×Mv
0.80
【0164】
<ポリオレフィン微多孔膜の目付>
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、(株)島津製作所製の電子天秤AEL−200を用いて重量を測定した。得られた重量を100倍することで1m2当りの膜の目付け(g/m
2)を算出した。
【0165】
<ポリオレフィン微多孔膜の気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm
3)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm
3)として次式を用いて計算した。
気孔率=(体積−質量/膜密度)/体積×100
【0166】
<透気度(sec/100cc)>
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計G−B2(商標)により測定した透気抵抗度を透気度とした。
【0167】
<ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度(g)>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでポリオレフィン微多孔膜を固定した。次に固定されたポリオレフィン微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(g)を得た。
【0168】
<平均孔径(μm)>
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
【0169】
平均孔径d(μm)は、空気の透過速度定数R
gas(m
3/(m
2・sec・Pa))、水の透過速度定数R
liq(m
3/(m
2・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めた。
d=2ν×(R
liq/R
gas)×(16η/3Ps)×10
6
【0170】
ここで、R
gasは透気度(sec)から次式を用いて求められる。
Rgas=0.0001/(透気度×(6.424×10
−4)×(0.01276×101325))
【0171】
また、R
liqは透水度(cm
3/(cm
2・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
R
liq=透水度/100
【0172】
なお、透水度は次のように求められる。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめエタノールに浸しておいた微多孔膜をセットし、該膜のエタノールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm
3)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
【0173】
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10
−2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))
1/2
【0174】
<厚み(μm)>
(1)ポリオレフィン微多孔膜及び蓄電デバイス用セパレータの膜厚(μm)
ポリオレフィン微多孔膜及び蓄電デバイス用セパレータから、各々、10cm×10cmのサンプルを切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)を選んで、膜厚を微小測厚器(東洋精機製作所(株) タイプKBM)を用いて室温23±2℃で測定した。各々、9箇所の測定値の平均値を、ポリオレフィン微多孔膜、蓄電デバイス用セパレータの膜厚(μm)とした。
【0175】
(2)塗工層の厚み(μm)
熱可塑性ポリマー被覆層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)「型式S−4800、HITACHI社製」を用い、セパレータの断面観察により測定した。サンプルのセパレータを1.5mm×2.0mm程度に切り取り、ルテニウム染色した。ゼラチンカプセル内に染色サンプルとエタノールを入れ、液体窒素により凍結させた後、ハンマーでサンプルを割断した。サンプルをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、30000倍にて観察し、熱可塑性ポリマー層の厚みを算出した。なお、SEM画像にてポリオレフィン微多孔膜断面の多孔構造が見えない最表面領域を熱可塑性ポリマー被覆層の領域とした。
【0176】
(3)フィラー多孔層の厚み(μm)
蓄電デバイス用セパレータの膜厚からポリオレフィン微多孔膜の膜厚及び熱可塑性ポリマー被覆層の厚みを引くか、又は蓄電デバイス用セパレータの膜厚からポリオレフィン微多孔膜の膜厚を引くことにより、フィラー多孔層の厚みを算出した。
【0177】
<熱可塑性ポリマーのガラス転移温度>
熱可塑性ポリマーの塗工液(不揮発分=38〜42%、pH=9.0)を、アルミ皿に適量取り、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。乾燥後の乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。なお測定条件は下記の通りとした。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温。110℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分40℃の割合で降温。−50℃に到達後5分間維持。
