特許第6719449号(P6719449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719449
(24)【登録日】2020年6月18日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】ナイーブ型多能性幹細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20200629BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20200629BHJP
【FI】
   C12N5/10ZNA
   !C12N15/63 Z
【請求項の数】22
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-506204(P2017-506204)
(86)(22)【出願日】2016年3月17日
(86)【国際出願番号】JP2016058577
(87)【国際公開番号】WO2016148253
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2019年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-54907(P2015-54907)
(32)【優先日】2015年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】木佐 文彦
【審査官】 坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0037883(US,A1)
【文献】 特開2014−217344(JP,A)
【文献】 TAKASHIMA Yasuhiro et al.,Resetting Transcription Factor Control Circuitry toward Ground-State Pluripotency in Human,Cell,2014年,Vol.158,p.1254-1269,特に要約・図1
【文献】 木佐文彦他,ヒトiPS細胞における多能性状態の改変,再生医療,2015年 2月,Vol.14, Suppl.,p.289, P-01-006,全文
【文献】 塩澤誠司他,コモンマーモセットES細胞における多能性状態の改変,再生医療,2015年 2月,Vol.14, Suppl.,p.288, P-01-004,全文
【文献】 HANNA Jacob et al.,Human embryonic stem cells with biological and epigenetic characteristics similar to those of mouse,PNAS,2010年,Vol.107, No.20,p.9222-9227,特に要約・図1
【文献】 HASSANI Seyedeh-Nafiseh et al.,Inhibition of TGFβ Signaling Promotes Ground State Pluripotency,Stem Cell Rev and Rep,2014年,Vol.10,p.16-30,特に要約
【文献】 BUECKER Christa et al.,A Murine ESC-like State Facilitates Transgenesis and Homologous Recombination in Human Pluripotent S,Cell Stem Cell,2010年,Vol.6,p.535-546,特に要約・図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12N 15/09−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIX/PIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の2種の遺伝子:NanogおよびKlf2をプライム型多能性幹細胞に一時的に発現させ、かつLIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することを含む、ナイーブ型多能性幹細胞の製造方法。
【請求項2】
プライム型多能性幹細胞がプライム型誘導多能性幹細胞またはプライム型胚性幹細胞である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞またはプライム型ヒト胚性幹細胞である、請求項1または請求項2記載のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の製造方法。
【請求項4】
プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項5】
さらに下記の4種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c−MycおよびSox2を一時的に発現させる工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
MEK阻害剤がPD0325901、GSK3阻害剤がCHIR99021、cAMP産生促進剤がフォルスコリン、TGF−β阻害剤がA83−01およびPKC阻害剤がGo6983である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
培地がN2B27培地である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
下記の6種の遺伝子:Nanog、Klf2、Oct3/4、Klf4、c−MycおよびSox2を一時的にプライム型多能性幹細胞に発現させる工程を含む、ナイーブ型多能性幹細胞の製造方法。
【請求項9】
プライム型多能性幹細胞がプライム型誘導多能性幹細胞またはプライム型胚性幹細胞である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞またはプライム型ヒト胚性幹細胞である、請求項8または請求項9記載のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の製造方法。
【請求項11】
プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞である、請求項8〜10のいずれか1項に記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項12】
下記の6種の遺伝子:Nanog、Klf2、Oct3/4、Klf4、c−MycおよびSox2を一時的に体細胞に発現させる工程を含む、ナイーブ型誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項13】
下記の6種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c−Myc、Sox2、NanogおよびKlf2を一時的に体細胞に発現させ、かつLIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することを含む、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
体細胞がヒト由来の体細胞である、請求項12または請求項13に記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項15】
MEK阻害剤がPD0325901、GSK3阻害剤がCHIR99021、cAMP産生促進剤がフォルスコリン、TGF−β阻害剤がA83−01およびPKC阻害剤がGo6983である、請求項13または請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
