特許第6719293号(P6719293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社熊谷組の特許一覧

<>
  • 特許6719293-杭基礎の耐震補強構造 図000002
  • 特許6719293-杭基礎の耐震補強構造 図000003
  • 特許6719293-杭基礎の耐震補強構造 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719293
(24)【登録日】2020年6月18日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】杭基礎の耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/12 20060101AFI20200629BHJP
   E02D 27/30 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   E02D27/12 Z
   E02D27/30
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-127528(P2016-127528)
(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公開番号】特開2018-3308(P2018-3308A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】森 利弘
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−240356(JP,A)
【文献】 特開平09−310360(JP,A)
【文献】 特開2012−077561(JP,A)
【文献】 特開2014−152481(JP,A)
【文献】 特開2010−261253(JP,A)
【文献】 特開2000−080670(JP,A)
【文献】 特開2011−084967(JP,A)
【文献】 特開2014−181507(JP,A)
【文献】 特開2013−096176(JP,A)
【文献】 特開2008−063751(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0308067(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/12
E02D 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上の構造物を支持するフーチング及び杭を有する既存の杭基礎の耐震補強構造であって、
地盤中に設置され上下方向へ伸びる少なくとも1つの鋼板であって前記フーチングの周面に相対する頭部を有する少なくとも1つの鋼板と、
前記フーチングの周囲に前記フーチングを取り巻くように形成された、前記フーチングがその周面において接合しまた前記鋼板がその頭部において埋まる場所打ちコンクリート製の鉄筋コンクリート構造体と、
前記フーチングに埋め込まれたアンカーボルトと該アンカーボルトに螺合されたナットとを含み、
前記鋼板はその頭部において前記アンカーボルト及び前記ナットを介して前記フーチングに連結され、また、前記アンカーボルト及び前記ナットは前記鉄筋コンクリート構造体に埋設されている、杭基礎の耐震補強構造。
【請求項2】
前記少なくとも1つの鋼板は、前記フーチングの周方向に互いに間隔をおいて配置された複数の鋼板を含む、請求項1に記載の杭基礎の耐震補強構造。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート構造体は、前記フーチング及び前記鋼板の頭部の周囲を取り巻く少なくとも1つの環状の鉄筋を有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の杭基礎の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上の構造物を支える既存の杭基礎に適用される耐震補強構造に関する
【背景技術】
【0002】
