特許第6719124号(P6719124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719124
(24)【登録日】2020年6月18日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】ワイヤソー
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20200629BHJP
【FI】
   B24B27/06 F
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-59179(P2016-59179)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-170564(P2017-170564A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132954
【氏名又は名称】株式会社タカトリ
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康二
(72)【発明者】
【氏名】米田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕一
(72)【発明者】
【氏名】五網 信貴
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−354670(JP,A)
【文献】 特表平11−504573(JP,A)
【文献】 特開2013−220482(JP,A)
【文献】 特開昭58−181564(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第03023184(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/05
B23H 7/10
H01L 21/304
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤを繰出す繰出しリールと、前記ワイヤを巻取る巻取りリールとの間で、前記ワイヤを被加工部材に押し付けることにより、前記被加工部材を切断するワイヤソーにおいて、
前記繰出しリールと、巻取りリールとを有するワイヤソーユニットを備え、
前記ワイヤソーユニットは、
前記繰出しリール及び巻取りリールにそれぞれワイヤを案内する2つのガイドプーリと、
前記繰出しリール及び巻取りリールとそれぞれ一体となって軸方向に移動する2つの移動ユニットと、
前記両移動ユニットのいずれか一方をリールの軸方向に移動させる駆動ユニットと、を備え、
前記両移動ユニットのいずれか一方をリールの軸方向に移動させて、前記繰出しリール及び巻取りリールをリールの軸方向に沿って移動させることで、前記両ガイドプーリで案内されるワイヤをそれぞれ繰出しリール及び巻取りリールの軸方向と略垂直となるように繰出し及び巻取りするようにし、且つ、前記駆動ユニットが、いずれか一方の移動ユニットを移動させると同時にもう一方の移動ユニットを逆方向に移動させることができるようにしたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
前記駆動ユニットは、偏芯カムと、偏芯カムを回転駆動するモータと、偏芯カムの偏芯軸と、両移動ユニットのそれぞれが接続されたリンク部材とを備え、前記偏芯軸が両移動ユニットのいずれか一方に接続されることで前記リンク部材を介して前記繰出しリール及び巻取りリールをリールの軸方向に移動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。
【請求項3】
前記駆動ユニットは、前記移動ユニットの移動方向に沿って設けられたボールネジと、前記ボールネジを駆動する駆動ユニットと、両移動ユニットのそれぞれに接続されたリンク部材とを備え、両移動ユニットのいずれか一方を駆動することで前記リンク部材を介して両移動ユニットをリールの軸方向に移動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。
【請求項4】
