(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における平面視した場合における形状が、長さ方向に走る仮想の中心線を境目として線対称となっている、
請求項1〜2のいずれかに記載のハンマーウッド。
前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における側面視した場合におけるその厚さが、その後端に近づくに連れて小さくなるようになっている、
請求項1記載のハンマーウッド。
【背景技術】
【0002】
ピアノは多数の弦を備えており、各弦を叩いて発音を行うための構造を備えている。それは広く知られているように、アクションと呼ばれる。
ピアノのアクションは、演奏者がピアノの鍵を押したときに、その鍵の動作をハンマーヘッドに伝える。演奏者がピアノの鍵を押すとその動きはハンマーヘッドに伝えられ、ハンマーヘッドは弦に向かって進んで結果的に弦を叩く。それによりピアノは発音するのである。ピアノのアクションは長い歴史の中で様々な目的のために改良されてきているが、ハンマーヘッドが弦を叩くことにより発音するというピアノの発音の原理は、ピアノの長い歴史の中でも変わっていない。
ピアノには、多数の弦がピアノで発音させる音階の数だけ横並びで設けられる。鍵、ハンマーヘッド、及びそれらを繋ぐアクションはそれぞれ、各弦を打つために、各弦と対応付けられ、弦と同数だけ、横並びの状態でピアノに設けられる。
【0003】
ピアノのアクションに含まれるピアノのアクション用のハンマーは、多くの場合3つの部材でできている。3つの部材は、ハンマーシャンク、ハンマーウッド、及びハンマーフェルトである。
これらのうち、ハンマーシャンクと、ハンマーウッドは、ある程度の剛性を有する素材でできており、場合によっては樹脂、金属等で構成される場合もあるが、一般的には木材でできている。他方ハンマーフェルトは、柔軟性を有する素材でできており、場合によってはゴム等を用いて作られることもあるが、一般的にはその名からわかるようにフェルトでできている。もっともハンマーフェルトは、複数種類の素材を用いて、複数の層で構成されることもある。
これらのうちハンマーウッド及びハンマーフェルトを併せたものを、本願ではハンマーヘッドと定義する。従来のアップライトピアノにおけるアクションに含まれる典型的なハンマーヘッドを
図10に示す。
【0004】
ハンマーシャンクはハンマーウッド34を支持するための棒状体である。多くの場合、ハンマーシャンクは断面円形の棒状体であるが、断面形状はそれには限らない。ハンマーシャンクは、その先端側にハンマーウッド34が固定され、且つその基端側がアクションの中の適切な部材に回転可能に軸支される。例えば、アップライトピアノの場合であれば、ハンマーシャンクは、回転可能にされたバットにその基端が固定され、バットとともに回転するようにされるのが通常である。ハンマーシャンクが、その基端側を軸とした回転運動を行うことにより、ハンマーウッド34は弦に向かって進み、また弦から離れるように後退する。
ハンマーウッド34は、ハンマーフェルト36をその前端側(弦を打つ側)に固定するための部材である。ハンマーウッド34は、所定の長さを有する棒状体であり、多くの場合、その長手方向がハンマーシャンクと略直交するようにして、ハンマーシャンクの先端に固定される。ハンマーウッド34のハンマーシャンクに固定される位置は、多くの場合、その後端寄りの部分である。ハンマーウッド34は大抵、その後端側の一定の範囲は断面矩形(若しくは正方形)の直方体形状とされる。ハンマーウッド34の前端側は、その上下方向の厚さが、前端に近づくに連れて小さくなる先細りの形状をしている。ハンマーウッド34の幅はその長さ方向の全長にわたって同じであり、ハンマーウッド34の前端側は、その先端に近づくに連れてその厚さは減じていくものの、その幅は変わらないように構成されるのが通常である。なお、特にアップライトピアノの場合には、ハンマーシャンクは、断面矩形とされたハンマーウッド34の後端側の部分の底面に、略垂直に又は斜めに(ハンマーウッド34の側面から見た場合には略垂直であるが、ハンマーウッド34の前方又は後方から見た場合には略垂直ではない角度。)で取付けられる場合がある。他方、グランドピアノの場合には、ハンマーシャンクは、ハンマーウッド34の底面に略垂直に取付けられる。いずれの場合においても、本願では、ハンマーシャンクが取付けられる部分を、ハンマーウッド34の「下(側)」或いは「底面」と定義する。
ハンマーフェルト36は、ハンマーウッド34のその厚さが減じていくように構成された部分を含むハンマーウッド34の先端側の上下を、ハンマーウッド34の幅と等しい幅で覆うようにされている。
上述したように通常、ハンマーウッド34の幅はその長さ方向のすべての部分で一定である。ハンマーウッド34とハンマーフェルト36により構成されるハンマーヘッド35の幅は、ハンマーへッド34の幅により規定される一定の幅とされる。つまり、ハンマーヘッド34に取付けられるハンマーフェルト36の幅は、ハンマーウッド34の幅と同じにされる。ハンマーヘッド35には、狭い間隔で多数横並びにされた弦の中から予定された弦を必ず打つことができるだけの幅が与えられる必要があるが、他方、それが打つことが予定された弦以外の隣接する他の弦を打たないようにするための幅の狭さが必要である。ハンマーヘッド35は、そのような条件を満たすように構成されている。
【0005】
ピアノのハンマーは以上のように構成される。また、ピアノのハンマーの以上のような構成は、ピアノがアップライトピアノであろうと、グランドピアノであろうと変わらない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようなピアノのハンマーは、広く普及しており、ピアノを発音させるための機能として十分なものであると考えられている。実際、日本の特許庁から過去5年の間に出願公開されたピアノ関連の特許出願のうち、発明の名称に「ハンマー」の語を含むものは5件程度である。
つまり、ピアノのハンマーには殆ど改良の余地はないと、一般には考えられている。
【0007】
しかしながら、本願発明者の研究によれば、ピアノのハンマーにも未だに改良すべき点が残っている。それは以下のようなものである。
