(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
900mLのpH5の水性溶液中における、37℃で50rpmの条件下、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法において、15分後の溶出ゲフィチニブが70%以上であり、30分後の溶出ゲフィチニブが80%以上である、請求項1〜3の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、有効成分としてゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩をゲフィチニブとして50質量%を超える量で含有し、結合剤及び崩壊剤を含有する医薬錠剤であって、pH1〜5の水性溶液中における溶出性において、pH依存性が緩和され、30分程度でほとんどの有効成分が溶出される即放性錠剤であることを特徴とする。以下にその詳細について説明する。
【0014】
本発明は、有効成分としてゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩である薬剤(A)を用いる。ゲフィチニブは、化学名をN−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−[3−(モルフォリン−4−イル)プロポキシ]キナゾリン−4−アミンである。当該化合物は、特表平11−504033号公報にて開示されており、それに記載の方法により合成することができる。
ゲフィチニブは、弱塩基性化合物であることから、適当な酸との酸付加塩の態様であっても良い。例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、フマル酸、メタンスルホン酸又は4−トルエンスルホン酸とのモノ−又はジ−酸付加塩を用いても良い。
ゲフィチニブは医薬品の有効成分として用いることができる品質レベルの化合物を用いることが望ましい。本発明において、薬剤(A)は酸付加塩ではなく遊離塩基体のゲフィチニブを用いることが好ましい。
【0015】
本発明の医薬錠剤は、有効成分であるゲフィチニブを遊離塩基体含有量として、その含有率が50質量%を超えて用いることを特徴とする。すなわち、ゲフィチニブを高含有量とする処方組成とすることで、後述する結合剤及び崩壊剤と共に当該医薬錠剤の主成分を構築することを特徴とする。
当該医薬錠剤全体におけるゲフィチニブの含有率は、50質量部を超え90質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、ゲフィチニブとして55質量部以上で85質量部以下であり、60質量部以上で80質量部以下であることが特に好ましい。
また、有効成分であるゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩は、当該医薬錠剤の単位製剤当たり、遊離塩基体であるゲフィチニブとして50mg〜500mg含有することが好ましい。より好ましくは100mg〜300mgであり、1錠当り250mg含有した医薬錠剤とすることが好ましい。
【0016】
本発明の医薬錠剤は、結合剤並びに崩壊剤を含有することを特徴とする。
本発明における結合剤とは、当該医薬錠剤の主要成分であるゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩及びその他の医薬製剤用添加剤を結合して錠剤型として成型してそれを維持させるための機能を有する添加剤である。本発明に用いられる結合剤としては合成高分子系の結合剤が該当し、これらに分類される結合剤が好適に用いられる。合成高分子系の結合剤は、医薬錠剤の成形性を向上させるだけでなく、ゲフィチニブの中性領域における水溶性を向上させるための溶解促進剤としても機能することから、極めて重要な添加剤である。
当該結合剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリレート共重合体、アンモニオアルキルメタクリレート共重合体、ポリビニルアルコール−アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合物、ポリアクリル酸部分中和物、ポリビニルアルコール、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体等を挙がることができる。好ましくは、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル共重合体、ポリビニルアルコール−アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合物、ポリビニルアルコール、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体である。これらは単独で用いても良く、2種類以上の混合物として用いても良い。当該結合剤として特に好ましくはポリビニルピロリドンである。
