特許第6719468号(P6719468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719468
(24)【登録日】2020年6月18日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】大規模なウイルス精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20200629BHJP
   A61K 39/12 20060101ALN20200629BHJP
【FI】
   C12N7/02
   !A61K39/12
【請求項の数】21
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-531819(P2017-531819)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公表番号】特表2018-500023(P2018-500023A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015079534
(87)【国際公開番号】WO2016096688
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年10月5日
(31)【優先権主張番号】62/092,413
(32)【優先日】2014年12月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲルケンス,パスカル,シャルル,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ルリューズ,ジャン−フランソワ,ジョゼ,アラン,マリー,ジスラン
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−038760(JP,U)
【文献】 特表2012−516692(JP,A)
【文献】 相沢正春ほか,感染症予防用ワクチンの製造に貢献する生産用連続超高速遠心分離機,日立評論 創業100周年記念特集シリーズ 産業機械・製造装置,2011年,2月号,P.78-81,URL,https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2011/02/2011_02_13.pdf
【文献】 TOPLIN I,LARGE-VOLUME PURIFICATION OF TUMOR VIRUSES BY USE OF ZONAL CENTRIFUGES,APPLIED MICROBIOLOGY,1972年 5月,V23 N5,P1010-1014,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC380491/pdf/applmicro00046-0194.pdf
【文献】 REIMER C B,PURIFICATION OF LARGE QUANTITIES OF INFLUENZA VIRUS BY DENSITY GRADIENT CENTRIFUGATION,JOURNAL OF VIROLOGY,米国,THE AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY,1967年12月,VOL:1, NR:6,,PAGE(S):1207 - 1216,URL,http://plasmaproteome.com/Bios_and_bibliographies/PDF's/Purification%20of%20large%20quantities%20of%20influenza%20virus%20by%20density%20gradient-Reimer-1967-J%20Virol.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/02
A61K 39/00−39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを精製する方法であって、少なくとも以下の工程:
a)ウイルス含有液を得る工程、
b)なくとも8Lの容量を有する遠心機ローターにおいて、所定の範囲X%〜Y%(v/w)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線密度勾配を準備する工程、
c)予形成直線密度勾配に前記液を添加する工程、
d)汚染不純物からウイルスを分離するために、遠心分離する工程、及び
e)精製ウイルスを含む分画を収集する工程
を含み、前記所定の範囲X%〜Y%の勾配の直線部分が、前記勾配において精製されるウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含する、方法。
【請求項2】
分離が等密度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の予形成直線密度勾配が、総体積の少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%にわたり直線であるか、又はその体積の全体にわたり直線である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)の予形成直線密度勾配が、追加された体積が総体積の70%、50%、40%、30%、20%、10%、又は5%を超過しないプラトーを両端に含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程b)の予形成直線密度勾配が、ローターへの注入前に勾配形成用原液を希釈することにより形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
勾配形成用原液がY%(w/v)の溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
勾配形成用原液が、ローターへの注入前に、希釈溶液に少なくとも1度希釈される、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
勾配形成用原液が、ローターへの注入前に、第1の希釈溶液で希釈され、その希釈された原液が、第2の希釈溶液で希釈される、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記希釈溶液が勾配媒体を含まない、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1つ又は複数の希釈溶液が、勾配形成用原液の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、又は少なくとも50%の体積を有する、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
勾配形成用原液の体積の、希釈溶液の体積に対する比が、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、又は少なくとも6:1である、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
勾配形成用原液及び希釈溶液が、互いに連結され、ローターに連結されている、請求項5から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
希釈が滴下方式による漸進的希釈である、請求項5から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
滴下方式が、希釈溶液を含む容器を減圧にすることで実現される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程b)の予形成直線密度勾配がショ糖勾配である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程b)の予形成直線勾配が0から55%に及ぶ、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ウイルスが細胞培養上で増殖する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程a)のウイルス含有液が、細胞へのウイルス感染及び細胞培養培地へのウイルスの放出後に収集した細胞培養培地である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ウイルスが、EB66(登録商標)細胞等のアヒル胚性幹細胞で増殖する、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ワクチンを製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
A)ウイルス含有液を得る工程、
B)少なくとも8Lの容量を有する遠心機ローターにおいて、所定の範囲X%〜Y%(v/w)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線密度勾配を準備する工程であって、前記所定の範囲X%〜Y%の勾配の直線部分が、前記勾配においてウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含する工程、
C)予形成直線密度勾配に前記液を添加する工程、
D)汚染不純物からウイルスを分離するために、遠心分離する工程、