本願発明者はピアノのハンマーを超高速度で撮影してみた。そうすると、ハンマーの動きについて従来知られていない現象を知ることができた。その基端側の軸に軸支されて、ある平面内を進み或いは後退するように回転運動を行うと信じられていたハンマー及びハンマーヘッド35は、実際には、その平面からずれ、特に弦に向かって進むときにおいては、大げさに言うと蛇行しながら弦に向かうことがある、というのが本願発明者が得た新たな知見である。
ハンマーの弦に対する打突は、まさにピアノの発音に関する。ハンマーの幅方向の中心で弦を叩けるかどうかは、ピアノの発音の良否に強く関係する。そしてもちろん、弦に向かって進むハンマーが蛇行するというのは、ピアノの発音が悪くなる場合があるということを意味する。例えばピアノの弦の中には、横並びの数本(例えば3本)の細い弦をまとめて1本の弦として扱い、それら数本の弦をまとめて1つのハンマーで叩くようになっているものが存在するが、そのような弦においてはハンマーが本来の軌道から横にずれると、弦にハンマーが到達したときにすべての数本の弦を均等に叩けないということが生じ得る。
【0008】
本願発明は、ハンマーが弦に向かうときに、ハンマーヘッドが予定された平面内から外れないように進むことができるようにすることを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者の考えによれば、ハンマーヘッドが蛇行するのは、以下のような理由による。
ハンマーヘッドが弦に向かって進行するとき、ハンマーウッドの後端の周囲には、空気による乱流が生じる。おそらくランダムに生じるこの乱流が生じる力により、ハンマーヘッドは蛇行するのである。ピアノのハンマーヘッドが弦に向かって進む速さは、かなりの速さで進む。かかるかなりの速さで進むハンマーヘッドにおけるハンマーウッドの後端に、進行方向に垂直な平面である後端面34Xが存在すると、その平面の各頂点には3つの平面(例えば、後面と上面と側面)が集まることになるので、その周囲に乱流が生じることは十分にあり得ることである。
この乱流がハンマーヘッドの蛇行の原因であり、上述の乱流の発生を無くすことができれば、ハンマーヘッドはある平面内でより理想的な軌道に近い円運動を行うことができ、そしてピアノの音はより良くなると本願出願人は考えた。
以上のような観点から、以下に説明する本願発明はなされた。
【0010】
本願発明者は以下の発明を提案する。
本願発明は、ピアノのハンマーウッドである。本願でいうピアノは、グランドピアノであると、アップライトピアノであるとを問わない。
そして、このハンマーウッドは、その後端に、その長さ方向に直交する平面である後端平面が存在しないか、後端平面が存在するにしても、それがハンマーシャンクと接続される部分におけるその長さ方向に直交する断面よりも、その断面積が小さくなっており、弦に向かってハンマーウッドが進行するときに、その後端の周囲に、空気による乱流が生じにくいようにされている。
かかるハンマーウッドであれば、乱流が生じる原因である後端平面が存在しないか或いは小さいので、ハンマーウッド或いはそれを含むハンマーヘッドが弦に向かって進行するときに生じる上述の乱流の発生を抑制することが可能となる。したがって、このハンマーウッドを用いたハンマーヘッドであれば、ある平面内でより理想的な軌道に近い円運動を行うことができ、そしてピアノの音を良くすることができるという効果を生じる。
例えば、従来のハンマーウッドの後端側は直方体形状であった。その後端の平面、つまり後端平面の4つの角を丸める処理をしただけでも、乱流の発生は抑制される。
なお、本願発明のハンマーウッドの前方側の特にハンマーフェルトでその上下が覆われる部分の形状は、従来のハンマーウッドの形状を踏襲することができる。
【0011】
本願発明のハンマーウッドは、前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分において、その後端に近づくに連れその幅がその直前のハンマーウッドの幅と同じか小さくなり、且つその後端に近づくに連れその厚さがその直前のハンマーウッドの厚さと同じか小さくなるようになっていても構わない。
ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における幅が、その直前の幅と同じか小さくなるというのは、その所定の部分においてハンマーウッドの幅が広くなったり狭くなったりすることがない、即ちハンマーウッドを平面視した場合においてその幅方向で波打つような形状になることがない、ということである。ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における厚さが、その直前の厚さと同じか小さくなるというのは、その所定の部分においてハンマーウッドの厚さが厚くなったり薄くなったりすることがない、即ちハンマーウッドを側面視した場合においてその厚さ方向で波打つような形状になることがない、ということである。幅方向においても、厚さ方向においても、上述の如き波打つような凹凸がハンマーウッドの表面に存在すると、乱流の発生の原因となる。
そのような凹凸をなくすことで、本願発明のハンマーウッドを含むハンマーヘッドは、ある平面内でより理想的な軌道に近い円運動を行うことがより良くできるようになり、そしてピアノの音を良くすることがでより良くできるようになるという効果を生じる。
【0012】
本願発明のハンマーウッドは、前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における平面視した場合におけるその幅が、その後端に近づくに連れて小さくなるようになっていてもよい。これにより、本願発明の上述の効果がより強調されることになる。
ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における平面視した場合におけるその幅が、その後端に近づくに連れて小さくなるようになっている場合、平面視した場合におけるその幅が、その後端に近づくに連れて小さくなるようになっている部分では、その後端に近づくに連れてその幅が小さくなる比率が増すようになっていても構わない。ハンマーウッドを平面視した場合における形状を、後端に向かって鋭くなるような形状とすることにより、本願発明の上述の効果が更に強調されることになる。
【0013】
本願発明のハンマーウッドは、前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における平面視した場合における形状が、長さ方向に走る仮想の中心線を境目として線対称となっていても構わない。