本発明の医薬錠剤において、当該結合剤の含有量として2.5質量%以上で30質量%以下であることが好ましい。当該結合剤は、有効成分であるゲフィチニブのpH5における水溶解度を向上させることができることから、積極的に添加することが望ましく、5質量%以上で30質量%以下の処方であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以上で25質量%以下の処方である。
【0017】
本発明における崩壊剤とは、経口投与された医薬錠剤が胃又は小腸等の消化管内において崩壊させるための機能を有する添加剤である。これらは水分を吸収すると膨潤する物性であるものが用いられる。本発明の医薬錠剤は即放性の錠剤が求められ、この性能の適する速崩壊性の崩壊剤が用いられる。
例えば、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム等が、好適に用いられる。なお、ゲフィチニブの中性領域における水溶解度を考慮するとカルボン酸及び/またはその塩である崩壊剤を用いることが好ましく、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウムを用いることがより好ましい。
本発明の医薬錠剤において、当該崩壊剤の含有量として2質量%以上で30質量%以下であることが好ましい。2質量%以上で20質量%以下の処方であることが好ましい。より好ましくは、3質量%以上で15質量%以下の処方である。
【0018】
本発明の医薬錠剤は、結合剤並びに崩壊剤を併用して用いることを特徴とする。医薬錠剤として、錠剤成形性と即放性を達成するためには、この2種類の添加剤を共存させることが必要であり、結合剤と崩壊剤の処方組成比率を調整することにより、溶出の速度や濃度に関連する崩壊速度を制御することができる。したがって、所望の溶出性を奏功させるために、これらの配合比率を適宜設定することが望ましい。一般的には、崩壊剤の処方量を増やすと即放型錠剤となり、溶出性が速い医薬錠剤が得られる。逆に、崩壊剤よりも結合剤の処方量を多くすると、徐放性の錠剤が得られることになる。しかしながら、本発明にて用いられる合成高分子系の結合剤は、ゲフィチニブの水溶解度向上剤としての機能を有することから、pH4〜5における溶出性向上に大きく寄与する。このため、本発明の課題解決のためには、当該結合剤を崩壊剤の処方量以上で用いることが好ましい。すなわち、結合剤及び崩壊剤の含有量質量比率が1〜5:1の添加剤処方組成とすることが好ましい。より好ましくは、結合剤と崩壊剤の含量組成比率は1.5〜3:1の範囲にて用いる処方である。
【0019】
本発明の医薬錠剤は、有効成分としてゲフィチニブ又はその医薬的に許容な塩をゲフィチニブとして50質量%を超える量で含有し、医薬製剤用添加剤として結合剤及び崩壊剤を含有する以外に、可溶化剤、滑沢剤、賦形剤、隠蔽剤や着色剤、コーティング剤等の、医薬製剤を調製するための通常の医薬製剤用添加剤を用いても良い。
【0020】
本発明においてゲフィチニブの水溶解性を補助するための可溶化剤を用いることが好ましい。可溶化剤としては界面活性剤が用いられ、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウロマクロゴール等が挙げられる。
【0021】
本発明において滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ等が挙げられる。
【0022】
本発明において賦形剤としては、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン等、上記の結合剤、崩壊剤、可溶化剤、滑沢剤に該当しない不活性の添加剤が含まれる。