培地がN2B27培地である、請求項13〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
ナイーブ型多能性幹細胞を、LIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することを含む、ナイーブ型多能性幹細胞の維持方法。
【請求項18】
ナイーブ型多能性幹細胞がナイーブ型誘導多能性幹細胞またはナイーブ型胚性幹細胞である、請求項17記載の維持方法。
【請求項19】
ナイーブ型多能性幹細胞がナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞またはナイーブ型ヒト胚性幹細胞である、請求項17または請求項18記載のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の維持方法。
【請求項20】
ナイーブ型多能性幹細胞がナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞である、請求項17〜19のいずれか1項に記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の維持方法。
【請求項21】
MEK阻害剤がPD0325901、GSK3阻害剤がCHIR99021、cAMP産生促進剤がフォルスコリン、TGF−β阻害剤がA83−01およびPKC阻害剤がGo6983である、請求項17〜20のいずれか1項に記載の維持方法。
【請求項22】
培地がN2B27培地である、請求項17〜21のいずれか1項に記載の維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイーブ化された多能性幹細胞の製造および/または維持方法(以下、本発明の方法と略記することがある)に関する。また、本発明の方法によって製造および/または維持された優れた分化多能化能を有するナイーブ型多能性幹細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の分野では、誘導多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cells;以下、iPS細胞と略記することがある)技術の出現により、iPS細胞の実用化に向けた臨床研究が急速に進みつつある。例えば、ヒトiPS細胞から誘導された網膜色素上皮細胞を用いて、加齢黄斑変性患者を対象とした臨床試験は既に実施されていることに加え、ヒトiPS細胞由来の神経細胞、軟骨細胞等を用いた臨床試験が計画されている(非特許文献1参照)。
【0003】
iPS細胞とは、多能性幹細胞の一種であり、多能性幹細胞には、iPS細胞の他に胚性幹細胞(以下、ES細胞と略記することがある)、エピブラスト幹細胞(Epiblast Stem cells)も含まれる。これら多能性幹細胞は、最近ではその由来する動物種の違いや多能性幹細胞の種類によって、基本性質が異なることが分かってきている。具体的には、マウスES細胞およびマウスiPS細胞は、発生初期の状態に近く、培養や遺伝子操作が容易で、増殖能が高く、分化誘導を効率良く行うことが可能な細胞であり、ナイーブ型と呼ばれている。一方、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞等は、より発生の段階が進んでいるエピブラストの性質を反映しているため、遺伝子操作が困難であり、3胚葉の内いずれか特定の胚葉への分化に偏った状態であり、プライム型と呼ばれている(非特許文献2参照)。したがって、再生医療等において、多能性幹細胞を実用化するためには、プライム型よりもナイーブ型の性質を有する多能性幹細胞を確実に取得できる製造方法が望まれていた。
【0004】
ヒトiPS細胞の製造方法としては、いわゆる山中4因子(Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、およびc−Myc遺伝子)を体細胞に導入する方法(特許文献1参照)が知られていたが、プライム型のヒトiPS細胞しか取得できないという課題があった。そこで、これまでに、ナイーブ型のヒトiPS細胞を製造するために、様々な動物種由来のiPS細胞をナイーブ型に誘導する手法が開発されてきた。上記山中4因子にさらに他の遺伝子を導入する試みや、種々の化合物を加える培地条件の検討が行われている。例えば、NanogおよびKlf2の2因子を導入し、培地にLIF(Leukemia inhibitory factor)、PD0325901(MEK阻害剤)、CHIR99021(GSK3阻害剤)、Go6983(PKC阻害剤)を添加する方法(非特許文献3参照)では、ナイーブ型の遺伝子マーカーとして知られているKLF4、TFCP2L1の発現が上昇していることから、ナイーブ型に近い状態のヒトiPS細胞が取得できたことが報告されている。
【0005】
しかしながら、上記の技術では、ナイーブ型の未分化能維持に重要な遺伝子と考えられているESRRB(Estrogen-related receptor beta)(非特許文献3および4参照)の発現がほとんど認められない等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4183742号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】バイオサイエンス・トレンズ(BioScience Trends)、第7巻、第3号、157−158ページ、2013年
【非特許文献2】セル・ステム・セル(Cell Stem Cell)、第4巻、487−492ページ、2009年
【非特許文献3】セル(Cell)、第158巻、1254−1269ページ、2014年
【非特許文献4】ネイチャー・セル・バイオロジー(Nature Cell Biology)、第11巻、第2号、197−203ページ、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ナイーブ型の未分化能維持に重要な遺伝子を高発現できる多能性幹細胞を製造および/または維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意検討した結果、いわゆる初期化因子のうち、6種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、c−Myc、Sox2、NanogおよびKlf2)を導入して、一時的に発現させることに加え、LIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することにより、驚くべきことにナイーブ型の未分化能を維持できる多能性幹細胞を製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、[1] 下記の2種の遺伝子:NanogおよびKlf2をプライム型多能性幹細胞に一時的に発現させ、かつLIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することを含む、ナイーブ型多能性幹細胞の製造方法、
[2] プライム型多能性幹細胞がプライム型誘導多能性幹細胞またはプライム型胚性幹細胞である、前記[1]に記載の製造方法、
[3] プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞またはプライム型ヒト胚性幹細胞である、前記[1]または前記[2]記載のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の製造方法、
[4] プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の製造方法、