ハンマーウッドの後端寄りの所定の部分を左右対称の形状とすることにより、ハンマーウッドの後端の周辺に乱流が生じることをより抑制することができるようになる。
【0014】
本願発明のハンマーウッドは、前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分におけるその両側面が、滑らかな曲面になっていても構わない。
このような形状をハンマーウッドに与えることにより、ハンマーウッドの後端の周辺に乱流が生じることをより抑制することができるようになる。
【0015】
本願発明のハンマーウッドは、前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における側面視した場合におけるその厚さが、その後端に近づくに連れて小さくなるようになっていてもよい。
ハンマーウッドのハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの厚さは一定でも構わないが、ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における側面視した場合におけるその厚さが、その後端に近づくに連れて小さくなるようにすることにより、上述した本願発明の効果がより強調される。
ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分における側面視した場合におけるその厚さが、その後端に近づくに連れて小さくなっている場合、ハンマーウッドの前記ハンマーシャンクと接続される部分よりも後端寄りの所定の部分におけるその上面が、滑らかな曲面になっていても構わない。
このような形状をハンマーウッドに与えることにより、ハンマーウッドの後端の周辺に乱流が生じることをより抑制することができるようになる。
【0016】
本願発明者は、以上のハンマーウッドと同様の効果を生じるものとして、以下のハンマーヘッド、ハンマー、アクション、及びピアノをも、本願発明の一態様として提案する。
その一例となるハンマーヘッドは、以上説明した本願発明のいずれかのハンマーウッドと、前記ハンマーウッドの前記ハンマーシャンクと接続される部分より前端寄りの所定の部分を覆うハンマーフェルトと、を備えてなる、ピアノのハンマーヘッドである。
その一例となるハンマーは、以上説明した本願発明のいずれかのハンマーウッドと、前記ハンマーウッドの前記ハンマーシャンクと接続される部分より前端寄りの所定の部分を覆うハンマーフェルトと、前記ハンマーウッドと接続されたハンマーシャンクと、を備えてなる、ピアノのハンマーである。
その一例となるアクションは、ハンマーの少なくとも1つとして、以上で説明した本願発明のいずれかのハンマーウッドと、前記ハンマーウッドの前記ハンマーシャンクと接続される部分より前端寄りの所定の部分を覆うハンマーフェルトと、前記ハンマーウッドと接続されたハンマーシャンクと、を備えてなるピアノのハンマーを有する、ピアノのアクションである。
その一例となるピアノは、ハンマーの少なくとも1つとして、以上で説明した本願発明のいずれかのハンマーウッドと、前記ハンマーウッドの前記ハンマーシャンクと接続される部分より前端寄りの所定の部分を覆うハンマーフェルトと、前記ハンマーウッドと接続されたハンマーシャンクと、を備えてなるピアノのハンマーを有する、アクションを含んでいる、ピアノである。
上述のアクションとピアノにおいては、それらに含まれるハンマーウッドの少なくとも1つが以上で説明した本願発明のいずれかのハンマーウッドであれば良いが、それらに含まれるハンマーウッドのすべてが以上で説明した本願発明のいずれかのハンマーウッドであっても良いし、その方が好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
この実施形態では、ピアノとして、アップライトピアノの構成について説明する。
もっともこの実施形態におけるアップライトピアノは、そのハンマーウッドの構成を除いてすべて、従前のアップライトピアノとその構成を同じくする。
それ故、本来であれば、そのハンマーウッドの構成を除いて、アップライトピアノの構成について説明を行うまでもないが、一応アップライトピアノの全体的な構成についても説明を行う。
また、以下に説明するアップライトピアノのハンマーウッドは、そのままグランドピアノのハンマーウッドとしても流用することができる。グランドピアノの構成については、その説明を省略する。
【0020】
以下、本発明の一実施形態であるアップライトピアノの構成を説明していく。なお、以下の説明において、「時計回り」あるいは「反時計回り」というときは、
図2から
図3における時計回りあるいは反時計回りのことをいうものとする。
また、この実施形態の説明において、前後の概念はアップライトピアノに向かった演奏者の頭部の前後に倣うものとする。
【0021】
図1に、アップライトピアノの概観を表した斜視図を示す。この図においては、アップライトピアノのアクションを隠すための化粧板であるいわゆる前パネルが外されている。
よく知られているように、アップライトピアノは横並びに配列された多数の鍵1を備えている。
また、アップライトピアノは、多数の弦90を有している。鍵1と弦90の数は同数である。多数の弦90は、その長さを稼ぐために斜めに張り渡されている。向かって左側の所定本数の弦90は
図1で向かって右下がりに、向かって右側の残りの弦90は
図1で向かって左下がりに、それぞれ張り渡されている。右下がりの弦90と左下がりの弦90とはその下方で交差しており、右下がりの弦90が
図1における手前側に位置している。このような弦90の張り渡し方は、交差弦と呼ばれ、極普通のものである。
図中32がハンマーである。ハンマー32は、鍵1及び弦90と同数であり、横並びに配列されている。
左から順にならぶハンマー32、鍵1、及び弦90は、左からの順番が同じもの同士で対応付けられている。例えば、一番左の鍵1を押すと一番左のハンマー32が一番左の弦90を打ち、左から二番目の鍵1を押すと左から二番目のハンマー32が左から二番目の弦90を打つが如きである。
【0022】
図2〜3にアップライトピアノのアクション7を示す。これら各図では代表して、一組の鍵1及び弦90と、それらを繋ぐアクション7(ハンマー32はアクションに含まれる。)のみを図示する。