E)精製ウイルスを含む分画を収集する工程、及び
F)精製ウイルスをワクチンに処方する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究の記載
本発明は、保険福祉省により与えられた契約番号HHSO100200600011Cの下で米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明はウイルス精製の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
ウイルスワクチンの製造において、従来の卵ベースの生産方式の代替としての細胞培養ベースの技術の開発は、卵ベースの従来方式に伴う欠点及び制約を克服する最も迅速で有望な解決策と思われる。ウイルスワクチンの商業製品は、一般的に抗原源として大量のウイルスを必要とする。しかし、卵ベースのプロセスは、卵の様々な生物学的な特性のため不安定であり、適切な卵の大量の入手は不可能であるという調達の問題から柔軟性に欠ける。
【0004】
しかし、産生後、卵又は細胞培養上のどちらで産生されるかに依らず、産生ウイルスを細胞培養から回収し、適切な場合、精製する必要がある。ウイルスの精製方法は本技術分野では公知である。代表的な一方法では、ショ糖勾配遠心分離が採用される。例えば、WO 2009/007608、WO 2008/135229及びWO 2010/089339は、自発生成勾配を利用したショ糖勾配遠心分離によるウイルスの精製を記載する。
【0005】
効率的なワクチン生産には、宿主系から高産生量で産生されるウイルスの大規模な量の増殖を必要とする。ウイルスの許容できる高産生量の達成に関して、ウイルスが増殖する培養条件が非常に重要である。そのため、所望のウイルスの産生量を最大化するために、所望のウイルスの産生に有利であり、大規模な産生に適切である環境をもたらすように、系及び培養条件をともに具体的に適合させなければならない。一つの方法として、例えば、培養培地の改善、若しくは細胞密度の増加及び/又は様々な精製工程を通じて生じるウイルス物質の損失の削減により、細胞特異的な生産性を向上することが挙げられる。大規模な体積又は量の処理が必要となる製造段階において、更なるレベルの複雑さが導入される。規模を拡大する時、製品の質(例えば、製品の純度)及び/又は製品の産生量を損なうリスクが重要である。そのような事象から、小規模で十分に開発されたプロセスの更なる最適化が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2009/007608
【特許文献2】WO 2008/135229
【特許文献3】WO 2010/089339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのために、大規模で十分な純度レベル及び良好な産生量を伴う、ウイルスを産生し、精製する方法を提供する必要性が存続している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様において、ウイルスを精製する方法であって、少なくとも以下の工程:
a)ウイルス含有液を得る工程
b)少なくとも4L、少なくとも6L、少なくとも8L、又は少なくとも10Lの容量を有する遠心機ローターにおいて、所定の範囲X%〜Y%(v/w)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線密度勾配を準備する工程
c)予形成直線密度勾配に前記液を添加する工程
d)汚染不純物からウイルスを分離するため遠心分離する工程、及び
e)精製ウイルスを含む分画を収集する工程
を含み、
勾配の直線部分は、精製されるウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含する方法を提供する。
【0009】
本発明の第二の態様において、本発明の方法に従いワクチン中の抗原として使用されるウイルスを精製し、その精製ウイルスをワクチンに処方する工程を少なくとも含む、ワクチンを製造する方法を提供する。
【0010】
本発明の第三の態様において、ワクチンを製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
A)ウイルス含有液を得る工程
B)少なくとも4L、少なくとも6L、少なくとも8L、又は少なくとも10Lの容量を有する遠心機ローターにおいて、所定の範囲X%〜Y%(v/w)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線密度勾配を準備する工程であって、勾配の直線部分は、ウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含する工程
C)予形成直線密度勾配に液を添加する工程、
D)汚染不純物からウイルスを分離するため遠心分離する工程、
E)精製ウイルスを含む分画を収集する工程、及び
F)精製ウイルスをワクチンに処方する工程、
含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】3.2Lローターにおいて得られる自発生成ショ糖勾配の形状を示す図である。作成された勾配の連続分画100mlを収集し、屈折率測定でショ糖含有量を分析した。
図2】8Lローターにおいて得られる自発生成ショ糖勾配の形状を示す図である。作成された勾配の連続分画250mlを収集し、屈折率測定でショ糖含有量を分析した。
図3】8Lローターにおいて得られる予形成ショ糖勾配の形状を示す図である。図3Aは、予形成直線勾配の形成方法を表す図を示す。55%ショ糖4L(容器1)及びPBS/シトレート1L(容器2及び3)を含む3つの容器を互いに連続的に連結し、3つ目の容器を8Lローターに連結する。図3Bは、図3Aで提供する方法に続いて得られた、予形成ショ糖の形状を示す。作成された勾配の連続分画250mlを収集し、屈折率測定でそのショ糖含有量を分析した。
図4】8Lローターにおいて得られる予形成ショ糖勾配の形状を示す図である。図4Aは、予形成直線勾配の形成方法を表す図を示す。55%ショ糖4L(容器1)及びPBS/シトレート1L(容器2)を含む2つの容器を互いに連続的に連結し、第2の容器を8Lローターに連結する。図4Bは、図4Aで提供する方法に続いて得られた、予形成ショ糖の形状を示す。作成された勾配の連続分画250mlを収集し、屈折率測定でショ糖含有量を分析した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、卵中又は細胞培養中のどちらで産生されるかに依らず、大規模な産生に特に有益な改善したウイルスの精製方法に関する。ウイルス精製中に使用される代表的な工程は、例えばショ糖勾配等、密度勾配超遠心分離の工程である。
【0013】
密度勾配超遠心分離は、ウイルス、特にエンベロープウイルスの精製に一般的に使用される技術である。特に、ワクチン製造分野において使用される。一般的に、密度勾配超遠心分離によるウイルス及び存在し得る汚染不純物等の粒子の分離は、レートゾーナル(rate-zonal)でもよく、即ち粒子径の差異に依存し、若しくは等密度でもよく、即ち粒子密度の差異に依存し、又は両方の組合せに依存してもよい。レートゾーナル分離を実現するためには、分離される粒子の密度は、勾配のいずれの位置においても勾配密度より高くなければならない。等密度の方法において、密度勾配は、分離される粒子の全範囲の密度を包含する。その密度及び密度勾配の範囲に依存し、遠心分離後、粒子は、密度が粒子密度と同等の勾配の位置に移動する(粒子はその位置で浮遊性であり、そこに留まる)、又は勾配の底でペレット化される。遠心分離後、ウイルスを含む勾配分画のみ収集する。本発明の予形成直線勾配は、レートゾーナル分離又は等密度分離に好適に利用できる。一実施形態において、本発明によるウイルス精製方法では、汚染不純物からのウイルスの分離は等密度である。
【0014】
一般的に密度勾配は直線的又は不連続でもよい。直線勾配は、特に、ウイルス粒子及びウイルス粒子の産生に使用される宿主由来の残存する汚染不純物の間の良好な分離を可能にし、少量の体積に濃縮される精製ウイルスを取得する利点を有する。ウイルス産生プロセスの規模を拡大する場合、特に大きな体積の処理に必要な遠心分離機の数を節約するため、大容量のローターの使用を想定する場合、本発明者らは、小型ローターに使用され、単一の原液から自発生成勾配を作製することからなる公知の方法が、直線勾配を準備することができないことを見出した。大容量のローターで直線勾配を得るために、本発明者らは、勾配を直線に予め形成する、即ち遠心分離の開始前に形成しなければならないことを見出した。
【0015】
「予め形成する」とは、本発明の意味において、勾配が作成され、したがって自発生成勾配とは対照的に、遠心分離の開始前にローター内で形成されることを意味する。
【0016】
「自発生成する」とは、本発明の意味において、勾配が作成され、したがって遠心分離中に形成されることを意味する。
【0017】
「直線」とは、本発明の意味において、「不連続」又は階段状、即ち一つの層から次の層へ急激な濃度の変化がある層で構成される勾配と対照的に、勾配の濃度対体積のプロットが実質的に直線を生じる密度勾配を意味する。
【0018】
「プラトー」とは、本発明の意味において、有意な勾配領域、即ち、濃度又は百分率がそこを超えるとほぼ一定となる勾配体積の有意な部分を意味する。例えば、プラトーは、総勾配体積の5%、10%、15%、若しくは20%、又はそれ以上でもよい。特に、勾配の末端でプラトーが存在してもよい。
【0019】