[5] さらに下記の4種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c−MycおよびSox2を一時的に発現させる工程を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法、
[6] MEK阻害剤がPD0325901、GSK3阻害剤がCHIR99021、cAMP産生促進剤がフォルスコリン、TGF−β阻害剤がA83−01およびPKC阻害剤がGo6983である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法、
[7] 培地がN2B27培地である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法、
[8] 下記の6種の遺伝子:Nanog、Klf2、Oct3/4、Klf4、c−MycおよびSox2を一時的にプライム型多能性幹細胞に発現させる工程を含む、ナイーブ型多能性幹細胞の製造方法、
[9] プライム型多能性幹細胞がプライム型誘導多能性幹細胞またはプライム型胚性幹細胞である、前記[8]に記載の製造方法、
[10] プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞またはプライム型ヒト胚性幹細胞である、前記[8]または前記[9]記載のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の製造方法、
[11] プライム型多能性幹細胞がプライム型ヒト誘導多能性幹細胞である、前記[8]〜[10]のいずれかに記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の製造方法、
[12] 下記の6種の遺伝子:Nanog、Klf2、Oct3/4、Klf4、c−MycおよびSox2を一時的に体細胞に発現させる工程を含む、ナイーブ型誘導多能性幹細胞の製造方法、
[13] 下記の6種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c−Myc、Sox2、NanogおよびKlf2を一時的に体細胞に発現させ、かつLIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することを含む、前記[12]記載の製造方法、
[14] 体細胞がヒト由来の体細胞である、前記[12]または前記[13]に記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の製造方法、
[15] MEK阻害剤がPD0325901、GSK3阻害剤がCHIR99021、cAMP産生促進剤がフォルスコリン、TGF−β阻害剤がA83−01およびPKC阻害剤がGo6983である、前記[13]または前記[14]に記載の製造方法、
[16] 培地がN2B27培地である、前記[13]〜[15]のいずれかに記載の製造方法、
[17] ナイーブ型多能性幹細胞を、LIF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤およびPKC阻害剤を含む培地で培養することを含む、ナイーブ型多能性幹細胞の維持方法、
[18] ナイーブ型多能性幹細胞がナイーブ型誘導多能性幹細胞またはナイーブ型胚性幹細胞である、前記[17]記載の維持方法、
[19] ナイーブ型多能性幹細胞がナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞またはナイーブ型ヒト胚性幹細胞である、前記[17]または前記[18]記載のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の維持方法、
[20] ナイーブ型多能性幹細胞がナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞である、前記[17]〜[19]のいずれかに記載のナイーブ型ヒト誘導多能性幹細胞の維持方法、
[21] MEK阻害剤がPD0325901、GSK3阻害剤がCHIR99021、cAMP産生促進剤がフォルスコリン、TGF−β阻害剤がA83−01およびPKC阻害剤がGo6983である、前記[17]〜[20]のいずれかに記載の維持方法、
[22] 培地がN2B27培地である、前記[17]〜[21]のいずれかに記載の維持方法、
[23] 前記[1]〜[16]のいずれかに記載の方法にしたがって製造された、ナイーブ型多能性幹細胞、
[24] 前記[17]〜[22]のいずれかに記載の方法にしたがって維持された、ナイーブ型多能性幹細胞等に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の特定の条件下で培養した多能性幹細胞の製造方法によれば、ナイーブ型の特徴を維持し、かつ分化多能性を有する多能性幹細胞を安定的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は遺伝子導入に使用した遺伝子発現ベクターを表す。
図2図2Aは、各細胞のコロニーの写真を示す。図2Bは、各細胞における遺伝子の発現量を示す。図中、DOXはドキシサイクリンを示す。P2はpassage2の細胞を、P3はpassage3の細胞を示す。
図3図3は、各培地で培養された201B7細胞(passage1)におけるESRRB遺伝子の発現量を示す。図中、KSR 2iLFAおよびKSR 2iLFA+Go6983は、表1に示した各表記の培地を示し、DOXはドキシサイクリンを示す。
図4図4Aは、各培地で培養された201B7細胞(左:passage2、右:passage3)のコロニーの写真示す。図4Bは、各培地で培養された201B7細胞(左:passage2、右:passage3)におけるESRRB遺伝子の発現量を示す。図中、2iL+Go6983および2iLFA+Go6983は、表1に示した各表記の培地を示し、DOXはドキシサイクリンを示す。
図5図5は、各リプログラミング因子の組み合わせにおけるESRRB遺伝子の発現量を示す。図中、2FはNANOG遺伝子およびKLF2遺伝子、4Fは山中4因子(Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、およびc−Myc遺伝子)、6FはNANOG遺伝子、KLF2遺伝子および山中4因子(Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、およびc−Myc遺伝子)の組み合わせを示す。
図6図6Aは、SDIA法により10日間神経分化誘導された各iPS細胞の細胞染色(緑:MAP2、青:ヘキストによる核染色)の結果を示す。図6Bは、各iPS細胞における分化誘導10日目のMAP2陽性細胞が存在するコロニーの割合を示す。
図7図7Aは、Neurosphereを介する方法によって神経分化誘導された各iPS細胞の細胞染色(緑:βIIIーTubulin、赤:GFAP)の結果を示す。図7Bは、各iPS細胞のアストロサイトおよび神経細胞への分化の割合を示す。
図8図8は、ナイーブ化の各ステージ(P1〜P3)を示す。P1はpassage1の細胞を、P2はpassage2の細胞を、P3はpassage3の細胞を示す。
図9図9は実施例5において遺伝子導入に使用した遺伝子発現ベクターを表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において、ナイーブ型多能性幹細胞の製造方法とは、以下の工程にしたがって行われる。すなわち、工程(i):特定の遺伝子について、遺伝子発現ベクターを用いて体細胞またはプライム型多能性幹細胞に導入する工程;工程(ii):工程(i)において遺伝子導入された体細胞またはプライム型多能性幹細胞をプライム培地で培養し、ドキシサイクリンを添加後、遺伝子発現細胞株をクローン化する工程;工程(iii):工程(ii)でクローン化された遺伝子発現細胞株に、一時的に工程(i)で導入した遺伝子を発現させ、その期間、各種化合物を添加したナイーブ培地で培養する工程を通してナイーブ型多能性幹細胞を製造する。