【0023】
鍵1は、その中央部が、筬3に立設されたバランスピン(図示せず)に、回転可能に支持されている。鍵1の
図2等でその記載が省略されている、
図2等の右側外に位置する記載の省略された後端を演奏者が押し込むと、鍵1の
図2等で左側に位置する前端が、鍵1の全体がバランスピンを軸として行うシーソー運動によって持ち上げられるようになっている。
筬3の左右端部にはブラケット(図示せず)がそれぞれ形成されている。左右のこれらのブラケットの間には、センターレール4が架け渡されて固定されている。
鍵1の前端部上方にアクション7が形成されている。アクション7は、弦90を打つための中心的な部材として、ウィッペン8、ジャック18、バット25、及びハンマー32を有する。
【0024】
ウィッペン8は、アップライトピアノの前後方向に伸びる部材であり、鍵1の前端が持ち上げられたときにその全体が持ち上げられるようになっている。ジャック18は、側面視略L字型をした部材であり、ウィッペン8が持ち上げられたときに、それと一緒に上方に移動するようになっている。ウィッペン8の上端の後述する突き上げ部が、バット25の後述する被突き上げ部を下から突き上げることにより、バット25が回転するようになっており、バット25が回転することにより、バット25にその基端が固定されているハンマー32が回転する、というのがハンマー32が回転する理屈の要点である。
以下、詳述する。
【0025】
上述したセンターレール4の下側には、ウィッペンフレンジ10が設けられている。ウィッペン8はその前端寄りの所定の部位で、ウィッペンフレンジ10に回転可能に軸支されている。ウィッペン8の前端部にはスプーン9が立設されている。
ウィッペン8はウィッペンフレンジ10よりも後側におけるその下側にヒール11を有しており、また、その上側にジャックフレンジ12を有している。ジャックフレンジ12は、ウィッペン8に対して回転可能として、ウィッペン8とジャック18とを接続するためのものである。ウィッペン8のヒール11は、鍵1の前端に固定されたキャプスタンボタン2を介して、鍵1の前端部の上に載っている。これにより、鍵1が持ち上げられたときに、キャプスタンボタン2を介してウィッペン8が持ち上げられるようになっている。
ウィッペン8の後端部には、バックチェックワイヤ14が立設されており、その先端にバックチェック15が取り付けられている。
また、ウィッペン8の更に後端部には、ブライドルワイヤ71が立設されている。ブライドルワイヤ71と、後述するキャッチャーとの間には、例えば紐又は帯であるブライドルテープ72が、初期状態ではやや弛んだ状態で張り渡されている。
【0026】
ジャック18は、後方に突出するジャックテール19と、ジャックテール19の前端から上方向に延びる突き上げ部20とを有し、ジャックテール19と突き上げ部20とが側面視で略L字型をなすようにされている。ジャックテール19と突き上げ部20とがなす角部において、ジャック18はジャックフレンジ12に回転可能に軸止されている。ジャックテール19の後側の端部と、ウィッペン8のジャックフレンジ12よりも後側の部分との間に、それらにその上端と下端が接続された状態で、ジャックスプリング13が設けられている。
ジャックスプリング13は、ジャックテール19を上方に付勢することにより、ジャック18に対して反時計回り方向に回転する力を加えるバネであり、通常はコイルスプリングである。
【0027】
ジャック18のジャックテール19の上方に、レギュレーティングボタン47が設けられている。レギュレーティングボタン47は、レギュレーティングレール48に螺合するレギュレーティングスクリュー49の先端に支持されている。レギュレーティングレール48は、アップライトピアノの幅方向の全長に渡って伸びる長尺の部材である。レギュレーティングレール48はフォークスクリュー50によりセンターレール4に固定的に取り付けられている。
【0028】
ジャック18の突き上げ部20の後方に、アップライトピアノの幅方向の全長に渡って伸びる長尺の部材であるジャックストップレール53がある。ジャックストップレール53は、ジャックストップレールスクリュー54によりセンターレール4に固定して取り付けられている。ジャックストップレール53は、ウィッペン8が上昇するときに時計回りに回転するジャック18の突き上げ部20を受け止めることによりジャック18の回転を中止させるものである。
【0029】
ハンマー32は、弦90を打つためのものである。ハンマー32の構成は、ハンマーウッド34の構成を除いて従来のハンマー32と同じで良く、この実施形態ではそうされている。ハンマー32は、これには限られないがこの実施形態では、ハンマーフェルト36を除いて木製である。なお、ハンマー32の特にハンマーウッド34の構成については、追って詳述するが、以下ハンマー32の構成について簡単に述べる。
ハンマー32は、ハンマーシャンク33とハンマーウッド34と、ハンマーフェルト36とを有している。ハンマーウッド34は、ハンマーシャンク33の上端から前方に延びる部材である。ハンマーフェルト36は直接弦90を打突する部材であり、ハンマーウッド34の前端の上下を跨ぐようにしてハンマーウッド34に取付けられている。ハンマーウッド34とハンマーフェルト36とを併せたものがハンマーヘッド35である。
【0030】
棒状体、より詳細にはこれには限られないがこの実施形態では断面円形の棒状体であるハンマーシャンク33の基端は、バット25に接続されている。バット25は、その前側面の下の部分で、センターレール4の後側上部に設けられたバットフレンジ26に回転可能に軸止されている。これによりバット25は、回転可能となり、バット25に接続されたハンマーシャンク33を含むハンマー32も回転可能となっている。バット25は、その下側面に被突き上げ部27を有している。被突き上げ部27は、ジャック18が上方向に移動したときに、ジャック18の突き上げ部20の上端によりその下側から突き上げられる部分である。ジャック18の突き上げ部20で被突き上げ27を突き上げられることにより、バット25は反時計回りに回転するようになっており、それに伴って回転するハンマー32のハンマーヘッド35が弦90を打つようにされている。