前記両移動ユニットの移動周期が正弦曲線状に制御されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【請求項5】
前記ワイヤソーユニットを、自在に移動可能なロボットアームの先端に接続したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソー及びワイヤソーのトラバース方法に関する。さらに詳しくは、ワイヤの繰出し及び巻取りを精度良く行うワイヤソー及びワイヤソーのトラバース方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、一本のワイヤを一方向または往復方向に走行させ、前記ワイヤに被加工物(例えばサファイア、シリコンカーバイド、シリコン、水晶等)を押し付けることにより前記被加工物を切断するワイヤソーが知られている。最近では、前記ワイヤの表面にダイヤモンド砥粒が電着またはレジン等で固定された固定砥粒ワイヤが広く用いられている。
【0003】
前記ワイヤソーにおいては、前記ワイヤが繰出しリールに多重に巻き付けられており、前記ワイヤが繰出しリールから繰出された後、被加工物の切断に寄与し、その後、巻取りリールに巻取られる。また、ワイヤが往復走行する場合は、巻取り側と繰出し側が所定の周期で入れ替わり、逆転走行時には、巻取りリールからワイヤが繰出され、繰出しリールにワイヤが巻き取られる(通常、往復走行でのワイヤの繰出し量に差が設けられ、所定量ずつ繰出しリールから巻取りリールへとワイヤが供給される。)。そして、ワイヤを巻取る際に、ワイヤが均一に巻き取られるようトラバース機構が設けられている(例えば特許文献1)。
【0004】
ワイヤの巻取り時にワイヤを均一に巻き取らなければ、特に固定砥粒ワイヤ方式のワイヤソーの場合、隣り合うワイヤ同士の砥粒が互いに引っ掛かって断線する問題がある。また、巻取りが偏るとリール上の外径が不規則になって回転速度が不均一となり、ワイヤが撓んだり、引っ張られたりすることでワイヤが断線する問題がある。さらには、ワイヤ同士が不均一に接触することでワイヤを傷付けたり、砥粒が脱落して早く摩耗したりする問題がある。また、往復走行時にワイヤの繰出し・巻取りが反転した際に、不均一に巻かれたワイヤが、繰出し時に引っ掛かりワイヤが早期に摩耗したり、傷付いて断線したりする問題もある。
【特許文献1】特許第5250376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されるようなトラバース機構は、繰出しリールと巻取りリールのそれぞれに対応したガイドプーリをそれぞれリールの軸方向に沿って移動させて、ワイヤを均一に巻き取るようになっている。また、前記ガイドプーリにはそれぞれ駆動源が設けられている。
【0006】
前記トラバース機構そのものをワイヤソーに搭載しようとした場合、繰出しリールと巻取りリールの両方に対応したトラバース機構を搭載すると共に駆動源も複数設ける必要がある。従って、小型のワイヤソーに適用した場合、駆動源の配置スペースも確保する必要があり、ワイヤソーそのものを大型化する必要がある。
【0007】
また、最近では卓上型やロボットの工具として小型のワイヤソーが用いられているが、上記のようなトラバース機構を搭載することが困難であり、その結果、トラバース機構を必要としないループ状の比較的短いワイヤを用いることが行なわれている。しかし、トラバース機構を設けなかった場合、短尺のワイヤを用いることになり、被加工物の材質や大きさに制限が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、ワイヤを繰出す繰出しリールと、前記ワイヤを巻取る巻取りリールとの間で、前記ワイヤを被加工部材に押し付けることにより、前記被加工部材を切断するワイヤソーにおいて、
前記繰出しリールと、巻取りリールとを有するワイヤソーユニットを備え、
前記ワイヤソーユニットは、
前記繰出しリール及び巻取りリールにそれぞれワイヤを案内する2つのガイドプーリと、
前記繰出しリール及び巻取りリールとそれぞれ一体となって軸方向に移動する2つの移動ユニットと、
前記両移動ユニットのいずれか一方をリールの軸方向に移動させる駆動ユニットと、を備え、