【0014】
また、本発明において、ナイーブ型多能性幹細胞の維持方法とは、ナイーブ型多能性幹細胞を、各種化合物を添加したナイーブ培地で培養、継代するものである。
【0015】
本発明において、体細胞としては、特に限定されないが、任意の体細胞を利用することができる。例えば、胎児期の体細胞のほか、成熟した体細胞を用いてもよい。体細胞としては、例えば、(1) 神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2) 組織前駆細胞、(3) 線維芽細胞(皮膚細胞等)、上皮細胞、肝細胞、リンパ球(T細胞、B細胞)、内皮細胞、筋肉細胞、毛細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞、皮膚細胞等の分化した細胞が挙げられる。好ましくはヒト由来の体細胞である。
【0016】
本発明において、多能性幹細胞としては、特に限定されないが、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(GS細胞)、エピブラスト細胞、胚性生殖細胞(Embryonic Germ Cell:EG細胞)、多能性生殖幹細胞(multipotent Germline Stem Cell:mGS細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。なかでも、ES細胞、ntES細胞、iPS細胞が好ましく、さらに好ましくは、ES細胞、iPS細胞であり、特に好ましくはiPS細胞である。
【0017】
ここで、これら体細胞または多能性幹細胞の由来となる生体としては、特に限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト動物(例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス)が挙げられる。好ましくは、ヒトである。
【0018】
本発明において、プライム型多能性幹細胞としては、特に限定されないが、多能性幹細胞のうち、ナイーブ型と認識されているマウスES細胞、マウスiPS細胞を除いた細胞を意味する。例えば、ヒト、サル、ブタ、ヒツジ、イヌまたはウシに由来するES細胞およびiPS細胞、ならびにヒトおよび前記非ヒト動物細胞に由来するエピブラスト幹細胞が挙げられる。好ましくは、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞であり、なかでも、ヒトiPS細胞が好ましい。
【0019】
本発明において、プライム型多能性幹細胞として用いるヒトES細胞の細胞株としては、特に限定されないが、例えば、H1、H9、Shef6、khES−1、khES−2、khES−3、khES−4、khES−5が挙げられる。
【0020】
本発明において、プライム型多能性幹細胞として用いるヒトiPS細胞の細胞株としては、特に限定されないが、例えば、WD39(線維芽細胞由来)、aTKA4(T細胞由来)、201B6、201B7、253G1、253G4が挙げられる。なかでも、WD39、または201B7が好ましい。
【0021】
本発明において、体細胞またはプライム型多能性幹細胞に導入される遺伝子としては、いわゆる初期化因子(リプログラミング因子)として知られている因子であれば特に限定されないが、例えば、Oct3/4、Klf4、c−Myc、Sox2、Nanog、Klf2、L−Myc、N−Myc、Klf5、Lin28、Tert、Fbx15、ERas、ECAT15−1、ECAT15−2、Tcl1、β−カテニン、ECAT1、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、Fthl17、Sall4、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、Grb2、Prdm14、Nr5a1、Nr5a2、E−cadherinが挙げられる。ここで、これらの遺伝子群の中から2以上の遺伝子を選択して任意に組み合わせて導入することができる。なかでも、Oct3/4、Klf4、c−Myc、Sox2、Nanog、およびKlf2の組合せが好ましい。ただし、遺伝子を導入する細胞が、プライム型多能性幹細胞である場合は、上記初期化因子のいずれかが発現しているため、それらを除いた初期化因子を導入してもよい。ヒトES細胞、またはヒトiPS細胞の場合、そのような初期化因子としては、例えば、Nanog、およびKlf2の組合せが好ましく、さらにOct3/4、Klf4、c−Myc、Sox2、NanogおよびKlf2の組み合わせが好ましい。また、導入する遺伝子の種は、導入先の細胞の種と同一であることが好ましい。例えば、ヒト由来の細胞へ導入される遺伝子はヒト遺伝子であることが好ましい。例えば、ヒト由来の体細胞、ヒトES細胞、またはヒトiPS細胞へ導入される遺伝子としては、ヒトNanog(NANOG)およびヒトKlf2(KLF2)の組合せが好ましく、さらにヒトOct3/4(OCT3/4)、ヒトKlf4(KLF4)、ヒトc−Myc(c−MYC)、ヒトSox2(SOX2)、ヒトNanog(NANOG)およびヒトKlf2(KLF2)の組み合わせが好ましい。
【0022】
本発明において、遺伝子発現ベクターとしては、特に限定されないが、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、人工染色体ベクター、トランスポゾンベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、センダイウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。
【0023】
本発明において、体細胞またはプライム型多能性幹細胞に遺伝子導入を行った後、フィーダー細胞と共に培養してもよい。フィーダー細胞としては、特に限定されないが、マウス胚性線維芽細胞(MEF細胞)、マウス胚性線維芽細胞株(STO細胞)が挙げられる。
【0024】
本発明において、プライム培地としては、特に限定されないが、例えば、基礎培地として、DMEM(Dulbecco Modified Eagle medium)、DMEMとF12の混合培地(DMEM/F12=1:1)、KnockoutTM D-MEM(Invitrogen社)挙げられ、代替血清(KSR;KnockoutTM Serum Replacement(Invitrogen社))、ウシ胎児血清(FBS)、非必須アミノ酸(NEAA)、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン、ピューロマイシン、マイトマイシン)、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)等の添加成分を任意に組み合わせて、当該いずれかの基礎培地に添加して調製したものが挙げられる。
【0025】
本発明において、クローン化とは、初期化因子を遺伝子導入された体細胞またはプライム型多能性幹細胞のうち、当該遺伝子の発現が確認できた細胞を選別する方法をいう。このような選別方法としては、例えば、予め遺伝子発現ベクターに組み込まれた蛍光タンパク質遺伝子、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、黄色蛍光タンパク質(YFP)遺伝子(例えば、Venus)、シアン色蛍光タンパク質(CFP)遺伝子(例えば、Cerulean)、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子(例えば、TOMATO)等の蛍光を蛍光顕微鏡下で確認する方法が挙げられる。この方法によって選別された細胞を、本発明では遺伝子発現細胞株という。