なお、本発明は有効成分であるゲフィチニブ又はその塩を50質量%を超える量で含有し、結合剤を2.5質量%以上で30質量%以下の処方、及び崩壊剤を2質量%以上で30質量%以下の処方が好ましいことから、その反面、賦形剤の含有量は低減することになり、該医薬錠剤全体における含有率が30質量%以下であることが好ましい。医薬錠剤中のゲフィチニブ又はその塩の含量均一性を確保するため、本発明は、乳糖等の糖類及び/又は結晶セルロース等のセルロース誘導体を賦形剤として用いることが好ましいが、その含有率は該医薬錠剤全体において、30質量%以下であることが好ましい。本発明の医薬錠剤は、賦形剤含有率を30質量%以下にすることで、錠剤の小型化を達成することができることから好ましい。賦形剤である糖類及び/又は結晶セルロースの含有率が2質量%以上で30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上で20質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明において隠蔽剤や着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。
【0024】
本発明においてコーティング剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースの水溶性塩等の水溶性セルロースエーテルや、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ポリ(ビニルアルコール−(メタ)アクリレート)共重合体、ポリ((メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル−アルキル(メタ)アクリレート)共重合体、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート等の水溶性共重合体を挙げることができる。コーティング剤には、マクロゴール300、マクロゴール6000等のポリエチレングリコール類を可塑剤として共存させて用いても良い。コーティング剤は、即放性を達成するために、胃内溶解性の材料を選択することが好ましい。
【0025】
本発明はゲフィチニブを有効成分とする経口投与用の医薬錠剤に関するが、その製剤型は、裸錠、フィルムコーティング錠、分散錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠等の形態の何れの態様であっても良い。
当該医薬錠剤は、有効成分であるゲフィチニブ又はその塩、結合剤及び崩壊剤、並びに任意の医薬製剤用添加剤として可溶化剤、滑沢剤、賦形剤等を配合して、任意に顆粒体を調製した後、これを圧縮成型して医薬錠剤を調製することができる。
フィルムコーティング剤を調製する場合は、前記の圧縮成型した医薬錠剤に、コーティング剤及び、任意の可塑剤、隠蔽剤や着色剤を、水又は水と任意の割合で混合し得る有機溶剤を含む水性溶剤にて溶解又は懸濁させたコーティング剤水性溶液を、スプレー等により錠剤表面付着させ、その後、熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、調製することができる。
【0026】
本発明の医薬錠剤は、ゲフィチニブとして50質量部を超えて90質量部以下であり、結合剤を2〜30質量部、崩壊剤を2〜20質量部、可溶化剤を0〜5質量部、賦形剤を5〜30質量部で含有する処方による医薬組成物を混合し、任意に水、エタノール、メタノール等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒を添加して造粒して顆粒体を調製し、滑沢剤を0.1〜5質量部添加して、これを圧縮成型することで医薬錠剤を調製することができる。
なお本発明の医薬錠剤を調製するための製剤処方組成物を圧縮成型する前に、造粒化操作を行い、顆粒体を調製することが好ましい。造粒化操作としては、当該医薬組成物に適当な機械的圧力を付加して造粒する乾式造粒であっても良く、水又は有機溶剤を適当量添加して混合等の機械的圧力を付加して造粒する湿式造粒であっても良い。本発明品を調製するにあたっては、この湿式造粒を選択することがより好ましい。
この造粒物を、打錠成型等により錠剤形に成型することにより、医薬錠剤を調製することができる。
【0027】
更に、コーティング剤、隠蔽剤や着色剤、分散剤及び可塑剤を含有する水性溶液を前記医薬錠剤表層に付着させて、フィルムコーティング錠を調製しても良い。
フィルムコーティング剤を調製する場合は、内核となる錠剤に被覆するコーティング剤を含有する水性溶液を用いる。これには、コーティング剤を60〜100質量部、隠蔽剤及び/又は着色剤を0〜10質量部、分散剤を0〜10質量部、可塑剤を0〜20質量部で含有する処方の組成物を、水又はエタノールやアセトン等の水と任意に混和する有機溶剤を含有する水性溶剤による溶液である。なお、隠蔽剤や着色剤等は当該水性溶液に溶解して用いても、懸濁状態で用いても良い。分散剤とは、例えばマクロゴールが挙げられる。また可塑剤とは、例えばグリセリン、プロピレングリコール、分子量300〜6000のポリエチレングリコール、ヒマシ油等のトリグリセリド、ジエチルフタレート等を挙げることができる。