従来、地上の構築物の一つである建築物を支える既存の杭基礎についての耐震補強構造が提案されている(後記特許文献1参照)。この耐震補強構造は、杭基礎を構成するフーチングの周囲にこれを取り巻くように配置され地盤中を下方へ伸びる複数の鋼板を含む。複数の鋼板は、それぞれの頭部において、フーチングに埋め込まれたアンカーボルト及びこれに螺合されるナットからなる複数の接合部材を介してフーチングに固定され、これによりフーチングとの一体化が図られている。この耐震補強構造によれば、地震の発生に伴って地盤中の杭の頭部に水平外力が作用するとき、前記水平外力の作用方向に相対する鋼板が変形し、前記鋼板の変形により、杭が負担すべき前記水平外力が軽減される。
【0003】
ところで、変形時の前記鋼板は、前記鋼板をフーチングに固定する接合部材に対してフーチングから引き離す力を及ぼす。前記従来の耐震補強構造にあっては、接合部材に対する引き離し力が前記鋼板をフーチングに固定する力を上回ると、前記鋼板がフーチングから分離し、耐震補強の機能を喪失するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−152481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、既存の杭基礎の耐震補強のために設置される鋼板と前記杭基礎を構成するフーチングとの一体性が比較的高い耐震補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、地上の構造物を支持するフーチング及び杭を有する既存の杭基礎の耐震補強構造に係り、地盤中に設置され上下方向へ伸びる、前記フーチングの周面に相対する頭部を有する少なくとも1つの鋼板と、前記フーチングの周囲に前記フーチングを取り巻くように形成された、前記フーチングがその周面において接合しまた前記鋼板がその頭部において埋まる場所打ちコンクリート製の鉄筋コンクリート構造体とを含む。
【0007】
本発明に係る杭基礎の耐震補強構造にあっては、既存の杭基礎を構成するフーチングと地盤中に設置され前記フーチングの周面に部分的に対向する鋼板とが、これらの周囲を取り巻く場所打ちの鉄筋コンクリート構造体を介して一体にされている。本発明によれば、前記杭基礎の杭の頭部に地震による水平外力が作用するとき、地盤の抵抗を受ける前記鋼板が、これと一体をなす前記フーチングを反力支持体として変形する。このとき、前記鋼板が前記水平外力の一部を負担し、前記杭が負担すべき前記水平外力を軽減する。
【0008】
前記鉄筋コンクリート構造体と前記フーチングとの相互接合及び前記鉄筋コンクリート構造体中への前記鋼板の頭部の埋設は、前記フーチングと前記鋼板との間により堅固な一体化をもたらす。また、前記フーチング及び前記鋼板の頭部の周囲を取り巻く前記鉄筋コンクリート構造体は、地震時における前記鋼板の変形時、前記鋼板の頭部をこれが前記フーチングから放射方向外方へ移動しないように前記鋼板の周囲から抑制する。
【0009】
本発明にあっては、複数の鋼板を前記フーチングの周方向に互いに間隔をおいて配置することができる。前記鉄筋コンクリート構造体を介しての前記フーチングと前記鋼板との一体性が堅固に保持されることから、前記フーチングの周方向に隣接する鋼板同士の相互連結を必要としない。
【0010】
前記杭基礎が前記フーチングに接続された基礎梁を有する場合、前記鋼板の上端の高さ位置は任意に定めることができる。
【0011】
前記鉄筋コンクリート構造体中の鉄筋は、好ましくは、前記フーチング及び前記鋼板の頭部の周囲を取り巻く少なくとも1つの環状の鉄筋からなる。これによれば、前記鉄筋の働きにより、地震時における前記鋼板の頭部の前記フーチングからの放射方向外方への移動がより強固に抑制される。
【0012】
前記耐震補強構造は、さらに、前記フーチングに埋め込まれたアンカーボルトと該アンカーボルトに螺合されたナットとを含み、前記鋼板がその頭部において前記アンカーボルト及び前記ナットを介して前記フーチングに連結され、また、前記アンカーボルト及び前記ナットが前記鉄筋コンクリート構造体に埋設されている。これによれば、前記フーチングと前記鋼板との一体性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る杭基礎の耐震補強構造の概略的な部分断面図である。
図2図1に示す杭基礎の耐震補強構造の概略的な平面図である。
図3図2の線3−3に沿って得た部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照すると、地盤E中に設置された既存の杭基礎10に適用された本発明の一実施形態に係る耐震補強構造が全体に符号12で示されている。