バット25の被突き上げ部27には、革製のスキン75が貼られている。バット25の後側面の上部には、キャッチャーシャンク28を介してキャッチャー29が取り付けられている。キャッチャー29は、上述したバックチェック15との組合せにより、バット25の回転を止めるものである。バット25が初期位置にあるときには、キャッチャー29はバックチェック15から離れており、バット25がジャック18に突き上げられて反時計回りに回転し、それと同時にウィッペン8の後端が反時計回りに回転すると、キャッチャー29はバックチェック15に捕らえられる。その後ウィッペン8の全体が時計回りに回転しつつ下降することにより、その後端が時計回りに回転しながら大きく下がると、バックチェック15に捕らえられたキャッチャー29は、素早くバックチェック15から離れて再び回転可能となるようになっている。バット25の後側面のうちキャッチャーシャンク28の付け根より下にある部分にも、例えば革製のスキン76が貼られている。すなわち、バット25において、被突き上げ部27よりも後方側かつ上方側にある面にスキン76が貼られている。スキン75の後端とスキン76の下端は連続しており、スキン75とスキン76とは結果として一体となっている。
バット25の前側の面には、バットスプリング25Aが設けられている。バットスプリング25Aは、バット25に対して常に、時計回りの力を与えるためのバネである。バットスプリング25Aからの力により、弦90に向かってハンマー32が回転するに際してハンマー32とともに反時計回りに回転したバット25は素早く元の位置に復帰するようになっている。
【0031】
アクション7は、またダンパー39を備えている。ダンパー39は、弦90の振動を静止するための機構である。
ダンパー39は、ダンパーレバー40、ダンパーワイヤー43、ダンパーヘッド44を有する。
ダンパーレバー40は、その中央部で、センターレール4の前側上部に固定したダンパーフレンジ41に回転可能に軸止されている。ダンパーレバー40は、その後側面下端部が、スプーン9の先端と対向している。ダンパーヘッド44は、ダンパーワイヤー43を介してダンパーレバー40の上端に取り付けられている。ダンパーヘッド44は、ダンパーレバー40に取り付けられたダンパースプリング42から力を受けて弦90に圧接するようになっている。
【0032】
ハンマーシャンク33の後方にハンマーストップレール55があり、ダンパーワイヤー43の後方にダンパーストップレール56がある。ハンマーストップレール55とダンパーストップレール56は、アップライトピアノの左右に存在する前述のブラケットの間にそれぞれ架け渡されて固定されている。
【0033】
次に、このアップライトピアノの使用方法、及び動作について説明する。
先ず、鍵1が休止状態にある場合について説明する(
図2を参照)。鍵1が休止状態にある場合、鍵1の後端は最も上昇した位置にあり、鍵1の前端は最も下降した位置にある。そして、ウィッペン8も最も下降した位置にある。
ジャック18の突き上げ部20の突端は、バット25の被突き上げ部27の下に入って係合している。ジャックテール19はレギュレーティングボタン47から離れている。突き上げ部20とジャックストップレール53との間は離れている。
またこのとき、バット25と接続されたキャッチャー29は、最も下降した位置にあり、キャッチャー29はバックチェック15から離れている。ハンマーシャンク33はハンマーストップレール55に接した状態となっており、ハンマーヘッド35及びハンマーウッド34は弦90から最も離れた位置にある。また、ダンパーヘッド44はダンパースプリング42の力により弦90に圧接している。
【0034】
次に、演奏者が鍵1を押鍵し、鍵1の後端部が休止状態の位置から最も押し下げられた位置まで下降する場合について説明する(
図3を参照)。
演奏者が鍵1を下に押すと、鍵1が時計回りの方向に回転し、鍵1の前端部が上昇する。そうすると鍵1の前端部が、キャプスタンボタン2を介してウィッペン8のヒール11を突き上げ、ウィッペン8がウィッペンフレンジ10を中心として反時計回りの方向に回転しつつ上昇する。
ウィッペン8が回転を開始すると、直ちに、ウィッペン8の後端に設けられたスプーン9がダンパーレバー40の下端を前方に押し、ダンパーレバー40がダンパーフレンジ41を中心として時計回りの方向に回転するのに伴って、ダンパーヘッド44が弦90から離れる。これにより、弦90は振動できる状態となる。
ウィッペン8の回転と上昇に伴って、ジャック18がウィッペン8と共に上昇する。そしてジャック18が上昇すると、ジャック18の突き上げ部20の上端が、バット25の被突き上げ部27を突き上げる。
【0035】
突き上げ部20の突端が被突き上げ部27を突き上げた後も、ウィッペン8は上昇と反時計回りの回転とをし続ける。突き上げ部20の突端が被突き上げ部27を突き上げた後に、ジャックテール19がレギュレーティングボタン47に当たる。その後も、ウィッペン8は回転と上昇を続ける。そうすると、レギュレーティングボタン47がジャックテール19を上から押さえるので、ジャック18がジャックフレンジ12を中心として時計回りの方向に回転し、突き上げ部20の突端が被突き上げ部27の下から後方に離脱し、突き上げ部20と被突き上げ部27との係合が解除される。これをレットオフという。レットオフした突き上げ部20は、ジャックストップレール53に当接し、その回転を止める。
【0036】
バット25は、その被突き上げ部27をジャック18の突き上げ部20によって突き上げられた反動により、バットフレンジ26を中心として反時計回りの方向に回転を開始する。それに伴い、バット25と接続された、ハンマー32が反時計回りの方向に回転する。ハンマー32が回転すると、ハンマーヘッド35は弦90に向かって進む。そして、ハンマーヘッド35は弦90を打つ。弦90は、ハンマーヘッド35のハンマーフェルト36が衝突して振動することにより、音を発する。
【0037】
ハンマーウッド34が弦90を打った後、ハンマー32は反転して時計回りの方向に回転する。そして、キャッチャー29がバックチェック15に捕まり、ハンマー32は停止する。このとき、鍵1の後端は休止状態の位置から最も下降しており、鍵1の前端は休止状態の位置から最も上昇している。また、突き上げ部20の突端は、被突き上げ部27よりも上方にあり、スキン76の後側に位置している。
【0038】
次に、演奏者が鍵1を離鍵し、鍵1の後端部が最も押し下げられた位置から上昇する場合について説明する。
