(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、Si:0.35%以下、Fe:0.35〜0.55%、Cu:0.15〜0.48%、Mn:0.8〜1.15%、Mg:0.60〜1.60%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成のアルミニウム合金を溶製し、半連続鋳造して得た鋳塊を均質化処理および均熱処理を経て熱間粗圧延を行って25〜16mmの熱間粗圧延板とした後、続いて1パス目出側温度を380℃以下、2パス目出側温度を340℃以下、3パス目出側仕上げ温度を240〜310℃とする、熱間仕上げ圧延を行った後、圧下率を10〜20%とする第1冷間圧延を行い、その後、連続焼鈍装置を用いて保持温度460〜540℃、保持時間5〜60秒の条件で第1中間焼鈍を行い、続いて圧下率80〜95%で第2冷間圧延を行って、板厚0.210〜0.47mm、焼付け後の耐力230〜320N/mm2のアルミニウム合金板を得ることを特徴とする異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板、および異方性とボトルネック成形性に優れたボトル缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
前記鋳塊に対して行なう均質化処理は、555〜605℃で4〜10時間の条件で行ない、続いて行なう均熱処理は500〜555℃で1時間以上加熱する条件で行うことを特徴とする請求項1に記載の異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板、および異方性とボトルネック成形性に優れたボトル缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
前記熱間粗圧延の最終パス出側材料温度は400〜460℃であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板、および異方性とボトルネック成形性に優れたボトル缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
前記組成に対し、更に、Cr:0.05%以下、Zn:0.25%以下、Ti:0.10%以下のうち、少なくとも1種または2種以上を含有してなるアルミニウム合金を用いることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板、および異方性とボトルネック成形性に優れたボトル缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
第2冷間圧延後、保持温度120〜140℃、保持時間2〜4時間の条件で最終安定化焼鈍を行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板、および異方性とボトルネック成形性に優れたボトル缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法の各実施形態について説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に制限されるものではない。
初めに、本実施形態で用いる缶ボディ用アルミニウム合金板の組成について説明する。
本実施形態の缶ボディ用アルミニウム合金板は、質量%で、Si:0.35%以下、Fe:0.35〜0.55%、Cu:0.15〜0.48%、Mn:0.80〜1.15%、Mg:0.60〜1.60%以下を含有し、残部が不可避的不純物を含むAlからなる組成のアルミニウム合金からなる。また、前記組成比のアルミニウム合金に、更に、Cr:0.05%以下、Zn:0.25%、Ti:0.10%以下のうち、1種または2種以上を含有するアルミニウム合金を用いても良い。
以下、本実施形態で使用するアルミニウム合金の組成限定理由について説明する。