(3段目昇温プログラム)
−50℃から毎分15℃の割合で130℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得。
【0178】
ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0179】
<熱可塑性ポリマーのゲル分率(トルエン不溶分)>
テフロン(登録商標)板上に、熱可塑性ポリマーの塗工液(不揮発分=38〜42%、pH=9.0の)をスポイトで滴下し(直径5mm以下)、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。乾燥後、乾燥皮膜を約0.5g精秤(a)し、それを50mLポリエチレン容器に取り、そこに30mLのトルエンを注ぎ入れ3時間室温で振とうした。その後、内容物を325メッシュでろ過し、メッシュ上に残ったトルエン不溶分をメッシュごと、130℃の熱風乾燥機で1時間乾燥させた。なお、ここで使用する325メッシュはあらかじめその乾燥重量を量っておいた。
【0180】
トルエンを揮発させた後、トルエン不溶分の乾燥体と325メッシュの重量から、あらかじめ量っておいた325メッシュ重量を差し引くことでトルエン不溶分の乾燥重量(b)を得た。ゲル分率(トルエン不溶分)は、以下の計算式で算出した。
熱可塑性ポリマーのゲル分率(トルエン不溶分)=(b)/(a)×100 [%]
【0181】
<粒状熱可塑性ポリマーの平均粒径(nm)>
粒状熱可塑性ポリマーの平均粒径は、オスミウム蒸着した蓄電デバイス用セパレータを、走査型電子顕微鏡(SEM)「型式S−4800、HITACHI社製」を用いて、加速電圧1.0kV、30000倍にて観察することにより測定した。粒状熱可塑性ポリマーの一番径が大きい部分を粒径とし、20個の平均値を平均粒径とした。
【0182】
<熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度(電解質溶媒膨潤度)(倍)>
熱可塑性ポリマー又は熱可塑性ポリマーを分散させた溶液を130℃のオーブン中に1時間静置した後、乾燥させた熱可塑性ポリマーを0.5gになるように切り取り、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒10gと一緒に50mLのバイアル瓶に入れ、3時間浸透させた後、サンプルを取り出し、上記混合溶媒にて洗浄し、重量(W
a)を測定した。その後、150℃のオーブン中に1時間静置したあと重量(W
b)を測定し、以下の式より熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度を測定した。
熱可塑性ポリマーの電解液に対する膨潤度(倍)=(W
a−W
b)÷(W
b)
【0183】
[評価方法]
<セパレータと電極の密着性>
セパレータと電極との密着性は、以下の手順で評価した。
【0184】
(負極の作製)
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエンコポリマーラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m
2、活物質嵩密度は1.35g/cm
3になるようにした。
【0185】
(電極との密着性評価)
上記方法により得られた負極を幅20mm、長さ40mmにカットした。この電極上にエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液(富山薬品工業製)を負極が浸る程度にたらし、この上にセパレータを重ねた。この積層体をアルミジップに入れ、80℃、10MPaの条件下で、2分間プレスを行った後、積層体を取り出し、セパレータを電極から剥がした。
(評価基準)
○:セパレータの30%以上の面積に負極活物質が付着した場合。
△:セパレータの10%以上30%未満の面積に負極活物質が付着した場合。
×:セパレータの10%未満の面積に負極活物質が付着した場合。
【0186】
<捲回体の巻戻し力測定>
セパレータ捲回体の巻戻し力の測定は、JIS−Z0237に基づき下記のようにして測定した。捲回体の巻戻し力測定には、後述される電池初期不良率の評価において作製された捲回体を使用した。引張試験機(Model5544、インストロン製)を用い、捲回体を巻き戻し固定具に固定し、10−50mm幅のセパレータを5mm/秒の速度で、200mm以上巻き戻すことにより測定した。なお、測定は、23℃×50%RHの環境下で、巻戻すセパレータと捲回体の面との角度が垂直になるように巻戻しを行い、試験回数n=5以上で測定した。実施例及び比較例の巻戻し力(mN/10mm)を表5〜9に記載した。
【0187】
<電池初期不良率の評価>
(電池の作製)
本評価では、下記の通り、円筒型リチウムイオン電池を作製し、それを用いて評価を行った。
正極については、厚み15μmのアルミニウム箔集電体に、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤をほぼ均等に塗工し、これを幅51mm、長さ約750mmの帯状に切断した。
