(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記洗浄工程は、前記基板を前記洗浄液に浸漬し前記基板を周波数が20Hz〜400Hzの低周波で振動させて洗浄する工程である請求項1に記載のめっき膜形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無電解めっき法により基板表面にめっき膜を形成する際に、基板表面に異物や気泡が付着する、或いは基板表面自体が欠けやすい場合には、めっき膜に欠けやピンホールが発生し、めっき膜の膜品質を低下させる原因となる。また、基板表面に凹凸や穴が存在し、その凹凸や穴の側面や底面に無電解めっき法によりめっき膜を形成する場合がある。例えば、特許文献1では、基板にスルーホールを形成し、このスルーホールの内側面にめっき膜を形成する。基板表面に凹凸やスルーホールが存在すると、その凹部やスルーホールに気泡が付着しやすい。気泡が付着する状態でめっき処理を施すと、気泡箇所がめっき膜の欠けとなってめっき膜の品質を低下させる原因となる。特許文献1では、洗浄槽において基板を基板面に対して垂直方向に周期0.5Hzで搖動させ、めっき槽では基板を基板面に対して垂直方向に数100Hzで搖動させて、スルーホールに残留する気泡を除去する。しかし、基板表面に貫通しない凹部が形成される場合には、特許文献1の搖動方法では凹部内の溶液に対流や振動が十分に伝達されず、凹部内の気泡や異物を除去することができない、或いはめっき膜の膜厚が不均一となる。
【0008】
また、特許文献2〜4では、開口部の開口幅よりも深さの深い溝が形成される圧電体基板の表面に無電解めっき法によりめっき膜を形成する。この場合も特許文献1と同様に、溝に付着する気泡や異物を除去してからめっき膜を形成する必要がある。例えば特許文献4では、表面に付着する異物や気泡を除去するために周波数20kHz〜100kHzの超音波を洗浄液に加えながら圧電体基板を洗浄し、或いはめっき触媒を付着させる。しかし、使用する圧電体材料はPZTセラミックスであり、結晶粒から成る。切削加工法により溝を形成すると、溝の表面に微細な異物が残留しやすく、超音波洗浄では付着した異物を完全に除去するのが難しい。また、溝の表面をエッチング処理すると、表面に現れる結晶粒界が侵食されて結晶粒間の結合力が低下する。このような表面に超音波を加えると、超音波が圧電体基板に強く作用して表面から結晶粒が脱落することがある。また、基板表面に付着しためっき触媒に超音波を加えると、めっき触媒が部分的に剥離してめっき膜の膜厚が不均一となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のめっき膜形成方法は、基板を洗浄液に浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記基板を無電解めっき液に浸漬し前記基板を周波数が
10Hz〜200Hz(但し、10〜60Hz及び100〜200Hzを除く)の低周波で
前記基板の露出面と平行方向に振動させて前記基板の露出面にめっき膜を形成する無電解めっき工程と、を備えることとした。
【0010】
また、前記洗浄工程は、前記基板を前記洗浄液に浸漬し前記基板を周波数が20Hz〜400Hzの低周波で振動させて洗浄する工程であることとした。
【0011】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電体基板に複数の溝を並列に形成する溝形成工程と、前記圧電体基板を洗浄液に浸漬し前記圧電体基板を洗浄する洗浄工程と、前記圧電体基板を無電解めっき液に浸漬し前記圧電体基板を周波数が10Hz〜200Hz
(但し、10〜60Hz及び100〜200Hzを除く)の低周波で
前記基板の露出面と平行方向に振動させて前記圧電体基板の露出面にめっき膜を形成する無電解めっき工程と、を備えることとした。
【0012】
また、前記洗浄工程は、前記圧電体基板を前記洗浄液に浸漬し前記圧電体基板を周波数が20Hz〜400Hzの低周波で振動させて洗浄する工程であることとした。
【0013】
また、前記無電解めっき工程は
、前記圧電体基板を前記溝の長手方向に振動させて前記めっき膜を形成する工程を含むこととした。