なお、本明細書において記載する各元素の含有量は、特に限定しない限り質量%であり、また、特に規定しない限り上限と下限を含むものとする。例えば0.35〜0.55%とする表記は0.35%以上0.55%以下を意味する。
【0015】
「Si:0.35%以下」
Siは、同時に含有するMgと化合物を形成し易く、固溶硬化作用、分散硬化作用および析出硬化作用を有する他、Al、Mn、Feなどと化合物を形成し、成形時のダイスに対する焼付きを防止する効果がある。Siの含有量は、0.35質量%を越えると加工性が劣化して不都合である。
「Fe:0.35〜0.55%」
Feは、結晶の微細化および成形時のダイスに対する焼付きを防止する効果がある。Feの含有量は、0.35質量%未満では所望の効果が得られず、0.55質量%を越えると加工性を劣化させる。
【0016】
「Cu:0.15〜0.48%」
Cuは、Mgと化合物を形成し易く、固溶硬化、分散硬化および析出硬化に寄与する。
Cuの含有量は、0.15質量%未満では所望の効果が得られず、0.48質量%を越えると加工性を劣化させる。
「Mn:0.8〜1.15%」
Mnは、Fe、Si、Alなどと化合物を形成し易く、晶出相および分散相となって分散硬化作用を現すと共に成形時のダイスに対する焼付きを防止する効果がある。Mnの含有量は、0.8質量%未満では所望の硬化特性が得られず、1.15質量%を越えると加工性が劣化する。
「Mg:0.60〜1.60%」
Mgは、固溶体強化作用を有し、圧延による加工硬化性を高めるとともに、前記Siや前記Cuと共存することによって分散硬化と析出硬化作用を現す。Mgの含有量は、0.60質量%未満では所望の効果が得られず、1.60質量%を越えると加工性を劣化させるようになる。
【0017】
本実施形態で用いるアルミニウム合金において、前記Si、Fe、Cu、Mn、Mgの主要成分に加え、以下のCr、Zn、Tiのいずれか1種または2種以上を含有しても良い。
「Cr:0.05%以下」
Crは結晶の微細化と成形加工時にダイスに対する焼き付きを防止する効果を発揮する。Crの含有量は、0.05質量%を越えると脆くなり加工性が劣化する。
【0018】
「Zn:0.25%以下」
ZnはMg、Si、Cuの析出物を微細化する作用を有する。Znの含有量は、0.25質量%を越えると加工性と耐食性を劣化させる。
「Ti:0.10%以下」
Tiは、結晶粒を微細化して加工性を改善する効果がある。ただし、Tiの含有量は0.10質量%を越えると粗大な化合物を生成し、逆に加工性を劣化させる。
【0019】
<異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法>
次に、本実施形態に係る異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法の実施の形態について説明する。
本実施形態の飲料缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法においては、前記組成のアルミニウム合金を溶製し、鋳造して得た鋳塊に対して均質化処理、均熱処理を施した後、熱間粗圧延およびそれに続く熱間仕上げ圧延による熱間圧延を行い、圧下率の低い第1冷間圧延を施し、第1中間焼鈍を施し、さらに最終冷間圧延を行うことにより所望の板厚の缶ボディ用アルミニウム合金板を得る。
更に、前記の工程に加え、保持温度120〜140℃、保持時間2〜4時間の条件で安定化焼鈍を行うこともできる。
以下、本実施形態の異方性とネック成形性に優れた飲料缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法について工程順に説明する。
【0020】
「鋳造」
前記組成のアルミニウム合金を溶解後、常法に従ってアルミニウム合金溶湯から鋳塊を鋳造するが、鋳造に先立ち、アルミニウム合金を溶製した際に、水素ガスや酸化物などの介在物を除去し、半連続鋳造法により鋳塊を得る。
このときの凝固速度は通常、5〜20℃/秒とされる。鋳造された鋳塊の厚さは、例えば500〜600mm程度とすることができる。