負極については、厚み10μmの銅箔集電体に、負極活物質としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出可能な黒鉛等から成る炭素粉末材料を含む負極合剤をほぼ均等に塗工し、これを幅54mm、長さ約800mmの帯状に切断した。これら帯状にした正極および負極には、捲回後に所定の位置に導電リードが来るように、電極端部の電極合剤を塗っていない集電体に電流を流すための導電リードを超音波溶接機で取り付けた。
実施例及び比較例のセパレータを、幅57mm、長さ約900mmの帯状に切断して用いた。
【0188】
これら部材の捲回操作には、直径約4mmで半割れ構造の捲回軸が備えられている捲回装置を使用した。ロール状に巻かれた2本のセパレータを引きだし捲回軸の半割れ部分に挟み込んで捲回軸を数回回転させて巻取り、セパレータとセパレータの間に正極および負極を挿入して捲回した。正極、負極およびセパレータには、捲回軸の回転方向と反対方向に0.5〜1.5kgf/cm
2(0.05〜0.15MPa)の張力が加えられ、捲回中の巻きずれ又は緩み発生を防止した。正極および負極を巻き終えた後、さらにセパレータを数回巻いて切断した。
【0189】
以上の様に作製した捲回体には、負極側を下に、正極側を上にして上下に絶縁板を取り付け、表面がニッケルメッキされた電池缶内に収納した。電極の中央の穴に溶接抵抗機の電極棒を挿入し、電池缶の缶底に負極リードを溶接した。次に、電池缶の上部に電池蓋を取り付けるための溝を付け、その溝の上側にガスケットを入れた後、正極リードと電池蓋を溶接した。このようにして得られたアセンブリを真空乾燥機に入れ、60℃の真空雰囲気で約16時間保持し、付着している水分を除去した。
【0190】
次に、乾燥されたアセンブリをアルゴンガス雰囲気のグローブボックス内に移し、所定量の電解液を注入した。電解液には、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の混合溶媒中に六フッ化燐酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。電解液を注入後、電池缶上部のガスケットに電池蓋を軽く入れ、かしめ機に装着して電池缶をかしめて密封した。
(電池初期不良率の評価)
実施例又は比較例で得られたセパレータを用いて上記のように電池を5個作製し、初期充放電効率から下記の基準で不良率を評価した。
電池の不良率(%)=[初期充放電効率が85%以下の電池の個数]/評価電池(5個)×100
電池の不良率は下記基準で評価した。評価結果を表5〜9に記載した。
○:電池の不良率が0%以上20%未満
△:電池の不良率が20%以上40%未満
×:電池の不良率が40%以上
【0191】
<ラミネート型電池の曲げ応力の評価>
本評価は、下記の通りラミネート型電池(以下、ラミセルともいう)を作製し、それを用いて評価を行った。
【0192】
(正極用スラリー組成物および正極の製造)
正極活物質としてコバルト酸リチウムLCO(LiCoO
2)(粒子径:12μm)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック(AB35,電気化学工業社製デンカブラック粉状品:粒子径35nm、比表面積68m
2/g)2.0部と、正極用結着剤のフッ素含有重合体として混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)1.6部およびニトリル基含有アクリル重合体として重合体B1−1を固形分相当量で0.4部と、適量のNMPとをプラネタリーミキサーにて攪拌し、正極用スラリー組成物を調製した。
【0193】
集電体として、厚さ15μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリー組成物をアルミ箔の両面に乾燥後の塗布量が25mg/cm
2になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.9g/cm
3の正極活物質層とアルミ箔とから成るシート状正極を作製した。これを幅4.8mm、長さ50cmに切断し、アルミニウムリードを接続した。
【0194】
(負極用スラリー組成物および負極の製造)
負極活物質として球状人造黒鉛(粒子径:12μm)90部とSiO
x(粒子径:10μm)10部、結着剤としてスチレンブタジエンゴム(粒子径:180nm、ガラス転移温度:−40℃)1部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1部と適量の水とをプラネタリーミキサーにて攪拌し、負極用スラリー組成物を調製した。
【0195】
集電体として、厚さ15μmの銅箔を準備した。上記負極用スラリー組成物を銅箔の両面に乾燥後の塗布量が10mg/cm
2になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.8g/cm
3の負極活物質層と銅箔とから成るシート状負極を作製した。これを幅5.0mm、長さ52cmに切断し、ニッケルリードを接続した。
【0196】
(ラミネート型電池の製造)
得られたシート状正極およびシート状負極を、実施例及び比較例のセパレータを介在させて直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。捲回体は、10mm/秒のスピードで厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。前記略楕円の短径に対する長径の比は7.7であった。