前記両移動ユニットのいずれか一方をリールの軸方向に移動させて、前記繰出しリール及び巻取りリールをリールの軸方向に沿って移動させることで、前記両ガイドプーリで案内されるワイヤをそれぞれ繰出しリール及び巻取りリールの軸方向と略垂直となるように繰出し及び巻取りするようにし、且つ、前記駆動ユニットが、いずれか一方の移動ユニットを移動させると同時にもう一方の移動ユニットを逆方向に移動させることができるようにした構成を採用するワイヤソーである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の発明において、前記駆動ユニットは、偏芯カムと、偏芯カムを回転駆動するモータと、偏芯カムの偏芯軸と、両移動ユニットにそれぞれが接続されたリンク部材とを備え、前記偏芯軸が両移動ユニットのいずれか一方に接続されることで前記リンク部材を介して前記繰出しリール及び巻取りリールをリールの軸方向に移動させるようにした構成を採用するワイヤソーである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1記載の発明において、前記駆動ユニットは、前記移動ユニットの移動方向に沿って設けられたボールネジと、前記ボールネジを駆動する駆動ユニットと、両移動ユニットにそれぞれ接続されたリンク部材とを備え、両移動ユニットのいずれか一方を駆動することで前記リンク部材を介して両移動ユニットをリールの軸方向に移動させるようにした構成を採用するワイヤソーである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記両移動ユニットの移動周期が正弦曲線状に制御される構成を採用するワイヤソーである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記ワイヤソーユニットを、自在に移動可能なロボットアームの先端に接続した構成を採用するワイヤソーである。
【0013】
前記請求項1から請求項5の発明において、前記繰出しリール及び巻取りリールの移動は、リールの軸方向に沿って移動するものであれば、同一方向でも互いに異なる方向であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トラバースに際して、繰出しリールまたは巻取りリールのいずれか一方をリール軸方向に駆動することで他方の繰出しリールまたは巻取りリールがリールの軸方向に沿った同一方向または互いに異なる方向に移動するので、ガイドプーリを介して繰出しリールまたは巻取りリールに軸方向と略垂直方向に正確に所定のピッチでワイヤが巻き取られる。
【0015】
また、本発明によればリールをトラバースする駆動源は1つであるので、ワイヤソーのユニットを小型化でき、コストも低減できる。
【0016】
また、本発明によればワイヤソーユニットを小型化できるので移動自在なロボットアームの先端に搭載すれば、各種の形状に被加工物を切断可能なワイヤソーを提供できる。
【0017】
また、本発明において、トラバースの移動周期を正弦曲線状に制御するようにすれば、繰出しリールと巻取りリールが円滑に移動するので、ワイヤが均一に巻き取られ、ワイヤが断線することがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】は、本発明の一実施形態に係るワイヤソーの斜視図である。
図2】は、本発明におけるワイヤソーユニット部の一部切欠き平面図である。
図3】は、図2のA−A方向矢視断面図である。
図4】は、本発明におけるワイヤソーユニット部の正面図である。
図5】は、本発明におけるワイヤソーユニット部の動作を表す説明図である。
図6】は、本発明におけるワイヤソーユニット部の動作を表す説明図である。
図7】は、本発明におけるトラバース制御の一実施形態に係るタイムチャートである。
図8】は、図2のA−A方向における本発明の別の実施形態に係るワイヤソーユニット部の矢視断面図である。
図9】は、本発明のワイヤソーで被加工物を切断する場合の動作を表す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1乃至図9に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤソーの斜視図である。本発明のワイヤソー1は、多関節ロボット4と、多関節ロボット4の先端に接続されるワイヤソーユニット2と、前記多関節ロボット4の移動範囲内に設けられたテーブル6等から構成されている。