次に、面削を行い、鋳塊の表面を1〜25mm程度切削し、面削体を作製する。なお面削は後述する均質化処理の後に行っても良い。
【0021】
「均質化処理」
次に、作製した面削体に均質化処理を施す。均質化処理は一般に、溶湯の凝固によって生じたミクロ偏析の均質化、過飽和固溶元素の析出、凝固によって形成された準安定相の平衡相への転移などのために行われる。
均質化処理においては、均質化温度を555〜605℃の範囲内とすることが重要である。均質化温度が555℃未満では後述の連続焼鈍の効果が得られず、後述の熱間圧延工程や第1冷間圧延工程においてクラックが発生し易く、最終板材の耳率が高くなる。また、均質化温度が605℃を超えると、鋳塊が溶融するおそれがある。
【0022】
均質化処理において、面削体は100℃/時以下の加熱速度で均質化温度まで加熱することが好ましい。加熱速度が100℃/時を超えると、部分的に溶融を生じるおそれがある。
また、均質化処理において、均質化温度に保持する時間(均質化時間)は4時間以上10時間以下とすることが好ましい。均質化時間が4時間未満では、均質化が充分に進行しない場合がある。しかし、均質化時間が長すぎても効果はなく生産効率が低下する。以上の観点から、好ましい均質化時間は4〜10時間の範囲内である。この均質化処理は、均質化時間が比較的長いので、通常、バッチ方式の炉中に置くことで行われる。
本実施形態において、均質化処理の後さらに面削体を500〜555℃まで冷却し、所定時間保持する均熱処理後、熱間圧延を開始する。500〜555℃の温度範囲での保持時間(均熱時間)は、1時間以上行うことができる。
【0023】
「熱間圧延」
熱間圧延は、熱間粗圧延およびそれに続く熱間仕上げ圧延からなり、本実施形態においては、シングルミルのリバース式熱間仕上圧延機を使用して熱間仕上げ圧延を行うことが好ましい。
熱間圧延工程においては、
図1に示すように、熱間粗圧延機20を用いて板厚20mm程度まで熱間粗圧延した後、熱間仕上圧延機30を用いて板厚2〜7mmまで熱間圧延する。
【0024】
図1に示す熱間粗圧延機20は、例えば上下のワークロール21、22、およびバックアップロール23、24と、複数の搬送ローラが配列された搬送路4、6を備え、搬送されてきたアルミニウム合金の板材5をワークロール21、22間を通過させて目的の厚さに圧延する装置である。
図1において、ワークロール21、22の左右両側の搬送路4、6から繰り返しアルミニウム合金の板材5をワークロール21、22に供給して順次粗圧延することにより、熱間粗圧延機20は板材5を必要な厚さまで圧延して板材7とすることができる。
【0025】
図1に示す熱間仕上圧延機30は、シングルミルのリバース式熱間仕上圧延機であり、例えば上下のワークロール31、32およびバックアップロール33、34と、これらロールの入り側に設置されたリール型の送出巻取装置35と、出側に設置されたリール型の送出巻取装置36とを具備してなる。この熱間仕上圧延機30は、送出巻取装置35から送り出してワークロール31、32間を通過させて熱間圧延した板材を送出巻取装置36で巻き取る操作と、送出巻取装置36から再度ワークロール31、32間を通過させて熱間圧延した板材を送出巻取装置35で巻き取る操作を繰り返し必要回数行うとともに、圧延操作の度に徐々にワークロール31、32間の間隔を調節することにより、アルミニウム合金の板材を目的の板厚まで熱間仕上圧延する装置である。
【0026】
前記均熱処理後、均熱炉から取り出したスラブは通常直ちに熱間粗圧延を開始するが、スラブ温度が500℃未満にならなければ、熱間粗圧延開始を遅延してもよい。熱間粗圧延のパス数は、鋳塊(スラブ)厚さ、仕上げ厚さ、スラブ幅、合金組成などに依存するが、十数パス〜二十数パスの範囲が一般的である。
熱間粗圧延は、圧延材が厚い間は、通常圧延機の前後に搬送テーブルが設置された1スタンド式粗圧延機(
図1に示す熱間粗圧延機20)を用いて圧延する。しかし、板が薄くなると、必要な搬送テーブル長が長くなり、板の自重によるたるみも大きくなり、板の冷却も生じ易くなる。
【0027】