【0014】
また、前記洗浄工程は
、前記圧電体基板を前記溝の長手方向に振動させて洗浄する工程であることとした。
【0015】
また、前記圧電体基板の露出面を前記洗浄工程により洗浄する第一洗浄工程と、前記圧電体基板の露出面をエッチングするエッチング工程と、前記圧電体基板の露出面を前記洗浄工程により洗浄する第二洗浄工程と、前記無電解めっき工程の前に前記圧電体基板の露出面にめっき触媒を付着させる触媒付着工程と、を備えることとした。
【0016】
また、前記溝形成工程の前に前記圧電体基板の表面に感光性樹脂層を設置する感光性樹脂層形成工程と、前記無電解めっき工程の後に前記感光性樹脂層を除去する感光性樹脂層除去工程と、を更に含むこととした。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるめっき膜形成方法は、基板を洗浄液に浸漬し基板を洗浄する洗浄工程と、基板を無電解めっき液に浸漬し基板を周波数が
10Hz〜200Hz(但し、10〜60Hz及び100〜200Hzを除く)の低周波で
前記基板の露出面と平行方向に振動させて基板の露出面にめっき膜を形成する無電解めっき工程と、を備える。これにより、基板面に金属イオンが新たに供給されてめっき膜をむらなく形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係るめっき膜形成方法の工程図である。
図2は本発明の第一実施形態に係る無電解めっき工程を説明するための図である。
図1に示すように、本発明のめっき膜形成方法は、基板1を洗浄する洗浄工程Sxと、基板1の基板面S(露出面、以下同じ)にめっき膜を形成する無電解めっき工程Syとを備える。洗浄工程Sxでは、基板1を洗浄液2に浸漬して洗浄する。無電解めっき工程Syでは、基板1を無電解めっき液3に浸漬し基板1を周波数が10Hz〜200Hzの第一の低周波f1で振動させて基板1の基板面Sにめっき膜を形成する。これにより、無電解めっき液3の金属イオンが消費される基板面Sに金属イオンが新たに供給されて、基板面Sにめっき膜をむらなく形成することができる。
【0020】
具体的に説明する。
図2は基板1の基板面Sにめっき膜を形成する様子を表す模式図であり、
図2(a)が基板1を正面から見る(基板面Sの法線方向から見る)正面模式図であり、
図2(b)は基板1を側面から見る(基板1を基板面方向から見る)側面模式図である。まず、洗浄工程Sxにおいて、基板面Sを洗浄液に浸漬して洗浄する。次に、無電解めっき工程Syにおいて、複数の基板1を籠状であり6面が開口する基板ホルダーHに固定し、基板ホルダーHに連結する支持アームNの端部を振動発生器Mに接続する。めっき槽Bbに無電解めっき液3を満たし、基板面Sを矢印で示す上下方向に向けて基板1を無電解めっき液3に浸漬する。そして、振動発生器Mを駆動して支持アームNを上下方向に周波数Fが10Hz〜200Hzの第一の低周波f1で0.1mm〜5mmのストロークで振動させる。従って、基板1は無電解めっき液3の中で10Hz〜200Hzの第一の低周波f1で上下方向であり基板1の基板面Sと平行方向に振動する。その結果、無電解めっき液3の金属イオンが消費される基板面Sに金属イオンが新たに供給されて、基板面Sにめっき膜をむらなく形成することができる。なお、基板1に第一の低周波f1の振動を加える際に、無電解めっきを開始してから所定時間の経過後、例えば1分〜5分経過後に振動発生器Mを駆動して基板1を振動させるのが好ましい。無電解めっきの開始直後に振動を加えると、基板面Sに付着するめっき触媒が基板面Sから脱落し、めっき膜の膜厚にむらが生ずることがある。
【0021】
ここで、基板1は導体、圧電体、絶縁体、合成樹脂等を使用することができる。洗浄液2は純水、有機溶媒、界面活性剤を含む脱脂洗浄液等を使用することができる。無電解めっき液3はNi、Au、Ag等を析出するめっき液を使用することができる。
【0022】
本発明のめっき膜形成方法では、基板1を洗浄液2に浸漬して基板1に振動を加えることが必須要件ではないが、洗浄工程Sxにおいても、