演奏者が鍵1を離鍵すると、鍵1が反時計回りの方向に回転し、鍵1の前端部が下降を開始する。鍵1の前端部が下降すると、ウィッペン8が、時計回りの方向に回転しつつ下降する。ウィッペン8が下降を開始すると、直ちに、キャッチャー29がバックチェック15から離れ、ハンマー32は回転可能になる。
【0039】
鍵1の後端部が最も押し下げられた位置から休止状態の位置に向かってある程度戻ると、ジャックテール19はレギュレーティングボタン47に接するだけとなり、レギュレーティングボタン47がジャックテール19を上から押さえつける力がなくなる。そうすると、元々常にジャック18に対して反時計回りの力を与えているのに加えて、その撓みが大きくなったジャックスプリング13は、ジャック18に反時計回りで回転するような力をより大きく与える。これによりジャック18は、再びバット25の被突き上げ部27の下へと戻っていく。
他方、ハンマー32及びそれと接続されたバット25はバットスプリング25Aがバット25に与える力と、ブライドルテープ72に入った張力によりキャッチャー29が引き戻される力とにより、時計回りに回転し元の位置に戻る。ハンマー32及びバット25が元の位置に戻るのと前後して、バット25の被突き上げ部27の下に、ジャック18の突き上げ部20が戻って、それらが再係合する。
【0040】
突き上げ部20の突端が被突き上げ部27の下に入り、ジャック18とバット25が係合すると、演奏者は、離鍵した鍵1を再び押鍵し、ウィッペン8を介して、突き上げ部20により被突き上げ部27を突き上げることができる。
つまり、同じ鍵1の後端を押すことにより再度音を出せる状態となる。
【0041】
この実施形態におけるハンマー32の特にハンマーヘッド35について詳述する。なお、この実施形態におけるアップライトピアノのハンマーヘッドはすべて、以下に説明するハンマーヘッド35となっているが、多数のハンマーヘッドのうちの少なくとも1つを以下に説明するハンマーヘッド35とし、他のハンマーヘッドを従来のハンマーヘッド35とすることも、あまり意味は無いが、可能である。
この実施形態のアップライトピアノに含まれるアクションに装着されたハンマー32の特にハンマーヘッド35に相当する部分の拡大斜視図を
図4(A)、(B)に、同ハンマーヘッド35の平面図と側面図と背面図とを
図5に、それぞれ示す。
この実施形態におけるハンマーヘッド35は、上述のように、ハンマーウッド34及びハンマーフェルト36とから構成されている。
【0042】
ハンマーウッド34は、長さ方向において3つに分けることができる。それは、前端部34Aと、接続部34Bと、後端部34Cである。これらについては追って説明するが、前端部34Aと、接続部34Bとは、従来のハンマーウッドと同じ構成でも良いこともあり、以下に説明する前端部34Aと、接続部34Bとの区別は、便宜上のものであり、それらの境界については、厳格に解する必要はない。
これには限られないが、この実施形態におけるハンマーウッド34はその全体が木材により構成されており、一体物とされている。また、これには限られないが、この実施形態におけるハンマーウッド34及びハンマーヘッド35は、その長さ方向に走る仮想の中心線に対して対称、つまり左右対称に構成されている。
【0043】
まず、その前端側の前端部34Aついて説明する。前端部34Aの構成は、上述したように従来のハンマーヘッド35と変わらないものとすることができ、この実施形態ではそうされている。前端部34Aは、そこから前に進むに連れて、その厚さが徐々に薄くなっていく部分である。また、平面視した場合における前端部34Aの幅は一定である。前端部34Aの縦断面の形状は、その幅方向のすべての部分において、その側面形状に等しくなっている。
前端部34Aの前方側の一定の範囲は、その上下を跨ぐようにされたハンマーフェルト36により覆われている。ハンマーフェルト36も、従来のハンマーにおけるハンマーフェルト36と同じで良い。ハンマーフェルト36は、前端部34Aのすべての部分を覆っても良いし、前端部34Aの後まで覆っても良いが、一般的には前端部34Aの前側の所定の範囲を覆っている。
これには限られないが、この実施形態におけるハンマーフェルト36は、内側の内ハンマーフェルト36Aと、外側の外ハンマーフェルト36Bの2層構造となっている。内ハンマーフェルト36A、外ハンマーフェルト36Bともにフェルトでできているが、内ハンマーフェルト36Aの方が密度が高くなっている。ハンマーフェルト36が、革等の他の素材でできていても良く、また他の素材を含んで多層構造となっていても良いことは従来と同様である。平面視した場合におけるハンマーフェルト36の幅は、前端部34Aの幅に等しくなっている。
【0044】
ハンマーウッド34の前端部34Aの後側には接続部34Bが設けられている。
接続部34Bは、ハンマーシャンク33の上端との接続がなされる部分である。ハンマーシャンク33とハンマーウッド34の固定は一般に、ハンマーウッド34に図示を省略の穴を穿ち、ハンマーシャンク33の上端をその穴に挿入した状態で接着することにより行われる。これには限られないが、この実施形態でもハンマーシャンク33とハンマーウッド34の固定はそのようにして行われている。
ハンマーウッド34の接続部34Bは、従来のハンマーウッドの接続部34Bと同じ程度の幅と厚さを持つのが好ましい。上述のようにハンマーウッド34とハンマーシャンク33とを固定する場合には、ハンマーウッド34の接続部34Bに穴が穿たれるが、それによるハンマーウッド34の強度の低下を生じさせないようにするためである。
接続部34Bのその下方については、平面を備えるのが好ましい。接続部34Bの下方に平面があれば、その平面に対するハンマーシャンク33の取付け角度を調節するだけで、ハンマーシャンク33に対するハンマーウッド34の角度を決定できるようになるからである。そして、この実施形態のハンマーウッド34は、その下方に平面を備えている。必ずしもこの限りではないが、この実施形態の接続部34Bは、ともに平面であり、且つ互いに平行な上面と下面とを備えている。これには限られないが、この実施形態における接続部34Bの上側と下側は、そのすべての部分で平面である。
また、接続部34Bの両側面は、これには限られないが平面であり、且つ互いに平行である。これには限られないが、この実施形態におけるハンマーウッド34の接続部34Bの両側面は、そのすべての部分で平面である。