そのため、搬送テーブルで保持するには、板厚が十数mm以上必要である。したがって、粗圧延機から仕上圧延機に板を送る際の最低板厚は、コイル重量や板幅に依存するが、工業的に用いられている重量・幅の場合、16mm程度以上であることが好ましい。また、粗圧延機から仕上げ圧延機に送る際の板厚が厚すぎる場合には、仕上圧延機での圧延パス回数の増加を招き、生産性を低下させる。したがって、仕上げ圧延機に送る際の板厚の上限は40mm以下であることが好ましい。上述の厚さ上限から下限の範囲内までアルミニウム合金の板材が薄くなった場合に、
図1に示す構成のシングルミルのリバース式熱間仕上圧延機で熱間仕上げ圧延を行う。
【0028】
熱間仕上げ圧延は、シングルミルのリバース式熱間仕上圧延機を使用して行う。
圧延機の両側に巻取装置があるシングルミルのリバース式熱間仕上圧延機(
図1に示す熱間仕上圧延機30)を使用することにより、熱間仕上板厚を小さくすることができる。
従って、以降の冷間圧延の圧下率を小さくできるので、冷間圧延のパス回数を削減でき、生産性を向上させることができる。これに対し、例えば、巻取装置が片方にだけ設置された熱間仕上圧延機を用いた場合、搬送テーブル上で保持できる板厚に最小値が存在するために、熱間圧延で圧延可能な最小板厚が増加することになる。このため、熱間圧延後の冷間圧下率が増加する。
【0029】
前述の如く、熱間圧延の仕上り板厚の薄肉化は、冷間圧延パス回数の削減による生産性の向上に寄与する。そのため、本実施形態において、熱間仕上げ圧延の仕上げ板厚は、2〜7mmの範囲内とすることが好ましい。仕上げ板厚が2mm未満では第1冷間圧延の圧下率が不足し、低い耳率が得られない。仕上げ板厚が7mmを超えると第1冷間圧延のパス回数が増加して生産性が低下する。
熱間仕上げ圧延時の条件として、1パス目の出側温度を380℃以下に設定し、2パス目の出側温度を340℃以下に設定し、3パス目の出側温度(仕上げ温度)を2
40〜310℃の範囲とすることが好ましい。
また3パス目の圧下率について、55%以上65%以下とすることが好ましい。
【0030】
1パス目の出側温度について380℃を超える温度に設定すると、圧延加工時の局部歪みが駆動力となって部分的に再結晶が進行し、機械的性質が劣化するとともに、ランダム方位の再結晶粒が多くなり異方性が悪化する恐れがある。
2パス目の出側温度について340℃を超える温度に設定すると、上記1パス目と同様の現象により同様の問題が生じる。
3パス目の出側温度について、310℃を超える温度では上記1パス目と同様の現象により同様の問題が生じる。2
40℃未満の温度では立方体方位の再結晶粒の核が生じにくく、後述の第1冷間圧延に続く第1中間焼鈍を行っても十分な立方体方位が成長せず、異方性が悪化する。
また3パス目の圧下率について、55%未満では上記の出側温度2
40℃未満の場合と同様の現象により同様の問題が生じる。65%を超える場合は圧延荷重が大きくなり過ぎ、安定した圧延を行うことが困難となる問題が生じる。
【0031】
「第1冷間圧延」
第1冷間圧延工程においては、前記の熱間圧延を施した後に冷却した板材を、圧下率10〜20%の範囲となるように冷間圧延する。第1冷間圧延は、熱間圧延で形成させた立方体方位の核を、続く第1中間焼鈍において優先的に成長させるための駆動力を与えるために必要な工程である。第1冷間圧延の圧下率が20%を超えると歪みが過大となり、第1中間焼鈍において熱間圧延で形成された立方体方位の再結晶粒の成長が妨げられ、逆にランダム方位が成長して異方性を悪化させる。
一方、第1冷間圧延の圧下率が10%未満では、圧延の制御が困難になるとともに前記の第一中間焼鈍において立方体方位を優先的に成長させるための駆動力が不足するため、やはり異方性が悪化する。
【0032】
「第1中間焼鈍」
第1中間焼鈍工程は、前記第1冷間圧延後の板材に対し、
図2に基本構成を示す連続焼鈍装置を用いて保持温度460〜540℃の範囲(460℃以上、540℃以下の範囲)に5〜60秒保持した後、冷却することで行う。