図2に示す装置を使用することができる。即ち、複数の基板1を基板ホルダーHに固定し、基板ホルダーHに連結する支持アームNの端部を振動発生器Mに接続する。洗浄槽Baに洗浄液2を充填し、基板面Sを矢印で示す上下方向に向けて基板1を洗浄液2に浸漬する。そして、振動発生器Mを駆動して支持アームNを上下方向に周波数Fが20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で0.1mm〜5mmのストロークで振動させる。従って、基板1は洗浄液2の中で20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で上下方向であり基板1の基板面Sと平行方向に振動する。その結果、洗浄工程Sxにより基板1の基板面Sから微細な異物や気泡を除去することができ、無電解めっき工程Syにより形成するめっき膜4の品質が向上する。即ち、ピンホールの無いめっき膜をむらなく簡便に形成することができる。
【0023】
第二の低周波f2は、基板1の表面に付着する異物や気泡の大きさに応じて変化させる。本発明者は実験により、洗浄しようとする対象物の径と基板1に与える振動の周波数とは反比例の関係を有し、周波数をF(Hz)、洗浄対象物の径をR(m)として、概ね次式(1)の関係を有することを見出した。ここでkは定数である。
F=k×10
-4/R・・・(1)
つまり、洗浄対象物の径Rが大きいほど第二の低周波f2の周波数Fを小さくし、洗浄対象物の径Rが小さいほど第二の低周波f2の周波数Fを大きくするほうが、洗浄効率が良い。洗浄対象物の径が分散している場合は、基板1に与える振動の周波数Fも20Hz〜400Hzの範囲内で変化させるのがよい。言い換えると、第二の低周波f2である特定の周波数Fにより振動させることで、特定径Rの対象物を基板面Sから選択的に除去し、他の径R’の対象物を基板面Sに残すことができる。
【0024】
本発明のめっき膜形成方法によれば、基板1の基板面Sに凹部、例えば多数の凹凸や溝が存在する場合でも、凹凸や溝に金属イオンが回り込みやすくなるので、凹部の側面や底面にめっき膜を析出させることができる。本第一実施形態では、基板1の振動方向が基板面Sに平行方向に振動させているが、本発明はこれに限定されず、基板1の振動方向を基板面Sに垂直方向に振動させてもよい。例えば、基板1に貫通孔が形成され、この貫通孔の側面に無電解めっきによりめっき膜を形成しようとする場合には、洗浄工程Sx及び無電解めっき工程Syにおいて、基板1の振動方向を基板面Sに垂直方向とする。これにより、洗浄工程Sxにおいては、貫通孔の側面に付着する異物や気泡を除去することができ、無電解めっき工程Syにおいては、貫通孔に新たな無電解めっき液3を供給することができる。また、基板1に細長い溝が形成される場合には、基板1の振動方向を基板面Sの溝の長手方向と平行な方向に振動させる。これにより、洗浄工程Sxにおいては溝の内側面や底面に付着する異物や気泡を除去することができ、無電解めっき工程Syにおいては溝の底部に新しい無電解めっき液3を供給することができる。
【0025】
(第二実施形態)
図3は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法の工程図である。
図4は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための図である。
図4(a)は溝形成工程Smの後の圧電体基板1aの断面模式図である。
図4(b)は洗浄工程Sx及び無電解めっき工程Syを説明するための図である。
図4(c)は無電解めっき工程Syの後の圧電体基板1aの断面模式図である。
図4(d)はヘッド組立工程Szの後の液体噴射ヘッド10の断面模式図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0026】
図3に示すように、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電体基板1aに複数の溝5を並列に形成する溝形成工程Smと、圧電体基板1aを洗浄する洗浄工程Sxと、圧電体基板1aの露出面Ep(基板面Sと溝5の内表面)にめっき膜4を形成する無電解めっき工程Syと、この圧電体基板1aを用いて液体噴射ヘッド10に組み立てるヘッド組立工程Szとを備える。以下、
図4を用いて具体的に説明する。
【0027】