【0026】
本発明において、工程(iii)および維持方法における各種化合物としては、LIF(Leukemia inhibitory factor)、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、cAMP産生促進剤、TGF−β阻害剤、またはPKC阻害剤が挙げられる。これらの化合物をすべてナイーブ培地に添加することが好ましい。
【0027】
本発明において、MEK阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、PD0325901(N−[(2R)−2,3−ジヒドロキシプロポキシ]−3,4−ジフルオロ−2−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]−ベンズアミド;CAS登録番号:391210−10−9)、U0126(1,4−ジアミノ−2,3−ジシアノ−1,4−ビス[2−アミノフェニルチオ]ブタジエン;CAS登録番号:109511−58−2)、PD98059(2−(2−アミノ−3−メトキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン;CAS登録番号:167869−21−8)、PD184352(2−(2−クロロ−4−ヨードフェニルアミノ)−N−シクロプロピルメトキシ−3,4−ジフルオロベンズアミド;CAS登録番号:212631−79−3が挙げられる。なかでも、PD0325901が好ましい。
【0028】
本発明において、GSK3阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、CHIR99021(6−[[2−[[4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(5−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−2−ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]−3−ピリジンカルボニトリル;CAS登録番号:252917−06−9)、BIO(6−ブロモインジルビン−3’−オキシム;CAS登録番号:667463−62−9)、Kenpaullone(9−ブロモ−7,12−ジヒドロインドロ[3,2−d][1]ベンズアゼピン−6(5H)−オン;CAS登録番号:142273−20−9)、IM−16(3-(4-フルオロフェニルエチルアミノ)−1−メチル−4−(2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン;CAS登録番号:1129669−05−1)が挙げられる。なかでも、CHIR99021が好ましい。
【0029】
本発明において、cAMP産生促進剤としては、特に限定されないが、例えば、フォルスコリン(Forskolin;CAS登録番号:66428−89−5)が挙げられる。
【0030】
本発明において、TGF−β阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、A83−01(3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド;CAS登録番号:909910−43−6)、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−5−(2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]−ベンズアミド;CAS登録番号:301836−41−9)が挙げられる。なかでも、A83−01が好ましい。
【0031】
本発明において、PKC阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、Go6983(3−[1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−5−メトキシ−1H−インドール−3−イル]−4−(1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン;CAS登録番号:133053−19−7)、GF109203X(3−(1−(3−ジメチルアミノ)プロピル)−1H−インドール−3−イル)−4−(1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン;CAS登録番号:133052−90−1)が挙げられる。なかでも、Go6983が好ましい。
【0032】
本発明において、ナイーブ培地としては、特に限定されないが、例えば、基礎培地として、N2B27培地(DMEM/F12培地にN2サプリメントを添加したN2培地と、Neurobasal培地にB27サプリメントを添加したB27培地とを1:1に混合した培地)が好ましく、非必須アミノ酸(NEAA)、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン、ピューロマイシン、マイトマイシン)、ウシ血清アルブミン(BSA)等の添加成分を任意に組み合わせて、当該基礎培地に添加して調製したものが挙げられる。
【0033】
本発明において、ナイーブ培地に添加する各種化合物の培地中の濃度は特に限定されないが、例えば、LIFの場合は1ng/mL〜100ng/mL、MEK阻害剤の場合は50nM〜100μM、GSK3阻害剤の場合は50nM〜100μM、cAMP産生促進剤の場合は50nM〜100μM、TGF−β阻害剤の場合は10nM〜100μM、PKC阻害剤の場合は50nM〜100μMの範囲で添加されることが好ましい。
【0034】
本発明において、ナイーブ培地を用いる培養条件について、当業者であれば自明なことであるが、低酸素(酸素濃度:5%)の条件下で培養することが好ましい。
【0035】
本発明において、工程(iii)における「一時的」とは、約5日以上、または約10日以上であり、好ましくは約10〜20日間、特に好ましくは約10日〜14日間である。
【0036】
本発明において、工程(iii)における「工程(i)で導入した遺伝子を発現させる」とは、例えばドキシサイクリンの添加によって導入遺伝子の発現を誘導する行為である。
【0037】
本発明において、製造されたナイーブ型多能性幹細胞のナイーブ型の確認方法としては、当業者であれば自明なことであるが、例えば、定量的PCRにより、当該細胞のナイーブマーカーの発現量を確認する方法が挙げられる。ここで、ナイーブマーカーとしては、例えば、DPPA3、ESRRB、TFCP2L1、KLF4、KLF5、TBX3が挙げられる。あるいは、コロニー形態において、プライム型多能性幹細胞は主に単層の扁平なコロニーを形成するのに対して、ナイーブ型多能性幹細胞は主に重層(ドーム状)のコロニーを形成するため、その形態によって確認することもできる。
【0038】
本発明において、製造されたナイーブ型多能性幹細胞の分化多能性の確認方法としては、当業者であれば自明なことであるが、例えば、定量的PCRにより、当該細胞の多能性マーカーの発現量を確認する方法が挙げられる。ここで、多能性マーカーとしては、OCT3/4、Nanog、Sox2、SSEA4が挙げられる。また、別の確認方法として、胚様体(EB;Embryoid Body)法、テラトーマ(奇形腫)形成法が挙げられる。
【0039】
本発明のナイーブ型多能性幹細胞の維持方法において、導入遺伝子の発現誘導は必須ではないため、行っても行わなくてもよい。好ましくは、導入遺伝子の発現誘導は行わずに、各種化合物を添加したナイーブ培地で培養することである。