第1中間焼鈍工程において、加熱速度10〜200℃/秒の範囲(10℃/秒以上、200℃/秒以下の範囲)で加熱することが好ましく、冷却速度10〜200℃/秒の範囲(10℃/秒以上、200℃/秒以下の範囲)で冷却を行うことが好ましい。
この焼鈍工程は、アルミニウム合金板材を半軟化状態にもたらすものであって、焼鈍後の耐力;YS(Yield Strength)を好適な範囲とすることが好ましい。
焼鈍温度が460℃未満では軟化が不十分で、また十分な立方体方位粒の成長が得られず結果的に異方性が悪化する。焼鈍温度が540℃を越えるか、または、保持時間が60秒を越えると溶質元素の固溶度が過剰になり、最終製品の機械的性質が高くなったり、缶のネック成形性が悪化する。
【0033】
図2に連続焼鈍装置(Continuous Annealing Line:略称CAL)の基本構成の一例を示すが、この例の連続焼鈍装置40は、供給ロール41から長尺のアルミニウム合金の板材42を引き出して緩衝装置43を介し数10m〜100m程度の長い炉本体44に供給し、この炉本体44内で移動中に前記の条件で焼鈍し、焼鈍後に炉本体44から引き出し、緩衝装置46を介し巻取ロール47に巻き取ることができる装置である。この連続焼鈍装置40によれば、炉本体44を通過するアルミニウム合金の板材42を連続単体処理できるために、バッチ式の焼鈍炉よりもより正確な加熱条件と冷却条件で焼鈍処理を行うことができる。
【0034】
そして、連続焼鈍装置40ならば、アルミニウム合金の板材42を供給ロール41に巻き付けた状態のコイルの幅や径が異なっても、換言するとアルミニウム合金の板材42の幅や厚さ、処理するべき長さが異なっていても、製造したい順番に焼鈍処理できるために、同一の大きさのコイルのみを焼鈍炉に搬入して焼鈍していたバッチ式の焼鈍炉の場合に比べて中間在庫の増加を抑えることができる。
【0035】
「第2冷間圧延」
次に、第1中間焼鈍後の板材に対し、圧下率80〜95%の範囲内となるように冷間圧延を施す。第2冷間圧延の圧下率を80〜95%の範囲内とすることにより、缶ボディ用板材として求められる適度な機械的性質と、異方性・ネック成形性の両立を図ることができる。
第2冷間圧延の圧下率を80%未満にすると、加工率が不足し必要な強度が得られないとともに、加工硬化しやすく缶のネック成形性を低下させる問題を生じる。
第2冷間圧延の圧下率について95%を超えると、加工率が過剰となり場合によっては強度が過剰となり、また異方性悪化の原因ともなる。
第2冷間圧延により、板厚0.210〜0.47mmの飲料缶ボディ用アルミニウム合金板を得ることができる。また、このアルミニウム合金板は、塗装焼付け後の耐力が230〜320N/mm
2の範囲であることが好ましい。
【0036】
「安定化焼鈍」
以上の製造方法によれば、異方性とネック成形性に優れた缶ボディ用アルミニウム合金板を得ることができるが、当該合金板のDI成形において、缶底部の形状および成形条件によっては、底部抜けなどの成形異常の問題を生じる場合がある。
このため、当該合金板に対し、保持温度120〜140℃、保持時間2時間〜6時間の条件で安定化焼鈍を行うことによって缶底部成形などの局部成形性を改善することができ、成形異常を有効に抑制することが可能である。
【0037】
保持温度を120℃未満にすると、上記の効果がほぼ認められなくなるという面で問題があり140℃を超える保持温度とすると、強度低下の問題が生じる。
保持時間を2時間未満にすると、コイル全体を安定的に加熱処理するのが困難となるため好ましくなく、4時間を超える保持時間とすると、生産性が低下するという問題がある。
安定化焼鈍処理を上述の条件で施すことにより、缶成形における異常や安定生産性の問題を生じることなく成形できる特徴がある。
【0038】
以下に、上述のアルミニウム合金板を用いてDI缶を製造する工程とDI缶の概要について説明する。
図3は、DI缶の製造方法の工程図を、
図4はDI缶を示す部分断面図であり、これらの図において符号10は、DI缶を示している。