【0021】
前記多関節ロボット4は、床面等に固定設置された機台3上に立設され、複数のアームが関節部分で自在に旋回や屈曲を行うことでアーム先端部4aが自在に移動可能になっている。また、前記多関節ロボット4のアーム先端部4aは、図示しない制御部によって、自在に移動するように制御される。
【0022】
前記多関節ロボット4のアーム先端部4aにはツールチェンジャー5を介して、ワイヤソーユニット2のフレーム軸10aが接続されており、前記ワイヤソーユニット2は、前記多関節ロボット4の駆動により、自在に移動が可能になっている。
【0023】
前記ツールチェンジャー5は、前記多関節ロボット4とワイヤソーユニット2とが着脱自在に構成すれば良く、各種の適宜な機構が用いられる。例えば、ボールプランジャー、その他の係合部材を用いて多関節ロボット4側とワイヤソーユニット2側が互いに着脱するようにすれば良い。また、磁力や吸着力等を用いて、多関節ロボット4側とワイヤソーユニット2側が互いに着脱するようにすることもできる。なお、ツールチェンジャー5を使用せずに、ワイヤソーユニット2を多関節ロボット4に直接固定するようにしても良い。
【0024】
前記ツールチェンジャー5を用いる場合は、例えば、後述するワイヤソーユニット2のワイヤ11の線径が異なるものを複数用意しておけば、各種ワークWに柔軟に対応できる。また、ワイヤソーユニット2以外に複数のツールを用意しておけば、ワイヤソーユニット2での切断に代え、穴開け加工や研磨加工等も自在に行うことができる。
【0025】
前記テーブル6は、床面等に支持部が固定され、その上面に多数の吸着孔6aが設けられている。吸着孔6aは、図示しない真空ポンプに接続され、載置される被加工物Wを吸着保持するようになっている。前記被加工物Wは、例えばシリコン、サファイア、シリコンカーバイド、CFRP等である。また、最近では、被加工物Wとして自動車、航空機等に用いられるハニカム部材も切断される。このハニカム部材は、アラミド繊維、アルミニウム等の部材で構成された多数の筒状セルが、ハニカム形状に配置されて形成されており、セルの縦方向に通気性を有する。前記通気性を有するハニカム部材等を切断する際は、通気性部材に非通気性のナイロンシート等を被せてテーブル6に吸着保持すれば良い。
【0026】
図2から図4のように前記ワイヤソーユニット2は、コの字形状のフレーム10に設けられ、リール軸20aに軸支されたワイヤ11の繰出しリール12と、リール軸20bに軸支されたワイヤ11の巻取りリール13と、前記フレーム10に設けられた複数のガイドプーリ15aから17a及び15bから17bと、前記繰出しリール12及び巻取りリール13とそれぞれ一体となってリール軸20a、20b方向に移動可能な移動ユニット30a、30bと、両移動ユニット30a、30bのいずれか一方を駆動する駆動ユニット40と、前記移動ユニット30aと移動ユニット30bにそれぞれ一端が係合されると共にその中心を軸48に回動可能に軸支されたリンク部材47等を備えて構成されている。
【0027】
前記繰出しリール12には、例えば表面にダイヤモンド砥粒が電着やレジンボンド等で固定された固定砥粒ワイヤが多重に巻き付けられている。前記繰出しリール12から繰出されたワイヤ11は、複数のガイドプーリ15a、16aを経由してガイドプーリ17aに案内された後、カバー21の外に導かれ、切断域19を形成する。ワイヤ11は、切断域19に案内された後、巻取り側のフレーム10のアーム部に導かれ、ガイドプーリ17b、16b、15bを経由して、巻取りリール13に巻取られるようになっている。
【0028】
前記切断域19の近傍には、2つの噴射ノズル14、14(図1参照)が設けられ、加工液または冷却風等が噴射されるようになっている。加工液には、水、グリコール等が用いられ、固定砥粒ワイヤを使用しない場合は、ダイヤモンド、シリコンカーバイド等の砥粒が加工液に混練されたスラリが用いられる。また、被加工物Wが加工液と化学反応したりする場合は、冷却風を噴射ノズル14から噴射させて、ドライな環境で切断することも可能である。この場合は、冷却風で切断部のワイヤ11を冷却しつつ、切断屑を吹き飛ばす。なお、冷却風の噴射に代えて、吸引することもでき、両側を吸引しても良いし、一方を吸引し、ワイヤ11の走行方向に応じて切替するようにすることもできる。