【0197】
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが3対7(重量比)の混合物に5質量%のフルオロエチレンカーボネートを混合し、1mol/リットルの濃度になるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解し、ビニレンカーボネート2容積%を添加し、非水電解質を用意した。
【0198】
前記シート状正極およびシート状負極を、所定のアルミラミネート製ケース内に3.2gの非水電解質とともに収容した。負極リードおよび正極リードを所定の箇所に接続した後、ケースの開口部を熱で封口し、非水電解質電池を完成した。以上のようにして、幅35mm、高さ48mm、厚さ5mmのラミネート型電池を製造した。
【0199】
(曲げ応力評価)
曲げ試験機(島津製作所製AG−10FD)を用いて、前記ラミネート型電池の曲げ応力の測定を行った。曲げ試験は、支点間隔を10cmで前記ラミネート型電池を支持し、支点間隔の中心を上から押し、その押し速度を1mm/分で行った。
曲げ応力は下記基準で評価した。評価結果を表5〜9に記載した。
○:曲げ応力が100MPa以上
△:曲げ応力が75MPa以上100MPa未満
×:曲げ応力が75MPa未満
【0200】
[製造例1―1](微多孔膜1Aの製造)
粘度平均分子量が70万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、Mvが30万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、粘度平均分子量が40万であるホモポリマーのポリプロピレンと粘度平均分子量が15万であるホモポリマーのポリプロピレンとの混合物(質量比=4:3)10質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5m
2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。押し出される全混合物中に占める流動パラフィンの割合が65質量部となるように、すなわち、ポリマー濃度が35質量部となるように、フィーダー及びポンプの運転条件を調整した。
【0201】
次いで、それらを二軸押出機内で230℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ成形(cast)して冷却固化することにより、シート状成形物を得た。このシートを同時二軸延伸機にて倍率7×6.4倍、温度112℃下で延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後乾燥し、テンター延伸機にて温度130℃、横方向に2倍延伸した。その後、この延伸シートを幅方向に約10%緩和して熱処理を行い、表1に示すポリオレフィン微多孔膜1Aを得た。
【0202】
得られたポリオレフィン微多孔膜1Aについて、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0203】
[製造例1−2〜1−9](微多孔膜2A〜8A、17Aの製造)
延伸温度と緩和率の調整をしたこと以外は、製造例1−1と同様の操作により、ポリオレフィン微多孔膜2A〜8A及び17Aを得た。得られたポリオレフィン微多孔膜2A〜8A及び17Aを製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0204】
[製造例2−1](微多孔膜9Aの製造)
水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)を96.0質量部とアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)4.0質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、ポリオレフィン樹脂多孔膜4Aの表面にマイクログラビアコーターを用いて塗布した。60℃にて乾燥して水を除去し、塗工層1Bを2μmの厚さで形成して、微多孔膜9Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0205】
[製造例2−2](微多孔膜10Aの製造)
ポリオレフィン微多孔膜4Aの一方の表面に製造例9Aと同様の方法で塗工層2Bを3μmの厚さで形成して、微多孔膜10Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0206】
[製造例2−3](微多孔膜11Aの製造)
ポリオレフィン微多孔膜4Aの一方の表面に製造例9Aと同様の方法で塗工層3Bを4μmの厚さで形成して、微多孔膜11Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0207】
[製造例2−4](微多孔膜12Aの製造)
ポリオレフィン微多孔膜4Aの一方の表面に製造例9Aと同様の方法で塗工層4Bを7μmの厚さで形成して、微多孔膜12Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0208】
[製造例2−5](微多孔膜13Aの製造)
焼成カオリン(カオリナイト(Al
2Si
2O
5(OH)