DI缶10は、アルミニウム合金製の有底筒状のDI缶であって、板厚が0.240mm以上0.270mm以下とされるアルミニウム合金の板材に、しごき率が54.2%以上64.8%以下とされる絞りしごき加工を施して成形されており、例えば、缶軸方向の大きさ、すなわち高さが約122.5mm、外径が65mm以上67mm以下とされている。胴部は、肉厚が0.095mm以上0.110mm以下とされるとともに引張り強さが、340MPa以上410MPa以下とされ、かつこの場合の缶体重量が11.6g以下とされる。
【0039】
また、底部12は、
図4に示すように、胴部11の缶軸方向における内側に向けて凹むドーム部12aを備えるとともに、このドーム部12aの外周縁部が胴部11の缶軸方向における外側に向けて突出する環状凸部12cとされている。この環状凸部12cの缶軸方向における頂部が、DI缶10が正立姿勢となるように、このDI缶10を接地面L上に配置したときに接地面Lに接する接地部12bとされる。
また、DI缶10は、ポリエステル系塗料を使用して、文字情報等の印刷部分も含め、胴部11の外面を印刷、塗装し、この外面印刷及び外面塗装がされたDI缶10を180℃×30秒間加熱することにより50mg/dm
2の塗膜を形成させた後に、DI缶10の内面にエポキシ系塗料を使用して内面塗装し、200℃×60秒間加熱することにより40mg/dm
2の塗膜を形成させた外面印刷、外面塗装及び内面塗装がなされている。
【0040】
このDI缶は、例えば、以下の工程により製造される。
前述の工程で得られたアルミニウム合金板を打ち抜いて直径が約150mmとされた円板状の板材(ブランク)Wを成形する。
次に、この板材Wをカッピングプレスによって絞り加工することによりカップ状体W1に成形する。
次いで、DI加工装置によって、カップ状体W1に再絞りしごき加工を施して有底筒状体W2を形成する。この際の、しごき率は、例えば、60.4%で胴部11の最薄部における肉厚が0.100mmになるまで絞りしごき加工が施される。
【0041】
再絞りしごき加工に用いるDI加工装置は、再絞り加工するための円形の貫通孔を有する一枚の再絞りダイと、この再絞りダイと同軸に配列される円形の貫通孔を有する複数枚(例えば、3枚)のアイアニング・ダイ(しごきダイ)と、アイアニング・ダイと同軸とされ、上記それぞれのアイアニング・ダイの各貫通孔の内部に嵌合可能とされ、軸方向に移動自在とされる円筒状のパンチスリーブと、このパンチスリーブの外側に嵌合された円筒状のカップホルダースリーブとを備えている。
【0042】
DI加工装置による再絞り加工は、カップ
状体W1をパンチスリーブと再絞りダイとの間に配置して、カップホルダースリーブ及びパンチスリーブを前進させてカップホルダースリーブが、再絞りダイの端面にカップ
状体W1の底面を押し付けてカップ押し付け動作を行ないながら、パンチスリーブがカップ
状体W1を再絞りダイの貫通孔内に押し込むことにより行われる。その結果、所定の内径を有する再絞り加工されたカップが成形される。引き続き、再絞り加工されたカップを複数のアイアニング・ダイを順次通過させて徐々にしごき加工をして、カップ状体の側壁をしごいて側壁を延伸させて側壁高さを高くするとともに壁厚を薄くして有底筒状体W2を形成する。
【0043】
しごき加工が終了した有底筒状体W2は、パンチスリーブがさらに前方に押し出して底部をボトム成形金型に押圧することにより、底部が、例えばドーム形状に形成される。
この有底筒状体W2は、側壁がしごかれることで冷間加工硬化されて強度が高くなる。
【0044】
次に、有底筒状体W2の開口端部W2aをトリミングする。
DI加工装置によって形成された有底筒状体W2の開口端部W2aは、その缶軸方向に波打つような凹凸形状とされ不均一であるため、有底筒状体W2の開口端部W2aを切断してトリミングすることにより缶軸方向における側壁の高さを全周に亙って均一にする。
このようにして、胴部11と底部12とを有する横断面円形のDI缶10を形成することができる。
【0045】