フィルムコーティング剤を調製するためには、前記コーティング剤を含有する水性溶液を、前記内核錠の表面に噴霧等の操作により均一に付着させて、これを乾燥することで当該コーティング層を設けることができる。具体的には、内核錠が入ったコーティングパンの中へ、コーティング剤を含有する水性溶液を注入またはスプレーし、錠剤表面に熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、素錠表面に当該コーティング剤を均一に付着させ、その後、乾燥することでコーティング層を設けることができる。乾燥工程は、室温〜80℃程度で行うことが好ましい。減圧下で行うことで水性溶剤を揮発させて乾燥しても良い。
【0028】
本発明のより好ましい態様としては、ゲフィチニブとして55〜85質量部、結合剤を5〜30質量部、崩壊剤を2〜20質量部、可溶化剤を0.1〜5質量部、滑沢剤を0.1〜5質量部、賦形剤を5〜20質量部を含有する処方の錠剤である。これのフィルムコーティング錠であることが更に好ましい。
【0029】
本発明の医薬錠剤は、溶出性が速いことを特徴とする。更に、溶出性においてpH依存性が緩和されて、酸性溶液でもpH5の中性溶液でも溶出性の差が小さいことを特徴とする。すなわち、900mLのpH1〜5の水性溶液中における、37℃で50rpmの条件下、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法において、15分後のゲフィチニブの溶出率が70%以上であり、30分後のゲフィチニブの溶出率が80%以上である、医薬錠剤であることを特徴とする。
前記溶出性試験におけるpH1〜5の水性溶液は、塩酸、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸、水酸化ナトリウム等を用いて適宜pH調整した水溶液を用いることが好ましい。しかしながら、当該試験水性溶液は、日本薬局方や厚生労働省通知に記載又は準拠した試験溶液を用いることが好ましい。すなわち、日本薬局方溶出試験第1液(pH1.2 塩酸7.0mL、塩化ナトリウム2.0g/1000mL水溶液)、溶出試験第2液(pH6.8 0.2mol/Lリン酸二水素カリウム試液250mLに、0.2mol/L水酸化ナトリウム試液118mL及び水を加えて1000mLとした溶液を、2倍希釈した溶液)、等が挙げられる。
また、pH3.0の試験溶液は、0.2mol/Lリン酸水素二ナトリウム十二水和物水溶液に、0.1mol/Lクエン酸一水和物水溶液をpH3.0となるまで加えることで調製した水性溶液を用いることが好ましい。pH4.0の試験溶液は、0.2mol/Lリン酸水素二ナトリウム十二水和物水溶液に、0.1mol/Lクエン酸一水和物水溶液をpH4.0となるまで加えることで調製した水性溶液を用いることが好ましい。pH5.0の試験溶液は、0.2mol/Lリン酸水素二ナトリウム十二水和物水溶液に、0.1mol/Lクエン酸一水和物水溶液をpH5.0となるまで加えることで調製した水性溶液を用いることが好ましい。
前記のpH調整した試験溶液900mLを用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法により、本発明により調製される医薬錠剤1錠から有効成分を試験溶液中へ溶出させ、紫外可視吸光度計もしくは液体クロマトグラフィーを用いて試験液への溶出率を評価することで、本発明の特徴である速い溶出性で、且つpH1〜5に亘り溶出性のpH依存性がない特性を有する錠剤であることを確認することができる。
【0030】
前記各pHに調整した試験溶液を用いて、37℃で50rpmの条件下、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法において、15分後のゲフィチニブの溶出率が70%以上であり、30分後のゲフィチニブの溶出率が80%以上であり、極めて速い溶出性であり、溶出性にpH依存性がないことを特徴とする。好ましくは、pH1〜5の水性溶液において15分でゲフィチニブが75%以上溶出し、且つ30分で85%以上の溶出率である。
特にpH5の水溶液における溶出性の確保が重要であり、900mLのpH5の水性溶液中における、37℃で50rpmの条件下、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法において、15分後の溶出ゲフィチニブが70%以上であり、30分後の溶出ゲフィチニブが80%以上である医薬錠剤であることが好ましい。
【0031】