【0040】
本発明において、製造されたナイーブ型多能性幹細胞は、未分化状態を維持し、すなわち、ナイーブマーカーの1種であるESRRBを高発現し、かつ非常に高い分化多能性を有しているため、(1)所望の各種細胞への分化誘導、(2)分化誘導した細胞を用いた医薬品候補化合物のスクリーニング、(3)分化誘導した細胞から再生医療用の組織の作製、(4)作製した組織の患者への移植、(5)胚盤胞へのナイーブ化iPS細胞移植による臓器再生法等に使用することができる。
【0041】
本発明において、ナイーブ型多能性幹細胞を分化誘導できる細胞としては、特に限定されないが、例えば、心筋細胞、神経細胞、インスリン産生細胞、糸球体内皮細胞、メサンギウム細胞、ボウマン嚢上皮細胞、血管内皮細胞が挙げられる。
【0042】
本発明において、ナイーブ型多能性幹細胞を分化誘導する方法としては、特に限定されないが、例えば、神経細胞に分化誘導する方法としては、SDIA(Stromal cell-Derived Inducing Activity)法(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.99, No.3, 1580-1585, 2002)が挙げられる。
【0043】
本発明において、ナイーブ型多能性幹細胞を用いて分化誘導した細胞は、各種疾患の治療用医薬品候補化合物のスクリーニングに用いることができる。例えば、単独でまたは他の薬剤と組み合わせて、医薬品候補化合物を、当該分化誘導した細胞に添加することによって、当該細胞の形態または機能的な変化、各種因子の増減、遺伝子発現プロファイリング等を検出することにより、評価を行うことができる。ここで、当該細胞は、治療対象となる疾患と同様の表現型を有する細胞が好ましく、より好ましくは、疾患に罹患した患者に由来する体細胞から製造したナイーブ型多能性幹細胞から分化誘導した細胞である。
【0044】
本発明において、ナイーブ型多能性幹細胞を用いて分化誘導した細胞から組織を作製して、再生医療の分野で使用することができる。例えば、損傷した神経組織を本発明に由来する正常な組織と置き換えることによって、損傷した神経組織を正常化することができる。これにより、神経細胞の損傷に由来する疾患を治療することができる。そのような疾患としては、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、網膜色素変性症、筋萎縮性側索硬化症、視神経脊髄炎、視神経炎、急性散在性(播種性)脳脊髄炎、アレルギー性脳脊髄炎、脊髄損傷、横断性脊髄炎、脊髄小脳変性症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、ギラン・バレー(Guillain-Barre)症候群、多発性硬化症、てんかん、パーキンソン症候群、ダウン症、統合失調症、自律神経失調症、ハンチントン病、加齢黄斑変性症、内耳性難聴が挙げられる。
【0045】
本発明において、作製した組織の患者への移植方法としては、当業者であれば自明なことであるが、例えば、神経細胞を移植する場合は、ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)、第2巻、第12号、1137−1140ページ、1999年に記載の方法に準じて行うことができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
以下に生物学的実験例を示し、これらの実験方法に基づいて、本発明化合物の効果を確認した。
【0048】
実施例1 iPS細胞のナイーブ化
1.1 プライム型ヒトiPS細胞の培養
ヒトiPS細胞としてWD39細胞(Imaizumi et al. Molecular Brain 2012, 5:35)およびコントロールラインとして広く使用されている201B7細胞(理研バイオリソースセンター)を用いた。
【0049】
ヒトiPS細胞は、表1のプライム型条件の培地を用いて、マイトマイシンCや放射線処理したマウス胎児繊維芽細胞株(STO細胞)またはマウス胎児繊維芽細胞(MEF細胞)をフィーダー細胞として培養された。5日〜7日に1回のペースで継代を行った。継代の際には解離液(0.25%Trypsin、1mg/mlCollagenaseIV、20%KSR、1mMCaCl/PBS)を用いてコロニーを剥がし、ピペッティングによってコロニーを細かく砕いたのちに播種した。10cmディッシュに播種したiPS細胞を遺伝子導入の試験に供した。
【0050】
1.2 遺伝子導入細胞株の作製
上記「1.1 プライム型ヒトiPS細胞の培養」条件で培養されたiPS細胞(10cmディッシュ)の培地を除去し7mLのPBSで一回洗浄後、解離液を1mL添加した。1分〜2分後に解離液を除去し、7mLのPBSを加えた。軽くディッシュを揺すってフィーダー細胞のみを剥がした後にPBSを除去した。さらにPBSで一度洗浄し、表1のプライム型条件の培地3mLをディッシュに添加しスクレイパーによってiPS細胞のコロニーを剥がした後に15mLチューブに回収した。iPS細胞を200gで5分遠心して上清を除き、TrypLETM Select(Life Technologies)を1mL添加して37℃にて5分反応させた。Trypsin Inhibitor(Life Technologies)2mLを加えた後に、P1000のピペットマンで10回〜20回ピペッティングすることで単一細胞に解離した。7mLの培地を足して容量を増やし70μmのセルストレイナーを通した。単一細胞となったiPS細胞を遺伝子導入に使用した。
【0051】
遺伝子導入ではGene juice(登録商標)Transfection Reagent(Novagen)を用いてリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)発現ベクター(rtTA:clontechのrtTA−Advanced配列使用)、PiggyBac Transposase発現ベクター(Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Jan 25;108(4):1531-6参照)、ドキシサイクリン依存的に山中4因子、KLF2およびNANOGと蛍光タンパクであるTOMATOを発現するベクター(OKSM,KLF2,NANOGおよびTOMATO)の3種類のベクターを導入し(図1)、上記「1.1プライム型ヒトiPS細胞の培養」と同様に培養した。遺伝子導入の5日〜10日後にドキシサイクリンを添加し8時間〜12時間後に蛍光顕微鏡で観察した。TOMATOの蛍光が観察されるコロニーをドキシサイクリン依存性発現誘導システムが機能している細胞株であると判断し、コロニーピックアップによってクローン化した。以降はドキシサイクリンを添加せず、上記「1.1 プライム型ヒトiPS細胞の培養」と同様に培養した。
【0052】
1.3 iPS細胞のナイーブ化
「1.2 遺伝子導入細胞株の作製」で遺伝子導入およびクローン化されたiPS細胞を解離液およびTrypLETM Selectを用いて単一細胞に解離し、MEF細胞をフィーダーとして播いた6well plateに1×10/wellにて播種した。その際、培地は表1の2iLFA+Go6983の培地(以下、本発明の培地と略記することがある。)を使用し、さらにドキシサイクリン(1μg/mL)の添加によって導入遺伝子の発現を誘導したうえで低酸素にて培養した(Passage1;P1)。なお、ナイーブ化開始の初日は10μMとなるようY27632(ROCK阻害剤)を加え、細胞死を抑えた。ナイーブ化開始の5日〜7日後に継代を行った。培地を除いたのち、各ウェルに0.25%Trypsin−EDTAを350μL加え1分間37℃で反応させた。Trypsin Inhibitorによって反応を止め、培地を5mL加えた。ピペットエイドで数回ピペッティングすることでフィーダー細胞のシートからiPS細胞のコロニーを剥がし、コロニーを15mLチューブに回収した。遠心後、上清を除いて200μLの培地を添加しP200のピペットマンで40回程度ピペッティングすることで単一細胞に解離した。MEF細胞をフィーダー細胞として培養している新しい6well plateに細胞全量を播種した(Passage2)。継代後もP1と同様に、本発明の培地にドキシサイクリンを添加した条件で培養した。継代から5日〜7日後に顕微鏡下でiPS細胞のコロニー形態を観察し2回目の継代を実施した。2回目の継代以降ドキシサイクリンは添加しなかった。2回目の継代から5日〜7日後に顕微鏡下でiPS細胞のコロニー形態を観察し、3回目の継代を実施した。4回目以降も同様に継代した。なお、2回目および3回目の継代時に、それぞれPassage2およびPassage3の細胞の一部をqPCRによる解析用に回収した(図8参照)。