前述の製造方法により得られたアルミニウム合金板であるならば、上述のDI缶の製造方法においてしごき加工を受けた場合であってもネック成形性に優れさせることができ、傷や成形不良などの問題を生じないアルミニウム缶を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示して、本発明に係る缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法について更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
表1、表2に示す組成のアルミニウム合金を溶解し、脱ガスおよび溶湯ろ過後、半連続鋳造により厚さ600mm、幅1100mm、長さ4.5mのスラブに鋳造した。なお本実施例各スラブにおけるCr、Zn、Tiの含有量はほぼ同等で、それぞれCr=0.02〜0.03%、Zn=0.15〜0.17%、Ti=0.02〜0.03%であった。
【0047】
次に、前記スラブを面削後、均質化・均熱兼用炉を用いて、保持温度565℃かつ保持時間8時間の均質化処理を施した後、保持温度545℃まで炉中で冷却し、当該保持温度にて保持時間1時間以上の均熱処理を施した。
続いて、
図1に示す構成の熱間粗圧延機20を使用して板厚20mmまで熱間粗圧延した後、
図1に示すシングルミルのリバース式熱間仕上圧延機30を使用して、熱間仕上げ圧延により種々の仕上板厚の板材を得た。
熱間粗圧延の出側温度は、表1、表2に示すように430℃とした。
熱間仕上げ圧延の1パス目の出側温度は、表1、表2に示すように375〜385℃に調節し、2パス目の出側温度は、330〜345℃に調節し、3パス目の出側温度は、225〜315℃に調節した。
【0048】
次に、熱間圧延後の板材に表3、表4に示す圧下率(第1冷延率)で第1冷間圧延を施した後、連続焼鈍装置を用いて表3、表4記載の保持温度で、常温から保持温度までの平均加熱速度25℃/秒、保持した時間5〜60秒、最高到達温度から70℃までの平均冷却速度50℃/秒の条件で第1中間焼鈍(CAL)を行った。
次いで、第1中間焼鈍後の板材に表3、表4に示す圧下率(第2冷延率)で第2冷間圧延を施し、表3、表4に示す板厚(mm)の缶ボディ用アルミニウム合金板を得た。
また、得られた缶ボディ用アルミニウム合金板の一部について、更に、バッチ式焼鈍炉を用いて、表3、表4記載の保持温度で保持した時間、3時間の条件で安定化焼鈍を行った。
【0049】
得られた缶ボディ用アルミニウム合金板の素材強度(ASTS)をJISZ2241に準拠した引張試験により求め、更に210℃×10分の条件で塗装焼き付け相当の熱処理を行い、ベーキング後の耐力(ABYS、0.2%耐力)を測定した。
なお、上記物性値(ASTS)は、コイルの幅方向及び長手方向各3点以上の位置から採取したサンプルについて計測し、ASTSばらつき(最大値‐最小値)については、8MPa未満を許容範囲とした。
得られた缶ボディ用アルミニウム合金板のブランク材については、容量350ccの飲料缶に加工した。
【0050】
「耳率」
得られた缶ボディ用アルミニウム合金板の異方性評価として、カップ成形における耳率を測定した。
耳率は、素材をエリクセン試験機で深絞り加工したカップの側壁高さから計算した。加工条件はポンチ径;33mm(平頭ポンチ)、絞り比;1.75、しわ押さえ力;3kNとした。このカップの側壁高さをデジタルマイクロメーターで測定し、次式により耳率を算出した。
(山平均高さ−谷平均高さ)÷谷平均高さ×100=耳率(%)
なお、0°および180°の山の平均高さと45°、135°、225°、315°の山の平均高さをそれぞれ求め、いずれか高い方の山を上式の山平均高さとした。また、90°および270°の谷平均高さを求め、上式の谷平均高さとした。
耳率による異方性の評価としてはn=3の平均値で、1.5%未満を「◎」、1.5%以上2.5%未満を「○」、2.5%以上3.5%未満を「△」、3.5%以上を「×」とした。「◎」および「○」を合格レベルと判断した。
【0051】
ネック成形性の評価は、すべての試料について350cc飲料缶に成形して実施した。DI成形後の缶の口端部をトリムにより除去し、洗浄乾燥後、缶内外面に塗装印刷を施し、ダイネック成形およびスピンフロー成形を行い、内径およそ55mmの350cc飲料缶のネック形状とした。なお、DI成形の際に、ネック成形加工を受ける部位の肉厚を薄くすることにより、ネック成形加工にお