【0045】
なお、ハンマーウッド34に固定されるハンマーシャンク33は、この実施形態では、ハンマーウッド34の接続部34Bの平面である下面に対して、略垂直に取付けられるのが原則である。しかしながら、ハンマーシャンク33は、ハンマーウッド34の下面に対して、側面視では略垂直であるが、正面または背面から見た場合に、
図5(C)の二点鎖線のように接続部34Bの下面に対して傾けて取付けられる場合もある。アップライトピアノのアクションにおいてハンマーウッド34を配列するときの主にはスペース上の理由から、ハンマーウッド34に対して上述のようなハンマーシャンク33の取付け方を行う場合があるが、これも周知技術であり、それに倣えば良い。
なお、グランドピアノのハンマーウッド34の場合には、すべてのハンマー32において、ハンマーウッド34の接続部34Bの下面に対して垂直にハンマーシャンク33が取付けられるのが通常である。
【0046】
ハンマーウッド34の接続部34Bの後側には、後端部34Cが設けられている。
後端部34Cは、ハンマーウッド34のハンマーシャンク33が取付けられた部分よりも後端寄りの部分である。後端部34Cは従来のハンマーウッドと、特にその形状において明確に異なる。
この実施形態における後端部34Cは、その後方の所定の範囲において(これには限られないが、この実施形態では後端部34Cの長さ方向の後方寄りの2/3程度の部分)、平面視した場合に、後端に向かうに連れて先細るように構成されている。平面視した場合に先細っていくその後方の所定の範囲における両側面は、平面でも良いがいずれも、曲面であり、この実施形態ではやや外側に膨らむ滑らかな曲面とされている。曲面である両側面は、この限りではないが、すべての部分において、接続部34Bの底面に垂直である。曲面である両側面は、後端部34Cの後端において鉛直な一本の辺となって交わる。つまり、この実施形態におけるハンマーウッド34は、従来技術のハンマーヘッド35が備えていたが如き後端面を有さない。その結果、この実施形態におけるハンマーウッド34の後端部34Cの平面視して後ろに向かうに連れて先細って行く部分の形状は、平面視した場合に、飛行機の翼の断面形状の如き形状とされている。
なお、この実施形態では、後端部34Cの後方に向かうに連れて先細る部分は、後端部34Cの長さ方向の後方寄りの2/3程度の部分のみであったが、より前の部分から、例えば後端部34Cの最前側の部分から後端部34Cの最も後端の部分にかけての部分を、後端部34Cの後方に向かうに連れて先細る部分とすることもできる。また、ハンマーシャンク33をハンマーウッド34へ固定するために上述の穴を設けることによるハンマーウッド34の強度の低下をそれ程生じさせないことが条件となるであろうが、もっと前の部分、例えば、接続部34B或いは前端部34Aのうちのハンマーフェルト36で覆われていない部分の後の適当な位置から後端部34Cの最も後端の部分にかけての部分を、後端部34Cの後方に向かうに連れて先細る部分とすることもできる。
【0047】
また、この実施形態におけるハンマーウッド34における後端部34Cの下側の面は、その全体が、これには限られないが、接続部34Bの下側の面から面一で連なる平面となっている。他方、ハンマーウッド34における後端部34Cの上側の面は、その全体が後端部34Cの下側の面と平行な平面となっていても構わないが、この実施形態では、これには限られないが、その後端側の所定の範囲に、その後端に向かうに連れて下っていく僅かな傾斜が与えられている。かかる傾斜が与えられた部分における後端部34Cの上側の面は、平面でも良いが滑らかな曲面である。
【0048】
このような形状を有するハンマーウッド34は、それを含むハンマーヘッド35が弦90に向かって進行していくときにおいて、ハンマーヘッド35の後端の周囲に空気による乱流が生じにくいものとなっている。
それにより、このハンマーヘッド35は、弦90を叩くときに、蛇行することなく、予定されたある平面の中でより理想的な軌道に近い軌道で回転運動を行うことが可能となる。これにより、この実施形態によるアップライトピアノの音は、通常のアップライトピアノの場合に比して良くなる。
なお、この実施形態におけるハンマーウッド34は、その後端部34Cにおける所定の部分において、その後端に近づくに連れその幅がその直前のハンマーウッドの幅と同じか小さくなり、且つその後端に近づくに連れその厚さがその直前のハンマーウッドの厚さと同じか小さくなるようになっている。これにより、このハンマーウッド34は、後端部34Cのすべての部分において、乱流を生じるような凹凸を持たないので、上述の効果はより大きくなる。
本願発明者は、この実施形態において説明したハンマーウッド34を採用したハンマーヘッド35をアップライトピアノに装着して、超高速度で、鍵1を押したときの状態を撮影してみた。そうすると、上述した通りの効果が確認された。
なお、この実施形態のハンマーヘッド35、或いはハンマーシャンク33を含むハンマー32、又はハンマー33とバット25を組合せたものは、既存の例えば販売済みの或いは店舗にあるアップライトピアノの同部品に対して置換することが可能である。また、この実施形態のハンマーヘッド35、或いはハンマーシャンク33を含むハンマー32は、既存のグランドピアノの同部品に対して置換することが可能である。そうすることにより、既存のピアノの音を向上させることができる。グランドピアノにハンマー32を応用する場合には、公知のハンマーシャンクローラをハンマーシャンクに追加することももちろん可能である。
【0049】
上述した従来のハンマーウッドとはその後端部34Cの形状が異なるこの実施形態におけるハンマーウッド34は、以下に説明する変形例のハンマーウッド34に置き換えることも可能である。それらは、主にその後端部34Cの形状、及び場合によってはその接続部34Bの形状のみが、上述したハンマーウッド34とは異なるものである。
それらによる、ハンマーヘッド35が、弦90を叩くときに、蛇行することなく、予定されたある平面の中でより理想的な軌道に近い軌道で回転運動を行うことが可能となるという効果は、上述のハンマーウッド34を採用したハンマーヘッド35を用いる場合に比べて若干劣る可能性もあるが、それでもなお従来の直方体形状の後端部を有するハンマーウッドを採用したハンマーヘッドを用いた場合に比べれば、十分な効果を奏する。