【0053】
実施例2 ナイーブ化による遺伝子発現プロファイルの解析
本実験では、iPS細胞として201B7細胞を使用した。
解析に使用する細胞は、プライム型条件の培地で培養された201B7細胞(「1.1 プライム型ヒトiPS細胞の培養」参照)、「1.3 iPS細胞のナイーブ化」で作製されたPassage2およびPassage3の201B7細胞である。各細胞からRNeasy mini kit(QIAGEN)を用いてRNAを回収し、ReverTra Ace(登録商標)を用いて逆転写した後にSYBR(登録商標) Premix Ex TaqII(clontech)を用いてqPCRを行った。プライマーセットは表2に示した。
【0054】
その結果を図2に示す。多能性マーカーであるNANOGおよびOCT3/4の発現はナイーブ化によっても維持されていた。また、ナイーブ型の多能性幹細胞であるマウスES細胞で発現の高いKLF4、DPPA3、ESRRB、TFCP2L1、KLF5およびTBX3といった遺伝子は、ナイーブ化によって発現が上昇しており、ドキシサイクリンの添加を止めた後(Passsage3)もプライム型と比べて高い発現を維持していた。また、プライム型の遺伝子マーカーとされるLeftyの発現はナイーブ化によって低下していた。以上の結果から、本発明の方法を用いることで、少なくともpassage2以降、iPS細胞がナイーブ型に移行することが明らかとなった。また、ナイーブ型に移行後その維持には導入遺伝子の発現誘導は必要なく、本発明の培地のみで十分であることが分かった。
【0055】
実施例3 Go6983添加タイミングによるナイーブ化への効果
本実験では、Go6983添加タイミングによるナイーブ化への効果を検討した。「1.3 iPS細胞のナイーブ化」におけるpassage1の201B7細胞培養培地(表1の2iLFA+Go6983の培地)を、表1のKSR 2iLFAの培地または表1のKSR 2iLFA+Go6983の培地に変更し、ドキシサイクリンの添加によって導入遺伝子の発現を誘導したうえで低酸素にて培養した。それぞれの条件で培養したpassage1を継代から5日〜7日後に回収し、qPCRによる解析に供した。その結果を図3に示す。図3から明らかであるように、Go6983を添加した培地で培養したiPS細胞のほうが、ESRRBの発現は高かった。本結果から、Go6983をドキシサイクリンによる導入遺伝子の発現誘導と同時に添加することにより、iPS細胞のナイーブ化は促進されることが分かった。
【0056】
実施例4 フォルスコリンおよびA83−01の添加のナイーブ化に対する効果
ESRRB遺伝子はマウスES細胞において自己複製を制御する重要な遺伝子である(Cell Stem Cell, 11,491-504 (2012)参照)。本発明では、実施例1の結果から明らかであるように、導入遺伝子の発現誘導の有無にかかわらず、ESRRBの発現は高い状態で維持されている。それに対し、非特許文献3に記載のリセット細胞では、ESRRBの発現はほとんど認められていない(非特許文献3参照)。本発明と非特許文献3に記載の条件における相違点のひとつが、本発明では非特許文献3に記載の培地条件にフォルスコリンとA83−01を加えた点である。そこで、本相違点が、ナイーブ化(ESRRBの発現およびコロニー形態)に及ぼす影響について検討した。
【0057】
本実験では、ナイーブ化を検討する培地として、本発明の培地(表1の2iLFA+Go6983の培地)および比較培地として表1に記載の2iL+Go6983の培地を使用し、その他のナイーブ化方法は「1.3 iPS細胞のナイーブ化」と同様に行った。各培地で培養したPassage2およびPassage3の201B7細胞におけるESRRBの遺伝子発現およびコロニー形態を指標に、ナイーブ化を評価した。
【0058】
その結果を図4に示す。両培地ともドキシサイクリン添加中は、ESRRBの発現が上昇しており、ナイーブ型のマウスES細胞と似たドーム状のコロニー形態をとっていた。しかしながら、2iL+Go6983の培地で培養したiPS細胞ではドキシサイクリンの添加を止めてしまうと、ESRRBの発現が顕著に低下し(ドキシサイクリン添加時の発現の約10%)、またプライム型の特徴である扁平なコロニーが増えていた。それに対し、本発明の培地(表1の2iLFA+Go6983の培地)で培養したiPS細胞ではドキシサイクリンの添加を止めた後も、ESRRBの発現は低下するものの、その低下は2iL+Go6983条件と比べて軽微(ドキシサイクリン添加時の発現の約50%)であり、ドーム状のコロニー形態も維持されていた。
本結果から、導入遺伝子の発現誘導を止めた後もiPS細胞のナイーブ化状態を維持するためにはフォルスコリンとA83−01の添加が必要であることが分かった。
【0059】
なお、非特許文献3では、Go6983はドキシサイクリンを抜くタイミングで添加されているが、本試験ではフォルスコリンとA83−01による効果に焦点を当てるため、本発明の方法と同様にGo6983はドキシサイクリン添加時から添加した。実施例2から明らかであるように、Go6983はドキシサイクリン添加時から添加している方がESRRBの発現は高い。したがって、非特許文献3におけるリセット細胞におけるESRRBの発現は本実験結果よりもさらに低く、非特許文献3に記載されているようにその発現はほとんど認められず、リセット細胞における転写因子ネットワークは脆弱になっている(非特許文献3参照)。それに対し、本発明の方法によって製造され維持されたナイーブ型iPS細胞では、ナイーブ型のマウスES細胞と同じ転写因子の発現が認められており、ナイーブ型のマウスES細胞と同じ転写因子ネットワークが形成されているものと考えられる。したがって、本発明方法によって製造され維持されたナイーブ型iPS細胞は、非特許文献3に記載のリセット細胞よりもナイーブ化が進んだ状態であることがわかる。
【0060】
実施例5 リプログラミング因子の組み合わせによるリプログラミング効率の比較
本発明と非特許文献3に記載の条件における相違点のひとつが、本発明では非特許文献3に記載のリプログラミング因子(KLF2及びNANOG)に山中4因子を加えた点である。そこで、本相違点が、ナイーブ化(ESRRBの発現)に及ぼす影響について検討した。