図4(a)は、圧電体基板1aの溝5の長手方向に直交する方向の断面模式図である。溝形成工程Smにおいて、圧電体基板1aに複数の溝5を並列に形成する。圧電体基板1aは基板面Sの法線方向に分極処理が施される。圧電体基板1aを一方の基板面Sの側からダイシングブレードやダイヤモンドホイールを用いて研削して所定の深さの複数の溝5を形成する。圧電体基板1aとしてPZTセラミックスを使用することができる。溝5の深さは300μm〜400μmであり、溝5の長さは1mm〜数mmであり、溝5の幅は数10μm〜100μmであり、溝5と溝5の間の側壁9の幅(厚さ)は数10μm〜100μmである。溝5は平行に数100本以上形成する。なお、圧電体基板1aは、溝5と溝5の間の側壁9のみに圧電体基板を使用し、側壁9を保持する下部材料として絶縁体基板を使用してもよい。
【0028】
図4(b)は洗浄工程Sxにおいて圧電体基板1aを洗浄する様子を示し、左図が圧電体基板1aの基板面Sを正面から見る(基板面Sの垂直方向から見る)模式図であり、右図が圧電体基板1aを側面から見る(基板面Sの平行方向から見る)模式図である。洗浄工程Sxにおいて、圧電体基板1aを洗浄液2に浸漬し圧電体基板1aを周波数が20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で振動させて洗浄する。具体的には、
図4(b)に示すように、複数の圧電体基板1aを基板ホルダーHに固定する。基板ホルダーHは、鋸歯状の凹凸を有する上保持部Haと下保持部Hbを備える。上下保持部Ha、Hbの対向する凹部間に複数の圧電体基板1aを並列に挟んで固定する。基板ホルダーHには支持アームNが連結し、支持アームNの反対側の端部が振動発生器Mに接続する。洗浄槽Baを洗浄液2で満たし、基板面Sを矢印で示す上下方向に向けて圧電体基板1aを洗浄液2に浸漬する。
【0029】
本実施形態では圧電体基板1aの溝5の長手方向を振動方向である上下方向に向けているが、本発明はこの配置に限定されない。しかし、溝5の長手方向と振動方向とを一致させることにより、溝5の内部に洗浄液2の振動が伝達され、内表面(露出面)に付着する異物を効果的に除去することができる。従って、基板ホルダーHは溝5の長手方向を振動方向に向けて複数の圧電体基板1aを装着し固定するのがよい。
【0030】
そして、振動発生器Mは支持アームNを上下方向に振動させる。支持アームNは周波数Fが20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で0.1mm〜5mmのストロークで振動する。従って、圧電体基板1aは洗浄液2の中で周波数Fが20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で0.1mm〜5mmのストロークで上下方向に振動する。洗浄液2は純水、有機溶媒、界面活性剤を含む脱脂洗浄液等を使用することができる。その結果、溝5の側面や底面に付着する異物、例えば溝形成工程Smにおいて発生する研削粉や気泡を除去することができる。第二の低周波f2は圧電体基板1aの基板面Sに付着する異物や気泡の大きさに応じて変化させるのがよい。すでに説明したように、周波数Fと洗浄対象物の径Rとの間には、概ね式(1)の関係があるので、洗浄対象物の径Rが大きいほど第二の低周波f2の周波数Fを小さくし、洗浄対象物の径Rが小さいほど第二の低周波f2の周波数Fを大きくするのがよい。また、特定の周波数Fである第二の低周波f2により圧電体基板1aを振動させるので、他のサイズの粒子、例えばPZTセラミックスの結晶粒を脱落させる、或いは、側壁9にクラックを生じさせることが無い。
【0031】
なお、
図4(b)に示す装置構成は本発明の一例である。例えば、基板ホルダーHが圧電体基板1aを基板面Sが水平となるように保持し、振動発生器Mが支持アームNを介して基板ホルダーHを水平方向に振動させる装置構成であってもよい。この場合、溝5の長手方向が圧電体基板1aの振動方向となるように基板ホルダーHを振動させる。
【0032】
次に、無電解めっき工程Syにおいて、圧電体基板1aを無電解めっき液3に浸漬し圧電体基板1aの露出面Epにめっき膜4を形成する。無電解めっき工程Syは、