【0029】
前記ガイドプーリ15a、15bは、それぞれフレーム10に立設された支持枠に軸支されている。また、前記ガイドプーリ15a、15bには、それぞれのプーリ軸に荷重センサ18、18が設けられており、ワイヤ11の張力を測定し、ワイヤ11に所定の張力が掛かるように繰出しリール12と巻取りリール13の回転を制御するようになっている。本実施形態においてはガイドプーリ15a、15bの両方に荷重センサ18が設けられているが、いずれか一方にだけ設けるようにしても良い。
【0030】
前記ワイヤ11は、繰出しリール12及び巻取りリール13を一方向にだけ回転させて一方向走行させても良いし、前記繰出しリール12及び巻取りリール13を正転・逆転させることでワイヤ11を往復走行させるようにしても良い。ワイヤ11を往復走行させる場合は、正転・逆転に差を設け、所定量ずつワイヤ11を供給するようにすることが好ましい。前記ワイヤ11を走行させながら、切断域19のワイヤ11を被加工物Wに押し付けることで、被加工物Wを切断する。
【0031】
前記ワイヤ11は、ガイドプーリ15aを経由し、2つのガイドプーリ16a、16aに導かれて方向転換され、切断域19に供給される。前記切断域19の直前のガイドプーリ17a及び直後のガイドプーリ17bは、支持枠22に軸支され、図2のようにワイヤ11を上方から支持するようになっている。従って、切断域19のワイヤ11で被加工物Wを切断するときは、図2の下側から上側に向けて被加工物Wを押し付けるようにする。このようにすることで、被加工物Wがコの字状カバー21の懐部分に干渉しないので、切断する被加工物Wの大きさの自由度が増す。また、前記切断域19のワイヤ11を揺動させて切断する場合にフレーム軸10bを基点に多関節ロボット4のアーム先端部4aを正逆回転させるだけで切断域19のワイヤ11を揺動させることができる。なお、動作は煩雑になるが、多関節ロボット4を制御してフレーム10を揺動させることも可能である。
【0032】
前記移動ユニット30aは、L字状の移動枠31を備え、この移動枠31の表面(図3上方向)に繰出しリール12が軸支されている。前記移動ユニット30aの下方には前記繰出しリール12のリール軸20aに接続されたモータ36が設けられている。前記モータ36は、移動枠31に固定されている。
【0033】
また、リール軸20a、20bに沿った前記移動枠31の背面にはレール32が敷設されている。前記レール32に沿って、フレーム10の下面に支持枠33が下方に向けて立設され、この支持枠33に沿ってスライダ34が設けられている。前記スライダ34は、レール32に嵌合し、レール32に沿って移動枠31が上下動可能になっている。前記移動枠31は、フレーム10の開口10aを通して移動し、フレーム10と干渉しないようになっている。
【0034】
なお、前記移動ユニット30aと前記移動ユニット30bは、モータ36との接続部以外は、同様の構造であるので説明を省略する。前記移動ユニット30bも前記移動ユニット30aと同様に移動ユニット30b側のレール32に沿って上下動するようになっている。
【0035】
前記モータ36と繰出しリール12との間には、支持板35(前記モータ36の回転と独立分離されている)が設けられ、この支持板35と垂直に係合ピン50a、50bが立設されている。
【0036】
前記移動ユニット30a及び移動ユニット30bの間のフレーム10の下面には、駆動ユニット40が設けられている。前記駆動ユニット40は、前記移動ユニット30aを駆動するモータ41と、前記モータ41のモータ軸42に回動可能に接続される偏芯カム43と、前記偏芯カム43の偏芯位置に立設される偏芯軸44と、前記偏芯軸44に一端が軸支された連結棒45と、前記移動ユニット30aの移動枠31に固定され、前記連結棒45の他端側に軸支される軸46等から構成される。
【0037】