斯様な溶出性を奏する医薬錠剤を調製するためには、該医薬錠剤全体におけるゲフィチニブの含有率が50質量%を超える処方で、且つ結合剤及び崩壊剤を共存させた処方において、処方添加剤の種類や処方量を適宜調整することにより達成することができる。すなわち、ゲフィチニブを当該医薬錠剤中で50質量%を超える主要な処方成分として、これを合成高分子系の結合剤を用いて錠剤成型可能とするとともに、pH5における水溶解度を確保して、適当量の崩壊剤を共存させて、崩壊速度を適宜調整することで、所望の溶出速度を奏する医薬錠剤を調製することができる。特に、結合剤によりpH5における溶解性を高めたゲフィチニブを主成分とした錠剤とすることが本発明の肝要な構成である。
また、ゲフィチニブの単位製剤当りの含有量も、単位時間当たりの溶出性に影響するため、当該医薬錠剤の単位製剤当たり、遊離塩基体であるゲフィチニブとして50mg〜500mg含有することが好ましい。より好ましくは100mg〜300mgであり、1錠当り250mg含有した医薬錠剤とすることが好ましい。
ゲフィチニブを当該医薬錠剤中で50質量%を超える主要な処方成分とする反面、その他の医薬製剤添加剤の含有量が低減されることになるが、賦形剤として用いられる乳糖等の糖類及び/又は結晶セルロース等のセルロース誘導体を用いることが好ましいが、その含有率が30質量%以下であることも好ましい態様の特徴と言える。
本発明の特徴である、速く、且つpH依存性の少ない溶出性を有する医薬錠剤とは、ゲフィチニブを当該医薬錠剤中で50質量%を超える主要な処方成分として、合成高分子系の結合剤を用いることで適宜調製することができる。
【0032】
ゲフィチニブは溶解度のpH依存性が極めて高く、その溶解度に対応して当該製剤における溶出性もpH依存性が高い事が知られている。本発明の医薬錠剤は、溶出性におけるpH依存度がほとんどないことを特徴とする。すなわち、本発明の医薬錠剤は、中性溶液である、pH4の水性溶液(900mL)を用いても、37℃で50rpmの条件下、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)による溶出試験法で、15分後のゲフィチニブの溶出率が70%以上であり、30分後のゲフィチニブの溶出率が80%以上であり、好ましくは、15分で75%以上溶出し、且つ30分で85%以上の溶出率である。すなわち、酸性溶液とほとんど変わらない溶出性を示すことを特徴とする。また、pH5の水性溶液(900mL)を用いても、同溶出試験法で、15分後のゲフィチニブの溶出率が70%以上であり、30分後のゲフィチニブの溶出率が80%以上であり、好ましくは、15分で75%以上溶出し、且つ30分で85%以上の溶出率であり、酸性溶液中における溶出性と製薬技術上の同等性を有していると言え、溶出性におけるpH依存性がほとんどなく、吸収性に優れた医薬製剤を提供することができる。
【0033】
本発明の医薬錠剤は、ゲフィチニブを有効成分とする疾患治療剤として用いることができる。特に適用が可能な疾患としては悪性腫瘍であり、抗腫瘍剤として用いられる。本邦ではゲフィチニブはEGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌に対する治療剤として提供されていることから、同じ疾患治療剤に用いることが好ましい。
本発明の処方は、経口投与によることが好ましく、1日当り50mg〜500mg服用することが好ましい。より好ましくは100mg〜300mgであり、250mgを服用することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ゲフィチニブ1500g、乳糖水和物(ダイラクトーズ、フロイント産業株式会社製)30g、結晶セルロース(セオラス、旭化成ケミカルズ株式会社製)120g、ポビドン(Kollidon、BASF製)210g、クロスカルメロースナトリウム(Primellose、DFE Pharma製)120gを撹拌造粒機(深江パウテック株式会社:FS−GS−10J型)で混合した。
この混合物に、ラウリル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム「製造専用」、国産化学株式会社製)12gを精製水600mLに溶解した造粒水を加えて、撹拌造粒機にて造粒を行った。これを60℃にて60分間以上乾燥した後、20メッシュの篩で整粒し、整粒顆粒を得た。整粒顆粒にステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム、日油株式会社製)18gを混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を、打錠機(株式会社畑鐵工所製:HT−X12SS−U/W)を用いて、錠剤径約9mm、厚み約5.4mm、質量約335mg、硬度100N以上のゲフィチニブの素錠(内核錠剤)を製造した。