図4(b)に示す装置を使用することができる。基板ホルダーHは複数の圧電体基板1aを固定する。具体的に、基板ホルダーHは上保持部Haと下保持部Hbの対向する凹部間に複数の圧電体基板1aを上下方向に向けて並列に挟んで固定する。基板ホルダーHには支持アームNが連結し、支持アームNの反対側の端部が振動発生器Mに接続する。めっき槽Bbを無電解めっき液3で満たし、溝5の長手方向を矢印で示す上下方向に向けて圧電体基板1aを無電解めっき液3に浸漬する。本発明においては、溝5の長手方向を圧電体基板1aの振動方向に向けることは必須要件ではないが、溝5の長手方向を圧電体基板1aの振動方向に向けることにより、無電解めっき液3の振動を溝5の内部に伝達しやすくなる。
【0033】
そして、振動発生器Mを駆動して支持アームNを上下方向に振動させて、複数の圧電体基板1aを溝5の長手方向に振動させる。振動発生器Mが支持アームNを周波数Fが10Hz〜200Hzの第一の低周波f1で振動させれば、複数の圧電体基板1aも周波数Fが10Hz〜200Hzの第一の低周波f1で振動する。この場合も、圧電体基板1aは上下方向に0.1mm〜5mmのストロークで振動する。これにより、溝5の内部に新しい無電解めっき液3が供給され、めっき膜4の膜厚むらが抑制される。また、めっき膜4の析出に伴ってガスが発生するが、このガスが気泡となって溝5の開口部を塞ぐことを防止することができる。
【0034】
図4(c)は、無電解めっき工程Syによりめっき膜4を形成した圧電体基板1aの溝5の長手方向に直交する方向の断面模式図である。めっき膜4は圧電体基板1aの露出面Epに形成する。
【0035】
次に、ヘッド組立工程Szにおいて、圧電体基板1aを用いて液体噴射ヘッド10を組み立てる。
図4(d)は、組み立て後の溝5の長手方向における液体噴射ヘッド10の断面模式図である。めっき膜4が形成される圧電体基板1aの基板面Sにカバープレート12を接着し、カバープレート12と圧電体基板1aの前方端面Fpにノズルプレート13を接着する。カバープレート12には液体供給室12aが形成され、ノズルプレート13にはノズル13aが形成され、いずれも溝5に連通する。溝5の側面のめっき膜4が側壁9を駆動する駆動電極となり、圧電体基板1aの後方のめっき膜4が電極端子となる。なお、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、
図4(d)に示すエッジシュート型の液体噴射ヘッド10に限定されず、サイドシュート型や液体循環型の液体噴射ヘッドに適用することができる。
【0036】
(第三実施形態)
図5は本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法の工程図である。
図6〜
図8は本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における各工程を説明するための図である。
図6(a)〜(d)は圧電体基板1aの断面模式図であり、
図6(e)は洗浄方法又は無電解めっき法の説明図である。
図7(a)〜(d)は圧電体基板1aの断面模式図である。
図8は液体噴射ヘッド10の模式的な分解斜視図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0037】
本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電体基板1aを準備する準備工程S1と、圧電体基板1aの基板面Sに感光性樹脂層6を形成する感光性樹脂層形成工程S2と、感光性樹脂層6のパターニングを行うパターン形成工程S3と、圧電体基板1aの基板面Sに複数の溝5を形成する溝形成工程Smと、圧電体基板1aの露出面Epを洗浄する第一洗浄工程Sx1と、圧電体基板1aの露出面Epを脱脂する脱脂工程S4と、圧電体基板1aの露出面Epをエッチングするエッチング工程S5と、圧電体基板1aの露出面Epを洗浄する第二洗浄工程Sx2と、圧電体基板1aの露出面Epを酸処理する酸処理工程S6と、圧電体基板1aの露出面Epにめっき触媒を付着させる触媒付着工程S7と、めっき触媒が付着する露出面Epにめっき膜4を析出させる無電解めっき工程Syと、感光性樹脂層6を除去する感光性樹脂層除去工程S8と、圧電体基板1aを用いて液体噴射ヘッド10に組み立てるヘッド組立工程Szとを備える。