【0015】
図示の杭基礎10は、地上の構造物の1つである建築物14を支持する複数のフーチング16と、各フーチング16下の杭18と、複数のフーチング16を互いに連結する複数の基礎梁20(図2参照)とを有する。フーチング16、杭18及び基礎梁20はそれぞれ鉄筋コンクリートからなる。杭18については、これが既製杭及び場所打ち杭のいずれであるか、並びに、支持杭及び摩擦杭のいずれであるかを問わない。また、耐震補強構造12は、例えば土木構造物である橋梁の橋脚(図示せず)を支える、基礎梁を有しない杭基礎についても適用可能である。
【0016】
図示の例において、各フーチング16は正方形の断面形状を有し(図2参照)、また、各基礎梁20は矩形の断面形状を有する(図3参照)。各基礎梁20は各フーチング16の横断面形状である前記正方形の一辺の中点において各フーチング16に接続されこれに連なっている。
【0017】
図3に詳細に示すように、耐震補強構造12は、地盤E中に設置され地盤E中を上下方向へ伸びる少なくとも1つ(図示の例においては8つ)の鋼板22と、各フーチング16の周囲に該フーチングを取り巻くように形成された場所打ちコンクリート製の鉄筋コンクリート構造体24とを備える。
【0018】
8つの鋼板22はフーチング16を取り巻く方向である周方向に互いに間隔をおいて配置されている。これらの鋼板22は、それぞれ、フーチング16の4つの側面からなる周面16aに相対する頭部22aを有する。図示の例においては、8つの鋼板22が2つずつこれらの頭部22aにおいてフーチング16の各側面に相対している。フーチング16の4つの側面のうち基礎梁20が連なる側面においては、2つの鋼板22の頭部22aが基礎梁20の両側に位置する。鋼板22の長さ寸法は、例えば2〜3mとすることができ、地盤Eの軟らかさに応じて変更することができる。
【0019】
鉄筋コンクリート構造体24は全体に環状を呈する。図示の例において、鉄筋コンクリート構造体24はその平面で見てフーチング16の周面16aに沿って伸びる矩形の内周面24a及び該内周面の周囲を取り巻く外周面24b(図2、3参照)を有する。鉄筋コンクリート構造体24はその内周面24aにおいてフーチング16に接合している。換言すると、フーチング16がその周面16aにおいて鉄筋コンクリート構造体24に接合している。また、各鋼板22はその頭部22aにおいて鉄筋コンクリート構造体24中に埋もれている。これにより、フーチング16と全鋼板22とが鉄筋コンクリート構造体24を介して一体にされている。
【0020】
鉄筋コンクリート構造体24は、フーチング16及び鋼板22の頭部22aをこれらの周囲から取り巻く少なくとも1つ(図示の例では3つ)の環状の鉄筋26(図3)を有する。各鉄筋26は全体に矩形状を呈し、3つの鉄筋26は上下方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0021】
フーチング16と一体にされた鋼板22は、建築物14が地震力F1(図1参照)を受け、これにより複数の杭18の頭部18aの各々に水平外力F2(図1参照)が作用するとき、水平外力F2の作用方向に相対する鋼板22が、地盤Eの抵抗を受けて、フーチング16の下方に位置する部分、すなわち頭部22aを除いた部分において変形する。鋼板22は前記変形により水平外力F2の一部である水平外力F3(図示せず)を負担し、各杭18が負担すべき水平外力F2を軽減する。
【0022】
鋼板22と一体をなすフーチング16は反力支持体として鋼板22の変形を保証する。フーチング16及び鋼板22の頭部22aを取り巻く鉄筋コンクリート構造体24は、変形時の鋼板22の頭部22aがフーチング16の周面16aから放射方向外方へ移動しないようにその周囲から拘束する。鉄筋コンクリート構造体24の環状の鉄筋26は、この拘束効果をより高める働きをなす。
【0023】
鋼板22の配置数量、配置位置等は、建築物14の形状、大きさ、重量等を考慮して定めることができる。例えば、フーチング16の断面形状である前記正方形の一辺のみに沿って2つの鋼板22を設置し、あるいは、前記正方形の互いに相対する2辺のそれぞれに沿って又は互いに隣接する2辺のそれぞれに沿って2つの鋼板22を設置することができる。
【0024】