前記モータ41は、フレーム10の下方向に立設された支持板51に水平方向に固定されている。前記偏芯カム43は、モータ41のモータ軸42に軸止されている。また、前記偏芯カム43の偏芯位置には、偏芯軸44が軸止されている。前記連結棒45は、一端が前記偏芯軸44に軸支され、他端側は、前記移動ユニット30aの移動枠31に固定された軸46に軸支されている。従って、前記モータ41を駆動することで、前記偏芯カム43が回転し、前記連結棒45を介して前記移動ユニット30aが上下動する。
【0038】
前記移動ユニット30a及び移動ユニット30bの中間位置には、フレーム10の下方向に向けて支持枠49が立設されている。前記支持枠49の前面には基点としての軸48が突設されている。前記軸48には、板状のリンク部材47の中心部分が軸支されている。前記リンク部材47は、その両端に長穴47a、47bが開孔されており、両長穴47a、47bにそれぞれ前記係合ピン50a、50bが係合されている。従って、前記モータ41を駆動することで前記移動ユニット30aが駆動されると、リンク部材47が軸48を基点として揺動し、前記移動ユニット30bが前記移動ユニット30aと異なる方向に駆動される。
【0039】
以上が、本発明の第1実施形態に係るワイヤソーの構成であり、次に本発明のワイヤソーのトラバース方法について図5から図7に基づいて以下に説明する。なお、図5及び図6は、一部模式化した説明図であり、ガイドプーリ15a、15bの配置及びワイヤ11の引き出し方向は、実際と異なるように描いてあることに留意されたい。
【0040】
図5のようにワイヤソー1の繰出しリール12及び巻取りリール13を回転駆動することでワイヤ11を走行させながら、モータ41を駆動し、ワイヤ11の繰出し位置を繰り出しリール12の繰出し位置と合わせる。このとき、リンク部材47を介して、巻取りリール13を上下動させて、ワイヤ11の巻取り位置を巻取りリール13の巻取り位置と合せる。
【0041】
前記モータ41は、図示しない制御部と接続されており、回転数を制御することで各種の周期で移動ユニット30a、30bの移動が制御される。図7は、本発明におけるトラバース制御の一実施形態に係るタイムチャートである。横軸方向に時間t、縦軸方向に移動ユニット30a(実線)、30b(二点鎖線)のそれぞれの移動速度vを設定して描いたタイムチャートを表す。本実施形態においては、前記移動ユニット30a、30bの移動周期が、正弦曲線となるように制御されたものを表している。本実施形態のように前記移動ユニット30a、30bの移動周期を正弦曲線となるようにモータ41を制御することが、繰出しリール12からのワイヤ11の繰出し及び巻取りリール13へのワイヤ11の巻取りを均一に行う上で好ましい。このように移動ユニット30a、30bの移動周期を正弦曲線的に制御することで、移動ユニット30a、30bが円滑に移動し、ワイヤ11の引っ掛かりが軽減でき、ワイヤ11の断線が起こらない。
【0042】
なお、移動ユニット30a、30bは互いに異なる方向に移動するようになっているが、これに限定されず、リールの軸方向に沿った移動であれば同一方向に移動するものであっても良い。この場合、リンク部材47を適宜に組み合わせ、同一方向に移動させるようにすれば良い。
【0043】
次に、前記駆動ユニット40の別の実施形態である駆動ユニット60について図8に基づいて説明する。なお、上記と同一部材は、便宜上、同一の符号を用いている。また、同一部材の説明は省略する。
【0044】
前記駆動ユニット60は、モータ61と、前記モータ61に駆動されるボールネジ65と、前記ボールネジ65と螺合するナット部材67等から構成される。
【0045】
前記モータ61は、前記フレーム10の中央付近下面に立設された支持枠68に下向きに支持されている。前記モータ61のモータ軸には駆動プーリ62が軸止されている。また、前記支持枠68に沿ってボールネジ65が縦方向に設けられ、前記ボールネジ65の下端が支持枠68に軸支されている。また、前記ボールネジ65の下端に支持枠68を介して従動プーリ63が軸止されている。また、前記駆動プーリ62と従動プーリ63には、無端状のベルト64が掛け渡されている。従って、モータ61を駆動することにより、ボールネジ65が回転駆動される。
【0046】