いてカール部
とネジ部を
形成するべき部分に生じる割れを促進評価した。各試料24缶の製缶を行い、
カール部及びネジ部形成相当部に割れが発生した缶数を目視にて計数し、ネック成形不良率を求めた。ネック成形不良が認められない場合を◎、ネック成形不良率が5%以下の場合を○、ネック成形不良率が5%〜10%を△、10%を超える場合を×とした。◎または○の場合を合格とし、△または×を不合格と判定した。
以上の結果を以下の表1〜表4に記載した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表1、表3に示すようにNo.1〜16の実施例試料は、それぞれ望ましい合金成分、第1パス〜第3パスの出側温度、第1冷間圧延圧下率、第1中間焼鈍条件、第2冷間圧延圧下率を満たしているので、
AB耐力に優れ、異方性がなく、ネック成形性にも優れたアルミニウム合金板であった。
これらの実施例試料に対し、No.17の比較例試料は熱間仕上圧延第1パスの出側温度を望ましい範囲の380℃以下より高い385℃に設定した試料であるが、異方性が悪化し、ネック成形性にも問題を生じた。
No.18の比較例試料は熱間仕上圧延第2パスの出側温度を望ましい範囲の340℃以下より高い345℃に設定した試料であるが、異方性が悪化し、ネック成形性にも問題を生じた。
No.19の比較例試料は熱間仕上圧延第3パスの出側温度を望ましい範囲の310℃以下より高い315℃に設定した試料であるが、異方性、ネック成形性共に悪化した。
【0057】
No.20の比較例試料は熱間仕上圧延第3パスの出側温度を望ましい範囲の
240℃以上より低い225℃に設定した試料であるが、異方性が悪化し、ネック成形性にも問題を生じた。
No.21の比較例試料は第1冷間圧延の圧下率を望ましい範囲の10%以上より低い8%に設定した試料であるが、異方性が悪化し、ネック成形性にも問題を生じた。
No.22の比較例試料は第1冷間圧延の圧下率を望ましい範囲の20%以下より高い22%に設定した試料であるが、異方性、ネック成形性共に悪化した。
No.23の比較例試料は第1中間焼鈍処理を行わない試料であるが、異方性、ネック成形性共に悪化した。
No.24の比較例試料は第1中間焼鈍処理の温度を低くし過ぎた試料であるが、異方性、ネック成形性共に悪化した。
No.25の比較例試料は第1中間焼鈍処理の温度を高くし過ぎた試料であるが、異方性は良好であるものの、ネック成形性が悪化した。
【0058】
No.26の比較例試料はアルミニウム合金の成分においてSi含有量を多くし過ぎた試料であるが、異方性は良好であるものの、ネック成形性が悪化した。
No.27の比較例試料はアルミニウム合金の成分においてFe含有量を少なくし過ぎた試料、No.28の比較例試料はFe含有量を多くし過ぎた試料であるが、異方性は良好であるものの、ネック成形性が悪化し、Feが少ない場合はダイスに焼き付きを生じた。
No.29の比較例試料はアルミニウム合金の成分においてCu含有量を少なくし過ぎた試料、No.30の比較例試料はCu含有量を多くし過ぎた試料であるが、Cu過少の場合に
AB耐力が低下し、異方性が悪化し、Cu過剰の場合にネック成形性が悪化した。
No.31の比較例試料はアルミニウム合金の成分においてMn含有量を少なくし過ぎた試料、No.32の比較例試料はMn含有量を多くし過ぎた試料であるが、Mn過少の場合に異方性、ネック成形性ともに悪化し、焼き付きが生じるとともに、Mn過剰の場合に異方性が悪化し、ネック成形性も悪化した。
No.33の比較例試料はアルミニウム合金の成分においてMg含有量を少なくし過ぎた試料、No.34の比較例試料はMg含有量を多くし過ぎた試料であるが、Mg過少の場合に異方性、ネック成形性ともに悪化し、Mg過剰の場合に異方性が悪化し、ネック成形性も悪化した。
No.35の比較例試料は安定化焼鈍の温度を高くし過ぎた試料であるが、異方性、ネック成形性は良好であるが
AB耐力が低下した。