「ほぼ一定の値」とは、本発明の意味において、所定の値に対して、5%以下の差異を有する値を意味する。
【0020】
明瞭性、簡便性のため、本発明の方法で実施された予形成直線勾配は、以下ではショ糖勾配に関して記載する。しかし、そのような予形成直線勾配は、ショ糖勾配に限定されるものではない。以下で詳述する全ての開示は、他の種類の勾配に適用可能である。
【0021】
本発明者らは、4個及び最大7個もの、増加した密度を有する様々な糖の層をローターに装入した場合、遠心分離後に許容可能な直線性を有する勾配が得られることを見出した。あるいは、装入される新規の糖の各層に対して、糖フラスコを手動で交換する作業を省くため、本発明者らは、漸進的希釈に基づき、予形成直線勾配を大規模に形成する自動的な方法を開発した。
【0022】
「希釈」とは、ローターへ注入する前に、適切な百分率(w/v)で勾配形成用原液を、単一の希釈溶液、又は連続的な希釈溶液に希釈することを意味する。以下でより詳細に記載するように、希釈の程度、原液の百分率、原液の体積、及び希釈溶液の体積は、例えば、予め形成すべき直線勾配の目標範囲及び/又は目標急峻性(stepness)に応じて変動し得る。
【0023】
「漸進的希釈」とは、濃縮液を希釈溶液に一滴毎に希釈する滴下方式を意味する。例えば、濃縮液は、原液、又は以下に記載する通り二回以上の希釈を想定する時、更に希釈される希釈原液でもよい。
【0024】
「大容量のローター」とは、少なくとも4L、好適には少なくとも6L、好適には少なくとも8L、更に好適には少なくとも10L、又はそれ以上の容量を有するローターを意味する。
【0025】
「ローター容量」とは、ローターが有することができる液体の最大体積を意味する。
【0026】
「装入容量」とは、ローター1リットル当たりに装入されるウイルス含有液のリットル量を意味する。
【0027】
本発明による方法は、大規模に生産されるウイルスの精製が必要な時、特に有益である。例えば、1L、50L、100L、200L、500L、1000L、又はそれ以上の体積のウイルス含有液を処理し精製する必要がある時、本発明による方法が好適に使用される。
【0028】
本発明による方法は、いずれの種類のウイルスの精製にも適用可能であり、ウイルスの産生に使用される宿主基質の種類に依存しない。例えば、本発明による方法は、細胞培養又は卵上で産生されるウイルスに適用可能である。
【0029】
本発明の方法は、幅広い範囲のウイルス、一般的に密度勾配超遠心分離により精製されるいずれのウイルスにも適している。例として、本発明の方法は、エンベロープウイルス、特にヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、例えばインフルエンザウイルス等のオルトミクソウイルス、麻疹ウイルス等のパラミクソウイルス、例えば風疹ウイルス等のトガウイルス、例えば狂犬病ウイルス等のラブドウイルス、ポックスウイルス、及びレトロウイルスの精製を想定する。一実施様態において、本発明の方法により精製及び産生されるウイルスは、オルトミクソウイルス科、特にインフルエンザウイルスに属する。
【0030】
本発明は、特定の密度勾配型の使用に依存しないため、いずれの密度型勾配にも適用可能である。密度勾配媒体の選択は、精製されるウイルス及び生じる精製ウイルスの意図される用途に依存する。例えば、エンベロープウイルスは、非エンベロープウイルスより密度が低い。これは本分野では公知である。具体的には、本方法により産生されるウイルスがどのような目的のために調製されるかにより、ウイルスの完全性又は生物学的活性に影響しない媒体が使用される。例えば、本発明の方法により調製されるウイルスがワクチン接種用に意図される時、ウイルス又はそのウイルス抗原の免疫抗原性を維持するように媒体を選択する。本発明による方法での使用において、密度勾配を発生させるために、糖の溶液、特にショ糖を使用してもよい。ショ糖は、特に、インフルエンザウイルス等のエンベロープウイルスの精製に使用されるが、これに限定されるものではない。ワクチン製造分野において頻繁に使用される糖でもある。
【0031】
一実施様態において、本発明の方法に従い、予形成直線密度勾配の作成に使用される糖はショ糖である。これは、安全性を考慮する必要がある時、ヒト用の製品の精製に有益である。しかし、本発明は、糖が、精製されるウイルスの種類によって特定される密度の溶液を作製するために十分な水溶性を有する限り、例えばソルビトール等のアルコール糖、水素化糖、直鎖糖、及び修飾糖、又は他のいずれかの糖を含め、他の糖の使用も想定する。
【0032】
本発明の方法で使用される予形成直線密度勾配は、糖勾配に限定されるものではない。本発明は、他の例示的な例として、エンベロープウイルス及び非エンベロープウイルス双方の精製に好適である、例えば塩化セシウム等の塩の勾配の使用も想定する。あるいは、ショ糖勾配と比較して、より高い密度の勾配に到達するという利点を有する酒石酸カリウムで勾配を調製してもよい。従って、酒石酸カリウムの勾配は特に、非エンベロープウイルスの精製に好適に使用される。
【0033】
本発明の方法により大容量のローターにおいて提供される予形成直線勾配は、ローターへの注入前に原液を希釈溶液に漸進的希釈することにより形成してもよい。
【0034】
直線性
本発明の方法において使用される予形成勾配の直線性は、二通りに変化し得る。一方では、勾配の急峻性を規定する傾きが変化し得る。例えば、ウイルス精製の所望のレベル、及び精製ウイルスを回収する勾配分画の所望の数、即ち密度勾配超遠心分離での精製の後、ウイルス液がどの程度濃縮されるべきかに応じて、適切な急峻性を選択し得る。通常、直線勾配が急峻な程、精製ウイルスが小さな体積に相当するいくつかの勾配分画に存在することになるのでより高濃度になるであろう。反対に、直線勾配がなだらかな程、精製ウイルスがより大きな体積に相当するいくつかの勾配分画に存在することになるので、より低濃度になるであろう。更に、直線勾配の急峻性は、残存する汚染不純物からウイルスを分離する能力に影響するであろう。必要な場合、上述の2つの要素、ウイルス濃度及び残存する汚染不純物からのウイルス分離の質を考慮しながら、直線勾配の適切な傾きを決定することは、当業者の能力の範囲に入る。
【0035】
他方では、直線性の範囲、即ちその勾配が直線となる勾配体積が変化し得る。最小要求として、本発明の方法で使用される予形成直線勾配が、精製されるウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含している密度範囲の勾配にわたり直線となることである。本発明の方法で使用される予形成直線勾配が、総体積の少なくとも30%、好適には少なくとも50%、好適には少なくとも60%、好適には少なくとも70%、好適には少なくとも80%、好適には少なくとも90%にわたり直線であるか、又は勾配が体積全体にわたり直線となることが好適である。特定の実施形態において、本発明の方法で使用される予形成直線密度勾配は、総体積の50%超から90%超、60%超から80%超で直線となる。更なる特定の実施形態において、本発明の方法で使用される予形成直線密度勾配は、少なくとも70%にわたり直線となる。従って、本発明の方法で使用される予形成直線勾配は、一端のみ又は両端に関わらず、勾配の末端でプラトーを示し得る。しかし、プラトーに対応する追加された体積は、2つ以上のプラトーが存在する場合、勾配の総体積の70%、好適には50%、好適には40%、好適には30%、好適には20%、好適には10%、又は5%を超過しないことが好適である。
【0036】
密度勾配の直線性は、直線性の程度と同様に、勾配百分率対勾配体積をプロットする本技術分野で公知のいずれかの方法を使用することにより確認可能である。先に定義した通り、そのようなプロットが実質的な直線を生じる時、直線性が立証される。更に、そのようなプロットから傾きを計算することができる、即ち適切な場合、急峻性をモニター、調節することができる。例えば、糖が密度勾配に使用される媒体である時、勾配の所定の体積の連続的分画における糖の百分率(100ml毎のグラムで表記)の測定に、Brix分析等、本技術分野で周知の屈折率測定分析を使用してもよい。
【0037】
勾配濃度の範囲
本発明は、密度勾配の特定の百分率の範囲に限定されるものではない。その範囲は、精製されるウイルス、特に、ウイルス密度、予想される残存汚染不純物の密度、及び等密度又はゾーナルに関わらず使用される分離の種類により、決定されるべきである。当業者は、密度勾配の適切な百分率の範囲と(所定の密度を有する)所定のウイルスとの関連を認識しており、予形成勾配の直線部が、精製されるウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含することを確実なものとする。勾配内のある範囲において、ウイルス性抗原に特異的な抗体を使用するウエスタンブロット分析等のタンパク検出の標準技術により、特異的なウイルス、又はそのウイルス性抗原の存在をモニターすることができる。インフルエンザウイルスの特定の事例において、表面抗原HA(ヘマグルチニン)抗原の一つの含有量、当業者には公知の技術であるSRID(一元放射状免疫拡散)分析によりモニターすることができる(J.M.Woodら:An improved single radial immunodiffusion technique for the assay of influenza haemagglutinin antigen: adaptation for potency determination of inactivated whole virus and subunit vaccines. J. Biol.Stand.5 (1977) 237-247; J. M. Woodら:International collaborative study of single radial diffusion and immunoelectrophoresis techniques for the assay of haemagglutinin antigen of influenza virus. J. Biol.Stand.9 (1981) 317-330)。所定の所望の百分率範囲において、当業者は、本発明の方法で使用される適切な直線性の予形成直線勾配を作成するため、必要となる適切な百分率(w/v)に対して、原液の適切な希釈を決定する。ウイルス精製における一般的な勾配範囲は0〜55%(w/v)である。一実施形態において、ショ糖勾配等、本発明の方法で使用される予形成直線密度勾配は、0〜55%(w/v)の百分率範囲を有する。