【0038】
具体的に説明する。準備工程S1において、
図6(a)に示すように、圧電体基板1aを準備する。圧電体基板1aは、基板面Sの法線方向に分極処理が施されているPZTセラミックス板を使用することができる。例えば、法線方向に分極Pを有する圧電体基板と、反対方向に分極(−P)を有する圧電体基板とを分極境界Zの位置で積層接着されるシェブロン型の圧電体基板1aを使用することができる。なお、本発明はシェブロン型の圧電体基板1aに限定されない。
【0039】
次に、感光性樹脂層形成工程S2において、
図6(b)に示すように、圧電体基板1aの表面(基板面S)に感光性樹脂層6を設置する。感光性樹脂層6としてレジスト膜を使用することができる。圧電体基板1aの基板面Sにフィルム状レジストをラミネートしてレジスト膜を設置してもよいし、圧電体基板1aの基板面Sにレジスト液をデスペンサーやコーターを使用して塗布し、乾燥してレジスト膜を形成してもよい。
【0040】
次に、パターン形成工程S3において、
図6(c)に示すように、感光性樹脂層6のパターンを形成する。例えば、外部駆動回路と電気的接続用の電極端子や電極配線を設置する領域から感光性樹脂層6を除去する。感光性樹脂層6のパターンは、フォトリソグラフィ工程を通し、所定領域から感光性樹脂層6を除去する。なお、パターン形成工程S3は、例えば、圧電体基板1aの基板面Sに溝パターンや電極パターンを形成する必要が無ければ、省略することができる。
【0041】
次に、溝形成工程Smにおいて、
図6(d)に示すように、ダイシングブレードDやダイヤモンドカッター等を用いて圧電体基板1aの基板面Sを研削して複数の溝5を形成する。溝5は、液滴吐出用の吐出溝5aと液滴を吐出しない非吐出溝5bを交互に並列に形成する。吐出溝5aは圧電体基板1aの前方端面Fpから後方端面Bpの手前まで、非吐出溝5bは圧電体基板1aの前方端面Fpから後方端面Bpまでストレートに形成する(
図6(d)、
図8を参照)。なお、
図6(d)は
図6(c)とは異なる領域の断面を表す。
図6(c)は基板面Sに電極端子や電極配線を設置する領域の断面模式図であり、
図6(d)は複数の溝5を形成する領域であり、各溝5に交差する方向の断面模式図である。溝5の幅は数10μm〜100μmであり、溝5の深さは300μm〜400μmであり、溝5の長さは1mm〜数mmである。シュブロン型の圧電体基板1aを用いる場合には、分極境界Zの位置が溝5の深さの略1/2となるように溝5を研削する。溝5は数100本以上形成する。溝5と溝5の間の側壁9の幅(厚さ)は数10μm〜100μmである。
【0042】
次に、第一洗浄工程Sx1において、
図6(e)に示すように、圧電体基板1aの露出面Epを洗浄する。なお、
図6(e)は圧電体基板1aを洗浄する様子を基板面Sの正面から見る模式図である。本実施形態では、圧電体基板1aの露出面Epは、各溝5の側面、底面、及び、電極端子及び電極配線の設置領域である。洗浄方法は第一又は第二実施形態と同様である。即ち、複数の圧電体基板1aを基板ホルダーHに固定し、基板ホルダーHに連結する支持アームNの端部を振動発生器Mに接続する。洗浄槽Baを洗浄液2、例えば純水で満たし、溝5の長手方向を上下方向に向けて複数の圧電体基板1aを洗浄液2に浸漬する。そして、振動発生器Mを駆動して支持アームNを上下方向に周波数が20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で1〜5分間振動させる。従って、各圧電体基板1aは洗浄液2の中で周波数が20Hz〜400Hzの第二の低周波f2で上下方向、つまり溝5の長手方向に振動する。
【0043】
これにより、溝形成工程Smにおいて発生し、溝5の側面や底面に付着する研削粉、気泡、或いは、溝5の研削によって結合力が弱くなった結晶粒界や結晶粒を露出面Epから除去することができる。すでに説明したように、第二の低周波f2は、洗浄対象物の径Rが大きいほど周波数Fを小さくし、洗浄対象物の径Rが小さいほど周波数Fを大きくすることが好ましい。本実施形態では溝5の長手方向に圧電体基板1aが振動するので、溝5の内部に洗浄液2の振動が伝達され、露出面Epに付着する異物を効果的に除去することができる。また、超音波洗浄と比較して洗浄液2の相対的な振動エネルギーは小さく、溝構造にクラックを生じさせることはない。