表1に実施例1の錠剤(素錠)を調製した処方をまとめた。
得られた錠剤(素錠)は、有効成分としてゲフィチニブ250mg(74.6質量%)、賦形剤として乳糖水和物および結晶セルロースを合計25mg(7.5質量%)結合剤としてポビドン35mg(10.4質量%)、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム20mg(6.0質量%)を含有する総質量335mgのゲフィチニブ素錠であった。
【0035】
【表1】
【0036】
[実施例2]
実施例1の錠剤(素錠)を内核錠剤としたフィルムコーティング錠剤を以下の工程により調製した。
ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体(Kollicoat IR、BASF製)150g、三二酸化鉄(三二酸化鉄、癸巳化成株式会社製)3.75g、酸化チタン(高純度酸化チタン、東邦チタニウム株式会社製)5.25gを精製水約1,340mLに分散させ、コーティング液とした。
表2にコーティング剤の処方をまとめた。
このコーティング液を、コーティング機(フロイント産業株式会社:HCT−30N)を用いて、実施例1の錠剤(素錠)へ噴霧し、噴霧後の錠剤質量が約343mgとなるようにコーティングを行い、フィルムコーティング錠剤を調製した。
得られたフィルムコーティング錠剤は、有効成分としてゲフィチニブ250mg(72.9質量%)、賦形剤として乳糖水和物および結晶セルロースを合計35mg(7.3質量%)結合剤としてポビドン35mg(10.2質量%)、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム20mg(5.8質量%)を含有する総質量343mgのフィルムコーティング錠であった。
【0037】
【表2】
【0038】
[試験例1] 実施例1及び2の溶出性試験
実施例1及び2の錠剤を、日本薬局方に記載される方法で調製したpH1.2、pH3.0、pH4.0、pH5.0の各試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験条件詳細は以下のように設定した。
・溶出試験器 :NTR−6200A、富山産業株式会社製
・試験液量 :900mL
・試験液温 :37±0.5℃
・パドル回転数:50rpm
・分析機器 :紫外可視分光度計(UV−1700、島津製作所製)
・測定波長 :247nm
定量分析用の標準溶液試料として、各pH溶液を使用してゲフィチニブ溶液を任意の濃度で調製し、波長247nmでの吸光度を測定、これを各pH溶液における標準値とした。溶出試験においては、各経時点の溶液の吸光度を測定することで、各経時点における溶液中のゲフィチニブ濃度を計算し溶出率を算出した。
実施例1のゲフィチニブ素錠の溶出率を表3に、実施例2のフィルムコーティング錠剤の溶出率を表4に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
実施例1及び2の溶出性試験結果から、ゲフィチニブ素錠でもフィルムコーティング錠においても、pH1.2〜5において試験開始15分後のゲフィチニブ溶出率が70%を超え、30分後の溶出率が80%を超える結果が得られた。したがって、本発明の錠剤は、有効成分であるゲフィチニブの溶出性のpH依存性が少なく、経口投与した際に胃〜小腸に亘る消化管内pH環境でも溶出性が確保され、吸収性に優れた医薬製剤であることが示された。特に、pH5溶液において、試験開始15分後のゲフィチニブ溶出率が70%を超え、30分後の溶出率が80%を超える結果が示され、経口投与されて、小腸環境下においても、満足すべき溶出特性を有することが示唆された。
【0042】
[比較例1]
ゲフィチニブ5g、乳糖水和物(ダイラクトーズ、フロイント産業株式会社製)3g、結晶セルロース(セオラス、旭化成ケミカルズ株式会社製)0.4g、ポビドン(Kollidon、BASF製)0.4g、クロスカルメロースナトリウム(Primellose、DFE Pharma製)1gを小型撹拌機(協立理工株式会社製)で混合した。
この混合物に、ラウリル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム「製造専用」、国産化学株式会社製)0.04gを精製水2.5mLに溶解した造粒水を加えて、小型撹拌機にて造粒を行った。これを60℃にて60分間以上乾燥した後、20メッシュの篩で整粒し、整粒顆粒を得た。整粒顆粒にステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム、日油株式会社製)0.1gを混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を、打錠機(岡田精工株式会社:KT−2型)を用いて、錠剤径約11mm、厚み約5.4mm、質量約495mg、硬度100N以上のゲフィチニブの錠剤(素錠)を製造した。