【0038】
原液及び希釈溶液は水で調製、又は生理的濃度の塩(例えば、NaCl)及び緩衝剤(例えば、リン酸トリス又はリン酸ナトリウム)を添加してもよい。原液及び希釈溶液は、好適には、TBS又はPBS等の生理的濃度の塩を含む緩衝液で調製してもよい。本発明の一実施形態において、糖、特にショ糖の原液等の原液及び希釈溶液は、シトレート含有のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で調製される。なぜならこの種の溶液が遠心分離中のウイルス凝集を有利に妨げるためである。
【0039】
原液
「原液」とは、本発明の方法による大容量のローターにおいて、予形成直線密度勾配を準備するために希釈される、勾配形成用溶液を意味する。糖勾配等、所定の範囲X%〜Y%(w/v)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線勾配を調製するために使用される勾配形成用原液は、好適には、Yと同等又はそれ以上の百分率となる。ウイルス精製における非限定的で一般的な糖勾配の範囲は、0〜55%(w/v)である。例えば、0〜55%(w/v)の糖勾配を目標とする場合、糖の原液は、好適には、55%(w/v)又はそれ以上の糖溶液でもよい。
【0040】
原液の体積は、予期される範囲の上限に達する、予形成直線勾配を得るように選択される。所定の範囲X%〜Y%(Xは下限であり、Yは上限である)(w/v)について、原液の体積は、範囲の上限Y%に達する予形成直線勾配を得るように選択される。本発明者らは、「原液の体積/希釈溶液の体積」の比が考慮されるべき一因であることを見出した認めた。原液は、好適には、希釈溶液より大きい体積を有する。例えば、そのような比は、好適には、2:1、3:1、4:1、5:1、又は6:1である。
【0041】
原液の体積は、ローターの容量にも従い選択される。好適には、原液の体積はローター容量を超過しない。遠心分離がバッチで実施される実施形態において、原液の体積はローター容量に一致する。遠心分離が連続式で実施される時、原液の体積は、ローター容量の90%以下、好適には80%以下の体積を有してもよい。遠心分離が連続式で実施される実施形態において、勾配形成用原液の体積は、ローター容量の40%から80%、50%から60%の範囲に及ぶ、又はローター容量の50%である。ローターが8Lローターである特定の実施形態において、勾配形成用原液は、3.2Lから6.4L、又は4Lから4.8Lに及ぶ体積を有する。ローターが8Lローターである更なる特定の実施形態において、勾配形成用原液は4Lの体積を有する。
【0042】
希釈溶液
希釈溶液は糖を全く含まなくてもよい。あるいは、通常原液より低い百分率でいくらか糖を含んでもよい。一般的に、所定の百分率の原液は、所定の容量のローターに注入される前に、希釈溶液中に希釈される。本発明による方法で使用される予形成直線勾配の急峻性は、希釈率の調節により調整可能である。一般的に、勾配が急峻な程、勾配末端にプラトーの存在を認める可能性が高い。
【0043】
希釈率の減少は、勾配末端のプラトーを減少させ、直線性の範囲を増加させ、即ち勾配が直線となっている勾配体積を増加させ、直線勾配をよりなだらか、即ち緩い傾斜とするのに役立つ。希釈率の減少は、例えば、希釈溶液中への糖の添加又はその百分率の増加により、達成してもよい。希釈率を減少させる代替的な選択肢として、多重希釈の実施がある。
【0044】
「多重希釈」とは、連続的な希釈を意味する。例えば、勾配形成用原液は二回以上、即ち、ローターへの注入前に、原液を希釈した第1の希釈溶液中に希釈し、次に第2の希釈溶液中に漸進的に希釈する等、漸進的に希釈してもよい。一実施形態において、所定の原液を漸進的に二回希釈する、即ち、ローターへの注入前に、原液を希釈した第1の所定の希釈溶液に希釈し、漸進的に第2の所定の希釈溶液に希釈することにより、予形成直線勾配が形成される。そのような多重希釈を実施する特定の実施形態において、希釈溶液はいずれの糖も全く含まず、おそらくは同体積を有する。
【0045】
本発明による方法で使用される予形成直線勾配の作成に使用される希釈溶液の体積は変化してもよい。特に、この体積は、勾配形成用原液の体積、及び目標とする希釈率、即ち予形成直線勾配の期待される急峻性に依存する。例えば、所定の希釈溶液は、好適には、原液の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、又は少なくとも50%の体積を有してもよい。
【0046】
一実施形態において、期待される勾配の範囲X%〜Y%(w/v)(Xは下限であり、Yは上限である)について、百分率Y%の原液を、まず原液の25%の体積の希釈溶液中に漸進的に希釈し、原液を希釈したものを、原液の25%の体積の第2の希釈溶液に漸進的に希釈する。
【0047】
一般的に、勾配形成用原液及び希釈溶液をそれぞれ含む別の容器、並びに予形成直線勾配を収容するローターは、互いに連続的に連結され、最後の容器はポンプによりローターに連結される。そのポンプは、作動すると減圧を発生させて、原液を第1の希釈溶液に吸入し、次にこれが吸入され、こうして、使用される希釈溶液の数に応じて次の希釈溶液にて漸進的に希釈される等して、その後最終的に希釈された溶液がローターに注入される。漸進的希釈により取得し形成される勾配を乱さない適切な範囲でポンプデビット(pump debit)を選択する。本発明による方法に好適に使用されるポンプデビットの非限定的な一例は、100から200ml/分にわたり、好適には160ml/分である。
【0048】
遠心分離
遠心分離の条件は標準条件である。適切な場合、例えば、遠心力、作動時間、流量速度、又は、バンド形成時間等、適切な条件を決定するのは当業者の能力の範囲内である。その条件の決定は、精製されるウイルス含有液の種類、ウイルスの種類、汚染不純物の種類、バッチ式か連続式かの遠心分離の方式、ゾーナルか等速度かの分離の種類を考慮するものとする。特に、ローター及び遠心機の使用方法について、製造者の取扱説明書で提供される情報は、適切な遠心分離の条件の選択の際、当業者の手引きとなる場合がある。先に記載した通り、ウイルスの存在の検出、及び/又は本発明の予形成直線密度勾配における遠心分離の後、許容できるウイルス産生量及び/又はウイルス純度が得られるかのモニターのために、当業者は、ウイルス抗原に特異的な抗体を使用するウエスタンブロット分析、又はインフルエンザウイルスの特定の事例では、SRID分析等、タンパク検出のいずれかの標準的な技術を使用してもよい。
【0049】
遠心分離は、連続式、半連続式、又は連続バッチで実施してもよい。一実施形態において、本発明によるウイルス精製方法の遠心分離は、連続式で実施される。連続式の遠心分離は、大きな体積のウイルス含有液の処理及び精製が必要な時、大規模では有利に使用される。
【0050】
遠心分離がバッチ式又は連続式で実施されるかに応じて、予形成直線勾配の装入を変えてもよい。バッチ式では、予形成直線勾配を休止中の空のローターに装入してもよい。そのような実施形態において、装入された体積はローターの容量と一致してもよい。あるいは、遠心分離が連続式で実施される時、休止中のローターを適切な緩衝液で事前に満たしてもよく、休止中のローターに予形成直線勾配を注入する際、その緩衝液を予形成直線勾配と漸進的に置換する。そのような事前の充填は、気泡の形成を避けるという利点がある。遠心分離が連続式で実施されるいくつかの実施形態において、ローターに注入される予形成直線勾配の体積は、勾配形成用原液の体積に相当する、即ち、原液を含む容器が空となる時、注入を止める。
【0051】
予形成直線勾配をローターに装入した後、休止中にウイルス含有液を勾配に装入してもよく、ウイルス含有液を勾配に装入した後に遠心分離を開始する。そのような実施形態は、遠心分離がバッチ式で実施される時に実行されることが好適である。あるいは、予形成直線勾配をローターに装入した後に遠心分離を開始してもよく、適切な遠心力に達したら、ウイルス含有液を勾配に装入してもよい。そのような代替の実施形態は、遠心分離が連続式で実施される時に実行されることが好適である。
【0052】
適切な遠心力は、当業者により選択可能であり、使用するローター及び遠心機の種類に依存してもよい。非制限的な例として、遠心機において、20,000g以上から200,000gまで、好適には90,000gから150,000gまで、好適には100,000gから120,000gまでに及ぶ遠心力をローターに適用する。ウイルス含有液が全て処理され、十分な作業時間が経過したら、遠心分離を停止させ、ウイルスを含む勾配分画を収集する。
【0053】
ウイルス含有液