上記「1.1 プライム型ヒトiPS細胞の培養」条件で培養されたWD39細胞に対し「1.2 遺伝子導入細胞株の作製」と同様の手技を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入ではリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)発現ベクター(rtTA:clontechのrtTA−Advanced配列使用)、PiggyBac Transposon発現ベクター(Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Jan 25;108(4):1531-6参照)、ドキシサイクリン依存的にリプログラミング因子及び蛍光タンパクを発現するベクターの3種類のベクターを導入し(図9)、上記「1.1プライム型ヒトiPS細胞の培養」と同様に培養した。なお、リプログラミング因子及び蛍光タンパクの組み合わせは(1)KLF2、NANOG及びVenus、(2)山中4因子及びCerulean、(3)山中4因子、KLF2、NANOG及びTOMATOの三種類を用いた。遺伝子導入の翌日〜4日後にドキシサイクリンを添加し、ドキシサイクリン添加の翌日から薬剤によるセレクションを行った。セレクションとして、ドキシサイクリン依存的に発現する耐性遺伝子の種類に従い、ネオマイシン(100μg/mL)又はピューロマイシン(1μg/mL)を添加した。ドキシサイクリン添加5日後に細胞を回収し、qPCRによる遺伝子発現解析を実施したところ、(3)山中4因子、KLF2、NANOG及びTOMATOの遺伝子を導入した細胞では、(1)KLF2、NANOG及びVenusや(2)山中4因子及びCeruleanを導入した細胞に比べてESRRBの発現が相乗的に高かった(図5)。したがって、山中4因子、KLF2、NANOGの6遺伝子の導入によって製造されたナイーブ型iPS細胞は、非特許文献3に記載のリセット細胞よりもナイーブ化が進んだ状態であることがわかる。
【0061】
以上実施例3〜5の結果より、以下のことが明らかとなった。
(1)PKC阻害剤(例えば、Go6983)を導入遺伝子の発現誘導時に添加することにより、ナイーブ化は促進する。
(2)KLF2、NANOGの2遺伝子のみの導入より、山中4因子を加えた6遺伝子の導入によってナイーブ化はより促進する。
(3)cAMP産生促進剤(例えば、フォルスコリン)とTGF−β阻害剤(例えば、A83−01)の添加により、細胞はナイーブ化状態を維持する。
以上より、本発明方法によって製造され維持されたナイーブ型多能性幹細胞(例えば、ヒトiPS細胞)は、非特許文献3に記載のリセット細胞よりもナイーブ化が数段に進んだ状態であり、ナイーブ型多能性幹細胞として十分に機能する。
【0062】
実施例6 ナイーブ化したiPS細胞からの神経分化誘導
プライム型およびナイーブ化したiPS細胞をSDIA法によって神経分化誘導した。SDIA法はマウスストローマ細胞株(PA6細胞、理研バイオリソースセンター)をフィーダー細胞としてiPS/ES細胞を培養することで神経への分化を誘導する方法である(Kawasaki et al. Neuron. 2000 Oct;28(1):31-40参照)。PA6細胞の通常の培養は、αMEM+10%FBSを使用した。SDIA法を行う際に、培地を表1のSDIA mediumに変更した。プライム型からSDIA法を実施する際には上記「1.2 遺伝子導入細胞株の作製」と同様の方法でコロニーを単一細胞にしたが、細胞死を抑える目的で実験開始1時間前から10μMとなるようROCK阻害剤であるY27632を添加した。PA6細胞上に細胞を播種した後にはY27632を添加しなかった。細胞数は12well plateに2×10〜2×10/wellで播種した。ナイーブ型からSDIA法を実施する際には上記「1.3 iPS細胞のナイーブ化」で作製したPassage3またはPassage4の細胞をTrypsin−EDTAを用いた方法でコロニーを単一細胞にした。なお、細胞死を抑える目的で実験開始1時間前から10μMとなるようROCK阻害剤であるY27632を添加した。PA6細胞上に細胞を播種した後にはY27632を添加しなかった。細胞数は12well plateに2×10〜2×10/wellで播種した。SDIA法の10日目に4%PFAによって細胞を固定し、MAP2に対して免疫組織染色を実施した(抗体M4403、sigma)。1つ1つのコロニーを蛍光顕微鏡で観察し、MAP2陽性の神経が誘導されているか判別した。その結果を図6に示す。
【0063】
ナイーブ化したiPS細胞はプライム型のiPS細胞に比べてMAP2陽性の細胞が存在するコロニーの割合が顕著に高かった。この結果は、使用した201B7細胞およびWD39細胞の両方で認められた。本結果から、本発明の方法によってナイーブ化されたiPS細胞は、優れた分化能を有していることが分かった。
【0064】
実施例7 ナイーブ化したiPS細胞からのアストロサイト分化誘導
プライム型およびナイーブ化したiPS細胞をNeurosphereを介する方法によって神経分化誘導した(Stem Cells. 2008 Dec;26(12):3086-98参照)。プライム型からアストロサイト分化を実施する際には解離液を用いてコロニーを塊の状態で剥がし、表1のプライム型条件の培地からbFGFを除いた培地で浮遊培養することで胚様体を形成させた。ナイーブ型からアストロサイト分化を実施する際には強くピペッティングを繰り返すことでコロニーを塊の状態で剥がし、N2B27培地(ナイーブ培地の基礎培地)で培養することで胚様体を形成した。なお、胚様体形成時のコロニーの剥がし方と培地以外はすべてプライム型とナイーブ化したiPS細胞で全く同じ操作をした。また、胚様体形成期間には神経系への分化を促進するため、100nMとなるようLDN193189を添加した。胚様体形成の7日後に胚様体を回収し、TrypLETM Selectを1mL添加して37℃にて10分反応させた。Trypsin Inhibitor2mLを加えた後に、P1000のピペットマンで20回〜30回ピペッティングすることで単一細胞に解離した。解離した細胞は2×10cells/mlとなるよう調整し、2%B27及び20ng/ml bFGFを添加したMHM培地で浮遊培養することで一次Neurosphereを形成した。一次Neurosphere形成の7日後にNeurosphereを回収し、TrypLETM Selectを1mL添加して37℃にて10分反応させた。Trypsin Inhibitor2mLを加えた後に、P1000のピペットマンで20回〜30回ピペッティングすることで単一細胞に解離した。解離した細胞は2×10cells/mlとなるよう調整し、2%B27及び20ng/ml bFGFを添加したMHM培地で浮遊培養することで二次Neurosphereを形成した。二次Neurosphere形成の7日後にpoly−L−ornithine及びfibronectinコートしたカバーガラス上に二次Neurosphereを播種し分化を促した。分化用の培地には2%B27,2%FBS及び20ng/ml hLIFを添加したMHM培地を用いた。カバーガラス上に播種した10日後に4%PFAによって細胞を固定し、神経マーカーであるβIIIーTubulin及びアストロサイトマーカーであるGFAPに対して免疫組織染色を実施した(抗体T8660、sigma及び抗体2.2B10、Thermo Fisher Scientific)。
その結果を図7に示す。ナイーブ化したiPS細胞はプライム型のiPS細胞に比べてアストロサイトへ分化する細胞の割合が顕著に高かった。この結果は、使用した201B7細胞(図中、B7)およびWD39細胞(図中、WD)の両方で認められた。本結果から、本発明の方法によってナイーブ化されたiPS細胞は、優れた分化能を有していることが分かった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、ナイーブ型の特徴を維持し、かつ分化多能性を有する多能性幹細胞を安定的に製造できるため、臨床利用、薬物評価等の実用的な応用が可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0068】
配列番号1:プライマー
配列番号2:プライマー
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:プライマー
配列番号7:プライマー
配列番号8:プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]