表5に比較例1の錠剤の調製の処方をまとめた。
得られた錠剤は、有効成分としてゲフィチニブ250mg(50.5質量%)、賦形剤として乳糖水和物および結晶セルロースを合計170.3mg(34.4質量%)、結合剤としてポビドン18.3mg(3.7質量%)、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム49.5mg(10質量%)を含有する総質量495mgのゲフィチニブ素錠であった。
【0043】
【表5】
【0044】
[比較例2]
ゲフィチニブ5g、乳糖水和物(ダイラクトーズ、フロイント産業株式会社製)3.6g、結晶セルロース(セオラス、旭化成ケミカルズ株式会社製)0.4g、ポビドン(Kollidon、BASF製)0.3g、クロスカルメロースナトリウム(Primellose、DFE Pharma製)0.5gを小型撹拌機(協立理工株式会社製)で混合した。
この混合物に、ラウリル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム「製造専用」、国産化学株式会社製)0.04gを精製水2.5mLに溶解した造粒水を加えて、小型撹拌機にて造粒を行った。これを60℃にて60分間以上乾燥した後、20メッシュの篩で整粒し、整粒顆粒を得た。整粒顆粒にステアリン酸マグネシウム(日本薬局方 ステアリン酸マグネシウム、日油株式会社製)0.1gを混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を、打錠機(岡田精工株式会社:KT−2型)を用いて、錠剤径約11mm、厚み約5.4mm、質量約495mg、硬度100N以上のゲフィチニブの錠剤(素錠)を製造した。
表6に比較例2の錠剤の調製の処方をまとめた。
得られた錠剤は、有効成分としてゲフィチニブ250mg(50.5質量%)、賦形剤として乳糖水和物および結晶セルロースを合計198.5mg(40.1質量%)、結合剤としてポビドン14.9mg(3質量%)、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム24.8mg(5質量%)を含有する総質量495mgのゲフィチニブ素錠であった。
【0045】
【表6】
【0046】
[試験例2] 比較例1及び2の溶出性試験
比較例1及び2のゲフィチニブ素錠について、日本薬局方に記載される方法で調製したpH5.0の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。試験方法は、試験例1と同様の操作にて行った。
比較例1及び2の錠剤のpH5溶液における溶出率試験の結果を表7に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
比較例1および2で調製したゲフィチニブ素錠は、いずれもpH5溶液下において15分後の溶出率が70%に満たず、30分後において80%に満たない結果となった。これに対し、本発明品(実施例1及び2)は、中性領域であるpH5の条件下においても速やかな溶出率を示す結果であった。本発明は、有効成分であるゲフィチニブを高含量として、合成高分子系の結合剤を配合することを特徴とする。上述したように、本製剤においては中性領域のpH、特にpH5溶液における速やかな溶出特性を有することが胃〜小腸に亘る消化管内pH環境における薬剤吸収性を確保する重要な因子である。したがって、本発明品は有効成分であるゲフィチニブの溶出性にpH依存性がなく、経口投与した際に胃〜小腸に亘る消化管内pH環境において適切な薬剤吸収性が確保される医薬製剤であることが示唆された。
【0049】
[試験例3] ゲフィチニブの溶解度測定
参考までに、ゲフィチニブの各pHにおける溶解度を、下記条件で溶解度試験により測定して、ゲフィチニブの溶解度のpH依存性を確認した。
・試験溶液:日本薬局方に記載される方法で調製したpH3、pH4、pH5溶液
・溶液量 :50mL
・溶液温度:37℃付近の一定温度
・撹拌方法:マグネチックスターラー(RT−10、IKA社製)
・撹拌速度:目盛5の一定速度
・撹拌時間:40分間
・分析機器:高速液体クロマトグラフィー(ポンプLC−20AB、オートサンプラーSIL−20A、吸光検出器SPD−20A、カラムオーブンCTO−20A、島津製作所製)