本発明の意味において、精製されるウイルス含有液は、粗製液に限定されず、部分的に精製されたウイルスを含む液体も想定する。例えば、精製は、限外濾過、遠心分離、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー等)、吸着工程等のいくつかの異なる濾過、濃縮、及び/又は他の分離工程を、多様な組合せで含んでよい。細胞材料の汚染物、特に浮遊細胞若しくは細胞破片から、又は尿膜腔液から生じる卵由来の汚染物からウイルスを分離するために清澄化工程を必要とすることがある。
【0054】
「粗製」という語は、本発明の意味において、回収後にウイルス含有液に精製を実施しておらず、様々な程度でいずれかの種類の汚染物を含む可能性があることを意味する。非限定的な一例として、そのウイルスを細胞に接種することによりウイルスが生産される時、及び注射後、新規に形成されたウイルスが細胞培養培地又は上清に放出される時、ウイルスを含むその培養培地が粗製液の例として示される。言及できる他の粗製液の例は、ウイルスを発育卵中に接種し、ウイルス培養した後に回収される尿膜腔液である。従って、「部分的に精製された」という用語は、いずれかの中間の精製状況、即ち、例えば上述の各工程又はいずれかの組合せ等のいずれかの精製工程の対象となった液体を含意する。
【0055】
一実施形態において、本発明によるウイルス含有液は、例えばインフルエンザウイルス等、対象のウイルスの細胞への感染、及び培養培地への放出の後に収集される培養培地である。別の実施形態において、本発明によるウイルス含有液は、インフルエンザウイルス等の対象のウイルスの卵への接種の後に収集される尿膜腔液である。
【0056】
別の好適な実施形態において、本発明によるウイルス含有液は、本発明の予形成直線密度勾配に添加される前に清澄化されている。この清澄化は濾過により実施してもよい。あるいは、ウイルス調製における所望の清浄化レベルを達成するために、いずれかの順番で、遠心分離及び/又は濾過を互いに組み合わせてもよい。必須ではないが、例えば、大きな沈殿物及び細胞破片の除去を開始できる適切な名目孔径を有するフィルター、特に名目孔径が縮小していくフィルターを用いて、サイズに応じて不純物を逐次的、漸進的に除去することからなる2又は3段階のプロセスのような多重濾過プロセスを実施してもよい。更に、清澄化において、相対的に目の細かいフィルターを利用する単一段階の作業又は遠心分離も使用してもよい。更に一般的に、限定されるものではないが、全量濾過、深層濾過、精密濾過、又は遠心分離を含み、以降の工程で膜及び/又は樹脂を詰まらせない適切な清澄さの濾過液を提供するいずれの清澄化手段について、本発明の清澄化工程における使用が受け入れられる。
【0057】
必須ではないが、装入される液体体積を減少させるため、本発明に従い予形成直線密度勾配上に装入する前に、ウイルス含有液を濃縮することが好適な場合もある。従って、本発明は、密度勾配への装入前に、濃縮されているウイルス含有液も想定する。そのため、ウイルス含有液は、ウイルス濃縮及び/又は緩衝剤交換のため、例えば750kDの膜上で限外濾過(緩衝剤交換に使用される場合、時に透析濾過と呼ばれる)に供してもよい。この工程は、接種後数日のかん流により収集されたウイルス産物を貯蔵する場合のように、精製されるウイルスを希釈する時に特に有利である。ウイルス濃縮に使用される方法として、ウイルスはフィルターを通過できない一方、ウイルス懸濁液から希釈液を除去するようにフィルターに希釈液を通過させることによりウイルス濃度を上昇させ、それにより、ウイルス調製物において濃縮形のままとなるいずれかの濾過プロセスを含むことができる。
【0058】
限外濾過は、塩、糖、非水溶媒の除去及び交換、低分子量の物質の除去、イオン及び/又はpH環境の急激な変化の回避の理想的な手法である透析濾過を含んでよい。限外濾過率と同様の比率で限外濾過された溶液に溶媒を添加することにより、微小な溶質(microsolute)が最も効率的に除去される。これにより、一定体積の溶液から微細種が洗浄され、保持されたウイルスが単離される。下流工程において、最適な反応を得るため特異的な緩衝剤の使用が必要となる時、透析濾過は特に有利である。ショ糖勾配超遠心分離の後のショ糖等、又はホルムアルデヒドでウイルスを不活化する工程の後のホルムアルデヒド等、望ましくない化合物を除去したい時、精製プロセスのいずれかの適切な工程において、濃縮及び透析濾過を実施してもよい。そのシステムは、異なる3つのプロセス流、すなわち供給液(ウイルスを含む)、透過液、及び保持液で構成される。用途に応じて、異なる孔径のフィルターを使用してもよい。フィルター組成物は、限定されるものではないが、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、又はその誘導体であってもよい。膜は平坦シート(平坦スクリーン(falt screens)とも呼ばれる)又は中空糸でもよい。
【0059】
一実施形態において、本発明の方法で使用される予形成直線密度勾配上に装入する前に、ウイルス含有液は限外濾過/透過濾過により濃縮されている。
【0060】
本発明による清澄化の方法は、本願で請求される密度勾配超遠心分離の工程に加えて、さらなる工程を含んでよい。これらの工程は、その密度勾配超遠心分離の工程に進む前、又は進んだ後に実施してもよい。具体的には、本発明による密度勾配超遠心分離の工程を用いた後で取得されるウイルス調製液は、濾過、(勾配超遠心分離を含む)超遠心分離、(イオン交換クロマトグラフィー等の)クロマトグラフィー、及び吸着工程等、先に言及したウイルス精製技術のいずれか1つを多様に組み合わせて実施することにより、更に精製してもよい。
【0061】
一実施形態において、本発明の方法は、更に、濾過、限外濾過/透析濾過、超遠心分離、及びクロマトグラフィーの群から選択された少なくとも1つの工程、又はそれらのいずれかの組合せを含む。所望の純度レベルにより、上記の工程はいずれにも組み合わせてもよい。
【0062】
あるいは、イオン交換、陰イオン若しくは陽イオンクロマトグラフィー、ゲル濾過若しくはゲル浸透等のサイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイト、又はそれらのいずれかの組合せを含むクロマトグラフィーにより更にウイルスを精製することも可能である。上述の通り、密度勾配超遠心分離等、他の精製工程と組み合わせてクロマトグラフィーの工程を実施してもよい。
【0063】

本発明によるインフルエンザウイルス等のウイルス含有液は、インフルエンザウイルスを卵中で増殖させ、回収した尿膜腔液を精製することによる、従来の発育卵の方法に由来してもよい。
【0064】
細胞
本発明の方法により精製されるウイルスは、細胞培養上で産生してもよい。本発明による方法は、マイクロキャリア上で増殖させた付着細胞又は懸濁細胞であるかに関わらず、いずれの種類の細胞にも適用可能である。
【0065】
細胞は、例えば、回分方式、流加方式、又は灌流方式等の連続方式等を使用する、様々な方法で増殖させてもよい。高い細胞密度が望ましい時、灌流は特に有利である。所定の細胞種から生産可能なウイルス量を最大化するため、高い細胞密度が特に有利となる場合がある。
【0066】
本発明の方法により精製されるウイルス含有液の生産に使用される細胞は、原則として細胞培養で培養可能であり、ウイルスの複製を支持できる任意の所望の種類の動物細胞でよい。細胞は、初代細胞又は継代細胞株でよい。遺伝的に安定な細胞株が好ましい。哺乳類細胞、例えば、ヒト、ハムスター、ウシ、サル、又はイヌの細胞は特に好適である。あるいは、例えば、SF9細胞又はHi-5細胞等の昆虫細胞も好適である。
【0067】
いくつかの哺乳類の細胞株は本技術分野において公知であり、PER.C6、HEK細胞、ヒト胎児由来腎臓細胞(293細胞)、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、及びMDCK細胞が含まれる。
【0068】
好適なサル細胞は、例えば、Vero細胞株等の腎臓細胞等、アフリカミドリザルの細胞である。好適なイヌ細胞は、例えば、MDCK細胞株等の腎臓細胞である。
【0069】
インフルエンザウイルスの増殖に好適な哺乳類細胞株として、MDCK細胞、Vero細胞、又はPER.C6細胞が含まれる。これらの細胞株は、例えばAmerican Type Cell Culture(ATCC)のコレクションから全て広く入手できる。
【0070】
あるいは、本発明で使用される細胞株は、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、又はキジ等、鳥類由来でもよい。鳥類細胞株は、胚、雛、及び成鳥を含め多様な発生段階に由来してもよい。特に、細胞株は、胚線維芽細胞、生殖細胞等の胚細胞、若しくは神経、脳、網膜、腎臓、肝臓、心臓、筋肉を含む個々の器官、又は胚を保護する胚外組織及び膜に由来してもよい。ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)を使用してもよい。鳥類細胞株の例として、トリ胚性幹細胞(WO01/85938)及びアヒル網膜細胞(WO05/042728)が含まれる。特に、本発明においてアヒル胚性幹細胞由来のEB66(登録商標)細胞株が想定される。他の好適なトリ胚性幹細胞として、ニワトリ胚性幹細胞由来のEBx(登録商標)細胞株である、EB45、EB14、及びEB14-074(WO2006/108846)が含まれる。このEBx細胞株は、その樹立が自然になされ、遺伝的、化学的、又はウイルス修飾をいずれも必要としなかった、安定した細胞株であるという利点がある。これらの鳥類細胞は特に、インフルエンザウイルスの増殖に好適である。