以下に、ハンマーウッド34の幾つかの変形例について説明するが、特に言及しない場合においては、変形例におけるハンマーウッド34の構成は、第1実施形態のハンマーウッド34に同じである。
【0050】
[変形例1]
変形例1のハンマーウッド34の接続部34Bと後端部34Cとを拡大して
図6に示す。
図6に示したように変形例1のハンマーウッド34も第1実施形態と同様に、平面視した場合に、その後端部34Cの幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなるように構成されている。
ただし、変形例1のハンマーウッド34の場合には、その後端に、ハンマーウッド34の長さ方向に直交するとともに、上下方向に伸びる細長い矩形の平面である後端平面34Xが存在する。これは従来のハンマーウッドに存在した後端平面に類似するが、その面積は、ハンマーウッド34のハンマーシャンク33と接続されている部分のハンマーウッド34の長手方向に直交する断面の断面積よりも遥かに小さい。
変形例1のハンマーウッド34の場合においても、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分における両側面は、接続部34Bの底面にすべての部分で垂直である。また、変形例1では、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分の両側面は、第1実施形態の場合と同様に滑らかな曲面である。また、変形例1では、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分は、接続部34Bにまで及んでいる。
変形例1のハンマーウッド34の平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分の上面には、そのすべての部分において厚さが一定であり、第1実施形態の場合において当該部分の後端側の所定の範囲に与えられていた、その後端に向かうに連れて下っていく僅かな傾斜が与えられていない。
【0051】
[変形例2]
変形例2のハンマーウッド34の接続部34Bと後端部34Cとを拡大して
図7に示す。
図7に示したように変形例2のハンマーウッド34も第1実施形態と同様に、平面視した場合に、その後端部34Cの幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなるように構成されている。
ただし、変形例2のハンマーウッド34の場合には、その後端に、変形例1の場合と同様に、ハンマーウッド34の長さ方向に直交するとともに、上下方向に伸びる細長い矩形の平面である後端平面34Xが存在する。後端平面34Xの面積は、ハンマーウッド34のハンマーシャンク33と接続されている部分のハンマーウッド34の長手方向に直交する断面の断面積よりも遥かに小さい。
変形例2のハンマーウッド34の場合においても、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分における両側面は、接続部34Bの底面にすべての部分で垂直である。また、変形例2では、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分の両側面は、滑らかな面ではあるが第1実施形態の場合とは異なり平面である。また、変形例2では、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分は、接続部34Bにまで及んでいる。
変形例2のハンマーウッド34においても、平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分の上面の後端側の所定の範囲には、第1実施形態の場合と同様に、その後端に向かうに連れて下っていく僅かな傾斜が与えられている。もっともこの傾斜が与えられている部分は、第1実施形態のように曲面ではなく、平面である。また、変形例2のハンマーウッド34の平面視した場合にその幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなる部分の下面の後端側の所定の範囲には、第1実施形態の場合とは異なり、その後端に向かうに連れて上っていく僅かな傾斜が与えられている。この実施形態では、後端部34Cの上面に与えられた下向きの傾斜と後端部34Cの下面に与えられた上向きの傾斜とは上下対称となっているが、これは必ずしも対称である必要がない。第1実施形態のハンマーウッド34の後端部34Cの下面にも、同様の上向きの傾斜を与えることが可能である。
【0052】
[変形例3]
変形例3のハンマーウッド34の接続部34Bと後端部34Cとを拡大して
図8に示す。
図8に示したように変形例3のハンマーウッド34も第1実施形態と同様に、平面視した場合に、その後端部34Cの後側の所定の範囲の幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなるように構成されている。
もっとも、変形例3のハンマーウッド34の幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなるように構成されている後端部34Cの後側の所定の範囲の形状は、第1実施形態の場合と大きく異なる。
変形例3の場合においては、当該部分は、後端に向かって凸の直角三角形の回転体である円錐形状をしている。円錐形状となっている部分は、接続部34Bに及んでいないが、これは必ずしもこの限りではない。
【0053】
[変形例4]
変形例4のハンマーウッド34の接続部34Bと後端部34Cとを拡大して
図9に示す。
図9に示したように変形例4のハンマーウッド34も第1実施形態と同様に、平面視した場合に、その後端部34Cの後側の所定の範囲の幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなるように構成されている。
もっとも、変形例4のハンマーウッド34の幅が後ろに向かうに連れて徐々に細くなるように構成されている後端部34Cの後側の所定の範囲の形状は、第1実施形態の場合と大きく異なる。
変形例4の場合においては、当該部分は、後端に向かって凸の半球形状をしている。半球形状となっている部分は、接続部34Bに及んでいないが、これは必ずしもこの限りではない。