【0044】
次に、脱脂工程S4において、圧電体基板1aの露出面Epを親水性表面に転換する。
図6(e)に示す基板ホルダーHを純水、界面活性剤が添加される水、有機溶媒等により脱脂する。例えば、界面活性剤が添加された水に浸漬し、圧電体基板1aの露出面Epを親水性表面に転換する。これにより、次のエッチング工程S5においてエッチング液が供給されずにエッチング不良となる領域が発生するのを抑制することができる。
【0045】
次に、エッチング工程S5において、
図7(a)に示すように、露出面Epをエッチングして粗面化し、無電解めっきにおいて生成するめっき膜4の密着強度を向上させる。例えば、濃度1.5%のフッ化アンモニウム水溶液のエッチング液に圧電体基板1aを浸漬し、露出面EpのPZTセラミックスのエッチングをソフトに(軽く)行って、露出面Epに凹凸を形成する。圧電体基板1aの露出面Epはむらなく軽くエッチングされるが、結晶粒が脱落したり側壁9の上部の強度が低下したりすることはなく、後に形成するめっき膜4の密着強度を向上させることができる。
【0046】
次に、第二洗浄工程Sx2において、
図6(e)に示すように、圧電体基板1aの露出面Epを洗浄する。洗浄方法は第一洗浄工程Sx1と同様である。即ち、複数の圧電体基板1aを基板ホルダーHに固定し、基板ホルダーHに連結する支持アームNの端部を振動発生器Mに接続する。洗浄槽Baに洗浄液2、例えば純水を充填し、複数の圧電体基板1aを洗浄液2に浸漬する。そして、振動発生器Mを駆動して支持アームNを上下方向に周波数が20Hz〜400Hz、好ましくは50Hz〜150Hzの第二の低周波f2で振動させる。従って、各圧電体基板1aは洗浄液2の中で周波数が20Hz〜400Hz、好ましくは50Hz〜150Hzの第二の低周波f2で上下方向、つまり溝5の長手方向に1〜5分間振動させる。エッチング処理により生じたPZTセラミックスの小片や、結合力が弱くなった結晶粒界や結晶粒を露出面Epから除去することができる。
【0047】
次に、酸処理工程S6において、圧電体基板1aの露出面Epを酸処理、例えば硝酸溶液や酢酸溶液に浸漬する。圧電体基板1aに含まれる鉛は触媒毒として作用する。無電解めっき工程Syにおいては露出面Epにめっき触媒を付着させてめっき反応を促進させるが、露出面Epに触媒毒が存在するとめっき触媒の作用が減ずる。そのため、圧電体基板1aの露出面Epを酸性溶液に浸漬して触媒毒の作用を減ずる。
【0048】
次に、触媒付着工程S7において、
図7(b)に示すように、圧電体基板1aの露出面Epにめっき触媒7を付着させる。めっき触媒7の付着方法として、センシタイザー・アクチベーター法、キャタリスト・アクセレーター法等を用いることができる。センシタイザー・アクチベーター法では、まず、圧電体基板1aを塩化第一錫水溶液に浸漬し(第一工程)、続いて塩化パラジウム水溶液に浸漬して(第二工程)、露出面Epにめっき触媒7としてのパラジウム触媒を付着させる。即ち、塩化錫と塩化パラジウムの酸化還元反応により金属パラジウムを露出面Epに付着させる。上記第一工程と第二工程を繰り返し行って金属パラジウムの付着量を増加させることができる。また、キャタリスト・アクセレーター法では、圧電体基板1aを錫とパラジウムのコロイド溶液に浸漬する。続いて圧電体基板1aを酸性溶液、例えば塩酸溶液に浸漬して活性化し、露出面Epに金属パラジウムを析出させる。
【0049】
次に、無電解めっき工程Syにおいて、
図7(c)に示すように、めっき触媒が付着した露出面Epに無電解めっき法によりめっき膜4を形成する。無電解めっき法によりNi、Cr、Ag、Au等のめっき膜4を形成することができる。無電解めっきは