【0071】
特定の実施形態において、精製されるウイルスが細胞培養上で産生される時、本発明の方法でEB66(登録商標)細胞が使用される。
【0072】
細胞培養の条件(温度、細胞密度、pH値等)は、採用される細胞の適性により非常に幅広く変更可能であり、特定のウイルス増殖条件の詳細な要求事項に対して調節できる。細胞培養は本技術分野において広く記述されているため、適切な培養条件を決定することは当業者の能力の範囲内である(例えば、Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterson, editors (1973)、及びR.I. Freshney, Culture of animal cells: A manual of basic technique, 第4版、(Wiley-Liss Inc., 2000, ISBN 0-471-34889-9)参照)。
【0073】
回収する前に、細胞の感染は2日から10日継続してもよい。細胞産生ウイルスの回収に最適な時間は、通常、感染のピーク時の決定に基づく。例えば、ウイルス接種の後に宿主細胞に生じる、細胞の円形化、極性喪失、膨張又は縮小、死滅、表面からの脱離等、形態変化をモニターすることにより、CPE(細胞変性効果)を測定する。ウエスタンブロット分析等のタンパク検出の標準的技術により、特定のウイルス抗原の検出をモニターしてもよい。所望の検出レベルに達した後に、産生物を収集してもよい。インフルエンザウイルスの特定の事例では、細胞へのウイルス接種後のいずれの時でも、当業者には周知の技術であるSRDアッセイ(Wood, JMら(1977). J. Biol. Standard. 5, 237-247)によりHA含有量をモニターしてもよい。更に、SRDアッセイは、最適なウイルス収率を得るために必要な最適な細胞密度の範囲の決定に使用してもよい。
【0074】
免疫原性組成物
精製の最後に、本発明の方法により得られたウイルス調製液は、免疫原性組成物又はワクチン等の医薬品グレード物質のためのプロセスにおいて共通であり、当業者には公知である除菌濾過に適切に供してもよい。そのような除菌濾過は例えば、0.22μmフィルターを通じた調製液の濾過により好適に実施することができる。除菌調製の後、必要であれば、ウイルス又はウイルス抗原は臨床利用のため準備ができている。本発明の方法により精製されたウイルスは、ワクチン等、免疫原性組成物に含めるよう好適に処方してもよい。従って、本発明の方法によりワクチン中の抗原として使用されるウイルスを精製し、その精製ウイルスをワクチンに処方する工程を少なくとも含む、インフルエンザウイルスワクチン等のワクチンの製造方法も、本発明において想定される。
【0075】
免疫原性組成物、特にワクチンは、一般的に、サブビリオン型、例えば、脂質エンベロープが溶解又は破壊されるスプリットウイルスの形態、又は1つ以上の精製ウイルスタンパク(サブユニットワクチン)の形態に処方してもよい。あるいは、免疫原性組成物は、例えば、弱毒化生全ウイルス又は不活化全ウイルス等の全ウイルスを含んでもよい。
【0076】
インフルエンザウイルス等のウイルスの分割方法は、本技術分野において周知である(WO02/28422)。ウイルスの分割は、感染性(野性型又は弱毒化)であれ非感染性(不活化)であれ、破壊濃度の分割剤で全ウイルスを破壊又は断片化することにより実施される。分割剤は一般的に、脂質膜の分解及び溶解が可能な薬剤を含む。従来、Tween(商標)と組み合わせたトリ-n-ブチルリン酸又はジエチルエーテル(「Tween-ether」分割として知られている)等の溶媒/界面活性剤の処理を利用して、スプリットインフルエンザウイルスを生産し、このプロセスは未だ、いくつかの生産施設で使用される。現在採用される他の分割剤として、界面活性剤、又はタンパク質分解酵素、又は胆汁酸塩、例えば、デオキシコール酸ナトリウムが含まれる。分割剤として使用可能な界面活性剤として、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)等のカチオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、タウロデオキシコレート等の他のイオン性界面活性剤、又はTween若しくはトリトンX-100等の非イオン性界面活性剤、又はいずれかの2つ以上の界面活性剤の組合せが含まれる。
【0077】
分割プロセスは、バッチ式、連続式、又は半連続式プロセスとして実施してもよい。バッチ式で実施される時、ウイルスの分割は、クロマトグラフィー工程等の精製の追加工程を必要とし得る。精製工程と同時に分割の実施が可能であるため、分割工程自体を実施する必要はない。例えば、界面活性剤は、先に記載の通り、超遠心分離によるウイルス性タンパクの精製を意図した予形成直線勾配に添加してもよい。一実施形態において、本発明による方法は、更に、界面活性剤、特にトリトンX-100を用いて、バッチ式で実施される分割工程を含む。
【0078】
あるいは、本願で請求される密度勾配遠心分離工程の前又は後で分割が生じてもよい。
【0079】
ワクチンの安全性について、精製プロセスの様々な工程に沿って、ウイルス懸濁液の感染性の低減が必要となる場合がある。ウイルスの感染性は、細胞株上での複製能により決定される。そのため、本発明による方法は、少なくとも1つのウイルス不活化工程を任意に含む。不活化は、例えば、β-プロピオラクトン(BPL)、ホルムアルデヒド、若しくはUV、又はそれらのいずれかの組合せを用いて実施してもよく、これは本発明の密度勾配遠心分離工程の前又は後に実施できる。一実施形態において、本発明による方法は、例えば、本発明の密度勾配超遠心分離の後に好適に実施されるBPLを用いて実施される不活化工程を更に含む。ウイルス不活化の条件は変更してもよく、特に、組織培養感染価(TCID50/ml)の測定により、残存するウイルス感染性を評価することで決定される。
【0080】
ワクチンを含む本発明の免疫原性組成物は、ワクチンに対する一般的な添加剤、特に、組成物を投与される患者に誘発される免疫応答を促進させる物質、いわゆるアジュバントを任意に含んでよい。
【0081】
一実施形態において、好適な薬学的担体と混合された本発明のウイルス又はウイルス抗原を含む免疫原性組成物が想定される。特定の実施形態において、免疫原性組成物はアジュバントを含む。
【0082】
インフルエンザウイルス
ウイルス又はウイルス抗原は、インフルエンザウイルス等のオルトミクソウイルスに由来してもよい。オルトミクソウイルスの抗原は、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク(NP)、基質タンパク(M1)、膜タンパク(M2)、1つ以上の転写酵素(PB1、PB2、及びPA)を含む1つ以上のウイルス性タンパクから選択してもよい。特に好適な抗原として、インフルエンザ亜型の抗原特異性を決定する2つの表面糖タンパク、HA及びNAが含まれる。
【0083】
インフルエンザウイルスは、ヒトインフルエンザウイルス、トリインフルエンザウイルス、ウマインフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス、ネコインフルエンザウイルスの群から選択できる。インフルエンザウイルスは、特に、株A、B及びC、好ましくは株A及びBから選択される。
【0084】
インフルエンザ抗原は、流行期(年間又は季節的)のインフルエンザ株に由来してもよい。あるいは、インフルエンザ抗原は、世界的な流行を引き起こす可能性がある株に由来してもよい(即ち、現在流行している株のヘマグルチニンと比較し、新規のヘマグルチニンを有するインフルエンザ株、又は鳥類被検体に対して病原性を示し、ヒト集団に水平感染する可能性があるインフルエンザ株、又はヒトに病原性を示すインフルエンザ株)。特定の季節、及びワクチンに含まれる抗原の性質により、インフルエンザ抗原は、次のヘマグルチニン亜型H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、又はH16の1つ以上に由来してもよい。好ましくは、インフルエンザウイルス又はその抗原は、H1、H2、H3、H5、H7、又はH9亜型に由来する。一実施形態において、インフルエンザウイルスは、H2、H5、H6、H7、又はH9亜型に由来する。代替の実施形態において、インフルエンザウイルスはH1、H3、又はB亜型に由来する。
【0085】
インフルエンザウイルス免疫原性組成物
本発明による精製方法は、ワクチンを含め、インフルエンザウイルス免疫原性組成物の製造に特に好適である。インフルエンザウイルスの多様な形態が現在入手できる。それらは、一般的に、生ウイルス又は不活化ウイルスに基づく。不活化ワクチンは、全ビリオン、スプリットビリオン又は精製された表面抗原(HAを含む)に基づいてもよい。インフルエンザ抗原は、ウイロゾーム(核酸不含のウイルス様リポソーム粒子)の形態でも提供され得る。
【0086】
ウイルスの不活化方法及び分割方法は先に記載しており、インフルエンザウイルスに適用可能である。
【0087】
ワクチンにおける使用のためのインフルエンザウイルス株は、季節毎に変化する。現在の流行期において、ワクチンは一般的に、2つのインフルエンザA株及び1つのインフルエンザB株を含む。三価ワクチンが代表的であるが、本発明では、四価等のより高い力価も想定される。本発明は、流行株(即ち、ワクチン接種者及び一般的なヒト集団が免疫学的にナイーブな株)由来のHAを使用してもよく、流行株に対するインフルエンザワクチンは一価でよく、又は流行株を補った通常の三価ワクチンに基づいてもよい。