4)を主成分とする湿式カオリンを高温焼成処理したもの、平均粒径1.8μm)を95.0質量部とアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径220nm、最低成膜温度0℃以下)5.0質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)0.5質量部を180質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、ポリオレフィン微多孔膜4Aの表面にマイクログラビアコーターを用いて塗布した。60℃にて乾燥して水を除去し、塗工層5Bを6μmの厚さで形成して、微多孔膜13Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0209】
[製造例2−6](微多孔膜14Aの製造)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(VdF−HFP樹脂)(以下、樹脂Aとする)である、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン(99/1mol%、重量平均分子量35万)と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(VdF−HFP樹脂)(以下、樹脂Bとする)である、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン共重合体(95.2/4.8mol%、重量平均分子量27万)とを、樹脂A/樹脂B=60/40(質量比)で混合して、混合樹脂を得た。
【0210】
樹脂Aと樹脂Bとの混合樹脂を5質量%の濃度で、ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=7/3質量比である混合溶媒に溶解し、塗工液を作製した。
得られた塗工液をポリオレフィン微多孔膜4Aの両面に等量かつ12μmの厚さで塗工した。次いで、ポリエチレン微多孔膜を、水/ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=57/30/13(質量比)の凝固液(40℃)に浸漬することで、VdF樹脂及びVdF−HFP樹脂を固化させ、微多孔膜14Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0211】
[製造例2−7](微多孔膜15Aの製造)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としてフッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン共重合体(モル比98.9/1.1、重量平均分子量195万)を用意した。
前記樹脂を濃度が5質量%となるように、ジメチルアセトアミドとトリプロピレングリコールの混合溶媒(ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=7/3[質量比])に溶解し、架橋メタクリル酸メチル系樹脂フィラー(体積平均粒子径1.8μm、D90−D10が1.3μm)を分散させて、塗工液を作製した。この塗工液において、フィラーの含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とフィラーの合計量に対し5質量%とした。
この塗工液をポリオレフィン微多孔膜4Aの両面に等量かつ3μmの厚さで塗工し、40℃の凝固液(水/ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=57/30/13[質量比])に浸漬して固化させ、微多孔膜15Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0212】
[製造例2−8](微多孔膜16Aの製造)
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系樹脂から成る微粒子を含む水系エマルション(水系分散物)であるVINYCOAT PVDF AQ360(東日本塗料社製)を用い、これを希釈して微粒子濃度が3.7質量%である塗工液を調製した。ポリフッ化ビニリデン系樹脂から成る微粒子の平均粒子径は250nm(0.25μm)であり、樹脂はフッ化ビニリデン/アクリル酸共重合体(フッ化ビニリデン:70mol%)である。この塗工液と水酸化マグネシウムを混合して、得られた混合物をポリオレフィン微多孔膜4Aの両面に、#6バーコータを使用して等量塗工し、60℃で乾燥させることで、塗工層8Bを5μmの厚さで形成して、微多孔膜16Aを得た。得られた微多孔膜を製造例1と同様に上記方法により評価した。
【0213】
微多孔膜1A〜17Aの評価結果を下記表1に示す。
【0214】
【表1】
【0215】
[製造例3−1]
(熱可塑性ポリマー被覆層用原料ポリマー1C〜8Cの製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)0.5質量部と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を7.5質量部添加した。