前記移動枠31に設けられた支持枠66には、ナット部材67が固定され、このナット部材67と前記ボールネジ65が螺合している。なお、リンク部材47については、前述の実施形態と同じであるので説明を省略する。前記モータ61を駆動することにより、移動ユニット30a側の移動枠31が昇降駆動され、リンク部材47を介して移動ユニット30bが、移動ユニット30aと異なる方向に駆動される。このとき、モータ61の駆動を制御して、移動ユニット30aと移動ユニット30bの移動周期が、正弦曲線となるように制御することが好ましい。本実施形態においても、リンク部材47の適宜の組み合わせにより、移動ユニット30a、30bを同一方向に移動させるようにすることができる。
【0047】
なお、第1の実施形態とは、上記のように、偏芯カム43による駆動に代えて、ボールネジ65での駆動に変更している以外は、同様の機構を用いている。以上が、本発明の別の実施形態である。
【0048】
次に本発明のワイヤソー1での被加工物Wの切断について図9に基づいて以下に説明する。
【0049】
まず、テーブル6上に被加工物Wが載置され、吸着孔6aに吸着力を発生させることで、被加工物Wがテーブル6上に吸着保持される。続いて、繰出しリール12及び巻取りリール13を駆動して、例えばワイヤ11を往復走行させると共に前記移動ユニット30a及び30bを駆動させて、繰出しリール12(巻取りリール13)からのワイヤ11の繰出し及び巻取りリール13(繰出しリール12)へのワイヤ11の巻取りをトラバースして所定のピッチで行うように制御する。また、併せてワイヤ11の張力が所定の張力となるように駆動リール12及び巻取りリール13の回転数が制御される。
【0050】
また、多関節ロボット4のアーム先端部4aを必要に応じて正逆回転駆動することで、ワイヤソーユニット2を所定の角度で揺動運動させながら、ワイヤ11を被加工物Wに押し付けて被加工物Wを切断する。このとき、噴射ノズル14から、冷却風を噴射して切断部のワイヤ11を冷却すると共に切断屑を吹き飛ばす。また、切断の際に所定の形状に切断するよう、多関節ロボット4の移動制御が行なわれる。前記のようにワイヤ11を揺動運動させながら被加工物Wの切断をすることで、ワイヤ11と被加工物Wの切断部が点接触に近付き、加工効率が向上する。
【0051】
以上が本発明の構成であるが、発明の範囲で適宜の変更ができる。本実施形態においては、多関節ロボットのアーム先端にワイヤソーユニットを設けたが、ワイヤソーユニット単体としても用いることができる。
【0052】
また、本実施形態においては、2つの移動ユニットのいずれか一方を駆動ユニットで移動させるようにしたが、移動ユニットの移動に代えてガイドプーリ側を1つの駆動ユニットで駆動するようにし、両ガイドプーリをリール軸方向に沿って、移動するようにしても良い。
【0053】
また、本実施形態においては、偏芯カムやボールネジを用いて1つのモータで両移動ユニットを互いに異なる方向に移動させるようにしたが、上記に限らず、両移動ユニットのいずれか一方を駆動できる機構であれば各種のものが使用できる。また、本実施形態においては、移動ユニットの移動周期を正弦曲線になるようにしたが、正弦曲線に近似されるものは好ましく使用できる。また、移動ユニットの移動が反転する際に曲線的に制御するものも好ましく使用できる。
【符号の説明】
【0054】
W 被加工物
1 ワイヤソー
2 ワイヤソーユニット
3 機台
4 多関節ロボット
4a アーム先端部
5 ツールチェンジャー
6 テーブル
6a 吸着孔
10 フレーム
10a 開口
10b 軸
11 ワイヤ
12 繰出しリール
13 巻取りリール
14 噴射ノズル
15a、15b ガイドプーリ
16a、16b ガイドプーリ
17a、17b ガイドプーリ
18 ロードセル
19 切断域
20a、20b リール軸
21 カバー
22 支持枠
30a、30b 移動ユニット
31 移動枠
32 レール
33 支持枠
34 スライダ
35 支持板
36 モータ
40 駆動ユニット
41 モータ
42 モータ軸
43 偏芯カム
44 偏芯軸
45 連結棒
46 軸
47 リンク部材
47a、47b 長穴
48 軸(基点)
49 支持枠
50a、50b 係合ピン
51 支持枠
60 駆動ユニット
61 モータ
62 駆動プーリ
63 従動プーリ
64 ベルト
65 ボールネジ
66 支持枠
67 ナット部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9