【0088】
本発明の組成物は、インフルエンザAウイルス及び/又はインフルエンザBウイルスを含む、1つ以上のインフルエンザウイルス株に由来する抗原を含んでよい。特に、本発明では、2つのインフルエンザAウイルス株及び1つのインフルエンザBウイルス株に由来する抗原を含む三価ワクチンが想定される。あるいは、2つのインフルエンザAウイルス株及び2つのインフルエンザBウイルス株に由来する抗原を含む四価ワクチンも本発明の範囲内である。
【0089】
本発明の組成物は、一価組成物、即ち1つの株型、即ち季節性株又は流行株のみを含む組成物に制限されるものではない。本発明は、季節性株及び/又は流行株の組合せを含む多価組成物も包含する。特に、アジュバントを加えてもよい、3つの季節性株及び1つの流行株を含む四価組成物は、本発明の範囲に属する。本発明の範囲に属する他の組成物は、2つのA株及び1つのB株、例えばH1N1、H3N2及びB株を含む三価組成物、並びに2つのA株及び2つの異なる系統のB株、例えばH1N1、H3N2、B/Victoria及びB/Yamagataを含む四価組成物である。
【0090】
HAは、現在の不活化インフルエンザワクチンの主要な免疫原であり、ワクチンの用量は、HAレベルを参照して標準化され、一般的にSRDにより測定される。例えば、子供用の場合、世界的流行の状況下、又はアジュバントを使用する時において、より少ない用量が使用されうるが、現行のワクチンは、一般的に株毎にHA約15μgを含む。半分(即ち、1株につきHA7.5μg)又は四分の一等の部分的用量が利用されているが、より高い用量、特に3x又は9x用量も利用されている。そのため、本発明の免疫原性組成物は、インフルエンザ株毎に0.1から150μg、特に0.1から50μg、例えば、0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μg等のHAを含んでよい。特定の用量として、株毎に約15、約10、約7.5、約5μg、株毎に約3.8μg、及び株毎に約1.9μgが含まれる。
【0091】
特定の株についてインフルエンザウイルスを精製した後、例えば、先に記載の通り三価ワクチンを作成するため、他の株に由来するウイルスと組み合わせてもよい。ウイルスを混合しDNAを分解して多価混合物から精製するより、個別に各株を処理し一価のバルクを混合して最終的な多価混合物を得る方が好適である。
【0092】
アジュバント組成物は、代謝可能な油及び乳化剤を含む水中油型乳剤を含み得る。いずれの水中油組成物もヒトへの投与に好適なものとするためには、乳剤系の油相が代謝可能な油を含まなければならない。代謝可能な油という用語の意味は、本技術分野では周知である。代謝可能とは、「代謝により変換できること」として定義することができる(Dorland's Illustrated Medical Dictionary, W.B. Sanders Company、第25版(1974))。油は、受容者に対して有毒ではなく代謝により変換できる、いずれかの植物油、魚油、動物油又は合成油でもよい。木の実、種、及び穀物は、植物油の一般的な原料である。合成油も本発明の一部であり、NEOBEE(登録商標)等の商業的に入手可能な油を含んでよい。
【0093】
水中油型乳剤は更に乳化剤を含む。乳化剤は好適にはポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートでよい。更に、その乳化剤は、好適には、ワクチン又は免疫原性組成物中に、組成物の総体積の0.125から4%(v/v)存在する。
【0094】
水中油型乳剤は任意にトコールを含む。トコールは本技術分野において周知であり、EP0382271に記載されている。好適なトコールは、α-トコフェロール又はその誘導体、例えばコハク酸α-トコフェロール(コハク酸ビタミンEとしても知られている)である。そのトコールは、好適には、免疫原性組成物の総体積の0.25%から10%(v/v)の量でアジュバント組成物中に存在する。本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.ウイルスを精製する方法であって、少なくとも以下の工程:
a)ウイルス含有液を得る工程、
b)少なくとも4L、少なくとも6L、少なくとも8L、又は少なくとも10Lの容量を有する遠心機ローターにおいて、所定の範囲X%〜Y%(v/w)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線密度勾配を準備する工程、
c)予形成直線密度勾配に前記液を添加する工程、
d)汚染不純物からウイルスを分離するために、遠心分離する工程、及び
e)精製ウイルスを含む分画を収集する工程
を含み、勾配の直線部分が、精製されるウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含する、方法。
2.分離が等密度である、上記1に記載の方法。
3.工程b)の予形成直線密度勾配が、総体積の少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%にわたり直線であるか、又はその体積の全体にわたり直線である、上記1又は上記2に記載の方法。
4.工程b)の予形成直線密度勾配が、追加された体積が総体積の70%、50%、40%、30%、20%、10%、又は5%を超過しないプラトーを両端に含む、上記1又は上記2に記載の方法。
5.工程b)の予形成直線密度勾配が、ローターへの注入前に勾配形成用原液を希釈することにより形成される、上記1から4のいずれかに記載の方法。
6.勾配形成用原液がY%(w/v)の溶液である、上記5に記載の方法。
7.勾配形成用原液が、ローターへの注入前に、希釈溶液に少なくとも1度希釈される、上記5又は上記6に記載の方法。
8.勾配形成用原液が、ローターへの注入前に、第1の希釈溶液で希釈され、その希釈された原液が、第2の希釈溶液で希釈される、上記5又は上記6に記載の方法。
9.前記希釈溶液が勾配媒体を含まない、上記7又は上記8に記載の方法。
10.1つ又は複数の希釈溶液が、勾配形成用原液の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、又は少なくとも50%の体積を有する、上記7から9のいずれかに記載の方法。
11.勾配形成用原液の体積の、希釈溶液の体積に対する比が、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、又は少なくとも6:1である、上記7から9のいずれかに記載の方法。
12.勾配形成用原液及び希釈溶液が、互いに連結され、ローターに連結されている、上記5から11のいずれかに記載の方法。
13.希釈が滴下方式による漸進的希釈である、上記5から12のいずれかに記載の方法。
14.滴下方式が、希釈溶液を含む容器を減圧にすることで実現される、上記13に記載の方法。
15.工程b)の予形成直線密度勾配がショ糖勾配である、上記1から14のいずれかに記載の方法。
16.ローターが少なくとも8Lの容量を有する、上記1から15のいずれかに記載の方法。
17.工程b)の予形成直線勾配が0から55%に及ぶ、上記1から16のいずれかに記載の方法。
18.ウイルスが卵上で増殖する、上記1から17のいずれかに記載の方法。
19.工程a)のウイルス含有液が、卵へのウイルス接種の後に収集した尿膜腔液である、上記18に記載の方法。
20.ウイルスが細胞培養上で増殖する、上記1から17のいずれかに記載の方法。
21.工程a)のウイルス含有液が、細胞へのウイルス感染及び細胞培養培地へのウイルスの放出後に収集した細胞培養培地である、上記20に記載の方法。
22.工程a)のウイルス含有液が、予形成直線密度勾配への添加前に部分的に精製される、上記1から18又は20のいずれかに記載の方法。
23.ウイルス含有液が清澄化されている、上記22に記載の方法。
24.遠心分離がバッチ式で実施される、上記1から23のいずれかに記載の方法。
25.遠心分離が連続式で実施される、上記1から23のいずれかに記載の方法。
26.遠心機が工程b)の後、及び工程c)の前に開始される、上記25に記載の方法。
27.更にウイルス不活化工程を含む、上記1から26のいずれかに記載の方法。
28.不活化がβ-プロピオラクトン、UV、又は両方で実施される、上記27に記載の方法。
29.不活化をホルムアルデヒドで実施される、上記27に記載の方法。
30.更にウイルス分割工程を含む、上記1から29のいずれかに記載の方法。
31.ウイルスがインフルエンザウイルスである、上記1から30のいずれかに記載の方法。
32.インフルエンザウイルスがH2、H5、H6、H7、又はH9亜型である、上記31に記載の方法。
33.インフルエンザウイルスがH1、H3、又はB亜型である、上記31に記載の方法。
34.ウイルスが、哺乳類又は鳥類細胞で増殖する、上記20から33のいずれかに記載の方法。
35.ウイルスが、EB66(登録商標)細胞等のアヒル胚性幹細胞で増殖する、上記34に記載の方法。
36.ワクチン中で抗原として使用されるウイルスが、上記1から35のいずれかの方法に従って精製され、精製ウイルスがワクチンに処方される、ワクチンを製造する方法。
37.ワクチンを製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
A)ウイルス含有液を得る工程、
B)少なくとも4L、少なくとも6L、少なくとも8L、又は少なくとも10Lの容量を有する遠心機ローターにおいて、所定の範囲X%〜Y%(v/w)(Xは下限であり、Yは上限である)の予形成直線密度勾配を準備する工程であって、勾配の直線部分が、ウイルスが移動する百分率に相当する密度百分率を包含する工程、