過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に、メタクリル酸メチル38.5質量部、アクリル酸n−ブチル19.6質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル31.9質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル2.8質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT、新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部、p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を、滴下槽から反応容器に150分掛けて滴下した。
乳化液の滴下終了後、反応容器の内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)でpH=9.0に調整し、濃度40%のアクリル系コポリマーラテックスを得た(原料ポリマー1C)。得られた原料ポリマー1Cについて、上記方法により評価した。得られた結果を表2に示す。
【0216】
モノマー及びその他の使用原料の組成を、表2に記載のとおりに変更する以外は、ポリマー1Cと同様にして、アクリル系コポリマーラテックスを得た(原料ポリマー2C〜8C)。得られた原料ポリマー2C〜8Cについて、上記方法により評価した。得られた結果を表2に示す。
【0217】
【表2】
【0218】
なお、表2に記載の原料ポリマー1C〜8CのTgは全てFOXの式による概算値である。
(注) 表2中の原材料名
MMA :メタクリル酸メチル
BA :アクリル酸n−ブチル
EHA :アクリル酸2−エチルヘキシル
MAA :メタクリル酸
AA :アクリル酸
HEMA :メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
AM :アクリルアミド
GMA :メタクリル酸グリシジル
NaSS :p−スチレンスルホン酸ナトリウム
A−TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
KH1025:アクアロンKH1025(登録商標、第一工業製薬株式会社製)
SR1025:アデカリアソープSR1025(登録商標、株式会社ADEKA製)
APS :過硫酸アンモニウム
【0219】
[製造例3−2]
(粒状熱可塑性ポリマー1C1〜8C4の製造方法)
攪拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、初期仕込みとして水65質量部、シード粒子16質量部、0.5質量部のKH1025、0.5質量部のSR1025、イオン交換水70.4質量部を投入し、反応容器中の温度を30℃に保ち、APS7.5質量部を添加した。
【0220】
APSを添加した5分後に、MMA38.5質量部、BA19.6質量部、EHA31.9質量部、MAA0.1質量部、AA0.1質量部、HEMA2質量部、AM5質量部、GMA2.8質量部、3質量部のKH1025、3質量部のSR1025、NaSS0.05質量部、A−TMPT0.7質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、APS7.5質量部、イオン交換水52質量部から成る乳化混合液を150分かけて滴下槽から反応容器に投入した。この状態で更に30分撹拌を継続して、シード粒子にモノマーを吸収させた。次に、反応系のpHは4以下に維持した状態で反応容器の温度を80℃に上昇させ、120分間攪拌を続けた。その後、室温まで冷却した。
【0221】
冷却後、200メッシュの金網でろ過を行い、凝集物等を除去した。ろ過後、25%のアンモニア水でpHを8に調整し、その後、固形分が50%となるように水を添加し調整し、粒状熱可塑性ポリマー1C1を得た。得られた粒状熱可塑性ポリマーについて、上記方法により評価した。得られた結果を表3に示す。
【0222】
モノマー及びその他の使用原料の組成を、表3又は4に記載のとおりに変更する以外は、ポリマー1C1と同様にして、粒状熱可塑性ポリマー1C2〜8C4を得た。得られた粒状熱可塑性ポリマーについて、上記方法により評価した。得られた結果を表3又は4に示す。
【0223】
【表3】
【0224】
【表4】
【0225】
(注) 表3及び4中の原材料名については、表2の脚注を参照
【0226】
[実施例1]
表5に記載の粒状熱可塑性ポリマー1C5を固形分で2.4質量部、計り取り、92.5質量部の水に均一に分散させて、熱可塑性ポリマーを含む塗工液を調製した。次いで、表1に記載の微多孔膜1Aの片面表面にグラビアコーターを用いて塗工液を塗布した。60℃にて乾燥して塗工液の水を除去した。さらに、もう片面も同様に塗工液を塗布し、再度乾燥させることにより、微多孔膜の両面に熱可塑性ポリマーを有する蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータについて、上記方法により、評価した。得られた結果を表5に示す。
【0227】
[実施例2〜43(但し、実施例
5〜8,17〜24,
30〜38,40〜43は参考例である)、比較例1〜5]
表5〜9のいずれかに記載した組み合わせで、熱可塑性ポリマーを含有する塗工液を、微多孔膜の両面に各種方法(スプレー、グラビア)により塗布したこと以外は実施例1と同様にして、蓄電デバイス用セパレータを作製した。得られたセパレータの物性及び評価結果を表5〜9のいずれかに示す。
【0228】
【表5】
【0229】
【表6】
【0230】
【表7】
【0231】
【表8】
【0232】
【表9】