図6(e)に示す装置を使用することができる。即ち、圧電体基板1aを無電解めっき液3に浸漬し圧電体基板1aを10Hz〜200Hz、好ましくは40Hz〜100Hzの第一の低周波f1で振動させながらめっき膜4を形成することができる。具体的には、複数の圧電体基板1aを基板ホルダーHに固定し、基板ホルダーHに連結する支持アームNの端部を振動発生器Mに接続する。めっき槽Bbに無電解めっき液3を満たし、溝5の長手方向を上下方向に向けて複数の圧電体基板1aを無電解めっき液3に浸漬する。そして、所定時間、例えば1分〜5分経過後に、振動発生器Mを駆動して支持アームNを上下方向に10Hz〜200Hz、好ましくは40Hz〜100Hzの第一の低周波f1で所定時間振動させる。従って、各圧電体基板1aは無電解めっき液3の中で周波数が10Hz〜200Hz、好ましくは40Hz〜100Hzの第一の低周波f1で上下方向、つまり溝5の長手方向に振動する。
【0050】
圧電体基板1aを無電解めっき液3に浸漬後、所定時間経過後に圧電体基板1aを振動させるので、圧電体基板1aの振動によって露出面Epに付着しためっき触媒7が剥離するのを防ぐことができる。また、圧電体基板1aの振動によって、溝5の内部に新しい無電解めっき液3が供給され、溝5の内表面(側面及び底面)に析出するめっき膜4の厚みむらを少なくすることができる。また、めっき反応時に発生するガスが溝5の内表面や開口部に付着するのを防止することができる。
【0051】
次に、感光性樹脂層除去工程S8において、
図7(d)に示すように、圧電体基板1aの感光性樹脂層6を除去してめっき膜4のパターンを形成する。感光性樹脂層6が設置される圧電体基板1aの基板面Sにはめっき膜4が形成されず、感光性樹脂層6が設置されていない露出面Epにめっき膜4が形成される。本実施形態では、溝5の内表面と、基板面Sの電極端子11の領域にめっき膜4が残る(
図8を参照)。
【0052】
次に、ヘッド組立工程Szにおいて、
図8に示すように、圧電体基板1aの基板面Sにカバープレート12を接着し、圧電体基板1a及びカバープレート12の前方の端面FPにノズルプレート13を接着して液体噴射ヘッド10を構成する。
【0053】
図8に示すように、圧電体基板1aは、基板面Sに交互に配列する吐出溝5aと非吐出溝5bを備える。吐出溝5a及び非吐出溝5bの内表面には上記方法により析出しためっき膜4が設置される。なお、非吐出溝5bの一方の側面のめっき膜4と他方の側面のめっき膜4とは電気的に分離される。無電解めっき法により非吐出溝5bの内表面にめっき膜4を形成した後に、例えば非吐出溝5bの底面にレーザー光を照射して底面のめっき膜4を除去することにより、一方の側面のめっき膜4と他方の側面のめっき膜4とを電気的に分離することができる。圧電体基板1aは基板面Sの後方端面Bp側に個別電極端子11b、個別電極端子11bの前方にコモン電極端子11aを備える。個別電極端子11bは、吐出溝5aを挟んで隣接する2つの非吐出溝5bの吐出溝5a側のめっき膜4を電気的に接続する。コモン電極端子11aは吐出溝5aのめっき膜4と電気的に接続する。
【0054】
カバープレート12は、前方端面Fpが圧電体基板1aの前方端面Fpと面一となるように、また、コモン電極端子11a及び個別電極端子11bが露出するように圧電体基板1aの基板面Sに接着される。カバープレート12は後方側に液体供給室12aを備え、液体供給室12aは、その底面から圧電体基板1aの側に貫通するスリット12bを備える。スリット12bは液体供給室12aと吐出溝5aの後方端とを連通し、液体供給室12aから吐出溝5aに液体を供給する。ノズルプレート13は、圧電体基板1a及びカバープレート12の前方端面Fpに接着される。ノズルプレート13はノズル13aを備え、ノズル13aは吐出溝5aに連通する。
【0055】
液体噴射ヘッド10は、次にように動作する。まず、液体供給室12aに液体を供給し、スリット12bを介して吐出溝5aに液体を充填する。そして、コモン電極端子11aと個別電極端子11bに駆動信号を与えて吐出溝5aを挟む両側壁9を厚み滑り変形させる。具体的には、吐出溝5aの容積が拡大する方向に両側壁9を変形させて液体供給室12aから吐出溝5aに液体を引き込み、次に、吐出溝5aの容積が縮小する方向に両側壁9を変形させて、ノズル13aから液滴を吐出する。なお、
図8に示す液体噴射ヘッド10は一例である。本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、エッジシュート型の液体噴射ヘッドの他にサイドシュート型や液体循環型の液体噴射ヘッドに適用することができる。