C)予形成直線密度勾配に前記液を添加する工程、
D)汚染不純物からウイルスを分離するために、遠心分離する工程、
E)精製ウイルスを含む分画を収集する工程、及び
F)精製ウイルスをワクチンに処方する工程
を含む方法。
38.上記2から35のいずれかの1つ以上の特徴を含む、上記37に記載の方法。
【0095】
以下の非限定的な実施例を参照することにより本発明を更に記載する。
【実施例】
【0096】
[実施例1]
3.2Lローター用の勾配形成-自発生成勾配
連続流超遠心器は、Alfa Wasserman製のK3ローター(3.2L容量)を用いたKII型遠心器とした。K3/3.2Lローターに125mMのPBS/シトレートの緩衝液を充填した。充填後、空気を完全にローターから押し出すために、閉回路に緩衝剤を循環させながら遠心器を開始させた。その後、遠心器を停止させ、125mMのPBS/シトレートの緩衝液の体積の半分(1.6L)を55%ショ糖を含有する125mMのPBS/シトレートの溶液と置換した。置換後、初めローターを4000rpmに緩やかに加速させ、その後更に最終速度35000rpmに加速させた。ローターが次第に4000rpmに加速されるにつれ、ローター内において、0%から55%ショ糖に直線勾配が形成された。形成後、勾配から100mlの連続的な分画を収集し、勾配の直線性を確認するため、屈折率測定(% Brix)でショ糖含有量を分析した。結果を図1に示す。
【0097】
結果-結論
得られた勾配は、実質的に直線、即ち体積のほとんどにわたり直線であった。
【0098】
[実施例2]
8Lローター用の勾配形成-自発生成勾配
8Lローターにおける勾配形成に対して、実施例1に記載されるものと同様の方法を適用した。連続流超遠心器は、Alfa Wasserman製のK10ローター(8L容量)を用いたKII型遠心器とした。K10/8Lローターに125mMのPBS/シトレートの緩衝液を充填した。充填後、空気を完全にローターから押し出すために、閉回路に緩衝剤を循環させながら遠心器を開始させた。その後、遠心器を停止させ、125mMのPBS/シトレートの緩衝液の半分の体積(4L)を55%ショ糖を含有する125mMのPBS/シトレートの溶液と置換した。置換後、初めローターを4000rpmに緩やかに加速させ、その後更に最終速度35000rpmに加速させた。形成後、勾配から250mlの連続的な分画を収集し、勾配の直線性を確認するため、屈折率測定(% Brix)でショ糖含有量を分析した。結果を図2に示す。
【0099】
結果-結論
直線勾配は得られなかった。生じた勾配は、階段状の勾配であり、55%ショ糖付近の第1のプラトーは、初めの3.5L勾配にわたり観察され、第2のプラトーは5%ショ糖付近で、最後の3Lにわたり観察された。勾配の直線部は、3.5Lから5Lへのみ延びており、即ち、勾配は、1.5L、即ち総体積の約20%のみにわたり直線であった。
【0100】
[実施例3]
8Lローター用の勾配形成-予形成勾配
III.1実施例2と同様の遠心器及びローターを使用した。3つの容器を使用した。第1の容器(容器1)は、55%ショ糖を含有する125mMのPBS/シトレート4Lを含んでいた。第2の容器(容器2)及び第3の容器(容器3)はそれぞれ125mMのPBS/シトレート緩衝剤1Lを含んでいた。容器3に連結した容器2に容器1を連結した。容器2及び3中の液体を、マグネチックスターラーにより90rpmの速度で混合した。125mMPBS/シトレート緩衝剤を充填したK10/8Lローターの底部に、ポンプを通じて容器3を連結した。160ml/分の借方速度(debit rate)でポンプを作動させた時、容器2及び3において減圧が発生し、容器1由来のショ糖がまず容器2で希釈され、その内容物が更に容器3で希釈され、その内容物がローターに注入された(図3A)。容器1が空の時、ローターにおいて勾配が形成され、遠心器を始動させた。遠心分離は35000rpmで実施した。形成後、勾配から250mlの連続的な分画を収集し、勾配の直線性を確認するため、屈折率測定(% Brix)でショ糖含有量を分析した。結果を図3Bに示す。
【0101】
結果-結論
8Lローターへの注入前に55%ショ糖の単一原液の連続的及び漸進的な希釈に依存上述の方法を使用し、実質的に直線、即ち体積のほとんどにわたり直線となる勾配が得られた。特に、勾配の各末端において有意なプラトーは観察されず(55%ショ糖及び5%ショ糖の付近)、これはそのようなショ糖の百分率において、図2で観察された2つのプラトーとは対照的であった。勾配の直線部は、約1Lから約7Lへ延びており、即ち、勾配は、6L、即ち総体積の約75%にわたり直線であった。本発明者らは、遠心分離前の勾配の直線性も確認し、図3Bで示されるものと類似の曲線を観察した。
【0102】
III.2実施例2と同様の遠心器及びローターを使用した。2つの容器を使用した。第1の容器(容器1)は、55%ショ糖を含有する125mMのPBS/シトレート4Lを含んでいた。第2の容器(容器2)は、125mMのPBS/シトレート1Lを含んでいた。125mMのPBS/シトレートの緩衝剤を充填したK10/8Lローターの底部にポンプを通じて連結した容器2に、容器1を連結した。容器2中の液体を、マグネチックスターラーにより90rpmの速度で混合した。160ml/分の借方速度でポンプを作動させた時、容器2において減圧が発生し、容器1由来のショ糖が容器2で希釈され、その内容物がローターに注入された(図4A)。容器1が空の時、ローターにおいて勾配が形成され、遠心器を始動させた。遠心分離は35000rpmで実施した。形成後、勾配から250mlの連続的な分画を収集し、勾配の直線性を確認するため、屈折率測定(% Brix)でショ糖含有量を分析した。結果を図4Bに示す。
【0103】
結果-結論
8Lローターへの注入前に55%ショ糖の単一原液の漸進的な希釈に依存する上述の方法を使用し、体積の初めの5L、即ち総体積の約62%にわたり直線となる勾配が得られた。勾配の最後の3L、即ち総体積の約40%にわたり、5%ショ糖におけるプラトーが観察された。本発明者らは、遠心分離前の勾配の直線性も確認し、図4Bに示されるものと類似の曲線を観察した。
【0104】
[実施例4]
ウイルス生産量及び純度
実施例1に記載されるK3/3.2Lローター、又は実施例III.1に記載されるK10/8Lローターにおいて、直線の0〜55%ショ糖勾配を形成した。遠心器が速度35000rpmに達すると、ウイルス精製のため、細胞培養由来の全インフルエンザウイルス含有液を各ローターに装入した。ローターのLあたり、前記液体17Lを3.2Lローターに、ローターのLあたり同じ液体35Lを8Lローターに装入し、バンド形成時間を1時間設けた。23%から50%(3.2Lローター)、又は11%から42%(8Lローター)にわたり、ショ糖の百分率に相当する勾配分画から、精製した全ウイルスを貯留した。SDS-PAGE、及び抗HA抗体を使用するウエスタンブロット分析のプロファイルに基づき、これらの範囲を決定した。遠心分離の前後において、SRDアッセイ(実施例5に記載)によりHA(ヘマグルチニン)タンパクの含有量を評価し、それにより、ショ糖勾配遠心分離工程後の「HA回収」の百分率が計算できた。「純度」百分率は、遠心分離の終了時に得られた総タンパクに対するHAタンパクの百分率を示す。「タンパク除去」百分率は、ショ糖勾配遠心分離工程に加えて総タンパクの除去を示す。遠心分離の前後において、ローリー法により総タンパク濃度を評価し、それにより、ショ糖勾配遠心分離工程後の「純度」百分率及び「タンパク除去」百分率が計算できた。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
結果-結論
8Lの大容量のローターにおける予形成直線ショ糖勾配を作成する方法により、3.2Lの小型ローターを使用する場合と同様の産生量及び同様の純度でインフルエンザウイルス(遠心分離による精製後)を得られる。このような結果は、そのような方法で必要な装置/操作の数を減少させることにより、産物の質又は量(ウイルス産生量及び純度)に対して影響を与えず、密度勾配遠心分離によるウイルス精製をスケールアップできることを示唆している。
【0107】
[実施例5]
HA含有量の測定に使用されるSRD法
NIBSCに推奨される抗インフルエンザHA血清の濃縮物を含むアガロースゲルでガラスプレート(12.4〜10cm)を被覆した。ゲルを準備した後、72の試料ウェル(直径3mm)をアガロースに穿孔した。標準液及び試料の適切な希釈液10μlをウェルに装入した。湿室において、プレートを室温(20から25℃)で24時間インキュベートした。その後、プレートをNaCl溶液に一晩浸漬させ、蒸留水で簡易に洗浄した。その後ゲルを圧縮し乾燥させた。完全に乾燥したら、クマシーブリリアントブルー溶液でプレートを10分間染色し、明確に定められた染色帯を視認可能となるまで、メタノールと酢酸の混合物で二回脱染した。プレートを乾燥した後、抗原ウェル周囲の染色帯の直径を二方向に直角に測定した。あるいは、表面を計測する装置を使用してもよい。表面に対する抗原希釈液の量反応曲線を作成し、標準的な勾配比検定法に従い結果を計算した(Finney, D.J.(1952). Statistical Methods in Biological Assay. London: Griffin, Quoted in: Wood, JMら(1977). J. Biol. Standard. 5, 237-247)。
図1
図2
図3
図4