・移動相 :1%酢酸アンモニウム水溶液:アセトニトリル=31:19
・測定波長:247nm
・カラム種類:ステンレス管に3μmのオクタデシルシリル化シリカゲルを充填した内径4.6mm、長さ15cmの液体クロマトグラフィー用カラム
・カラム温度:40℃付近の一定温度
・注入量 :10μL
・流量 :1mL/mL
試験方法としては、50mLの各pH溶液に対し、ゲフィチニブ原薬を溶液が澄明にならない程度、具体的には約2〜6gを入れ、37℃付近の一定温度下で40分間撹拌した。撹拌終了後、溶液約2mLを採り、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィーで溶液中のゲフィチニブ含量を分析した。
溶解度試験による各pH溶液におけるゲフィチニブの溶解度測定結果を表8に示す。
【0050】
【表8】
【0051】
試験例3の溶解度試験の結果が示す通り、ゲフィチニブはpHによってその溶解度が大きく変動する。すなわち、低pHであるほど溶解度は高く、酸性溶液であるpH3溶液ではゲフィチニブはある程度の水溶解度を有するが、pH5では、極めて難溶性を示すことが明らかとなった。
【0052】
[試験例4]
本発明に係る結合剤である合成高分子系結合剤がpH5におけるゲフィチニブの水溶解度へ与える影響を、以下の試験にて確認した。
・合成高分子系結合剤:ポリビニルピロリドン
・試験溶液:日本薬局方に記載される方法で調製したpH5溶液
・溶液量 :50mL
・溶液温度:37℃付近の一定温度
・撹拌方法:マグネチックスターラー(RT−10、IKA社製)
・撹拌速度:目盛5の一定速度
・撹拌時間:60分間
・分析機器:高速液体クロマトグラフィー(ポンプLC−20AB、オートサンプラーSIL−20A、吸光検出器SPD−20A、カラムオーブンCTO−20A、島津製作所製)
・移動相 :1%酢酸アンモニウム水溶液:アセトニトリル=31:19
・測定波長:247nm
・カラム種類:ステンレス管に3μmのオクタデシルシリル化シリカゲルを充填した内径4.6mm、長さ15cmの液体クロマトグラフィー用カラム
・カラム温度:40℃付近の一定温度
・注入量 :10μL
・流量 :1mL/mL
試験方法としては、50mLのpH5溶液に対し、合成高分子系結合剤であるポリビニルピロリドンを所定量添加し、これにゲフィチニブ原薬を溶液が澄明にならない程度、具体的には約2gを入れ、37℃付近の一定温度下で60分間撹拌した。撹拌終了後、溶液約2mLを採り、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィーで溶液中のゲフィチニブ含量を分析した。
ゲフィチニブおよびポリビニルピロリドンの配合比と、ゲフィチニブの溶解度について得られた結果を表9に示す。
【0053】
【表9】
【0054】
試験例4の結果、ポリビニルピロリドンはpH5溶液におけるゲフィチニブの溶解度向上剤として機能することが明らかとなった。経口投与されて、小腸環境下においても満足すべき溶出特性を有するゲフィチニブを主成分とする医薬錠剤を製する際に重要な因子となり得るのは、pH5溶液下における溶解性を改善する事である。したがって、ゲフィチニブを有効成分とする医薬錠剤において、溶出性のpH依存性を緩和するためには、ゲフィチニブとポリビニルピロリドンといった合成高分子系結合剤を配合することが重要であり、ゲフィチニブとポリビニルピロリドンが効率的に相互作用できるように、ゲフィチニブを高含有量とする処方とすることが好ましいことが見出された。
【0055】
本発明に係る実施例1及び2の医薬錠剤は、pH4試験溶液での溶出性はpH1.2及び3の試験溶液と同等であり、ゲフィチニブ自体の溶解度がpH3の時と比較して25.8%も低下しているにもかかわらず、溶出性のpH依存性を解消することができた。更に、pH5試験溶液では、溶解度がpH3の時と比較して3.5%まで低下しているにもかかわらず、試験開始15分後の溶出率が70%を超え、30分後の溶出率が80%を超えるという、酸性溶液条件下から大きく低下することが無い速やかな溶出性が確保されていることが確認された。経口投与により提供される医薬品は、主たる吸収部位である小腸における溶出性並びに溶解性の確保が、当該医薬のバイオアベイラビリティを確保するために重要である。すなわち、小腸におけるpH環境における溶出性の確保が重要であり、ゲフィチニブを有効成分とする医薬の場合、pH5で試験開始15分後の溶出率が70%以上であり、30分後の溶出率が80%以上である溶出性を示すことが大事である。本発明の医薬製剤は、溶出性のpH依存性が緩和され、消化管内環境における溶出性に差異が生じない優れた特性の医薬製剤を提供することができた。