フーチング16の周方向に隣接する2つの鋼板22は、鉄筋コンクリート構造体24を介してフーチング16に対して強固に固定されている。このため、前記従来における耐震補強構造と異なり、隣接する2つの鋼板22を相互に連結する必要がなくまた隣接する2つの鋼板22を鋼板22相互間に間隔をおいて配置することができる。このことから、各鋼板22の設置位置は基礎梁20の下方に制限されない。また、各鋼板22の上端の高さ位置は任意に定めることができる。各鋼板22の上端の高さ位置を定めるのに基礎梁20の影響を受けることはない。図示の例において、各鋼板22はその上端が各基礎梁20の上面20a及び下面20b間(図3参照)に位置するように設置されている。これによれば、各鋼板22の頭部22aとフーチング16との対向面積をより大きいものとし、各鋼板22とフーチング16との一体性をより堅固にすることができる。なお、図上、各鋼板22の頭部22aとフーチング16との対向面積が最大となる鋼板22の上端の高さ位置は、各基礎梁20の上面20aの上方に位置するフーチング16の上面の高さ位置である。
【0025】
また、フーチング16の周方向に隣接する鋼板22同士を連結する前記従来の場合にあっては、相互連結された複数の鋼板の一体化の程度(後記算出式におけるEI)について、設計上、これを評価することが比較的困難であった。これに対し、鋼板22同士を非連結とする本発明にあっては、各鋼板22が互いに他の鋼板22から独立しているため、このような設計上の困難を排除することが可能である。
【0026】
例えば、各鋼板22の長さ寸法、許容応力度等については、杭についての変位、曲げモーメント等を求めるための杭の特性値βを算出する式(算出式)β=(kB/4EI)1/4を用いて、比較的容易に算定することが可能である。また、例えば、杭の頭部18aにおける曲げモーメントは、地震時において鋼板22が負担する水平外力F3及び杭の特性値βを用いて(F3)/2βとして比較的容易に求めることができ、杭の頭部18aにおける水平変位は(F3)/(kB)として比較的容易に求めることができる。前記算出式においてkは水平地盤反力係数(kN/m)であり、Bは杭径(m)であり、EIは杭の曲げ剛性(kNm)である。前記算出式は、指標βL≧2.25を満たす条件下で適用可能である。ここにおいて、Lは杭の長さ(m)を示す。各鋼板22についての前記算定は、前記算出式における杭径B、杭の曲げ剛性EI及び杭の長さLをそれぞれ鋼板22の幅寸法、鋼板22の曲げ剛性及び鋼板22の長さ寸法に置き換えて行う。
【0027】
耐震補強構造12は、さらに、フーチング16に埋め込まれたアンカーボルトと該アンカーボルトに螺合されたナットとからなる連結具28を含むものとすることができる。各鋼板22はその頭部22aにおいて連結具28を介してフーチング16に連結されている。連結具28は鉄筋コンクリート構造体24に埋設されている。これによれば、フーチング16に対する鋼板22の一体性がより一層堅固にされる。
【0028】
なお、鋼板22同士を非連結とすることにより、鋼板22をこれが鉛直に伸びるように設置する図示の例に代えて、鋼板22が傾斜して伸びるように、より詳細には鋼板22が地中を下方に向けて伸びる間に次第にフーチング16から離れるように配置することができる。
【0029】
耐震補強構造12は、次のようにして構築することができる。
【0030】
まず、地盤E中に少なくとも1つの鋼板22をこれが上下方向へ伸びかつその頭部22aがフーチング16の周面16aに相対するように設置する。地盤E中への鋼板22の設置は、鋼板22を地盤Eに圧入することにより行うことができる。
【0031】
次に、フーチング16の周囲に該フーチングの周面16a及び鋼板22の頭部22aが露出する空間30(図3)を形成する。図示の例において、空間30は矩形状の周面に規定されている。
【0032】
その後、鉄筋コンクリート構造体24を形成するために、空間30内にフーチング16及び鋼板22の頭部22aの周囲を取り巻く少なくとも1つ(図示の例では3つ)の鉄筋26を配置する。次に、空間30にコンクリート32(図3)を打設する。このとき、必要に応じて、空間30の周面に沿って型枠を設置する。その後、固化後のコンクリート32上に残る空間30の一部を、掘削により生じた土砂の一部で埋め戻す。これにより、耐震補強構造12の形成が完了する。
【符号の説明】
【0033】
10 杭基礎
12 耐震補強構造
14 構築物
16 フーチング
18 杭
20 基礎梁
22 鋼板
24 鉄筋コンクリート構造体
26 鉄筋
28 連結具
30 空間
32 コンクリート
図1
図2
図3